説明

藻類用培地及び該藻類用培地を用いた藻類の種苗生産方法

【課題】温度、光波長、光量等を厳格に制御しなくても、藻類を成熟させずに栄養成長(栄養増殖)させることができ、かつ、調製が簡単である藻類用培地を提供すること。
【解決手段】藻類の種苗を組織培養により増殖生産するのに使用する培地。ステビオシド類又はステビオール類を、培養組織の成熟抑制剤として添加する。組織培養によりコンブ目等の海藻の種苗を生産する場合、組織として、配偶体、胞子等の単相世代を用い、培地として海水培地を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類用培地及び該藻類用培地を用いた藻類の種苗生産方法に関する。さらに詳しくは、藻類(特に褐藻類)の種苗を、配偶体、胞子等の単相(核相n)世代を用いて種苗を生産するのに好適な藻類用培地に係る。ここでは、単相世代として、配偶体を用いる場合を主として例に採り説明する。
【背景技術】
【0002】
藻場造成に際して、該造成を速やか且つ確実に行うためには、造成対象種の種苗移植をする。特に、藻場海域において、造成対象種が自生していない場合、種苗移植が必然的である。
【0003】
非特許文献1第223頁に、コンブ科海藻であるアラメ・カジメの移植技術の背景として、下記記載がある。
【0004】
「胞子放出が認められる時期(一般に9月から11月)に、成熟したアラメ・カジメを網袋に入れて海域に設置する方法(スポアバッグ法)や、放出された胞子を種糸やコンクリート板に付着させ、海域に移植する方法がある。これらの方法は比較的簡便であるが、移植実施可能な時期が、子嚢斑が形成される時期に限定される。」
そして、時期が限定されては、台風や食害、付着生物との競合による種苗の減耗を防ぐことが困難となる。このため、任意の時期に種苗を生産し移植する技術として、下記「配偶体を用いた種苗生産方法」が同第233〜235頁に紹介されている。
【0005】
「(1)配偶体の保管
アラメ・カジメ(属)に属するコンブ科海藻の生活史においては、肉眼で見ることのできる大型の胞子体世代と、顕微鏡的な大きさの配偶体世代が交互に出現する。成熟した母藻から放出された胞子は、配偶体に成長する。コンブ類の、鉄分が欠乏した海水培地中で培養されること(Motomura et al.1984)、また、アラメ・カジメの配偶体は、比較的高水温で培養されることにより(谷口ら 1982;太田 1988;鈴村ら 1998)により、精子や卵を形成することなく栄養的な増殖を繰り返すことが分かっている。アラメ・カジメの配偶体についても、鉄分が結合した海水培養液を用いることによって配偶体の成熟を抑制できることが分かった(鈴村ら 1998)。各地で採集したアラメ・カジメ配偶体を、鉄分が結合した改変PESI培地(表III.3.1-2)[本明細書中[表1]として記載]中で培養することによって、配偶体の成熟をほぼ完全に抑制しつつ保管している。保管時の培養条件は、温度を18℃、光量子量60μmol/m/sec、照明周期12時間照明、12時間暗黒(以後12L:12Dと記載)である。通常の海水培地を使用した場合でも培養温度をやや高く(24℃)設定することによって成熟を抑制し、配偶体を保管することが可能である。しかし、成熟する場合もあり、また、配偶体が必要以上に成長してしまうため、保管には適さない。
【0006】
(2)配偶体の増殖と成熟
