説明

蛍光検出方法、蛍光検出装置及びプログラム

【課題】測定対象物にレーザ光を照射することにより発する蛍光を受光し、この時の受光信号から、精度の高い蛍光緩和時間を求める。
【解決手段】所定の周波数で変調したレーザ光を測定対象物に照射する工程と、測定対象物が発する蛍光を受光して、パルス状の蛍光信号を複数出力する工程と、周波数に対応する周期単位の基準タイミングを設定する工程と、基準タイミングに基づいて、パルス状の蛍光信号の各々が出力されるまでの発生時間を取得する工程と、パルス状の蛍光信号の発生頻度と発生時間との関係を示す累積蛍光信号を生成する工程と、レーザ光の変調に対応する信号を参照信号とし、参照信号と累積蛍光信号との位相差を求める工程と、位相差を用いて測定対象物の蛍光の蛍光緩和時間を求める工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物にレーザ光を照射することにより測定対象物が発する蛍光を受光し、このとき得られる蛍光信号の信号処理を行う蛍光検出方法、蛍光検出装置に関する。また、本発明は、所定の周波数で変調したレーザ光を測定対象物に照射したときに測定対象物の蛍光の受光信号として得られる複数のパルス状の蛍光信号の信号処理をコンピュータに実行させるためのプログラムに関する。
【0002】
特に、医療、生物分野で用いられるフローサイトメータ等のような細胞やDNAやRNA等の測定対象物の識別を蛍光色素の発する蛍光を用いて行なって測定対象物の分析等を行なう分析装置に適用される蛍光検出装置に関する。
【背景技術】
【0003】
医療、生物分野で用いられるフローサイトメータには、レーザ光を照射することにより測定対象物の蛍光色素からの蛍光を受光して、測定対象物の種類を識別する蛍光検出装置が組み込まれている。
【0004】
具体的には、フローサイトメータは、細胞、DNA、RNA、酵素、蛋白等の生体物質を含む混濁液を蛍光試薬でラベル化し、圧力を与えて毎秒10m以内程度の速度で管路内を流れるシース液に測定対象物を流してラミナーシースフローを形成する。このフロー中の測定対象物にレーザ光を照射することにより、測定対象物に付着した蛍光色素が発する蛍光を受光し、この蛍光をラベルとして識別することで測定対象物を特定する。
【0005】
このフローサイトメータでは、例えば、細胞内のDNA、RNA、酵素、蛋白質等の細胞内相対量を計測し、またこれらの働きを短時間で解析することができる。また、特定のタイプの細胞や染色体を蛍光によって特定し、特定した細胞や染色体のみを生きた状態で短時間で選別収集するセル・ソータ等が用いられる。
【0006】
例えば、DNA等の生体物質をフローサイトメータで分析する場合、この生体物質に予め蛍光試薬により蛍光色素が付着される。そして、この生体物質は、後述するマイクロビーズに付着された蛍光色素と異なる蛍光色素でラベル化され、表面にカルボキシル基等の特異な構造体の設けられた、直径5〜20μmのマイクロビーズを含む液体に混ぜられる。上記カルボキシル基等の構造体は、ある既知の構造の生体物質に作用して結合(カップリング)する。したがって、マイクロビーズからの蛍光と生体物質の蛍光とを同時に検出した場合、生体物質は、マイクロビーズの構造体と結合していることがわかる。これにより、生体物質の特性を分析することができる。多種多様なカップリング用の構造体を備える多種のマイクロビーズを用意して生体物質の特性を短時間に分析するには、極めて多種類の蛍光色素が必要となる。
【0007】
特許文献1には、マイクロビーズ等を測定対象物とし、この測定対象物に所定の周波数で強度変調したレーザ光を照射し、そのとき発する蛍光の蛍光緩和時間を求めることが記載されている。この蛍光緩和時間は、蛍光色素の種類によって異なるため、この蛍光緩和時間を用いて、蛍光の種類、さらには測定対象物の種類を識別することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−226698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1では、蛍光緩和時間に基づいて短時間に効率よく蛍光を識別することはできるが、蛍光緩和時間の測定精度は必ずしも高いものではなかった。