説明

薄膜磁気ヘッド及び記録媒体の評価方法及び評価装置

【課題】記録媒体の一部の区間、局所的に高周波数で発生する出力変動を簡便に精度良く検出する。
【解決手段】薄膜磁気ヘッドで記録媒体に信号を記録し、記録された信号を読み取った後または読み取りながら、信号の出力レベルの絶対値が所定の閾値を超える回数を数え、この閾値を変化させながら信号の出力レベルの絶対値が閾値を超える回数を求める。この方法で求められた、信号の出力レベルの絶対値が閾値を超える回数と閾値の関係により、局所的な出力変動を定量化して検出することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜磁気ヘッドや磁気記録媒体の評価方法および評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年ハードディスク装置の高密度化により、長手磁気記録に代わり垂直磁気記録が採用されてきている。それに伴い、今までの長手磁気記録では特に問題とならなかった新たな問題が垂直磁気記録で浮上してきている。その一つが、再生出力波形の出力変動(モジュレーション)の問題である。通常モジュレーションは以下の様に定義される。
モジュレーション=((平均出力電圧の最大値-平均出力電圧の最小値)/(平均出力電圧の最大値+平均出力電圧の最小値))×100 [%]
従来から、モジュレーションを評価する方法は多数開示されている。例えば、特許文献1は、記録媒体からの再生出力波形を、コンデンサと抵抗器を利用して包絡線波形に変換する回路を使用したモジュレーションの測定方法を開示している。この方法を用いれば、通常のモジュレーションを簡便に精度良く測定することができる。
【特許文献1】特開平8−297815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献に開示されている包絡線変換回路を用いる方法は、ある時定数で再生出力波形をまびいて読み込むために、記録媒体全体に低周波数で発生するモジュレーション測定には有効であった。しかしながら一部の区間、局所的に高周波数で発生する出力変動を検出することが出来なかった。最近の垂直磁気記録において、この局所的な出力変動が問題になってきており、この問題を評価する方法および装置が早急に求められている。
【0004】
簡便な代替案としては、記録媒体からの再生出力波形をすべてオシロスコープなどのメモリに取り込み、ひとつひとつ出力の最大値と出力の最小値を求めモジュレーションを計算する方法が考えられる。しかし実際にトラック一周に記録されている情報量は膨大であり、全ての情報を外部のメモリに取り込み最大出力と最小出力を求める方法には膨大な時間がかかるため現実的ではない。
【0005】
本発明は以上の状況に鑑み、局所的な出力変動を簡便に精度良く評価する方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、薄膜磁気ヘッドと記録媒体の少なくとも一方の特性を評価する方法であって、薄膜磁気ヘッドを用いて記録媒体に信号を記録する第一のステップと、第一のステップで記録された信号を記録媒体から読み取った後、または読み取りながら、その信号の出力レベルの絶対値が所定の閾値を超える回数を測定する第二のステップと、その所定の閾値を変化させながら、各閾値に対して第二のステップを繰り返すことによって、閾値と閾値を超える回数との関係を求める第三のステップと、第三のステップで求められた関係から、信号の局所的な出力変動を求める第四のステップを有している。第二のステップにおいて、信号の出力レベルの絶対値が前記閾値を超える回数を、信号検出カウンタを使用することが望ましい。
【0007】
このように、本発明の特性評価方法では、信号の出力レベルの絶対値が所定の閾値を超える回数を測定するので、信号の出力レベルの絶対値と閾値の大小関係を順次比較していくだけのシンプルな測定が可能になる。また、信号波形を間引いて読み込む必要がなく、信号の出力レベルの絶対値と閾値の大小関係とを所望の測定間隔で比較することが出来るので、信号の高周波成分の出力変動も精度良く測定することが出来る。
【0008】
