説明

蛋白質の染色法、脱色法および保存法、また、染色液、脱色液および脱色後の保存液

【課題】電気泳動の結果得られたサンプル、ブロット膜、組織切片の染色、あるいは脱色、または染色や脱色の後の保存操作において、上記した如き煩雑を廃し、安定した染色、脱色、保存性能を有し、かつ安全で、廃液処理も容易にさせる方法と、それに使用する試液を提供することを課題とする。
【解決手段】電気泳動にて分離されたサンプルを含んだ支持体、サンプルを塗布したマイクロプレートあるいはブロット膜、組織切片、組織アレイのいずれかにおける蛋白質の染色、あるいは脱色、または染色や脱色後の保存操作において用いられる溶液の組成中に安息香酸または安息香酸塩を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電気泳動にて分離されたサンプルを含んだ支持体、サンプルを塗布したマイクロプレートあるいはブロット膜、組織切片、組織アレイのいずれかの蛋白質を検出、その結果を保存するに用いる、色素による染色方法、脱色方法、保存方法の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電気泳動にて分離されたサンプルを含んだ支持体、サンプルを塗布したマイクロプレートあるいはブロット膜、組織切片、組織アレイなどの蛋白質画分には色がないことが多い。そのため検出や確認のために有色の色素あるいは蛍光を発する色素による染色が行われている。この目的には酸性色素がしばしば用いられるが、塩基性染料、直接染料、バット染料、媒染染色などの使用も試みられている。いずれの場合にも染色性の向上や、色素の溶解性を安定化させる目的で溶液のpHを低下させることが多い。
【0003】
また、そういった染色操作に続いて行われる脱色には、しばしば、酢酸、トリクロロ酢酸あるいは燐酸などの酸を含有するメタノールと水の混合溶液に振盪浸漬することによって行われる。さらには、染色や脱色中の蛋白質の拡散や脱離を防止する固定目的のために、染色液や脱色液に酢酸、トリクロロ酢酸、燐酸といった酸を加えて酸性にする方法が用いられてきた。さらに、この固定操作は、電気泳動にて分離されたアイソトープ標識された蛋白質を含んだ支持体、アイソトープ標識された蛋白質を塗布したマイクロプレートあるいはブロット膜、アイソトープ標識された蛋白質を含む組織切片や組織アレイの解析にも用いる事ができる。
【0004】
しかし、これらの酸は計測機械、機器に錆を発生させる欠点も有している。また、以上の目的に必要な酢酸、トリクロロ酢酸あるいは燐酸の操作時の濃度は、多くの場合5 %から20 %(重量%)と高いもので、充分に安全とはいえなかった。さらに、前二者には不快な臭いを発する別の問題があった。
【0005】
この改善策として、上記の酸成分を含有させずに、コロイド状になった色素Coomassie Brilliant Blue (CBB)G-250などを利用する蛋白質染色法と、それに続く純水での脱色法も提唱されている。ところが、この方法は、低分子量の蛋白質には染色に先立つ固定操作が必要で、保存状態によってはコロイドの不安定性のために、必ずしも一定の染色結果が得られるものではなく、利用できる色素は限定されるのも問題であった。
【0006】
また、色素を染色液状として保存する場合、長期にわたると色素が必ずしも均一に分散できない場合がある。色素が均一に分散していない状態では、染色、脱色結果が変動するので、再現性が高い染色法であるには、その色素の分散状態も安定している必要がある。しかしながら、上記の酢酸、トリクロロ酢酸、燐酸とメタノールを共存させる溶液では色素の分散状態(例:ミセルのサイズなど)を長期にわたり安定化することは困難であった。
【0007】
さらに、使用済みの色素染色液や脱色、保存液の廃棄にあたっては、従来法では染色溶液や脱色溶液における酸の濃度が高いために、廃棄前に行われる中和作業が煩雑であり、時に大量のアルカリ性溶液を必要とした。
【特許文献1】特開平2−150760号公報
【特許文献2】特許第2803475号掲載公報
【非特許文献1】Electrophoresis、6巻、427頁、1985年.