例えば、受光する蛍光が弱く、受光信号が複数のパルス状の蛍光信号で離散的に構成されているとき、蛍光緩和時間を求めるのに必要な位相差を求めることができない。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するために、蛍光が弱く、受光信号が複数のパルス状の蛍光信号で離散的に構成されている場合に、精度の高い蛍光緩和時間を求めることのできる蛍光検出方法、蛍光検出装置及びそのプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の蛍光検出方法は、測定対象物にレーザ光を照射することにより測定対象物が発する蛍光を受光し、このとき得られる蛍光信号の信号処理を行う蛍光検出方法であって、所定の周波数で変調したレーザ光を測定対象物に照射する工程と、前記測定対象物が発する蛍光を受光して、パルス状の蛍光信号を複数出力する工程と、前記周波数に対応する周期単位の基準タイミングを設定する工程と、前記基準タイミングに基づいて、前記パルス状の蛍光信号の各々が出力されるまでの発生時間を取得する工程と、前記パルス状の蛍光信号の発生頻度と前記発生時間との関係を示す累積蛍光信号を生成する工程と、前記レーザ光の変調に対応する信号を参照信号とし、該参照信号と前記累積蛍光信号との位相差を求める工程と、前記位相差を用いて測定対象物の蛍光の蛍光緩和時間を求める工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の蛍光検出装置は、測定対象物にレーザ光を照射することにより測定対象物が発する蛍光を受光し、このとき得られる蛍光信号の信号処理を行う蛍光検出装置であって、所定の周波数で変調したレーザ光を測定対象物に照射するレーザ光源部と、前記測定対象物が発する蛍光を受光して、パルス状の蛍光信号を複数出力する受光部と、前記レーザ光を測定対象物に照射することにより前記受光部で出力された蛍光信号を用いて測定対象物の蛍光の蛍光緩和時間を求める処理部と、を有し、前記処理部は、前記周波数に対応する周期単位の基準タイミングを設定する基準タイミング設定部と、前記基準タイミングに基づいて、前記パルス状の蛍光信号の各々が出力されるまでの発生時間を取得するパルス発生時間取得部と、前記パルス状の蛍光信号の発生頻度と前記パルス発生時間との関係を示す累積蛍光信号を生成する累積蛍光信号生成部と、前記レーザ光の変調に対応する信号を参照信号とし、該参照信号と前記累積蛍光信号との位相差を求める位相差取得部と、前記位相差取得部で求めた位相差を用いて測定対象物の蛍光の蛍光緩和時間を求める蛍光緩和時間取得部と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明のプログラムは、所定の周波数で変調したレーザ光を測定対象物に照射したときに測定対象物の蛍光の受光信号として得られる複数のパルス状の蛍光信号の信号処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記周波数に対応する周期単位の基準タイミングを設定する手順と、前記基準タイミングに基づいて、前記パルス状の蛍光信号の各々が出力されるまでの発生時間を取得する手順と、前記パルス状の蛍光信号の発生頻度と前記発生時間との関係を示す累積蛍光信号を生成する手順と、前記レーザ光の変調に対応する信号を参照信号とし、該参照信号と前記累積蛍光信号との位相差を求める手順と、前記位相差を用いて測定対象物の蛍光の蛍光緩和時間を求める手順と、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、精度の高い蛍光緩和時間を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の蛍光検出装置の一実施例であるフローサイトメータの概略構成図である。
【図2】図1に示す蛍光検出装置に用いられる制御・処理部の一例を示す概略構成図である。
【図3】図1に示す蛍光検出装置に用いられる分析装置の一例を示す概略構成図である。
