説明

蛍光共鳴検出装置

【課題】
近接場光を用いることにより、簡易な装置で信頼性の高い検出ができる蛍光共鳴検出装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
上記目的を達成するために、本発明の蛍光共鳴検出装置100は、第1の蛍光標識と第2の蛍光標識との蛍光共鳴反応による蛍光を利用して検査対象500中の被検出物質を検出する蛍光共鳴検出装置100であって、光源50と、光源50から出射された出射光を反射する反射部材10と、反射部材10の反射面14から出射した近接場光が形成される領域に設けられ、第1の蛍光標識と第2の蛍光標識と検査対象とが保持される検査対象保持部22と、蛍光を検出する蛍光検出部70、80、90と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光共鳴検出装置に関し、具体的には、近接場光(Evanescent Field Light:EFL)によって励起され、蛍光共鳴する検出対象を検出する蛍光共鳴検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品アレルギーや食中毒、成人病の日常検査への関心が高まり、抗原抗体反応などを用いる小規模医療機関、あるいは一般家庭を対象とする小型の検査装置が注目されている。この抗原抗体反応を用いる検出方法としては、ELISA(Enzyme−Linked Immunosorbent Assay)法やEFL法(例えば、特許文献1参照)、FRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer:蛍光共鳴)法などが代表的な検出方法であるが、それぞれ、検査に時間がかかったり、反応操作が複雑であったり、検査対象に制限があるなど、一般家庭向けの検査装置としては実用化には至っていない。
【特許文献1】特開2004−279041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
小規模医療機関、あるいは一般家庭における検査においては、検査結果の信頼性に加えて、迅速な判定時間、簡便な操作性、装置の小型化を達成することが重要である。この点において、FRET法は理想的な検出方法であるが、血液(血漿)のように測定対象物以外の不純物を多く含む検体の測定に適しているとは言い難い(表1)。この問題を解決する方法として、金属錯体を用いた改良FRET法が考案されているが、紫外線波長のレーザなど高価で複雑な光学機構が必要となることが問題である。
【0004】
表1において、各検出方法のメリットを(○)、デメリットを(×)とする。
【0005】
【表1】

本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、近接場光を用いることにより、簡易な装置で信頼性の高い検出ができる蛍光共鳴検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の蛍光共鳴検出装置は、第1の蛍光標識と第2の蛍光標識との蛍光共鳴反応による蛍光を利用して検査対象中の被検出物質を検出する蛍光共鳴検出装置であって、光源と、前記光源から出射された出射光を反射する反射部材と、前記反射部材の反射面から出射した近接場光が形成される領域に設けられ、前記第1の蛍光標識と前記第2の蛍光標識と前記検査対象とが保持される検査対象保持部と、前記蛍光を検出する蛍光検出部と、を備えることを特徴とする。これにより、簡易な装置で信頼性の高い検出ができる。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の蛍光共鳴検出装置において、前記蛍光検出部は、前記反射部材の前記反射面に対向する位置に設けられることを特徴とする。これにより、不純物のバックグランド蛍光や検出対象からの蛍光が減衰しまう問題の影響を受けにくくなり、簡易な装置でより信頼性の高い検出ができる。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の蛍光共鳴検出装置において、前記蛍光検出部は、前記蛍光のスペクトルを測定するスペクトル測定手段を有することを特徴とする。これにより、検査対象中の被検出物質の存在(有無)を検出するだけではなく、定量的な検出も行うことができる。
【0009】
