説明

蛍光体微粒子とその製造方法及びそれらを用いた蛍光体被膜

【課題】表面の安定化、熱反応性、または光反応性、あるいはラジカルイオン反応性を付与した蛍光体微粒子及び蛍光体被膜の提供。
【解決手段】蛍光体微粒子をクロロシラン化合物と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液に分散させて前記クロロシラン化合物と前記蛍光体微粒子表面を反応させ蛍光体微粒子表面に共有結合した機能性単分子膜等の有機薄膜を形成した蛍光体微粒子。また、蛍光体微粒子を少なくともアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液に分散させてアルコキシシラン化合物と蛍光体微粒子表面を反応させ蛍光体微粒子表面に共有結合した分子で構成する被膜を形成した蛍光体微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体微粒子に関するものである。さらに詳しくは、表面を安定化させるか、表面に熱反応性または光反応性、あるいはラジカル反応性またはイオン反応性を付与した蛍光体微粒子やその被膜に関するものである。
【0002】
本発明において、「蛍光体微粒子」には、主として、アルカリハライド、希土類イオン蛍光体、マンガン蛍光体、硫化物蛍光体が含まれる。また、ここでいう蛍光体微粒子には、いわゆるEL材料も含まれる。
【背景技術】
【0003】
従来から、蛍光を発する蛍光体微粒子は数々開発製造されている。また、蛍光体微粒子を溶液やプラスチック媒体中への分散性を向上する目的で、蛍光体微粒子と溶媒との混合溶液や蛍光体微粒子とプラスチックの混合物に界面活性剤を添加する方法も数多く知られている。
【特許文献1】特開2005-514531号公報
【特許文献2】特開2002-80607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、それら蛍光体微粒子が持つ本来の機能や形状をほとんど損なうことなくさらに新たな機能を付与するという思想はなかった。
【0005】
さらに、蛍光体微粒子そのものの表面に化学吸着した(共有結合した)機能性単分子膜等の有機薄膜で蛍光体微粒子を被うことにより、蛍光体微粒子本来の機能を損なわずに各種機能を付与した新規な蛍光体微粒子、及びその製造方法、さらにそれらを用いた蛍光体被膜は未だ開発、提供されていない。
【0006】
本発明は、蛍光体微粒子の表面を機能性官能基、例えば臨界表面エネルギー25mN/m以下の不活性基、あるいは反応性の官能基を含む機能性単分子膜等の有機薄膜で覆うことにより、前記蛍光体微粒子に、蛍光体の本来の形状や機能をほぼ保ったままで表面を不活性化する機能や溶媒への分散性を向上させる機能、各種反応機能を付与した蛍光体微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段として提供される第一の発明は、表面に共有結合した有機薄膜で覆われていることを特徴とする蛍光体微粒子である。
【0008】
第二の発明は、第一の発明において、表面に共有結合した有機薄膜が一端に機能性官能基を含み他端でSiを介して粒子表面に共有結合する分子で構成されていることを特徴とする蛍光体微粒子である。
【0009】
第三の発明は、第二の発明において、機能性官能基が臨界表面エネルギー25mN/m以下の不活性基、または反応性の官能基であることを特徴とする蛍光体微粒子である。
【0010】
第四の発明は、第三の発明において、臨界表面エネルギー25mN/m以下の不活性基が、−CFまたは−CH3を含むことを特徴とする蛍光体微粒子。
【0011】
第五の発明は、第三の発明において、反応性の官能基が熱反応性または光反応性、あるいはラジカル反応性またはイオン反応性の官能基であることを特徴とする蛍光体微粒子である。
【0012】
第六の発明は、第四の発明において、反応性の官能基がエポキシ基やイミノ基、あるいはカルコニル基であることを特徴とする蛍光体微粒子。
【0013】
第七の発明は、第一の発明及び第二の発明において、表面に共有結合した有機薄膜が単分子膜で構成されていることを特徴とする蛍光体微粒子である。
【0014】
