説明

蛍光体およびそれに用いるイオン注入装置

【課題】安定性および耐水性が高く、また使用温度の変化による発光効率の変動が少なく、さらには従来よりも優れた発光効率を有する蛍光体を提供する。
【解決手段】酸窒化物系または窒化物系蛍光体本体と、当該蛍光体本体表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とから構成される蛍光体であって、前記被覆層が、1.4〜2.0の屈折率を有する被覆材料を蛍光体本体にイオン注入することによって形成されたものである蛍光体、およびそれに用いるイオン注入装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸窒化物蛍光体または窒化物蛍光体表面にイオン注入を用い被覆層を形成してなる蛍光体、およびそれに用いるイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体発光装置は、小型で消費電力が少なく高輝度の発光を安定に行なうことができることから、電球に代わる光源として携帯機器、OA機器、液晶バックライト用光源など各種表示装置の光源に広く用いられている。
【0003】
半導体発光素子は、従来、使用される発光層の半導体材料や形成条件等により、赤から緑色の高輝度発光が可能であった。近年では、青から紫色の短波長可視光を発光する半導体発光素子も開発され、一般に実用化されている。これら様々な発光色の半導体発光装置を用いて、たとえばR(赤)、G(緑)、B(青)の三原色の発光色を有する半導体発光装置を利用したLEDディスプレイが実用化されている。
【0004】
またたとえば特許文献1には、青から紫色の短波長可視光を発光する半導体発光素子と蛍光体とを組み合わせて、半導体発光素子の出射光と蛍光体により波長変換された変換光との混色により白色を得る半導体発光装置が開示されている。特許文献1に開示された半導体発光装置では、上記半導体発光素子の発光色と蛍光体の発光色とが互いに補色の関係になって、この半導体発光素子の発光色と蛍光体の発光色とが加色されて白色に発光するように、上記蛍光体を選択している。
【0005】
さらに、特許文献2には、390〜420nmの波長の光を発光する半導体発光素子と、この半導体発光素子からの発光により励起される蛍光体とを用いて、白色の光を発光する半導体発光装置が開示されている。390〜420nmの波長の光で励起され発光する蛍光体として、様々な酸化物や硫化物の蛍光体が用いられている。このような特許文献2に開示されている半導体発光装置は、発光波長が390〜420nmの近紫外ないし紫色の出射光を有する半導体素子と、その出射光を赤色、緑色、および青色に波長変換する蛍光体とを備えることにより、半導体発光装置の構成部品の劣化を少なくし、また人体への悪影響が殆どなく、しかも、色調が良好な半導体発光装置を得ることができる。
【0006】
しかしながら蛍光体によっては、特に硫化物を含む蛍光体は、空気中の水分と反応して加水分解されるおそれがある。このような蛍光体の劣化によって、発光装置の耐用年数が短縮される。その対策として特許文献3などに被覆層を有する蛍光体が開示されている。
【0007】
また、酸化物系蛍光体や硫化物系蛍光体に変わり、近年、酸窒化物や窒化物蛍光体の例が特許文献4および特許文献5に開示されている。これらの蛍光体は390〜420nmの波長の光で励起され高効率の発光が得られる上、安定性および耐水性が高く、また使用温度の変化による発光効率の変動が少ない等の優れた特性を有するものが多い。また、窒化物蛍光体の耐熱性をさらに高めるため、窒化金属系もしくは酸窒化物系材料で窒化物蛍光体被覆することが、特許文献6に開示されている。
【0008】
しかしながら、これらの特許文献4〜6に開示された蛍光体では、蛍光体の化学的安定性および耐熱性を向上させるというものであった。しかしながら、被膜は蛍光体粒子への励起光の入射効率および蛍光体粒子からの蛍光の取り出し効率にも影響を与えることが考えられる。ここで、特許文献5のように窒化物の被膜を設ける場合、酸窒化物または窒化物蛍光体との組み合わせを考えると、両者が窒化物または窒化物をベースにした同種の材料であるために、屈折率も類似であり、蛍光体を分散させた状態で保持するための樹脂またはガラスなどよりなる媒体の屈折率との差が大きくなると、蛍光体粒子への励起光の入射効率および蛍光体粒子からの蛍光の取り出し効率の点で十分ではないという問題があった。
【特許文献1】特許第2927279号公報
【特許文献2】特開2002−171000号公報
【特許文献3】特開2002−223008号公報
【特許文献4】特開2002−363554号公報
【特許文献5】特開2003−206481号公報