薄膜磁気ヘッドと記録媒体の組合体の特性を評価する装置は、記録媒体に記録された信号を読み取る読取素子と、閾値を変化させながら読取素子によって読み取られた信号の出力レベルの絶対値が各閾超えた回数を数える測定手段と、その回数と閾値の関係から記録媒体の局所的な出力変動を求める演算手段を有している。記録媒体を評価する装置の場合は、装置が信号を書き込む素子を備えている。薄膜磁気ヘッドを評価する装置の場合は、装置が記録媒体を備えている。特性評価装置は、読み取られた信号の出力が各閾値を超えた回数を数える手段として出力検出カウンタを備えていることが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明によれば、従来のモジュレーションの測定方法では検出できなかった局所的な出力変動を精度良く簡便に評価することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に図面を参照して本発明の実施形態について説明する。まず本発明の評価装置であるスピンスタンドの一例を図1に示す。評価装置であるスピンスタンド1は、装置の支持体としてのベース2を備えている。磁気ディスクである記録媒体3は、ベース2に設けられたスピンドルモータ(図示せず)によって、任意の回転数で回転させられる。スピンスタンド1はまた、記録媒体に磁気情報を記録・再生する薄膜磁気ヘッド4を備えている。薄膜磁気ヘッド4は書き込み素子4aと読取素子4bを有している。書き込み素子4aと読取素子4bは同じ薄膜磁気ヘッド4に設けられている必要はなく、別々の薄膜磁気ヘッド4を用いる場合もある。薄膜磁気ヘッド4はキャリッジ5に支持され、キャリッジ5を搭載する回転ステージ6が回転することによって、記録媒体3をあらかじめ決められた測定用トラックの幅を横切る方向に走査する。回転ステージ6は、平行移動するリニアステージ7に搭載されており、記録媒体3の回転中心とキャリッジ5の回転中心との距離を変更することができる。薄膜磁気ヘッド4は、読み取り出力を調整したり記録の状態を変化させたりするためのプリアンプ8に繋がっており、プリアンプ8はCPU(Central Processing Unit)、メモリ、ディスプレイ等を搭載した処理装置9に接続している。
【0011】
処理装置9には、読み込んだ信号の出力レベルの絶対値が閾値を超えた回数を数える為の出力検出カウンタ11が備えられている。出力検出カウンタは、実際に読取信号の出力が閾値を超えた回数を数える場合に大変有効である。実際に磁気記録媒体に記録された信号の数は膨大であるため、記録媒体一周分の全ての信号を外部メモリに読み込み、それぞれの信号の出力レベルの絶対値を閾値と比較し閾値を超えた回数を数えると、データ処理に要する時間が極端に長くなるため、効率的とはいえない。そのため出力レベルの絶対値が閾値を超えた回数を数えるために、ポップコーンノイズを検出するために使用される信号検出カウンタを用いると、測定時間は大幅に短くなる。出力レベルの絶対値が閾値を超えた回数と閾値から局所的な出力変動を求めるための演算回路10は処理装置9に内蔵されている。
【0012】
次に、本発明を用いて薄膜磁気ヘッドと記録媒体の特性を評価する方法について述べる。図2は、以下に述べる特性評価方法のフロー図である。
【0013】
(ステップ1)まず、薄膜磁気ヘッド4の書き込み素子4aによって、記録媒体3に磁気情報を記録する。具体的には信号発生源(図示せず)からプリアンプ8を通して書き込み素子4aに電気信号を与え、電磁変換作用により磁気情報が記録媒体3に記録される。
【0014】
この時の書き込み信号は、11111の様な周期的な信号でも良いし、ランダムな周期の信号でも良い。書き込みの周波数は実際にハードディスクで使用される各ゾーンの最大周波数の半分程度であることが望ましい。周波数が低すぎると後述するローカルモジュレーションの値が小さくなり、比較対象の薄膜磁気ヘッド4や記録媒体3との差が小さくなるため効率的な比較ができなくなる。周波数が高すぎると、転移ノイズが多くなりSNR(信号とノイズの比)が小さくなるため後述するローカルモジュレーションの精度が悪くなる。以上の理由により、記録媒体に書き込む信号としては、各ゾーンで使用される最大周波数の半分(中間)程度の周波数を用いることが望ましい。
【0015】
(ステップ2)次に、ステップ1によって記録媒体に記録された信号を読み取る。具体的には、薄膜磁気ヘッド4の読取素子4bにセンス電流を流し、電磁変換作用により記録媒体に記録された磁気情報を電気信号に変換する。その場合、トラックの一周分全ての信号を読み込んでも良いし、トラックの一部分(セクタ)だけを読みこんでも良い。読み取った読取信号の出力レベルの絶対値を閾値と比較し、信号の出力レベルの絶対値が閾値を超えた回数を数える。
【0016】
