説明

薬剤感受性評価方法及び微生物同定方法

【課題】被験微生物又は腫瘍細胞の薬剤感受性の評価や、微生物の同定を、簡易且つ効率よく行うことが可能な方法及び装置を提供する。
【解決手段】被検微生物又は腫瘍細胞の薬剤感受性を評価する方法であって、薬剤に対するMICが既知の微生物又はIC50が既知の腫瘍細胞について、当該薬剤が1又は2以上の異なる濃度の培地で培養して得られる増殖曲線をそれぞれ曲線データとして予めデータベース化し、被検微生物又は腫瘍細胞を同一条件下で培養して得られる増殖曲線の各曲線データを当該データベースに照合し、類似性評価法に基づき非類似度を求め、非類似度が最小値を示す微生物又は腫瘍細胞の当該薬剤に対するMIC又はIC50を被検微生物のMIC又は腫瘍細胞のIC50と判定することを特徴とする薬剤感受性評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物又は腫瘍細胞の薬剤感受性の評価方法及び微生物同定方法、並びに当該方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
患者から採取した微生物や腫瘍細胞について、その同定や薬剤感受性等の情報を迅速で的確に得ることは、感染者拡大の防止や患者の治療の上で非常に重要である。
【0003】
例えば、微生物に対する薬剤の最小発育阻止濃度(以下、「MIC」という)は、CLSI(旧CCLS米国臨床検査標準委員会)に準拠した方法が一般的に用いられる。CLSIは、所定濃度の薬剤の存在下に微生物を、当該微生物の対照培地での定常期あるいは死滅期に達する培養時間(一般細菌では16〜24時間)で培養し、発育のみられない最小薬剤感受性測定用試薬濃度をMICとするものである。
しかし、この試験方法は精度が高いものの、臨床細菌検査分野における好適治療薬の選定、耐性菌検出や院内感染対策に対しては判定時間が掛かりすぎる。そのため、感受性検査結果を待たず、医師による経験的な抗菌薬の選択と投与が実施され、微生物の耐性化を導くことが懸念される。
【0004】
CLSIに準拠した標準法よりも短時間に判定する方法として、例えば、化学発光法により4時間でMICを判定する方法(特許文献1)、酸化還元指示薬を用いる方法(特許文献2)、酸素電極を用いる方法(特許文献3)などのエンドポイント測定法や薬剤不含対照区と薬剤含有区の発育挙動を光学的に測定し、比較計算によりMICを決定するカイネティック測定法が知られている(特許文献4)。
【0005】
ここで示される迅速法では、過去に蓄積したデータ群からエンドポイント測定法に最適な発育判定閾値又はカイネティック測定法に用いられる比較計算用アルゴリズムを算出している。
しかしながら、蓄積されるデータ群は多数の典型的発育挙動を示す株と少数の非典型的発育挙動を示す株のデータで構成されているため、算出作成される発育判定閾値や比較計算用アルゴリズムは典型的発育挙動を示す株に近似することになる。このため、未確定菌株が非典型的な株で、過去に蓄積したデータ群に同様の挙動を示す株があったとしても、正しいMICを導くことは困難となる場合がある。
【0006】
また、微生物の生化学性状による同定については、従来、未知菌株を調製した各試験用培地に接種し、培養し、各試験を階層的に意義付け陽性・陰性の二分岐方式で鑑別することが行われている。
しかしながら、これらの従来法試験は、目視判定であり客観性が乏しく、個人差や熟練度に大きく左右されるという問題がある。また、培養時間が18時間〜数日のものも多く、迅速さに欠けるものであった。
【0007】
斯かる問題を克服するために、マイクロプレート等を用いて培養試験を実施する簡易同定キットが用いられるようになり、この方法では、試験項目と属や菌種からなる分類群の二元表である陽性率表を基本とする確率的同定法を用いているため、従来の二分岐方式の従来法に比べ、迅速で高い精度での同定が可能である。また、従来法に比べ判定時間が短く迅速化が図られている。
しかしながら、この場合においても、目視による陽性陰性の判定をすることから、個人差や熟練度に大きく左右されてしまうという従来法と同様の問題があった。
【特許文献1】特開平10−210998号公報
【特許文献2】特開平2−211898号公報
【特許文献3】特開平10−276796号公報
【特許文献4】特開2002−253298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、被験微生物又は腫瘍細胞の薬剤感受性の評価や、微生物の同定を、簡易且つ効率よく行うことが可能な方法及び装置を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、薬剤に対するMICが既知の微生物等を所定の薬剤濃度下で培養して得られる増殖曲線や菌名が既知の微生物を所定の同定試験用培地で培養して得られる反応曲線を、曲線データとしてデータベース化し、被検微生物等を同一条件下で培養して得られる曲線データを当該データベースに照合して、当該曲線の類似性を評価し、最も近似する曲線群を示した微生物のデータから、薬剤感受性の評価又は微生物の同定を精度良く行うことができることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)に係るものである。
