説明

蛍光ビーズを用いた免疫複合体検出による抗体解析法

【課題】血清中の複数抗体を同時にかつ高感度に検出するための方法の提供。
【解決手段】種々の抗原に特異的な抗体を結合させた多色の蛍光ビーズを用いて多種類の免疫複合体を同時に検出することにより、血清中の白血球や血小板上の抗原に対する複数抗体を検出することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、血清中の白血球抗体および/または血小板抗体を同時に正確かつ迅速に検出する方法に関する。
【0002】
背景技術
近年、様々な臨床状況で白血球(HLA)抗体および血小板(HPA)抗体が関与している疾患が報告されている。同種抗体が関与する疾患として、同種免疫性新生児血小板減少性紫斑病、輸血後紫斑病、血小板輸血不応、輸血関連肺障害などがあり、また、自己抗体が関与する疾患として、特発性血小板減少性紫斑病などがある。これらの疾患では白血球抗体と血小板抗体とが混在している場合もあることから、両者を正確かつ迅速に検出する検査方法が求められている。特に、交差適合試験については、輸血の際の輸血副作用の防止のため、受血者血清中の供血者白血球および血小板に対する抗体の存在の有無を正確かつ迅速に検出する検査方法が求められている。よって、これらの検査方法については、(1)検出感度が高いこと、(2)バックグラウンドが低いこと、(3)簡便に、迅速に測定できること、(4)複数の特異性の血小板抗体が混在している場合や白血球抗体と血小板抗体が混在する場合でも、正確に判定することができること、(5)交差適合試験に用いることができること、が重要である。
【0003】
これまでに、HLA抗体検査としては、精製したHLA抗原を付加させたビーズを用いたFlowPRA法(非特許文献1)やLABScreen法(非特許文献2)などがあり、良好な検査成績が得られているが、これらの方法は交差適合試験法として用いることができない。一方、交差適合試験法に関しては、血中のリンパ球をパネルとし、抗体の存在について補体依存性細胞傷害を指標とする方法(AHG−LCT法)やフローサイトメーターを用いて抗体の存在を測定する方法(LIFT法)などがあるが、安定して良好な検査成績を得るまでに至っていない。その原因としては、交差適合試験法は細胞(白血球または血小板)を用いる方法であるため、ヒト血清に対するバックグラウンドが高く、非特異的な反応が起こりやすいこと、また、抗原に対して精製や濃縮などを行わないため、十分な検出感度が得られないことが挙げられる。
【0004】
血小板抗体検査としては、U型マイクロタイタープレートに固相した血小板と抗ヒトIgG感作血球を用いて抗体の存在を測定する方法(MPHA法)(非特許文献3)や、この方法を応用した、抗ヒトIgG感作磁性粒子を用いて迅速に抗体の存在を測定するM−MPHA法がある(非特許文献4)。M−MPHA法は迅速な測定が可能であるが、バックグラウンドが高く、複数の血小板抗体が混在している場合やHLA抗体と血小板抗体が混在する場合はその特異性の判別は困難である。また、抗体と血小板と血小板膜糖タンパクに対するマウスモノクローナル抗体を結合させた後、抗マウスIgG抗体を固相したマイクロタイタープレートを用いて捕捉し、酵素標識抗ヒトIgGにて抗体を検出する方法(MAIPA法)(非特許文献5)があるが、バックグラウンドが高いため安定して良好な検査成績が得られておらず、また、手技が煩雑で日常検査には不向きであり、検査に要する時間が長いため迅速に検査することが出来ない。この方法を応用した、ビーズ担体にアイソタイプの異なる抗マウスIgG抗体を結合して3種類の血小板膜糖タンパクに対するマウスモノクローナル抗体を識別可能し、フローサイトメーターにて測定するSASPA法は(非特許文献6)、検出感度、操作の簡便性、迅速性に改善が認められたが、M−MPHA法と比較すると不十分である。
【0005】
以上のことから、HLA抗体検査に関しては、FlowPRA法やLABScreen法は(1)、(3)、(4)の条件は満たしているが、(2)の条件に関しては必ずしも十分とは言えず、また、(5)の条件は満たしていない。血小板抗体検査に関しては、MPHA法は(1)、(5)の条件は満たしているが、(2)、(3)、(4)の条件に関しては必ずしも十分とは言えない。M−MPHA法は(1)、(3)、(5)の条件は満たしているが、(2)、(4)の条件に関しては必ずしも十分とは言えない。MAIPA法は、(4)、(5)の条件は満たしているが、(1)、(2)、(3)の条件に関しては必ずしも十分とは言えない。SASPA法は(2)、(4)、(5)の条件は満たしているが、(1)、(3)の条件に関しては必ずしも十分とは言えない。
