説明

蛍光体粒子分散体、ならびにそれを用いた三次元表示装置および二次元表示装置

【課題】本発明は、アップコンバージョン発光する蛍光体粒子を用いたものであって、大型化が可能で、容易に製造可能であり、透明性に優れる蛍光体粒子分散体、三次元表示装置および二次元表示装置を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、700nm〜2000nmの範囲内の波長の光により励起されてアップコンバージョン発光する蛍光体粒子が、透明液体または透明樹脂に分散されてなる蛍光体粒子分散体であって、上記蛍光体粒子の屈折率と上記透明液体または透明樹脂の屈折率とが略同一であることを特徴とする蛍光体粒子分散体を提供することにより、上記目的を達成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アップコンバージョン発光する蛍光体粒子を用いたものであり、医療分野、建築分野、航空管制システム、分子構造表示等において好適に用いることができる蛍光体粒子分散体および三次元表示装置に関するものである。また、本発明は、アップコンバージョン発光する蛍光体粒子を用いたものであり、車載用ディスプレイなどの情報表示分野等において好適に用いることができる蛍光体粒子分散体および二次元表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療分野におけるCT診断や手術シミュレーション、建築分野におけるCAD、航空管制システムおける航空機の位置表示、科学技術計算における分子構造表示など、多くの分野で三次元情報を取り扱うことが必要不可欠になっている。現在、三次元表示が可能な表示装置としてはCRT(ブラウン管)ディスプレイ、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ等が知られているが、これらの表示装置では二次元映像しか表示できないため、遠近法などを利用した疑似三次元表示方式により三次元表示を可能としている。しかしながら、疑似三次元表示方式では上述したような三次元情報を十分に表示するのは困難である。したがって、大量の三次元情報を高速に表示し、前後、左右、上下から自由に観察できる三次元表示装置が望まれている。
【0003】
一般に人間が対象物を立体視する生理的要因は、(1)両眼視差、(2)両眼のふくそう角、(3)焦点調節(水晶体の調節)、(4)単眼の運動視差といわれる。
従来、三次元表示に用いられてきた方法は、ほとんどが(1)両眼視差のみを実現したものであり、不自然さや極度の疲労感を伴わざるを得ない。また立体知覚の異常といった生理的疾患の原因になっているとも考えられている。最近では、複数の平面スクリーンを重ねて、擬似的に(2)両眼のふくそう角、および(3)焦点調節(水晶体の調節)を満たそうという試みもなされているが十分とは言えず、また(4)単眼の運動視差を実現するまでには至っていない。
【0004】
立体画像をより忠実に表示する表示装置としては、ホログラフィを利用した表示装置がよく知られている。ホログラフィは、上記の(1)両眼視差、(2)両眼のふくそう角、および(3)焦点調節(水晶体の調節)の三点を満たすことができるが、(4)単眼の運動視差の実現は難しい。また、ホログラフィを利用した表示装置は、光学的な書き込みと再生とを行う必要があり、さらに電子的な架空物体を表示させる場合は膨大な干渉縞の計算を行う必要があり、リアルタイムに動画像表示を行うことは非常に困難である。
【0005】
また、上記の(1)〜(4)を満足する方法としては、体積走査法(奥行標本化法)が挙げられる。体積走査法は、前後、左右、上下から自由に観察できるという、言わば真の意味での完全な三次元映像を表示する方法である。体積走査法については、(a)バリフォーカル・ミラー方式、(b)移動ディスプレイ方式、(c)移動スクリーン方式、および(d)アップコンバージョン蛍光方式が知られている。
【0006】
上記(a)バリフォーカル・ミラー方式は、ブラウン管等の画像を前後に振動するミラーの動きに同期させて反射させる方法である。しかしながら、振動するミラーでは像の倍率が変わり、補正が必要である。また、表現できる大きさや画像が見える範囲に限界がある。
【0007】
上記(b)移動ディスプレイ方式は、立体画像の断面図を表示した発光ダイオードディスプレイ等を高速で移動・回転することにより立体像を表示するものである。また、上記(c)移動スクリーン方式は、移動するスクリーンにレーザー光で立体画像の断面図を描くことで立体的に見せるものである。しかしながら、これらの方式では、移動の方向により立体画像が見える範囲に制限があったり、解像度が異なったりする問題がある。また、表示部内に三次元表示装置の構造部材を内包せざるを得ず、基本的に画像が不鮮明になりやすい。
【0008】
上記(d)アップコンバージョン蛍光方式は、蛍光体のアップコンバージョン現象を利用して、特に二段階吸収によるアップコンバージョン現象を用いて、実際の発光面に沿って蛍光体を発光させて三次元の画像を表示するものである(例えば特許文献1および非特許文献1参照)。
非特許文献1では、フッ化物ガラスに蛍光体を析出させたものを表示部とし、この表示部に別々の方向から2つの異なる波長のレーザー光を入射して一点で交差させ、その一点のみを発光させるという方法が提案されている。この方法では、それぞれのレーザー光を同期させながら水平および垂直方向に走査していくことにより、発光点が移動するので立体的な画像を表示することができる。
しかしながら、表示部はフッ化物ガラスに蛍光体を析出させてなるものであり、大型のものを作製するのは困難である。また、フッ化ガラスの組成により発光色に影響が及ぼされるおそれがあり、目的とする発光色を得られない場合がある。さらに、複数の発光色で立体画像を表示する、すなわち立体画像をカラー表示するためには、三原色の単色光のみを発光する蛍光体を選択し、各蛍光体を析出させたフッ化ガラスをそれぞれ作製し、これらを積層して表示部とする必要があり、製造工程が煩雑である。このため、実用化には至っていない。
【0009】
そこで、本発明者は、大型化が可能で、容易に製造可能な三次元表示装置として、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光する蛍光体微粒子を透明液体または透明樹脂に分散させてなる蛍光体微粒子分散体を用いた表示部を有する三次元表示装置を提案した(特許文献2参照)。
【0010】
また、二次元映像を表示する二次元表示装置においても、蛍光体のアップコンバージョン現象の利用が注目されている。従来、CRTディスプレイ、プラズマディスプレイ等では、紫外線で励起されて可視光を発する蛍光体が使用されている。これに対し、上記のアップコンバージョン発光する蛍光体は、赤外線で励起されて可視光を発するものである。赤外線は、紫外線と比較して、安全性やコスト等の面で有利である。そのため、二次元表示装置への蛍光体のアップコンバージョン現象の利用が期待されているのである。
【0011】
例えば特許文献3には、発光材料として、蛍光体の結晶を析出させた結晶化ガラスが提案されている。しかしながら、ガラスに蛍光体を析出させるため、上記非特許文献1と同様に問題がある。
また、蛍光体のアップコンバージョン現象を利用するものではないが、例えば特許文献4には、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイを車載用ディスプレイとして用いることが提案されている。
【0012】
【特許文献1】特表2005−513885号公報
【特許文献2】特開2006−249254号公報
【特許文献3】特開2005−206628号公報
【特許文献4】特開2005−289183号公報
【非特許文献1】"A Three-Color, Solid-State, Three-Dimensional Display" Elizabeth Downing, Lambertus Hesselink, John Ralston, Roger Macfarlane, p.1185-1188, SCIENCE, Vol. 273, 30 August 1996.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
三次元表示装置の表示部は、表示品質の点から透明であることが好ましい。しかしながら、特許文献2に記載の方法では、蛍光体微粒子を透明液体または透明樹脂に分散させるため、蛍光体微粒子によって、表示部に用いられる蛍光体微粒子分散体の透明性が低下する場合があった。
【0014】
同様に、二次元表示装置の表示部も、表示品質の点から透明であることが好ましい。例えば、上述の蛍光体の結晶を析出させた結晶化ガラスを表示部に用いれば、透明な表示部とすることは可能であるが、上述のような問題点がある。また例えば、上述のELディスプレイを表示部に用いる場合、ELディスプレイは、ガラス基板上に透明電極、絶縁層、発光層、絶縁層、透明電極、カバーガラスを順次積層した構造を有していることから、透明な表示部とするためには、すべての構成部材に高い透明性が必要となり、通常は配線等が視認されてしまう。
【0015】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、アップコンバージョン発光する蛍光体粒子を用いたものであって、大型化が可能で、容易に製造可能であり、透明性に優れる蛍光体粒子分散体、三次元表示装置および二次元表示装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、700nm〜2000nmの範囲内の波長の光により励起されてアップコンバージョン発光する蛍光体粒子が、透明液体または透明樹脂に分散されてなる蛍光体粒子分散体であって、上記蛍光体粒子の屈折率と上記透明液体または透明樹脂の屈折率とが略同一であることを特徴とする蛍光体粒子分散体を提供する。
