説明

血小板のインヒビターにより誘発される凝固障害を治療するためのフォン・ヴィレブランド因子または第VIII因子およびフォン・ヴィレブランド因子

本発明は、血小板を阻害する物質により誘発される血小板障害と関連する出血性イベントの治療および/または予防に使用するためのフォン・ヴィレブランド因子に関する。さらに、本発明は、血小板を阻害する物質により誘発される血小板障害と関連する出血性イベントに関係する障害を治療および/または予防する方法であって、薬学的有効量のフォン・ヴィレブランド因子(vWF)をその必要がある患者に投与することを含む、上記方法に関する。本発明はまた、血小板を阻害する物質により誘発される血小板障害と関連する出血性イベントの治療および/または予防に使用するための、同時の、別々の、または逐次的な使用のためのvWFを含む組成物およびFVIIIを含む組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血小板を阻害する物質により誘発される血小板障害(thrombopathy)と関連する出血性イベントの治療および/または予防に使用するためのフォン・ヴィレブランド因子に関する。さらに、本発明は、血小板を阻害する物質により誘発される血小板障害と関連する出血性イベントに関連する障害を治療および/または予防する方法に関し、該方法は、薬学的有効量のフォン・ヴィレブランド因子(vWF)をその必要がある患者に投与することを包含する。本発明はまた、血小板を阻害する物質により誘発される血小板障害と関連する出血性イベントの治療および/または予防に使用するための、同時の、別々の、または逐次的な使用のためのvWFを含む組成物およびFVIIIを含む組成物に関する。
【0002】
この明細書において、特許出願および製造業者のマニュアルを含む多数の文書が引用される。本発明の特許性に関連すると考えられないが、これらの文書の公開は、その全体が参考により本明細書に加入される。すなわち、個々の文書が参照により加入されることを具体的かつ個別に示されるように、全ての参考文書は同程度に参照により加入される。
【背景技術】
【0003】
凝固系または線溶系の成分の不均衡により、それぞれ、臨床的に血栓症または出血のいずれかが現れる。両方の病的状態は、生命を脅かし得る。血栓事象後、例えば、急性心筋梗塞の間、これは実際の溶解と凝固のバランスに介入しようとする。線溶系は、現存の血塊を溶解するために、例えば、ストレプトキナーゼ(SK)またはプラスミノーゲンアクチベータ(t−PA、uPA)の投与により支持される。血小板活性化は、血小板インヒビターにより阻害または低下される。それにより、血栓により閉じられた血管は再疎通され、そして新しい血栓の形成を妨げる。血小板機能のインヒビターは、異なる部位で作用し得る。シクロオキシゲナーゼのインヒビター(例えば、アセチルサリチル酸)は、血小板機能の強力なアクチベータであるトロンボキサンA2(TXA2)の形成を妨げる。血小板表面上のADP−受容体のアンタゴニスト(例えば、クロピドグレル(Clopidrogel)、チクロピジン(Ticlopidin))は、血小板アクチベータADPのその受容体への結合を妨げ、そして血小板の活性化を妨げる。血小板表面上のフィブリノゲン受容体、糖タンパク質IIb/IIIa(GP IIb/IIIa)は、そのアゴニストフィブリノゲン(またはvWF)の結合後、血小板の凝集を誘導する。GP IIb/IIIa(例えば、アブシキマブ)に対するモノクローナル抗体またはエプチフィバチドまたはチロフィバンのような受容体アンタゴニストもまた、血小板の凝集を妨げる。
【0004】
他方では、血管病変後に血栓を形成する潜在能力は、これらの位置で出血を妨げるのに必要とされる。血小板インヒビターを用いる治療の間、生命に関わる出血の恐れのある治療は、この治療の中断および凝固エンハンサーの投与を含む。このような凝固エンハンサーは、特に、市販品のFEIBA(R)(Baxter)または組み換え凝固因子VIIa(NovoSeven(R)、Novo Nordisk)において見られるような部分的に予め活性化された凝固因子からなる。そもそも、これらの凝固エンハンサーは、血小板阻害の治療効果の低下をもたらす。Dickneite et al.(非特許文献1、非特許文献2)は、組み換えトロンビンインヒビターヒルジンにより誘発される出血性イベントの間の凝固エンハンサーとしてのvWFおよびHaemate(R)(CSL Behring)の使用を記載する。
【0005】
臨床において、抗凝固および線溶効果についての定量的尺度は、トロンボエラストグラフィー、トロンビン生成アッセイ、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)またはプロトロンビン時間(PT)のような種々の診断法である。実験的設定において、激しい大出血の阻止を評価するための方法は、外傷後の器官出血である(非特許文献3)。
