説明

薄膜太陽電池およびその製造方法

【課題】高い光散乱性能を有する構造により光電変換層での光吸収量を増加させて光電変換効率に優れるとともに簡便且つ低コストで作製可能な薄膜太陽電池およびその製造方法を得ること。
【解決手段】透光性絶縁基板1上に順次形成された透明導電膜2と、半導体膜からなり光電変換を行う少なくとも一つの光電変換ユニット3と、裏面電極層6と、を備え、前記光電変換ユニット3は、異なる導電型を有する2つの導電型層31、33間に光電変換層32が配置されてなり、前記導電型層31、33のうち少なくとも一つの層33が空洞を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜太陽電池およびその製造方法に関し、特に光閉じこめ効果に優れた薄膜太陽電池およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池の出力電流を向上させるには光電変換層の光吸収量を増大させることが有効である。薄膜太陽電池では、光電変換ユニットを積層したタンデム構造を採用することによって広い波長域の太陽光を吸収して光電変換効率の向上が図られている。光電変換が可能な太陽光の波長域は、光電変換層に用いられている半導体のバンドギャップにより決定される。したがって、そのバンドギャップよりエネルギーの低い光は光電変換層に吸収されず利用することができない。また、利用できる太陽光の長波長領域は光電変換層の吸収係数が小さいため吸収量が小さい。したがって、この長波長領域において十分な光吸収を得ることは困難である。
【0003】
そこで光閉じ込め技術を利用して、光電変換層における実質的な光路長を長くして長波長領域の吸収量を増やして大きな出力電流を発生させる工夫がなされている。この光閉じ込め技術として、透光性絶縁基板側から光を入射する場合、透光性絶縁基板上の透明導電膜表面に凹凸構造を形成する方法が用いられている。この凹凸構造によって、透光性絶縁基板側から入射してきた光は凹凸構造を有する透明導電膜と光電変換層との界面で散乱された後に光電変換層に入射するので光電変換層に概ね斜めに入射する。光電変換層に斜めに光が入射することにより光電変換層内における実質的な光路が長くなり、長波長領域の吸収量が増え太陽電池の出力電流は増加する。
【0004】
従来、凹凸構造を有する透明導電膜として、SnO(酸化錫)が良く知られている。一般的に、SnOにおける凹凸構造は、熱CVD法により数10nm〜数μm径の結晶粒を膜表面に成長させることにより形成される。近年は、広い波長域の光において高い光散乱性能を得るために、透明導電膜表面におけるマクロな凹凸構造の上に、さらにミクロな凹凸構造を有する構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2003/036657号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、光電変換層のバンドギャップから決定される吸収可能な太陽光の長波長領域においては、光電変換層の吸収係数が小さいため十分な光吸収を得ることは困難である。また、特許文献1の構造のように光散乱構造を作製するには、工程の追加が必要であり、コストが増加する、という問題があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、高い光散乱性能を有する構造により光電変換層での光吸収量を増加させて光電変換効率に優れるとともに簡便且つ低コストで作製可能な薄膜太陽電池およびその製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる薄膜太陽電池は、透光性絶縁基板上に順次形成された透明導電膜と、半導体膜からなり光電変換を行う少なくとも一つの光電変換ユニットと、裏面電極層と、を備え、前記光電変換ユニットは、異なる導電型を有する2つの導電型層間に光電変換層が配置されてなり、前記導電型層のうち少なくとも一つの層が空洞を有すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複雑な光散乱構造を形成することなく、太陽光の広い波長域において高い光散乱性能を有する構造を実現して、太陽光の広い波長域を有効活用した光電変換効率に優れた薄膜太陽電池を容易且つ安価に得られる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかる薄膜太陽電池の構成を示す断面図である。
【図2−1】図2−1は、本実施の形態にかかる薄膜太陽電池の製造工程の一例を説明するための断面図である。
【図2−2】図2−2は、本実施の形態にかかる薄膜太陽電池の製造工程の一例を説明するための断面図である。
【図2−3】図2−3は、本実施の形態にかかる薄膜太陽電池の製造工程の一例を説明するための断面図である。
【図2−4】図2−4は、本実施の形態にかかる薄膜太陽電池の製造工程の一例を説明するための断面図である。
【図2−5】図2−5は、本実施の形態にかかる薄膜太陽電池の製造工程の一例を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明にかかる薄膜太陽電池およびその製造方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す図面においては、理解の容易のため、各部材の縮尺が実際とは異なる場合がある。各図面間においても同様である。
【0012】
実施の形態.
