説明

蛋白質添着フィルタ

【課題】本発明は、各種細菌、カビ、ウィルス、アレルゲン物質などを吸着し、効率よく不活性化することができる酵素、抗体物質等の蛋白質担持フィルタを提供する。
【解決手段】精製度の低い酵素、抗体物質をフィルタ上で有効に機能させるために、ポリエチレンオキサイドを共存させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種細菌、カビ、ウィルス、アレルゲン物質などを吸着し、不活性化することができる抗体を添着したフィルターに関する。さらに詳しくは、有効蛋白質量/総蛋白質量により求められる精製度の値が0.9以下である低い精製度の蛋白質と、ポリエチレンオキサイドを同時に添着したフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
各種細菌、カビ、ウィルス、アレルゲン物質などの有害物質を除去するフィルタ濾材については、これまで様々なものが提案されてきた。また、酵素、抗体等の蛋白質をフィルタに添着し、蛋白質の活性発現に必要な水分を供給する目的で保湿成分をフィルタ上に共存させるフィルタも公知である。しかし、有効蛋白質量/総蛋白質量により求められる精製度が0.9以下である精製度の低い蛋白質と、ポリエチレンオキサイドを同時に添着したフィルタの提案はこれまでなかった。
【0003】
特許文献1には、シアル酸、シアル酸誘導体、これらを含む糖、糖蛋白質、糖脂質の少なくとも1種類をウィルス捕捉体としたウィルス除去フィルタが開示されている。また、特許文献2には、高い微細繊維化度を持つ繊維素材であって、少なくとも1本の繊維がウィルスを捕捉する目的で、ウィルスに対する天然の受容体またはその一部またはその類似体を付着させるため、臭化シアンで誘導体化されているものが開示されている。しかしながら、フィルタを用いた濾過や、吸着剤を用いた物理吸着により空気中の有害物質を除去する方法は、非特異的なものであって、精度が低かった。また、除去した有害物質が再浮遊したり、フィルタ上で有害物質が増殖して新たな汚染源となったりすることを避けるために、有害物質の殺菌・不活性化の技術を組み合わせなければならなかった。
【0004】
また、特許文献3には茶の抽出成分を添着した不織布を耳に留める紐で構成された抗ウィルスマスクが、特許文献4にはフェノール性水酸基を有する非水溶性高分子抗アレルゲン剤と吸湿性材料を担持したフィルタが開示されている。茶の抽出成分やフェノール性水酸基を有する非水溶性高分子は、抗菌作用を有することが知られているが、酵素・抗体等の蛋白質のように特定の菌を不活性化できるような特異的な反応性は有していない。酵素、抗体等の蛋白質は、目的の有害物質に合わせたものを用意することができ、より確実な効果を得ることができて好ましい。また、茶の抽出成分やフェノール性水酸基を有する非水溶性高分子は水との親和性が低く、フィルタに添着する際によく混ざり合わず斑になるなど加工性が悪いという問題がある。一方、酵素、抗体等の蛋白質は、その種類によって差があるものの、一般に水によく溶解し、フィルターに添着する際の加工性に優れている。
【0005】
フィルター上で有害物質を殺菌・不活性化するためには、有害物質に対する殺菌・不活性化能を有する酵素、抗体等の蛋白質をフィルターに担持することが有効である。しかし、特許文献5〜8で開示されている共有結合、イオン結合、架橋法、包括法等の方法で各種酵素を担体に担持させたフィルタは、担持方法が複雑でコストがかかるといった問題があり、簡便な方法で蛋白質を担持し、その活性を発現させることが望まれていた。
【0006】
さらに、特許文献4には、フィルタ表面を添着した吸湿性材料が、抗アレルゲン剤の活性発現に必要な水分を周辺雰囲気から吸収する方法も開示されているが、周辺雰囲気より得られる水分量は、蛋白質の活性発現において必ずしも十分な量ではないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−234317号公報
【特許文献2】特表2001−527166号公報
【特許文献3】特開平8−333271号公報
【特許文献4】特開2004−290922号公報
【特許文献5】国際公開第98/04334号パンフレット
【特許文献6】特開昭60−49795号公報
【特許文献7】特開平2−41166号公報
【特許文献8】特開2003−210919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、フィルター上にて、各種細菌、カビ、ウィルス、アレルゲン物質などを吸着し、効率よく不活性化することのできる、酵素、抗体等の蛋白質を担持したフィルターに関し、高い精製度が得られにくい蛋白質材料において、低い精製度の蛋白質材料を使用しても有効に作用させることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、蛋白質担持フィルタの性能を向上すべく鋭意検討した結果、ポリエチレンオキサイドを同時に添着することによって、精製度の低い蛋白質を特異的に安定化できることを見出し、ついに本願発明を完成するに到った。即ち本発明は、以下の通りである。
