説明

蛍光体原料及び蛍光体原料用合金の製造方法

【課題】不純物の混入が少なく、高特性の蛍光体を得ることができる蛍光体原料を提供する。
【解決手段】少なくともSiを含む4価の金属元素Mと、Si以外の金属元素の1種以上とを含む合金であることを特徴とする蛍光体原料、及び、少なくともSiを含む4価の金属元素Mと、2価の金属元素Mとしてアルカリ土類金属元素の1種以上とを含む蛍光体原料用合金の製造方法であって、Si及び/又はSiを含む合金を融解させた後、アルカリ土類金属を融解させることを特徴とする蛍光体原料用合金の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体原料に関する。より詳しくは、構成元素を均一に含む蛍光体原料に関する。このような蛍光体原料としては例えば、蛍光体原料用合金が挙げられる。本発明はまた、この蛍光体原料用合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、蛍光灯、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)、白色発光ダイオード(LED)などに用いられている。これらのいずれの用途においても、蛍光体を発光させるためには、蛍光体を励起するためのエネルギーを蛍光体に供給する必要があり、蛍光体は真空紫外線、紫外線、可視光線、電子線などの高いエネルギーを有する励起源により励起されて、紫外線、可視光線、赤外線を発する。しかしながら、蛍光体は前記のような励起源に長時間曝されると、蛍光体の輝度が低下するという問題があった。
【0003】
そこで、近年、従来のケイ酸塩蛍光体、リン酸塩蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、ホウ酸塩蛍光体、硫化物蛍光体、酸硫化物蛍光体などの蛍光体に代わり、三元系以上の窒化物について多くの新規物質が合成されている。近年、特に窒化珪素をベースとした多成分窒化物や酸窒化物において優れた特性を有する蛍光体が開発されている。
【0004】
特許文献1に、一般式MSi:Eu[ここで、MはCa、Sr、及びBaからなる群から選択される少なくとも一種のアルカリ土類金属元素であり、かつ、x、y、及びzはz=2/3x+4/3yを満たす数である。]で表される蛍光体が開示されている。これらの蛍光体は、アルカリ土類金属を窒化することによりアルカリ土類金属の窒化物を合成し、これに窒化珪素を加えて合成するか、あるいは、アルカリ土類金属及び珪素のイミドを原料として窒素又はアルゴン気流中で加熱することにより合成されている。いずれも空気や水分に敏感なアルカリ土類金属窒化物を原料として使用しなくてはならず、工業的な製造には問題があった。
【0005】
また、特許文献2に、一般式M16Si1532で表されるオキシニトリド、一般式MSiAl、M13Si18Al121836、MSiAlON及びMSiAlON10で表されるサイアロン構造を有する酸窒化物蛍光体が開示されている。特に、MがSrの場合に、SrCOとAlNとSiとを1:2:1の割合で混合し、還元雰囲気(水素含有窒素雰囲気)中で加熱したところ、SrSiAl:Eu2+が得られたことが記載されている。
この場合、得られる蛍光体は、酸窒化物蛍光体のみであり、酸素を含まない窒化物蛍光体は得られていない。
【0006】
また、上記窒化物又は酸窒化物蛍光体は、使用される原料粉末の反応性がいずれも低いことから、焼成時に原料混合粉末の間の固相反応を促進する目的で原料粉末間の接触面積を大きくして加熱する必要がある。そのため、これらの蛍光体は、高温において圧縮成形した状態、すなわち非常に硬い焼結体の状態で合成される。よって、この様にして得られた焼結体は、蛍光体の使用目的に適した微粉末状態まで粉砕する必要がある。ところが、硬い焼結体となっている蛍光体を通常の機械的粉砕方法、例えばジョークラッシャーやボールミルなどを使用して長時間に渡り多大なエネルギーをかけて粉砕すると、蛍光体の母体結晶中に多数の欠陥を発生させ、蛍光体の発光強度を著しく低下させてしまうという不都合が生じていた。
【0007】
また、窒化物又は酸窒化物蛍光体の製造において、窒化カルシウム(Ca)、窒化ストロンチウム(Sr)などのアルカリ土類金属窒化物を使用することが好ましいとされているが、一般に2価の金属の窒化物は水分と反応して水酸化物を生成しやすく、水分含有雰囲気下で不安定である。特に、SrやSr金属の粉末の場合はこの傾向が著しく、取り扱いが非常に難しい。
【0008】
以上の理由から、新たな蛍光体原料及びその製造方法が求められていた。
【0009】
近年、金属を出発原料とした窒化物蛍光体の製造方法に関し、特許文献3が報告された。特許文献3には窒化アルミニウム系蛍光体の製造方法の一例が開示され、原料として、遷移元素、希土類元素、アルミニウム及びその合金が使用できる旨が記載されている。しかし、実際に合金を原料として用いた実施例は記載されておらず、Al源としてAl金属を用いることを特徴としている。また、原料に着火し、瞬時に高温(3000K)まで上昇させる燃焼合成法を用いる点で、本発明と大きく異なり、この方法で高特性の蛍光体を得ることは困難であると推測される。即ち、瞬時に3000Kという高温まで昇温させる方法では付活元素を均一に分布させることは難しく、特性の高い蛍光体を得ることは困難である。また、合金原料から得られるアルカリ土類金属元素を含む窒化物蛍光体、更に珪素を含む窒化物蛍光体に関する記載は無い。
【0010】
ところで、Siとアルカリ土類金属とを含む合金としては、CaSi、CaSi、CaSi、CaSi、CaSi、Ca14Si19、CaSi、SrSi、SrSi、SrSi、SrSi、SrSiが知られている。また、Si、アルミニウム、及びアルカリ土類金属を含む合金としては、Ca(Si1−xAl、Sr(Si1−xAl、Ba(Si1−xAl、Ca1−xSr(Si1−yAl等が知られている。中でも、A(B0.5Si0.5(ここで、AはCa、Sr、及びBaからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、BはAl及び/又はGaである。)については、超伝導特性に関して検討が行われており、例えば、非特許文献1及び非特許文献2に記載がある。しかし、これらの合金を蛍光体原料として用いた例はない。また、これらの合金は、学術研究用に実験室レベルでその少量が調製されたものであり、従来において、このような合金を工業的に生産された例はない。
【特許文献1】特表2003−515665号公報
【特許文献2】特開2003−206481号公報
【特許文献3】特開2005−54182号公報
【非特許文献1】M.Imai、Applied Physics Letters、80(2002)1019-1021
【非特許文献2】M.Imai、Physical Review B、68、(2003)、064512
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
蛍光体の製造において、蛍光体原料中に不純物が含まれていたり、製造工程で不純物が混入したりすると、その不純物の量がたとえ微量であっても得られる蛍光体の発光特性に悪影響を及ぼすことがある。
このため、不純物の混入が少ない蛍光体原料が求められている。
【0012】
また、上記のような蛍光体原料の一つとして、合金を用いることを考えた時、従来の合金の製造方法では、不純物が混入して蛍光体の発光特性に悪影響を及ぼす場合があった。また、合金原料中に含まれるアルカリ土類金属は沸点が低いために、揮発しやすく、目的組成の合金を得ることが困難であった。即ち、Siとアルカリ土類金属元素とを含む蛍光体原料として好適な合金を、工業的に大量生産することができる技術は確立されていなかった。
【0013】
従って、本発明は、不純物の混入が少なく、高特性の蛍光体を得ることができる蛍光体原料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、パーティクルアナライザーによる分析で、蛍光体原料を構成する元素のうちいずれか一種の元素の三乗根電圧と、他の一種の元素の三乗根電圧との関係で示される同期分布図において、その誤差の絶対偏差値が所定値以下である蛍光体原料が蛍光体の原料として特に優れていることを見出した。中でも、蛍光体原料としては合金であることが好ましいことも見出した。
また、蛍光体原料用合金においては、Siを先に融解し、次いでアルカリ土類金属を融解することにより、低沸点のアルカリ土類金属等の揮発を防ぎ、目的組成で、構成元素が均一に分布した合金を再現性よく得ることができることを見出した。
【0015】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下の[1]〜[19]を要旨とするものである。
【0016】
[1] 少なくともSiを含み、さらにSi以外の金属元素の1種以上を含む合金であることを特徴とする蛍光体原料。
【0017】
[2] [1]において、Si以外の金属元素として付活元素Mの一種以上を含有することを特徴とする蛍光体原料。
【0018】
[3] [2]において、付活元素Mの1種以上を均一に含むことを特徴とする蛍光体原料。
【0019】
[4] 少なくともSiを含む4価の金属元素Mと、金属元素M以外の金属元素の1種以上とを含有する蛍光体原料であって、
パーティクルアナライザーによる分析によって得られる金属元素Mのうちいずれか一種の三乗根電圧と、金属元素M以外の金属元素のいずれか一種の三乗根電圧との関係で示される同期分布図において、
その誤差の絶対偏差値が0.19以下であることを特徴とする蛍光体原料。
【0020】
[5] [4]において、前記金属元素M以外の金属元素が、付活元素M、2価の金属元素M、及び3価の金属元素Mからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする蛍光体原料。
【0021】
[6] [5]において、付活元素Mを含有することを特徴とする蛍光体原料。
【0022】
[7] 少なくともSiを含む4価の金属元素Mと、付活元素Mの1種以上とを含有する蛍光体原料であって、
パーティクルアナライザーによる分析によって得られる金属元素Mのうちいずれか一種の三乗根電圧と、付活元素Mのうちいずれか一種の三乗根電圧との関係で示される同期分布図において、
その誤差の絶対偏差値が0.4以下であることを特徴とする蛍光体原料。
【0023】
[8] [4]ないし[7]のいずれかにおいて、合金であることを特徴とする蛍光体原料。
【0024】
[9] 付活元素Mの1種以上と、付活元素M以外の金属元素の1種以上とを含有する合金よりなる蛍光体原料であって、
パーティクルアナライザーによる分析によって得られる付活元素Mのうちいずれか一種の三乗根電圧と、付活元素M以外の金属元素のいずれか一種の三乗根電圧との関係で示される同期分布図において、