図1は、本発明の実施の形態にかかる薄膜太陽電池10の構成を示す断面図である。実施の形態にかかる薄膜太陽電池10は、透光性絶縁基板1上に順次積層された、第1電極層となる透明導電膜2、第1光電変換ユニット3、第2光電変換ユニット4、第3光電変換ユニット5、および第1電極層となる裏面電極層6を含んでいる。
【0013】
第1光電変換ユニット3は、透明導電膜2側から順に積層された導電型層31、光電変換層32、導電型層33を含んでいる。同様に、第2光電変換ユニット4は、透明導電膜2側から順に積層された導電型層41、光電変換層42、導電型層43を含んでいる。同様に、第3光電変換ユニット5は、透明導電膜2側から順に積層された導電型層51、光電変換層52、導電型層53を含んでいる。また、導電型層33は、透明導電膜2側から順に、空洞を含まない導電型層331、空洞を有する導電型層332、空洞を含まない導電型層333を含んでいる。空洞を有する導電型層332は、層の内部に複数の空洞7を有する。
【0014】
透光性絶縁基板1としては、例えば透光性を有するガラス基板やフィルム等を用いる。これは、無アルカリガラス基板を用いてもよいし、また、安価な青板ガラス基板を用いてもよい。より多くの太陽光を透過して光電変換層に吸収させるために基板はできるだけ透明で光透過性が高いことが好ましい。また、同様の意図から太陽光が入射する側の透光性絶縁基板1の表面に光反射ロスを低減させるように無反射コーティングを行うことによって光電変換効率の高効率化を図ることができる。
【0015】
透光性絶縁基板1上の透明導電膜2としては、透明導電性酸化物が用いられる。透明導電性酸化物を構成する材料としては、例えばSnO、In、ZnO、CdO、CdIn、CdSnO、MgIn、CdGa、GaInO、InGaZnO、CdSb、CdGeO、CuAlO、CuGaO、SrCu、TiO、Alを使用することができ、またこれらを積層して形成した透明導電膜を使用することもできる。透明導電膜2も光の入射側に位置するため、透光性絶縁基板と同様に極力光透過性が高いことが好ましい。透明導電膜2中のドーパントとしては、Al、Ga、In、B、Y、Si、Zr、Ti、Fから選択した少なくとも1種類以上の元素を用いる。また、透明導電膜2の表面にはテクスチャー構造として凹凸が形成されていることが好ましい。
【0016】
第1光電変換ユニット3において、導電型層31は例えばp型非晶質シリコンカーバイド膜からなり、光電変換層32は例えばi型非晶質シリコン膜からなり、導電型層33は例えばn型微結晶シリコン膜からなる。また、p型非晶質シリコンカーバイド膜とi型非晶質シリコン膜との間にバッファ層としてi型非晶質シリコンカーバイド膜を挿入してもよい。
【0017】
第2光電変換ユニット4において、導電型層41は例えばp型微結晶シリコン膜からなり、光電変換層42は例えばi型非晶質シリコンゲルマニウム膜からなり、導電型層43は例えばn型微結晶シリコン膜からなる。
【0018】
第3光電変換ユニット5において、導電型層51は例えばp型微結晶シリコン膜からなり、光電変換層52は例えばi型微結晶シリコン膜からなり、導電型層53は例えばn型微結晶シリコン膜からなる。
【0019】
この他に、第1光電変換ユニット3、第2光電変換ユニット4、第3光電変換ユニット5を構成する各層の膜として、例えば、非晶質シリコン膜、非晶質シリコンカーバイド膜、非晶質シリコン酸化膜、非晶質シリコンゲルマニウム膜、微結晶シリコン膜、微結晶シリコンカーバイド膜、微結晶シリコン酸化膜、微結晶シリコンゲルマニウム膜等、非晶質シリコン系膜や結晶質シリコン系膜のいずれを使用してもよい。
【0020】
また、光電変換層32であるi型非晶質シリコン膜、光電変換層42であるi型非晶質シリコンゲルマニウム膜、光電変換層52であるi型微結晶シリコン膜は、光を吸収して光電変換する役割を担うので、互いに異なるバンドギャップ、すなわち異なる吸収波長領域を有することが好ましい。
【0021】
