説明

蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品

【課題】高い透明性を有し、紫外線照射により良好な蛍光発光性を示す蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A成分)100質量部に対して、紫外線発光蛍光体(B成分)を0.001〜1質量部含有してなり、該組成物を用いて成形された厚さ3mmの成形板について、JIS−K7136に従って測定したヘイズが2%以下であることを特徴とする蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物。紫外線発光蛍光体としては有機蛍光体が好ましい

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品に関する。詳しくは、高い透明性を有し、紫外線照射により良好な蛍光発光性を示す蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物と、この蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品に関する。
本発明の成形品は、電飾看板、液晶バックライト、照明ディスプレイ、交通標識、サインボード、スクリーン等として有用である。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂、特に芳香族ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性、及び透明性に優れた熱可塑性樹脂として幅広い用途がある。また、芳香族ポリカーボネート樹脂は、無機ガラスに比較して軽量で、生産性にも優れているので、さらに意匠性を向上させることにより、電飾看板、照明ディスプレイ、交通標識、サインボード、スクリーンなどとしても好適に使用されている。
【0003】
従来、ポリカーボネート樹脂の意匠性を向上させる方法として、発光顔料を混合することが知られている(例えば、特許文献1,2)。なお、発光顔料には、紫外線等の外部刺激で刺激されると、その刺激を停止した後もかなりの長時間(数分〜数時間)、残光が肉眼で認められる蓄光(燐光)顔料と、紫外線等で刺激すると発光し、外部刺激を停止すると速やかに発光が減衰する紫外線発光(蛍光)顔料がある。
【0004】
また、ポリカーボネート樹脂に蛍光染料を配合した樹脂組成物も提案されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−120866号公報
【特許文献2】特開2008−127485号公報
【特許文献3】特開2001−106888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の意匠材料への要求の多様化において、紫外線の非照射時には無色透明で、紫外線照射により蛍光発光する材料が求められている。即ち、このような材料であれば、通常は無色透明であるため、例えば、この材料で仕切られた空間において、あたかも透明ガラスのようにその仕切りの反対側を容易に視認することができ、紫外線照射により、この材料を蛍光発光させて様々な意匠性を付与することができる。
【0007】
しかしながら、特許文献1,2に記載されるような、無機系の蛍光顔料を配合したポリカーボネート樹脂組成物では、この無機蛍光体微粒子の光の散乱効果のために、透明とはならず、組成物の体色は、一般的には淡灰色〜淡黄白色ないし白色となる。
一方、特許文献3のように、蛍光染料を配合したものでは、染料自体有色であるため、染料に起因する着色を有するものとなる。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、平常時は高い無色透明性を有し、紫外線照射により良好な蛍光発光性を示す蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物と、この樹脂組成物を成形してなる成形品に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、無機蛍光体ではなく、有機蛍光体等の紫外線発光蛍光体の少量を配合とすることにより、高透明性で紫外線照射により蛍光発光する樹脂組成物が得られることを見出した。
【0010】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0011】
[1] ポリカーボネート樹脂(A成分)100質量部に対して、紫外線発光蛍光体(B成分)を0.001〜1質量部含有してなり、該組成物を用いて成形された厚さ3mmの成形板について、JIS−K7136に従って測定したヘイズが2%以下である
ことを特徴とする蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物。
【0012】
[2] [1]において、前記紫外線発光蛍光体が有機蛍光体であることを特徴とする蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物。
【0013】
[3] [2]において、該有機蛍光体がペリレン系化合物、クマリン系化合物及び希土類錯体化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物。
【0014】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤及び離型剤からなる群から選ばれる少なくとも一種類の添加剤をさらに含有することを特徴とする蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物。
【0015】
[5] [1]ないし[4]のいずれかに記載の蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品。
【0016】