従って、HLA抗体および血小板抗体が混在している場合でも両者を正確かつ迅速に検出し、さらに交差適合試験法としても用いることができる検査方法、すなわち(1)〜(5)の条件をすべて満たす検査方法についてはこれまでに報告されていない。
【非特許文献1】Human Immunology, 59, 1998:pp313-322
【非特許文献2】Human Immunology, 75, 2003:pp43-49
【非特許文献3】Vox Sang, vol.41, 1981: pp25-31
【非特許文献4】血液事業, Vol.25, 2002 : pp33-40
【非特許文献5】Blood, vol.70, 1987: pp1722-1726
【非特許文献6】Br J Haematol, vol.127, 2004: pp552-560
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、種々の抗原に特異的なモノクローナル抗体を結合させた多色の蛍光ビーズを用いて多種類の免疫複合体の蛍光強度を測定することにより、血清中の白血球や血小板上の抗原に対する抗体を同時に検出することができることを見出した。本発明は、この知見に基づくものである。
【0007】
本発明は、血清中の複数抗体を同時にかつ高感度に検出するための方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明によれば、被検血清中の1種またはそれ以上の抗体を検出する方法であって、
(i)被検血清と検出対象となる複数種の抗体が認識する抗原を有する生体試料とを反応させ、抗原抗体複合体を得る工程;および
(ii)工程(i)で得られた抗原抗体複合体と、前記抗原に対する抗体が固定された蛍光ビーズと、抗原抗体複合体の抗体と結合可能な蛍光標識抗体とを反応させ、検出用複合体を得る工程
を含んでなる方法が提供される。
【0009】
本発明による方法は、検出感度、迅速性(検査所要時間が約2時間30分)、全ての行程をプレートで行う操作性、交差適合試験に用いることができる汎用性などの点で有利である。また、複数の特異性やHLA抗体がある場合でも容易に特異性を同定することが可能であり、複数(多色)の蛍光ビーズを同時に反応させる点から、従来法と比較すると操作が簡便であり、検体量も約1/5で検査を行うことが可能である点で有利である。
【0010】
本発明による方法は、また、1次反応においてELISAプレートなどに固相されている白血球、血小板、セルライン、臓器細胞、動物細胞などを抗原パネルとして用いることが可能であり、2次反応では蛍光ビーズにて抗原抗体複合物をそれぞれ選択的に捕捉して精製することから、バックグラウンドの原因となるパネル細胞に非特異的に結合した抗体は蛍光ビーズに結合せず、1次反応における非特異的な反応の影響を受けにくい。また、抗原パネル上の複数のエピトープに対する抗体を同時に検出することが可能であることから、交差適合試験以外にも、幅広い応用(例えば、PAIgG検査、顆粒球や単球に対する抗体検出、抗原やエピトープの発現検査等)が可能である。
【発明の具体的説明】
【0011】
抗原抗体複合体を得る工程
抗原抗体複合体(免疫複合体)は、(i)被検血清と検出対象となる複数種の抗体が認識する抗原を有する生体試料とを反応させ、抗原抗体複合体を得る工程、を実施することにより得ることができる。
【0012】
具体的には、(i−1)被検血清と検出対象となる複数種の抗体が認識する抗原を有する生体試料とを反応させる工程;および(i−2)生体試料中の細胞を可溶化し、可溶層から抗原抗体複合体を分離する工程、を実施することにより得ることができる。
【0013】
本発明において用いられる「被検血清」とは、検出対象となる抗体が含まれると考えられる血清であって、検出しようとする対象者、すなわち、輸血における受血者、臓器移植における移植患者、または白血球抗体および血小板抗体が関与している疾患が疑われる患者、から採血して得ることができる。
【0014】
ここで、輸血における受血者としては、輸血が必要となるあらゆる状況(例えば、手術等)における受血者(特に、血小板輸血不応が疑われる患者)が挙げられる。
【0015】
また、臓器移植における移植患者としては、例えば、白血病等で幹細胞移植が必要な患者、腎不全等で腎移植が必要な患者等が挙げられる。
【0016】
さらに、白血球抗体が関与している疾患としては、白血球抗体に起因する血小板輸血不応、輸血関連肺障害白血病、同種免疫性新生児血小板減少症等が挙げられ、血小板抗体が関与している疾患のうち、同種抗体が関与している疾患としては、血小板抗体に起因する同種免疫性新生児血小板減少症および血小板減少性紫斑病、血小板輸血不応、輸血後紫斑病等が挙げられ、自己抗体が関与している疾患としては、特発性血小板減少性紫斑病等が挙げられる。
