説明

薬液供給装置

【課題】 適正な量の薬液を確実に供給することができる薬液供給装置を提供する
【解決手段】 断続的に流れる液体への薬液供給装置であって、薬液容器1を支持する支持体2と、薬液を前記液体と接触する位置へ案内する案内部材5と、案内部材5に薬液を供給する供給部4と、温度変動に応じて薬液を緩衝室で保持及び放出する調整機構とを備え、供給部4は、上端部が薬液容器1に結合可能とされ、下端部が薬液の導出路421aとされ、該導出路は下端開口縁が少なくとも1箇所に角部を有する形状とされている薬液供給装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断続的に流下する液体により薬液を排出させる薬液供給装置に関し、例えば、水洗トイレにおける貯水タンク上面の手洗い部に設置される薬液供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の薬液供給装置としては、例えば、水洗トイレにおける貯水タンク上部の手洗い部に配置され、放水タップから手洗い部に供給される水とともに貯水タンク内に薬液を供給するものが提案されている(特許文献1)。この薬液供給装置は図17〜23に示すように、薬液容器1を支持する支持体2を備え、該支持体に装着された薬液の案内部材5が貯水タンクに流入する水と接触するように、手洗い部Aに置かれる。薬液は、上下方向に延びた供給管4を通じて、薬液容器1から案内部材5に供給される。支持体2には、さらに調整機構が設けられている。この調整機構は、流水への接触等により薬液容器1の温度が変動したときに、薬液容器1から案内部材5への薬液の余分な流出やその逆流が生じるのを防止するものであり、支持体2に支持された緩衝室6と、該緩衝室の上部に設けられた空気流通孔343と、該緩衝室に連通するように供給管4の下部に設けられた緩衝孔42とを備えている。
【0003】
この薬液供給装置は、次のように作用する。すなわち、温度が上昇し、薬液容器1内の圧力が上昇した場合には、薬液容器内の芳香洗浄剤は、緩衝孔42から流れ出し緩衝室内に流入する。一方、温度が低下し、薬液容器1内の圧力が低下すると、緩衝室6内の芳香洗浄剤が緩衝孔42を介して薬液容器内へ引き戻される。このような構成により、温度変化の繰り返しがあっても芳香洗浄剤が無駄に流出するのを防止することができる。特に、薬液容器の温度変化は、室温の変化と手洗い部への流水の接触との双方で生じるので、これによる薬液の無駄な流出を防止することは、薬液の長期使用を可能にする上で重要である。
【特許文献1】特開2004−300861公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、上記薬液供給装置は、緩衝室6の設置により、薬液の余分な流出が防止され、その結果、薬液容器1から案内部材5へ薬液を正確な量で導出することが可能となり、長期使用が実現される。一方、この正確な導出量を実現する前提として、製造の高精度化が要求される。特に、薬液の供給経路の製造誤差は導出量に影響し、その誤差によって流量が過少又は過多となることがある。上記薬液供給装置は、案内部材5に薬液を微量ずつ導出するため供給管4の下端にはごく小さい径の開口410’が設けられている。特に、供給管4の下端開口410’の形状が、円形の場合には、薬液の排出が円滑に行なわれず、案内部材5への供給不足になる場合があることが見いだされた。これは、供給管4の下端開口410’の周縁が滑らかな曲線を描く結果、排出される薬液の表面張力が開口縁全体に均一状に作用すること等により、排出抵抗が増すからであると考えられる。
【0005】
本発明は、このような従来技術の問題を解決し、適正な量の薬液を正確かつ確実に供給することができる薬液供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記目的を達成するため、断続的に流れる液体に薬液容器内の薬液を供給するための薬液供給装置であって、
薬液容器を支持する支持体と、
薬液容器より下方で該支持体に支持され、薬液容器からの薬液を、断続的に流れる液体と接触する位置へ案内する案内部材と、
薬液容器から前記案内部材に薬液を供給し得るように上下方向に延びた供給部と、
薬液容器の温度変動により薬液容器から前記案内部材へ薬液が流出するのを防止する調整機構とを備え、
該調整機構は、前記支持体に支持された緩衝室と、該緩衝室の上部に設けられた空気流通孔と、該緩衝室に連通するように前記供給部の下部に設けられた緩衝孔とを備え、
前記供給部は、上端部が薬液容器の口部に結合可能とされ、上下方向に延びる薬液通路を形成しており、該薬液通路の下端部は薬液の緩徐排出を行なうための細孔による導出路とされ、該導出路は下端開口縁が前記案内部材に当接または近接し少なくとも1箇所に角部を有する形状とされていることを特徴とする薬液供給装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、以下の効果を奏する薬液供給装置を提供することができる。すなわち、この薬液供給装置は、薬液容器を支持する支持体と、薬液容器より下方で該支持体に支持され、薬液容器からの薬液を、断続的に流れる液体と接触する位置へ案内する案内部材と、薬液容器から前記案内部材に薬液を供給し得るように上下方向に延びた供給部と、薬液容器の温度変動により薬液容器から前記案内部材へ薬液が流出するのを防止する調整機構とを備えている。そして、該調整機構は、前記支持体に支持された緩衝室と、該緩衝室の上部に設けられた空気流通孔と、該緩衝室に連通するように前記供給部の下部に設けられた緩衝孔とを備えている。また、前記供給部は、上端部が薬液容器の口部に結合可能とされ、上下方向に延びる薬液通路を形成しており、該薬液通路の下端部は薬液の緩徐排出を行なうための細孔による導出路とされ、該導出路は下端開口縁が前記案内部材に当接または近接し少なくとも1箇所に角部を有する形状とされている。
【0008】