【図4】(a)及び(b)は、図1に示す分析装置のメモリに記憶される信号の一例を示す図である。
【図5】(a)は、図1に示す蛍光検出装置で得られる参照信号の一例を示す図である。(b)は、図3に示す分析装置の累積蛍光信号生成ユニットで取得される信号の一例を示す図である。(c)は、分析装置の相関値算出ユニットで取得される信号の一例を示す図である。
【図6】本発明の蛍光検出方法の一実施例を示すフローチャートである。
【図7】図1に示す蛍光検出装置に用いられる分析装置の一例を示す概略構成図である。
【図8】本発明の蛍光検出方法の一実施例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の蛍光検出装置を好適に用いたフローサイトメータを基に詳細に説明する。
【0017】
<第1の実施形態>
(フローサイトメータの全体構成)
図1は、本発明の蛍光検出装置を用いたフローサイトメータ10の概略構成図である。
【0018】
フローサイトメータ10は、信号処理装置20と、分析装置50と、を備える。信号処理装置20は、測定対象とするマイクロビーズや細胞等の試料12にレーザ光が照射されることで、試料12中に設けられた蛍光色素が発する蛍光の蛍光信号を検出して信号処理を行う。分析装置50は、信号処理装置20で得られた処理結果から試料12中の測定対象物の分析を行なう。
【0019】
信号処理装置20は、レーザ光源部22と、受光部24、25、26と、制御・処理部28と、管路30と、を備える。制御・処理部28は、レーザ光源部22からのレーザ光を強度変調させる光源制御部40(図2参照)と、試料12からの蛍光信号をA/D変換するA/D変換器46(図2参照)とを含む。管路30は、高速流を形成するシース液に試料12を含ませて流し、ラミナーシースフローを形成する。このフローは、例えば100μmの流路径に1〜10m/秒の流速を有する。また、試料12としてマイクロビーズを用いる場合、マイクロビーズの球径は数μm〜30μmである。管路30の出口には、回収容器32が設けられている。
【0020】
レーザ光源部22は、所定の周波数で強度変調したレーザ光を出射する部分である。レーザ光は、管路30中の所定の位置に集束するようにレンズ系が設けられ、この集束位置で試料12の測定点を形成する。
【0021】
(レーザ光源部)
レーザ光源部22は、強度が一定のCW(連続波)レーザ光を出射し、かつこのCWレーザ光の強度を変調してレーザ光を出射する。レーザ光源部22から出射したレーザ光は、不図示のレンズ系により管路30中の測定点に集束させる。
【0022】
これらのレーザ光を出射する光源として、例えば半導体レーザを用いることができる。レーザ光の出力としては、例えば5〜100mW程度とすることができる。レーザ光の波長としては、350nm〜800nmの可視光帯域のものを用いることができる。
【0023】
レーザ光源部22は、制御・処理部28に接続されている。制御・処理部28は、所定の周波数で変調された変調信号を用いて、レーザ光を強度変調するための変調信号をレーザ光源部22に供給する。
【0024】
レーザ光によって励起される蛍光色素は測定しようとする生体物質やマイクロビーズ等の試料12に付着されており、試料12が測定対象物としてレーザ光の集束位置である測定点を通過する数μ〜数10μ秒の間に、測定点でレーザ光の照射を受けて蛍光を発する。
【0025】
(受光部)
レーザ光源部22と管路30との間には、ビームスプリッター23が設けられている。レーザ光源部22から出射したレーザ光の一部はビームスプリッター23を透過し、測定点を通過する試料12に照射される。また、レーザ光源部22から出射したレーザ光の一部は反射し、受光部25に照射される。
【0026】
受光部24は、管路30を挟んでレーザ光源部22と対向するように配置されている。ビームスプリッター23を透過したレーザ光が、測定点を通過する試料12によって前方散乱することにより、試料12が測定点を通過する旨の検出信号を出力する光電変換器を備えている。この受光部24から出力される信号は、制御・処理部28に供給され、制御・処理部28において試料12が管路30中の測定点を通過するタイミングを知らせるトリガ信号として用いられる。