その誤差の絶対偏差値が0.4以下であることを特徴とする蛍光体原料。
【0025】
[10] [9]において、少なくともSiを含む4価の金属元素Mを含むことを特徴とする蛍光体原料。
【0026】
[11] [1]ないし[10]のいずれかにおいて、付活元素M、2価の金属元素M、及び少なくともSiを含む4価の金属元素Mを含む合金であることを特徴とする蛍光体原料。
【0027】
[12] [11]において、2価の金属元素Mとして、アルカリ土類金属元素を含む合金であることを特徴とする蛍光体原料。
【0028】
[13] [11]又は[12]において、更に3価の金属元素Mを含む合金であることを特徴とする蛍光体原料。
【0029】
[14] [11]ないし[13]のいずれかにおいて、付活元素MがCr、Mn、Fe、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、及びYbからなる群から選ばれる1種以上の元素であることを特徴とする蛍光体原料。
【0030】
[15] [13]又は[14]において、2価の金属元素MがMg、Ca、Sr、Ba、及びZnからなる群から選ばれる1種以上の元素であり、
3価の金属元素MがAl、Ga、In、及びScからなる群から選ばれる1種以上の元素であり、
4価の金属元素Mが少なくともSiを含み、必要に応じてGe、Sn、Ti、Zr、及びHfからなる群から選ばれる1種以上の元素を含むことを特徴とする蛍光体原料。
【0031】
[16] [15]において、
2価の金属元素Mの50モル%以上がCa及び/又はSrであり、
3価の金属元素Mの50モル%以上がAlであり、
少なくともSiを含む4価の金属元素Mの50モル%以上がSiであることを特徴とする蛍光体原料。
【0032】
[17] [15]又は[16]において、
付活元素MとしてEuを、
2価の金属元素MとしてCa及び/又はSrを、
3価の金属元素MとしてAlを、
少なくともSiを含む4価の金属元素MとしてSiを含むことを特徴とする蛍光体原料。
【0033】
[18] 少なくともSiを含む4価の金属元素Mと、2価の金属元素Mとしてアルカリ土類金属元素の1種以上とを含む蛍光体原料用合金の製造方法であって、
Si及び/又はSiを含む合金を融解させた後、アルカリ土類金属を融解させることを特徴とする蛍光体原料用合金の製造方法。
【0034】
[19] [18]において、高周波誘導加熱法により、Si及び/又はSiを含む合金とアルカリ土類金属とを融解させることを特徴とする蛍光体原料用合金の製造方法。
【発明の効果】
【0035】
本発明によると、不純物の混入が少なく、高特性の蛍光体を得ることができる蛍光体原料が提供される。本発明の蛍光体原料を用いて蛍光体を製造すると、輝度等の発光特性に優れた蛍光体を低コストで製造することが可能となる。
また、本発明によると、Siとアルカリ土類金属元素とを含む蛍光体原料用合金を工業的に製造することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0037】
[蛍光体原料]
本発明の蛍光体原料は、蛍光体の原料となり得るものであれば特に制限はないが、目的とする蛍光体の構成元素の2種類以上を含むものであり、各構成元素が均一に分布していることを特徴とする。
【0038】
本発明の蛍光体原料としては、具体的には、共沈材料、合金等が挙げられる。中でも、各構成元素がより均一に分布していて、かつ純度が高いことから、合金であることが好ましい。なお、共沈原料と合金とを併用してもよい。なお、以下において、合金である本発明の蛍光体原料を「蛍光体原料用合金」と称する場合がある。
【0039】
前記合金とは、目的とする蛍光体の構成元素の2種類以上を含む合金であればよい。
【0040】
前記共沈原料とは、蛍光体の原料となる化合物(例えば、酸化物、水酸化物、硫化物、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩等が挙げられる。以下、「原料化合物」と称する場合がある。)を共沈したものであり、蛍光体構成元素の一部又は全部が原子レベルで混合されているものである。通常、共沈は、それぞれ異なる蛍光体構成元素を含む原料化合物を組み合わせて行ない、得られる共沈原料は、蛍光体構成元素を2種以上含有する。
【0041】
本発明の蛍光体原料の構成元素は、目的とする蛍光体の構成元素の2種類以上を含むものであれば特に制限はないが、付活元素Mを含有することが好ましい。付活元素M以外の元素としては、2価の金属元素Mや、少なくともSiを含む4価の金属元素Mを含んでいてもよく、さらに3価の金属元素Mを含んでいてもよい。
なお、付活元素M、2価の金属元素M、3価の金属元素M、及び少なくともSiを含む4価の金属元素Mの好ましい元素は、後述の[蛍光体原料用合金]に記載のものと同様である。
【0042】
また、本発明の蛍光体原料は、各構成元素が均一に分布していることを特徴とする。従って、本発明の蛍光体原料を使用すると、不純物が少なく、蛍光体の構成元素が均一に分布する蛍光体を得ることができることから、発光強度等の発光特性に優れる蛍光体を製造することができる。特に、付活元素Mは、分子量が大きく、原料中の含有量が少ないために、蛍光体及び/又は蛍光体原料中に均一に分布させることが難しかったが、本発明の蛍光体原料は、付活元素Mをも均一に分布している原料である。付活元素Mは、蛍光体中で発光中心イオンとして蛍光体の発光に寄与するため、付活元素Mが均一に分布した蛍光体原料を用いることは発光特性の向上のために特に重要なことである。
【0043】
蛍光体原料の各構成元素の分布の均一性については、例えば、パーティクルアナライザー(堀場製作所製、DP−1000)を用いて分析することができる。
本発明の蛍光体原料及び蛍光体原料用合金をパーティクルアナライザーで分析した場合、以下のような分析結果を有することが好ましい。
【0044】
(1)蛍光体原料が、少なくともSiを含む4価の金属元素M(以下、単に「金属元素M」と称する場合がある。)と、金属元素M以外の金属元素の1種以上とを含有する場合;
パーティクルアナライザーによる分析によって得られる、金属元素Mのうちいずれか一種の三乗根電圧と、金属元素M以外の金属元素のいずれか一種の三乗根電圧との関係で示される同期分布図において、その誤差の絶対偏差値が、通常0.19以下、好ましくは0.17以下、より好ましくは0.15以下、更に好ましくは、0.13以下である。
ここで、金属元素M以外の金属元素としては、付活元素M、2価の金属元素M、及び3価の金属元素Mからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましく、付活元素M、及び2価の金属元素Mからなる群から選ばれる1種以上であることがより好ましい。
【0045】
(2)蛍光体原料が、金属元素Mと、付活元素Mの1種以上とを含有する場合;
パーティクルアナライザーによる分析によって得られる金属元素Mのうちいずれか一種の三乗根電圧と、付活元素Mのうちいずれか一種の三乗根電圧との関係で示される同期分布図において、その誤差の絶対偏差値が通常0.4以下、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下、更に好ましくは、0.15以下である。
ここで、金属元素M及び付活元素M以外に蛍光体原料に含まれる元素としては、2価の金属元素M、及び3価の金属元素Mからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましく、2価の金属元素Mであることがより好ましい。
【0046】
(3)蛍光体原料が、付活元素Mの1種以上と、付活元素M以外の金属元素の1種以上とを含有する合金である場合;
パーティクルアナライザーによる分析によって得られる付活元素Mのうちいずれか一種の三乗根電圧と、付活元素M以外の金属元素のいずれか一種の三乗根電圧との関係で示される同期分布図において、その誤差の絶対偏差値が通常0.4以下、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下、更に好ましくは0.15以下である。
ここで、付活元素M以外に蛍光体原料に含まれる元素としては、2価の金属元素M、3価の金属元素M、及び金属元素Mからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましく、2価の金属元素M、及び金属元素Mからなる群から選ばれる1種以上であることがより好ましく、金属元素Mであることがさらに好ましい。
【0047】
詳細には後述するが、前記(1)〜(3)において、誤差の絶対偏差値が0に近いほど、蛍光体原料が均一であることを示し、発光特性の高い蛍光体が得られる傾向にあるため好ましい。また、誤差の絶対偏差値は、通常、0.01以上である。
【0048】
パーティクルアナライザーの原理について以下に説明する。
個々のサンプル粒子の質量を直接測定することは困難であるため、パーティクルアナライザーでは、プラズマ中でサンプル粒子をイオン化することにより、励起して発光させ、その発光強度を測定している。
【0049】
具体的には、まず、粉末状のサンプルをフィルター上に捕集後、吸引し、ヘリウム(He)気流に乗せてHeプラズマへと導入する。Heプラズマ中に導入されたサンプル粒子は、励起されてそれぞれの元素特有の波長で発光現象を示す。この発光現象における発光強度が光電子増倍管の検出電圧としてそれぞれの元素ごとに検出器で測定される。
ここで、測定された発光強度は本来、各粒子中に含まれる元素の質量に関連するものである。パーティクルアナライザーでは、サンプル粒子を真球であると仮定して、発光強度の三乗根を算出することにより、サンプル粒子の粒径に相関する値(以下、「三乗根電圧(値)」と称する場合がある。)を出力し、この値を用いて粉末状のサンプルに関する情報を得ている。測定対象とした2種以上の元素が同一粒子内に含まれているか否かは、それぞれの元素の発光現象が同時に起きたか否かで判断することができる。
【0050】
以下、パーティクルアナライザーの原理について、Sr、Ca、Al、Si、及びEuを含有する蛍光体原料用合金(以下、「合金A」と称する場合がある。)を例に説明する。
合金Aについてパーティクルアナライザーで分析すると、Sr原子、Ca原子、Al原子、Si原子、Eu原子それぞれの発光強度(ここで、発光強度は質量に比例する。)が、光電子増倍管の検出電圧として測定される。前記の三乗根電圧は、測定された検出電圧(発光強度)の三乗根として求められるものであり、サンプル粒子の粒径に相関するものである。
【0051】
