説明

薬学的用途のための潤滑性コーティング

本発明は、その外側表面上に潤滑性コーティングが付着した丸剤および錠剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、概して、薬学的物品の製造に関し、より具体的には、その外側表面上に潤滑性コーティングが形成されたそのような物品を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
丸剤および錠剤は、薬物またはその他の治療上有益な物質をヒトおよび動物に投与するために、広く使用されている。一般に、多くの丸剤および錠剤の外側表面は相当にでこぼこしており、このことは、(顕著な咽頭反射を含む)嚥下障害を有するヒトを含む多くの患者に、および、多くの乳児、小児、青年、より高齢のヒト(例えば老齢患者)などに困難を生じている。大部分の丸剤および錠剤を摂取する際に水を使用することが現在は賢明であるが、例えば水が入手不可能である場合など、場合によってはこれが困難である。
【0003】
したがって、嚥下が容易な丸剤および錠剤を使用することが望ましく、これは、全ての年齢および身体的または精神的な状態の患者に適しており、かつ、水を使用することなく投与可能である。今までは、そのような製品は提供されていなかった。本出願は、そのような嚥下しやすい丸剤および錠剤、ならびにそのような製品を製造するための方法を提供する。
【発明の開示】
【0004】
概要
本発明の一態様によると、治療活性を有する作用物質からなる基質および該基質上に付着した潤滑性コーティングを含む薬学的物品が提供されるが、該物品は、哺乳動物被験体による嚥下のために適合化されており、該コーティングは、親水性ポリマーおよび架橋ポリマーを含むポリマー組成物で形成されており、かつ、該コーティングの潤滑性は、標準的な丸剤コーティングの潤滑性よりも2倍〜10倍高い。
【0005】
本発明の別の態様によると、親水性ポリマーは約8.5 (cal/cm3)1/2を上回る溶解度パラメータを有しうり、該架橋ポリマーは、アクリレート、メタクリレート、エポキシアクリレート、およびイソシアネートより選択される架橋可能な(cross-linkable)モノマーの重合によって形成可能である。
【0006】
さらに別の態様によると、上述の潤滑性コーティングを製造するための方法も提供される。
【0007】
本発明のさらに別の態様によると、青年、小児、乳児、老齢患者、および嚥下障害を患うヒト(顕著な咽頭反射を有するヒトを含む)を含むヒト、ならびに動物に、本薬学的物品を投与することができる。
【0008】
詳細な説明
以下は、本出願において使用されるいくつかの用語の定義である。以下で提供された用語および定義が、多少なりとも、さらにそのような潜在的矛盾の範囲まで、その一般に許容される意味と一致しない場合には、以下に提供した意味が優先する。
【0009】
「治療活性を有する作用物質」という用語は、それを必要とする哺乳動物に投与された場合に有益な治療応答を誘発しうる化合物または物質として定義される。「治療活性を有する作用物質」という用語は、合成薬、天然薬剤、処方薬、大衆薬、ジェネリック薬、ブランド薬、ビタミン、ミネラル、栄養補助食品、ホメオパシー薬剤、植物性薬剤(herbal remedy)、および同様の物品を含む。
【0010】
「潤滑性の」および「潤滑性」という用語は、でこぼこのない、滑らかな、またはつるつるした表面を有する物体を指す。本発明の目的に関して、「潤滑性の」および「潤滑性」という用語は、丸剤または錠剤の嚥下可能性によって定義される。「卵殻コーティングされた」という用語が当技術分野で理解されているので、「卵殻コーティングされた」丸剤と比較して丸剤または錠剤が2〜10倍容易に嚥下されるならば、これは「潤滑性」と見なされる。
【0011】
「哺乳動物被験体」という用語は、ヒト、ならびに、ペット(例えばネコおよびイヌ)および家畜(例えばウシ、ブタ、ヤギ、およびヒツジ)などの温血動物の両方を指す。
【0012】
「嚥下障害」という用語は嚥下困難を指し、これは、その他の原因の中でもとりわけ、脳卒中、MS、またはパーキンソン病などの神経学的疾患による神経損傷に関連しうる。
【0013】
「青年」という用語は、約12歳〜約16歳のヒトとして定義される。
【0014】
「小児」という用語は、約2歳〜約12歳のヒトとして定義される。
【0015】
「乳児」という用語は、生後約1日〜約2歳のヒトとして定義される。
【0016】
「老齢患者」という用語は、一般に高齢に関連する身体的または精神的な疾患が発症したヒトとして定義される。
【0017】
「咽頭反射」という用語は、正常な嚥下の一環として咽頭に侵入した物体以外の、咽頭に侵入した物体を排出する咽頭裏側の反射収縮として定義される。
【0018】
「丸剤」という用語は、小さなペレット形状の、治療活性を有する作用物質を含む1用量の製品として定義される。
【0019】
