説明

蛍光体とその製造方法

【課題】従来の希土類付活サイアロン蛍光体より緑色の輝度が高く、従来の酸化物蛍光体よりも耐久性に優れ、スペクトルがシャープである、紫外および可視光で発光する緑色蛍光体を製造する方法を提供する。
【解決手段】β型Si34結晶構造を持つ窒化物または酸窒化物の結晶中にAlと、金属元素M(ただし、Mは、Euである)が固溶してなり、結晶中に含まれる酸素量が0.8質量%以下であり、励起源を照射することにより波長450nmから650nmの範囲に発光のピーク波長を持つ可視光を発することを特徴とする蛍光体を製造する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β型Si34結晶構造を持ち、紫外線、可視光あるいは電子線により励起されることにより可視光を発する蛍光体において、発光ピークの半値幅が小さく、ピーク形状がシャープな光を発する蛍光体と、その製造方法、および蛍光体を用いた発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、蛍光表示管(VFD(Vacuum−Fluorescent Display))、フィールドエミッションディスプレイ(FED(Field Emission Display)またはSED(Surface−Conduction Electron−Emitter Display))、プラズマディスプレイパネル(PDP(Plasma Display Panel))、陰極線管(CRT(Cathode−Ray Tube))、白色発光ダイオード(LED(Light−Emitting Diode))などに用いられている。これらのいずれの用途においても、蛍光体を発光させるためには、蛍光体を励起するためのエネルギーを蛍光体に供給する必要があり、蛍光体は真空紫外線、紫外線、電子線、青色光などの高いエネルギーを有した励起源により励起されて、可視光線を発する。しかしながら、蛍光体は前記のような励起源に曝される結果、蛍光体の輝度が低下し劣化しがちであり、輝度低下の少ない蛍光体が求められている。そのため、従来のケイ酸塩蛍光体、リン酸塩蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、硫化物蛍光体などの蛍光体に代わり、輝度低下の少ない蛍光体として、サイアロン蛍光体が提案されている。
【0003】
このサイアロン蛍光体の一例は、概略以下に述べるような製造プロセスによって製造される。まず、窒化ケイ素(Si34)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化ユーロピウム(Eu23)を所定のモル比に混合し、1気圧(0.1MPa)の窒素中において1700℃の温度で1時間保持してホットプレス法により焼成して製造される(例えば、特許文献1参照)。このプロセスで得られるEuイオンを付活したαサイアロンは、450から500nmの青色光で励起されて550から600nmの黄色の光を発する蛍光体となることが報告されている。
【0004】
さらに、JEM相(LaAl(Si6-zAlz)N10-zz)を母体結晶として、Ceを付活させた青色蛍光体(特許文献2参照)、La3Si8114を母体結晶としてCeを付活させた青色蛍光体(特許文献3参照)、CaAlSiN3を母体結晶としてEuを付活させた赤色蛍光体(特許文献4参照)が知られている。
【0005】
別のサイアロン蛍光体として、β型サイアロンに希土類元素を添加した蛍光体(特許文献5参照)が知られており、Tb、Yb、Agを付活したものは525nmから545nmの緑色を発光する蛍光体となることが示されている。しかしながら、合成温度が1500℃と低いために付活元素が十分に結晶内に固溶せず、粒界相に残留するため高輝度の蛍光体は得られていなかった。
【0006】
高輝度の蛍光を発するサイアロン蛍光体として、β型サイアロンに2価のEuを添加した蛍光体(特許文献6参照)が知られており、緑色の蛍光体となることが示されている。
【0007】
【特許文献1】特許第3668770号
【特許文献2】国際公開第2005/019376号パンフレット
【特許文献3】特開2005−112922号公報
【特許文献4】国際公開第2005/052087号パンフレット
【特許文献5】特開昭60−206889号公報
【特許文献6】特開2005−255895号公報
【0008】
液晶バックライトなどのディスプレイ用途では、赤、緑、青の3色だけが必要であり、その他の色の成分は不要であるため、この用途に使うバックライトではシャープなスペクトルの赤と緑と青色の3種類の蛍光体が必要とされる。中でも、緑色の蛍光体は、色純度が良くシャープな発光を示すものがほとんど見当たらない。特許文献6に示される、β型サイアロンの緑色蛍光体は、スペクトルの幅が比較的広く、シャープさが必ずしも十分とは言えないのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、このような要望に応えようとするものであり、従来の希土類付活サイアロン蛍光体より緑色の発光スペクトルの幅が狭く、従来の酸化物蛍光体よりも耐久性に優れる緑色蛍光体を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者においては、かかる状況の下で、Eu、および、Si、Al、O、Nの元素を含有する窒化物について鋭意研究を重ねた結果、特定の組成範囲、特定の固溶状態および特定の結晶相を有するものは、波長520nmから550nmの範囲にシャープな発光ピークを持つ蛍光体となることを見出した。すなわち、β型Si34結晶構造を持つ窒化物または酸窒化物を母体結晶とし、2価のEuイオンを発光中心として添加し、酸素含有量が0.8質量%以下の組成を持つ固溶体結晶は、波長520nmから550nmの範囲の波長にピークを持ち、その半値幅が55nm以下のシャープな発光スペクトルを有する蛍光体となることを見出した。また、係る蛍光体を製造する方法として、Si源として金属Siを用いて、これを窒化することによりβ型サイアロンを合成する手法を見いだした。さらに、β型窒化ケイ素原料またはβ型サイアロン蛍光体を、還元雰囲気で熱処理することにより、酸素量を低減させる手法を見いだした。
