説明

蛍光検出装置及び蛍光検出方法

【課題】蛍光緩和時間および蛍光強度を、広範囲で一定の精度で算出することのできる蛍光検出装置及び蛍光検出方法を提供する。
【解決手段】測定対象物にレーザ光を照射することにより測定対象物が発する蛍光を受光するとき、レーザ光源部から出射するレーザ光を強度変調するための変調信号を生成し、この変調信号を用いてレーザ光を変調する。このレーザ光の照射された測定対象物から発する蛍光の蛍光信号を取得し、この蛍光信号から、蛍光強度と変調信号に対する蛍光の位相遅れを算出する。その際、蛍光強度信号の値が予め設定された範囲に入るように、変調信号のDC成分の信号レベルと蛍光信号の出力直後の増幅のゲインの操作量を制御する。操作量が整定した後、蛍光強度を算出し、位相遅れを用いて測定対象物の発する蛍光の蛍光緩和時間を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物にレーザ光を照射することにより測定対象物が発する蛍光を受光し、このとき得られる蛍光信号の信号処理を行う蛍光検出装置および蛍光検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療、生物分野で用いられるフローサイトメータには、レーザ光を照射することにより測定対象物の蛍光色素からの蛍光を受光して、測定対象物の種類を識別する蛍光検出装置が組み込まれている。
【0003】
具体的には、フローサイトメータは、細胞、DNA、RNA、酵素、蛋白等の生体物質を含む混濁液を蛍光試薬でラベル化し、圧力を与えて毎秒10m以内程度の速度で管路内を流れるシース液に測定対象物を流してラミナーシースフローを形成する。このフロー中の測定対象物にレーザ光を照射することにより、測定対象物に付着した蛍光色素が発する蛍光を受光し、この蛍光をラベルとして識別することで測定対象物を特定するものである。
このフローサイトメータでは、例えば、細胞内のDNA、RNA、酵素、蛋白質等の細胞内相対量を計測し、またこれらの働きを短時間で解析することができる。また、特定のタイプの細胞や染色体を蛍光によって特定し、特定した細胞や染色体のみを生きた状態で短時間で選別収集するセル・ソータ等が用いられる。
これの使用においては、より多くの測定対象物を、短時間に正確に蛍光の情報から特定することが要求されている。
【0004】
下記特許文献1には、レーザ光の照射による測定対象物から発せられる蛍光の蛍光寿命(蛍光緩和時間)を算出することで、多くの測定対象物を、短時間に正確に特定することができる蛍光検出装置および方法が記載されている。
当該文献によると、レーザ光を強度変調して測定対象物に照射し、測定対象物からの蛍光の蛍光信号の、レーザ光の強度変調に用いた変調信号に対する位相遅れを求め、この位相遅れから、蛍光緩和時間を算出することが記載されている。
【0005】
この装置および方法では、蛍光強度や蛍光緩和時間を精度高く短時間に算出することができるが、蛍光強度や蛍光緩和時間を一定の精度で算出することのできる範囲は、限られた範囲となっていた。これは、位相遅れが蛍光緩和時間に与える寄与が一定でなく非線形に変化することによるものである。また、構成回路でのノイズ成分の混入により、AD変換を行うとき量子誤差が生じ蛍光強度や位相遅れに大きな誤差を与える場合もある。このため、一定の精度で蛍光強度や蛍光緩和時間を算出することができないといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−226698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上記問題点を解決するために、蛍光強度および蛍光緩和時間を、広範囲で一定の精度で算出することのできる蛍光検出装置及び蛍光検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、測定対象物にレーザ光を照射することにより測定対象物が発する蛍光を受光し、このとき得られる蛍光信号の信号処理を行う、以下に記載の蛍光検出装置により達成される。
すなわち、蛍光検出装置は、
(A)測定対象物に照射するレーザ光を強度変調して出射する光源部と、
(B)レーザ光の照射された測定対象物から発する蛍光の蛍光信号を出力する受光部と、
(C)前記光源部から出射するレーザ光を強度変調するための変調信号を生成する光源制御部と、
(D)前記受光部で出力された蛍光信号を増幅する増幅器と、増幅した前記蛍光信号の、前記変調信号に対する同相成分と、増幅した前記蛍光信号の、前記変調信号に対して90度位相のシフトした90度位相成分と、を生成するミキサと、生成した前記同相成分と前記90度位相成分をデジタル変換するAD変換器と、を有する第1の処理部と、
(E)デジタル変換した前記同相成分と前記90度位相成分とを用いて、蛍光強度信号と前記変調信号に対する蛍光の位相遅れを算出し、算出した前記蛍光強度信号と前記位相遅れを用いて測定対象物の蛍光の蛍光強度と蛍光緩和時間を算出する第2の処理部と、
(F)前記蛍光強度信号の値が予め設定された範囲に入るように、前記強度変調に用いる変調信号のDC成分の信号レベルおよび前記増幅器のゲインの少なくとも一方の操作量を制御する信号制御部と、を有する。
【0009】
その際、前記信号制御部は、前記蛍光強度信号の値が予め設定された範囲に入るときの前記操作量を見出した後、前記第2の処理部は、この見出した前記操作量の下で得られる蛍光強度信号の値と前記操作量を用いて測定対象物の蛍光の前記蛍光強度を算出し、前記位相遅れを用いて測定対象物の蛍光の蛍光緩和時間を算出することが好ましい。
【0010】