【0011】
(1)被検微生物又は腫瘍細胞の薬剤感受性を評価する方法であって、薬剤に対するMICが既知の微生物又はIC50が既知の腫瘍細胞について、当該薬剤が1又は2以上の異なる濃度の培地で培養して得られる増殖曲線をそれぞれ曲線データとして予めデータベース化し、被検微生物又は腫瘍細胞を同一条件下で培養して得られる増殖曲線の各曲線データを当該データベースに照合し、類似性評価法に基づき非類似度を求め、非類似度が最小値を示す微生物又は腫瘍細胞の当該薬剤に対するMIC又はIC50を被検微生物のMIC又は腫瘍細胞のIC50と判定することを特徴とする薬剤感受性評価方法。
【0012】
(2)被検微生物の同定方法であって、菌名が既知の微生物に対して、試験項目が1又は2以上の異なる同定試験用培地で培養して得られる反応曲線をそれぞれ曲線データとして予めデータベース化し、被検微生物を同一条件下で培養して得られる反応曲線の各曲線データを当該データベースに照合し、類似性評価法に基づき非類似度を求め、非類似度が最小値を示す微生物の菌名を被検微生物の菌名と判定することを特徴とする同定方法。
【0013】
(3)被検微生物又は腫瘍細胞を薬剤存在下にて培養する培養部と、
微生物又は腫瘍細胞の増殖挙動を検出する検出部と、
薬剤に対するMICが既知の微生物又はIC50が既知の腫瘍細胞について、当該薬剤が1又は2以上の異なる濃度の培地で培養して得られる増殖曲線をそれぞれ曲線データとしてデータベース化し記憶するデータベース部と、
被検微生物又は腫瘍細胞を同一条件下で培養して得られる増殖曲線の各曲線データを当該データベースに照合し、類似性評価法に基づき非類似度を求め、非類似度が最小値を示す微生物又は腫瘍細胞の当該薬剤に対するMIC又はIC50を被検微生物のMIC又は腫瘍細胞のIC50と判定するデータ解析部、を有する薬剤感受性評価装置。
【0014】
(4)被検微生物を同定試験用培地にて培養する培養部と、
微生物の生化学的挙動を検出する検出部と、
菌名が既知の微生物に対して、試験項目が1又は2以上の異なる同定試験用培地で培養して得られる反応曲線をそれぞれ曲線データとしてデータベース化し記憶するデータベース部と、
被検微生物を同一条件下で培養して得られる反応曲線の各曲線データを当該データベースに照合し、類似性評価法に基づき非類似度を求め、非類似度が最小値を示す微生物の菌名を被検微生物の菌名と判定するデータ解析部、を有する微生物同定装置。
【0015】
(5)コンピュータに、下記の工程を実行させることを特徴とする薬剤感受性評価プログラム又はそれを格納した情報記憶媒体。
1)薬剤に対するMICが既知の微生物又はIC50が既知の腫瘍細胞について、当該薬剤が1又は2以上の異なる濃度の培地で培養して得られる増殖曲線をそれぞれ曲線データとして記憶されたデータベースに対し、被検微生物又は腫瘍細胞を同一条件下で培養して得られる増殖曲線の各曲線データを照合する工程、
2)類似性評価法に基づき、当該曲線データの非類似度を求め、非類似度が最小値を示す微生物又は腫瘍細胞の当該薬剤に対するMIC又はIC50を被検微生物のMIC又は腫瘍細胞のIC50と判定する工程
【0016】
(6)コンピュータに、下記の工程を実行させることを特徴とする微生物同定プログラム又はそれを格納した情報記憶媒体。
1)菌名が既知の微生物に対して、試験項目が1又は2以上の異なる同定試験用培地で培養して得られる反応曲線をそれぞれ曲線データとして記憶されたデータベースに対し、被検微生物を同一条件下で培養して得られる反応曲線の各曲線データを当該データベースに照合する工程
2)類似性評価法に基づき、当該曲線データの非類似度を求め、非類似度が最小値を示す微生物の菌名を被検微生物の菌名と判定する工程
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、被験微生物又は腫瘍細胞のMICの判定や、微生物の同定を、簡易・効率よく且つ十分な精度をもって行うことができる。従って、本発明の方法及び装置は、医療や研究現場において、治療薬剤の選択や治療方針の決定を効率よく且つ適確に行うために有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る微生物としては、細菌類、真菌類等が挙げられるが、臨床において菌の生化学的情報や、薬剤感受性に関する情報が必要とされる病原性微生物、特に病原性細菌類が好適である。
【0019】
細菌類としては、例えば、Corynebacterium属、Mycobacterium属、Enterococcus属、Staphylococcus属、Streptococcus属、Peptostreptococcus属、Listeria属、Clostridium属、Mycoplasma属、Brucella属、Neisseria属、Alcaligenes属、Bordetella属、Legionella属、Acinetobacter属、Pseudomonas属、Escherichia属、Budvicia属、Buttiauxella属、Cedecea属、Citrobacter属、Edwardsiella属、Enterobacter属、Erwinia属、Ewingella属、Hafnia属、Klebsiella属、Kluyvera属、Leclercia属、Leminorella属、Moellerella属、Morganella属、Obesumbacterium属、Pantoea属、Pragia属、Proteus属、Providencia属、Rahnella属、Salmonella属、Serratia属、Tatumella属、Trabulsiella属、Xenorhabdus属、Yersinia属、Yokenella属、Vibrio属、Campylobacter属、Helicobacter属、Bacteroides属、Leptospira属、Haemophilus属、その他クラミジア等が挙げられる。
