説明

蛍光性糖鎖プローブ

【課題】ウイルス及び/又は毒素と糖鎖の相互作用を高感度に簡便かつ安価に測定する方法に用いる蛍光性糖鎖プローブ、その製造方法、及び、特定の糖鎖に特異的に結合するウイルス及び/又は毒素の検出方法を提供する。
【解決手段】蛍光性化合物と1以上の単糖又は糖鎖を結合することにより、蛍光性糖鎖プローブが提供される。蛍光性化合物と1以上の単糖又は糖鎖をトリアゾール環を含むスペーサーを介して結合させることにより、ウイルス及び/又は毒素の検出に好適な蛍光性糖鎖プローブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集誘起発光特性を有する蛍光性糖鎖プローブとその製造方法、およびその蛍光性糖鎖プローブを用いたウイルス及び/又は毒素等の糖鎖結合能評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、糖鎖の研究が急速に進展し、産業上の利用への模索も進められてきている。特に、細胞分化、ガン化、免疫反応等への糖鎖の関わりについて新しい事実が明らかにされつつある。例えば、細胞表層における糖鎖は、タンパク質や脂質と相互作用することによって、生体内における細胞分化、ガン化、免疫反応等の重要なプロセスに関与している。また、糖鎖は、細胞表層における細胞認識、接着、細胞間のシグナル伝達において重要な役割を担っていることも明らかになってきている。
【0003】
重症急性呼吸器症候群(SARS)、エイズ、ならびに、インフルエンザ等の感染性ウイルス、O-157など病原性微生物が生産するタンパク質毒素(ベロ毒素、コレラ毒素、炭素菌毒素等)、BSEプリオン蛋白質による感染症が大きな社会問題となっている。これらウイルスや毒素は、ホスト細胞の表面を被う特定の糖鎖を認識して結合することで、ヒトに感染することが知られている。このことは、糖鎖がウイルスの感染予防薬や毒素の捕捉材料、或いは検出用のプローブとして機能することを意味している。
【0004】
糖鎖の生体内における様々な重要なプロセスにおけるメカニズムを分子レベルで解析しようと、糖鎖アレイが利用されている。例えば、24種類の糖脂質をブチルシランでコーティングしたスライドガラス上にスポットし、糖脂質の脂質部分とガラス表面の疎水的相互作用を利用して固定化した糖脂質アレイがタカラバイオ株式会社より販売されている。また、酵素、レクチンなどの生体物質と基質アナログ、オリゴ糖鎖間の親和力を評価する方法として、ビアコアがよく用いられているが、いずれも測定精度、簡便さ、あるいは経済性などの点が問題である。
【0005】
また、近年、フロンタルアフィニティークロマトグラフィー(非特許文献1)やエバネッセント波励起型レクチンアレイシステム(非特許文献2)が開発された。エバネッセント波励起型レクチンアレイシステムは、DNA アレイや抗体アレイで行われている洗浄工程が不要で結合力が比較的弱い糖鎖とレクチン間の結合力を検出することができる。しかしながら、これらは測定精度や測定の簡便さは向上したものの、糖鎖との相互作用を検出するリガンドをカラム担体やアレイへ固定化する必要があることや経済性の問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hirabayashi, J.ら、J. Chromatogr. A, 890, 261-271, 2000.
