説明

蛍光X線定量用酸化物標準試料の製造方法

【構成】高融点無機化合物を構成する主成分元素の高純度化合物を精秤して酸類に溶解させて得られた溶液中に、測定すべき不純物元素の標準液を所定量加え、溶液を蒸発乾固した後、所定の温度条件で加熱する上記高融点無機化合物中の含有不純物元素の蛍光X線定量用酸化物標準試料の製造方法。
【効果】この発明により製造された酸化物標準試料を用いることによって、高融点無機化合物中の不純物元素を例えば、1 〜2000ppm の範囲内で化学的分離を行なわずに、高精度の定量測定することができ、更に高融点無機化合物中に含まれる5乃至11の複数の不純物元素を同時に定量することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、高融点炭化物、窒化物及び硼化物の原料粉末、単結晶乃至超伝導製造用酸化物、その他の工業用酸化物等の含有不純物元素を蛍光X線定量するための酸化物標準試料の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】高融点炭化物、窒化物及び硼化物の原料粉末、単結晶乃至超伝導体製造用酸化物、その他の工業用酸化物粉末などの高融点無機化合物中にはクロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケルなど多数の微量の不純物元素が含まれており、これらの高融点無機化合物から高温超伝導体を製造する場合には、これら微量の不純物元素の定量を正確に行う必要がある。
【0003】従来、高融点無機化合物中に含まれる不純物元素の定量法としては、工業用酸化物の含有不純物元素の定量法に見られるように、多量の主成分元素の影響を除くために、主成分元素と不純物元素を化学的に分離してから、ICP発光分析法、その他の分光分析法を用いて含有不純物元素の定量が行われていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、高融点無機化合物の主成分である元素とこれに対して微量に含まれる不純物元素を化学的に分離することは、定量操作上極めて困難であり、操作時間が掛かるうえ、実験誤差が生じ易い。
【0005】これに対して、特性X線の性質上、多量の主成分元素共存下で蛍光X線を発生させても、主成分元素に影響されない範囲内で特性X線を選択して測定することができ、しかも精度向上と時間短縮が可能となるため、上述のような高融点無機化合物中に含まれている微量の不純物元素の定量には最適な方法である。
【0006】しかし、この蛍光X線定量法は標準試料を製造し、この標準試料を用いて作成された検量線に基づいて微量の不純物元素の定量を行なうものであるが、上述の高融点炭化物、窒化物及び硼化物中の含有不純物元素を蛍光X線定量法で測定するための標準試料は未だ製造されていない。
【0007】また、高温超伝導体製造用酸化物、その他工業用酸化物中の含有不純物元素を蛍光X線定量法で測定するための標準試料も未だ製造されていない。
【0008】そこで、本願発明者らは上述の高融点無機化合物中の不純物元素を蛍光X線定量法で測定するための標準試料を製造するために、試料の効果的な溶解方法及び熱分解曲線による実験等により検討を行なった結果、有効な標準試料の製造法を見出したものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】この発明は、上述の検討結果に基づき、高融点無機化合物を構成する主成分元素の高純度化合物を精秤して酸類に溶解させて得られた溶液中に、測定すべき不純物元素の標準液を所定量加え、溶液を蒸発乾固した後、所定の温度条件で加熱する蛍光X線定量用酸化物試料の製造方法を提案するものである。
【0010】ここで、高融点無機化合物としては高融点炭化物、窒化物及び硼化物の原料粉末、単結晶乃至超伝導体製造用酸化物、その他の工業用酸化物粉末等を挙げることができる。
【0011】これら高融点無機化合物を構成する主成分元素の高純度化合物としては、例えばチタン化合物中の不純物元素を定量する場合には金属チタン、ジルコニウム化合物中の不純物元素を定量する場合にはオキシ硝酸ジルコニウム(化学分析用)、イットリウム或はランタン化合物中の不純物元素を定量する場合には酸化イットリウム及び酸化ランタン(化学分析用)を使用することができる。