実験室内では保管可能な配偶体は比較的少量であり、この配偶体から種苗生産を行うには、配偶体を増殖させ必要量を確保しなければならない。保管していた配偶体を2〜3Lの鉄分が欠乏した改変PESI海水培地(表II.3.1-2)[本明細書中[表1]として記載]中に移し、培養温度24℃、光量子量60μmol/m/sec、12L:12Dの培養条件で、十分に通気しながら培養を行うことによって、栄養的な増殖(一週間で倍増)を促進することが可能である。このような方法で増殖させた配偶体は、マリモ状の塊を形成することが多く、このままでは、基材に均一に着床させることができないので、超音波破砕装置等を用いて物理的に細断して、配偶体懸濁液を作成している。配偶体の成熟と胞子体の発芽を誘導するため、基材への着生以降の培養操作は、鉄分を添加した通常の海藻培養で使用するPESI培地(Tatewaki 1966)で行う。水槽にPESI培地を満たし、基材となるクレモナ糸を入れ、配偶体懸濁液を添加する。そのまま、培養温度24℃、光量子量60μmol/m/sec、12L:12Dの光周期で通気を行いながら継続して培養することによって、クレモナ糸に着床した藻体を屋外水槽または海域に展開して中間育成を行う。野外水槽で中間育成を行う際には十分な通気を行い、海藻周囲の海水流動を与えることが重要である。通気が不十分であると、混入した珪藻類などが幼藻体の表面を覆い、先端部から枯死していくなどの障害が生ずることが多い。後述するが、実海域でアメフラシ類や貝類による食害を低減するためには、全長15cm程度になるまで育てることが効果的である。」
また、非特許文献2第39頁には、上記「アラメ・カジメ」と同様、任意時期に種苗を生産するために、コンブ目チガイソ科に属するワカメ(属)について、無機質配偶体を用いる下記種苗生産(採苗)技術が紹介されている。
【0007】
「成熟葉体からの遊走子が得られない時期や場所などでの種苗生産に対応するため無機質で培養しておいて、これを必要に応じて紐などに付着させて種苗に育てる採苗法が昭和38年から京都府水産試験場により検討され、現在、岩手県などで種苗の芽落ち対策の1つとして実施されている。ただし、この無機質配偶体を基質に確実に付着させる技法の工夫がさらに必要である。この無機質配偶体は、長期の保管培養や成熟制御、胞子体形成調節が行い易いので、遺伝子源としての保存や、1個の遊走子由来のモノクローナル配偶体による種苗の量産などいろいろな面に利用でき、大いに有望である。」
しかし、海水培地(例えば、PESI培地)を用いて、配偶体を、成熟(matruration:生殖細胞(卵や精子の形成)の成熟)させずに成長(growth:栄養増殖)させるには、前述の如く、温度、光波長、光量等を厳格に制御、及び/又は、無機質培地として特別なものを調製する必要があった。特に、鉄分を含まないPESI培地は、上市されているPESI培地が前提として鉄分を含むため、特注品となる。すなわち、通常、鉄分以外の成分について全て計量して調製する必要があり、面倒であった。
【0008】
本発明の特許性に影響を与えるものではないが、関連技術を示す特許文献として、下記のようなものを挙げることができる。
【0009】
本発明で使用する「ステビオシド」に関連する先行技術文献として、「天然甘味料ステビオシドから調製されたイソステビオールをDNA合成酵素阻害剤」が特許文献1に記載されている。
【0010】
「ステビオシド」と同様、「ダフナン類のジテルペンを含む農薬組成物」が特許文献2に記載されている。
【0011】
また、「藻類の培養液(培地)に添加して使用する藻類の成長促進剤」が特許文献3に記載されている。
【0012】
【表1】