【0027】
受光部25は、ビームスプリッター23で反射されたレーザ光の一部が入射するように配置されている。受光部25は、ビームスプリッター23で反射されたレーザ光を受光し、受光した信号を出力する光電変換器を備えている。この受光部25から出力される信号は、レーザ光の変調に対応する信号であり、制御・処理部28に供給される。制御・処理部28において、この供給された信号は、蛍光信号との位相差を求めるための参照信号として用いられる。
【0028】
受光部26は、レーザ光源部22から出射されるレーザ光の出射方向に対して垂直方向であって、かつ管路30中の試料12の移動方向に対して垂直方向に配置されている。ビームスプリッター23を透過したレーザ光が測定点を通過する試料12を照射する。受光部26は、試料12が発する蛍光を受光する光電変換器を備えている。
【0029】
光電変換器は、光電面で受光した光を電気信号(受光信号)に変換する。この受光信号は、制御・処理部28に供給される。例えば、受光部26が受光する蛍光が非常に弱く、がフォトン1つずつに相当するようなパルス状の信号を取得するような場合、出力される受光信号は、非常に小さいパルス状の蛍光信号を複数有する。
【0030】
(制御・処理部)
図2は、制御・処理部28の一例を示す概略構成図である。制御・処理部28は、光源制御部40と、A/D変換器46と、を有して構成される。
【0031】
光源制御部40は、発振器42とアンプ44を備えている。光源制御部40は、レーザ光の強度を変調させる変調信号を生成し、レーザ光源部22に供給する。
【0032】
発振器42は、所定の周波数の正弦波信号を出力する。正弦波信号の周波数は、例えば、1〜50MHzの範囲で設定される。発振器42から出力された所定の周波数の正弦波信号は、アンプ44で増幅され、レーザ光源部22に供給される。
【0033】
A/D変換器46は、受光部26から出力される受光信号及び受光部25から供給された参照信号をA/D変換する。A/D変換は、受光部24から供給されるトリガ信号に基づいて開始される。A/D変換器46は、数GHzのサンプリングをするものを用いる。これは、後述するように、弱い蛍光の受光信号において、パルス状の離散した蛍光信号を得るためである。A/D変換された受光信号は、分析装置50に供給される。
【0034】
(分析装置)
図3は、分析装置50の一例を示す概略構成図である。分析装置50は、コンピュータ上で所定のプログラムを起動させることにより構成される装置であり、CPU52、メモリ54、入出力ポート70の他に、ソフトウェアを起動することによって形成される基準タイミング設定ユニット56、パルス発生時間取得ユニット58、累積蛍光信号生成ユニット60、相関値算出ユニット62、最大相関時間取得ユニット64、位相差算出ユニット66、蛍光緩和時間算出ユニット68を有している。また、分析装置50には、ディスプレイ80が接続されている。
【0035】
CPU52は、コンピュータに設けられた演算プロセッサであり、基準タイミング設定ユニット56、パルス発生時間取得ユニット58、累積蛍光信号生成ユニット60、相関値算出ユニット62、最大相関時間取得ユニット64、位相差算出ユニット66、蛍光緩和時間算出ユニット68の各種計算を実質的に実行する。
【0036】
メモリ54は、コンピュータ上で実行することにより、基準タイミング設定ユニット56、パルス発生時間取得ユニット58、累積蛍光信号生成ユニット60、相関値算出ユニット62、最大相関時間取得ユニット64、位相差算出ユニット66、蛍光緩和時間算出ユニット68を形成するプログラムを格納したハードディスクやROMと、これらのユニットにより算出された処理結果や入出力ポート70から供給された信号を記憶するRAMと、を備えている。メモリ54には、A/D変換器46から供給された受光信号と参照信号が連続的に記憶される。
【0037】