導電型層33のn型微結晶シリコン膜は、図1に示すように、空洞を有する導電型層332の上下を空洞を含まない導電型層331および空洞を含まない導電型層333で挟まれた構成を有する。空洞を有する導電型層332の上下に空洞を含まない導電型層331、333を配置することで、空洞を有する導電型層332とは独立に、空洞を含まない導電型層331、333が上下に接しているi型層である光電変換層32およびp型層である導電型層41との界面を制御できるため光電変換効率の向上に有利となる。また、空洞を有する導電型層332は光の散乱性能を向上する役割も担う。このため、工程を追加して光散乱性能を有する構造を形成する必要が無く、コストを抑えることができる。
【0022】
また、導電型層33のn型微結晶シリコン膜は、空洞を有する導電型層332単独で構成されてもよい。導電型層33が空洞を有する導電型層332単独で構成された場合でも、空洞を有する導電型層332はi型層である光電変換層32を通して反対にある導電型層33との間で内蔵電界を形成し得る。また、この場合も空洞を有する導電型層332は光の散乱性能を向上する役割も担う。このため、工程を追加して光散乱性能を有する構造を形成する必要が無く、コストを抑えることができる。
【0023】
本実施の形態においては、空洞を有する導電型層を第1光電変換ユニット3に配置した例について示しているが、空洞を有する導電型層は、3つの光電変換ユニットのうち、どの光電変換ユニットの導電型層に配置されてもよい。空洞を有する導電型層をどの光電変換ユニットの導電型層に配置しても上記の効果を得ることができる。
【0024】
しかしながら、空洞を有する導電型層は、透光性絶縁基板1側から1番目の光電変換ユニットである第1光電変換ユニット3と2番目の光電変換ユニットである第2光電変換ユニット4との間、または2番目の光電変換ユニットである第2光電変換ユニット4と3番目の光電変換ユニットである第3光電変換ユニット5との間に配置された導電型層に含まれることが好ましい。これは、空洞を有する導電型層による散乱性能が得られる光の波長域に近い吸収波長領域を有する光電変換層は、第2光電変換ユニット4または第3光電変換ユニット5であるため、第2光電変換ユニット4または第3光電変換ユニット5の光の入射側に散乱性能を有する構造を配置するのが効果的であるからである。
【0025】
さらに、空洞を有する導電型層は、透光性絶縁基板1側から1番目の光電変換ユニットのn型導電型層に含まれることが好ましい。これは、空洞を有する導電型層は、p型の導電型層よりも光電変換特性に比較的鈍感なn型の導電型層に適用するのが好ましいからである。
【0026】
また、例えば、空洞を有する導電型層を導電型層53に配置した場合には、第3光電変換ユニット5を透過して裏面電極層6で反射して再度第3光電変換ユニット5に入射する場合に効果がある。
【0027】
空洞を有する導電型層332における空洞7ではない領域は、微結晶層であることが好ましい。これは、空洞7の部分は抵抗として作用するため、空洞7ではない領域を微結晶にすることで電気伝導度を向上させ、空洞を有する導電型層332全体の電気伝導度の低下を抑制することができるからである。
【0028】
空洞を有する導電型層332の空洞7の幅は、10nm〜320nmの範囲であることが好ましい。空洞7の幅が狭すぎる場合には、長波長領域で光散乱性能を得るのが困難となる。また、空洞7の幅が広すぎる場合には、空洞を有する導電型層332の膜厚を厚くする必要があるため、空洞を有する導電型層332における光の吸収による電流損失が大きくなるためである。
【0029】
透光性絶縁基板1の平面を投影面とした場合に、空洞7の垂直投影の面積が空洞を有する導電型層332の全面積に占める割合は50%〜90%の範囲であることが好ましい。空洞を有する導電型層332の全面積に占める割合が少なすぎる場合には、光散乱性能を得るのが困難となる。また、空洞を有する導電型層332の全面積に占める割合が多すぎる場合には、抵抗が大きくなり電気が流れ難くなるため光電変換効率を低下させる。
【0030】
