蛍光材料の製造方法
【課題】触媒や溶剤を使用することなく、N/C比が1以上の高い窒素含有率の窒化炭素を再現性よく簡便に高効率で得ることができると共に、目的生成物が白色蛍光を発する窒化炭素系蛍光体の新規な合成方法を提供する。
【解決手段】炭素、窒素及び水素からなるか、あるいは炭素、窒素、水素及び酸素からなり、かつ炭素と窒素の結合の繰り返し構造となっている化合物を用い、該化合物をその分解温度又は昇華温度以上の温度で昇華蒸気圧が飽和になる条件で加熱処理する。ここで炭素と窒素の結合の繰り返し構造(C−N)nとなっている化合物は、メラミン、尿素又はシアヌル酸であり、加熱処理条件は、温度が250℃から550℃の範囲で蓋付容器内又は低隙間容積状態でガス流入がほとんどない状態で行う。
【解決手段】炭素、窒素及び水素からなるか、あるいは炭素、窒素、水素及び酸素からなり、かつ炭素と窒素の結合の繰り返し構造となっている化合物を用い、該化合物をその分解温度又は昇華温度以上の温度で昇華蒸気圧が飽和になる条件で加熱処理する。ここで炭素と窒素の結合の繰り返し構造(C−N)nとなっている化合物は、メラミン、尿素又はシアヌル酸であり、加熱処理条件は、温度が250℃から550℃の範囲で蓋付容器内又は低隙間容積状態でガス流入がほとんどない状態で行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光材料、特に無定形窒化炭素を主体とする蛍光材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化炭素は窒素と炭素のみからなる化合物であり、特に窒素含有率の高い窒化炭素(α−C3N4結晶、β−C3N4結晶、グラファイト状C3N4)は超硬質材料として注目されており、半導体、機械部品、又は歯や骨の関節等の耐摩耗材として用いるなど、工業用、理化学用、医療用など様々な分野への応用が期待されることもあり、基礎及び応用の両面から活発な検討が進められている。更に、超硬質窒化炭素材料を合成する過程で、窒素/炭素モル比が1を超える窒化炭素材料では蛍光を発することが確認されている。
【0003】
本発明で採用する出発物質と類似する塩化シアヌルやトリクロロメラミンのような炭素と窒素のトリアジン環および塩素を含む化合物を反応原料とする炭素と窒素及び水素の化合物の合成については、特許文献1や非特許文献1に見られる。
【0004】
特許文献1には、塩化シアヌルとアンモニア又は塩化シアヌルとメラミンを500℃〜600℃で反応させて層状構造の窒化炭素が製造されること、得られた窒化炭素は蛍光材になることの開示がある。この方法の特徴は、塩化シアヌルを出発原料として、塩素部分をアンモニア又はメラミンと反応させることにより、トリアジン環を窒素で架橋し、窒化炭素中間体を形成することである。更に、この窒化炭素中間体を500℃〜600℃で熱分解し、余分な水素を除去して、黄色の層状構造を持つ窒化炭素を製造することである。
【0005】
また、非特許文献1にはトリクロロメラミンをオートクレーブ中で、500℃に加熱したニクロム線に接触させることにより、短時間でオレンジ色の窒化炭素を合成する方法が記載されている。この方法の特徴は、トリクロロメラミンを出発原料にすることと、ニクロム線加熱で急速に数10秒で熱分解することにより、高窒素含有で微粒子の窒化炭素を得ることである。
【0006】
【特許文献1】特公平5−16364号公報(特許請求の範囲、第3欄)
【非特許文献1】J. Mater. Chem. 12, P.2463-2469, 2000(P.2467.Conclusionsほか)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1および非特許文献1では、窒化炭素の出発原料として塩化物を使用している。塩素は、熱処理により容易に脱離して、ラジカル又はイオンを生成させ、分子間の架橋の反応点となる。この反応を利用すると、容易に分子同士が架橋反応により重合するため、特許文献1および非特許文献1では、窒化炭素の出発原料として塩素化合物を使用していると推測される。
【0008】
しかし、出発原料である塩化物が熱分解すると、塩酸又は塩素が生成するため、装置が腐食するという問題がある。また、塩化シアヌルやトリクロロメラミンのような塩化物は高価であり、安価な蛍光材料をつくるには不向きである。更に、特許文献1および非特許文献1では、窒素又はアルゴン等の不活性ガス雰囲気で反応を行っている。不活性ガス雰囲気は、窒化炭素の出発原料の酸化分解を防ぎ、窒化炭素の製造には最適であるが、不活性ガス置換のための煩雑な操作が必要になり、装置の気密性も確保する必要がある。
【0009】
窒化炭素は、超硬質材料として研究が進められているため、窒素と炭素の純粋な化合物であり、結晶性が高いことが必要であった。それ故、今までの研究では、如何に高品質な窒化炭素を製造するかに重点がおかれて、塩素含有窒化炭素原料を不活性ガスで満たした気密性の高い密閉容器内、又は、不活性ガス流通下に550℃以上で熱処理して製造することが主流であった。したがって、550℃未満の低温で得られる、アモルファスで水素が不純物として含まれるような窒化炭素は、求められていなかったのが現状である。
【0010】
本発明は、このような従来技術の問題点を克服するものであって、塩化物を出発原料とすることなく、塩酸による装置の腐食の問題を解決し、不純物としての塩素の混入がない原料を使用することにより、安価な白色蛍光を発する化合物である、窒化炭素系蛍光体の新規な合成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、窒化炭素系蛍光体の合成方法について鋭意検討した結果、炭素、窒素及び水素からなる化合物又は炭素、窒素、水素及び酸素からなる化合物を分解温度又は昇華温度以上の温度で昇華蒸気圧が飽和になる条件で加熱処理することにより、効率よく白色に発光する窒化炭素系蛍光体が得られることを見いだしたものである。
