説明

蛍光による核酸のアッセイ方法

本発明は、検体中に存在する核酸の量を測定する方法に関し、フルオロフォアを検体に添加し、少なくとも2つの励起波長での光刺激に対応する少なくとも2つの発光波長でフルオロフォアにより発光された蛍光強度をそれぞれ測定し、測定された蛍光強度から検体中に存在する核酸の量を導き出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、2006年8月11日に出願された先の米国仮特許出願第60/836,949号に基づく利益を主張する。
【0002】
本発明は、検体中に存在する核酸の量を測定する蛍光分析法に関し、該方法の実施に好適な蛍光光度計および化合物の蛍光分析用トレイに関する。
【背景技術】
【0003】
血中を循環している遊離核酸の存在は、古くから知られている(Mandel and Metais, 1947およびTan, et al., 1966)。以来、RIA(放射免疫測定法)などの方法を用いて、良性腫瘍患者あるいは健常者の循環DNA量に比較して、癌患者の循環DNA量が上昇していることが見出されている(Leon, et al., 1977およびShapiro, et al., 1983)。
【0004】
しかし、近年、リアルタイムPCRなどの非常に有効な分子生物学的方法の開発に伴い、臨床生物学的マーカーとして使用するという観点から、循環DNAフラグメントに対する関心が高まってきている。
【0005】
癌患者から抽出したDNAは、通常、鎖構造の不安定性、特定の癌遺伝子、腫瘍抑制遺伝子、マイクロサテライト変性の存在など、腫瘍DNAの特徴を有している(Anker P., et al., 1999)。Kokら(De Kok, et al., 1997)は、この循環DNAは腫瘍細胞由来であると仮定し、特定の変性により特徴づけされる腫瘍由来のDNAが大腸癌患者の血清中に存在する可能性を報告した。この著者らは、原発性腫瘍において既に同定されているある種のK−ras点変異を血清のDNA中に検出した。このように、循環DNAに関する研究の多くが、種々の癌患者の腫瘍(組織)または血清から抽出したDNAにおける突然変異、ヘテロ接合体の消失、マイクロサテライト変性およびメチル化の検出に注目していたのである。血清の遊離ゲノム遺伝子中に検出されるマイクロサテライト変性および不安定性は、高い特異性を有する腫瘍モニタリング用新規マーカーとしての可能性を示唆している。
【0006】
近年になって、ゲノムまたは非ゲノム循環DNAの単なる濃度上昇を、初期乳癌および肺癌の診断マーカーまたはマーカーとして、さらに既に化学療法を受けている患者のモニタリングおよび検査に使用する試みについて多数の研究がなされている(Sozzi, et al., 2001)。この方法は、生検などのより侵襲性の高い処置の必要性を排除、あるいは少なくとも低減することができる。さらに、肺癌(Sozzi, et al., 2003)、乳癌(Gal, et al., 2004)または前立腺癌(Boddy, et al., 2005およびJung, et al., 2004)などの初期段階の癌に特異的なスクリーニングとして有用であり得る。また、癌患者、化学療法治療中の患者、あるいは外科手術を受けた患者、外傷(Lam, et al., 2003)、または心筋梗塞(Chang, et al., 2003)患者のモニタリングに通常使用されているマーカーの補助分析としても使用され得る。
【0007】
血中を循環しているDNAには基本的に次の2つのタイプがある。
・循環有核細胞に関連するDNA
・血漿中を循環している遊離DNA
癌患者または心筋梗塞を起こした患者では、血清中のゲノムDNAがフラグメント化しており、癌の場合には約100塩基対のフラグメントが存在し(Wu, et al., 2002)、心筋梗塞では約200塩基対のフラグメントが存在する(Chang, et al., 2003)。これらのフラグメントは、循環DNAの濃度が非常に低い、病変を有さないコントロールの血中からは検出されない。DNAが血流中に放出される機構については、今なお、ほとんど分かっていない。Jahrら(Jahr, et al., 2001)は、このDNAは主にアポトーシスおよび壊死細胞に由来する、という仮説を唱えた。
【0008】
健常者におけるこの循環DNAの濃度を規定する参照濃度限界は、現在存在しない。この閾値を見積もる多くの研究がなされたが、それらを方法論的に比較することは極めて困難であり、得られた結果は多くの水準で異なっている。さらに、研究毎に使用されている単位が、ng/ml、コピー数/ml、ゲノム当量/ml(6.6pg/mlで見積もられた二倍体細胞中に含まれるDNA量)などのように異なっている。
【0009】
複数の研究グループが、予後診断の可能性を求めて、特に、従来の診断マーカーとの関連を構築する試みにより、循環DNAの量を測定してきた。現在まで、全ての研究において、使用された検体が血清、血漿にかかわりなく、癌患者におけるDNA量の平均値が健常者コントロールにおける値よりも相当高いという点で一致していた。それにもかかわらず、測定された絶対値は、研究ごとに異なっている。この差異は、分析対象である癌の種類、使用された方法に関連している可能性がある。公表されている大量のデータ(Thijssen, et al., 2002)により確認できるように、血漿中のDNA量は、血清を用いた場合よりも低い値となる。臨床的な意義に関しては、DNA量と公知の予後因子との間の相関関係について少なくとも2つの報告がなされている。(小細胞または非小細胞)肺癌では、血漿DNA量と血清LDH活性およびニューロン特異的エノラーゼ(NSE)との間には、各マーカーと患者の生存率との関連性と同様の、高い相関関係が存在する(Fournie, et al., 1995)。同様に、DNA量は、乳癌患者のリンパ節転移における臨床病期や腫瘍の大きさに相関していた(Shao, et al., 2001)。最後に、腫瘍を原因とする循環DNAのフラクションは、患者間で大きく異なるということを念頭に置くことが重要である(Jahr, et al., 2001)。
【0010】
今日、溶液中の核酸を測定する方法は多数あり、それらの方法によって、臨床医や研究者の様々な要求に対応している。それらの方法には、まず、分光測光法(Greenstock, et al., 1975)がある。この方法は、全ての研究室で行われる非常に一般的な方法であり、安価であるという利点を有するが、臨床業務においては大きな欠点、つまり感度が極めて低いという欠点を有する。したがって、測定対象の患者中の循環DNA量を測定することはできない。
【0011】
その他の高感度の測定法もあるが、それらは全て多かれ少なかれ日常的使用が困難であるという特徴を有する。一つには、測定に先立って生物学的環境からDNAを抽出するという、通常の操作を必要とするからである。すなわち、
・放射免疫測定法(Leon, et al., 1975)は、比較的長時間(分析当たり数時間)かかり、散発的ではなく一連の測定を行わなければならず、中でも、放射性元素を取り扱うための専門的なシステムと認可されたスタッフを必要とする。
・競合PCR(Siebert, et al., 1992およびYap, et al., 1992)は、既知の標準に対する相対的なディスプレイに基づくものであり、検出感度および特異性を提供する一連の複数の工程が追加される。これらの工程は、扱いづらいと共に比較的秘密情報とされている。すなわち、医療分析研究所でのその日常的な使用は、将来的にはあり得ない。
・リアルタイム定量PCR(Mulder, et al., 1994)は、循環DNAの測定における問題点に関する様々な報告において好適な方法である。その利点は、2つある。すなわち、ディスプレイされる標的DNA(この場合、ヒトDNA)に特異的であり、また、今日、もはや研究機関だけのものではなく、多数の病院において見られる機器である。にもかかわらず、欠点が無いわけではない。すなわち、抽出操作が必要であり、比較的操作コストが高く、大量の日常的分析には使用できず、感度も不十分な特別な機器を必要とする。
・蛍光定量法(Greenstock, et al., 1975)。この方法では抽出工程が不要なわけではないが、測定対象である溶液中の遊離DNAを迅速に直接測定することができる。しかし、本法が使用される技術的条件(マイクロプレート、試薬の容量、蛍光の測定)により、必要な感度に到達することが阻まれ、検出されたDNA(ヒトまたは非ヒト)の由来を同定することができない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Anker P. et al. Detection of Circulating Tumour DNA in the blood (plasma/serum) of Cancer Patients. Cancer Metastasis Rev 1999, 18: 65-73.
【非特許文献2】Boddy J.L. et al. Prospective Study of Quantitation of plasma DNA Levels in Diagnosis of Malignant versus Benign Prostate Disease. Clinical Cancer Res 2005, 11: 1394-1399.
【非特許文献3】Chang C.P. Elevated cell-free serum DNA detected in patients with myocardial infarction. Clin Chim Acta 2003, 327: 95-101.
【非特許文献4】De Kok JB et al. Detection of Tumour DNA in Serum of Colorectal Cancer Patients. Scand J Lab Clin Invest 1997, 57: 601-4.
【非特許文献5】Fournie G.J. et al. Plasma DNA as a Marker of Cancerous Cell Death: Investigation in Patients Suffering from Lung Cancer in Nude Mice Beaming Human Tumours. Cancer Letters 1995, 91: 221-227.
【非特許文献6】Gal S. et al. Quantitation of Circulating DNA in Serum of Breast Cancer Patients by Real Time PCR. British Journal of Cancer 2004, 90: 1211-1215.
【非特許文献7】Greenstock C. L., et al. Interaction of ethidium bromide with DNA as studied by kinetic spectrophotometry. Chem Biol Interact. 1975, 11: 441-7.
【非特許文献8】Jahr S. et al. DNA Fragments in the blood Plasma of Cancer Patients: Quantitation and Evidence for their Origin from Apoptotic and Necrotic Cells. Cancer Res 2001, 61:1659-65.
【非特許文献9】Jung K. et al. Increased Cell Free DNA in Plasma of Patients with Metastasic Spread in Prostate Cancer. Cancer letters 2004, 205: 173-180.
【非特許文献10】Lam N.Y. et al. Time Course of Early and Late Changes in Plasma DNA in Trauma Patients. Clinical Chemistry 2003, 49: 1286-1291.
【非特許文献11】Leon SA, et al. Radioimmunoassay for nanogram quantities of DNA. J Immunol Methods 1975 9: 157-64.
【非特許文献12】Leon S. et al. Free DNA in the Serum of Cancer patients and effects of the Therapy. Cancer Res. 1977, 37: 646-650.
【非特許文献13】Mandel P. and Metais P. Les acides nucleiques du plasma sanguin chez l'homme. C. R. Soc Biol 1948, 142: 241.
【非特許文献14】Mulder J. Rapid and simple PCR assay for quantitation of human immunodeficiency virus type 1 RNA in plasma: application to acute retroviral infection. J Clin Microbiol 1994, 32: 292-300.
【非特許文献15】Shao Z et al. P53 Mutation in Plasma DNA and its Prognostic Value in Breast Cancer Patients. Clinical Cancer Res 2001, 7: 2222-2227.
【非特許文献16】Shapiro B. et al. Determination of Circulating DNA Levels in the Patients with Benign or malignant Gastrointestinal Disease. Cancer 1983, 51: 2116-2120.
【非特許文献17】Siebert PD, et al. Competitive PCR. Nature. 1992, 359: 557-8.
【非特許文献18】Sozzi G. et al. Analysis of Circulating Tumour DNA in Plasma at Diagnosis and Follow-up Lung Cancer Patients. Cancer Res 2001, 61: 4675-4678.
【非特許文献19】Sozzi G. et al. Quantitation of Free Circulating DNA as a Diagnostic Marker in Lung Cancer. Journal of Clinical Oncology 2003, 21: 3902-3908.
【非特許文献20】Tan E. M. et al. Deoxyribonucleic acid (DNA) and antibodies to DNA in the serum of patients with systemic lupus erythematosus. J Clin Invest 1966, 45: 1732-40.
【非特許文献21】Thijssen M. A. et al. Difference between Free Circulating Plasma and Serum DNA in Patients with Colorectal Liver Metastasis. Anticancer Res 2002, 22: 421-425.
【非特許文献22】Wu T. L. et al. Cell Free DNA: Measurement in Various Carcinomas and Etablishment of normal Reference range. Clinica Chimica Acta 2002, 321: 77-87.
【非特許文献23】Yap EP, et al. Nonisotopic SSCP and competitive PCR for DNA quantification: p53 in breast cancer cells. Nucleic Acids Res. 1992, 20: 145.
【発明の概要】
【0013】
したがって、本発明は、既存の方法の欠点を克服した、試料中に存在する核酸の量を測定する方法を提供することを目的とする。
【0014】
本発明の出発点は、本発明者らが、検体にフルオロフォアを添加し、そして同時分析で、または少なくとも2つ、特に少なくとも3つの対応する波長での励起に応じて少なくとも2つ、特に少なくとも3つの異なる発光波長で発光された蛍光強度を測定することにより、検体中に存在する核酸の量を測定することができることを実証したことにある。
【0015】
発明の要旨
本発明は、検体中に存在する核酸の量を少なくとも2つ、好ましくは3つの波長の蛍光により測定する方法に関するもので、
検体にフルオロフォアを添加し、
少なくとも2つ、好ましくは3つの励起波長での光刺激に応じてそれぞれ少なくとも2つ、好ましくは3つの発光波長でフルオロフォアにより発光された蛍光強度を測定し、
該少なくとも2つ、好ましくは3つの測定された蛍光強度から検体中に存在する核酸の量を導き出す。
【0016】
前述の方法の特定の態様においては、3つの励起波長λ’1、λ’、λ’での光刺激に応じてそれぞれ3つの発光波長λ1、λ、λでフルオロフォアにより発光された蛍光強度I1、I2、I3を測定する。ここで、λ1<λ<λであり、λ1、λ、λは予め決定しておく。
【0017】
前述の方法の他の特定の態様においては、前記核酸の量は、次式のFの値から導き出す。
【0018】
【数1】