本実施の形態においては、空洞を有する導電型層を1層のみ配置した例について示しているが、空洞を有する導電型層は複数層設けてもよい。そして、空洞を有する導電型層が複数ある場合は、空洞の幅は光が入射する透光性絶縁基板1側の空洞を有する導電型層から裏面電極層6側に向かって順に大きくなることが好ましい。複数の光電変換層で光吸収を有効に行うためには、光が入射する透光性絶縁基板1側の光電変換層では短波長の光の散乱が有効であり、裏面電極層6側の光電変換層ほど長波長の光の光散乱が有効になるためである。
【0031】
裏面電極層6は、光を反射する導電膜からなり、例えば膜厚200nm程度のアルミニウム(Al)膜が用いられる。なお、アルミニウム(Al)膜以外にも、高光反射率を有する銀(Ag)膜を用いてもよい。また、第3光電変換ユニット5のシリコンへの金属拡散を防止するために第3光電変換ユニット5と裏面電極層6との間に酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム錫(ITO:Indium Tin Oxide)、酸化スズ(SnO)等の透明導電膜を挿入してもよい。裏面電極層6は、例えばスパッタ法、CVD法やスプレー法など公知の手段によって形成される。
【0032】
なお、図1に示す本実施の形態にかかる薄膜太陽電池10は、3つの光電変換ユニットを含んでいるが、光電変換ユニットの数はこれに限定されず、1つの光電変換ユニットを備えた構成としてもよく、2つ以上の光電変換ユニットが積層された構成としてもよい。また、光の一部を反射、散乱させるために挿入される層、すなわち中間層が光電変換ユニット間の全ての境界に挿入されてもよく、任意の選択された光電変換ユニット間の境界に挿入されてもよい。
【0033】
以上のように構成された本実施の形態にかかる薄膜太陽電池10においては、導電型層33に空洞を有する導電型層332を有することにより、透光性絶縁基板1側から入射した太陽光に対して十分な光散乱効果が得られる。すなわち、透光性絶縁基板1側から入射した太陽光は、一部が空洞を有する導電型層332における空洞7に入射し、該空洞7と空洞7ではない領域との界面において散乱されて、空洞を含まない導電型層333を介して第2光電変換ユニット4に入射していく。したがって、空洞を有する導電型層332を有することにより、複雑な光散乱構造を形成することなく、透光性絶縁基板1側から入射した太陽光に対して十分な光散乱効果が得られ、太陽光をより多く吸収して光電変換効率を向上させることができる。
【0034】
したがって、本実施の形態にかかる薄膜太陽電池10によれば、複雑な光散乱構造を形成することなく、太陽光の広い波長域において高い光散乱性能を有する構造を実現して、太陽光の広い波長域を有効活用した光電変換効率に優れた薄膜太陽電池が得られる。
【0035】
つぎに、上記のように構成された本実施の形態にかかる薄膜太陽電池10の製造方法について説明する。図2−1〜図2−5は、本実施の形態にかかる薄膜太陽電池10の製造工程の一例を説明するための断面図である。
【0036】
まず、透光性絶縁基板1を用意する。ここでは、透光性絶縁基板1として無アルカリガラス基板を用いて以下説明する。また、透光性絶縁基板1として安価な青板ガラス基板を用いてもよいが、この場合は、透光性絶縁基板1からのアルカリ成分の拡散を防止するためにPCVD法などによりSiO膜を50nm程度形成するのがよい。
【0037】
つぎに、酸化スズ(SnO)膜を熱CVD法により透光性絶縁基板1上に製膜し、表面にマクロな凹凸を有する透明導電膜2を形成する(図2−1)。透明導電膜2を形成する方法として真空蒸着法,イオンプレーティング法などの物理的方法や、スプレー法,ディップ法,CVD法などの化学的方法を用いてもよい。また、結晶粒の大きさの制御や膜の移動度を向上させるために熱処理を行っても良い。
【0038】
つぎに、透明導電膜2上に第1光電変換ユニット3、第2光電変換ユニット4、第3光電変換ユニット5を順にプラズマCVD法により形成する。まず、透明導電膜2上に、導電型層31としての厚さ15nmのp型非晶質シリコンカーバイド膜、光電変換層32としての厚さ120nmのi型非晶質シリコン膜、導電型層33としての厚さ54nmのn型微結晶シリコン膜を順次形成する(図2−2)。
