説明

蛍光体複合化多孔体及びその製造方法

【課題】希土類や有害元素を含有しない蛍光材料と、シリカ、アルミナ等の多孔体と複合化した蛍光体複合化多孔体を製造する方法を提供する。
【解決手段】炭素、窒素および水素からなる化合物又は炭素、窒素、水素および酸素からなる化合物としてのメラミン、尿素又はシアヌル酸等とシリカ、アルミナ等多孔体を混合して、蓋付容器内又は低隙間容積状態の容器内でガス流入がほとんどない状態で250℃から600℃の範囲で加熱処理することにより、炭素と窒素の結合の繰り返し構造となっている化合物の分子間縮合物からなる蛍光材料が、多孔体の細孔内において複合化してなる蛍光体複合化多孔体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体複合化多孔体及びその製造方法に関する。
【0002】
更に詳しくは、希土類や有害元素を含有することなく効率よく窒化炭素系の蛍光体を合成する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来から、医療検査や環境検査の分野では、標識された物質とビーズまたはプレートに固定化された物質の特異的反応を利用して、サンプル中の目的物質を測定することが行われている。このような測定において、標識物質には、蛍光物質が使用されることが多い。この場合、プローブを固定化したビーズと、蛍光標識された目的物質を反応させたのち、非特異物質を洗浄、除去し、ビーズに励起光を当てて励起し、蛍光波長、蛍光強度を検出することにより、目的物質を測定している。
【0004】
このような方法で目的物質を測定する場合、蛍光色素分子を含有したシリカビーズが知られている(特許文献1参照)。これは、珪素原子を含む有機の蛍光色素分子を含有したシリカビーズで、シリカを室温で合成すると多孔質のものが得られやすいため、蛍光色素分子をシリカの細孔に捕捉できるが、反面、溶媒中に分散させて使用すると、複合化された蛍光色素分子が脱離しやすい問題がある。
【0005】
また、蛍光体を使用する分野として、ガラス板等に発光層を形成することによる、面発光体も開発されている。例えば、蛍光体を高温で昇華し、ガラス板等に蒸着する方法が開示されている(特許文献2参照)。この方法は、塩化シアヌルとアンモニア又は塩化シアヌルとメラミンを500℃〜600℃で反応させて層状構造の窒化炭素が製造されること、得られた窒化炭素は蛍光材になることの開示がある。この方法の特徴は、塩化シアヌルを出発原料として、塩素部分をアンモニア又はメラミンと反応させることにより、トリアジン環を窒素で架橋し、窒化炭素中間体を形成した後、この窒化炭素中間体を500℃〜600℃で熱分解し、余分な水素を除去して、黄色の層状構造を持つ窒化炭素を製造することである。さらに、この層状構造を持つ窒化炭素が500℃以上で昇華する性質を利用し、不活性ガス中で、窒化炭素を昇華させ、この昇華ガスをガラス板の表面に蒸着させることにより蛍光体の薄膜を形成する。しかし、蛍光体の昇華温度が500℃以上と高いために、昇華のための熱エネルギーが必要である。また、発光させるには、ある程度の厚さが必要であり、そのような厚膜を平滑に蒸着させるためには、蒸着基板の精密な温度制御も必要であるため、装置として、極めて複雑となる。
【0006】
本発明で複合化に使用する窒化炭素は窒素と炭素のみからなる化合物であり、特に窒素含有率の高い窒化炭素(α−C結晶、β−C結晶、グラファイト状C)は超硬質材料として注目されており、半導体、機械部品、又は歯や骨の関節等の耐摩耗材として用いるなど、工業用、理化学用、医療用など様々な分野への応用が期待されることもあり、基礎及び応用の両面から活発な検討が進められている。更に、超硬質窒化炭素材料を合成する過程で、窒素/炭素モル比が1を超える窒化炭素材料では蛍光を発することが確認されている。
【0007】
本発明で採用する出発物質と類似する塩化シアヌルのような炭素と窒素のトリアジン環および塩素を含む化合物を反応原料とする炭素と窒素及び水素の化合物の合成については、特許文献2に見られる。
【0008】
