説明

蛍光検出装置及び生体高分子分析装置

【課題】撮像素子を冷却するとともに、撮像時に受光面への光の照射を可能とする。
【解決手段】光電変換素子20を有し、受光面側に配置された蛍光体64より放射される蛍光を検出する撮像装置10と、受光面側において光電変換素子20が配置された範囲と範囲外との間で移動可能に設けられた受光面側冷却材95とを備える蛍光検出装置70である。受光面側冷却材95は、蛍光検出前に光電変換素子20が配置された範囲に配置され、撮像装置10を冷却するとともに光電変換素子20の受光面を遮光し、蛍光検出時に光電変換素子20が配置された範囲外に退去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光検出装置及び生体高分子分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な生物種の遺伝子の発現解析を行うためにDNAチップや抗体チップ等の生体高分子分析チップやその読取装置が開発されている。生体高分子分析チップは、プローブとなる既知の塩基配列のcDNAや抗体をスライドガラス等の固体担体上にマトリックス状に整列固定させたものである。例えば、DNAチップ及びその読取装置を用いた遺伝子の発現解析は次のようにして行う。
【0003】
まず、既知の塩基配列を有した複数種類のcDNA(以下、プローブDNAという)をスライドガラス等の固体担体に整列固定させたDNAチップを準備する。次に、検体からmRNAを抽出し、逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、標識物質で標識したものを用意する(以下、標識DNAという)。ここで、標識物質には蛍光体や化学発光基質、あるいは化学発光基質を発光させる酵素等を用いることができる。
次に、標識DNAをDNAチップ上に添加すると、標識DNAが相補的なプローブDNAとハイブリダイズすることによりDNAチップ上に固定される。
【0004】
次いで、DNAチップを読取装置にセッティングし、読取装置にて分析する。読取装置は、DNAチップに対して二次元的に移動する集光レンズ及びフォトマルチプライヤーによってDNAチップを走査する標識物質により発した光を集光レンズで集光させ、光強度をフォトマルチプライヤーで計測することで、DNAチップの面内の光強度分布を計測し、これにより、DNAチップ上の光強度分布が二次元の画像として出力される。出力された画像内で光強度が大きい部分には、プローブDNAの塩基配列と相補的な塩基配列を有した標識DNAが含まれていることを表している。従って、二次元画像中のどの部分の蛍光強度が大きいかによって検体で発現しているmRNAを同定することができる。
【0005】
また、複数の撮像素子を二次元アレイ状に配列してなる固体撮像デバイスの受光面にDNAや抗体等のプローブ分子をスポットした生体高分子分析チップが開発されている。このような生体高分子分析チップでは、スポットに付着した標識DNA等の生体高分子を標識する標識物質により発生する光を各光電変換素子により計測する。固体撮像デバイスの受光面にスポットが点在しており、受光面に付着された生体高分子と光電変換素子との間の距離が近いために標識物質から発した光が殆ど減衰せずに固体撮像デバイスの受光面に入射するため、僅かな光量でも計測が可能であるという利点がある。
【0006】
ところで、撮像素子は温度が上昇すると暗電流が増大するため、ノイズが増大する。このため、撮像素子を冷却する冷却装置により撮像素子を一定温度に保つことが行われる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−118925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
撮像素子を冷却するためには、その受光面に冷却材を接触させて冷却するのが効率的である。しかし、撮像素子の受光面に冷却材を配置した状態では、蛍光を計測するのに必要な励起光を受光面に照射ことができなかった。
【0008】
本発明は、上記の問題を解決し、撮像素子を冷却するとともに、撮像時に受光面への光の照射を可能とする蛍光検出装置及びこれを用いた生体高分子分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、光電変換素子を有し、受光面側に配置された蛍光体より放射される蛍光を検出する撮像装置と、受光面側において前記光電変換素子が配置された範囲と範囲外との間で移動可能に設けられた受光面側冷却材とを備えることを特徴とする蛍光検出装置である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の蛍光検出装置であって、前記受光面側冷却材は、蛍光検出前に前記光電変換素子が配