したがって、通常時は、供給部の薬液通路下端部に形成された細孔による導出路から薬液が案内部材に供給され、薬液容器の温度が上昇し容器内の圧力が上昇したときには、緩衝孔から薬液が流出して緩衝室に流入し、導出路からの過剰な薬液の流出を防止する。また、薬液容器の温度が低下して容器内の圧力が低下したときには、緩衝室に一時的に貯えられた薬液が緩衝孔を通って薬液容器に戻される。特に、通常時に薬液を供給するのは、細孔による導出路であるので、薬液の排出を緩徐的にする。また、この導出路の下端開口縁は、少なくとも1箇所に角部を有する形状とされているので、該開口縁の他の部分が滑らかな曲線形状となっていても、該角部で滑らかな形状が断たれる。こうして下端開口縁の滑らかな曲線形状が一部が遮断されることにより、薬液の表面張力は該遮断部分で不連続となり均一状の分散が破られる等で、排出抵抗の低下が生じ、その結果、薬液は供給部から円滑に導出される。したがって、緩衝作用のための緩衝孔からの流出入とあいまって、導出路からの通常時の流出を安定的に且つ適正な量に保つことができ、薬液の正確な排出を確実に行なうことが可能となる。
【0009】
前記供給部の導出路は、該薬液通路下端部を閉じる閉鎖部に設けられた貫通孔によって形成することができ、簡単な構造で前述の効果を確実に得ることができる。
【0010】
また、前記供給部は、前記支持体の底壁から上下方向へ延びる嵌合突部と、前記薬液通路の下端部に位置し前記嵌合突部の外側に嵌合する細管部とを備え、前記導出路は、前記嵌合突部の外壁面に設けられた縦溝と前記細管部の内壁面とにより形成され、該導出路の下端開口縁は前記案内部材に当接または近接したものとすることができる。
【0011】
導出路の開口は流出量を小さくするために極めて細くされる必要がある。プラスチックを原料とした通常のモールド成形では、そのような細い貫通孔に対応した針のように細い型部分を用いることになり、折れや曲がりを生じないよう慎重な製造作業が要求される。これに対し、前述のように、前記嵌合突部の外壁面に設けられた縦溝と前記細管部の内壁面とにより形成した場合は、製造のためのモールド成形型は、i)一方の型に、嵌合突部に対応した凹部、及び、縦溝に対応して該凹部に設けられた縦状の突起を設け、ii)他方の型に細管部に対応する環状凹所を設ければよい。その結果、針状部分を製造型からなくすことができ、製造が容易且つ安定になる。
【0012】
また、前記案内部材は、薬液保持のための面状部分を備え、前記供給部の下端部と当接または近接する薬液受け部は、薬液非浸透性材料によりに構成され、前記供給部から導出される薬液を前記面状部分に薬液を導く細溝が形成されているものとすることができる。このように、案内部材の薬液受け部を薬液非浸透性材料によりに構成することにより、供給部から供給される薬液が、浸透作用の下に不要に薬液受け部に流れ続けるのが抑制され、薬液の正確の排出をより確実に行なうことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る薬液供給装置の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。図面に示す実施形態中、同一又は同種の部材には同一の番号を付して説明を省略することがある。
【0014】
図1は、水洗トイレにおける貯水タンク上部の手洗い部に配置される薬液供給装置の正面図(a)及び側面図(b)であり、図2は薬液供給装置の分解図である。
【0015】
図1及び図2に示すように、この薬液供給装置は、芳香洗浄剤等の薬液を収容する薬液容器1と、この薬液容器1を支持するカップ状の支持体2と、支持体2内に取り付けられ薬液容器1に接続されるカバー部材3と、薬液容器より下方で支持体2に支持され、薬液容器からの薬液を、断続的に流れる液体と接触する位置へ案内する案内部材5とを備えている。
【0016】
この薬液供給装置は、支持体2の脚部が手洗い部の排出口Bに挿入されるようにして、貯水タンク上部の手洗い部Aに設置される。
【0017】
図3は薬液容器1の縦断正面図である。薬液容器1は、図示のように、隣接する1対の薬液収納部11を備え、各薬液収納部11の下端には、薬液排出のための口部12が形成されている。薬液収納部11は、一部又は全体が透明又は半透明の材料で構成され、外部から芳香洗浄剤などの薬液の残量が確認できるようになっている。口部12は、製造後の流通及び保管時には図外のキャップで閉じられ、使用時に開封される。
【0018】
図4はカバー部材3の平面図(a)及び正面断面図(b)である。図4に示すように、カバー部材3は、1対の円筒状部分31が板状の結合部32で結合されて平面視瓢箪形をなしている。円筒状部分31の各々は、側壁33と上壁を備えており、上壁を供給部4が貫き、下端は開放されている。該円筒状部分31の上壁は、供給部4を囲む下段壁311と、1対の円筒状部分31の外側において下段壁311より高い位置にあり、平面視三日月状をなす上段壁312とからなり、上段壁312には空気流通孔313が複数個(この例では4個)設けられている。
【0019】
供給部4は、カバー部材3の一部として一体的に形成され下段壁311を貫いて延びる管状部41と、支持体2と一体的に形成され支持体の底壁から上方へ延びる嵌合突部42(後述)とを備え、薬液を薬液容器1から案内部材5に通す薬液通路を形成している。この円筒状部分31が、後述する上部部材を構成している(以下、上部部材も31で示す)。
【0020】
管状部41は、下段壁311を貫いて延び上端が薬液容器1の口部11に接続される接続部411と、該接続部411の下端に連続する小径の細管部412とを備えている。接続部411の下端には、細管部412の上端を囲む仕切壁413が設けられ、該仕切壁413には、緩衝孔414が複数(この例では3個)形成されている。
【0021】
