説明

虫垂炎を診断するための方法およびデバイス

【課題】患者における虫垂炎を診断するための方法を提供する。
【解決手段】患者における虫垂炎を診断するための方法が提供され、この方法は、その患者における虫垂炎の症状のうち少なくとも1つを同定する工程;およびその患者の体液サンプルまたは組織サンプルにおける虫垂炎と示差的に関連する少なくとも1つの分子の存在を同定する工程を包含する。MRP−8/14およびハプトグロビンは、虫垂炎と示差的に関連する分子の例である。本発明の虫垂炎アッセイを実施するためのデバイスおよびキットもまた、提供される。1つの実施形態において、そのデバイスは、試験する血液サンプルのために流水式免疫アッセイ様式である。さらに、虫垂炎と示差的に関連する分子をスクリーニングするための方法が提供され、このデバイスは、虫垂炎と疑われ手術の予定がある患者に由来するサンプルを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の引用
本願は、2004年7月23日付で出願した米国仮特許出願番号60/590,631に対して優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
虫垂炎は、広範な年齢層の人を襲う広く知られた急性の外科的問題である。米国においては、年間約700,000の症例が存在する。大部分の症例は、10〜30歳の群に生じている。十分に早い段階での正確な診断は、より良い臨床成績を達成するために重要な因子である。多くの人が、虫垂炎を示唆するがウイルス感染のような他の病気により生じている症状を彼らの担当医に伝える。虫垂炎患者を他の病気を患う者と区別することは、医師が日常的に直面する厄介な臨床的課題である。医学において虫垂炎およびその処置についての理解は目覚しいものであるが、この疾患を正確に認識または診断する能力は非常に限られたものである。
【0003】
正確かつ早期の診断にたどり着くことを複雑にしているのは、真性の虫垂炎と他の臨床状態とが非常に重なり合っているからである。虫垂炎に関してはそれ特有の兆候、症状、試験方法、または信頼性の高い指標を提供することができる手順は存在しないようである。その処置が最も効果的となる虫垂炎の初期段階では特に、画像技術は虫垂炎を同定して特徴付けることにおいて不十分である。画像技術は、その費用が高いこと、またはその研究結果を解釈する訓練を十分に受けた経験豊かな者の能力に依存するということにより、さらに不利な立場にある。このような制約のために、毎年多くの人が、彼らがその不調を誤診されることによりまたは正確な診断が遅れることによって悪影響をうけている。ここで虫垂炎であった場合、診断の遅れは、唯一無二の最も重大な要因であって、その状態を悪化させ、そして、その疾患に関連して合併症に至ってしまう。虫垂炎であるとの誤診は、不必要な外科手術に至るだけでなく、その現実の基礎疾患を適切に治療することの遅れとなり得る。
【0004】
外科医にとっての難題は、虫垂炎であることが疑われる患者において、穿孔の発生率を増大させてしまわずに報われない虫垂切除を最小限にする方法である。この非常にありふれた病気を効率よく処置するために切望されるのは、疾患過程の初期段階を認識し得る簡便で信頼性の高い診断試験である。
【0005】
虫垂炎の代表的な病因は、その管腔の閉塞に端を発するが、その器官の初期の炎症状態が進行することで、その閉塞に拍車をかける。虫垂の分泌粘液がその閉塞された管腔を満たすことで、内腔圧の増大および膨張が生じる。この増大した内腔圧は、毛細管内の灌流圧のレベルを超えてしまい、正常なリンパ流および血液運搬における排液を揺るがす結果となり得る。最終的に、その虫垂は、虚血状態と為り得る。この虫垂粘膜は機能障害を起こし、腸内細菌侵入を許容してしまう。進行した症例では、その虫垂における穿孔も生じ、腹膜腔内に膿がもれ出るようになる。
【0006】
現在のところ、虫垂炎の診断は困難であり、そして、その困難性は、その病状の進行における種々の段階で一貫している。以下の事項は、段階および関連する臨床像の推測に基づく記述を示す。当業者は、患者集団においてかなりの程度のバリエーションが生じることを認識する。
【0007】
炎症の初期段階では、患者は、多様な非特異的な特徴および症状を与える。閉塞した際
に、現れ出るものとしては、臍周囲痛、軽い痙攣および食欲減退が挙げられる。内腔圧の増大および膨張に進行することは、右下腹部に疼痛が局所化すること、悪心、嘔吐、下痢および微熱に結びつく。穿孔が生じた場合、患者は、重度の疼痛および高熱に見舞われ得る。この非常に進行した段階では、敗血症は、死に至る可能がある非常に危険性が高いものである。
【0008】
現在、当業者は、虫垂炎診断を支援するいくつかのツールを使用する。これらのツールとしては、身体検査、臨床検査、および他の手順が挙げられる。慣用的な臨床検査としては、分画情報を伴ったまたはそれを伴わない総血球数(Complete Blood Count;CBC)および尿検査(UA)が挙げられる。他の試験としては、腹部のコンピュータ断層撮影(CT)、および腹部超音波検査法が挙げられる。処置としては、例えば、腹腔鏡検査および診査外科手術が挙げられる。
【0009】
Flumらは、虫垂切除に先立つ誤診の頻度が、特定の技術が利用可能なったことにより減少するか否かを決定することを試みた(Flum DRら, 2001)。これらの技術としては、コンピュータ断層撮影(CT)、超音波検査法および腹腔鏡検査法が挙げられ、これらは、虫垂炎か否か不確かである兆候を提示する患者について示唆された。Flumらは、以下に示すように結論付けている:「予想と対照的に、不必要な虫垂切除に至ってしまう誤診の頻度は、コンピュータ断層撮影(CT)、超音波検査法および腹腔鏡検査法を用いても変化しないばかりか、穿孔についてもその頻度は、減少しなかった。これらのデータは、集団レベルにおいても、虫垂炎の診断は、最新診断検査が利用可能であっても改善していないことを示す」。虫垂炎の誤診率は、弾性においては約9%であり、女性においては約23%である(Neary,W.,2001)。
【0010】
骨髄関連タンパク質複合体(Myeloid−related Protein Complex 8/14;MRP−8/14)は、急性炎症性状態に関連するヘテロダイマー複合体である(総説としては、StrizおよびTrebichavsky,2004を参照)。この複合体は、タンパク質のS100スーパーファミリーに属し、この複合体は、S100A8/9, L1マクロファージ阻害関連タンパク質(S100A8/9,
L1 , macrophage inhibitory related protein)およびカルプロテクチン(calprotectin)を参照する。このヘテロダイマーは、8キロダルトンのサブユニット(MRP−8)および14キロダルトンのサブユニットからなる。あるいは、MRP−8およびMRP−14は、それぞれ、S100A8/カルグラニュリン(calgranulin)およびS100A9/カルグラニュリンbと名称が与えられています。MRP−8/14は、もともとはマクロファージにおいて発見されたカルシウム結合タンパク質です。高濃度のMRP−8/14を発現する好中球が、慢性関節リウマチ、炎症性腸疾患および同種移植片拒絶反応を含む種々の炎症状態において見出されています(Froschら,2000;Limburgら,2000;Burkhardtら,2001)。
【0011】
MRP−8/14は、炎症に対して常に診断的ではない。例えば、憩室炎(inflammatory diverticuli)の存在に対しては信頼性の高い指標を与えない(Gasche, C. 2005)。一般に、リンパ球は、MRP−8/14を含んでいないので(Hycult Biotechnology, Monoclonal Antibody to Human S100A8/A9)、MRP−8/14は、リンパ球の存在により特徴付けられる炎症に対して診断せず、MRP−8/14は、好中球の存在によって特徴付けられる炎症に対しても診断しない。また、このタンパク質は、日和見感染に常に関連するわけではない(Froland, M. F.ら,1994)。
【0012】
ハプトグロビン(haptoglobin)は、溶血後に遊離したヘモグロビンに結合
する急性期のタンパク質である。このハプトグロビン−ヘモグロビン複合体は、肝臓によって取り除かれる。ハプトグロビンは、2つのαサブユニットと2つのβサブユニットから構成されるヘテロテトラマーである。このαサブユニットおよびβサブユニットは、単一のポリペプチド鎖前駆体に由来するものであり、この前駆体が酵素より切断されてこれらのサブユニットを生じる。これらのサブユニットの分子量は、αおよびβ、それぞれ、約9kd〜18kdおよび約38kdである。
【0013】
ヘモグロビンスカベンジャーであることに加え、ハプトグロビンは、広範な生物学的機能を有している(Dobryszycka,1997)。ハプトグロビンは、ことによると、単球機能を調節することによって上方制御され、特定の感染よび炎症状態における免疫応答を調節することが示されている(Arredouaniら,2005)。このαサブユニットは、卵巣癌に対する可能性を秘めた有用な血清マーカーであることが実証されてきた(Yeら,2003)。