【非特許文献2】Kuno, A.ら、Nat. Methods, 2, 851-856, 2005.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在用いられている酵素、レクチンなどの生体物質や毒素、又はウイルスと糖鎖の相互作用を検出する方法では、洗浄工程により弱い結合を検出しにくいという問題や、分析対象となるリガンドをカラム担体やアレイへの固定化する工程が煩雑であるという問題や、高価な測定機器が必要であるといった経済性の問題がある。このような背景から、簡便でかつ安価な糖鎖との相互作用検出技術の開発が強く望まれている。
【0008】
そこで、本発明の課題は、糖鎖との相互作用を高感度に簡便かつ安価に測定する方法及び、その測定のために用いる蛍光性糖鎖プローブの製造方法、更には、特定の糖鎖に特異的に結合するウイルスや細菌毒素の検出方法を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、凝集誘起発光特性を有する化合物に糖鎖を結合させることで、結合させた糖鎖との相互作用を高感度でありながら、簡便かつ安価に分析できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
本発明の特徴の一つは、蛍光性化合物と1以上の単糖又は糖鎖が結合してなる蛍光性糖鎖プローブである。
【0011】
本発明の別の特徴の一つは、蛍光性化合物と1以上の単糖又は糖鎖が、トリアゾール環を含むスペーサーを介して結合してなる、上記の蛍光性糖鎖プローブである。
【0012】
本発明の別の特徴の一つは、蛍光性化合物と2以上の単糖又は糖鎖が結合してなる、上記の蛍光性糖鎖プローブである。
【0013】
本発明の別の特徴の一つは、式(I):(G1)x(G2)y(G3)z−L−N3[式中、(G1)x、(G2)y及び(G3)zは、それぞれ独立して環状構造の単糖残基又はその誘導体が互いに糖鎖を形成するようにグリコシド結合しており、x、y、及びzは、それぞれ独立して0〜10の整数であり、;(G1)xと(G2)y、及び、(G2)yと(G3)zもまた互いに糖鎖を形成するようにグリコシド結合しており;Lは、−O−(CH2)m−、−S−(CH2)m−、及び−NH−(CH2)m−から選択される連結基であり、mは8〜20の整数である]で表される糖鎖とトリアゾール環を含む置換基が、蛍光性化合物に結合してなる、上記の蛍光性糖鎖プローブである。
【0014】
本発明の別の特徴の一つは、前記糖鎖が、動物細胞に糖鎖プライマーを加えて培養することで得られ、該糖鎖プライマーが、アジド基を有したアルキル鎖をオリゴ糖鎖に結合させた化合物である、上記の蛍光性糖鎖プローブである。
【0015】
本発明の別の特徴の一つは、前記糖鎖が、複数の同一または異なる種類の糖鎖を含む、上記の蛍光性糖鎖プローブである。
【0016】
本発明の別の特徴の一つは、前記糖鎖が、ラクトース、α2,3−シアリルラクトース、及び、α2,6−シアリルラクトースからなる群から選ばれる1以上の糖鎖である、上記の蛍光性糖鎖プローブである。
【0017】
本発明の別の特徴の一つは、前記蛍光性化合物がテトラフェニルエチレンを基本骨格として有する蛍光性化合物である、上記の蛍光性糖鎖プローブである。
【0018】
本発明の別の特徴の一つは、上記の蛍光性糖鎖プローブを用いたウイルス及び/又は毒素の検出方法である。
【0019】
本発明の別の特徴の一つは、上記の蛍光性糖鎖プローブを用いて、シアル酸の結合様式の違いによるウイルス及び/又は毒素の結合能を評価する方法である。
【0020】
本発明の別の特徴の一つは、上記の蛍光性糖鎖プローブを用いて、ウイルス及び/又は毒素のヒトへの感染性及び/又は毒性を評価する方法である。
【0021】
本発明の別の特徴の一つは、上記の蛍光性糖鎖プローブを用いて、ウイルス及び/又は毒素と糖鎖の結合を阻害する化合物をスクリーニングする方法である。
【0022】
本発明の別の特徴の一つは、蛍光性糖鎖化合物に、糖鎖を合成する酵素を作用させて糖鎖を伸長させることにより作製することを特徴とする、上記の蛍光性糖鎖プローブの製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明を適用することによって、糖鎖との相互作用を高感度でありながら、簡便かつ安価に分析できることができる。本発明の蛍光性糖鎖プローブを用いた糖鎖との相互作用解析においては、洗浄工程がないため、比較的弱い結合も検出できる特徴を有する。よって、糖鎖とレクチンのような比較的弱い結合の検出に非常に効果的に使用できる。また、本発明は、ヒト型糖鎖を導入した蛍光性糖鎖プローブを用いることにより毒素のヒトへの毒性の評価や、あるいは、α2,6結合のシアル酸とα2,3結合のシアル酸への結合力を比較することで、ウイルスのヒトへの感染性の評価をする上で非常に有用であると考えられる。また、ウイルスや毒素と糖鎖の結合を阻害する化合物をスクリーニングするのに有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例5に係るドットブロット法による蛍光性糖鎖プローブのレクチンとの相互作用を解析した結果を示した図である。
