説明

蛍光検出装置

【課題】検体から発せられる蛍光強度の測定値を光源の発光強度の温度特性による影響を除去したものに補正できるようにする。
【解決手段】測定励起光を発生させる測定光源装置2b及び参照励起光を発生させる参照光源装置2aを備えている。制御部5は、検体に測定励起光を照射して得られる検出器4の検出信号I(T)を測定するように構成された検体測定手段6及び検体測定値I(T)の補正に用いられる補正要素IA(T)及びIB(T)を測定するための補正要素測定手段7を備えている。補正要素保持部8には基準温度時補正要素IA(T0)、IB(T0)が保持されている。演算処理部9は、IA(T0)、IB(T0)、IA(T)及びIB(T)を用いて検体測定値I(T)の補正を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体に励起光を照射することにより検体を励起して蛍光を発生させ、その蛍光の強度から測定対象物の濃度を測定する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば核酸増幅プロセス(以下、PCR反応)において、増幅生成物の生成量を蛍光検出によって測定することが行なわれている。PCR反応を行なう検体に蛍光標識を含ませ、励起光を照射して検体を励起することにより蛍光を発生させる。蛍光標識から発せられる蛍光の強度は増幅生成物の増加に伴なって変化するため、蛍光強度を検出することにより増幅生成物の生成量を追跡することができる。
【0003】
しかし、蛍光標識の発光強度には温度特性があり、PCR反応における温度変化によって蛍光標識からの蛍光の発光強度が変化するため、蛍光の測定値にそのような温度変化による影響を含むことになる。そのため、蛍光標識の発光強度の温度特性に基づいて検出強度の測定値を所定の基準値のものに換算する補正を行なっていた。
【0004】
しかし、励起光を照射する光源としての発光ダイオード(以下、LED)においても励起光の発光強度に温度特性をもつものがある。そのようなLEDを用いて蛍光検出を行なった場合には、PCR反応における温度変化によって発光強度が変化し、検出強度の測定値に蛍光標識の発光強度の温度特性による影響とLEDの発光強度の温度特性による影響が含まれていることになる。そのような場合に、検出強度の測定値を蛍光標識の発光強度の温度依存特性に基づいて補正してもLEDの温度特性による影響が残るため、増幅生成物の生成量に応じて蛍光標識から発せられる正確な蛍光強度の値が得られなかった。
【0005】
上記問題を解決するために、実際の測定に使用されるLEDと同じ仕様の対照用LEDを設けてその光量を同時に測定して対照光とすることにより、測定値の補正を行なうことが提案されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009−507501号公報
【特許文献2】特開2009−122203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、温度特性の大きなLEDでは、測定用LEDと対照用LEDとが同じ仕様のLEDであっても固体間の温度特性の差が存在するため、同じ温度特性を示すとは限らない。例えば、数ワット級の高輝度LEDを使用する場合、LEDとその基板の密着具合によってはLED素子自体の温度上昇に差が生じて輝度のばらつきが生じる。したがって、対照用LEDと測定用LEDで異なる個体のLEDを使用すると、両者間で輝度に差が生じ、正確な補正を行なうことはできない。
【0008】
そこで本発明は、検体から発せられる蛍光強度の測定値を光源の発光強度の温度特性による影響を除去したものに補正できるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
光源の温度特性による測定結果への影響を除去するための原理について説明する。温度変化による光源の発光強度の変化を調べるために、測定用の励起光を発する測定光源とは別に参照用の励起光を発する参照光源を使用し、これらの光源からの励起光を照射したときの蛍光の強度を測定するために基準物質を使用する。
【0010】