【0014】
虫垂炎を正確に診断する能力は、虫垂炎に示差的に関連する分子の同定によって非常に増大された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
(発明の要旨)
本発明は、患者における虫垂炎を診断するための方法を提供し、この方法は、その患者における標準的な少なくとも1つの虫垂炎の症状を同定する工程;およびその患者の体液サンプルまたは組織サンプルにおける虫垂炎と示差的に関連する少なくとも1つの分子の存在を同定する工程を包含する。虫垂炎の診断は困難であり、それゆえにしばしば誤診を招くものと当該分野では認識されている。したがって、本明細書において使用される場合、用語「虫垂炎を診断する(診断すること;診断する工程)」は、通常の精度よりも良好な精度で虫垂炎を診断することを意味する。しかし、実際のところ、本発明の方法は、正確な診断という改善を提供することが示されるだけでなく、偽陽性および偽陰性についてもなきに等しい。
【0016】
虫垂炎と「示差的に関連する(関連した)」分子に関する用語「示差的に関連する(関連した)」は、以下の(1)〜(4)のような分子についていう:(1)虫垂炎を有する患者に存在するが虫垂炎を有さない患者においては存在しない分子;(2)虫垂炎と非虫垂炎との間で区別される相対レベル(相対量)を有する分子;(3)虫垂炎の他の症状の存在とともに、存在するかあるレベルで存在して、それにより虫垂炎であると診断する分子;および/または(4)虫垂炎以外の状態と関連する症状がない状態で、存在するか、またはあるレベルで存在して、それにより虫垂炎であると診断する分子。
【0017】
このような分子の診断レベルはまた、本明細書中で「閾値(しきい値)」(「threshold amount」または「threshold level」)として参照される。この虫垂炎に示差的に関連する分子は、好ましくは、タンパク質抗原である。
【0018】
虫垂炎の標準的な症状としては、以下のものが挙げられる:腹部における疼痛;臍周辺から始まり右下腹部へと移動する疼痛;食欲不振(食欲減退);眠気を伴う摂食時の困難;疼痛が生じた後に始まる悪心;疼痛が生じた後に始まる嘔吐;疲労感を伴う嘔吐;便秘;粘液を伴った少量の便;下痢;ガスの不通状態;微熱;腹部膨隆;腹部における疼痛の悪化;しぶり(腸管を動かす必要がある感覚);高熱;および白血球増加。血漿粘度の増大もまた、虫垂炎に関連する。本発明の1つの実施形態において、虫垂炎の症状のうち少なくとも2種以上が、同定される。
【0019】
本発明の1つの実施形態において、患者は、選別されて、「阻害状態(interfering condition)」、すなわち、その分子がその型の試験されるサンプルに存在する別の状態を有するか否かを決定する。患者は、その患者がこのような阻害状態を有さない場合に、その分子の存在について試験される。または、その患者は、その患者がこのような阻害状態を有する場合に、その分子の虫垂炎診断レベルの存在について試験する。患者が阻害状態を有するときの虫垂診断レベルは、阻害状態を有するが虫垂炎を有さない患者において存在するレベルよりも高いレベルである。阻害状態としては、移植したばかりの同種移植片(recent allograft);敗血症;髄膜炎;肺炎;結核;慢性関節リウマチ;消化器癌;炎症性腸疾患;皮膚癌、歯周炎、子癇前症、およびAIDSが挙げられる。
【0020】
サンプルは、体液または組織であり得、そして、このサンプルとしては、全血、血漿、血清、乳、尿、唾液および/または細胞が挙げられる。糞便サンプルも、使用され得る。好ましくは、組織サンプルおよび糞便サンプルは、試験処理の前に液化される。
【0021】
本発明の1つの実施形態において、2種以上の虫垂炎に示差的に関連する分子が、試験される。さらなる分子について同定することは、その方法においてより高い精度を提供する。
【0022】
ある種の虫垂炎と示差的に関連する分子は、MRP−8/14である。別のものとしては、ハプトグロビンである。これらの分子の両方は、虫垂炎を診断する工程において試験され得る。
【0023】
約1〜11μg/mlの範囲にあるMRP−8/14レベルは、虫垂炎を有さない患者において存在する。これより高いレベルは、虫垂炎を診断する際の高い精度を提供する。約10μg/ml、約11μg/ml、約13μg/ml、約15μg/mlまたは約20μg/mlよりも高いレベルは、虫垂炎を診断するために使用され得る。約27〜139mg/dLの範囲にあるハプトグロビンレベルは、虫垂炎を有さない患者において見出されている。これより高いレベル、例えば、125、130、135、139および150よりも高いレベルにより、虫垂炎を診断する際により高い精度を提供する。
【0024】
本発明の方法において試験され得るか、または上述の分子に加えて試験され得る他の分子としては、以下のものが挙げられる:消化管に特有の構造タンパク質、ストレス関連炎症メディエータ(stress−related inflammatory mediators)、免疫学的因子(immunologic factors)、腸内細菌叢に関する指示因子、プラスミノゲンアクチベータインヒビタ−1、脂肪酸結合タンパク質、核内因子κβ(NFκβ)、特異的虫垂抗原(HLA−DR)、炎症関連抗原;および前述のもののいずれかをコードする核酸(MRP−8/14およびハプトグロビンをコードする核酸を含む)。核酸の存在に関して試験する方法は、当該分野において公知である。
【0025】
虫垂炎を有しているものと疑われる患者に由来する第一のサンプルを得る工程を包含する本発明の方法はまた、虫垂炎と示差的に関連する少なくとも1つの分子をプロセスにより同定する工程を包含し得、このプロセスは、虫垂炎を有する第二の患者から第二の体液サンプルまたは組織サンプルを得ること;少なくとも1つの虫垂炎の症状により特徴づけられる非虫垂炎状態を有する第三の患者から第三の体液サンプルまたは組織サンプルを得ること;および上述の第二のサンプルおよび上述の第三のサンプルを分析して、第二の患者において虫垂炎と示差的に関連する分子を検出して、それによって、上述の分子が虫垂炎と示差的に関連すること;および上述の分子の存在または第一のサンプルよりも増大した分子の存在を同定して、その患者における虫垂炎を診断することを包含する。虫垂炎に
示差的に関連する分子を同定するこのプロセスの候補分子としては、消化管に特有の構造タンパク質、ストレス関連炎症メディエータ、免疫学的因子、腸内細菌叢に関する指示因子、プラスミノゲンアクチベータインヒビタ−1、脂肪酸結合タンパク質、核内因子κβ(NFκβ)、特異的虫垂抗原(HLA−DR)、炎症関連抗原、および前述のもののいずれかをコードする核酸が挙げられる。
【0026】
本発明はまた、虫垂炎と示差的に関連する分子を同手するための方法も提供し、この方法は、虫垂炎の疑いが持たれて外科手術を受ける複数の患者の各々からサンプルを得る工程;その患者が虫垂炎を有するか否かを外科手術の間に決定する工程および虫垂炎と示差的に関連する分子の存在に関してそのサンプルを分析する工程を包含する、方法。そのサンプルは、血液サンプルまたは虫垂組織のサンプルであり得る。この方法はまた、そのサンプル中で虫垂炎に示差的に関連するとわかった分子の各々の量を決定する工程を包含し得る。本発明の1つの実施形態では、組織中の分子の同定の後に、血漿中においてもその分子が同定される。これは、血液のサンプルが、虫垂炎を有すると疑われる患者から採られることを必要とされる。虫垂炎を有さない患者と比較した場合に、虫垂炎を有する患者における虫垂炎と示差的に関連する分子の量もまた決定される。
【0027】
本発明の虫垂炎を診断するための方法が、試験デバイス(例えば、カートリッジ試験デバイスおよび試験紙型デバイス(dipstick test device)および/または虫垂炎と示差的に関連する分子の有無を決定するための他の手段を使用すること工程(例えば、ウエスタンブロット、ノーザンブロット、ELISA試験、タンパク質機能試験、PCRおよび当該分野で公知となっている他のアッセイを実施する工程)を包含する。虫垂炎を有さない患者においても存在していて虫垂炎を有する患者では上方制御されている虫垂炎に示差的に関連する分子を試験する場合、患者の体液および組織に存在する分子の相対量ならびにその分子の正常時(mere)の存在量が必要とされる。カートリッジ免疫アッセイは、本明細書で記載したような分子の相対量に関する情報を提供するように設計され得る。当該分野で公知である他のアッセイとしては、ELISAおよび医療用アッセイデバイス(例えば、Beckman Coulter製のSynchron LX system)などが挙げられ、このような他のアッセイは、患者に存在するそのような分子の量を提供するために使用され得、次いで、この量は、虫垂炎を有さない患者に存在する量と比較されてその患者が虫垂炎を有するか否かを決定する。