【0017】
本発明の蛍光体粒子分散体を表示装置に用いた場合には、蛍光体粒子の二段階吸収によるアップコンバージョン現象を利用することにより画像を表示することができる。また、蛍光体粒子の屈折率と透明液体または透明樹脂の屈折率とが略同一であるので、蛍光体粒子分散体の透明性を向上させることができ、表示品質に優れる表示装置を得ることができる。
このような本発明の蛍光体粒子分散体は、例えば蛍光体粒子を透明液体中に分散させる、あるいは、蛍光体粒子を透明樹脂中に練り込んだり、蛍光体粒子を透明樹脂の形成に用いられるモノマーに分散させてモノマーを硬化させたりすることにより作製することができるので、容易に製造可能であり、大型化が可能である。また、本発明に用いられる透明液体や透明樹脂は任意に選択可能であり、蛍光体粒子を分散させる媒体の組成によって発光色に影響が及ぼされるのを回避することができ、目的とする発光色を得ることが可能である。
【0018】
上記発明においては、上記蛍光体粒子が、上記700nm〜2000nmの範囲内の波長のうち、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光するものであることが好ましい。本発明の蛍光体粒子分散体を表示装置に用いた場合には、蛍光体粒子の二段階吸収によるアップコンバージョン現象を利用することにより立体画像を表示することができる。また、蛍光体粒子の屈折率と透明液体または透明樹脂の屈折率とが略同一であるので、蛍光体粒子分散体の透明性を向上させることができ、表示品質に優れる表示装置を得ることができる。このような本発明の蛍光体粒子分散体は、例えば蛍光体粒子を透明液体中に分散させる、あるいは、蛍光体粒子を透明樹脂中に練り込んだり、蛍光体粒子を透明樹脂の形成に用いられるモノマーに分散させてモノマーを硬化させたりすることにより作製することができるので、容易に製造可能であり、大型化が可能である。また、本発明に用いられる透明液体や透明樹脂は任意に選択可能であり、蛍光体粒子を分散させる媒体の組成によって発光色に影響が及ぼされるのを回避することができ、目的とする発光色を得ることが可能である。さらに、本発明の蛍光体粒子分散体をカラー表示が可能な三次元表示装置に適用する場合には、例えば互いに異なる発光色を示す複数の蛍光体粒子を透明液体または透明樹脂に分散させた蛍光体粒子分散体とすればよい。したがって、カラー表示の三次元表示装置に用いることができる蛍光体粒子分散体を容易に得ることが可能である。
【0019】
上記発明においては、上記蛍光体粒子が希土類元素を含有し、上記蛍光体粒子の母材がハロゲン化物であることが好ましい。希土類元素を含有する蛍光体粒子は、安定して発光し、かつ十分な発光効率を示すものであり、また有機蛍光体のように保存時の安定性に欠けるといった不具合がないからである。さらに、希土類元素には励起状態において複数のエネルギー準位をもつものが多く、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光するものとして好適であるからである。また、蛍光体粒子の母材がハロゲン化物である場合は発光効率がさらに良好となるからである。
【0020】
この場合、上記希土類元素が、エルビウム(Er)、ホロミウム(Ho)、プラセオジウム(Pr)、ツリウム(Tm)、ネオジウム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ユウロピウム(Eu)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)およびセリウム(Ce)からなる群から選択される少なくとも1つ以上の希土類元素であることが好ましい。アップコンバージョン発光が可能な希土類元素としては、これらのものが好ましいからである。
【0021】
また、本発明の蛍光体粒子分散体は、三次元表示装置の表示部に用いられることが好ましい。本発明の蛍光体粒子分散体は透明性が高いので、上述したように、三次元表示装置の表示部に本発明の蛍光体粒子分散体を用いることにより、表示品質に優れる三次元表示装置を得ることができるからである。
【0022】
上述の発明においては、上記蛍光体粒子が、上記700nm〜2000nmの範囲内の波長のうち、1種の波長の光により励起されてアップコンバージョン発光するものであることも好ましい。本発明の蛍光体粒子分散体を表示装置に用いた場合には、蛍光体粒子の二段階吸収によるアップコンバージョン現象を利用することにより画像を表示することができる。また、蛍光体粒子の屈折率と透明樹脂の屈折率とが略同一であるので、蛍光体粒子分散体の透明性を向上させることができ、表示品質に優れる表示装置を得ることができる。
【0023】
上記発明においては、上記蛍光体粒子が希土類元素を含有し、上記蛍光体粒子の母材がハロゲン化物であることが好ましい。希土類元素を含有する蛍光体粒子は、安定して発光し、かつ十分な発光効率を示すものであり、また有機蛍光体のように保存時の安定性に欠けるといった不具合がないからである。さらに、希土類元素は、1種の波長の光により励起されてアップコンバージョン発光することが可能だからである。また、蛍光体粒子の母材がハロゲン化物である場合は発光効率がさらに良好となるからである。
【0024】
この場合、上記希土類元素が、エルビウム(Er)、ホロミウム(Ho)、プラセオジウム(Pr)、ツリウム(Tm)、ネオジウム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ユウロピウム(Eu)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)およびセリウム(Ce)からなる群から選択される少なくとも1つ以上の希土類元素であることが好ましい。1種の波長の光により励起されてアップコンバージョン発光することが可能な希土類元素としては、これらのものが好ましいからである。
【0025】
上記の場合、上記蛍光体粒子がイッテルビウム(Yb)をさらに含有することが好ましい。イッテルビウム(Yb)は光に対する感度が良好であり、増感剤として機能するからである。また、イッテルビウム(Yb)と上記希土類元素とのエネルギー準位が近い場合には、エネルギーの移動が起こり、1種の波長の光によるアップコンバージョン発光に有利となるからである。
【0026】
また、本発明の蛍光体粒子分散体は、二次元表示装置の表示部に用いられることも好ましい。本発明の蛍光体粒子分散体は透明性が高いので、上述したように、二次元表示装置の表示部に本発明の蛍光体粒子分散体を用いることにより、表示品質に優れる二次元表示装置を得ることができるからである。
【0027】
さらに、本発明は、上述の蛍光体粒子分散体を有する表示部と、上記表示部の周囲に配置された2つ以上の赤外光源と、上記赤外光源から発せられた光の方向を制御する制御手段とを有することを特徴とする三次元表示装置を提供する。
【0028】
本発明によれば、表示部に上述した蛍光体粒子分散体を用いているので、透明性が高く、良好な画像表示を得ることができる。また、表示部の大型化が可能である。さらに、上述したように蛍光体粒子分散体では蛍光体粒子が分散される媒体を任意に選択することができるので、媒体の組成によって発光色に影響が及ぼされるのを回避することができる。また、カラー表示が可能な三次元表示装置とする場合には、蛍光体粒子分散体が容易に製造可能であるので、表示部も容易に得ることが可能である。
【0029】
また、本発明は、上述の蛍光体粒子分散体を有する表示部と、上記表示部に赤外光を投射する赤外光源と、上記赤外光源から発せられた光の方向を制御する制御手段とを有することを特徴とする二次元表示装置を提供する。
【0030】
本発明によれば、表示部に上述した蛍光体粒子分散体を用いているので、透明性が高く、良好な画像表示を得ることができる。また、表示部の大型化が可能である。さらに、上述したように蛍光体粒子分散体では蛍光体粒子が分散される媒体を任意に選択することができるので、媒体の組成によって発光色に影響が及ぼされるのを回避することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の蛍光体粒子分散体は、透明性に優れるので表示品質を向上させ、大型化が可能であり、容易に製造可能であるという効果を奏する。また、蛍光体粒子を分散させる透明液体や透明樹脂は任意に選択可能であり、媒体の組成によってアップコンバージョン発光の発光色が影響されるのを回避することができ、目的とする発光色を得ることができるという効果を奏する。さらに、本発明の蛍光体粒子分散体は、カラー表示が可能な三次元表示装置や、二次元表示装置に好適に用いることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の蛍光体粒子分散体、三次元表示装置、および二次元表示装置について詳細に説明する。
【0033】
A.蛍光体粒子分散体
本発明の蛍光体粒子分散体は、700nm〜2000nmの範囲内の波長の光により励起されてアップコンバージョン発光する蛍光体粒子が、透明液体または透明樹脂に分散されてなる蛍光体粒子分散体であって、上記蛍光体粒子の屈折率と上記透明液体または透明樹脂の屈折率とが略同一であることを特徴とするものである。