【0019】
前述の方法の他の特定の態様においては、該フルオロフォアはピコグリーン(Picogreen登録商標)であり、該波長は下記の通りである。
【0020】
【数2】

【0021】
さらに、前述の方法の他の特定の態様においては、2つの励起波長λ’1およびλ’での光刺激に応じてそれぞれ2つの発光波長λ1およびλでフルオロフォアにより発光された蛍光強度I1およびI2を測定する。ここで、λ1およびλは予め決定しておく。
【0022】
これに関連して、好ましくは、該核酸の量を、I1およびI間の差の絶対値、すなわち、下記のFの値から導き出す。
【0023】
【数3】

【0024】
さらに、これに関連して、該フルオロフォアがピコグリーン(登録商標)である場合、該波長は下記の通りである。
【0025】
【数4】

【0026】
さらに具体的には、該検体中の核酸の量は、較正曲線を用いてFの値から導き出される。
【0027】
本発明はまた、上述の方法を行うのに適した蛍光光度計に関し、
2つおよび/または3つの励起波長λ’1、λ’および場合によりλ’で光励起するための1つ以上の手段、
3つの発光波長λ1、λおよび場合によりλで発光された蛍光強度I1、I2および場合によりI3を測定する1つ以上の手段、および
下記の値Fを計算することを可能とする計算機、を含むことを特徴とする。
【0028】
【数5】