【0011】
すなわち、Euを固溶させたβ型Si34結晶構造を持つサイアロン結晶の中で、特定の組成の蛍光体が紫外線および可視光や電子線またはX線で励起されシャープなスペクトルを持つ緑色発光を有する蛍光体として使用し得るという重要な発見は、本発明者において初めて見出された。本発明者においては、この知見を基礎にしてさらに鋭意研究を重ねた結果、特定波長領域で高い輝度の発光現象を示す蛍光体とその蛍光体の製造方法およびそれを用いた発光素子を提供することにも成功した。より具体的には以下に記載する。
【0012】
(1) β型Si結晶構造を持つ窒化物または酸窒化物の結晶中にAlと、金属元素M(ただし、Mは、Euである)が固溶してなり、結晶中に含まれる酸素量が0.8質量%以下であることを特徴とする蛍光体。
【0013】
(2) 励起源を照射することにより波長520nmから550nmの範囲に発光のピーク波長を持つことを特徴とする上記(1)に記載の蛍光体。
【0014】
(3) 励起源を照射することにより波長520nmから535nmの範囲に発光のピーク波長を持つことを特徴とする上記(1)に記載の蛍光体
【0015】
(4) 励起源を照射することにより2価のEu由来の蛍光を発光し、発光のピークの半値幅が55nm以下であることを特徴とする上記(1)に記載の蛍光体。
【0016】
(5) 少なくとも、Siを含有する金属粉末と、Alを含有する金属あるいはその無機化合物と、金属元素M(ただし、Mは、Euである)を含有する金属あるいはその無機化合物とを含む原料混合物を、窒素含有雰囲気中において1200℃以上2200℃以下の温度範囲で焼成することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【0017】
(6) 前記Alを含有する金属あるいはその無機化合物は粉末状の窒化アルミニウムであり、前記金属元素Mを含有する金属あるいはその無機化合物は粉末状の酸化ユーロピウムであることを特徴とする上記(5)に記載の蛍光体の製造方法。
【0018】
(7) 原料混合粉末を窒素含有雰囲気中で1200℃以上1550℃以下の温度で焼成することにより原料混合粉末中の窒素含有量を増加させた後に、2200℃以下の温度で焼成することを特徴とする上記(5)に記載の蛍光体の製造方法。
【0019】
(8) Eu、Si、Al、O、Nの元素を少なくとも含む粉末、または、Euを含むβ型Si結晶構造を持つ酸窒化物蛍光体粉末に対して、還元窒化雰囲気中で加熱処理を施し、処理粉末の酸素含有量を減少させるとともに窒素含有量を増加させる酸素低減工程を含むことを特徴とする蛍光体の製造方法。
【0020】
(9) 窒化ケイ素原料粉末に対して還元窒化雰囲気中で加熱処理を施し、この加熱処理される粉末の酸素含有量を減少させた処理後の粉末に、EuとAlの元素を少なくとも含む原料粉末をさらに添加した後に、2200℃以下の温度で焼成することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【0021】
(10) 前記還元窒化雰囲気は、アンモニアガス、または水素と窒素の混合ガスを含むことを特徴とする上記(8)または(9)に記載の蛍光体の製造方法。
【0022】
(11) 前記還元窒化雰囲気は、炭化水素ガスを含むことを特徴とする上記(8)または(9)に記載の蛍光体の製造方法。
【0023】
(12) 前記還元窒化雰囲気は、アンモニアガスと、メタンまたはプロパンガスとの混合ガスを含むことを特徴とする上記(8)または(9)に記載の蛍光体の製造方法。
【0024】
(13) 330〜500nmの波長の光を発する発光ダイオード(LED)またはレーザダイオード(LD)と、蛍光体とを含む照明器具であって、該蛍光体は上記(1)に記載の蛍光体を含むことを特徴とする照明器具。
【0025】
(14) 少なくとも励起源と蛍光体を具備する画像表示装置であって、該蛍光体は上記(1)に記載の蛍光体を含むことを特徴とする画像表示装置。
【0026】
(15) 液晶ディスプレイパネル(LCD)、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)のいずれかを含むことを特徴とする上記(14)に記載の画像表示装置。
【0027】
(16) 前記液晶ディスプレイパネル(LCD)はLEDバックライトを有し、該LEDバックライトは430〜480nmの波長の光を発する発光ダイオードと前記蛍光体を含み、前記蛍光体は、Euで付活したCaAlSiNからなる赤色蛍光体をさらに含むことを特徴とする上記(14)に記載の画像表示装置。
【発明の効果】
【0028】