入出力ポート70は、A/D変換器46から供給される参照信号や受光信号を受け入れるとともに、各ユニットで作成された処理結果の情報をディスプレイ80に出力するために用いられる。ディスプレイ80は、各ユニットで求められた、パルス発生時間、累積蛍光信号、相関値、最大相関時間、位相差、蛍光緩和時間などの処理結果の値を表示する。
【0038】
図4は、分析装置のメモリ54に記憶された信号の一例を示す図である。図4(a)は、受光部25からA/D変換器46に供給され、メモリ54に記憶された参照信号の一例を示す図である。図4(b)は、受光部26からA/D変換器46に供給され、メモリ54に記憶された受光信号の一例を示す図である。受光部26が受光する蛍光がフォトン1つ受けるたびにパルス状の蛍光信号が得られるような強度の弱い光である場合、図4(b)のように、個々の蛍光信号はパルス状の電気信号として計測される。
【0039】
基準タイミング設定ユニット56は、メモリ54に記憶された受光信号及び参照信号に対して、一定の時間間隔離間した基準タイミング(t:iは整数)を設定する。この時間間隔は、レーザ光を変調する周波数に対応する周期とする。例えば、レーザ光を変調する周波数が10MHzである場合、10MHzに対応する周期である100n秒とする。図4は、レーザ光を変調する周波数に対応する周期(1周期)毎に、基準タイミングを設定した例であるが、2周期、3周期などの単位毎に基準タイミングを設定してもよい。
【0040】
パルス発生時間取得ユニット58は、基準タイミングtに基づいて、パルス状の蛍光信号の各々が出力されるまでの時間であるパルス発生時間を取得する。図4(b)の例では、基準タイミングtからtまでの間に3つのパルス状の蛍光信号が計測され、基準タイミングtからこの3つのパルス状の蛍光信号の各々が発生するまでの時間(発生時間)を取得する。基準タイミングtからtまでの間では1つのパルス状の蛍光信号が計測され、基準タイミングtからこの蛍光信号が発生するまでの時間(発生時間)を取得する。以下、同様にして基準タイミングtからパルス状の蛍光信号の各々が出力されるまでの時間(発生時間)を取得する。
【0041】
パルス状の蛍光信号が発生するまでの時間(発生時間)は、パルス状の電気信号が予め定めた閾値を超える時間とその閾値を下回る時間の中心の時間とする。閾値を設定するのは、ノイズ成分を誤ってパルス状蛍光信号として取得するのを避けるためである。
【0042】
累積蛍光信号生成ユニット60は、パルス発生時間取得ユニット58が求めたパルス発生時間と、そのパルス発生時間にパルス状の蛍光信号が出力される頻度との関係を示す累積蛍光信号を求める。図5(b)は、分析装置50の累積蛍光信号生成ユニット60で取得される累積蛍光信号の一例を示す図である。累積蛍光信号生成ユニット60は、パルス発生時間取得ユニット58が求めたパルス発生時間を複数の時間帯域に分け、各時間帯域毎に発生するパルスの発生頻度を計数する。
【0043】
さらに、基準タイミングの時刻を時刻0とし、時間帯域の中心値を時間とし、この時間におけるパルス状の蛍光信号の発生頻度を信号値として表した累積蛍光信号を生成する。累積蛍光信号は、例えば、図5(b)に表されるヒストグラム状の信号である。もちろん、時間帯域を細かく設定することで、段差の少ない累積蛍光信号を生成することができる。しかし、この場合、累積する蛍光信号の母数が少ないため、ノイズが発生しやすくなる。したがって、連続性を有する滑らかな累積蛍光信号が生成されるように、予め時間帯域の幅の設定を探索して定めておくことが好ましい。
【0044】
相関値算出ユニット62は、累積蛍光信号生成ユニット60が求めた累積蛍光信号と、参照信号との相関値を求める。相関値の算出に用いる参照信号は、基準タイミングを用いて区分けされた1周期の信号であり、記憶されている参照信号を平均化したものを用いてもよいし、1周期の参照信号を1つ選択し、代表として用いてもよい。図5(a)は、1周期の参照信号の一例を示す図である。相関値算出ユニット62は、参照信号を時間方向にずらしながら、参照信号と累積蛍光信号との相関値を取得する。図5(c)は、分析装置の相関値算出ユニット62で取得される相関値の信号の一例を示す図である。横軸は参照信号を時間方向にずらした時間を、縦軸は相関値を示す。