【0029】
前述の蛍光光度計の特定の態様においては、3つの波長に関して、励起および発光波長は下記の通りである。
【0030】
【数6】

【0031】
前述の蛍光光度計の他の特定の態様においては、2つの波長に関して、励起および発光波長は下記の通りである。
【0032】
【数7】

【0033】
本発明はまた、化合物の蛍光アッセイ用のトレイに関し、該トレイは、少なくとも蛍光分析に使用される波長の光を透過し得る混合及び測定容器を含む。該容器は、
フルオロフォアを含有し、それ自体、希釈液を含有するリザーバに接続されているフルオロフォアリザーバ、および
分析される化合物を含有する検体の体積を標準化するためのリザーバであって、それ自体、分析される化合物を含有する検体を収集するウェルに接続されている標準化リザーバ、
に接続されている。
【0034】
前述のトレイの特定の態様においては、逆止弁が、
収集された溶液が標準化リザーバの方向にのみ通過できるように、収集ウェルと標準化リザーバとの間に、
収集された溶液が混合及び測定容器の方向にのみ通過できるように、標準化リザーバと該容器との間に、
希釈液がフルオロフォアリザーバの方向にのみ通過できるように、希釈溶液リザーバとフルオロフォアリザーバとの間に、および
希釈液が混合及び測定容器の方向にのみ通過できるように、フルオロフォアリザーバと該容器との間に、配置されている。
【0035】
前述のトレイの他の特定の態様においては、標準化リザーバ、混合及び測定容器、フルオロフォアリザーバ、および希釈液リザーバからなる区画が十分な弾力性を有する物質でできており、それら器に入っている液体をそれらの器に圧力を与えることによって移動させることができる。
【0036】
前述のトレイの他の特定の態様においては、該フルオロフォアはピコグリーン(登録商標)であり、該希釈液がトリス‐ホウ酸‐EDTA(TBE)緩衝液である。
【0037】
前述のトレイの他の特定の態様においては、該標準化リザーバが、該収集された溶液中に含まれ、1000ヌクレオチド未満の長さを有する核酸分子を選択する手段に連結されている。
【発明を実施するための形態】
【0038】
核酸
核酸は、天然または合成由来でよく、それに組み込まれるヌクレオチド、特に、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドは、天然でもよくまたは修飾されていてもよい。好ましくは、核酸は、DNAまたはRNAであり、より好ましくは、DNAである。さらに、核酸鎖の大きさは、好ましくは、5塩基を越える。
【0039】
望ましくは、検体中の低分子量(例えば、1000塩基未満の長さ)の鎖を有する核酸を、必要であれば、これらの核酸を適当な処理により選択した後、特異的に定量することにより、細胞、例えば、検体が由来する生物または培養物中の細胞のアポトーシスによる細胞死の定量が可能である。そのように測定された値は、DNAの総量の値に関連付けることが可能であり、場合により、1000塩基未満の大きさの核酸鎖を選択するための処理を経ずに測定して、アポトーシスによる細胞死の割合を求めることも可能である。
【0040】
アポトーシスは、総核酸を測定し、適当な処理により低分子量の核酸を除去した後、高分子量の核酸を測定することにより、定量することも可能である。次いで、低分子量の核酸の量は、高分子量の核酸を差し引くことにより得ることができる。
【0041】
場合により、低分子量の核酸を特異的に選択して、直接定量することも可能である。その後、残存する高分子量の核酸は、それらを特異的に測定してもよい。したがって、総核酸は、両者の量を合わせることにより得られる。
【0042】
アポトーシスを定量するためには、DNAとフルオロフォアの相互作用の後に、蛍光により、低分子量または高分子量の核酸および総核酸の量の特異的定量を行うことができる。核酸は、前もって適当な処理により捕獲および/または濃縮することができる。
【0043】
本発明の構成におけるアポトーシスの定量は、実験を進行させながら、動的状態において行うことができる。実際、外部媒体(例えば、培養媒体)中に排出された核酸フラグメントを測定するので、測定を行うために、例えば、細胞培養を停止する必要はない。残っている生細胞により、実験を続けることができる。したがって、短時間の後などに測定を必要なだけ頻繁に繰り返すことができる。同様に、ヒトまたは動物に起こるアポトーシスを測定することが可能であり、ここで、測定媒体は、いずれの種類の生物学的検体であってもよい。
【0044】
そのように、種々の分野、例えば、医療分野、動物実験のプロトコール、細胞培養に応用することを考えることが可能である。核酸フラグメントは、天然または非天然にかかわらず、いずれの種類の流体において測定してもよい。
【0045】
一つの分野は、特に、動物または細胞培養物における薬理学的研究に関する。注目される分野としては、以下のものが含まれる。
・薬剤の致死性の試験、
・細胞死の誘導形態、例えば、壊死またはアポトーシス、の確立、
・適用されている実験条件において、その他の細胞が生存している状態で、最初の細胞死が起こるまでの、実験の継続が可能である時間の規定。
【0046】
他の分野は、細胞培養の科学研究に関する。実際には、
・代謝径路の刺激または不活性化、または
・使用される実験条件による、細胞死に及ぼす影響の研究が可能である。
【0047】
さらに、他の分野は、動物実験のプロトコールであって、
・ランダム細胞死に対する薬剤の、
・誘導細胞死の、または
・実験条件の影響の試験のためのプロトコールに関する。
【0048】
上述の全てに加えて、細胞死を誘導する病状の患者のモニタリングまたはフォローアップにおけるアポトーシスの定量、それらの病状の診断、または治療効果のフォローアップも興味深い。
【0049】
さらに、一般的に、細胞死の有無を知る必要のあるもの、細胞死誘導状態、細胞死発現の遅延、および研究対象の効果の持続時間などの分野に応用できる。上記で定義された方法によって測定された核酸の量を、細胞死の特徴づけに好適に使用することができる。
【0050】
検体
検体は、天然または合成由来、また無機物または有機物であることができる。好ましくは、検体は、生物学的検体または生物学的検体の誘導体である。さらに好ましくは、検体は生物学的検体から希釈により誘導されたものである。生物学的検体は、例えば、動物、特にヒト、または植物由来であってよい。
【0051】
さらに好ましくは、生物学的検体は、細胞培養物、全血、血清、血漿、血液形成要素、赤血球、尿、糞便、脳脊髄液、精液、穿刺液、痰、唾液、気管支および肺胞(alveolar)液、膿汁、生殖器分泌物、羊水、胃液、胆汁、膵液、組織生検、毛髪、皮膚、歯、およびリンパ液からなる群から選択される。
【0052】
さらに好ましくは、検体が細胞破壊を起こしていた可能性のある生理病理的状態にあった患者から得られたものである。特に、検体は、癌を患っているかまたは癌が疑われる患者、化学療法治療を受けている患者、外科手術を受けた患者、外傷(traumatised)患者、および心筋梗塞を患った患者からなる群から選択された患者に由来する。
【0053】
好ましくは、生物学的検体に含有される核酸は、生理的または病理的原因による溶解細胞に由来し、特にアポトーシス細胞に由来する。
【0054】
検体は、特に好ましくは、20〜400倍に希釈された血漿である。
【0055】
本発明による方法は、核酸の事前の精製を行わずにいずれの所望の検体中の核酸も定量することができ、有利である。
【0056】
フルオロフォア
用語「フルオロフォア」とは、光励起に応答して発光する傾向のある化合物をいう。
【0057】
本発明では、フルオロフォアは、好ましくは核酸との間に弱いまたは強い相互作用または化学結合を構築することにより核酸と相互作用しやすいものである。
【0058】
一般に、その特徴により、核酸と相互作用するフルオロフォアは、次のように区別される。
・臭化エチジウム、ヨウ化プロピジウム、またはピコグリーン(登録商標)などの挿入剤
・DAPIやヘキスト試薬(例えば、ヘキスト33258、ヘキスト34580)などの二重鎖DNAのマイナーグルーブ(minor groove:副溝)に結合する試薬
・アクリジンオレンジ、7−AAD、LDS751、およびヒドロキシスチルバニジン(hydroxystilbanidine)などの、核酸と相互作用する種々の試薬
他の例としては、SYBR(化学的に反応性)、TOTO(シアニン二量体)、TO−PRO(シアニン単量体)、SYTO(細胞浸透性)、およびSYTOX(細胞非浸透性)ファミリーからのフルオロフォアからなる群から選択されるフルオロフォアを挙げることができる。
【0059】
好ましくは、フルオロフォアは、核酸挿入剤である。
【0060】
用語「核酸挿入剤」とは、核酸鎖を形成する塩基の間にはめ込まれ易いフルオロフォアをいう。挿入剤は、当業者において周知である。
【0061】
本発明者らは、ピコグリーン(登録商標)、臭化エチジウム、試薬ヘキスト33258、アクリジンオレンジ、POPO(登録商標)、TOTO(登録商標)、およびSYBR(登録商標)を用いることによって、本発明の方法により核酸を定量できることを特に示した。
【0062】
従って、好ましくは、フルオロフォアは、ピコグリーン(登録商標)、臭化エチジウム、試薬ヘキスト33258、アクリジンオレンジ、POPO(登録商標)、TOTO(登録商標)、およびSYBR(登録商標)からなる群から選択される。
【0063】
さらに好ましくは、フルオロフォアは、ピコグリーン(登録商標)または2−[N−ビス−(3−ジメチルアミノプロピル)−アミノ]−4−[2,3−ジヒドロ−3−メチル−(ベンゾ−1,3−チアゾル−2−イル)−メチリデン]−1−フェニル−キノリニウム]+)である。
【0064】
ピコグリーン(登録商標)は、特に、Molecular Probesにより販売されており、特に、米国特許第5863753号に詳述されている。前述の処理においては、好ましくは、ピコグリーンdsDNA定量キット(Molecular Probes)のピコグリーン(登録商標)を約1/5000〜約1/80000、特に約1/20000に希釈して使用する。
【0065】
臭化エチジウムを使用する場合には、下記の励起および発光波長を上述の方法および蛍光光度計に使用することができる。
【0066】
3つの波長の場合には、以下の通りである。
【0067】
【数8】