【非特許文献1】三浦昭雄編「食用藻類の栽培、水産学シリーズ88」恒星社厚生閣、1992年、p35−42、
【非特許文献2】能登谷正浩編「藻場の海藻と造成技術」成山堂書店、2003年、p217−230
【特許文献1】特開2005−162634号公報
【特許文献2】特表2001−508413号公報
【特許文献3】特開2005−162634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記にかんがみて、温度、光波長、光量等を厳格に制御しなくても、藻類を成熟させずに栄養成長(栄養増殖)させることができ、かつ、調製が簡単である藻類用培地及び該藻類用培地を用いた藻類の種苗の生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題(目的)を解決するために、鋭意開発に努力をする過程で、キク科の植物であるステビア(Stevia rebeaudiana)の葉から抽出したステビオシドを標準強化海水培地(PESI:Provasoli’s enriched sea water)に少量添加して、褐藻類の単相世代を培養すれば、上記目的が達成できることを知見して下記構成の本発明に想到した。
【0015】
藻類の種苗を組織培養により増殖生産するのに使用する培地において、ステビオシド類又はステビオール類が添加されることを特徴とする。
【0016】
藻類を海藻とする場合、組成的には、海水培地に、ステビオシド類又はステビオール類が、ステビオシド換算で、300μmol/L以上添加されることを特徴とする。
【0017】
上記構成において、ステビオシド類が、ステビアの葉からの抽出物であることが望ましい。
【0018】
そして、上記各構成の液体培地を使用しての、藻類の種苗を生産する方法は、下記のような構成となる。
【0019】
組織培養により藻類の種苗を生産する方法であって、
組織として、配偶体、胞子等の単相世代を用いるとともに、
培地として、上記いずれか構成のものを使用することを特徴とする。
【0020】
上記構成において、褐藻、さらには、コンブ目に適用することが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、藻類の種苗を組織培養により増殖生産するのに使用する培地を前提的要件とする。
【0022】
「単相(haplophase)世代」とは、胞子(遊走子)、着床体、発芽体及び有性生殖可能に成熟するまでの雌性・雄性配偶体を意味する。
【0023】
ここで藻類としては、海藻(海産の底性大型藻類)が代表的であり、海藻には下記褐藻、紅藻、緑藻の3つのグループがあり、本発明者らは、後述の如く、褐藻のコンブ目に属するものについてしか、効果を確認していない。しかし、本発明の培地を利用して、コンブ目以外の褐藻、さらには、下記紅藻、緑藻の中にも種苗を組織培養により増殖生産できる可能性を有する。
【0024】
褐藻:コンブ目には、後述のワカメ(ちがいそ科わかめ属)、カジメ(こんぶ科かじめ属)、サガラメヒジキ(こんぶ科あらめ属)以外に、ポピュラーなものにトロロコンブやモズクなどが含まれる。
【0025】
紅藻:マクサ(テングサ)、ノリなどが含まれる。3つのグループの中で最も種数が多い。
【0026】
緑藻:大まかに言うと、陸上植物と同じグループにはいるが、海中では少数派である。
【0027】
本発明で使用する培地は、通常、海水に栄養塩類を添加した栄養添加海水培養液(半合成培地)を使用するが、人工海水培養液(例えばASP系)(合成培地)や滅菌海水(天然培地)等の海水培地も使用可能であり、さらには、それらに寒天等を添加した半流動培地や固形培地も適用の可能性を有する。
【0028】
なお、海藻類以外の藻類、淡水藻類や陸生藻類の種苗を生産する場合は、海水の代わりに淡水を使用した培地を使用する。
【0029】
上記栄養添加海水培養液としては、ミッケル型、エルト・シュライバー型等を使用可能であり、エルト・シュライバー型の一つである「PES(Provasoli’s enrichd sea water)培地」さらにはその改良した「PESI培地」が、調製が容易であるとともに、栄養増殖に適しており、好適に使用できる。
【0030】
そして、上記培地には、藻類を海藻とする場合において、前記ステビオシド類又はステビオール類(以下「特定成熟抑制剤」ということがある。)が、ステビオシド換算で、300μmol/L以上、望ましくは400μmol/L以上添加される。添加量が過少では、後述の実施例の如く、本発明の効果(成熟抑制作用)を奏し難い。
【0031】
上限は、特に限定されないが、過剰に添加しても無駄である。このため、成熟抑制作用を奏する範囲で、可及的に添加量は少ない方が望ましく、600μmol/Lを上限値とする。
【0032】
「ステビオシド類」とは、ステビアの葉からの抽出物を分離精製した下記構造式化1・化2でそれぞれ示されるステビオシド、レバウディシド(いずれもO−配糖体)ばかりでなく、それらを混合物である未精製物、及び、ステビオール類への分解中間生成物も含む。
【0033】
【化1】