【0006】
血管病変後の止血発生に関する機構的研究によれば、血小板は、主に、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)を介して、内皮細胞下のコラーゲン線維に結合する。vWFは、露出したコラーゲンへの結合により、低せん断速度(例えば、静脈領域中)ならびに高せん断速度(例えば、動脈、管状動脈領域中または血管狭窄を引き起こすプラーク中)で効率的に血小板に結合する能力を有する唯一の因子である(非特許文献4)。それに続く血小板の凝集および続くトロンビンの作用により凝集した血小板の退縮および収縮が、二次止血(heamostasis)の間に止血血栓を誘導する(非特許文献5)。
【0007】
現在のところvWFは、公知の最も大きな血漿タンパク質である。これは、2つの生物学的特性を有する多量体糖タンパク質である。局所血管損傷のときに、これは血小板粘着を仲介し、続いて血栓を形成させ、そして前凝固性(procoagulatory)凝固因子VIIIの担体として作用する(非特許文献6)。一定量のvWFが第VIII因子を含まない形態で内皮下細胞中に見出され、そして血小板のα微粒中に第VIII因子を含まない形態で貯蔵されている。血小板は、vWFのための2つの受容体を有する:第一にGP Ib−IX−V複合体中のGP Ibおよび第二にGP IIb−IIIa(非特許文献7)。その第一の受容体により、vWFは、血管損傷部位での血小板粘着を誘導し(この粘着はvWFおよび/またはフィブリノゲンがGP IIb/IIIa受容体に結合することで持続される)、そして続く血小板凝集を支持する。この背景に従って、抗凝固薬についての原理としてvWFを結合するインヒビターの使用について文献中で論じられている(非特許文献8;非特許文献9)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Dickneite G,Friesen H.−J.,Kumpe G,Reers M,1996 Platelets 7,283−290
【非特許文献2】Dickneite G,Nicolay U,Friesen H.−J.,Reers M,1998 Thromb Haemost 80,192−8
【非特許文献3】Dickneite G,Doerr B,Kaspereit F,2008 Anesth Analg 106,1070−7
【非特許文献4】Ruggeri ZM,Seminars in Hematology,1994,31,229−239
【非特許文献5】Hemker HC,and Poliwoda H,1993,1−18,Barthels M and Polidowa H,Thieme,Stuttgart,Germany
【非特許文献6】Ruggeri ZM,1993 Current Opinion in Cell Biology,5,898−906
【非特許文献7】Ruggeri ZM,1994 Seminars in Hematology 31,229−239
【非特許文献8】Alevriadou BR,Moake JL,Turner NA,Ruggeri ZM,Folie BJ,Phillips MD,Schreiber AB,Hrinda ME,McIntire IV,1993,Blood 81,1263−1276M
【非特許文献9】Grainick HR,Williams S,McKeown L,Kramer W,Krutzsch H,Gorecki M,Pinet A Garfinkel LI,1992 Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89,7880−7884
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
血小板インヒビターの投与後の大出血の有害事象を軽減または予防するための高度な医学的必要性がなお存在する。従って、本発明の根本的な技術的課題は、血小板を阻害する物質の投与によって誘発される出血性イベントを首尾よく治療する手段および方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この技術的課題の解決は、特許請求の範囲において特徴付けられる実施形態を提供することにより達成される。
【0011】