【特許文献6】特開2004−161807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、安定性および耐水性が高く、また使用温度の変化による発光効率の変動が少なく、さらには従来よりも優れた発光効率を有する蛍光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、酸窒化物系または窒化物系蛍光体本体と、当該蛍光体本体表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とから構成される蛍光体であって、前記被覆層が、1.4〜2.0の屈折率を有する被覆材料を蛍光体本体にイオン注入することによって形成されたものである蛍光体である。
【0011】
ここにおいて、前記被覆層は、被覆材料を蛍光体本体に2重イオン注入することによって形成されたものであるのが、好ましい。
【0012】
本発明の蛍光体において、前記被覆材料は酸化金属系材料であることが好ましく、酸化金属系材料の中でも酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al23)または酸化イットリウム(Y23)であることがより好ましく、酸化マグネシウム(MgO)であることが特に好ましい。
【0013】
また本発明の蛍光体における被覆層は、その最薄部が5nmの厚みであり、その最厚部が3μmの厚みであることが好ましい。
【0014】
また本発明の蛍光体は、前記被覆層が、蛍光体本体を載置した注入台を歳差運動させながら、被覆材料を蛍光体本体にイオン注入することによって形成されたものであることが好ましい。
【0015】
本発明の蛍光体において、前記被覆層は、被覆材料を蛍光体本体に2度以上イオン注入することによって、蛍光体本体表面の全面を被覆するように形成されたものであることが好ましい。
【0016】
本発明はまた、蛍光体本体に被覆材料をイオン注入して蛍光体本体の表面に被覆層を形成するためのイオン注入装置であって、歳差運動し得る試料台を備える、蛍光体被覆形成用イオン注入装置を提供する。
【0017】
本発明のイオン注入装置は、蛍光体本体の粒径に応じて歳差運動の角度を調節可能なものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の蛍光体は、酸窒化物または窒化物系蛍光体材料を蛍光体本体として用いてなることにより、熱的性質、機械的性質、化学的安定性に優れ、耐水性が高く、また使用温度の変化による発光効率の変動が少ないため、厳しい環境下においても安定に動作可能な、耐光性、耐湿性に優れた蛍光体を提供することができる。
【0019】
さらに本発明の蛍光体は、特定の屈折率を有する被覆材料にて蛍光体本体の表面の少なくとも一部を被覆するように形成された被覆層を有することによって、さらに耐湿性、耐光性がよく、耐環境性に優れ、また、樹脂等の封止体と蛍光体粒子との屈折率差の緩和による、蛍光体粒子内部への光の取込み効率および取り出し効率を向上させることができ、より発光効率が高い優れた特性を有する蛍光体を実現できる。
【0020】
また、本発明の蛍光体は、蛍光体本体に被覆材料をイオン注入することにより被覆層を形成してなることで、蛍光体本体と被覆層との間の密着性の低下による発光効率の低下を防止し、かつ経年変化を防止することで、高い信頼性を有する蛍光体を提供することができる。
【0021】
本発明の蛍光体は、さらに、非発光過程に寄与する表面準位の低減効果による発光効率の向上、また表面改質効果による樹脂などの封止材への分散性が向上される、という効果も発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本発明の好ましい一例の蛍光体を模式的に示す図である。本発明の蛍光体は、酸窒化物系または窒化物系蛍光体本体1と、当該蛍光体本体1表面の少なくとも一部を被覆する被覆層2とから構成される。
【0023】
本発明に用いられる蛍光体本体には、酸窒化物系材料または窒化物系材料が用いられる。
【0024】
本発明における酸窒化物蛍光体の粒子は、Si、Al、O、Nおよび1種または2種以上のランタノイド系希土類元素を組成元素として含む蛍光体の粒子であることが好ましい。Si、Al、OおよびNからなる材料系は、発光中心となるランタノイド系希土類(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb)のうち1種または2種以上を混ぜることによって、波長変換効率に優れた波長変換部材となる。
【0025】