より好ましくは、Corynebacterium属、Mycobacterium属、Enterococcus属、Staphylococcus属、Streptococcus属、Listeria属、Clostridium属等のグラム陽性菌、Escherichia属、Citrobacter属、Enterobacter属、Klebsiella属、Morganella属、Proteus属、Salmonella属、Serratia属、Shigella属、Yersinia属、Vibrio属、Campylobacter属、Helicobacter属、Bacteroides属、Haemophilus属、Legionella属、Acinetobacter属、Pseudomonas属等のグラム陰性菌である。
【0020】
真菌類としては、例えば、Cryptococcus属、Candida属等の酵母様真菌、Aspergillus属等の糸状菌等が挙げられる。
【0021】
本発明に用いられる腫瘍細胞は、被験者のガン組織から採取した腫瘍細胞の他、公知の方法にて培養可能な状態にした動物培養細胞でもよい。例えば、K562、ML−1、P388、L5178Y、RC、T24,MIA−PaCa−2、HuH−7、Ku−7、GCH−1nu、MKN−28、HeLa、KB、OKK−Y2、NaUCC−1、DAB−1等の樹立株細胞等が挙げられる。
【0022】
本発明の薬剤感受性評価方法及び微生物同定方法について、以下に説明する。
1.データベースの作成
(1)本発明において、薬剤感受性を評価するために使用されるデータベースは、薬剤に対するMICが既知の微生物又はIC50が既知の腫瘍細胞について、当該薬剤の濃度が単数若しくは異なる複数の培地で培養して得られる増殖曲線をそれぞれ曲線データとしたものが用いられる。薬剤感受性評価の精度を高めるためには、2以上の異なる薬剤濃度で測定したデータを用いるのが好ましい。また、各曲線データは、同一の条件下おいて複数回培養したものを用いるのが好ましい。
ここで、薬剤とは、微生物又は腫瘍細胞の増殖を抑制するものであればよく、微生物に対しては、例えば抗菌剤、抗真菌剤、殺菌消毒剤、界面活性剤等が挙げられる。抗菌剤としては、例えば、ペニシリン系抗生物質、セフェム系抗生物質、アミノグリコシド系抗生物質、マクロライド系抗生物質、リンコマイシン系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質、クロラムフェニコール系抗生物質、ポリペプチド系抗生物質、オキサゾリジノン系抗生物質、キノロン系等が挙げられる。抗真菌剤としては、例えば、アムホテリシンB,ナイスタチン,ミコナゾール,フルコナゾ−ル,イトラコナゾール等が挙げられる。
また、腫瘍細胞に対しては、抗腫瘍剤が挙げられ、例えば、代謝拮抗剤、アルキル化剤、白金製剤、抗がん性抗生物質、植物アルカロイド(微小管作用薬)、分子標的治療薬等が挙げられる。
【0023】
曲線データは、微生物又は腫瘍細胞を、当該薬剤が1又は2以上の異なる濃度の培地で培養し、測定時間(培養時間)ごとに、その増殖挙動(細胞数)を光学的又は電気化学的に測定してプロットし、増殖曲線を作成することにより行われる。なお、同一培養条件下で複数回培養してそれらを一般的な統計学的処理(例えば、相加平均、中央値、最頻値、標準偏差)し、得た曲線データが好ましい。
【0024】
薬剤の濃度範囲は、最終濃度0〜10000μg/mL、好ましくは0〜1024μg/mLの範囲で作成される2〜10倍希釈系列が挙げられ、好ましくは0〜1024μg/mLの範囲で作成される2倍希釈系列が挙げられる。
【0025】
微生物の培養は、各微生物に応じた公知の培養条件(基礎培地、培養温度、雰囲気(酸素、窒素、二酸化炭素等)、加圧及び照度等)を用いて行えばよく、特に限定されるものではない。基礎培地組成物としては、肉汁・血清、麦芽エキス等、無機塩類、炭素源、窒素源、アミノ酸、及びビタミン類が挙げられる。例えば、細菌類の培地としては、一般的に用いられるCAMHB(Cation-adjusted Muller-Hinton broth)、HTMB(Haemophilus Test Medium Broth)等が挙げられる。また、真菌類の培地としては、RPMI1640倍地等が挙げられる。
【0026】
腫瘍細胞の培養は、Artificial Organs, Volume 27, Number 7, July 2003, pp. 598-604(7)記載のように、公知の培地組成物条件、培養温度条件、雰囲気条件等を適宜選択すればよい。腫瘍細胞基礎培地組成物としては、RPMI1640培地、ダルベッコ変法イーグル培地等が挙げられ、適宜選択すればよい。