図1(a)は、Si原子による三乗根電圧(横軸)とEu原子による三乗根電圧(縦軸)との関係により示される同期分布図である。図1(a)で、一つのデータの点(○)は、合金粒子1個を表している。図1(a)に示される同期分布図において、横軸(x軸)、及び縦軸(y軸)には、三乗根電圧が0V〜10Vの範囲である粒子のデータが表示される。即ち、横軸(x軸)上に表示されるデータの分布は、遊離Si粒子群、あるいはEuが検出下限以下である粒子群のデータを表示するものである。一方、縦軸(y軸)上に表示されるデータの分布は、遊離Eu粒子群、あるいはSiが検出下限以下である粒子群のデータを表示するものである。また、横軸(x軸)成分と縦軸(y軸)成分を共に有する各データの分布は、Si原子とEu原子とが同時に発光した(以下、「同期した」と称する場合がある。)蛍光体原料用合金粒子群のデータである。
なお、通常の場合、バッグラウンドの測定を行い、装置ノイズの影響を無くするためにノイズカットレベルを設定する。
【0052】
また、解析には軸上に分布するデータを除く、ほぼ全てのデータを選択して用いる。同期した粒子群の傾きを、選択された各データについて最小二乗法を用いて計算し、近似直線が同期分布図の原点を通る直線として求められる。また、近似直線の傾きも求められるが、この傾きは同期した2元素の重量濃度比(例えば、Si原子とEu原子とが同期した場合は、Si/Euで表される。)と関係する。
【0053】
各データの点(同期分布図中では、「○」で表示している。)から近似直線上に下ろした垂線の長さをdとし、また、近似直線と垂線の交点からx軸へ下ろした垂線の高さをHとする。各々のデータの誤差(x)は下記式[A]で算出される。
誤差(x)=d/H …[A]
ここで、正側の誤差は正の値、負側の誤差は負の値を取る。
本発明における誤差の絶対偏差値は、下記式[B]で求めることができる。なお、誤差の算出において、軸上のデータは計算されない。
【0054】
【数1】

【0055】
誤差の絶対偏差値は、誤差のヒストグラム(図1(b))に表示される。誤差の絶対偏差値とは、同期したデータの分散(バラツキ)の大きさを数値化できるものであり、誤差の絶対偏差値が大きいほど、同期した粒子群の中で、一方の元素に対するもう一方の元素比(例えば、Siに対するEuの元素比を示す。なお、ここで言う元素比とは、各元素の重量濃度比に関係する。)の分散(バラツキ)が大きいことを示す。一方、上記の絶対偏差が0に近似される場合には、各元素の、同期粒子群に対する元素比が完全に均一である(例えば、EuとSiとが同期した粒子群の場合は、Eu及びSiの同期粒子群に対する元素比が均一である)ことを示す。従って、本発明の蛍光体原料の誤差の絶対偏差値は、小さいほど好ましい。
【0056】
[蛍光体原料用合金]
本発明の蛍光体原料用合金は、次のような元素を均一に含むものである。
【0057】
(i) 少なくともSiを含む4価の金属元素Mと、Si以外の金属元素の1種以上とを含む。好ましくは、前記Si以外の金属元素が、付活元素M、2価の金属元素M、及び3価の金属元素Mからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは少なくとも付活元素Mを含有する。
【0058】
(ii) 付活元素Mの1種以上と、付活元素M以外の金属元素の1種以上とを含有する。好ましくは、付活元素M以外の金属元素の1種以上として、少なくともSiを含む4価の金属元素Mを含む。
【0059】
上記(i)、(ii)において、本発明の蛍光体原料用合金は、付活元素M、2価の金属元素M、及び少なくともSiを含む4価の金属元素Mを含むことができ、2価の金属元素Mとしては、アルカリ土類金属元素が好ましい。更に3価の金属元素Mを含んでいてもよい。付活元素MはCr、Mn、Fe、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、及びYbからなる群から選ばれる1種以上の元素であることが好ましい。
【0060】
より好ましくは、本発明の蛍光体原料用合金は、2価の金属元素MがMg、Ca、Sr、Ba、及びZnからなる群から選ばれる1種以上の元素であり、3価の金属元素MがAl、Ga、In、及びScからなる群から選ばれる1種以上の元素であり、4価の金属元素MがSi、Ge、Sn、Ti、Zr、及びHfからなる群から選ばれる1種以上の元素であるものである。更に好ましくは、2価の金属元素Mの50モル%以上がCa及び/又はSrであり、3価の金属元素Mの50モル%以上がAlであり、4価の金属元素Mの50モル%以上がSiであるものである。最も好ましくは、付活元素MとしてEuを、2価の金属元素MとしてCa及び/又はSrを、3価の金属元素MとしてAlを、4価の金属元素MとしてSiを含むものである。
【0061】
以下に、本発明の蛍光体原料用合金の好適な態様について説明する。
【0062】
本発明の蛍光体原料用合金において、少なくともSiを含む4価の金属元素M以外の金属元素としては、アルカリ土類金属元素が好ましく、これにより、Siとアルカリ土類金属元素とを含む(Sr,Ca)Si、CaSiAlN等を母体とする工業的に有用な赤色ないし黄色発光蛍光体を製造することが可能となる。
【0063】
本発明の蛍光体原料用合金は、特に、付活元素M、2価の金属元素M、3価の金属元素M、及び少なくともSiを含む4価の金属元素Mを含み、下記一般式[1]で表されることが好ましい。このような蛍光体原料用合金は、下記一般式[2]で表される複合窒化物蛍光体の製造に好適である。
[1]
[2]
(但し、a、b、c、d、e、fはそれぞれ下記の範囲の値である。
0.00001≦a≦0.15
a+b=1
0.5≦c≦1.5
0.5≦d≦1.5
2.5≦e≦3.5
0≦f≦0.5 )
【0064】
付活元素Mとしては、複合窒化物蛍光体を構成する結晶母体に含有可能な各種の発光イオンを使用することができるが、Cr、Mn、Fe、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、及びYbよりなる群から選ばれる1種以上の元素を使用すると、発光特性の高い蛍光体を製造することが可能なので好ましい。また、付活元素Mとして少なくともEuを含むと高輝度の赤色発光を示す蛍光体を得ることができるので更に好ましい。また、輝度を上げることや蓄光性を付与するなど様々な機能を持たせるために、付活元素MとしてEu以外に共付活元素を1種又は複数種含有させても良い。
【0065】
付活元素M以外の元素としては、各種の2価、3価、4価の金属元素が使用可能であるが、2価の金属元素MがMg、Ca、Sr、Ba、及びZnよりなる群から選ばれる1種以上の元素、3価の金属元素MがAl、Ga、In、及びScよりなる群から選ばれる1種以上の元素、4価の金属元素MがSi、Ge、Sn、Ti、Zr、及びHfよりなる群から選ばれる1種以上の元素であることが、発光特性の高い蛍光体を得ることができるので好ましい。
【0066】
また、2価の金属元素Mの50モル%以上がCa及び/又はSrとなるように組成を調整すると発光特性の高い蛍光体が得られるので好ましい。2価の金属元素Mの80モル%以上をCa及び/又はSrとすることがより好ましく、90モル%以上をCa及び/又はSrとすることが更に好ましく、2価の金属元素Mの全てをCa及び/又はSrとするのが最も好ましい。
【0067】
また、3価の金属元素Mの50モル%以上がAlとなるように組成を調整すると発光特性の高い蛍光体が得られるので好ましい。3価の金属元素Mの80モル%以上をAlとすることが好ましく、90モル%以上をAlとすることがより好ましく、3価の金属元素Mの全てをAlとすることが最も好ましい。
【0068】
また、4価の金属元素Mの50モル%以上がSiとなるように組成を調整すると発光特性の高い蛍光体が得られるので好ましい。少なくともSiを含む4価の金属元素Mの80モル%以上をSiとすることが好ましく、90モル%以上をSiとすることがより好ましく、少なくともSiを含む4価の金属元素Mの全てをSiとすることが好ましい。
【0069】
特に、2価の金属元素Mの50モル%以上がCa及び/又はSrであり、かつ、3価の金属元素Mの50モル%以上がAlであり、かつ、少なくともSiを含む4価の金属元素Mの50モル%以上がSiとなるようにすることにより、発光特性が特に高い蛍光体が製造できるので好ましい。
【0070】
また、前記一般式[1]、[2]におけるa〜fの数値範囲の好適理由は次の通りである。
【0071】
aが0.00001より小さいと十分な発光強度が得られないことがある。aが0.15より大きいと濃度消光が大きくなって発光強度が低くなる傾向がある。従って、通常、aが0.00001≦a≦0.15の範囲となるように原料を混合する。同様の理由で、0.0001≦a≦0.1とすることが好ましく、0.001≦a≦0.05とすることがより好ましく、0.005≦a≦0.04とすることがさらに好ましく、0.008≦a≦0.02とすることが最も好ましい。
【0072】
aとbの合計は、蛍光体の結晶母体中において付活元素Mが金属元素Mの原子位置を置換するので、1となるように原料混合組成を調整する。
【0073】
cが0.5より小さいと蛍光体の製造時の収率が低くなる傾向にある。一方、cが1.5より大きい場合にも前記蛍光体の収率が低くなる傾向にある。従って、通常、cが0.5≦c≦1.5の範囲となるように原料を混合する。発光強度の観点からも0.5≦c≦1.5とすることが好ましく、0.6≦c≦1.4とすることがより好ましく、0.8≦c≦1.2とすることが最も好ましい。
【0074】
dが0.5より小さいと蛍光体の製造時の収率が低くなる傾向にある。一方、dが1.5より大きい場合にも前記蛍光体の収率が低くなる傾向にある。従って、通常、dが0.5≦d≦1.5の範囲となるように原料を混合する。また、発光強度の観点からも0.5≦d≦1.5とすることが好ましく、0.6≦d≦1.4とすることがより好ましく、0.8≦d≦1.2とすることが最も好ましい。
【0075】
前記一般式[2]で表される蛍光体組成において、窒素の含有量を示すeが2.5未満であると蛍光体の収率が低下する傾向にある。また、eが3.5を超えても蛍光体の収率が低下する傾向にある。従って、eは通常2.5≦e≦3.5である。
【0076】
この理由は以下の通りである。
即ち、eは窒素の含有量を示す係数であり、MIIIIIIVを基本結晶構造とすれば
【数2】

となる(但しII,III,IVは価数を示す。)。この式に0.5≦c≦1.5,0.5≦d≦1.5を代入すれば、
1.84≦e≦4.17
となるが、2.5≦e≦3.5の範囲外では蛍光体の収率が低下する傾向にある。
【0077】
前記一般式[2]で表される蛍光体中の酸素は、原料金属中の不純物として混入する場合、粉砕工程、窒化工程などの製造プロセス時に導入される場合などが考えられる。酸素の割合であるfは蛍光体の発光特性低下が容認できる範囲で0≦f≦0.5であることが好ましい。
【0078】