第八の発明は、蛍光体微粒子を少なくともクロロシラン化合物と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に分散させて前記クロロシシラン化合物と前記蛍光体微粒子表面を反応させる工程を含むことを特徴とする蛍光体微粒子の製造方法である。
【0015】
第九の発明は、蛍光体微粒子を少なくともアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に分散させてアルコキシシラン化合物と蛍光体微粒子表面を反応させる工程を含むことを特徴とする蛍光体微粒子の製造方法である。
【0016】
第十の発明は、蛍光体微粒子を化学吸着液に分散させてクロロシラン化合物またはアルコキシシラン化合物と蛍光体微粒子表面を反応させる工程の後、蛍光体微粒子表面を有機溶剤で洗浄して蛍光体微粒子表面に共有結合した単分子膜を形成することを特徴とする請求項8および9記載の蛍光体微粒子の製造方法である。
【0017】
第十一の発明は第九の発明において、シラノール縮合触媒の代わりに、ケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物を用いることを特徴とするの蛍光体微粒子の製造方法。
【0018】
第十二の発明は、第九の発明において、シラノール縮合触媒に助触媒としてケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物から選ばれる少なくとも1つを混合して用いることを特徴とする蛍光体微粒子の製造方法である。
【0019】
第十三の発明は、表面に反応性の官能基を含む有機薄膜で被われた基材表面と前記反応性の官能基と反応する官能基を含む有機薄膜で被われた蛍光体微粒子が前記それぞれの有機薄膜を介して共有結合し、硬化成形されていることを特徴とする蛍光体被膜である。
【0020】
第十四の発明は、第十三の発明において、反応性の官能基としてエポキシ基やイミノ基、あるいはカルコニル基を含むことを特徴とする蛍光体被膜である。
【0021】
第十五の発明は、第1の反応性を備えた蛍光体微粒子と第2の反応性を備えた蛍光体微粒子を有機溶媒中で混合してペースト化する工程と、基材表面に塗布する工程と、硬化させる工程を含むことを特徴とする蛍光体被膜の製造方法である。
【0022】
第十六の発明は、第十四の発明において、あらかじめ、塗布前の基材表面に、第1の反応性を備えた蛍光体微粒子あるいは第2の反応性を備えた蛍光体微粒子と反応する官能基を備えた有機薄膜を形成しておくことを特徴とする蛍光体被膜の製造方法である。
以下、本発明に関してその内容を更に説明する。
【0023】
本発明は、蛍光体微粒子を少なくともクロロシラン化合物と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液に分散させて前記クロロシラン化合物と前記蛍光体微粒子表面を反応させることにより、蛍光体微粒子表面に共有結合した機能性単分子膜等の有機薄膜を形成し、蛍光体微粒子本来の機能をほぼ保ったままで溶媒への分散性を向上する機能や各種反応機能を付与した蛍光体微粒子を提供することを要旨とする。
【0024】
また、蛍光体微粒子を少なくともアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液に分散させてアルコキシシラン化合物と蛍光体微粒子表面を反応させることにより、蛍光体微粒子表面に共有結合した分子で構成する被膜を形成し、蛍光体微粒子本来の機能をほぼ保ったままで溶媒への分散性を向上する機能や各種化学反応機能を付与した蛍光体微粒子を提供することを要旨とする。
【0025】
このとき、有機溶媒やプラスチック等の有機物媒体中への分散性を向上する目的なら、粒子表面の臨界表面エネルギーが25mN/m以下になるような薬剤を用いると、媒体中への分散性を向上できて都合がよい。また、反応性を付与するのなら、エポキシ基やイミノ基、あるいはカルコニル基を含んだ薬剤を用いれば、粒子そのものに反応性を付与できて都合がよい。
【0026】