具体的には、まず記録媒体一周の出力を読み込み、平均出力を計算する。その平均出力を100%として各閾値の出力レベルの絶対値を計算する。次に、平均出力の140%に相当する出力レベルの絶対値を計算し、この値を始めの閾値とする。そしてこの閾値の出力よりも大きな出力の絶対値を示した回数(パルスの個数)を求める。図3は読み込んだ読取信号13と閾値12を説明する図である。回数を数える際、実際の読取信号を全て外部のメモリに記録してから閾値12を超えた回数を数えても良いし、信号検出カウンタを使用して信号を読み取りながら逐次回数を数えても良い。
【0017】
(ステップ3)次に閾値12を変化させてステップ2を繰り返す。まず、始めに設定した平均出力の140%に相当する閾値から、閾値を4%小さくし、平均出力の136%に相当する出力レベルの絶対値を閾値とする。この閾値よりも大きな出力の絶対値を示した回数(パルスの個数)を求める。次に閾値をさらに4%小さくし、平均出力の132%に相当する出力レベルの絶対値を閾値とし、この閾値よりも大きな出力の絶対値を示した回数(パルスの個数)を求める。この様にして閾値のレベルを小さくしていくと、通常の場合このレベルを超えた回数(パルスの個数)が増えていく。
【0018】
この様にして、閾値を平均出力の140%から0%まで4%刻みで小さくしていき、各閾値(平均出力に対する割合%)を横軸にとり、記録媒体から読み込んだ出力(信号)の絶対値がそれぞれの閾値を超えた回数を縦軸にしてグラフにプロットしたものが図4である。ただし閾値の最大値や最小値および閾値の刻みは任意であるので、閾値の最大値を140%の代わりに150%としてもよいし、刻みを4%の代わりに10%で閾値を変化させても良い。
【0019】
(ステップ4)ステップ3で求められた読取信号の出力の絶対値が閾値を超えた回数と閾値の関係から局所的な出力変動を求めて定量化する。定量化の一例としての本発明形態として使用するローカルモジュレーション14の定義を図4に示す。ここでローカルモジュレーション14は信号の絶対値が閾値を超えた回数の最大値の90%から10%の間の閾値の幅[%]で定義される。例えば図4の場合、横軸の閾値の60%から103%の区間(即ち43%)がローカルモジュレーション14ということになる。ただしこの90%から10%は任意であり、例えば80%から20%でも良い。物理的には、このローカルモジュレーション14が小さいほど、それぞれの記録媒体の位置での、出力レベルの絶対値の差が小さいことであり、均一で良好な記録媒体といえる。また薄膜磁気ヘッドの評価に関しては、書き込み能力が均一で良好であるといえる。また薄膜磁気ヘッドと記録媒体両方の評価に関しては、両者の組み合わせの相性が良好であるといえる。
【0020】
(実施例)次に、実施例に基づいて、本発明の薄膜磁気ヘッドと記録媒体の評価方法について、さらに詳細に説明する。書き込み素子には、シールドタイプの垂直磁気記録ヘッドを使用した。また記録媒体には、磁性層の下に軟磁性層を備えた垂直磁気記録媒体を用いた。テスタにはグジック社製のシングルアームテスタを使用した。プリアンプにはテキサスインスツルメント社製のTI1672を使用した。測定は半径が22.3mm及びスキュー角が5.5度、回転数が5400回転の条件で行った。また書き込みに使用した周波数は126.6MHzで書き込み電流は25mAである。
【0021】
図5は、書き込み用の薄膜磁気ヘッドを一種類に固定し、4種類の記録媒体のローカルモジュレーション14を比較したデータである。4種類の内で媒体Dが最もシャープに信号が閾値を超えた回数が変化しており、ローカルモジュレーション14は小さくなる。反対に媒体Aは信号が閾値を越えた回数が閾値の変化に対して緩やかに変化しており、ローカルモジュレーション14は大きくなる。その結果、4種類の記録媒体の内、媒体Dが最も良好な記録媒体であると評価することができる。
【0022】
またこのローカルモジュレーション14の測定の前に、DCイレーズ(直流消去)やACイレーズ(交流消去)で媒体の磁化状態を変化させることで、より詳しくローカルモジュレーション14を測定することも可能である。媒体に測定以前に書かれた信号の磁化状態によって、書き込む信号の磁化状態を変化させるため、ACイレーズの周波数を変化させてローカルモジュレーション14を測定することも、詳細な薄膜磁気ヘッドや記録媒体の解析に有効である。
【0023】