本発明の蛍光体は、β型Si34結晶構造を持つサイアロン結晶を主成分として、結晶中に含まれる酸素量を0.8質量%以下とすることにより、従来のサイアロン蛍光体よりピークの幅が狭く、シャープな光を放つ緑色の蛍光体として優れている。励起源に曝された場合でも、この蛍光体は、輝度が低下することなく、VFD、FED、PDP、CRT、白色LEDなどに好適に使用される有用な蛍光体となる窒化物を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトルである。
【図2】実施例2の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトルである。
【図3】実施例3の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトルである。
【図4】実施例4の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトルである。
【図5】実施例1のCL発光による発光スペクトルである。
【図6】比較例1の蛍光測定による励起スペクトルと発光スペクトルである。
【図7】本発明による照明器具(LED照明器具)の概略図である。
【図8】本発明による画像表示装置(プラズマディスプレイパネル)の概略図である。
【図9】本発明による画像表示装置(フィールドエミッションディスプレイ)の概略図である。
【図10】本発明による画像表示装置(液晶ディスプレイパネル)の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施例に基づいて詳しく説明する。
【0031】
本発明の蛍光体は、β型Si34結晶構造を持つサイアロンの固溶体(以下、「β型Si34属結晶」と呼ぶ)を主成分として含んでなるものである。β型Si34属結晶は、X線回折や中性子線回折により同定することができ、純粋なβ型Si34と同一の回折を示す物質の他に、構成元素が他の元素と置き換わることにより格子定数が変化したものもβ型Si34属結晶である。さらに、固溶の形態によっては結晶中に点欠陥、面欠陥、積層欠陥が導入されて、粒内の欠陥部に固溶元素が濃縮されることがあるが、その場合もX線回折によるチャートの形態が変わらないものは、β型Si34属結晶である。また、欠陥形成の周期性により長周期構造を持つポリタイプを形成することがあるが、この場合も基本となる構造がβ型Si34結晶構造であるものはβ型Si34属結晶である。
【0032】
ここで、純粋なβ型Si34の結晶構造とはP63またはP63/mの対称性を持つ六方晶系に属し、理想原子位置を持つ構造として定義される結晶である。実際の結晶では、各原子の位置は、各位置を占める原子の種類によって理想位置から±0.05Å程度は変化する。
【0033】
その格子定数は、a=0.7595nm、c=0.29023nmであるが、その構成成分とするSiがAlなどの元素で置き換わったり、NがOなどの元素で置き換わったり、Euなどの金属元素が固溶することによって格子定数は変化するが、結晶構造と原子が占めるサイトとその座標によって与えられる原子位置は大きく変わることはない。従って、格子定数と純粋なβ型Si34の面指数が与えられれば、X線回折による回折ピークの位置(2θ)が一義的に決まる。そして、新たな物質について測定したX線回折結果から計算した格子定数と純粋なβ型Si34の面指数を用いて計算した回折ピークの位置(2θ)のデータが、β型Si34のデータと一致したときに当該結晶構造が同じものと特定することができる。
【0034】
本発明では、蛍光発光の点からは、その構成成分たるβ型Si34結晶構造を持つサイアロン結晶相は、高純度で極力多く含むこと、できれば単相から構成されていることが望ましいが、特性が低下しない範囲で他の結晶相あるいはアモルファス相との混合物から構成することもできる。この場合、β型Si34結晶構造を持つサイアロン結晶相の含有量が50質量%以上であることが高い輝度を得るために好ましい。
【0035】
β型Si結晶構造を持つサイアロン結晶を母体結晶とし、金属元素M(ただし、Mは、Euである)を母体結晶に固溶させることにより、Mイオンが発光中心として働き、蛍光特性を発する。金属元素Euを母体結晶に固溶させたものは、2価のEuイオンが発光中心として働き、高輝度の緑色蛍光を発する。
【0036】
本発明においては、β型Si34結晶構造を持つサイアロン結晶を母体結晶中の酸素含有量を0.8質量%以下とすることにより、発光ピークの幅を小さくして、ピークをシャープにすることができる。Euなどの発光中心イオンは酸素と窒素イオンで取り囲まれており、Euが結合する原子が酸素と窒素とでは結合状態が変わるため発光波長は異なる。従って、酸素量が増加すると発光ピークの幅が増大すると考えられる。理想的には、酸素含有量は極力少ない方がピーク幅は小さくなり好ましいが、0.8質量%以下とすることにより、その効果が大きい。
【0037】
本発明の蛍光体においてEuを添加したものは、励起源を照射することにより波長520nmから550nmの範囲に2価のEu由来の緑色の光を放ち、半値幅が55nm以下のシャープなスペクトル形状を持つ蛍光を発光する。なかでも、酸素含有量を0.5質量%以下に低減させた蛍光体は、発光波長520nmから535nmの範囲にピークを持つ発光スペクトルとなり、色純度が良い緑色の光を発する。また、CIE色度座標上の(x,y)値で、0 ≦ x ≦0.3、0.5≦ y ≦0.83の値をとり、色純度が良い緑色である。
【0038】
蛍光体の励起源としては、100nm以上500nm以下の波長の光(真空紫外線、深紫外線、紫外線、近紫外線、紫から青色の可視光)および電子線、X線などを用いると高い輝度の蛍光を発する。
【0039】