また、本発明の蛍光体原料用合金がFe、Ni、及びCoからなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する場合、各々の元素の含有量は、通常500ppm以下、好ましくは100ppm以下である。
【0079】
合金の組成の具体例として、EuSrCaAlSi合金、EuSrAlSi合金、EuCaAlSi合金、EuSrMgAlSi合金、EuCaMgAlSi合金、EuCaSi合金、EuSrCaSi合金、EuSrSi合金、EuSrGa合金等が挙げられ、より具体的にはEu0.008Sr0.792Ca0.2AlSi、Eu0.008Sr0.892Ca0.1AlSi、Eu0.008Sr0.692Ca0.3AlSi、Eu0.008Ca0.892Mg0.1AlSi、Eu0.006Sr0.494Ca0.5AlSi、Eu0.04Sr1.96Si5、Eu0.01Sr1.99Ga等が挙げられる。
【0080】
ただし、本発明の蛍光体原料用合金は、上述の複合酸窒化物蛍光体の原料に限らず、複合窒化物蛍光体、複合酸化物蛍光体、複合硫化物蛍光体等の原料にも用いることができる。
【0081】
また、本発明の蛍光体原料用合金は、粉末状であっても大気中で取り扱いが可能であり、従来の金属窒化物を含む蛍光体原料と比較して格段に取り扱い性が向上している。従って、本発明の蛍光体原料用合金の形状に制限はなく、その形状としては板状、粉末状、ビーズ状、リボン状、塊状等が挙げられる。
【0082】
このような本発明の蛍光体原料用合金の製造方法については特に制限はないが、本発明の蛍光体原料用合金は、特に後述の本発明の蛍光体原料用合金の製造方法で製造されたものであることが好ましい。
【0083】
[蛍光体原料用合金の製造]
本発明の蛍光体原料用合金の製造方法は、少なくともSiを含む4価の金属元素Mと、2価の金属元素Mとしてアルカリ土類金属元素の1種以上とを含む蛍光体原料用合金を製造する場合に特に適している製造方法である。
例えば、前述の一般式[1]の組成となるように、原料となる金属やその合金を秤量し、これを融解させて合金化するものであるが、その際に、高融点(高沸点)のSi及び/又はSiを含む合金を融解させた後、低融点(低沸点)のアルカリ土類金属を融解させることを特徴とする。
【0084】
〈原料金属の純度〉
合金の製造に使用する金属の純度は、合成される蛍光体の発光特性の点から、付活元素Mの金属原料としては不純物が0.1モル%以下、好ましくは0.01モル%以下まで精製された金属を使用することが好ましい。付活元素MとしてEuを使用する場合には、Eu原料としてEu金属を使用することが好ましい。付活元素M以外の元素の原料としては、2価、3価、4価の各種金属等を使用する。付活元素Mと同様の理由から、いずれも含有される不純物濃度は0.1モル%以下であることが好ましく、0.01モル%以下であることがより好ましい。例えば、不純物としてFe、Ni、及びCoからなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する場合、各々の元素の含有量は、通常500ppm以下、好ましくは100ppm以下である。
【0085】
〈原料金属の形状〉
原料金属の形状に制限は無いが、通常、直径数mmから数十mmの粒状又は塊状のものが用いられる。
2価の金属元素Mとしてアルカリ土類金属元素を用いる場合、その原料としては、粒状、塊状など形状は問わないが、原料の化学的性質に応じて適切な形状を選択するのが好ましい。例えば、Caは粒状、塊状のいずれでも大気中で安定であり、使用可能であるが、Srは化学的により活性であるため、塊状の原料を用いることが好ましい。
【0086】
〈原料金属の融解〉
原料金属を融解する方法に特に制限はなく、例えば、以下のようにして原料金属の秤量、融解を行う。
原料金属の秤量にあたっては、融解時に揮発やルツボ材質との反応等により損失する金属元素については、必要に応じて、予め過剰に秤量し添加してもよい。
原料金属の融解にあたっては、特に、Siと2価の金属元素Mとしてアルカリ土類金属元素を含む蛍光体原料用合金を製造する場合、以下の問題点があるため、高融点(高沸点)のSi金属及び/又はSiを含む合金を融解させた後、低融点(低沸点)のアルカリ土類金属を融解させることが好ましい。
【0087】
Siの融点は1410℃であり、アルカリ土類金属の沸点と同程度である(例えば、Caの沸点は1494℃、Srの沸点は1350℃、Baの沸点は1537℃である)。特に、Srの沸点がSiの融点より低いため、SrとSiを同時に融解させることは極めて困難である。
【0088】
これに対して、Si金属を先に融解させて好ましくは母合金を製造し、次いでアルカリ土類金属を融解することによって、この問題点を解決することができる。
さらに、このようにSi金属を融解した後にアルカリ土類金属の融解を行うことにより、得られる合金の純度が向上し、それを原料とする蛍光体の特性が著しく向上するという効果も奏される。
【0089】
本発明における原料金属の融解法については、特に制限はないが、通常、抵抗加熱法、電子ビーム法、アーク融解法、高周波誘導加熱法(以下、「高周波融解法」と称する場合がある。)等を用いることができる。中でも、アーク融解法、高周波融解法を用いることが好ましく、製造コストを考えると高周波融解法を用いることが特に好ましい。
以下、(1)アーク融解法・電子ビーム法の場合、(2)高周波融解法の場合を例に更に詳しく説明する。
【0090】
(1)アーク融解法・電子ビーム融解法の場合
アーク融解・電子ビーム融解の場合は、以下の手順で融解を行う。
i)Si金属又はSiを含む合金を電子ビームあるいはアーク放電により融解する。
ii)次いで間接加熱によりアルカリ土類金属を融解し、Siとアルカリ土類金属とを含む合金を得る。
ここで、Siを含む溶湯にアルカリ土類金属が溶け込んだ後、電子ビームあるいはアーク放電により加熱・攪拌して混合を促進しても良い。
【0091】
(2)高周波融解法の場合
アルカリ土類金属元素を含む合金は酸素との反応性が高いため、大気中ではなく真空あるいは不活性ガス中で融解する必要がある。このような条件では通常、高周波融解法が好ましい。しかしながら、Siは半導体であり、高周波を用いた誘導加熱による融解が困難である。例えば、アルミニウムの20℃における比抵抗率は2.8×10−8Ω・mであるのに対し、半導体用多結晶Siの比抵抗率は10Ω・m以上である。このように比抵抗率が大きいものを直接高周波融解することは困難であるため、一般に導電性のサセプタを用い、熱伝導や放射によりSiに熱移動を行って融解する。サセプタとしては、ディスク状、管状なども可能であるが坩堝を用いることが好ましい。サセプタの材質としては、黒鉛、モリブデン、炭化珪素などが一般に用いられるが、これらはアルカリ土類金属と反応しやすいという問題点がある。一方、アルカリ土類金属を融解可能な坩堝(アルミナ、カルシアなど)は絶縁体であり、サセプタとして使用することが難しい。従って、アルカリ土類金属とSi金属とを坩堝に仕込んで高周波融解するにあたり、公知の導電性の坩堝(黒鉛など)をサセプタとして使用して、間接的な加熱によりSi金属とアルカリ土類金属とを同時に融解することは困難である。そこで、次のような順序で融解することで、この問題点を解決する。
i)Si金属を導電性の坩堝を使用して間接加熱により融解する。
ii)次に、絶縁性の坩堝を使用して、アルカリ土類金属を融解することにより、Siとアルカリ土類金属元素とを含む合金を得る。
【0092】
上記i)、ii)の工程の間でSi金属を冷却しても良いし、冷却せず連続してアルカリ土類金属を融解しても良い。連続して行う場合には導電性の容器にアルカリ土類金属の融解に適したカルシア、アルミナなどで被覆した坩堝を使用することもできる。
【0093】
更に具体的な工程を記述すると、以下の通りである。
i)Si金属と金属M(例えばAl、Ga)を導電性の坩堝を使用して間接加熱により融解し、導電性の合金(母合金)を得る。
ii)次いで、アルカリ土類金属耐性坩堝を使用して、i)の母合金を融解させた後、アルカリ土類金属を高周波により融解させることにより、Siとアルカリ土類金属元素とを含む合金を得る。
【0094】
Si金属あるいはSiを含む母合金を先に融解させ、次いでアルカリ土類金属を融解させる具体的方法としては、例えば、Si金属あるいはSiを含む母合金を先に融解させ、そこにアルカリ土類金属を添加する方法等が挙げられる。
【0095】
また、Siを2価の金属元素M以外の金属Mと合金化して導電性を付与することもできる。この場合、得られる合金の融点がSiより低いことが好ましい。SiとAlの合金は、融点が1010℃付近と、アルカリ土類金属元素の沸点より融点が低くなるので特に好ましい。
Siと2価の金属元素M以外の金属Mとの母合金を用いる場合、その組成には特に制限はないが、母合金が導電性を有していることが好ましい。この場合、Siと金属Mとの混合割合(モル比)は、Siのモル数を1とした場合に、金属Mが、通常0.01以上、5以下の範囲となるようにして、アルカリ土類金属元素の沸点よりも融点の低い母合金を製造することが好ましい。
なお、Siを含む母合金に、さらにSi金属を加えることもできる。
【0096】
本発明において、Si金属を融解させた後にアルカリ土類金属を融解させること以外に、他の原料金属の融解時期には特に制限はないが、通常、量が多いもの、もしくは、融点が高いものを先に融解させる。
付活元素Mを均一に分散させるため、また、付活元素Mの添加量は少量であるため、Si金属を融解させた後に付活元素Mの原料金属を融解させることが好ましい。
【0097】
前述の一般式[1]で表され、少なくともSiを含む4価の金属元素MがSiであり、2価の金属元素Mとして少なくともSrを含む蛍光体原料用合金を製造する場合、次のような手順で融解させることが好ましい。
(1) Siと3価の金属元素Mとの母合金を製造する。この際、好ましくはSiと3価の金属元素Mとは、一般式[1]におけるSi:M比で合金化する。
(2) (1)の母合金を融解させた後、Srを融解させる。
(3) その後、Sr以外の2価の金属元素、付活元素Mを融解させる。
【0098】
このような原料金属の融解時の雰囲気としては、不活性雰囲気が好ましく、中でもArが好ましい。
【0099】
また、圧力は、通常、1×10Pa以上1×10Pa以下の範囲であることが好ましく、安全性の面から、大気圧以下で行うことが望ましい。
【0100】
〈溶湯の鋳造〉
原料金属の融解により製造された合金溶湯から直接窒素含有合金を製造することもできるが、原料金属の融解により製造された合金溶湯を金型に注入して成型する鋳造工程を経て、凝固体(合金塊)を得ることが好ましい。ただし、この鋳造工程において溶融金属の冷却速度によって偏析が生じ、溶融状態で均一組成であったものが組成分布に偏りが生じることもある。従って、冷却速度はできるだけ速いことが望ましい。また、金型は銅などの熱伝導性のよい材料を使用することが好ましく、熱が放散しやすい形状であることが好ましい。また、必要に応じて水冷などの手段により金型を冷却する工夫をすることも好ましい。
