説明

蛍光ランプ用蛍光体

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は蛍光ランプ用蛍光体に係り、特に蛍光ランプの光束維持率、および管端黒化を改良できる蛍光体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】蛍光ランプを長時間点灯させるとランプ光束が低下することが知られている。光束低下の原因は未だ十分明らかにはされていないが、その要因として、■ ガラスバルブのNaと水銀の反応による、ガラスバルブの変色。
■ 水銀の蛍光体への吸着による発光効率の低下。
■ 185nmの水銀線による蛍光体の色中心の生成。
等、水銀と蛍光体、または水銀とガラスバルブとの反応によるものがほとんどであると考えられている。
【0003】この水銀の吸着を防止し光束維持率を向上させる方法として、例えば、アルミナ、酸化マグネシウム等の保護膜をガラスバルブ内面に設ける方法、ガラスバルブに金属酸化物を含有させる方法、また蛍光体にアルミナ、酸化マグネシウム等の白色物質を混合する方法等が行われており、また、特開昭61−23678号公報においては蛍光体表面に連続したアルミナ被膜を設ける方法も開示されている。
【0004】ところで、ラピッドスタート型蛍光ランプは、始動補助としてネサ膜と呼ばれるSnO2、In23、ITO等の導電性金属酸化物よりなる透明導電膜が設けられており、このネサ膜を設けることにより蛍光ランプの発光開始電圧が下がり、点灯管を使わずともランプが点灯することができることが知られている。このラピッドスタート型蛍光ランプにおいても、通常の蛍光ランプと同様に光束維持率向上の他に、ランプの発光開始電圧をできるだけ低くすること、即ち蛍光ランプの始動特性の向上が望まれている。
【0005】蛍光体への水銀の吸着を防止し、さらに、ラピッドスタート型の蛍光ランプの始動特性を向上させる技術として、我々は特願平3−204869号において、ランプ用蛍光体に水酸化マグネシウムによる表面処理を行い、蛍光体表面を+に帯電させる技術を提案した。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】前記技術により、確かにランプ始動特性、光束維持率は向上したが、しかし従来の蛍光ランプのように、ランプの種類、蛍光膜形成方法等によって、フィラメント周囲のみの蛍光体に水銀が吸着して、蛍光膜をリング状に黒化させるという管端黒化と呼ばれる問題については未だ不十分な点があった。
【0007】したがって、本発明はこのような事情を鑑みてなされたもので、その目的とするところは、光束維持率に優れ、また始動特性にも優れた蛍光ランプを提供するとともに、管端黒化を発生することのない蛍光ランプを実現するためのランプ用蛍光体を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは先に我々が開発した水酸化マグネシウムで表面処理した蛍光体をベースにし、その蛍光体に数々の処理を加えて蛍光体表面を改良した結果、特定の物質を水酸化マグネシウムに加えて付着させることにより前記問題が解決できることを新たに見いだし本発明を成すに至った。即ち、本発明のランプ用蛍光体は、その蛍光体表面に水酸化マグネシウムに加えて、水酸化ランタンが付着されていることを特徴とするものである。
【0009】水酸化マグネシウムの付着量は、その中に含まれるMgの量に換算して、通常、蛍光体に対しおよそ5重量%以下、さらに好ましくは0.01%〜2.0重量%の範囲に調整することが好ましい。水酸化マグネシウムを付着するに従い、蛍光体が+に帯電して水銀の吸着を防止し、蛍光ランプの光束維持率が向上するが、5重量%を超えて付着させると、蛍光体が塗布スラリー中で凝集してしまい均一な蛍光面が得られなくなる傾向にある。また蛍光ランプの光束維持の向上、またラピッドスタート型蛍光ランプにおいては、始動電圧の向上が望めなくなる傾向にある。