【0028】
虫垂炎を診断するための方法は、虫垂炎と示差的に関連する分子に対するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を使用して免疫学的アッセイを行う工程を包含し得る。このような抗体は、過度な実験を伴うことなく当該分野において既知の手段によって作製され得る。
【0029】
本発明はまた、サンプル中で虫垂炎と示差的に関連する分子の存在を検出するための免疫試験デバイスを提供する。このデバイスは、モノクローナル性またはポリクローナル性である、上述の分子に対する一次抗体、そのモノクローナル性またはポリクローナル性である一次抗体に対する支持体、そのモノクローナル性またはポリクローナル性である一次抗体と上述のサンプルを接触させるための手段、およびその分子とモノクローナル性またはポリクローナル性である一次抗体の結合を検出し得る指示因子を備える。
【0030】
上述の分子とその抗体が結合することを検出する工程は、その抗体/分子複合体を、その複合体における分子部分または抗体部分に結合する標識した二次抗体に対して、結合させることを包含する。
【0031】
この試験デバイスは、カートリッジ型、試験紙型(dipstick)または当該分野で公知である他の構造体の形態で存在し得る。この試験デバイスはまた、使用時の指示、
試験結果を非虫垂炎患ついて行った同じ種類の試験の結果と比較するための指示書、付加的な試薬(例えば、非虫垂炎患者に由来する細胞または体液)、ならびに当該分野で公知の他の試薬を備えるキットの一部分であり得る。この型のアッセイデバイスは、当該分野で公知であり、そして、例えば、米国特許第2003/0224452号公報に記載されている。
【0032】
虫垂炎を診断するための方法は、サンプル中の分子のレベルを、虫垂炎を有さない人におけるその同じ種類の分子のバックグラウンドレベルを比較する工程を包含する。この比較は、当該分野で公知である任意の手段によってなされ得る。これは、サンプルの結果を、虫垂炎を有さないことが既知である人から得た第二のサンプルによる結果と比較する工程、またはサンプルの結果を、虫垂炎を有さない人から得た結果についての写真または他表現形式とを比較する工程を包含し得る。非虫垂炎レベルをマスキングするための手段(例えば、非虫垂炎レベルを示す指示因子と同じ色または色調を有する支持体;または非虫垂炎レベルを示す指示因子と同じ色または色調を有するフィルター)を有する試験デバイスが利用され得、その結果、虫垂炎を示す高いレベルのみの分子が例えば、目測で検出可能であり得る。本発明の方法は、非虫垂炎サンプルにおいて代表的な、その分子のバックグラウンドレベルを有するコントロール液、ならびに上述したように着色支持体および/または光学フィルタを使用することが包含され得る。
【0033】
そのサンプルが血液ある場合、その方法は、アッセイするべき血漿または血清を分離するために当該分野で公知の手段(例えば、ろ過または遠心分離)によりその血液を処理する工程を包含する。
【0034】
抗体支持体は、当該分野で公知である。本発明の1つの実施形態において、抗体支持体は、抗体が着脱可能にまたは固定して付着される吸着性のパッドである。本発明のデバイスにおいて、その分子と結合する抗体を検出すると当該分野で知られている任意の指示因子手段が、使用され得る。この指示因子手段としては、選択したタンパク質に結合する標識した、モノクローナル性またはポリクローナル性の二次抗体が挙げられ、これは、好ましくは、モノクローナル性またはポリクローナル性の一次抗体が結合するエピトープとは実質的に異なる選択されたタンパク質上のエピトープに結合し、その結果、モノクローナル性またはポリクローナル性の一次抗体の結合が、その二次抗体の結合を阻害することはなく、その逆もない。この指示因子手段は、また、試験ウィンドウを備えており、ここから、標識した抗体を確認できる。当該分野における公知に標識は、二次抗体を標識するために使用され得る。本発明の1つの実施形態において、その標識は、金コロイドである。その二次抗体は、モノクローナル性またはポリクローナル性である。本発明の1つの実施形態において、その一次抗体は、虫垂炎と示差的に関連する分子の特定のポリペプチド配列を使用して作製した、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であり、そして、その二次抗体は、上述の分子における異なる部位に結合するかまたは一次抗体に結合する、異なるポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体である。MRP−8およびMRP−14に対する抗体は、Cell Sciences(Canton,MA)により市販されている。本発明の方法において有用なハプトグロビンに対するモノクローナル抗体は、当該分野で公知であり、例えば、米国特許番号5,552,295号に記載されている。
【0035】
本発明の1つの実施形態において、アッセイされるサンプルは液体であり、そして、その免疫試験デバイスは、側方流(lateral flow)デバイスであって、このデバイスは、液体サンプルを流してその抗体と接触させるインレット手段を備える。この試験デバイスもまた、その試験が適切に進行することを確実にするための流量制御手段を備え得る。このような流量制御手段は、サンプル液が適切に流れることを確認するために手段として検出抗体を捕捉する支持体に結合したコントロール抗原を含みます。あるいは、
この流量制御手段は、コントロール領域に捕捉抗体を備え、これにより、検出抗体を捕捉して、適切なこのデバイス内で生じることを再度示します。
【0036】
上述のデバイスを使用して、虫垂炎と示差的に関連する分子の存在を検出する方法もまた提供され、その方法は、以下の工程を包含する:本発明の免疫試験デバイスを提供する工程;一次抗体をサンプルと接触させる工程;および一次抗体の結合を検出することができる指示因子を読み取る工程。好ましくは、結合は、試験を受けた患者における虫垂炎を示す。これらのデバイスを使用する方法は、別の研究機関にその患者またはそのサンプルを送ることを必要とせずに、医院、緊急処置室、または手術室において実施される。
【0037】
本発明のデバイスは、上述したサンプルを試験するのに有用である。細胞が試験される場合、例えば、その虫垂炎と示差的に関連する分子が血清よりも血球または組織細胞において存在することが疑われる場合、その方法および/またはデバイスは、細胞溶解工程、あるいは界面活性剤、穿刺、または当該分野で公知である他の物理的・化学的プロセスを使用する手段を含む。
【0038】
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1)
患者における虫垂炎を診断するための方法であって、
該方法は、
該患者における虫垂炎の症状のうち少なくとも1つを同定する工程;および
該患者の体液サンプルまたは組織サンプルにおける虫垂炎と示差的に関連する少なくとも1つの分子の存在を同定する工程
を包含する、方法。
(項目2)
項目1に記載の方法であって、上記患者が、上記分子が同定された型のサンプルにおいて該分子の存在に関連する阻害状態を有することが既知ではない、方法。
(項目3)
項目1に記載の方法であって、上記阻害状態が、移植したばかりの同種移植片;敗血症;髄膜炎;肺炎;結核;慢性関節リウマチ;消化器癌;炎症性腸疾患;皮膚癌、歯周炎、子癇前症、およびAIDSからなる群より選択される、方法。
(項目4)
項目1に記載の方法であって、上記体液が血液である、方法。
(項目5)
項目1に記載の方法であって、上記体液が、血清である、方法。
(項目6)
項目1に記載の方法であって、上記分子が、上記患者の組織中で同定される、方法。
(項目7)
項目1に記載の方法であって、虫垂炎と示差的に関連する2種以上の分子が同定される、方法。
(項目8)
項目1に記載の方法であって、MRP−8/14の存在が同定される、方法。
(項目9)
項目1に記載の方法であって、MRP−8/14およびハプトグロビンの存在が同定される、方法。
(項目10)
項目1に記載の方法であって、上記虫垂炎の症状が、腹部における疼痛;臍周辺から始まり右下腹部へと移動する疼痛;食欲不振(食欲減退);眠気を伴う摂食時の困難;疼痛が生じた後に始まる悪心;疼痛が生じた後に始まる嘔吐;疲労感を伴う嘔吐;便秘;粘液を伴った少量の便;下痢;ガスの不通状態;微熱;腹部膨隆;腹部疼痛の悪化;しぶり(腸管を動かす必要がある感覚);高熱;白血球増加;および血漿粘度の増大からなる群より選択される、方法。
(項目11)
項目1に記載の方法であって、少なくとも2種の虫垂炎の症状が、上記患者において同定される、方法。
(項目12)
項目1に記載の方法であって、MRP−8/14またはハプトグロビンの存在が同定され、さらに、少なくとも1つの第二の分子が同定され、該第二の分子は、消化管に特有の構造タンパク質、ストレス関連炎症メディエータ、免疫学的因子、腸内細菌叢に関する指示因子、プラスミノゲンアクチベータインヒビタ−1、脂肪酸結合タンパク質、核内因子κβ(NFκβ)、特異的虫垂抗原(HLA−DR)、炎症関連抗原、および前述のもののいずれかをコードする核酸からなる群より選択される、方法。
