説明

蛍光ランプ

【課題】 紫外線を放射する蛍光ランプにおいて、発光管に石英ガラスを備えることで紫外光の透過率が高くて効率のよい蛍光ランプを得るとともに、蛍光体の剥離、落下などの問題がない、信頼性の高い蛍光ランプを提供すること。
【解決手段】 紫外線を放射する蛍光ランプ(10)であり、石英ガラスからなる発光管(11)と、石英ガラスよりも軟化点が低いガラスからなり前記発光管における放電空間側の表面上に形成されたガラス層(14)と、該ガラス層の表面上に形成されて励起されることにより紫外光を放射する蛍光体層(15)とを備えてなることを特徴とする。また、紫外線を放射する蛍光ランプの製造方法であり、石英ガラスからなる管に、石英ガラスよりも軟化点が低いガラスの層(14)を予め形成し、このガラスの層(14)の上に蛍光体とバインダ剤とを混合した蛍光体の懸濁液を塗布して当該蛍光体(15)を焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紫外領域の光を放射する蛍光ランプおよび蛍光ランプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、光触媒や、広義の樹脂硬化、除菌、美容、医療などの用途に、波長300nm付近の紫外光が利用されている。このような光の光源としては、波長250〜380nm近傍に強度ピークを有する蛍光体が発光管内面に塗布された紫外線を放射する蛍光ランプが使用される。
このような紫外光を放射する蛍光ランプにおいては、放電によって蛍光体を励起させるための比較的短波長(例えば200nm以下)の紫外光を得ることにより、この紫外光を蛍光体に照射して蛍光体を励起させ、所定波長領域の光に変換することにより得られた紫外光を、蛍光体層および発光管を透過させて、放射するものであり、原理的には可視光を得るものと同様である。
【0003】
蛍光ランプの発光管としては、一般に、ソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ珪酸ガラス等のいわゆる硬質ガラスが好適に用いられている。
しかしながら、例えば波長250〜380nm付近の紫外光を放射させる蛍光ランプにおいては、上述の硬質ガラスを発光管に用いた場合、紫外線の吸収が生じるために紫外光の透過率が低く、効率が悪いランプとなってしまう。従って、発光管を構成するガラスとしては、より紫外光の透過率が高いものが好ましい。
【0004】
そこで、このような事情に鑑み、発光管に石英ガラスを用いた蛍光ランプが、例えば特許文献1,2などに開示されている。これら文献に記載の技術のように、発光管に石英ガラスを用いて構成すれば、紫外光の透過率が高く、効率よく光を取り出すことができる。
【0005】
【特許文献1】特表2008−503046号公報
【特許文献2】特表2007−534128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般に蛍光ランプにおいては、その製造工程において、発光管の基材を構成するガラスの軟化点付近まで昇温して、蛍光体を固着する工程を備えている。ところが、石英ガラスは軟化点が1600℃近傍であるため、このように高温度域に加熱すると蛍光体の劣化が生じ、所定の光が得られなくなるといった問題がある。
これに鑑み、蛍光体の焼成温度を発光特性に問題がない温度域、例えば900℃以下に低下させて焼成すると、石英ガラスの軟化が得られなくなり、蛍光体層が管壁から剥がれて落下し、所定の配光分布が得られなくなる。
【0007】
そこで本発明は、紫外線を放射する蛍光ランプにおいて、発光管に石英ガラスを備えることで紫外光の透過率が高くて効率のよい蛍光ランプを得るとともに、蛍光体の剥離、落下などの問題がない、信頼性の高い蛍光ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明に係る蛍光ランプは、紫外線を放射する蛍光ランプであり、