【0068】
2つの波長の場合には、以下の通りである。
【0069】
【数9】

【0070】
ヘキスト33258を使用する場合には、下記の励起および発光波長を上述の方法および蛍光光度計に使用することができる。
【0071】
3つの波長の場合には、以下の通りである。
【0072】
【数10】

【0073】
2つの波長の場合には、以下の通りである。
【0074】
【数11】

【0075】
SyBrグリーンIIを使用する場合には、下記の励起および発光波長を上述の方法および蛍光光度計に使用することができる。
【0076】
3つの波長の場合には、以下の通りである。
【0077】
【数12】

【0078】
2つの波長の場合には、以下の通りである。
【0079】
【数13】

【0080】
Popo1を使用する場合には、下記の励起および発光波長を上述の方法および蛍光光度計に使用することができる。
【0081】
3つの波長の場合には、以下の通りである。
【0082】
【数14】

【0083】
2つの波長の場合には、以下の通りである。
【0084】
【数15】

【0085】
同期蛍光
用語「同期蛍光」とは、その波長が、一定の間隔、例えば、30nmだけ離れているように設定されている励起光および発光に対応する一組のシグナルを測定するために、発光および励起光を受光する2つのモノクロメータ(monochrometer)が同時に動いて蛍光を測定する、当業者には周知の蛍光測定法をいう。同期蛍光は、特に、Lloyd (1971) "Synchronised excitation of fluorescence emission spectra" Nature physical Science 231: 64-5およびFicheuxら(1991) "La spectrofluorescence synchrone: theorie et applications" Toxicorama 3:1 :8-13によって定義されている。
【0086】
上記に定義した方法では、2つまたは3つの蛍光強度を同期蛍光により測定することが可能であり、あるいは、一旦励起および発光波長を決定すれば、与えられた励起波長に応じて決定される発光波長で発光された2つまたは3つの光の強度を単に測定することにより測定することが可能である。
【0087】
したがって、λ1、λ、および場合によりλは、同期スペクトルの傾斜における変化に印付けする点として、特に、同期スペクトルの傾斜における変曲点あるいは不連続点(breaking point)として、同期蛍光により決定することができる。
【0088】
傾斜不連続点は、先行する値により規定されるバックグラウンドと統計的に異なる新しい傾斜と、ピークに先行する点における平均傾斜値との間の境界を示す点であることが理解される。その際、この平均近辺の点はある程度のばらつきが許されなければならない。
【0089】
より具体的には、3つの波長を基準とする場合、λは蛍光発光強度ピークが観察される発光波長を示し、このピークはλおよびλに対応する2つの変曲または勾配不連続点に囲まれている。
【0090】
同期蛍光スペクトルから波長λ1、λ、λ、λ’1、λ’、λ’を決定する方法を、ピコグリーン(登録商標)を使用する特定の場合に関する下記の例により説明する。手短に言えば、λ1、λ、λは、より具体的には、それぞれ以下に対応する。
・島津RF535型蛍光光度計を用いて読み取った場合には、核酸とフルオロフォアの溶液の同期蛍光スペクトルを示す単一曲線の変曲点
・SAFAS Xenius型蛍光光度計を用いて読み取った場合には、核酸とフルオロフォアの溶液の同期蛍光スペクトルを示す単一曲線の勾配の不連続点
本発明による方法は、レイリー干渉現象を限定または防止することができる点で有利である。
【0091】
あるいは、2つの波長を基準とする場合、λおよびλの一方は蛍光発光強度ピークが観察される発光波長を示し、他方は、該発光強度ピークの直前または直後の傾斜の変曲点または不連続点が観察される発光波長を示す。図15および16は、λ1およびλの選択を示している。好ましくは、λおよびλの一方は蛍光発光強度ピークが観察される発光波長を示し、他方は、該発光強度ピークの直前の傾斜の変曲点または不連続点が観察される発光波長を示す。
【0092】
2つの波長を使用する場合は、3つの波長を使用する場合に比較して、正確さに劣るが、その操作が簡単であると同時に、レイリー干渉現象を限定または防止することもできる。
【0093】
蛍光光度計
本発明による蛍光光度計に関しては、励起光源の出力は、例えば励起波長において、2.5ng/ml程度の低濃度のDNAを10%未満の精度で読み取れることが好ましい。好ましくは、使用するモノクロメータの帯域幅が+/−5nmを超えない。発光、特に、発光方向に対して90°で発光された光は、好ましくは、適当なシステムにより捕獲され、測定に特異的な波長を選択するために発光モノクロメータに向けられる。
【0094】
Fの値は、好ましくは、メモリーに記憶されているアルゴリズムを使ってコンピュータにより計算する。さらに、本発明による蛍光光度計は、各測定グループの較正曲線などのデータを記憶できるシステムが装備されていることが好ましい。さらに好ましくは、本発明による蛍光光度計は、計算と記憶されている較正曲線を使った後に、検体中に含有される核酸の量を提供する。
【0095】
さらに、本発明による蛍光光度計は、好ましくは、結果を表示するシステム、およびデータを作成してプリンター(またはプリンターを連結する設備)などに該データを転送するシステムが装備されている。また、さらに好ましくは、蛍光光度計は、検体と試薬を混合し、測定を行う読み取り容器に搬送することもできる。本発明の蛍光光度計は、好ましくは、例えば含有される核酸の量を計算するための1つ以上の検体を提供する患者の識別子を入力することができる数字入力または英数字入力キーボードを有する。分析の最後に、この識別子はプリンターを使って印刷されるレポートに記入することができる。さらに、蛍光光度計は、分析対象である検体を収容する容器に付されたバーコードを読み取るシステムを備えていても良い。本発明によるトレイなどの、蛍光光度計を使って測定できる容器に検体が収容されている場合には、各容器のバーコードは少なくとも1つの製品バッチ番号を有してよい。この番号も、分析の最後にプリンターを使って印刷されるレポートに記入されて良い。
【0096】
本発明の蛍光光度計は、好ましくは、コンセントまたは電池(携帯使用の際)による電力を供給する少なくとも1つの手段、およびコンピュータシステムに連結する少なくとも1つの手段を装備している。蛍光光度計が複数の連結手段を装備している場合、これらの連結手段は、好ましくは、いくつかの異なる標準のものである。携帯使用では、蛍光光度計は、好ましくは、使用者が不便なく、例えば研究所の卓上に設置でき、簡単に移動できるよう、できるだけ小型で、例えば、次のような寸法、高さ<15cm、長さ<25cm、幅<20cmを有し、できるだけ軽量である。
【0097】
最後に、蛍光光度計は、好ましくは、試薬の搬送および混合ができるシステムを装備しており、特に、該システムが本発明によるトレイとともに使用されることが好ましい。
【0098】
トレイ
本発明によるトレイは、本発明による方法に必要な機器および試薬の全て、すなわち、フルオロフォア、必要により希釈剤、測定容器、検体を収集するためのシステム、および測定を有効に行うために必要なものを含む。
【0099】
本発明によるトレイとして、トレイに入れる種々の試薬(検体、緩衝液、フルオロフォア)の混合物を、例えば、加圧−減圧や機械的圧力により混合することができるように可撓性の材料が有利に使用される。
【0100】
トレイの種々の区画(ウェル、リザーバ、容器)は、好ましくはキャピラリーにより連結されており、ある区画から他の区画への移動は、好ましくは、例えば、緩衝液リザーバ、フリオロフォアリザーバ、および/または標準化リザーバを押しつぶすことによって行われる。フルオロフォアリザーバを経由して緩衝液を移動すれば、フルオロフォアを希釈することができ、混合物を全体として容器に誘導できる。検体は、あらかじめ希釈されていてもいなくてもよく、蛍光光度計にトレイをセットする前あるいは後にトレイのウェルに添加され得る。好ましくは、正確な検体量をウェルに添加し、最適化された量の検体を、標準化リザーバを経由してフルオロフォアと混合するために容器に移動する。次いで、容器中での混合は、例えば、加圧−減圧や機械的圧力を容器に与えることにより行われる。本発明によるトレイは、濃縮溶液中のフルオロフォアおよび緩衝液のその場での混合により、蛍光発光に最適な最終濃度にすることができるので有利であり、フルオロフォアと検体とを均一化し、さらに適切な場合、検体の適切な希釈と発光された蛍光の測定を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】1/100に希釈した血漿中に含まれるDNAの同期蛍光スペクトルであり、y軸は蛍光強度(UF)を、x軸は発光波長(nm)を示す。
【図2】1/4000希釈のピコグリーン(登録商標)、TBE1倍緩衝液(pH8.4)、Δλ=50nmでの健常者血漿中のDNAの蛍光強度であり、血漿は1/100に希釈し、y軸は蛍光強度(UF)を、x軸は発光波長(nm)を示す。