(項目13)
項目1に記載の方法であって、少なくとも1つの上記分子を、
虫垂炎を有する第二の患者から第二の体液サンプルまたは組織サンプルを得ること;
少なくとも1つの虫垂炎の症状により特徴づけられる非虫垂炎状態を有する第三の患者
から第三の体液サンプルまたは組織サンプルを得ること;
該第二のサンプルおよび該第三のサンプルを分析して、該第二の患者において虫垂炎と示差的に関連する分子を検出して、それによって、該分子が虫垂炎と示差的に関連すること;および
該分子の存在または第一のサンプルに存在するよりも多い量の該分子の存在を同定して、該患者における虫垂炎を診断すること
を包含するプロセスにより同定する工程もまた包含する、方法。
(項目14)
項目1に記載の方法であって、上記サンプルが、体液サンプルであって、上記分子の同定が、免疫アッセイデバイスで実施される、方法。
(項目15)
項目14に記載の方法であって、上記サンプルが血液である、方法。
(項目16)
項目1に記載の方法であって、上記分子の同定は、上記サンプル中の該分子をコードする核酸配列を検出することにより実施される、方法。
(項目17)
虫垂炎と示差的に関連する分子を同定する方法であって、該方法は、
虫垂炎の疑いが持たれて外科手術を受ける複数の患者の各々からサンプルを得る工程;および
該患者が虫垂炎を有するか否かを外科手術の間に決定する工程;および
虫垂炎と示差的に関連する分子の存在に関してそのサンプルを分析する工程
を包含する、方法。
(項目18)
項目17に記載の方法であって、上記サンプルが血液サンプルである、方法。
(項目19)
項目17に記載の方法であって、上記サンプルが虫垂組織サンプルである、方法。
(項目20)
項目19に記載の方法であって、組織中での上記分子の同定の後に、血漿においても該分子が同定される、方法。
(項目21)
項目20に記載の方法であって、血液のサンプルもまた、上記患者から得られ、虫垂炎を有している患者の血漿中での該分子の量が、虫垂炎を有さない患者の血漿中での該分子の量と比較されて決定される、方法。
(項目22)
項目17に記載の方法であって、上記虫垂炎と示差的に関連する分子が、消化管に特有の構造タンパク質、ストレス関連炎症メディエータ、免疫学的因子、腸内細菌叢に関する指示因子、プラスミノゲンアクチベータインヒビタ−1、脂肪酸結合タンパク質、核内因子κβ(NFκβ)、特異的虫垂抗原(HLA−DR)、炎症関連抗原および前述のもののいずれかをコードする核酸からなる群より選択される、方法。
(項目23)
虫垂炎を有しているものと疑われる患者に由来するサンプルにおいて虫垂炎と示差的に関連する分子の存在を検出するための免疫試験デバイスであって、該デバイスが、
上記分子に対して特異的な一次抗体;
上記一次抗体のための支持体;
上記サンプルと上記一次抗体を接触させるための手段;および
上記分子と上記一次抗体の結合を検出するための手段
を備える、免疫試験デバイス。
(項目24)
項目23に記載のデバイスであって、上記一次抗体が、MRP−8/14に対する抗体である、デバイス。
(項目25)
項目23に記載のデバイスであって、前期一次抗体が、ハプトグロビンに対する抗体である、デバイス。
(項目26)
項目23に記載の免疫アッセイ試験デバイス23であって、上記サンプル中の細胞を溶解するための手段を備える、デバイス。
(項目27)
側方流デバイスである、項目23に記載の免疫アッセイ試験デバイスであって、
液体サンプルを流し、上記一次抗体と接触させるための手段を備える、デバイス。
(項目28)
項目27に記載の免疫アッセイ試験デバイスであって、
血液サンプルから血清または血漿をろ過するためにフィルターを備える、
デバイス。
(項目29)
ハウジング備える、項目23に記載のデバイス。
(項目30)
試験紙型またはカートリッジ型の形態である、項目23に記載のデバイス。
(項目31)
項目23のデバイスと、該デバイスを使用するための指示書を備える、項目23に記載のキット。
(項目32)
虫垂炎に示差的に関連する分子の存在を検出する方法であって、
a)項目23に記載の免疫アッセイ試験デバイスを上記サンプルと接触させる工程;および
b)結合を検出する手段の結果を読み取る工程
を包含する、方法。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1A】図1は、(A)正常虫垂組織および(B)患部である虫垂組織に由来するタンパク質の2次元電気泳動画像を示す。タンパク質は、X軸上で等電点分離法により分離し、そして、Y軸上で分子量により分離した。その分子量(キロダルトン)を、左側にしめした。矢印は、上方制御されたタンパク質であるAP−93を示す。
【図1B】図1は、(A)正常虫垂組織および(B)患部である虫垂組織に由来するタンパク質の2次元電気泳動画像を示す。タンパク質は、X軸上で等電点分離法により分離し、そして、Y軸上で分子量により分離した。その分子量(キロダルトン)を、左側にしめした。矢印は、上方制御されたタンパク質であるAP−93を示す。
【図2】図2は、正常組織(N)および患部組織(A)のMRP−14 ウエスタンブロット分析の結果を示す。番号は、サンプル識別番号(ID)である。分子量は、キロダルトンで示される。
【図3】図3は、正常組織(N)および患部組織(A)のMRP−8ウエスタンブロット分析の結果を示す。番号は、サンプル識別番号(ID)である。分子量は、キロダルトンで示される。
【図4】図4は、ELISAにより決定される、正常血清および虫垂炎血清におけるMRP−8/14の相対レベルを示す。これらのレベルは、虫垂炎を有さない患者の平均に対する割合で与えており、この割合は、本明細書中で、「増加(倍)」として参照される。「色濃いバー」は、虫垂炎を有する患者に由来するサンプルを示す。白いバーは、虫垂炎を有さない患者に由来することを示す。
【図5】図5は、(A)正常患者および(B)虫垂炎患者に由来する除去処理した血清サンプルにおけるタンパク質の2次元電気泳動画像である。X軸では等電点分離法、そして、Y軸上では分子量により分離した。分子量(キロダルトン)を、右に示した。この尾部がある矢印は、上方制御されたタンパク質であるAP−77 (ハプトグロビンαサブユニット)を示す。この尾部がない矢印は、患部においても正常部であっても等しく大量にあったコントロールタンパク質を示す。
【図6A】図6は、正常(A)虫垂組織および患部(B)虫垂組織(穿孔あり)の2次元電気泳動像である。タンパク質は、X軸上で等電点分離法により分離し、そして、Y軸上で分子量により分離した。その分子量(キロダルトン)を、左側にしめした。矢印は、上方制御されたタンパク質であるAP−91(ハプトグロビンαサブユニット)を示す。
【図6B】図6は、正常(A)虫垂組織および患部(B)虫垂組織(穿孔あり)の2次元電気泳動像である。タンパク質は、X軸上で等電点分離法により分離し、そして、Y軸上で分子量により分離した。その分子量(キロダルトン)を、左側にしめした。矢印は、上方制御されたタンパク質であるAP−91(ハプトグロビンαサブユニット)を示す。
【図7】図7は、ハプトグロビンの分布を示す。正常(N)組織および患部(A)組織のハプトグロビンウエスタンブロット分析。ここでの番号は、サンプル識別番号(ID)を示す。分子量は、キロダルトンで示した。このαサブユニットおよびβサブユニットは、それぞれ、>20kdおよび38kdである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
(詳細な発明)
虫垂(vermiform appendix)は、大腸からも小腸からも独立した器官として認識されている。下行結腸の基部から指の形状した小袋として延びており、これは、盲嚢とも呼ばれている。この虫垂は、小腸や大腸にように、中空であって、それらと同じような3つの組織層から構成されている。これらの三層は、粘膜、筋層、漿膜である。この虫垂の管腔は、盲嚢の管腔と円形の開口部(os)を介して連結されており、この開口部を通じて、その虫垂は、その分泌物を糞便流に加える。これらの分泌物は、その虫垂の粘膜から産生される過剰な粘液である。この粘液を含むことに加えて、その虫垂は、右結腸では一般的である多くの細菌を含む。その虫垂の管腔の閉塞は、急性虫垂炎を生じる主要な要因である。糞石は虫垂閉塞の通例の原因であるが、肥大したリンパ組織、以前に受けたX線検査によるバリウムの濃化、野菜および果物の種子、および回虫のような腸内寄生虫もまた、虫垂の管腔を閉塞させてしまう可能性がある。
【0041】