特許文献2には、塩化シアヌルとアンモニア又は塩化シアヌルとメラミンを500℃〜600℃で反応させて層状構造の窒化炭素が製造されること、得られた窒化炭素は蛍光材になることの開示がある。この方法の特徴は、塩化シアヌルを出発原料として、塩素部分をアンモニア又はメラミンと反応させることにより、トリアジン環を窒素で架橋し、窒化炭素中間体を形成することである。更に、この窒化炭素中間体を500℃〜600℃で熱分解し、余分な水素を除去して、黄色の層状構造を持つ窒化炭素を製造することである。
【0009】
【特許文献1】特開2003−270154号公報(特許請求の範囲、[0013])
【特許文献2】特公平5−16364号公報(特許請求の範囲、第3欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の特許文献1では、シリカビーズの細孔へ吸着した蛍光物質が蛍光色素分子であるために、容易に溶媒中に溶け出すという問題点があった。このような従来技術の問題点を解決する課題として、有機系色素ではなく無機系の窒化炭素系蛍光体に着目した。
【0011】
また、上記の特許文献2では、窒化炭素の出発原料として塩化物を使用している。塩素は、架橋反応を促進する働きを有するが、炭素、窒素以外の不純物として残留するおそれがある。更に、出発原料である塩化物が熱分解すると、塩酸が生成するため、装置が腐食するという問題がある。また、塩化シアヌルのような塩化物は高価であり、安価な蛍光材料をつくるには不向きである。さらに、蛍光体を製造した後に、昇華ガス化してガラス表面に蒸着するため、エネルギーが多く必要であること、基板上に蛍光体の蒸着膜を形成するために、複雑な装置を必要とし、面上の平滑な厚膜を得るためには精密な装置が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、溶媒に溶解しにくい無機蛍光体として、窒化炭素系蛍光体に着目した。特許文献2に記載されているような塩化物を出発原料とすることなく、塩酸による装置の腐食の問題を解決し、不純物としての塩素の混入がない原料を使用した、安価な窒化炭素系蛍光体の製造方法について鋭意検討した。その結果、窒化炭素原料を昇華ガス化して、シリカ等の多孔体の細孔内に吸着させた後、細孔内で窒化炭素原料を分子間縮合させることにより、容易に窒化炭素系蛍光体を多孔質体の細孔内に複合化できることを見出し、本発明に至った。本発明の窒化炭素系蛍光体は、多孔体の細孔内で合成されるため、溶媒に溶解することなく、膜状物質やガラス基板上に形成された厚膜状の多孔質膜等へも容易に複合化が可能である。
【0013】
すなわち、本発明の構成は、炭素、窒素及び水素からなるか、あるいは炭素、窒素、水素及び酸素からなり、かつ炭素と窒素の結合の繰り返し構造となっている化合物の分子間縮合物からなる蛍光材料が、多孔体の細孔内において複合化してなる蛍光体複合化多孔体である。ここで、分子間縮合物はメラミン、尿素又はシアヌル酸の分子間縮合で得られた窒化炭素であり、多孔体は耐熱性樹脂又は耐火無機物である蛍光体複合化多孔体である。
【0014】
上記の蛍光体複合化多孔体の製造に際して、炭素、窒素及び水素からなるか、あるいは炭素、窒素、水素及び酸素からなり、かつ炭素と窒素の結合の繰り返し構造となっている化合物と多孔体を混合して、該化合物をその分解温度又は昇華温度以上の温度で昇華蒸気圧が飽和になる条件で加熱処理することを特徴とする蛍光体複合化多孔体の製造方法を採用する。このとき、炭素、窒素および水素からなる化合物又は炭素、窒素、水素および酸素からなる化合物がメラミン、尿素又はシアヌル酸を用いる。
【0015】
上記特定の化合物と混合および熱処理をする多孔体は、無機物多孔体としては、シリカ、アルミナあるいはシリカ-アルミナ系の無機化合物であって、例えば、シリカ多孔体、アルミナ多孔体、シリカ-アルミナ多孔体、多孔質ガラス、多孔質セラミック等300℃以上の温度に耐えることができる多孔質物質が挙げられる。有機多孔体も、300℃以上の温度に耐えることができるフッ素樹脂やポリフェノール樹脂等の耐熱性樹脂であれば、本発明の蛍光体複合化多孔体の合成が可能である。
【0016】