【図3】1/4000希釈のピコグリーン(登録商標)、TBE1倍緩衝液(pH8.4)、Δλ=50nmでの疾患患者血漿中のDNAの蛍光強度であり、血漿は1/100に希釈し、y軸は蛍光強度(UF)を、x軸は発光波長(nm)を示す。
【図4】1/20000希釈のピコグリーン(登録商標)、TBE1倍緩衝液(pH8.4)、Δλ=50nmでの健常者血漿中のDNAの蛍光強度であり、血漿は1/100に希釈し、y軸は蛍光強度(UF)を、x軸は発光波長(nm)を示す。
【図5】1/20000希釈のピコグリーン(登録商標)、TBE1倍緩衝液(pH8.4)、Δλ=50nmでの疾患患者血漿中のDNAの蛍光強度であり、血漿は1/100に希釈し、y軸は蛍光強度(UF)を、x軸は発光波長(nm)を示す。
【図6】異なる3つのΔλ(50nm、35nm、および30nm)、TBE1倍緩衝液(pH8.4)での血漿中のDNAの蛍光強度であり、y軸は蛍光強度(UF)を、x軸は発光波長(nm)を示す。
【図7】DNA濃度(x軸、ng/ml)の関数としての蛍光強度(y軸、任意の望ましい単位)の直線性を示す。
【図8】前立腺癌患者からキットを使って抽出したDNAを、TBE1倍緩衝液(pH8.4)、1/20000希釈のピコグリーン(登録商標)で、同期蛍光法(y軸、コピー数/ml)およびリアルタイムPCR(x軸、コピー数/ml)により測定したDNA濃度の相関を示す。
【図9】図8に示した結果から、リアルタイムPCRにより測定したコピー数とリアルタイムPCRにより得られたコピー数の関数としての同期蛍光法により測定されたコピー数との関連を示す。
【図10】前立腺癌患者からキットを使って抽出したDNAを、TBE1倍緩衝液(pH8.4)、1/20000希釈のピコグリーン(登録商標)で、同期蛍光法(y軸、コピー数/ml)およびリアルタイムPCR(x軸、コピー数/ml)により測定したDNA濃度の相関を示しており、ゲノムコピー数/mlが100を超える患者から抽出したDNAの濃度のみを図8に示した結果との関連で保存したものである。
【図11】前立腺癌または大腸癌患者から精製したDNAを、TBE1倍緩衝液(pH8.4)、1/20000希釈のピコグリーン(登録商標)で、リアルタイムPCR(y軸、コピー数/ml)および同期蛍光法(x軸、コピー数/ml)により測定したDNA濃度の相関を示す。
【図12】ゲノムコピー/mlが100を超える前立腺癌患者から検体を調製せずに得た血漿DNAを、TBE1倍緩衝液(pH8.4)、1/20000希釈のピコグリーン(登録商標)で、リアルタイムPCR(y軸、コピー数/ml)および同期蛍光法(x軸、コピー数/ml)により測定したDNA濃度の相関を示す。
【図13】前立腺癌患者から検体を調製せずに得た血漿DNAを、TBE1倍緩衝液(pH8.4)、1/20000希釈のピコグリーン(登録商標)で、同期蛍光法(y軸、コピー数/ml)および3波長または微分蛍光器を用いて(x軸、ng/ml)測定したDNA濃度の相関を示す。
【図14】島津RF535型蛍光光度計(上の曲線)およびSAFAS Xenius型蛍光光度計(下の曲線)を用いて測定した、1/20000希釈のピコグリーン(登録商標)、TBE1倍緩衝液(pH8.4)での血漿中のDNAの同期スペクトルであり、血漿は1/100に希釈し、y軸は蛍光強度(UF)を、x軸は発光波長(nm)を示す。λ1、λ、λをグラフから決定する方法を示している。
【図15】2つの波長での蛍光強度(I、I)を用いる本発明による方法による蛍光(F)測定法の例を示す。
【図16】2つの波長での蛍光強度(I、I)を用いる本発明による方法による蛍光(F)測定法の例を示す。
【実施例】
【0102】
本発明を以下の実施例を参照してより詳細に説明するが、該実施例は説明のためだけのものであって、なんら限定をもたらすものではない。
【0103】
機器
全血を遠心分離して血漿または血清をヘパリン化EDTA試験管に収集し、デカンテーションする。TBE1倍緩衝液(pH8.5)(90mMトリス、90nMホウ酸、2mMEDTA)、ポリエチレン溶血試験管、アクリル容器、同期蛍光光度計(島津RF535リーダー、DR‐3データ分析器)、ピコグリーン(登録商標)(dsDNA定量キット、Molecular Probes)、標準範囲にある濃度既知の標準DNA。
【0104】
方法
A.同期蛍光法の原理
a)従来の蛍光法における問題点
従来の蛍光検出法においてしばしば問題となる主なものは、励起と発光との波長差が小さいことに起因するレイリー散乱に関連するものである。この効果は、血清などの複雑なタンパク質化合物の媒体の分析の場合、特に大きい。
【0105】
従来の蛍光スペクトルを測定する場合には、モノクロメータの一方がスペクトルを掃引し、他方は固定したままにしておく。発光スペクトルを作成するには、励起波長を選択(ピコグリーン(登録商標)に対しては480nm)し、再発光された光を選択するモノクロメータはこの範囲外、例えば、480〜620nmを掃引する。
【0106】
測定の開始時に、2つのモノクロメータを同じ波長にセットすると、発光モノクロメータは、溶液中の化合物分子により散乱された光に対応する非常に強い光信号を、検体が入っている容器から受け取る。散乱の際、僅かに多色性(polychromatic)である光は、少なくとも励起光と同じ波長を有するため、発光された光の強度の測定を干渉する。実際、蛍光の現象では、励起光は単色光ではなく、むしろ励起用モノクロメータによって選択された一組の波長に対応する。読み取り容器は単色光で照射する。溶液中の検体により発光された蛍光は多色性であり、一組の波長に対応する。この散乱光は、発光モノクロメータにより選択され、測定される。2つのモノクロメータ、励起モノクロメータと発光モノクロメータが同じ波長にセットされている場合には、2種類の光、散乱光と発光された光が測定される。発光の強度の測定は不可能である。これがレイリー干渉である。
【0107】
この散乱光の強度は、蛍光により発光された光に比較して非常に大きく、それを覆い隠してしまう。したがって、測定が定まらず、さらには不可能になってしまう。この干渉による問題を避けるためには、励起波長から十分に離れた波長の発光の強度を測定する必要がある。したがって、このような条件においては、非常に近い波長に由来するシグナルを正確に測定することは不可能である。
【0108】
従来の蛍光分析法に付随的に発生する現象を排除するためには、
・光学スリットの幅を狭くして、その集光範囲を狭くする(これは光線の強度を下げるので、必然的に分析感度が下がるのであるが)、または
・励起波長を置き換える(これは励起された分子の蛍光収率を下げるので、やはり分析感度が下がるのであるが)ことが必要である。
【0109】
b)同期蛍光法の貢献
方法の原理
同期スペクトルを生成する際には、蛍光分光計が2つのモノクロメータを同時に動かす。この場合、もはや、励起スペクトルか発光スペクトルを生成するということでなく、一定の間隔(Δλと名づけた。本例では30nm)だけ離れてセットされた波長の励起光および発光に対応する一組のシグナルを測定するということである。
【0110】
長所
1)レイリー散乱による干渉の排除
2つのモノクロメータが、同じ速度で動きながらスペクトルを掃引し、一定の間隔で相殺する。この場合、それらモノクロメータが同じ波長にないので、レイリー散乱に悩まされることはない。励起および発光光学システムのスリットを部分的に覆うと、残留干渉を起こすことがある。しかし、この干渉の程度は、測定の間ほとんど一定で、スペクトルの線形バックグラウンドとして現れる。それは、接線法により特定のシグナルの高さとして測定する際に容易に取り除くことができる。
【0111】
2)帯域幅の縮小
測定に使用される励起および発光波長が、蛍光のピーク収率を与える波長である場合、再発光強度はピークとなる。一方、これらの波長から離れるに従い、吸収された光の強度が励起の際に減少し、蛍光の収率が発光の際に減少するので、再発光された光の強度は弱くなる。同期蛍光の間に、2つの現象は合計され、再発光された光の変動はより大きくなる。これにより、従来のスペクトルにおいて得られるものと比較して、発光帯域の幅がスペクトル全体にわたって狭くなる。
【0112】
B.3波長での特異的蛍光の測定
前述の所見によって、同期蛍光技術から導かれる技術を推定することができる。本発明者らは、種々の異なる疾病患者から採取した数百のDNAの測定により、同期スペクトルに観測される谷が常に存在し、特に、同じ波長では常に最小となる、ということを見出した。
【0113】
したがって、図1に示される同期スペクトルでは、3つの重要な点に注意すべきである。504nmにおける「I」と570nmにおける「I」の2つの変曲点。蛍光の強度「F」(単位は任意)は、2つの点IとIを結ぶことにより算出され、その蛍光の強度は、526nmの発光ピークにおいて直線「I」の交差までのピークの単に高さを測定することにより決定される。直線Iの下方のシグナルの高さはレイリー散乱による干渉シグナルに対応し、それは測定されない。
【0114】
接線法として知られているこの技術は、レイリー散乱によるバックグラウンドノイズを排除することができ、非常に優れた蛍光シグナルの近似値を与える。
【0115】
したがって、以上のことから、本発明者らは、これら3つの蛍光発光波長で新しい技術を開発することが可能であると結論づけた。
【0116】
したがって、次のような測定を行った。
【0117】
【数16】