図5は、支持体2の平面図(a)及び正面断面図(b)であり、図6は、支持体とカバー部材3とを分解して示す斜視図(a)、及びこれらを合体した状態で示す正面断面図(b)である。支持体2は、図5に示すように、底壁21と、側壁22とを備えている。底壁21上には、カバー部材3の側壁33外面に嵌合する瓢箪形の起立壁23が形成されている。起立壁23にカバー部材3を嵌め込むことにより、1対の円筒状部分31と支持体2底壁21との間に緩衝室6が形成される(図6(b)参照)。このように、外側壁23と該外側壁に囲まれた底部壁21の部分とは、緩衝室6を形成する下部部材20を構成している。なお、下部部材は上記のように支持体2と一体的に設けてもよいし、別個に形成して支持体2に接着、ねじ止め等により結合して設けるようにしてもよい。
底壁21と側壁22には、貯水タンク放水タップからの水が支持体2内部へ流入したときにその水を外部へ排出するための開口24が起立壁23の外側の位置に複数形成されている。この開口24は、排出に必要な大きさと個数(1個または複数個)とされる。
【0022】
図7は、図6に示したカバー部材3の細管部412及び支持体2の嵌合突部42の嵌合について詳細に示す図であり、図6における右側の細管部412及び嵌合突部42を中心に示している。図7(a)は嵌合前の状態を示す斜視図、図7(b)は嵌合後の状態を示す縦断面図である。
【0023】
図7に示すように、支持体の底壁21から上方へ延びる嵌合突部42は、細管部412下端の内側面に嵌合する径とされている。また、嵌合突部42の外側面には、上端から下端まで延びる縦溝421が形成されており、該縦溝421は、細管部412の内壁面との間に導出路421aを形成する。縦溝421の断面形状は、図8に示すように、この例の半円形(a)の他、三角形(b)、四角形(c)などの角形など、種々の断面形状とすることができる。その断面寸法は、毛管作用により薬液を導出路421aに沿って導出し得る程度とするのが望ましい。さらに、この例では、細管部412との嵌合状態を確実に保持するために、細管部412下端の外側面に嵌合する環状部43が支持体2底面から上方へ延びている。
【0024】
この導出路421aの下方には、導出された薬液を案内する案内部材5が設けられている。案内部材5は、1対の導出路421aを下方から覆う幅を有した板状に形成されており、上端部が各導出路421a下端の開口縁に当接し、下方へ延びている。案内部材5の表裏面の面状部分には、導出路421aから導出される薬液を案内し該面状部分に広げるために案内部材5の上端面及び表裏面(面状部分)に各々厚さ方向及び上下方向に延びる多数の細溝51が形成されている(図1(a)参照には上下方向の細溝を示す)。この溝の幅及び深さは、薬液の粘度及び供給量に応じて決められるが、通常、0.2〜2mm程度とするのが望ましい。
【0025】
また、支持体2の底面には、案内部材5表裏面から間隔をおいて位置する2本の長脚25と、これら長脚25の周囲に配置された4本の短脚26とが下方へ延びるように設けられている。これらの脚25,26のうち、長脚25は手洗い部の排水口Bに挿入可能となっており、各短脚26は長脚25が排水口Bに挿入された状態で、支持体2を手洗い部A上にほぼ水平に支持する。また、案内部材5と長脚との間には、支持体2底面から遮蔽部材27が下方へ延びている。長脚25に対し案内部材5、遮蔽部材27は、これらの順に長さが短くなっており、長脚25は支持体2を排水口に位置決めし、案内部材5は排水口に流下する水に接し、遮蔽部材27は流下する水が導出路421aに達しないように、各々の長さが決められている。
【0026】
この薬液供給装置は、図6(b)に示すように、カバー部材3の側壁33の外側に、支持体2の起立壁23を嵌合して緩衝室6を形成した後、カバー部材3から上方へ延びる接続部411に薬液容器1の口部12を嵌入することにより組み立てられる。
【0027】
上記のように構成された薬液供給装置は、次のように作用する。すなわち、薬液容器1内の薬液は、接続部411内に流入して導出路421aから流出した後、案内部材5の面状部分へと案内される。そして、案内部材5上の薬液は、フラッシュ時に供給される水に洗い流されて貯水タンクの中に流れ込む。
【0028】
上述の緩衝室6、カバー部材3の空気流通孔313、供給部4の緩衝孔414は、調整機構を構成しており、温度変化に対して次のように緩衝作用をする。例えば温度が上昇して薬液容器1が暖められた場合には、容器1内の空気が膨張し容器1内は正圧になる。この場合、薬液容器1内の薬液は押し出されて排出されるが、この薬液は導出路421aの他、緩衝孔414を経て緩衝室6にも流れ込むため、薬液が導出路421aへ過剰に流出するのが防止される。
【0029】
一方、流水で冷やされる等して薬液容器1の温度が低下し、薬液容器1内の空気が収縮して負圧になると、空気流通孔313により大気圧または室内圧が作用している緩衝室6内の薬液は、緩衝孔414を経て薬液容器1内へ吸い込まれる。したがって、案内部材5上の水または薄められた薬液が導出路421aを経て容器1側へ戻されるのを抑制することができる。また、薬液容器1内の負圧によって薬液の排出が制限されるのを、防止することができる。このように、緩衝室6は、温度変化によって薬液容器1内に圧力変化が生じた場合でも、薬液容器1と緩衝室6との間での薬液の流通が生じるため、容器1内の薬液が過剰に流出したり、或いは流出が制限されたりするのを防止することができる。
【0030】
しかも、案内部材5は、供給部4の嵌合突部42の下端に当接する位置から下方へ延びているので、導出路421aから案内部材5へ導出された薬液は、案内部材5に沿って下方へと案内される。したがって、フラッシュ時に流れる水が案内部材5に接触しても、この水が案内部材5を伝って導出路421aまで到達するのを抑制することができ、薬液容器1内に水が混入して薬液が薄められるのを防止することができる。
【0031】
この薬液供給装置においては、通常時に薬液を供給するのは、供給部4の嵌合突部42に設けられた細い縦溝421と、管状部41の細管部412内側面とにより形成される導出路421aである。この導出路421aは、縦溝421自身の下端開口縁が、半円形の滑らかな曲線となっていても、該開口縁が供給部内壁面と接する部分は角部となる。こうして下端開口縁の滑らかな曲線形状が一部遮断されることにより、開口縁に到達した薬液の表面張力は該遮断部分で不連続となり、均一状の分散が破られる等で、排出抵抗の低下が生じ、その結果、薬液は供給部から円滑に導出される。