多孔体の細孔の平均径は0.5nmから10μmの範囲、好ましくは1.0nmから5μmの範囲である。この場合の加熱処理温度が250℃から600℃の範囲、好ましくは300℃から550℃で行う。
【0017】
炭素、窒素および水素からなる化合物又は炭素、窒素、水素および酸素からなる化合物と多孔体を混合して、化合物の分解温度又は昇華温度以上の温度で昇華蒸気圧が飽和になる条件で加熱処理する。加熱処理は、蓋付容器内又は低隙間容積状態の容器内でガス流入がほとんどない状態で行うと、N/C比が1以上の高い窒素含有率の窒化炭素とシリカ等の多孔体との複合物である蛍光体複合化多孔体が再現性よく簡便に高効率に得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の蛍光体複合化多孔体は、窒化炭素系蛍光体の窒化炭素原料が昇華性を有しており、シリカ等の多孔体と混合して加熱すると、窒化炭素原料が昇華して多孔体の細孔内に吸着し、細孔内部で窒化炭素原料が分子間縮合をすることにより、細孔内で窒化炭素系蛍光体が合成される。更に、窒化炭素系蛍光体は、重合体であると同時に、無機化しているために、容易に溶媒に溶解せず、細孔内から流出することがなく、極めて安定な状態で存在している。
【0019】
また、ガラス基板上に、シリカ等の多孔質の薄膜または厚膜をスピンコート法やゾルゲル法により成膜し、その多孔質膜中に窒化炭素系蛍光体を合成することも可能である。
【0020】
本発明の蛍光体複合化多孔体の製造方法により、球状シリカまたは基板上のシリカ膜の細孔内に、容易に窒化炭素系蛍光体を合成することが可能で、溶剤にも溶出せず、製造も簡単な方法で、極めて安定な蛍光体と多孔体の複合体を形成できる。したがって、初めに述べた医療検査や環境検査の分野での標識物質として、有効に利用できる。
【0021】
本発明の蛍光体複合化多孔体は、その他様々な分野で利用が可能である。例えば、蛍光顔料として樹脂系塗料に混合する使用方法がある。無機系蛍光体であることから、太陽紫外線等による劣化が少なく、高耐久性が望める。また、蛍光灯に使用されている白色蛍光体の代替も期待できる。現在使用されている白色蛍光体には、Sbが含まれている。Sbは、結晶内に組み込まれており、容易には溶出しないが、将来的な問題となる可能性が高い。窒化炭素系蛍光体は、有害物質を含まないため、環境に配慮した製品として期待できる。
【0022】
更に、本発明の窒化炭素系蛍光体は、半導体としての特性も備えているため、無機ELの発光体として使用できる可能性がある。白色の発光パネルは、携帯電話、携帯ゲーム等の小型画面への利用が期待されている。無機EL発光パネルは、高耐久性の薄型画面として期待されており、安価な製品が求められている。安価に製造できる窒化炭素系蛍光体は、無機EL発光パネルの原料として最適である。
【0023】
したがって、窒化炭素系蛍光体と多孔体の強固な複合体からなる蛍光体複合化多孔体は、様々な分野で利用が可能である。例えば、インテリア関係では、蛍光タイルや蛍光グラス等の高耐久性素材として使用できる。また、道路標識や誘導標識等、夜間でも明るく認識しやすい標識に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の窒化炭素系蛍光体と多孔体の複合化方法は、図1に示されるように、原料として炭素、窒素および水素からなる化合物又は炭素、窒素、水素および酸素からなる化合物を窒化炭素系蛍光体の出発原料とし、この蛍光体出発原料と多孔体を混合し、蛍光体出発原料の分解温度又は昇華温度以上で熱処理することにより、蛍光体出発原料が昇華して多孔体の細孔内に吸着し、細孔内部で分子間縮合により蛍光体を合成する方法である。
【0025】
蛍光体の出発原料は、炭素と窒素の原子が交互に結合する構造が好ましい。このような構造を有する化合物は、尿素、シアヌル酸、メラミン、メラム等がある。これらの化合物は、炭素と窒素が交互に結合を繰り返す構造を有している。例えば、尿素はN-C-Nの構造を持ち、シアヌル酸およびメラミンは、C-N-C-N-C-N-の6員環構造を持っている。また、加熱処理、ミル処理、加圧処理等により、メラミンおよびメラムの類似化合物が合成される原料も使用可能である。