【図2】本発明の実施例6に係るα2,6−シアリルラクトース付加蛍光性糖鎖プローブによりインフルエンザウイルスA/WSN/33株を検出した結果を示した図である。
【図3】本発明の実施例7に係るラクトース付加蛍光性糖鎖プローブとα2,6−シアリルラクトース付加蛍光性糖鎖プローブのインフルエンザウイルスA/WSN/33株との相互作用を比較した結果を示した図である。
【図4】本発明の実施例8に係るラクトース付加蛍光性糖鎖プローブ、α2,3−シアリルラクトース付加蛍光性糖鎖プローブ、α2,6−シアリルラクトース付加蛍光性糖鎖プローブのヒトインフルエンザウイルスA/WSN/33株およびトリインフルエンザウイルスA/Duck/Pennsylvania/10218/84株との相互作用を比較した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0026】
本発明の蛍光性糖鎖プローブは、テトラフェニルエチレンやホスホールオキシド化合物など凝集することにより蛍光が誘起される化合物に、ウイルスや毒素など糖鎖に特異的に結合する糖鎖を導入したものである。テトラフェニルエチレンは、Org. Lett., 10, 4581-4584, 2008.(Liu, L.ら)や、Chem. Commun., 2006, 3705-3707.(Tong, H.ら)に記載の公知の化合物である。ホスホールオキシド化合物は、Appl. Mater. Interfaces. 1, 270-273, 2009. (Sanji, T.ら)に記載の公知の化合物である。
【0027】
導入する糖鎖としては、ベロ毒素と結合するGb3、コレラ毒素と結合するGM1、破傷風毒素と結合するGD1b、ボツリヌス毒素と結合するGT1bやGQ1b、ウエルシュ菌のデルタ毒素と結合するGM2、或いは、ヒトインフルエンザウイルスと結合するα2,6結合のシアル酸、トリインフルエンザウイルスと結合するα2,3結合のシアル酸、ノロウイルスと結合する血液型抗原であるH(O)、A、Leb型抗原などが挙げられるが、必ずしもこれらに限られるものではない。
【0028】
テトラフェニルエチレンなどの凝集誘起発光特性を有する化合物に糖鎖を導入する方法としては、公知の方法で人工的に合成することもできるが、糖鎖プライマー法により合成される糖鎖化合物を用いることや、予め1つ以上の糖を導入しておき糖鎖を合成する酵素により糖を付加することにより、より複雑な糖鎖を導入することが可能である。
【0029】
糖鎖プライマー法により合成される糖鎖化合物は、アグリコンにアジド基が導入されているため、アルキン基を持つ凝集誘起発光性化合物を合成すれば、クリックケミストリーやStaudinger反応により、容易に蛍光性糖鎖プローブを作製することができる。
【0030】
糖鎖プライマー法による糖鎖合成は、動物細胞を糖鎖が得られるような条件下にて培養することで行うことができる。動物細胞は特に限定されず、所望の糖鎖化合物の種類に応じて様々な動物細胞が用いられ得る。動物細胞の例としては、ヒト由来、マウス由来、サル由来、ラット由来などの哺乳動物細胞が挙げられ、特にB16マウスメラノーマ細胞、ラットPC12細胞、マウスNeuro2a細胞、ラットRBL−2H3細胞、ヒトMOLT−4細胞、ヒトHL−60細胞、サル腎臓由来ベロ細胞などが好適に用いられ得る。培養は、通常の動物細胞の培養条件に従って行う。
【0031】
糖鎖化合物が得られるような条件とは、例えば、上記の動物細胞を、室温から45℃までの温度の間で1時間から70時間までの間の時間で血清が加えられたDMEM/F12などの培養培地で前培養した後、無血清の糖鎖プライマーを添加した培地に置換してさらに培養を行い、糖鎖伸長反応を行うことなどである。
【0032】