本発明の蛍光体粒子分散体は、蛍光体粒子が、700nm〜2000nmの範囲内の波長のうち、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光するものであるか、あるいは、1種の波長の光により励起されてアップコンバージョン発光するものであるかにより、2つの実施態様に分けることができる。以下、各実施態様に分けて説明する。
【0034】
I.第1実施態様
本発明の蛍光体粒子分散体の第1実施態様は、700nm〜2000nmの範囲内の波長のうち、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光する蛍光体粒子が、透明液体または透明樹脂に分散されてなる蛍光体粒子分散体であって、上記蛍光体粒子の屈折率と上記透明液体または透明樹脂の屈折率とが略同一であることを特徴とするものである。
【0035】
本実施態様におけるアップコンバージョン発光について、図面を参照しながら説明する。図1においては、希土類元素としてエルビウム(Er)を用いた系であり、励起光として1500nmおよび850nmの赤外光を照射した例が示されている。まず、図1(a)に示すように、1500nmの励起光によりエルビウムが励起されて115/2からよりエネルギー準位の高い113/2に移動する。そして、図1(b)に示すように、850nmの励起光によりエルビウムが励起され、さらにエルビウムのエネルギー準位を113/2から43/2に押し上げる。そして、図1(c)に示すように、上記励起されたエルビウムが基底状態に戻る際に、545nmの光を発光する。
【0036】
このように本実施態様においては、1500nmおよび850nmの光で励起されたものが、よりエネルギーの高い545nmの光を発するような場合、すなわち励起光より高いエネルギーを発光するような場合をアップコンバージョン発光というのである。
【0037】
本実施態様における蛍光体粒子は、例えばこのようなアップコンバージョン発光を生じる希土類元素等を含有するものであるので、エネルギーの高い光、例えば紫外光等で励起する必要がない。また、本実施態様の蛍光体粒子分散体を例えば表示装置に用いる場合、通常、発光は可視光であることが好ましい。したがって、アップコンバージョン発光の場合は可視光より波長の長い光が励起光として用いられる。このため、励起光波長と発光波長が重なることがほとんどなく、良好な画像表示が得られるのである。
【0038】
また本実施態様における蛍光体粒子は、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光するものである。すなわち、蛍光体粒子は、図2に例示するように波長λ1の赤外光1および波長λ2の赤外光2の2種類の励起光により励起されて、波長λ3の光を発することができる。
このように、2種以上の異なる波長の励起光によりエネルギー準位を経て励起されアップコンバージョン発光する場合を、本実施態様においては二段階吸収によるアップコンバージョン発光という。
【0039】
図2に例示したアップコンバージョン発光を示す蛍光体粒子を透明樹脂に分散してなる蛍光体粒子分散体を用いた三次元表示装置について、図3に示す。図3に例示するように、本実施態様の蛍光体粒子分散体からなる表示部11の一方向から波長λ1の赤外光15a(図2の赤外光1)を照射し、別の方向から波長λ2の赤外光15b(図2の赤外光2)を照射して、一点で交差させる。そうすると、赤外光15a(図2の赤外光1)および赤外光15b(図2の赤外光2)が交差した点13が発光する。この際に、図2に例示するアップコンバージョン発光が起こるからである。そして、赤外光15aおよび赤外光15bを同期させながら水平および垂直方向に走査すると、発光点13が立体的に移動するので、三次元の画像を表示することができる。
【0040】
また本実施態様においては、蛍光体粒子の屈折率と透明液体または透明樹脂の屈折率とが略同一であるので、蛍光体粒子分散体の透明性を向上させることができる。したがって、本実施態様の蛍光体粒子分散体を例えば表示装置に用いる場合には、表示品質を高めることができる。
【0041】
なお、「蛍光体粒子の屈折率と透明液体または透明樹脂の屈折率とが略同一である」とは、蛍光体粒子の屈折率と透明液体または透明樹脂の屈折率との差が±0.05以内であることをいう。蛍光体粒子の屈折率と透明液体または透明樹脂の屈折率との差は、好ましくは±0.03以内、より好ましくは±0.01以内である。
【0042】
また、「透明樹脂の屈折率」とは、蛍光体粒子分散体を構成する透明樹脂の屈折率をいう。例えば、透明樹脂が光硬化性樹脂または熱硬化性樹脂である場合であって、光硬化性樹脂または熱硬化性樹脂の原料としてモノマーを用いる場合には、透明樹脂の屈折率とは、モノマーの屈折率ではなく、モノマーの硬化後の屈折率をいう。
ここで、一般に、モノマーの硬化後の屈折率は、モノマーの屈折率よりもわずかに高くなる傾向がある。しかしながら、モノマーの屈折率に対するモノマーの硬化後の屈折率の増加分は、蛍光体粒子の屈折率および透明樹脂の屈折率が略同一となることに影響のない程度のものであり、蛍光体粒子の屈折率および透明樹脂の原料であるモノマーの屈折率が略同一であれば、蛍光体粒子の屈折率および透明樹脂の屈折率が略同一となるとみなすことがきる。すなわち、蛍光体粒子の屈折率および透明樹脂の屈折率が略同一であるとは、蛍光体粒子の屈折率および透明樹脂の原料であるモノマーの屈折率が略同一であるともいえる。
このとき、蛍光体粒子の屈折率と透明樹脂の原料であるモノマーの屈折率との差は、±0.05以内であることが好ましく、より好ましくは±0.03以内、さらに好ましくは±0.01以内である。
【0043】
蛍光体粒子の屈折率は、液浸法を用いて測定した値とする。蛍光体粒子を屈折液(例えばカーギル標準屈折液:(株)モリテックス製)に入れ、横から光をあてる。屈折液の屈折率を変化させていくと、蛍光体粒子の屈折率と一致した点で散乱光が消え透明になる。このときの屈折液の屈折率で蛍光体粒子の屈折率を決定する。なお、自然光または白色光の下で屈折率の決定を行う。
透明樹脂の屈折率は、カルニュー光学社製屈折率計KPR−200、カールツァイスイエナ社製屈折率計PR−2型、およびアタゴ社製アッベ屈折計NAR−1T SOLIDを用いて測定した値とする。
また、透明液体の屈折率は、カルニュー光学社製精密屈折計KPR−30Vを用いて測定した値とする。
【0044】
さらに、本実施態様の蛍光体粒子分散体は、蛍光体粒子が透明液体または透明樹脂に分散されてなるものであり、例えば蛍光体粒子を透明液体中に分散させる、あるいは蛍光体粒子を透明樹脂中に練り込んだり、蛍光体粒子を透明樹脂の形成に用いられるモノマー等に分散させた後にモノマーを硬化させたりすることにより作製することができる。したがって、容易に製造可能であり、また大型化が可能である。
【0045】
また、背景技術の欄に記載したフッ化物ガラスに蛍光体を析出させたものでは、蛍光体を析出させる媒体が限られるのに対し、本実施態様においては蛍光体粒子を分散させる透明液体や透明樹脂は任意に選択可能であり、媒体の組成によって発光色に影響が及ぼされるのを回避することができる。したがって、目的とする発光色を得ることが可能である。
【0046】
さらに、本実施態様の蛍光体粒子分散体を例えばカラー表示が可能な三次元表示装置に適用する場合には、三原色の各色に相当する波長でアップコンバージョン発光を示す各蛍光体粒子を透明液体または透明樹脂に分散させた蛍光体粒子分散体とすればよい。したがって、カラー表示の三次元表示装置に用いることができる蛍光体粒子分散体を容易に得ることが可能である。
【0047】
以下、本実施態様の蛍光体粒子分散体の各構成について説明する。
【0048】
1.蛍光体粒子
本実施態様における蛍光体粒子は、母材に蛍光を発する元素等がドープされた、いわゆる付活型の蛍光体の粒子であることが好ましい。元素等の種類やドープ量により、発光の強さや色を調整することができるからである。
【0049】
この際、蛍光体粒子に含有される蛍光を発する元素等としては、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光することが可能であり、かつ所定の範囲内の波長の光により励起されるものであれば特に限定されるものではない。このような蛍光体粒子分散体を用いた三次元表示装置では、蛍光体粒子の二段階吸収によるアップコンバージョン現象を利用することにより立体画像を表示することが可能となるからである。
【0050】
本実施態様においては特に蛍光体粒子が希土類元素を含有することが好ましい。希土類元素には励起状態において複数のエネルギー準位をもつものが多く、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光するものとして好適であるからである。
【0051】
本実施態様に用いられる希土類元素は、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光するものであれば特に限定されるものではない。一般的には3価のイオンとなる希土類元素を挙げることができ、中でも、エルビウム(Er)、ホロミウム(Ho)、プラセオジウム(Pr)、ツリウム(Tm)、ネオジウム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ユウロピウム(Eu)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)およびセリウム(Ce)が好適に用いられる。これらの希土類元素は、1種類で用いても、2種類以上同時に用いてもよい。