最大相関時間取得ユニット64は、相関値算出ユニット62が求めた相関値が最大となる時間Δt(最大相関時間)を求める。
【0045】
位相差算出ユニット66は、最大相関時間取得ユニット64が求めた最大相関時間Δtを用いて、参照信号と累積蛍光信号との位相差を求める。位相差θは、レーザ光の変調信号の周波数をfとすると、θ=2πfΔtより求まる。
【0046】
蛍光緩和時間算出ユニット68は、位相差算出ユニット66が求めた位相差θを用いて、測定対象物の蛍光の蛍光緩和時間τを求める。蛍光緩和時間τは、τ=tanθ/(2πf)より求まる。
【0047】
図6は、本実施形態の蛍光検出方法を示すフローチャートである。本実施形態の蛍光検出方法では、まず、所定の周波数で変調したレーザ光を測定対象物に照射する(S101)。次に、測定対象物が発する蛍光を受光して、複数のパルス状の蛍光信号を含む受光信号を出力する(S102)。次に、周波数に対応する周期単位の基準タイミングを設定する(S103)。次に、基準タイミングに基づいて、パルス状の蛍光信号の各々が出力されるまでの発生時間を取得する(S104)。次に、パルス状の蛍光信号の発生頻度と発生時間との関係を示す累積蛍光信号を生成する(S105)。次に、累積蛍光信号と参照信号との相関値を求める(S106)。求めた相関値が最大となる最大相関時間を取得する(S107)。次に、レーザ光の変調に対応する信号を参照信号とし、参照信号と累積蛍光信号との位相差を求める(S108)。この位相差を用いて測定対象物の蛍光の蛍光緩和時間を求める(S109)。
【0048】
また、本実施形態のプログラムは、所定の周波数で変調したレーザ光を測定対象物に照射したときに測定対象物の蛍光の受光信号として得られる複数のパルス状の蛍光信号の信号処理をコンピュータに実行させるためのプログラムである。このプログラムは、周波数に対応する周期単位の基準タイミングを設定する手順と、基準タイミングに基づいて、パルス状の蛍光信号の各々が出力されるまでの発生時間を取得する手順と、パルス状の蛍光信号の発生頻度と発生時間との関係を示す累積蛍光信号を生成する手順と、レーザ光の変調に対応する信号を参照信号とし、参照信号と累積蛍光信号との位相差を求める手順と、位相差を用いて測定対象物の蛍光の蛍光緩和時間を求める手順と、をコンピュータに実行させる。このプログラムは、分析装置50のメモリ54に記憶されている。
【0049】
本実施形態によれば、微弱な蛍光であり、受光信号が複数のパルス状の蛍光信号で構成されているとき、累積蛍光信号を用いることにより、高い精度で蛍光緩和時間を測定することが可能となる。
【0050】
<第2の実施形態>
第1の実施形態では、レーザ光源部22から出射したレーザ光の一部をビームスプリッター23で反射し、受光部25で受光した信号を参照信号とした。本実施形態では、ビームスプリッター23と受光部25を設けず、光源制御部40から出力される変調信号をレーザ光源部22とA/D変換器46の両方に供給し、光源制御部40からA/D変換器46に供給された変調信号を参照信号として用いる点が第1の実施形態と異なる。この場合、光源制御部40で変調信号を分割するため、パワースプリッタを用いる。他の構成については、第1の実施形態と同様である。
【0051】
本実施形態によれば、より簡易な構成で、蛍光が弱いときでも、高い精度で蛍光緩和時間を測定することが可能となる。
【0052】
<第3の実施形態>
第1の実施形態では、A/D変換器46から入出力ポート70に供給される参照信号や蛍光信号をメモリ54に記憶する。本実施形態では、A/D変換器46から入出力ポート70に供給される参照信号や蛍光信号をメモリ54に記憶せず、直接、その後の信号処理を行う点が第1の実施形態と異なる。
【0053】
光源制御部40が出力する正弦波信号の周波数fは予め定まっている。そのため、基準タイミング設定ユニット56は、周波数fに対応する周期単位の基準タイミングで、入出力ポート70に供給される参照信号や蛍光信号に対して、基準タイミングを設定する。
【0054】
パルス発生時間取得ユニット58は、基準タイミングに基づいて、パルス状の蛍光信号の各々が発生するまでの時間(発生時間)を取得する。発生時間の情報はメモリ54に記憶される。