ここで、糖鎖プライマーは、用いられる細胞種、所望の糖鎖構造により任意に選択することができる。好ましい糖鎖プライマーの例としては、式(I):(G1)x(G2)y(G3)z−L−N3[式中、(G1)x、(G2)y及び(G3)zは、それぞれ独立して環状構造の単糖残基又はその誘導体が互いに糖鎖を形成するようにグリコシド結合しており、x、y、及びzは、それぞれ独立して0〜10の整数であり、;(G1)xと(G2)y、及び、(G2)yと(G3)zもまた互いに糖鎖を形成するようにグリコシド結合しており;Lは、−O−(CH2)m−、−S−(CH2)m−、及び−NH−(CH2)m−から選択される連結基であり、mは8〜20の整数である]で表される化合物が挙げられる。ここで、式中の単糖としては、限定はされないが、ペントース及びヘキソースを使用するのが好ましい。またアルドース、ケトースのいずれも使用することができる。式中のx、y、及びzは、好ましくは0〜5の整数、さらに好ましくは0〜3の整数であり、x、y及びzの全てが同時に0であることはない。式中のmは、好ましくは8〜16の整数、特に好ましくは12である。
【0033】
このような糖鎖プライマーを各種細胞の培地に添加して細胞を培養すると、細胞は、プライマーを取り込み、その糖鎖部分に更に糖を付加してグリコシル化し、その糖付加生成物を細胞内には蓄積せずに細胞外に分泌する。付加される糖は、細胞により異なる。
【0034】
得られる細胞培養物または細胞培養物から細胞を除いた上清は、糖鎖プライマーから伸長して得られた生成物である糖鎖を含有する。この細胞培養物または細胞培養物の上清をそのまま、あるいは上清を固体吸着剤等と接触させるなどして濃縮および/または精製工程に供した後に、クリックケミストリーライゲーション反応により本発明の蛍光性糖鎖プローブの作製に使用することができる。
【0035】
アジド基とアルキン基との反応は、クリックケミストリーライゲーション反応において行い得る。例えば、Cu(PPh33Brを触媒として用いる方法や、電子線照射による方法等が知られており、好適に用いることができる。
【0036】
より詳細には、トリアゾール環が形成されるように、還流溶媒(トルエン等)中において生成物がもたらされるのに充分な時間(例えば、30〜40時間)にてアジド基とアルキン基とを反応させる方法を例示できる。反応混合物に触媒(銅等)を添加することによって、反応を室温にて水性溶媒中で進行させ、トリアゾール環を有する生成物を得ることができる。用いる触媒(銅等)としてCu(II)を好適に用いることができる。Cu(II)をCu(I)に還元するための還元剤の存在下で触媒量のCu(II)を添加する方法により、反応は好適に触媒される。Cu(II)をCu(I)に還元するための還元剤には、アスコルビン酸塩、金属銅、キノン、ヒドロキノン、ビタミンK1、グルタチオン、システイン、Fe2+、Co2+、印加電位、および、金属等が含まれ、これらを好適に組み合わせて用いることもできる。金属としては、Al、Be、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、Ni、および、Znからなる群より選択される1以上の金属が挙げられ、これらの金属は特に好ましい還元剤として好適に用いることができる。
【0037】
アジド基とアルキン基とのクリックケミストリーライゲーション反応は、金属銅と接触している溶液中で反応を行うことによっても触媒され得る。金属銅は、そのクリックケミストリーライゲーション反応に対する触媒作用に直接的または間接的に寄与する。好ましい方式では、前記溶液は、水溶液である。この場合アジド基を有する糖鎖とアルキン基を有する反応化合物とは、等モル量で存在しうる。
【0038】
あるいは、アジド基とアルキン基とのクリックケミストリーライゲーション反応は、Au、Ag、Hg、Cd、Zr、Ru、Fe、Co、Pt、Pd、Ni、RhおよびWから成る群より選択される金属のイオンを有する触媒量の金属塩を添加することにより触媒される。このようなクリックケミストリーライゲーション反応は、前記金属イオンを触媒活性形に還元するための還元剤の存在下で行われる。好ましい還元剤には、アスコルビン酸塩、キノン、ヒドロキノン、ビタミンK1、グルタチオン、システイン、Fe2+、Co2+、印加電位、ならびにAl、Be、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、NiおよびZnから成る群より選択される金属等が含まれる。
【0039】
予め、化学合成により導入することが容易な、単糖や二糖を蛍光性化合物に導入しておき、糖鎖を合成する酵素により糖鎖を伸長させて、目的の糖鎖を持つ蛍光性糖鎖プローブを作製することもできる。糖鎖を伸長させるのに利用できる酵素として、α1,3−ガラクトース転移酵素、α1,3−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、β1,3−N−アセチルグルコサミン転移酵素、β1,4−ガラクトース転移酵素、α1,2−マンノース転移酵素、フコース転移酵素、β1,4−N−アセチルグルコサミン転移酵素、α2,3−シアル酸転移酵素、α2,6−シアル酸転移酵素、α2,8−シアル酸転移酵素等の糖転移酵素や、セレブロシド硫酸基転移酵素などの硫酸基転移酵素などが挙げられる。