石英ガラスからなる発光管と、
石英ガラスよりも軟化点が低いガラスからなり前記発光管における放電空間側の表面上に形成されたガラス層と、
該ガラス層の表面上に形成され、励起されることにより紫外光を放射する蛍光体層と
を備えてなることを特徴とする。
また、前記ガラス層が、ホウケイ酸ガラスおよびアルミノケイ酸ガラスのいずれかを含むのがよい。
また、前記ガラス層の平均厚さは、1〜30μmであるのがよい。
【0009】
また、本発明の蛍光ランプの製造方法は、紫外線を放射する蛍光ランプの製造方法であり、
石英ガラスからなる管に、石英ガラスよりも軟化点が低いガラスの層を予め形成し、
前記ガラスの層の上に蛍光体とバインダ剤とを混合した蛍光体の懸濁液を塗布し、当該蛍光体を焼成する
ことを特徴とする。
また、前記石英ガラスよりも軟化点が低いガラスは、ホウケイ酸ガラスおよびアルミノケイ酸ガラスのいずれかを含むのがよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる蛍光ランプによれば、石英ガラス製発光管と蛍光体層の間に、軟化点が石英ガラスの軟化点よりも低いガラスからなるガラス層が形成されているので、蛍光体を1000℃以上の温度に加熱することなく焼成することができ、蛍光体の劣化が少なくて紫外光への変換効率が良好な蛍光ランプとなるとともに、蛍光体層と発光管の間に介在するガラスが軟化するため、蛍光体層と発光管との結合を強固にすることができ、蛍光体層が剥離、脱落したりすることがなく、照度ムラが生じるようなことがない蛍光ランプとすることができる。しかも、発光管が石英ガラスよりなるので、紫外光の透過率が良好で紫外光の放射効率が高い蛍光ランプを得ることができる。
そして、前記ガラス層が、ホウケイ酸ガラス(Si−B−O系ガラス)およびアルミノケイ酸ガラス(Si−Al−O系ガラス)のうち、少なくともいずれかのガラスを含むことにより、耐熱衝撃性が良好であるため、蛍光ランプとして使用する際の温度変化にも十分耐えることができ、当該ガラス層が剥れたり蛍光体層との結合が低下するといった問題が発生することなく、確実に蛍光体層を保持することができる。
更に、前記ガラス層の平均厚さが1〜30μmであることにより、蛍光体層を確実に保持できるとともに、紫外線の透過性を損なわず、効率の良好な蛍光ランプとすることができる。
【0011】
また、本発明にかかる蛍光ランプの製造方法によれば、石英ガラス製発光管と蛍光体層の間に、軟化点が、石英ガラスの軟化点よりも低いガラスからなるガラス層を形成し、その後に蛍光体層を形成するので、蛍光体の焼成温度を比較的低く設定することができ、蛍光体の劣化が少なくて紫外光への変換効率が良好な蛍光ランプとなるとともに、当該ガラスが軟化することで蛍光体層と発光管との結合が強固になり、蛍光体層が剥離、脱落したりすることがなく、照度ムラが生じるようなことがない蛍光ランプとすることができる。この結果、発光管が石英ガラスよりなり、紫外光の透過率が良好で紫外光の放射効率が高い蛍光ランプを、簡単かつ確実に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[第1の実施形態]
本発明の実施形態について、図1乃至図4を参照して説明する。図1はこの蛍光ランプの製造工程を説明するフローチャート、図2はランプの発光管用材料であるガラス管、図3は発光管の製造工程を説明する管軸に対して垂直に切断した断面図および要部を拡大した拡大断面図、更に図4は本発明に係る蛍光ランプ全体を示す説明用断面である。図2乃至図4からわかるように、第1の実施形態に係る蛍光ランプの発光管11は、内側管111と外側管112とがほぼ同軸に配置され、各々両端部11A,11Bが封着されることによって、内部に円筒状の放電空間Sが形成されてなる形態を有するものである。また、本実施形態において発光管11構成用ガラス管80は、溶融石英ガラス製である。