【0012】
すなわち、本発明は炭素、窒素及び水素からなるか、あるいは炭素、窒素、水素及び酸素からなり、かつ炭素と窒素の結合の繰り返し構造となっている化合物を用い、該化合物をその分解温度又は昇華温度以上の温度で昇華蒸気圧が飽和になる条件で加熱処理することを特徴とする蛍光材料の製造方法である。
【0013】
ここで炭素と窒素の結合の繰り返し構造(C−N)nとなっている化合物は、メラミン、尿素又はシアヌル酸であり、これらの化合物が以下の方法で簡単に青みがかった白色の蛍光体が容易に得られる。アデニンのようにC−C結合が含まれている化合物を出発原料に使用すると、蛍光体は製造できにくい。
【0014】
化合物の加熱処理は、温度が250℃から550℃の範囲、好ましくは温度が300℃から500℃の範囲で行うのがよい。
【0015】
蛍光材料の化合物の加熱処理は、化合物を蓋付容器内又は低隙間容積状態でガス流入がほとんどない状態で行うので、特別なオートクレーブなどを用いる必要もない製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の蛍光材料の製造方法によると、メラミン、尿素又はシアヌル酸等の窒素、炭素化合物を用いて今まで、研究が主流であった温度域より低い250℃から550℃の範囲で、不活性ガス置換なしに、簡易な蓋付容器内又は低隙間容積状態でガス流入がほとんどない状態で行うことにより、無機蛍光体を容易に製造できる。
【0017】
本発明で製造した窒化炭素系蛍光体は、様々な分野で利用が可能である。例えば、蛍光顔料として樹脂系塗料に混合する使用法がある。無機系蛍光体であることから、太陽紫外線等による劣化が少なく、高耐久性が望める。また、蛍光灯に使用されている白色蛍光体の代替も期待できる。現在使用されている白色蛍光体には、Sbが含まれている。結晶内に組み込まれており、容易には溶出しないが、将来的な問題となる可能性が高い。窒化炭素系蛍光体は、有害物質を含まないため、環境に配慮した製品として期待できる。
【0018】
更に、本発明の窒化炭素系蛍光体は、半導体としての特性も備えているため、無機ELの発光体として使用できる可能性がある。白色の発光パネルは、携帯電話、携帯ゲーム等の小型画面への利用が期待されている。無機EL発光パネルは、高耐久性が薄型画面として期待されており、安価な製品が求められている。安価に製造できる窒化炭素系蛍光体は、無機EL発光パネルの原料として最適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明の蛍光体製造方法を更に詳細に説明する。本発明の窒化炭素系蛍光体の合成方法は、図1に示されるように、原料として炭素、窒素及び水素からなる化合物又は炭素、窒素、水素及び酸素からなる化合物を出発原料とし、分解温度又は昇華温度以上で熱処理することにより分子間縮合により蛍光材料を合成する方法である。出発原料は、炭素と窒素の原子が交互に結合する構造が好ましい。このような構造を有する化合物は、尿素、シアヌル酸、メラミン、メラム等がある。
【0020】
これらの化合物は、炭素と窒素が交互に結合を繰り返す構造を有している。例えば、尿素はN−C−Nの構造を持ち、シアヌル酸及びメラミンは、C−N−C−N−C−N−の6員環構造を持っている。また、加熱処理、ミル処理、加圧処理等により、メラミン及びメラムの類似化合が合成される原料も使用可能である。
【0021】
しかし、同じような窒素と炭素の化合物でも、アデニンのようにC−C結合が含まれている化合物を出発原料に使用すると、蛍光体は製造できにくい。
【0022】
これらの出発原料は、加熱すると昇華する性質を持つ。したがって、昇華により化合物が蒸発することを防ぐ必要がある。
【0023】
本発明では、昇華を防ぐために蓋付容器を使用する。蓋は、気密性が高いネジ付きの蓋や、固定治具が付いた密着性が高い蓋でも良いが、軽く載せるだけの気密性が低い蓋でも使用可能である。また、このような、気密性が低い蓋では、外気から酸素が入り込んでくる可能性があるが、本発明の窒化炭素系蛍光体の製造では、特に、問題とはならない。実際に、るつぼに軽く載せる蓋を使用して、るつぼの容積の80%から90%程度出発原料を詰めて加熱処理を行っても、窒化炭素系蛍光体は製造できる。これは、出発原料の部分的な分解によるアンモニアガスの発生及び、出発原料の昇華ガスの発生により、容器内部への外部からのガスが入りにくくなることが考えられる。ただし、分解ガスや昇華ガスが容器内に充満していても、完全には外部からのガスの侵入を防ぐことは困難であるので、少量の酸素は特に、影響を及ぼさないと考えられる。
【0024】
また、容器は、できるだけ加熱する装置の加熱炉内に占める体積が大きく隙間が少ない方が良い。これは、空隙が少ないと、原料の分解ガス又は昇華ガスが、加熱炉内に充満しやすく、原料の昇華が抑制され、生産量が増加するからである。次に、低隙間容積状態について説明する。低隙間容積とは、窒化炭素原料を入れた容器が、加熱炉内容積の大部分を占めて、容器以外の隙間が少ない状態をいう。このような、容器が加熱炉内の容積の大部分を占めた状態では、擬似的に密閉容器に入れた状態と同様の条件となり、窒化炭素原料を入れた容器には蓋をする必要がない。加熱装置は、電気炉、ガス炉どちらでも使用できるが、ガス炉の場合は、加熱炉内にバーナーがある内部加熱タイプではなく、加熱炉の外部から加熱するような外部加熱タイプが良い。炎が加熱炉内に噴射されると、燃焼ガス及び燃焼用空気が一緒に噴射されるため、加熱炉内のガスの出入りが多く、原料の昇華が促進され、生産量が少なくなる。また、加熱炉内を搬送装置で加熱容器を移動させたり、キルン型加熱炉で連続的に窒化炭素系蛍光体を製造したりすることもできる。このとき注意することは、ガスの出入りを少なくして原料の昇華を抑えることが重要である。