【0039】
ここで、導電型層33のn型微結晶シリコン膜の形成は、まず空洞を含まない導電型層331としてn型微結晶シリコン膜を7nmの厚みで形成する。このn型微結晶シリコン膜は、SiHに対するH希釈率:200倍、PHのSiHに対するドープ量:1%、基板温度200℃の製膜条件で形成する。
【0040】
つぎに、その上に空洞を有する導電型層332としてn型微結晶シリコン膜を、連続して同一製膜室で40nmの厚みで形成する。空洞を有する導電型層332としてのn型微結晶シリコン膜は、高周波電力:0.1W/cm、SiHに対するH希釈率:300倍、基板温度150℃の製膜条件で形成する。SiHに対するH希釈率を増やすことで、製膜の際に原子状水素が増加し、成長する膜の結晶化が促進される。また、低温で製膜することで、原子状水素と膜表面の弱い結合部のシリコンのエッチング反応が進行し、膜中に空洞7を形成することができる。
【0041】
つぎに、その上に空洞を含まない導電型層333としてn型微結晶シリコン膜を、空洞を含まない導電型層331のn型微結晶シリコン膜と同一の製膜条件で、連続して同一製膜室で7nmの厚みで形成する。これにより、透明導電膜2上に第1光電変換ユニット3が形成される。そして、このような方法により、光散乱構造を有する導電型層33を簡便且つ低コストで作製できる。
【0042】
つぎに、第1光電変換ユニット3上に第2光電変換ユニット4を形成する(図2−3)。第2光電変換ユニット4の形成は、導電型層41としての厚さ20nmのp型微結晶シリコン膜、光電変換層42としての厚さ150nmのi型非晶質シリコンゲルマニウム膜、導電型層43としての厚さ20nmのn型微結晶シリコン膜を第1光電変換ユニット3上に順次積層形成する。
【0043】
つぎに、第2光電変換ユニット4上に第3光電変換ユニット5を形成する。第3光電変換ユニット5の形成は、導電型層51としての厚さ20nmのp型微結晶シリコン膜、光電変換層52としての厚さ2μmのi型微結晶シリコン膜、導電型層53としての厚さ20nmのn型微結晶シリコン膜を第2光電変換ユニット4上に順次積層形成する(図2−4)。
【0044】
つぎに、第3光電変換ユニット5上に裏面電極層6をスパッタリング法により形成する(図2−5)。本実施の形態では、裏面電極層6として膜厚200nmのアルミニウム(Al)膜を形成するが、高光反射率を有する銀(Ag)膜を用いてもよく、シリコンへの金属拡散を防止するために第3光電変換ユニット5と裏面電極層6との間に酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム錫(ITO)、酸化スズ(SnO)等の透明導電膜を形成してもよい。以上により、図1に示すような薄膜太陽電池10が完成する。
【0045】
つぎに、本実施の形態にかかる薄膜太陽電池の製造方法により作製した薄膜太陽電池の散乱性能評価について説明する。まず、透明電極層2として表面にマクロな凹凸構造を有する酸化錫(SnO)を熱CVD法によりガラス基板上に形成して作製し、その上に第1光電変換ユニット3として厚さ15nmのp型非晶質シリコンカーバイド膜、厚さ120nmのi型非晶質シリコン膜、そして従来の空洞の無い厚さ30nmのn型微結晶シリコン膜を形成した。この薄膜太陽電池を従来例の薄膜太陽電池とした。
【0046】
また、上述した本実施の形態にかかる薄膜太陽電池の製造方法により第1光電変換ユニット3のn層33まで形成し、この薄膜太陽電池を実施例の薄膜太陽電池とした。空洞を含まない導電型層331としては、n型微結晶シリコン膜を7nmの厚みで形成した。空洞を有する導電型層332としては、n型微結晶シリコン膜を40nmの厚みで形成した。空洞を含まない導電型層333としては、n型微結晶シリコン膜を7nmの厚みで形成した。
【0047】