図5に示したデータは、薄膜磁気ヘッドを一種類に固定して、4種類の記録媒体を評価したものであるが、変形例としては、記録媒体を一種類に固定して、違うタイプの薄膜磁気ヘッドを評価する場合もある。また記録媒体と薄膜磁気ヘッドの両方を変えて、その組み合わせの特性を評価する場合もある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明で使用する評価装置の一例を示す概念図。
【図2】本発明の特性評価方法を説明するフロー図。
【図3】記録媒体に記録された信号を読み取った再生出力信号と閾値示す図。
【図4】読み取り再生出力信号が、閾値を越えた数と閾値の関係を示したグラフ。
【図5】本発明を使用して4種類の記録媒体を特性評価したときの一例。
【符号の説明】
【0025】
1 スピンスタンド
2 ベース
3 記録媒体
4 薄膜磁気ヘッド
4a 書き込み素子
4b 読取素子
5 キャリッジ
6 回転ステージ
7 リニアステージ
8 プリアンプ
9 処理装置
10 演算回路
11 出力検出カウンタ
12 閾値
13 読取信号
14 ローカルモジュレーション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜磁気ヘッドと記録媒体の少なくとも一方の特性を評価する方法において、
前記薄膜磁気ヘッドを用いて前記記録媒体に信号を記録する第一のステップと、
前記第一のステップで記録された前記信号を前記記録媒体から読み取った後、または読み取りながら、該信号の出力レベルの絶対値が所定の閾値を超える回数を測定する第二のステップと、
前記所定の閾値を変化させながら、各閾値に対して第二のステップを繰り返すことによって、該閾値と前記回数との関係を求める第三のステップと、
前記閾値と前記回数との関係から、前記信号の局所的な出力変動を求める第四のステップと、
を有することを特徴とする特性評価方法。
【請求項2】
前記第二のステップにおいて、前記信号の出力レベルの絶対値が前記閾値を超える回数を、信号検出カウンタを使用して数えることを特徴とする請求項1に記載の特性評価方法。
【請求項3】
薄膜磁気ヘッドと記録媒体との組合体の特性を評価する装置において、
測定対象の前記薄膜磁気ヘッドによって信号が記録された測定対象の前記記録媒体から、記録された該信号を読み取る読取素子と、
閾値を変化させながら、前記読取素子によって読み取られた信号の出力レベルの絶対値が各閾値を超えた回数を数える測定手段と、
前記閾値と前記閾値を超えた回数との関係から前記信号の局所的な出力変動を求める演算回路と、
を有することを特徴とする特性評価装置。
【請求項4】
薄膜磁気ヘッドの特性を評価する装置において、
測定対象の薄膜磁気ヘッドによって信号が記録される記録媒体と、
記記録媒体に記録された信号を読み取る読取素子と、
閾値を変化させながら、前記読取素子によって読み取られた信号の出力レベルの絶対値が各閾値を超えた回数を数える測定手段と、
前記閾値と前記閾値を超えた回数との関係から前記信号の局所的な出力変動を求める演算回路と、
を有することを特徴とする特性評価装置。
【請求項5】
記録媒体の特性を評価する装置において、
測定対象の記録媒体に信号を記録する書き込み素子と、
前記記録媒体に記録された信号を読み取る読取素子と、
閾値を変化させながら、前記読取素子によって読み取られた信号の出力レベルの絶対値が各閾値を超えた回数を数える測定手段と、
前記閾値と前記閾値を超えた回数との関係から前記信号の局所的な出力変動を求める演算回路と、
を有することを特徴とする特性評価装置。
【請求項6】
前記測定手段として、信号検出カウンタを備えていることを特徴とする、請求項3から5のいずれか1項に記載の特性評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−59656(P2008−59656A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−233400(P2006−233400)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(500393893)新科實業有限公司 (361)
【氏名又は名称原語表記】SAE Magnetics(H.K.)Ltd.
【住所又は居所原語表記】SAE Technology Centre, 6 Science Park East Avenue, Hong Kong Science Park, Shatin, N.T., Hong Kong
【Fターム(参考)】