【0040】
このようにして、式(II):(G1)x(G2)y(G3)z−L−X−[式中、(G1)x、(G2)y及び(G3)zは、それぞれ独立して環状構造の単糖残基又はその誘導体が互いに糖鎖を形成するようにグリコシド結合しており、x、y、及びzは、それぞれ独立して0〜10の整数であり、;(G1)xと(G2)y、及び、(G2)yと(G3)zもまた互いに糖鎖を形成するようにグリコシド結合しており;Lは、−O−(CH2)m−、−S−(CH2)m−、及び−NH−(CH2)m−から選択される連結基であり、mは8〜20の整数であり;Xはトリアゾール環を含む任意のスペーサーである]で表される糖鎖とトリアゾール環を含む置換基が、蛍光性化合物に結合した、ウイルス及び/又は毒素検出用蛍光性糖鎖プローブを調製することができる。
【0041】
糖鎖との相互作用を調べるサンプルを混合した緩衝液中に0.1μMから1mMの終濃度になるように蛍光糖鎖プローブを添加して混合し、数秒から2時間反応させた後、目視により確認できる。また、蛍光光度計を用いることにより、高感度な検出や定量的な解析も可能となる。
【0042】
なお、反応液を調製する際に結合を阻害する化合物を添加したり、或いは、反応後、凝集により蛍光が確認された溶液に結合を阻害する化合物を添加することにより、阻害効果を評価することが可能である。
【0043】
また、ニトロセルロース膜などにサンプルをスポットした後、0.01から100μMの蛍光性糖鎖プローブ溶液中に10秒から2時間浸し、乾燥させた後、紫外線を照射することにより糖鎖との相互作用を検出することもできる。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
活性化した亜鉛0.92gを窒素雰囲気下にて、反応フラスコに計り入れ、テトラヒドロフラン35mlを加えた。次いで、窒素雰囲気下でマイナス10℃以下に冷却した後、塩化チタン0.78mlを滴下して加え、2時間還流した。その後、4,4´−ジヒドロキシベンゾフェノン1.5gをテトラヒドロフラン15mlに溶解し加え、更に4時間還流した。その後、室温まで冷却し、50mlの10%炭酸カリウム水溶液を加え、5分間激しく撹拌し、ろ過し、有機相を回収した。水相より酢酸エチル5mlで3回抽出した。有機相と、酢酸エチルによる抽出液を合わせ、溶媒留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル=1:1)で単離して、下記化学式(1)に示した化合物を得た(0.40g、収率28.6%)。1H NMR (600MHz, CD3OD):6.79(d, 8H), 6.78(d, 8H); 13C NMR(600MHz, CD3OD):155.3, 138.3, 136.1, 132.4, 114.0。
【0045】
【化1】

【0046】
窒素雰囲気下、反応フラスコに、化学式(1)に示した化合物(0.1g)、3−ブロモ−1−プロピン(0.15g)、炭酸カリウム(0.35g)、ジメチルホルムアミド(5 ml)を加え、室温で24時間撹拌した。その後、反応溶液よりクロロホルムによる抽出を行い、硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒留去し、シリカゲルクロマトグラフィ(ヘキサン/ジクロロメタン=1:1)で単離して、下記化学式(2)に示した化合物を得た(0.09g、収率66.3%)。1H NMR (600MHz, CDCl3):6.93(d, 8H), 6.70(d, 8H), 4.62(s, 8H), 2.51(s, 4H); 13C NMR(600MHz, CDCl3):156.1, 138.7, 137.5, 132.6, 114.1, 78.7, 75.5, 55.9; ESI MS: m/z 548.2 ([M+H]+: 549.207)。
【0047】
【化2】

【0048】
触媒としてルイス酸であるboron trifluoride etherate (BF3・OEt2)を用いて、アジド基を導入したアルコールのグリコシル化を行った後、脱アセチル化反応を行うことにより、12−アジドドデシル−β−ラクトシドを得た(Murozuka, Y.ら, Chemistry and Biodiversity, 2, 1063(2005)、Kasuya, M. C.ら, Carbohydr. Res., 329, 755. (2000)参照)。