また、空洞を有する導電型層332のn型微結晶シリコン膜における空洞7の幅は70nm、ガラス基板面を投影面とした空洞7の垂直投影の面積が全面積に占める割合は60%であった。すなわち、導電型層33のn型微結晶シリコン膜において、空洞7部分を除いた体積を膜厚に換算した値は従来例と同じく30nmとなっている。これは、実質的な膜厚を揃えることで、n型導電型層での光の吸収量を従来例と同等にし、吸収による電流損失を同等にするためである。
【0048】
これらの薄膜太陽電池に対して、それぞれ光を基板側から入射して、ヘイズ率および全光透過率を評価した。評価装置には、透過、反射測定が可能な分光光度計を用いた。薄膜太陽電池を透過した光は、光電子増倍管でカウントされる。ここでヘイズ率とは、分母に透過した全光透過率、すなわち拡散光透過率と平行光透過率の合計、分子に拡散光透過率を使用し、これを%で表した値(ヘイズ率(%)=(拡散光透過率/全光透過率)×100)で、光の散乱の度合いを示す指標となる数値である。積分球で集光することにより拡散光透過率と平行光透過率とを合計した全光透過率を測定することができ、積分球を用いない測定により平行光透過率を測定することができる。実施例および従来例の薄膜太陽電池について、ヘイズ率および全光透過率の測定結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例の薄膜太陽電池では、波長700nmの光におけるヘイズ率は25%であった。一方、従来例の薄膜太陽電池では、波長700nmの光におけるヘイズ率は15%であった。これにより、実施例の薄膜太陽電池では、従来例の薄膜太陽電池と比較してヘイズ率が増加しており、光の散乱効果が向上していることが確認された。このとき、全透過率は実施例の薄膜太陽電池および従来例の薄膜太陽電池において同じ値であり、ガラス基板から第1光電変換ユニット3の導電型層33までの光の吸収損失は同等であることを確認した。
【0051】
以上のように本実施の形態にかかる薄膜太陽電池10の製造方法においては、導電型層33内に、空洞を有する導電型層332を形成することにより、透光性絶縁基板1側から入射した太陽光に対して十分な光散乱効果が得られる。すなわち、透光性絶縁基板1側から入射した太陽光は、一部が空洞を有する導電型層332における空洞7に入射し、該空洞7と空洞7ではない領域との界面において散乱されて、空洞を含まない導電型層333を介して第2光電変換ユニット4に入射していく。したがって、空洞を有する導電型層332を有することにより、複雑な光散乱構造を形成することなく、透光性絶縁基板1側から入射した太陽光に対して十分な光散乱効果が得られ、太陽光をより多く吸収して光電変換効率を向上させることができる。
【0052】
したがって、本実施の形態にかかる薄膜太陽電池10の製造方法によれば、複雑な光散乱構造を形成することなく、太陽光の広い波長域において高い光散乱性能を有する構造を実現して、太陽光の広い波長域を有効活用した光電変換効率に優れた薄膜太陽電池を簡便且つ安価に作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上のように、本発明にかかる薄膜太陽電池は、光散乱性能を有する構造により光電変換層での光吸収量を増加させて光電変換効率を向上させる場合に有用である。
【符号の説明】
【0054】
1 透光性絶縁基板
2 透明導電膜
3 第1光電変換ユニット
4 第2光電変換ユニット
5 第3光電変換ユニット
6 裏面電極層
7 空洞
31 導電型層
32 光電変換層
33 導電型層
41 導電型層
42 光電変換層
43 導電型層
51 導電型層
52 光電変換層
53 導電型層
331 空洞を含まない導電型層
332 空洞を有する導電型層
333 空洞を含まない導電型層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性絶縁基板上に順次形成された透明導電膜と、半導体膜からなり光電変換を行う少なくとも一つの光電変換ユニットと、裏面電極層と、を備え、
前記光電変換ユニットは、異なる導電型を有する2つの導電型層間に光電変換層が配置されてなり、
前記導電型層のうち少なくとも一つの層が空洞を有すること、
を特徴とする薄膜太陽電池。
【請求項2】