管腔の閉塞の後に、事態の悪化が結果として起こる。その虫垂の近位の閉塞によって、通常であれば盲嚢に流れ込む虫垂粘液の流れを阻止してしまう閉じたループ状の閉塞部を生じてしまう。その虫垂粘液の連続した正常な分泌は、その虫垂の管腔の容量(約0.1cc)を極めて速く満たしてしまう。その虫垂の管腔の許容限界に一旦達してしまうと、その閉塞した虫垂からさらに粘液が産生されると、その器官内の内腔圧を上昇させる。この上昇した内腔圧は、その虫垂壁に外側に向かって働き、その虫垂の膨張を引き起こす。この膨張は、内臓痛求心性繊維(visceral afferent pain fibers)の神経末端を刺激して、腹部中央または心窩部の下部(lower epigastrium)に鈍く、だるい拡散性の疼痛を生じる。蠕動もまた、その突然の膨張により刺激を受けて、いくらかの痙攣が、虫垂炎の過程に初期において内臓痛に伴う。
【0042】
虫垂の膨張が、連続的な粘液分泌からのみでなく、虫垂の腸内細菌の速い増殖から続き、その器官内の圧力が上昇するにつれて、その虫垂壁内の静脈圧が限度をこえてしまう。次いで、この増大する内圧は、毛細管および小静脈を閉塞し、小動脈流のみが流れ続けるので、充溢および鬱血を生じる。この大きさの膨張は、通常は、反射的な悪心および嘔吐を生じ、その拡散性の内臓痛は、より重篤となる。この炎症性過程は、すぐに、その虫垂の漿膜を巻き込み、ついで、その領域の側腹膜を巻き込み、右下腹部(right lower quadrant;RLQ)へと疼痛の特徴的な移動が生じる。この疾患過程は、実際に進行すると、疼痛がそのRLQに局所化する。
【0043】
この消化管(虫垂を含む)の粘膜は、不完全な血液供給に非常に強く影響を受ける。したがって、粘膜の完全性は、その過程に初期に機能障害を起こし、それよりも深い位置にある組織層に対して細菌が侵入することを許容してしまう。この細菌侵入によって、種々の細菌性毒素の全身放出を生じてしまう。発熱、頻脈、および白血球増加が、その壊死した組織産物と細菌性毒素が全身に放出された結果として、進行する。進行性虫垂膨張(progressive appendiceal distention)が生じると、細動脈圧に対する侵害(encroach)、虫垂漿膜の対腸間膜の境界において楕円形の梗塞が発生する。膨張すると、細菌侵入が血液供給に障害を生じさせ、梗塞が進行し、対腸間膜の境界上の梗塞領域のうちの1つを貫通する穿孔が生じる。次いで、この貫通によって細菌が放出され、腹腔内に毒素が放出される。
【0044】
虫垂炎は、「重大な模倣者(great imitator)」といわれている。その類義語は、他の状況のものと頻繁に混合される。この混同は、その過程の初期の疼痛の非特異的性質および虫垂炎がどのように進行するかにおける変動性から生じる。腹部の右下四半分における疼痛は、虫垂炎の顕著な特徴であるが、これは、代表的には、その患者が最初に認めるものではない。その虫垂の内腔が最初に妨げられると、その患者は、虫垂内腔が、粘液で満たされる機会がまだなかったので、症状があるとしても、ごくわずかしかない。虫垂内腔が満たされるのに必要とされる時間は、閉塞の後に利用可能な内腔容積に比例する。これは変動性でありかつ予測不能である。なぜなら、その容積は、個々の虫垂の大きさに依存し、正確には、糞石もしくは他の閉塞がその長さに沿って位置する場所に依存するからである。その糞石もしくは他の閉塞が虫垂の先端近くに存在する場合、その利用可能な容積は比較的小さく、その症状または穿孔に達するまでの時間は短い。対照的に、その糞石もしくは他の閉塞が虫垂の基部近くに存在し、考えられる最大の虫垂容積を提供する場合、その逆もまた真である。
【0045】
一旦その虫垂が膨張し始めると、その虫垂炎患者は、通常、その腹部の中心部において非特異的な違和感を覚え始める。この違和感は、一般的な病気(例えば、消化不良)、便秘またはウイルス性疾患と混同しやすい。継続した虫垂膨張には、いくらかの悪心、および頻繁には嘔吐が付随する。稀には、重篤なまたは容赦のない嘔吐が生じ、これらによって、一般的な病気とさらに混同されやすくなる。
【0046】
虫垂炎の進行の後期には、虫垂の最外層にまで炎症が進行する。この最外層は漿膜とよばれ、そして、それは、腹膜とよばれる腹腔の内側層に接触する。この接触によって、腹膜に炎症が起こされ、その虫垂がその腹膜に接触しているところがどこであれ、焼け付くような痛み(focal pain)とともに虫垂炎患者により知覚されるような腹膜炎が生じす
る。これはまた個人差があるものである。この虫垂は、マクバーニー(McBurney)ポイントとして知られている領域のもとほとんどの場合は右下腹部に局在する。マクバーニーポイントは、前腸骨棘から臍に向かった直線の約三分の二程度の距離にある位置である。しかし、この虫垂は、他の位置に存在する場合もある。この場合は、虫垂による腹膜炎が異常な位置に存在する。これは、虫垂炎の場合に誤診を生じ、外科医処置を遅延させ得るよくある要因である。
【0047】
その位置に関わらず、虫垂炎が進行する状況にある場合に、その器官は最終的には穿孔する。これにより、その穿孔した虫垂近くの腹腔は重篤な感染症を引き起こし得る細菌によって汚染される。通常、この感染によって、局所化した腹腔内の膿瘍または蜂巣炎に至り、全身性の敗血症を引き起こし得る。
【0048】
虫垂炎に示差的に関連する分子を同定するために、プロテオーム的研究方法が使用された。急性虫垂炎を有する患者における虫垂組織に存在するタンパク質複合体であるMRP−8/14を同定した。虫垂炎と非常に高い相関性をもつこの複合体の性質のために、発
明者らは、見かけ上虫垂炎である患者におけるMRP−8/14血清レベルを調べるに至った。MRP−8/14は、虫垂炎症を有さない見かけ上虫垂炎を有する患者と比較して、虫垂炎を有する患者において有意に高かった(p<0.02)。この血清におけるMRP−8/14の供給源は、炎症した虫垂組織である。これは、MRP−8/14の既知の機能と矛盾しない。
【0049】
炎症におけるMRP−8/14の役割は、完全に理解されているわけではなく、毛細管内に白血球を保持するという重要な役割を担っているようである。細胞外MRP−8/14は、硫酸ヘパリン(heparin sulfate)、および具体的にはカルボキシル化グリカンと結合することで内皮細胞と相互作用する(Robinsonら,2002)。このMRP−8/14が内皮細胞に結合することによって誘導される、この細胞内シグナル伝達経路およびエフェクター作用機序は、十分に規定されていない。しかし、食細胞とMRP−8/14との相互作用によって、インテグリンレセプターCD11b−CD18の結合活性が増大される。これは、血管内皮に対する白血球の主要な接着経路の1つである(Ryckmanら, 2003)。このMRP−8/14が、終末糖化産物レセプター(RAGE)を利用すると考えられている。MRP−8/14,S100A12の相対量は,内皮細胞により発現されるRAGEの特異的なリガンドであり、それらの相互作用によって、これらの細胞におけるNFκB結合を活性化する(Hsiehら,2004)。このNF−κB結合によって、その後、多くの炎症誘発性分子(例えば、種々のサイトカインまたは接着性分子)の発現が誘導される。したがって、S100タンパク質の放出および細胞外機能は、ポジティブフィードバック機序を示し、これによって、食細胞が、炎症部位に対して白血球の補充を促進する。あわせて考えると、これらのタンパク質は、特定の炎症状態における基礎的な炎症応答において役割を果たしおり、虫垂組織炎症の優れたマーカーである。
【0050】
好中球は、血液循環から炎症部分に移動するもののうち最初の白血球細胞である。好中球において、上述のMRP−8/14複合体が、細胞質ゾルタンパク質の総量の約40%が構成している。このタンパク質は、マクロファージ系細胞おいて特異的に発現されており、血液単球および急性活性化マクロファージを、そのタンパク質の他の白血球細胞供給源とする。MRP−8/14は、リンパ球においても常在性のマクロファージまたは慢性炎症に関与するそれらのマクロファージにおいては通常発現されない。上述の2種のタンパク質も、急性炎症について具体的に言及すると粘膜上皮により独立して発現されることが知られている。
【0051】
虫垂炎の場合、その管腔の閉塞およびその結果としての虫垂壁の膨張によって、炎症応答が誘発される。次いで、循環好中球が、この領域に補充され、活性化マクロファージも補充される。このタンパク質複合体の発現は、炎症におけるマクロファージの活性と関連しているが、他方で、MRP−8/14と細胞活性との間の正確な関係は、よく知られていない。既知であるのは、MRP−8/14の細胞内分布がマクロファージの活性状態とともに変化することである。正常なマクロファージは、細胞質ゾルにその複合体を含んでいるが、一旦刺激されると、MRP−8/14はその細胞質ゾルから細胞膜へと移動する(具体的には、細胞骨格のタンパク質とともに移動する)。このことより、以下のことが示唆される。すなわち、MRP−8/14は、細胞移動、食作用、炎症性シグナル伝達に関連し得る。細胞移動およびシグナル伝達の役割もまた、MRP−8/14が虫垂内の血管の裏打ちされているような血管内皮から直接産生される理由を説明する。
【0052】
特定の炎症におけるその役割に関わらず、急性炎症の細胞においてMRP−8/14が大量に存在することが、MRP−8/14を非常に優れた検出因子および急性虫垂炎のモニターにする。この炎症過程の初めの段階は、好中球およびマクロファージを特定の部位に取り込むことである。発明者らの研究において、この特定の部位は虫垂であり、ここで