意外にも、血小板を阻害する物質の投与中または投与後、出血または大出血の有害事象は、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)の投与後、軽減されたことが見出されている。従って、vWF含有医薬組成物の適切な補充は、抗血小板薬治療に続く増大した出血の有害事象を拮抗する。従って、抗凝固効果または線維素溶解効果をもたらす有害事象は、軽減または予防される。患者における出血の危険性を減らすために、vWFは、予防的にまたは抗血小板治療に続いて投与され得る。
【0012】
従って、本発明は、血小板を阻害する物質により誘発される凝血障害、特に、血小板障害に関する出血性イベントを治療および/または予防するためのフォン・ヴィレブランド因子(vWF)に関する。
【0013】
本発明に従う用語「血小板障害」とは、血小板の数が正常または最低限度の変化である一方で、血小板の機能が不全であることをいう。これは、血液中に比較的少ない数の血小板が存在する場合の血小板減少症(thrombocytopenia)(血小板減少症(thrombopenia)としてもまた公知)に対する際立った特色として見られ得る。血小板障害に関して、血小板の機能を制限する多数の医薬(例えば、アセチルサリチル酸、ジクロフェナク、ヘパリン、ペニシリンなど)が存在する。血小板障害はまた、血小板症(thrombocytopathy)としても公知であり、この用語は本明細書中で同様に使用される。
【0014】
血漿凝固に関して、血小板は2つの重要な特徴または機能を有する:一方では、内皮下層への粘着、および他方では、互いに対する凝集。本発明に従って、用語「血小板を阻害する物質」とは、血小板の凝集を阻害する物質をいう。一般に、これらの(theses)物質はまた、血小板インヒビターまたは抗血小板薬または血小板凝集インヒビターとして公知であり、そして特に、動脈中の血栓の増殖を予防するために患者に投与される、すなわち、これらは例えば、脳卒中、心筋梗塞(myocardial infaction)または別の関連疾患を予防するために投与される。
【0015】
従って、本発明に従う用語「血小板を阻害する物質により誘発される血小板障害」とは、血小板の数が正常または最低限度の変化である一方で、血小板の凝集の機能が不全であることをいう。対称的に、血小板減少症は、血小板の数の減少をいう。血小板障害は、血小板の凝集を阻害する1、2またはそれ以上の物質により誘発される。好ましくは、これらの物質は、シクロオキシゲナーゼおよび/またはADP受容体を阻害する。
【0016】
本明細書中で使用される場合、用語「血小板障害」は、好ましくは、血小板膜糖タンパク質(GP)IIb/IIIaの機能不全により誘発される血小板無力症(グランツマン血小板無力症)またはGP Ibの機能不全により誘発されるベルナール・スーリエ症候群のような遺伝病を含まない。血小板無力症は、特に、血餅退縮障害により、そしてしばしば出血時間延長により特徴付けられる血小板の遺伝性異常である。
【0017】
本発明はさらに、血小板を阻害する物質により誘発される血小板障害と関連する出血性イベントに関係する障害を治療および/または予防する方法であって、薬学的有効量のフォン・ヴィレブランド因子(vWF)をその必要がある患者に投与することを含む。
【0018】
フォン・ヴィレブランド因子の使用または本発明の方法の好ましい実施形態において、vWFは、第VIII因子/フォン・ヴィレブランド因子(FVIII/vWF)の組み合わせ物として、第VIII因子と組み合わせて使用または投与される。
【0019】
好ましくは、vWFまたはFVIII/vWFの組み合わせは、場合により、薬学的に受容可能な担体、添加物および/または賦刑剤を含む医薬組成物に製剤される。
【0020】
本明細書中で使用される場合、用語「医薬組成物」とは、患者、好ましくは、ヒト患者に投与するための組成物をいう。医薬組成物は、vWFまたはvWFとFVIIIとの組み合わせの代替混合物と考えられる。1より多い化合物が組成物中に含まれる場合、これらの化合物は、組成物中にまた含まれる他の化合物に対する阻害効果を有さないと理解される。
【0021】
前記医薬組成物は、薬学的に受容可能な担体、添加物および/または賦刑剤を含むことが好ましい。適切な薬学的担体、添加物および/または賦刑剤の例は当該分野で周知であり、そしてリン酸緩衝生理食塩水、水、乳剤(例えば、油/水乳剤)、各種の湿潤剤、滅菌用液などが挙げられる。このような担体を含む組成物は、周知の従来方法により製剤され得る。これらの医薬組成物は、適切な用量で被験体に投与され得る。適切な組成物の投与は、異なる方法で、例えば、静脈内、腹腔内、皮下または筋肉内投与で効果的であり得る。前記投与は、例えば、血流中の部位に注射および/または送達により実施されることが非常に好ましい。投薬計画は、主治医および臨床学的因子により決定される。医薬分野で周知のように、どの患者についても投薬量は多くの因子に依存し、これらの因子としては、患者の体格、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与の時間および経路、総体的な健康、ならびに併用投与される他の薬物が挙げられる。