「錠剤」という用語は、小さく平坦な圧縮ブロック形状の、治療活性を有する作用物質を含む1用量の製品として定義される。
【0020】
「球形」という用語は、円が直径の周りを回転することにより生じる回転体の形状として定義される。
【0021】
「楕円形」という用語は、全ての平面断面が楕円または円のいずれかである物体の形状として定義される。
【0022】
「扁球形(oblate spherical)」という用語は、楕円がその短軸の周りを回転することにより生じる回転体の形状として定義される。
【0023】
「長球形(prolate spherical)」という用語は、楕円がその長軸の周りを回転することにより生じる回転体の形状として定義される。
【0024】
「直円柱形」という用語は、その間の距離が物体の高さを定義する2つの平行な円形基部と一定の円形断面の壁とを有する物体の形状として定義される。
【0025】
「円盤」という用語は、高さが直径の約10%以下である直円柱形を有する物体を指す。
【0026】
「平凸形」という用語は、一方の表面が平らすなわち平面状でありもう一方の表面が凸形である、2つの向かい合う表面を有する物体として定義される。「凸形」という用語は、球または円の外側のように外側に向かってアーチ形の、湾曲した、広く鈍角の(broadly obtuse)、または均一に丸みのある形状を指す。
【0027】
「レンズ形」という用語は、両凸レンズの形状を有する物体として定義される。
【0028】
「角錐形」という用語は、任意の種類の正角錐(regular pyramid)または角錐台(truncated pyramid)を含む、角錐の形状を有する物体として定義される。
【0029】
「円錐形」という用語は、任意の種類の正円錐(regular cone)または円錐台(frustum cone)を含む、円錐の形状を有する物体として定義される。
【0030】
「オジー形」という用語は、オジーブの形状、すなわち、同じ曲率半径を有する2本の曲線の交差に起因する、弾丸に類似した幾何学形状を有する物体として定義される。
【0031】
「立方体」および「直方体」という用語は、それぞれ立方体および直平行六面体の形状を有する物体として定義される。
【0032】
「親水性ポリマー」という用語は、本出願において以下に定義される。
【0033】
「モノマー」という用語は、国際純正・応用化学連合(International Union of Pure and Applied Chemistry;IUPAC)に採用された定義に準拠して、重合を受けることが可能であり、それによって巨大分子(ポリマー)の本質的構造に構成単位を提供する分子を指す。
【0034】
「ポリマー」という用語は、ホモポリマー、コポリマー、およびオリゴマーを含むと定義される。「ホモポリマー」という用語は、単一の種類のモノマーに由来するポリマーとして定義される。「コポリマー」という用語は、2種類以上のモノマーに由来するポリマーとして定義され、これには、2つのモノマー種の共重合により得られるコポリマー、3つのモノマー種より得られるコポリマー(「ターポリマー」)、4つのモノマー種より得られるコポリマー(「クアテルポリマー(quaterpolymer)」)などが含まれる。「オリゴマー」という用語は、反復単位の数が20を超えない低分子量ポリマーとして定義される。
【0035】
「コポリマー」という用語はさらに、ランダムコポリマー、交互コポリマー、グラフトコポリマー、およびブロックコポリマーを含むと定義される。「ランダムコポリマー」という用語は、鎖内の任意の所与の部位において所与のモノマー単位が見出される確率が隣接単位の性質に依存しない巨大分子を含むコポリマーとして定義される。ランダムコポリマーにおいて、モノマー単位の連鎖分布はベルヌーイの統計学(Bernoullian statistics)に従う。「交互コポリマー」という用語は、交互の順番に2種類のモノマー単位を含有する巨大分子を含むコポリマーとして定義される。
【0036】
「架橋」という用語は、ポリマーの分子の鎖の間の化学結合を確立し、これにより、非架橋ポリマーと比較して強度が高く溶解度が低い単一の三次元ネットワークがもたらされるプロセスを指す。
【0037】
「相互貫入ネットワーク(interpenetrating network)」という用語は、IUPACに採用された定義に準拠して、ネットワーク間の化学的かつ物理的な結合を形成するために分子レベルで少なくとも部分的に織り交ぜられた2つまたはそれ以上のネットワークを含むポリマー系を指す。IPNのネットワークは、化学結合が切断されない限り分離できない。言い換えると、IPN構造とは、部分的に化学的に架橋しかつ部分的に物理的に絡み合った2つまたはそれ以上のポリマーネットワークを表す。
【0038】
「開始剤」という用語は、IUPACに採用された定義に準拠して、その後に連鎖反応を誘発するフリーラジカルまたはいくつかのその他の反応性反応中間体を生じる反応またはプロセスを引き起こすために、反応系に導入される物質を指す。