、そのMRP−8/14を含む細胞が、厄介な刺激を作動させるのである。この作用は、通常、MRP−8/14細胞の死を生じ、細胞質ゾルまたは細胞膜のいずれかから患者の循環系にMRP−8/14が放出される。同時に、この虫垂の粘膜内層は、MRP−8/14を産生して放出することでマクロファージ移動または炎症性増幅を促進させる。次いで、このプロセスは、虫垂炎によってMRP−8/14細胞の量が増大されて最終的に循環系にMRP−8/14をさらに多量に放出するにつれて段階的に拡大する。
【0053】
細胞外MRP−8/14の増加を生じさせる炎症状態およびこれらのMRP−8/14の増大が炎症の程度に相関する傾向の他の例も知られている。具体的には、慢性気管支炎、嚢胞性繊維症、および慢性関節リウマチは、全て、MRP−8/14の血清レベルの上昇に関連し、これらの疾患の重篤度は、検出されたMRP− 8/14の血清レベルにほぼ比例する。
【0054】
MRP−8/14の生理学的役割により、MRP−8/14は急性虫垂炎に対する理想的な臨床マーカーとなる。通常、虫垂炎を有する患者は、若年であり、かつ健康的であるので、これらの患者は、一般的に、非常に強い炎症応答を生じる。この強力な応答では、その疾患の初期段階においてMRP−8/14を遊離させ、虫垂炎の進行を促すものと考えられる。さらに、MRP−8/14のレベルが上昇すること関連していると知られている疾患は、通常は、これより若い群においては一般的ではなく、虫垂炎と類似する総合的症状を生じることはない。最後に、MRP−8/14がリンパ球増殖において位置づけられず、またはリンパ球増殖に関連もしない場合、このマーカーは、ウイルス感染の際に増加するとは考えられない。これは、虫垂炎を診断する非常に強力な利点である。なぜならば、ウイルス感染は、虫垂炎の最も一般的な支持因子の1つであるからである。
【0055】
ハプトグロビンもまた、虫垂炎に対する有用なマーカーとして発明において同定された。除去処理した血清を差分化プロテームスクリーニングすることで、虫垂炎のマーカーとしてハプトグロビンを同定した。虫垂組織の二次差分化スクリーニングによって、ハプトグロビンが虫垂炎を有する患者の虫垂組織で上方制御されていることを確認した。この知見は、組織タンパク質のウエスタンブロッティングにより確認した。特に、このαサブユニットアイソフォームは、患部組織においてのみ存在した。ハプトグロビンは、血漿性タンパク質なので、これは虫垂炎に対するバイオマーカーとして非常に価値が高いものである。
【実施例】
【0056】
(実施例1 MRP−8/14)
本研究の目的は、早期の急性虫垂炎を診断するための決定行例に対して一助となる組織特異的マーカーを同定することであった。プロテオームスクリーニングを使用して、急性虫垂炎の場合に特異的に上方制御(アップレギュレート)された虫垂に存在するタンパク質を同定した。MRP−8/14を、急性虫垂炎患者の患部である虫垂および血清の両方おいて存在したものとして同定した。
【0057】
(材料および方法)
「標本および血清の収集」 本研究において記録対象とした全ての患者を、その患者の治療医師により規定される容認された標準的患者管理に従って処置した。発明者らの研究において算入されるあたり診断に先立って、全ての患者は、外科医により評価を受け、その外科医により虫垂炎を患っていると診断された。これらの虫垂炎患者に対するその治療外科医の治療計画として、即時虫垂切除が含まれていた。抗生物質の使用、外科的手技(開腹手術または腹腔鏡を用いる手術のいずれかのもの)のような全ての処置における詳細は、個々の外科医によって決定された。
【0058】
「除外基準」: 先存慢性炎症性疾患(例えば、喘息、慢性関節リウマチ、炎症性腸疾患、乾癬、または好中球減少)を有する全ての患者。妊娠もまた、除外基準であるとして考慮した。
【0059】
研究に携わった者は、本研究について全ての患者と協議のうえ、インフォームドコンセントを得た。インフォームドコンセントの際に、その被験体は識別番号が割り振られ、非個人的個体群統計学的な臨床情報(年齢、性別、人種、症状の持続期間、白血球数算定(White Blood Count;WBC)、画像診断結果など)を得た。外科手術時に、全身麻酔の後に、全血サンプル(5〜10cc容量)を、末梢静脈穿刺により得た。次いで、この血液標本を、氷上に静置した。可能な限り迅速に、炎症を起こした虫垂の少量のサンプル(約1g)を、その病理組織標本から取り、それについても氷上に静置した。次いで、上述の氷上に静置した血液標本を、3000rpmで20分間に亘って遠心分離にかけ、そして、遊離した血清を単離した。次いで、この単離した血清および虫垂組織片を、別々に保存して、−80℃で冷凍した。
【0060】
「虫垂炎組織処理工程」 虫垂切除した患者から得た虫垂組織を収集して、処理を受けるまで−80℃で保存した。個々の組織サンプルを、液体窒素下で滅菌した乳鉢と乳棒を使用することですり潰して粉末にした。抽出緩衝液(0.025M Tris−base, 200mM 塩化ナトリウム、5mM EDTA、0.1%アジ化ナトリウム、pH7.5)中で37℃にてインキュベートすることにより組織粉末からタンパク質を抽出した。サンプルを、14Krpmで10分間に亘り遠心分離した。上清を、分析するまで−80℃で保存した。
【0061】
「抽出した組織サンプルの2次元(2D)ゲル分析」 2Dゲル分析を、除去処理した(depleted)血清サンプルおよび抽出した組織サンプルについて実施した。等電点分離法(Isoelectric focusing;IEF)およびSDS−PAGEを、2Dゲル分析のためのZoom (Invitrogen)プロトコルに従って実施した。各々ゲルにおいて、等量のタンパク質を分析した。
【0062】
陰性であった血清ゲルと陽性であった血清ゲルとの比較によって、どのタンパク質が陽性サンプル中に存在して、陰性サンプル中に存在しないかを決定した。候補となるゲルスポットを同定して、MALDI−TOFタンパク質同定分析(MALDI−TOF protein identification analysis)(Linden Biosciences)に供した。
【0063】
「抽出した虫垂組織サンプルのウエスタンブロット分析」 サンプル(10μg)を、標準的なLaemmli型SDS−PAGEに供して、そして、タンパク質を、化学発光検出を用いる標準的な技術を使用するウエスタンブロット分析のためにニトロセルロースメンブレンに移した。「Magic Mark Western Standard」(Invitrogen)を使用して、分子量を決定した。「MRP−8(Calgranulin A C−19,Santa Cruz,SC−8112)」を、一次抗体のために0.5×Uniblock (AspenBio, Inc)で1:100希釈溶液にて使用した。その二次抗体は、ペルオキシダーゼ抗ヤギIgG(H+L)であり、Uniblockで1:2000希釈溶液にてアフィニティ精製(Vector, PI−9500)した。「MR−14(Calgranulin B C−19,Santa Cruz,SC−8114)」一次抗体のために0.5×Uniblock (AspenBio,Inc)で1:100希釈溶液にて使用した。その二次抗体は、ペルオキシダーゼ抗ヤギIgG(H+L)であり、Uniblockで1:2000希釈溶液にてアフィニティ精製(Vector,PI−9500)した。
【0064】
「血清MRP−8/14の決定」 MRP−8/14の血清レベルを、市販のELISA(Buhlmann S100−Cellion S100 A8/A9)を用いてその製造業者のプロトコルに従うことによりELISAで決定した。
【0065】
(結果)
「虫垂炎患者に由来する虫垂組織に存在するタンパク質の同定」 示差的プロテオーム解析を、急性虫垂炎を患った患者において増大したタンパク質を同定する目的で、除去処理した(depleted)血清サンプルについて実施した。この分析は、正常であった患者に由来するサンプルと穿孔した虫垂を有した患者に由来するサンプルを比較することを伴った。血液サンプルを、外科手術の直前に得た。本研究において正常である治療を受けた者は、腹部の疼痛を示して外科手術を受けたが虫垂が正常であったことが判明したものである。正常である虫垂組織と患部である虫垂組織は、外科手術の間に収集した。
【0066】
2次元電気泳動を使用して4つの正常なサンプルのプールと2つの虫垂炎サンプルのプールとを比較した。図1は、タンパク質の2次元(2D)プロファイルを示す。そのゲルにおける比較を実施して、もっとも明確な差異が、図1BにおいてAP−93として示されている。図1におけるゲルに基づくと、AP−93の分子量は、約14キロダルトンである。その対応するゲルのスライスを、MALDI−TOFにより分析して、確定的な同定を行った。その同定結果は、以下の2つのトリプシンによるペプチドのスペクトルに基づくものである:
【0067】
【化1】