【0052】
上記希土類元素のアップコンバージョン発光の例として、図4(a)〜(c)にプラセオジウム(Pr)、エルビウム(Er)、およびツリウム(Tm)のアップコンバージョン発光についてそれぞれ示す。また、図示しないが、例えばエルビウム(Er)については、励起光として1120nmおよび1500nmの光を照射した場合、アップコンバージョン過程を経て、Er3+イオンのエネルギー準位において、660nm(49/2415/2)の赤色発光を示す。
【0053】
また本実施態様においては、蛍光体粒子がイッテルビウム(Yb)を含有していてもよい。イッテルビウム(Yb)は光に対する感度が良好であるので、増感剤として機能するからである。
【0054】
ここで、上述した2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光する希土類元素と、イッテルビウム(Yb)とを用いた系について説明する。イッテルビウムを励起するとエネルギーが生じるが、このイッテルビウムの励起により生じたエネルギーがエネルギー移動することにより、上記希土類元素のエネルギー準位を押し上げることができる場合がある。これは、イッテルビウムのエネルギー準位と上記希土類元素のエネルギー準位とが近い場合は、エネルギーの移動が起こりうるからである。したがって、例えば2種の異なる波長の励起光を用いる場合は、一方の励起光をイッテルビウムの励起波長の光とし、もう一方の励起光を希土類元素の励起波長の光とすることができるのである。この場合には、イッテルビウムが光に対する感度が良いので、効率的にアップコンバージョン発光することが可能となる。
【0055】
また本実施態様の蛍光体粒子分散体をカラー表示が可能な三次元表示装置に適用する場合には、蛍光体粒子が複数の発光色を示すものである、あるいは蛍光体粒子分散体が互いに異なる発光色を示す複数の蛍光体粒子を含有する、ことが好ましい。すなわち、蛍光体粒子分散体が、複数の発光色を示す1種の蛍光体粒子を含有する、あるいはそれぞれ単一の発光色を示す複数の蛍光体粒子を含有する、ことが好ましい。
【0056】
上記蛍光体粒子が複数の発光色を示すものである場合には、特に三原色の赤・緑・青の発光色を示すものであることが好ましい。この場合には、例えば複数の希土類元素を含有する蛍光体粒子とすることにより複数の発光色を得ることができる。
【0057】
この際、蛍光体粒子に含有される複数の希土類元素は、それぞれ異なる波長の光で励起されアップコンバージョン発光するものであることが好ましい。本実施態様の蛍光体粒子分散体を用いた三次元表示装置では、例えば2つの赤外光を走査することにより発光点を立体的に移動させるので、ほぼ同一の波長の光により励起されアップコンバージョン発光する希土類元素を複数用いると、各色の発光点を別々に移動させることが困難となるからである。
1種の希土類元素を励起してアップコンバージョン発光させるには、上述したように2種以上の波長の異なる赤外光を照射することから、それぞれの希土類元素をアップコンバージョン発光させるために用いる励起光の波長が、それぞれ異なることが好ましい。具体的には±5nm以上異なることが好ましく、より好ましくは±10nm以上異なることが好ましい。
【0058】
一方、上記蛍光体粒子分散体が互いに異なる発光色を示す複数の蛍光体粒子を含有する場合には、特に三原色の赤・緑・青の発光色をそれぞれ示す蛍光体粒子を含有することが好ましい。この場合には、例えば互いに異なる希土類元素をそれぞれ含有する蛍光体粒子を含む蛍光体粒子分散体とすることにより複数の発光色を得ることができる。
【0059】
この際、それぞれの蛍光体粒子に含有される希土類元素は、上記の場合と同様に、それぞれ異なる波長の光で励起されアップコンバージョン発光するものであることが好ましい。なお、励起光の波長の差としては、上記と同様である。
【0060】
このように本実施態様の蛍光体粒子分散体をカラー表示が可能な三次元表示装置に適用する場合には、希土類元素をアップコンバージョン発光させる励起光の波長を考慮して、希土類元素の種類が適宜選択される。
【0061】
希土類元素をアップコンバージョン発光させる励起光の波長の範囲としては、赤外領域であることが好ましく、少なくとも700nm〜2000nmの範囲内の波長であり、中でも700nm〜1800nmの範囲内、特に800nm〜1600nmの範囲内の波長であることが好ましい。
【0062】
また、本実施態様に用いられる母材としては、希土類元素を担持するものであって、上記希土類元素をアップコンバージョン発光可能な状態で担持するものであれば特に限定されるものではない。例えば、希土類元素と反応し、錯体、デンドリマー等を形成する有機物であってもよく、無機物であってもよい。中でも、無機物を使用することが好ましい。希土類元素を発光可能な状態で含有させることが容易であり、高い発光強度が得られるからである。
【0063】
無機物の母材としては、発光効率の観点から励起光に対して透明性を有する材料が好ましい。具体的には、ハロゲン化物、酸化物、硫化物などが好ましく用いられ、特にハロゲン化物が好適に用いられる。蛍光体粒子の母材がハロゲン化物である場合、発光効率がさらに良好となるからである。
【0064】
ハロゲン化物としては、例えば、塩化ランタン(LaCl3)、塩化イットリウム(YCl3)、塩化バリウム(BaCl2)、塩化鉛(PbCl2)等の塩化物、フッ化鉛(PbF2)、フッ化カドミニウム(CdF2)、フッ化ランタン(LaF3)、フッ化イットリウム(YF3)等のフッ化物などを挙げることができる。また、イットリウム・ランタンフッ化物等の異種元素を含有するハロゲン化物を用いることもできる。
【0065】
中でも、フッ化物が好ましい。フッ化物は、フォノンエネルギーが低く、二段階吸収によるアップコンバージョン発光に適した母材であるからである。また、一般的にハロゲン化物は水等に対して不安定であるが、ハロゲン化物の中ではフッ化物が最も安定性が高いからである。後述するように、透明液体または透明樹脂は通常は有機物であり、無機物と有機物とでは無機物の方が屈折率が高い傾向にあるため、透明液体または透明樹脂の屈折率を考慮すると、蛍光体粒子の屈折率は比較的低いことが好ましい。母材がフッ化物である場合は、母材が塩化物である場合よりも屈折率が低くなる傾向にあるため、フッ化物が好適に用いられるのである。また、母材がフッ化物である場合は、母材が酸化物である場合よりも屈折率が低くなる傾向にある。
【0066】
母材としてハロゲン化物を用いた場合は、周囲に保護層が形成されていることが好ましい。ハロゲン化物は一般的に水等に対して不安定であり、ハロゲン化物を母材とする蛍光体粒子をそのまま用いると正確に画像を表示できない場合があるからである。このような場合は、ハロゲン化物を母材とする蛍光体粒子の周囲に耐水性等を有する被覆材を形成し、複合核部にするとよい。この被覆材としては、酸化イットリウム(Y23)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化シリコン(SiO2)、酸化タンタル(Ta25)等の酸化物を好適に用いることができる。
【0067】
本実施態様においては、蛍光体粒子の屈折率と透明液体または透明樹脂の屈折率とが略同一となるように、蛍光体粒子の母材が適宜選択される。
【0068】
一般に、無機物と有機物とでは無機物の方が屈折率が高い傾向にある。また、後述するように、透明液体または透明樹脂は通常は有機物である。そのため、例えば蛍光体粒子の母材が無機物である場合には、蛍光体粒子と透明液体または透明樹脂とでは、蛍光体粒子の方が屈折率が高くなる傾向にある。したがって、透明液体または透明樹脂の屈折率を考慮すると、蛍光体粒子の屈折率は比較的低いことが好ましい。
【0069】
また、母材として異種元素を含有するハロゲン化物等を用いる場合には、この異種元素の配合比を変えることにより、蛍光体粒子の屈折率を調整することができる。例えば、フッ化イットリウムにエルビウムがドープされた(Y0.999,Er0.001)F3粒子の屈折率は約1.53であり、フッ化ランタンにエルビウムがドープされた(La0.999,Er0.001)F3粒子の屈折率は約1.60であるので、母材としてイットリウム・ランタンフッ化物を用い、イットリウムおよびランタンの配合比を変えることにより、蛍光体粒子の屈折率を調整することができる。
【0070】
蛍光体粒子の平均粒子径としては特に限定されるものではなく、例えば0.001μm〜100μm程度のものを用いることができる。
なお、上記平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の電子顕微鏡写真より100個の蛍光体粒子を抽出し、それぞれの粒子径を平均した値とする。
【0071】
また、蛍光体粒子分散体中の蛍光体粒子の含有量としては、特に限定されるものではない。一般に、蛍光体粒子の含有量が低いほど発光強度が小さくなり、蛍光体粒子の含有量が多いほど発光強度が大きくなる傾向にある。ただし、蛍光体粒子の含有量が多すぎると蛍光体粒子により散乱が生じるので、発光強度が低下する可能性がある。
このように蛍光体粒子分散体中の蛍光体粒子の含有量は、アップコンバージョン発光の発光強度等を考慮し、本発明の用途に応じて適宜調整される。
【0072】
蛍光体粒子の合成方法としては、本発明の目的に適う蛍光体粒子を得ることができれば特に限定されるものではない。
【0073】
2.透明樹脂