【0039】
「光開始剤」という用語は、IUPACに採用された定義に準拠して、光励起によって開始されるフリーラジカルまたはイオンの連鎖反応によるモノマーの重合を誘発できる物質を指す。
【0040】
「アクリル」、「ポリアクリル」、「アクリレート」、または「ポリアクリレート」という用語は、規定通りに、少なくとも1つのアクリル部分(I)もしくはメタクリル部分(II)を有するかまたは少なくとも1つのアクリル部分(I)もしくはメタクリル部分(II)を有する生成物に由来する、モノマー、オリゴマー、プレポリマー、およびポリマーを含む生成物を指す。

【0041】
「エポキシアクリレート」および「ポリ(エポキシアクリレート)」という用語は、規定通りに、反応してアクリル官能性を与えるオキシラン環(III)(エポキシド環)を少なくとも1つ有する、モノマー、オリゴマー、プレポリマー、およびポリマーを含む生成物を指す。

【0042】
本発明の態様によると、潤滑性の薬学的物品が提供される。薬学的物品には、該物品に潤滑性を与えかつ従って嚥下を容易にする、ポリマーコーティングで被覆された丸剤または錠剤などの薬学的品目が含まれる。
【0043】
薬学的品目には、合成薬、天然薬剤、処方薬、大衆薬、ジェネリック薬、ブランド薬、ビタミン、ミネラル、栄養補助食品、ホメオパシー薬剤、または植物性薬剤などの、任意の薬物または任意のその他の治療活性を有する物質を含む基質が含まれることができ、ここで該基質は丸剤または錠剤として成形されている。図1〜4を参照すると、薬学的物品には、治療活性を有する物質で形成された基質1、および、該基質1上に配置された潤滑性コーティング2の層が含まれる。該品目の断面図を、図1〜4に示す。非制限的な様式での例示目的のみで、使用可能な薬学的物品の形状は、球形(図1)、楕円形(図2)、直方体または円盤(図3)、およびレンズ形(図4)を含む。
【0044】
薬学的品目の形状には制限が無く、薬学的品目を形成することができるさらなる形状には、扁球形、長球形、円柱形(直円柱形を含む)、円盤形、凸形(平凸形を含む)、角錐形(角錐台を含む)、円錐形(裁頭円錐形(frustoconical)を含む)、およびオジー形も含まれる。当業者は、必要な形状を決定することができ、かつ、任意の望ましい様式で薬学的品目を成形する方法を考案することができる。薬学的物品、言い換えると未被覆の薬学的物品を製造するために、当業者は、製薬業界で採用されている公知の製造技術および装置を使用することができる。
【0045】
本発明の態様によると、薬学的品目を覆うポリマーコーティングを形成するために、まず液状ポリマー含有組成物を調製する。本組成物は、少なくとも2つの構成成分および水などの溶媒を含むことができる。第一の構成成分には、少なくとも1つの生物学的に適合可能な親水性ポリマーが含まれる。第二の構成成分には、架橋ポリマーを形成することができる少なくとも1つの架橋可能なモノマーまたは架橋可能なオリゴマーが含まれる。本出願においては、第一の構成成分および第二の構成成分の両方について詳細に後述する。
【0046】
所望の様式で成形された薬学的品目の外側表面上に、次にポリマーコーティングを形成することができる。コーティングを塗布する方法の1つは、液体溶媒または水を基剤としたポリマー含有組成物の、薬学的品目上への噴霧であり得る。タブレットパンスプレイヤー(tablet pan sprayer)またはその他の一般に使用される装置を用いることができる。あるいは、例えばスピンコーティングまたは蒸着法などのその他のコーティング法を用いることができる。当業者は、コーティング中のポリマーの性質および最終的なポリマーコーティングの望ましい厚さを考慮して、適切なコーティング法を選択することができる。
【0047】
薬学的品目上に付着した液状ポリマー含有組成物を、その後、最終的な乾燥コーティングを形成させるために処理することができる。処理工程には、乾燥工程(すなわち、液状ポリマー含有組成物からの溶媒または水の除去)、および、架橋可能なモノマーまたは架橋可能なオリゴマーの重合工程が含まれる。当業者は、架橋可能なモノマーまたは架橋可能なオリゴマーの重合のために使用されるべき適切な方法を選択することができる。使用できる典型的な重合法の一つは、紫外線により開始される重合である。処理工程の結果として、乾燥した潤滑性コーティングを薬学的品目上に形成して本発明の薬学的物品を提供することができる。最終的な乾燥コーティングの厚さは、約2.5μm(0.1ミル)〜約25μm(1ミル)であってよく、例えば約5μm(0.2ミル)〜約12.5μm(0.5ミル)である。
【0048】
上述したように、第一のポリマー構成成分には、少なくとも1つの生物学的に適合可能な親水性ポリマーが含まれる。特定の理論に縛られるわけではないが、コーティング中の親水性ポリマーの存在は、加湿される能力をコーティングに与えることによって潤滑性コーティングの形成を促進できる1つの要素であり得ることが、提起されている。