【0013】
以下、本発明に係る蛍光ランプの製造方法を、図1のフローチャートに従って、図2乃至図4を参照しながら説明する。
【0014】
1.ガラス層を構成するためのガラス粉末が分散されたスラリーを製作する(ステップ1)。
ガラス層構成用の塊状のガラスを細かく砕き、ボールミルにかける。粉砕したガラス粉末をメッシュにかけることにより粒径を分類し、平均粒径が0.5〜10μm(好ましくは1〜5μm)のガラスの粉末を作製する。
このガラス粉末を、ニトロセルロース、酢酸ブチル液と重量比1:4の割合で混合する。混合液をアルミナボールとともにボールミルにかけて、十分ミリングし、ガラス粉末が分散されたスラリーを製作する。以下、このガラス粉末を分散させたスラリーを「ガラススラリー」と称する。
ガラス層を構成するガラスは、発光管の基材となる石英ガラスの軟化点(1600℃)よりも低い軟化点を有するガラスである。好ましくは、軟化点が蛍光体の焼成温度(400〜900℃)範囲にあるガラスであり、更に好ましくは、耐熱衝撃性の良好な硬質ガラスである。
なかでも、ホウケイ酸ガラス(Si−B−O系ガラス、軟化点:約800℃)、アルミノケイ酸ガラス(Si−Al−O系ガラス、軟化点:約900℃)が好ましく、このような硬質ガラスは、単独で用いても良いし適宜の割合で混合して用いても良い。
【0015】
2.続いて、ガラススラリーを、発光管構成用のガラス管の内表面に塗布する(ステップ2)。
本実施形態において、発光管構成用ガラス管80は、図2に示すように放電空間形状が円筒状となるよう内側管81と外側管82を備えており、発光管構成用ガラス管80(以下、単に「ガラス管80」とも称する。)の長さ方向における両方の端部に外部と連通する排気管83A,83Bが形成されている。発光管構成用ガラス管80を垂直に保持し、ガラススラリーを満たした容器の液面に、排気管の一方の例えば83Bを入れ、一方の排気管83Aから吸引を行い、ガラススラリーを吸い上げ、ガラス管80内部にガラススラリーを充填し、その後、他方の排気管83Bから抜いて塗布する。ガラススラリーの粘度や塗布回数を調整することによって、最終的に得られるガラス層の厚みを変えることができる。このとき、ガラススラリーの厚みが1〜30μmの範囲に形成されることが好ましい。なお、所定の紫外光について高い透過率を得るため、ガラス層の厚みは、後工程で形成する蛍光体を保持できる範囲で、可及的に小さい方が好ましい。
【0016】
3.ガラススラリーを乾燥させる(ステップ3)。
発光管構成用ガラス管80の一方の排気管83Aから、もう一方の排気管83Bへ、乾燥窒素ガスを流すことで、ガラススラリーに含まれる酢酸ブチルを蒸発させる。この結果、ガラス管80の内表面上に厚さが1〜30μmのガラス粉末が堆積した層が形成される。乾燥に用いるガスは、乾燥空気でも良い。
【0017】
4.ガラス管を加熱し、ガラス粉末の層を焼成する(ステップ4)。
焼成条件は、大気中であって、約500〜1000℃、時間としては、最高温度での保持時間で表すと、0.2〜1時間である。上述したホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラスを用いた場合には、600〜900℃で行うのが好ましい。この焼成工程によって粒子同士が結合するとともに、ガラス管に融着し、ガラス層が基材に強力に結着することになる。
なお、ガラス層は、溶融温度まで昇温しないことから通常は粉末状の形態を維持しているが、更に温度を上げて溶融させた状態としても構わない。
【0018】
5.ガラス管を常温まで冷却し(ステップ5)、調製済みの蛍光体のスラリーを発光管内に吸い上げ法によって塗布する(ステップ6)。
蛍光体の塗布方法は先に2.で説明した手順と同様であり、発光管構成用ガラス管80を垂直に保持し、蛍光体スラリーを満たした容器の液面に、排気管の一方の例えば83Bを入れ、一方の排気管83Aから吸引を行い、蛍光体スラリーを吸い上げ管80内部に蛍光体スラリーを充填し、その後、他方の排気管83Bから抜いて塗布する。