【0101】
このような工夫により、例えば厚さに対して底面積の大きい金型を用い、溶湯を金型へ注湯後、できるだけ早く凝固させることが好ましい。
【0102】
また、合金の組成によって偏析の程度は異なるので必要な分析手段、例えばICP発光分光分析法などによって、得られた凝固体の数箇所より試料を採取して組成分析を行い、偏析の防止に必要な冷却速度を定めることが好ましい。
【0103】
このような鋳造時の雰囲気は、不活性雰囲気が好ましく、中でもArが好ましい。
【0104】
〈鋳塊の粉砕〉
鋳造工程で得られた合金塊は次いで粉砕することにより、所望の粒径、粒度分布を有する合金粉末を調製することができる。粉砕方法としては、乾式法や、エチレングリコール、ヘキサン、アセトン等の有機溶媒を用いる湿式法で行うことが可能である。以下、乾式法を例に詳しく説明する。
この粉砕工程は、必要に応じて、粗粉砕工程、中粉砕工程、微粉砕工程等の複数の工程に分けてもよい。この場合、全粉砕工程を同じ装置を用いて粉砕することもできるが、工程によって使用する装置を変えてもよい。
【0105】
ここで、粗粉砕工程とは、合金粉末のおおよそ90重量%が粒径1cm以下になるように粉砕する工程であり、ジョークラッシャー、ジャイレトリークラッシャー、クラッシングロール、インパクトクラッシャーなどの粉砕装置を使用することができる。中粉砕工程とは、合金粉末のおおよそ90重量%が粒径1mm以下になるように粉砕する工程であり、コーンクラッシャー、クラッシングロール、ハンマーミル、ディスクミルなどの粉砕装置を使用することができる。微粉砕工程とは、合金粉末が後述する重量メジアン径になるように粉砕する工程であり、ボールミル、チューブミル、ロッドミル、ローラーミル、スタンプミル、エッジランナー、振動ミル、ジェットミルなどの粉砕装置を使用することができる。
【0106】
中でも、不純物の混入を防止する観点から、最終の粉砕工程においては、ジェットミルを使用することが好ましい。ジェットミルを用いるためには、粒径2mm以下程度になるまで予め合金塊を粉砕しておくことが好ましい。ジェットミルでは、主に、ノズル元圧から大気圧に噴射される流体の膨張エネルギーを利用して粒子の粉砕を行うため、粉砕圧力により粒径を制御すること、不純物の混入を防止することが可能である。粉砕圧力は、装置によっても異なるが、通常、ゲージ圧で0.01MPa以上、2MPa以下の範囲であり、中でも、0.05MPa以上、0.4MPa未満が好ましく、0.1MPa以上、0.3MPa以下がさらに好ましい。
【0107】
いずれの場合も粉砕工程中に鉄等の不純物の混入が起こらないよう、粉砕機の材質と被粉砕物の関係を適切に選択する必要がある。例えば、接粉部は、セラミックライニングが施されていることが好ましく、セラミックの中でも、アルミナ、窒化ケイ素、タングステンカーバイド、ジルコニア等が好ましい。
【0108】
また、合金粉末の酸化を防ぐため、粉砕工程は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、不活性ガス雰囲気中の酸素濃度は10%以下、特に5%以下が好ましい。また、酸素濃度の下限としては、通常、10ppm程度である。特定の範囲の酸素濃度とすることによって、粉砕中に合金の表面に酸化被膜が形成され、安定化すると考えられる。酸素濃度が5%より高い雰囲気中で粉砕工程を行う場合、粉砕中に粉塵が爆発する恐れがあるため、粉塵を生じさせないような設備が必要である。不活性ガスの種類に特に制限はないが、通常、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの気体のうち1種単独雰囲気又は2種以上の混合雰囲気が用いられ、経済性の観点から窒素が特に好ましい。
また、粉砕中に合金粉末の温度が上がらないように必要に応じて冷却してもよい。
【0109】
〈合金粉末の分級〉
粉砕工程で粉砕された合金粉末は、バイブレーティングスクリーン、シフターなどの網目を使用した篩い分け装置、エアセパレータ等の慣性分級装置、サイクロン等の遠心分離機を使用して、後述の所望の重量メジアン径D50及び粒度分布に調整される。
粒度分布の調整においては、粗粒子を分級し、粉砕機にリサイクルすることが好ましく、分級及び/又はリサイクルが連続的であることがさらに好ましい。
【0110】
この分級工程についても、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、不活性ガス雰囲気中の酸素濃度は10%以下、特に5%以下が好ましい。不活性ガスの種類に特に制限はないが、通常、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの1種単独雰囲気又は2種以上の混合雰囲気が用いられ、経済性の観点から窒素が特に好ましい。
【0111】
後述の一次窒化工程前の合金粉末は、当該合金粉末を構成する金属元素の活性度により粒径を調整する必要があり、その重量メジアン径D50は、通常の場合、100μm以下、好ましくは80μm以下、特に好ましくは60μm以下、また、0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、特に好ましくは1μm以上である。また、Srを含有する場合は、雰囲気ガスとの反応性が高いため、合金粉末の重量メジアン径D50は、通常5μm以上、好ましくは8μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは13μm以上とすることが望ましい。前述の重量メジアン径D50の範囲よりも小さいと、窒化等の反応時の発熱速度が大きくなり、反応の制御が困難となる場合がある。一方で前述の重量メジアン径D50の範囲よりも大きいと、合金粒子内部での窒化等の反応が不十分となる場合がある。
【0112】
[蛍光体の製造]
本発明の蛍光体原料を用いた蛍光体の製造方法には特に制限はなく、蛍光体原料の組成や種類、あるいは目的とする蛍光体に合わせて適宜選択すればよい。
【0113】
以下、蛍光体原料用合金を用いる場合の蛍光体の製造方法について説明する。
【0114】
本発明の蛍光体原料用合金、或いは本発明の蛍光体原料用合金の製造方法により得られた蛍光体原料用合金を用いて、蛍光体を製造する方法には特に制限はなく、酸化物、硫化物、窒化物など蛍光体の種類に応じて反応条件が設定されるが、以下に窒化反応を例にとって説明する。
【0115】
合金の窒化処理は例えば以下の様にして行われる。
即ち、まず、窒化処理原料である合金塊或いは合金粉をるつぼ、或いはトレイに充填する。ここで使用するるつぼ或いはトレイの材質としては、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウム、タングステン、モリブデン等が挙げられるが、窒化ホウ素が耐食性に優れることから好ましい。
【0116】
この合金を充填したるつぼ或いはトレイを、雰囲気制御が可能な加熱炉に納めた後、窒素を含むガスを流通して系内を十分にこの窒素含有ガスで置換する。必要に応じて、系内を真空排気した後、窒素含有ガスを流通しても良い。
【0117】
窒化処理の際に使用する窒素含有ガスとしては、窒素を含むガス、例えば窒素、アンモニア、或いは窒素と水素の混合気体等が挙げられる。系内の酸素濃度は製造される蛍光体の酸素含有量に影響し、余り高い含有量となると高い発光が得られなくなるため、窒化処理雰囲気中の酸素濃度は、低いほど好ましく、通常1000ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下とする。また、必要に応じて、炭素、モリブデン等の酸素ゲッター剤を系内加熱部分に入れて、酸素濃度を低下させても良い。
【0118】
窒化処理は、窒素含有ガスを充填した状態或いは流通させた状態で加熱することにより行うが、その圧力は大気圧よりも幾分減圧、大気圧或いは加圧の何れの状態でも良い。大気中の酸素の混入を防ぐためには大気圧以上とするのが好ましい。大気圧未満にすると加熱炉の密閉性が悪い場合には多量の酸素が混入して特性の高い蛍光体を得ることができない。窒素含有ガスの圧力は少なくともゲージ圧で0.2MPa以上が好ましく、10MPaから180MPaが最も好ましい。
【0119】
合金の加熱は、通常800℃以上、好ましくは1000℃以上、更に好ましくは1200℃以上で、通常2200℃以下、好ましくは2100℃以下、更に好ましくは2000℃以下の温度で実施する。加熱温度が800℃より低いと、窒化処理に要する時間が非常に長くなり好ましくない。一方、加熱温度が2200℃より高いと、生成する窒化物が揮発或いは分解し、得られる窒化物蛍光体の化学組成がずれて、特性の高い蛍光体が得られず、また、再現性も悪いものとなる。
【0120】
窒化処理時の加熱時間(最高温度での保持時間)は、合金と窒素との反応に必要な時間で良いが、通常1分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上、更に好ましくは60分以上とする。加熱時間が1分より短いと窒化反応が完了せず特性の高い蛍光体が得られない。加熱時間の上限は生産効率の面から決定され、通常24時間以下である。
【0121】
また、本発明の蛍光体原料を用いた蛍光体の製造方法としては、以下の方法を用いてもよい。以下の方法は、特に、共沈材料を用いる場合に有効である。
【0122】
蛍光体の原料としては、目的とする蛍光体の組成に合わせて、本発明の蛍光体原料と共に、蛍光体を構成する各元素の窒化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、蓚酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物、硫化物等を適宜選択して用いることができる。
【0123】
蛍光体原料を秤量後、混合し(混合工程)、得られた混合物を所定の焼成条件で焼成し(焼成工程)、必要に応じて粉砕、洗浄、表面処理等を行なうことにより、蛍光体が製造される。なお、大気中で不安定な蛍光体原料を扱う場合には、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性気体を充填したグローブボックス内で秤量や混合等の操作を行なうことが好ましい。
【0124】
蛍光体原料を混合する手法は特に制限されないが、例としては、下記の(A)乾式法及び(B)湿式法の手法が挙げられる。
【0125】
(A)ハンマーミル、ロールミル、ボールミル、ジェットミル等の乾式粉砕機、又は、乳鉢と乳棒等を用いる粉砕と、リボンブレンダー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合機、又は、乳鉢と乳棒を用いる混合とを組み合わせ、前述の原料を粉砕混合する乾式混合法。
