説明

蛋白質加水分解物のマスキング機能低減方法

【課題】蛋白質加水分解物の、加工食品や調味料に使用されている素材の風味をマスキングする機能を低減する方法を提供し、食品の持つ風味・呈味をマスキングせずに好ましい呈味・風味を食品に付与することのできる蛋白質加水分解物を提供すること。
【解決手段】限外ろ過等で、分子量が3万を超える画分を除去する.

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白質加水分解物の持つ濃厚感は損なわずに、加工食品や調味料に使用されている素材の風味をマスキングする機能を低減する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
調味料に求められる機能として、食品に添加した際に食品の持つ、レトルト臭、劣化臭、獣臭等のオフフレーバーをマスク(矯臭)し、オフフレーバーを低減させる、または、好ましくない呈味(エグ味、苦味等)を低減させる機能、いわゆるマスキング機能がある。一方、マスキング機能には、食品のもつ好ましい風味、呈味までも低減させてしまうという問題点もあり、特に、食品あるいは食品素材自体の持つ風味・呈味を生かすことを目的とする場合は、この調味料のマスキング機能は不要なものである。そのため、マスキング効果の発現しない程度に調味料の添加量を抑える、あるいは、食品自体の風味をさらに強化すべく、例えば、めんつゆの香りを向上させるために高品質なだしを用いる、フレーバー物質を添加する、等の手段がとられている。前者の場合には、調味料本来の添加効果、すなわち好ましい風味・呈味の付与が不十分となるというデメリットがあり、後者の場合には、製品の製造コスト増加につながる等の問題があった。マスキング機能をもった調味料は多いが、調味料のマスキング機能を低減させる方法の開示は極めて少なく、煎りゴマと柑橘果汁の入ったドレッシングにおいて、外種皮を除いて焙煎したゴマを用いることにより柑橘類フレーバーをマスキングしないようにする技術(特許文献1)があるのみであり、調味料自身の呈味や香、風味は損なわずに、マスキング機能のみを低減させる技術はなかった。
【0003】
食品の製造時の限外ろ過処理は広く用いられている技術であるが、調味料の清澄化(特許文献2)、着色・風味の除去(特許文献3)等が目的であり、限外ろ過処理により、マスキング機能を低減させる方法については言及がない。また、調味料の特定の分子量画分に着目して風味・呈味の改良する技術(特許文献4〜6)はあるが、調味料を分子量で分画し、マスキング機能を低減させる技術は開示されていない。
【特許文献1】特開2004−242561号公報
【特許文献2】特開平7−222570号公報
【特許文献3】特開2002−34591号公報
【特許文献4】特開平11−46718号公報
【特許文献5】特開平4−121161号公報
【特許文献6】特開昭61−141858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、蛋白質加水分解物の、加工食品や調味料に使用されている素材の風味をマスキングする機能を低減する方法を提供し、食品の持つ風味・呈味をマスキングせずに好ましい呈味・風味を食品に付与することのできる蛋白質加水分解物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決する為、鋭意検討を重ねた結果、マスキング機能を有するのは、蛋白質加水分解物中のより分子量が大きい画分であることを見出し、限外ろ過や糖質分解酵素を作用させる等で、分子量が3万を超える画分を除去することにより、蛋白質加水分解物のマスキング機能を低減できることを見出した。即ち、本発明は以下の通りである。
【0006】
(1)分子量が3万を超える画分を除去することによる蛋白質加水分解物のマスキング機能低減方法。
(2)分子量が1万7千を超える画分を除去することによる蛋白質加水分解物のマスキング機能低減方法。
(3)分子量が1万を超える画分を除去することによる蛋白質加水分解物のマスキング機能低減方法。
(4)画分を除去する方法が限外ろ過によるものである(1)乃至(3)記載の方法。