【0012】これらの高純度化合物を精秤し、更にこの化合物の主成分元素を酸類(硝酸、硝酸+塩酸、硝酸+フッ化水素酸等)を用いて溶解した溶液を必要個数作製し、この溶液に含有不純物元素と同じ元素を含む標準液を例えば0,5,10,15,20mlと段階的に添加して、標準試料系列を作製する。
【0013】この場合、不純物元素を含む標準液は、酸化物標準試料中の不純物元素の濃度範囲が1 〜2000ppm となるような範囲内で加えられる。
【0014】次に上記溶液の標準試料系列をルツボに入れて蒸発乾固した後、電気炉に入れ、例えば100 〜600 ℃まで100 ℃/2h の速度で加熱して、酸化物標準試料系列を製造する。
【0015】なお、クロム、マンガン、鉄など5乃至11の複数の元素を同時定量するために、上述の方法によってこれらの元素を含む酸化物標準試料を製造するようにしてもよい。
【0016】このようにして得られた酸化物標準試料系列を用いて蛍光X線定量法のための検量線を作成するための一例を次に示す。
【0017】上記のようにして製造した酸化物標準試料系列、メノウ乳鉢でよく粉砕混合し、10〜30μm の粉末とする。
【0018】この粉末の0.1 〜4.0gを秤量し、直径20mm(0.1g の場合)及び40mm(0.1g,4.0gの場合) に加圧成形してペレットを作製し、蛍光X線法によりペレット中に含まれる各元素の特性X線を測定する。
【0019】X線測定後、次の(1) 式或は(2) 式の検量線を作成する。
Log C = A LogI + B ・・・・・・・・・(1) Log (I/C) = A(Log I/λ)2 + B(Log I/ λ) + D ・・・・・・・・(2) ここで、C:元素濃度、I:特性X線強度、λ:特性X線の波長、A,B,D:常数である。
【0020】上記(1) 式は元素濃度Cと特性X線強度Iの函数で表わされるが、特性X線の波長は各元素により異なるため、これを使用して定量する場合には各元素毎の検量線を作成しなければならない。
【0021】これに対して、上記(2) 式は元素濃度Cと特性X線の波長λと特性X線強度Iの函数であり、複数の元素を含む酸化物標準試料を用いて作成された1本の検量線で複数の元素の定量が可能となる。
【0022】また、上記(1) 式と(2) 式の検量線は不純物元素を含まない酸化物標準試料と所定量の不純物元素を含む酸化物標準試料の少なくとも2個の酸化物標準試料を用いることにより作成できる。
【0023】
【発明の効果】以上要するにこの発明により製造された酸化物標準試料を用いることによって、高融点無機化合物中の不純物元素を例えば、1 〜2000ppm の範囲内で化学的分離を行なわずに、高精度の定量測定することができ、更に高融点無機化合物中に含まれる5乃至11の複数の不純物元素を同時に定量することができる。
【0024】また、普通に存在する殆どの元素について酸化物標準試料系列が製造でき、しかもその酸化物が安定であれば、半永久的に使用することができる。
【0025】更に、不純物元素を含まない酸化物標準試料と所定量の不純物元素を含む酸化物標準試料の少なくとも2個の酸化物標準試料を用いることにより検量線を作成できる。
【0026】
【実施例】以下、この発明の実施例を示す。
実施例1金属チタン2.9975g(99.9% 以上) を塩酸と硝酸に溶解し、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、鉛、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タンタル等の10〜11元素を176 〜624ppm加えて蒸発乾固した後、電気炉中で100 〜500℃まで100 ℃/2h の速度で加熱処理した。
【0027】上記のように製造した酸化物標準試料の一部を秤量して直径20mmのペレットにして蛍光X線法により上記各元素の特性X線の測定を行なった。この測定結果からLog(I/C)とLog(1/λ) の関係を図1(a)に示す。