【0025】
上記に示すような容器及び加熱装置で、出発原料を加熱処理することにより、窒化炭素系蛍光体を製造するときの加熱処理温度は、250℃から550℃、好ましくは300℃から500℃である。250℃未満では、出発原料の分子間縮合が進みにくく長時間の処理が必要となり、生産量が少なく経済的でない。550℃を超える温度では、製品が着色したり、更には蛍光スペクトルの強度が極端に低下したりするため、蛍光材料として不適切である。
【0026】
本発明の加熱処理温度は、通常の窒化炭素材料を製造する場合の温度に較べてかなり低い。窒化炭素は、超硬質材料として期待されるため、高結晶性および不純物の少なさが求められて来た。そのため、不純物である水素を除去し、高結晶性を得るために、550℃以上の高温で処理することが求められており、アモルファスで水素含有量が多くなる550℃未満の低温での処理は行われていなかった。
【0027】
本発明で使用する出発原料である尿素は、加熱処理により分子間縮合して、シアヌル酸、そしてメラミンになることが知られている。更に、メラミンは、分子間縮合が進むとメラムになるとされている。したがって、これらの化合物は、尿素を出発とする分子間縮合の中間生成物であると言える。この分子間縮合が進むと、最終的には炭素と窒素だけの化合物となる。メラミンを出発原料とした場合は、まずメラムが生成するが、更に分子間縮合が進んでN/C比が1.6に近づく。このメラミンがメラムから更に分子間縮合をした炭素と窒素の化合物が蛍光体と考えられる。この化合物は、分解温度以上の熱処理を行うと生成し蛍光体となる。
【0028】
この蛍光体は、500℃未満の熱処理ではアモルファスであるため、エックス線回折では確認できない。実際に、蛍光を発している熱処理した化合物をエックス線回折で測定しても、シアヌル酸又はメラムの構造しか確認できない。したがって、450℃以下の熱処理で部分的に生成している窒化炭素系蛍光体を特定することは容易ではない。500℃以上では、窒化炭素系蛍光体は、エックス線回折を測定すると2θ=27°付近にグラファイトと同様の層状構造を示すピークが認められる。窒化炭素系蛍光体の外観は、450℃以下の処理温度では白色又はわずかに黄色みを帯びた白色、薄い灰色の粉末であるが、360nmの紫外線で励起され430nmから480nmを最大波長とする白色光を発する。500℃以上の処理温度では、窒化炭素系蛍光体の外観は、黄色粉末であり、360nmの紫外線で励起され500nm付近を最大波長とする白色光を発する。
【0029】
以上、希土類や有害物質を含まない蛍光体の製造方法及び利用方法を詳細に説明した。次に本発明を実施例に基づき更に詳細に説明する。
【実施例】
【0030】
実施例1
市販試薬のメラミンを100mlのるつぼに50g入れた。るつぼに蓋をして、電気炉中450℃で2時間加熱処理を行った。電気炉内の雰囲気は窒素の置換等は行わず、空気中で行った。冷却後、るつぼから取り出すと、白色粉末であり、重量は31gであった。また、360nmを中心波長とするブラックライトを照射すると、青味がかった白色に発光した。結果を表1に示す。
【0031】
実施例2〜5
実施例1と同様に、市販試薬のメラミンを100mlのるつぼに50g入れた。このるつぼに蓋をして、電気炉の温度を300℃、350℃、400℃、500℃と変更して2時間加熱処理を行った。電気炉内の雰囲気は窒素の置換等は行わず、空気中で行った。冷却後、るつぼから取り出すと、いずれも白色粉末であった。また、360nmを中心波長とするブラックライトを照射すると、いずれも青味がかった白色に発光した。結果を表1に示す。
【0032】
実施例6〜10
原料として、シアヌル酸を使用し、加熱処理温度を300℃から500℃の範囲で変えて実施例1と同様の方法で加熱処理を行った。加熱処理時間は2時間であった。得られた粉末は加熱温度が450℃まではいずれも白色粉末であったが500℃になると薄黄色に着色した。しかし、360nmを中心波長とするブラックライトを照射すると、いずれも青味がかった白色に発光した。結果を表1に示す。
【0033】
実施例11〜15
原料として、尿素を使用し、加熱処理温度を300℃から500℃の範囲で変えて実施例1と同様の方法で加熱処理を行った。加熱処理時間は2時間であった。得られた粉末はいずれも白色粉末でありかつ、360nmを中心波長とするブラックライトを照射すると、いずれも青味がかった白色に発光した。結果を表1に示す。
【0034】
比較例1〜5
原料として、実施例同様にメラミン、シアヌル酸及び尿素を使用し、実施例の加熱処理温度の300℃から500℃の範囲外の低温又は高温で実施例1と同様の方法で加熱処理を行った。加熱処理時間は2時間であった。得られた粉末は当然ながら低温の200℃では白色粉末であるが、高温の600℃では黄色、700℃になるとオレンジ色まで変化した。360nmを中心波長とするブラックライトを照射すると、低温では発光しなかったが、高温ではいずれも黄色味がかった白色に発光した。結果を表1に示す。
【0035】
比較例6