本発明に係る蛍光ランプに好適に用いることができる蛍光体は、例えば、ユ−ロピウム付活ホウ酸ストロンチウム(Sr−B−O:Eu(以下SBEと称する。)、中心波長368nm)蛍光体、セリウム付活アルミン酸マグネシウムランタン(La−Mg−Al−O:Ce(以下、LAMと称する。)、中心波長338nm(ただしbroad))蛍光体、ガドリニウム、プラセオジム付活リン酸ランタン(La−P−O:Gd,Pr(以下、LAP:Pr,Gdと称する、中心波長311nm)蛍光体などである。これらの蛍光体は、いずれも波長250nm未満の領域の紫外光を吸収して、各々有する中心波長帯の紫外線に変換し、放射する。
【0019】
6.蛍光体スラリーの水分を飛ばして乾燥する(ステップ7)。
発光管構成用ガラス管80の一方の排気管83Aから、もう一方の排気管83Bへ、乾燥窒素ガスを流すことで、蛍光体スラリーに含まれる酢酸ブチルを蒸発させる。乾燥に用いるガスは、乾燥空気でも良い。
【0020】
7.蛍光体を焼成する(ステップ8)。
発光管用のガラス管を炉に入れて、焼成する。焼成条件は、大気雰中で、約500〜800℃であり、最高温度での保持時間にして、0.2〜1時間加熱する。この焼成工程において、蛍光体層とガラス層との境界面でガラスの軟化が生じて蛍光体がガラス層に結着し、結果的に、強固な結合状態が得られる。
この結果、図3に示すように、石英ガラスからなる発光管構成用のガラス管80の内表面上に、低軟化点ガラス粉末からなるガラス層14、蛍光体層15がこの順に積層された状態が得られる。
なお、大気中での劣化が激しい蛍光体の場合は、大気中でニトロセルロースが焼失する温度まで昇温したのち、非酸化雰囲気ないし還元雰囲気にすることにより、約800度程度までの加熱を行うことが可能である。
【0021】
8.ガラス管を常温に冷却し(ステップ9)、当該ガラス管の内部に希ガスを封入して気密に封止する(ステップ10)。
より具体的には、排気管83A,83Bの内面に付着した蛍光体層15およびガラス層14を取り除いた後、一方の排気管83Aを加熱封止し、他方の排気管83Bより排気を行い、所定の希ガス(封入物)を封入して気密封止(チップオフ)する。この結果、図4に示すような、円筒状の気密な放電空間Sが形成された蛍光ランプ用の発光管11が得られる。封入する希ガスは、例えば、キセノン(Xe)、クリプトン(Kr)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)であり、単独で用いても良いし適宜の組合わせで混合して用いてもよい。なお、これら希ガスの放電により得られる波長は、キセノン160−190nm、クリプトン124,140−160nm、アルゴン107−165nm、ネオン80−90nmである。
【0022】
9.続いて、内側管の内周面にそって内側電極を、外側管の外周面にそって外側電極を配置する(ステップ11)。
ステップ10で得られた発光管11に、内側電極12と外側電極13とからなる一対の外部電極を配置し、エキシマランプ10が完成する。内側電極12は例えば断面C型の金属板を2枚対向させて配置し、内側管111の内周面にそって配置したものである。外側電極13は例えば網状電極よりなり、外側管112の外表面上全域に被せるように配置する。
【0023】
以上、説明した蛍光ランプは、一対の電極がいずれも放電空間の外部に位置されたものであったが、このような例に限定されず、例えば少なくとも一方の電極が内部に配置されたものでも適用できる。なお、放電空間内に電極を配置する場合は、発光管の封止工程(ステップ8)の前に電極を取り付ければよい。
【0024】
このようにして得られた蛍光ランプの最終製品の寸法について、具体的な数値例を挙げると次の通りである。
