説明

蛍幼虫の飼育方法、蛍幼虫用給餌容器及び蛍幼虫用飼育装置。

【課題】 場所を問わずに蛍幼虫の飼育が可能で、しかも、管理等の負担を軽減できる蛍幼虫の飼育方法、蛍幼虫用給餌容器及び蛍幼虫用飼育装置を提供する。
【解決手段】 本願発明に係る蛍幼虫の育成方法は、開口部10aを備えた容器10内に餌を収容し、これを水中に配置して蛍幼虫に給餌するものである。このようにすることにより、消化液や餌が周囲に広がることがなくなるので、蛍幼虫の生育の不良や水質の悪化を招くことがなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蛍幼虫の飼育方法、蛍幼虫用給餌容器及び蛍幼虫用飼育装置に係り、特に、蛍幼虫を人工餌で飼育する場合に好適な飼育技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、蛍幼虫は清流や湖沼などで成育し、陸地に上がって地中で蛹化し、やがて成虫となって高温多湿の夜間に出現することが知られている。蛍を飼育する方法としては、実際に清流や湖沼などにて繁殖させる方法、清流や湖沼などの自然環境に網容器などを配置してその中で周囲と分離して繁殖させる方法、擬似的な生息環境を形成した水槽内で繁殖させる方法などが知られている(例えば、以下の特許文献1乃至3参照)。
【特許文献1】特願2000−157101号公報
【特許文献2】特願2003−23920号公報
【特許文献3】特願2004−222704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前述の自然環境を利用する方法では、蛍の生息に適した自然環境がない場所では飼育することができないという問題点がある。一方、水槽で飼育する方法では、擬似的な生息環境を形成し、これを維持する必要があるため、擬似環境の形成作業や水質の維持管理などに手間がかかり、さらに、蛍幼虫の餌となるのに適した大きさのカワニナなどの生餌を入手したり、生育したりする必要があるため、飼育がきわめて困難であるという問題点がある。
【0004】
そこで、本発明は上記問題点を解決するものであり、その課題は、場所を問わずに蛍幼虫の飼育が可能で、しかも、管理等の負担を軽減できる蛍幼虫の飼育方法、蛍幼虫用給餌容器及び蛍幼虫用飼育装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
斯かる実情に鑑み、本願発明者が蛍を飼育して種々の試みを行った結果、人工的な小容器に餌を入れて蛍幼虫に給餌を行うことによって、蛍幼虫の生存率や成長速度が大きく改善されることを見出した。
【0006】
本願発明者の知見によれば、蛍幼虫の採食方法は、自ら消化液を水中に放出し、この消化液で餌を溶かし、溶けた餌を吸うといったものであり、その結果、餌が水中に露出した状態にあると、消化液や溶けた餌が水質を短時間で悪化させ、水が白濁して悪臭を発するようになる。また、溶けた餌の大部分が水中に流れ出してしまうため、蛍幼虫の成長に支障をきたすこともある。
【0007】
一方、生きたカワニナを餌として与えた場合には、蛍幼虫の成育状態に合わせた大きさのカワニナを与える必要があり、手間がかかるものの、上記のような生育の不良や生存率の低下は見られない。この理由を種々検討した結果、本願発明者は以下のような結論に至った。
【0008】
すなわち、蛍幼虫はカワニナを見つけると、その貝殻の開口部に取り付き、頭部を貝殻の内部に突っ込んでカワニナを麻痺させた後、消化液を出す。このとき、貝殻の開口部は多数の蛍幼虫で栓をしたような状態となるため、消化液が貝殻の外部に出ることはほとんどなく、また、蛍幼虫はカワニナの体が全て消滅するまで食べ続けることから、貝殻の内部に残った消化液はほとんど蛍幼虫によって吸収されるため、周囲の水質は比較的清浄な状態に維持される。
【0009】
本願発明者は上記のような結論から本願発明に至った。すなわち、本願発明の蛍幼虫の育成方法は、開口部を備えた容器内に餌を収容し、これを水中に配置して蛍幼虫に給餌するものである。このようにすることにより、蛍幼虫の生育の不良や水質の悪化を招くことがなくなる。具体的には、餌を収容した容器を水中に配置することで、多数の蛍幼虫は開口部から頭部を容器内に突っ込み、開口部に栓をするような態様で採食する。このとき、蛍幼虫が出す消化液は容器内の餌を溶かし、溶けた餌は容器内において蛍幼虫に吸収される。溶けた餌は蛍幼虫自身によって閉鎖された容器内に保持されるため、蛍幼虫はほとんど全ての餌を吸収することができ、成育不良を招くことが防止される。また、消化液や溶かされた餌が容器から外部へ出ることがほとんどないため、周囲の水質も清浄に保たれる。