請求項4記載に発明は、請求項1から3のいずれかに記載の蛍光共鳴検出装置において、前記反射部材と前記検査対象保持部とは、一体に構成されると共に、前記蛍光共鳴検出装置から着脱可能に設けられることを特徴とする。これにより、一体に構成された反射部材と検査対象保持部とを交換することで、複数の検査対象を短時間で検査することができる。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれかに記載の蛍光共鳴検出装置において、前記第1の蛍光標識と前記第2の蛍光標識とは、前記検査対象が前記検査対象保持部に導入される前に、前記検査対象保持部に保持されていることを特徴とする。これにより、検査対象を検査対象保持部に導入するだけで検査が可能となり、操作がより簡便になる。また、この第1の蛍光標識と第2の蛍光標識とが、凍結乾燥された状態で保持されると、保管が容易である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、簡易な装置で信頼性の高い検出ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明に係る蛍光共鳴検出装置100の構成について、図を用いて詳細に説明する。
【0013】
図1は、蛍光共鳴検出装置100の構成を表した断面模式図である。蛍光共鳴検出装置100は、導光プリズム10とチャンバープレート20とカバープレート30などからなるサンプル保持部40と、光源50と、励起側コリメータレンズ60と、受光側コリメータレンズ70と、分光測定器80と、分光測定器80からの測定データの解析処理や蛍光共鳴検出装置100内の各種部品の制御を行う制御部90と、を備えている。
【0014】
本実施の形態において、光源50には青色発光ダイオード(Ocean Optics社製:Blue LED Excitation Sources LS−450)を用い、光源50からの光を光ファイバ(Ocean Optics社製:P400−2−UV−VIS)52を介して励起側コリメータレンズ(Ocean Optics社製:74−VIS)60へ導く。光ファイバ52から出射する光は、出射角25°で広がっていくので、励起側コリメータレンズ60によって平行光にして、導光プリズム10へ入射させる。
【0015】
導光プリズム10の入射面12は、反射面14に対してθ(約60°)傾斜させて形成されており、この角度θは、導光プリズム10の屈折率npと導光プリズム10の反射面14上に導入されるサンプル500の屈折率nsによって、スネルの法則に基いて導出される。本実施の形態の場合、導光プリズム10をアクリル材、サンプル500を水と仮定すると、アクリル材の屈折率npの方が、水の屈折率nsよりも大きいので、臨界角θcは数1より導出される。
【0016】
【数1】


ここで、導光プリズム10の屈折率npに1.6を、サンプル500の屈折率nsに1.33を代入し、臨界角θcを算出すると、56.3°となるので、サンプル500の屈折率nsの変動や導光プリズム10の作製のしやすさなどを考慮して、本実施の形態の導光プリズム10はθを約60°とした。
【0017】
導光プリズム10の上部には、チャンバープレート20とカバープレート30が図2に示すように配置され、チャンバープレート20の中央部には測定チャンバ22が設けられている。サンプル500は、カバープレート30およびチャンバープレート20に、貫通するように設けられたサンプル注入口32およびサンプル注入路24から注入され、チャンバープレート20の測定チャンバ22とサンプル注入路24を接続するサンプル流通路26を通って、測定チャンバ22に導入される。サンプル500の導入には、図示しないが、サンプル注入側にシリンジなどの加圧手段を設け、測定チャンバ22へ加圧送液してもよいし、測定チャンバ22から外部へ連通する排気路28あるいはその排気側に排気ポンプを設け、排気ポンプにて吸引してサンプル500を測定チャンバ22に吸引送液してもよい。
【0018】
説明を図1に戻し、測定チャンバ22の寸法は、導光プリズム10内を通る平行光Lpが反射面14に当たる面積よりも大きいことが望ましい。これは、平行光Lpが反射面14に当たる面積よりも測定チャンバ22の寸法の方が小さい場合、測定チャンバ22のエッジ部23にて乱反射が起こり、測定ノイズとなってしまうことを防ぐためである。本実施の形態の場合、平行光Lpの断面の寸法が直径5mmの円形であり、平行光Lpは入射面12に対して垂直に入射しているので、反射面14では長径が10mm、短径が5mmの楕円形で反射する。従って、測定チャンバ22は直径10mm以上に設定することが望ましい。また、エッジ部23は面取りをすると、さらに良い。
【0019】
測定チャンバ22の中には、予め凍結乾燥された2種類の抗体を導入しておく。そして、この2種類の抗体のうち、一方の抗体Aには標識FITC(Fluorescein isothiocyanate)を設け、他方の抗体Bには標識TAMRA(6−carboxy−tetramethyl−rhodamine)を設ける。図3に示すように、この測定チャンバ22に、抗体Aおよび抗体Bと接合する抗原Cが導入されると、抗原Cに抗体Aと抗体Bとが接合する。この状態で、FITCの励起波長Exf(ピーク波長:494nm)に近い450nmの光が測定チャンバ22に照射されると、FITCは518nmをピーク(Emf)として発光し、TAMRAの励起波長Extは555nmであるので、FITCの発光によって、TAMRAが580nmをピーク(Emt)とする発光をする。
