説明

血中GIP濃度上昇抑制剤

【課題】血中GIP濃度上昇抑制剤及び肥満の予防・改善剤を提供する。
【解決手段】ポリグルタミン酸を有効成分として含有する血中GIP濃度上昇抑制剤及び肥満の予防・改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中GIP濃度上昇抑制剤及び肥満の予防・改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ガストリック インヒビトリー ポリペプチド(Gastric inhibitory polypeptide)、別名グルコースディペンデント インスリノトロピック ポリペプチド(glucose-dependent insulinotrophic polypeptide)(以下、GIPと略す)は、消化管ホルモンの一つであり、摂食時に小腸に存在するK細胞から分泌される。GIPには、胃酸分泌抑制作用や胃運動抑制作用が知られている(非特許文献1〜3参照)。
また、GIPは、膵β細胞からのインスリン分泌を促進し、インスリン存在下でのグルコースの脂肪細胞への取り込みを亢進することが知られている。そのため、GIPの作用が肥満の一要因になっているとも考えられ、事実、GIPの機能を阻害すると、肥満が抑制されるとの報告がある(非特許文献4参照)。
さらに、GIPはインスリン抵抗性の一因となることが報告されている(非特許文献4参照)。インスリン抵抗性を発症すると、インスリンによる糖の吸収作用が低下し、その結果、高インスリン血症を引き起こす。高インスリン血症は、肥満をはじめとする様々な生活習慣病の発症につながる根本的な原因であるとも言われており、インスリン抵抗性の予防・改善は生活習慣病のリスク軽減の面からも重要である。
【0003】
このように、GIPを効果的に抑制することができれば、消化促進、胃もたれの改善、肥満やインスリン抵抗性の予防・改善等の効果が期待できる。
これまでの研究によって、GIPの機能を阻害する物質として、3−ブロモ−5−メチル−2−フェニルピラゾロ[1,5−a]ピリミジン−7−オール(BMPP)やピラゾロピリミジン化合物が知られている。また、食後GIPの分泌を抑制するものとして、グアガム等が知られている(特許文献1及び2、非特許文献5〜10参照)。しかしながら、これらの物質は、安全性や効果の面で十分とはいえない。
【0004】
一方、ポリグルタミン酸は、その保水力の高さから保湿剤、吸収剤等として食品、医療、化粧品等の分野において広く使用されており、安全性の高い生分解性ポリマーとして注目されている。その他、ポリグルタミン酸には、小腸からのカルシウム吸収促進作用や血圧上昇抑制作用があることが報告されている(例えば、特許文献3、4参照)。また、血糖値上昇を抑制するために、ポリグルタミン酸を用いた血糖値改善剤が提案されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第01/87341号パンフレット
【特許文献2】特開2006−213598号公報
【特許文献3】特開平5−95767号公報
【特許文献4】特開2008−255063号公報
【特許文献5】特開2005−200330号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.C.Brownら、Canadian J Physiol Pharmacol. 1969 47:113-114
【非特許文献2】J.M.Falkoら、J.Clin Endocrinol Metab. 1975 41(2):260-265
【非特許文献3】織田敏次ら、消化管 機能と病態、1981年、中外医学社、P205−216
【非特許文献4】Miyawaki Kら、NAT Med.2002 Jul;8(7):738-42
【非特許文献5】Gagenby S Jら、Diabet Med.1996 Apr;13(4):358-64
【非特許文献6】Ellis PRら、Br J Nutr.1995 Oct;74(4):539-56
【非特許文献7】Simoes Nunes Cら、Reprod Nutr. Dev.1992;32(1):11-20
【非特許文献8】Morgan LMら、Br J Nutr.1990 Jul;64(1):103-10
【非特許文献9】Requejo Fら、Diabet Med.1990 Jul;7(6):515-20
【非特許文献10】Morganら、Br J Nutr.1985 May;53(3):467-75