[6] [1]ないし[4]のいずれかに記載の蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物とB成分を含有しない熱可塑性樹脂組成物とを多色複合成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ポリカーボネート樹脂に、有機蛍光体等の紫外線発光蛍光体を、ポリカーボネート樹脂の透明性を損なうことのない少量配合とすることにより、該組成物を用いて成形された厚さ3mmの成形板について、JIS−K7136に従って測定したヘイズ(以下「3mmヘイズ」と称す場合がある。)が2%以下であるような高透明性の蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0018】
このような本発明の蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる本発明の成形品は、紫外線の非照射時は無色透明で、紫外線照射により良好な蛍光発光を呈する独特の意匠性、視認性を有するものであり、電飾看板、液晶バックライト、照明ディスプレイ、照明器具カバー、交通標識、サインボード、スクリーン、反射板やメーター部品等の自動車部品、OA機器部品、更には玩具、装飾品などとして好適である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0020】
[ポリカーボネート樹脂(A成分)]
本発明の蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物の主要成分であるポリカーボネート樹脂(A成分)としては、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族−脂肪族ポリカーボネート樹脂が挙げられるが、好ましくは、芳香族ポリカーボネート樹脂であり、具体的には、芳香族ジヒドロキシ化合物をホスゲン又は炭酸のジエステルと反応させることによって得られる熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体又は共重合体が用いられる。
【0021】
該芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルなどが挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。また、ジヒドロキシ化合物の一部として、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物、又はシロキサン構造を有する両末端フェノール性OH基含有のポリマーもしくはオリゴマー等を併用すると、難燃性の高い芳香族ポリカーボネート樹脂を得ることができる。
【0022】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A成分)の好ましい例としては、ジヒドロキシ化合物として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、又は2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とを併用した芳香族ポリカーボネート樹脂が挙げられる。本発明では、透明性を損なわない範囲で、A成分として、2種以上のポリカーボネート樹脂を併用しても良い。
【0023】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A成分)の分子量は、通常は溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、14,000〜30,000である。好ましくは分子量が15,000〜28,000のものを用いる。粘度平均分子量がこの範囲であると、一般に成形性が良く、且つ機械的強度の大きい成形品を与える樹脂組成物が得られる。ポリカーボネート樹脂の最も好ましい分子量範囲は16,000〜26,000である。
【0024】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)及び溶融法(エステル交換法)のいずれの方法で製造したポリカーボネート樹脂も使用することができる。また、溶融法で製造したポリカーボネート樹脂に、末端のOH基量を調整する後処理を施したポリカーボネート樹脂を使用するのも好ましい。
【0025】
さらに、本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A成分)は、バージン原料としてのポリカーボネート樹脂のみならず、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂、であっても良い。このようなポリカーボネート樹脂としては、光学ディスクなどの光記録媒体、導光板、自動車窓ガラスや自動車ヘッドランプレンズ、風防などの車両透明部材、水ボトルなどの容器、メガネレンズ、防音壁やガラス窓、波板などの建築部材などから再生したものが挙げられる。また、ポリカーボネート樹脂から成形品を製造する際の不合格品、スプルー、ランナーなどから再生したポリカーボネート樹脂も使用可能である。
【0026】
[紫外線発光蛍光体(B成分)]
本発明で用いるB成分の紫外線発光蛍光体としては、紫外線の照射で蛍光発光する蛍光体であり、前述の3mmヘイズが2%以下となるような透明性を維持し得る材料であり、好ましくは、有機蛍光体が挙げられる。
【0027】
本発明で用い得る有機蛍光体としては、特に制限はないが、例えば、次のようなものが挙げられる。
【0028】
赤色発光蛍光体:Eu錯体化合物、Sm錯体化合物、Pr錯体化合物、ジシアノメチレン系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、ポリアルキルチオフェン誘導体
【0029】
黄色発光蛍光体:ルブレン系化合物、ペリミドン誘導体
【0030】
青色発光蛍光体:ペリレン系化合物、ピレン系化合物、アントラセン系化合物、ジスチリル誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体
【0031】
緑色発光蛍光体:クマリン系化合物、Tb錯体化合物、キナクリドン化合物
【0032】