【0049】
本発明の潤滑性コーティングにおける使用のために特定の親水性ポリマーを選択することができる親水性ポリマーのクラスの一例は、ポリ(アルキレングリコール)およびアルコキシポリ(アルキレングリコール)のクラスである。使用可能なポリ(アルキレングリコール)の1つはポリ(エチレングリコール)(PEG)であり、これは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)としても公知であり、一般構造H-[O-CH2-CH2]n-OH(式中、nは3以上の整数である)を有する。使用可能なPEOの重量平均分子量は約50,000〜1,500,000ダルトン、例えば約100,000〜1,000,000ダルトン、例えば約900,000ダルトンである。
【0050】
使用可能な別のポリ(アルキレングリコール)の例は、ポリ(プロピレングリコール)(PPG)である。単独でもPEGおよび/またはPPGとの任意の組み合わせでも使用可能であり、適切かつ生物学的に適合可能な親水性ポリマーのその他のクラスの非限定的な例には、ポリマーアルコール、例えば、ポリ(ビニルアルコール)およびポリ(N-ビニルラクタム)、例えばポリ(ビニルピロリドン)が含まれる。
【0051】
当業者は、本発明の潤滑性コーティングにおいて使用するためのさらに別の親水性ポリマーを選択することを望んでもよい。その選択を行う際、当業者は、本発明の目的に関してポリマーが後述の親水性要件を満たす場合に親水性と見なされるという事実を認識することによって導かれうる。
【0052】
ポリマーの親水性は、その極性と密接に関連する。実際、極性物質とは、0デバイを上回る双極子モーメントμを有する物質である。一般に、極性物質は、水などのその他の極性物質において良好に溶解する。したがって、極性物質は「親水性」として大別することができる。
【0053】
ポリマーの親水性を規定する一つの方法とは、等式1に示した、ポリマーのヒルデブランド溶解度パラメータδによるものである(“Polymer Handbook,” 2nd Edition, Brandrup J. and. E H Immergut, ed., Wiley-Interscience, John Wiley & Sons, N.Y. (1975)を参照されたい):
δ=(ΔE/V)1/2 (1)
式中、δはポリマーの溶解度パラメータ((cal/cm3)1/2)であり、ΔEは該ポリマーの蒸発の理論的エネルギー(カロリー)であり、Vは該ポリマーのモル体積(cm3)である。
【0054】
ポリマーは通常、分解せずに蒸発することができないので、溶解度パラメータは間接的に測定する。簡潔には、熱または体積が変化することなくポリマーが溶解する溶媒を同定する。次に、ポリマーの溶解度パラメータを、同定された溶媒の溶解度パラメータと同一であると定義する。
【0055】
一般に、溶解度パラメータδの値はポリマーの親水性の程度と比例する。非常に高い親水性を有するポリマーは、高い溶解度パラメータ値を有しうる。本発明の潤滑性コーティングにおいて使用するために十分な親水性を有するポリマーは、約8.5 (cal/cm3)1/2を上回る、例えば約10 (cal/cm3)1/2を上回る、例えば約11.5 (cal/cm3)1/2を上回る溶解度パラメータを有しうる。
【0056】
表1は、様々なポリマーの溶解度パラメータを示す。データは、ポリマーの物理化学についての一般的な文献から入手可能であり、当業者は、一般的に入手可能な技術文献において様々なポリマーの溶解度パラメータの値に関する情報を見出すことができる。
【0057】
(表1)選択された親水性ポリマーのヒルデブランド溶解度パラメータ

【0058】
したがって、上述のポリ(アルキレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、およびポリ(N-ビニルラクタム)に加えて、当業者は、代替的な親水性ポリマーを(そのような代替的ポリマーが生物学的に適合可能でありかつ上述の範囲内のヒルデブランド溶解度パラメータを有する限り)少なくとも1つ選択することができる。代替的ポリマーを選択することができるポリマー類の非限定的な例には、以下が含まれる:メチルビニルエーテルとマレイン酸のコポリマー、無水マレイン酸ポリマーおよびコポリマー、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ヒドロキシル置換低級アルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレートのポリマー、例えばポリ(2-ヒドロキシアルキルアクリレート)またはポリ(2-ヒドロキシアルキルメタクリレート)、ポリアミド、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(ビニルスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)、ポリ(ウレタン)、ポリ(エチレンイミン)、ポリウレタン-ポリエーテルポリマー、例えばウレタン-ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルスルホン酸)、ヘパリン、デキストラン、デキストラン硫酸、および修飾デキストラン、ポリ(サッカリド)、コンドロイチン硫酸、レシチン、ならびにこれらのコポリマーおよび混合物。