発光管(11)の全長:約300〜2000mm、内側管(111)の肉厚:1〜2mm、外側管(112)の肉厚:2〜3mmである。また、蛍光体層(15)の平均厚さ:10〜20μmであり、蛍光体層(14)と発光管(11)の間に形成された低軟化点ガラスからなるガラス層(14)の厚さ:1〜30μmである。
【0025】
図4に示す蛍光ランプにおいては、内側電極12と外側電極13が、内側管111、外側管112および放電空間Sを介在させた状態で、対向配置されている。内側電極12と外側電極13にはリード線W11,W12が接続されて電源装置16が接続されており、電源装置16より高周波電圧が印加されると、電極12,13間に誘電体(111、112等)を介在させた放電が形成され、放電ガスである例えばキセノン(Xe)ガスの発光により、波長172nmの紫外光が発生する。ここで得られる紫外光は、蛍光体の励起用の発光であり、この波長172nmの紫外光が蛍光体層を照射することにより、蛍光体が励起され、例えば蛍光体の種類を選択することにより波長250〜380nmの紫外光が放射される。こうして得られた波長250〜380nmの紫外光は、蛍光体層15、ガラス層14、発光管11、外側電極13(空隙部)をこの順に透過して、外部に放射される。
【0026】
ガラス層14は、紫外光の透過率が石英ガラスよりも劣るが、この層14の厚みは、最大でも30μm程度以下で済む。従って、波長250〜380nmの紫外光の吸収が少なく、ほとんどが透過して外部に放射されるようになる。この結果、発光管の全体を低軟化点のガラスで形成したものに比較し、格段に高い効率で所望の波長帯の紫外光を放射することができるようになる。
【0027】
なお、キセノンガスの放電によって発生する波長172nmの真空紫外光は、ガラス層に使用するホウケイ酸ガラスや、アルミノケイ酸ガラスの吸収端が200nm台にあり、ほとんど透過することができない。従って、必要としない短波長の紫外光が外部に放射されるようなことはない。
【0028】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記に限定されるものではない。
[実施例1]
<ガラススラリー液の調製>
ホウケイ酸ガラス(Si−B−O系ガラス)及びアルミノケイ酸ガラス(Si−Al−O系ガラス)を1:1の割合で混合したガラスを、細かく粉砕したのち更にボールミルにかけ、平均粒径が1〜5μmの粒度に調製した。
この混合ガラス粉末を酢酸ブチル、ニトロセルロースの混合液に重量比1:4の割合で混合し、更にボールミルにかけて攪拌し、ガラス粉末が分散されたスラリーを作製した。なお、このガラス粉末が分散されたスラリーについては「ガラススラリーA」と称する。
【0029】
<希ガス蛍光ランプの作製>
続いて、図4に係る構成に従い、実施例1に係る希ガス蛍光ランプを製作した。なお、先に実施形態において説明した構成については詳細な説明を省略する。
発光管構成用の溶融石英ガラスからなるガラス管の内表面上に、ガラススラリーAを吸い上げ法により塗布し、乾燥させた。その後、700℃で1時間保持することにより焼成を行った。焼成後、ガラス管の内表面上には、粉末のガラスが適度に溶け、発光管の内表面に溶着した状態で固定されていることが確認された。
続いて、蛍光体としてLAP:Pr,Gdを用いて蛍光体スラリーを調製し、このスラリー液を吸い上げ、自然落下法によって、ガラス層が形成された状態のガラス管の内表面上に塗布した。蛍光体スラリーを乾燥させた後、500℃で1時間加熱して、蛍光体を焼成した。しかる後、ガラス管の片端部を封止した後、希ガス(Xeガス(キセノンガス))を静圧で27kPa(200Torr)封入し、他端も気密封止して、放電空間Sを形成し、発光管11を製作した。
発光管11における、外側管112の外径はφ30mm、内径はφ28mm(肉厚2mm)であり、内側管111は外径φ20mmm、内径18mm(肉厚1mm)であった。
発光管の気密封止後、外側管における外周面上に網状電極を配置するとともに、内側管の内表面上にアルミニウム製の箔状電極を配置した。
