説明

薬剤収容容器

【課題】 薬剤吸着の少ない薬剤収容容器を提供すること。
【解決手段】 ニトログリセリン、硝酸イソソルビドおよび塩酸ニカルジピンから選ばれる薬学的に有効な物質を含有する液体を収容する環状ポリオレフィンからなる容器本体と、容器本体の開口部を閉塞する蓋材とからなる薬剤収容容器

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤収容容器に関する。更に詳しくは、ニトログリセリン、硝酸イソソルビドおよび塩酸ニカルジピンから選ばれる薬学的に有効な物質を含有する液体を環状ポリオレフィンからなる容器に収容した薬剤収容容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から薬剤収容容器にはガラス製バイアル瓶が用いられている。しかしながらガラス瓶では輸送中や取り扱い中の落下事故により破損したり、重いため搬送者、医療従事者に肉体的、精神的負担を与えるものであった。
この問題点の解決策として容器のプラスチック化があり、輸液関係の薬剤についてはかなりの部分がガラス製容器からプラスチック容器へ変換されているのが現状である。
【0003】
一方、近年、シリンジの先端部を封止したシリンジ内に薬液や注射液を充填し、さらに一方をガスケットで封止した状態で輸送、保管し、投与の際にはシリンジ先端部に注射針もしくは投与用器具を取り付け、ガスケットを押し込みシリンジ内を摺動させることにより薬液や注射液を流出させ投与可能にしたいわゆるプレフィルドシリンジが使われ始めている。
プレフィルドシリンジは、操作が非常に簡便であること、既に薬液と用量が設定されているため誤用なく正確な投与が可能であること、緊急の場合においても薬剤の調整を行う必要がないため細菌の感染を回避できることなど、多くの利点を有しており、近年の医療現場においては治療の効率化、医療過誤、細菌汚染防止などの観点から、各種薬剤のプレフィルド化が望まれてきている。
しかしながら、プレフィルドシリンジは輸送、保管時には高い密性を要求されると同時に、薬液投与時には密閉していた部位を摺動させる必要があり、密性と良好な摺動性という相反する機能が要求される。
【0004】
薬剤収容容器のプラスチック化において最も問題になる点は、薬剤が容器に吸着することによる力価低下である。
トログリセリンシクロスポリンベンゾジアゼピン系薬物などの脂溶性の高い多くの医薬品は、各種医薬品容器や輸液セット中で含量低下を起こすことが既に報告されており、注射液と医療用具との相互作用が問題となっている(非特許文献1〜5を参照)
特に、硝酸イソソルビル(ISDN)注射液やニトログリセリン(GTN)注射液は重症狭心症、心筋梗塞、急性心不全、心臓外科手術時の術中、術後の管理などに使用される薬剤であり、投与量の正確なコントロールが要求されている。また、最近では鬱血症状の強い患者には摂取水分量を増加させたくないとの理由から、精密自動点滴装置を用い、これらの注射液を原液で使用する場合が増えてきている。
【0005】
このようなことから、容器中で医薬品の含量低下(いわゆる力価低下)が起きない薬剤収容容器が要求され、加えてプレフィルドシリンジにおいては輸送、保管時の高い密性と実際の使用時のガスケット部の良好な摺動性が要求される。
この薬剤吸着の問題から薬剤吸着を起こしやすい薬剤については依然ガラス製容器、またはガラス製プレフィルドシリンジが用いられ、上述したように、医師、看護婦をはじめ搬送者に多大の肉体的、精神的負担を強いているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平3−58742号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「ジャーナル オブ ファーマシューティカル サイエンス」,71,1982,p.55−59
【非特許文献2】「アメリカン ジャーナル オブ ホスピタル ファーマシー」,41,1984,p.142−144
【非特許文献3】「アメリカン ジャーナル オブ ホスピタル ファーマシー」,43,1984,p.94−97
【非特許文献4】「アメリカン ジャーナル オブ ホスピタル ファーマシー」,40、1983,p.417−423
【非特許文献5】「病院薬学」,2,1996,p.167
