説明

虚血性再灌流傷害または多臓器不全の治療または予防方法

本発明は、個体内における虚血性再灌流傷害または多臓器不全を予防または治療する方法に有用な医薬製剤を製造するための治療的に活性な薬剤の使用に関する。本発明によれば、該薬剤は単純インターフェロンベータであり、該薬剤は個体内のアデノシンレベルに影響を与える1つ以上の薬剤と同時に投与されることのない使用を対象とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個体の虚血性再灌流傷害または多臓器不全を有効量のインターフェロンベータを該個体に投与することにより治療または予防する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景を説明するために本明細書で使用する刊行物および他の資料、および特に、実施に関するさらなる詳細を提供するための事例は、引用により本明細書に組み込まれる。
【0003】
腹部損傷、腸梗塞、心臓血管手術およびショックを含むいくつかの状況は、腸の虚血性再灌流傷害(IRI)を導き得る。重要なことに、IRIは局所の損傷を引き起こすことだけでなく、多臓器不全と呼ばれる症候群に帰する遠隔の臓器における全身性炎症反応をも誘発する。この症候群において肺は特に脆弱である。損傷の最も顕著な兆候は、血管透過性の増加(血管の漏れ)と好中球の蓄積である。腸のIRI後の肺損傷は主として腸での前炎症性のサイトカインの放出による。腸のIRIは腸透過性を増加させ、それに続き多臓器不全において全身性炎症を促進する細菌性エンドトキシンが放出される。活性化された好中球から放出された他のメディエーターもまた、重要な役割を担う。
【0004】
CD73(エクト−5’−ヌクレオチダーゼ、5’−NT)はリンパ球ならびに内皮および上皮細胞の表面で発現する糖タンパク質である。CD73はその酵素機能により白血球接着を制御する。それはAMPのアデノシンへの加水分解を触媒する。CD73によって産出されたアデノシンは低酸素組織での血管透過性および好中球壊死巣分離を減少させる。しかしながら、IRIにおける遠隔組織損傷でのCD73の役割は知られていない。
【0005】
IRIにおける血管漏出の主要な役割に起因して、アデノシンまたは他のメカニズムを介して透過性の変化を制御する分子は、多臓器不全に有効な潜在的目的物となり得る。インターフェロンベータはCD73の発現(とアデノシンの産出)の誘導もし、他の免疫賦活効果をも持つと知られているので、本発明者らは多臓器不全における遠隔組織損傷へのその効用を調査した。
【0006】
公開された国際特許出願、国際公開第2004/084933号パンフレットには、個体内での内皮のCD73発現とそれに続くアデノシンレベルの上昇を誘導するためのサイトカインの使用について開示している。ラットでの多臓器不全の治療においてインターフェロンベータをアデノシン一リン酸(AMP)と併用することが記述されている。
【0007】
米国特許出願公開第2004/0105843号明細書は、患者の低酸素/虚血関連血流抵抗におけるインターフェロンベータの使用に関する。その方法は、目詰まり(clogging)などの血流抵抗を予防することを目的とする。しかしながら、この明細書では虚血性再灌流傷害の治療や予防については何も言及していない。再灌流傷害とは、虚血の期間の後に組織に血流が戻った時に引き起こされる組織損傷を意味する。血液から酸素と栄養素が失われることで、血液循環の回復が結果として、正常な機能の回復というよりむしろ炎症および酸素による酸化的損傷を招き得る状況が作り出される。
【0008】
本発明者らは今や驚くべきことに、多臓器不全または虚血性再灌流傷害がインターフェロンベータのみの単用により、すなわち同時にAMP、アデノシン二リン酸(ADP)もしくはアデノシン三リン酸(ATP)または個体内のアデノシンレベルに影響を与える任意の他の薬剤を投与することなしに、首尾よく予防または治療され得ることを発見した。
【発明の開示】
【0009】
したがって、本発明は、個体における虚血性再灌流傷害および多臓器不全からなる群から選択された疾患の予防および治療を、有効量のインターフェロンベータを該個体に投与することにより行う方法に関する。
【0010】
定義と好ましい実施様態:
用語「治療」または「治療する」は、疾患の完全な治癒のみならず該疾患の改善や緩和も同様に含むと理解されるべきである。
【0011】
用語「インターフェロンベータ」は、任意のインターフェロンベータを含むと理解されるべきである。したがってその語は、インターフェロンベータ1a、インターフェロンベータ1bなどの任意のそのサブタイプおよびその混合物を網羅するべきである。
【0012】
用語「予防」は、完全な予防(prevention)、防御(prophylaxis)のみならず、前記疾患にかかる個体のリスクを低下することを含むと理解されるべきである。
【0013】
用語「個体」は、ヒトまたは動物の被験体を意味する。
【0014】
表現「有効量」は、特に動物またはヒトの被験体に投与する際に、所望の治療結果をもたらすのに充分な本発明の薬剤の任意の量を含むことを意味する。
【0015】
インターフェロンベータの治療効果はアデノシンレベルの上昇により、状況に応じてインターフェロンベータの投与に続くCD73の発現の増加により、媒介されるようで有り得るが、特に多臓器不全においては、他の代替のメカニズムも関与し得るということが重視されるべきである。したがって、インターフェロンベータの効果は、任意の特定の作用機序に制限されないと理解されるべきである。
【0016】
一つの好ましい実施態様によると、インターフェロンベータの投与は、外傷患者または梗塞もしくは脳卒中患者がケアするために運ばれるとすぐに、任意には、たとえ最終診断が完全に明確でなくても、開始される。外科手術の場合では、インターフェロンベータをすでに手術の開始前、例えば手術開始の12時間前などに投与し始めることが有用であり得る。
【0017】
治療的有効量、投与経路および剤形:
インターフェロンベータの治療が必要な患者に投与されるべき本発明によるインターフェロンベータの治療的有効量は、たとえば患者の年齢および体重、治療を必要とする正確な症状とその重症度ならびに投与経路を含む多くの要因に依存し得る。正確な量は結局のところ担当の医師の考えしだいであろう。したがって、本発明の実施は任意の用量、他の治療的に有効な薬との併用、または経口、局所、吸入または非経口投与のための医薬製剤もしくは送達システムを含み得る。
【0018】
本発明による薬剤の投与のための量および処方計画は、再灌流傷害、脳卒中、臓器移植、外傷または多臓器不全症候群などの炎症関連の疾患を治療する当業者により容易に決定され得る。
【0019】
本発明に基づいて、たとえば皮下、筋肉内、静脈内または経皮投与されたインターフェロンベータの作用の1つの形態は、抗炎症性であるアデノシンの局所的濃度を増加させることであると想定し得る。これは非常に短い半減期を有し、それ故に治療上の使用には最適ではないというアデノシンの使用に関連する問題を克服する。
【0020】
本発明にしたがって、インターフェロンベータは好ましくは注入または注射によって投与され得る。血管内注入は、通常、輸液バッグまたはボトルに入った非経口液を使用して行なわれ、非経口液の投与速度を制御する別のシステムに接続され得る。本発明にしたがってインターフェロンベータはもう1つの方法としてエアロゾルとして投与され得る。
【0021】
好ましい注入や注射用の製剤には、ヒト血清アルブミン、薬学的に許容され得る塩、リン酸塩などの緩衝剤および/または他の薬学的に許容され得る賦形剤などの担体を含み得る。活性成分インターフェロンベータは、たとえば、ml当たり1〜50×106IUの範囲の量で提供され得る。製剤は、好ましくは、凍結乾燥粉末の剤形で提供され得、投与の前に水や他の注射に適した溶液を添加することで調製される。
【0022】
インターフェロンベータは炎症を患うまたは炎症になる危険性のある患者に投与され得る。それらの炎症状態の種類は、たとえば脳卒中および心筋梗塞中の虚血性再灌流傷害などである。臓器移植や外傷もまた主要な炎症要素としばしば関係する原因である。
【0023】
本発明を、以下の非制限的な実施例により説明する。
【実施例1】
【0024】
多臓器不全マウスの単純(plain)インターフェロンベータでの治療
本研究では、体重、性別および年齢の適合したC57ブラックマウスを使用した。
【0025】
術前処置と外科的処置
マウスを、多臓器不全の誘導前の連続した3日間にインターフェロンベータ(6000IU/用量)またはPBSの皮下注射で処置した。手術のために、マウスをケタミン塩酸塩(100mg/体重kg、IP)およびキシラジン(10mg/体重kg、IP)で麻酔した。上腸間膜動脈を開腹により切開し、微小血管鉗子により30分間塞いだ。処置中、蒸発による流体損失を補うために全部で2mlの滅菌生理食塩水をマウスに皮下注射した。微小血管鉗子を虚血期間の後開放した。動物を4時間の再灌流の後に犠牲死させ、組織サンプルを回収した。
【0026】
肺における血管漏出(vascular leakage)の解析
マウスにフルオレセイン共役デキストラン(分子量70kDa、滅菌生理食塩水0.2ml中に25mg/体重kg)を静脈内で犠牲死前に5分間与えた。フルオレセイン色素は無傷の管からは漏出しない。7マイクロメーター、クリオ‐セクション(cryo-section)を肺組織サンプルから切り取り、蛍光顕微鏡で検査した。事前に設定した閾値を超える組織蛍光強度および漏出域を、200倍の倍率でデジタルカメラを用い集められた像から、イメージジェイ(Image J)コンピューターソフトウェアを用い計算した。
【0027】
結果:
対照処置マウスでは、血管損傷と内皮細胞バリアの漏出の示唆として、FITC−デキストランが管の外側で発見された。一方、インターフェロン‐ベータ処置マウスでは脈管構造外の漏出は見られなかった。表1は漏出の領域とみなされた結果を、表2は事前に設定した閾値以上の蛍光強度とみなされた結果を要約した。したがって、インターフェロンベータ処置は、肺における多臓器不全の有害な影響から動物を防御する。これらのデータは、インターフェロンベータ処置が多臓器不全(外科手術、傷害)に罹りやすくなる状況において防御として有用であること、およびすでに進行中の疾患において多臓器不全を治療するのに有用であり得ることを示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
本発明の方法は、さまざまな実施態様の形態で組み込まれ得、そのうちのほんのいくつかのみを本明細書に開示していることは認識されるであろう。当業者には、他の実施態様が存在し、それは本発明の精神から逸脱しないことは明らかである。したがって、記載した実施態様は例示であり、制限的なものと解釈されるべきでない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体内における虚血性再灌流傷害または多臓器不全を予防または治療する方法に有用な医薬製剤を製造するための治療的に活性な薬剤の使用であって、該薬剤が単純インターフェロンベータであり、該薬剤が個体内のアデノシンレベルに影響を与える1つ以上の薬剤と同時に投与されることのない使用を対象とする使用。

【公表番号】特表2009−511453(P2009−511453A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−534034(P2008−534034)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【国際出願番号】PCT/FI2006/000308
【国際公開番号】WO2007/042602
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(504459559)ファロン ファーマシューティカルズ オサケ ユキチュア (9)
【Fターム(参考)】