【0010】
(1)有効蛋白質量/総蛋白質量により求められる精製度の値が0.9以下である蛋白質と、ポリエチレンオキサイドを添着したフィルタ。
【0011】
(2)前記有効蛋白質がブロメラインである(1)に記載のフィルタ。
【0012】
(3)前記有効蛋白質が卵黄由来抗体(IgY)である(1)に記載のフィルタ。
【発明の効果】
【0013】
本発明の蛋白質添着フィルタは、ポリエチレンオキサイドを同時に添着することにより、精製度の低い酵素、抗体物質等の蛋白質の活性発現を特異的に安定化することで、精製度の低い蛋白質を使用しても、各種細菌、カビ、ウィルス、アレルゲン物質などを吸着し、フィルタ上にて効率よく不活性化することができるフィルタを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で使用する蛋白質は、有効蛋白質量/総蛋白質量で求められる精製度の値が0.9以下である。ここで言う精製度は、有効蛋白質量と総蛋白質量より計算で求めることができる。
【0015】
ここで言う有効蛋白質量は、各種細菌、カビ、ウィルス、アレルゲン物質などを不活性化するために添着される酵素、抗体等の蛋白質の質量である。
【0016】
ここで言う総蛋白質量は、フィルタに添着されるすべての蛋白質の質量であり、有効蛋白質を含むものである。
【0017】
フィルタに添着されている蛋白質の精製度は、SDS−PAGE分析により、有効蛋白質および総蛋白質の質量を求めることにより計算で求めることができる。
【0018】
本発明で蛋白質の精製度の値を0.9以下としたのは、蛋白質は一般に生体由来の材料を精製して得られるが、精製度が0.9を超える蛋白質を得ようとすると、精製に多くのコストが必要となるからである。また、精製度が0.9を超えるように精製された蛋白質は、一般に保存安定性が低い。これは、夾雑蛋白質が、目的の蛋白質の安定性に寄与しているからである。好ましい、精製度の値は0.5〜0.9である。
【0019】
本発明で使用するポリエチレンオキサイドは、水分を保持し、蛋白質の活性発現に必要なに水分と反応場を提供することを目的として担持されるものである。
【0020】
ポリエチレンオキサイドの担持量は、担体シートに対して0.01質量%以上であることが十分な効果を得る上で好ましい。また、5.0質量%を超えて担持させた場合、それ以上担持量を増やしても、蛋白質活性発現の安定化向上の効果は期待できず、かえって繊維表面の接着性が増加し、担体シートに加工した際に、硬さ斑等が発生するため、好ましくない。より好ましい担持量は0.1〜3.0質量%である。
【0021】
ポリエチレンオキサイドの繊維への付与は、酵素、抗体等の蛋白質添着の前後のどちらでも差し支えない。具体的には、担体シートを構成するシートを製造する際に処理ローラー等を使用して繊維に付与する方法、あるいは蛋白質溶液にポリエチレンオキサイドを混合し、蛋白質とポリエチレンオキサイドを同時に担持する方法等が挙げられる。
【0022】
本発明の蛋白質担持フィルタの担体シートの素材は、ポリエステル繊維を含むことが好ましく、かかるポリエステル繊維が非晶性共重合ポリエステル成分を含むことがさらに好ましい。非晶性共重合ポリエステル成分を含むポリエステル繊維は、水の濡れ性がよく、酵素、抗体等の蛋白質を担持する際の加工性が良いからである。
【0023】
また、非晶性共重合ポリエステル成分を含むポリエステルは適度な調湿性を有しており、このため非晶性共重合ポリエステル成分を含むポリエステル繊維および周辺雰囲気から、ポリエチレンオキサイドが水分を吸収し、保持することで、蛋白質に反応場を提供し、活性発現を安定化することで、蛋白質の活性発現を高度に安定化した蛋白質担持フィルタを提供できる。ここでいう適度な調湿性とは、繊維表面に担持された蛋白質の活性発現に必要な水分を提供できる性能である。蛋白質に提供される水分量が多すぎると蛋白質の早期劣化を招き、少なすぎると活性が発現されない。また、繊維表面に存在する蛋白質に提供される水分量は、繊維内部に存在する水分量を表す水分率とは直接の相関性がない。
【0024】
非晶性共重合ポリエステル成分は、芳香族ジカルボン酸とグリコール成分の重縮合反応によるポリエステル生成の際に共重合成分を添加して得ることが好ましい。より好ましくは、テレフタル酸とエチレングリコールをベースとし、共重合成分としては例えばイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン酸、ジエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。このような非晶性共重合ポリエステルは、ガラス転移点温度Tgが50〜100℃の範囲となり、明確な結晶融点を示さない。