【0030】
[比較例1−1]
ガラススラリー液を用いずに石英ガラス管に直接蛍光体スラリーを塗布したことを除いて、実施例1と同様にして比較例1−1に係る希ガス蛍光ランプを作製した。なお、蛍光体の焼成条件は、500℃で1時間加熱したことによった。
【0031】
[比較例1−2]
ガラススラリー液を用いずに石英ガラス管に直接蛍光体スラリーを塗布するとともに、蛍光体の焼成条件を1000℃、1時間としたことを除いて、実施例1と同様の構成および手順で比較例1−2に係る希ガス蛍光ランプを作製した。
【0032】
[実施例2]
<ガラススラリー液の調製>
ホウケイ酸ガラス(Si−B−O系ガラス)を細かく粉砕したのち、更にボールミルにかけ、平均粒径が1〜5μmの粒度に調製した。
このホウケイ酸ガラス粉末を酢酸ブチル、ニトロセルロースの混合液に重量比1:4の割合で混合し、更にボールミルにかけて攪拌し、ガラス粉末が分散されたスラリーを作製した。なお、このガラス粉末が分散されたスラリーについて「ガラススラリーB」と称する。
【0033】
<希ガス蛍光ランプの作製>
ガラススラリーBを用いて、図5に示す形状の外部電極型の希ガス蛍光ランプ(20)を製作した。なお同図(a)は管の軸に対して垂直に切断した断面図、(b)は(a)中のA−Aで切断した管軸長さ方向の断面図である。以下に詳細を説明する。
発光管(21)用のガラス管は外径φ10mm、内径φ9mm(肉厚0.5mm)、全長1500mmであり、溶融石英ガラス製であった。このガラス管に、ガラススラリーBを、吸い上げ、自然落下法によって塗布し、液を乾燥させた。その後、600℃で1時間保持することにより焼成を行った。焼成後のガラス管は粉末のガラスが適度に融けてガラス管の内表面に溶着し、固定されている。
少量のニトロセルロースと酢酸ブチルとの混合溶液に、適当量の蛍光体粉末を混ぜ、粘度が20mPa・sになるよう蛍光物質が分散された懸濁液を調製した。なおここでは、蛍光体としてLAMを用いた。蛍光体スラリーは乳濁色の分散溶液であった。
この蛍光体スラリーを、吸い上げ、自然落下法によって、所定のガラス層が内表面に形成された状態のガラス管に塗布した。蛍光体スラリーを乾燥後、500℃で1時間加熱して、蛍光体を焼成した。
ガラス管の片端部を封止した後、希ガスを静圧で21kPa(160Torr)封入し、発光管21の内表面上に、石英ガラスよりも低軟化点のガラスからなるガラス層24、蛍光体層25がこの順に積層された、発光管21を得た。この発光管21の外表面上に、銀ペーストを幅2mm、長さ1450mmの寸法で塗布、形成して、発光管21の外表面上に管の長さ方向に伸びる一対の外部電極22,23を形成し、実施例2に係る希ガス蛍光ランプ20を製作した。そして、一方と他方の電極22,23にリード線W21,W22を接続するとともに、希ガス蛍光ランプ20用の所定の電源26に接続した。
【0034】
[比較例2−1]
上記ガラススラリー液を使用することなく石英ガラス管に直接蛍光体スラリーを塗布したことを除いて、実施例2と同様に希ガス蛍光ランプを製作し、比較例2−1に係る希ガス蛍光ランプを作製した。なお、蛍光体の焼成条件は、600℃で1時間加熱したことによった。
【0035】
[比較例2−2]
上記ガラススラリー液を使用することなく石英ガラス管に直接蛍光体スラリーを塗布するとともに、蛍光体の焼成条件を、1000℃、1時間としたことを除いて、実施例2と同様にして比較例2−2に係る希ガス蛍光ランプを作製した。
【0036】
以上の実施例1,2においては、放電ガスとしてキセノン(Xe)ガスを用い、誘電体を介在させた放電によって波長172nmの発光を得てこれを蛍光体により300nm以上の波長帯の紫外光に変換する例について説明した。本発明は、これら希ガス蛍光ランプ限定されず、低圧水銀ランプに適用することも可能である。以下、他の実施例について説明する。