【0032】
温度変化に対する薬液流出入の緩衝作用を円滑にするために、緩衝孔414は、導出路421aより、流動抵抗が小さくされているのが望ましい。通常時の薬液の導出と、温度変化時の緩衝作用とについては、次のような原理が働くものと考えられる。通常時は、薬液容器1内の薬液は管状部41の導出路421aを経て案内部材5に導かれる。薬液流出による薬液容器1内の負圧は、カバー部材3の空気流通孔313から空気が流入することにより補われる。このとき、薬液は、緩衝孔414よりも導出路421aからほとんど流出する。これは、導出路421aには毛管作用が働き、さらに案内部材5が当接または近接して薬液を該案内部材5へと導くように表面張力やヌレ作用が働くのに対し、緩衝孔414にはこのように隣接する部材がないので薬液導出作用が働かず、薬液の粘性やメニスカス形成、薬液容器内圧力と緩衝室内圧力とのバランス等の保持作用により緩衝室6を経る薬液流が抑制されるからであると考えられる。薬液容器1の温度が上昇し容器内の圧力が上昇したときには、その正圧が緩衝孔414での保持作用を破り、緩衝孔414を薬液が通過して緩衝室6に流入し、また、薬液容器1の温度が低下して容器内の圧力が低下したときには、その負圧により緩衝室6に一時的に貯えられた薬液が緩衝孔414を通って薬液容器に戻されるという原理が働くものと考えられる。
【0033】
導出路421aを形成するための縦溝421は、複数設けることもできる。この場合、導出路の総開口面積(すべての導出路の開口面積の和)は、薬液の排出量を適切にし、過剰な排出または排出量不足を防止するように調整される。また、温度変化に対する緩衝作用を円滑にするために、緩衝孔の流動抵抗は、導出路の流動抵抗より小さいことが好ましい。
【0034】
このようにして、緩衝作用のための緩衝孔からの流出入と、導出路からの通常時の流出とを安定的に且つ適正な量に保つことができ、薬液の正確な排出を確実に行なうことが可能となる。このためには、薬液として芳香消臭剤を使用する場合は、通常の薬液粘度(120〜800mPa・s)に対して、導出路は 例えば、半径0.2mm〜0.3mmの扇形(中心角45度程度)、緩衝孔は半径0.6mm〜0.9mmの円形(1〜5個程度)の大きさとするのが望ましい。
【0035】
前述のように、この導出路421aは、嵌合突部42の外側面に設けられた縦溝と、細管部412の内側面とにより形成される。したがって、製造のためのモールド成形型は、上下型などの一方の型に、嵌合突部に対応した凹部と、縦溝421に対応する縦状の突起とを設け、他方の型に、細管部412に対応する環状凹所を設ければよい。したがって、細い導出路に対応した細長い針状部分などを製造型に設ける必要がなく、損傷を生じ難い型による安定した製造が可能となる。
【0036】
案内部材5は、下端部が手洗い部の排水口に挿入されるので、排出された薬液は、案内部材5に沿って排水口内に案内される。手洗い部の排水口には、手洗い部の形態に関わらず、放水タップからの流水が流れ込むため、案内部材5上の薬液は流水によって確実に洗い流される。したがって、本実施形態に係る薬液供給装置は、例えば放水タップの位置、手洗い部の形態に依存することなく、種々のトイレで使用することができる。また、案内部材5上の薬液は、流水に洗い流されることにより、直接排水口に流入するため、例えば薬液に色素などの成分が含まれている場合であっても、この色素によって手洗い部が汚されるのを防止することができる。
【0037】
図10は、本発明を図17〜図21に示した薬液供給装置に適用した例を示している。図17〜図21に示した装置と異なるのは、下部部材20及び上部部材31の各側壁を中心とする構造である。すなわち、下部部材20は内側に位置する内側壁33、上部部材31は外側に位置する外側壁23を備える構造となっている。この例では、上部部材31は、内側壁33の上端から下部部材20の外側壁23上端を越えて延びる囲繞壁35をさらに備えている。この囲繞壁35は、上部部材31の上壁34を外向きに延長した上壁部351と該上壁部の端部から垂下する側壁部352とを備えている。側壁部352は、図10に示すように、外側壁23の外面から離反している。これは、上方からの流水をより広い範囲で遮るためであるが、必要性に応じて外側壁23に近付けること、或いは接触させることが可能であり、上壁部351を残して側壁部352を省略することも可能である。
【0038】
この例においても、緩衝室6の下部部材の外側壁23は、上部部材の内側壁33の外側に嵌合する構造となっている。したがって、上部部材と下部部材との嵌合に隙間が生じたとしても、その隙間における緩衝室外側の開口は、内側壁33(上部部材)と外側壁23(下部部材)との上部に位置することとなり、断続流が支持体底部壁21を伝って下側から緩衝室6内へ侵入するのが防止される。
【0039】
特にこの例では、上部部材31は、内側壁33の上端から下部部材20の外側壁23上端を越えて延びる囲繞壁35をさらに備えている。したがって、上方から支持体2内へ断続流が侵入しても、囲繞壁35に阻まれ、緩衝室6内への侵入が防止される。この侵入防止効果は、囲繞壁35が上壁部351のみによって得ることもできるが、この例では側壁部352を備えることにより強化されている。
【0040】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、前述の例では、薬液容器の薬液収納部を2つとし、これに対応して緩衝室などを2つ設けたが、これらを各々1つまたは3つ以上とすることもできる。
【0041】
導出路は、前述の例のように嵌合突部42の縦溝421と細管部412とで形成するのに代えて、図8に示すように、薬液通路下端部を閉じる閉鎖部420に設けられた貫通孔420aによって形成することもできる。この貫通孔の下端開口縁も、図8に示すように、半円形(d)、三角形(e)、四角形(f)など、少なくとも1箇所に角部を有する種々の形状とすることができる。