参照光源としては、例えば分析を行なう環境温度の範囲内では発光強度を一定とみなすことができるもの、例えば青色発光ダイオードを使用する。「一定とみなすことができる」とは、温度によってその発光強度が変化するものの、その変化量が3%以下であることを意味する。例えば青色発光ダイオードは、10℃〜35℃の間の環境温度変化においてその発光強度の変化率が1%程度であり、一定とみなすことができるものである。
【0011】
基準物質としては、測定光源からの測定励起光、参照光源からの参照励起光のいずれの励起光によっても励起されて蛍光を発生させ、その発光効率の温度特性が励起光の波長の違いに影響されない物質である。そのような基準物質としては、例えば硫化カドミウム(CdS)とセレン(Se)を添加したガラスを用いることができる。「発光効率の温度特性が励起光の波長の違いに影響されない」とは、励起光の波長の違いによる発光効率の差が分析を行なう環境温度の範囲内では±5%以内であり、無視することができる程度に小さいことを意味する。
【0012】
基準温度T0(例えば25℃)の条件下で、基準物質に参照励起光を照射したときの基準物質からの蛍光強度をIA(T0)、基準物質に測定励起光を照射したときの基準物質からの蛍光強度をIB(T0)とする。測定温度Tにおける参照光源の相対輝度をΦA(T)(基準温度T0時を1とする)、温度Tにおける測定光源の相対輝度をΦB(T)(基準温度T0時を1とする)とする。参照光源の輝度は温度変化に影響されないため、ΦA(T)=1とみなすことができる。ΦB(T)が測定光源の温度特性による影響を意味するものであり、最終的にΦB(T)に基づいて補正することを目的としている。
【0013】
測定温度Tの条件下で、基準物質を参照励起光により励起したときの基準物質の発光効率をaA(T)(基準温度T0時を1とする)、測定温度Tにおいて測定励起光により基準物質を励起したときの基準物質の発光効率はaB(T)(基準温度T0時を1とする)とする。ここで、励起光の波長の違いが基準物質の蛍光強度に与える影響は無視できる程度に小さいため、aA(T)=aB(T)とみなすことができる。
【0014】
測定温度Tの条件下で、参照励起光により基準物質を励起して得られる蛍光の信号強度IA(T)は次式(1)で表わすことができる。
A(T)=IA(T0)・ΦA(T)・aA(T)=IA(T0)・aA(T) (1)
同様に、温度Tにおける測定励起光により基準物質を励起して得られる蛍光の信号強度IB(T)は次式(2)で表わすことができる。
B(T)=IB(T0)・ΦB(T)・aB(T) (2)
【0015】
上記(1),(2)式より、
ΦB(T)=IA(T0)/IB(T0)・IB(T)/IA(T) (3)
となる。温度Tの条件下で測定された検体からの蛍光強度の測定値I(T)から測定励起光の温度変化に温度変化分を除去するためにはI(T)をΦB(T)で割ればよい。したがって、補正値I'(T)は、次式(4)で表わすことができる。
I'(T)=I(T)・IB(T0)/IA(T0)・IA(T)/IB(T) (4)
【0016】
本発明の蛍光測定方法は上記理論を用いたものである。すなわち、光源として参照光源と測定光源とを用い、基準温度T0の条件下で基準物質に対して参照励起光と測定励起光をそれぞれ照射したときに得られる蛍光強度IA(T0),IB(T0)を測定する基準温度時補正要素測定工程と、測定温度Tの条件下で検体に測定励起光を照射して得られる蛍光強度I(T)を測定する検体測定工程と、測定温度Tの条件下で基準物質に参照励起光と測定励起光をそれぞれ照射して得られる蛍光強度IA(T),IB(T)を測定する測定温度時補正要素測定工程と、次式により得られるI'(T)に基づいて測定対象物の濃度を求める演算処理工程と、を行なう方法である。
I'(T)=I(T)・IA(T)/IB(T)・IB(T0)/IA(T0
【0017】