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は従来から使われている薬剤吸着性の高い薬剤に対し使用されているガラス製バイアル瓶、プレフィルドシリンジをはじめとした各種薬剤収容容器の作業性の悪さ(破損しやすい、重い)をプラスチック化により克服しようとするものある。
即ち特定のプラスチック材料からなる収容容器本体と弾性を有する蓋材からなる薬剤収容容器において薬剤と接触する部位の少なくとも一部にパリレンンを被覆することにより、輸送、保管中等に薬剤の力価または実質的に有効な薬剤量の低下が抑制されたプラスチック製薬剤収容容器を提供することにある。
さらに本発明は、これまでに実用化できずにいた薬剤吸着性の低いシリンジ容器を提供することにある。尚、薬剤収容容器にパリレンを使用した技術は特許文献1に開示されているが、ここでは弾力性蓋部材にパリレンコートをすることで蓋部材からのカルシウムイオンやアルミニウムイオンなどの金属イオンの溶出を防ぐこと開示されている、薬剤吸着を防ぐ技術は全く開示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記(1)〜(12)の本発明により達成される。
(1)薬理学的に有効な物質を含有する液体を収容する合成樹脂製容器本体と、容器本体の開口部を閉塞する蓋材とを有する薬剤収容容器であって、前記液体と接触する表面の少なくとも一部がパリレン層に覆われており、かつ容器本体と蓋材とがパリレン層を介して接触する構造を有し、当該液体を容器本体に充填する時点での当該液体中の前記有効な物質量(a)と、当該液体を容器本体に充填し蓋材にて密閉した状態で40℃で6ヶ月保存した時の液体中の前記有効な物質量(b)との比(b/a)ラ100(維持率)が90%以上である薬剤収容容器。
(2)リレン層が、蓋材が形成する表面のすべてを覆っており、上記の量(b)を求めるための40℃で6ヶ月の保存を当該液体が蓋材に接触する状態で行ったものである上記(1)に記載の薬剤収容容器。
(3)パリレン層の厚みが1〜30μmである上記(1)に記載の薬剤収容容器。
(4)パリレン層が下記化学式1で示されるパリレンNからなる上記(1)(3)のいずれかに記載の薬剤収容容器。
【0010】
【化1】

【0011】
(5)蓋材がゴムまたはエラストマーからなる弾性体である上記(1)(4)のいずれかに記載の薬剤収容容器。
(6)容器本体が光学的に透明なプラスチックからなる上記(1)(5)のいずれかに記載の薬剤収容容器。
(7)容器本体が、120℃以上の融点またはガラス転移点を有する透明ポリオレフィンからなる上記(1)(6)のいずれかに記載の薬剤収容容器。
(8)容器本体が、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)、環状ポリオレフィンまたはポリエチレンナフタレートからなる上記(1)(7)のいずれかに記載の薬剤収容容器。
(9)容器本体は、薬理学的に有効な物質を含有する液体が収納された状態で当該液体が接触する部分に容器本体パリレン層を有する上記(1)(8)のいずれかに記載の薬剤収容容器。
(10)薬理学的に有効な物質が、ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、塩酸ニカルジピンからなる群のいずれかである上記(1)(9)のいずれかに記載の薬剤収容容器。
【0012】
(11)薬理学的に有効な物質を含有する液体を収容する合成樹脂製容器本体と、容器本体の開口部を閉塞する蓋材とを有する薬剤収容容器であって、前記液体と接触する表面の少なくとも一部がパリレン層に覆われており、かつ容器本体と蓋材とがパリレン層を介して接触する構造を有し、0.5mg/mLニトログリセリン水溶液を容器本体に充填する時点での当該水溶液中の実質的なニトログリセリン量(a)と、当該水溶液を容器本体に充填し蓋材にて密閉した状態で薬剤収容容器を40℃で6ヶ月保存した時の当該水溶液中の実質的なニトログリセリン量(b)との比(b/a)ラ100(維持率)が90%以上である薬剤収容容器。
(12)容器本体が、先端を開封可能に封止され後端に開口部を有する筒状体であり、蓋材が、当該筒状体内を摺動可能に閉塞するガスケットであり、薬剤収容容器がシリンジ形状である上記(1)(11)のいずれかに記載の薬剤収容容器。
【0013】