【0026】
しかし、同じような窒素と炭素の化合物でも、アデニンのようにC-C結合が含まれている化合物を出発原料に使用すると、蛍光体は製造できにくい。尿素、シアヌル酸、メラミン等の蛍光体出発原料は、加熱すると昇華する性質を持ち、この昇華する特性が、多孔体との複合化に不可欠である。
【0027】
ここで、多孔体の細孔内部に物質を吸着させるには、液相法および気相法があるが、液相法では、溶媒が必要であること、また、溶媒が残留して、蛍光体の原料が細孔内部に充填されるのを妨げるという問題がある。しかし、気相法では、蛍光体の原料の昇華ガスが多孔体の細孔内部に容易に拡散し吸着する。この吸着した昇華ガスが分子間縮合により窒化炭素系蛍光体を形成する。
【0028】
本発明で使用する多孔体は、0.5nmから10μmの範囲の直径の細孔を有することを特徴とする。具体的にはシリカ多孔体、アルミナ多孔体、シリカ-アルミナ多孔体、多孔質ガラス、多孔質セラミック等300℃以上の温度に耐えることができる多孔体があげられる。樹脂でも、300℃以上の温度に耐えることができるフッ素樹脂やポリフェノール樹脂等の耐熱性樹脂であれば、多孔体として利用できる。
【0029】
窒化炭素系蛍光体の原料と多孔体を加熱用容器に詰める場合は、多孔体が窒化炭素系蛍光体の原料に完全に埋まるようにする必要がある。表面に出ている多孔体は、原料の昇華ガスが十分に細孔内に入ることができず、蛍光体との複合化がうまく行かないからである。
【0030】
本発明は、窒化炭素系蛍光体の原料と多孔体を加熱処理することを特徴とするが、窒化炭素系蛍光体の原料は、昇華ガスになりやすいために、昇華による原料の損失を防ぐ必要がある。そこで、本発明では、昇華による原料の損失を防ぐために蓋付容器を使用する。蓋は、気密性が高いネジ付きの蓋や、固定治具が付いた密着性が高い蓋でも良いが、軽くのせるだけの気密性が低い蓋でも使用可能である。また、このような、気密性が低い蓋では、外気から酸素が入り込んでくる可能性があるが、本発明の窒化炭素系蛍光体と多孔体の複合体の製造では、特に、問題とはならない。
【0031】
実際に、るつぼに軽く載せる蓋を使用して、るつぼの容積の80%から90%程度出発原料を詰めて加熱処理を行っても、窒化炭素系蛍光体と多孔体の複合体は製造できる。これは、出発原料の部分的な分解によるアンモニアガスの発生および、出発原料の昇華ガスの発生により、容器内部へ外部からのガスが入りにくくなることが考えられる。ただし、分解ガスや昇華ガスが容器内に充満していても、完全には外部からのガスの侵入を防ぐことは困難であるので、少量の酸素は特に影響を及ぼさないと考えられる。また、容器は、できるだけ加熱する装置の加熱炉内に占める体積が大きく隙間が少ない方が良い。これは、空隙が少ないと、原料の分解ガス又は昇華ガスが、加熱炉内に充満しやすく、原料の昇華が抑制され、生産量が増加するからである。
【0032】
次に、低隙間容積状態について説明する。低隙間容積とは、窒化炭素原料と多孔体を入れた容器が、加熱炉内容積の大部分を占めて、容器以外の隙間が少ない状態をいう。このような、容器が加熱炉内の容積の大部分を占めた状態では、擬似的に密閉容器に入れた状態と同様の条件となり、窒化炭素原料と多孔体を入れた容器には蓋をする必要がない。
【0033】
加熱装置は、電気炉、ガス炉どちらでも使用できるが、ガス炉の場合は、加熱炉内にバーナーがある内部加熱タイプではなく、加熱炉の外部から加熱するような外部加熱タイプが良い。炎が加熱炉内に噴射されると、燃焼ガスおよび燃焼用空気が一緒に噴射されるため、加熱炉内のガスの出入りが多く、原料の昇華が促進され、生産量が少なくなる。また、加熱炉内を搬送装置で加熱容器を移動させたり、キルン型加熱炉で連続的に窒化炭素系蛍光体と多孔体の複合体を製造したりすることもできる。このとき注意することは、ガスの出入りを少なくして原料の昇華を抑えることが重要である。
【0034】