これらのうち、特に組成物の透明性を損なうことなく、少量配合で良好な蛍光発光特性を示すことから、赤色発光蛍光体としてはEu錯体化合物を用いることが好ましく、青色発光蛍光体としてはペリレン系化合物を用いることが好ましく、緑色発光蛍光体としてはクマリン系化合物やTb錯体化合物を用いることが好ましい。
【0033】
このような有機蛍光体としては、市販品を用いることができ、例えば、セントラルテクノ(株)製青色発光蛍光体「商品名:ルミシス/B−800」、緑色発光蛍光体「商品名:ルミシス/G−900」、赤色発光蛍光体「商品名:ルミシス/E−400」などを用いることができる。
これらの蛍光体は1種を単独で用いても良く、同色系ないしは異なる色調に発光するものの2種以上を併用しても良い。
【0034】
本発明の蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物において、このような紫外線発光蛍光体の配合量は、A成分100質量部に対して0.001〜1質量部、好ましくは0.002〜0.5質量部、より好ましくは0.005〜0.1質量部である。紫外線発光蛍光体の配合量が少な過ぎると十分な蛍光発光性を得ることができず、多過ぎると透明性が損なわれ、3mmヘイズ2%以下とすることができない場合があり、また、ポリカーボネート樹脂の分子量低下や熱安定性低下の原因となるので不適当である。
【0035】
[3mmヘイズ]
本発明の蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物は、この組成物を用いて成形された厚さ3mmの成形板について、JIS−K7136に従って測定したヘイズが2%以下であることを特徴とする。
【0036】
この3mmヘイズが2%を超えるものでは、本発明で目的とする透明材料を得ることができない。3mmヘイズは小さい程好ましく、特に1%以下であることが好ましいが、ポリカーボネート樹脂組成物本来の透明性として、通常3mmヘイズは0.2%以上である。
【0037】
なお、3mmヘイズを測定する成形板の成形方法は、後述の実施例の項に記載される通りである。
【0038】
[その他の添加剤]
本発明の蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、種々の添加剤から選ばれる1種又は2種以上を含有していてもよい。このような添加剤としては、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤及び離型剤からなる群から選ばれる添加剤などが挙げられる。
【0039】
<難燃剤>
本発明の樹脂組成物には、難燃性を付与するために難燃剤を添加するのが好ましい。難燃剤としては、ポリカーボネート樹脂の透明性を維持して組成物の難燃性を向上させるものであれば特に限定されないが、有機スルホン酸金属塩、シリコーン化合物が好適である
【0040】
難燃剤用の有機スルホン酸金属塩としては、好ましくは脂肪族スルホン酸金属塩及び芳香族スルホン酸金属塩等が挙げられ、これらは、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。有機スルホン酸金属塩を構成する金属としては、好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属などが挙げられ、アルカリ金属及びアルカリ土類金属としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウム等が挙げられる。
【0041】
脂肪族スルホン酸塩としては、好ましくは、フルオロアルカン−スルホン酸金属塩、より好ましくは、パーフルオロアルカン−スルホン酸金属塩が挙げられる。フルオロアルカン−スルホン酸金属塩としては、好ましくは、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられ、より好ましくは、炭素数4〜8のフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられる。フルオロアルカン−スルホン酸金属塩の具体例としては、パーフルオロブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロメチルブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロメチルブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロオクタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタン−スルホン酸カリウムなどが挙げられる。
【0042】
また、芳香族スルホン酸金属塩としては、好ましくは、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられる。芳香族スルホンスルホン酸アルカリ金属塩、芳香族スルホン酸金属塩の具体例としては、3,4−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、2,4,5−トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカリウム塩、4,4′−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、4,4′−ジブロモフェニル−スルホン−3−スルホン酸のカリウム塩、4−クロロ−4′−ニトロジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカルシウム塩、ジフェニルスルホン−3,3′−ジスルホン酸のジナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3,3′−ジスルホン酸のジカリウム塩などが挙げられる。
【0043】