本発明における窒化物蛍光体の粒子は、Ca、Si、Al、Nおよび1種または2種以上のランタノイド系希土類元素を組成元素として含む蛍光体の粒子であることが好ましい。Ca、Si、AlおよびNからなる材料系は、発光中心となるランタノイド系希土類(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb)のうち1種または2種以上を混ぜることによって、波長変換効率に優れた波長変換部材となる。
【0026】
酸窒化物系材料または窒化物材料としては、特に制限されるものではないが、たとえば、青色蛍光体としてαサイアロン、緑色蛍光体としてβサイアロン、赤色蛍光体としてCaAlSiN3などが挙げられる。これらを蛍光体本体1として用いるのが好ましい。
【0027】
本発明によれば、蛍光体本体1に酸窒化物系材料または窒化物系材料を用いることによって、熱的性質、機械的性質、化学的安定性に優れ、耐水性が高く、また使用温度の変化による発光効率の変動が少ない。このため、厳しい環境下においても安定に動作可能な、耐光性、耐湿性に優れた蛍光体を実現することができるものである。
【0028】
蛍光体本体1は、付活物質によって付活されたものを用いるのが好ましい。付活物質としては、従来公知の適宜のものを用いることができ特に制限されるものではないが、たとえば、Ce、Eu、Laなどが挙げられる。
【0029】
蛍光体本体1の形状は、特に制限されるものではなく、球状、角形状など適宜の形状が挙げられるが、安定性の観点からは、球状であるのが好ましい。図1には、球状の蛍光体本体1を用いた例を示している。
【0030】
蛍光体本体1の粒径は、特に制限されるものではないが、3〜15μmであるのが好ましく、5〜10μmであるのがより好ましい。蛍光体本体1の粒径が3μm未満であると、吸収が十分に行えない傾向にあるためであり、また蛍光体本体1の粒径が15μmを超えると、励起が表面のみしかできなくなり効率が悪くなる傾向にあるためである。上記蛍光体本体1の粒径は、たとえば粒度分布測定装置を用いて測定された値を指す。なお、蛍光体本体1が球状以外の形状で実現される場合には、蛍光体本体1のあらゆる方向における長さのうち最大の長さを有する部分の長さを指す。
【0031】
本発明の蛍光体における被覆層2は、蛍光体本体1の少なくとも一部を覆うように形成される。効率および安定性の理由からは、被覆層2は、図1に示す例のように、蛍光体本体1の全面を被覆するように形成されるのが好ましい。
【0032】
本発明の蛍光体は、被覆層2が、1.4〜2.0の屈折率を有する被覆材料を蛍光体本体にイオン注入することによって形成されたものであることをその大きな特徴とする。窒化物蛍光体の屈折率が約2.0、封止材である樹脂の屈折率が約1.5であるので、その中間の屈折率を選択すればよい。これにより、樹脂などの封止体と蛍光体粒子の屈折率差の緩和による、粒子内部への光取り込み効率と取り出し効率の向上を図ることができる。
【0033】
上記被覆材料の屈折率は、1.4〜2.0である。上記屈折率が1.4未満であると、蛍光体内部より外部の反射率が上がり取り出し効率が下がるという不具合があり、また上記屈折率が2.0を超えると、励起光の反射率が大きくなり励起効率が下がるという不具合があるためである。なお、上記屈折率は、たとえばエリプソメータを用いて測定された値を指す。
【0034】
本発明の蛍光体は、上記範囲内の屈折率を有する被覆材料にて被覆層2を形成することによって、上記蛍光体本体1を酸窒化物系材料または窒化物系材料にて形成することによる利点に加えて、さらに耐湿性、耐光性がよく、耐環境性に優れ、また、樹脂等の封止体(屈折率:約1.4)と蛍光体本体(屈折率:約2.0)との屈折率差の緩和による、蛍光体粒子内部への光の取込み効率および取り出し効率を向上させることができ、より発光効率が高い優れた特性を有する蛍光体を実現できる。
【0035】
また本発明の蛍光体は、蛍光体本体に被覆材料をイオン注入することにより被覆層2を形成してなる。ここで、「イオン注入」とは、元素イオンを被注入物表面に加速して打ち込むことを意味する。このようにイオン注入にて被覆層2を形成してなることで、コーティング、蒸着などの蛍光体表面上部に形成する場合に比べ密着性が格段によいため蛍光体本体1と被覆層2との間の密着性の低下による発光効率の低下を防止することができる。また、本発明の蛍光体は、蛍光体本体に被覆材料をイオン注入することにより被覆層2を形成してなることで経年変化を抑制することができ、高い信頼性を有する蛍光体を実現することができる。被覆層2をイオン注入により形成したことは、得られた蛍光体より、断面を形成し、断面の被膜相部分の組成を分析することによりして確認することができる。
【0036】
本発明の蛍光体は、さらに、非発光過程に寄与する表面準位の低減効果による発光効率の向上、また表面改質効果による樹脂などの封止材への分散性が向上される、という効果も発揮する。