例えば、106cell/mLに調整した腫瘍細胞を、RPMI1640倍地を用い、37℃、5%−CO2下にてインキュベートし、光学的又は電気化学的測定法を用いて増殖曲線を作成することが挙げられる。
【0027】
測定時間(培養時間)は、特に限定されず、一定の時間間隔ごとに微生物又は腫瘍細胞の増殖挙動を測定し、増殖曲線を連続的に作成することができればよい。この際、基礎栄養塩培地で培養した際の被験微生物又は腫瘍細胞の定常期或いは死滅期に達する測定終了点より前段階に複数の測定点があることが好ましく、また、世代時間(細胞分裂サイクル)に近いか、それより短いことが好ましい。具体的には、5〜1440分間隔が好ましく、15〜60分間隔がより好ましい。
なお、日本化学療法標準法の一般細菌類は18〜24時間、嫌気性細菌類は40〜48時間、真菌類では48〜72時間であり、斯かる時間が本発明における最大測定時間となる。
【0028】
増殖挙動の測定は、細胞数の変化を光学的又は電気化学的に測定することにより行われる。例えば、細胞数、濁度、基質分解に伴うpH変化、合成基質の分解に伴う発色、蛍光、発光の量的変化、酸化還元反応に伴う酸化還元指示薬の変化、ATP量の変化、核酸量の変化等が挙げられる。当該光学的又は電気化学的測定としては、吸光、蛍光、発光、電気伝導度測定等公知の方法が挙げられ、この際、細胞数変化を適宜呈色試薬、蛍光試薬等の光学的又は電気化学的に測定し易くする試薬を用いて測定してもよい。
【0029】
(2)本発明において、微生物の同定を行うために使用されるデータベースは、菌名が既知の微生物に対して、試験項目が1又は2以上の異なる同定試験用培地で培養して得られる反応曲線の曲線データが用いられる。
同定試験用培地としては、公知の同定試験方法(新 細菌培地学講座(第二版) 近代出版 1986、病原細菌の生化学的検査法(原著第二版)医学書院 1985)に準じて糖、アミノ酸及び脂肪酸等を適宜配合したものであればよい。同定試験項目としては、例えば、糖からの酸産生性、炭素源同化、尿素分解、脱炭酸反応、脱アミノ反応、DNA分解能、好塩性・耐塩性、合成酵素基質分解能、硫化水素産生性試験等の各種試験が挙げられる。
【0030】
曲線データは、微生物を、試験項目が1又は2以上の異なる同定試験用培地で培養し、測定時間(培養時間)ごとに生化学的挙動を光学的又は電気化学的に測定してプロットし、反応曲線を作成することにより行われる。なお、曲線データは、複数回培養し、それらを一般的な統計学的処理(例えば、相加平均、中央値、最頻値、標準偏差)し、得た曲線データが好ましい。
培養は、各微生物に応じた公知の培養条件(基礎培地、培養温度、雰囲気(酸素、窒素、二酸化炭素等)、加圧及び照度等)を用いて行えばよく、特に限定されるものではない。基礎培地組成物としては、肉汁・血清、麦芽エキス等、無機塩類、炭素源、窒素源、アミノ酸、及びビタミン類が挙げられる。例えば、細菌類の培地としては、一般的に用いられるPhenol Red Broth BaseやDecarboxylase Medium Base等が挙げられる。また、真菌類の培地としては、Yeast Fermentation Broth BaseやYeast Carbon Base 等が挙げられる。
【0031】
測定時間は、特に限定されず、一定の時間間隔ごとに生化学的変化を光学的又は電気化学的に測定し、反応曲線を連続的に作成することができればよい。この際、該当する最適な最終判定時間に達する前に複数の測定点があることが好ましい。
具体的には、5〜120分間隔が好ましく、15〜60分間隔がより好ましい。
【0032】
生化学的挙動の測定は、微生物の生化学的変化を光学的又は電気化学的測定することにより行うことできる。例えば、細胞数、濁度、基質分解に伴うpH変化、合成基質の分解に伴う発色、蛍光、発光の量的変化、酸化還元反応に伴う酸化還元指示薬の変化、ATP量の変化、核酸量の変化等が挙げられる。当該光学的又は電気化学的測定としては、吸光、蛍光、発光、電気伝導度測定等公知の方法が挙げられ、この際細胞数変化を適宜呈色試薬、蛍光試薬等の光学的又は電気化学的に測定し易くする試薬を用いて測定してもよい。
【0033】
2.被験微生物又は腫瘍細胞に関するデータの収集
被検微生物又は腫瘍細胞を、上記データベースの作成において示した条件と同一の条件で培養し、同様にして増殖曲線又は反応曲線の曲線データを取得する。なお、複数回培養し、それらを一般的な統計学的処理(例えば、相加平均、中央値、最頻値、標準偏差)し、得た曲線データが好ましい。
【0034】
3.曲線データの照合・解析
被験微生物又は腫瘍細胞について取得された曲線データが上記データベースに照合され、曲線の類似性が評価される。
類似性の評価は、例えばユークリッド距離、変量データの分散値で除した標準化ユークリッド平方距離、マハラビスの距離、並びに尤度比距離、Tanimoto係数、Cosine係数、ピアソンの積率相関係数等から選ばれる手法を適宜用いて行うことができる。
このうち、ユークリッド距離或いは同平方距離は、被検微生物又は腫瘍細胞の各曲線データと照会した各曲線データの同一測定時間(培養時間)における全測定点間のそれぞれの差を求めてそれぞれを2乗し、総和して、類似度(非類似度)を算出するものであり、簡易に類似性を評価することができることから特に好ましい。