さらにまた、化学吸着液に分散させてクロロシラン化合物またはアルコキシシラン化合物と蛍光体微粒子表面を反応させた後、蛍光体微粒子を有機溶剤で洗浄することにより、余分な化合物を洗浄除去して、化学吸着した単分子膜で被うことにより、蛍光体微粒子本来の形状と機能をほぼ完全に保ったままで、粒子を安定化する機能や分散性を向上する機能、各種化学反応機能を付与した蛍光体微粒子を提供することを要旨とする。
【0027】
ここで、アルコキシシラン化合物を用いる場合、シラノール縮合触媒の代わりに、ケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物を用いることも可能である。一方、シラノール縮合触媒に助触媒としてケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物から選ばれる少なくとも1つを混合して用いること反応時間を短縮できて都合がよい。
【0028】
また、第1の反応性を備えた蛍光体微粒子と第2の反応性を備えた蛍光体微粒子を有機溶媒中で混合してペースト化する工程と、基材表面に塗布する工程と、硬化させる工程により、表面に反応性の官能基を含む有機薄膜で被われた基材表面と前記反応性の官能基と反応する官能基を含む有機薄膜で被われた蛍光体微粒子が前記それぞれの有機薄膜を介して共有結合し、硬化成形されている耐剥離強度が高い蛍光体被膜を提供することを要旨とする。
【0029】
このとき、あらかじめ、塗布前の基材表面に、第1の反応性を備えた蛍光体微粒子あるいは第2の反応性を備えた蛍光体微粒子と反応する官能基を備えた有機薄膜を形成しておくと、耐剥離強度向上する上で都合がよい。また、反応性の官能基としてエポキシ基やイミノ基、あるいは、カルコニル基を用いると共有結合を生成できて耐剥離強度向上する上で都合がよい。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したとおり、本発明によれば、蛍光体微粒子に、蛍光体微粒子本来の機能をほぼ保ったままで安定化させる機能や各種溶媒への分散性を向上させる機能、各種反応機能を付与した蛍光体微粒子を提供できる効果がある。さらにまた、化学吸着した単分子膜で被うことにより、蛍光体微粒子本来の形状と機能をほぼ完全に保ったままで安定化させる機能や分散性を向上する機能、各種化学反応機能を付与した蛍光体微粒子を提供できる特別の効果がある。また、耐剥離性能に優れた蛍光体被膜提供できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明は、少なくともクロロシラン化合物と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液に蛍光体微粒子を分散させてクロロシシラン化合物と蛍光体微粒子表面を反応させる工程の後、有機溶剤で洗浄する方法、または、少なくともアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液に蛍光体微粒子を分散させてアルコキシシラン化合物と蛍光体微粒子表面を反応させる工程の後、有機溶剤で洗浄する方法により、表面に共有結合した分子が、反応性の官能基、例えば熱反応性、または光反応性、あるいはラジカル反応性またはイオン反応性の官能基を有し、且つ単分子膜を構成している蛍光体微粒子、及び、それらを用いた蛍光体被膜を提供するものである。
【0032】
したがって、本発明には、蛍光体微粒子本来の形状と機能をほぼ完全に保ったままで粒子そのものの表面を安定化する機能や分散性を向上する機能、各種化学反応機能を付与した蛍光体微粒子を提供でき作用がある。
【0033】
以下、本願発明の詳細を実施例に基づいて説明するが、本願発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0034】
なお、本発明に関する蛍光体微粒子には、主として、アルカリハライド、希土類イオン蛍光体、マンガン蛍光体、硫化物蛍光体等があるが、まず、代表例として硫化亜鉛の蛍光体微粒子を取り上げて説明する。
【実施例1】
【0035】