市販試薬のアデニンを30mlのるつぼに約10g入れた。るつぼに蓋をして、電気炉内で450℃、2時間加熱処理を行った。電気炉内の雰囲気は窒素の置換等は行わず、空気中で行った。冷却後、るつぼから取り出すと、青黒色粉末であった。また、360nmを中心波長とするブラックライトを照射したが、蛍光は認められなかった
【0036】
【表1】
【0037】
表1は核原料の処理温度と生成物の色及び蛍光色についてまとめたものであるが、表2には処理温度における各生成物の元素モル比(N/C及びH/C)の変化を示した。
【0038】
【表2】
【0039】
表2における炭化窒素生成物のモル比はCHN分析装置で測定した値である。メラミンは、原料のN/C=2であるが、加熱処理温度が300℃までは変わらず、500℃と高くなれば、N/C=1.5に近くなり、水素も加熱処理で分子内縮合が進むにつれて、少なくなる。加熱温度を600℃以上に高くすると、N/C=1.49で安定する。
【0040】
シアヌル酸は、原料がN/C=1である。この場合N/C比は加熱処理温度が高くなっても、あまり変化しないが、蛍光強度は強くなる。500℃では、窒素の含有比が大きくなる。シアヌル酸に限っては、N/C比と発光強度との相関関係は認められなかった。
【0041】
尿素は、原料がN/C=2である。尿素を加熱処理すると、X線回折スペクトルでもわかるように、300℃で重合して、シアヌル酸に変化する。ここで、N/C=1になり、その後、温度が高くなるにつれて、分子内縮合が進み、N/C比が1.55に近づく結果が得られた。
【0042】
次に、図2以下の図面データによって各実施例等の説明をする。図2はメラミンを原料とした窒化炭素系蛍光材料の発光スペクトルであり、熱処理温度350℃(実施例3)では、中心波長が400nmで高い相対値をしめすが、熱処理温度が高くなるにつれて長波長側へシフトし、発光強度は、熱処理温度が低温側から発光強度が増加し、450℃(実施例1)を最高に、500℃(実施例5)以上では、急激に低下した。
【0043】
図3はメラミンを原料とした場合の各温度の生成物のX線回折図である。メラミンの場合、熱処理温度300℃までは、メラミンの構造が残存しており、400℃〜450℃では、メラミンが重合してできるメラムができていることがわかる。更に、500℃以上の熱処理では、生成物がグラファイトと同様の層状構造になっていることがわかる(実施例5)。
【0044】
図4はシアヌル酸を原料とした場合の各温度の生成物のX線回折図である。シアヌル酸は、450℃まで、構造の変化が認められない。これは、シアヌル酸のX線回折強度が大きいために、他のピークが確認できにくいためと考えられる。500℃では、グラファイトと同様の層状構造が認められた。
【0045】
図5は尿素を原料とした場合の各温度の生成物のX線回折図である。尿素は、熱処理温度が200℃以上でシアヌル酸の構造に変化している。450℃以上では、グラファイトと同様の層状構造が確認できた。
【0046】
図6は原料であるメラミンの赤外線吸収スペクトルである。図7、8、9は熱処理後のメラミンからの生成物の赤外線吸収スペクトルであり、熱処理温度が400℃、450℃では、メラミンが重合してできるメラムの構造が認められ、500℃では、メラムのスペクトルが小さくなり、全体的に大きなブロードなピークが確認でき、むしろ、熱分解が発生している。
【0047】
図10は実施例1の生成物の電子顕微鏡画像(1万倍)であり、表面が溶けたような状態が認められ、原料であるメラミンが部分的に昇華してできた構造であると考えられる。
【0048】
図11は実施例14の生成物の電子顕微鏡画像(1000倍)である。ここでは尿素を450℃で熱処理した場合、すでに、部分的にグラファイトと同様な層状構造が確認できた。
【0049】
図12は比較例1の生成物の電子顕微鏡画像(13000倍)である。グラファイトと同様な層状構造が全体的に確認できた。
【0050】
図13はメラミンの窒素中におけるTG−DTA曲線であるが、メラミンを窒素中で加熱すると、350℃で完全に昇華してしまっている。図14は実施例1の生成物の窒素中におけるTG−DTA曲線であり、窒化炭素系蛍光材は、440℃から昇華が始まり、約700℃で全て昇華してしまうことが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の窒化炭素系蛍光体の合成方法を示すフローチャートである。
【図2】蛍光スペクトルである。
【図3】メラミンを原料とした場合の各温度の生成物のX線回折である。
【図4】シアヌル酸を原料とした場合の各温度の生成物のX線回折である。
【図5】尿素を原料とした場合の各温度の生成物のX線回折である。
【図6】メラミンの赤外線吸収スペクトルである。
【図7】実施例1における生成物の赤外線吸収スペクトルである。
【図8】実施例4の生成物の赤外線吸収スペクトルである。
【図9】実施例5の生成物の赤外線吸収スペクトルである。
【図10】実施例1の生成物の電子顕微鏡画像(1万倍)である。
【図11】実施例14の生成物の電子顕微鏡画像(1000倍)である。
【図12】比較例1の生成物の電子顕微鏡画像(13000倍)である。
【図13】メラミンの窒素中におけるTG−DTA曲線である。
【図14】実施例1の生成物の窒素中におけるTG−DTA曲線である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光材料、特に無定形窒化炭素を主体とする蛍光材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化炭素は窒素と炭素のみからなる化合物であり、特に窒素含有率の高い窒化炭素(α−C3N4結晶、β−C3N4結晶、グラファイト状C3N4)は超硬質材料として注目されており、半導体、機械部品、又は歯や骨の関節等の耐摩耗材として用いるなど、工業用、理化学用、医療用など様々な分野への応用が期待されることもあり、基礎及び応用の両面から活発な検討が進められている。更に、超硬質窒化炭素材料を合成する過程で、窒素/炭素モル比が1を超える窒化炭素材料では蛍光を発することが確認されている。