本発明において、容器に充填された薬理学的に有効な物質を含有する液体中またはニトログリセリン水溶液中の実質的な物質量あるいはニトログリセリン量の定量は、液体クロマトグラフィーにより行ったものであり、当該液体または当該水溶液を容器本体に充填する時点の当該液体中または当該水溶液中の物質のチャート面積と、蓋材にて密封された状態で当該容器を40℃で6ヶ月保存した時点での液体中または水溶液中の物質のチャート面積との面積比を求め、物質量またはニトログリセリン量(%)とした。
なお、上記ニトログリセリン水溶液中のニトログリセリン濃度は0.5mg/mLとし、ニトログリセリンとしては日本化薬製、ミリスロール注を用いた。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、輸送、保管中に起きる薬剤の力価の低下または有効な薬剤量の低下が実用上問題のない容器が提供される。
さらに、シリンジ型薬剤収容容器とした時にはパリレン層を有するガスケットとすることで、薬剤低吸着プラスチック製プレフィルドシリンジが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の薬剤収容容器の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の薬剤収容容器の他の実施形態を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明におけるパリレンのコーティング工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の薬剤収容容器として、形状の最も複雑なプレフィルドシリンジを挙げて以下に示す概略図に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、ゴム栓付きのバイアル瓶をはじめとし輸液バッグ等に見られる各種弾性体を蓋材とした薬剤収容容器を含めるものである。
図1および図2にシリンジの断面図を示すが、これはあくまでもシリンジ形状の1例であり本発明のシリンジ容器がこれに限定されるものではない。
本図においてシリンダー2が本発明における薬学的に有効な物質を含有する液体を収納する容器本体に該当し、ガスケット4が容器本体と共に使用される蓋材に該当する。
シリンジ1はシリンダー2とプランジャー3とこれの先端に位置するガスケット4からなり、シリンダー2の内部には薬液を保管するための空間22とその先端には薬液を吸入・排出するため開口部21が形成されている。
また、図1および図2においてはガスケット4は本体41とその表面に存在するパリレン層42からできている。
また、プレフィルドシリンジの場合、空間22と外界とを隔てるシール材5が開口部21に容易に剥離可能な状態で固定されている。当該シール材5は後述するシリンダー2と同様の材質を用いることができる。
【0017】
シリンダー2は、その先端に薬液や血液などの液体を吸入・排出するための開口部21が突出形成された円筒体からなり、基端側(後端)には開口部の周囲に鍔23が形成されている。このシリンダー2は、ポリオレフィン系合成樹脂、ポリエステル系合成樹脂等の合成樹脂で形成されている。これらのうち、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、非晶性ポリアリレート等のポリエステル等の光学的に透明でかつ110℃以上のガラス転移点又は融点を有する材料で形成されることが好ましい。
特にポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)、環状ポリオレフィン、ポリエチレンナフタレートが、透明性、蒸気滅菌性、薬剤非吸着性の点で望ましい。これらの材料は、シリンダーに限らず、本発明を構成する薬学的に有効な物質を収容する容器本体に共通して使用出来るものである。
更に、薬剤収容容器がバッグ形状である場合は、上記材料の他に、さらにPP系或いはPE系等のエラストマーが使用出来る。
また、容器本体において薬剤が接するすべての面をパリレンにてコートする場合は上記樹脂に限らず各種合成樹脂材料が使用出来る。
【0018】
プランジャー3は、ポリプロピレン等で形成されており、その先端にはガスケット4を着脱可能に固定させる手段を有する。
また、プランジャー3はガスケット4と共に基端方向(後端方向)に移動することにより空間22に薬液や血液を吸入し、一方先端方向に移動することで空間22に貯留された薬液や血液を排出する役割を担っている。