【0049】
(実施例2)
100枚の100mmのディッシュに、細胞数2×106cellsのマウスメラノーマB16細胞を7mlの10%FBSを含むDMEM/F12培地(インビトロジェン)に懸濁して播き、CO2インキュベターの中で37℃にて48時間、前培養を行った。
【0050】
前培養後、終濃度50μMになるように12−アジドドデシル−β−ラクトシド及び1%のITSX(GIBCO社製)を添加したDMEM/F12培地に置換し、更に、CO2インキュベターの中で37℃にて48時間培養し、糖鎖伸長反応を行った。
【0051】
糖鎖伸長反応後、培地を回収し、更にディッシュ表面をPBSで洗浄することにより、培地上清全量を回収した。
【0052】
得られた培地上清に、25gのスチレン系合成吸着剤ダイヤイオンHP20(三菱化学社製)を加え、16時間振盪し、糖鎖化合物を吸着剤に吸着させた。次に、100mlの水で5回洗浄した後、メタノール100mlで4回溶出した。その後、溶媒留去させ、強陰イオン交換カラム(SAX(GLサイエンス社製))に供し、Sep-Pakカラム(Waters社製)を用いて脱塩を行うことにより精製し、12−アジドドデシル−α2,3−シアリルラクトシドを得た(Kato, T.ら、J. Chromatogr. A, 1178, 154(2008)参照)。
【0053】
(実施例3)
100mM 12−アジドドデシル−β−ラクトシド、0.02% TritonX−100を含む20mM Bis−Tris(pH6.0)(975μl)、50mg/ml CMP−NueAc(50μl)、0.05unit α2,6−シアリルトランスフェラーゼをエッペンドルフチューブ中で混合し、30℃で16時間静置した。その後、強陰イオン交換カラム(SAX)に供し、Sep-Pakカラムを用いて脱塩を行うことにより精製し、12−アジドドデシル−α2,6−シアリルラクトシドを得た。
【0054】
(実施例4)
CuSO4・5H2O及びアスコルビン酸ナトリウムを触媒とするアジド/アルキンの
連結反応による、化学式(2)に示した化合物へのラクトース、α2,3−シアリルラクトース、α2,6−シアリルラクトースを導入および生成は、以下の条件で行った。
【0055】
10mMアジド糖鎖化合物、2.5mM化学式(2)に示した化合物、50mMアスコルビン酸ナトリウム、10mM CuSO4・5H2Oを、DMSO(又は、アセトン)/水=1:1に溶解し、室温で24時間撹拌した。その後、シリカゲルクロマトグラフィ(クロロホルム/メタノール/水=5:4:1)で単離した。
【0056】
(実施例5)
ニトロセルロースメンブレンに、MAMレクチン及び、SSAレクチンを10μgスポットし、風乾させた後、20μMのα2,3−シアリルラクトース付加蛍光性糖鎖プローブ、及びα2,6−シアリルラクトース付加蛍光性糖鎖プローブを含む10mM Tris−HCl(pH7.6)に浸し、10分間静置した後、10mM Tris−HCl(pH7.6)で洗浄し、365nmのUVを照射した。その結果、図1に示したように、α2,3−シアリルラクトース付加蛍光性糖鎖プローブ及び、α2,6−シアリルラクトース付加蛍光性糖鎖プローブは、それぞれMAMレクチン、SSAレクチンへの特異的な結合による蛍光シグナルが得られた(励起:319nm;検出:460nm)。また、ラクトース付加蛍光性糖鎖プローブにおいては、MAMレクチン、SSAレクチンへの結合は見られず、RCA120への特異的な結合が認められた。以上のことから、これらの蛍光性糖鎖プローブは糖鎖との相互作用を調べる上で活用できることが示された。
【0057】
(実施例6)
104pfu、105pfu、106pfuのインフルエンザウイルスA/WSN/33株を含む10mM Tris−HCl(pH7.6)(100μl)に、終濃度1μMになるようにラクトース付加蛍光性糖鎖プローブとα2,6−シアリルラクトース付加蛍光性糖鎖プローブをそれぞれ添加し、比較した。その結果、図2に示すように、α2,6−シアリルラクトース付加蛍光性糖鎖プローブに特異的に検出された(励起:319nm;検出:460nm)。
【0058】
(実施例7)
106pfuのインフルエンザウイルスA/WSN/33株を含む10mM Tris−HCl(pH7.6)(100μl)に、終濃度1μMになるようにα2,6−シアリルラクトース蛍光性糖鎖プローブを添加し、ウイルスを含まない液と比較した。図3において、ウイルスを加えた場合を実線(α2,6SL-TPE+WSN)、加えてない場合を点線(α2,6SL-TPE)で示しているが、ウイルスを含む液の場合、蛍光性を示した(励起:319nm;検出:460nm)。