【0022】
本発明に従う医薬組成物は、体重1kgあたり10〜1000単位vWFの用量範囲で患者に投与され得る。あるいは、FVIII/vWFの組み合わせが使用される場合、投与される用量範囲は、体重1kgあたり5〜400単位FVIIIおよび体重1kgあたり10〜1000単位vWFである。
【0023】
好ましい用量範囲は、体重1kgあたり30〜500単位vWF、あるいはFVIII/vWFの組み合わせについては、体重1kgあたり20〜200単位FVIIIおよび30〜500単位vWFの用量が投与される。
【0024】
それぞれ、vWFまたはvWFおよびFVIIIを含む医薬組成物が本発明に従って使用される場合、vWFまたはvWFおよびFVIIIを含む任意の市販品、例えば、Haemate(R)PおよびHumate(R)P(CSL Behring)(これらはvWFに加えてFVIIIもまた含む)、または他の血漿vWF製品もしくは組み換え製造vWFもしくはvWF/FVIII製品が使用され得る。
【0025】
経過は定期評価によりモニターされ得る。本発明の組成物は、局所または全身的に投与され得る。非経口投与用の製剤としては、滅菌の水溶液または非水溶液、懸濁剤、および乳剤が挙げられる。非水性溶媒の例としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えば、オリーブ油)、および注射可能な有機エステル(例えば、オレイン酸エチル)が挙げられる。水性担体としては、水、アルコール溶液/水溶液、乳剤または懸濁剤が挙げられ、生理食塩水および緩衝化媒体が挙げられる。非経口ビヒクルとしては、食塩水、ブドウ糖加リンゲル液(Ringer’s dextrose)、ブドウ糖と塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル液、または固定油が挙げられる。静脈内ビヒクルとしては、液体および栄養補充薬(nutrient replenisher)、電解質補給液(electrolyte replenisher)(例えば、ブドウ糖加リンゲル液に基づくもの)などが挙げられる。保存剤および他の添加剤、例えば、抗菌剤、酸化防止剤、キレート剤、および不活性ガスなどもまた存在し得る。
【0026】
フォン・ヴィレブランド因子の使用または本発明の方法の別の好ましい実施形態において、解毒剤として作用させるためにvWFは使用または投与される。
【0027】
本発明に従って使用される場合、用語「解毒剤」とは、血小板の低下した機能を向上させる物質をいう。従って、本発明に従う解毒剤は、標準的なアゴニスト/アンタゴニストの機能の問題ではなく、血小板を阻害する物質により低下された血小板の機能を改善する。
【0028】
本発明の好ましい実施形態において、vWFまたはFVIII/vWFは濃縮物として使用または投与される。
【0029】
別の好ましい実施形態において、vWFまたはFVIII/vWFは、ヒト血漿から単離されるか、または組み換えタンパク質として代替的に投与される。
【0030】
フォン・ヴィレブランド因子の使用または本発明の方法の好ましい実施形態において、血小板を阻害する物質は、シクロオキシゲナーゼ(cyclooxigenase)インヒビター、ADP受容体のインヒビターまたはそれらの組み合わせからなる群から選択される。より好ましい実施形態において、シクロオキシゲナーゼ(cyclooxigenase)インヒビターは、アセチルサリチル酸であり、そしてADP受容体のインヒビターはチエノピリジノ誘導体、好ましくはクロピドグレルまたはチクロピジンである。最も好ましい実施形態において、血小板を阻害する物質はアセチルサリチル酸、クロピドグレルまたはアセチルサリチル酸とクロピドグレルとの組み合わせである。
【0031】
本発明は、さらに血小板を阻害する物質の投与により誘発される出血性イベントの治療および/または予防に使用するための、同時の、別々の、または逐次的な使用のためのvWFを含む組成物およびFVIIIを含む組成物に関する。この実施形態に従って、vWFおよびFVIIIは、分割標準用量で使用または投与される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ラットクロピドグレルモデルにおける総出血量のボックスプロット(グループ1(plavix(R)対照)に対する有意性)を示すグラフである。
【図2】ラットクロピドグレルモデルにおける総出血量のKaplan−Meierプロットを示すグラフである。