ユークリッド距離を示す、下記式に示す。
【0035】
【数1】

【0036】
ユークリッド(平方)距離を用いる場合、以下のようにして、被験微生物又は腫瘍細胞と既知データベースに存在する2株(i株とj株)の測定データ非類似度(距離)が算出される。
1)i株とj株の2株の間に、同一の測定時間と各薬剤濃度又は各同定試験項目の増殖挙動又は生化学的挙動の測定値の差から得られる測定点(距離)が1個存在する。
2)i株とj株の距離はn次元の座標として理解すことができ、その平方距離は上記式により定義することができる。ここで示したnは、i株とj株の2株の間に、ある同一の測定時間における、ある薬剤濃度の増殖挙動又はある同定試験項目の生化学的挙動の測定値の差から得られる測定点(距離)の総数を意味する。したがって、n個の距離はすなわち、2株のn次元の距離として理解でき、2株の距離は次の式になる。
(Dij2=(χ1i1j2 +(χ2i2j2+(χ3i3j2+(χ4i4j2 +…+(χninj2
3)χki:細胞iにおけるn個の変量データ、χkj:細胞jにおけるn個の変量データでユークリッド距離は(Dij)となる。
4)この距離を非類似度といい、非類似度が小さいほど類似性が高い関係にある。
5)そして、非類似度が最小値を示す既知微生物又は腫瘍細胞を選択する。
非類似度が最小値を示し、かつ、非類似度の比(最小値/最大値)が 0.2以下の範囲であれば好ましく、0.1以下の範囲であればより好ましい。
【0037】
一例として、被検微生物のMICの判定方法に用いる類似評価法について説明する。
1)既知の微生物j(O,P,Qの3種)の増殖曲線が予めデータベース化されている。
被検微生物iをα濃度において、培養時間5点αk1,…αk5とそのときの増殖挙動のプロット5点iαm1,…iαm5が得られる。
データベースから微生物iと同一培養条件における一つの微生物(例えば、微生物O)の増殖曲線が選択され、被検微生物iと同じ培養時間k1…,k5における各増殖挙動のプロット5点Oαm1,…Oαm5が得られる。
そして、(Dαio)2=(iαm1−Oαm1)2+(iαm2−Oαm2)2…+(iαm5−Oαm5)2となり、この平方根である非類似度(Dαio)が求められる。
同様に、微生物P、Qの非類似度(Dαip)(Dαiq)を求める。
微生物iのMICを判定する場合には、(Dαio)、(Dαip)、(Dαiq)の中から最小値を選択する。
2)また、被検微生物iのα、β、γ濃度で測定を行っていたとき、
(Dαβγio)2=(iαm1−Oαm1)2…+(iαm5−Oαm5)2…+(iβm1−Oβm1)2…+(iβm5−Oβm5)2+(iγm1−Oγm1)2…+(iγm5−Oγm5)2で非類似度(Dαβγio)を求める。同様に、微生物P、Qの非類似度(Dαβγip)、(Dαβγiq)を求める。
微生物iのMICを判定する場合には、(Dαβγio)、(Dαβγip)、(Dαβγiq)の中から最小値を選択する。
3)また、被検微生物iのα、β、γ濃度で測定を行っていたとき、
微生物iと微生物Oの各α、β、γ濃度ごとの非類似度(Dαio)、(Dβio)、(Dγio)、微生物iと微生物Pの非類似度(Dαip)、(Dβip)、(Dγip)、微生物iと微生物Qの非類似度(Dαiq)、(Dβiq)、(Dγiq)を求める。
それぞれの濃度で得られる非類似度を合計することによって、微生物iのMICを判定する場合には、(Dαio)+(Dβio)+(Dγio)、(Dαip)+(Dβip)+(Dγip)、(Dαiq)+(Dβiq)+(Dγiq)の中から最小値を選択する。
【0038】
また、被検微生物又は腫瘍細胞の最適薬剤を選択する場合には、非類似度の最小値を示す微生物又は腫瘍細胞における最適薬剤をそのまま被検微生物又は腫瘍細胞の最適薬剤と選択してもよく、また、引き続き選択された薬剤において1又は2以上の異なる濃度の培地で被検微生物又は腫瘍細胞を培養し、最適薬剤の薬剤感受性を評価してもよい。
【0039】
また、薬剤感受性評価後、非類似が最小値を示す微生物を被検微生物の菌名としてもよく、引き続き、最小値を示した微生物の特徴的な生化学的性状を示す試験項目から、上記の微生物同定方法に沿って試験項目が1又は2以上の異なる同定試験用培地で被検微生物を培養し、当該微生物の同定をしてもよい。
【0040】
上述した、各微生物又は腫瘍細胞毎に作成された曲線データを記憶したデータベースに対して、被検微生物又は腫瘍細胞を同一条件下で培養して得られる各曲線データを照合する工程、及び類似性評価法に基づき、当該曲線データの非類似度を求め、MIC又はIC50の評価或いは微生物の同定を行う工程は、薬剤感受性評価プログラム又は微生物同定プログラムの如くコンピュータプログラムとすることができ、また、当該プログラムを格納した情報記憶媒体とすることができる。
【0041】
当該プログラムの動作は以下のとおりである(図1、フローチャート参照)
ステップ1:予め作成されている曲線データベースに照合し、判定項目毎に類似性評価法に基づき、非類似度を算出し、類似性(非類似度)を判定する。
ステップ2:非類似度が最小値となるデータベース上に登録された情報(MIC又はIC50、菌名)を選択する
ステップ3:ステップ2で選択された情報を被験微生物又は増殖細胞の情報として取得する。