まず、平均粒が100nm程度の硫化亜鉛の蛍光体微粒子1用意し(図1)、よく乾燥した。次に、単分子膜を形成すると臨界表面エネルギー25mN/m以下になるフッ化炭素基(機能部位)及びクロロシリル基(活性部位)を含む化学吸着剤、例えばCF(CF27(CH22SiCl3を0.1重量%程度の濃度で非水系溶媒(例えば、脱水したノナン)に溶かして化学吸着溶液(以下吸着溶液という)とした。この吸着溶液に、乾燥雰囲気中(相対湿度30%以下が好ましかった。)で前記硫化亜鉛蛍光体微粒子を漬浸し撹拌反応させると、硫化亜鉛の蛍光体微粒子1表面のダングリングボンドには水酸基(OH)2が多数結合しているので(図1(a))、前記化学吸着剤のクロロシリル基(SiCl)基と前記蛍光体微粒子表面の水酸基が反応し、脱塩酸反応が生じ硫化亜鉛蛍光体微粒子表面全面に亘り、下記式(化1)に示す結合が生成さる。次に、フロン系の溶媒を加えて撹拌洗浄すると、前記化学吸着剤よりなる単分子膜3で被われた硫化亜鉛蛍光体微粒子が得られた。
【0036】
【化1】

【0037】
なお、このとき形成された蛍光体微粒子表面の単分子膜の臨界表面エネルギーは6mN/m程度になるので、この顔料蛍光体微粒子は、臨界表面エネルギーが小さなフロン系溶媒やシリコーン系溶媒、あるいは、フッ樹脂中によく分散するようになった。
【0038】
また、この化学吸着膜はきわめて強固に蛍光体微粒子表面に共有結合しているので、通常の反応では剥離することがなかった。さらに、膜厚も1分子の長さのみであるので(およそ1nm程度)、数十ナノメートル程度の粒径の蛍光体微粒子(ナノ粒子)を用いても、形状が損なわれることはほとんどなかった。
【0039】
なお、このとき、洗浄せずに空気中に取り出すと、分散性はほぼ変わらないが、溶媒が蒸発し粒子表面に残った化学吸着剤が粒子表面で空気中の水分と反応して、粒子表面に前記化学吸着剤よりなる極薄の化学吸着ポリマー膜が形成された蛍光体微粒子が得られた。
【0040】
上記実施例では、化学吸着剤として機能部位に表面エネルギーを低減できる作用のあるフッ化炭素系の官能基を持つ薬剤を用いた例を示したが、機能部位に炭化水素基(−CH基)を含む薬剤、例えばCH(CF27(CH22SiCl3を用いた場合には、臨界表面エネルギーは25mN/m程度の被腹膜が得られた。また、これら薬剤を任意に混合して用いると、出来た蛍光体微粒子表面の被膜の臨界表面エネルギーを6〜25mN/mの間で任意に制御できた。ここで、機能部位の官能基をいろいろ変えることにより、新たな機能を付与し、且つ蛍光体微粒子の表面エネルギーを目的の値に制御した蛍光体微粒子を、蛍光体微粒子本来の形状を損なうことなく製造できることはいうまでもない。
【0041】
なお、この方法は、被膜形成時に、塩酸が発生するので、多少蛍光体微粒子表面を傷つけることがあったが、実施例1では、微量のため問題は生じなかった。また、このようにして単分子膜で被覆された蛍光体微粒子、例えば臨界表面エネルギーが25mN/m程度の炭化水素系単分子膜で被覆された蛍光体微粒子では、凝集を抑え、炭化水素系の溶媒や炭化水素系、あるいは、アクリル系のプラスチックに極めて良好な状態で分散できた。
【0042】
なお、上記実施例1では、フッ化炭素系化学吸着剤としてCF3(CF27(CH22SiCl3を用いたが、上記のもの以外にも、炭化水素系を含めて下記(1)〜(12)に示した物質が利用できた。
(1) CF3CH2O(CH2)15SiCl3
(2) CF3(CH2)Si(CH3)2(CH2)15SiCl3
(3) CF3(CF2)(CH2)2Si(CH3)2(CH2)9SiCl3
(4) CF3(CF2)(CH2)2Si(CH3)2(CH2)9SiCl3
(5) CF3COO(CH2)15SiCl3
(6) CF3(CF2)5(CH2)2SiCl3
(7) CH3CH2O(CH2)15SiCl3
(8) CH3(CH2)Si(CH3)2(CH2)15SiCl3
(9) CH3(CH2)Si(CH3)2(CH2)9SiCl3
(10) CH3(CH2) Si(CH3)2(CH2)9SiCl3
(11) CH3COO(CH2)15SiCl3
(12) CH3(CH2)SiCl3
【実施例2】
【0043】