【0003】
本発明で採用する出発物質と類似する塩化シアヌルやトリクロロメラミンのような炭素と窒素のトリアジン環および塩素を含む化合物を反応原料とする炭素と窒素及び水素の化合物の合成については、特許文献1や非特許文献1に見られる。
【0004】
特許文献1には、塩化シアヌルとアンモニア又は塩化シアヌルとメラミンを500℃〜600℃で反応させて層状構造の窒化炭素が製造されること、得られた窒化炭素は蛍光材になることの開示がある。この方法の特徴は、塩化シアヌルを出発原料として、塩素部分をアンモニア又はメラミンと反応させることにより、トリアジン環を窒素で架橋し、窒化炭素中間体を形成することである。更に、この窒化炭素中間体を500℃〜600℃で熱分解し、余分な水素を除去して、黄色の層状構造を持つ窒化炭素を製造することである。
【0005】
また、非特許文献1にはトリクロロメラミンをオートクレーブ中で、500℃に加熱したニクロム線に接触させることにより、短時間でオレンジ色の窒化炭素を合成する方法が記載されている。この方法の特徴は、トリクロロメラミンを出発原料にすることと、ニクロム線加熱で急速に数10秒で熱分解することにより、高窒素含有で微粒子の窒化炭素を得ることである。
【0006】
【特許文献1】特公平5−16364号公報(特許請求の範囲、第3欄)
【非特許文献1】J. Mater. Chem. 12, P.2463-2469, 2000(P.2467.Conclusionsほか)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1および非特許文献1では、窒化炭素の出発原料として塩化物を使用している。塩素は、熱処理により容易に脱離して、ラジカル又はイオンを生成させ、分子間の架橋の反応点となる。この反応を利用すると、容易に分子同士が架橋反応により重合するため、特許文献1および非特許文献1では、窒化炭素の出発原料として塩素化合物を使用していると推測される。
【0008】
しかし、出発原料である塩化物が熱分解すると、塩酸又は塩素が生成するため、装置が腐食するという問題がある。また、塩化シアヌルやトリクロロメラミンのような塩化物は高価であり、安価な蛍光材料をつくるには不向きである。更に、特許文献1および非特許文献1では、窒素又はアルゴン等の不活性ガス雰囲気で反応を行っている。不活性ガス雰囲気は、窒化炭素の出発原料の酸化分解を防ぎ、窒化炭素の製造には最適であるが、不活性ガス置換のための煩雑な操作が必要になり、装置の気密性も確保する必要がある。
【0009】
窒化炭素は、超硬質材料として研究が進められているため、窒素と炭素の純粋な化合物であり、結晶性が高いことが必要であった。それ故、今までの研究では、如何に高品質な窒化炭素を製造するかに重点がおかれて、塩素含有窒化炭素原料を不活性ガスで満たした気密性の高い密閉容器内、又は、不活性ガス流通下に550℃以上で熱処理して製造することが主流であった。したがって、550℃未満の低温で得られる、アモルファスで水素が不純物として含まれるような窒化炭素は、求められていなかったのが現状である。
【0010】
本発明は、このような従来技術の問題点を克服するものであって、塩化物を出発原料とすることなく、塩酸による装置の腐食の問題を解決し、不純物としての塩素の混入がない原料を使用することにより、安価な白色蛍光を発する化合物である、窒化炭素系蛍光体の新規な合成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、窒化炭素系蛍光体の合成方法について鋭意検討した結果、炭素、窒素及び水素からなる化合物又は炭素、窒素、水素及び酸素からなる化合物を分解温度又は昇華温度以上の温度で昇華蒸気圧が飽和になる条件で加熱処理することにより、効率よく白色に発光する窒化炭素系蛍光体が得られることを見いだしたものである。
【0012】
すなわち、本発明は炭素、窒素及び水素からなるか、あるいは炭素、窒素、水素及び酸素からなり、かつ炭素と窒素の結合の繰り返し構造となっている化合物を用い、該化合物をその分解温度又は昇華温度以上の温度で昇華蒸気圧が飽和になる条件で加熱処理することを特徴とする蛍光材料の製造方法である。
【0013】
ここで炭素と窒素の結合の繰り返し構造(C−N)nとなっている化合物は、メラミン、尿素又はシアヌル酸であり、これらの化合物が以下の方法で簡単に青みがかった白色の蛍光体が容易に得られる。アデニンのようにC−C結合が含まれている化合物を出発原料に使用すると、蛍光体は製造できにくい。
【0014】
化合物の加熱処理は、温度が250℃から550℃の範囲、好ましくは温度が300℃から500℃の範囲で行うのがよい。
【0015】
蛍光材料の化合物の加熱処理は、化合物を蓋付容器内又は低隙間容積状態でガス流入がほとんどない状態で行うので、特別なオートクレーブなどを用いる必要もない製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の蛍光材料の製造方法によると、メラミン、尿素又はシアヌル酸等の窒素、炭素化合物を用いて今まで、研究が主流であった温度域より低い250℃から550℃の範囲で、不活性ガス置換なしに、簡易な蓋付容器内又は低隙間容積状態でガス流入がほとんどない状態で行うことにより、無機蛍光体を容易に製造できる。