本発明の蛍光検出装置は、上記蛍光測定方法を実行するための構成及び機能を備えた装置である。具体的には、参照励起光を発生させその発光強度を測定温度範囲においては温度に拘わらず一定とみなすことができる参照光源と、参照励起光とは異なる波長をもつ測定励起光を発生させその発光強度に温度特性を有する測定光源と、検体を配置するための検体配置部と、参照励起光と測定励起光のそれぞれにより励起されて蛍光を発生させ、その発光効率の温度特性が励起光の波長の違いに影響されない基準物質を配置するための基準物質配置部と、入射した光の強度を検出する光検出器と、参照光源からの参照励起光を検体配置部又は基準物質配置部に導く参照光学系と、測定光源からの測定励起光を検体配置部又は基準物質配置部に導く測定光学系と、検体又は基準物質から発せられた蛍光を光検出器に導く蛍光光学系と、参照光源、測定光源及び光検出器を制御する制御部と、光検出器の信号強度に基づいて測定対象物の濃度を求める演算処理部と、基準物質に対し、基準温度T0の条件下で参照励起光を照射したときの蛍光強度IA(T0)及び基準温度T0の条件下で測定励起光を照射したときの蛍光強度IB(T0)を保持する補正要素保持部と、を備えている。そして、制御部は、測定対象の検体に対し、測定温度Tの条件下で測定励起光を照射したときの検体からの蛍光強度I(T)を測定するように構成された検体測定手段と、基準物質に対し、測定温度Tの条件下で参照励起光を照射したときの基準物質からの蛍光強度IA(T)及び測定励起光を照射したときの基準物質からの蛍光強度IB(T)を測定するように構成された測定温度時補正要素測定手段と、を備えている。演算処理部は次式により得られるI'(T)に基づいて測定対象物の濃度を求めるように構成されているものである。
I'(T)=I(T)・IA(T)/IB(T)・IB(T0)/IA(T0
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明の蛍光測定方法及び蛍光検出装置は、基準物質に対し、基準温度T0の条件下で参照励起光を照射したときの蛍光強度IA(T0)、基準温度T0の条件下で測定励起光を照射したときの蛍光強度IB(T0)、測定温度Tの条件下で参照励起光を照射したときの基準物質からの蛍光強度IA(T)及び測定励起光を照射したときの基準物質からの蛍光強度IB(T)を用い、測定対象の検体に対して測定温度Tの条件下で測定励起光を照射したときの検体からの蛍光強度I(T)を補正するので、光源の温度特性による影響を除去した測定値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】蛍光検出装置の一実施例を示すブロック図である。
【図2】同実施例の概略構成図であり、(A)は検体測定時、(B)は基準物質測定時を示す図である。
【図3】同実施例における蛍光検出の測定値の補正方法を示すフローチャートである。
【図4】発光ダイオードの発光強度と温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1のブロック図を用いて蛍光検出装置の一実施例について説明する。
所定の位置に配置された検体3aを励起させて蛍光を発生させるための測定用の励起光(測定励起光)を発生させる測定光源装置2b及び測定励起光とは異なる波長の光(参照励起光)を発生させる参照光源装置2aを備えている。検体3aとは別の位置に基準物質3bが配置されている。基準物質3bは測定光源装置2bからの測定励起光によって励起され蛍光を発生させるとともに、参照光源装置2aからの参照励起光によっても励起され蛍光を発生させるものである。
【0021】
検体3aからの蛍光及び基準物質3bからの蛍光を検出するための検出器4が設けられている。この蛍光検出器を制御する制御部5には、検体3aの測定を行なうための検体測定手段6及び検体測定値の補正に用いられる補正要素を測定するための補正要素測定手段7が設けられている。
【0022】
検体測定手段6は、実際に検体の測定を行なうためのものである。すなわち、所定の温度条件(T℃とする)下で測定光源装置2bから検体3aに励起光を照射し、励起した検体3aから発せられる蛍光を検出することにより得られる検出器4の信号強度I(T)を測定するように構成されている。補正要素測定手段7は、検体の測定時と同じ温度Tの条件下で、参照光源装置2aから基準物質3bに励起光を照射し、励起した基準物質3bから発せられる蛍光を検出することにより得られる検出器4の信号強度IA(T)を測定する工程と、同じ条件で、測定光源装置2bから基準物質3bに励起光を照射し、励起した基準物質3bから発せられる蛍光を検出することにより得られる検出器4の信号強度IB(T)を測定する工程を実行するように構成されている。
【0023】