【0025】
また本発明は、酵素、抗体物質等の蛋白質を担持し、その活性発現を安定化させる上で、前記非晶性共重合ポリエステル成分がテレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコール、ジエチレングリコールを含むことが好ましく、その共重合モル比が、(テレフタル酸/イソフタル酸)=(40/60)〜(80/20)であり、(エチレングリコール/ジエチレングリコール)=(70/30)〜(97/3)であることがさらに好ましい。
【0026】
非晶性共重合ポリエステル成分を含む繊維は、前述の非晶性共重合ポリエステル成分とポリアルキレンテレフタレート系ポリエステル成分との複合繊維であることが好ましい。ポリアルキレンテレフタレート系ポリエステルとは具体的にはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートである。また複合繊維としては、シース・コア型、偏心シース・コア型、サイド・バイ・サイド型などの形態が可能である。その中でも、非晶性共重合ポリエステルをシース成分とし、ポリエチレンテレフタレートをコア成分とするシース・コア型複合繊維が加工性の面で好ましいものとして挙げられる。また非晶性共重合ポリエステル成分の複合率は10〜90%であり、性能、加工性の両面から好ましくは30〜70%である。
【0027】
本発明の蛋白質担持フィルタの担体シートの素材は、レーヨンを含むことが好ましい。レーヨンは水分率が高く、非晶性共重合ポリエステル成分を含むポリエステル同様、適度な調湿性を有する。
【0028】
ここに挙げた以外に、本発明の蛋白質担持フィルタの担体シートの素材として、アクリル、ナイロン、ポリオレフィン系、セルロース、パルプ等が挙げられるが、特に限定はされない。
【0029】
担体シートを構成する繊維の繊度は、1〜30dtexの範囲で調整することが、シート化時の加工性、フィルタ特性の面から好ましい。
【0030】
担体シートはスパンボンド不織布、スパンレース不織布、ニードルパンチ不織布、メルトブロー不織布、フラッシュ紡糸不織布、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、ステッチボンド不織布、および湿式抄紙不織布などの不織布、織物、あるいは紙等シートの形態を成すものならば特に限定されない。また、その目付は特に限定されないが、好ましい範囲を例示すると10〜200g/mである。10g/m未満だと各種細菌、カビ、ウィルス、アレルゲン物質などの不活性化対象物を十分捕捉できない可能性があり、200g/m超えるとフィルタの圧力損失が大きくなるため、あまり好ましくない。
【0031】
酵素、抗体物質等の蛋白質の担体シートへの担持の方法としては、担体シートを適当な濃度の蛋白質水溶液に含浸し、適当な温度および時間で乾燥する方法が好ましい例として挙げられる。ここで用いる蛋白質水溶液は、各々の蛋白質の活性発現に適したpHに調節されることが好ましい。これは、蛋白質はその種類によって活性発現に適したpHが異なり、通常はそのpH付近でないと十分な活性の発現は得られないためである。また、乾燥温度と時間は、担持する蛋白質が変性により失活しない温度にすることが重要である。蛋白質はその種類によって耐熱性が大きく異なる。通常は高温で乾燥させた方が短時間で処理が済み効率が良いが、蛋白質の耐熱性を考慮して乾燥条件を決めることが好ましい。
【0032】
フィルタに添着する有効蛋白質として好ましいものを例示すると、ブロメライン、卵黄由来抗体(IgY)等が挙げられる。
【0033】
ブロメラインはパイナップル由来の蛋白質分解酵素であり、精製度の低いものであれば大量に安価に入手することが可能である。
【0034】
卵黄由来抗体(IgY)も精製度の低いものであれば大量に安価に入手することが可能である。
【0035】
ここに挙げた以外に、本発明の蛋白質担持フィルタに適用可能な酵素、抗体等の蛋白質としては、溶菌酵素(リゾチーム)、蛋白質分解酵素(プロテアーゼ)、各種アレルゲンを酸化還元する酵素(オキシドレダクターゼ)、細菌、あるいは、カビ、ウィルス、環境アレルゲンなどを不活性化する抗体等が挙げられるが、特に限定されない。
【0036】
また、ここでいう酵素とは「生細胞内で作られる蛋白性の生体触媒」であり、抗体とは「免疫反応において、抗原の刺激により生体内に作られた抗原と特異的に結合する蛋白質の総称」であり、蛋白質とは「動物・植物・微生物など、およそ生物とよばれるものの細胞の主要成分として含まれる一群の高分子含窒素有機化合物」である(岩波 生化学辞典 第3版 岩波書店)。
【0037】