置された範囲に配置され、前記撮像装置を冷却するとともに前記光電変換素子の受光面を遮光し、蛍光検出時に前記光電変換素子が配置された範囲外に退去されることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の蛍光検出装置であって、前記撮像装置の裏側に配置され、前記撮像装置を冷却する裏側冷却材を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の蛍光検出装置であって、前記裏側冷却材と前記撮像装置との間に配置され、蛍光検出前に前記光電変換素子が配置された範囲に配置され、前記撮像装置を冷却するとともに、蛍光検出時に前記光電変換素子が配置された範囲外に退去される第二の裏側冷却材をさらに備えることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項3または4に記載の蛍光検出装置であって、前記裏側冷却材には、前記光電変換素子が配置される範囲に開口が設けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の蛍光検出装置と、前記撮像装置の受光面に設けられ、特定の生体高分子と結合するプローブとを備えることを特徴とする生体高分子分析装置である。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の生体高分子分析装置であって、前記プローブは既知の塩基配列からなる一本鎖DNAを有することを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項6に記載の生体高分子分析装置であって、前記プローブは特定の抗原と結合する抗体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、撮像素子を冷却するとともに、撮像時に受光面への光の照射が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0019】
[第1実施形態]
〔1〕生体高分子分析チップの全体構成
図1は、本発明の第1の実施形態に係る生体高分子分析チップ1の概略平面図であり、図2は、図1のII−II矢視断面図である。この生体高分子分析チップ1は、DNAを検出するDNAチップである。
この生体高分子分析チップ1は、図1、図2に示すように、固体撮像デバイス10と、隔壁40と、スポット60とを備える。
【0020】
〔2〕固体撮像デバイス
ここで、図1〜図4を用いて固体撮像デバイス10について説明する。図2に示すように、固体撮像デバイス10は、透明基板11と、ボトムゲート絶縁膜13と、トップゲート絶縁膜21と、保護絶縁膜23とを積層してなる。これらの層間に、複数のボトムゲートライン12a、ソースライン18a、ドレインライン19a、トップゲートライン22a、電極ライン24a及び、ダブルゲートトランジスタ20を形成するボトムゲート電極12、半導体膜14、チャネル保護膜15、不純物半導体膜16,17、ソース電極18、ドレイン電極19、トップゲート電極22が設けられている。
【0021】
透明基板11は、後述する蛍光体が発する蛍光を透過する性質(以下、光透過性という。)を有するとともに絶縁性を有し、石英ガラス等といったガラス基板又はポリカーボネート、PMMA等といったプラスチック基板である。
【0022】
この固体撮像デバイス10においては、光電変換素子としてダブルゲート型磁界効果トランジスタ(以下、ダブルゲートトランジスタという。)20が利用され、複数のダブルゲートトランジスタ20,20,…が二次元アレイ状に特にマトリクス状に配列されている。
なお、図1では8行×8列の64個のダブルゲートトランジスタ20,20,…を備えるマトリクス状の二次元アレイを示すが、その数は任意であり、さらに多くの行及び列を有していてもよい。
【0023】
図3は固体撮像デバイス10のダブルゲートトランジスタ20を示す平面図であり、図4は図3のIV−IV矢視断面図である。図3、図4に示すように、ダブルゲートトランジスタ20,20,…は何れも、受光部である半導体膜14と、半導体膜14上に形成されたチャネル保護膜15と、ボトムゲート絶縁膜13を挟んで半導体膜14の下に形成されたボトムゲート電極12と、トップゲート絶縁膜21を挟んで半導体膜14の上に形成されたトップゲート電極22と、半導体膜14の一部に重なるよう形成された不純物半導体膜16と、半導体膜14の別の部分に重なるよう形成された不純物半導体膜17と、不純物半導体膜16に重なったソース電極18と、不純物半導体膜17に重なったドレイン電極19と、を備え、半導体膜14において受光した光量に従ったレベルの電気信号を出力するものである。
【0024】