補正要素を保持しておくための補正要素保持部8が設けられている。補正要素保持部8は、測定されたIA(T)及びIB(T)を測定温度時補正要素として保持する。また、補正要素保持部8は基準温度時補正要素IA(T0)、IB(T0)を保持している。IA(T0)は基準温度T0(例えば25℃)の条件下で参照励起光を基準物質に照射したときに得られる検出器4の信号強度(蛍光強度)、IB(T0)は基準温度T0の条件下で測定励起光を基準物質に照射したときに得られる検出器4の信号強度である。
【0024】
演算処理部9は、以下の式により検体測定値I(T)の補正処理を行なって補正後の測定値I'(T)を求めるように構成されている。
I'(T)=I(T)・IA(T)/IB(T)・IB(T0)/IA(T0
【0025】
同実施例の具体的な構成の一例について図2(A)を用いて説明する。
この実施例では、光源、検出器及び光学系を1つの光学ユニット12とし、光学ユニット12を移動させる移動機構(図示は省略)を備えている。光学ユニット12の下部に、検体3aを収容するための複数のウエル40(検体配置部)と基準物質3bを配置するための基準物質配置部42が同一平面内に設けられている。
【0026】
光学ユニット12は互いに発生させる光の波長帯が異なる2つのLED14,16を備えている。LED14は測定用光源であり、580nm〜600nmの波長の光を発生させる。LED16は参照用光源であり、450nm〜470nmの波長の光を発生させる。LED14としては例えばオレンジ色のLEDを用いることができ、LED16としては青色のLEDを用いることができる。図4に示されているように、青色LEDの発光強度は他色のLEDに比べて温度変化による影響を受けにくく、一定とみなすことができる。LED14からの光から抽出される励起光を測定励起光、LED16からの光から抽出される励起光を参照励起光と呼ぶ。
【0027】
ウエル40に収容される検体3aは、例えば575nm〜610nmの波長の光(測定励起光)の照射により励起して598nm〜637nmの蛍光を発生させる蛍光標識が入れられたPCR反応用検体である。基準物質3bは例えば硫化カドミウムとセレンの添加によって赤色に着色された色ガラスフィルタであり、例えば565nm〜578nmの波長の光の照射により励起して蛍光を発するが、450nm〜488nmの波長の光の照射によっても励起して蛍光を発するものである。すなわち、基準物質3bは測定励起光と参照励起光のいずれによっても励起して蛍光を発し、その発光効率の温度特性が照射された励起光の波長の違いに影響されないものである。影響されないとは、励起光の波長の違いによる発光効率の差が分析を行なう環境温度の範囲内では±5%以内であり、無視することができる程度に小さいことを意味する。
【0028】
LED14は水平横向きに配置され、LED16は鉛直下向きに配置されている。LED14から発せられた光を照射対照の位置に導くための測定光学系はレンズ18、ダイクロイックミラー20、フィルタ24、ダイクロイックミラー26及びレンズ28により構成され、LED16から発せられた光を照射対照の位置に導くための参照光学系はレンズ22、ダイクロイックミラー20、フィルタ24、ダイクロイックミラー26及びレンズ28により構成されている。図1における測定光源装置2bはLED14及び測定光学系によって構成され、参照光源装置2aはLED16及び参照光学系によって構成されている。
【0029】
レンズ18、ダイクロイックミラー20、フィルタ24及びダイクロイックミラー26はLED14からの光の光軸上に並んで配置されている。LED16及びレンズ22は光をダイクロイックミラー20に照射させる位置に配置されており、ダイクロイックミラー20はLED14からの光の光軸方向に対して傾斜して配置されている。
【0030】
ダイクロイックミラー20は45度の角度で光が入射したときに560nm〜590nmの波長の光を透過させ、460nm〜490nmの波長の光を反射させるものである。すなわち、ダイクロイックミラー20では、LED14からの光は透過し、LED16からの光は反射される。ダイクロイックミラー20で反射されるLED16からの光がLED14からの光と同じ光路をとるようにLED14およびレンズ18の位置とLED16およびレンズ22の位置が調整されている。
【0031】