一般に、酵素、抗体等の蛋白質は絶乾状態ではその活性は発現されない。従って、酵素、抗体等の蛋白質を担体シートに担持して利用する際には、水分の供給が必要となる。そこで、フィルタ上に保湿性成分を共存させることで、保湿成分が周辺雰囲気の水分を保持し、蛋白質の反応場を提供する役割を果たすことで、活性の発現を安定化させる方法が知られている。
【0038】
精製度の低い蛋白質においては、保湿成分としてポリエチレンオキサイドを用いることで特異的に蛋白質の活性発現が安定化される。この作用はブロメラインおよび卵黄由来抗体(IgY)において特に顕著である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これによって本発明はなんら限定されるものではない。
【0040】
(担体シートの製造)
シース成分の非晶性共重合ポリエステルとして、酸成分がモル比でテレフタル酸が60%、イソフタル酸が40%、ジオール成分がモル比でエチレングリコールが95%、ジエチレングリコールが5%の割合で共重合された、固有粘度が0.56、Tgが64℃の非晶性共重合ポリエステル、コア成分として、固有粘度が0.64、Tgが67℃、Tm(融点)が256℃のポリエチレンテレフタレートを用い、各々のペレットを減圧乾燥した後、シース・コア型複合紡糸機にて複合紡糸し、短繊維用延伸機にて延伸、カットの工程を通し、定法により質量比(シース/コア)=(50/50)の複合比率で、単糸繊度が約2.2dtexのシース・コア型複合繊維を得た。次に、この繊維を50mmにカットし、カーディングによりウェブを作成後、ニードルパンチ加工することにより目付30g/mの担体シート1を得た。
【0041】
(酵素活性試験:試験例1)
以下に記載の実施例1、2および比較例1〜5の蛋白質担持フィルタ上にルテウス菌(Micrococcus luteus)をフリーズドライした顆粒を振りかけ、逆さにして余分な顆粒を除いた後、湿度90%に保持したデシケータ中で24時間静置した。その後、低真空走査型電子顕微鏡で観察し、ルテウス菌の溶菌の程度を目視観察した。菌の球形状が崩れている場合を溶菌活性あり、球形状が残存している場合を溶菌活性なしと判定した。
【0042】
(インフルエンザウィルス不活性化試験:試験例2)
以下に記載の実施例3、4および比較例6〜10の蛋白質担持フィルタを33mm四方に裁断したものを試験片として、密閉された容器に入れ、それぞれにインフルエンザウィルスを1mlあたり0.5mg含む水溶液を0.5ml容器内に噴霧した後、室温で15時間処理を行った。その後、不活性化したインフルエンザウィルスを1mlあたり1mg含む水溶液を0.5ml容器内に噴霧して、抗体をブロッキングし、処理の終わった試験片をリン酸緩衝溶液9mlで洗い出し、回収した液を10日卵に接種、37℃にて48時間培養後、CAM液を採取し、HAテストを行い、Karber法によりウィルス感染価EID50(50% egg−infective doses)の計算を行った。ブランク試験には蛋白質担持加工を施していないフィルターを用いた。
【0043】
(酵素活性試験:試験例3)
以下に記載の実施例1、2および比較例1〜5の蛋白質担持フィルタを温度50℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽内で24時間静置した後、試験例1に示す試験に供した。
【0044】
(酵素活性試験:試験例4)
以下に記載の実施例3、4および比較例6〜10の蛋白質担持フィルタを温度50℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽内で24時間静置し、試験例2に示す試験に供した。
【0045】
(実施例1)
100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)に、精製度が0.9のブロメラインを総蛋白質量が1質量%になるように懸濁し、さらに0.3質量%ポリエチレンオキサイドを含有させた水溶液に、担体シート1を1時間浸漬処理した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた担体を、60℃の温度に保持した乾燥機中で10分間乾燥し、蛋白質担持フィルタを調製した。
【0046】
(実施例2)
100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)に、精製度が0.5のブロメラインを総蛋白質量が1質量%になるように懸濁し、さらに0.3質量%ポリエチレンオキサイドを含有させた水溶液に、担体シート1を1時間浸漬処理した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた担体を、60℃の温度に保持した乾燥機中で10分間乾燥し、蛋白質担持フィルタを調製した。
【0047】
(比較例1)