ボトムゲート電極12は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに透明基板11上に形成されている。また、透明基板11上には横方向に延在する複数本のボトムゲートライン12a,12aが形成されており、横方向に配列された同一の行のダブルゲートトランジスタ20,20,…のそれぞれのボトムゲート電極12が共通のボトムゲートライン12aと一体となって形成されている。ボトムゲート電極12及びボトムゲートライン12aは、導電性及び遮光性を有し、例えばクロム、クロム合金、アルミ若しくはアルミ合金又はこれらの合金からなる。
【0025】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…のボトムゲート電極12及びボトムゲートライン12a,12a,…はボトムゲート絶縁膜13によってまとめて被覆されている。すなわち、ボトムゲート絶縁膜13は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,…に共通して形成された膜である。ボトムゲート絶縁膜13は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン(SiN)又は酸化シリコン(SiO2)からなる。
【0026】
ボトムゲート絶縁膜13上には、複数の半導体膜14がマトリクス状に配列するよう形成されている。半導体膜14は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立して形成されており、それぞれのダブルゲートトランジスタ20においてボトムゲート電極12に対して対向配置され、ボトムゲート電極12との間にボトムゲート絶縁膜13を挟んでいる。半導体膜14は、平面視して略矩形状を呈しており、受光した蛍光の光量に応じた量の電子−正孔対を生成するアモルファスシリコン又はポリシリコンで形成された層である。
【0027】
半導体膜14上には、チャネル保護膜15が形成されている。チャネル保護膜15は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立してパターニングされており、それぞれのダブルゲートトランジスタ20において半導体膜14の中央部上に形成されている。チャネル保護膜15は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。チャネル保護膜15は、パターニングに用いられるエッチャントから半導体膜14の界面を保護するものである。半導体膜14に光が入射すると、入射した光量に従った量の電子−正孔対がチャネル保護膜15と半導体膜14との界面付近を中心に発生するようになっている。この場合、半導体膜14側にはキャリアとして正孔が発生し、チャネル保護膜15側には電子が発生する。
【0028】
半導体膜14の一端部上には、不純物半導体膜16が一部、チャネル保護膜15に重なるようにして形成されており、半導体膜14の他端部上には、不純物半導体膜17が一部、チャネル保護膜15に重なるようにして形成されている。不純物半導体膜16,17は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立してパターニングされている。不純物半導体膜16,17は、n型の不純物イオンを含むアモルファスシリコン(n+シリコン)からなる。
【0029】
不純物半導体膜16上には、ソース電極18が形成され、不純物半導体膜17上には、ドレイン電極19が形成されている。ソース電極18及びドレイン電極19はダブルゲートトランジスタ20ごとに形成されている。縦方向に延在する複数本のソースライン18a,18a及びドレインライン19a,19aがボトムゲート絶縁膜13上に形成されている。縦方向に配列された同一の列のダブルゲートトランジスタ20,20,…のソース電極18は共通のソースライン18aと一体に形成されており、縦方向に配列された同一の列のダブルゲートトランジスタ20,20,…のドレイン電極19は共通のドレインライン19aと一体に形成されている。ソース電極18、ドレイン電極19、ソースライン18a及びドレインライン19aは、導電性及び遮光性を有しており、例えばクロム、クロム合金、アルミ若しくはアルミ合金又はこれらの合金からなる。
【0030】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…のソース電極18及びドレイン電極19並びにソースライン18a,18a及びドレインライン19a,19aは、トップゲート絶縁膜21によってまとめて被覆されている。トップゲート絶縁膜21は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,…に共通して形成された膜である。トップゲート絶縁膜21は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。