フィルタ24は、ダイクロイックミラー20によって導かれるLED14又はLED16からの光から所定の波長帯域の光を抽出するために設けられている。フィルタ24は互いに異なる2つの波長帯域の光のみを通過させる2バンドフィルタである。フィルタ24が通過させる波長帯域は、検体を励起させる測定励起光として用いられる565nm〜578nmの波長帯域と、参照励起光として用いられる450nm〜488nmの波長帯域である。このような2バンドフィルタとして、例えば特許文献2に開示されている光学フィルタを用いることができる。このフィルタ24により、LED14で発せられた光から測定励起光が抽出され、LED16で発せられた光から参照励起光が抽出される。
【0032】
ダイクロイックミラー26はフィルタ24を透過した光を鉛直下向きに反射させるように傾斜して配置されている。ダイクロイックミラー26の下方にレンズ28が配置されており、ダイクロイックミラー26で反射された光がレンズ28によって集光されて光学ユニット12の外部の検体又は基準物質3bに照射される。ダイクロイックミラー26は45度の角度で光が入射したときに450nm〜500nmおよび565nm〜595nmの波長の光を反射させ、530nm〜536nmおよび625nm〜650nmの波長の光を通過させるものである。すなわち、フィルタ24によって抽出された測定励起光及び参照励起光はダイクロイックミラー26で反射されてレンズ28側へ導かれるように構成されている。一方で、レンズ28を介して入ってきた光のうち530nm〜536nmおよび625nm〜650nmの波長の光はダイクロイックミラー26を通過する。検体又は基準物質3bから発せられる蛍光は530nm〜536nmおよび630nm〜650nmの波長をもち、ダイクロイックミラー26を通過する。
【0033】
ダイクロイックミラー26の上方にフィルタ30が配置され、さらにその上方にレンズ32及び光検出器4が配置されている。フィルタ30は互いに異なる2つの波長帯域の光のみを通過させる2バンドフィルタである。フィルタ30が通過させる波長帯域は、検体3a又は基準物質3bから発せられる蛍光の530nm〜536nmおよび630nm〜650nmの波長帯域である。このような2バンドフィルタとして、例えば特許文献2に開示されている光学フィルタを用いることができる。フィルタ30へ導かれた光のうち蛍光に相当する波長をもつ成分がレンズ32によって光検出器4に集光されて検出される。光検出器4は例えばフォトダイオードである。
【0034】
この蛍光検出装置の動作について図2及び図3を用いて説明する。この蛍光検出装置は、図2(A)に示されているように光学ユニット12が所定のウエル40の位置へ移動して検体3aの測定を行なう検体測定工程と、(B)に示されているように光学ユニット12が基準物質配置部42の位置へ移動して検体測定工程と同じ温度条件下で基準物質3bの測定を行なう補正要素測定工程を実行する。なお、この実施例では、基準温度T0時における基準物質3bの測定値IA(T0),IB(T0)は予め測定されて装置内部の記録媒体(補正要素保持部)に記憶されている。検体測定工程と補正要素測定工程はどちらを先に実行してもよいが、この例では検体測定工程を先に行なう場合について説明する。
【0035】
まず、測定対象の検体3aが収容されたウエル40上の位置にレンズ28がくる位置に光学ユニット12を移動させる(ステップS1)。LED14を点灯させて測定励起光を検体3aに照射し励起した検体3aからの蛍光強度I(T)を光検出器4で測定する(ステップS2)。次に、基準物質3b上にレンズ28がくる位置に光学ユニット12を移動させる(ステップS3)。
【0036】
I(T)の測定と同じ温度で、LED14を点灯させて測定励起光を基準物質3bに照射して得られる検出器4の信号強度IB(T)及びLED16を点灯させて参照励起光を基準物質3bに照射して得られる検出器4の信号強度IA(T)を検出器4で測定する(ステップS4)。IA(T0),IB(T0),IA(T),IB(T)に基づいてI(T)からLED14の発光強度の温度特性の影響を除去した補正値I'(T)を求める(ステップS5)。
【0037】