まず、無水の硫化カドミウムの蛍光体微粒子11を用意し、よく乾燥した。次に、化学吸着剤として機能部位に反応性の官能基、例えば、エポキシ基あるいはイミノ基と他端にアルコキシシリル基を含む薬剤、例えば、下記式(化2)あるいは(化3)に、示す薬剤を99重量%、シラノール縮合触媒として、例えば、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、あるいは、有機酸である酢酸を1重量%となるようそれぞれ秤量し、シリコーンとジメチルホルムアミドを同量混合した溶媒、例えば、ヘキサメチルジシロキサン50%とジメチルホルムアミド50%の溶液に1重量%程度の濃度(好ましくい化学吸着剤の濃度は、0.5〜3%程度)になるように溶かして化学吸着液を調製した。
【0044】
【化2】

【0045】
【化3】

【0046】
この吸着液に無水の硫化カドミウムの蛍光体微粒子を混入撹拌して普通の空気中(相対湿度55%)で2時間程度反応させた。このとき、無水の硫化カドミウムの蛍光体微粒子表面のダングリングボンドには水酸基12が多数結合しているの(図2a)で、前記化学吸着剤の−Si(OCH)基と前記水酸基がシラノール縮合触媒あるいは有機酸存在下で脱アルコール(この場合は、脱CHOH)反応し、下記式(化4)あるいは(化5)に示したような結合を形成し、蛍光体微粒子表面全面に亘り表面と化学結合したエポキシ基を含む化学吸着単分子膜13あるいはアミノ基を含む化学吸着膜14が約1ナノメートル程度の膜厚で形成された(図2b、2c)。
【0047】
なお、ここで、アミノ基を含む吸着剤を使用する場合には、スズ系の触媒では沈殿が生成するので、酢酸等の有機酸を用いた方がよかった。また、アミノ基はイミノ基を含んでいるが、アミノ基以外にイミノ基を含む物質には、ピロール誘導体や、イミダゾール誘導体等がある。さらに、ケチミン誘導体を用いれば、被膜形成後、加水分解により容易にアミノ基を導入できた。
その後、塩素系溶媒(例えば、クロロホルム)を添加して撹拌洗浄すると、実施例1と同様に、表面に反応性の官能基、例えばエポキシ基あるいはアミノ基を有する化学吸着単分子膜で被われた硫化カドミウムの蛍光体微粒子を作製できた。
【0048】
【化4】

【0049】
【化5】

【0050】
この処理部も実施例1と同様に、被膜がナノメートルレベルの膜厚で極めて薄いため、粒子径を損なうことはなかった。
なお、洗浄せずに空気中に取り出すと、反応性はほぼ変わらないが、溶媒が蒸発し粒子表面に残った化学吸着剤が粒子表面で空気中の水分と反応して、粒子表面に前記化学吸着剤よりなる極薄のポリマー膜が形成された蛍光体微粒子が得られた。
【0051】
この方法の特徴は、実施例1に比べ、乾燥雰囲気を必要としないことであり、特別な隔離室を必要としないので、量産性に優れている。また、脱塩酸反応ではなく、脱アルコール反応であるため、蛍光体微粒子が塩酸で大きく破壊されるような物質であったとしても使用可能であり、適用範囲が広い。
【0052】
次に、前記エポキシ基を有する化学吸着単分子膜で被われた硫化カドミウムの蛍光体微粒子、あるいはアミノ基を有する化学吸着単分子膜で被われた硫化カドミウムの蛍光体微粒子をそれぞれ同量採りイソプロピルアルコール中で十分混合してペースト化し、ガラス管内部等に塗布し50〜100度程度に加熱すると、下記式(化6)に示したような反応でエポキシ基とアミノ基が付加して蛍光体微粒子は結合固化し、バインダーを含まなくても蛍光体の塗布を行えた。
なお、このとき、あらかじめ同様の方法で基材表面にも反応性の官能基を持つ有機薄膜を形成しておくと、蛍光体微粒子の表面の有機薄膜は、基材表面の有機薄膜とも反応して、耐剥離強度の高い蛍光体被膜を製造できた。
【0053】
【化6】

【0054】
なお、上記実施例2では、反応性基を含む化学吸着剤として式(化2)あるいは(化3)に示した物質を用いたが、上記のもの以外にも、下記(21)〜 (36)に示した物質が利用できた。
(21) (CHOCH)CH2O(CH2)Si(OCH)3
(22) (CHOCH)CH2O(CH2)11Si(OCH)3
(23) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OCH)3
(24) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OCH)3
(25) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OCH)3
(26) (CH2OCH)CH2O(CH2)Si(OC)3