本発明において用いられる「検出対象となる複数種の抗体が認識する抗原を有する生体試料」とは、検出対象となる複数種の抗体が認識する抗原を有する細胞を含んでいればよく、好ましくは、血液中から精製される細胞であり、より好ましくは、血小板細胞や白血球細胞である。
【0017】
ここで、「検出対象となる複数種の抗体」は、特に限定されないが、好ましくは、同時検出を行う意義の高い、HLA抗体群、HPA抗体群、またはHLA抗体およびHPA抗体を含んでなる抗体群である。
【0018】
本発明において、細胞の可溶化は、界面活性剤、塩、キレート化合物、有機溶媒、カオトロピックイオン、酵素等を用いることによって行うことができる。
【0019】
本発明において用いられる界面活性剤は、Tween−20、TritonX−100、Brij、NP−40等が挙げられるが、好ましくは、TritonX−100である。
【0020】
抗原抗体複合体の分離方法は、遠心分離法、ろ過法等が挙げられるが、好ましくは、遠心分離法である。遠心分離法によれば、可溶化された細胞を、不溶物と可溶層とに分けることができ、可溶化層から複数の抗原抗体複合体を回収することができる。
【0021】
検出用複合体を得る工程
上記の工程で得られた抗原抗体複合物と、該抗原に対する抗体が固定された蛍光ビーズと、抗原抗体複合物の抗体と結合可能な蛍光標識抗体とを反応させることにより、これら抗原抗体複合体、蛍光ビーズ、および蛍光標識抗体からなる複合体(以下、「検出用複合体」という)を得ることができる。
【0022】
検出用複合体は、(ii)工程(i)で得られた抗原抗体複合体と、前記抗原に対する抗体が固定された蛍光ビーズと、抗原抗体複合体の抗体と結合可能な蛍光標識抗体とを反応させ、検出用複合体を得る工程、具体的には、(ii−1)前記抗原に対する抗体が固定された蛍光ビーズにて抗原抗体複合物を捕捉する工程;および(ii−2)蛍光標識抗体を用いて、抗原抗体複合体の抗体を2次的に標識する工程、を実施することにより得ることができる。
(ii−1)の工程によれば、非特異的な反応をなくすための精製、HPA−5やNak等の発現量の少ない抗原に対する抗体を検出するための濃縮を行うことができる。
(ii−1)の工程および(ii−2)の工程は、順序は特に制限されないが、操作の簡便性、迅速性、および過洗浄による検出感度の低下抑制の観点から、同時に行うことが好ましい。
【0023】
本発明において用いられる「抗体が固定された蛍光ビーズ」は、検出対象となる複数の抗体が認識する抗原に特異的な抗体を選択し、選択された抗体を蛍光ビーズに固定化することで得ることができる。
【0024】
本発明において用いられる、検出対象となる複数種の抗体が認識する抗原に特異的な抗体は、検出対象となる抗体が認識する抗原が定まれば、公知の方法(Nature, 256, 1975: pp495-497、Nature,348,1990:pp552-554等)に従って、該抗原に対する抗体を作製することができる。
【0025】
ここで、蛍光ビーズに固定される抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体等が挙げられるが、好ましくは、モノクローナル抗体である。
【0026】
本発明において用いられる「蛍光ビーズ」としては、Luminex社製の蛍光ビーズ(例えば、xMAP Multi−Analyte COOH Microspheres)、NIPPN Techno Cluster社製の蛍光ビーズ(例えば、蛍光染色カルボキシル基修飾マイクロスフィア)、Sperotech社製の蛍光ビーズ(SPHERO Fluoroscent Particles)が挙げられるが、好ましくは、Luminex社製の蛍光ビーズ、より好ましくは、xMAP Multi−Analyte COOH Microspheresである。
【0027】
抗体の蛍光ビーズへの固定化方法としては、物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法等を用いることができるが、好ましくは、共有結合法である。共有結合法によれば、具体的には、表面上にカルボキシル基が付加された蛍光ビーズと抗体の1級のアミノ基とを、EDC(1−ethyl−3−(3−dimethylaminopropyl) carbodiimide)とS−NHS(N−hydroxysulfosuccinimide)を用いて共有結合させることにより固定化することができる。
【0028】