【0017】
本発明で製造した窒化炭素系蛍光体は、様々な分野で利用が可能である。例えば、蛍光顔料として樹脂系塗料に混合する使用法がある。無機系蛍光体であることから、太陽紫外線等による劣化が少なく、高耐久性が望める。また、蛍光灯に使用されている白色蛍光体の代替も期待できる。現在使用されている白色蛍光体には、Sbが含まれている。結晶内に組み込まれており、容易には溶出しないが、将来的な問題となる可能性が高い。窒化炭素系蛍光体は、有害物質を含まないため、環境に配慮した製品として期待できる。
【0018】
更に、本発明の窒化炭素系蛍光体は、半導体としての特性も備えているため、無機ELの発光体として使用できる可能性がある。白色の発光パネルは、携帯電話、携帯ゲーム等の小型画面への利用が期待されている。無機EL発光パネルは、高耐久性が薄型画面として期待されており、安価な製品が求められている。安価に製造できる窒化炭素系蛍光体は、無機EL発光パネルの原料として最適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明の蛍光体製造方法を更に詳細に説明する。本発明の窒化炭素系蛍光体の合成方法は、図1に示されるように、原料として炭素、窒素及び水素からなる化合物又は炭素、窒素、水素及び酸素からなる化合物を出発原料とし、分解温度又は昇華温度以上で熱処理することにより分子間縮合により蛍光材料を合成する方法である。出発原料は、炭素と窒素の原子が交互に結合する構造が好ましい。このような構造を有する化合物は、尿素、シアヌル酸、メラミン、メラム等がある。
【0020】
これらの化合物は、炭素と窒素が交互に結合を繰り返す構造を有している。例えば、尿素はN−C−Nの構造を持ち、シアヌル酸及びメラミンは、C−N−C−N−C−N−の6員環構造を持っている。また、加熱処理、ミル処理、加圧処理等により、メラミン及びメラムの類似化合が合成される原料も使用可能である。
【0021】
しかし、同じような窒素と炭素の化合物でも、アデニンのようにC−C結合が含まれている化合物を出発原料に使用すると、蛍光体は製造できにくい。
【0022】
これらの出発原料は、加熱すると昇華する性質を持つ。したがって、昇華により化合物が蒸発することを防ぐ必要がある。
【0023】
本発明では、昇華を防ぐために蓋付容器を使用する。蓋は、気密性が高いネジ付きの蓋や、固定治具が付いた密着性が高い蓋でも良いが、軽く載せるだけの気密性が低い蓋でも使用可能である。また、このような、気密性が低い蓋では、外気から酸素が入り込んでくる可能性があるが、本発明の窒化炭素系蛍光体の製造では、特に、問題とはならない。実際に、るつぼに軽く載せる蓋を使用して、るつぼの容積の80%から90%程度出発原料を詰めて加熱処理を行っても、窒化炭素系蛍光体は製造できる。これは、出発原料の部分的な分解によるアンモニアガスの発生及び、出発原料の昇華ガスの発生により、容器内部への外部からのガスが入りにくくなることが考えられる。ただし、分解ガスや昇華ガスが容器内に充満していても、完全には外部からのガスの侵入を防ぐことは困難であるので、少量の酸素は特に、影響を及ぼさないと考えられる。
【0024】
また、容器は、できるだけ加熱する装置の加熱炉内に占める体積が大きく隙間が少ない方が良い。これは、空隙が少ないと、原料の分解ガス又は昇華ガスが、加熱炉内に充満しやすく、原料の昇華が抑制され、生産量が増加するからである。次に、低隙間容積状態について説明する。低隙間容積とは、窒化炭素原料を入れた容器が、加熱炉内容積の大部分を占めて、容器以外の隙間が少ない状態をいう。このような、容器が加熱炉内の容積の大部分を占めた状態では、擬似的に密閉容器に入れた状態と同様の条件となり、窒化炭素原料を入れた容器には蓋をする必要がない。加熱装置は、電気炉、ガス炉どちらでも使用できるが、ガス炉の場合は、加熱炉内にバーナーがある内部加熱タイプではなく、加熱炉の外部から加熱するような外部加熱タイプが良い。炎が加熱炉内に噴射されると、燃焼ガス及び燃焼用空気が一緒に噴射されるため、加熱炉内のガスの出入りが多く、原料の昇華が促進され、生産量が少なくなる。また、加熱炉内を搬送装置で加熱容器を移動させたり、キルン型加熱炉で連続的に窒化炭素系蛍光体を製造したりすることもできる。このとき注意することは、ガスの出入りを少なくして原料の昇華を抑えることが重要である。
【0025】
上記に示すような容器及び加熱装置で、出発原料を加熱処理することにより、窒化炭素系蛍光体を製造するときの加熱処理温度は、250℃から550℃、好ましくは300℃から500℃である。250℃未満では、出発原料の分子間縮合が進みにくく長時間の処理が必要となり、生産量が少なく経済的でない。550℃を超える温度では、製品が着色したり、更には蛍光スペクトルの強度が極端に低下したりするため、蛍光材料として不適切である。
【0026】
本発明の加熱処理温度は、通常の窒化炭素材料を製造する場合の温度に較べてかなり低い。窒化炭素は、超硬質材料として期待されるため、高結晶性および不純物の少なさが求められて来た。そのため、不純物である水素を除去し、高結晶性を得るために、550℃以上の高温で処理することが求められており、アモルファスで水素含有量が多くなる550℃未満の低温での処理は行われていなかった。
【0027】
本発明で使用する出発原料である尿素は、加熱処理により分子間縮合して、シアヌル酸、そしてメラミンになることが知られている。更に、メラミンは、分子間縮合が進むとメラムになるとされている。したがって、これらの化合物は、尿素を出発とする分子間縮合の中間生成物であると言える。この分子間縮合が進むと、最終的には炭素と窒素だけの化合物となる。メラミンを出発原料とした場合は、まずメラムが生成するが、更に分子間縮合が進んでN/C比が1.6に近づく。このメラミンがメラムから更に分子間縮合をした炭素と窒素の化合物が蛍光体と考えられる。この化合物は、分解温度以上の熱処理を行うと生成し蛍光体となる。