100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)に、精製度0.8のブロメラインを総蛋白質量が1質量%になるように懸濁し、さらに0.3質量%ポリエチレングリコールを含有させた水溶液に、担体シート1を1時間浸漬処理した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた担体を、60℃の温度に保持した乾燥機中で10分間乾燥し、蛋白質担持フィルタを調製した。
【0048】
(比較例2)
100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)に、精製度0.8のブロメラインを総蛋白質量が1質量%になるように懸濁し、さらに0.3質量%アルギン酸ナトリウムを含有させた水溶液に、担体シート1を1時間浸漬処理した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた担体を、60℃の温度に保持した乾燥機中で10分間乾燥し、蛋白質担持フィルタを調製した。
【0049】
(比較例3)
100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)に、精製度0.99のブロメラインを総蛋白質量が1質量%になるように懸濁し、さらに0.3%質量ポリエチレンオキサイドを含有させた水溶液に、担体シート1を1時間浸漬処理した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた担体を、60℃の温度に保持した乾燥機中で10分間乾燥し、蛋白質担持フィルタを調製した。
【0050】
(比較例4)
100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)に、精製度0.99のブロメラインを総蛋白質量が1質量%になるように懸濁し、さらに0.3質量%ポリエチレングリコールを含有させた水溶液に、担体シート1を1時間浸漬処理した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた担体を、60℃の温度に保持した乾燥機中で10分間乾燥し、蛋白質担持フィルタを調製した。
【0051】
(比較例5)
100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)に、精製度0.99のブロメラインを総蛋白質量が1質量%になるように懸濁し、さらに0.3%質量アルギン酸ナトリウムを含有させた水溶液に、担体シート1を1時間浸漬処理した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた担体を、60℃の温度に保持した乾燥機中で10分間乾燥し、蛋白質担持フィルタを調製した。
【0052】
(実施例3)
100mMリン酸緩衝液(pH7.0)に、精製度0.9の抗インフルエンザ卵黄由来抗体(IgY)を総蛋白質の濃度が5mg/ml、ポリエチレンオキサイドを0.3質量%含有させた水溶液を調製し、その水溶液に担体シート1を1時間浸漬処理した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた担体を、60℃の温度に保持した乾燥機中で10分間乾燥し、蛋白質担持フィルタを調製した。
【0053】
(実施例4)
100mMリン酸緩衝液(pH7.0)に、精製度0.5の抗インフルエンザ卵黄由来抗体(IgY)を総蛋白質の濃度が5mg/ml、ポリエチレンオキサイドを0.3質量%含有させた水溶液を調製し、その水溶液に担体シート1を1時間浸漬処理した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた担体を、60℃の温度に保持した乾燥機中で10分間乾燥し、蛋白質担持フィルタを調製した。
【0054】
(比較例6)
100mMリン酸緩衝液(pH7.0)に、、精製度0.8の抗インフルエンザ卵黄由来抗体(IgY)を総蛋白質の濃度が5mg/ml、ポリエチレングリコールを0.3質量%含有させた水溶液を調製し、その水溶液に担体シート1を1時間浸漬処理した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた担体を、60℃の温度に保持した乾燥機中で10分間乾燥し、蛋白質担持フィルタを調製した。
【0055】
(比較例7)
100mMリン酸緩衝液(pH7.0)に、精製度0.8の抗インフルエンザ卵黄由来抗体(IgY)を総蛋白質の濃度が5mg/ml、アルギン酸ナトリウムを0.3質量%含有させた水溶液を調製し、その水溶液に担体シート1を1時間浸漬処理した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた担体を、60℃の温度に保持した乾燥機中で10分間乾燥し、蛋白質担持フィルタを調製した。
【0056】
(比較例8)