【0068】
このペプチドは、以下のMRP−14のアミノ酸配列(GenBank登録番号P06702)において下線を付した残基に対応する:
【0069】
【化2】

【0070】
MRP−14としてAP−93をMALDI−TOFにより同定した結果は、その分子量の一致によって確認した。このデータに基づくと、MRP−14タンパク質は、正常なサンプルプールよりも患部サンプルプールにおいてずっと量が多かった。
【0071】
「患部である虫垂組織における、MRP−14およびMRP−8の存在」 患部組織におけるMRP−14の存在を確認するために、抗MRP−14抗体を、個々の正常な虫垂および患部虫垂に由来する組織抽出物のウエスタンブロッティングにおいて使用した。図2は、9つの正常サンプルおよび11の虫垂炎サンプルから得られたウエスタンブロットデータを示す。14キロダルトンのバンドが、どの虫垂炎サンプルにおいても存在している。上述の正常サンプルにおいては、シグナルは存在しなかった。このデータによって、本研究のプロテオームスクリーニングによるデータが確認され、このタンパク質が、患部である虫垂組織の指標であることを示す。
【0072】
MRP−8は、MRP−14とダイマーとして存在することが知られているので、MRP−8の存在についても組織標本を調べた。図3は、正常組織サンプルおよび患部組織サ
ンプルにおける抗MRP−8抗体を使用したウエスタンブロットデータを示す。予想されたように、いずれの患部虫垂サンプルにおいて、MRP−8は存在するが、正常虫垂組織において検出されない。これらのウエスタンブロットデータによって、このMRP−8タンパク質およびMRP−14タンパク質が正常な虫垂組織よりも虫垂炎である場合においてきわめて大量に存在することが示される。
【0073】
「急性虫垂炎を有する患者におけるMRP−8/14の血清レベルの増大」 虫垂炎とその虫垂におけるMRP−8/14の存在との間の強い相関性により、発明者らは、それらの患者および本研究にその後加わったその他の患者の血清におけるMRP−8/14レベルを調べるに至った。その血清は、外科手術前に収集され、貯蔵され(banked)、その疾患が状態が判明した後に分析した。MRP−8/14レベルを、この複合体に特異的なサンドイッチELISAを使用して測定した。
【0074】
表1は、Hycult(Netherlands)により製造されてCell Sciences(Canton, MA)により市販されているELISAによって決定した39名の患者について血清MRP−8/14レベルを列記する。この量を、この研究において虫垂炎を有さなかった患者の平均レベルと比較した場合の割合として与えた。虫垂炎を有する患者のすべてが、MRP−8/14において平均通常レベルと比して数倍の増加を示した。この手順を、そのELISA製品に付属する指示書に従って実施した。そのサンプル番号は、そのサンプルに対して番号を振り直したので図2および図3において示されるサンプル番号と対応するものではない。
【0075】
(表1)
【0076】
【表1】

【0077】
発明者らは、虫垂炎患者の虫垂および血清に存在するタンパク質複合体を同定した。そのウエスタンブロットデータに基づいて、虫垂組織におけるMRP−8/14の存在は、疾患にたいして非常に相関している。さらに、血清中のMRP−8/14のレベルが、虫垂炎を示すものである。この増大はその虫垂の組織好中球炎症(systemic neutrophil infiltration)によるこれらのタンパク質の産生の増大のためであり、おそらくは、虫垂自体によるそのタンパク質の直接的な粘膜産生のためであると本発明者らは仮定した。本研究によって、MRP−8/14が急性虫垂炎の有用な臨床標識であることが実証される。MRP−8/14が虫垂炎に示差的に関連した分子であるとの発明者らの発見の後に、発明者らの研究は、Power,C.らの知見(2004年および2005年)により確認された。このPower,C.らは、急性虫垂炎を有する患者の顔面においてこの分子が検出されたことを報告した。
【0078】
(実施例2 ハプトグロビン)
血清および虫垂組織のプロテオームスクリーニングを使用して、発明者らは、ハプトグロビンが、急性虫垂炎を有する患者において上方制御されることを決定した。このハプトグロビンのαサブユニットは、この疾患に関するスクリーニングにおける特に有用なマーカーである。
【0079】
(材料および方法)
標本および血清の収集、虫垂炎組織の処理、抽出した組織サンプルの2Dゲル分析および抽出した虫垂組織サンプルのウエスタンブロット分析を、実施例1に記載したように実施したが、但し、ウエスタンブロット分析については、アフィニティ精製した抗ヒトハプトグロビン(Rockland, 600−401−272)を、1次抗体として0.5×uniblockにて1:5000希釈溶液で使用し;そして二次抗体は、ペルオキシダーゼ抗ウサギIgG (h+l)であり、uniblockにより1:5000希釈溶液でアフィニティ精製(vector,pi−1000)した。
【0080】
(結果)
「虫垂炎患者に由来する虫垂組織において存在するタンパク質の同定」 示差的プロテオーム解析を、急性虫垂炎を患った患者において増大したタンパク質を同定する目的で、除去処理した血清サンプルについて実施した。この分析は、正常であった患者に由来するサンプルと穿孔した虫垂を有した患者に由来するサンプルを比較することを伴った。血液サンプルを、外科手術の直前に得た。本研究において正常である治療を受けた者は、腹部の疼痛を示して外科手術を受けたが虫垂が正常であったことが判明したものである。正常である虫垂組織と患部である虫垂組織は、外科手術の間に収集した。
【0081】
本研究のプロテオーム的な研究方法では、2次元電気泳動を使用して4つの正常なサンプルのプールと4つの虫垂炎サンプルのプールとを比較した。図5は、IgGおよびアルブミンを除去処理した血清により分析したタンパク質の2Dプロファイルを示す。これらのゲルの間での比較を実施して、そのもっとも明らかな差異を、図5BにおいてAP−77として示した。ゲルスポットAP−77のタンパク質を、トリプシンで消化して、MALDI−TOFにより分析した。ここで得られた2種のペプチドは、以下の配列を有していた:
【0082】
【化3】

【0083】
これらの配列をハプトグロビンのαサブユニットとアライメントした。このハプトグロビン前駆体の配列(GenBank登録番号NP005134)を、以下に示し、そのトリプシンによるフラグメントを下線で示した:
【0084】
【化4】