【図3】多血小板血漿におけるトロンビン生成/トロンボグラム(thrombogram)に対するHaemate(R)P 200U/kgおよび新鮮なラット血小板濃縮物(1.6×109 PLT/動物)の効果を示すグラフである。
【図4】クロピドグレル/アスピリン(R)の投与後のブタにおける失血のボックスプロットを示すグラフである。
【図5】クロピドグレル/アスピリン(R)の投与後のブタにおける失血のKaplan−Meierプロットを示すグラフである。
【図6】ブタにおける血小板数に対するクロピドグレル/アスピリン(R)の投与の効果を示すグラフである。
【0033】
本発明の限定なしに、実施例により本発明を説明する。
【0034】
実施例1:
ラットクロピドグレルモデルにおける出血に対するvWFおよびFVIII 濃縮物(concentrate)(Haemate(R)P)と組み合わせた輸血ラット血小板の影響
新しく調製したラット血小板と組み合わせた120および200U/kg Haemate(R)P(i.v.)の用量が、クロピドグレル処置ラットにおける出血を減少させるかどうかを研究した。クロピドグレル処置ラットの2群は、血小板を含まないHaemate(R)P(120および200U/kg)を投与した。115ラット(+60血小板ドナー)を用いるオープン7治療群試験(open seven−armed trial)として試験デザインを行なった。投与計画を表1に要約する。
【0035】
【表1】

【0036】
ラット血小板
血小板濃縮物を調製するための血液を、深麻酔下、ドナーラットの下大静脈を穿刺することにより穏やかに採取した。血液(3.2mL)をクエン酸三ナトリウム(0.8mL)と混合した。血液サンプルを貯め、そして900RPMで30分間遠心分離した。多血小板血漿を新しい試験管に集め、そして1800〜2000RPMで15〜17分間遠心分離した。ペレットをTyrode HEPES+0.3% BSA中に穏やかに再懸濁させた。血小板収率に依存して、動物は、尾静脈中に1.6〜3×109の洗浄した血小板の静脈注射を行なった。
【0037】
動物モデル
日0および日1に、2.5mg/kgのクロピドグレル(Plavix(R))により血小板阻害/出血を誘発した。錠剤を等張生理食塩水に溶解し、そして強制経口投与した。日2に、新しく調製したラット血小板を、尾静脈にボーラス注射で輸注した。血小板輸注の前にHaemate(R)Pを直接投与した。血小板投与の15分後、失血を測定した。尾端の浸水に使用される生理食塩水中に存在するHGBを測定することにより、総出血量の体積を計算した。深麻酔下、尾端の切断をメス形のナイフで行ない、約3mmの尾端を取り除いた。損傷後直ちに、尾端を生理食塩水中に浸し、水浴を使用して、ラットの生理学的体温を維持した。出血をモニターするための観察期間は30分であった。
【0038】
出血
総出血量として失血を測定し(t=0〜30分)、そして両側正確ウイルコクソン検定(two−sided exact Wilcoxon test))、ボックスプロットおよびKaplan−Meierプロットにより解析した。クロピドグレルでの経口治療は、増加した総出血量をもたらした(図1および2、表2)。図1は、総出血量が血小板輸注を行なった群において有意に減少したことを説明する(統計は表3を参照のこと)。総出血量は、血小板単独と比較して、血小板輸注とHaemate(R)P処置との組み合わせによっては減少され得なかった。しかし、Haemate(R)Pでの単剤療法は、200U/kgの用量を投与した群における失血の有意な減少をもたらした。失血に対する影響は、120U/kgでは観察されなかった。
【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
トロンビン生成
クロピドグレルでの処置は、トロンビン生成の遅発およびピークトロンビンの減少をもたらした(図3)。Haemate(R)Pをクロピドグレル(clopigogrel)処置ラットに投与した場合、トロンビン生成の早期開始が観察されたが、ピークトロインビンは増加しなかった。血小板輸注は、トロンビンピークの増加をもたらした。血小板およびHaemate(R)Pを組み合わせた場合、相加的作用あるいは相乗効果すら見られた:ピークが増加し、そしてトロンビン生成の開始が早まった。
【0042】
実施例2:
クロピドグレルおよびアスピリンの投与後、ならびにvWFおよびFVIII濃縮物(Haemate(R)P)のさらなる注入後のブタにおける出血の経時変化。