本発明の樹脂組成物におけるこれらの有機スルホン酸金属塩の含有量は、A成分100質量部に対し、0.01〜3質量部であることが好ましく、0.02〜2質量部であることがより好ましく、0.03〜1質量部であることがさらに好ましい。難燃剤用有機スルホン酸金属塩の含有量が上記範囲であると、難燃性があり、且つ熱安定性が良好な樹脂組成物となるので好ましい。有機スルホン酸金属塩の含有量が上記より多いと、樹脂組成物の透明性を損なうことがあり、少ないと十分な難燃性を得ることができない。
【0044】
難燃剤用のシリコーン化合物としては、特開2006−169451公報に記載の、直鎖状もしくは分岐状の構造を有するポリオルガノシロキサンが好ましい。該ポリオルガノシロキサンが有する有機基は、炭素数が1〜20のアルキル基及び置換アルキル基のような炭化水素又はビニル及びアルケニル基、シクロアルキル基、ならびにフェニル、ベンジルのような芳香族炭化水素基などの中から選ばれる。
該ポリジオルガノシロキサンは、官能基を含有していなくても、官能基を含有していても良い。官能基を含有しているポリジオルガノシロキサンの場合、官能基はメタクリル基、アルコキシ基又はエポキシ基であることが好ましい。
【0045】
本発明の樹脂組成物における、難燃剤用シリコーン化合物の含有量は、A成分100質量部に対し、0.5〜10質量部であることが好ましい。難燃剤用シリコーン化合物の含有量が上記範囲であると、透明性、成形品外観及び弾性率等を損なうことなく、難燃性が良好となるので好ましい。
【0046】
なお、上記有機スルホン酸金属塩とシリコーン化合物を併用しても良い。
【0047】
<熱安定剤>
本発明の樹脂組成物には、熱安定性を向上させるために熱安定剤を添加するのが好ましい。好ましい熱安定剤としては、亜リン酸エステル、リン酸エステル等のリン系熱安定剤が挙げられる。
【0048】
亜リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等の亜リン酸のトリエステル、ジエステル、モノエステル等が挙げられる。
【0049】
リン酸エステルとしては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2−エチルフェニルジフェニルホスフェート、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4−ジフェニルホスフォナイト等が挙げられる。
【0050】
上記のリン系熱安定剤の中では、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが好ましく、中でもビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイトやトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトが特に好ましい。
なお、熱安定剤は、単独で使用しても良く、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0051】
本発明の樹脂組成物における熱安定剤の含有量は、A成分100質量部に対し、0.005〜0.2質量部であることが好ましく、0.01〜0.1質量部であることがより好ましい。熱安定剤の含有量が上記範囲であると、加水分解等を発生させることなく、熱安定性を改善できるので好ましい。
【0052】
<酸化防止剤>
本発明の樹脂組成物には、酸化防止剤を添加するのが好ましい。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤が好ましく、より具体的には、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3′,5′−ジ−tert−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4′−ブチリデンビス−(3−メチル−6−tert−ブチルフェニル)、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、及び3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,6]ウンデカン等が挙げられる。中でも、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンが好ましい。これらの酸化防止剤は一種を単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0053】
本発明の樹脂組成物における酸化防止剤の含有量は、A成分100質量部に対し、0.02〜0.5質量部であることが好ましい。この範囲であると、本発明の効果を阻害せずに、酸化防止性を改善できるので好ましい。
【0054】
<紫外線吸収剤>
本発明の樹脂組成物には、紫外線吸収剤を添加することができる。本発明の樹脂組成物から成る成形品は、太陽光や蛍光灯のような光線下に長期間曝されると、紫外線によって黄色味を帯びる傾向があるが、紫外線吸収剤を添加することで、成形品が黄色味を帯びるのを、防止又は遅延させることができる。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸フェニル系、ヒンダードアミン系などが挙げられる。
【0055】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の具体例としては、2,4−ジヒドロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシ−ベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4,4′−ジメトキシ−ベンゾフェノン、2,2′,4,4′−テトラヒドロキシ−ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0056】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルメチル)フェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラブチル)フェノール、2,2′−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラブチル)フェノール]等が挙げられる。