【0031】
トップゲート絶縁膜21上には、複数のトップゲート電極22がダブルゲートトランジスタ20ごとに形成されている。トップゲート電極22は、それぞれのダブルゲートトランジスタ20において半導体膜14に対して対向配置され、半導体膜14との間にトップゲート絶縁膜21及びチャネル保護膜15を挟んでいる。また、トップゲート絶縁膜21上には横方向に延在する複数本のトップゲートライン22a,22aが形成されており、横方向に配列された同一の行のダブルゲートトランジスタ20,20のトップゲート電極22が共通のトップゲートライン22aと一体に形成されている。トップゲート電極22及びトップゲートライン22aは、導電性及び光透過性を有し、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛若しくは酸化スズ又はこれらのうちの少なくとも一つを含む混合物(例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム)で形成されている。
【0032】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…のトップゲート電極22及びトップゲートライン22a,22aは保護絶縁膜23によってまとめて被覆され、保護絶縁膜23は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,…に共通して形成された膜である。保護絶縁膜23は、絶縁性及び光透過性を有し、窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。
【0033】
以上のように構成された固体撮像デバイス10は、保護絶縁膜23の表面を受光面としており、ダブルゲートトランジスタ20の半導体膜14において受光した光量を電気信号に変換するように設けられている。
【0034】
〔3〕隔壁
隔壁40は保護絶縁膜23上に密着され、固体撮像デバイス10の受光面にウェル42を形成する。隔壁40は不透明であり、外部から光が入ることを防いでいる。
なお、固体撮像デバイス10の受光面に、各スポット60毎に複数のウェル42を形成してもよい。
【0035】
〔4〕スポット
図1、図3に示すように、ウェル42内にはスポット60が形成されている。各スポット60は、プローブとなる既知の塩基配列のcDNA(プローブDNA61)や抗体等の溶液をウェル42内に滴下し、乾燥して形成される。以下ではプローブとして既知の塩基配列のcDNAを用いた場合について説明する。
【0036】
1つのスポット60では同じ塩基配列の一本鎖のプローブDNA61が多数集まった群集がウェル42内に固定化され、スポット60ごとにプローブDNA61は異なる塩基配列となっている。プローブDNA61としては、既知のmRNAの塩基配列、またはその一部と同一の、あるいは相補的な塩基配列のDNAが用いられる。具体的には、例えば、後述する蛍光標識DNAで用いるのと同じ細胞検体から作成したcDNAライブラリを用いることができる。
【0037】
1つのスポット60はダブルゲートトランジスタ20上に重なるように形成されている。なお、1つのスポット60に重なったダブルゲートトランジスタ20の数は異なっていてもよい。
【0038】
〔5〕分析装置
生体高分子分析チップ1を分析装置70にセッティングして用いるので、まず分析装置70について説明する。図5は分析装置70の構成を示すブロック図であり、図6は分析装置70の概略立面図である。
【0039】
図5に示すように、分析装置70は、生体高分子分析チップ1と、生体高分子分析チップ1の外周部を保持する支持枠71と、励起光照射装置73と、支持枠71に設けられ固体撮像デバイス10と接続されるトップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75、ドレインドライバ76と、出力装置77と、冷却枠91と、冷却枠冷却装置92と、受光面側冷却板95と、冷却板冷却装置96と、冷却板移動装置97と、これらを制御する制御装置80と、記憶装置82とを備える。
【0040】
支持枠71は生体高分子分析チップ1を保持する保持穴71aを有する。図6において、生体高分子分析チップ1が受光面側を上にして支持枠71の保持穴71aにセッティングされた場合には、固体撮像デバイス10のトップゲートライン22a,22aがトップゲートドライバ74の端子に、ボトムゲートライン12a,12aがボトムゲートドライバ75の端子に、ドレインライン19a,19aがドレインドライバ76の端子に、それぞれ接続されるようになっている。また、ソースライン18a,18aが一定電圧源に接続され、この例ではソースライン18a,18a,…が接地されるようになっている。