(5)蛋白質加水分解物に糖質分解酵素を作用させることによる蛋白質加水分解物のマスキング機能低減方法。
(6)(1)乃至(5)記載の方法によりマスキング機能の低減された蛋白質加水分解物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の効果として、醤油等の蛋白質加水分解物のマスキング機能を低減でき、他の食品素材の風味、呈味を生かす蛋白質加水分解物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の蛋白質加水分解物の原料蛋白質としては、特に制限はなく、任意の蛋白質を含む原料素材でよく、例えば植物蛋白質、動物蛋白質、酵母菌体由来の蛋白質等いずれの蛋白質も用いることができる。植物蛋白質としては小麦蛋白質、大豆蛋白質、とうもろこし蛋白質等の種子蛋白質等が挙げられ、具体的には脱脂大豆、小麦グルテン、コーングルテン等が挙げられる。動物蛋白質にはゼラチン、コラーゲン、ミオシン等の筋肉蛋白質、カゼイン等の乳蛋白質が含まれる。蛋白質を含む原料素材には、ビーフエキス、チキンエキス等の畜肉エキス、骨エキス、酵母エキス等も含まれ、それらの加水分解物であれば本発明に含まれる。
【0009】
本発明の加水分解の方法は、塩酸等の酸、あるいは水酸化ナトリウム等のアルカリによる定法の加水分解が挙げられるが、蛋白質加水分解酵素による方法が好ましい。分解の程度には特に制限はなく、蛋白質部分加水分解物も本発明に含まれる。酵素は原料蛋白質あるいは蛋白質含有素材を加水分解する機能を有するものであれば特に制限はなく、麹菌等分解酵素を分泌する微生物菌体(含む芽胞)、微生物培養液、微生物培養液上清や、精製あるいは部分精製されたプロテアーゼ、ペプチダーゼ等の蛋白質分解酵素が含まれる。さらに、酵母エキスの製造に利用される酵母菌体自身に含まれる自己消化酵素も含まれる。酵素反応条件は、使用する酵素が活性を示す条件ならばよく、pH、温度条件は至適条件に近い方が効率的である。反応時間は、酵素量、温度、pH等の条件により異なるが、必要以上に長すぎると無用に分解や褐変が進む等品質に悪影響を及ぼすことがあるため、10時間〜20日間であることが好ましい。蛋白質加水分解物を調味料として用いるのに適当な加水分解条件は当業者であれば加水分解処理の間に加水分解物をサンプリングして分析・評価する等して容易に定めることができる。
【0010】
本発明の分子量が1万、1万7千、あるいは3万を超える画分を除去する方法としては、限外ろ過膜を用いる方法や、透析膜を用いる方法、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ゲルろ過クロマトグラフィーによる方法等が挙げられる。加水分解された蛋白質を含む素材はろ過、遠心分離等の一般的な方法で固液分離をし、液体部分を回収した後、上記の分画処理をする方が分画処理の効率がよい。尚、分子量が1万以下の画分はマスキング機能はほとんど有さないが、蛋白質加水分解物の濃厚感も弱い。
【0011】
また、蛋白質加水分解物に、糖質分解酵素を作用させることによりマスキング機能を有する画分を分解、除去することができる。酵素は原料蛋白質あるいは蛋白質含有素材に含まれる糖質を加水分解する機能を有するものであれば特に制限はなく、麹菌等分解酵素を分泌する微生物菌体(含む芽胞)、微生物培養液、微生物培養液上清や、精製あるいは部分精製されたアミラーゼ、ペクチナーゼ、セルラーゼ等の糖質分解酵素が含まれる。酵素反応条件は、使用する酵素が活性を示す条件ならばよく、pH、温度条件は至適条件に近い方が効率的である。反応時間は、酵素量、温度、pH等の条件により異なるが、必要以上に長すぎると無用に分解や褐変が進む等品質に悪影響を及ぼすことがあるため、10から100時間であることが好ましい。
【0012】
さらに、分子量が3万超える画分を除去する分画処理の前、好ましくは後に、活性炭や限外ろ過等による脱色処理、各種クロマトグラフィーや透析膜等を使用する膜分離等による分離精製処理、膜濃縮や減圧濃縮等の濃縮処理をしても良い。また、分画処理後、スプレードライ、凍結真空乾燥等の方法により粉末化すれば食塩等を加えることなく保存安定性に優れた粉末調味料を得ることができる。