【0118】
次に、主読み取り波長(λ=526nm)でのレイリー効果による蛍光値「I」を推定することが必要である。この蛍光は、測定値IおよびIに基づいて算出される。蛍光ピークは、完全に左右対称ではないので、蛍光Iは、次の計算式により算出する。
【0119】
【数17】

【0120】
DNAに特異的な蛍光「F」は、次のように主波長でのI測定値に基づいて算出される。
【0121】
【数18】

【0122】
図14は、蛍光を測定するこの方法が使用する分光蛍光計とは無関係に一般化することができることを示している。
【0123】
C.実施のモード
ピコグリーン(登録商標)の調製
エチノール/TBEの50%(v/v)混合液で50倍に希釈したピコグリーン(登録商標)の原液をエッペンドルフ(登録商標)試験管に120μlずつ分取し、−20℃の冷凍庫に遮光して保存する。
【0124】
実験操作
冷凍庫(−20℃)に保存されていた一定量の血漿を解凍し、実験室の雰囲気温度(15〜25℃)に戻した後、TBE1倍緩衝液で10〜300倍に希釈した(最終容量=450μl)。これらの希釈物は、分析まで氷中保存する。
【0125】
40mlのTBE1倍緩衝液を分取し、100μlのピコグリーン(登録商標)を必要に応じて解凍して加え(最終希釈倍率:20000倍)、遮光して氷中に保存する。
【0126】
少なくとも測定開始20〜30分前に分光蛍光計のスイッチを入れ、以下のようにプログラミングする。
・励起の間は、モノクロメータが400nmから600nmまでスキャンする。
・発光の間は、モノクロメータが430nmから630nmまでスキャンする。
【0127】
測定を行うために、以下の手順を採用する。
・1/20000に希釈されたピコグリーン(登録商標)1.9mlを取り、作業台上に遮光して載置されている溶血用試験管に移す。
・100μlの血漿/血清希釈液を加え(最終容量=2ml)、混合物をボルテックスで8〜12秒間混和した後、2〜3分作業台上に静置した。その後、混合物をポンプでアクリル容器に迅速に送り込み、スペクトルの記録を開始する。
【0128】
標準範囲は、常に、ピコグリーン(登録商標)を加えた既知濃度の標準DNAに基づいて作成され、この範囲は、2.5ng/ml、25ng/ml、50ng/ngの点を選択した。
【0129】
注意:TBE1倍緩衝液は、測定の少なくとも24時間前に調製し、レイリー散乱現象を極力低減するように作業台の上に放置しておくことが必要である。
【0130】
D.結果
A.実験条件の最適化
1.緩衝液の選択
ピコグリーン(登録商標)は、二重らせんDNAの塩基間に入り込むので、緩衝液の性質は、蛍光シグナルに影響する。したがって、実験室に一般的に見られるさまざまな種類の緩衝液を試験した。
・TBE1倍緩衝液(1Mトリス(ヒドロキシメチルアミン)アミノメタン、0.1mMEDTA、pH=7.5):ピコグリーン(登録商標)に使用される従来の緩衝液である。
・10mMリン酸1カリウム緩衝液、pH=7.8:リン酸緩衝液は、標準または血漿中に存在するDNAの濃度を適切な精度で測定することを不可能にするような著しい蛍光を有している。
・TBE1倍緩衝液(90mMトリス(ヒドロキシメチルアミン)アミノメタン、90mMホウ酸、2mMEDTA、pH=8.5):TBE1倍緩衝液は、わずかに残存する蛍光を有するが、特に試験波長に蛍光ピークを有さない。したがって、その使用は、本発明による分析に有利である。
【0131】
2.pHの選択
上記の緩衝液は、種々のpH、すなわち5、5.5、6、6.5、7、7.5、8および8.5で試験した。
【0132】
これらのpH範囲では、蛍光スペクトルに変化はない。
【0133】
3.試薬、ピコグリーン(登録商標)、の希釈倍率の選択
レイリー散乱に加えて、従来の緩衝現象、すなわち、自動抑制、消光、フェーディング、および競合を制限するために、蛍光分析は極めて低濃度の媒体中で行う。
【0134】
本発明者らは、最高の信号を与える、最低の試薬濃度を決定した。
【0135】
次の濃度のピコグリーン(登録商標)を試験した:1/100、1/250、1/500、1/1000、1/2000、1/4000、1/8000、1/12000および1/20000。
【0136】
希釈度が低いと、信号の強度は弱くなる。過度に希釈程度が高いと、信号はほとんど再現性がなく、試験されたDNA濃度に比例した増加を示さない。
【0137】
シグナルは、1/4000以上の希釈で検出可能になるが、感度が不足する。この希釈では、コントロール血漿(図2)と疾病患者血漿(図3)を区別することができない。
【0138】
ピコグリーン(登録商標)では、1/20000希釈において最良の結果が得られる。この試薬の希釈濃度で、本技術は、感度と直線性を示し、コントロール血漿(図4)と疾病患者血漿(図5)を区別することができる。
【0139】
4.血漿希釈率の選択
生物学的マトリックスに関連する干渉を避けるために、できる限り高希釈度の検体を用いることが重要である。1/20、1/50、1/100、1/150、1/200、1/300、1/400に希釈した血漿を使用した。
【0140】
1/100に希釈した血漿において、最良の結果が得られる。
【0141】
乳白色または濁った血漿であっても、血漿の濁度に関与するヘイズはなく、溶血、黄疸、高タンパク血症に関与するヘイズも観察されなかった。
【0142】
この希釈により、コントロール血漿を適切な精度で測定できる。
【0143】
5.励起光と発光との間の波長差の選択
ピコグリーン(登録商標)の製造者が提案するピーク励起波長およびピーク発光波長は、それぞれ485nmと530nmである。これらの波長の選択およびその波長差45nmという選択は、分子の特徴によるものであるかもしれないが、読み取り容器内での光の散乱に関与する材料のストレスにもよるものである。45nmという差の選択は、励起および発光波長が40nmだけ離れている場合にレイリー干渉を制御することだけができる大多数の蛍光光度計に関与する、技術的ストレスによるかもしれない。
【0144】
この場合には、それらはピーク蛍光波長ではなく、最良の感度と最小の干渉との間との間で妥協して波長を決める。
【0145】
同期蛍光の使用は、レイリー干渉を大幅に抑えながら、10nm未満で分離され得る複数のピーク蛍光波長を有する分子を使用することができる。
【0146】
したがって、20、25、30、35、40、45、50および55nmの差を試験した。
【0147】
励起波長および発光波長の差が30nm(図6)であるときに、最良の感度が得られた。
【0148】
6.ピコグリーン(登録商標)の経時安定性
測定の繰り返し精度(repeatability)は次の通りである。
【0149】
【表1】