【0126】
(B)前述の原料に水、メタノール、エタノール等の溶媒又は分散媒を加え、粉砕機、乳鉢と乳棒、又は蒸発皿と撹拌棒等を用いて混合し、溶液又はスラリーの状態とした上で、噴霧乾燥、加熱乾燥、又は自然乾燥等により乾燥させる湿式混合法。
【0127】
焼成工程は通常、上述の混合工程により得られた混合物を、各蛍光体原料と反応性の低い材料からなるルツボ又はトレイ等の耐熱容器中に充填し、焼成することにより行なう。焼成時に用いる耐熱容器の材質としては、アルミナ、石英、窒化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化マグネシウム等のセラミックス、白金、モリブデン、タングステン、タンタル、ニオブ、イリジウム、ロジウム等の金属、或いは、それらを主成分とする合金、カーボン(グラファイト)等が挙げられる。ここで、石英製の耐熱容器は、比較的低温、すなわち、1200℃以下での熱処理に使用することができ、好ましい使用温度範囲は1000℃以下である。上述した耐熱容器の材質のうち、中でもアルミナ、金属が好ましい。
【0128】
焼成時の温度は、通常1000℃以上、好ましくは1200℃以上、また、通常1900℃以下、好ましくは1800℃以下の範囲である。焼成温度が低過ぎると発光特性が低下する場合があり、高過ぎると目的としている蛍光体が生成しない場合がある。
【0129】
焼成時の圧力は、焼成温度等によっても異なるため特に限定されないが、通常0.01MPa以上、好ましくは0.1MPa以上であり、また、通常200MPa以下、好ましくは100MPa以下が望ましい。
【0130】
焼成時間は、焼成時の温度や圧力等によっても異なるため特に制限されないが、通常10分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは4時間以上、また、通常24時間以下、好ましくは8時間以下、より好ましくは6時間以下である。焼成時間が短過ぎると生成反応が不十分となる場合があり、長過ぎると無駄な焼成エネルギーを費やし、製造コストが高くなる場合がある。
【0131】
焼成時の雰囲気は制限されないが、窒化物蛍光体を製造する場合は、通常は窒素ガス(N)雰囲気やアルゴンガス雰囲気等の不活性雰囲気が好ましい。また、酸化物蛍光体を製造する場合は、例えば、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素、水素、アルゴン等の気体のうち、何れか一種単独の雰囲気下、或いは、二種以上の混合雰囲気下で行なう。この中でも、一酸化炭素、水素等の還元性の気体を含むことが好ましく、特に、水素含有窒素雰囲気下が好ましい。
【0132】
焼成工程においては、良好な結晶を成長させる観点から、反応系にフラックスを共存させてもよい。
なお、焼成工程を一次焼成と二次焼成とに分割し、混合工程により得られた原料混合物をまず一次焼成した後、ボールミル等で再度粉砕してから二次焼成を行なってもよい。
【0133】
一次焼成の温度は、通常850℃以上、好ましくは1000℃以上、より好ましくは1050℃以上、また、通常1350℃以下、好ましくは1200℃以下、より好ましくは1150℃以下の範囲である。
【0134】
一次焼成の時間は、通常1時間以上、好ましくは2時間以上、より好ましくは4時間以上、また、通常24時間以下、好ましくは15時間以下、より好ましくは13時間以下の範囲である。
【0135】
なお、この場合の二次焼成の温度、時間等の条件は、基本的に上述した条件と同様であり、前記のフラックスは一次焼成の前に混合してもよいし、二次焼成の前に混合してもよい。また、雰囲気等の焼成条件も一次焼成と二次焼成で変更してもよい。
【0136】
上述の焼成工程の加熱処理後は、必要に応じて、洗浄、乾燥、粉砕、分級処理等がなされる。
粉砕処理には、原料の混合工程に使用できるとして列挙した粉砕機が使用できる。洗浄は、脱イオン水等の水、メタノール、エタノール等の有機溶剤、アンモニア水等のアルカリ性水溶液等で行なうことができる。分級処理は、篩分や水篩を行なう、或いは、各種の気流分級機や振動篩等各種の分級機を用いることにより行なうことができる。中でも、ナイロンメッシュによる乾式分級を用いると、重量メジアン径20μm程度の分散性の良い蛍光体を得ることができる。
【0137】
また、洗浄処理後に乾燥処理を行うことが好ましい。乾燥処理の方法に特に制限はないが、必要に応じて、蛍光体の性質に合わせて適宜乾燥処理方法を選択することが好ましい。
また、必要に応じて燐酸カルシウムやシリカによるコーティング等、表面処理を施してもよい。
【実施例】
【0138】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下において、粉末X線回折測定法、及びパーティクルアナライザー測定方法の詳細は次の通りである。
【0139】
[粉末X線回折測定]
測定装置:PANalytical社製 PW1700型
粉末X線回折測定条件:
X線源:Cu−Kα線(λ=1.54184Å)、
出力設定:40kV・30mA
測定時光学条件:発散スリット=1°
散乱スリット=1°
受光スリット=0.2mm
回折ピークの位置 2θ(回折角)
測定範囲:2θ=10〜89.95°
スキャン速度:0.05度(2θ)/sec,連続スキャン
試料調製:めのう乳鉢を用いて人力で粉砕し、試料成形治具(旧Philips社製
PW1001/00型)を使って成形
サンプルホルダー:PANalytical社製 PW1781/00型
試料部寸法
外径:53mm
内径:27mm
深さ:2.6mm
【0140】
[パーティクルアナライザー測定方法]
パーティクルアナライザー(HORIBA製作所製、DP−1000)を用いて測定を行った。具体的な測定条件等は以下の通りである。粉末状のサンプル(数mg程度)を、装置に付属の低流量サンプラーを用いてメンブランフィルター(孔径0.4μm)上に捕集した。次いで、捕集したサンプルを吸引してプラズマ中に導入し、各々の元素特有の発光波長で発光させ、その時の発光強度を検出電圧として測定し、その三乗根(即ち、前述の三乗根電圧)を求めた。得られた各元素の三乗根電圧のヒストグラムを以下、各元素の粒度分布図と称する。
なお、測定条件は以下の通りとした。
プラズマガス:0.1%酸素含有Heガス
ガス流量:260mL/min
【0141】
また、各々の元素の発光の検出波長、及びゲインは、以下の通りとした。
Al:検出波長は、308.217nm、Gainは、1.2とした。
Si:検出波長は、288.160nm、Gainは、1.0とした。
Eu:検出波長は、420.505nm、Gainは、1.0とした。
Ca:検出波長は、393.370nm、Gainは、0.6とした。
Sr:検出波長は、346.445nm、Gainは、0.8とした。
なお、測定は、1スキャン当たり基準となる元素(Si)の信号が得られる粒子の個数が1000粒子程度となるように行い、15スキャン行った。その中から、明らかに異常値と判定されるデータを省き、最低合計4000粒子以上のデータについて解析を行った。
【0142】
また、上記で得られた三乗根電圧について、以下の方法で解析を行った。サンプルである蛍光体原料の構成元素から適宜2種類を選択し、一方の元素の三乗根電圧(横軸)ともう一方の三乗根電圧(縦軸)との関係により示される同期分布図を作成した。解析には、軸上に分布するデータを除く、ほぼ全てのデータを選択して用いた。同期した粒子群の傾きを、選択された各データについて最小二乗法を用いて計算し、同期分布図の原点を通るようにして近似直線を引いた。また、近似直線の傾きも求めた。
【0143】
各データの点(図中では、「○」で表示している。)から近似直線上に下ろした垂線の長さをdとし、また、近似直線と垂線の交点からx軸へ下ろした垂線の高さをHとした。
各誤差(x)を、下記式[A]で算出した。
誤差(x)=d/H ・・・[A]
また、上記誤差の絶対偏差値を、下記式[B]で算出した。なお、誤差の算出において、軸上のデータは計算しなかった。
【数3】

【0144】
また、以下において、合金の原料に用いた金属単体は、いずれも不純物濃度0.01モル%以下の高純度品である。また、原料金属の形状は、Srは塊状、その他は粒状である。
【0145】
[実施例1]
〈母合金の製造〉
金属元素組成比がAl:Si=1:1(モル比)となるように各金属を秤量し、黒鉛るつぼを用い、アルゴン雰囲気で高周波誘導式溶融炉を用いて原料金属を溶融した後、るつぼから金型へ注湯して凝固させ、金属元素組成元素比がAl:Si=1:1である合金(母合金)を得た。
【0146】
〈蛍光体原料用合金の製造〉
Eu:Sr:Ca:Al:Si=0.008:0.792:0.2:1:1(モル比)となるよう母合金、その他原料金属を秤量した。炉内を5×10−2Paまで真空排気した後、排気を中止し、炉内にアルゴンを所定圧まで充填した。カルシアるつぼ内の母合金を溶解し、次いでSrを溶解し、Eu、Caを加えて、全成分が融解した溶湯が誘導電流により攪拌されるのを確認後、るつぼから溶湯を水冷された銅製の金型(厚さ40mmの板状)へ注湯して凝固させた。
【0147】
得られた厚み40mm、重量5kg程度の板状合金についてICP発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry;以下「ICP法」と称する場合がある。)で組成分析を行った。板の重心付近一点と、板の端面付近一点から約10gサンプリングし、ICP法により元素分析を行ったところ、
板の中心部 Eu:Sr:Ca:Al:Si=0.009:0.782:0.212:1:0.986、
板の端面 Eu:Sr:Ca:Al:Si=0.009:0.756:0.21:1:0.962
であり、分析精度の範囲において実質的に同一組成であった。従って、Euを始め、各々の元素が均一に分布していると考えられた。
【0148】
得られた合金の粉末X線回折パターンを図2に示す。図2に示されるように、得られた合金はSr(Si0.5Al0.5と類似した粉末X線回折パターンを示し、AlB型のアルカリ土類シリサイドと呼ばれる金属間化合物と同定された。また、図2から、得られた合金が単一相であることが確認された。
【0149】
また、得られた板状合金塊を、窒素雰囲気中でアルミナ乳鉢を用いて約1mmまで粗粉砕した。次いで、超音速ジェット粉砕機(日本ニューマチック工業株式会社製「PJM−80SP」)を用いて、重量メジアン径D50が14μmとなるように、窒素雰囲気下(酸素濃度2%)、粉砕圧力0.15MPa、原料供給速度0.8kg/hrで粉砕した。その後、目開き53μmの篩いを通過させることにより、粗大粒子を除去し、合金粉末を得た。得られた合金粉末について前述の方法により、パーティクルアナライザーで分析した。