【0041】
トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76は、協同して固体撮像デバイス10を駆動するものである。
励起光照射装置73は、生体高分子分析チップ1の受光面側に配置され、後述する蛍光体を励起する励起光を生体高分子分析チップ1に照射する。励起光照射装置73の光源は面光源である。
【0042】
冷却枠91は生体高分子分析チップ1の裏側に配置され、生体高分子分析チップ1の下面よりもやや小さい開口91aを有し、開口91aの縁部で生体高分子分析チップ1の下面の外周部と当接する。この開口91aが設けられていることで、後述する励起光照射装置73により生体高分子分析チップ1に励起光が照射されたときに、固体撮像デバイス10の裏側まで透過した励起光が冷却枠91により反射されることを防ぐことができる。
冷却枠冷却装置92は冷却枠91を冷却することにより、生体高分子分析チップ1を冷却する。
【0043】
受光面側冷却板95は冷却板移動装置97により上下方向、水平方向(図6の左右方向)に移動される。受光面側冷却板95は生体高分子分析チップ1が支持枠71に保持された状態において、サンプルの検出を行う前に生体高分子分析チップ1の上面と当接するとともに、サンプルの検出時に生体高分子分析チップ1の上部から退去される。
冷却板冷却装置96とは受光面側冷却板95を冷却することにより、生体高分子分析チップ1を冷却する。
【0044】
制御装置80は、記憶装置82に格納されたプログラムに従って分析装置70を駆動する。
制御装置80は、励起光照射装置73、冷却枠冷却装置92、冷却板冷却装置96、冷却板移動装置97の駆動を制御する。
【0045】
また、制御装置80は、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76に制御信号を出力することによって、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76に固体撮像デバイス10の駆動動作を行う。
【0046】
また、制御装置80はドレインドライバ76から入力した電気信号をA/D変換することで、各ダブルゲートトランジスタ20の出力値を得て、固体撮像デバイス10の受光面に沿った光強度分布を二次元の画像データとして取得し、記憶装置82に記憶する機能を有する。
【0047】
さらに、制御装置80は記憶装置82に記憶した画像データに従った画像を出力装置77に出力させる機能を有する。
出力装置77はプロッタ、プリンタ又はディスプレイであり、制御装置80から出力された信号により出力(表示又はプリント)を行う。
【0048】
〔6〕蛍光標識DNAの作成
上記生体高分子分析チップ1で分析する試料としては、DNAを用いることができる。試料となるDNAとしては、任意の細胞検体内で発現しているmRNAを抽出し、逆転写酵素を用いるRT−PCR反応により得られたcDNAを用いることができる。cDNAは蛍光体で標識する。蛍光体は、励起光照射装置で制御される励起光源から出射される励起光で励起されるものであってその励起光によって蛍光を発するものを選択するが、蛍光体としては、例えばCyDyeのCy2(アマシャム社製)がある。
【0049】
cDNAを蛍光体で標識するには、例えば、蛍光体で標識されたオリゴdTプライマや、標識されたdNTPミックスを用いてRT−PCR反応を実施すればよい。以下では、この標識されたcDNAを蛍光標識DNAという。
【0050】
〔7〕ハイブリダイゼーション
以下、蛍光標識DNAをプローブDNA61とハイブリダイゼーションさせる方法について説明する。まず、作業者が、図7に示すように、蛍光体64で標識した蛍光標識DNA62を含有した溶液65(以下、蛍光標識DNA溶液65という)をウェル42内に注入する。なお、蛍光標識DNA溶液65をウェル42内のスポット60,60,…に順次又は同時に滴下してもよい。このとき、蛍光標識DNA62及びプローブDNA61が一本鎖となるように蛍光標識DNA溶液65は加熱されている。
【0051】
次いで、プローブDNA61と蛍光標識DNA62とがハイブリダイゼーションを引き起こすように、生体高分子分析チップ1のウェル42を所定の温度に冷却する。すると、図8に示すように、ウェル42内に注入された蛍光標識DNA溶液65内の蛍光標識DNA62のうち、スポット60のプローブDNA61と相補的なものは、プローブDNA61とハイブリダイズする。一方、プローブDNA61と相補的ではない蛍光標識DNA62は、そのスポット60には結合しない。
その後、ウェル42内の蛍光標識DNA溶液65を洗浄用バッファー溶液で洗い流し、蛍光標識DNA62のうちプローブDNA61とハイブリダイズしなかったものをウェル42内から除去する。