【0057】
サリチル酸フェニル系紫外線吸収剤の具体例としては、フェニルサルチレート、2,4−ジターシャリ−ブチルフェニル−3,5−ジターシャリ−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。
ヒンダードアミン系紫外線吸収剤の具体例としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート等が挙げられる。
【0058】
これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0059】
本発明の樹脂組成物における紫外線吸収剤の含有量は、A成分100質量部に対して、0.001〜1質量部であることが好ましく、0.005〜0.8質量部であることがより好ましく、0.01〜0.5質量部であることがさらに好ましい。紫外線吸収剤の含有量が上記範囲であると、有機紫外線発光蛍光体の励起光吸収による発光色の低下が生じず、且つ成形品表面にブリードアウト等を発生させずに、耐候性を改善できるので好ましい。
【0060】
<離型剤>
本発明の樹脂組成物は、離型剤を含有するのが好ましい。
好ましい離型剤は、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステル、及び数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素化合物から選ばれる化合物である。中でも、脂肪族カルボン酸、及び脂肪族カルボン酸エステルから選ばれる化合物が好ましく用いられる。
【0061】
脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の脂肪族モノカルボン酸、ジカルボン酸又はトリカルボン酸を挙げることができる。本明細書では、脂肪族カルボン酸の用語は、脂環式カルボン酸も包含する意味で用いる。脂肪族カルボン酸の中でも、炭素数6〜36のモノ又はジカルボン酸が好ましく、炭素数6〜36の脂肪族飽和モノカルボン酸がより好ましい。このような脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸等を挙げることができる。
【0062】
脂肪族カルボン酸エステルを構成する脂肪族カルボン酸成分としては、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、脂肪族カルボン酸エステルを構成するアルコール成分としては、飽和又は不飽和の1価アルコール、飽和又は不飽和の多価アルコール等を挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基等の置換基を有していても良い。これらのアルコールのうち、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、さらに炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが好ましい。ここで脂肪族アルコールは、脂環式アルコールも包含する。これらのアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等を挙げることができる。これらの脂肪族カルボン酸エステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していても良く、複数の化合物の混合物であっても良い。脂肪族カルボン酸エステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸オクチルドデシル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレートを挙げることができる。
【0063】
これらの離型剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0064】
本発明の樹脂組成物における離型剤の含有量は、A成分100質量部に対し、0.01〜1質量部であることが好ましい。離型剤の含有量が上記範囲であると、耐加水分解性の低下がなく、離型効果が得られるので好ましい。
【0065】
<その他>
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて本発明の目的を損なわない範囲で、上記成分のほかに、帯電防止剤、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、流動性改良剤、着色剤、可塑剤、分散剤、防菌剤などを配合できる。
また、ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂を含んでいても良い。
これらは、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0066】
ただし、本発明において、ポリカーボネートとの相溶性に劣る樹脂や分散形状が大きく成形品の透明性を低下させる添加剤は配合せず、不使用とすることが重要である。
【0067】
ポリカーボネート樹脂と共に、樹脂組成物中に配合し得るポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂と透明混練可能な熱可塑性樹脂が挙げられる。例えば、屈折率をポリカーボネート樹脂に合わせた、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、MS樹脂、SEBS樹脂等のスチレン系樹脂;ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、脂肪族ポリエステル樹脂等のポリエステル系樹脂;芳香族ポリカーボネート樹脂以外のポリカーボネート樹脂を挙げることができる。これらは1種のみを用いても良く、2種以上を用いても良い。
【0068】
これらの熱可塑性樹脂の中では、機械的強度、寸法安定性及び成形性に優れたポリマーアロイを形成できることから、スチレン系樹脂が好ましく、また、機械的強度、耐薬品性及び成形性に優れたポリマーアロイを形成することができることから、ポリエステル系樹脂が好ましい。