嵌合突部42の縦溝421と細管部412とで形成される導出路、及び閉鎖部420に設けられた貫通孔420aによって形成される導出路に関し、案内部材5上端との当接状態については、導出路421aの下端開口縁を、次のように定めることができる。すなわち、この例のように、案内部材5の上端面が縦溝421の開口部より広く導出路421a全体を覆っていても、案内部材5上端面の細溝により薬液が案内部材5の面状部分に案内される場合は、縦溝421と細管部412内周面とによる開口縁部が導出路の下端開口縁となる。閉鎖部420の貫通孔420aによる導出路の場合も同様であり、貫通孔420aの下端開口縁が導出路の下端開口縁となる。一方、案内部材5の上端面の幅が縦溝421の開口部より狭い場合は、縦溝421の縁部、細管部412の内周面、及び案内部材5の外周面が囲む部分、或いは、閉鎖部420の貫通孔420aの縁部と案内部材5の外周面とが囲む部分が、導出路の下端開口縁となる。
【0042】
また、上記案内部材5は、必ずしも排水口への挿入位置にある必要はなく、排水口に臨む位置など、流水に接触する他の位置に配置されていてもよい。上記説明では案内部材5の上端部が、導出路421a下端の開口縁に当接しているものを示したが、図9(a)に示すように、導出路421aから排出される薬液が案内部材5上へ乗り移れる程度に、案内部材5と導出路421a下端開口縁とを隙間をあけて近接させるようにすることもできる。ここで、導出路421a下端開口縁は、縦溝421の下端縁と細管部412の内周面で囲まれた部分である。案内部材5上端部と導出路421a下端開口縁との近接の程度は、導出路421aから排出される薬液が案内部材5上へ乗り移れる程度、すなわち、導出路421aから排出される薬液が滴状とならずに、両方の部分にまたがって連続する状態を形成する程度とするのが望ましく、これにより、導出路から案内部材への導出が円滑且つ安定となる。尤も、導出路421aからの排出が十分に円滑に行なわれるのであれば、薬液が滴状に排出される程度の距離をおいてもよい。
【0043】
図9(b)は、図8に示した薬液通路下端部の閉鎖部420に設けられた貫通孔420aによって形成された導出路420aについて、同様に案内部材5上端部に近接配置した例を示している。これについても、図9(a)の例についての上記説明が当てはまる。
【0044】
さらに、案内部材5が支持体2内に入り込むようにすることもでき、この場合、案内部材5と導出路421a下端開口縁とは支持体2内で当接或いは近接する。このようにすると、流水が導出路421a内に流入するのをより確実に防止することができる。
【0045】
また、案内部材5の形状は上記のように板状に限定されるものではなく、棒状、或いは筒状に形成されたものであってもよく、薬液を、断続的に流れる液体と接触する位置へ案内し得る種々の形状とすることができる。
【0046】
また、細溝51の態様も、垂直方向に延びるものに限定されず、例えば斜め下方に延びるように形成したり、或いは格子状やドット状に形成することもできる。或いは、薬液が案内部材に十分に広がる場合には、細溝を省略することもできる。
【0047】
さらに、案内部材5は、導出路421a下端の開口縁に当接または近接する部分(薬液受け部)を非浸透性の材料で構成し、他の部分を多孔質材料など薬液を保持し易い材料とし、薬液の導出量と保持量とを適切化することもできる。また、所望の薬液導出量及び保持量を得られるのであれば、案内部材5の薬液受け部を浸透性の材料で構成することもできる。
【0048】
さらに、本発明に係る薬液供給装置は、水洗トイレの貯水タンクの手洗い部に設置する用途の他、インタンク(タンク内に吊り下げて使用するタイプ)、リム式(便器の縁に取り付けるタイプ)、台所や浴室の排水口などのように、断続的に流れる液体に薬液容器内の薬液を供給する種々の用途に用いることができる。
【実施例】
【0049】
(A)比較試験
以下のようにして、本発明の実施例と他の仕様による比較例とを用いて実験を行なった。
(1)共通事項
実施例については、前述の実施形態に係る装置を用い、比較例には、導出路の仕様のみを異にする装置を用いた。
・薬液容器に収納した薬液の粘度:220mPa・s(各試験環境温度において220mPa・sとなる薬液を使用)
・温度環境:
環境S(夏場に近い温度):室温25℃、薬液供給装置に接触する水の水温25℃
環境W(冬場に近い温度):室温15℃、薬液供給装置に接触する水の水温5℃
・装置の設置:薬液供給装置をTOTO社製貯水タンクS731Bの手洗い部上に設置した。
・測定:90分毎に貯水タンクのレバー操作をしてタンク内の水を流し(フラッシュし)、フラッシュを所定回数(16回)する毎に薬液容器内の薬液残存量(重さ)を測定した。
(2)実施例の仕様
薬液は、嵌合突部42の縦溝421と細管部412内側面とで形成された導出路421aから排出される。縦溝421は、断面の半径が、0.3mm及び0.25mmの2種類の扇形(中心角45度)のものを使用した。
(3)比較例の仕様
薬液は、細管部下端面中央に形成された円形の貫通孔を導出路として排出される。貫通孔の半径は、0.3mmであった。
(4)結果
実験結果を、図11〜図13のグラフに示した。各グラフの(a)は環境S、(b)は環境Wでの結果であり、縦軸に薬液容器内の薬液の残量、横軸にフラッシュの回数をとっている。
・図11:導出路が半径0.3mmの扇形断面の縦溝により形成されている実施例装置を用いた場合
・図12:導出路が半径0.25mmの扇形断面の縦溝により形成されている実施例装置を用いた場合
・図13:導出路が細管部下端面中央に形成された円形の貫通孔により形成されている比較例薬液供給装置を用いた場合
・結果の評価:
上記グラフから、次のことが明らかである。実施例装置の図11のグラフは280回のフラッシュ、図12のグラフは450回のフラッシュで、環境S及び環境Wの双方において、各々薬液容器内の薬液がほぼなくなったことを示している。これに対し、比較例装置の図13のグラフは、薬液容器内の薬液がほぼなくなるのに、環境Sでは640回、環境Wでは800回のフラッシュ回数となっている。比較例のこのグラフは、次のことを意味している。