本実施態様に用いられる透明樹脂としては、上記蛍光体粒子を分散可能なものであれば特に限定されるものではないが、蛍光体粒子を固定化することができるものであることが好ましい。このような透明樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、および光硬化性樹脂のいずれも用いることができる。これらの熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、および光硬化性樹脂としては、一般的に使用されているものを用いることができる。
【0074】
中でも、光硬化性樹脂が好ましい。光硬化性樹脂を用いる場合、例えば、光硬化性樹脂の形成に用いられるモノマーと上記蛍光体粒子とを混合した後、モノマーを硬化させることにより、光硬化性樹脂に蛍光体粒子が分散された蛍光体粒子分散体を得ることができる。そのため、透明樹脂が光硬化性樹脂である場合には、透明樹脂への蛍光体粒子の分散性を良好なものとすることができる。
【0075】
また、透明樹脂としては、光学的に透明であるものであることが好ましく、さらには光安定性等に優れていることが好ましい。このような透明樹脂としては、例えば、シクロオレフィンポリマー、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)等を挙げることができる。
【0076】
本実施態様においては、透明樹脂の屈折率と蛍光体粒子の屈折率とが略同一となるように、透明樹脂が適宜選択される。この際、透明樹脂が光硬化性樹脂または熱硬化性樹脂である場合であって、光硬化性樹脂または熱硬化性樹脂の原料としてモノマーを用いる場合には、上述したように、蛍光体粒子の屈折率および透明樹脂の屈折率が略同一であるとは、蛍光体粒子の屈折率および透明樹脂の原料であるモノマーの屈折率が略同一であるともいえるので、透明樹脂の原料であるモノマーの屈折率および蛍光体粒子の屈折率が略同一となるように、モノマーを選択してもよい。
【0077】
上述したように、一般に無機物と有機物とでは無機物の方が屈折率が高い傾向にある。また、透明樹脂としては通常、有機物が用いられる。そのため、例えば蛍光体粒子の母材が無機物である場合には、蛍光体粒子と透明樹脂とでは、蛍光体粒子の方が屈折率が高くなる傾向にある。したがって、蛍光体粒子の屈折率を考慮すると、透明樹脂の屈折率は比較的高いことが好ましい。
【0078】
また、透明樹脂として透明樹脂を用いる場合には、透明樹脂が有する官能基を変えることにより、透明樹脂の屈折率を調整することができる。
【0079】
3.透明液体
本実施態様に用いられる透明液体としては、上記蛍光体粒子を分散可能なものであれば特に限定されるものではないが、蛍光体粒子の分散性が良好であり、アップコンバージョン発光に影響を及ぼさない、具体的には発光強度を著しく低下させないものであることが好ましい。このような透明液体としては、例えば非水系溶媒が挙げられる。水系溶媒に比較して非水系溶媒を用いた方が、透明液体の影響により発光強度が低下するのを抑えることができるからである。
【0080】
上記非水系溶媒としては、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール系溶媒;ジクロルエチルエーテル、イソプロピルエーテル、n−ブチルエーテル等のエーテル系溶媒;トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル等のエステル系溶媒;エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコール系溶媒;HFE-7100(商品名、住友スリーエム(株)製)、HFE-7200(商品名、住友スリーエム(株)製)等のフッ素系溶媒;などが挙げられる。これらの非水系溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0081】
本実施態様においては、透明液体の屈折率と蛍光体粒子の屈折率とが略同一となるように、透明液体が適宜選択される。
【0082】
上述したように、一般に無機物と有機物とでは無機物の方が屈折率が高い傾向にある。また、透明液体としては通常、有機物が用いられる。そのため、例えば蛍光体粒子の母材が無機物である場合には、蛍光体粒子と透明液体とでは、蛍光体粒子の方が屈折率が高くなる傾向にある。したがって、蛍光体粒子の屈折率を考慮すると、透明液体の屈折率は比較的高いことが好ましい。
【0083】
4.蛍光体粒子分散体
本実施態様の蛍光体粒子分散体は透明であることが好ましい。蛍光体粒子分散体が不透明であると、三次元表示装置に用いた場合に表示品質が低下するおそれがあるからである。具体的には、蛍光体粒子分散体の可視領域における平均透過率が10%以上であることが好ましく、より好ましくは中でも30%以上、最も好ましくは70%以上である。
なお、上記平均透過率は、波長380nm〜800nmの範囲内において、島津製作所(株)社製 UV−3100を用いて測定した値の平均値とする。
【0084】
本実施態様の蛍光体粒子分散体は、例えば、三次元表示装置の表示部等に適用することができる。中でも、本実施態様の蛍光体粒子分散体は三次元表示装置の表示部に好適に用いられる。本実施態様の蛍光体粒子分散体は透明性が高いので、表示品質に優れた三次元表示装置を得ることができるからである。
【0085】
また、本実施態様の蛍光体粒子分散体の製造方法としては、蛍光体粒子が透明樹脂または透明液体のいずれに分散されているかによって適宜選択される。
【0086】
蛍光体粒子分散体が、蛍光体粒子が透明樹脂に分散されてなるものである場合には、透明樹脂に蛍光体粒子を混入もしくは混練させることにより蛍光体粒子分散体を得ることができる。さらに、透明樹脂が光硬化性樹脂または熱硬化性樹脂である場合には、光硬化性樹脂または熱硬化性樹脂の形成に用いられるモノマーに蛍光体粒子を分散させ、その後モノマーを硬化させることにより蛍光体粒子分散体を得ることができる。透明樹脂が光硬化性樹脂または熱硬化性樹脂である場合、上記の光硬化性樹脂または熱硬化性樹脂の形成に用いられるモノマーには、開始剤等を添加してもよい。この場合、開始剤の屈折率は、蛍光体粒子の屈折率および透明樹脂の屈折率との差が比較的小さいことが好ましい。
【0087】
また、蛍光体粒子が透明液体に分散されてなるものである場合には、透明液体に蛍光体粒子を分散させることにより蛍光体粒子分散体を得ることができる。得られた蛍光体粒子分散体の粘度としては、特に限定されるものではなく、本発明の用途に合わせて適宜調整される。本実施態様の蛍光体粒子分散体を例えば三次元表示装置に適用する場合には、蛍光体粒子分散体の粘度は蛍光体粒子が沈降しにくい粘度であることが好ましい。
【0088】
II.第2実施態様
本発明の蛍光体粒子分散体の第2実施態様は、700nm〜2000nmの範囲内の波長のうち、1種の波長の光により励起されてアップコンバージョン発光する蛍光体粒子が、透明樹脂に分散されてなる蛍光体粒子分散体であって、上記蛍光体粒子の屈折率と上記透透明樹脂の屈折率とが略同一であることを特徴とするものである。
【0089】
本実施態様におけるアップコンバージョン発光について、図面を参照しながら説明する。図5においては、イッテルビウム(Yb)とエルビウム(Er)の2種類を用いた系であり、励起光として980nmの赤外光を照射した例が示されている。まず、図5(a)に示すように、980nmの励起光によりイッテルビウムが励起されて27/2からよりエネルギー準位の高い25/2に移動する。そして、このエネルギーが、エネルギー移動1により、エルビウムのエネルギー準位を、415/2から411/2に押し上げる。そして、図5(b)に示すように、同様に980nmの励起光によりイッテルビウムが励起され、このエネルギーがエネルギー移動2により、さらにエルビウムのエネルギー準位を411/2から411/2に押し上げる。そして、図5(c)に示すように、上記励起されたエルビウムが基底状態に戻る際に、550nmの光を発光する。
【0090】
このように本実施態様においては、980nmの光で励起されたものが、よりエネルギーの高い550nmの光を発するような場合、すなわち励起光より高いエネルギーを発光するような場合をアップコンバージョン発光というのである。
【0091】
本実施態様における蛍光体粒子は、例えばこのようなアップコンバージョン発光を生じる希土類元素等を含有するものであるので、エネルギーの高い光、例えば紫外光等で励起する必要がない。また、本実施態様の蛍光体粒子分散体を例えば表示装置に用いる場合、通常、発光は可視光であることが好ましい。したがって、アップコンバージョン発光の場合は可視光より波長の長い光が励起光として用いられる。このため、励起光波長と発光波長が重なることがほとんどなく、良好な画像表示が得られるのである。
【0092】
また本実施態様における蛍光体粒子は、1種の波長の光により励起されてアップコンバージョン発光するものである。すなわち、蛍光体粒子は、図6に例示するように波長λ4の赤外光4の1種類の励起光により励起されて、波長λ5の光を発することができる。
このように、1種の波長の励起光によりエネルギー準位を経て励起されアップコンバージョン発光する場合を、本実施態様においては二段階吸収によるアップコンバージョン発光という。
【0093】