【0010】
或る実施態様では、前記容器は、一側が前記開口部にて開口し、他側が閉塞してなる収容空間を備えている。一側が開口部で開口するとともに他側が閉塞してなる収容空間を設けると、多数の蛍幼虫が開口部に集中するので、多数の蛍幼虫によって開口部が閉鎖され、蛍幼虫の採食効率を高めることができるとともに、消化液の漏出をさらに低減することができる。
【0011】
また、他の実施態様では、前記開口部の円換算直径は3〜10mmの範囲内とされる。開口部の開口面積の好適な範囲は蛍幼虫の成長段階によって異なるが、開口部の円換算直径(開口部の開口面積と等しい面積の円の直径)が3〜10mmの範囲内であれば、どの段階の蛍幼虫であっても成育不良や水質悪化を抑制することができる。ただし、蛍幼虫の成長に従って上記円換算直径を徐々に大きくしていくことが望ましい。この場合には、上記円換算直径を1〜15mmの範囲内とすることができる。
【0012】
さらに、蛍幼虫の体が全て容器内に入ってしまうと呼吸ができなくなり窒息する虞があるが、蛍幼虫が頭部を容器内に突っ込んだ姿勢でも、少なくとも尾部が容器の外部に出ていれば、窒息の虞はなくなる。これは、蛍幼虫の呼吸器は体側部において尾部の近傍にまで形成されているからである。この場合、蛍幼虫の成長段階により、窒息せずに好適に給餌ができる容器の深さは変化するが、別の実施態様では、前記容器の前記開口部から見た最大深さを3〜12mmの範囲内とする。このことにより、どの段階の蛍幼虫であっても窒息の虞を低減することができる。ただし、蛍幼虫の成長に従って上記最大深さを徐々に大きくしていくことが望ましい。この場合には、上記最大深さは1〜18mmの範囲内とすることができる。
【0013】
次に、本発明の蛍幼虫用給餌容器は、開口部と、一側が前記開口部にて開口し、他側が閉塞してなる収容空間とを備えていることを特徴とする。この場合、或る実施態様では、前記収容空間の奥部には餌収容部が設けられ、該餌収容部の前記開口部側には餌保持用の内面段差が形成されている。内面段差を設けることで、餌を餌収容部に保持することができるため、蛍幼虫への給餌前及び給餌中における容器内の餌の移動を防止することができるため、上述の各効果をさらに高めることができる。
【0014】
他の実施態様では、前記収容空間は、前記開口部から奥部へ向けて徐々に断面積が縮小する形状を備えている。このようにすると、蛍幼虫が頭部を突っ込む収容空間の断面積が奥部に向けて徐々に縮小するので、開口部側への消化液や餌の漏出を防止しつつ、蛍幼虫の体側にある呼吸器による呼吸が容易になる。
【0015】
さらに他の実施態様では、前記開口部は、同一平面上に配置されない開口縁形状を備えている。この開口縁形状によれば、開口縁を水底に当接した姿勢で容器が安定しないため、開口部を下にした姿勢で水底に配置されにくくなるとともに、仮に開口部を下にした姿勢となっても、水底と開口縁との間に間隙が生じやすくなるので、当該間隙を通して蛍幼虫の採食が可能になる。
【0016】
また、別の実施態様では、前記一側から前記他側へ向けて漸次断面積の縮小する外形を備えている。これによれば、容器が流れのある場所に配置された場合でも、開口部を下流側に向けた姿勢で静止しやすくなり、また、蛍幼虫の捕食や乱流等によって容器の水中姿勢が変化しても、大きく流されることなくすぐに静止するため、蛍幼虫が採食しやすくなり、蛍幼虫の成長が促進される。ここで、容器の外形の好ましい例としては、円錐形、円錐台形、角錘形、角錘台形などが挙げられる。
【0017】
また、異なる実施態様では、前記他側の外端部は突出形状を有する。他側の外端部が突出形状を有することにより、開口部が上を向いた姿勢で静止しにくくなり、開口部を横向きにした姿勢で静止する可能性が高くなるので、蛍幼虫が採食しやすくなる。
【0018】
さらに、別の実施態様では、外面が粗面化されている。容器の外面が粗面化されていると、開口部が上方に向いている場合でも、蛍幼虫が容器の外面上を登って開口部に到達することが容易になるため、蛍幼虫が採食しやすくなる。
【0019】
また、さらに異なる実施態様では、前記開口部の円換算直径が3〜10mmの範囲内にある。さらに別の実施態様では前記開口部から見た最大深さが3〜12mmの範囲内にある。
【0020】