(i)比較例の導出路は実施例のものより8ないし12倍の断面面積を有しているにも拘わらず、フラッシュ1回当りの薬液の排出量(流水への供給量)が、実施例の場合より少ない。
【0050】
(ii)環境W(冬場に近い温度)では、環境S(夏場に近い温度)におけるより、フラッシュ1回あたりの薬液の排出量が約2割少ない。
【0051】
すなわち、この薬液についてフラッシュ1回あたりに必要とされる排出量に対し、実施例では十分であるが、比較例では不十分であるため適切な薬効が得られない。また、実施例では、温度環境に拘わらずほぼ一定の薬液排出量が得られるが、比較例では、温度環境によって薬液の排出量が約2割も異なり、冬場の温度環境では薬液排出量がさらに不足する。
(B)比較例装置における導出路の径について
上記の通り、比較例装置では、薬液排出量が不足する結果となったので、導出路の径を大きくしてそれを補うことができるか否かの実験をした。
【0052】
このため、上記比較試験で用いた比較例の薬液供給装置について、細管部下端面中央に形成された円形貫通孔の半径を、0.15mm、0.3mm、0.35mm、0,45mmと変化させ、薬液容器内の薬液残量が零になるまでのフラッシュ回数を求めた。その結果を図14のグラフに示す。
【0053】
このグラフは、縦軸に薬液残量が零になるまでのフラッシュ回数、横軸に円形貫通孔の径をとっている。グラフの(a)は環境S、(b)は環境Wでの結果である。薬液は粘度が280mPa・sのものを使用した。
【0054】
グラフから明らかなように、環境S(夏場に近い温度)では貫通孔径を大きくすると排出量がほぼ同じ割合で増加するが、環境W(冬場に近い温度)では、貫通孔半径が0.45mmを越えると、径を大きしても排出量の増加割合が小さい。したがって、貫通孔径(導出路の径)を大きくして排出量を補うことには限界がある。また、貫通孔径を大きくすると、貯水タンクへの給水動作などにより薬液供給装置に与える振動が、薬液の排出量に影響することがあり、排出量を不安定にする。貫通孔径が大きくなりすぎると、貫通孔部で空気との置換が生じて流出が不安定となるおそれもある。これらの点からも貫通孔径を大きくすることに限界がある。
【0055】
これらの試験結果から、本発明の実施例は、比較例に比して、薬液容器から適正な量の薬液を流下水に正確かつ確実に供給し得ることが明らかである。
【0056】
[緩衝室の嵌合構造の発明]
以上に説明した発明に密接に関連する事項として、緩衝室の嵌合構造がある。これには、以下に記載する背景技術があり、本発明はその問題点を解決するものである。
【0057】
前述の特許文献1に記載の薬液供給装置においては、緩衝室6は、以下の構造となっていたため流水の浸入の問題を生じることがあった。すなわち、緩衝室6は、支持体2に支持された底部壁21及び側壁23’を有する下部部材20と、側壁33’及び上壁34を有し該下部部材に上方から嵌合する上部部材31とを備えていたが、上部部材31を支持体2に固定する構造として、両部材に設けられたフック36’、38’を緩衝室の外側で相互に係止するという構造が採用されていた。このため上部部材のフック36’が緩衝室の外側に位置するよう、上部部材31は、側壁33’が下部部材20の側壁23’外側に位置するように嵌合する構造となっていた。
【0058】
ところが、通常のプラスチック成形による嵌合構造では、嵌合部を完全な液密にするのは困難であり、不可避的に生じた隙間から流水が浸入することがある。図19の2つの空気流通孔343の中心線L、Lを含む平面に沿う断面(矢印の方向に見る)である図21によく示されるように、前記嵌合構造において、上部部材31の側壁33’の下端は、下部部材20の外壁23’の下部に位置している。したがって、2つの側壁間に生じた隙間における緩衝室外側に位置する開口は、該緩衝室の下部に位置することになる。その結果、支持体2内へ進入した流水は、支持体2の底面に沿って、隙間の開口に到達し易くなっている。こうして嵌合構造の隙間を経て毛管作用等により流水が緩衝室に浸入することとなる。その流水によって緩衝室6内の薬液が薄められ、薄められた薬液は温度変化により薬液容器1内に吸収され、薬液容器内の薬液まで希釈されることとなる。これでは、適正な薬液量による薬効が妨げられるばかりか、薬液によっては本来の粘度が低下し、薬液容器の排出口から過剰に流出して長期使用を損ねることもある。
【0059】
本発明は、このような従来技術の問題を解決し、薬液容器から供給される薬液濃度を適正に保つことができる薬液供給装置を提供しようとするものである。
【0060】
このため、本発明は、以下の薬液供給装置を提供する。
【0061】
1.断続的に流れる液体に薬液容器内の薬液を供給するための薬液供給装置であって、薬液容器を支持する支持体と、薬液容器より下方で該支持体に支持され、薬液容器からの薬液を、断続的に流れる液体と接触する位置へ案内する案内部材と、薬液容器から前記案内部材に薬液を供給するための供給部と、薬液容器の温度変動により薬液容器から前記案内部材へ薬液が流出するのを防止する調整機構とを備え、前記調整機構は、前記支持体に支持された緩衝室と、該緩衝室の上部に設けられた空気流通孔と、該緩衝室に連通するように前記供給部の下部に設けられた緩衝孔とを備え、前記緩衝室は、前記支持体に設けられた下部部材と、該下部部材に上方から嵌合する上部部材とを備え、前記下部部材は、底壁と、該底壁から上方へ延びた外側壁とを備え、前記上部部材は、前記緩衝室の上部を覆う上壁と、該上壁から垂下し前記外側壁の内側に嵌合する内側壁とを備え、前記供給部は、上下方向へ延び、上部が薬液容器の排出部に結合可能とされ、下端が前記案内部材に当接または近接していることを特徴とする薬液供給装置。
【0062】