【0052】
〔8〕生体高分子分析チップの冷却
上記処理を行った生体高分子分析チップ1を分析装置70にセッティングし、冷却を行う。
まず、起動された制御装置80が冷却板移動装置97を駆動して、図9(a)に示すように、受光面側冷却板95を水平方向に移動させ、支持枠71の上部から退去させる。その後、生体高分子分析チップ1を支持枠71の保持穴71aにセッティングする。
その後、制御装置80は冷却板移動装置97を駆動して、図9(b)に示すように、受光面側冷却板95を水平方向に移動させ、支持枠71の上部に配置させた後、受光面側冷却板95を支持枠71及び生体高分子分析チップ1の上に載置する。
【0053】
次に、制御装置80は、冷却枠冷却装置92及び冷却板冷却装置96を駆動し、冷却枠91及び受光面側冷却板95を冷却することで、生体高分子分析チップ1を上下面より冷却する。これにより、固体撮像デバイス10の暗電流を減少させ、サンプル検出時のノイズを低減することができる。
【0054】
また、生体高分子分析チップ1の上面を受光面側冷却板95で覆うことにより、ウェル42内に外部から光が入ることを防ぐことができる。これにより、サンプルの検出を行うまでに蛍光体64が外部の光により退色するのを防ぐことができる。
固体撮像デバイス10が充分に冷却されたら、蛍光標識DNA62の検出を行うために、制御装置80により冷却板移動装置97を駆動して、図6に示すように、受光面側冷却板95を水平方向に移動させ、支持枠71の上部から退去させる。これにより、励起光照射装置73が励起光を受光面に照射することが可能となる。
【0055】
〔9〕サンプルの検出
次に、制御装置80により励起光照射装置73を制御し、生体高分子分析チップ1に励起光を照射する。
蛍光標識DNA62がプローブDNA61に結合したスポット60からは、励起光により励起された蛍光体64が励起状態から基底状態に遷移するときに蛍光(主に可視光波長域)が放出される。放出された蛍光はダブルゲートトランジスタ20の半導体膜14に入射する。
なお、励起光のうち、蛍光体64の励起に用いられないものは、保護絶縁膜23、トップゲート絶縁膜21、ボトムゲート絶縁膜13、透明基板11を透過し、開口91aを通過して分析装置70の下部に放射される。このため、励起光が反射するのを防ぐことができる。
【0056】
蛍光が入射したダブルゲートトランジスタ20では、半導体膜14側にはキャリアとして正孔が発生し、チャネル保護膜15側には電子が発生する。
その後、制御装置80は、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76に制御信号を出力することによって、ドレインライン19aから各ダブルゲートトランジスタ20の電子−正孔対に応じた出力信号を得て、この信号をA/D変換する。その後、制御装置80は、各ダブルゲートトランジスタ20の出力値を得て、固体撮像デバイス10の受光面に沿った光強度分布を二次元の画像データとして記憶装置82に記憶する。また、制御装置80は画像データを出力装置77により出力する。
【0057】
作業者は出力された画像データより、各スポット60,60,…におけるハイブリダイゼーションの有無を確認することができる。ハイブリダイゼーションが起きていれば、そのスポット60のプローブDNA61と相補的な塩基配列のmRNAが細胞検体内で生成されていることがわかる。このため、蛍光が検出されたスポット60のプローブDNA61の種類により、検体内でどのような遺伝子が発現しているかを直接確認することができる。
【0058】
<変形例>
次に、本実施形態の変形例に係る分析装置170について説明する。図10は分析装置170の構成を示すブロック図であり、図11は分析装置170の概略立面図である。
本変形例に係る分析装置170は、図10、図11に示すように、生体高分子分析チップ1と、生体高分子分析チップ1の外周部を保持する支持枠171と、励起光照射装置173と、支持枠171に設けられ固体撮像デバイス10と接続されるトップゲートドライバ174、ボトムゲートドライバ175、ドレインドライバ176と、出力装置177と、冷却枠191と、冷却枠冷却装置192と、裏側冷却板193と、裏側冷却板冷却装置194と、受光面側冷却板195と、受光面側冷却板冷却装置196と、冷却板移動装置197と、冷却枠移動装置198と、これらを制御する制御装置180と、記憶装置182とを備える。なお、第1実施形態と同様の構成については、下2桁に同符号を付して説明を割愛する。
【0059】
本変形例においては、冷却枠191と支持枠171との間に裏側冷却板193と、裏側冷却板193を冷却する冷却装置194とが配置されている。裏側冷却板193は受光面側冷却板195とともに冷却板移動装置197により上下方向、水平方向に移動される。また、本変形例においては、冷却枠191を上下に移動させる冷却枠移動装置198が設けられている。