本発明において用いられる「蛍光標識抗体」としては、蛍光標識された抗ヒト抗体等が挙げられるが、好ましくは、蛍光標識された抗ヒト抗体である。抗ヒト抗体としては、抗ヒトIgG、抗ヒトIgM等が挙げられるが、好ましくは、抗ヒトIgGである。
【0029】
ここで、「蛍光標識」としては、PE(Phycoerythrin)、FITC(Fluorescein isothiocyanate)、Cy3、Cy5、PI(propidiumiodide )、Hoechst 33342等が挙げられるが、好ましくは、PEである。
【0030】
ここで、「蛍光標識抗体」は、公知の方法(Anal.Biochem.Vol.173.1988: pp59-63)に従って作製することができる。これらの抗体を産生する免疫動物は、公知の方法に従って選択することができ、例えば、ヤギ、マウス、ラット、ラビット、ロバ等が挙げられるが、好ましくは、ヤギである。
【0031】
本発明によれば、検出用複合体を得る方法としては、(iii)工程(ii)により得られた検出用複合体を濃縮、精製する工程、を更に含んでいてもよい。
ここで、「得られた検出用複合体を濃縮、精製する工程」は、蛍光ビーズへの非特異的な反応物、蛍光標識抗体への特異的な反応物、未反応物等を除去することができればよい。
【0032】
ここで、除去方法としては、遠心分離法、ろ過法等が挙げられるが、好ましくは、遠心分離法である。さらに、PBS等の溶液を用いて洗浄を行うこともできる。
【0033】
蛍光測定装置による測定工程
上記の工程で得られた検出用複合体を、蛍光測定装置を用いて、ビーズの蛍光と標識抗体の蛍光を同時に測定することにより、検出対象である複数の抗体の存在の有無を同時にかつ高感度に検出することができる。
【0034】
本発明において用いられる蛍光測定装置は、ビーズの蛍光と標識抗体の蛍光を同時に測定することができればよく、具体的には、2種以上の波長のレーザーによりビーズ自体の情報およびビーズ表面(すなわち、標識抗体の蛍光)の蛍光のシグナルを同時に測定することができればよい。例えば、657nmと720nmの波長のレーザーにより測定された電流値の差からビーズの蛍光値を、580nmの波長のレーザーで標識抗体の蛍光のシグナルを蛍光強度(median値)としてそれぞれ同時に測定することができる。
【0035】
ここで、蛍光測定装置としては、例えば、Luminex社製のLuminex system、ベクトン・ディッキンソン社製のフローサイトメーター、ベックマン・コールター社製のフローサイトメーター等が挙げられるが、好ましくは、Luminex社製のLuminex systemである。
【0036】
例えば、Luminex社製のLuminex systemは、二色のレーザー(赤色レーザー(波長657nm、720nm)と緑色レーザー(波長580nm))を用いる装置であり、まず、赤色レーザーでビーズの直径と色を測定して目的の蛍光ビーズを認識し、次に、緑色レーザーで該蛍光ビーズ上の標識抗体の蛍光のシグナルをmedian値としてそれぞれ測定することができる。
蛍光測定装置により得られたmedian値を用いて下記の式により算出されたIndex値を抗体の存在の指標とする。
【数1】

【0037】
Index値が2以上になった場合を陽性とし、Index値が陽性の場合に、検出対象である抗体が存在すると判定することができる。
本発明による好ましい態様としては、被検血清中の1種またはそれ以上の抗体を検出する方法であって、
(i−1)被検血清と検出対象となる複数種の抗体が認識する抗原を有する生体試料とを反応させる工程;
(i−2)生体試料中の細胞を可溶化し、可溶層から抗原抗体複合体を分離する工程;
(ii−1)前記抗原に対するモノクローナル抗体が固定された蛍光ビーズにて抗原抗体複合物をそれぞれ捕捉した後、蛍光標識抗体を用いて、抗原抗体複合体における抗体を2次的に標識する工程;および
(iii)工程(ii−1)により得られた検出用複合体を濃縮、精製する工程
を含んでなる方法である。
【0038】
この方法によれば、(1)検出感度が高く、(2)バックグラウンドが低く、(3)簡便に、迅速に測定することができ、(4)複数の特異性の血小板抗体が混在している場合やHLA抗体と血小板抗体が混在する場合でも、正確に判定することができ、かつ、(5)交差適合試験に用いることができる
具体的な態様として、本発明は、「検出対象となる複数種の抗体」が輸血における受血者由来であり、「生体試料」が輸血における供血者由来である場合に、交差適合試験として用いることができる。
【0039】
本発明は、また、「検出対象となる複数種の抗体」が臓器移植における移植患者由来であり、「生体試料」が臓器移植における臓器提供者由来である場合に、交差適合試験の判定方法として用いることができる。