上記に示すような容器および加熱装置で、窒化炭素系蛍光体の出発原料と多孔体の混合物を加熱処理することにより、窒化炭素系蛍光体と多孔体の複合体を製造するときの加熱処理温度は、250℃から600℃、より好ましいのは300℃から550℃の温度範囲である。250℃未満では、出発原料の分子間縮合が進みにくく長時間の処理が必要となり、生産量が少なく経済的でない。600℃を超える温度では、製造した窒化炭素が昇華によりガス化して消失し、やはり生産量が低下する。
【0035】
本発明で使用する窒化炭素系蛍光体の出発原料である尿素は、加熱処理により分子間縮合して、シアヌル酸、そしてメラミンになることが知られている。更に、メラミンは、分子間縮合が進むとメラムになるとされている。したがって、これらの化合物は、尿素を出発とする分子間縮合の中間生成物であると言える。この分子間縮合が進むと、最終的には炭素と窒素だけの化合物となる。メラミンを出発原料とした場合は、まずメラムが生成するが、更に分子間縮合が進んでN/C比が1.6に近づく。このメラミンがメラムから更に分子間縮合をした炭素と窒素の化合物が蛍光体と考えられる。この化合物は、分解温度以上の熱処理を行うと生成し蛍光体となる。
【0036】
この蛍光体はシリカ等の多孔体を使用せず粉末状の蛍光体原料のみを使用した場合、500℃以下の熱処理ではアモルファスであるため、エックス線回折では確認できない。実際に、蛍光を発している熱処理した化合物をエックス線回折で測定しても、シアヌル酸又はメラムの構造しか確認できない。しかし、シリカ等の多孔体の細孔内で窒化炭素系蛍光体を合成した場合、粉末状蛍光体に較べて層状構造化が低温で進行する。シアヌル酸や尿素を出発原料として多孔体に複合化した場合、300℃や450℃では、エックス線回折を測定すると2θ=27°付近にグラファイトと同様の層状構造を示すピークが認められる。これは、細孔内の極小空間が窒化炭素の結晶化に促進効果を持つことが示唆される。つまり、多孔体の細孔は、窒化炭素原料の濃縮効果と反応促進効果を有すると考えられる。
【0037】
窒化炭素系蛍光体の外観は、450℃以下の処理温度では白色又はわずかに黄色味を帯びた白色、薄い灰色の粉末であるが、360nmの紫外線で励起され430nmから480nmを最大波長とする白色光を発する。500℃以上の処理温度では、窒化炭素系蛍光体の外観は、黄色粉末であり、360nmの紫外線で励起され500nm付近を最大波長とする白色光を発する。この窒化炭素系蛍光体が、多孔体の細孔内部に形成されて多孔体が蛍光体となる。
【0038】
希土類や有害物質を含まない蛍光体と多孔体の複合体の製造方法および利用方法を詳細に説明した。以下に実施例によって本発明の蛍光体複合化多孔体の物性及びその製造方法を具体的に説明する。
【0039】
各実施例において得られた蛍光体と多孔体の複合体の同定は、図2以下の図面データによって説明をする。図2は蛍光体複合化多孔体の発光スペクトル図である。これにより、実施例3の原料がメラミンでは、425nm付近にピークがあるが、幅広い波長で発光していることがわかる。原料を実施例8のシアヌル酸、実施例12の尿素にすると、ピークの波長は長波長側にシフトすることがわかる。これは、XRD分析でわかるように、シアヌル酸や尿素では低温で層状化合物が形成されるためと考えられる(実施例3、8、12)。
【0040】
図3〜5は本発明の蛍光体複合化多孔体のXRDパターン図である。図3はシリカ(Q−50)担体と実施例1〜5のメラミンを原料とした蛍光体複合化多孔体のXRDパターンである。熱処理温度600℃で2θ=27°に窒化炭素層状化合物のピークが現れる。図4の実施例6〜9のシアヌル酸では300℃から、図5の実施例10〜13の尿素でも、450℃から窒化炭素層状化合物の小さなピークが確認される。このことは、シリカの細孔が窒化炭素の合成に促進効果を有することが考えられる。シアヌル酸の場合、500℃の実施例9では層状化合物のピークが消失しているが、おそらく、昇華したのであろうと思われる。
【実施例】
【0041】
以下の実施例によって本発明の蛍光体複合化多孔体の具体的製造方法を説明する。
【0042】
実施例1