なお、ステップ2で求められた最小値の非類似度が予め設定しておいた範囲内に該当しない場合には、測定時間(培養時間)を延長するよう、または、測定を中止するように設定していてもよい。
【0042】
ここで、情報記憶媒体としては、例えば、CD−ROM、MO、メモリカード、DVD、ハードディスク、ICメモリ等のコンピュータ等の装置が読み取り可能なものであり、この接続形態は当該装置に着脱自在なものや通信回線を介して接続されるものでもよい。
【0043】
本発明の薬剤感受性評価装置及び微生物同定装置は、前記薬剤感受性評価方法及び微生物同定方法を実施するための装置である。
被検微生物又は腫瘍細胞を、薬剤存在下或いは同定試験用培地にて培養する培養部、微生物又は腫瘍細胞の増殖挙動或いは生化学的挙動を検出する検出部は、被験微生物又は腫瘍細胞の培養条件及び検出条件に適合するものであればよく、公知の培養手段及び検出手段を用いることができる。培養手段としては、例えば、一般的な孵卵器が挙げられ、検出手段としては、例えば、一般的なマイクロプレートリーダー、培養検出手段としては、例えば、培養機構を備える一般的なマイクプレートリーダーや細菌検査装置ライサス(日水製薬株式会社製)が挙げられる。
【0044】
薬剤感受性評価の場合は薬剤及びその濃度、微生物の同定の場合は同定試験用培地を決定し、培養部にて、所定の培養条件にて培養を開始する。尚、この操作は、手動で行ってもよく、データ解析部により予め入力されているプログラムによって行ってもよい。
次いで、培養開始後検出部にて、被験微生物又は増殖細胞の増殖挙動又は生化学的挙動を光学的又は電気化学的測定により連続的に検出し、検出された信号に基づいて増殖曲線又は反応曲線を作成する。このとき、当該曲線は、入力又は判定項目により予め設定されている時間間隔で作成される。
【0045】
データベース部には、薬剤感感受性を評価する場合は、薬剤に対するMICが既知の微生物又はIC50が既知の腫瘍細胞について、当該薬剤が1又は2以上の異なる濃度の培地で培養して得られる増殖曲線をそれぞれ曲線データとしてデータベース化したデータ、微生物の同定を行う場合は、菌名が既知の微生物に対して、試験項目が1又は2以上の異なる同定試験用培地で培養して得られる反応曲線をそれぞれ曲線データとしてデータベース化したデータが格納されている。
データ解析部には、被検微生物又は腫瘍細胞より得られる曲線データをデータベースに照合し、類似性評価法に基づき非類似度を求め、MIC又はIC50、或いは菌名を判定するためのプログラムが格納されている。
【0046】
当該装置は、具体的には、上記各部の手段を実行するための、データ入出力部、制御部、記憶部、インターフェイス部等が備えられている。これらは信号をやり取りするためのバスを介して相互に接続されている。
【0047】
ここで、制御部は、CPUであり、プログラムに従って上記各部の制御や各種の演算処理を行う。記憶部は、予め各種プログラムや各データを格納しておくROM、作業領域として一時的にプログラムやデータを記憶するRAM、オペレーティングシステムを含む各種プログラムや各種データを格納するハードディスク等からなる。データ入出力部は、各種情報の表示及び各種指示の入力や得られたデータを出力するために使用されるパネル、テンキー、スタートボタン、プリンタ等を備えている。インターフェイス部は、外部機器と有線又は無線にて通信するための例えば、USBやSCSI、IrDA等のシリアル、パラレル、ネットワーク、無線通信及び電話回線のインターフェイスである。
【実施例】
【0048】
実施例1:MIC判定方法
<標準法によるMIC測定>
CLSIに準拠した微量液体希釈法でMICを確定する。あらかじめ非選択培地で増菌したEnterococcus faecalis 21株を各々滅菌生理食塩水に懸濁し、McFarland No.0.5(108cfu/mL相当)の菌液を得る。抗菌剤であるバンコマイシン(VCM)を力価として0.5μg /mL、1μg力価/mL、2μg/mL、4μg/mL、8μg/mL、16μg/mL、32μg/mLを含むように調製したミュラーヒントンブイヨンをマイクロプレートウェルに100μLずつ分注する。ここに先の菌液を微量接種し、最終接種菌量として105cfu/mL(104cfu/ウェル)相当になるようにする。この菌接種マイクロプレートを35±2℃で好気条件下16-20時間培養し、ウェル中に菌塊を認めない薬剤添加ウェルの中で最も低いVCM濃度(力価)を最小発育阻止濃度(MIC)として記録する。
【0049】
<データベースの作成>
Enterococcus faecalisのバンコマイシン(VCM)に対するMICと発育増殖曲線(対照、VCM 0.5μg/mL、1μg/mL、2μg/mL、4μg/mL、8μg/mL、16μg/mL、32μg/mL)データベースを作成するために、MICが確定しているE. faecalisを用意する(本実施例では21株)。ミュラーヒントン中に最終接種菌量が106cfu/mL相当になるように調整し、菌の発育を迅速に測定するためにWST-1(2-(4-Iodophenyl)-3-(4-nitrophenyl)-5-(2,4-disulfophenyl)-2H-tetrazolium, monosodium salt) 130〜200μg/mL とVCM 0.5μg/mL、1μg/mL、2μg/mL、4μg/mL、8μg/mL、16μg/mL、32μg/mL が乾燥固定されている96ウェルマイクロプレートの各ウェルに100μLずつ分注する。35±2℃で培養し、15分間隔で24時間まで各ウェルの440nmの吸光度を測定し、菌の発育増殖曲線群を得る。これらの発育曲線群と確定MICを合わせたデータをデータベースとした。