次に、本発明の蛍幼虫用飼育装置は、上記のいずれか一項に記載の蛍幼虫用給餌容器と、該蛍幼虫給餌容器を収容する水槽とを具備することを特徴とする。餌を入れた蛍幼虫給餌容器を水槽内の水中に配置することで、簡単かつ効果的に蛍幼虫への給餌を行うことができ、しかも、水質の悪化を抑制できるため、水換えやフィルタの交換を頻繁に行う必要もなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。図1は本発明に係る蛍幼虫用給餌容器の概略斜視図、図2(a)は同容器の縦断面図、図2(b)は横断面図である。
【0022】
容器10は、開口部10a及び収容空間10bを画成する壁材11を備えている。壁材11は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、テトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂などの合成樹脂、セラミックス、木材などで形成することができる。収容空間10bは、その一側が上記開口部10aにて開口し、他側が上記壁材11の外端部11aによって閉塞している。容器10は、一側の開口部10aから他側の外端部11aに向けて徐々に断面積が縮小した形状、具体的には円錐台形状を備えている。また、外端部11aは半球状に突出した形状を有している。
【0023】
開口部10aを画成する壁材11の開口縁11bは、同一平面上に配置されない形状、すなわち、開口縁11b全体を含む一つの仮想平面を想定できない形状を備えている。具体的には、開口縁11bは、図2(a)に示すように、相互に異なる2つの仮想平面上にそれぞれ配置される開口縁部11xと11yを有している。開口縁部11xは図示斜め上方を向いた切り口で構成され、開口縁部11yは図示斜め下方を向いた切り口で構成される。これによって、開口縁11bは、開口縁部11xと11yの境界部分が最も突出し、他の部分が凹状に構成されている。ただし、本発明では開口縁11bの形状は何ら限定されるものではなく、開口縁11b全体が同一平面上に配置される場合も含めて、図示以外の種々の形状を採用することができる。開口縁11bが同一面上に含まれない典型例としては、開口縁11bがその周回方向に凹凸状に構成された構造が挙げられる。
【0024】
収容空間10bは、開口部10a及び壁材11の内面によって画成される。収容空間10bは、開口部10aから奥部に向けて徐々に断面積が縮小するように形成されている。本実施形態では、壁材11は開口部11aの開口縁11bから奥部に向けて徐々に肉厚になり、その結果、収容空間10bの断面積の変化率は外形の断面積の変化率よりも大きくなっている。そして、収容空間10bの奥部には、外端部11aの内部に相当する部分に、開口部10a側に設けられた内面段差11cに臨む餌収容部10cが設けられている。この餌収容部10cには、図示しない餌が収容される。内面段差11cは、餌収容部10cに収容された餌を保持するため、すなわち、給餌前及び給餌中において餌が開口部10a側に移動しないようにするために設けられている。
【0025】
本実施形態では、餌収容部10cに餌を収容した容器10を水中に配置することで、蛍幼虫に給餌することができる。容器10は、自然環境下の蛍幼虫に対する給餌用として用いることもでき、また、後述する水槽内などの人工環境下で飼育する蛍幼虫に対する給餌用としても用いることができる。特に、河川などのように流れのある場所に配置することも可能である。
【0026】
容器10を水中に配置すると、蛍幼虫は頭部を開口部10aを通して収容空間10b内に入れ、餌収容部10cに配置された餌に対して消化液を出し、この消化液で餌を溶解して液化し、この餌液を吸う。このとき、多数の蛍幼虫が開口部10aから頭部を収容空間10bに突っ込むことにより、蛍幼虫の体によって栓がされた状態となり、収容空間10b内に存在する消化液や餌液は容器10の外部にほとんど漏出しない。また、採食中の蛍幼虫は少なくとも尾部が開口部10aの外側にあり、体側に沿って尾部まで形成された複数の呼吸器で呼吸をすることができるので、窒息することもない。
【0027】
また、蛍幼虫は餌を全て吸収し終えるまで容器10に頭部を突っ込んだままであり、蛍幼虫が採食を終了した後は容器10の収容空間10bには消化液や餌液がほとんど残存しない状態となるので、最終的に容器10の周囲の水質はほとんど汚染されない。
【0028】