(27) (CHOCH)CH2O(CH2)11Si(OC)3
(28) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OC)3
(29) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OC)3
(30) (CHCHOCH(CH)CH(CH2)Si(OC)3
(31) H2N (CH2)Si(OCH)3
(32) H2N (CH2)Si(OCH)3
(33) H2N (CH2)Si(OCH)3
(34) H2N (CH2)Si(OC)3
(35) H2N (CH2)Si(OC)3
(36) H2N (CH2)Si(OC)3
ここで、(CHOCH)−基は、下記式(化7)で表される官能基を表し、(CHCHOCH(CH)CH−基は、下記式(化8)で表される官能基を表す。
【0055】
【化7】

【0056】
【化8】

【0057】
さらに、光または電子線等のエネルギービーム反応性官能基を含む化学吸着剤として、下記(41)〜(46)に示した物質が利用できた。この場合は、硬化には、当然光や電子線等のエネルギービームを照射すればよい。
(41) CH≡C−C≡C−(CH2)15SiCl3
(42) CH≡C−C≡C−(CH2)2Si(CH3)2(CH2)15SiCl3
(43) CH≡C−C≡C−(CH2)2Si(CH3)2(CH2)9SiCl3
(44) (C) (CH)2CO(C)O(CH2)OSi(OCH)3
(45) (C) (CH)2CO(C)O(CH2)OSi(OC)3
(46) (C) CO(CH)2 (C)O(CH2)OSi(OCH)3
ここで、(C) (CH)2CO (C)−や(C)CO (CH)2 (C)−はカルコニル基を表す。
【0058】
なお、実施例2に置いて、シラノール縮合触媒には、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステル及びチタン酸エステルキレート類が利用可能である。さらに具体的には、酢酸第1錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクタン酸第1錫、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキセン酸鉄、ジオクチル錫ビスオクチリチオグリコール酸エステル塩、ジオクチル錫マレイン酸エステル塩、ジブチル錫マレイン酸塩ポリマー、ジメチル錫メルカプトプロピオン酸塩ポリマー、ジブチル錫ビスアセチルアセテート、ジオクチル錫ビスアセチルラウレート、テトラブチルチタネート、テトラノニルチタネート及びビス(アセチルアセトニル)ジープロピルチタネートを用いることが可能であった。
【0059】
また、膜形成溶液の溶媒としては、化学吸着剤がアルコキシシラン系、クロロシラン系、何れの場合も水を含まない有機塩素系溶媒、炭化水素系溶媒、あるいはフッ化炭素系溶媒やシリコーン系溶媒、あるいはそれら混合物を用いることが可能であった。なお、洗浄を行わず、溶媒を蒸発させて粒子濃度を上げようとする場合には、溶媒の沸点は50〜250℃程度がよい。
【0060】
具体的に使用可能なものは、有機塩素系溶媒、非水系の石油ナフサ、ソルベントナフサ、石油エーテル、石油ベンジン、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、デカリン、工業ガソリン、ノナン、デカン、灯油、ジメチルシリコーン、フェニルシリコーン、アルキル変性シリコーン、ポリエーテルシリコーン、ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。さらに、吸着剤がアルコキシシラン系の場合で且つ溶媒を蒸発させて有機被膜を形成する場合には、前記溶媒に加え、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、あるいはそれら混合物が使用できた。
【0061】
また、フッ化炭素系溶媒には、フロン系溶媒や、フロリナート(3M社製品)、アフルード(旭ガラス社製品)等がある。なお、これらは1種単独で用いても良いし、良く混ざるものなら2種以上を組み合わせてもよい。さらに、クロロホルム等有機塩素系の溶媒を添加しても良い。