図6に例示したアップコンバージョン発光を示す蛍光体粒子を透明樹脂に分散してなる蛍光体粒子分散体を用いた二次元表示装置について、図7に示す。図7(a)および(b)に例示するように、本実施態様の蛍光体粒子分散体からなる表示部11の一方向から波長λ4の赤外光15(図6の赤外光4)を照射する。そうすると、赤外光15(図6の赤外光4)が照射された部分が発光する。この際に、図6に例示するアップコンバージョン発光が起こるからである。そして、赤外光15を水平および垂直方向に走査すると、発光部分が平面的に移動するので、二次元の画像を表示することができる。図7(a)に示す例においては、赤外光15が照射される表示部11の面が画像表示面20となり、図7(b)に示す例においては、赤外光15が照射される表示部11の面と垂直な面が画像表示面20となりうる。
【0094】
また本実施態様においては、蛍光体粒子の屈折率と透明樹脂の屈折率とが略同一であるので、蛍光体粒子分散体の透明性を向上させることができる。したがって、本実施態様の蛍光体粒子分散体を例えば表示装置に用いる場合には、表示品質を高めることができる。
【0095】
なお、「蛍光体粒子の屈折率と透明樹脂の屈折率とが略同一である」こと、「透明樹脂の屈折率」、蛍光体粒子の屈折率の測定方法、および、透明樹脂の屈折率の測定方法については、上記第1実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0096】
さらに、本実施態様の蛍光体粒子分散体は、蛍光体粒子が透明樹脂に分散されてなるものであり、例えば蛍光体粒子を透明樹脂中に練り込んだり、蛍光体粒子を透明樹脂の形成に用いられるモノマー等に分散させた後にモノマーを硬化させたりすることにより作製することができる。したがって、容易に製造可能であり、また大型化が可能である。
【0097】
また、従来のガラスに蛍光体を析出させたものでは、蛍光体を析出させる媒体が限られるのに対し、本実施態様においては蛍光体粒子を分散させる透明樹脂は任意に選択可能であり、媒体の組成によって発光色に影響が及ぼされるのを回避することができる。したがって、目的とする発光色を得ることが可能である。
【0098】
なお、透明樹脂については、上記第1実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。以下、本実施態様の蛍光体粒子分散体の他の構成について説明する。
【0099】
1.蛍光体粒子
本実施態様における蛍光体粒子は、母材に蛍光を発する元素等がドープされた、いわゆる付活型の蛍光体の粒子であることが好ましい。元素等の種類やドープ量により、発光の強さや色を調整することができるからである。
【0100】
この際、蛍光体粒子に含有される蛍光を発する元素等としては、1種の波長の光により励起されてアップコンバージョン発光することが可能であり、かつ所定の範囲内の波長の光により励起されるものであれば特に限定されるものではない。このような蛍光体粒子分散体を用いた二次元表示装置では、蛍光体粒子の二段階吸収によるアップコンバージョン現象を利用することにより画像を表示することが可能となるからである。
【0101】
本実施態様においては特に蛍光体粒子が希土類元素を含有することが好ましい。希土類元素は、1種の波長の光により励起されてアップコンバージョン発光することが可能だからである。
【0102】
本実施態様に用いられる希土類元素は、1種の波長の光により励起されてアップコンバージョン発光するものであれば特に限定されるものではない。一般的には3価のイオンとなる希土類元素を挙げることができ、中でも、エルビウム(Er)、ホロミウム(Ho)、プラセオジウム(Pr)、ツリウム(Tm)、ネオジウム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ユウロピウム(Eu)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)およびセリウム(Ce)が好適に用いられる。これらの希土類元素は、1種類で用いても、2種類以上同時に用いてもよい。
【0103】
また本実施態様においては、蛍光体粒子がイッテルビウム(Yb)を含有することが好ましい。イッテルビウム(Yb)は光に対する感度が良好であるので、増感剤として機能するからである。また、図5に例示するように、イッテルビウムの励起により生じたエネルギーがエネルギー移動することにより、上記希土類元素のエネルギー準位を押し上げることができる場合がある。これは、イッテルビウムのエネルギー準位と上記希土類元素のエネルギー準位とが近い場合は、エネルギーの移動が起こりうるからである。したがって、1種の波長の励起光としてイッテルビウムの励起波長の光を用い、イッテルビウムの励起により生じたエネルギーがエネルギー移動することを利用して、1種の波長の光によりアップコンバージョン発光を得ることができる。この場合、イッテルビウムが光に対する感度が良いので、効率的にアップコンバージョン発光することが可能となる。
【0104】
なお、希土類元素をアップコンバージョン発光させる励起光の波長の範囲、母材、蛍光体粒子の平均粒子径、蛍光体粒子分散体中の蛍光体粒子の含有量、および、蛍光体粒子の合成方法については、上記第1実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0105】
2.蛍光体粒子分散体
本実施態様の蛍光体粒子分散体は透明であることが好ましい。蛍光体粒子分散体が不透明であると、二次元表示装置に用いた場合に表示品質が低下するおそれがあるからである。
なお、蛍光体粒子分散体の可視領域における平均透過率については、上記第1実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0106】
また、本実施態様の蛍光体粒子分散体を例えば二次元表示装置に用いる場合、蛍光体粒子分散体の厚みは、用途に応じて適宜選択される。上記厚みが比較的薄い場合には、フレキシブルな表示装置とすることが可能であり、軽量化や小型化も可能であり、さらにはロールトゥロールで表示装置が作製可能となるので生産性が向上するという利点がある。上記厚みを比較的薄くする場合には、所望の発光輝度を得るために、蛍光体粒子分散体中の蛍光体粒子の含有量を比較的高くすればよい。
【0107】
また、蛍光体粒子分散体は、基材上に形成されていてもよい。蛍光体粒子分散体は基材上に形成されている場合には、強度や耐候性を高めることができる。また、蛍光体粒子分散体を基材上に形成する場合には、蛍光体粒子分散体の厚みを比較的薄くすることが可能である。
さらに、蛍光体粒子分散体は、2枚の基材間に挟持されていてもよい。
【0108】
基材としては、赤外領域における透過率、具体的には700nm〜2000nmの範囲内における透過率が比較的高いことが好ましい。このような基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等を挙げることができる。
また、基材の厚みとしては、用途に応じて適宜選択される。
【0109】
本実施態様の蛍光体粒子分散体は、二次元表示装置の表示部等に好適に用いられる。本実施態様の蛍光体粒子分散体は透明性が高いので、表示品質に優れた二次元表示装置を得ることができるからである。
蛍光体粒子分散体を二次元表示装置の表示部に用いる場合、蛍光体粒子分散体の形態としては、スクリーン等とすることができる。
【0110】
なお、蛍光体粒子分散体の製造方法については、上記第1実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0111】
B.三次元表示装置
次に、本発明の三次元表示装置について説明する。本発明の三次元表示装置は、上述した蛍光体粒子分散体を有する表示部と、上記表示部の周囲に配置された2つ以上の赤外光源と、上記赤外光源から発せられた光の方向を制御する制御手段とを有することを特徴とするものである。
【0112】
図3に本発明の三次元表示装置の一例を示す。図3に示すように、本発明の三次元表示装置10は、蛍光体粒子分散体からなる表示部11と、この表示部11の周囲に配置された2つの赤外光源12a,12bとを有している。赤外光源12a,12bはそれぞれ異なる波長の赤外光15a,15bを発するものである。さらに、赤外光源12a,12bは移動可能であり、赤外光15a,15bの方向を任意に変えることができる。この三次元表示装置10では、赤外光源12a,12bを移動する手段が赤外光15a,15bの方向を制御する制御手段となっている。
【0113】
赤外光源12a,12bにより表示部11に対して互いに異なる方向から赤外光15a,15bを照射し、赤外光15aと赤外光15bとを交差させると、交差した点13が発光する。これは、蛍光体粒子分散体中の蛍光体粒子が、異なる波長の赤外光15a,15bによって励起され、すなわち例えば図2に示すように二段階吸収により励起されアップコンバージョン発光するからである。そして、赤外光源12a,12bは移動可能であるので、赤外光源12a,12bを移動させ、赤外光15a,15bを同期させながら水平および垂直方向に走査することにより、表示部11内で発光点13を前後、左右、上下に移動させることができる。これにより、本発明においては立体画像の表示が可能となる。
【0114】
本発明においては、表示部に上述した蛍光体粒子分散体を用いているので、透明性に優れ、表示品質を向上させることができる。また、表示部の大型化が容易である。さらに、この蛍光体粒子分散体は、蛍光体粒子が分散される媒体を任意に選択することができるので、媒体の組成によって発光色に影響が及ぼされるのを回避することができる。
【0115】
また、カラー表示が可能な三次元表示装置とする場合には、複数の発光色が得られるように蛍光体粒子分散体を調製する必要があるが、本発明においては媒体に複数の蛍光体粒子を分散させるだけで蛍光体粒子分散体を得ることができるので、カラー表示が可能な三次元表示装置の表示部を容易に得ることが可能である。