ガスケット4は、プランジャー3の先端に嵌合などの手段により着脱可能に固定されており、本体41とその表面に形成されたパリレン層42からなる。このガスケットは、スチレン系エラストマー、水添スチレン系エラストマー、これにポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、痾−オレフィン共重合体などのポリオレフィンや流動パラフィン、プロセスオイルなどのオイルタルク、キャスト、マイカなどの粉体無機物を混合したものが挙げられる。さらにポリ塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、天然ゴム、イソブレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム材料(特に加流処理したもの)や、それらの混合物等が構成材料として挙げられる。
中でも、弾性特性、耐蒸気滅菌性などの観点からスチレン系エラストマー、ブチルゴム、シリコーンゴムなどが望ましい。
これらの材料は、ガスケットに限らず本発明を構成する蓋材に共通して使用出来るものである。
【0019】
ここでは図示しないが、プランジャーとガスケットが一体に形成されたシリンジをツー・パーツ・シリンジと言うが、この場合、プランジャーの先端側、すなわち薬液や血液などの液体と接する部分とシリンダーと接する部分が合わさってガスケットを形成することは言うまでもない。このようなツー・パーツ・シリンジの場合、パリレン層42はプランジャー全体に施されてもよいし、薬液や血液などの液体と接する部分とシリンダーと接する部分を含むように施してもよい。
【0020】
次に本発明において使用されるパリレンについて説明を行う。
本発明で言うパリレンとは、下記の化学式1で示されるベンゼン環に置換基の無いパリレン(以下パリレンN)を基本に、ベンゼン環に各種官能基を導入したもの、ベンゼン環に隣接するメチレン基の水素が置換されたもの等を含むものであり、ベンゼン環上に塩素が導入されたパリレンC(化学式2)、メチル基が導入されたパリレンM(化学式3)およびメチレン基にフッ素が導入されたパリレンF(化学式4)などが挙げられる。
昨今の環境問題を考えた場合、ハロゲン元素を含有しないパリレンNやパリレンMを利用することが望ましい。
更に、これらパリレンをプレフィルドシリンジに利用する場合、ガスケット表面にコーティングすることにより、ガスケットの摺動抵抗が低下するが、実験例に示すようにパリレンNが最も低値である。従って、これらのことを考えあわせると、本発明においては容器をシリンジとする場合はパリレンNを使用することがもっとも望ましいといえる。
【0021】
【化2】

【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
尚、本発明においては、薬学的に有効な物質を収容する容器本体と、当該容器本体と共に使用される構造体において、薬学的に有効な物質と接触する少なくとも一部の表面がパリレンで覆われており、かつ容器本体と蓋材とがパリレンを介して接触していればいかなるものであってもかまわない。
したがって、本発明においては前記化学式1〜4に示される各パリレン層が多層にコーティングされたものや、前記化学式1〜4に示される各パリレンに対応するジパラキシリレンモノマーから調製される共重合体としても本発明の効果は発現する。
【0026】
本発明におけるパリレンのコーティング方法は、図3に示すように3つの工程からなる。原料の固体二量体のジパラキシリレンの昇華が起こる工程(A)、二量体の熱分解によるジラジカルパラキシリレンの発生が起こる工程(B)、容器本体や蓋材表面でのラジカルモノマーの重合によるポリパラキシリレン(パリレン)層が形成される工程(C)である。
このAからCの各工程における処理条件を以下の表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
得られたパリレン層は、耐熱性、耐薬品性、気体の遮蔽性に優れており、また気相重合法により形成されるため、複雑な形状を有する部材においてもコーティングが可能となる。
さらにC工程においては室温で処理がなされるため、耐熱性の低い材料においても処理が可能となる。
したがって、本発明のように複雑な形状である容器本体や蓋材へのコーティングが可能となる。