蛍光検出装置が用いる測定対象物は複数のサンプル粒子で構成され、このサンプル粒子はレーザ光による測定位置を一定速度で1つずつ断続的に通過する。そのとき、前記信号制御部は、前記サンプル粒子のレーザ光の測定場の通過の開始直後に、前記蛍光強度信号の値が予め設定された範囲に入るように、前記操作量の制御を開始し、前記サンプル粒子の前記レーザ光の測定場の通過終了前に、設定された時点での前記位相遅れと前記変調信号の周波数から前記蛍光緩和時間を算出するとともに、予め設定された前記範囲に入る蛍光強度信号の値と前記操作量とを用いて前記蛍光強度を算出することが好ましい。
【0011】
あるいは、前記測定対象物は、一定の容器に収容され、静止した状態で、レーザ光の照射を受ける。このとき、前記信号制御部は、前記蛍光強度の値が予め設定された範囲に入るように前記操作量の制御を行って、前記第2の処理部は、前記制御が整定したとき前記蛍光強度と前記蛍光緩和時間を算出することも同様に好ましい。
【0012】
なお、前記信号制御部は、前記操作量の制御の他に、前記蛍光の位相遅れが45度に近づくように、前記強度変調の周波数を制御し、前記周波数の制御が整定したときの蛍光強度信号の値と位相遅れを用いて前記蛍光強度と前記蛍光緩和時間を算出することが好ましい。
【0013】
さらに、上記目的は、測定対象物にレーザ光を照射することにより測定対象物が発する蛍光を受光し、このとき得られる蛍光信号の信号処理を行う、以下に記載の蛍光検出方法により達成される。
すなわち、蛍光検出方法は、
(G)レーザ光源部から出射するレーザ光を強度変調するための周波数とDC成分の信号レベルを設定して変調信号を生成し、この変調信号を用いてレーザ光を変調するステップと、
(H)このレーザ光の照射された測定対象物から発する蛍光の蛍光信号を取得するステップと、
(I)前記蛍光信号を増幅し、この増幅した前記蛍光信号の、前記変調信号に対する同相成分と、増幅した前記蛍光信号の、前記変調信号に対して90度位相のシフトした90度位相成分とを生成し、生成した前記同相成分と前記90度位相成分をデジタル変換するステップと、
(J)デジタル変換された前記同相成分と前記90度位相成分とを用いて、蛍光強度と前記変調信号に対する蛍光の位相遅れとを算出するステップと、
(K)前記蛍光強度が予め設定された範囲に入るように、前記DC成分の信号レベルおよび前記増幅のゲインの少なくとも一方の操作量を制御するステップと、
(L)前記蛍光強度の値が前記設定された範囲に入るときの前記操作量の条件で得られる前記同相成分と前記90度位相成分とを用いて蛍光強度信号の値と前記位相遅れを算出し、算出した前記蛍光強度信号の値と前記位相遅れを用いて、測定対象物の発する蛍光の蛍光強度と蛍光緩和時間を算出するステップと、を有する。
【0014】
その際、前記蛍光強度信号の値が予め設定された範囲に入るときの前記操作量を見出した後、この見出した操作量の条件の下で得られる蛍光強度信号の値と位相遅れを用いて、測定対象物の蛍光の前記蛍光強度と前記蛍光緩和時間を算出することが好ましい。
【0015】
蛍光検出装置で用いる測定対象物は複数のサンプル粒子で構成され、このサンプル粒子はレーザ光による測定場を一定速度で1つずつ断続的に通過する。そのとき、前記サンプル粒子のレーザ光の測定場の通過の開始直後に、前記蛍光強度の値が予め設定された範囲に入るように、前記操作量の制御を開始し、前記サンプル粒子の前記レーザ光の測定場の通過終了前に、設定された時点での前記位相遅れと前記変調信号の周波数から前記蛍光緩和時間を算出するとともに、予め設定された前記範囲に入る蛍光強度信号の値と前記操作量とを用いて前記蛍光強度を算出することが好ましい。
【0016】
あるいは、前記測定対象物は、一定の容器に収容され、静止した状態で、レーザ光の照射を受ける。このとき、前記蛍光強度の値が予め設定された範囲に入るように前記操作量の制御を行って、前記制御が整定したときの蛍光強度信号の値と測定対象物の蛍光の位相遅れを用いて前記蛍光強度と前記蛍光緩和時間を算出することも、同様に好ましい。
【0017】
さらに、前記操作量を制御するステップでは、前記操作量の制御の他に、前記蛍光の位相遅れが45度に近づくように、前記強度変調の周波数を制御し、前記周波数の制御が整定したときの蛍光強度信号の値と位相遅れを用いて前記蛍光強度と前記蛍光緩和時間を算出することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、蛍光強度および蛍光緩和時間を算出する際、デジタル変換した同相成分と90度位相成分とを用いて算出される蛍光強度信号の値が予め設定された範囲に入るように、強度変調に用いる変調信号のDC成分の信号レベルおよび増幅器のゲインの少なくとも一方の操作量を調整することにより、AD変換時の量子化の誤差に基づく蛍光強度および位相遅れの誤差を一定のレベル内に抑制することができる。このため、一定の精度で蛍光強度および蛍光緩和時間を算出できる範囲を拡げることができる。
さらに、光強度の値が予め設定された範囲に入るように、強度変調に用いる変調信号のDC成分の信号レベルおよび増幅器のゲインの少なくとも一方の操作量を制御する他、蛍光の位相遅れが45度に近づくように、強度変調の周波数を制御するので、精度の高い蛍光強度と蛍光緩和時間を広い範囲で算出できる。算出する蛍光緩和時間の長短が大きくても、精度高く算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の蛍光検出装置を用いたフローサイトメータの概略構成図である。
【図2】図1に示すフローサイトメータの信号の流れを中心に示す図である。
【図3】図1に示すフローサイトメータの制御・信号処理部の概略の構成を示す図である。
【図4】図1に示すフローサイトメータのデータ処理部の概略の構成を示す図である。