【0050】
<検索>
データベースに含まれないMIC=8ug/mLのE. faecalis ATCC51299株について上記と同様の方法でVCM各濃度の15〜900分まで測定した吸光度から発育増殖曲線群を求め、これをデータベースに照合した。表1ではMIC8μg/mLを示すNo.14株との各測定点の吸光度差の2乗を示し、それらを合計した値(距離=非類似度)は8.4となる。表2ではMIC>32μg/mLを示すNo.20株との各測定点の吸光度差の2乗を示し、それらを合計した値(距離=非類似度)は1484.9となる。このようにATCC51299株とデータベースに含まれる21株の非類似度を求め、最小値を示す株の発育増殖曲線群が類似性の高い発育増殖曲線群とした。このとき、最小値8.4ポイントを示したのはMIC8μg/mLを示したNo.14株で、2番目に小さい値であったのはMIC8μg/mLを示したNo.15株であった。このことから、MICを推定できることが確認された。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
実施例2:細菌同定
<データベースの作成>
Escherichia coliに対して、蛍光基質を用いた6試験項目、L-Proline 7-amido-4-methylcoumarin hydrobromide 5μg/ウェル(PRO)、L-Pyroglutamic acid 7-amido-4-methylcoumarin 5μg/ウェル(PYR)、4-Methyumbelliferyl-α-D-galactoside 10μg/ウェル(AGL)、4-Methyumbelliferyl-β-D-galactoside 10μg/ウェル(BGL)、4-Methyumbelliferyl-α-D-glucoside 10μg/ウェル及び4-Methyumbelliferyl-β-D-glucoside 10μg/ウェル(GLU)、4-Methyumbelliferyl-α-L-arabinoside 10μg/ウェル(ARA)の反応曲線のデータベースを作成するために、あらかじめ試験管法等の従来法により菌名を決定したE.coli を用意する(本実施例では12株)。滅菌水中にMcFarland No.0.5 (108cfu/mL相当)になるように菌液を調整する。上記の各6項目について乾燥固定されている96ウェルマイクロプレートの各ウェルに100μLずつ分注する。35±2℃で培養し、1時間間隔で24時間まで各ウェルの励起波長365nm、測定波長450nmで蛍光測定し、菌の反応曲線群を得る。これらの反応曲線群と菌名を合わせたデータをデータベースとした。
【0055】
<検索>
データベースに含まれないE.coli ATCC35218株について上記と同様の方法で1〜3時間まで測定した6項目の反応曲線群(図2)を求め、これをデータベースに照合した。
表4ではE.coli ATCC35218株とATCC11775株との各測定点の蛍光値差の2乗を示した。これらの蛍光値差の2乗を合計した値(距離=非類似度)は235183となった。表5ではβ-galactosidase活性が弱い非典型的なE.coli NS-7056株との各測定点の蛍光値差の2乗を示した。これらの蛍光値差2乗を合計した値(距離=非類似度)は93626385となった。このようにATCC35218株とデータベースに含まれる12株の非類似度を求め、最小値を示す反応曲線群が類似性の高い菌株とした。このとき、最小値235183を示したのは先のATCC11775株で、2番目に小さい値であったのはATCC25922株であった。このことから、24時間までのデータベースのうち3時間までの蛍光値を用いて同定菌名を推定できることが確認された。また、乳糖非分解・遅分解といった非典型性状を示すE.coli株群ではBGLでの活性が低く、類似性で乖離していることが確認された(表4−6)。
【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
比較例1:確率的同定方法
過去に蓄積した多数のデータから3菌種×4テストに対する陽性率が次の表のように組み入れられる。この場合、1菌種の陽性率は多数株のデータを反映していなければならない。ここで、未知菌株の試験1〜4の結果が+、−、+、−としたとき下記の計算結果ようになる。
【0059】
【表6】

【0060】
未知菌株が+反応の場合には陽性率を、−反応の場合には(1-陽性率)を各試験項目の反応出現頻度とし、4つの試験を用いた未知菌株の各菌種に対する類似度は下表のようになり菌種3が最も近いことが確認できる。
【0061】
【表7】

【0062】