以下、本発明の三次元表示装置の各構成について説明する。
【0116】
1.表示部
本発明に用いられる表示部は、蛍光体粒子分散体を有するものである。
【0117】
上記蛍光体粒子分散体が、蛍光体粒子が透明液体に分散されてなるものである場合、蛍光体粒子分散体自体は液体状となるので、通常、表示部はセルに蛍光体粒子分散体が充填等されたものとなる。
この際、蛍光体粒子分散体を充填等するのに用いられるセルとしては、アップコンバージョン発光に影響を及ぼさないもの、具体的には発光強度を著しく低下させないものであれば特に限定されるものではない。また、セルは透明であることが好ましく、具体的には可視領域における平均透過率が比較的高いものであることが好ましい。このようなセルとしては、例えばガラスセル、石英セル、プラスチックセル等が挙げられる。
【0118】
一方、上記蛍光体粒子分散体が、蛍光体粒子が透明樹脂に分散されてなるものである場合、蛍光体粒子分散体自体が固体状となるので、通常は蛍光体粒子分散体自体が表示部となる。
【0119】
表示部の大きさとしては、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択される。
【0120】
2.赤外光源
本発明に用いられる赤外光源は、少なくとも2つ必要であり、表示部の周囲に配置され、赤外光が発せられるものである。
【0121】
赤外光源は2つ以上であれば、その数としては特に限定されない。本発明においては、二段階吸収による励起によってアップコンバージョン発光する現象を利用する場合が多いことから、例えば1色の発光を得るためには2つの赤外光源が必要となり、3色の発光を得るためには6つの赤外光源が必要となる。なお、この赤外光源は1種の波長の赤外光のみを発するものである。
【0122】
また、発光光源としては赤外光を発するものであれば特に限定されるものではなく、例えば半導体レーザー等を用いることができる。また、例えば図8に示すように赤外光源12a,12bが複数の半導体レーザーがアレイ状に配置されたレーザーアレイであってもよい。
【0123】
また、本発明の三次元表示装置は、例えば図3に示すように2つの赤外光源12a,12bから発せられたそれぞれの赤外光15a,15bの交差点13を発光させるものであることから、赤外光15a,15bのそれぞれの方向が一直線状とならないように赤外光源12a,12bを配置することが好ましい。赤外光15a,15bの方向が一直線状になると、赤外光15a,15bが交差した部分は発光するので、線状に発光が観察されてしまうからである。よって、赤外光15a,15bを同期させながら水平および垂直方向に走査する際にも、赤外光15a,15bの方向が一直線状にならないように走査することが好ましい。
【0124】
3.制御手段
本発明における制御手段は、赤外光源から発せられた光の方向を制御するものであれば特に限定されるものではない。制御手段は、例えば図3に示すように赤外光源12a,12bを移動させることにより赤外光15a,15bの方向を制御するものであってもよく、また例えば図9に示すように赤外光源12a,12bの近傍に鏡16a,16bが配置されており、鏡16a,16bの角度や位置を変えることにより赤外光15a,15bの方向を制御するものであってもよい。
【0125】
C.二次元表示装置
次に、本発明の二次元表示装置について説明する。本発明の二次元表示装置は、上述した蛍光体粒子分散体を有する表示部と、上記表示部に赤外光を投射する赤外光源と、上記赤外光源から発せられた光の方向を制御する制御手段とを有することを特徴とするものである。
【0126】
図7に本発明の二次元表示装置の一例を示す。図7(a)および(b)に示すように、本発明の二次元表示装置は、蛍光体粒子分散体からなる表示部11と、この表示部11に赤外光を投射する赤外光源12とを有している。赤外光源12は移動可能であり、赤外光15の方向を任意に変えることができる。この二次元表示装置では、赤外光源12を移動する手段が赤外光15の方向を制御する制御手段となっている。
【0127】
赤外光源12により表示部11に対して所定の方向から赤外光15を照射すると、照射された部分が発光する。これは、蛍光体粒子分散体中の蛍光体粒子が、赤外光15によって励起され、すなわち例えば図6に示すように二段階吸収により励起されアップコンバージョン発光するからである。そして、赤外光源12は移動可能であるので、赤外光源12を移動させ、赤外光15bを水平および垂直方向に走査することにより、表示部11内で発光部分を前後、左右、上下に移動させることができる。これにより、本発明においては画像の表示が可能となる。
【0128】
本発明においては、表示部に上述した蛍光体粒子分散体を用いているので、透明性に優れ、表示品質を向上させることができる。また、表示部の大型化が容易である。さらに、この蛍光体粒子分散体は、蛍光体粒子が分散される媒体を任意に選択することができるので、媒体の組成によって発光色に影響が及ぼされるのを回避することができる。
【0129】
なお、制御手段については、上記三次元表示装置における制御手段と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。以下、本発明の二次元表示装置の他の構成について説明する。
【0130】
1.表示部
本発明に用いられる表示部は、蛍光体粒子分散体を有するものである。
蛍光体粒子分散体は蛍光体粒子が透明樹脂に分散されてなるものであり、蛍光体粒子分散体自体が固体状となるので、蛍光体粒子分散体自体が表示部となっていてもよい。また、上述したように、蛍光体粒子分散体は、基材上に形成されていてもよく、2枚の基材間に挟持されていてもよい。
【0131】
表示部の大きさとしては、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択される。
【0132】
2.赤外光源
本発明に用いられる赤外光源は、表示部に赤外光を投射するものであり、表示部の周囲に配置されるものである。
【0133】
赤外光源は1つ以上であればよい。
なお、赤外光源のその他の点については、上記三次元表示装置における赤外光源と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0134】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0135】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明する。
【0136】
[実施例1]
1.(Y0.999,Er0.001)F3粒子の合成
Y99.9mol%とEr0.01mol%とを配合したフッ化物(Y0.999,Er0.001)F3粒子を作製した。SEMおよびXRDの測定結果より、(Y0.999,Er0.001)F3粒子であることが確認された。
この(Y0.999,Er0.001)F3粒子について、上述した測定方法により屈折率を測定したところ、約1.53であった。
【0137】
2.(Y0.999,Er0.001)F3粒子分散体の作製
透明樹脂としては、シクロオレフィンポリマー(日本ゼオン製ゼオネックスE48R)を用いた。このシクロオレフィンポリマーについて、上述した測定方法により屈折率を測定したところ、約1.53であった。
上記の合成した(Y0.999,Er0.001)F3粒子100gとシクロオレフィンポリマー900gとを混練させ、コンパウンド((Y0.999,Er0.001)F3粒子とシクロオレフィンポリマーの混練ペレット)を作製した。
作製したコンパウンドを射出成型することにより、1cm角の透明樹脂成型体(蛍光体粒子分散体)を作製した。
【0138】
3.評価
このようにして得られた透明樹脂成型体に二種の赤外光レーザー1、2が交差するように照射した。赤外光レーザー1には波長1540nm付近の半導体レーザーを使用し、赤外光レーザー2には波長840nm付近の半導体レーザーを使用した。その結果、赤外光レーザー1と赤外光レーザー2の交点において、Er3+の550nm付近の緑色発光が観測された。
【0139】
[実施例2]
1.(La0.999,Er0.001)F3粒子の合成
La99.9mol%とEr0.01mol%とを配合したフッ化物(La0.999,Er0.001)F3粒子を作製した。SEMおよびXRDの測定結果より、(La0.999,Er0.001)F3粒子であることが確認された。
この(La0.999,Er0.001)F3粒子について、上述した測定方法により屈折率を測定したところ、約1.60であった。
【0140】
2.(La0.999,Er0.001)F3粒子分散体の作製
透明樹脂としては、ポリスチレン(PSジャパン製)を用いた。このポリスチレンについて、上述した測定方法により屈折率を測定したところ、約1.60であった。
上記の合成した(La0.999,Er0.001)F3粒子100gとポリスチレン900gとを混練させ、コンパウンド((La0.999,Er0.001)F3粒子とポリスチレンの混練ペレット)を作製した。
作製したコンパウンドを射出成型することにより、1cm角の透明樹脂成型体(蛍光体粒子分散体)を作製した。
【0141】
3.評価
このようにして得られた透明樹脂成型体に二種の赤外光レーザー1、2が交差するように照射した。赤外光レーザー1には波長1540nm付近の半導体レーザーを使用し、赤外光レーザー2には波長840nm付近の半導体レーザーを使用した。その結果、赤外光レーザー1と赤外光レーザー2の交点において、Er3+の550nm付近の緑色発光が観測された。