本発明に使用されるパリレンのコーティング層の厚さは、表1の温度及び圧力とコーティング時間により制御可能であり、本発明においては、効果が顕著に発現されるコート層厚みは、通常1μm〜30μm、より望ましくは2μm〜20μmである。1μm未満では薬剤吸着の抑制が十分でなく、30μmよりも大きくなると、パリレンコート層の剥離といった問題が生じる。
【0029】
次に薬剤吸着について述べる。
前記したように、ニトログリセリンやシクロスポリンおよびベンゾジアゼピン系薬物などの多くの医薬品は、各種医薬品容器や輸液セット中で含量低下を起こすことが報告されており、注射液と医療用具との相互作用が問題となっている(非特許文献1〜5参照)。
この含量低下については、プレフィルドシリンジにおいても課題であり、輸送、保管時には高い密性と実際の使用時の良好な摺動性と同時に、医薬品容器中での含量低下(いわゆる力価低下)が起きないことが要求される。パリレンは表2に示すように各種溶媒に対する耐性が高く結晶性が高いため、各種薬剤の医薬品容器表面への吸着が少ないことが推察される。
【0030】
【表2】

【0031】
本発明におけるシリンジとしては、患者への薬剤投与、患者からの血液採取、薬液の混合等に使用される一般用シリンジ、インスリン投与等に使用される微量用シリンジまたは歯科治療時に使用される歯科用シリンジ等、プランジャーを押圧し密保持部を摺動させる操作を伴うシリンジを例示できるが、特にシリンジ内に予め薬液が充填された状態で長期間接液するプレフィルドシリンジが好適に例示できる。
プレフィルドシリンジの場合、シリンダー内には必要に応じ薬液が収納されている。
薬液中の薬剤の種類は、特に限定されず、例えば、抗生物質、ビタミン剤(総合ビタミン剤)、各種アミノ酸、ヘパリンのような抗血栓剤、インシュリン、抗腫瘍剤、鎮痛剤、強心剤、静注麻酔剤、抗パーキンソン剤、潰瘍治療剤、副腎皮質ホルモン剤、不整脈用剤、補正用電解質、抗ウイルス剤、免疫賦活剤等、いかなるものでも良いが、特に薬剤吸着が問題となる親油性の薬剤に対し、その能力を発揮する。
【実施例】
【0032】
以下に実験例、実施例などを挙げて、本発明を具体的に説明する。
[I]摺動性:
《実験例1〜6および比較例1、2》
シリンジガスケットへの可能性(適否)を検討するため、ガスケット基材としてスチレン系エラストマーを使用し、シリンダーの基材としてポリプロピレンまたは環状ポリオレフィンを選択して使用し、シート状サンプルを用いその評価を行った。
(1) スチレン系エラストマー[日本合成ゴム(株)製「JSR TR」]からなる10mm×10mm×1mmのシートに、表1の条件にてパリレンをコーティングした。
得られたサンプルのパリレン厚は、電子顕微鏡[日本電子データム(株)製走査型電子顕微鏡「JSM−5300」]により測定した。
(2) 得られたサンプルの潤滑性を評価するため摩擦係数を測定した。摩擦係数は、表面性測定器(新東科学株式会社製「トライボギアTYPE 14S/14DR」)を用いて、該サンプルと他材料表面との間で生成する摩擦抵抗力より算出した。
詳しくは、パリレン膜形成サンプルを測定器の可動台に固定し、その上からポリプロピレン[チッソ(株)製「チッソポリプロ」]又は環状ポリオレフィン[三井化学(株)製「アペル」]からなるそれぞれのシートを10gの垂直荷重を加えた状態で接触させ、室温にてサンプルを100mm/minの速度で移動させたときの値を測定した。
結果を表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
表3より、パリレンを1μm以上コーティングしたスチレン系エラストマーは、ポリプロピレンおよび環状ポリオレフィンの両方に対して、良好な摺動性を示した。
【0035】
[II]薬剤吸着:
《実施例1〜8》
薬剤の吸着実験の代表例として、容器への吸着、拡散が問題となっているニトログリセリン(日本化薬製「ミリスロール」)について比較検討した。
(1) 20mLのポリプロピレン[チッソ(株)製「チッソポリプロ」]製のシリンダーまたは環状ポリオレフィン製シリンダーに、0.5mg/mLのニトログリセリン水溶液を5mL分注し、パリレンをコーティングしたガスケット(朝日ラバー製)で封止後、オートクレーブにて滅菌し、これを40℃のオーブン中にて6ヶ月間保存して、加速系での吸着試験を行った。