【0060】
本変形例においては、〔8〕生体高分子分析チップの冷却を、以下のように行う。
まず、図12(a)に示すように、起動された制御装置180が冷却枠移動装置198を駆動して冷却枠191を下降させる。次いで、制御装置180が冷却板移動装置197を駆動して裏側冷却板193、受光面側冷却板195を水平方向に移動させ、支持枠171の下部及び上部から退去させる。その後、〔7〕ハイブリダイゼーションの処理を行った生体高分子分析チップ1を支持枠171の保持穴171aにセッティングする。
【0061】
その後、制御装置180は冷却板移動装置197を駆動して、図12(b)に示すように、裏側冷却板193及び受光面側冷却板195を水平方向に移動させ、支持枠71の下部及び上部に当接させる。
その後、制御装置180は、冷却装置194,196を駆動し、裏側冷却板193及び受光面側冷却板195を冷却することで、生体高分子分析チップ1を上下面より冷却する。
【0062】
固体撮像デバイス10が充分に冷却されたら、蛍光標識DNA62の検出を行うために、制御装置180により冷却板移動装置197を駆動して、図11に示すように、裏側冷却板193及び受光面側冷却板195を水平方向に移動させ、支持枠171の下部及び上部から退去させる。
【0063】
次に、制御装置180が冷却枠移動装置198を駆動して冷却枠191を上昇させ、支持枠171の下面に当接させる。その後、制御装置180は、冷却装置192を駆動し、冷却枠191を冷却することで、生体高分子分析チップ1を下面より冷却する。
【0064】
以後、〔9〕サンプルの検出と同様にして、分析装置170による光量データの計測動作を行うことができる。
なお、冷却枠191を上下に移動させる代わりに、支持枠171を上下に移動させてもよい。
【0065】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る生体高分子分析チップ101について図13を用いて説明する。図13は生体高分子分析チップ101を示す断面図である。この生体高分子分析チップ101は、抗原タンパクを検出する抗体チップである。なお、生体高分子分析チップ1と同様の構成については下2桁に同符号を付して説明を割愛する。
【0066】
抗体チップでは、プローブとして、検出する既知のタンパク質や糖鎖等の抗原と結合する抗体(以下、プローブ抗体という)を用いる。
具体的には、生体高分子分析チップ101のウェル142にプローブ抗体161を含む溶液を滴下し、乾燥してスポット160を形成する。なお、ウェル142に滴下されるプローブ抗体161はそれぞれ異なるタンパク質を抗原とし、同じスポット160を形成するプローブ抗体161は同一の抗原決定基を認識する。プローブ抗体161となる抗体としては、モノクローナル抗体を用いることができる。
【0067】
次に、サンプルとなる抗原162を含む溶液(以下、サンプル溶液という)をウェル142内に注入する。
プローブ抗体161にサンプル溶液中の抗原162が結合するのに充分な時間が経過した後、ウェル142内のサンプル溶液をバッファー溶液で洗い流し、サンプル溶液とともに抗原162のうちプローブ抗体161と結合しなかったものをウェル142内から除去する。
【0068】
次に、ウェル142に、プローブ抗体161が認識するのと同じ抗原162の異なる抗原決定基を認識する抗体を蛍光体164で標識したもの(以下、蛍光標識抗体163という)の溶液165(以下、蛍光標識抗体溶液という)を注入する。
プローブ抗体161に結合した抗原162と蛍光標識抗体163とが結合するのに充分な時間が経過した後、ウェル142内の蛍光標識抗体溶液をバッファー溶液で洗い流し、蛍光標識抗体溶液中の蛍光標識抗体163のうち抗原162と結合しなかったものをウェル142内から除去する。
以後、第1実施形態の〔8〕生体高分子分析チップの冷却、〔9〕サンプルの検出と同様にして、分析装置70または分析装置170による光量データの計測動作を行う。
【0069】
図13に示すように、プローブ抗体161に抗原162が結合し、抗原162に蛍光標識抗体163が結合したスポット160では、励起光により蛍光標識抗体163の蛍光体164が励起される。励起状態の蛍光体164が基底状態に遷移するときに蛍光が放出され、放出された蛍光がダブルゲートトランジスタ120により検出される。
【0070】
作業者は出力された画像データより、各スポット160,160,…における抗原162の有無を確認することができる。このため、蛍光が検出されたスポット160のプローブ抗体161の種類により、検体内でどのようなタンパク質(抗原162)が生成されているかを直接確認することができる。