【図5】(a)および(b)は、本発明の蛍光検出装置及び位相検出方法で用いる位相遅れθの調整による効果を説明する図であり、(c)は、蛍光強度の調整による効果を説明する図である。
【図6】本発明の蛍光検出方法の一実施形態のフローを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の蛍光検出装置を好適に用いたフローサイトメータを基に詳細に説明する。
図1は、本発明の蛍光検出装置を用いたフローサイトメータ10の概略構成図である。
図2は、フローサイトメータ10の信号の流れを中心に示す図である。
フローサイトメータ10は、主に、レーザ光源部22と、受光部24、26と、制御・信号処理部28と、データ処理部(コンピュータ)30と、管路32と、回収容器34と、を有する。
【0021】
レーザ光源部22は、350nm〜800nmの可視光帯域の波長を有し、制御された変調信号により強度変調されたレーザ光を出射する部分である。変調信号は、変調する周波数とDC成分の信号レベルが制御されている。
レーザ光源部22は、所定の波長のレーザ光を強度が一定のCW(連続波)レーザ光として出射し、かつこのCWレーザ光の強度を周波数で変調しながら出射するレーザ光源22aと、レーザ光を管路30中の所定の測定点(測定場)に集束させるレンズ系22b(図2参照)と、レーザ光源を駆動する、レーザドライバ22c(図2参照)と、を有して構成される。レーザ光源部22は、1つのレーザ光源からなる装置構成であるが、本発明では、1つのレーザ光源に限定されない。複数のレーザ光源を用いることもできる。この場合、複数のレーザ光源からのレーザ光を、ダイクロイックミラー等を用いて合成して、測定場に向けて出射されるレーザ光を形成することが好ましい。
【0022】
レーザ光を出射する光源として例えば半導体レーザが用いられる。レーザ光は、例えば5〜100mW程度の出力である。一方、レーザ光の強度を変調する周波数(変調周波数)は、その周期が蛍光緩和時間に比べてやや長く、例えば10〜200MHzである。
【0023】
光源部22に設けられるレーザドライバ22cは、データ処理部30と接続されて、レーザ光の強度のDC成分のレベル及び強度変調の周波数が制御されるように構成されている。すなわち、レーザ光の強度は、DC成分に、定められた周波数による強度変調が載った強度変化を示し、最低強度は0より大きくなっている。
【0024】
受光部24は、光電変換器24a(図2参照)と、光電変換機24aに前方散乱光を収束させるレンズ系24b(図2参照)と、遮蔽板24c(図2参照)とを有する。
光電変換器24aは、管路32を挟んでレーザ光源部22と対向するように配置されており、測定場を通過する試料12によって前方散乱するレーザ光を受光することにより、試料12が測定場を通過する旨の検出信号を出力する。
遮蔽板24cは、レーザ光が光電変換器24aに直接入射しないようにレンズ系24bの試料12側前面に設けられたものである。この受光部24から出力される信号は、制御・信号処理部28およびデータ処理部30に供給され、制御・信号処理部28およびデータ処理部30において試料12が管路32中の測定場を通過するタイミングを知らせるトリガ信号、測定終了のOFF信号として用いられる。
【0025】
一方、受光部26は、レーザ光源部22から出射されるレーザ光の出射方向に対して垂直方向であって、かつ管路32中の試料12の移動方向に対して垂直方向に配置されており、測定場にて照射された試料12が発する蛍光を受光する光電変換器26a(図2参照)を備える。
【0026】
受光部26は、光電変換器26aの他に、試料12からの蛍光信号を集束させるレンズ系26b(図2参照)と、バンドパスフィルタ26c(図2参照)とを有する。
レンズ系26bは、受光部26に入射した蛍光を光電変換器26aの受光面に集束させるように構成されている。バンドパスフィルタ26cは、フィルタリングして光電変換器26aで所定の波長帯域の蛍光が取り込まれるように、透過波長帯域が設定されている。
受光部26は、1つの光電変換器26aを有するが、本発明では、受光部26は、複数の光電変換器を有することもできる。この場合、ダイクロイックミラーをバンドパスフィラー26cの前に設けて、蛍光を周波数帯域別に分け、この分けた蛍光を光電変換器それぞれが受光するように構成にすることができる。
【0027】
バンドパスフィルタ26cは、各光電変換器26aの受光面の前面に設けられ、所定の波長帯域の蛍光のみが透過するフィルタである。透過する蛍光の波長帯域は、蛍光色素の発する蛍光の波長帯域に対応して設定される。
光電変換器26aは、例えば光電子増倍管をセンサとして備え、光電面で受光した光を電気信号に変換するセンサである。ここで、受光する蛍光は、レーザ光の強度変調と同様に、強度変調して発する蛍光であるので、出力される蛍光信号はレーザ光の強度変調の周波数と同じ周波数を持った信号となる。この蛍光信号は、制御・信号処理部28に供給される。
【0028】
図3は、制御・信号処理部28の構成を示す図である。制御・信号処理部28は、変調信号制御部40と、周波数変換部42と、AD変換部44と、を有する。
変調信号制御部40は、レーザ光の強度変調のための変調信号を生成し、レーザドライバ22cに供給するとともに、生成した変調信号を信号処理部42に供給する部分である。
変調信号制御部40は、周波数可変発振器40aと、パワースプリッタ40bと、増幅器40c,40dと、DC信号発生器40eと、周波数カウンタ40fとを有する。
【0029】
周波数可変発振器40aは、データ処理部30からの制御信号に応じて定められた周波数で発振して、変調信号を生成する部分である。周波数可変発振器40aには、例えば、電圧制御発生器が好適に用いられる。