【0013】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。本発明は、この実施例により何ら限定されない。
【実施例1】
【0014】
小麦グルテン「SWP500」(アミラム社製)500gを市水2Lに加え、十分に分散後、120℃で20分加熱殺菌して小麦グルテン分散液を作製した。別途、大豆蛋白「エスサンプロテンF」(J-オイルミルズ社製)30gを、市水2Lに加え分散後、120℃で20分加熱殺菌して脱脂大豆分散液を作製し、これにあらかじめ培地で前培養した麹菌アスペルギルス・オリゼを1%(V/V)になるように添加し、ファーメンタージャーにて30℃で36時間培養を行った。前記小麦グルテン分散液2Lに上記アスペルギルス・オリゼ培養物0.6L加えファーメンタージャーにて通気攪拌を行いながら36℃で50時間加水分解反応を行った。この分解液を、ブフナー漏斗を用い固液分離し、さらにそのろ液に活性炭60gを加え、60℃で10分加熱して脱色した。得られた脱色液よりブフナー漏斗を用いて、活性炭を除去し、そのろ液を凍結乾燥機により乾燥させて粉末状の小麦グルテン酵素分解調味料を得た。このようにして得られた粉末状小麦グルテン酵素分解調味料を水に溶解し、得られた水溶液を分画分子量1000の限外膜カートリッジPrep/Scale-TFF PLAC 1K(MILLIPORE社製)に供し、透過液を分子量1000以下の小麦グルテン酵素分解調味料分画物とした。また、この濃縮液(膜を透過しない液)に蒸留水を加え続けることにより、理論上、濃縮液(膜を透過しない液)中に含まれる分子量1000以下の成分がほぼ膜を透過するようにし(理論上、1/1000以下)、分子量1000以上の小麦グルテン酵素分解調味料分子量分画物とした。この分子量1000以上の画分の0.5%溶液をHPLCに供することで3つのピークエリアが得られた。この際のHPLCとして、装置:L-6320(日立製作所製)検出器:RI model 574 (ガスクロ工業製)を用いた。カラムとして、Asahipak GS-320 7G 7.6mm×500mm(Shodex製)を移動相として、0.15Mギ酸アンモニウム溶液(pH7.5)を用いた。分析条件として、カラム温度:24℃(室温)、流速:0.5mml/minの条件で行った。分子量マーカー(アマシャムバイオサイエンス社製 LMW Gel Filtration Calibration Kit)との比較により、この3つのピークエリアは、分子量1000〜3万、3万〜5万、分子量5万以上と推定された。これらの分画前を100%とした時の固形分含量は、分子量1000以下、1000〜3万、3万〜5万、5万以上の順に98%、1.31%、0.67%、0.05%であった。このようにして得られた4つの分子量分画物のマスキング機能を確認するため、官能評価に供した。
【0015】
官能評価方法として、5%自家抽出天然かつおだしに、分画前の小麦グルテン酵素分解調味料を喫食時 固形分0.01%となるように添加した。すなわち、各分子量分画物は、分画前の小麦グルテン酵素分解調味料固形分0.01%中に含まれる相当量を添加した。コントロールとして酵素分解調味料無添加の5%自家抽出天然かつおだしを用い、味覚パネル16人における官能評価を実施した。マスキング機能の評価として、コントロールと、各調味料添加品を比較し、各調味料添加品のだし風味の強さを評価し、評点をつけた。官能評点は、コントロールと同等のだし風味の強さの場合を0点とし、コントロールよりだし風味をやや弱く感じる場合は−1点、コントロールより、だし風味を弱く感じる場合は−2点とした。そして、16人の評点の平均が、−0.6以上0以下の場合、マスキング機能は±(マスキング機能はほとんどない)、−1.4以上−0.6未満の場合、+(マスキング機能は弱い)、−1.4未満の場合、++(マスキング機能は強い)とした。結果を表1に示す。表1に示したように、分子量5万以上の画分に強いマスキング機能があり、分子量3万〜5万の画分にもマスキング機能があるが、分子量3万以下の画分にはマスキング機能がないことが確認された。すなわち、HPLCで分子量3万を超える画分を除去することにより、蛋白質加水分解物のマスキング機能を低減することができた。