【非特許文献2】The Protein Protocols Handbook, edited by J.M. Walker, Humana Press Inc., New Jersey, 1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、電気泳動の結果得られたサンプル、ブロット膜、組織切片の染色、あるいは脱色、または染色や脱色の後の保存操作において、上記した如き煩雑を廃し、安定した染色、脱色、保存性能を有し、かつ安全で、廃液処理も容易にさせる方法と、それに使用する試液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、蛋白質の染色液、あるいは脱色液、または染色や脱色後の保存操作において用いられる溶液の組成中に、安息香酸または安息香酸塩を含有させ、さらに酸性条件下にて水溶性有機溶媒を含有させることで、1)染色性の向上や、色素の溶解性を安定化できること、2)染色や脱色中の蛋白質の拡散や脱離を防止できること、3)酢酸や燐酸などが起こす計測機械の腐食(錆の発生など)を回避できること、4)充分に安全で不快な臭いを発する問題も回避できること、5)1年の室温保存においても染色液の色素の分散状態が安定し、染色むらも少ない染色、脱色の性能を示せること、6)染色、脱色処理後に乾燥保存した蛋白質の染色像は、1年の室温保存においても劣化しないこと、7)染色液、脱色液、保存液の廃棄にあたって、その中和操作が容易であることを見出し本発明の完成に至った。
【発明の構成】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成よりなる。
(1)電気泳動によって分離されたサンプルを含んだ支持体、サンプルを塗布したマイクロプレートかブロット膜、組織切片か組織アレイの蛋白質の検出に用いられる色素染色法において、色素は特に限定されないが、利用されやすい色素としてAcid Violet 17、Alcian Blue、Amide black 10B、Brilliant Blue FCF、Calconcarboxylic acid、Carmine、Coomassie Brilliant Blue G-250、Coomassie Brilliant Blue R-250、Curcumin、Fast Green FCF、Orange II、Procion Blue MX-2G-125、Sulforhodamine B、Sulforhodamine 101、Methylene Blue、Nigrosineから成る群より選ばれた1種類、あるいは時に2種類以上の色素か蛍光剤を含むことが望ましい。これらの溶液中の濃度は特に限定されないが、0.001 %(重量%)から5 %、好ましくは色素の溶解性や、蛋白質の量と結合色素のリニアリティーから0.01 %から0.5 %程度である。
【0011】
(2)蛋白質の染色、脱色、または染色や脱色後の保存操作において用いられる溶液の組成中に、安息香酸または安息香酸塩を含有することを特徴とする、染色液、脱色液または保存用途の処理液について、
染色液、脱色液または保存用途の溶液中の安息香酸または安息香酸塩の濃度は特に限定されないが、染色液中では0.05 %(重量%)から5 %、溶解性の点から好ましくは0.1 %から0.5 %程度である。また、使用時に純水(イオン交換水、蒸留水または高純度の濾過水)で2倍から20倍ほど希釈する濃縮脱色液中の安息香酸の濃度は、0.05 %(重量%)から10 %、好ましくは0.1 %から2 %程度である。
染色液、脱色液または保存用途の溶液中のpHは安息香酸で調製しても、共存させる酸にて調製してもよく、pH 0からpH 6.5、好ましくはpH 1.5からpH 4である。
息香酸塩としては、例えば亜鉛塩、カリウム塩、カルシウム塩、コバルト塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、マンガン塩、リチウム塩等が示される。好ましくは、安全性と試薬の安価性から安息香酸か安息香酸ナトリウムが選ばれる。
【0012】
(3)安息香酸と色素を安定して溶解させるために水溶性有機溶媒を含有させることを特徴とする、染色液、脱色液または保存用途の処理液について、
水溶性有機溶媒としてMethanol、Ethanol、Isopropanol、n-Propanolの他、Acetonitrile、Acetone、Acetylacetone、Dimethylformamide、Ethylene glycol、N-Ethylformamide、Dimethylsulfoxide、1,4-Dioxane、Ethylene glycol、N-Methylamide、Pyridine、Tetrahydrofuranから成る群より選ばれた1種類、あるいは時に2種類以上の溶媒を含むことを特徴とする染色法。これらの溶液中の濃度は特に限定されないが、使用時の濃度として5 %(重量%)から95 %、好ましくは安息香酸と色素の溶解性を室温で保持するために10 %から70 %程度である。