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、医薬又は食品用途として有用な血中GIP濃度上昇抑制剤及び肥満の予防・改善剤を提供することを課題とする。具体的には、本発明は、食後に血中GIP濃度が上昇した結果引き起こされる、胃もたれの発症リスクの低下・予防・改善・緩和・処理、消化の促進、または肥満やインスリン抵抗性の発症リスクの低下・予防・改善・緩和・処理のための医薬又は非医薬用途である食品用途として有用な血中GIP濃度上昇抑制剤、及び肥満の予防・改善剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。その結果、ポリグルタミン酸に血中GIP濃度の上昇を抑制する効果があることを見い出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0009】
本発明は、ポリグルタミン酸を有効成分として含有する血中GIP濃度上昇抑制剤及び当該剤を含有する肥満の予防・改善用組成物に関する。
また、本発明は、ポリグルタミン酸を有効成分として含有する肥満の予防・改善剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の血中GIP濃度上昇抑制剤によれば、血中のGIP濃度上昇、特に食後における血中GIP濃度の上昇を抑制することができる。さらに、本発明の血中GIP濃度上昇抑制剤は、血中のGIP濃度上昇を効果的に抑制することで、胃もたれの発症リスクの低下・予防・改善・緩和・処理、消化の促進、および肥満やインスリン抵抗性の発症リスクの低下・予防・改善・緩和・処理に有用である。
本発明の血中GIP濃度上昇抑制剤は、特に肥満の予防・改善のために好適に用いられる。本発明の血中GIP濃度上昇抑制剤及び肥満の予防・改善剤は、体重増加を抑制、特に脂質を多く含む食事を摂取した後の体重増加を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の血中GIP濃度上昇抑制剤及び肥満の予防・改善剤は、ポリグルタミン酸を有効成分として含有する。本発明で用いられるポリグルタミン酸の構造式は、(-NH-CH(COOH)-CH2-CH2-CO-)nで表される。
後述の実施例で示すように、ポリグルタミン酸は、血中のGIP(Gastric inhibitory polypeptide又はglucose-dependent insulinotrophic polypeptide)濃度上昇を有意に抑制する作用を有する。そのため、当該ポリグルタミン酸は、血中のGIP濃度上昇抑制剤として使用することができ、また、GIP上昇抑制剤を製造するために使用することができる。また、ポリグルタミン酸は、血中GIP濃度上昇によって起こる体重増加(肥満)を効果的に抑制する作用を有する。そのため、当該ポリグルタミン酸は、肥満の予防・改善剤として使用することができ、また、肥満の予防・改善剤を製造するために使用することができる。
ポリグルタミン酸に血中GIP濃度の上昇を抑制する作用があることは今まで知られていなかった。また、ポリグルタミン酸に肥満やインスリン抵抗性の予防・改善効果があることも知られていない。
【0012】
本発明の血中GIP濃度上昇抑制剤は、特に、食後の血中GIP濃度上昇を抑制するために好適に用いることができる。具体的には、脂質及び糖質を共に含む食事を摂取した後の血中GIP濃度上昇を好適に抑制することができる。より好ましくは、脂質及び糖質を共に含む食事のなかでも、特に脂質を多く含む食事、さらには脂質としてトリアシルグリセロールを多く含む食事を摂取した後の血中GIP濃度上昇を抑制するために用いることができる。また、本発明の血中GIP濃度上昇抑制剤は、血中GIP濃度上昇によって起こる体重増加(肥満)を効果的に抑制できるため、肥満の予防・改善のために用いることができる。そのため、本発明の血中GIP濃度上昇抑制剤を肥満の予防・改善剤として、又は当該剤を含有する肥満の予防・改善用組成物として用いることができる。これらの剤及び組成物は、特に、脂質を多く含む食事を摂取した後の体重増加を予防・改善する効果に優れる。
食事中に含まれるトリアシルグリセロールを多く含む脂質成分としては特に制限はなく、例えば、トリアシルグリセロールを多く含む脂質成分として、バター、ラード、魚油、コーン油、なたね油、オリーブ油、ごま油などが挙げられる。