本発明の蛍光体の形態は特に限定されないが、粉末として使用する場合は、平均粒径50nm以上20μm以下の単結晶であることが、高輝度が得られるため好ましい。さらには、アスペクト比(粒子の長軸の長さを短軸の長さで割った値)の平均値が1.5以下の球形のものが分散や塗布工程での取り扱いが容易であり好ましい。
なお、本明細書において、平均粒径とは、以下のように定義される。粒子径は、沈降法による測定においては沈降速度が等価な球の直径として、レーザ散乱法においては散乱特性が等価な球の直径として定義される。また、粒子径の分布を粒度(粒径)分布という。粒径分布において、ある粒子径より大きい質量の総和が、全粉体のそれの50%を占める場合の粒子径が、平均粒径D50として定義される。この定義および用語は、いずれも当業者において周知であり、例えば、JISZ8901「試験用粉体及び試験用粒子」、または、粉体工学会編「粉体の基礎物性」(ISBN4−526−05544−1)の第1章等諸文献に記載されている。本発明においては、分散剤としてヘキサメタクリン酸ナトリウムを添加した水に試料を分散させ、レーザ散乱式の測定装置を使用して、粒子径に対する体積換算の積算頻度分布を測定した。なお、体積換算と重量換算の分布は等しい。この積算(累積)頻度分布における50%に相当する粒子径を求めて、平均粒径D50とした。以下、本明細書において、平均粒径は、上述のレーザ散乱法による粒度分布測定手段によって測定した粒度分布の中央価(D50)に基づくことに留意されたい。平均粒径を求める手段については、上述以外にも多様な手段が開発され、現在も続いている現状にあり、測定値に若干の違いが生じることもあり得るが、平均粒径それ自体の意味、意義は明確であり、必ずしも上記手段に限定されないことを理解されたい。
【0040】
本発明の蛍光体の製造方法は特に限定されないが、一例として次の方法を挙げることができる。
【0041】
少なくとも、Siを含有する金属粉末と、Alを含有する金属あるいは無機化合物と、金属元素M(ただし、Mは、Euである)を含有する金属あるいは無機化合物とを含む原料混合物を、窒素含有雰囲気中において1200℃以上2200℃以下の温度範囲で焼成することにより、β型Si34結晶構造を持つサイアロン結晶中にMが固溶した蛍光体を合成することができる。
【0042】
原料混合物のSi源としては、少なくともSiを含有する金属粉末を用いる。Siを含有する金属粉末としては、金属Siの他に他の金属を含むSi合金を挙げることができる。Si源として、金属粉末に加えて、窒化ケイ素、サイアロン粉末などの無機物質を同時に添加することができる。窒化ケイ素、サイアロン粉末を添加すると、酸素量は増加するものの生成物の結晶性が向上するために、蛍光体の輝度が向上する。原料混合物のAl源としては、Alを含有する金属あるいは無機化合物を用いる。例えば、金属Al、Al合金、窒化アルミニウムなどを挙げることができる。原料混合物の元素M(ただし、Mは、Euである)の供給源としては、Mの金属、Mを含む合金、窒化物、酸化物、炭酸塩などを挙げることができる。酸素含有量を極力低減するには、Mの金属あるいは窒化物を用いることが望ましいが、工業的には原料の入手のしやすさから酸化物を用いるのがよい。
【0043】
Euを含む蛍光体を合成する場合の原料混合物としては、金属Si粉末と、窒化アルミニウム粉末と、酸化ユーロピウム粉末の混合物を挙げることができる。これらの原料混合物を用いると、酸素含有量が特に少ない蛍光体を合成することができる。
【0044】
原料混合物を、窒素含有雰囲気中において1200℃以上2200℃以下の温度範囲で焼成することにより蛍光体を合成する。窒素含有雰囲気とは、窒素ガス、または分子中に窒素原子を含むガスであり、必要に応じて他のガスとの混合とすることができる。例えば、Nガス、N−H混合ガス、NHガス、NH―CH混合ガスなどを挙げることができる。これらの雰囲気中で加熱すると、原料中の金属Siが窒化されてSiとなり、これとAl含有原料、M含有原料が反応して、β型Si34結晶構造を持つサイアロン結晶中にMが固溶した蛍光体が生成する。この際、金属Siに含まれる酸素量(通常0.5質量%以下)はSi34原料粉末に含まれる酸素量(通常1質量%以上)より少ないので、酸素含有量が低い蛍光体を合成することができる。尚、窒素含有雰囲気は、実質的に酸素を含まないもの、即ち非酸化性のものであることが好ましい。
【0045】
原料混合粉末中のSiの窒化反応は、1200℃以上1550℃以下の温度で進行するので、この温度範囲で焼成することにより原料混合粉末中の窒素含有量を増加させ、SiをSi34に変換した後に、2200℃以下の温度で焼成することにより蛍光体を合成する手法をとることができる。
【0046】
別の合成方法として、窒化ケイ素原料粉末またはEu、Si、Al、O、Nの元素を少なくとも含む前駆体原料混合粉末に対して、還元窒化雰囲気中で加熱処理を施し、処理粉末の酸素含有量を減少させるとともに窒素含有量を増加させることにより、出発原料に含まれる酸素量を低減した後に、必要に応じてEuやAlを含む原料を添加して、2200℃以下の温度で焼成することにより蛍光体を合成する手法をとることができる。
【0047】
還元窒化雰囲気は、還元力と窒化性に富むガスであり、アンモニアガス、水素と窒素の混合ガス、アンモニア−炭化水素混合ガス、水素−窒素−炭化水素混合ガスを例として挙げることができる。また、炭化水素ガスとしては、メタンまたはプロパンガスが還元力の強さから好ましい。また、炭素源としてカーボン粉末などの炭素を含む固体やフェノール樹脂などの炭素を含む液体をあらかじめ窒化ケイ素粉末や前駆体原料混合粉末に添加したものを窒化性に富むガスで処理することもできる。