【0010】水酸化ランタンの付着量は、その中に含まれるLaの量に換算して、およそ1重量%以下、さらに好ましくは0.05%〜0.5重量%の範囲に調整することが好ましい。水酸化ランタンを付着させるに従い、水酸化マグネシウムと共に光束維持には有効に作用するが、1重量%を超えて付着させると、ランプ初光束が低下するため余り好ましいとはいえない。一方、水酸化マグネシウムは初光束を低下させるものではない。
【0011】本発明の蛍光体はたとえば以下に述べる方法によって得ることができる。まず、イオン交換水中に焼成の終了した蛍光ランプ用蛍光体を入れ、十分懸濁させる。この懸濁液を撹拌しながら、マグネシウムイオンを含む水溶液、およびランタンイオンを含む水溶液を添加した後、水酸化アルカリ水溶液を滴下してpHを10〜12に調整する。pHをアルカリ側に調整することによって、懸濁液中で析出する水酸化マグネシウム、および水酸化ランタンが蛍光体に付着する。それらが蛍光体に付着した後、撹拌を止め静置する。蛍光体が沈降するのを待って、上澄液を放流し、再び純水を加えて撹拌することにより蛍光体を水洗する。この操作を2〜3回繰り返す。その後、常法に従い、蛍光体を分離して乾燥することにより本発明の蛍光体を得ることができる。
【0012】本発明に使用する蛍光体は、ランプ用蛍光体であれば全て使用できる。例えばアンチモン付活ハロリン酸カルシウム蛍光体に代表されるハロリン酸塩蛍光体、2価のユーロピウム付活ピロリン酸ストロンチウムに代表されるリン酸塩蛍光体、マンガン付活ケイ酸亜鉛蛍光体に代表される珪酸塩蛍光体、タングステン酸カルシウムに代表されるタングステン酸塩蛍光体、2価ユーロピウム付活アルミン酸バリウムマグネシウム蛍光体に代表されるアルミン酸塩蛍光体、3価のユーロピウム付活酸化イットリウム蛍光体に代表される希土類蛍光体等を挙げることができる。
【0013】添加するマグネシウムイオンを含む水溶液は、例えばMgCl2、MgF2等のハロゲン化マグネシウム、Mg(NO3)2、MgSO4等の水溶性マグネシウム塩の水溶液が使用できる。またランタンイオンを含む水溶液にはLaCl3、LaI3等のハロゲン化ランタン、La(NO)3、La(CH3COO)3等の水溶性ランタン塩の水溶液が使用できる。
【0014】また、本発明の蛍光体を用いて蛍光ランプを製造する際、有機、無機バインダーと蛍光体とが混合された蛍光体スラリーをガラスバルブに塗布、乾燥した後、有機物を除去して蛍光面を形成するため、ガラスバルブを500℃以上の温度で数分間焼き付ける工程がある。この工程において、本発明の蛍光体に付着した水酸化マグネシウム、水酸化ランタンは一部酸化物にかわるが、特に蛍光ランプの特性に対し悪影響を及ぼすものではない。
【0015】
【作用】本発明の蛍光体は、その蛍光体粒子表面に、+に帯電しやすい水酸化マグネシウムに加えて水酸化ランタンを付着させたことにより、管端黒化が発生しにくくなり、光束の劣化が少ない。また、後述するが水酸化ランタンは蛍光体のガラスバルブへの結着剤としても作用し、結着力をも向上させる作用がある。また、ラピッドスタート型蛍光ランプにおいては、水酸化マグネシウムの+の帯電性でもって、発光開始電圧が下げることができるという作用がある。
【0016】
【実施例】以下実施例で本発明の蛍光体を詳説する。
【0017】[実施例1]イオン交換水(以下、水という。)100mlを入れたビーカーに、CoolWhiteアンチモンおよびマンガン付活ハロリン酸カルシウム蛍光体100gを添加し、よくかき混ぜて蛍光体を懸濁させた。その懸濁液にMg換算含量1%Mg(NO3)2水溶液20mlと、La換算含量1%La(NO3)3水溶液20mlとを添加した。添加後、懸濁液を撹拌しながら2%アンモニア水を滴下し、pHを10.6に調整して水酸化マグネシウム、および水酸化ランタンを析出させた。pHを10.6に保ったまま、30分間撹拌を続け、析出する水酸化マグネシウムおよび水酸化ランタンを蛍光体に均一に付着させた。その後撹拌を止め、蛍光体が沈降するのを待って上澄液を捨て、再び水を加え蛍光体を水洗した。2〜3回蛍光体を水洗した後、懸濁液を濾紙を敷いたヌッチェに移し、吸引濾過して蛍光体を分離した。分離した蛍光体を150℃で5時間乾燥し、250メッシュの篩を通すことによって本発明のランプ用蛍光体を得た。