【0040】
本発明は、さらに、「検出対象となる複数種の抗体」が白血球抗体および血小板抗体が関与している疾患が疑われる被検者由来であり、「生体試料」が被検者由来である場合に、白血球抗体および血小板抗体が関与している疾患またはその発症リスクの判定方法として用いることができる。
【実施例】
【0041】
実施例1:モノクローナル抗体が固定された蛍光ビーズの作製
HPA−2、HPA−1,3,4,6、HPA−5、Nak、およびHLA classIの各抗原に特異的なモノクローナル抗体として、SZ2(IMMUNOTECH社製)、P2(IMMUNOTECH社製)、SZ21(IMMUNOTECH社製)、Gi9(IMMUNOTECH社製)、FA6−152(IMMUNOTECH社製)、w6/32(w6/32は、w6/32産生ハイブリドーマ細胞を用いてマウスを腹水化し、その腹水から硫安沈殿、DEAEカラムクロマトグラフィーにより精製し得られたものを使用)をそれぞれ選択した(表1)。HPA−1,3,4,6に関しては、CD41(GPIIb)に特異的なモノクローナル抗体のクローンP2がHPA−3に対して反応性が悪いことから、CD61(GPIIIa)に特異的なモノクローナル抗体のクローンSZ21も併せて選択した。また、コントロールとして、ヒトIgG(ZYMED社製)とBSA(Serological Protein社製)を選択した。
【表1】

【0042】
これら選択したモノクローナル抗体は、Luminex社が推奨する方法(Luminex社のプロトコール(http://www.luminexcorp.com/uploads/data/Protein Coupling Protocol-June.pdf)参照)に従って、蛍光ビーズ(Luminex社製)に固定した。具体的には、8種類の各蛍光ビーズ溶液400μl(50mM MES、pH5.0)に対して各モノクローナル抗体を8μgを加えて、Luminex社の方法により固定を行った。
【0043】
実施例2:MPHA法の検出限界に希釈したサンプルを用いた検討
HPA抗体を含む抗血清6検体、HLA抗体を含む抗血清1検体、HPA抗体とHLA抗体の両方を含む1検体について以下のアッセイを行った。
【0044】
まず、パネル血小板としてEDTA採血の血液を3000rpm、5分間遠心して得られた多血小板血漿(PRP) 50μLを96プレートに加え、0.5% EDTA−PBSにて2回洗浄後、各抗血清(8検体)を25μLずつ加えて37℃、30分反応させた。その後0.05% Tween−PBSにて2回洗浄後、lysis buffer(5mM Tris, 0.9% NaCl, 0.25% Triton X−100; pH7.4)にて可溶化し、実施例1で作製した8種類の蛍光ビーズおよびPE−抗ヒトIgG(ワンラムダ社製)を加えて37℃、30分反応後、室温(振盪)で10分間反応させた。その後0.05% Tween−PBSにて2回洗浄し、PBSを加え、Luminex systemにて蛍光強度を測定して抗原抗体複合物を検出した。
【0045】
蛍光強度(Median値)を用いてIndex値を下記の式により算出することができる。
【数2】

【0046】
Index値が2以上になった場合を陽性と判定することができる。その結果は、表2に示される通りであった。
【表2】


【0047】
表2に示すように、いずれのビーズにおいても非特異的なシグナルは得られず、特異的にHPA抗体及びHLA抗体を検出することができた。
【0048】
実施例3:MPHA法の検出限界よりさらに4倍希釈したサンプルを用いた検討
抗HPA−5b抗体および抗Nak抗体について、従来法のMPHA法における検出限界よりもさらに4倍希釈したものを使用した2検体について、実施例2と同様の方法を用いて、アッセイを行った。その結果を表3に示す。
【表3】

【0049】
表3に示すように、いずれのビーズにおいても非特異的なシグナルは得られず、特異的にHPA抗体を検出することができた。また、MPHA法の検出限界より4倍希釈したものにおいても検出が可能であることから最低でも4倍の検出感度を持つことが明らかとなった。
【0050】
実施例4:AHG−LCT法の検出限界以下に希釈したサンプルを用いた検討
HLA抗体を含む抗3検体(sampleAはA26、sampleBはA24、sampleCはB7+B22抗原に対する抗体をそれぞれ含んでいる)について、従来法のAHG−LCT法における検出限界よりもさらに8倍希釈したものを使用して、以下のアッセイを行った。
【0051】