【0150】
Si元素の三乗根電圧(横軸)とAlの三乗根電圧(縦軸)との関係により示される同期分布図を図3(a)に示す。図3(a)において、同期した粒子群についての近似直線の傾きは、1.194であった。また、上述の算出方法により誤差を求め、誤差ヒストグラムとして図3(b)に示した。誤差の分散を表す、誤差の絶対偏差値は、表1に示されるように0.082であった。また、Alの粒度分布図を図3(c)に示す。
【0151】
Si元素の三乗根電圧(横軸)とSrの三乗根電圧(縦軸)との関係により示される同期分布図を図4(a)に示す。図4(a)において、同期した粒子群についての近似直線の傾きは、1.763であった。また、上述の算出方法により誤差を求め、誤差ヒストグラムとして図4(b)に示した。誤差の分散を表す、誤差の絶対偏差値は、表1に示されるように0.101であった。また、Srの粒度分布図を図4(c)に示す。
【0152】
Si元素の三乗根電圧(横軸)とCaの三乗根電圧(縦軸)との関係により示される同期分布図を図5(a)に示す。図5(a)において、同期した粒子群についての近似直線の傾きは、1.789であった。また、上述の算出方法により誤差を求め、誤差ヒストグラムとして図5(b)に示した。誤差の分散を表す、誤差の絶対偏差値は、表1に示されるように0.113であった。また、Caの粒度分布図を図5(c)に示す。
【0153】
Si元素の三乗根電圧(横軸)とEuの三乗根電圧(縦軸)との関係により示される同期分布図を図6(a)に示す。図6(a)において、同期した粒子群についての近似直線の傾きは、0.972であった。また、上述の算出方法により誤差を求め、誤差ヒストグラムとして図6(b)に示した。誤差の分散を表す、誤差の絶対偏差値は、表1に示されるように0.128であった。また、Euの粒度分布図を図6(c)に示す。
【0154】
また、Si粒度分布図を図7に示す。
尚、パーティクルアナライザーには4台の分光器(ch1〜ch4)が付属しており、それぞれの分光器で波長特性が異なる。装置メーカー推奨の分光器を選択して分析を行った。使用した分光器は、図3〜7中、例えば、(ch1)のように表示されている。図10〜13においても同様である。
【0155】
[参考例1]
〈蛍光体の製造〉
実施例1で得られた板状合金塊を、窒素気流中でメジアン径D5020μmに粉砕して得た合金粉末を、窒化ホウ素製トレイに充填し、熱間等方加圧装置(HIP)内にセットし、装置内を5×10−1Paまで真空排気した後、300℃に加熱し、300℃で真空排気を1時間継続した。その後、窒素を1MPa充填し、冷却後に0.1Paまで放圧し、再び1MPaまで窒素を充填する操作を2回繰り返した。その後装置内圧を190MPaに保ちながら昇温速度10℃/分で1900℃まで加熱し、この温度で1時間保持して目的の複合窒化物蛍光体Sr0.792Ca0.2AlSiN:Eu0.008を得た。
【0156】
得られた蛍光体の粉末X線回折測定の結果、CaAlSiNと同型の斜方晶の結晶相が生成していた。
この蛍光体について、後述の方法で波長465nm励起による発光スペクトルを測定した。得られた発光スペクトルから後述の比較例3の蛍光体の発光強度を100%として相対発光ピーク強度を求めたところ、100%であり、比較例3の蛍光体の輝度を100%として相対輝度を求めたところ、186%であった。発光波長は630nmであった。
【0157】
(発光スペクトルの測定)
蛍光体の発光スペクトルは、励起光源として150Wキセノンランプを、スペクトル測定装置としてマルチチャンネルCCD検出器C7041(浜松フォトニクス社製)を備える蛍光測定装置(日本分光社製)用いて測定した。励起光源からの光を焦点距離が10cmである回折格子分光器に通し、波長465nmの励起光のみを光ファイバーを通じて蛍光体に照射した。励起光の照射により蛍光体から発生した光を焦点距離が25cmである回折格子分光器により分光し、300nm以上、800nm以下の波長範囲においてスペクトル測定装置により各波長の発光強度を測定し、パーソナルコンピュータによる感度補正等の信号処理を経て発光スペクトルを得た。
【0158】
[実施例2]
実施例1における蛍光体原料用合金の製造において、金属元素組成比がEu:Sr:Al:Si=0.008:0.992:1:1となるように各金属及び母合金を秤量したこと以外は実施例1と同様の条件で合金を製造した。
この合金についてICP法で組成分析を行ったところ、仕込み組成と一致した。従って、Euを始め、各々の元素が均一に分布していると考えられた。
得られた合金の粉末X線回折パターンを図8に示す。図8において、指数付けされた破線はSr(Si0.5Al0.5のピークを示し、指数付けされていない破線はAlSiSrのピークを示している。図9においても同様である。
図8に示されるように、得られた合金は、主相がSr(Si0.5Al0.5と類似した粉末X線回折パターンを示した。また、図8から、得られた合金が単一相であることが確認された。
【0159】
[参考例2]
実施例2で得られた板状合金を、参考例1と同様の条件で、粉砕し、焼成した。得られた複合窒化物から、非発光部分を除去し、水洗、及び乾燥して蛍光体Sr0.992AlSiN:Eu0.008を得た。
得られた蛍光体について、粉末X線回折測定を行った結果、CaAlSiNと同型の斜方晶の結晶相が生成していた。
また、この蛍光体について、参考例1と同様の方法で発光スペクトルを測定し、発光ピーク強度、相対輝度、及び発光ピーク波長を求めたところ、相対発光ピーク強度は96%、相対輝度は239%であり、発光ピーク波長は609nmであった。
【0160】
[実施例3]
実施例1の<蛍光体原料用合金の製造>において、金属元素組成比がEu:Sr:Ca:Al:Si=0.006:0.494:0.5:1:1となるように各金属及び母合金を秤量したこと以外は実施例1と同様の条件で重量約5kgの板状合金を製造した。
得られた合金について、ICP法により組成分析を行ったところ、分析精度の範囲において仕込み組成と一致した。従って、Euを始め、各々の元素が均一に分布していると考えられる。
得られた合金は、主相がSr(Si0.5Al0.5と類似した粉末X線回折パターンを示した。また、粉末X線回折パターンから、得られた合金が単一相であることが確認された。
【0161】
[参考例3]
実施例3で得られた板状合金を、参考例1と同様の条件で、粉砕し、焼成し、蛍光体Sr0.494Ca0.5AlSiN:Eu0.006を得た。
得られた蛍光体について、粉末X線回折測定を行った結果、CaAlSiNと同型の斜方晶の結晶相が生成していた。
また、この蛍光体について、参考例1と同様の方法で発光スペクトルを測定し、発光ピーク強度、相対輝度、及び発光ピーク波長を求めたところ、相対発光ピーク強度は85%、相対輝度は128%であり、発光ピーク波長は641nmであった。
【0162】
[実施例4]
実施例1の<蛍光体原料用合金の製造>において、金属元素組成比がEu:Sr:Ca:Al:Si=0.006:0.694:0.3:1:1となるように各金属及び母合金を秤量したこと以外は実施例1と同様の条件で重量約5kgの板状合金を製造した。
得られた合金について、ICP法により組成分析を行ったところ、Eu:Sr:Ca:Al:Si=0.0064:0.703:0.295:1:1となり、分析精度の範囲において仕込み組成と一致した。従って、Euを始め、各々の元素が均一に分布していると考えられる。
得られた合金は、主相がSr(Si0.5Al0.5と類似した粉末X線回折パターンを示した。また、粉末X線回折パターンから、得られた合金が単一相であることが確認された。
【0163】
[参考例4]
実施例4で得られた板状合金を、参考例1と同様の条件で、粉砕し、焼成し、蛍光体Sr0.694Ca0.3AlSiN:Eu0.006を得た。
得られた蛍光体について、粉末X線回折測定を行った結果、CaAlSiNと同型の斜方晶の結晶相が生成していた。
また、この蛍光体について、参考例1と同様の方法で発光スペクトルを測定し、発光ピーク強度、相対輝度、及び発光ピーク波長を求めたところ、相対発光ピーク強度は92%、相対輝度は173%であり、発光ピーク波長は631nmであった。
【0164】
[実施例5]
実施例1における<蛍光体原料用合金の製造>において、金属元素組成比がEu:Sr:Si=0.016:1.984:5となるように各金属を秤量する。次いでアルゴン雰囲気でアーク溶解を行い、原料金属を融解させる。この際、まず、ケイ素にアークが当たるようにする。また、溶湯が電流で攪拌されて均一になるようにする。原料金属が融解したことを確認し、金型へ注湯する。金型内で急冷することにより付活元素であるEu等の構成元素が均一に分散した微細な結晶相を有する合金塊が得られる。
得られた合金塊の粉末X線回折パターンは、SrSiと同定されるパターンが主相であり、少量のSiが検出される。粉末X線回折パターンでは、主相以外に他に少量のSrSi、SrSi、SrSi、SrSi相が検出される場合がある。
【0165】
[参考例5]
実施例5で得られる合金塊を窒素雰囲気中でアルミナ乳鉢を用いて粉砕し、目開き53μmの篩いを通過させる。得られた合金粉末を窒化ホウ素製容器に充填する。装置内を真空排気した後、排気を中止し、装置内へ窒素を0.92MPaまで充填した後、1800℃まで加熱し、2時間保持して蛍光体Sr1.984Si:Eu0.016を得る。
得られる蛍光体は純度の高いSrSi相の粉末X線回折パターンを示す。
また、この蛍光体について、参考例1と同様の方法で発光スペクトルを測定すると、波長610nm以上620nm以下の範囲に発光ピークを有する発光スペクトルが観測され、比較例3と同等程度の発光ピーク強度が観測される。
【0166】
[実施例6]
金属元素組成比をEu:Sr:Si=0.04:1.96:5としたこと以外は、実施例5と同様の条件で合金を製造する。
【0167】
[参考例6]
実施例6で得られる合金を用いて、参考例5と同様の条件で蛍光体を製造し、蛍光体Sr1.96Si:Eu0.04を得る。
得られる蛍光体は純度の高いSrSi相の粉末X線回折パターンを示す。
また、この蛍光体について、参考例1と同様の方法で発光スペクトルを測定すると、波長630nm付近に発光ピークを有する発光スペクトルが観測され、比較例3と同等程度の発光ピーク強度が観測される。
【0168】
[比較例1]
実施例1における蛍光体原料用合金の製造において、金属元素組成比がEu:Sr:Ca:Al:Si=0.008:0.792:0.2:1:1となるように各金属及び母合金を秤量し、融解を試みたが、Siを溶解することができす、合金を得ることはできなかった。
【0169】
[比較例2]
実施例1における蛍光体原料用合金の製造において、金属元素組成比がEu:Sr:Al:Si=0.008:0.992:1:1となるように各金属を秤量し、アルゴン雰囲気中でアーク溶解を行い、原料金属をほぼ同時に融解させた。