上記のとおり、確率的同定法は過去に蓄積した菌株データを試験項目毎に陽性菌株数の頻度から陽性率に変換するため、多数の典型性状を示す株と少数の非典型性状から陽性率を算出した場合、算出作成される陽性率表は典型的性状に近似することになる。このため、未知菌株が非典型性状を示す株で、過去に蓄積したデータに同様に非典型性状を示す株があったとしても、正しい菌名を導くことは困難となる。非典型性状を示す試験した場合、十分な精度を保つことができない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】薬剤感受性評価方法及び微生物同定方法の概略のフローチャート。
【図2】各種濃度の薬剤バンコマイシン存在下の培養における各細菌の発育増殖曲線群の比較。
【図3】各種同定用培地の培養における発育増殖曲線群の比較。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検微生物又は腫瘍細胞の薬剤感受性を評価する方法であって、薬剤に対するMICが既知の微生物又はIC50が既知の腫瘍細胞について、当該薬剤が1又は2以上の異なる濃度の培地で培養して得られる増殖曲線をそれぞれ曲線データとして予めデータベース化し、被検微生物又は腫瘍細胞を同一条件下で培養して得られる増殖曲線の各曲線データを当該データベースに照合し、類似性評価法に基づき非類似度を求め、非類似度が最小値を示す微生物又は腫瘍細胞の当該薬剤に対するMIC又はIC50を被検微生物のMIC又は腫瘍細胞のIC50と判定することを特徴とする薬剤感受性評価方法。
【請求項2】
被検微生物の同定方法であって、菌名が既知の微生物に対して、試験項目が1又は2以上の異なる同定試験用培地で培養して得られる反応曲線をそれぞれ曲線データとして予めデータベース化し、被検微生物を同一条件下で培養して得られる反応曲線の各曲線データを当該データベースに照合し、類似性評価法に基づき非類似度を求め、非類似度が最小値を示す微生物の菌名を被検微生物の菌名と判定することを特徴とする微生物同定方法。
【請求項3】
類似性評価法が、ユークリッド距離又はユークリッド平方距離、マハラビスの距離、尤
度比距離、Tanimoto係数、Cosine係数、ピアソンの積率相関係数から選ばれるものである請求項1記載の薬剤感受性評価方法又は請求項2記載の微生物同定方法。
【請求項4】
被検微生物又は腫瘍細胞を薬剤存在下にて培養する培養部と、
微生物又は腫瘍細胞の増殖挙動を検出する検出部と、
薬剤に対するMICが既知の微生物又はIC50が既知の腫瘍細胞について、当該薬剤が1又は2以上の異なる濃度の培地で培養して得られる増殖曲線をそれぞれ曲線データとしてデータベース化し記憶するデータベース部と、
被検微生物又は腫瘍細胞を同一条件下で培養して得られる増殖曲線の各曲線データを当該データベースに照合し、類似性評価法に基づき非類似度を求め、非類似度が最小値を示す微生物又は腫瘍細胞の当該薬剤に対するMIC又はIC50を被検微生物のMIC又は腫瘍細胞のIC50と判定するデータ解析部、を有する薬剤感受性評価装置。
【請求項5】
被検微生物を同定試験用培地にて培養する培養部と、
微生物の生化学的挙動を検出する検出部と、
菌名が既知の微生物に対して、試験項目が1又は2以上の異なる同定試験用培地で培養して得られる反応曲線をそれぞれ曲線データとしてデータベース化し記憶するデータベース部と、
被検微生物を同一条件下で培養して得られる反応曲線の各曲線データを当該データベースに照合し、類似性評価法に基づき非類似度を求め、非類似度が最小値を示す微生物の菌名を被検微生物の菌名と判定するデータ解析部、を有する微生物同定装置。
【請求項6】
コンピュータに、下記の工程を実行させることを特徴とする薬剤感受性評価プログラム又はそれを格納した情報記憶媒体。
1)薬剤に対するMICが既知の微生物又はIC50が既知の腫瘍細胞について、当該薬剤が1又は2以上の異なる濃度の培地で培養して得られる増殖曲線をそれぞれ曲線データとして記憶されたデータベースに対し、被検微生物又は腫瘍細胞を同一条件下で培養して得られる増殖曲線の各曲線データを照合する工程、
2)類似性評価法に基づき、当該曲線データの非類似度を求め、非類似度が最小値を示す微生物又は腫瘍細胞の当該薬剤に対するMIC又はIC50を被検微生物のMIC又は腫瘍細胞のIC50と判定する工程
【請求項7】
コンピュータに、下記の工程を実行させることを特徴とする微生物同定プログラム又はそれを格納した情報記憶媒体。
1)菌名が既知の微生物に対して、試験項目が1又は2以上の異なる同定試験用培地で培養して得られる反応曲線をそれぞれ曲線データとして記憶されたデータベースに対し、被検微生物を同一条件下で培養して得られる反応曲線の各曲線データを当該データベースに照合する工程
2)類似性評価法に基づき、当該曲線データの非類似度を求め、非類似度が最小値を示す微生物の菌名を被検微生物の菌名と判定する工程

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−86279(P2008−86279A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272767(P2006−272767)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(000226862)日水製薬株式会社 (35)
【Fターム(参考)】