容器10の開口部10aは、基本的に円換算直径で3〜10mmの大きさとすることが好ましい。この範囲では、蛍幼虫がどの成長段階にあっても、採食が可能で、かつ、蛍幼虫の成長不良や水質悪化を引き起こすことがない。ただし、蛍幼虫の成長に応じて開口部10aを徐々に大きくしていくことで、蛍幼虫の成長をより促進させることができる。この場合には、開口部10aの円換算直径は1〜15mmの範囲内とすることができる。
【0029】
また、容器10の最大深さ(開口部10aから奥部(外端部の内側にある内面部)までの距離)を3〜12mmとすることが好ましい。この範囲では、蛍幼虫がどの成長段階にあっても、窒息の虞を低減することができ、充分な採食が可能である。ただし、蛍幼虫の成長に応じて最大深さを徐々に大きくしていくことで、蛍幼虫の窒息の虞をなくし、採食しやすくして成長を促進させることができる。この場合には、最大深さは1〜18mmの範囲内とすることができる。
【0030】
本実施形態の容器10では、開口部10aが同一平面上に含まれない形状を備えているので、開口部10aが水底に向かう姿勢で配置されにくくすることができ、たとえ開口部10aが水底に向いた姿勢となっても、水底と開口縁11bとの間に隙間が生ずるため、蛍幼虫が容易に頭部を収容空間10bに挿入することができるように構成される。
【0031】
また、外端部11aは突出した形状を有するので、外端部11aが水底に向かい、開口部10aが上方を向いた姿勢にはなりにくく、多くの場合、横倒し状態となり、開口部10aが横を向いた姿勢になるように構成されている。特に、容器10は開口部10aから外端部11aに向かう方向に見たときに、最大幅(最大径、すなわち、図示例の場合には開口部10aの直径)よりも開口部10aから外端部11aまでの長さが大きい形状を有しているため、水底で横倒し状態になりやすく構成されている。この姿勢では、開口部10aが上方を向いて蛍幼虫が開口部10aから頭部を収容空間10bに挿入できないといった事態を招くことがなく、蛍幼虫はきわめて容易に開口部10aを通して収容空間10b内に頭部を挿入することができる。
【0032】
本実施形態では、開口部10aから外端部11aに向けて徐々に断面積が縮小する外形(円錐状、円錐台状、角錘状、角錘台状など)を有しているため、水流のある場所に配置されても、開口部10aを下流側に向けた姿勢で静止しやすくなっている。すなわち、水流によって下流側に流されにくく、しかも、姿勢が安定しやすく構成されている。これは、蛍幼虫にとって採食が容易になることを意味する。特に、蛍幼虫は採食時に容器10の姿勢を変えてしまうことがあるが、姿勢が変わっても容器10はすぐに下流側に開口部10aを向けて静止するので、大きく流されることがない。
【0033】
ちなみに、開口部10aから外端部11aに向けて断面積が変化しない場合(円筒状、角筒状など)には、開口部10aの向きが定まりにくく、軸線周りに回転したり、開口部10aが旋回する姿勢で回転したりし、姿勢が安定しない。特に、開口部10aが上流側へ向くと、水流が容器10の内部に流入して姿勢がさらに安定しなくなる。また、外端部11aから開口部10aに向けて断面積が縮小する形状であれば、水流中で開口部10aが上流側へ向きやすくなるので、水流が流入することによってやはり姿勢が安定しなくなる。
【0034】
容器10の収容空間10bは、開口部10aから奥部へ向けて断面積が小さくなる形状を有するので、多くの蛍幼虫が頭部を収容空間10bに突っ込んだとき、蛍幼虫の体によって奥部側と開口部10a側との間が閉鎖されやすくなり、消化液や餌液の漏出がさらに低減される。また、多数の蛍幼虫が採食する場合、上記の収容空間10bの形状では開口部10a側が広がっているため、多数の蛍幼虫の体の尾部側部分の間に隙間が生じやすくなるので、蛍幼虫が窒息する虞をより低減できる。
【0035】
図3は、別の蛍幼虫用給餌容器20の構造を示す概略斜視図である。この容器20は、開口部20a、収容空間20b、餌収容部20c、壁材21、外端部21a、開口縁21bを有するが、壁材21の外面及び内面が基本的に筒面状(円筒面状)に構成されている点で、上記容器10とは異なる。この外形でも、水流の少ない湖沼や水槽内で給餌する場合には問題はない。
【0036】
また、開口縁21bはほとんど円形に形成されているが、その一部21dが外端部21a側に凹状に広がっている点でも上記とは異なる。すなわち、開口縁21bは同一面上に配置された部分と、この同一面上から外端部21a側に凹んだ部分とを有している。この形状でも、開口部20aが水底に向いた姿勢になりにくく、また、開口部20aが水底に向いた姿勢となっても、一部21dの形状により隙間ができるので、蛍幼虫が採食できないといった事態を回避できる。