パワースプリッタ40bは、発振した変調信号を均等に分配する部分で、増幅器40cと増幅器40dにそれぞれ供給する。
増幅器40cは、変調信号を増幅してレーザドライバ22cに供給する。増幅器40dは、後述する信号処理部42に供給する。周波数変換部42に変調信号を供給するのは、受光部26から出力された蛍光信号の、変調信号に対する位相遅れを求めるために、参照信号として用いるためである。
【0030】
DC信号発生器40eは、変調信号のDC成分を生成しレーザドライバ22cに供給する部分である。DC成分の信号をレーザドライバ22cへ供給するのは、レーザ光の強度を調整することで、試料12が発する蛍光の強度を所定の強度になるように調整し、これにより、精度の高い位相遅れの値、さらには精度の高い蛍光緩和時間の算出を保証するためである。すなわち、レーザ光の強度は、DC成分に強度変調が載った強度変化を示し、最低強度は0より大きくなるようにするためである。
周波数カウンタ40fは、周波数可変発振器40aにて発振した変調信号の周波数をカウントする部分である。周波数カウンタ40fのカウント結果は、データ処理部30に供給される。
周波数可変発振器40aとDC信号発生器40eは、それぞれ、データ処理部30と接続されており、データ処理部30からの制御信号により、変調信号の周波数およびDC成分の信号レベルが制御されている。
【0031】
周波数変換部42は、受光部26aから供給された蛍光信号に周波数変換を行ってダウンコンバージョンを施す部分である。周波数変換部42は、可変増幅器42aと、IQミキサ42bと、ローパスフィルタ42cを主に有する。
可変増幅器42aは、蛍光信号を増幅する部分である。可変増幅器42aは、データ処理部30と接続され、データ処理部30からの制御信号に従ってゲインが制御されている。
【0032】
IQミキサ42bは、増幅された蛍光信号を、変調信号制御部40から供給された変調信号を参照信号として、低周波への周波数変換(ダウンコンバージョン)を行い、蛍光信号の、変調信号と同相の信号と、位相が90度ずれた変調信号を生成する部分である。
IQミキサ42bは、90度位相シフタ42d(図2参照)と、ミキサ42e(図2参照),42f(図2参照)を有する。90度位相シフタ42dにより、変調信号と位相が90度ずれた信号が生成され、位相が同相の変調信号と位相が90度ずれた変調信号がそれぞれミキサ42e、42fに供給される。
ミキサ42e,42fでは、供給された位相が同相の変調信号と位相が90度ずれた変調信号を参照信号とし、増幅された蛍光信号とミキシング処理を行う部分である。ミキシングされた蛍光信号は、ローパスフィルタ42cに供給される。
ローパスフィルタ42cは、ミキシングされた蛍光信号から、変調信号より低い所定の周波数領域の信号をろ過し、低周波信号を取り出す部分である。これにより、周波数0領域の信号成分を主成分とする、蛍光信号のRe成分(変調信号に同相の成分)とIm成分(変調信号に対して位相が90度シフトした成分)が求められる。求められたRe成分とIm成分は、AD変換部44に供給される。
【0033】
AD変換部44は、供給されたRe成分とIm成分とをデジタルデータに変換する部分である。AD変換部44は、増幅器44aとAD変換器44bとを有する。増幅器44aは、所定のゲインでRe成分とIm成分を増幅した後、AD変換器44bに供給する。AD変換器44bは、増幅されたRe成分とIm成分をデジタルデータに変換し、デジタル化したRe成分データとIm成分データをデータ処理部30に供給する。
【0034】
データ処理部30は、供給されたRe成分データおよびIm成分データを用いて蛍光の位相遅れθおよび蛍光強度信号を求めるとともに、この位相遅れθの値が予め設定された範囲に入り、かつ、蛍光強度信号の値が予め設定された強度範囲に入るときの位相遅れθを用いて、蛍光緩和時間τとそのときの蛍光の蛍光強度を算出する部分である。
より詳しく説明すると、算出された位相遅れθの値が、許容範囲内で、予め設定された目標値、例えば45度に一致するまで、周波数可変発振器40aで生成する変調信号の周波数を調整するための制御信号を生成することで、変調信号を制御する。ここで、許容範囲は、目標とする蛍光緩和時間の算出精度にも依存するが、例えば、±5度、±2度あるいは±1度である。位相遅れθの値が、目標とする値に対して予め設定された許容範囲内に入るとき、制御は整定された状態となる。
さらに、算出された蛍光強度信号の値が、予め設定された強度範囲に入るまで、DC信号発生器40eで生成するDC成分のレベル、あるいは可変増幅器42aのゲインの調整(操作量の調整)を行うための制御信号を生成することで、AD変換器44bで行うRe成分とIm成分の信号レベルを調整する。
【0035】
図4は、データ処理部30の概略の構成を示す図である。データ処理部30は、蛍光強度信号生成部30aと、蛍光強度算出部30bと、位相遅れ算出部30cと、信号制御部30dと、蛍光緩和時間算出部30eとを有する。これらの各部分は、コンピュータが実行可能なプログラムを実行することで形成されるモジュールである。すなわち、データ処理部30は、コンピュータ上で、ソフトウェアを起動することにより各機能が生成される。
位相遅れ算出部30と蛍光緩和時間算出部30は、少なくとも、本発明における、蛍光信号から、変調信号に対する蛍光の位相遅れを算出し、この位相遅れを用いて試料12の蛍光の蛍光緩和時間を算出する処理部に対応する。
【0036】