【0059】
上述のように、コーティング組成物の第二の構成成分には、少なくとも1つの架橋可能なモノマーまたは架橋可能なオリゴマーが含まれる。特定の理論に縛られるわけではないが、コーティング組成物中に架橋可能なモノマーまたは架橋可能なオリゴマーが存在することによって、上述の親水性ポリマーを含むことができる相互貫入ポリマーネットワークの形成が導かれ得ることが、提起されている。相互貫入ネットワークは、被覆されている薬学的基質の表面上での親水性ポリマーの捕捉を助けることができ、かつ従って、潤滑性コーティングの形成を促進する1つの要素であり得る。
【0060】
適切な架橋可能なモノマーまたは架橋可能なオリゴマーの例には、アクリレート、メタクリレート、エポキシアクリレート、およびイソシアネートの生成物が含まれる。当業者は、適切な架橋可能なモノマーまたは架橋可能なオリゴマーを選択し、そのようなモノマーまたはオリゴマーの重合のプロセスを実施するであろう。本発明の目的に関して、適切なモノマーまたはオリゴマーとは、水に完全に溶解するモノマーまたはオリゴマーである。あるいは、一部の態様において、エタノールまたはイソプロパノールなどの低級アルコールと水との混合液に溶解するモノマーまたはオリゴマーを用いることもできる。
【0061】
例えば、架橋したポリ(アクリレート)またはポリ(メタクリレート)を得るために、それぞれ少なくとも2つのアクリレート基またはメタクリレート基を有するアルコキシル化アクリレートまたはアルコキシル化メタクリレートなどの重合可能なモノマーまたはオリゴマーなどのポリマー、例えば3つ以上のアクリレート基またはメタクリレート基を有するものを使用することができる。アルコキシル化アクリレートまたはアルコキシル化メタクリレートにおけるアルコキシル化の程度は、約1〜20モル、例えば約2〜20モル、例えば約3〜約20でありうる。
【0062】
当業者は、約2〜18モルのアルコキシル化、例えば約3〜15モルのアルコキシル化を有するアルコキシル化アクリレートまたはアルコキシル化メタクリレートを使用するのが望ましいことを見出し得る。適切なアルコキシレート基の例には、プロポキシレートおよびエトキシレートの両方ならびにこれらの混合物が含まれる。
【0063】
適切な二官能性、三官能性、四官能性などの多官能性のアルコキシル化またはポリアルコキシル化されたモノマーまたはオリゴマーのアクリレートの例には、アルコキシル化された、望ましくはエトキシル化されたかプロポキシル化された、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ブタンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリルトリアクリレート、およびこれらの混合物が含まれる。
【0064】
一態様において、アルコキシル化トリメチロールプロパントリアクリレートモノマーまたはオリゴマー、例えばエトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレートを利用することができる。そのような化合物は、Sartomer Company, Inc.(Exton, Pennsylvania)より入手可能である。そのような化合物の一例は、約15モルのエトキシル化および956ダルトンの分子量を有するSR9035である。そのような化合物の別の例は、約3モルのエトキシル化、454ダルトンの分子量、および15質量%の水溶性を有する、SR454である。そのような化合物の別の例は、約6モルのエトキシル化および560ダルトンの分子量を有するSR499である。そのような化合物のさらに別の例は、約9モルのエトキシル化および693ダルトンの分子量を有するSR502である。
【0065】
適切な重合可能なアルコキシル化されたアクリレートおよびメタクリレートのモノマーまたはオリゴマーのその他の例には、これらに限定されるわけではないが、プロポキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシル化トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシル化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシル化ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、プロポキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロポキシル化グリセリルトリアクリレート、プロポキシル化グリセリルトリメタクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレート、およびメチルエーテルジアクリレートが含まれる。