【0034】
【化2】

「ステビオール類」:下記構造式化3で示されるステビオールに加えて、転移体である下記構造式化4で示されるイソステビオールは勿論のこと、CHがHや低級アルキル基に置換されたり、官能基であるCOOHやOHのHが金属置換されたりエステル化乃至エーテル化されたものも含む。
【0035】
【化3】

【0036】
【化4】

そして、上記培地を用いての藻類の種苗生産方法について説明する。
【0037】
ここでは、配偶体を組織として使用する場合を例に採るが、胞子(遊走子)や着床体、発芽体を組織とすることもできる(図1参照)。すなわち、成熟抑制剤としてのステビオシド類の添加は、胞子が配偶体に成長するまでの各時期に添加することが可能である。
【0038】
まず、胞子から成長した配偶体(雌性・雄性配偶体の混合体)を、適宜粉砕して、海水培地(PEI又はPESI培地)を使用して予備培養後、特定成熟抑制剤(ステビオシド類等)を添加する。添加量は、前述の如く、成熟を抑制できる量で、且つ、成長を阻害しない量以下とする。
【0039】
ここで「成熟」とは、配偶体が卵形成や精子形成ができる状態に達することをいう。これに対して「成長」とは、「栄養成長(栄養増殖)」を意味し、本発明では、周縁成長が促進される条件とすることが望ましい。
【0040】
栄養増殖させる場合の温度条件は、通常、常温とするが、10〜30℃の範囲、望ましくは、15〜25℃の範囲に制御する。
【0041】
そして、培養期間は、培養条件(温度、光、培地栄養濃度)及び、藻類の種類及び組織の成長段階により異なるが、通常、1〜10ヶ月とする。
【0042】
そして、海水培地は、栄養増殖促進の見地から、様子を見ながら、時々(例えば1週間毎)、交換するか、又は、栄養源(窒素源、炭素源、無機塩)補給を行う。
【0043】
そして、ある程度、成長が進んだら、成長組織(雌性・雄性配偶体)を取り出して、さらに、成熟抑制剤を含まない培地(例えば、PESI培地)で培養成熟させれば(例えば、温度0〜35℃、光量5〜1000μmol m−2 s−1で培養期間:2〜60d)、成熟した雌性配偶体及び雄性配偶体の各1個から、多量の雌性配偶子(卵)及び雄性配偶子(精子)が形成される。そして、雌性配偶子と雄性配偶子との接合により多量の芽胞体が形成され、結果的に多量の幼胞子体(種苗)が発生する。
【0044】
その後は、該幼芽が幼葉(種苗:藻体)になった後、実海域で外敵攻撃を受け難い状態まで屋外水槽等で中間育成(育苗)を行う。幼葉の各段階の大きさは、藻類の種によって異なるが、例えば、ワカメの場合、通常、中間育成前0.005〜10cm、中間育成後0.1〜10cmとする。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の効果を確認するために行った実験例(実施例)について説明する。
【0046】
<使用培地>
使用液体培地は、表2に示す組成の「1/5濃度のPESI培地」において、表3に示す組成の「PII METAL」(メスアップ100mL)を添加して、合計量(メスアップ)100mLとしたものを、滅菌海水1Lに対して4mLの割合で添加し、さらにヨウ化カリウム(KI)26μgを添加して調製した。
【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

<使用配偶体>
発明者の研究室で保存しているサガラメ(Eisenia arborea)、カジメ(Ecklonia cava)およびワカメ(Undaria pinnatifida)の配偶体を使用した。
【0049】
<実験方法>
各配偶体を乳鉢で数細胞にまで粉砕した後に、1/5濃度のPESI培地に懸濁した。この配偶体懸濁液を培養用フラスコあるいは培養用プレートに注いだ。懸濁液の量は、培養用フラスコの場合は20mLずつ、プレートの場合は8mLずつとした。
【0050】
懸濁液を入れた培養容器を2-3日間、予備培養した。予備培養条件は温度20℃、光強度約100μmol m−2 s−1、12時間明期:12時間暗期とした。
【0051】
1)実験1:組織材料はカジメ配偶体を用いた。予備培養終了後に培地をステビオシド(和光純薬社製:純度99.2%以上)あるいはレバウディオシドA(和光純薬社製:98.4%以上)を添加した1/5PESI培地に変更して培養を行った。ステビオシド及びレバウディオシドAの濃度は500、50、5、0.5、0μmolとなるように調整した。培地は1週間に一度交換した。培養条件は予備培養と同条件にした。
【0052】
2)実験2:組織材料はサガラメ、カジメ、ワカメの配偶体を用いた。予備培養終了後に培地をステビオシド(守田化学工業株式会社:純度85%以上)あるいはジベレリン(GA3 ナカライタスク:純度90%以上)を添加した1/5PESI培地に変更して培養を行った。培地は1週間に一度交換した。培養条件はサガラメとカジメは予備培養と同条件、ワカメは温度を15℃にした。ステビオシドおよびジベレリンの濃度は500μmolとなるように調整した。試薬の構造を以下に示した。
【0053】
ジベレリンを比較対照としたのは、ジベレリンがステビオール類と同様、ジテルペンの生合成中間体であるためである。ジベレリンの構造式を化5に示す。
【0054】
【化5】