【0069】
これらのポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂を併用する場合、ポリカーボネート樹脂を用いることによる耐衝撃性等の機械的強度、耐熱性、寸法安定性等を確保する上で、ポリカーボネート樹脂とポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂との合計に対するポリカーボネート樹脂の割合が50質量%以上、特に70質量%以上となるように用いることが好ましい。
【0070】
[B成分を含有しない熱可塑性樹脂組成物]
本発明の蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物を用いた成形品を射出成形する際に、同時に、B成分を含有しない他の熱可塑性樹脂組成物を用いた多色成形品とすることで、意匠性を向上させたり、耐擦傷性を改善することができる。例えば、本発明の蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物成形品の表層に透明なアクリル樹脂を積層した二色成形体とすることにより、蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物の透明性を損なうことなく耐擦傷性を改善することができると同時に、成形品に奥行き感を持たせた高級感を有する外観とすることができるため、電飾看板やサインボードの材料として好適に使用できる。
【0071】
この場合のB成分を含有しない熱可塑性樹脂組成物の主成分を構成する熱可塑性樹脂としては、特に制限はないが、A成分と同様のポリカーボネート樹脂や、前述のポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂として挙げた樹脂組成物の1種又は2種以上を用いることができる。特にアクリル樹脂はポリカーボネート樹脂と透明混練することが難しいため、アクリル樹脂の優れた耐擦傷性を得るためには、多色成形品として利用することが好ましい。
このB成分を含有しない熱可塑性樹脂組成物についても、本発明に係る樹脂組成物と同様に、その他の添加剤を配合することができる。
【0072】
[製造方法]
本発明の樹脂組成物は、従来から知られている方法で各成分を混合し、溶融混練することにより製造できる。具体的な混合方法としては、ポリカーボネート樹脂(A成分)、紫外線発光蛍光体(B成分)、及び必要に応じて配合されるその他の添加成分を所定量秤量し、タンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用いて混合した後、バンバリーミキサー、ロール、プラペンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどを用いて溶融混練する方法が挙げられる。
【0073】
[成形方法]
本発明の樹脂組成物は、各種製品(成形品)の製造(成形)用樹脂材料として使用される。その成形方法としては、熱可塑性樹脂材料から成形品を成形する従来から知られている方法が、制限なく適用できる。具体的には、一般的な射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシストなどの中空成形法、断熱金型を用いた成形法、急速加熱金型を用いた成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、インモールドコーティング(IMC)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などが挙げられる。
【0074】
[溶融混練及び成形時の温度条件]
本発明において、紫外線発光蛍光体として好適に用いられる有機蛍光体には、熱安定性の低いものもあり、従って、本発明の樹脂組成物の溶融混練時の温度条件及び成形時の温度条件は、用いる有機蛍光体の熱安定性に応じて適宜調整することが重要である。
【0075】
例えば、有機蛍光体としてクマリン系化合物、ペリレン系化合物を用いる場合、溶融混練時及び成形時の温度条件は250〜320℃と、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融混練及び成形時の温度条件として一般的な温度条件を採用することができるが、有機蛍光体として熱安定性の低い希土類錯体化合物を用いた場合、溶融混練時及び成形時の温度条件は220〜260℃と若干低めに設定することが好ましい。
【実施例】
【0076】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において使用した樹脂組成物の構成成分は、以下の通りである。
【0077】
(A−1)芳香族ポリカーボネート樹脂1:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製品「商品名:ユーピロン(登録商標)S−3000」、粘度平均分子量 22,000
(A−2)芳香族ポリカーボネート樹脂2:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製品「商品名:ノバレックス(登録商標)M7027U」、粘度平均分子量 26,500
【0078】
(B−1)紫外線発光有機蛍光体1:青色発光蛍光体、セントラルテクノ(株)製「商品名:ルミシス/B−800」
(B−2)紫外線発光有機蛍光体2:緑色発光蛍光体、セントラルテクノ(株)製「商品名:ルミシス/G−900」
(B−3)紫外線発光有機蛍光体3:赤色発光蛍光体、セントラルテクノ(株)製「商品名:ルミシス/E−400」
【0079】
(X−1)紫外線発光無機蛍光体1:青色発光顔料、根本特殊化学(株)製「商品名:ネモトUV蛍光体/D1180」
(X−2)紫外線発光無機蛍光体2:緑色発光顔料、根本特殊化学(株)製「商品名:ネモトUV蛍光体/D1164」
(X−3)紫外線発光無機蛍光体3:赤色発光顔料、根本特殊化学(株)製「商品名:ネモトUV蛍光体/D1120」
【0080】