【0013】
(4)電気泳動によって分離されたサンプルを含んだ支持体としては、Polyacrylamide gel、Agarose gel、Composite gel、Cellulose acetate membraneないしは蛋白質核酸酵素、43巻、15号、2,191頁、1998年に示されているElastic gel、Polymers for dvanced Technologies、11巻、481頁、2000年に記載されているElastomeric gelなどがあげられる。そのほか、ELISAかImmunoassayに用いるマイクロプレートも利用でき、ブロット膜としては、濾紙、Nitrocellulose膜、あるいはAnalytica Chimica Acta、365巻、109頁、1998年に示されているPVDF膜などがある。さらに、組織切片の場合、包埋剤として、Araldite、Celodine、Chitosan、Embed-it、Parrafin、Exakt、Technovitといったものが使用でき、Acryl、Epoxy、Polyester、Stylene等のポリマー系樹脂が含まれる。
【0014】
(5)本発明の染色液による染色時間は、1分から1週間で、その染色操作中は振盪浸漬することが好ましい。染色時間は染色すべき対象(支持体)の厚さ又は嵩高さが増すことによって長くなる。染色温度は安息香酸が低温で析出するので、10度Cから80度Cにて行われることが望ましい。しかしながら、共存させる有機溶媒の濃度(重量%)が50 %を越える場合には、より低温でも用いることができる。
本発明の脱色液による脱色時間は、1分から1週間までで、脱色操作は振盪浸漬することが好ましい。脱色時間も、脱色すべき対象(支持体)の厚さ又は嵩高さが増すことによって長くなる。脱色温度は10度Cから80度Cにて行われることが望ましい。しかしながら、その使用時において共存させる有機溶媒の濃度(重量%)が50 %を越える場合には、より低温でも用いることができる。いずれの場合でも、数回、好ましくは、希望のS/N比(SignalとNoiseの比率)が得られる蛋白質染色像が得られるまで、新鮮な脱色液に交換し脱色する。脱色液を保存液として用いる場合には、脱色液にグリセロールなどの保湿成分を、0.5 %(重量%)から20 %、好ましくは2 %から10 %程度含有させる状態が望ましい。
さらに、保存液での処理のあと、乾燥保存する場合は、たとえば、電気泳動のゲル支持体の場合、セロファン膜でゲル支持体を被い(平板のゲルの場合は、両面を被う)数日、室温にて風乾するのが簡単で望ましいが、もちろん専用のゲル乾燥機の適用も可能である。
【実施例1】
【0015】
以下、実施例および比較例によって本発明を説明するが、本発明はこれによって限定されるものでない。
実施例1 Polyacrylamide gelの染色
二種類の染色液の作成をおこなった。本発明染色溶液の一つが(1)で、対照の染色液が(2)である。
(1)Polyacrylamide gelまたはAgarose gel、ないしは弾性化ゲルを支持体とした場合に用いるCBB-R染色液の作成法
(約1リットル作成の場合)
1) Coomassie Brilliant Blue R-250 0.5 g
2) 安息香酸 3 g
3) 硫酸アンモニウム 10 g
4) 80% エタノール 250 ml
5) イオン交換水 750 g
作成手順:2)を4)に完全溶解させた後、1)をこれに溶解させ、1時間室温で攪拌し(A)とする。同時に、3)を5)に完全溶解させ(B)とする。最後に(A)に(B)を徐々に混入、1時間室温で攪拌させ、最後にこの混合液を濾紙(Advantec 330mm, No.1)で濾す。これを瓶に充填し作成終了。当発明染色液のpHは、2.7から2.9であった。
(2)対照の染色液
最終濃度表示として0.25% Coomassie Brilliant Blue R-250、7% (v/v) 酢酸、40% (v/v) Ethanolになるように、イオン交換水にて調製した。当対照の染色液の最終pHは、2.5から2.7であった。
【0016】
(3)Polyacrylamide gel電気泳動と、ゲルの染色
Laemmliの方法(Nature、227巻、680頁、1970年)に従って、SDS化させた蛋白質の電気泳動をおこなった。用いた分離ゲルはPolyacrylamideからなるもので、架橋剤はBisacrylamideを用い、12.5% T, 3.3% C という組成の分離ゲルを用いた。ゲルの厚さは1 mmで、分離ゲルの分離長は7.5 cm、濃縮ゲルの分離長は5 mmであった。
大腸菌の抽出物(E. coli extract 、Promega社)をLaemmliのサンプル処理法によって分離用サンプルとして調製し、電気泳動ゲルのサンプル用ウェル一箇所あたり10ないし20マイクログラムをアプライした。通常の電気泳動用電源にて100Vの一定電圧で、室温下1時間の電気泳動を行った。泳動を終了後、ゲルをゲル体積の20倍容量の(1)ないしは(2)の染色液にいれ、37度Cにて30分、または室温にて3日間まで振盪浸漬しながら染色した。この状態にて、(1)の方法では3日までの染色でも脱色操作なしでも含量が高い蛋白質のバンドが観察された。しかし(2)の方法では、蛋白質バンドとバックグラウンドの色調の差が小さいために、蛋白質バンドの観察が困難であった。