蛍光強度信号生成部30aは、AD変換器44bから供給されたRe成分データとIm成分データとを二乗加算して平方根を求めることにより、蛍光強度信号を生成する部分である。算出された蛍光強度信号は蛍光強度算出部30bに送られる。蛍光強度信号は、レーザ光のDC成分及び可変増幅器42aのゲインが調整された結果の値であるので、これらの調整結果に応じて値が大きく変化する。したがって、蛍光強度算出部30bにおいて、蛍光強度信号は、レーザ光の強度であるDC成分のレベルとゲインとの情報を用いて補正されて蛍光強度が算出される。しかし、この補正による蛍光強度の算出は、信号制御部30dから後述する決定指示を受けたとき、はじめて行われる。
なお、蛍光強度信号は、試料12がレーザ光の測定場を通過する期間に連続して供給されるRe成分データとIm成分データを用いて算出される時系列データである。
【0037】
蛍光強度算出部30bは、信号制御部30dから受ける決定指示に応じて、蛍光強度信号生成部30aで算出された蛍光強度信号を、レーザ光の強度であるDC成分のレベルとゲインとの情報を用いて補正し、蛍光強度を算出する。具体的には、蛍光強度信号の値を、DC成分のレベルおよび可変増幅器42aのゲインの調整の制御信号の値から定められる係数で除算することにより、蛍光強度が求められる。なお、除算に用いる係数は、DC成分のレベルおよびゲインの調整の制御信号の値と、係数とを関連付けたLUTを参照して得られる。
補正に用いるレーザ光のDC成分は、制御信号が与える信号値でもよいし、受光部24で計測された前方散乱光の強度を用いることもできる。可変増幅器42aのゲインは、制御信号が与える信号値でもよいし、ゲインを別途計測した結果の値を用いることもできる。
信号制御部30dから受ける決定指示は、蛍光強度信号生成部30aで生成される制御中の蛍光強度信号の値が設定された範囲を定める設定値を超えて最大値になったときに出される。このときの蛍光強度信号の値を制御信号の値で除算することにより、蛍光強度が得られる。
蛍光強度信号の値は、予め設定された強度範囲に入るように、DC信号発生器40eで生成するDC成分のレベルおよび可変増幅器42aのゲインの調整(操作量の調整)を行うが、試料12が測定場を通過する後半部は、蛍光強度が弱くなる。このとき、DC信号発生器40eで生成するDC成分のレベルおよび可変増幅器42aのゲインの調整(操作量の調整)では、操作量を最大にしても目標値に達しない。一方、試料12が測定場を通過する前半部〜中間部の段階では、蛍光強度が徐々に強くなるので、この段階において蛍光強度信号の値が予め設定された範囲に一旦入ると、操作量は調整されず一定となる。このとき、蛍光強度信号の値は、上記範囲を定める設定値を超えて最大値になる。このときの蛍光強度信号の値を、このときの制御信号の値で定まる係数で除算することにより、蛍光強度を求める。
蛍光強度信号の補正は、上記方法による値の算出の他に、制御中の蛍光強度信号の値を制御信号の値で定まる係数で除算した値を制御時間中積算し、この積算値を制御時間で除算した値を、蛍光強度の値とすることもできる。
位相遅れ算出部30cは、供給されたRe成分データとIm成分データを用いてtan-1(Im/Re)(ImはIm成分データの値、ReはRe成分データの値である)を算出することで、位相遅れθを算出する部分である。算出された位相遅れθは信号制御部30dに供給される。また、蛍光緩和時間算出部30eに供給される。
【0038】
蛍光緩和時間算出部30eは、信号制御部30dからの決定指示に応じて、位相遅れ算出部30cから供給された位相遅れθを用いて、蛍光緩和時間τをτ=1/(2πf)・tanθに従って求める。蛍光緩和時間τを、上記式に従って求めることができるのは、蛍光は、略1次遅れの緩和応答に従うからである。なお、変調信号の周波数fは、周波数カウンタ40fから供給される変調信号の周波数のカウント結果が用いられる。周波数のカウント結果を用いる替わりに、信号制御部30が制御信号で定めた変調信号の目標の周波数であってもよい。
【0039】
信号制御部30dは、蛍光強度信号生成部30aから供給された蛍光強度信号の値と位相遅れ算出部30cから供給された位相遅れθが、それぞれ別々に設定された範囲に入るか否かを判定し、判定結果に応じて、制御信号を生成する部分である。
すなわち、信号制御部30dは、蛍光強度信号の値が予め設定された範囲に入るように、光源部22から出射されるレーザ光のDC成分のレベルおよび可変増幅器44bのゲインを制御する。
判定結果、蛍光強度信号の値が設定された範囲に入らない場合、DC信号発生器40eのDC成分の信号レベルを調整する制御信号を生成し、DC信号発生器40eに供給する。これにより、レーザドライバ22cにDC成分の信号レベル調整された変調信号が供給され、レーザ光の強度変調は調整される。これにより、レーザドライバ22cにDC成分の信号レベルの調整された変調信号が供給される。また、受光部26a直後に設けられた可変増幅器42aのゲインを調整する制御信号を生成し、可変増幅器42aのゲインを制御する。ここで、判定に用いる予め設定された範囲とは、例えば、時系列のRe成分データとIm成分データの最大値について、AD変換により量子化される量子レベルが、AD変換の量子レベル全体の30%以上(12ビットの場合レベルが308以上)になるように定められた値の範囲をいう。
本発明では、DC信号発生器40eの変調信号の制御と可変増幅器26aのゲインの制御を行うが、本発明では、いずれか一方の制御であってもよい。
また、信号制御部30dは、蛍光強度信号生成部30aで生成された蛍光強度信号を常時監視し、蛍光強度信号の値が、予め設定された範囲を定める設定値を超えて最大値になったときに、補正の決定指示を出す。
【0040】
また、信号制御部30dは、位相遅れθの値が45度に近づくように、変調信号の周波数を制御する部分でもある。予め設定された値に近づくとは、変調信号の制御の前と後では、制御後の位相遅れθの値は、制御前の位相遅れθの値に比べて予め設定された値に近いことを意味する。位相遅れθの値は、この制御により予め設定された目標とする値に近づくが、この目標とする値に対して、予め設定された許容範囲内で収束することが好ましい。