食事中に含まれる糖質成分についても特に制限はなく、例えば、米飯、澱粉、小麦粉、砂糖、果糖、ぶどう糖、グリコーゲンなどが挙げられる。
また、上記脂質及び糖質の摂取量としては、通常の食事に含まれる範囲の摂取量であれば特に制限されない。
本発明において、「血中GIP濃度上昇抑制」とは、主として、食後に生じる血中GIP濃度上昇を抑制することをいう。そして、本発明における「血中GIP濃度上昇抑制作用」は、消化管からのGIP分泌を抑制することで血中GIP濃度上昇を抑制するGIP分泌抑制作用、及び血中GIP濃度を低下させることにより血中GIP濃度上昇を抑制するGIP低下作用のいずれをも含む概念である。
【0013】
後述の実施例に示すように、本発明のポリグルタミン酸の血中GIP濃度上昇抑制効果は、ポリグルタミン酸の分子量に関わらず全般的に認められたが、ポリグルタミン酸の分子量がある程度大きいほうがよりGIP濃度上昇抑制効果に優れている。
そのため、より効果的に血中GIP濃度上昇を抑制し、肥満を予防・改善するためには、本発明において用いられるポリグルタミン酸の分子量として、重量平均分子量が約9,000以上であることが好ましく、28,000以上であることがより好ましい。
一方で、本発明の血中GIP濃度上昇抑制剤又は肥満の予防・改善剤を経口用液体製剤の形態で用いる場合には、製造面、及び飲用時の喉ごし、ぬるつき、嚥下のしやすさなどから、その粘度が比較的低い方が好ましい。そのため、ポリグルタミン酸の重量平均分子量の上限は約5,000,000であるのが好ましく、約800,000であるのがより好ましい。従って、血中GIP濃度上昇抑制効果、肥満の予防・改善効果の面からは、ポリグルタミン酸の重量平均分子量は9,000〜5,000,000であるのが好ましく、28,000〜5,000,000であるのがより好ましい。粘度の面からは、ポリグルタミン酸の重量平均分子量は9,000〜5,000,000であるのが好ましく、9,000〜800,000であるのがより好ましい。血中GIP濃度上昇抑制効果、肥満の予防・改善効果と粘度の両面からは、ポリグルタミン酸の重量平均分子量は9,000〜5,000,000であるのが好ましく、28,000〜800,000であるのがより好ましい。なお、重量平均分子量の測定は、例えば、ゲルろ過カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーにより行うことができる。
【0014】
本発明において使用されるポリグルタミン酸は、化学的合成によって製造することも、微生物によって生産することも可能であり、市販品を使用することもできる。また、ポリグルタミン酸を構成するグルタミン酸の光学活性はD体でもL体どちらでもよく、その混合物でもよい。天然のポリグルタミン酸は、グルタミン酸がγ位で結合した重合体であり、野生型でポリグルタミン酸を生産する微生物としては、例えば、納豆菌を含む一部のバチルス(Bacillus)属細菌とその近縁種(Bacillus subtilis var.chungkookjangBacillus licheniformisBacillus megateriumBacillus anthracisBacillus halodurans)や、Natrialba aegyptiacaHydra等を挙げることができる(Ashiuchi,M.,et al.:Appl.Microbiol.Biotechnol.,59,pp.9-14(2002))。また、遺伝子組換え技術を用いたポリグルタミン酸の生産例としては、プラスミドにて遺伝子導入された組換え枯草菌(Bacillus subtilis ISW1214株)において約9g/L/5日(Ashiuchi,M.,et al.:Biosci.Biotechnol.Biochem.,70,pp.1794-1797(2006))、プラスミドにて遺伝子導入された組換え大腸菌において約4g/L/1.5日(Jiang,H.,et al.:Biotechnol.Lett.,28,pp.1241-1246(2006))の生産性が得られることが知られている。さらに、ポリグルタミン酸は、食品添加物、化粧品素材及び増粘剤等として商業的に生産されており、国内及び海外のポリグルタミン酸メーカーが供給するポリグルタミン酸を購入することもできる(例えば、国内メーカー:日本ポリグル、一丸ファルコス、明治フードマテリア等、海外メーカー:バイオリーダース等)。
【0015】