【0017】
実施例2 ブロット膜の染色
(1)ブロット(ウエスタンまたはドット法)用PVDF膜のAmide black 10B染色液
(約1リットル作成の場合)
1) Amide black 10B 0.8 g
2) 安息香酸 5 g
3) 80% (v/v) Ethanol 250ml
4) イオン交換水 750 g
作成手順:2)を3)に完全溶解させた後、1)をこれに溶解させ、1時間室温で攪拌し、さらに4)をこれらに混入、1時間室温で攪拌させ、最後にこの混合液を濾紙(Advantec 330mm, No.1)で濾して瓶に充填し作成終了。
【0018】
(2)ブロット(ウエスタンまたはドット法)用PVDF膜のAmide black 10B脱色液
1) 安息香酸 7.0 g
2) 80% (v/v) Ethanol 625 ml
3) イオン交換水 375 g
作成手順:1)を2)に完全溶解させた後、3)をこれに溶解させ、1時間室温で攪拌し、これを瓶に充填し作成終了。
【0019】
(3)蛋白質をドットブロットしたPVDF膜の染色、脱色操作とその結果
Analytica Chimica Acta、365巻、109頁、1998年に示されているPVDF膜への蛋白質のドット法を行った。ドットする蛋白質はRabbit serumで、1ドットあたり10マイクログラムをPVDF膜にブロットした。蛋白質の懸濁に用いた緩衝液は、25mM Tris, 192mM glycine, 0.1% SDS, 20% (v/v) methanolであった。Rabbit serumのブロット操作に続き、論文の手続きに従い、PVDF膜を洗浄処理した。次にPVDF膜上の蛋白質の染色は、(1)のAmide black 10B染色液にPVDF膜を浸漬3分間の処理をした。さらにイオン交換水で一回洗浄し、(2)の脱色液にて3分間の振盪洗浄を、脱色液を交換し2回行った後、これを乾燥し保存した。その結果、蛋白質をアプライした領域にはAmide black 10Bが明瞭に残存したが、非アプライ領域に残存するAmide black 10Bはデンシトメーターでの検出感度の誤差以下であった。
【0020】
実施例3 脱色
(1)CBB-R染色における脱色液と保存液の両者を兼ねる濃縮溶液の作成法
(脱色液として10倍の濃縮液、保存液として5倍の濃縮液を約1リットル作成の場合)
1) 安息香酸 10 g
2) 80% (v/v) Ethanol 700 ml
3) Glycerol 380 g
作成手順:1)を2)に完全溶解させる。次に、3)をこれに溶解させ、1時間室温で攪拌する。これを瓶に充填し作成終了。
【0021】
(2)対照の脱色液(Analytical Biochemistry、155巻、23頁、1986、に従った処方)
最終濃度表示として10 % (v/v) 酢酸、10 % (v/v) Ethanolとなるように、イオン交換水にて調製した。
脱色液として(1)を使用するにあたり、1容量の(1)に対して、9容量のイオン交換水を加え、脱色液として使用した。染色過程を検査するために、実施例1で染色したPolyacrylamide gelを当適応例の(1)の10倍希釈液か、(2)の溶液にて脱色した。脱色は、室温で2時間か一晩(16時間)で行い、その間、ゲル体積の20倍容量の(1)ないしは(2)の脱色液を4回(2時間の場合)、または6回(16時間の場合)交換した。その結果、本発明染色溶液の場合、(2)(3)何れの脱色液、何れの脱色時間でも得られた染色像のS/N比は対照の染色液にくらべ高かった。これは主に、Polyacrylamide gelのバックグラウンドの染色性が低かったことに由来していた。
特に重要なことに、室温にて3日間も振盪浸漬にて染色し脱色した結果ですら本発明染色溶液によるPolyacrylamide gelのバックグラウンドの染色性は低かったが、対照の染色液による染色結果は、その脱色処理を24時間まで延長した場合ですら、バックグラウンドには染色剤による微小な染色斑が点在し、詳細な解析実験には耐えない状態であった。
【0022】
実施例4 乾燥、保存方法
(1)本発明での保存液
実施例3の濃縮溶液1容量に対し4容量のイオン交換水を加え、保存液とした。
(2)対照の保存液
最終濃度5% (w/v) Glycerol、10 % (v/v) 酢酸となるようにイオン交換水で調製した。