2.前記支持体に結合されたカバー部材をさらに備え、前記供給部が、前記緩衝室の上壁を貫通して薬液容器の排出部に結合可能とされた上部管と、前記支持体に結合され上端が前記上部管に接続され下端が前記案内部材に当接または近接する下部管とを備え、前記カバー部材は、前記緩衝室の上部部材と、前記供給部の上部管とを一体的に備えて構成されていることを特徴とする前記1に記載の薬液供給装置。
【0063】
3.前記支持体内へ侵入した断続流を外部へ排出する開口が、前記支持体の下部に設けられていることを特徴とする前記2に記載の薬液供給装置。
【0064】
4.前記上部部材は、前記内側壁の上端から前記下部部材の外側壁上端を越えて延びる囲繞壁をさらに備えていることを特徴とする前記1または2に記載の薬液供給装置。
【0065】
5.前記上部部材への断続流の接触を防止するように、該上部部材の上方を覆うように前記薬液容器が位置している前記1〜4のいずれかに記載の薬液供給装置。
【0066】
上記1〜5の薬液供給装置は、以下の効果を奏する。すなわち、この薬液供給装置は、薬液容器を支持する支持体と、薬液容器より下方で該支持体に支持され、薬液容器からの薬液を、断続的に流れる液体と接触する位置へ案内する案内部材と、薬液容器から前記案内部材に薬液を供給するための供給部と、薬液容器の温度変動により薬液容器から前記案内部材へ薬液が流出するのを防止する調整機構とを備え、該調整機構は、前記支持体に支持された緩衝室と、該緩衝室の上部に設けられた空気流通孔と、該緩衝室に連通するように前記供給部の下部に設けられた緩衝孔とを備え、前記供給部は、上下方向へ延び、上部が薬液容器の排出部に結合可能とされ、下端が前記案内部材に当接または近接している。
【0067】
したがって、薬液容器内の薬液は、案内部材への流れとは別に、周囲温度の変動に応じて、緩衝孔を経て緩衝室への流入または薬液容器への戻りを生じる。その結果、温度変動による薬液の無駄な流出を防止することができる。
【0068】
特に、前記緩衝室は、前記支持体に設けられた下部部材と、該下部部材に上方から嵌合する上部部材とを備え、前記下部部材は、前記支持体の底部壁により形成された底壁と、該底壁から上方へ延びた外側壁とを備え、前記上部部材は、前記緩衝室の上部を覆う上壁と、該上壁から垂下し前記外側壁の内側に嵌合する内側壁とを備えている。
【0069】
したがって、緩衝室の上部部材と下部部材との嵌合に隙間が生じたとしても、その隙間の緩衝室外側の開口は、前記内側壁(上部部材)と外側壁(下部部材)との上部に位置することとなる。その結果、支持体内へ流入した断続流が支持体底壁を伝って下側から緩衝室内へ侵入しようとしても、該隙間の開口に到達し難く、侵入が防止される。こうして緩衝室への断続流の侵入が防止される結果、緩衝室内の薬液の希釈化及び該薬液の戻りによる薬液容器内の薬液の希釈化が防止され、したがって、薬液容器から供給される薬液濃度を適正に保つことができ、長期使用を確実にすることができる。
【0070】
以下のようにして、本発明の実施例と他の仕様による比較例とを用いて実験を行なった。
(1)共通事項
実施例については、図1〜図7に示した実施形態に係る装置を用い、比較例には、下部部材20及び上部部材31の側壁の嵌合構造のみを異にする装置を用いた。
・薬液容器に収納した薬液の粘度:220mPa・s(各試験環境下での粘度)
・温度環境:
環境S(夏場に近い温度):室温25℃、薬液供給装置に接触する水の水温25℃
環境W(冬場に近い温度):室温15℃、薬液供給装置に接触する水の水温5℃
・装置の設置:薬液供給装置をTOTO社製貯水タンクS731Bの手洗い部上に設置した。
・測定:90分毎に貯水タンクのレバー操作をしてタンク内の水を流し(フラッシュし)、フラッシュを所定回数(16回)する毎に薬液容器内の薬液残存量(重さ)を測定した。
【0071】
(2)実施例の仕様
緩衝室6側壁の構造は、下部部材20が外側(外側壁23)、上部部材31が内側(内側壁33)となる。
(3)比較例の仕様
緩衝室6側壁の構造は、下部部材20が内側(側壁23’)、上部部材31が外側(壁33’)となっている。
【0072】
(4)結果
実験結果を、図15及び図16のグラフに示した。各グラフの(a)は環境S、(b)は環境Wでの結果であり、縦軸に薬液容器内の薬液の残量、横軸にフラッシュの回数をとっている。
・図15:実施例の装置を用いた場合
・図16:比較例の装置を用いた場合
・結果の評価:
上記グラフから、次のことが明らかである。実施例装置の図15(a)のグラフは環境Sにおいて360回のフラッシュ、図15(b)のグラフは環境Wにおいて350回のフラッシュで、各々薬液容器内の薬液がほぼなくなったことを示している。これに対し、比較例装置の図16(a)のグラフは、環境Sでは500回のフラッシュ回数で薬液容器内の薬液がほぼなくなったことを示すものの、図16(b)のグラフは、環境Wでは300回の後に急激に減少し、410回でほぼなくなったことを示している。300回のフラッシュまでの間は薬液残量はゆっくりと減少しているが、これは上部部材及び下部部材の側壁間の隙間を経て緩衝室内に侵入した流水が、薬液容器内へ吸収され、薬液と共に導出路から排出されたため、薬液の実質的な減少量が抑えられた結果である。
【0073】
図16(b)の比較例のグラフは、以下のことを意味している。すなわち、環境W(冬場に近い温度)では、300回のフラッシュで薬液の粘度が低下し、細い導出路を通過しやすくなり、薬液容器からの流出量が多くなった。これは、次の作用による。環境Wでは、貯水タンクタップからの流水の温度が低く外気温との差が大きいので、フラッシュ毎に緩衝室と薬液容器との間の薬液の移動量が大きくなる。比較例の装置は、緩衝室6の側壁構造は、下部部材20が内側(側壁23’)、上部部材31が外側(壁33’)となっているので、両側壁間の隙間は緩衝室の外側の下部で開口している。その結果、流水は支持体底面に沿って、隙間の開口に到達しその隙間を経て緩衝室に浸入することとなる。そして、その流水によって緩衝室内の薬液が薄められ、薄められた薬液は薬液容器内に吸収され、薬液容器内の薬液まで希釈されたものである。