その後、第1の実施形態と同様に、発生時間の情報を用いて累積蛍光信号を求め、以後、第1の実施形態と同様の処理を行う。
【0055】
本実施形態によれば、より少ないメモリ容量で、蛍光が弱いときでも、高い精度で蛍光緩和時間を測定することが可能となる。
【0056】
<第4の実施形態>
第1の実施形態では、累積蛍光信号生成ユニット60が求めた累積蛍光信号を用いて、相関値算出ユニット62が、累積蛍光信号と参照信号との相関値を求める。本実施形態では、累積蛍光信号と参照信号との相関値を求めることなく、参照信号と累積蛍光信号との位相差を求める点が第1の実施形態と異なる。図7は、本実施形態の分析装置50の一例を示す概略構成図である。第1の実施形態における相関値算出ユニット62と最大相関時間取得ユニット64とが存在しない以外は、第1の実施形態と同様である。
【0057】
累積蛍光信号生成ユニット60は、パルス発生時間取得ユニット58が求めたパルス発生時間を複数の時間帯域に区分し、各時間帯域毎に発生するパルスの頻度を計数し、累積蛍光信号を求める。さらに、本実施形態の累積蛍光信号生成ユニット60は、レーザ光を変調する変調信号と同じ形の信号(正弦波信号)でこの累積蛍光信号をフィッティングすることにより、変調信号に対する累積蛍光信号の遅延時間を求める。フィッティングには、最小二乗法などの方法を用いる。図5(b)の点線は、累積蛍光信号をフィッティングした信号を示すものである。
【0058】
位相差算出ユニット66は、累積蛍光信号生成ユニット60が求めた累積蛍光信号を用いて、変調信号に対する累積蛍光信号の遅延時間Δtを求め、この遅延時間Δtから位相差を求める。
【0059】
図8は、本実施形態の蛍光検出方法を示すフローチャートである。本実施形態の蛍光検出方法では、まず、所定の周波数で変調したレーザ光を測定対象物に照射する(S201)。次に、測定対象物が発する蛍光を受光して、複数のパルス状の蛍光信号を含む受光信号を出力する(S202)。次に、周波数に対応する周期単位の基準タイミングを設定する(S203)。次に、基準タイミングに基づいて、パルス状の蛍光信号の各々が出力されるまでの発生時間を取得する(S204)。次に、パルス状の蛍光信号の発生頻度と発生時間との関係を示す累積蛍光信号を生成する(S205)。次に、レーザ光の変調に対応する信号を参照信号とし、参照信号と累積蛍光信号との位相差を求める(S206)。この位相差を用いて測定対象物の蛍光の蛍光緩和時間を求める(S207)。
【0060】
本実施形態によれば、より簡易な構成で、蛍光が弱いときでも、高い精度で蛍光緩和時間を測定することが可能となる。
【符号の説明】
【0061】
10 フローサイトメータ
12 試料
20 信号処理装置
22 レーザ光源部
23 ビームスプリッター
24,25,26 受光部
28 制御・処理部
30 管路
32 回収容器
40 光源制御部
42 発振器
44 アンプ
46 A/D変換器
50 分析装置
52 CPU
54 メモリ
56 基準タイミング設定ユニット
58 パルス発生時間取得ユニット
60 累積蛍光信号生成ユニット
62 相関値算出ユニット
64 最大相関時間取得ユニット
66 位相差算出ユニット
68 蛍光緩和時間算出ユニット
70 入出力ポート
80 ディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物にレーザ光を照射することにより測定対象物が発する蛍光を受光し、このとき得られる蛍光信号の信号処理を行う蛍光検出方法であって、
所定の周波数で変調したレーザ光を測定対象物に照射する工程と、
前記測定対象物が発する蛍光を受光して、パルス状の蛍光信号を複数出力する工程と、
前記周波数に対応する周期単位の基準タイミングを設定する工程と、
前記基準タイミングに基づいて、前記パルス状の蛍光信号の各々が出力されるまでの発生時間を取得する工程と、
前記パルス状の蛍光信号の発生頻度と前記発生時間との関係を示す累積蛍光信号を生成する工程と、
前記レーザ光の変調に対応する信号を参照信号とし、該参照信号と前記累積蛍光信号との位相差を求める工程と、