【0018】このようにして得た蛍光体30gと、1%ニトロセルロース-酢酸ブチル溶液30gと、結着剤としてCBBP(ほう酸カルシウムバリウムとリン酸カルシウムとの混合物)0.5gとを混合して蛍光体塗布スラリーを形成した。
【0019】この塗布スラリーを常法に従って、ガラスバルブ内面に予め導電性酸化膜としてSnO2がコートされたFL40SSバルブに塗布した後、乾燥して、600℃で5分間焼成して蛍光膜を形成した後、口金を装着し、ラピッドスタート型蛍光ランプを作製した。
【0020】[実施例2〜6]マグネシウム水溶液およびランタン水溶液の添加量を適宜変更し、表1に示すように水酸化マグネシウムおよび水酸化ランタンの付着量を変える他は、実施例1と同様にして本発明の蛍光体を得た後、同様にしてラピッドスタート型蛍光ランプを作製した。
【0021】[比較例1〜3]実施例1と同一の蛍光体に対し、表1に示すように、水酸化マグネシウムのみを付着させた蛍光体、水酸化ランタンのみを付着させた蛍光体、および何も付着させない蛍光体に対し、同様にして蛍光ランプを作製し、本発明の蛍光体よりなる蛍光ランプと合わせて以下のようにして蛍光ランプを評価した。その結果を合わせて表1に示す。
【0022】なお、この表において、蛍光体に付着させたMg(OH)2、La(OH)3の量は、全てMg、La換算量として示し、光束維持率は、ランプ点灯してランプが安定する30分後の光束を初光束として測定し、1000時間連続点灯した後の光束を、初光束に対する光束維持率でもって示す。また、始動電圧(Vs)は一定電流値におけるランプ点灯時に要する電圧を示し、管端黒化はランプ連続点灯後200時間以内で管端に黒化を生じるものを×、200〜1000時間で生じるものを△、1000時間以上経過しても生じなかったものを○として、目視によって判断した結果を示す。以下余白
【0023】
【表1】


【0024】表1に示すように本発明の蛍光体を使用したラピッドスタート型蛍光ランプは、光束維持率に優れ、また発光開始電圧を下げることができる。また、水酸化マグネシウム単独、水酸化ランタン単独の場合は管端黒化が発生するのに対し、両者を共存させると管端黒化が全く発生せず、非常に良好な特性を示した。
【0025】さらに、表には特に記載していないが、ガラスバルブをピアノ線で一定距離から一定力でもって弾くことによって、実施例1で得られた蛍光ランプと、比較例3の蛍光ランプの蛍光膜の剥がれをテストしたところ、比較例3のランプの蛍光膜は10cm2以上が剥離したのに対し、本発明のランプの蛍光膜は5cm2以下しか剥離していなかった。これより、本発明の蛍光体に付着させた水酸化ランタンは、蛍光体とガラスバルブとの結着力を高める結着剤としての作用も有しておることが判明した。
【0026】
【発明の効果】以上述べたように、本発明の蛍光体は、粒子表面に水酸化マグネシウム、および水酸化ランタンが付着されていることにより、蛍光ランプの光束維持率、および管端黒化を改善することができ、特にラピッドスタート型蛍光ランプに至っては始動電圧を下げることができる。また、蛍光膜の結着力をも高めることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 蛍光体粒子表面に水酸化マグネシウム、および水酸化ランタンが付着されていることを特徴とする蛍光ランプ用蛍光体。

【特許番号】特許第3189853号(P3189853)
【登録日】平成13年5月18日(2001.5.18)
【発行日】平成13年7月16日(2001.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−154288
【出願日】平成4年5月20日(1992.5.20)
【公開番号】特開平5−320636
【公開日】平成5年12月3日(1993.12.3)
【審査請求日】平成11年1月14日(1999.1.14)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【参考文献】
【文献】特開 平5−25475(JP,A)
【文献】特開 平4−142389(JP,A)
【文献】特開 平4−63889(JP,A)