【0062】
一方、上述のシラノール縮合触媒の代わりに、ケチミン化合物又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物を用いた場合、同じ濃度でも処理時間を半分〜2/3程度まで短縮できた。
【0063】
さらに、シラノール縮合触媒とケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物を混合(1:9〜9:1範囲で使用可能だが、通常1:1前後が好ましい。)して用いると、処理時間をさらに数倍早く(30分程度まで)でき、製膜時間を数分の一まで短縮できる。
【0064】
例えば、シラノール触媒であるジブチル錫オキサイドをケチミン化合物であるジャパンエポキシレジン社のH3に置き換え、その他の条件は同一にしてみたが、反応時間を1時間程度にまで短縮できた他は、ほぼ同様の結果が得られた。
【0065】
さらに、シラノール触媒を、ケチミン化合物であるジャパンエポキシレジン社のH3と、シラノール触媒であるジブチル錫ビスアセチルアセトネートの混合物(混合比は1:1)に置き換え、その他の条件は同一にしてみたが、反応時間を30分程度に短縮できた他は、ほぼ同様の結果が得られた。
【0066】
したがって、以上の結果から、ケチミン化合物や有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物がシラノール縮合触媒より活性が高いことが明らかとなった。
【0067】
さらにまた、ケチミン化合物や有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物の内の1つとシラノール縮合触媒を混合して用いると、さらに活性が高くなることが確認された。
【0068】
なお、ここで、利用できるケチミン化合物は特に限定されるものではないが、例えば、2,5,8−トリアザ−1,8−ノナジエン、3,11−ジメチル−4,7,10−トリアザ−3,10−トリデカジエン、2,10−ジメチル−3,6,9−トリアザ−2,9−ウンデカジエン、2,4,12,14−テトラメチル−5,8,11−トリアザ−4,11−ペンタデカジエン、2,4,15,17−テトラメチル−5,8,11,14−テトラアザ−4,14−オクタデカジエン、2,4,20,22−テトラメチル−5,12,19−トリアザ−4,19−トリエイコサジエン等がある。
【0069】
また、利用できる有機酸としても特に限定されるものではないが、例えば、ギ酸、あるいは酢酸、プロピオン酸、ラク酸、マロン酸等があり、ほぼ同様の効果があった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
また、上記2つの実施例では、硫化亜鉛蛍光体微粒子と硫化カドミウムの蛍光体微粒子を例として説明したが、本発明は、表面に水酸基の水素のような活性水素を含んだ蛍光体微粒子で有れば、どのような無機蛍光体にでも適用可能である。また、表面に水酸基の様な活性水素を含む有機蛍光体にも適用可能である。
【0071】
具体的には、アルカリハライド、希土類イオン蛍光体、マンガン蛍光体、硫化物蛍光体等に適用可能である。また、表面に水酸基の様な活性水素を含む有機蛍光体にも適用可能である。さらに、用途は、ディスプレー、蛍光灯、表示板、X等の感光板等がある。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の第1の実施例における蛍光体微粒子の反応を分子レベルまで拡大した概念図であり、(a)は反応前の蛍光体微粒子表面の図、(b)は、単分子膜が形成された後の図を示す。
【図2】本発明の第2の実施例における蛍光体微粒子の反応を分子レベルまで拡大した概念図であり、(a)は反応前の蛍光体微粒子表面の図、(b)は、エポキシ基を含む単分子膜が形成された後の図、(c)は、アミノ基を含む単分子膜が形成された後の図を示す。
【符号の説明】
【0073】
1 硫化亜鉛蛍光体微粒子
2 水酸基
3 フッ化炭素基を含む単分子膜
単分子膜で被われた硫化亜鉛蛍光体微粒子
11 硫化カドミウムの蛍光体微粒子
12 水酸基
13 エポキシ基を含む単分子膜