【0016】
【表1】

【実施例2】
【0017】
膨化脱脂大豆60kg(味の素(株)製 プロテンTY、NSI15)、乳酸菌ラクトコッカス・ラクティスの培養液(pH6.3)47kgを混合機(マゼラー(産業機械(株)製))に投入し十分に混合後、さらに麹菌アスペルギルス・ソヤの胞子を2×10コ/g原料になるように添加し、混合を行った。上記混合物を通風製麹機に盛り込み、品温を30〜32℃に保ちながら45時間培養を行った。得られた麹40kgと食塩濃度15.6重量%食塩水108kgをジャケット付タンクに仕込んだ。食塩はナクルM(ナイカイ塩業(株)製)を使用した。ジャケット部に温水を循環させ諸味を加温し、35℃で14日間の発酵を行った。また、発酵中は1日1回攪拌を行い、上部に浮いた麹を均一に分散させた。発酵終了後ろ布で残渣を取り除いて生揚(大豆蛋白酵素加水分解物)げを得た。この生揚げ1Lに食塩40g、95%アルコール(日本アルコール工業(株)製)20gを加えた後、6Nの塩酸溶液で生揚げをpH4.5に調整した。pH調整後の生揚げ500gにSD−V6炭(味の素ファインテクノ(株)製)を0.15g加え、25℃で30分インキュベートした。ついで40%NaOHでpHを5.1に調整した後、No.2、No.5Cのろ紙(アドバンテック社製)でろ過を行い、活性炭を取り除いた。次に得られた清澄な生揚げに対し80℃30分の火入れを行い、その後60℃24時間放置して、オリの凝集を促進した。最後に遠心分離により上清を得た後、フィルター処理(0.45μm、クロマトディスク(クラボウ製))を行い清澄な調味液を得た。実施例1記載の方法と同様の方法によりこの調味液から分子量1000以下、並びに1000以上の分子量分画物を得た。分子量1000以上の画分をゲルろ過に供し、分子量マーカーと比較することにより、分子量1000〜1万、1万〜3万、3万〜5万、5万以上の小麦グルテン酵素分解調味料分子量分画物を得た。これらの分画前を100%とした時の固形分含量は、分子量1000以下、1000〜1万、1万〜3万、3万〜5万、5万以上の順に96.6%、1.60%、0.57%、0.35%、0.88%であった。このようにして得られた5つの分子量分画物のマスキング機能を確認するため、実施例1記載の方法と同様の方法により官能評価に供した。表2に示す。表2に示したように、分子量5万以上の画分に強いマスキング機能があり、推定分子量3万〜5万の画分にもマスキング機能があるが、分子量3万以下の画分にはマスキング機能がないことが確認された。すなわち、HPLCで分子量3万を超える画分を除去することにより、蛋白質加水分解物のマスキング機能を低減することができた。
【0018】
【表2】

【実施例3】
【0019】
実施例1記載の方法により得られた小麦グルテン酵素分解調味料より、10%水溶液を調製し、限外ろ過膜を用いて各種分画分子量以下の透過液を得た。限外ろ過膜としては、分画分子量5万(ミリポア社製 セントリプレップYM-50)、3万(ミリポア社製 セントリプレップYM-30)、1万7千(日東電工(株)製、フラットメンブレン NTU-3150)、1万(ミリポア社 セントリプレップYM-10)、3千(ミリポア社 セントリプレップYM-3)の膜を用いた。得られた透過液を官能評価に供し、実施例1記載の方法で各透過液のマスキング機能を評価し、加えて濃厚感を官能評価した。濃厚感の評価は、各調味料添加品のだし様の濃厚感を評価し、評点をつけた。官能評点は、コントロールと同等のだしの濃厚感の場合を0点とし、コントロールよりだしの濃厚感がやや強い場合は1点、コントロールより、だしの濃厚感が強い場合は2点とした。そして、16人の評点の平均が、0以上0.6未満の場合、濃厚感は±(コントロールと大差ない)、0.6以上1.4未満の場合、+(コントロールより濃厚感がやや強い)、1.4以上の場合、++(コントロールより濃厚感が強い)とした。結果を表3に示す。表3に示したように、分画分子量3万、1万7千、1万、3千の限外ろ過膜を用いた場合、マスキング機能は認められず、限外ろ過処理で分子量3万、1万7千、1万あるいは3千を超える画分を除去することにより、蛋白質加水分解物のマスキング機能を低減することができた。しかしながら、分画分子量3千の限外ろ過膜を用いたろ液は濃厚感が弱く感じられたため、調味料の製造としては、分画分子量1万から3万の限外ろ過膜を用いることが適していた。