【0020】
この現象は、蛍光共鳴反応あるいは共鳴エネルギ移転反応(FRET:Fluorescence Resonance Energy Transfer)として、公知の技術であるが、図7(a)および(b)に示すようなサンプル500を透過した励起光(透過励起光)あるいはサンプル500中を透過した検出対象からの蛍光(透過蛍光)を検出する従来のFRETによる検出装置では、サンプル500がタンパク質、核酸あるいは金属錯体(例えばヘムポルフィリン)などの不純物を含む場合、透過励起光による不純物のバックグランド蛍光によってS/N比が小さくなったり、サンプル500中で透過蛍光が減衰したりするなどの問題がある。
【0021】
しかしながら、本発明では励起光である平行光Lpが導光プリズム10の反射面14から漏れ出す近接場光により、サンプル500中の近接場光が照射される部分(反射面14から数百nmの範囲)でFRETを起こし、検出対象からの蛍光を反射面14と対向する受光面16において受光するので、不純物のバックグランド蛍光や検出対象からの蛍光が減衰しまう問題の影響を受けにくい。従って、紫外線波長レーザなどの光源を用いなくとも測定することが可能となる。
【0022】
また、FRETは、1〜10nm程度の範囲内に、所定の角度を持って対向している一次蛍光標識(FITC)と二次蛍光標識(TAMRA)が存在しないと起こらないので、図4に示すように、抗原Cの量によって、発光のスペクトルが変化する。従って、本実施の形態のように、スペクトルを測定できる分光測定器80を受光側に備えることにより、抗原Cの有無だけではなく、その量も推定することが可能となる。
【0023】
導光プリズム10を介して、測定チャンバ22の対向する位置には受光側コリメータレンズ70を配置する。この受光側コリメータレンズ70を配置する受光面16と反射面14とは平行にすると効率がよい。受光側コリメータレンズ70により集光した光は、光ファイバ(Ocean Optics社製:P400−2−UV−VIS)82を介して分光測定器(Ocean Optics社製:Plug−and−Play Fiber Optic Spectrometer USB2000)80に導入され、スペクトル測定が行われる。
【0024】
サンプル保持部40およびコリメータレンズ60、70などの部分は、外部の光がノイズとして入らないように、また、導光プリズム10の反射面14を反射した光が、外部へ影響を及ぼさないように、図示しない遮光された筐体の中に配置されることが望ましい。この場合、筐体には、サンプル保持部40を出し入れする蓋付の出入口を設け、サンプル注入口32から測定チャンバ22へサンプル500を導入したサンプル保持部40を筐体の出入口から筐体内部の所定の位置に固定する。そして、出入口の蓋を閉め、測定スタートボタンを押すことにより、制御部90から光源50へ光を出力する指令が出され、次いで、制御部90から分光測定器80へスペクトル測定する指令が出されるようにすると、一連の測定を自動的に行うことができる。
【実施例1】
【0025】
次に、本発明の実施例1に係るサンプル保持部140の構成について、図5を用いて詳細に説明する。図5は細胞培養液の無菌検査に用いるサンプル保持部140を示す分解斜視図であり、本実施例では、シリンジ102に、一次蛍光標識が設けられ、凍結乾燥された抗体A1と、二次蛍光標識が設けられ、凍結乾燥された抗体B1と、検査対象の細胞培養液と、が導入され、シリンジ102から、攪拌してよく混合された状態のサンプル500が、サンプル注入口132、サンプル注入路124およびサンプル流通路126を介して、測定チャンバ122へ加圧送液される。
【0026】
そして、測定後は蛍光共鳴検出装置100からサンプル保持部140を取り外し、サンプル保持部140を交換する。交換する際に、サンプル保持部140の配置位置がずれ、蛍光共鳴検出装置100の平行光Lpがサンプル保持部140に当たる位置がずれてしまうことを防止するために、図示しない位置決め用の切欠きを導光プリズム110の底面(受光面116)に設けたり、サンプル保持部140を載置するステージを可動ステージにし、サンプル保持部140を載置したときに、位置調整を行えるようにしたり、するとなお良い。また、洗浄液をサンプル注入口132から導入し、サンプル注入口132、サンプル注入路124、サンプル流通路126および測定チャンバ122を洗浄して、サンプル保持部140を繰り返し使用できるようにしても良い。
【実施例2】
【0027】