14 アミノ基を含む単分子膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に共有結合した有機薄膜で覆われていることを特徴とする蛍光体微粒子。
【請求項2】
表面に共有結合した有機薄膜が一端に機能性官能基を含み他端でSiを介して粒子表面に共有結合する分子で構成されていることを特徴とする請求項1記載の蛍光体微粒子。
【請求項3】
機能性官能基が臨界表面エネルギー25mN/m以下の不活性基、または反応性の官能基であることを特徴とする請求項2記載の蛍光体微粒子。
【請求項4】
臨界表面エネルギー25mN/m以下の不活性基が、−CFまたは−CH3を含むことを特徴とする請求項3記載の蛍光体微粒子。
【請求項5】
反応性の官能基が熱反応性または光反応性、あるいはラジカル反応性またはイオン反応性の官能基であることを特徴とする請求項3記載の蛍光体微粒子。
【請求項6】
反応性の官能基がエポキシ基やイミノ基、あるいはカルコニル基であることを特徴とする請求項4記載の蛍光体微粒子。
【請求項7】
表面に共有結合した有機薄膜が単分子膜で構成されていることを特徴とする請求項1および2記載の蛍光体微粒子。
【請求項8】
蛍光体微粒子を少なくともクロロシラン化合物と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に分散させて前記クロロシシラン化合物と前記蛍光体微粒子表面を反応させる工程を含むことを特徴とする蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項9】
蛍光体微粒子を少なくともアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に分散させてアルコキシシラン化合物と蛍光体微粒子表面を反応させる工程を含むことを特徴とする蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項10】
蛍光体微粒子を化学吸着液に分散させてクロロシラン化合物またはアルコキシシラン化合物と蛍光体微粒子表面を反応させる工程の後、蛍光体微粒子表面を有機溶剤で洗浄して蛍光体微粒子表面に共有結合した単分子膜を形成することを特徴とする請求項8および9記載の蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項11】
シラノール縮合触媒の代わりに、ケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物を用いることを特徴とする請求項9に記載の蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項12】
シラノール縮合触媒に助触媒としてケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物から選ばれる少なくとも1つを混合して用いることを特徴とする請求項9に記載の蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項13】
表面に反応性の官能基を含む有機薄膜で被われた基材表面と前記反応性の官能基と反応する官能基を含む有機薄膜で被われた蛍光体微粒子が前記それぞれの有機薄膜を介して共有結合し、硬化成形されていることを特徴とする蛍光体被膜。
【請求項14】
反応性の官能基としてエポキシ基やイミノ基、あるいはカルコニル基を含むことを特徴とする請求項13記載の蛍光体被膜。
【請求項15】
第1の反応性を備えた蛍光体微粒子と第2の反応性を備えた蛍光体微粒子を有機溶媒中で混合してペースト化する工程と、基材表面に塗布する工程と、硬化させる工程を含むことを特徴とする蛍光体被膜の製造方法。
【請求項16】
あらかじめ、塗布前の基材表面に、第1の反応性を備えた蛍光体微粒子あるいは第2の反応性を備えた蛍光体微粒子と反応する官能基を備えた有機薄膜を形成しておくことを特徴とする請求項15記載の蛍光体被膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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