また、本発明においてポリグルタミン酸は、その塩であってもよい。この場合、塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、エタノールアミン塩、塩基性アミノ酸塩などが挙げられ、医薬又は食品用途として使用できるものならば特に制限はない。
【0016】
本発明において、前記ポリグルタミン酸はそのまま血中GIP濃度上昇抑制剤又は肥満の予防・改善剤として用いてもよい。または、ポリグルタミン酸に、例えば酸化チタン、炭酸カルシウム、蒸留水、乳糖、デンプン等の適当な液体または固体の賦形剤または増量剤を加えて用いてもよい。この場合、ポリグルタミン酸の配合量は特に制限されないが、血中GIP濃度上昇抑制剤又は肥満の予防・改善剤中0.01〜100質量%含まれるのが好ましく、0.1〜80質量%含まれるのが特に好ましい。
【0017】
本発明の血中GIP濃度上昇抑制剤又は肥満の予防・改善剤を食品や医薬品等の用途に用いる場合、ポリグルタミン酸を単体でヒト及び動物に、消化管内投与、腹腔内投与、血管内投与、皮内投与、皮下投与等により投与できる他、各種食品、医薬品、ペットフード等に配合して摂取することができる。食品としては、一般食品のほか、胃もたれの発症リスクの低下・予防・改善・緩和・処理、消化促進、および肥満やインスリン抵抗性の発症リスクの低下・予防・改善・緩和・処理をコンセプトとし、必要に応じてその旨表示した美容食品、病者用食品、特定保健用食品等の食品に応用できる。医薬品として使用する場合は、例えば、錠剤、顆粒剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤とすることができる。
【0018】
なお、経口用固形製剤を調製する場合には、ポリグルタミン酸に、賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。また、経口用液体製剤を調製する場合は、矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯味剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。
【0019】
上記各剤中のポリグルタミン酸の配合量は特に制限されないが、0.01〜100質量%含まれるのが好ましく、0.1〜80質量%含まれるのが特に好ましい。
上記各剤中の有効投与(摂取)量は、ポリグルタミン酸として、1日当たり0.001g/kg体重〜1.0g/kg体重とするのが好ましい。また、本発明の血中GIP濃度上昇抑制剤及び肥満の予防・改善剤は食前・食中・食後に用いることができるが、食前もしくは食中に用いることが好ましい。
投与又は摂取対象者としては、それを必要としている者であれば特に限定されないが、空腹時血糖値が100mg/dL以上、あるいは、又は、空腹時血中トリグリセリド値が100mg/dL以上、あるいは、又は、空腹時血中GIP値が10pg/mL以上の人が好ましい。また、肥満やメタボリックシンドローム者やその予備群も投与又は摂取対象者とし好ましい。肥満の基準としては、日本においては、標準とされるBMIは22とされているため、BMI=22以上の者が好ましく、更に、肥満の基準としては、日本においてはBMI=25以上の者が本発明対象者としてより好ましい。一方、欧米においては、肥満の基準としては、BMIが25以上は過体重とされているため、BMI=25以上の者が好ましく、更に、BMI=30以上の者が本発明対象者としてより好ましい主に該当する。メタボリックシンドロームの診断基準は、日本人の場合、男性であればウエストが85cm以上、女性であれば90cm以上の者であって、(1)血中トリグリセリドが150mg/dl以上又はHDLコレステロールが40mg/dl未満であること、(2)高血糖(空腹時血糖が110mg/dl以上)であること、(3)高血圧(130/85mHg以上)であることの3項目のうち1項目以上が当てはまる者が予備群に該当し、2項目以上が当てはまる者がメタボリックシンドロームに該当することから、これらの者が本発明の対象者として好ましい。米国の場合は、腹囲(男性で102cm以上、女性で88cm以上)、高中性脂肪、低HDL、高血圧、高空腹時血糖のうち、3つ以上を満たすものがメタボリックシンドロームに該当することから、2つ以上に該当する予備群のものを含め、これらの者が本発明の対象者として好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0021】