なお、同じ温度で複数の検体3aについて測定を行なう場合には、その温度下で測定した補正要素IA(T),IB(T)を複数の検体3aの測定値の補正に用いることができるため、補正要素IA(T),IB(T)を検体3aごとに行なう必要はない。
【符号の説明】
【0038】
2a 参照光源装置
2b 測定光源装置
3a 検体
3b 基準物質
4 検出器
5 制御部
6 検体測定手段
7 補正要素測定手段
8 補正要素保持部
9 演算処理部
12 光学ユニット
14,16 LED
18,22,28,32 レンズ
20,26 ダイクロイックミラー
24,30 2バンドフィルタ
40 検体ウエル
42 基準物質配置部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照励起光を発生させその発光強度を測定温度範囲においては温度に拘わらず一定とみなすことができる参照光源と、参照励起光とは異なる波長をもつ測定励起光を発生させその発光強度に温度特性を有する測定光源と、測定対象の検体とは別途設けられ、前記参照励起光と測定励起光のそれぞれにより励起されて蛍光を発生させ、その発光効率の温度特性が励起光の波長の違いに影響されない基準物質を用い、
前記基準物質に対し、基準温度T0の条件下で参照励起光を照射したときの蛍光強度IA(T0)及び基準温度T0の条件下で測定励起光を照射したときの蛍光強度IB(T0)を測定する基準温度時補正要素測定工程と、
測定対象の検体に対し、測定温度Tの条件下で測定励起光を照射したときの前記検体からの蛍光強度I(T)を測定する検体測定工程と、
前記基準物質に対し、測定温度Tの条件下で参照励起光を照射したときの前記基準物質からの前記蛍光強度IA(T)及び測定励起光を照射したときの前記基準物質からの蛍光強度IB(T)を測定する測定温度時補正要素測定工程と、
次式により得られるI'(T)に基づいて測定対象物の濃度を求める演算処理工程と、を備えた蛍光測定方法。
I'(T)=I(T)・IA(T)/IB(T)・IB(T0)/IA(T0
【請求項2】
参照励起光を発生させその発光強度を測定温度範囲においては温度に拘わらず一定とみなすことができる参照光源と、
参照励起光とは異なる波長をもつ測定励起光を発生させその発光強度に温度特性を有する測定光源と、
検体を配置するための検体配置部と、
前記参照励起光と測定励起光のそれぞれにより励起されて蛍光を発生させ、その発光効率の温度特性が励起光の波長の違いに影響されない基準物質を配置するための基準物質配置部と、
入射した光の強度を検出する光検出器と、
前記参照光源からの参照励起光を前記検体配置部又は基準物質配置部に導く参照光学系と、
前記測定光源からの測定励起光を前記検体配置部又は基準物質配置部に導く測定光学系と、
検体又は基準物質から発せられた蛍光を前記光検出器に導く蛍光光学系と、
前記参照光源、測定光源及び光検出器を制御する制御部と、
前記光検出器の信号強度に基づいて測定対象物の濃度を求める演算処理部と、
前記基準物質に対し、基準温度T0の条件下で参照励起光を照射したときの蛍光強度IA(T0)及び基準温度T0の条件下で測定励起光を照射したときの蛍光強度IB(T0)を保持する補正要素保持部と、を備え、
前記制御部は、測定対象の検体に対し、測定温度Tの条件下で測定励起光を照射したときの前記検体からの蛍光強度I(T)を測定するように構成された検体測定手段と、前記基準物質に対し、測定温度Tの条件下で参照励起光を照射したときの前記基準物質からの前記蛍光強度IA(T)及び測定励起光を照射したときの前記基準物質からの蛍光強度IB(T)を測定するように構成された測定温度時補正要素測定手段と、を備え、
前記演算処理部は次式により得られるI'(T)に基づいて測定対象物の濃度を求めるように構成されている蛍光検出装置。
I'(T)=I(T)・IA(T)/IB(T)・IB(T0)/IA(T0
【請求項3】
前記参照光源は青色発光ダイオードである請求項2に記載の蛍光検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−13450(P2012−13450A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147961(P2010−147961)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】