【0048】
さらに、別の方法として、Euを含むβ型Si結晶構造を持つ酸窒化物蛍光体粉末に対して、還元窒化雰囲気中で加熱処理を施し、処理粉末の酸素含有量を減少させるとともに窒素含有量を増加させる方法がある。この方法では、通常の方法で合成されたサイアロン蛍光体の表面に存在する酸素を、還元窒化することにより低減させる効果がある。
【0049】
ここでも、還元窒化雰囲気は、還元力と窒化性に富むガスであり、アンモニアガス、水素と窒素の混合ガス、アンモニア−炭化水素混合ガス、水素−窒素−炭化水素混合ガスを例として挙げることができる。また、炭化水素ガスとしては、メタンまたはプロパンガスが還元力の強さから好ましい。
【0050】
蛍光体を合成する工程では、粉体または凝集体形状の金属化合物を、嵩密度40%以下の充填率に保持した状態で容器に充填した後に焼成する方法によれば、特に高い輝度が得られる。粒径数μmの微粉末を出発原料とする場合、混合工程を終えた金属化合物の混合物は、粒径数μmの微粉末が数百μmから数mmの大きさに凝集した形態をなす(以下、「粉体凝集体」と呼ぶ)。本発明では、粉体凝集体を嵩密度40%以下の充填率に保持した状態で焼成する。
【0051】
すなわち、通常のサイアロンの製造ではホットプレス法や金型成形後に焼成を行なっており粉体の充填率が高い状態で焼成されているが、本発明では、粉体に機械的な力を加えることなく、また予め金型などを用いて成形することなく、混合物の粉体凝集体の粒度をそろえたものを、そのままの状態で容器などに嵩密度40%以下の充填率で充填する。必要に応じて、該粉体凝集体を、ふるいや風力分級などを用いて、平均粒径500μm以下に造粒して粒度制御することができる。また、スプレードライヤなどを用いて直接的に500μm以下の形状に造粒してもよい。また、容器は窒化ホウ素製を用いると蛍光体との反応が少ない利点がある。
【0052】
嵩密度を40%以下の状態に保持したまま焼成するのは、原料粉末の周りに自由な空間がある状態で焼成するためである。最適な嵩密度は、顆粒粒子の形態や表面状態によって異なるが、好ましくは20%以下がよい。このようにすると、反応生成物が自由な空間に結晶成長するので結晶同士の接触が少なくなり、表面欠陥が少ない結晶を合成することが出来ると考えられる。これにより、輝度が高い蛍光体が得られる。嵩密度が40%を超えると焼成中に部分的に緻密化が起こって、緻密な焼結体となってしまい結晶成長の妨げとなり蛍光体の輝度が低下するおそれがある。また微細な粉体が得られ難い。また、粉体凝集体の大きさは500μm以下が、焼成後の粉砕性に優れるため特に好ましい。
【0053】
上述のように、充填率40%以下の粉体凝集体を前記条件で焼成する。焼成に用いる炉は、焼成温度が高温であり焼成雰囲気が窒素であることから、金属抵抗加熱方式または黒鉛抵抗加熱方式であり、炉の高温部の材料として炭素を用いた電気炉が好適である。焼成の手法は、常圧焼結法やガス圧焼結法などの外部から機械的な加圧を施さない焼結手法が、嵩密度を所定の範囲に保ったまま焼成するために好ましい。
【0054】
蛍光体を合成する工程では、窒素雰囲気は0.1MPa以上100MPa以下の圧力範囲のガス雰囲気がよい。より好ましくは、0.1MPa以上1MPa以下がよい。窒化ケイ素を原料として用い、1820℃以上の温度に加熱する場合、窒素ガス雰囲気が0.1MPaより低いと、原料が熱分解し易くなるのであまり好ましくない。0.5MPaより高いと分解はかなり抑制される。1MPaあれば十分であり、100MPa以上となると特殊な装置が必要となり、工業生産に向かない。
【0055】
焼成して得られた粉体凝集体が固く固着している場合は、例えばボールミル、ジェットミル等の工場的に通常用いられる粉砕機により粉砕する。なかでも、ボールミル粉砕は粒径の制御が容易である。このとき使用するボールおよびポットは、窒化ケイ素焼結体またはサイアロン焼結体製が好ましい。特に好ましくは、製品となる蛍光体と同組成のセラミックス焼結体製が好ましい。粉砕は平均粒径5μm以下となるまで施す。特に好ましくは平均粒径20nm以上5μm以下である。平均粒径が5μmを超えると粉体の流動性と樹脂への分散性が悪くなり、発光素子と組み合わせて発光装置を形成する際に部位により発光強度が不均一になる。20nm未満となると、粉体を取り扱う操作性が悪くなる。粉砕だけで目的の粒径が得られない場合は、分級を組み合わせることができる。分級の手法としては、篩い分け、風力分級、液体中での沈殿法などを用いることができる。
【0056】
粉砕分級の一方法として酸処理を行っても良い。焼成して得られた粉体凝集体は、多くの場合、β型Si34結晶構造を持つ窒化物または酸窒化物の単結晶が微量のガラス相を主体とする粒界相で固く固着した状態となっている。この場合、特定の組成の酸に浸すとガラス相を主体とする粒界相が選択的に溶解して、単結晶が分離する。これにより、それぞれの粒子が単結晶の凝集体ではなく、β型Si34結晶構造を持つ窒化物または酸窒化物の単結晶1個からなる粒子として得られる。このような粒子は、表面欠陥が少ない単結晶から構成されるため、蛍光体の輝度が特に高くなる。
【0057】
以上の工程で微細な蛍光体粉末が得られるが、輝度をさらに向上させるには熱処理が効果的である。この場合は、焼成後の粉末、あるいは粉砕や分級により粒度調整された後の粉末を、1000℃以上で焼成温度以下の温度で熱処理することができる。1000℃より低い温度では、表面の欠陥除去の効果が少ない。焼成温度以上では粉砕した粉体どうしが再度固着するためあまり好ましくない。熱処理に適した雰囲気は、蛍光体の組成により異なるが、窒素、空気、アンモニア、水素から選ばれる1種または2種以上の混合雰囲気を用いることができる。窒素雰囲気が欠陥除去効果に優れるため好ましい。