100mMリン酸緩衝液(pH7.0)に、精製度0.99の抗インフルエンザ卵黄由来抗体(IgY)を総蛋白質の濃度が5mg/ml、ポリエチレンオキサイドを0.3質量%含有させた水溶液を調製し、その水溶液に担体シート1を1時間浸漬処理した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた担体を、60℃の温度に保持した乾燥機中で10分間乾燥し、蛋白質担持フィルタを調製した。
【0057】
(比較例9)
100mMリン酸緩衝液(pH7.0)に、精製度0.99の抗インフルエンザ卵黄由来抗体(IgY)を総蛋白質の濃度が5mg/ml、ポリエチレングリコールを0.3質量%含有させた水溶液を調製し、その水溶液に担体シート1を1時間浸漬処理した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた担体を、60℃の温度に保持した乾燥機中で10分間乾燥し、蛋白質担持フィルタを調製した。
【0058】
(比較例10)
100mMリン酸緩衝液(pH7.0)に、精製度0.99の抗インフルエンザ卵黄由来抗体(IgY)を総蛋白質の濃度が5mg/ml、アルギン酸ナトリウムを0.3質量%含有させた水溶液を調製し、その水溶液に担体シート1を1時間浸漬処理した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた担体を、60℃の温度に保持した乾燥機中で10分間乾燥し、蛋白質担持フィルタを調製した。
【0059】
実施例1〜2、比較例1〜5の蛋白質担持フィルタについて試験例1で示した酵素活性試験を実施した。その結果を表1に示す。実施例1〜2、比較例3ではリゾチームの溶菌作用によるルテウス菌の崩壊が確認された。比較例1、2、4,5ではルテウス菌の崩壊は確認されなかった。
【0060】
実施例1〜2、比較例1〜5の蛋白質担持フィルタについて、試験例3で示した酵素活性試験を実施した。その結果を表1に示す。実施例1〜2ではリゾチームの溶菌作用によるルテウス菌の崩壊が確認された。一方、比較例1〜5ではルテウス菌の崩壊は確認されなかった。
【0061】
実施例3〜4、比較例6〜10の蛋白質担持フィルタについて試験例2で示したインフルエンザウィルス不活性化試験を実施した。その結果を表1に示す。ブランク試験の結果、ウィルス感染価はEID50=0.5×108.5であった。実施例3、4および比較例8のウィルス感染価は、順にEID50=0.5×103.9、0.5×104.1、0.5×104.4、であり、蛋白質担持フィルタによる活性化ウィルス量の4桁減少、すなわち99.99%の不活性化が確認された。一方、比較例6、7、9、10のウィルス感染価は、順にEID50=0.5×107.1、0.5×107.5、0.5×107.3、0.5×107.5であり、活性化ウィルス量の1桁減少、すなわち90%不活性化にとどまった。
【0062】
実施例3〜4、比較例6〜10の蛋白質担持フィルタについて試験例4で示したインフルエンザウィルス不活性化試験を実施した。その結果を表1に示す。ブランク試験の結果、ウィルス感染価はEID50=0.5×108.5であった。実施例3、4のウィルス感染価はEID50=0.5×105.1、0.5×105.5であり、活性化ウィルス量の3桁減少、すなわち99.9%の不活性化が確認された。一方、比較例8のウィルス感染価はEID50=0.5×107.3であり、活性化ウィルス量の1桁減少、すなわち90%不活性化にとどまった。また、比較例6、7、9、10のウィルス感染価はEID50=0.5×107.9、0.5×108.4、0.5×108.1、0.5×108.2、であり、ウィルス不活性化の効果は非常に低かった。
【0063】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の蛋白質担持フィルタは、ポリエチレンオキサイドの同時添着により、精製度の低い酵素、抗体等の蛋白質の活性発現に寄与することで、高い性能を実現したものであり、また、簡便な方法で蛋白質の担持が可能であるので、容易に産業上利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効蛋白質量/総蛋白質量により求められる精製度の値が0.9以下である蛋白質と、ポリエチレンオキサイドを添着したフィルタ。
【請求項2】
前記有効蛋白質がブロメラインである請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記有効蛋白質が卵黄由来抗体(IgY)である請求項1に記載のフィルタ。


【公開番号】特開2011−92851(P2011−92851A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248511(P2009−248511)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】