【0037】
本発明の蛍光体における被覆層2は、被覆材料を蛍光体本体1に2重イオン注入することによって形成されたものであるが好ましい。ここで、「2重イオン注入」とは、上述したイオン注入の中でも、2種類のイオンを注入することを意味する。2重イオン注入によって被覆層2を形成することで、色々な組み合わせの化合物を基材の表面付近に形成できるという利点があるためである。なお、イオン注入の中でも2重イオン注入により被覆層2を形成したことは、得られた蛍光体より、断面を形成し組成をEPMA、EDX等の組成分析手法を用いて測定することにより確認することができる。
【0038】
本発明の蛍光体における被覆層2の形成に用いる被覆材料は、上述した1.4〜2.0の範囲内の屈折率を有し、イオン注入により蛍光体本体1表面に層形成され得るものであれば特に制限されるものではなく、たとえば酸化金属系材料、炭酸化物、フッ化物などが挙げられる。中でも、光透過性および安定性の理由から、酸化金属系材料を被覆材料として用いるのが好ましい。
【0039】
上記酸化金属系材料としては、たとえば、酸化マグネシウム(MgO)(屈折率:1.74)、酸化アルミニウム(Al23)(屈折率;1.63)、酸化イットリウム(Y23)(屈折率:1.87)などが挙げられ、中でも、安定性の理由から酸化マグネシウムまたは酸化アルミニウムが好ましく、酸化マグネシウムが特に好ましい。
【0040】
本発明における被覆層2は、蛍光体本体1の表面の少なくとも一部を覆うように形成されていればよいが、図1に示す例のように蛍光体本体1の表面全面を覆うように形成されてなるのが好ましい。このように被覆層2が蛍光体本体1の表面全面を覆うように形成される場合、その最薄部が5nmの厚みであり、その最厚部が3μmの厚みであることが好ましい。被覆層2の最薄部および最厚部の厚みがそれぞれ上記範囲内に選ばれることによって、効率的に励起光を吸収し、効率的に蛍光を放出するという効果が発揮される。
【0041】
本発明の蛍光体において、前記被覆層2は、蛍光体本体1を載置した注入台を歳差運動させながら、被覆材料を蛍光体本体1にイオン注入することによって形成されたものであることが好ましい。このようにして被覆層2が形成されてなることで、粒子表面に均一な被膜が形成できるという利点がある。なお、詳細は後述するが、本発明は、このように本発明の蛍光体を製造するのに好適なイオン注入装置も提供するものである。
【0042】
また本発明の蛍光体において、被覆層2は、被覆材料を蛍光体本体に2度以上イオン注入することによって、蛍光体本体1の表面全面に形成されてなるのが好ましい。このようにして被覆層2が形成されてなることによって、粒子全面に均一な被膜を形成でき、高い変換効率を得ることができるという利点がある。
【0043】
本発明の蛍光体は、通常、封止体によって封止されてなる。封止体は、一般的に、屈折率約1.4の樹脂材料を用いて形成される。このような樹脂材料としては、たとえば、シリコン樹脂、酢酸ビニル樹脂などが挙げられ、中でも青色励起光を透過し、封止のしやすいシリコン樹脂が好ましい。封止体による封止は、通常、蛍光体を分散し、その後基材に注入して行う。
【0044】
図2は、本発明の好ましい一例の蛍光体被覆形成用イオン注入装置を模式的に示す図である。本発明は、また、蛍光体本体に被覆材料をイオン注入して蛍光体本体の表面に被覆層を形成するためのイオン注入装置をも提供する。本発明の蛍光体は、本発明のイオン注入装置を用いて製造されたものには限定されるものではないが、本発明のイオン注入装置を用いて製造されたものであることが好ましい。
【0045】
本発明のイオン注入装置は、歳差運動し得る試料台3を備える。このような試料台3を備えることで、蛍光体本体1を試料台3に載置し、歳差運動させながらイオン注入を行なうことができ、上述した球状粒子面を均一に注入できるという利点を有する蛍光体を製造することが可能となる。このような歳差運動可能な試料台3は、歳差機構を用いた回転機構を利用することによって実現することができる。
【0046】
本発明のイオン注入装置は、上述した歳差運動可能な試料台3を備えることを除いては、従来公知の適宜のイオン注入装置の構成を採用して実現することができる。図2に示す例のイオン注入装置は、たとえば、イオンを発生させるイオン生成部4と、イオンビームの引き出し部5と、所定のイオンを選択するための質量分離部6と、取り出したイオンを所定のエネルギーに加速するための加速部7とを備える。これらの各構成は、当業者であれば、従来公知の適宜のものを用いて実現することができ、特に制限されるものではない。また、試料台3は、適宜の真空チャンバ8内において、上記加速部7で加速されたイオンが試料台3上に載置した蛍光体本体に注入されるように設置される。
