説明

蛋白質の製造

蛋白質は遺伝子工学的に加工された微生物によって製造され、その蛋白質は封入体(IB)の形状に蓄積される。封入体の蛋白質は不溶性及び不活性形状にある。それらは可溶化剤(18)を用いて溶解させることができ、得られた溶液を希釈することで、蛋白質は活性形状に再び折り畳む。この蛋白質の再折り畳みは、蛋白質が変性しない十分弱い強度の音波(25)を、蛋白質の溶液又は懸濁液に当てることで強められる。その強度は10〜100mW/cm2の間にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正確又は活性な2次又は3次構造を有する、正確な折り畳まれた状態にある蛋白質の溶液を得るための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一定の範囲の複雑な有機分子は、細菌、植物、かび及び動物細胞を含む細胞内で合成され得る。例えば、この合成は発酵方法において細菌細胞により行うことができる。次に、所望の生成分子は細胞から回収され及び精製されなければならない。特に、遺伝子工学的に加工された微生物から蛋白質を製造する場合、その細胞は蛋白質を過剰に生成し、封入体(including body)として知られている、蛋白質の不溶性集合体をつくることがある。既知の方法では、これらの封入体は、細胞溶解、それにつづく例えば遠心分離法や精密濾過法などにより、他の細胞成分から分離される。封入体内の蛋白質は不溶性及び不活性の形状にある。これは、おそらくはこれらの分子がもつれ及び/又は誤って折り畳まれていることによる。既知の方法では、封入体を可溶化剤で処理し(これによって分子はそれ以上もつれない)、次に、蛋白質が活性形状に再び折り畳まれるように可溶化剤を除去又は希釈する。この希釈工程は、効率が悪く、若干の蛋白質が不溶性及び不活性の形状に再び集まる一方、非常に大量の希釈が必要であり、その結果、非常に薄い大量の蛋白質溶液を形成することとなる。工業的規模では、活性生成物へ変換される封入体からの蛋白質の割合は、通常せいぜい約10%であり、20%変換できればかなり良いとされる。
本発明によれば、蛋白質の再折り畳みをもたらす方法が提供され、その蛋白質が変性しない十分弱い強度の音波を蛋白質の溶液又は懸濁液に与える。
【発明の開示】
【0003】
音波は任意の適当な周波数でよく、およそ10又は20kHz以上にでき、その場合、波は超音波である。典型的にその周波数は1MHz未満であり、通常は200kHz未満である。その強度は音響キャビテーションが生じる強度よりも弱くなくてはいけない。強度の上限は容器の構造、音波の周波数、及び液体の粘度に依存するが、例えば約0.3W/cm2未満、例えば0.05又は0.1W/cm2の強度が適当であろう。それはまた、その液体が溶解性ガスを含んでいるか否かにも依存する。それは直線的にではないが周波数とともに増加する。例えば室温における炭酸水では、その限界は10kHzで約0.24W/cm2及び20kHzで0.3W/cm2から約100kHzで1.0W/cm2に増加する。ここで与えられる力の値は、変換器に送られる電力の値であって、比較的簡易に決定できる。
【0004】
蛋白質の溶液又は懸濁液は、適当な手法で製造できる。その1つには、希釈液と可溶化蛋白質の溶液を混合することによって希釈することを必要とする。この混合は流体ボルテックスミキサーに通過させて行うのが好ましく、こうすることで非常に素早く且つ完全に混合することができる。音波を照射するのは、この混合工程の直後に行うことができる。
【0005】
流体ボルテックスミキサーは、実質的に円筒形のチャンバーからなり、それは、そのチャンバーの端壁の中心にある軸方向の出口管と、そのチャンバーの周辺にあって、そのチャンバーに渦巻状の流れを形成する少なくとも1つの実質的に接線方向の入口とを含む。第2の液体は第2の接線方向入口管、又は半径方向の入口口から供給する。チャンバーは乱流発生用羽及び邪魔板を含まない。このようなミキサーは非常に短時間で2つの液体を非常によく混合できるが、溶液に高剪断をかけない。それはさらに、他様式のミキサーと比べて、例えば蛋白質の沈殿物などによって汚染されることが非常に少ない。混合物をミキサーに通じるのに必要な滞留時間は、1秒未満とすることができる。
【0006】
このように、再び折り畳むことのできる蛋白質の例は、治療目的のためのもの、及びインターフェロン、蛋白質ワクチン、酵素及びホルモンのような遺伝子工学的に加工された細胞に由来するものを含み、また蛋白質の語句は糖蛋白質とリポ蛋白質を包含するものとしても解釈されるべきである。本発明の方法はまた、異なる蛋白質の混合物にも適用できるものと理解される。
【0007】
本発明は、蛋白質を再び折り畳む装置も提供する。
【0008】
ここで、1つの例を用いて、蛋白質再生システムのフロウチャートを示す添付図を参照しながら、本発明をさらに詳しく述べる。
図に示すように、手順10は活性蛋白質を得る方法として説明されている。望みの蛋白質を製造するための遺伝子工学的に加工された細菌(大腸菌)を、発酵容器内で成長12させる。細菌は蛋白質を過剰に生産し、その蛋白質は細菌内に封入体として、不溶性で、もつれた、且つ不活性の状態で蓄積される。十分な発酵が起これば、その細胞の水性懸濁液は細胞溶解14され、そののち遠心分離法16にかけられて廃棄流から封入体(IB)が分離される。そして、その封入体(IB)は、尿素又はグアニジン塩化水素のような適当な試薬に溶解されて可溶化18され、これによって蛋白質はもつれが解けることとなる。