前記位相差を用いて測定対象物の蛍光の蛍光緩和時間を求める工程と、
を有することを特徴とする蛍光検出方法。
【請求項2】
前記位相差を求める工程は、前記累積蛍光信号と前記参照信号との相関値から前記位相差を求める、請求項1に記載の蛍光検出方法。
【請求項3】
前記位相差を求める工程は、前記レーザ光を変調する変調信号と同じ形の信号で前記累積蛍光信号をフィッティングすることにより、該変調信号に対する前記累積蛍光信号の遅延時間を求め、該遅延時間から前記位相差を求める、請求項1に記載の蛍光検出方法。
【請求項4】
前記レーザ光の変調に対応する信号は、前記レーザ光の一部を受光して取得される、請求項1乃至3のいずれかに記載の蛍光検出方法。
【請求項5】
前記レーザ光の変調に対応する信号は、前記レーザ光を変調する変調信号である、請求項1乃至3のいずれかに記載の蛍光検出方法。
【請求項6】
測定対象物にレーザ光を照射することにより測定対象物が発する蛍光を受光し、このとき得られる蛍光信号の信号処理を行う蛍光検出装置であって、
所定の周波数で変調したレーザ光を測定対象物に照射するレーザ光源部と、
前記測定対象物が発する蛍光を受光して、パルス状の蛍光信号を複数出力する受光部と、
前記レーザ光を測定対象物に照射することにより前記受光部で出力された蛍光信号を用いて測定対象物の蛍光の蛍光緩和時間を求める処理部と、を有し、
前記処理部は、
前記周波数に対応する周期単位の基準タイミングを設定する基準タイミング設定部と、
前記基準タイミングに基づいて、前記パルス状の蛍光信号の各々が出力されるまでの発生時間を取得するパルス発生時間取得部と、
前記パルス状の蛍光信号の発生頻度と前記パルス発生時間との関係を示す累積蛍光信号を生成する累積蛍光信号生成部と、
前記レーザ光の変調に対応する信号を参照信号とし、該参照信号と前記累積蛍光信号との位相差を求める位相差取得部と、
前記位相差取得部で求めた位相差を用いて測定対象物の蛍光の蛍光緩和時間を求める蛍光緩和時間取得部と、
を有することを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項7】
前記位相差取得部は、前記累積蛍光信号と前記参照信号との相関値から前記位相差を求める、請求項6に記載の蛍光検出装置。
【請求項8】
前記位相差取得部は、前記レーザ光を変調する変調信号と同じ形の信号で前記累積蛍光信号をフィッティングすることにより、該変調信号に対する前記累積蛍光信号の遅延時間を求め、該遅延時間から前記位相差を求める、請求項6に記載の蛍光検出装置。
【請求項9】
所定の周波数で変調したレーザ光を測定対象物に照射したときに測定対象物の蛍光の受光信号として得られる複数のパルス状の蛍光信号の信号処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記周波数に対応する周期単位の基準タイミングを設定する手順と、
前記基準タイミングに基づいて、前記パルス状の蛍光信号の各々が出力されるまでの発生時間を取得する手順と、
前記パルス状の蛍光信号の発生頻度と前記発生時間との関係を示す累積蛍光信号を生成する手順と、
前記レーザ光の変調に対応する信号を参照信号とし、該参照信号と前記累積蛍光信号との位相差を求める手順と、
前記位相差を用いて測定対象物の蛍光の蛍光緩和時間を求める手順と、
をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項10】
前記位相差を求める手順は、前記累積蛍光信号と前記参照信号との相関値から前記位相差を求める、請求項9に記載のプログラム。
【請求項11】
前記位相差を求める手順は、前記レーザ光を変調する変調信号と同じ形の信号で前記累積蛍光信号をフィッティングすることにより、該変調信号に対する前記累積蛍光信号の遅延時間を求め、該遅延時間から前記位相差を求める、請求項9に記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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