[実施例3]
続いて、図6の構成に従い、実施例3に係る内部電極型の低圧水銀蛍光ランプを製作した。
発光管を構成するためのガラス管は溶融石英ガラスであった。このガラス管の内部に吸い上げ法によって、上記実施例1と同様の方法によって得られたガラススラリーAを塗布し、乾燥後、700℃で1時間焼成した。
その後、蛍光体としてSBEを用いて蛍光体スラリーを調製し、蛍光体スラリーを上記と同様、吸い上げ、自然落下法によって塗布し、蛍光体スラリーの乾燥後、500℃、1時間焼成することによって蛍光体をガラス管に固着させた。
しかる後、発光管の端部に、(Ba,Sr,Ca)Oを、トリプルカーボネイトを活性処理して得たフィラメントマウント(32,33)を配設した。ガラス管内部に希ガスであるアルゴンを4kPa(30Torr)と、水銀を10mg/cm封入して気密封止することにより、最終的に図6で示すような低圧水銀蛍光ランプを得た。なお、本実施例では、放電物質として水銀を用いたため、185nm,254nm,320−370nm等の波長帯の紫外線が得られる。しかしながら、実施例3に係る低圧水銀ランプでは185nmと254nmの波長のエネルギーが輻射のほとんどを占めるため、300nm台の光の放射はあまり期待できない。蛍光体を用いて波長185nmおよび波長254nmの光を波長300nm台の光に変換すると、通常の水銀の放電のみで得られる波長320−370nm近傍の光のみを利用するよりも、格段に効率がよく波長300nm台の光を放射することができる。
【0037】
ここで、図6を参照し、低圧水銀蛍光ランプの構成について説明する。
本実施例において、発光管31は、外径φ10mm、内径φ8.8mm(肉厚0.6mm)、全長1200mmであった。フィラメントマウントからなる内部電極32,33は、シール用部材37,38によって発光管31に支持されて、対向配置されている。これら内部電極32,33にリード線W31,W32を接続し、所定の電源装置(不図示)に接続した。
なお、発光管31の内表面上に形成された、ガラス層34および蛍光体層は、平均厚さがそれぞれ10μm、15μmであった。
【0038】
[比較例3−1]
ガラススラリー液を用いることなく石英ガラス管に直接蛍光体スラリーを塗布したことを除いて、実施例3と同様にして比較例3−1に係る内部電極型蛍光ランプを作製した。なお、蛍光体の焼成条件は、実施例3と同じ700℃で1時間加熱したことによった。
【0039】
[比較例3−2]
ガラススラリー液を用いることなく石英ガラス管に直接蛍光体スラリーを塗布するとともに、蛍光体の焼成温度を1000℃、1時間としたことを除いて、実施例3と同様にして比較例3−2に係る内部電極型蛍光ランプを作製した。
【0040】
[実験例1]
各蛍光ランプに適した点灯電源を用いてランプを点灯させ、紫外線照度を測定した。紫外線照度は分光器(ウシオ電機製、USR40)を用い、ランプの長さ中心位置であって受光器は発光管の管壁から20mm離間した位置に配置して測定した。実施例1,2,3の蛍光ランプの紫外線照度を100として、比較例のランプの紫外線照度を相対値で表した。この結果を表1中の「紫外線照度」の欄に示す。
【0041】
[実験例2]
更に、上記実施例1〜3に係る蛍光ランプと比較例1−1〜3−2に係る蛍光ランプについて、蛍光体の密着性について評価を行った。蛍光体層の密着性の評価は、ランプを木製の板上5cmから落下させた時、簡単にすべて剥がれた場合:×、一部剥がれた場合:△、全く剥がれなかった場合:○として評価したものである。