ニトログリセリンの定量は、液体クロマトグラフィーとして高速液体クロマトグラフ「島津LC−9A」(島津製作所社製)を使用し、カラムとして「Interstil ODS」(0.46mmΦ×250mm)(ジーエルサイエンス社製)を使用し、検出器として紫外線吸光光度計(at 220nm)を使用し、移動相に水/メタノール(2:3)を用いることにより行った。
未開封ガラス製アンプル中のニトログリセリンのチャート面積と、各サンプルとの面積比でニトログリセリン量(%)とした。
表4に結果を示す。
【0036】
《比較例1〜5》
コーティングを行っていないガスケットを用いて、実施例1と同様にしてシリンジ形態でニトログリセリン吸着実験を行った。
表4に結果を示す。
【0037】
【表4】

【0038】
《実施例11〜13および比較例6〜7
塩酸ニカルジピン(ベルジピン注射薬、山之内製薬株式会社)について薬剤吸着を実施例1、比較例1と同様にして比較検討した。
結果を表5に示す。
【0039】
【表5】

【0040】
《実施例14〜16および比較例8〜9》
硝酸イソソルビド(ニトロール注射薬、エーザイ株式会社)について薬剤吸着を実施例1、比較例1と同様にして比較検討した。
結果を表6に示す。
【0041】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明により、輸送、保管中に起きる薬剤の力価の低下または有効な薬剤量の低下が実質上問題にならない容器が提供されるので、本発明の薬剤収容容器は実用上有用である。
【符号の説明】
【0043】
1 シリンジ
2 シリンダー
3 プランジャー
4 ガスケット
5 シール材
22 空間
42 パリレン層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトログリセリン、硝酸イソソルビドおよび塩酸ニカルジピンから選ばれる薬学的に有効な物質を含有する液体を収容してなる環状ポリオレフィンからなる容器本体と、容器本体の開口部を閉塞する蓋材とからなることを特徴とする薬剤収容容器。
【請求項2】
前記した薬学的に有効な物質を含有する液体と接触する表面の少なくとも一部がパリレン層に覆われており、かつ容器本体と蓋材とがパリレン層を介して接触する構造を有し、前記液体を容器本体に充填する時点での当該液体中のニトログリセリン、硝酸イソソルビドおよび塩酸ニカルジピンから選ばれる物質量(a)と、当該液体を容器本体に充填し蓋材にて密閉した状態40℃で6ヶ月保存した時の当該液体中のニトログリセリン、硝酸イソソルビドおよび塩酸ニカルジピンから選ばれる物質量(b)との比(b/a)×100(維持率)が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の薬剤収容容器。
【請求項3】
リレン層が、蓋材が形成す表面のすべてを覆っており、上記の量(b)を求めるための40℃で6ヶ月の保存を前記液体が蓋材に接触する状態で行ったものである請求項2に記載の薬剤収容容器。
【請求項4】
リレン層の厚みが1〜30μmである請求項2または3に記載の薬剤収容容器。
【請求項5】
パリレン層が下記化学式1で示されるパリレンNからなる請求項2〜4のいずれかに1項に記載の薬剤収容容器。
【化1】

【請求項6】
蓋材がゴムまたはエラストマーからなる弾性体である請求項1〜5のいずれか1項に記載の薬剤収容容器。
【請求項7】
ニトログリセリン、硝酸イソソルビドおよび塩酸ニカルジピンから選ばれる薬学的に有効な物質を含有する液体が収容された状態で、当該液体が接触する部分に容器本体のパリレン層を有する請求項2〜6のいずれか1項に記載の薬剤収納容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−155134(P2010−155134A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91973(P2010−91973)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【分割の表示】特願2000−386029(P2000−386029)の分割
【原出願日】平成12年12月19日(2000.12.19)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】