(C)難燃剤:ベンゼンスルホン酸セシウム、竹本油脂(株)製「MEC−141」
【0081】
(D−1)リン系熱安定剤1:トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、旭電化工業(株)製「商品名:アデカスタブ2112」
(D−2)リン系熱安定剤2:O=P(OH)(OC18373−n(n=1および2の混合物)、旭電化工業(株)製「商品名:アデカスタブAX−71」
【0082】
(E)離型剤:ペンタエリスリトールテトラステアレート、日本油脂(株)製「商品名:ユニスターH476」
【0083】
(F)ポリブチレンテレフタレート樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製品「商品名:ノバデュラン(登録商標)5008」
【0084】
[実施例1〜4及び比較例1〜5]
ポリカーボネート樹脂及び各種添加剤を表1に示す割合で配合し、タンブラーで20分混合後、スクリュー径40mmのベント付き単軸押出機(いすず化工機社製「SV−40」)により、シリンダー温度280℃(実施例3については240℃)、スクリュー回転数70rpmで混練し、押出されたストランドを切断してペレットを作製した。
得られたペレットを、120℃で5時間乾燥後、射出成形機(名機製作所製「M150AII−SJ」)にて、シリンダー温度280℃(実施例3については250℃)、金型温度80℃、成形サイクル50秒の条件で射出成形を行い、アイゾット衝撃試験片および3mm厚の平板を作製した。また実施例2においては、得られたペレットを120℃、5時間乾燥後、射出成形機(日本製鋼所製「J50−EP」)にて、シリンダー温度290℃、金型温度80℃、成形サイクル30秒の条件で射出成形し、長さ125mm、幅13mm、厚さ3.1mmの試験片を成形した。
このような方法で作製した成形品を、下記評価用の試験片として用いて評価を行った。
【0085】
(1)耐衝撃性(アイゾット衝撃強度)(単位:J/m):
ASTM D256に準拠して、厚さ3.2mmのノッチ付き試験片について、23℃の温度でアイゾット衝撃強度(単位:J/m)を測定した。数値が大きいほど、耐衝撃性が優れていることを意味する。
【0086】
(2)3mmヘイズ:
JIS K−7136に準じ、3mm厚の平板を試験片とし、日本電色工業(株)製、NDH−2000型ヘイズメーターで測定した。
【0087】
(3)蛍光発光性:
3mmヘイズの測定に用いた試験片と同じく3mm厚の試験片を作製し、松下電工(株)製蛍光灯マグネットライトに松下電工(株)製のブラックライト・ブルー(FL4BL−B:波長352nm)を装着した装置を用いて紫外線照射を行い、蛍光発光の色相を目視により評価した。
○:蛍光発光の色調が明るく綺麗である。
×:蛍光発光の色調が暗く、発光が目立たない。
【0088】
(4)燃焼性試験:
実施例2にて作製したUL試験用サンプル(試験片)を5本用い、温度23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間調湿し、ULが定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して難燃性の評価を行った。
評価の結果、総燃焼時間32秒、最大燃焼時間7秒、試験片からの滴下物(ドリップ)は無く、V−0の基準を満たす燃焼性であることが確認された。
【0089】
【表1】

【0090】
表1より、本発明によれば、紫外線照射により良好な蛍光発光を示す透明な成形品が提供されることが分かる。また、本発明の樹脂組成物の紫外線発光蛍光体含有量は少量なため、良好な透明性(低ヘイズ)と十分な衝撃強度を得ることができる。
これに対して、従来の無機蛍光体を配合した比較例1〜3では、蛍光発光性は得られるが、不透明であり、透明材料を得ることはできない。透明性を向上させるために無機蛍光体の含有量を少なくすると、比較例4のように十分な蛍光発光性を得ることができない。このように、無機蛍光体では蛍光発光性を得るためには含有量が多くなるため、衝撃強度が低下するという欠点もある。また、本発明の範囲外の紫外線発光蛍光体含有量である比較例5でも、十分な蛍光発光性を得ることができない。
【0091】
以上より、本発明によれば、電飾看板、液晶バックライト、照明ディスプレイ、交通標識、サインボード、及びスクリーン、更には玩具や装飾品などの成形品の製造に利用可能な、蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物が提供されることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A成分)100質量部に対して、紫外線発光蛍光体(B成分)を0.001〜1質量部含有してなり、該組成物を用いて成形された厚さ3mmの成形板について、JIS−K7136に従って測定したヘイズが2%以下であることを特徴とする蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1において、前記紫外線発光蛍光体が有機蛍光体であることを特徴とする蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2において、該有機蛍光体がペリレン系化合物、クマリン系化合物及び希土類錯体化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤及び離型剤からなる群から選ばれる少なくとも一種類の添加剤をさらに含有することを特徴とする蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の蛍光発光性透明ポリカーボネート樹脂組成物とB成分を含有しない熱可塑性樹脂組成物とを多色複合成形してなる成形品。

【公開番号】特開2010−159356(P2010−159356A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3062(P2009−3062)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】