この結果を下記表1中の「密着性」の欄に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例1,2,3に係るランプは、紫外線照度、密着性の両方において優れていることが判明した。比較例1−1,2−1,3−1に係るランプでは、ガラス層を備えていないために紫外光の透過率が実施例のランプよりも良好であるが、蛍光体層の密着性が悪かった。ランプ点灯中にも剥離、落下が生じて結果、所期の照度が得られないものがあった。一方、焼成温度を石英ガラスの軟化点付近の1000℃付近に設定した比較例2−2,3−2の各ランプは、蛍光体層の密着性については十分であったが、蛍光体の励起状態が得られず、結果、所望の紫外光が得られず、最も紫外線照度が低いランプとなった。なお、比較例1−2のランプはその他の比較例2−2、3−2に比較して低い温度、800℃に設定したため、蛍光体の密着性も良くなかった。
【0044】
以上の実施例は、本願発明を実施するうえで一例を述べたに過ぎず、適宜変更可能であることは言うまでもない。
例えば、上記実施例1〜3においては、蛍光体として、SBE(Sr−B−O:Eu)、LAM(La−Mg−Al−O:Ce)、LAP:Pr、Gd(La−P−O:Gd,Pr)をそれぞれ単独で用いた例で説明したが、各実施例に係る構成のランプにおいて、これらの蛍光体のうちどの蛍光体を使用しても良いし、これらの蛍光体を適宜の割合で混合して使用することも可能である。無論、発光により得られる放射光と変換後の紫外光の波長が適当であれば、上記に限定されず他の蛍光体を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は本発明の蛍光ランプの製造工程を説明するフローチャートである。
【図2】発光管の管軸方向断面図である。
【図3】本発明に係る蛍光ランプ用発光管の管軸に垂直方向断面図である。
【図4】本発明に係る蛍光ランプ用発光管を管軸に沿って切断した説明用断面図である。
【図5】本発明に係る外部電極型蛍光ランプの(a)管軸方向断面図、(b)管軸と垂直な方向で切断した断面図である。
【図6】本発明の実施例である内部電極型の水銀蛍光ランプの管軸方向断面図である。
【符号の説明】
【0046】
10 希ガス蛍光ランプ
11 発光管
12 内側電極
13 外側電極
14 低軟化点ガラス層
15 蛍光体層
16 電源
20 希ガス蛍光ランプ
21 発光管
22 一方の電極
23 他方の電極
24 低軟化点ガラス層
25 蛍光体層
26 電源
30 低圧水銀蛍光ランプ
31 発光管
32 一方の電極
33 他方の電極
34 低軟化点ガラス層
35 蛍光体層
37 シール部材
38 シール部材
W11,W12 リード線
W21,W22 リード線
W31,W32 リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線を放射する蛍光ランプであり、
石英ガラスからなる発光管と、
石英ガラスよりも軟化点が低いガラスからなり前記発光管における放電空間側の表面上に形成されたガラス層と、
該ガラス層の表面上に形成され、励起されることにより紫外光を放射する蛍光体層と
を備えてなることを特徴とする蛍光ランプ。
【請求項2】
前記ガラス層が、ホウケイ酸ガラスおよびアルミノケイ酸ガラスのいずれかを含む
ことを特徴とする請求項1記載の蛍光ランプ。
【請求項3】
前記ガラス層の平均厚さは1〜30μmである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光ランプ。
【請求項4】
紫外線を放射する蛍光ランプの製造方法であり、
石英ガラスからなる管に、石英ガラスよりも軟化点が低いガラスの層を予め形成し、
前記ガラスの層の上に蛍光体とバインダ剤とを混合した蛍光体の懸濁液を塗布し、当該蛍光体を焼成する
ことを特徴とする蛍光ランプの製造方法。
【請求項5】
前記石英ガラスよりも軟化点が低いガラスは、ホウケイ酸ガラスおよびアルミノケイ酸ガラスのいずれかを含む
ことを特徴とする請求項4記載の蛍光ランプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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