【0150】
再現性(reproducibility)は次の通りである。
【0151】
【表2】

【0152】
本技術の正確度(accuracy)は、臨床生物学における使用に許容できる。
【0153】
b.同期蛍光技術の質
1.精度
精度(precision)には繰り返し精度および再現性試験が含まれる。
【0154】
繰り返し精度
試験は、さまざまな種類の検体を、同じ試薬を用いて同日に10回測定することにより行った。
【0155】
本発明者らは、異なる濃度の3つの標準と患者血漿2検体(一方は1週間凍結したものであり、他方は新鮮血漿として分析に供した)を使用した。
【0156】
CV%((標準偏差/平均)*100)で表した結果は、下記の表にまとめられている。
【0157】
【表3】

【0158】
再現性
試験は、異なる20の試験日に20回、各試験日に再構成した試薬を用いて測定を行った。
【0159】
本発明者らは、分取して凍結保存した血漿検体と異なる濃度の3つの標準とを用いた。
【0160】
結果は、下記の表にまとめられている。
【0161】
【表4】

【0162】
2.正確度
試験は、次のように行った。2つの精製DNA検体を光度測定法(260nm)により分析した(RNAまたはタンパク質の存在により補正)。これらの測定値は、分析の参照値となる。これらの精製DNA検体を同期蛍光法により分析した。
【0163】
下記の表では、該方法の正確度を光度測定法と比較して、検出されたDNAの割合として表している。
【0164】
【表5】

【0165】
3.検出閾値
検出閾値は、以下のように算出する。TBE1倍緩衝液だけを含有する20例を測定した。これらの10回の測定の平均値を算出し、測定値の標準偏差の3倍値を該平均値に加えた。
【0166】
この方法により測定された閾値は、3.5ng/mlである。
【0167】
4.感度閾値
20%の適切な精度をもって検出できる第1のDNA濃度は、4ng/mlであり、
比較的満足できるものであることが確認されている。健常者の循環DNAの血漿濃度は、ほぼ2〜6ng/mlである。病院では、病的値がこれらの正常値より非常に高い値である。
【0168】
5.直線性試験
本技術では、4ng/mlのDNA濃度から少なくとも5000ng/mlまで直線性を示している(図7)。
c.3つの蛍光点の測定に関与する技術の質
本方法により得られた結果は、全ての点において同期蛍光技術の結果とあらゆる点において一致した(図13)。
【0169】
結論:これらの第1の試験は、同期蛍光法または3つの蛍光点の測定に関与する方法は、臨床生物学に使用できる信頼できる技術であることを示している。
【0170】
これらの結果を、以下において定量PCRの結果と比較する。
d.種々の癌(前立腺、大腸)における循環DNAの同期蛍光法による測定
第1段階として、同一のDNA抽出物を用いて、精製抽出物における該方法の有効性を確認し、参照方法、すなわち、定量PCRとの相対的な関連性を調べた。その後、第2段階として、常に該参照方法と比較しながら、患者血漿を用いて本方法の有効性を直接確認した。
【0171】
1.種々の癌からキットを用いて抽出したDNAに対するPCR対蛍光光度法の相関関係
前立腺癌
相関関係は存在するが、低DNA濃度において点の集団のゆがみが見られる(図8)。
【0172】
このゆがみを、図9に示す結果間の比のグラフにより分析する。顕著なゆがみが点集団のものであることが観察される。100ゲノムコピー/ml未満では、同期蛍光法とは違って、PCR技術では感度が不足していることが分かった。
【0173】
この100ゲノムコピー/mlの閾値以上では、優れた相関性が見られる(図10)。
【0174】
異なる病期にある前立腺および大腸癌
前立腺癌または大腸癌の患者から得た検体について、第2の測定を行った。前記の一連の測定と同様に、定量PCR技術では、100ゲノムコピー/mlの閾値が見出される(図11)。
【0175】
2.血漿DNAに対するPCR対蛍光光度法の相関関係
調製処理をなされていない生物学的検体に対する有効性も調査した。本発明者らは、前立腺または大腸の癌患者の凍結血漿を用いた。特に、100コピー/ml以上のゲノムコピーを有する検体(n=32)を使用して、血漿中のDNAを直接定量した(図12)。
【0176】
相関関係に優れ、抽出DNAで得られる値と同じ値が得られることが観察される。
【0177】
e.種々の癌(前立腺、大腸)における循環DNAの3点蛍光発光法による測定
同期蛍光法による測定と同時に、本発明者らは、3点の蛍光発光法によって、DNAの前処理を行わずに血漿中の循環DNA濃度を分析した(図13)。
【0178】
相関関係に優れ、同期蛍光で得られる値と完全に一致していることが見出される。したがって、循環DNAを測定する2つの新規技術は、参照技術、すなわち定量PCRと完全に同等であり、十分に相関性を有する。
【0179】
考察
定量PCRは、循環DNAの量を測定する方法として、現在最も広く使用されている。しかし、この方法は、比較的高価であり、専門的であり、救急医療センターで使用するにはふさわしくない。
【0180】
まさにその原理により、PCRは、検体中に存在する全てのDNAを増幅してしまう。DNA量がわずかに変動している患者の検体もほとんど同一の割合で増幅されるので、それを区別することはかなり難しい。この場合、PCR技術は、感度が不足していることになる。患者はDNA濃度の明確な増加を示さない限り、コントロールから区別または他の検体から区別することができないのである。
【0181】
さらに、定量PCRでは、酵素および巨大分子(プライマー、精製DNAフラグメント、フルオロフォアなど)に富む複雑な反応媒体中で蛍光を測定するので、重大な干渉を分析に引き起こすリスクがある。媒体が濃縮されると、読み取られる蛍光が低くなることが知られている。これに関連して、干渉の主要なものとして、以下のようなものが考えられる。
・自己阻害:受け取ったエネルギーを消散する分子同士の衝突の回数の増加または非蛍光高分子の形成により、高濃度において蛍光の自己阻害が起こり得る。
・蛍光または消光の阻害:高濃度または不均質複合媒体では、蛍光分子と溶媒またはその他の溶質との間の干渉の結果として、蛍光または消光阻害現象が起こるリスクがある。蛍光の収率および/または蛍光の持続時間が減少する。実用の観点から、これは、阻害物質が存在すると化合物の発する蛍光は弱くなることを意味する。これは、予め精製されていない生物学的媒体の分析における欠点の1つである。さらに、消光が常に均一に起こるわけではない。
・フェーディング(光退色):これは、反応型にある分子が他の分子と結合することによる、分子の破壊またはその反応性の欠如を引き起こす光の過励起による蛍光色素の蛍光発光の消失である。
・競合:これは、ガラス容器の特定の物質あるいは汚染物質の自己蛍光発光である。
【0182】
定量PCRでは、DNAを同期蛍光技術とほぼ同じ濃度で分析する場合、フルオロフォアは1000倍以上の濃度で存在する。さらに、プライマー分子およびポリメラーゼ分子は、発光を干渉する濃度で存在する。
【0183】
この媒体中の高濃度の分子は、溶液中の分子による入射光の分散に関連するレイリー効果も促進する。45nmだけ離れているように、励起波長と発光波長とが近ければ近いだけ、感度が高くなる。これは、ランプ強度の選択や読み出しスロットの選択に重大な技術的制限をもたらす。
【0184】
これら全ての要素から、本発明者らは、さらに希釈した媒体中での分析に基づく新規な技術を考え出した。
【0185】
従来の蛍光技術を選択すると、分析の感度を大幅に高めるとともに、抽出と増幅工程を回避するので、干渉、技術的変動性、操作エラーといったリスクを引き起こす。
【0186】
同期蛍光法を選択すると、分析の特異性に優れ、ピーク励起・発光波長を使用することにより、分析の感度をさらに上げることができる。
【0187】
この方法を行うことにより、同期スペクトルに重要な3つの点が存在することを明らかした。全てのデータを分析することにより、本発明者らは、これらの点の安定性についても確信した。これらの点は常に存在し、常に同じ波長である。したがって、新しい測定方法は、3つの蛍光強度のみを測定し、DNAに特異的な蛍光を正確に測定するための計算式を展開することにより開発された。この新しい技術は、特に感度に関しては、同期蛍光法で開発されたと同等の優れた分析品質を有する。
【0188】
DNA分析の感度が高いほど、患者の追跡調査において増加を早い段階で検出できる。このことは、年齢とともに正常値が次第に高くなっているように見える(データ非表示)高齢者(65歳〜)の場合、特に当てはまる。この分析を適用できる分野は広がっていくと思われる。
【0189】
開発された技術は、非常に満足できるものである。これらの技術は非常に正確であり、分析範囲は臨床上の要求によく適合している。また、これらの技術は最も普通に使用されている技術、リアルタイム定量PCR、と非常によく相関している。さまざまな相関関係は、今回の結果の優れた臨床的適切さを示すものである。100ゲノムコピー/mlという閾値は、定量PCRの病理上の判断の現時点での閾値である150ゲノムコピー/mlに近いものである。これは、本発明者らの技術の場合のDNA15000ゲノムコピー/ml、これは文献中にも見出される値である、にほぼ対応する。
【0190】
したがって、本発明者らは、DNAの抽出および増幅工程を省くために2つの新規技術を規定し、これにより、分析時間を数分にまでかなり短くすることができた。
【0191】
参考文献
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中に存在する核酸の量を測定する方法であって、
検体にフルオロフォアを添加し、
少なくとも2つの励起波長での光刺激に応じてそれぞれ少なくとも2つの発光波長でフルオロフォアにより発光された蛍光強度を測定し、
該少なくとも2つの測定された蛍光強度から検体中に存在する核酸の量を導き出す、核酸の量を測定する方法。
【請求項2】
該核酸が天然または合成由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該核酸がDNAまたはRNAである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
該検体が天然または合成由来である、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
該検体が生物学的検体または生物学的検体誘導体である、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
該検体が生物学的検体から希釈により誘導されたものである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
該検体が細胞破壊を起こしていた可能性のある生理病理的状態にあった患者を起源とするものである、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
測定された核酸の量を細胞死の特徴づけとの関連で使用する、請求項5から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
該フルオロフォアが核酸挿入剤である、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
該フルオロフォアがピコグリーン(Picogreen(登録商標)、[N−ビス−(3−ジメチルアミノプロピル)−アミノ]−4−[2,3−ジヒドロ−3−メチル−(ベンゾ−1,3−チアゾル−2−イル)−メチリデン]−1−フェニル−キノリニウム]+)である、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
3つの励起波長λ’1、λ’、λ’での光刺激に応じてそれぞれ3つの発光波長λ1、λ、λで該フルオロフォアにより発光された蛍光強度(I1、I2、I3)を測定し、ただしλ1<λ<λであり、λ1、λ、λは予め決定する、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記核酸の量を下記のFの値から導き出す、請求項11に記載の方法。
【数1】