直径3mmの富士シリシア製シリカ多孔球体(Q−50)10gと市販試薬のメラミン40gを100mlのるつぼに混合して入れた。このるつぼに蓋をして、電気炉で300℃、2時間加熱処理を行った。電気炉内の雰囲気は窒素の置換等は行わず、空気中で行った。冷却後、るつぼからシリカ多孔球体を取り出し、純水で洗浄し、120℃で乾燥した。得られたシリカ多孔球体は白色の球状体であった。この球状体に360nmを中心波長とするブラックライトを照射すると、ピンクがかった白色に発光した。
【0043】
実施例2〜5
シリカ多孔体(Q−50)10gと窒化炭素出発原料として、メラミンを使用し、加熱処理温度を400〜600℃の範囲で変えて実施例1と同様の方法で加熱処理を行った。加熱処理時間は2時間であった。得られたシリカ多孔球体は加熱処理温度が450℃以下では白色の球状体であり、この球状体に360nmを中心波長とするブラックライトを照射すると、青味がかった白色に発光した。ところが加熱処理温度が500℃以上の実施例4と5はシリカ多孔球体が薄黄色から黄色になり、これらの球状体に360nmを中心波長とするブラックライトを照射すると、黄色味がかった白色に発光した。それぞれの結果について、表1に示す。
【0044】
実施例6〜9
シリカ多孔体(Q−50)10gと窒化炭素出発原料として、シアヌル酸を使用し、加熱処理温度を300℃〜500℃の範囲で変えて実施例1と同様の方法で加熱処理を行った。加熱処理時間は2時間であった。得られたシリカ多孔球体は、この温度範囲ではいずれも薄灰色の球状体であり、この球状体に360nmを中心波長とするブラックライトを照射すると、300℃の実施例6では赤紫色の発光であったが、400℃以上では青味がかった白色に発光し、実施例3と同様の品質であった。それぞれの結果について、表1に示す。
【0045】
実施例10〜13
シリカ多孔体(Q−50)10gと窒化炭素出発原料として、尿素を使用し、加熱処理温度を300℃〜600℃の範囲で変えて実施例1と同様の方法で加熱処理を行った。加熱処理時間は2時間であった。得られたシリカ多孔球体は加熱処理温度が400℃以下の実施例10では白色、実施例11では薄灰色の球状体であり、この球状体に360nmを中心波長とするブラックライトを照射すると、青味がかった白色に発光し、実施例3と同様の品質であった。ところが加熱処理温度が450℃以上の実施例12、13はシリカ多孔球体が薄黄色から黄色になり、これらの球状体に360nmを中心波長とするブラックライトを照射すると、青味がかった白色発光から黄色味がかった白色の発光に変化した。それぞれの結果について、表1に示す。
【0046】
実施例14
球状活性アルミナ(直径5mm)10gと市販試薬のメラミン40gを100mlのるつぼに混合して入れた。このるつぼに蓋をして、電気炉で450℃、2時間加熱処理を行った。電気炉内の雰囲気は窒素の置換等は行わず、空気中で行った。冷却後、るつぼからシリカ多孔球体を取り出し、純水で洗浄し、120℃で乾燥した。この活性アルミナ多孔球体に360nmを中心波長とするブラックライトを照射すると、実施例3のシリカ多孔体同様の青味がかった白色に発光した。この結果について表1に示す。
【0047】
実施例15
粒状天然ゼオライト(直径2〜3mm)10gと市販試薬のメラミン40gを100mlのるつぼに混合して入れた。このるつぼに蓋をして、電気炉で450℃、2時間加熱処理を行った。電気炉内の雰囲気は窒素の置換等は行わず、空気中で行った。冷却後、るつぼから粒状天然ゼオライトを取り出し、純水で洗浄し、120℃で乾燥した。この粒状天然ゼオライトに360nmを中心波長とするブラックライトを照射すると、実施例3のシリカ多孔体同様の青味がかった白色に発光した。この結果について表1に示す。
【0048】
実施例16
テフロン(登録商標)フィルター(アドバンテック東洋製 型番 PF100,厚さ 1mm,直径 55mm,空隙率 70%,保留粒子径 10μm)と市販試薬のメラミン200gを500mlの角形焼成容器に混合して入れた。この容器に蓋をして、電気炉で450℃、2時間加熱処理を行った。電気炉内の雰囲気は窒素の置換等は行わず、空気中で行った。冷却後、容器からテフロン(登録商標)フィルターを取り出し、純水で洗浄し、120℃で乾燥した。このテフロン(登録商標)フィルターに360nmを中心波長とするブラックライトを照射すると、実施例3のシリカ多孔体同様の青味がかった白色に発光した。