【0058】
以上のようにして得られる本発明の窒化物は、通常の酸化物蛍光体や既存のサイアロン蛍光体と比べて、紫外線から可視光の幅広い励起範囲を持つことができる。また、可視光、中でもEuを添加したものは緑色の発光をすることができる。そして、発光スペクトルの幅が狭いことが特徴であり、画像表示装置のバックライトに好適である。これに加えて、高温にさらしても劣化しないことから耐熱性に優れており、酸化雰囲気および水分環境下での長期間の安定性にも優れている。
【0059】
次に本発明を以下に示す実施例によってさらに詳しく説明するが、これはあくまでも本発明を容易に理解するための一助として開示したものであって、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0060】
<実施例1〜4>
原料粉末は、45μmの篩を通した純度99.99%のSi粉末(高純度化学製試薬級)、比表面積3.3m2/g、酸素含有量0.79%の窒化アルミニウム粉末(トクヤマ製Fグレード)、純度99.9%の酸化ユーロピュウム粉末(信越化学製)を用いた。
【0061】
表1に実施例1から4及び比較例の設計組成をまとめる。表2に、表1の設計組成となるべく秤量した実施例1から4及び比較例の各成分の重量をまとめる。表1(実施例1〜4)で示される設計組成の化合物を得るべく、原料粉末を表2の組成となるように所定量秤量し、窒化ケイ素焼結体製の乳鉢と乳棒で10分以上混合した後に250μmのふるいを通すことにより流動性に優れる粉体凝集体を得た。この粉体凝集体を直径20mm高さ20mmの大きさの窒化ホウ素製るつぼに自然落下させて入れた。つぎに、るつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットした。焼成操作は、まず、拡散ポンプにより焼成雰囲気を真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して圧力を0.5MPaとし、毎時500℃で1300℃まで昇温し、その後毎分1℃で1600℃まで昇温し、その温度で8時間保持した。合成した試料をメノウの乳鉢を用いて粉末に粉砕し、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)を行った。その結果、得られたチャートは全てβ型窒化ケイ素構造を有していた。
【0062】
次に、これらの粉末に再度加熱処理を施した。1600℃で焼成した粉末を窒化ケイ素製の乳鉢と乳棒を用いて粉砕した後に、直径20mm高さ20mmの大きさの窒化ホウ素製るつぼに自然落下させて入れた。つぎに、るつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットした。焼成操作は、まず、拡散ポンプにより焼成雰囲気を真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して圧力を1MPaとし、毎時500℃で1900℃まで昇温し、その温度で8時間保持した。合成した試料をメノウの乳鉢を用いて粉末に粉砕し、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)を行った。その結果、得られたチャートは全てβ型窒化ケイ素構造を有していた。燃焼法による酸素窒素分析計を用いてこれらの合成粉末中に含まれる酸素および窒素量を測定した。表3にその結果を実施例1から4及び比較例についてまとめる。表3に示す様に、実施例1から4のものの酸素含有量は0.5質量%以下であった。
【0063】
ここで、表3に示す酸素は設計組成よりも高い(表1の設計組成の通りの酸素であるならば、その重量%は、0.11重量%である)。その理由は次のように考えられる。出発原料として用いたケイ素粉末および窒化アルミニウム粉末の表面は酸化されており、酸化ケイ素膜および酸化アルミニウム膜が形成されている。さらに、粉砕工程、乾燥工程を通じて原料が粉砕されるとその表面は酸化されて、酸素含有量が増大する。また、高温での焼成中の窒素雰囲気ガスにも1ppm程度の酸素や水分が含まれており、これと試料が反応して酸素含有量が増大する。これらの理由により、表3に示す酸素は設計組成よりも高い。
【0064】
再熱処理した粉末に、波長365nmの光を発するランプで照射した結果、緑色に発光することを確認した。この粉末の発光スペクトルおよび励起スペクトルを蛍光分光光度計を用いて測定した。表4にその結果を実施例1から4及び比較例についてまとめる。表4に示す様に、実施例1から4のものは、300〜303nmの範囲の波長に励起スペクトルのピークがあり、発光スペクトルにおいて、524〜527nmの範囲の波長にピークがある緑色蛍光体であることが分かった。これらは、従来報告されているβ型サイアロンをホストとする緑色蛍光体よりも短波長であり、色純度が良い緑色である。
【0065】
図1から図4に実施例の再熱処理品のスペクトルを示す。半値幅が55nm以下と小さくシャープな緑色を発することが特徴である。なお発光強度(カウント値)は測定装置や条件によって変化するため単位は任意単位である。図では、524〜527nmの範囲で観察されるピークの発光強度が1となる様に規格化してある。
【0066】