(3)実施例3にて本発明の染色溶液と脱色液により処理したPolyacrylamide gelに(1)あるいは(2)の保存液で3時間の振盪浸漬をすることで、平衡化させた。その後、平板状のゲルの両面をセロファンを密着させて被い、3日間室温で風乾させた。その結果を保管中、図1にあるように、本発明での保存液による乾燥ゲルには亀裂が入らないにもかかわらず、対照の保存液による乾燥では亀裂がはいって保存に耐えない状態となった。さらに、この本発明での保存液による乾燥ゲルを実験ノートの間に室温保管しても、少なくとも1年間は亀裂が入らず染色像の鮮明さも失われることはなかった。さらに安息香酸を染色と脱色操作に用いている本発明の副次的な効能により、カビ(黴)や害虫の発生もみられなかった。
【0023】
実施例5 保存性、廃棄
実施例1と実施例2にある、本発明に関する何れの染色液も、それらを1リットルのガラス瓶、ないしはプラスチックボトルに封入し、1年間、室温で遮光せずに保存したが、染色性の低下は見られず、色素の凝集もおこらなかった。これに対し、実施例1における対照の染色液では、色素が一部沈殿し、また一部が肉眼で観察できる粒子状に凝集した。このため蛋白質を一様に染められずPolyacrylamide gelのバックグラウンドの染色性も一様ではなく、その脱色に、本発明染色液の倍の時間を要する結果となった。
実施例3にある、本発明に関する濃縮脱色液も、それらを1リットルのガラス瓶、ないしはプラスチックボトルに封入し、1年間、室温で遮光せずに保存したが、その脱色性の低下や変色は見られず透明のままであった。また何らかの沈殿が凝集析出することもなかった。
廃棄に当たっては、安息香酸を主な酸成分とする溶液においては、重炭酸塩溶液などの弱アルカリ性溶液を用いることで中和でき、また廃棄溶液量の縮小ができた。廃棄にあたって、色素を活性炭に吸着させる処理にても、容易に染色成分の活性炭への吸着操作ができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0024】
安全性が高く金属を腐食する作用が弱い染色液、脱色液、あるいは保存液なので、これらを用いての蛋白質の観察や定量に精密な金属部品からなる計測機器も使用できる。また、当発明における酸の揮発性も低いので精密な金属部品からなる計測機器がある場所での染色、脱色、保存操作もできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】乾燥、保存方法を示した説明図である。(実施例4)左の二例が、本発明での保存液で処理したゲルの長期(1年)乾燥状態、右の二例が、対照の保存液で処理したゲルの長期(1年)乾燥状態

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気泳動にて分離されたサンプルを含んだ支持体、サンプルを塗布したマイクロプレートあるいはブロット膜、組織切片、組織アレイのいずれかにおける蛋白質の染色、あるいは脱色、または染色や脱色後の保存操作において用いられる溶液の組成中に安息香酸または安息香酸塩を含有することを特徴とする、染色液、脱色液または保存用途の処理液。
【請求項2】
保存操作において用いられる溶液は、アイソトープ標識された蛋白質サンプルを含んだ支持体、同標識されたサンプルを塗布したマイクロプレートあるいはブロット膜、同標識された組織切片、同標識された組織アレイにも適用できる請求項1に記載の染色液、脱色液または保存用途の処理液。
【請求項3】
前記安息香酸もしくは色素を安定して溶解させるために、水溶性有機溶媒を含有させることを特徴とする、請求項1に記載の染色液、脱色液または保存用途の処理液。
【請求項4】
保存操作において用いられる、水溶性有機溶媒を含有する溶液は、アイソトープ標識された蛋白質サンプルを含んだ支持体、同標識されたサンプルを塗布したマイクロプレートあるいはブロット膜、同標識された組織切片、同標識された組織アレイにも適用できる請求項3に記載の染色液、脱色液または保存用途の処理液。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載の染色液、脱色液あるいは保存溶液を構成試薬として含んで成る電気泳動用、マイクロプレート計測法用、ウエスタンブロットやドットブロットといったブロット法用、あるいは組織染色か組織アレイ法用の試薬キット。
【請求項6】
測定用基材上の蛋白質の染色又は脱色をするための溶液に安息香酸または安息香酸塩を含む染色用乃至脱色用溶液。
【請求項7】
測定用基材上の蛋白質の染色又は脱色後の保存液に安息香酸または安息香酸塩を含む保存用溶液。
【請求項8】
前記測定用基材が、電気泳動にて分離されたサンプルを含んだ支持体、サンプルを塗布したマイクロプレートあるいはブロット膜、組織切片、組織アレイのいずれかである請求項6乃至7に記載の染色用乃至脱色用溶液及び保存用溶液。

【図1】
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【公開番号】特開2006−170725(P2006−170725A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361897(P2004−361897)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000126757)株式会社アドバンス (60)