製造例1 重量平均分子量190,000のポリグルタミン酸の調製
重量平均分子量800,000の市販のポリグルタミン酸(明治フードマテリア製)を初発材料として3(w/w)%水溶液を500mL作製し、塩酸にてpH2に調整後、70℃で恒温した。恒温開始から3時間後に水酸化ナトリウム水溶液にてpH7に中和し、続いて、排除限界300kの限外濾過膜(型番:PBMK、ミリポア製)を用いて濃縮した。この際、濃縮前試料の3倍量の蒸留水にて適宜加水洗浄を行ない、10倍濃縮したものを凍結乾燥に供した。凍結乾燥後の試料は後述の測定例に示すHPLC法にて分子量を求めた。その結果、重量平均分子量190,000のポリグルタミン酸が1.7g得られた。
【0022】
製造例2 重量平均分子量70,000のポリグルタミン酸の調製
重量平均分子量800,000の市販のポリグルタミン酸(明治フードマテリア製)を初発材料として3(w/w)%水溶液を500mL作製し、塩酸にてpH2に調整後、70℃で恒温した。恒温開始から6時間後に水酸化ナトリウム水溶液にてpH7に中和し、続いて、排除限界100kの限外濾過膜(型番:PBHK、ミリポア製)を用いて濃縮した。この際、濃縮前試料の3倍量の蒸留水にて適宜加水洗浄を行ない、10倍濃縮したものを凍結乾燥に供した。凍結乾燥後の試料は後述の測定例に示すHPLC法にて分子量を求めた。その結果、重量平均分子量70,000のポリグルタミン酸が8.3g得られた。
【0023】
製造例3 重量平均分子量28,000のポリグルタミン酸の調製
重量平均分子量800,000の市販のポリグルタミン酸(明治フードマテリア製)を初発材料として3(w/w)%水溶液を500mL作製し、塩酸にてpH2に調整後、70℃で恒温し、その後、開始8時間以降は90℃に変更した。恒温開始から11時間後に水酸化ナトリウム水溶液にてpH7に中和し、続いて、排除限界50kの限外濾過膜(型番:PBQK、ミリポア製)を用いて濃縮した。この際、濃縮前試料の3倍量の蒸留水にて適宜加水洗浄を行ない、10倍濃縮したものを凍結乾燥に供した。凍結乾燥後の試料は後述の測定例に示すHPLC法にて分子量を求めた。その結果、重量平均分子量28,000のポリグルタミン酸が6.3g得られた。
【0024】
ポリグルタミン酸の定量及び分子量測定
ポリグルタミン酸の定量及び分子量は、TSKGel G4000PWXL及びTSKGel G6000PWXLゲルろ過カラム(商品名、東ソー製)を用いたHPLC分析を用いて実施した。分析条件は溶離液に0.1M硫酸ナトリウムを使用し、流速1.0mL/分、カラム温度50℃、UV検出波長を210nmとした。また、濃度検定には分子量80万のポリグルタミン酸(明治フードマテリア製)を用いて検量線を作成した。さらに、分子量検定にはプルラン(Shodex STANDRD P-82、商品名、昭和電工製)を用いて予め重量平均分子量を求めた各種分子量の異なるポリグルタミン酸(和光純薬工業製(162-21411、162-21401)、SIGMA-ALDRICH(P-4886、P-4761)、明治フードマテリア製(分子量88万))を用いた。
【0025】
試験例1 ポリグルタミン酸の血中GIP濃度上昇抑制作用
ポリグルタミン酸(PGA)として、重量平均分子量9,000、350,000、800,000(明治フードマテリア製)及び重量平均分子量28,000、70,000、190,000(製造例1〜3で調製)の6種類の試料を用いた。
また、8週齢の雄性マウス(C57BL/6J Jcl:日本クレア製)を各群5匹ずつ用いて下記の実験を行った。
【0026】
1.経口投与サンプルの調製
グルコース(関東化学製)とトリオレイン(Glyceryl trioleate:Sigma製)をレシチン(卵製、和光純薬製)とアルブミン(ウシ血清由来、Sigma製)を用いて乳化し、乳液を調製した。この乳液に、ポリグルタミン酸試料を添加し、最終濃度がポリグルタミン酸試料5(w/w)%、グルコース5(w/w)%、トリオレイン5(w/w)%、乳化剤(レシチン0.2(w/w)%、アルブミン1.0(w/w)%)となるよう、経口投与サンプルを調製した。なお、コントロールサンプルとして、ポリグルタミン酸の代わりに水を添加したサンプルを調製した。
【0027】
2.経口投与試験
一晩絶食させたマウスをエ−テル麻酔下、眼窩静脈よりヘパリン処理ヘマトクリット毛細管(VITREX製)を用い、初期採血を行った。その後、経口投与サンプルを経口ゾンデ針にて経口投与し、10分、30分、1時間、2時間後にエーテル麻酔下、眼窩静脈より採血を行った。マウスに対する経口投与量を下記の表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