次に、実施例1の電子線を当てたときの発光特性(カソードルミネッセンス、CL)を、CL検知器を備えたSEMで観察し、CL像を評価した。この装置は、電子線を照射して発生する可視光を検出して二次元情報である写真の画像として得ることにより、どの場所でどの波長の光が発光しているかを明らかにするものである。加速電圧5kVにおける、実施例1のCLスペクトルを、図5に示す。発光スペクトル観察により、この蛍光体は電子線で励起されて533nmにピークを持つ緑色発光を示すことが確認された。その半値幅は54nmであった。このように、本発明の蛍光体は、電子線においても波長520から535nmの間にピークを持つ色純度がよい蛍光体であることから、FEDなどの電子線励起画像表示装置に好適な蛍光体である。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【比較例】
【0071】
<比較例1>
実施例と同じ粉末および、酸素含有量0.93重量%、α型含有量92%の窒化ケイ素粉末(宇部興産製SN−E10グレード)をSi粉末の代わりに用いて、Eu0.027Si12.15Al0.490.0415.32で示される設計組成の化合物を得るべく、窒化ケイ素粉末95.82質量%、窒化アルミニウム粉末3.37質量%、酸化ユーロピウム粉末0.81質量%の組成となるように所定量秤量し、窒化ケイ素焼結体製の乳鉢と乳棒で10分以上混合した後に250μmのふるいを通すことにより流動性に優れる粉体凝集体を得た。この粉体凝集体を直径20mm高さ20mmの大きさの窒化ホウ素製るつぼに自然落下させて入れた。つぎに、るつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットした後に、拡散ポンプにより焼成雰囲気を真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して圧力を1MPaとし、毎時500℃で1900℃まで昇温し、その温度で8時間保持した。合成した試料をメノウの乳鉢を用いて粉末に粉砕し、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)を行った。その結果、得られたチャートは全てβ型窒化ケイ素構造を有していた。燃焼法による酸素窒素分析計を用いてこれらの合成粉末中に含まれる酸素および窒素量を測定したところ、表3に示す様に、酸素含有量は1.12質量%であり、金属シリコンを出発原料として用いた実施例と比べて、酸素含有量が高いことがわかった。窒化ケイ素粉末に含まれる酸素量は、金属シリコン(原料中の酸素含有量は0.5重量%以下)より高い。このため、窒化ケイ素を出発原料とすると金属ケイ素粉末を出発原料としたものより酸素含有量が増大することがわかった。この材料の蛍光スペクトルは、図6に示す様に、発光波長537nmと金属シリコンを出発とするものより長波長であり、半値幅が58nmと幅広である。
【0072】
次に、本発明の窒化物からなる蛍光体を用いた照明器具について説明する。図7に、照明器具としての白色LEDの概略構造図を示す。本発明の窒化物からなる蛍光体及びその他の蛍光体を含む混合物蛍光体1と、発光素子として380nmの近紫外LEDチップ2を用いる。本発明の実施例1の緑色蛍光体と、赤色蛍光体(Y(PV)O:Eu)と、青色蛍光体(BaMgAl1017:Eu2+(BAM))とを樹脂層6に分散させた混合物蛍光体1をLEDチップ2上にかぶせた構造とし、容器7の中に配置する。導電性端子3、4に電流を流すと、ワイヤーボンド5を介して電流がLEDチップ2に供給され、380nmの光を発し、この光で緑色蛍光体、赤色蛍光体および青色蛍光体の混合物蛍光体1が励起されてそれぞれ黄色および青色の光を発し、黄色および青色が混合されて白色の光を発する照明装置として機能する。この照明器具は、発光効率が高い特徴がある。
【0073】
次に、本発明の窒化物蛍光体を用いた画像表示装置の設計例について説明する。図8は、画像表示装置としてのプラズマディスプレイパネルの原理的概略図である。赤色蛍光体(Y(PV)O:Eu)8と本発明の実施例1の緑色蛍光体9と青色蛍光体(BaMgAl1017:Eu2+(BAM))10とがそれぞれのセル11、12、13の内面に塗布されている。電極14、15、16、17に通電するとセル中でXe放電により真空紫外線が発生し、これにより蛍光体が励起されて、赤、緑、青の可視光を発し、この光が保護層20、誘電体層19、ガラス基板22を介して外側から観察され、画像表示として機能する。
【0074】
図9は、画像表示装置としてのフィールドエミッションディスプレイパネルの原理的概略図である。本発明の実施例1の緑色蛍光体56が陽極53の内面に塗布されている。陰極52とゲート54の間に電圧をかけることにより、エミッタ55から電子57が放出される。電子は陽極53と陰極の電圧により加速されて、蛍光体56に衝突して蛍光体が発光する。全体はガラス51で保護されている。図は、1つのエミッタと1つの蛍光体からなる1つの発光セルを示したが、実際には緑色の他に、青色、赤色のセルが多数配置されて多彩な色を発色するディスプレイが構成される。緑色や赤色のセルに用いられる蛍光体に関しては特に指定しないが、低速の電子線で高い輝度を発するものを用いるとよい。
【0075】