【0066】
重合可能なモノマーは、典型的に、紫外線照射、電子ビーム(e-beam)照射、またはレーザービーム照射などの照射への曝露によって重合する。当業者は、使用する光源または開始剤に応じて、曝露時間および放射線の強度を決定することができる。フリーラジカルメカニズムによって、多くのエトキシル化アクリレート化合物およびエトキシル化メタクリレート化合物を重合させることができる。これらはまた、酸素に対する高い感受性を有することができ、かつ、その存在下で安定なラジカルを形成できる。したがって、不活性ガスパージを用いることが有益であり得る。
【0067】
上述の重合および架橋のプロセスは、少量の光開始剤の添加によって促進されうる。フリーラジカル重合における使用に適した任意の光開始剤を使用することができる。例えば、当業者は、ベンゾフェノン、アクリル化アミン相乗剤、ベンゾインおよびその誘導体を含むケトン型すなわち芳香族-脂肪族ケトン誘導体、ベンジルケタル、ならびにα-アミノケトンなどの適切な光開始剤から選択することができる。
【0068】
使用可能な特定の光開始剤のいくつかの例には、これらに限定されるわけではないが、2-フェニル-1-インダノン、Ciba Specialty Chemicalsより入手可能なIRGACURE 184、Mayzo Co.より入手可能なBENACURE184、およびSartomer Co.より入手可能なSARCURE SR1122などの、1-ヒドロキシルシクロヘキシルフェニルケトン、BENACURE BPなどのベンゾフェノン;ベンジルジメチルケタルまたは、BENACURE 651およびIRGACURE 651などの2,2' ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、BENACURE 1173などの2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン、IRGACURE 907などの2-メチル 1-[4-メチルチオ)フェニル]2-モルホリノプロパン-1-オン、およびIRGACURE 369などのモルホリノケトン、ならびにこれらの混合物が含まれる。
【0069】
使用可能なエポキシアクリレートの例には、Scytec Co.より入手可能なEBICRYL 3200、EBICRYL 3700、EBICRYL 3701などの市販の製品、CN104(二官能性ビスフェノールAベースのエポキシアクリレート)などのSartomer製品、ならびに類似のエポキシアクリレートCN UVE 151、CN 2102E、およびCN 120J90が含まれる。
【0070】
様々に混合された市販の光開始剤も、利用可能である。市販の混合物の例には、これらに限定されるわけではないが、SARCURE SR1136などの4-メチルベンゾフェノンとベンゾフェノンの混合物、SARCURE SR1137などのトリメチルベンゾフェノンとメチルベンゾフェノンの混合物、および、BENACURE 500などの1-ヒドロキシルシクロヘキシルフェニルケトンとベンゾフェノンの混合物が含まれる。
【0071】
本発明の潤滑性コーティングを形成するために使用される上述の構成成分に加えて、コーティング組成物は、コーティング業界で一般に使用される様々な添加剤および加工助剤を任意で含むこともできる。例えば、接着促進剤(Dow Chemicals Co.より入手可能なSilane 6020など)または流動助剤(flow aid)(Surface Specialties Co.より入手可能なModaflow 3000など)を使用することができる。
【0072】
上述のように製造された薬学的物品を、任意の種類の薬学的基質と共に使用することができる。嚥下が困難なヒト(例えば顕著な咽頭反射を有するヒト)に、小児、青年、乳児、または老齢患者に、本薬学的物品を投与することができる。本薬学的物品は動物に投与することもできる。一態様において、本発明の薬学的物品は、水を必要としない(waterless)投与に適している。
【0073】
以下の実施例は、本発明の利点および特徴をさらに説明するために提供されるが、本発明の範囲の制限を意図するものではない。
【0074】
実施例1. 丸剤をコーティングするためのポリ(エチレンオキシド)を基剤とした製剤の調製
以下の構成成分を一緒に混合することによって、コーティング組成物を調製した:
(a) 約900,000ダルトンの重量平均分子量を有する、約2.00質量%のポリ(エチレンオキシド);
(b) 約15モルのエトキシル化および956ダルトンの分子量を有する、Sartomer Co.より入手した約0.8質量%のアクリル化合物SR9035;
(c) Surface Specialties Co.より入手した、約0.05質量%の流動助剤Modaflow 3000;
(d) Dow Chemical Co.より入手した、約0.025質量%の接着促進剤Silane 6020;
(e) Ciba Specialty Chemicalsより入手した、約0.0015質量%の光開始剤2-メチル 1-[4-メチルチオ)フェニル]2-モルホリノプロパン-1(IRGACURE 907);ならびに
(f) 平衡な、(逆浸透法により)脱イオン化された水。
【0075】
次に本組成物を丸剤または錠剤に塗布し、乾燥させ、UV硬化させて、潤滑性コーティングを形成することができる。その後、丸剤および錠剤を、それを必要とするヒトまたは動物に投与することができる。
【0076】
実施例2. 丸剤をコーティングするための、エポキシアクリレートを含有するポリ(エチレンオキシド)を基剤とした製剤の調製
以下の構成成分を一緒に混合することによって、コーティング組成物を調製した:
(a) 約20.0質量%の(逆浸透法により)脱イオン化された水;
(b) 約900,000ダルトンの重量平均分子量を有する、約2.40質量%のポリ(エチレンオキシド);
(c) 上述のSartomer製品である、約0.8質量%のエポキシアクリル化合物CN104;
(d) Thermedics Inc.(Woburn, Massachusetts)より入手できる、約0.12質量%のポリエーテル-ポリウレタン化合物TECOGEL 2000;
(e) Monsanto Co.より入手した約0.1質量%のメラミン-ホルムアルデヒド化合物RESIMINE 797;
(f) 約0.05質量%の上述のModaflow 3000;
(g) 約0.025質量%の上述のSilane 6020;
(h) 約0.0015質量%の上述の光開始剤IRGACURE 907;および
(i) 平衡イソプロパノール。
【0077】
次に本組成物を丸剤または錠剤に塗布し、乾燥させ、UV硬化させて、潤滑性コーティングを形成することができる。その後、丸剤および錠剤を、それを必要とするヒトまたは動物に投与することができる。
【0078】
実施例3. 丸剤をコーティングするための、エポキシアクリレートおよびイソシアネートを含有するポリ(エチレンオキシド)を基剤とした製剤の調製
以下の構成成分を一緒に混合することによって、コーティング組成物を調製した:
(a) 約20.0質量%の(逆浸透法により)脱イオン化された水;
(b) 約900,000ダルトンの重量平均分子量を有する、約2.40質量%のポリ(エチレンオキシド);
(c) 約0.8質量%の上述のエポキシアクリル化合物SR-CN104;
(d) 約0.15%のヘキサメチレンジイソシアネート;
(d) 約0.12質量%の上述のポリエーテル-ポリウレタン化合物TECOGEL 2000;
(e) 約0.1質量%の上述のメラミン-ホルムアルデヒド化合物RESIMINE 797;
(f) 約0.05質量%の上述のModaflow 3000;
(g) 約0.025質量%の上述のSilane 6020;
(h) 約0.0015質量%の上述の光開始剤IRGACURE 907;および
(i) 平衡イソプロパノール。
【0079】
次に本組成物を丸剤または錠剤に塗布し、乾燥させ、UV硬化させて、潤滑性コーティングを形成することができる。その後、丸剤および錠剤を、それを必要とするヒトまたは動物に投与することができる。
【0080】
上述の実施例を参照して本発明を説明したが、修正および改変が本発明の趣旨および範囲内に包含されることが理解されよう。したがって、本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の一態様による潤滑性コーティングで被覆された薬学的物品の断面図を模式的に示す。
【図2】本発明の別の態様による潤滑性コーティングで被覆された薬学的物品の断面図を模式的に示す。
【図3】本発明のさらに別の態様による潤滑性コーティングで被覆された薬学的物品の断面図を模式的に示す。
【図4】本発明の別の態様による潤滑性コーティングで被覆された薬学的物品の断面図を模式的に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 治療活性を有する作用物質からなる基質;および
(b) 該基質上に付着した潤滑性コーティング
を含む、哺乳動物被験体による嚥下に適合化された薬学的物品であって、
該コーティングが、親水性ポリマーおよび架橋ポリマーを含むポリマー組成物で形成されており、かつ、
該コーティングの潤滑性が、標準的な丸剤コーティングの潤滑性よりも2〜10倍高い、