位相遅れθの値が許容範囲内で目標値である45度に一致しない場合、周波数可変発振器40aの発振周波数を調整する制御信号を生成し、周波数可変発振器40aに供給する。これにより、レーザドライバ22cに周波数の調整された変調信号が供給され、レーザ光の強度変調は調整される。
信号制御部30dは、蛍光強度信号の値が設定された範囲に入り、かつ、位相遅れθが予め設定された範囲に入る場合、精度の高い位相遅れθが得られたと判定し、蛍光強度算出部30b及び蛍光緩和時間算出部30eに、蛍光強度の算出と蛍光緩和時間の算出の決定指示をする。
【0041】
このように、蛍光強度信号の値と位相遅れθがいずれも設定された範囲に入る場合、精度の高い位相遅れθが得られ、したがって、精度の高い蛍光緩和時間が算出される。本発明では、少なくとも、蛍光強度信号の値が予め設定された範囲に入るか否かを判定することで、精度の高い位相遅れθが得られる。
図5(a)には、レーザ光の強度変調の周波数(角周波数2πf)とそのときの蛍光の位相遅れθとの関係を、種々の蛍光緩和時間τに関して示している。
位相遅れθが45度で角各周波数2πfに対する位相遅れθの角度変化が最大となる。すなわち、角度45度で位相遅れθの感度が高くなっている。したがって、位相遅れθを45度に近づけるように変調信号の周波数を制御することにより、感度の高い位置で位相遅れθを算出することができる。すなわち、精度の高い位相遅れθを算出することができる。
【0042】
また、AD変換器44bでAD変換を行うとき、図5(b)に示すように、Re成分やIm成分に誤差が含まれて、AD変換における量子化レベルが1つ変動しても、位相遅れθが許容範囲内で45度にある場合の位相遅れの変化Δθ1は、それ以外の範囲にある位相遅れΔθ2に比べて小さい。したがって、位相遅れθが許容範囲内で45度である場合は、量子誤差による位相遅れθの誤差を小さくすることができる。
【0043】
さらに、図5(c)に示すように、量子化レベルが大きいA点と、小さいB点を想定した場合、Im成分の誤差により、B点からB’点に変化したときの位相角の変化は、A点からA’に変化したときの位相角の変化に比べて大きい。したがって、Re成分データおよびIm成分データから算出される蛍光強度信号の値を、予め設定された範囲に入るようにすることで、AD変換時に含まれる誤差に対して一定の精度を持った位相遅れθを求めることができる。
【0044】
図6は、蛍光検出装置10で行われる蛍光検出方法の一実施形態のフローを説明する図である。この実施形態は、蛍光強度と蛍光緩和時間の算出のために、レーザ光の強度のDC成分と、蛍光の受光直後の蛍光信号の増幅ゲインと、変調信号の周波数とを調整する方法である。
【0045】
まず、データ処理部30からの制御信号に基づいて、変調信号制御部40におけるレーザ光の強度変調に用いる変調信号のDC成分の信号レベルと、周波数変換部42の可変増幅器42aのゲインが設定される(ステップS10)。これらは、処理開始時は、デフォルト設定されているDC成分の信号レベルとゲインが設定される。
さらに、データ処理部30からの制御信号に基づいて変調信号の周波数が設定される。例えば周波数がデフォルト設定される。以上の設定されたDC成分の信号レベル及びゲインと変調信号の周波数とを用いて変調信号を生成し、レーザ光源22aから強度変調されたレーザ光が出射される(ステップS12)。
【0046】
次に、レーザ光が照射され、測定場を通過する試料12が発する蛍光が受光部26aで受光され、蛍光信号が出力される(ステップS14)。
次に、可変増幅器42aで設定されたゲインで増幅され、ミキサ42d,42eに供給され、ミキシングされて、Re成分およびIm成分が求められ、さらに、AD変換部44でデジタル信号に変換され、Re成分データおよびIm成分データが得られる(ステップS16)。
【0047】
次に、データ処理部30の位相遅れ算出部30cでは、デジタル化したRe成分データおよびIm成分データから、蛍光信号の位相遅れθが算出される(ステップS18)。
次に、信号制御部30dでは、算出された位相遅れθが、許容範囲内で予め設定された目標値である45度に一致するか否かが判定される(ステップS20)。ここで、位相遅れθが許容範囲内で目標値である45度に一致する場合、変調信号の周波数は変更する制御信号が生成され、周波数可変発振器40aに供給される。こうして、変調信号の周波数が変更される(ステップS22)。ここで、周波数の変更は、算出された位相遅れθを用いて、周波数f=2πf1/tan(θ)(f1は、現在設定されている変調信号の周波数)となるように行われる。
こうして、位相遅れθが許容範囲内で目標値である45度に一致するまで、ステップS10〜S22を繰り返す。
【0048】
ステップS20の判定で、肯定された場合(Yesの場合)、信号制御部30では、さらに、蛍光強度信号の値が予め設定された範囲に入るか否かが判定される(ステップS24)。蛍光強度信号の値が予め設定された範囲に入る場合(Yesの場合)、蛍光強度算出部30bと蛍光緩和時間算出部30eに、蛍光強度と蛍光緩和時間を算出する決定指示を出す。こうして、蛍光強度算出部30bで算出された蛍光強度と、蛍光緩和時間算出部30eで算出された蛍光緩和時間が、試料12の計測結果として決定される(ステップS26)。
蛍光強度信号の値が予め設定された範囲に入らない場合(Noの場合)、変調信号に用いるDC成分の信号レベルとゲインが変更され(ステップS28)、ステップ10に戻される。
こうして、蛍光強度信号の値が予め設定された範囲に入るまで、ステップS10〜S24及びステップS28が繰り返される。こうして、蛍光強度信号の値が予め設定された範囲内に入り最大値となるときの蛍光強度信号の値は、DC成分の信号レベルとゲインの制御信号の値に基づいて補正されて、出力される。