【0028】
この蛍光体は、500℃未満の熱処理ではアモルファスであるため、エックス線回折では確認できない。実際に、蛍光を発している熱処理した化合物をエックス線回折で測定しても、シアヌル酸又はメラムの構造しか確認できない。したがって、450℃以下の熱処理で部分的に生成している窒化炭素系蛍光体を特定することは容易ではない。500℃以上では、窒化炭素系蛍光体は、エックス線回折を測定すると2θ=27°付近にグラファイトと同様の層状構造を示すピークが認められる。窒化炭素系蛍光体の外観は、450℃以下の処理温度では白色又はわずかに黄色みを帯びた白色、薄い灰色の粉末であるが、360nmの紫外線で励起され430nmから480nmを最大波長とする白色光を発する。500℃以上の処理温度では、窒化炭素系蛍光体の外観は、黄色粉末であり、360nmの紫外線で励起され500nm付近を最大波長とする白色光を発する。
【0029】
以上、希土類や有害物質を含まない蛍光体の製造方法及び利用方法を詳細に説明した。次に本発明を実施例に基づき更に詳細に説明する。
【実施例】
【0030】
実施例1
市販試薬のメラミンを100mlのるつぼに50g入れた。るつぼに蓋をして、電気炉中450℃で2時間加熱処理を行った。電気炉内の雰囲気は窒素の置換等は行わず、空気中で行った。冷却後、るつぼから取り出すと、白色粉末であり、重量は31gであった。また、360nmを中心波長とするブラックライトを照射すると、青味がかった白色に発光した。結果を表1に示す。
【0031】
実施例2〜5
実施例1と同様に、市販試薬のメラミンを100mlのるつぼに50g入れた。このるつぼに蓋をして、電気炉の温度を300℃、350℃、400℃、500℃と変更して2時間加熱処理を行った。電気炉内の雰囲気は窒素の置換等は行わず、空気中で行った。冷却後、るつぼから取り出すと、いずれも白色粉末であった。また、360nmを中心波長とするブラックライトを照射すると、いずれも青味がかった白色に発光した。結果を表1に示す。
【0032】
実施例6〜10
原料として、シアヌル酸を使用し、加熱処理温度を300℃から500℃の範囲で変えて実施例1と同様の方法で加熱処理を行った。加熱処理時間は2時間であった。得られた粉末は加熱温度が450℃まではいずれも白色粉末であったが500℃になると薄黄色に着色した。しかし、360nmを中心波長とするブラックライトを照射すると、いずれも青味がかった白色に発光した。結果を表1に示す。
【0033】
実施例11〜15
原料として、尿素を使用し、加熱処理温度を300℃から500℃の範囲で変えて実施例1と同様の方法で加熱処理を行った。加熱処理時間は2時間であった。得られた粉末はいずれも白色粉末でありかつ、360nmを中心波長とするブラックライトを照射すると、いずれも青味がかった白色に発光した。結果を表1に示す。
【0034】
比較例1〜5
原料として、実施例同様にメラミン、シアヌル酸及び尿素を使用し、実施例の加熱処理温度の300℃から500℃の範囲外の低温又は高温で実施例1と同様の方法で加熱処理を行った。加熱処理時間は2時間であった。得られた粉末は当然ながら低温の200℃では白色粉末であるが、高温の600℃では黄色、700℃になるとオレンジ色まで変化した。360nmを中心波長とするブラックライトを照射すると、低温では発光しなかったが、高温ではいずれも黄色味がかった白色に発光した。結果を表1に示す。
【0035】
比較例6
市販試薬のアデニンを30mlのるつぼに約10g入れた。るつぼに蓋をして、電気炉内で450℃、2時間加熱処理を行った。電気炉内の雰囲気は窒素の置換等は行わず、空気中で行った。冷却後、るつぼから取り出すと、青黒色粉末であった。また、360nmを中心波長とするブラックライトを照射したが、蛍光は認められなかった
【0036】
【表1】
【0037】
表1は核原料の処理温度と生成物の色及び蛍光色についてまとめたものであるが、表2には処理温度における各生成物の元素モル比(N/C及びH/C)の変化を示した。
【0038】
【表2】
【0039】
表2における炭化窒素生成物のモル比はCHN分析装置で測定した値である。メラミンは、原料のN/C=2であるが、加熱処理温度が300℃までは変わらず、500℃と高くなれば、N/C=1.5に近くなり、水素も加熱処理で分子内縮合が進むにつれて、少なくなる。加熱温度を600℃以上に高くすると、N/C=1.49で安定する。
【0040】
シアヌル酸は、原料がN/C=1である。この場合N/C比は加熱処理温度が高くなっても、あまり変化しないが、蛍光強度は強くなる。500℃では、窒素の含有比が大きくなる。シアヌル酸に限っては、N/C比と発光強度との相関関係は認められなかった。
【0041】
尿素は、原料がN/C=2である。尿素を加熱処理すると、X線回折スペクトルでもわかるように、300℃で重合して、シアヌル酸に変化する。ここで、N/C=1になり、その後、温度が高くなるにつれて、分子内縮合が進み、N/C比が1.55に近づく結果が得られた。
【0042】
次に、図2以下の図面データによって各実施例等の説明をする。図2はメラミンを原料とした窒化炭素系蛍光材料の発光スペクトルであり、熱処理温度350℃(実施例3)では、中心波長が400nmで高い相対値をしめすが、熱処理温度が高くなるにつれて長波長側へシフトし、発光強度は、熱処理温度が低温側から発光強度が増加し、450℃(実施例1)を最高に、500℃(実施例5)以上では、急激に低下した。