【0047】
本発明のイオン注入装置において、試料台3は、蛍光体本体の粒径に応じて歳差運動の角度(すなわち、中心軸と回転軸との成す角度)を調節可能であるのが好ましい。この際、好ましくは、蛍光体本体の粒径に対し、歳差運動の角度が大きくなるというような関係を有するように調節される。このような試料台を採用することで、球体に近い、粉体の蛍光体に効率的に、全面被覆を蛍光体に均一に形成でき、効率よく取り出すことが可能となり、より発光効率の高い蛍光体を提供することができる。
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
<実施例1>
蛍光体本体として、青色蛍光体用の粒径5〜10μmの球状のαサイアロン(Ceで付活)を用い、図2に示した例のイオン注入装置の載置台に発泡剥離型接着剤で固定した。イオン注入装置を用いて、マグネシウム(Mg)イオンと酸素(O)イオンを蛍光体表面に2重イオン注入した。注入エネルギーはMg:1.5MeV、O:1.2Mev、注入量は1×1018ions/cm2でMg、Oの順にイオン注入した。本注入後、イオン注入基板を取り出し、別のイオン注入基板に上下が反対になるように接着剤の種類を変えて(熱硬化型接着剤を使用)載置しなおした。蛍光体材料を載置しなおし、イオン注入がされていない粒子面が表面に出た蛍光体に対して、前記と同様に同じイオン種、加速電圧で2重イオン注入した。このようにして、蛍光体本体の表面全面を覆うように被覆層が形成された蛍光体を作製した。得られた蛍光体において、酸化マグネシウムを用いて形成された被覆層は、最薄部における厚みが0.5μm、最厚部における厚みが1μmであった。
【0050】
<実施例2>
蛍光体本体として、緑色蛍光体用の粒径5〜10μmの球状のβサイアロン(Euで付活)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして蛍光体を作製した。得られた蛍光体において、酸化マグネシウムを用いて形成された被覆層は、最薄部における厚みが0.5μm、最厚部における厚みが1μmであった。
【0051】
<実施例3>
蛍光体本体として、赤色蛍光体用の粒径5〜10μmの球状のCaAlSiN3(Euで付活)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして蛍光体を作製した。得られた蛍光体において、酸化マグネシウムを用いて形成された被覆層は、最薄部における厚みが0.5μm、最厚部における厚みが1μmであった。
【0052】
<実施例4>
図2に示したイオン注入装置を用いて、アルミニウム(Al)イオンと酸素(O)イオンを蛍光体表面に2重イオン注入したこと以外は、実施例1と同様にして蛍光体を作製した。注入エネルギーはAl:500keV、O:300kev、注入量は1×1017ions/cm2でAl、Oの順にイオン注入した。得られた蛍光体において、酸化アルミニウムを用いて形成された被覆層は、最薄部における厚みが200nm、最厚部における厚みが500nmであった。
【0053】
<実施例5>
図2に示したイオン注入装置を用いて、アルミニウム(Al)イオンと酸素(O)イオンを蛍光体表面に2重イオン注入したこと以外は、実施例2と同様にして蛍光体を作製した。注入エネルギーはAl:500keV、O:300kev、注入量は1×1017ions/cm2でAl、Oの順にイオン注入した。得られた蛍光体において、酸化アルミニウムを用いて形成された被覆層は、最薄部における厚みが200nm、最厚部における厚みが500nmであった。
【0054】
<実施例6>
図2に示したイオン注入装置を用いて、アルミニウム(Al)イオンと酸素(O)イオンを蛍光体表面に2重イオン注入したこと以外は、実施例3と同様にして蛍光体を作製した。注入エネルギーはAl:500MeV、O:300Mev、注入量は1×1017ions/cm2でAl、Oの順にイオン注入した。得られた蛍光体において、酸化アルミニウムを用いて形成された被覆層は、最薄部における厚みが200nm、最厚部における厚みが500nmであった。
【0055】
<実施例7>
図2に示したイオン注入装置を用いて、イットリウム(Y)イオンと酸素(O)イオンを蛍光体表面に2重イオン注入したこと以外は、実施例1と同様にして蛍光体を作製した。注入エネルギーはY:0.7MeV、O:300kev、注入量は5×1017ions/cm2でY、Oの順にイオン注入した。得られた蛍光体において、酸化アルミニウムを用いて形成された被覆層は、最薄部における厚みが200nm、最厚部における厚みが500nmであった。
【0056】
<実施例8>