【0037】
さらに、外端部21aには錐状(円錐状)に鋭利に突出した先端部21eが設けられている。したがって、先端部21eを水底に向けた姿勢になる虞がほとんどなくなるため、開口部20aを上方に向けた姿勢となって蛍幼虫が開口部20aから頭部を収容空間20b内に挿入できなくなる可能性をさらに低減することができる。
【0038】
図4は、さらに別の蛍幼虫用給餌容器30の構造を示す概略縦断面図である。この容器30には、上記各実施形態の各部に対応する、開口部30a、収容空間30b、餌収容部30c、壁材31、外端部31a、開口縁31b、内面段差31cを有し、基本的に上記と同様の概略構成を有するが、開口部31bの一部から突出する突起(或いは突片)31dが設けられている点と、ほぼ平坦な外端部31aから突出する突起(或いは突片)31eが設けられている点で異なる。
【0039】
上記突起31dが設けられていることによって、図示例のように開口縁31bの多くの部分が同一平面上に配置される形状を有していても、開口縁31bの一部が突起31dによって突出した構造となるので、開口部30aを水底に向けた姿勢にはなりにくく、また、突起31dによって開口部30aと水底との間に必ず隙間が形成されるので、蛍幼虫が採食できなくなる事態を回避できる。
【0040】
また、上記突起31eが設けられていることによって、図示例のように外端部31aが平坦に形成されていても、外端部31aが水底に向き、開口部30aが上方を向く姿勢となることを防止できるため、蛍幼虫が採食できなくなる事態を回避できる。
【0041】
図5は、さらに異なる蛍幼虫用給餌容器40の構造を示す概略縦断面図である。この容器40では、上記各実施形態の各部と対応する開口部40a、収容空間40b、餌収容部40c、壁材41、外端部41a、開口縁41b、内面段差41cを有しているが、開口縁41bが同一面上に配置され、外端部41aが平坦に形成されている点で上記各実施形態とは異なる。この容器40では、外側面41fが粗面化されており、図示のように開口部40aが上方を向いた姿勢となっても、外側面41f上を蛍幼虫が這い上がりやすく構成されている。なお、このような構成は、他の容器にも採用することができる。
【0042】
図6は、更に別の蛍幼虫用給餌容器50、並びに、蛍幼虫1の採食状態を示す概略斜視図である。この容器50は、上記各実施形態の各部と対応する、開口部50a、収容空間50b、餌収容部50c、壁材51、外端部51a、開口縁51b、内面段差51c、外側面51fを備えている。この容器50は、開口部50aから外端部51aに向けて徐々に縮径する円錐台状の外形を備えている。この実施形態の容器50でも外側面51fを粗面化することによって、蛍幼虫1が容易に開口部50aに到達できるように構成される。
【0043】
多数の蛍幼虫1は開口部50aから頭部1xを収容空間50b内に挿入し、頭部1xから消化液を出しながら、溶かされた餌を吸収する。このとき、多数の蛍幼虫1の体で容器50が栓をされたのと同様の状態になり、消化液や餌液が容器50の外部に漏出することが防止される。また、蛍幼虫1の尾部1yは容器50の外部に出るので呼吸に支障はない。この図6に示された蛍幼虫1の採食の様子は、上述の各実施形態に示した他の容器を用いる場合でも同様である。
【0044】
図7は、蛍幼虫を飼育するための蛍幼虫飼育装置60の実施形態を示す概略斜視図である。この装置60は、水槽61と、この内部に収容される蛍幼虫給餌容器50とを含む。ここで、容器50の代わりに上述のいずれの容器を用いてもよい。水槽61の内部には、蛍の生息域に見られる、蛍の飼育に適した良質の土62を敷き詰めるとともに水63を張り、土62の少なくとも一部が水63上に出る陸地が構成されるようにする。なお、水槽61の内部もしくは外部には、水63を浄化するための図示しない浄化システム(浄化フィルタ及びエアポンプ又は循環ポンプなど)を設けることが好ましい。
【0045】
上記水槽61内の水63中には図示しない蛍幼虫を入れて飼育する。そして、餌を収容した容器50を水中に投入することによって蛍幼虫に給餌を行う。このようにすると、蛍幼虫の成育がきわめて早くなり、しかも、水質の悪化が抑制されるので、水換えやフィルタの交換を頻繁に行う必要がなくなる。蛍幼虫が充分に成育すると、周囲を暗くすることによって幼虫が陸地に上がり、土62中にて蛹化する。その後、蛹が充分に成育すると、高温多湿で暗いときに成虫になって土62内から出現し、蛍光を発しながら乱舞することになる。