ヘパリン処理ヘマトクリット毛細管で採取した血液は血漿分離まで氷冷下で保存後、11000rpmにて5分間遠心し、血漿を得た。得られた血漿から、Rat/Mouse GIP(Total)ELISAキット(Linco Research/Millipore co.製、ELISA法)を用いて血中GIP濃度を測定した。
サンプル経口投与後の2時間後までの血中GIP濃度を測定した結果、血中GIPの濃度が最大となるのは投与後10分後であることがわかった。そこで、血中GIP濃度の最大値(投与10分後)と初期値(初期採血時)の差(Δ値)を最大GIP濃度上昇と定義し、表2に示した。
【0030】
得られた最大GIP濃度上昇の値をもとに、群間の統計学的有意差についても検討し、表2に示した。各群間の有意差は、分散分析によって有意性(P<0.05)が認められた場合、多重比較検定(Bonferroni/Dunn法)により、コントロール群に対するポリグルタミン酸(重量平均分子量:9,000、28,000、70,000、190,000、350,000、及び800,000)投与群の間での検定を行った。得られた結果から、P<0.05を有意な差として、有意性を判断した。
【0031】
【表2】

【0032】
表2に示す結果から明らかなように、ポリグルタミン酸(重量平均分子量:9,000、28,000、70,000、190,000、350,000、及び800,000)の最大GIP濃度上昇は、いずれもコントロール投与群に比べて低かった。特に、重量平均分子量28,000、70,000、190,000、350,000、800,000のポリグルタミン酸は、コントロール群に比べて最大GIP濃度上昇が有意に低く、分子量が大きいポリグルタミン酸のほうが、よりGIP上昇抑制効果にすぐれることがわかった。
また、前述のように、GIPは胃酸分泌抑制作用や胃運動抑制作用、インスリン存在下でのグルコースの脂肪細胞への取り込み亢進、インスリン抵抗性の誘引といった働きを担っていることが知られている。そのため、前記ポリグルタミン酸は、血中GIP濃度の上昇を効果的に抑制することで、消化促進、胃もたれの予防・改善、肥満やインスリン抵抗性の予防・改善に好適に用いることができる。
【0033】
試験例2 ポリグルタミン酸の体重増加抑制作用
7週令の雄性マウス(C57BL/6J、Jcl:日本クレア製)を1群8〜12匹とし、ポリグルタミン酸(重量平均分子量350,000)を用いて、表3に示す配合で調製した食餌(低脂肪食、高脂肪食、ポリグルタミン酸含有高脂肪食)を自由摂餌させて飼育した。7週間飼育後のマウスの体重増加量を表4に示した。各群間の有意差は、分散分析によって有意差(P<0.05)が認められた場合、多重比較検定(Bonferroni/Dunn法)により、高脂肪食群に対するポリグルタミン酸含有高脂肪食群の間での検定比較を行った。得られた結果から、P<0.05を有意な差として、有意性を判断した。
【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
表4に示す結果から明らかなように、低脂肪食及びポリグルタミン酸含有高脂肪食は、高脂肪食を自由摂餌させた群と比較して有意に体重増加が少なかった。また、マウス7週飼育後の高脂肪食摂餌での総摂餌量(116.67±2.13 g)と、ポリグルタミン酸含有高脂肪食での総摂餌量(111.45±3.52 g)に有意な差は認められなかった。
これらの結果から、ポリグルタミン酸は、継続摂取することによって体重増加を有意に抑制でき、肥満の改善・予防に有用であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグルタミン酸を有効成分として含有する血中GIP濃度上昇抑制剤。
【請求項2】
請求項1記載の血中GIP濃度上昇抑制剤を含有する肥満の予防・改善用組成物。
【請求項3】
ポリグルタミン酸を有効成分として含有する肥満の予防・改善剤。

【公開番号】特開2011−37842(P2011−37842A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161231(P2010−161231)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】