積層形成された複数の前記光電変換ユニットを有し、
隣接する前記光電変換ユニットが含む2つの光電変換層間に配置されている前記導電型層のうち少なくとも一層が前記空洞を有すること、
を特徴とする請求項1に記載の薄膜太陽電池。
【請求項3】
前記空洞を有する前記導電型層は、前記透光性絶縁基板側から1番目の前記光電変換層ユニットが有するn型の導電型層であること、
を特徴とする請求項2に記載の薄膜太陽電池。
【請求項4】
前記複数の光電変換ユニットにおける複数の前記導電型層が前記空洞を有し、
前記空洞の幅が、前記透光性絶縁基板側に位置する前記導電型層から前記裏面電極層側に位置する前記導電型層に向かって大きくなること、
を特徴とする請求項2に記載の薄膜太陽電池。
【請求項5】
前記空洞の幅が10nm〜320nmの範囲であり、
前記透光性絶縁基板面を投影面とした場合における前記空洞の垂直投影の面積が占める割合が前記空洞を有する導電型層の面積の50%〜90%の範囲であること、
を特徴とする請求項1に記載の薄膜太陽電池。
【請求項6】
前記空洞を有する前記導電型層における前記空洞ではない領域は、微結晶シリコンからなること、
を特徴とする請求項1に記載の薄膜太陽電池。
【請求項7】
前記空洞を有する前記導電型層の一面側および他面側の少なくとも一方に、該導電型層と同じ導電型を有する前記空洞を含まない導電型層を有すること、
を特徴とする請求項1に記載の薄膜太陽電池。
【請求項8】
透光性絶縁基板の一面上に透明導電膜を形成する第1工程と、
前記透明導電膜上に、異なる導電型を有する2つの導電型層間に光電変換層が配置された少なくとも一つの光電変換ユニットを形成する第2工程と、
前記光電変換ユニット上に導電膜からなる裏面電極層を形成する第3工程と、
を含み、
前記第2工程では、前記導電型層のうち少なくとも一つの層内に空洞を形成すること、
を特徴とする薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項9】
前記第2工程では、プラズマ化学気相堆積法により、前記光電変換ユニットの他層の形成と同じ製膜室内において、製膜時の前記透光性絶縁基板の温度条件とSiHに対するH希釈率を調整することにより前記導電型層内に前記空洞を形成すること、
を特徴とする請求項8に記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項10】
前記第2工程では、前記光電変換ユニットとして複数の前記光電変換ユニットを積層形成し、
前記第3工程では、隣接する前記光電変換ユニットが含む2つの光電変換層間に配置される前記導電型層のうち少なくとも一層内に前記空洞を形成すること、
を特徴とする請求項8に記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項11】
前記空洞の幅が10nm〜320nmの範囲であり、
前記透光性絶縁基板面を投影面とした場合における前記空洞の垂直投影の面積が占める割合が前記空洞を有する導電型層の面積の50%〜90%の範囲であること、
を特徴とする請求項8に記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項12】
前記第2工程では、前記空洞を有する前記導電型層の一面側および他面側の少なくとも一方に、該導電型層と同じ導電型を有する前記空洞を含まない導電型層を形成すること、
を特徴とする請求項8に記載の薄膜太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図2−5】
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【公開番号】特開2011−108836(P2011−108836A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262163(P2009−262163)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】