まず、96プレートにTris−NHClを200μl分注し、EDTA加全血50μlを加え、37℃にて10分間溶血させた後、1300g、3分間遠心して得た白血球をパネルとし、0.5% EDTA−PBSにて2回洗浄後、各抗血清を25μLずつ加えて37℃、30分反応させた。その後0.05% Tween−PBSにて2回洗浄後、lysis buffer(5mM Tris, 0.9% NaCl, 0.25% Triton X−100; pH7.4)にて可溶化し、実施例1で作製した3種類の蛍光ビーズおよびPE−抗ヒトIgGを加えて37℃、30分反応後、室温(振盪)で10分間反応させた。その後0.05% Tween−PBSにて2回洗浄し、PBSを加え、Luminex systemにて蛍光強度を測定して抗原抗体複合物を検出した。
【0052】
判定は、実施例2と同様に行った。その結果は表4に示される通りであった。
【表4】

【0053】
表4に示すように、いずれのビーズにおいても非特異的なシグナルは得られず、特異的にHLA抗体を検出することができた。また、AHG−LCT法の検出限界より8倍希釈したものにおいても検出が可能であることから最低でも8倍の検出感度を持つことが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検血清中の1種またはそれ以上の抗体を検出する方法であって、
(i)被検血清と検出対象となる複数種の抗体が認識する抗原を有する生体試料とを反応させ、抗原抗体複合体を得る工程;および
(ii)工程(i)で得られた抗原抗体複合体と、前記抗原に対する抗体が固定された蛍光ビーズと、抗原抗体複合体の抗体と結合可能な蛍光標識抗体とを反応させ、検出用複合体を得る工程
を含んでなる、方法。
【請求項2】
工程(i)が、下記工程を含んでなる、請求項1に記載の方法:
(i−1)被検血清と検出対象となる複数種の抗体が認識する抗原を有する生体試料とを反応させる工程;および
(i−2)生体試料中の細胞を可溶化し、可溶層から抗原抗体複合体を分離する工程。
【請求項3】
工程(ii)が、下記工程を含んでなる、請求項1または2に記載の方法:
(ii−1)前記抗原に対する抗体が固定された蛍光ビーズにて抗原抗体複合物を捕捉する工程;および
(ii−2)蛍光標識抗体を用いて、抗原抗体複合体の抗体を2次的に標識する工程。
【請求項4】
(iii)工程(ii)により得られた検出用複合体を濃縮、精製する工程
を更に含んでなる、請求項1〜3項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
検出対象となる複数種の抗体が、白血球抗体および/または血小板抗体である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
生体試料が、血小板細胞または白血球細胞である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
血小板輸血または臓器移植に伴う適正の判定に用いられる、請求項1〜6項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
白血球抗体または血小板抗体が関与している疾患またはその発症リスクの判定に用いられる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
白血球抗体が関与している疾患が、白血球抗体に起因する血小板輸血不応、輸血関連肺障害白血病、および同種免疫性新生児血小板減少症からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
血小板抗体が関与している疾患が、血小板抗体に起因する同種免疫性新生児血小板減少症および血小板減少性紫斑病、血小板輸血不応、輸血後紫斑病、並びに特発性血小板減少性紫斑病からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。

【公開番号】特開2009−80019(P2009−80019A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249772(P2007−249772)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.研究集会名 第55回 日本輸血・細胞治療学会総会(2007年) 2.主催者名 有限責任中間法人日本輸血・細胞治療学会 3.開催日 平成19年5月31日〜6月2日 4.講演予稿集発刊日 平成19年4月25日
【出願人】(000231729)日本赤十字社 (7)
【出願人】(000250100)湧永製薬株式会社 (51)