実験1、2ともほぼ1週間に一度、成熟率を測定した。本実験では、成熟率を雌性配偶体の卵形成率とした。倒立顕微鏡下で卵を形成している配偶体を計数することにより成熟率を求めた。
<実験結果>
1)実験1:
ステビオシドおよびレバウディオシドAを500、50、5、0.5、0μmol添加した培地で培養したカジメ配偶体の、培養3週間後の成熟率を図2に示す。
【0055】
ステビオシドを500μmol添加した培地中の成熟率は2%以下であった。一方、レバウディオシドAを500μmol添加した培地中の成熟率は24%で、やや成熟率が高かった。
【0056】
ステビオシド、レバウディオシドAのいずれも添加濃度が50μmol以下では、成熟率は98%以上であった。
【0057】
ステビオシド、レバウディオシドAのいずれも、添加濃度が500μmolで配偶体は目視で分かる栄養成長をし続けたが、添加濃度が50μmol以下では、成熟して芽胞体となりほとんど目視で分かる栄養成長が見られなかった。
【0058】
ステビオシドを500μmol添加した培地では芽胞体まで成長した卵が見られなかった。また、ステビオシド、レバウディオシドA500μmolを添加した培地中で発芽した芽胞体は、萎縮した形状になる個体が多かった。なお、ステビオシド、レバウディオシドAともに5μmol以下の濃度では、正常な形状の芽胞体となった。
【0059】
2)実験2
1/5PESIのステビオシド添加培地およびジベレリン添加培地で培養した各配偶体の成熟率を図3〜5に示す。
【0060】
サガラメ、カジメ、ワカメのいずれもステビオシド添加培地ではほとんど卵が形成されず、配偶体は目視で分かる栄養成長をし続けた。
【0061】
一方、無添加の1/5PESI培地ではサガラメが70%、カジメが98%、ワカメが56%といずれも半数以上が卵を形成した。また、ジベレリン添加培地ではサガラメが92%、カジメが99%、ワカメが99%と非常に高い成熟率を示した。いずれの種においても、ジベレリン添加後は、すぐに成熟して芽胞体となりほとんど目視で分かる栄養成長が見られなかった。
【0062】
ステビオシド添加培地中で培養していた一部のカジメの培地を、ジベレリン培地に変更した結果を図6に示す。培地を変更してから3週間後には卵形成率が93%に達した。
<実験結果考察>
実験結果より、ステビア抽出物にはコンブ目藻類の配偶体の成熟を抑制する作用があることが確認された。
【0063】
成熟を抑制することにより栄養成長が継続し、結果として配偶体量を増やすことが可能となる。図1に示す如く、胞子から配偶体までの単相世代のいずれかに、ステビオシド(ステビア抽出物)を添加して配偶体を増加させ、次いで除去することにより大量に成熟させることができる。
【0064】
マコンブ、ワカメ、アラメ等のコンブ目藻類を用いた養殖や藻場造成を行うに際して、特に大きな効果があると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の藻類の種苗方法を示す概略説明図である。
【図2】ステビオシド及びレバウディオシドのカジメに対する各成熟抑制効果を示すグラフ図である。
【図3】サガラメに対するステビオシドの成熟抑制効果の示すグラフ図である。
【図4】ワカメに対するステビオシドの成熟抑制効果の示すグラフ図である。
【図5】カジメに対するステビオシドの成熟抑制効果の示すグラフ図である。
【図6】ステビオシド培地で培養していたプレートの一つをジベレリン培地に変更した場合の成熟率抑制効果を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類の種苗を組織培養により増殖生産するのに使用する培地において、ステビオシド類又はステビオール類が添加されることを特徴とする藻類用培地。
【請求項2】
前記藻類を海藻とする場合において、海水培地に、前記ステビオシド類又はステビオール類が、ステビオシド換算で、300μmol/L以上添加されることを特徴とする請求項1記載の藻類用培地。
【請求項3】
前記ステビオシド類が、ステビアの葉からの抽出物であることを特徴とする請求項1又は2記載の藻類用培地。
【請求項4】
組織培養により藻類の種苗を生産する方法であって、
組織として、配偶体、胞子等の単相世代を用いるとともに、
培地として、請求項1、2又は3記載の藻類用培地を使用することを特徴とする藻類の種苗生産方法。
【請求項5】
前記藻類が褐藻であることを特徴とする請求項4記載の藻類の種苗生産方法。
【請求項6】
前記褐藻がコンブ目であることを特徴とする請求項5記載の藻類の種苗生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−39050(P2009−39050A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208387(P2007−208387)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(501010292)株式会社山本コーポレーション (1)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】