【0009】
得られた不活性蛋白質の溶液は、流体ボルテックスミキサー20の1つの接線方向入口21へ供給され、また、希釈剤としての再折り畳み用緩衝液をミキサー20の第2の接線方向入口22に供給して、ミキサー20内において典型的には0.1秒未満の滞留時間ののち希釈溶液は、軸方向出口24から出るようになっている。再折り畳み用緩衝液は、より低い濃度の可溶化剤と、再折り畳み過程を援助することのできるグルタチオンのような化合物とを含む水溶液としてよい。再折り畳み用緩衝液の流速は、不活性蛋白質の溶液の流速の200倍としてよい。例として、ミキサー20の円筒状チャンバーは直径10mm及び高さ2mmであり、それぞれの入口管21及び22の断面積は1mm2であり、出口管24の断面積は2mm2であってよく、1分当たり1リットルの流速では、滞留時間は約8ミリ秒である。このミキサー20を通過する流速を半分の0.5l/分とすれば、滞留時間の平均は2倍の約16ミリ秒となる。
【0010】
ミキサー20からの流出物は、出口管24を通って、蛋白質が活性形状へ再び折り畳むための時間を与える貯蔵タンク28へ流れる。1つ以上の超音波変換器25がタンク28の壁に連結され、この変換器25は信号発生器26に接続されている。変換器25は一般的には10kHz〜250kHzの範囲の周波数で使われ、例えば130kHzで使用してよい。この場合、それぞれの変換器25は液相において最大強度0.6W/cm2を発生するように調整され(この周波数において、キャビテーションが起こる限界値未満)、これによって内容物は弱い強度の超音波を受ける。貯蔵タンク28は栓流反応器、又はバッフルを備えた攪拌反応容器とすることができる。栓流反応器は、例えばWO 00/29545に記述されているようなパルス型でもよく、バッチ又は連続方式で操作してよい。貯蔵タンク28における滞留時間は、望ましくは1時間〜10時間の範囲であり、好ましくは2時間と6時間の間である。
【0011】
超音波変換器は、出口管24の内容物がその弱い強度の超音波が当たるように調整されていてもよい。どのような場合であれ、出口管24を流れていようがタンク28に保持されていようが、その溶液が音波を受けていれば、その強度がキャビテーション発生(蛋白質変性の原因となりうる)が起こるほど強くないことが重要である。そのため強度は300mW/cm2未満とし、通常は100mW/cm2未満とするべきである。しかし強度は、大量の沈殿を生じるのに十分強い力でなくてはいけないので、10mW/cm2より強くするべきである。さらに、変換器は20又は40kHzのような一定の周波数で用いてよく、或いはその代わりに周波数を例えば19.5〜20.5kHzの間で変えてよい。
【0012】
溶液を液体クロマトグラフィー及び濾過のようなさらなる過程にかけることで、凝集した(従って不活性な)蛋白質を、溶液中の活性蛋白質から分離することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】蛋白質再生システムのフロウチャートを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質の再折り畳みをもたらす方法であって、蛋白質の溶液又は懸濁液に、前記蛋白質が変性しない十分弱い強度の音波を当てることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記音波の強度が、10〜300mW/cm2である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記強度が、100mW/cm2未満である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記音波の周波数が、10kHzより高い、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記蛋白質の溶液又は懸濁液が、可溶化された蛋白質の溶液を希釈液と混合することによって希釈して製造される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記混合が、流体ボルテックスミキサーに通過させることによって行われる、請求項5記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2006−511472(P2006−511472A)
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−537252(P2004−537252)
【出願日】平成15年8月14日(2003.8.14)
【国際出願番号】PCT/GB2003/003550
【国際公開番号】WO2004/026340
【国際公開日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【出願人】(501287791)アクセンタス パブリック リミテッド カンパニー (1)
【Fターム(参考)】