算出された計測結果は、DC成分の信号レベル、ゲイン、変調信号の周波数とともに、図示されないディスプレイあるいはプリンタ等の出力装置に出力される。
【0049】
上述の蛍光検出方法では、位相遅れθが設定された範囲に入るか否かを判定し、判定結果が肯定された場合、蛍光強度信号の値が設定された範囲に入るか否かを判定する処理であるが、蛍光強度信号の値が設定された範囲に入るか否かを判定し、判定結果が肯定された場合、位相遅れθが設定された範囲に入るか否かを判定してもよい。
【0050】
このような制御は、図1に示すフローサイトメータで行う場合、以下のように実施するとよい。
すなわち、試料12は複数のサンプル粒子で構成され、このサンプル粒子はレーザ光による測定場を一定速度で1つずつ断続的に通過する場合を想定する。この場合、信号制御部30dは、サンプル粒子のレーザ光の測定場の通過の開始直後に、蛍光強度信号の値が予め設定された範囲に入るように、変調信号のDC成分の信号レベルおよび可変増幅器42aのゲインの制御を開始し、サンプル粒子のレーザ光の測定場の通過終了前に、設定された時点での位相遅れと変調信号の周波数から蛍光緩和時間を算出する。さらに、設定された時点での蛍光強度信号の値と操作量から蛍光強度を算出する。このとき、同時に、変調信号の周波数の制御も行う。
【0051】
また、試料12が、キュベット等の一定の容器に収容され、静止した状態で、レーザ光の照射を受ける測定装置を用いる場合、以下の測定方法を実施するとよい。すなわち、試料12が一定の容器に収容され、静止した状態で、レーザ光の照射を受ける場合を想定する。この場合、信号制御部30は、蛍光強度信号の値が予め設定された範囲に入るように変調信号のDC成分の信号レベルおよび可変増幅器42aのゲインの制御を行って、この制御が整定したときの測定対象物の蛍光の位相遅れを用いて前記蛍光緩和時間を算出する。さらに、制御が整定したときの蛍光強度信号の値と操作量から蛍光強度を算出する。このとき、同時に、変調信号の周波数の制御も行う。
【0052】
このように、蛍光信号から得られた蛍光強度信号を用いて、Re成分およびIm成分の信号レベルを調整することにより、一定の精度の位相遅れθと蛍光強度を広い範囲で求めることができる。Re成分及びIm成分の信号レベルが低い場合、IQミキサ42bやローパスフィルタ44aやAD変換器44b等によるノイズが混入することにより、これらの成分に誤差が含まれ得る。この状態でAD変換を行うと、量子化時の誤差が大きくなり、この後算出する位相遅れθの誤差が大きくなる。しかし、Re成分およびIm成分から算出される蛍光強度信号を予め設定された範囲に入るようにすることで、Re成分およびIm成分の信号レベルを一定に保つことができるので、位相遅れθの誤差を一定に抑えることができ、また抑制することができる。
【0053】
また、蛍光緩和時間を算出する際、位相遅れが目標値である45度に近づくように、レーザ光の変調信号の周波数を調整することにより、位相遅れの蛍光緩和時間に与える非線形の寄与を一定にすることができる。このため、一定の精度で蛍光緩和時間を算出できる範囲を拡げることができる。例えば、蛍光が1次遅れの緩和応答とした場合、非線形の部分であるtanθ(θを位相遅れとする)を蛍光緩和時間に限らず略一定の値とすることができるので、位相遅れθが大きい場合と小さい場合でtanθの寄与が大きく異なり、精度が変化することを防止できる。
特に、位相遅れθを45度に近づけることにより、変調信号の周波数に対する位相遅れの感度の高いところで位相遅れが算出されるので、精度の高い蛍光緩和時間を算出することができる。
上記説明では、上記説明では、いずれも位相遅れと蛍光強度信号が制御されるが、位相遅れの制御を行わず、位相遅れθが許容範囲内で目標値に一致するか否かを判定することなく、蛍光強度信号が予め設定された範囲に入るか否かのみを判定し、制御することもできる。
【0054】
以上、本発明の蛍光検出装置および蛍光検出方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0055】
10 フローサイトメータ
12 試料
22 レーザ光源部
22a レーザ光源
22b,24b,26b レンズ系
22c レーザドライバ
24,26 受光部
24a,26a 光電変換機
26c 遮蔽板
28 制御・信号処理部
30 データ処理部(コンピュータ)
30a 蛍光強度信号生成部
30b 蛍光強度算出部
30c 位相遅れ算出部
30d 信号制御部
30e 蛍光緩和時間算出部
32 管路
34 回収容器
40 変調信号制御部
40a 周波数可変発振器
40b パワースプリッタ
40c,40d,44a 増幅器
40e DC信号発生器
42 周波数変換部
42a 可変増幅器
42b IQミキサ
42c ローパスフィルタ
42d 90度位相シフタ
42e,42f ミキサ
44 AD変換部
44b AD変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物にレーザ光を照射することにより測定対象物が発する蛍光を受光し、このとき得られる蛍光信号の信号処理を行う蛍光検出装置であって、
測定対象物に照射するレーザ光を強度変調して出射する光源部と、
レーザ光の照射された測定対象物から発する蛍光の蛍光信号を出力する受光部と、
前記光源部から出射するレーザ光を強度変調するための変調信号を生成する光源制御部と、
前記受光部で出力された蛍光信号を増幅する増幅器と、増幅した前記蛍光信号の、前記変調信号に対する同相成分と、増幅した前記蛍光信号の、前記変調信号に対して90度位相のシフトした90度位相成分と、を生成するミキサと、生成した前記同相成分と前記90度位相成分をデジタル変換するAD変換器と、を有する第1の処理部と、