【請求項13】
該フルオロフォアがピコグリーン(登録商標)であり、該波長が下記の通りである請求項11又は12に記載の方法。
【数2】

【請求項14】
2つの励起波長λ’1およびλ’での光刺激に応じてそれぞれ2つの発光波長λ1およびλでフルオロフォアにより発光された蛍光強度I1およびI2をそれぞれ測定し、λ’1およびλ’は予め決定する、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
該核酸の量を、好ましくは、I1およびI間の差の絶対値、すなわち、下記のFの値から導き出す、請求項14に記載の方法。
【数3】

【請求項16】
該フルオロフォアがピコグリーン(登録商標)であり、該波長は下記の通りである、請求項14または15に記載の方法。
【数4】

【請求項17】
該検体中の核酸の量を、較正曲線を用いてFの値から導き出す、請求項12または15に記載の方法。
【請求項18】
2つおよび/または3つの励起波長λ’1、λ’および場合によりλ’で光励起するための1つ以上の手段、
3つの発光波長λ1、λおよび場合によりλで発光された蛍光強度I1、I2および場合によりI3を測定する1つ以上の手段、および
下記の値Fを計算することを可能とする計算機、を含んでなることを特徴とする、請求項10から17のいずれか1項に記載の方法を行うのに適した蛍光光度計。
【数5】

【請求項19】
該励起および発光波長が下記の通りである、請求項18に記載の蛍光光度計。
【数6】

【請求項20】
該励起および発光波長が下記の通りである、請求項18に記載の蛍光光度計。
【数7】

【請求項21】
その内部と外部の間で光の交換が可能な混合及び測定容器を含む、化合物の蛍光アッセイ用のトレイであって、該容器が、
フルオロフォアを含有し、それ自体、希釈液を含有するリザーバに接続されている、フルオロフォアリザーバ、および
分析される化合物を含有する検体の体積を標準化するためのリザーバであって、それ自体、該分析される化合物を含有する検体を収集するためのウェルに接続されている、標準化リザーバ、
に接続されている、化合物の蛍光分析用トレイ。
【請求項22】
収集された溶液が該標準化リザーバの方向にのみ通過できるように、該収集ウェルと該標準化リザーバとの間に、
該収集された溶液が該混合及び測定容器の方向にのみ通過できるように、該標準化リザーバと該容器との間に、
該希釈液が該フルオロフォアリザーバの方向にのみ通過できるように、該希釈溶液含有リザーバと該フルオロフォアリザーバとの間に、および
該希釈液が該混合及び測定容器の方向にのみ通過できるように、該フルオロフォアリザーバと該容器との間に、
逆止弁が配置されている、請求項21に記載のトレイ。
【請求項23】
該標準化リザーバ、該混合及び測定容器、該フルオロフォアリザーバ、および該希釈液リザーバからなる区画が十分な弾力性を有する物質でできており、それら器に入っている液体をそれら器に圧力を与えることによって移動させることができる、請求項21または22に記載のトレイ。
【請求項24】
該フルオロフォアがピコグリーン(登録商標)であり、該希釈液がトリス‐ホウ酸‐EDTA(TBE)緩衝液である、請求項21から23のいずれか1項に記載のトレイ。
【請求項25】
該標準化リザーバが、該収集された溶液中に含有され、1000ヌクレオチド未満の長さを有する核酸分子を選択するための手段に連結されている、請求項21から24のいずれか1項に記載のトレイ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2010−500546(P2010−500546A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523367(P2009−523367)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【国際出願番号】PCT/IB2007/002316
【国際公開番号】WO2008/017948
【国際公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(509040374)
【出願人】(509040189)
【出願人】(509040363)
【Fターム(参考)】