得られた合金の粉末X線回折パターンを図9に示す。
実施例2(図8)と比較例2(図9)を比較すると、実施例2の方がより結晶性及び純度の高い金属間化合物であることが分かる。
【0170】
[比較例3]
金属元素組成比がEu:Ca:Al:Si=0.008:0.992:1:1となるように、Eu(レアメタリック製)、Ca(SERAC製 200mesh pass)、AlN(トクヤマ製 グレードF)、及びSi(宇部興産製 SN−E10)をアルゴン雰囲気中で秤量し、アルゴン雰囲気中でアルミナ乳鉢を用いて20分間、人力で混合し、蛍光体原料を得た。
得られた蛍光体原料について前述の方法により、パーティクルアナライザーで分析した。
【0171】
Si元素の三乗根電圧(横軸)とAlの三乗根電圧(縦軸)との関係により示される同期分布図を図10(a)に示す。図10(a)において、同期した粒子群についての近似直線の傾きは、1.040であった。また、上述の算出方法により誤差を求め、誤差ヒストグラムとして図10(b)に示した。誤差の分散を表す、誤差の絶対偏差値は、表1に示されるように0.206であった。また、Alの粒度分布図を図10(c)に示す。
【0172】
Si元素の三乗根電圧(横軸)とCaの三乗根電圧(縦軸)との関係により示される同期分布図を図11(a)に示す。図11(a)において、同期した粒子群についての近似直線の傾きは、1.355であった。また、上述の算出方法により誤差を求め、誤差ヒストグラムとして図11(b)に示した。誤差の分散を表す、誤差の絶対偏差値は、表1に示されるように0.227であった。また、Caの粒度分布図を図11(c)に示す。
【0173】
Si元素の三乗根電圧(横軸)とEuの三乗根電圧(縦軸)との関係により示される同期分布図を図12(a)に示す。図12(a)において、同期した粒子群についての近似直線の傾きは、0.694であった。また、上述の算出方法により誤差を求め、誤差ヒストグラムとして図12(b)に示した。誤差の分散を表す、誤差の絶対偏差値は、表1に示されるように0.445であった。また、Euの粒度分布図を図12(c)に示す。
【0174】
また、Si粒度分布図を図13に示す。
【0175】
【表1】

【0176】
また、得られた蛍光体原料を窒化ホウ素製ルツボへ充填し、雰囲気加熱炉中にセットした。装置内を1×10−2Paまで真空排気した後、排気を中止し、装置内へ窒素を0.1MPaまで充填した後、1600℃まで加熱し、5時間保持して蛍光体を得た。
得られた蛍光体について、上述の方法で発光スペクトルを測定したところ、発光波長は648nmであった。
【0177】
以上の結果から、以下のことがわかる。
表1から、実施例1に代表される本発明の蛍光体原料は、比較例3に代表される公知の蛍光体原料と比較して、誤差の絶対偏差値の値が小さく、構成元素が均一に分布した蛍光体原料であることがわかる。特に、付活元素MであるEuにおいて、実施例1と比較例3の誤差の絶対偏差値の差が顕著である。本発明の蛍光体原料では、比重が大きく、かつ、含有量が少ない(即ち、蛍光体原料中に均一に分布させることが難しい)付活元素をも蛍光体原料中に均一に分布していることがわかる。さらに、このような本発明の蛍光体原料を用いると、構成元素を均一に分布させることができ、輝度等の発光特性に優れた蛍光体が得られると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0178】
【図1】図1は、パーティクルアナライザーの原理を説明する図であり、(a)図は、Si原子による三乗根電圧(横軸)とEu原子による三乗根電圧(縦軸)との関係により示される同期分布図、(b)図は誤差のヒストグラムを示す。
【図2】実施例1で製造された元素比Eu:Sr:Ca:Al:Si=0.008:0.792:0.2:1:1である合金の粉末X線回折パターンである。
【図3】実施例1で製造された合金粉末のパーティクルアナライザー分析結果を示し、(a)図はSiとAlの2元素同期分布図、(b)図は誤差ヒストグラム、(c)図はAlの粒度分布図である。
【図4】実施例1で製造された合金粉末のパーティクルアナライザー分析結果を示し、(a)図はSrとSiの2元素同期分布図、(b)図は誤差ヒストグラム、(c)図はSrの粒度分布図である。
【図5】実施例1で製造された合金粉末のパーティクルアナライザー分析結果を示し、(a)図はCaとSiの2元素同期分布図、(b)図は誤差ヒストグラム、(c)図はCaの粒度分布図である。
【図6】実施例1で製造された合金粉末のパーティクルアナライザー分析結果を示し、(a)図はEuとSiの2元素同期分布図、(b)図は誤差ヒストグラム、(c)図はEuの粒度分布図である。
【図7】実施例1で製造された合金粉末のパーティクルアナライザー分析によるSiの粒度分布図である。
【図8】実施例2で製造された元素比Eu:Sr:Al:Si=0.008:0.992:1:1である合金の粉末X線回折パターンである。
【図9】比較例2で製造された元素比Eu:Sr:Al:Si=0.008:0.992:1:1とし、原料金属をほぼ同時にアルゴン雰囲気中アーク溶解を行った合金の粉末X線回折パターンである。
【図10】比較例3で製造された蛍光体原料のパーティクルアナライザー分析結果を示し、(a)図はAlとSiの2元素同期分布図、(b)図は誤差ヒストグラム、(c)図はAlの粒度分布図である。
【図11】比較例3で製造された蛍光体原料のパーティクルアナライザー分析結果を示し、(a)図はCaとSiの2元素同期分布図、(b)図は誤差ヒストグラム、(c)図はCaの粒度分布図である。
【図12】比較例3で製造された蛍光体原料のパーティクルアナライザー分析結果を示し、(a)図はEuとSiの2元素同期分布図、(b)図は誤差ヒストグラム、(c)図はEuの粒度分布図である。
【図13】比較例3で製造された蛍光体原料のパーティクルアナライザー分析によるSiの粒度分布図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともSiを含み、さらにSi以外の金属元素の1種以上を含む合金であることを特徴とする蛍光体原料。
【請求項2】
請求項1において、Si以外の金属元素として付活元素Mの一種以上を含有することを特徴とする蛍光体原料。
【請求項3】
請求項2において、付活元素Mの1種以上を均一に含むことを特徴とする蛍光体原料。
【請求項4】
少なくともSiを含む4価の金属元素Mと、金属元素M以外の金属元素の1種以上とを含有する蛍光体原料であって、
パーティクルアナライザーによる分析によって得られる金属元素Mのうちいずれか一種の三乗根電圧と、金属元素M以外の金属元素のいずれか一種の三乗根電圧との関係で示される同期分布図において、
その誤差の絶対偏差値が0.19以下であることを特徴とする蛍光体原料。
【請求項5】
請求項4において、前記金属元素M以外の金属元素が、付活元素M、2価の金属元素M、及び3価の金属元素Mからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする蛍光体原料。
【請求項6】
請求項5において、付活元素Mを含有することを特徴とする蛍光体原料。
【請求項7】
少なくともSiを含む4価の金属元素Mと、付活元素Mの1種以上とを含有する蛍光体原料であって、
パーティクルアナライザーによる分析によって得られる金属元素Mのうちいずれか一種の三乗根電圧と、付活元素Mのうちいずれか一種の三乗根電圧との関係で示される同期分布図において、
その誤差の絶対偏差値が0.4以下であることを特徴とする蛍光体原料。
【請求項8】
請求項4ないし7のいずれか1項において、合金であることを特徴とする蛍光体原料。
【請求項9】
付活元素Mの1種以上と、付活元素M以外の金属元素の1種以上とを含有する合金よりなる蛍光体原料であって、
パーティクルアナライザーによる分析によって得られる付活元素Mのうちいずれか一種の三乗根電圧と、付活元素M以外の金属元素のいずれか一種の三乗根電圧との関係で示される同期分布図において、
その誤差の絶対偏差値が0.4以下であることを特徴とする蛍光体原料。
【請求項10】
請求項9において、少なくともSiを含む4価の金属元素Mを含むことを特徴とする蛍光体原料。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項において、付活元素M、2価の金属元素M、及び少なくともSiを含む4価の金属元素Mを含む合金であることを特徴とする蛍光体原料。
【請求項12】
請求項11において、2価の金属元素Mとして、アルカリ土類金属元素を含む合金であることを特徴とする蛍光体原料。
【請求項13】
請求項11又は12において、更に3価の金属元素Mを含む合金であることを特徴とする蛍光体原料。
【請求項14】
請求項11ないし13のいずれか1項において、付活元素MがCr、Mn、Fe、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、及びYbからなる群から選ばれる1種以上の元素であることを特徴とする蛍光体原料。
【請求項15】
請求項13又は14において、2価の金属元素MがMg、Ca、Sr、Ba、及びZnからなる群から選ばれる1種以上の元素であり、
3価の金属元素MがAl、Ga、In、及びScからなる群から選ばれる1種以上の元素であり、
4価の金属元素Mが少なくともSiを含み、必要に応じてGe、Sn、Ti、Zr、及びHfからなる群から選ばれる1種以上の元素を含むことを特徴とする蛍光体原料。
【請求項16】
請求項15において、
2価の金属元素Mの50モル%以上がCa及び/又はSrであり、
3価の金属元素Mの50モル%以上がAlであり、
少なくともSiを含む4価の金属元素Mの50モル%以上がSiであることを特徴とする蛍光体原料。
【請求項17】
請求項15又は16において、
付活元素MとしてEuを、
2価の金属元素MとしてCa及び/又はSrを、
3価の金属元素MとしてAlを、
少なくともSiを含む4価の金属元素MとしてSiを含むことを特徴とする蛍光体原料。
【請求項18】
少なくともSiを含む4価の金属元素Mと、2価の金属元素Mとしてアルカリ土類金属元素の1種以上とを含む蛍光体原料用合金の製造方法であって、
Si及び/又はSiを含む合金を融解させた後、アルカリ土類金属を融解させることを特徴とする蛍光体原料用合金の製造方法。
【請求項19】
請求項18において、高周波誘導加熱法により、Si及び/又はSiを含む合金とアルカリ土類金属とを融解させることを特徴とする蛍光体原料用合金の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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