【0071】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
例えば、上記実施の形態では、冷却材として受光面側冷却材、裏側冷却材、第二の裏側冷却材を用いたが、これらは一つの形態でありもちろんこれに限るものではなく、前記3つの冷却材のうちいずれか1つ以上を用いればよい。
例えば、プローブとして既知の塩基配列の一本鎖DNAや抗体を用いたが、その他の既知の生体高分子や低分子等を用いてもよい。
例えば、抗原となるペプチドやタンパク、糖鎖、低分子リガンド、既知の細胞等を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る生体高分子分析チップ1の概略平面図である。
【図2】図1のII−II矢視断面図である。
【図3】固体撮像デバイス10のダブルゲートトランジスタ20を示す平面図である。
【図4】図3のIV−IV矢視断面図である。
【図5】分析装置70の構成を示すブロック図である。
【図6】分析装置70の概略立面図である。
【図7】蛍光標識DNA62をプローブDNA61とハイブリダイゼーションさせる方法の説明図である。
【図8】蛍光標識DNA62をプローブDNA61とハイブリダイゼーションさせる方法の説明図である。
【図9】(a),(b)ともに本発明の第1実施形態に係る生体高分子分析チップの冷却動作の説明図である。
【図10】第1の実施形態の変形例に係る分析装置170の構成を示すブロック図である。
【図11】分析装置170の概略立面図である。
【図12】(a),(b)ともに本発明の第1実施形態の変形例に係る生体高分子分析チップの冷却動作の説明図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係る生体高分子分析チップ101を示す断面図である。
【符号の説明】
【0073】
10,110 固体撮像デバイス(撮像装置)
20,120 ダブルゲートトランジスタ(光電変換素子)
61 プローブDNA(プローブ)
62 蛍光標識DNA(生体高分子)
64,164 蛍光体
70,170 分析装置(蛍光検出装置、生体高分子分析装置)
73,173 励起光照射装置
91,191 冷却枠
91a 開口
95,195 受光面側冷却板
161 プローブ抗体(プローブ)
162 抗原(生体高分子)
193 裏側冷却板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換素子を有し、受光面側に配置された蛍光体より放射される蛍光を検出する撮像装置と、
前記光電変換素子が配置された範囲と範囲外との間で移動可能に設けられた受光面側冷却材とを備えることを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項2】
前記受光面側冷却材は、蛍光検出前に前記光電変換素子が配置された範囲に配置され、前記撮像装置を冷却するとともに前記光電変換素子の受光面を遮光し、
蛍光検出時に前記光電変換素子が配置された範囲外に退去されることを特徴とする請求項1に記載の蛍光検出装置。
【請求項3】
前記撮像装置の裏側に配置され、前記撮像装置を冷却する裏側冷却材を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光検出装置。
【請求項4】
前記裏側冷却材と前記撮像装置との間に配置され、蛍光検出前に前記光電変換素子が配置された範囲に配置され、前記撮像装置を冷却するとともに、蛍光検出時に前記光電変換素子が配置された範囲外に退去される第二の裏側冷却材をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の蛍光検出装置。
【請求項5】
前記裏側冷却材には、前記光電変換素子が配置される範囲に開口が設けられていることを特徴とする請求項3または4に記載の蛍光検出装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の蛍光検出装置と、
前記撮像装置の受光面に設けられ、特定の生体高分子と結合するプローブとを備えることを特徴とする生体高分子分析装置。
【請求項7】
前記プローブは既知の塩基配列からなる一本鎖DNAを有することを特徴とする請求項6に記載の生体高分子分析装置。
【請求項8】
前記プローブは特定の抗原と結合する抗体であることを特徴とする請求項6に記載の生体高分子分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−224596(P2008−224596A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66808(P2007−66808)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】