【0085】
図6は、患部の虫垂組織におけるタンパク質と正常な虫垂組織におけるタンパク質との間での2次元電気泳動プロファイルの比較結果を示す。2つのスポット、すなわち、AP−91およびAP−93を、MALDI−TOFにより分析して、確定的な同定結果を決定した。AP−91のタンパク質が、AP−77、すなわちハプトグロビンαサブユニットと同一であることが決定付けられた。
【0086】
「患部である虫垂組織におけるハプトグロビンの増大」 患部である虫垂組織におけるハプトグロビンの存在を確認するために、抗ハプトグロビン抗体を、正常虫垂および患部虫垂の個々からの組織抽出物のウエスタンブロッティンングにおいて使用した。図7は、6つの正常サンプルおよび6つの虫垂炎サンプルによるウエスタンブロットデータを示す。ほとんど全てのサンプルが、いくらかのレベルで38kdのβサブユニットを含むが、虫垂炎の場合には、レベルの上昇が見受けられるようである。20キロダルトン(kd)を超えるバンドが、その虫垂炎サンプルにおいても存在しており、正常な組織サンプルの全てにおいて存在しなかった。このデータによって、上述のプロテームスクリーニングのデータが確認され、そのタンパク質が、患部となった虫垂組織の指標であることを示す。そのαサブユニットが、βサブユニットよりも高い特異性を有している。
【0087】
(実施例3. 体液サンプルを使用する場合の分子の同定方法)
この実施例のバリエーションにおいて、体液サンプルとしては、全血、血清または血漿が挙げられる。このサンプルは、虫垂切除の直前にヒト患者から回収した全血である。その標本は、氷上に静置され、そして、研究室へと輸送される。次いで、この血液は、15分間に亘って3000rpmで遠心分離することによって処理される。次いで、血漿を。別の容器に注ぎ込むことにより分離した。
【0088】
虫垂切除を実施する際に、患者は、虫垂炎(AP)をであるものまたは非虫垂炎であるもの(NAP)として分類される。この分類は、当該分野において公知である、臨床的評価、症状またはその両方に基づく。虫垂炎の場合にとって、その臨床状態もまた、穿刺性であるもの、または非穿刺性であるものとして特徴付けられる。
【0089】
AP患者に由来するサンプルは、必要に応じてプールされ、アリコートに分注される。必要に応じて、プールされていたアリコートを処理して、抗体および血清アルブミンのような選択された成分を取り除く。同様に、NAP患者に由来するサンプルも、必要に応じてプールされ、アリコートに分注され、同じような選択成分を取り除くために必要に応じた処理を伴う。好ましくは、APサンプルおよびNAPサンプルを、同様に様式で処理する。
【0090】
次に、APサンプルおよびNAPサンプルのプールしたアリコートの各々は、当該分野で公知の2次元電気泳動に供される。各サンプル型の結果は、タンパク質の有無および相
対的発現レベルに関して、比較される。好ましくは、当業者は、NAPサンプルにおいては存在しないかまたは比較的低レベルで発現するかそのいずれかである、APサンプル由来のタンパク質に対応するシグナルを検出する。このようなAPタンパク質に対してさらなる特徴づけが実施される。
【0091】
後続の特徴付けとしては、部分アミノ酸配列決定、質量分析法、および当該分野で公知である他の分析技術が挙げられる。その部分アミノ酸配列に対応する遺伝子の全長クローンは、単離され、組換えタンパク質として発現され得る。この組換えタンパク質は、検出のための抗原として使用され得る。あるいは、部分的または全長の組換えタンパク質は、ポリクローナルまたはモノクローナルである特異的な抗体試薬を誘導するか、そうでなければ、その抗体試薬を生成する。この抗体試薬は、患者における抗原の検出の際に使用され、虫垂炎診断を支援する。抗原性分子を組みあわて虫垂炎診断で使用され得る。
【0092】
(実施例4 組織サンプルを使用して分子を同定する方法)
組織サンプルは、虫垂炎(AP)患者および非虫垂炎(NAP)患者から収集される。好ましくは、その組織は、虫垂である。このAPまたはNAPの組織サンプルは、必要に応じてプールされ、AP組織プールまたはNAP組織プールを生成する。このAP組織サンプルおよびNAP組織サンプルの各々は、全てのRNAおよび/またはmRNAの単離のための供給源として使用される。単離する場合、そのAP−RNAおよびNAP−RNAは、別々に維持され、cDNAの調製のために使用される。
【0093】
差分化ライブラリー(subtraction library)を、当該分野で利用可能である技術を利用して作製した。cDNAライブラリーは、必要に応じて増幅される。このcDNAライブラリーは、非常に冗長な種類のものならびに患部サンプルおよび正常サンプルの両方で発現しているような種類のもののような所望しない成分を除くように処理される。この技術の例としては、Bonaldoら(1996)およびDeichmann Mら(2001)によって記載されるような技術が挙げられる。
【0094】
この差分化ライブラリーを生成する際に、その疾患状態において示差的に発現する配列に対応する選択されたクローンを分析し、単離し、そして、配列決定する。分子生物学的技術を使用して、部分または完全なタンパク質の組換え発現のための候補を選択する。次いで、このようなタンパク質は、検出のための抗原として使用される。あるいは、部分的または完全な組換えタンパク質は、ポリクローナルまたはモノクローナルである特異的な抗体試薬を誘導するか、そうでなければ、その抗体試薬を生成する。この抗体試薬は、患者における抗原の検出の際に使用され、虫垂炎診断を支援する。抗原性分子を組みあわて虫垂炎診断で使用され得ることが企図される。
【0095】
(実施例5 血漿サンプル粘度の評価による虫垂炎診断の方法)
全血を、虫垂切除の直前に虫垂炎との疑いある患者から取る。その標本を、氷上に静置して、臨床実験室に輸送した。次いで、この血液は、15分間に亘って3000rpmで遠心分離することによって処理される。次いで、血漿を。別の容器に注ぎ込むことにより分離した。
【0096】
この注ぎ込む工程の間に、そのサンプルを、粘度に関して評価した。粘度の増大は、虫垂炎の指標となる。虫垂炎の症例に対応するサンプルのうち約80%が、粘度が増大するが、他方、非虫垂炎の場合に対応するサンプルの全部が、粘度の増大を示さないか、またはその5%未満のみが、粘度の増大を示す。粘度が増大する程度は、虫垂炎の重篤度と相関することに留意のこと。
【0097】
粘度の測定は、目視検査によって、または当該分野で公知の技術を使用することによっ
て、実施され得る。例えば、「Coulter Harkness capillary
viscometer」(Harkness J.,1963)が、使用される得るか、または他の技術(Haidekker MA,et al.,2002)も使用され得る。
【0098】
血漿内で粘度の増加が存在することが、例えば、以下のもののうちの1つ以上の他の診断技術と併用して利用され得る:身体検査、分画情報を伴ったまたはそれを伴わない総血球数(Complete Blood Count;CBC)、尿検査(UA)、コンピュータ断層撮影(CT)、腹部超音波検査法、および腹腔鏡検査法。
【0099】
本明細書に亘って記載の全ての参考文献、例えば、刊行物、特許および特許文書は、本願における開示内容と各参考文献が矛盾を生じない程度まで、その文献が個別に参考として援用されるがごとく、その全体が本明細書において参考として援用される。
【0100】
用語「含む(包含する、備える)」(「comprise」、「comprises」、「comprised」または「comprising」)が本明細書において使用される場合、これらは、言及した特徴、整数、工程または参照される構成要素の存在を特定するように解釈されるが、1以上の他の特徴、整数、工程または参照される構成要素あるいはその群が存在することまたはそれらを加えることを除外しないと解釈されるべきである。
【0101】
本発明は、種々の具体的なかつ好ましい実施形態および技術に関して記載してきた。しかし、多くのバリエーションと改変が、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、為されえることを理解すべきである。本明細書中で具体的に記載した、組成物、方法、デバイス、デバイスエレメント、材料、手順、技術および実施例ならびにそれぞれのバリエーション以外の組成物、方法、デバイス、デバイスエレメント、材料、手順、技術および実施例ならびにそれぞれのバリエーションも、過度の実験の必要なく広く開示された本発明を実施することに適用される。全ての技術、既知の機能的均等物は、本発明によって包含されることが企図される。ある範囲の開示がある場合、その範囲の部分および個別の値の全てが、本願されることが企図される。本発明は、図面において示されたもの、または本願発明において例示されたものを含む、開示された実施形態によって限定されるべきではなく、これらは、例示として与えたものであって限定される性質のものではない。
【0102】
(参考文献)
【0103】
【数1−1】

【0104】
【数1−2】

【0105】
【数1−3】

【0106】
【数1−4】

【0107】
【数1−5】

【0108】
【数1−6】

【0109】
【数1−7】

【0110】
【数1−8】

【0111】
【数1−9】

【0112】
【数1−10】

【0113】
【数1−11】

【0114】
【数1−12】

【0115】
【数1−13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−282032(P2009−282032A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153020(P2009−153020)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【分割の表示】特願2007−522830(P2007−522830)の分割
【原出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【出願人】(507017107)アスペンビオ, ファーマ, インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】