【0049】
実施例17
20mm×40mmのスライドガラスに触媒化成製シリカゾル(SI−30)を純水で希釈して作った10wt%シリカ含有水溶液をスピンコートでコーティングした。シリカゾルをコーティングしたスライドガラスを空気中、450℃で加熱処理することによりシリカ薄膜コーティングスライドガラスを作成した。このシリカ薄膜コーティングスライドガラスと市販試薬のメラミン100gを500mlの角形焼成容器に混合して入れた。この容器に蓋をして、電気炉で450℃、2時間加熱処理を行った。電気炉内の雰囲気は窒素の置換等は行わず、空気中で行った。冷却後、容器からシリカ薄膜コーティングしたスライドガラスを取り出し、純水で洗浄し、120℃で乾燥した。このスライドガラスに360nmを中心波長とするブラックライトを照射すると、実施例3のシリカ多孔体同様の青味がかった白色に発光した。
【0050】
比較例1〜4
シリカ多孔体(Q−50)10gと窒化炭素出発原料として、それぞれメラミン、シアヌル酸、尿素を使用し、加熱処理温度を200℃として実施例1と同様の方法で加熱処理を行った。加熱処理時間は2時間であった。これらの結果から200℃の低温では球状体は発光せず、また、比較例4の600℃と加熱処理温度が高温過ぎると再び十分に発光しないことが判明した。それぞれの結果について、表1の下欄に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1の全体を見渡して分かることは、本発明で用いる材料のいずれもが適当な、例えば450℃前後の加熱温度域でもって、白色の蛍光体複合化多孔体を簡単な製造方法で安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の窒化炭素系蛍光体と多孔体の複合化方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の蛍光体複合化多孔体の発光スペクトル図である。
【図3】本発明のシリカ多孔体とメラミンからの蛍光体複合化多孔体のXRDパターン図である。
【図4】本発明のシリカ多孔体とシアヌル酸からの蛍光体複合化多孔体のXRDパターン図である。
【図5】本発明のシリカ多孔体と尿素からの蛍光体複合化多孔体のXRDパターン図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素、窒素及び水素からなるか、あるいは炭素、窒素、水素及び酸素からなり、かつ炭素と窒素の結合の繰り返し構造となっている化合物の分子間縮合物からなる蛍光材料が、多孔体の細孔内において複合化してなる蛍光体複合化多孔体。
【請求項2】
分子間縮合物は、メラミン、尿素又はシアヌル酸の分子間縮合で得られた窒化炭素であり、多孔体は耐熱性樹脂又は耐火無機物である請求項1記載の蛍光体複合化多孔体。
【請求項3】
炭素、窒素及び水素からなるか、あるいは炭素、窒素、水素及び酸素からなり、かつ炭素と窒素の結合の繰り返し構造となっている化合物と多孔体を混合して、該化合物をその分解温度又は昇華温度以上の温度で昇華蒸気圧が飽和になる条件で加熱処理することを特徴とする蛍光体複合化多孔体の製造方法。
【請求項4】
炭素、窒素および水素からなる化合物又は炭素、窒素、水素および酸素からなる化合物がメラミン、尿素又はシアヌル酸である請求項3記載の蛍光体複合化多孔体の製造方法。
【請求項5】
多孔体が0.5nmから10μmの直径の細孔を有する請求項3記載の蛍光体複合化多孔体の製造方法。
【請求項6】
加熱処理温度が250℃から600℃の範囲である請求項3乃至5のいずれか記載の蛍光体複合化多孔体の製造方法。
【請求項7】
加熱処理は、蓋付容器内又は低隙間容積状態の容器内でガス流入がほとんどない状態で行う請求項3乃至6のいずれか記載の蛍光体複合化多孔体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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