【0020】
【表3】

【実施例4】
【0021】
実施例1において、高いマスキング機能を示した分子量3万を超える画分は、糖を68%含んでいた。この画分を分解するべく、各種の糖質分解酵素を作用させた。実施例1記載の方法により得られた小麦グルテン酵素分解調味料より、10%水溶液を調製し、糖質分解酵素であるぺクチナーゼPL「アマノ」(天野エンザイム社製)を小麦グルテン酵素分解調味料100ml当り0.01g添加した。50℃、pH4.0で24時間作用させた後、水溶液を加温し80℃、20分で酵素失活処理を行った。酵素処理前の小麦グルテン酵素分解調味料水溶液と、酵素処理後の同水溶液を、喫食時固形分0.01%となるよう5%自家抽出天然だしに添加した。実施例1記載の方法でマスキング機能を評価し、実施例3記載の方法で濃厚感を官能評価した。結果を表4に示す。表4に示したように、酵素処理後の小麦グルテン酵素分解調味料水溶液分解産物は、マスキング機能が低下していたが、この際、濃厚感が酵素処理により損なわれていなかった。
【0022】
【表4】

【実施例5】
【0023】
市販の自己消化酵母エキスから固形分2%水溶液を調製し、限外ろ過膜を用いて各種分画分子量以下の透過液を得た。限外ろ過膜としては、分画分子量5万(ミリポア社製 セントリプレップYM-50)、3万(ミリポア社製 セントリプレップYM-30)、1万7千(日東電工(株)製、フラットメンブレン NTU-3150)、1万(ミリポア社 セントリプレップYM-10)、3千(ミリポア社 セントリプレップYM-3)の膜を用いた。得られた透過液を官能評価に供した。酵素処理前の小麦グルテン酵素分解調味料水溶液と、酵素処理後の同水溶液を、喫食時固形分0.1%となるようチキンコンソメスープ(味の素社)に添加した。実施例1記載の方法でだし風味の項目をチキン風味を評価することで、各透過液のマスキング機能を評価し、実施例3記載の方法で濃厚感を官能評価した。結果を表5に示す。表5に示したように、分画分子量3万、1万7千、1万、3千の限外ろ過膜を用いた場合、マスキング機能は認められず、限外ろ過処理で分子量3万、1万7千、1万あるいは3千を超える画分を除去することにより、蛋白質加水分解物のマスキング機能を低減することができた。しかしながら、分画分子量3千の限外ろ過膜を用いたろ液は濃厚感が弱く感じられたため、調味料の製造としては、分画分子量1万から3万の限外ろ過膜を用いることが適していた。
【0024】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、蛋白質加水分解物のマスキングを低減することができ、食品素材の風味・呈味を損なうことなく濃厚感等好ましい味、風味を付与できる蛋白質加水分解物を得ることができるので、本発明は食品分野において極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量が3万を超える画分を除去することによる蛋白質加水分解物のマスキング機能低減方法。
【請求項2】
分子量が1万7千を超える画分を除去することによる蛋白質加水分解物のマスキング機能低減方法。
【請求項3】
分子量が1万を超える画分を除去することによる蛋白質加水分解物のマスキング機能低減方法。
【請求項4】
画分を除去する方法が限外ろ過によるものである請求項1乃至3記載の方法。
【請求項5】
蛋白質加水分解物に糖質分解酵素を作用させることによる蛋白質加水分解物のマスキング機能低減方法。
【請求項6】
請求項1乃至5記載の方法によりマスキング機能の低減された蛋白質加水分解物。

【公開番号】特開2006−271286(P2006−271286A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−96964(P2005−96964)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)