【0059】
(実施例8)
106pfuのインフルエンザウイルスA/WSN/33株およびA/Duck/Pennsylvania/10218/84を含む10mM Tris−HCl(pH7.6)(100μl)に、終濃度2.5μMになるようにラクトース付加蛍光性糖鎖プローブ、α2,3−シアリルラクトース付加蛍光性糖鎖プローブとα2,6−シアリルラクトース付加蛍光性糖鎖プローブをそれぞれ添加し、ウイルスを含まない液と比較した。図4に示すようにウイルスを含む液の場合、蛍光性を示した(励起:335nm;検出:460nm)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光性化合物と1以上の単糖又は糖鎖が結合してなる蛍光性糖鎖プローブ。
【請求項2】
蛍光性化合物と1以上の単糖又は糖鎖が、トリアゾール環を含むスペーサーを介して結合してなる、請求項1に記載の蛍光性糖鎖プローブ。
【請求項3】
蛍光性化合物と2以上の単糖又は糖鎖が結合してなる、請求項1または2に記載の蛍光性糖鎖プローブ。
【請求項4】
式(I):(G1)x(G2)y(G3)z−L−N3[式中、(G1)x、(G2)y及び(G3)zは、それぞれ独立して環状構造の単糖残基又はその誘導体が互いに糖鎖を形成するようにグリコシド結合しており、x、y、及びzは、それぞれ独立して0〜10の整数であり、;(G1)xと(G2)y、及び、(G2)yと(G3)zもまた互いに糖鎖を形成するようにグリコシド結合しており;Lは、−O−(CH2)m−、−S−(CH2)m−、及び−NH−(CH2)m−から選択される連結基であり、mは8〜20の整数である]で表される糖鎖とトリアゾール環を含む置換基が、蛍光性化合物に結合してなる、請求項2または3に記載の蛍光性糖鎖プローブ。
【請求項5】
前記糖鎖が、動物細胞に糖鎖プライマーを加えて培養することで得られ、該糖鎖プライマーが、アジド基を有したアルキル鎖をオリゴ糖鎖に結合させた化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の蛍光性糖鎖プローブ。
【請求項6】
前記糖鎖が、複数の同一または異なる種類の糖鎖を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の蛍光性糖鎖プローブ。
【請求項7】
前記糖鎖が、ラクトース、α2,3-シアリルラクトース、及び、α2,6-シアリルラクトースからなる群から選ばれる1以上の糖鎖である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の蛍光性糖鎖プローブ。
【請求項8】
前記蛍光性化合物がテトラフェニルエチレンを基本骨格として有する蛍光性化合物である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の蛍光性糖鎖プローブ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の蛍光性糖鎖プローブを用いたウイルス及び/又は毒素の検出方法。
【請求項10】
請求項7又は8に記載の蛍光性糖鎖プローブを用いて、シアル酸の結合様式の違いによるウイルス及び/又は毒素の結合能を評価する方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の蛍光性糖鎖プローブを用いて、ウイルス及び/又は毒素のヒトへの感染性及び/又は毒性を評価する方法。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれかに1項記載の蛍光性糖鎖プローブを用いて、ウイルス及び/又は毒素と糖鎖の結合を阻害する化合物をスクリーニングする方法。
【請求項13】
蛍光性糖鎖化合物に、糖鎖を合成する酵素を作用させて糖鎖を伸長させることにより作製することを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに1項記載の蛍光性糖鎖プローブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−153096(P2011−153096A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15639(P2010−15639)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】