【0074】
このように、比較例装置では、特に冬場等の低温期に適正な薬液濃度が保たれないばかりか、長期使用が損なわれることになる。これに対し、実施例装置では、温度環境に拘わらず、適正な薬液濃度が保たれ、長期使用が確実に可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態に係る薬液供給装置の正面図(a)及び側面図(b)である。
【図2】図1に示す薬液供給装置を分解して示す正面図である。
【図3】図1に示す薬液供給装置の薬液収納部の縦断正面図である。
【図4】図1に示す薬液供給装置のカバー部材の平面図(a)及び縦断正面図(b)である。
【図5】図1に示す薬液供給装置の支持体の平面図(a)及び縦断正面図(b)である。
【図6】図1に示す薬液供給装置のカバー部材及び支持体を、分解して示す斜視図(a)及び組み合わせ状態の縦断正面図(b)である。
【図7】図6に示したカバー部材の細管部及び支持体の嵌合突部の嵌合についての説明図であり、図7(a)は嵌合前の状態を示す斜視図、図7(b)は嵌合後の状態を示す縦断面図である。
【図8】導出路を形成する縦溝の種々の断面形状を示す横断面図である。
【図9】導出路の下端開口縁を案内部材上端に近接配置した例を示す縦断正面図である。
【図10】本発明の他の実施形態についての要部を示し、(a)は正面図、(b)は左半分の側面図である。
【図11】本発明の実施例装置についてのフラッシュ回数と薬液残存量との関係を表すグラフである。
【図12】本発明の実施例装置についてのフラッシュ回数と薬液残存量との関係を表すグラフである。
【図13】比較例装置についてのフラッシュ回数と薬液残存量との関係を表すグラフである。
【図14】比較例装置についての貫通孔の総開口面積とフラッシュ回数との関係を表すグラフである。
【図15】実施例装置についてのフラッシュ回数と薬液残存量との関係を表すグラフである。
【図16】比較例装置についてのフラッシュ回数と薬液残存量との関係を表すグラフである。
【図17】従来の薬液供給装置の一例を示す正面図である。
【図18】図17に示す従来装置の側面図である。
【図19】図17に示す従来装置のカバー部材及び支持体を分解して示す斜視図である。
【図20】図17に示す従来装置のカバー部材及び支持体の組み合わせ状態を示す縦断正面図である。
【図21】図19に示す2つの空気流通孔の中心線L、Lを含む平面に沿う断面図(矢印の方向に見る)である。
【図22】図1における装置で導出路の形状のみ従来の円形貫通孔としたカバー部材の縦断正面図(a)及び細管部の開口を示す底面図(b)である。
【図23】図1における装置で導出路の形状のみ従来の円形貫通孔とした支持体の平面図(a)及び縦断正面図(b)である。
【図24】図22に示したカバー部材の細管部及び支持体の嵌合突部の嵌合についての説明図であり、図24(a)は嵌合前の状態を示す斜視図、図24(b)は嵌合後の状態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0076】
1:薬液容器
2:支持体
3:カバー部材
4:供給部
5:案内部材
6:緩衝室(調整機構)
20:下部部材
31:円筒状部分(上部部材)
23:外側壁
33:内側壁
35:囲繞壁
41:管状部
42:嵌合突部
313:空気流通孔(調整機構)
343:空気流通孔(調整機構)
411:接続部
412:細管部
414:緩衝孔(調整機構)
421:縦溝
421a:導出路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断続的に流れる液体に薬液容器内の薬液を供給するための薬液供給装置であって、
薬液容器を支持する支持体と、
薬液容器より下方で該支持体に支持され、薬液容器からの薬液を、断続的に流れる液体と接触する位置へ案内する案内部材と、
薬液容器から前記案内部材に薬液を供給し得るように上下方向に延びた供給部と、
薬液容器の温度変動により薬液容器から前記案内部材へ薬液が流出するのを防止する調整機構とを備え、
該調整機構は、前記支持体に支持された緩衝室と、該緩衝室の上部に設けられた空気流通孔と、該緩衝室に連通するように前記供給部の下部に設けられた緩衝孔とを備え、
前記供給部は、上端部が薬液容器の口部に結合可能とされ、上下方向に延びる薬液通路を形成しており、該薬液通路の下端部は薬液の緩徐排出を行なうための細孔による導出路とされ、該導出路は下端開口縁が前記案内部材に当接または近接し少なくとも1箇所に角部を有する形状とされていることを特徴とする薬液供給装置。
【請求項2】
前記供給部の導出路は、該薬液通路下端部を閉じる閉鎖部に設けられた貫通孔によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の薬液供給装置。
【請求項3】
前記供給部は、前記支持体の底壁から上下方向へ延びる嵌合突部と、前記薬液通路の下端部に位置し前記嵌合突部の外側に嵌合する細管部とを備え、前記導出路は、前記嵌合突部の外壁面に設けられた縦溝と前記細管部の内壁面とにより形成され、該導出路の下端開口縁は前記案内部材に当接または近接していることを特徴とする請求項1に記載の薬液供給装置。
【請求項4】
前記案内部材は、薬液保持のための面状部分を備え、前記供給部の下端部と当接または近接する薬液受け部は、薬液非浸透性材料によりに構成され、前記供給部から導出される薬液を前記面状部分に導く細溝が形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の薬液供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2006−283539(P2006−283539A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−133004(P2005−133004)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】