【0046】
尚、本発明の蛍幼虫の飼育方法、蛍幼虫給餌容器、蛍幼虫飼育装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記の各実施形態ではいずれも一つの開口部及び収容空間を備えたものを例示してあるが、開口部及びこれにより開口する収容空間の組を複数組備えた一体の給餌容器を構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】第1実施形態の蛍幼虫給餌容器の構造を示す概略斜視図。
【図2】第1実施形態の容器の縦断面図(a)及び横断面図(b)。
【図3】第2実施形態の蛍幼虫給餌容器の概略斜視図。
【図4】第3実施形態の蛍幼虫給餌容器の概略縦断面図。
【図5】第4実施形態の蛍幼虫給餌容器の概略縦断面図。
【図6】第5実施形態の蛍幼虫給餌容器及び採食中の蛍幼虫を示す概略斜視図。
【図7】蛍幼虫飼育装置の概略斜視図。
【符号の説明】
【0048】
10…蛍幼虫給餌容器、10a…開口部、10b…収容空間、10c…餌収容部、11…壁材、11a…外端部、11b…開口縁、11c…内面段差、11x、11y…開口縁部、60…蛍幼虫飼育装置、61…水槽、62…土、63…水、1…蛍幼虫、1x…頭部、1y…尾部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を備えた容器内に餌を収容し、これを水中に配置して蛍幼虫に給餌することを特徴とする蛍幼虫の飼育方法。
【請求項2】
前記容器は、一側が前記開口部にて開口し、他側が閉塞してなる収容空間を備えていることを特徴とする請求項1に記載の蛍幼虫の飼育方法。
【請求項3】
前記開口部の円換算直径を3〜10mmの範囲内とすることを特徴とする請求項2に記載の蛍幼虫の飼育方法。
【請求項4】
前記容器の前記開口部から見た最大深さを3〜12mmの範囲内とすることを特徴とする請求項3に記載の蛍幼虫の飼育方法。
【請求項5】
開口部と、一側が前記開口部にて開口し、他側が閉塞してなる収容空間とを備えていることを特徴とする蛍幼虫用給餌容器。
【請求項6】
前記収容空間の奥部には餌収容部が設けられ、該餌収容部の前記開口部側には餌保持用の内面段差が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の蛍幼虫用給餌容器。
【請求項7】
前記収容空間は、前記開口部から奥部へ向けて徐々に断面積が縮小する形状を備えていることを特徴とする請求項5又は6に記載の蛍幼虫用給餌容器。
【請求項8】
前記開口部は、同一平面上に配置されない開口縁形状を備えていることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一項に記載の蛍幼虫用給餌容器。
【請求項9】
前記一側から前記他側へ向けて漸次断面積の縮小する外形を備えていることを特徴とする請求項5乃至8のいずれか一項に記載の蛍幼虫用給餌容器。
【請求項10】
前記他側の外端部は突出形状を有することを特徴とする請求項5乃至9のいずれか一項に記載の蛍幼虫用給餌容器。
【請求項11】
外面が粗面化されていることを特徴とする請求項5乃至10のいずれか一項に記載の蛍幼虫用給餌容器。
【請求項12】
前記開口部の円換算直径が3〜10mmの範囲内にあることを特徴とする請求項5乃至11のいずれか一項に記載の蛍幼虫用給餌容器。
【請求項13】
前記開口部から見た最大深さが3〜12mmの範囲内にあることを特徴とする請求項11乃至14のいずれかに記載の蛍幼虫用給餌容器。
【請求項14】
請求項5乃至13のいずれか一項に記載の蛍幼虫用給餌容器と、該蛍幼虫用給餌容器を収容する水槽とを具備することを特徴とする蛍幼虫用飼育装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−345804(P2006−345804A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−178045(P2005−178045)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(595056435)有限会社グッピー (2)
【出願人】(393022768)日本動物薬品株式会社 (9)