【0028】この酸化物標準試料を用いて作成した図1(a)の検量線を用いて、二硼化チタンの原料粉末と単結晶の含有不純物元素を定量した結果を下記の表1に示す。これによれば結晶の純度は原料粉末より10倍以上良くなっていた。
【0029】実施例2オキシ硝酸ジルコニウム(化学分析用)を酸化物にした時5.500gになるように秤量し、硝酸に溶かした後、実施例1のチタンと同様にクロム、マンガン、鉄等を154 〜544ppm加え、蒸発乾固した後電気炉で100 〜600 ℃まで100 ℃/2h の速度で加熱処理した。
【0030】上記のように製造した酸化物標準試料の一部を秤量して直径20mmのペレットにして蛍光X線法により上記各元素の特性X線の測定を行なった。この測定結果からLog(I/C)とLog(1/λ) の関係を図1(b)に示す。
【0031】この酸化物標準試料を用いて作成した図1(b)の検量線を用いて、炭化ジルコニウムの原料粉末と単結晶の含有不純物元素を定量した結果を下記の表1に示す。チタン同様に結晶の純度は原料粉末の結果より数倍以上良くなっていた。
【0032】実施例3酸化イットリウム及び酸化ランタン(化学分析用)を酸化物にした時4.000gとなるように秤量し、硝酸に溶解した後、実施例1のチタンと同様にクロム、マンガン、鉄等を154 〜544ppm加え、蒸発乾固した後電気炉中で100 〜600 ℃迄100℃/2h の速度で加熱処理した。
【0033】上記のように製造した酸化物標準試料の一部を秤量して直径20mmのペレットにして蛍光X線法により上記各元素の特性X線の測定を行なった。この測定結果からLog(I/C)とLog(1/λ) の関係を図2(a),(b)に示す。
【0034】図2(a),(b)の検量線を用いて、六硼化イットリウムと六硼化ランタンの原料粉末及び市販の酸化イットリウムと酸化ランタンの含有不純物を定量した結果を下記の表1に示す。
【0035】


【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、酸化チタンと酸化ジルコニウム標準試料を用いて作成したLog(I/C)とLog(1/λ) の関係を示すグラフである。
【図2】図2は、酸化イットリウムと酸化ランタン標準試料を用いて作成したLog(I/C)とLog(1/λ) の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 高融点無機化合物中の含有不純物元素の蛍光X線定量用酸化物標準試料の製造方法であって、上記高融点無機化合物を構成する主成分元素の高純度化合物を精秤して酸類に溶解させて得られた溶液中に、測定すべき不純物元素の標準液を所定量加え、溶液を蒸発乾固した後、所定の温度条件で加熱することを特徴とする蛍光X線定量用酸化物標準試料の製造方法。
【請求項2】 高融点無機化合物が高融点炭化物、窒化物及び硼化物の原料粉末、単結晶乃至超伝導体製造用酸化物、その他の工業用酸化物粉末である特許請求の範囲第1項記載の蛍光X線定量用酸化物標準試料の製造方法。
【請求項3】 不純物元素の含有量を段階的に変えた複数の酸化物標準試料系列を製造するようにした特許請求の範囲第1項記載の蛍光X線定量用酸化物標準試料の製造方法。
【請求項4】 不純物元素としてクロム、マンガン、鉄など複数の元素を含む酸化物標準試料を製造するようにした特許請求の範囲第1項記載の蛍光X線定量用酸化物標準試料の製造方法。
【請求項5】 不純物元素を1 〜2000ppm まで含む酸化物標準試料を製造するようにした特許請求の範囲第1項記載の蛍光X線定量用酸化物標準試料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平6−11423
【公開日】平成6年(1994)1月21日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−192962
【出願日】平成4年(1992)6月26日
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【指定代理人】
【氏名又は名称】工業技術院電子技術総合研究所長