【0142】
[比較例]
1.(Y0.999,Er0.001)F3粒子の合成
Y99.9mol%とEr0.01mol%とを配合したフッ化物(Y0.999,Er0.001)F3粒子を作製した。SEMおよびXRDの測定結果より、(Y0.999,Er0.001)F3粒子であることが確認された。
この(Y0.999,Er0.001)F3粒子について、上述した測定方法により屈折率を測定したところ、約1.53であった。
【0143】
2.(Y0.999,Er0.001)F3粒子分散体の作製
透明樹脂としては、ポリメチルメタクリレート(スミペックス製)を用いた。このポリメチルメタクリレートについて、上述した測定方法により屈折率を測定したところ、約1.49であった。
上記の合成した(Y0.999,Er0.001)F3粒子100gとポリメチルメタクリレート900gとを混練させ、コンパウンド((Y0.999,Er0.001)F3粒子とポリメチルメタクリレートの混練ペレット)を作製した。
作製したコンパウンドを射出成型することにより、1cm角の透明樹脂成型体(蛍光体粒子分散体)を作製した。
【0144】
3.評価
得られた透明樹脂成型体は白濁しており、三次元表示装置の表示部として使用することは困難であった。
【0145】
[実施例3]
1.(Y0.99,Er0.01)F3粒子の合成
Y99mol%とEr1mol%とを配合したフッ化物(Y0.99,Er0.01)F3粒子を作製した。SEMおよびXRDの測定結果より、(Y0.99,Er0.01)F3粒子であることが確認された。
この(Y0.99,Er0.01)F3粒子について、上述した測定方法により屈折率を測定したところ、約1.53であった。
【0146】
2.蛍光体粒子分散体の作製
透明樹脂としては、堺化学工業製TMMP(トリメチロールプロパントリス-3-メルカプトプロピオネート,屈折率1.52)、および、東亞合成製アロニックスA−211B(ビスフェノールEO変性(n≒2)ジアクリレート,屈折率1.536)を用いた。これらの透明樹脂を重量比2:3(TMMP:アロニックスA−211B)で混合し、10wt%の(Y0.99,Er0.01)F3粒子を攪拌機で分散させ、光重合開始剤としてIrgacure−184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン,屈折率1.529)を用いて、混合樹脂を作製した。PETフィルム(125μm厚、東洋紡製A4300)上に混合樹脂を流し込み、UV硬化により、1cm角の透明樹脂成型体(蛍光体粒子分散体)を作製した。なお、上記混合樹脂のUV硬化後の屈折率を、アタゴ社製アッベ屈折計NAR−1T SOLIDにより測定したところ、約1.54であった。
【0147】
3.評価
このようにして得られた透明樹脂成型体に二種の赤外光レーザー1、2が交差するように照射した。赤外光レーザー1には波長1540nm付近の半導体レーザーを使用し、赤外光レーザー2には波長840nm付近の半導体レーザーを使用した。その結果、赤外光レーザー1と赤外光レーザー2の交点において、Er3+の550nm付近の緑色発光が観測された。
【0148】
[実施例4]
1.(Y0.81,Er0.01,Yb0.18)F3粒子の合成
Y81mol%とEr1mol%とYb18mol%とを配合したフッ化物(Y0.81,Er0.01,Yb0.18)F3粒子を作製した。SEMおよびXRDの測定結果より、(Y0.81,Er0.01,Yb0.18)F3粒子であることが確認された。
この(Y0.81,Er0.01,Yb0.18)F3粒子について、上述した測定方法により屈折率を測定したところ、約1.53であった。
【0149】
2.蛍光体粒子分散体の作製
透明樹脂としては、堺化学工業製TMMP(トリメチロールプロパントリス-3-メルカプトプロピオネート,屈折率1.52)、および、東亞合成製アロニックスA−211B(ビスフェノールEO変性(n≒2)ジアクリレート,屈折率1.536)を用いた。これらの透明樹脂を重量比2:3(TMMP:アロニックスA−211B)で混合し、10wt%の(Y0.81,Er0.01,Yb0.18)F3粒子を攪拌機で分散させ、光重合開始剤としてIrgacure−184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン,屈折率1.529)を用いて、混合樹脂を作製した。PETフィルム(125μm厚、東洋紡製A4300)上に混合樹脂を流し込み、UV硬化により1.0mm厚(PETフィルムの厚みを含む。)の蛍光体粒子分散体を作製した。なお、上記混合樹脂のUV硬化後の屈折率を、アタゴ社製アッベ屈折計NAR−1T SOLIDにより測定したところ、約1.54であった。
【0150】
3.評価
このようにして得られた蛍光体粒子分散体に、波長980nm付近の半導体レーザーを照射し、550nm付近の緑色発光が観測された。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】アップコンバージョン発光を説明するための説明図である。
【図2】アップコンバージョン発光を説明するための説明図である。
【図3】本発明の三次元表示装置の一例を示す斜視図である。
【図4】アップコンバージョン発光を説明するための説明図である。
【図5】アップコンバージョン発光を説明するための説明図である。
【図6】アップコンバージョン発光を説明するための説明図である。
【図7】本発明の二次元表示装置の一例を示す模式図である。
【図8】本発明の三次元表示装置の他の例を示す斜視図である。
【図9】本発明の三次元表示装置の他の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0152】
10 … 三次元表示装置
11 … 表示部
12,12a,12b … 赤外光源
15,15a,15b … 赤外光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
700nm〜2000nmの範囲内の波長の光により励起されてアップコンバージョン発光する蛍光体粒子が、透明液体または透明樹脂に分散されてなる蛍光体粒子分散体であって、
前記蛍光体粒子の屈折率と前記透明液体または透明樹脂の屈折率とが略同一であることを特徴とする蛍光体粒子分散体。
【請求項2】
前記蛍光体粒子が、前記700nm〜2000nmの範囲内の波長のうち、2種以上の異なる波長の光により励起されてアップコンバージョン発光するものであることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体粒子分散体。
【請求項3】
前記蛍光体粒子が希土類元素を含有し、前記蛍光体粒子の母材がハロゲン化物であることを特徴とする請求項2に記載の蛍光体粒子分散体。
【請求項4】
前記希土類元素が、エルビウム(Er)、ホロミウム(Ho)、プラセオジウム(Pr)、ツリウム(Tm)、ネオジウム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ユウロピウム(Eu)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)およびセリウム(Ce)からなる群から選択される少なくとも1つ以上の希土類元素であることを特徴とする請求項3に記載の蛍光体粒子分散体。
【請求項5】
三次元表示装置の表示部に用いられることを特徴とする請求項2から請求項4までのいずれかに記載の蛍光体粒子分散体。
【請求項6】
前記蛍光体粒子が、前記700nm〜2000nmの範囲内の波長のうち、1種の波長の光により励起されてアップコンバージョン発光するものであることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体粒子分散体。
【請求項7】
前記蛍光体粒子が希土類元素を含有し、前記蛍光体粒子の母材がハロゲン化物であることを特徴とする請求項6に記載の蛍光体粒子分散体。
【請求項8】
前記希土類元素が、エルビウム(Er)、ホロミウム(Ho)、プラセオジウム(Pr)、ツリウム(Tm)、ネオジウム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ユウロピウム(Eu)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)およびセリウム(Ce)からなる群から選択される少なくとも1つ以上の希土類元素であることを特徴とする請求項7に記載の蛍光体粒子分散体。
【請求項9】
前記蛍光体粒子がイッテルビウム(Yb)をさらに含有することを特徴とする請求項8に記載の蛍光体粒子分散体。
【請求項10】
二次元表示装置の表示部に用いられることを特徴とする請求項5から請求項9までのいずれかに記載の蛍光体粒子分散体。
【請求項11】
請求項2から請求項5までのいずれかに記載の蛍光体粒子分散体を有する表示部と、前記表示部の周囲に配置された2つ以上の赤外光源と、前記赤外光源から発せられた光の方向を制御する制御手段とを有することを特徴とする三次元表示装置。
【請求項12】
請求項6から請求項10までのいずれかに記載の蛍光体粒子分散体を有する表示部と、前記表示部に赤外光を投射する赤外光源と、前記赤外光源から発せられた光の方向を制御する制御手段とを有することを特徴とする二次元表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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