薬学的物品。
【請求項2】
親水性ポリマーが約8.5 (cal/cm3)1/2を上回る溶解度パラメータを有する、請求項1記載の薬学的物品。
【請求項3】
親水性ポリマーが約10 (cal/cm3)1/2を上回る溶解度パラメータを有する、請求項2記載の薬学的物品。
【請求項4】
親水性ポリマーが約11.5 (cal/cm3)1/2を上回る溶解度パラメータを有する、請求項2記載の薬学的物品。
【請求項5】
親水性ポリマーが、ポリ(アルキレングリコール)、アルコキシポリ(アルキレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ウレタン-ポリ(エチレンオキシド)、およびポリ(N-ビニルラクタム)からなる群より選択される、請求項1記載の薬学的物品。
【請求項6】
親水性ポリマーが、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレングリコール)、およびポリ(ビニルピロリドン)からなる群より選択される、請求項5記載の薬学的物品。
【請求項7】
親水性ポリマーがポリ(エチレンオキシド)である、請求項5記載の薬学的物品。
【請求項8】
架橋ポリマーが、アクリレート、メタクリレート、エポキシアクリレート、およびイソシアネートからなる群より選択されるモノマーの重合により形成されている、請求項1記載の薬学的物品。
【請求項9】
アクリレートが、少なくとも2つのアクリレート基を有するモノマーからなる群より選択される、請求項8記載の薬学的物品。
【請求項10】
アクリレートが、少なくとも3つのアクリレート基を有するモノマーからなる群より選択される、請求項8記載の薬学的物品。
【請求項11】
メタクリレートが、少なくとも2つのメタクリレート基を有するモノマーからなる群より選択される、請求項8記載の薬学的物品。
【請求項12】
メタクリレートが、少なくとも3つのメタクリレート基を有するモノマーからなる群より選択される、請求項8記載の薬学的物品。
【請求項13】
哺乳動物被験体がヒトである、請求項1記載の薬学的物品。
【請求項14】
ヒトが、青年、小児、および乳児からなる群より選択される、請求項13記載の薬学的物品。
【請求項15】
ヒトが老齢患者である、請求項13記載の薬学的物品。
【請求項16】
ヒトが咽頭反射を患っている、請求項13記載の薬学的物品。
【請求項17】
哺乳動物被験体が動物である、請求項1記載の薬学的物品。
【請求項18】
水を使用することなく投与が達成される、請求項1記載の薬学的物品。
【請求項19】
丸剤および錠剤からなる群より選択される、請求項1記載の薬学的物品。
【請求項20】
丸剤が、球形、楕円形、扁球形(oblate spherical)、長球形(prolate spherical)、角錐形、円錐形、およびオジー形からなる群より選択される形状を有する、請求項19記載の薬学的物品。
【請求項21】
錠剤が、直円柱形、円盤形、平凸形、レンズ形、立方体、および直方体からなる群より選択される形状を有する、請求項19記載の薬学的物品。
【請求項22】
合成薬、天然薬剤、処方薬、大衆薬、ジェネリック薬、ブランド薬、ビタミン、ミネラル、栄養補助食品、ホメオパシー薬剤、または植物性薬剤(herbal remedy)からなる群より選択される、請求項1記載の薬学的物品。
【請求項23】
包装部材と包装部材内部に含まれる請求項1記載の薬学的物品とを含むキットであって、包装部材が、嚥下のために薬学的物品を使用できることを示すラベルを含む、キット。
【請求項24】
基質を形成する工程、および、基質の外側表面上にポリマー含有組成物を付着させ、それによって潤滑性コーティングを形成する工程を含む、請求項1記載の薬学的物品を製造するための方法。
【請求項25】
潤滑性コーティングを乾燥させる工程をさらに含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
潤滑性コーティングを紫外線照射に曝露することによって潤滑性コーティングを硬化させる工程をさらに含む、請求項25記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−532488(P2009−532488A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−504333(P2009−504333)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【国際出願番号】PCT/US2007/008658
【国際公開番号】WO2007/117648
【国際公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(508297584)メド‐イーズ インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】