図2に示したイオン注入装置を用いて、イットリウム(Y)イオンと酸素(O)イオンを蛍光体表面に2重イオン注入したこと以外は、実施例2と同様にして蛍光体を作製した。注入エネルギーはY:0.7MeV、O:300Mev、注入量は5×1017ions/cm2でY、Oの順にイオン注入した。得られた蛍光体において、酸化アルミニウムを用いて形成された被覆層は、最薄部における厚みが200nm、最厚部における厚みが500nmであった。
【0057】
<実施例9>
図2に示したイオン注入装置を用いて、イットリウム(Y)イオンと酸素(O)イオンを蛍光体表面に2重イオン注入したこと以外は、実施例3と同様にして蛍光体を作製した。注入エネルギーはY:0.7MeV、O:300kev、注入量は5×1017ions/cm2でY、Oの順にイオン注入した。得られた蛍光体において、酸化アルミニウムを用いて形成された被覆層は、最薄部における厚みが200nm、最厚部における厚みが500nmであった。
【0058】
<評価試験>
実施例1〜9の各蛍光体について、下記効果を検証するための試験を行なった。
【0059】
波長変換部材を以下のように作製する。液状のシリコン樹脂原料に対して被膜を有する蛍光体をそれぞれ加え、均一に混合した後、厚さ0.5mmのシートにして、120℃60分間の加熱により硬化して、評価用の波長変換部材を作製した。比較例として、各々の被膜を形成していない蛍光体を上記と同様に分散させて比較評価用の波長変換部材を併せて作製した。これらの波長変換部材に、波長405nmの励起光を照射して波長変換効率を比較して効果を検証した。
【0060】
各々の波長で、被膜を形成していない比較評価用の波長変換部材に対して波長変換効率が4.5〜5.5%向上した。
【0061】
今回開示された実施の形態および実施例は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の好ましい一例の蛍光体を模式的に示す図である。
【図2】本発明の好ましい一例のイオン注入装置を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1 蛍光体本体、2 被覆層、3 試料台、4 イオン生成部、5 イオンビーム引き出し部、6 質量分離部、7 加速部、8 チャンバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸窒化物系または窒化物系蛍光体本体と、当該蛍光体本体表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とから構成される蛍光体であって、
前記被覆層が、1.4〜2.0の屈折率を有する被覆材料を蛍光体本体にイオン注入することによって形成されたものである、蛍光体。
【請求項2】
前記被覆層が、被覆材料を蛍光体本体に2重イオン注入することによって形成されたものである、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記被覆材料が酸化金属系材料であることを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記酸化金属系材料が、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al23)または酸化イットリウム(Y23)であることを特徴とする請求項3に記載の蛍光体。
【請求項5】
前記酸化金属系材料が酸化マグネシウム(MgO)である、請求項4に記載の蛍光体。
【請求項6】
前記被覆層は、その最薄部が5nmの厚みであり、その最厚部が3μmの厚みであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項7】
前記被覆層が、蛍光体本体を載置した注入台を歳差運動させながら、被覆材料を蛍光体本体にイオン注入することによって形成されたものである、請求項1〜6のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項8】
前記被覆層が、被覆材料を蛍光体本体に2度以上イオン注入することによって、蛍光体本体表面の全面を被覆するように形成されたものである、請求項7に記載の蛍光体。
【請求項9】
蛍光体本体に被覆材料をイオン注入して蛍光体本体の表面に被覆層を形成するためのイオン注入装置であって、歳差運動し得る試料台を備える、蛍光体被覆形成用イオン注入装置。
【請求項10】
蛍光体本体の粒径に応じて歳差運動の角度を調節可能である、請求項9に記載のイオン注入装置。

【図1】
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【図2】
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