デジタル変換した前記同相成分と前記90度位相成分とを用いて、蛍光強度信号と前記変調信号に対する蛍光の位相遅れを算出し、算出した前記蛍光強度信号と前記位相遅れを用いて測定対象物の蛍光の蛍光強度と蛍光緩和時間を算出する第2の処理部と、
前記蛍光強度信号の値が予め設定された範囲に入るように、前記強度変調に用いる変調信号のDC成分の信号レベルおよび前記増幅器のゲインの少なくとも一方の操作量を制御する信号制御部と、を有することを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項2】
前記信号制御部は、前記蛍光強度信号の値が予め設定された範囲に入るときの前記操作量を見出した後、前記第2の処理部は、この見出した前記操作量の下で得られる蛍光強度信号の値と前記操作量を用いて測定対象物の蛍光の前記蛍光強度を算出し、前記位相遅れを用いて測定対象物の蛍光の蛍光緩和時間を算出する、請求項1に記載の蛍光検出装置。
【請求項3】
測定対象物は複数のサンプル粒子で構成され、このサンプル粒子はレーザ光による測定場を一定速度で1つずつ断続的に通過し、
前記信号制御部は、前記サンプル粒子のレーザ光の測定場の通過の開始直後に、前記蛍光強度信号の値が予め設定された範囲に入るように、前記操作量の制御を開始し、前記サンプル粒子の前記レーザ光の測定場の通過終了前に、設定された時点での前記位相遅れと前記変調信号の周波数から前記蛍光緩和時間を算出するとともに、予め設定された前記範囲に入る蛍光強度信号の値と前記操作量とを用いて前記蛍光強度を算出する、請求項2に記載の蛍光検出装置。
【請求項4】
前記測定対象物は、一定の容器に収容され、静止した状態で、レーザ光の照射を受け、
前記信号制御部は、前記蛍光強度の値が予め設定された範囲に入るように前記操作量の制御を行い、
前記第2の処理部は、前記制御が整定したとき前記蛍光強度と前記蛍光緩和時間を算出する、請求項2に記載の蛍光検出装置。
【請求項5】
前記信号制御部は、前記操作量の制御の他に、前記蛍光の位相遅れが45度に近づくように、前記強度変調の周波数を制御し、前記周波数の制御が整定したときの蛍光強度信号の値と位相遅れを用いて前記蛍光強度と前記蛍光緩和時間を算出する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の蛍光検出装置。
【請求項6】
測定対象物にレーザ光を照射することにより測定対象物が発する蛍光を受光し、このとき得られる蛍光信号の信号処理を行う蛍光検出方法であって、
レーザ光源部から出射するレーザ光を強度変調するための周波数とDC成分の信号レベルを設定して変調信号を生成し、この変調信号を用いてレーザ光を変調するステップと、
このレーザ光の照射された測定対象物から発する蛍光の蛍光信号を取得するステップと、
前記蛍光信号を増幅し、この増幅した前記蛍光信号の、前記変調信号に対する同相成分と、増幅した前記蛍光信号の、前記変調信号に対して90度位相のシフトした90度位相成分とを生成し、生成した前記同相成分と前記90度位相成分をデジタル変換するステップと、
デジタル変換された前記同相成分と前記90度位相成分とを用いて、蛍光強度と前記変調信号に対する蛍光の位相遅れとを算出するステップと、
前記蛍光強度が予め設定された範囲に入るように、前記DC成分の信号レベルおよび前記増幅のゲインの少なくとも一方の操作量を制御するステップと、
前記蛍光強度の値が前記設定された範囲に入るときの前記操作量の条件で得られる前記同相成分と前記90度位相成分とを用いて蛍光強度信号の値と前記位相遅れを算出し、算出した前記蛍光強度信号の値と前記位相遅れを用いて、測定対象物の発する蛍光の蛍光強度と蛍光緩和時間を算出するステップと、を有することを特徴とする蛍光検出方法。
【請求項7】
前記蛍光強度信号の値が予め設定された範囲に入るときの前記操作量を見出した後、この見出した操作量の条件の下で得られる蛍光強度信号の値と位相遅れを用いて、測定対象物の蛍光の前記蛍光強度と前記蛍光緩和時間を算出する、請求項6に記載の蛍光検出方法。
【請求項8】
測定対象物は複数のサンプル粒子で構成され、このサンプル粒子はレーザ光による測定場を一定速度で1つずつ断続的に通過し、
前記サンプル粒子のレーザ光の測定場の通過の開始直後に、前記蛍光強度の値が予め設定された範囲に入るように、前記操作量の制御を開始し、前記サンプル粒子の前記レーザ光の測定場の通過終了前に、設定された時点での前記位相遅れと前記変調信号の周波数から前記蛍光緩和時間を算出するとともに、予め設定された前記範囲に入る蛍光強度信号の値と前記操作量とを用いて前記蛍光強度を算出する、請求項7に記載の蛍光検出方法。
【請求項9】
前記測定対象物は、一定の容器に収容され、静止した状態で、レーザ光の照射を受け、
前記蛍光強度の値が予め設定された範囲に入るように前記操作量の制御を行って、前記制御が整定したときの蛍光強度信号の値と測定対象物の蛍光の位相遅れを用いて前記蛍光強度と前記蛍光緩和時間を算出する、請求項7に記載の蛍光検出方法。
【請求項10】
前記操作量を制御するステップでは、前記操作量の制御の他に、前記蛍光の位相遅れが45度に近づくように、前記強度変調の周波数を制御し、前記周波数の制御が整定したときの蛍光強度信号の値と位相遅れを用いて前記蛍光強度と前記蛍光緩和時間を算出する、請求項6〜9のいずれか1項に記載の蛍光検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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