次に、本発明の実施例2に係るサンプル保持部240の構成について、図6を用いて詳細に説明する。図6は血液による検査に用いるサンプル保持部240を示す分解斜視図であり、本実施例では、測定チャンバ222に、一次蛍光標識が設けられ、凍結乾燥された抗体A2と、二次蛍光標識が設けられ、凍結乾燥された抗体B2と、が予め導入されており、サンプル注入口232からサンプル500が、サンプル注入路224およびサンプル流通路226を介して、測定チャンバ222へ送液される。このとき、排気路228に接続される図示しないエアポンプによって、測定チャンバ222内を負圧にすることにより、サンプル500は測定チャンバ222内へ吸引送液される。
【0028】
血液検査に用いる本実施例のサンプル保持部240には、サンプル流通路226に1μmメッシュのフィルタ204が設けられており、血液中の固体成分(赤血球、白血球、血小板)はこのフィルタ204に捕捉される。そして、血漿などの液体成分と1μmメッシュのフィルタ204に捕捉されない微小な固体成分のみが測定チャンバ222へ導入され、検査対象となる。本実施例のようなフィルタ付のサンプル保持部240は、フィルタ204が目詰まりを起こすので、検査対象ごとにサンプル保持部240を交換する方が適しており、洗浄して繰り返し使用する場合には、排気路228から洗浄液を導入する必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、尿による妊娠検査を含む体液(血液、尿、消化液など)の抗原抗体反応検査をはじめ、核酸の相補性や、酵素の活性を利用するあらゆる検査に利用可能であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る蛍光共鳴検査装置の構成を模式的に示したシステム構成図である。
【図2】本発明に係る蛍光共鳴検査装置のサンプル保持部の構成を示した分解斜視図である。
【図3】抗原抗体反応による蛍光共鳴の原理を示した模式図である。
【図4】抗原抗体反応による蛍光共鳴の出力の違いを示した模式図である。
【図5】本発明の一実施例に係るサンプル保持部の構成を示した分解斜視図である。
【図6】本発明の他の実施例に係るサンプル保持部の構成を示した分解斜視図である。
【図7】FRET法を用いた従来の検出装置を模式的に示したシステム構成図である。
【符号の説明】
【0031】
10、110、210 導光プリズム
12、112、212 入射面
14、114、214 反射面
16、116、216 受光面
20、120、220 チャンバープレート
22、122、222 測定チャンバ
23、123、223 エッジ部
24、124、224 サンプル注入路
26、126、226 サンプル流通路
28、128、228 排気路
30、130、230 カバープレート
32、132、232 サンプル注入口
40、140、240 サンプル保持部
50 光源
52、82 光ファイバ
60 励起側コリメータレンズ
70 受光側コリメータレンズ
80 分光測定器
90 制御部
100 蛍光共鳴検出装置
102 シリンジ
204 フィルタ
500 サンプル




【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の蛍光標識と第2の蛍光標識との蛍光共鳴反応による蛍光を利用して検査対象中の被検出物質を検出する蛍光共鳴検出装置であって、
光源と、
前記光源から出射された出射光を反射する反射部材と、
前記反射部材の反射面から出射した近接場光が形成される領域に設けられ、前記第1の蛍光標識と前記第2の蛍光標識と前記検査対象とが保持される検査対象保持部と、
前記蛍光を検出する蛍光検出部と、
を備えることを特徴とする蛍光共鳴検出装置。
【請求項2】
前記蛍光検出部は、前記反射部材の前記反射面に対向する位置に設けられることを特徴とする請求項1記載の蛍光共鳴検出装置。
【請求項3】
前記蛍光検出部は、前記蛍光のスペクトルを測定するスペクトル測定手段を有することを特徴とする請求項1または2記載の蛍光共鳴検出装置。
【請求項4】
前記反射部材と前記検査対象保持部とは、一体に構成されると共に、前記蛍光共鳴検出装置から着脱可能に設けられることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の蛍光共鳴検出装置。
【請求項5】
前記第1の蛍光標識と前記第2の蛍光標識とは、前記検査対象が前記検査対象保持部に導入される前に、前記検査対象保持部に保持されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の蛍光共鳴検出装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−308412(P2006−308412A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−131054(P2005−131054)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】