図10は、画像表示装置としての液晶ディスプレイパネルの原理的概略図である。液晶ディスプレイパネルは、偏光フィルタ71、透明電極73〜77および液晶(液晶分子層)78を含む光シャッタ部分と、バックライト光源70とを含む。バックライト光源70として図7に示す構造の白色LEDを用いる。図7において、本発明の窒化物からなる蛍光体及びその他の蛍光体を含む混合物蛍光体1と、発光素子として450nmの青色LEDチップ2を用いる。本発明の実施例1の緑色蛍光体と、赤色蛍光体(CaAlSiN:Eu)とを樹脂層6に分散させた混合物蛍光体1をLEDチップ2上にかぶせた構造とし、容器7の中に配置する。導電性端子3、4に電流を流すと、ワイヤーボンド5を介して電流がLEDチップ2に供給され、450nmの光を発し、この光で緑色蛍光体および赤色蛍光体の混合物蛍光体1が励起されてそれぞれ緑色および赤色の光を発し、これらとLEDが発する青色光が混合されて白色の光を発する。図10において、このLEDチップをバックライト光源用のLEDバックライト70として用いる。LEDバックライト70が放つ赤緑青の混合光が偏光フィルタ71、ガラス基板72、透明電極73を通って、液晶分子層78に達する。液晶分子層78に存在する液晶分子は、共通電極としての透明電極73と画素電極74に配置された赤緑青の各色表示用の透明電極75、76、77との間の電圧により方向が変化して光の透過率が変化する。透明電極75、76、77を通った光は、赤、緑、青のカラーフィルタ79、80、81を通って、ガラス基板72、偏光フィルタ71を経て、外部に放出される。このようにして、画像が表示される。
【0076】
このバックライト光源70は、青色、緑色、赤色の光の成分がシャープなスペクトルから構成されており、偏光フィルタ71で分光されたときの光の分離特性がよいため、分離された光は色度座標上における赤、緑、青の色度点の色純度が良くなる。これにより、液晶ディスプレイが再現できる色空間が広くなり、色再現性が良い液晶パネルを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の蛍光体は、従来のサイアロン蛍光体に比べて、ピークの幅が狭く、シャープな光を放つ緑色の蛍光体として優れている。さらに、本発明の蛍光体は、励起源に曝された場合であっても輝度の低下が少なく、VFD、FED、PDP、CRT、白色LEDなどに好適である。今後、各種表示装置における材料設計において、大いに活用され、産業の発展に寄与することが期待できる。
【符号の説明】
【0078】
1 本発明の緑色蛍光体(実施例1)と青色蛍光体と赤色蛍光体との混合物
2 LEDチップ
3、4 導電性端子
5 ワイヤーボンド
6 樹脂層
7 容器
8 赤色蛍光体
9 緑色蛍光体
10 青色蛍光体
11、12、13 紫外線発光セル
14、15、16、17 電極
18、19 誘電体層
20 保護層
21、22 ガラス基板
51 ガラス
52 陰極
53 陽極
54 ゲート
55 エミッタ
56 蛍光体
57 電子
70 LEDバックライト(バックライト光源)
71 偏光フィルタ
72 ガラス基板
73 透明電極(共通電極)
74 透明電極(画素電極)
75 透明電極(赤表示用)
76 透明電極(緑表示用)
77 透明電極(青表示用)
78 液晶分子層
79 カラーフィルタ(赤表示用)
80 カラーフィルタ(緑表示用)
81 カラーフィルタ(青表示用)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Eu、Si、Al、O、Nの元素を少なくとも含む粉末、または、Euを含むβ型Si結晶構造を持つ酸窒化物蛍光体粉末に対して、還元窒化雰囲気中で加熱処理を施し、この加熱処理される粉末の酸素含有量を減少させるとともに窒素含有量を増加させる酸素低減工程を含むことを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項2】
窒化ケイ素原料粉末に対して還元窒化雰囲気中で加熱処理を施し、この加熱処理される粉末の酸素含有量を減少させた処理後の粉末に、EuとAlの元素を少なくとも含む原料粉末をさらに添加した後に、2200℃以下の温度で焼成することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記還元窒化雰囲気は、アンモニアガス、または水素と窒素の混合ガスを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記還元窒化雰囲気は、炭化水素ガスを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項5】
前記還元窒化雰囲気は、アンモニアガスと、メタンまたはプロパンガスとの混合ガスを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項6】
前記酸素低減工程は、前記酸窒化物蛍光体中の酸素量が0.8質量%以下となるまで行われることを特徴とする、請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項7】
さらに、請求項1または2に記載の製造方法で製造される蛍光体は、X線回折測定で全てβ型Si構造を有することを特徴とする蛍光体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−28814(P2013−28814A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−220701(P2012−220701)
【出願日】平成24年10月2日(2012.10.2)
【分割の表示】特願2007−549180(P2007−549180)の分割
【原出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】