【0043】
図3はメラミンを原料とした場合の各温度の生成物のX線回折図である。メラミンの場合、熱処理温度300℃までは、メラミンの構造が残存しており、400℃〜450℃では、メラミンが重合してできるメラムができていることがわかる。更に、500℃以上の熱処理では、生成物がグラファイトと同様の層状構造になっていることがわかる(実施例5)。
【0044】
図4はシアヌル酸を原料とした場合の各温度の生成物のX線回折図である。シアヌル酸は、450℃まで、構造の変化が認められない。これは、シアヌル酸のX線回折強度が大きいために、他のピークが確認できにくいためと考えられる。500℃では、グラファイトと同様の層状構造が認められた。
【0045】
図5は尿素を原料とした場合の各温度の生成物のX線回折図である。尿素は、熱処理温度が200℃以上でシアヌル酸の構造に変化している。450℃以上では、グラファイトと同様の層状構造が確認できた。
【0046】
図6は原料であるメラミンの赤外線吸収スペクトルである。図7、8、9は熱処理後のメラミンからの生成物の赤外線吸収スペクトルであり、熱処理温度が400℃、450℃では、メラミンが重合してできるメラムの構造が認められ、500℃では、メラムのスペクトルが小さくなり、全体的に大きなブロードなピークが確認でき、むしろ、熱分解が発生している。
【0047】
図10は実施例1の生成物の電子顕微鏡画像(1万倍)であり、表面が溶けたような状態が認められ、原料であるメラミンが部分的に昇華してできた構造であると考えられる。
【0048】
図11は実施例14の生成物の電子顕微鏡画像(1000倍)である。ここでは尿素を450℃で熱処理した場合、すでに、部分的にグラファイトと同様な層状構造が確認できた。
【0049】
図12は比較例1の生成物の電子顕微鏡画像(13000倍)である。グラファイトと同様な層状構造が全体的に確認できた。
【0050】
図13はメラミンの窒素中におけるTG−DTA曲線であるが、メラミンを窒素中で加熱すると、350℃で完全に昇華してしまっている。図14は実施例1の生成物の窒素中におけるTG−DTA曲線であり、窒化炭素系蛍光材は、440℃から昇華が始まり、約700℃で全て昇華してしまうことが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の窒化炭素系蛍光体の合成方法を示すフローチャートである。
【図2】蛍光スペクトルである。
【図3】メラミンを原料とした場合の各温度の生成物のX線回折である。
【図4】シアヌル酸を原料とした場合の各温度の生成物のX線回折である。
【図5】尿素を原料とした場合の各温度の生成物のX線回折である。
【図6】メラミンの赤外線吸収スペクトルである。
【図7】実施例1における生成物の赤外線吸収スペクトルである。
【図8】実施例4の生成物の赤外線吸収スペクトルである。
【図9】実施例5の生成物の赤外線吸収スペクトルである。
【図10】実施例1の生成物の電子顕微鏡画像(1万倍)である。
【図11】実施例14の生成物の電子顕微鏡画像(1000倍)である。
【図12】比較例1の生成物の電子顕微鏡画像(13000倍)である。
【図13】メラミンの窒素中におけるTG−DTA曲線である。
【図14】実施例1の生成物の窒素中におけるTG−DTA曲線である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素、窒素及び水素からなるか、あるいは炭素、窒素、水素及び酸素からなり、かつ炭素と窒素の結合の繰り返し構造となっている化合物を用い、該化合物をその分解温度又は昇華温度以上の温度で昇華蒸気圧が飽和になる条件で加熱処理することを特徴とする蛍光材料の製造方法。
【請求項2】
炭素と窒素の結合の繰り返し構造となっている化合物がメラミン、尿素又はシアヌル酸である請求項1記載の蛍光材料の製造方法。
【請求項3】
化合物の加熱処理は、温度が250℃から550℃の範囲で行う請求項1又は2記載の蛍光材料の製造方法。
【請求項4】
化合物の加熱処理は、化合物を蓋付容器内又は低隙間容積状態でガス流入がほとんどない状態で行う請求項1乃至3のいずれか記載の蛍光材料の製造方法。
【請求項1】
炭素、窒素及び水素からなるか、あるいは炭素、窒素、水素及び酸素からなり、かつ炭素と窒素の結合の繰り返し構造となっている化合物を用い、該化合物をその分解温度又は昇華温度以上の温度で昇華蒸気圧が飽和になる条件で加熱処理することを特徴とする蛍光材料の製造方法。
【請求項2】
炭素と窒素の結合の繰り返し構造となっている化合物がメラミン、尿素又はシアヌル酸である請求項1記載の蛍光材料の製造方法。
【請求項3】
化合物の加熱処理は、温度が250℃から550℃の範囲で行う請求項1又は2記載の蛍光材料の製造方法。
【請求項4】
化合物の加熱処理は、化合物を蓋付容器内又は低隙間容積状態でガス流入がほとんどない状態で行う請求項1乃至3のいずれか記載の蛍光材料の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−101094(P2008−101094A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284291(P2006−284291)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【Fターム(参考)】
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