去勢雄性ブタに1日あたり75mgのクロピドグレル(Plavix(R))を3日間にわたって強制経口投与した。3日目にアセチルサリチル酸(アスピリン(R))を200mg/kgの用量で静脈内投与した。15分後、濃縮物を含むFVIII/vWF(60単位/kgのFVIIIおよび約150 単位/kgのvWF)の静脈内ボーラスを投与した(処置群、群3、n=6)。対照動物は、vWFおよびFVIII濃縮物の代わりに、適切な量の生理食塩水を投与した(プラシーボ群、群2、n=4)。5匹の動物は、血小板インヒビターとHaemate(R)Pのどちらの処置も行なわなかった(群1、陰性対照)。実験の間、PTおよびaPTTを血漿において測定し、トロンボエラストグラフィー(thromboelastrography)および血小板凝集を全血で行なった。トロンビン生成については、多血小板血漿試験を使用した。
【0043】
クロピドグレルおよびアスピリン(R)の組み合わせ投与は、血小板凝集およびトロンビン生成の障害がある血小板症(thrombocytopathy)を引き起こす。脾臓損傷後、相当な出血が血小板症(thrombocytopathy)により引き起こされた。対照的に、血漿凝固(PT、aPTT)は、クロピドグレル/アセチルサリチル酸処置により影響されなかった。図6は、クロピドグレル/アスピリン(R)の投与後、血小板数の有意な減少が観察されず、従って、血小板減少症が誘発されなかったことを示す。
【0044】
表4および5ならびに図4および5においては、この研究において、Haemate(R)Pでの処置は有意に失血を減少させたと見ることができる。従って、凝固vWFおよび第VIII因子を含む濃縮物は、血小板症(thrombocytopathy)を誘発する血小板インヒビターを部分的に克服できたことが示されている。
【0045】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血小板を阻害する物質により誘発される血小板障害と関連する出血性イベントを治療および/または予防するためのフォン・ヴィレブランド因子(vWF)。
【請求項2】
血小板を阻害する物質により誘発される血小板障害と関連する出血性イベントに関係する障害を治療および/または予防するための医薬を製造する方法であって、ここで薬学的有効量のフォン・ヴィレブランド因子(vWF)を使用する、上記方法。
【請求項3】
vWFが第VIII因子/フォン・ヴィレブランド因子(FVIII/vWF)の組み合わせ物として第VIII因子と組み合わせて使用または投与される、請求項1に記載のvWFまたは請求項2に記載の方法。
【請求項4】
解毒剤として作用させるために前記vWFまたはFVIII/vWFを投与する、請求項1または3に記載のvWFまたは請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
vWFまたはFVIII/vWFが濃縮物として使用または投与される、請求項1または3〜4のいずれか1項に記載のvWFまたは請求項2または4に記載の方法。
【請求項6】
vWFまたはFVIII/vWFがヒト血漿から単離されている、請求項1または3〜5のいずれか1項に記載のvWFまたは請求項2〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
vWFまたはFVIII/vWFが組み換えタンパク質として投与される、請求項1または3〜5のいずれか1項に記載のvWFまたは請求項2〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
vWFまたはFVIII/vWFが体重1kgあたり10〜1000単位vWF、または体重1kgあたり5〜400単位FVIIIおよび10〜1000単位vWFの用量で患者に投与される、請求項1または3〜7のいずれか1項に記載のvWFまたは請求項2〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
vWFまたはFVIII/vWFが体重1kgあたり30〜500単位vWFまたは体重1kgあたり20〜200単位FVIIIおよび30〜500単位vWFの用量で患者に投与される、請求項8に記載のvWFまたは方法。
【請求項10】
血小板を阻害する物質がシクロオキシゲナーゼ(cyclooxigenase)インヒビター、ADP受容体のインヒビターまたはそれらの組み合わせ物である、請求項1または3〜9のいずれか1項に記載のvWFまたは請求項2〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
シクロオキシゲナーゼインヒビターがアセチルサリチル酸であり、そしてADP受容体のインヒビターがチエノピリジノ誘導体、好ましくはクロピドグレルまたはチクロピジンである、請求項10に記載のvWFまたは方法。
【請求項12】
血小板を阻害する物質により誘発される血小板障害と関連する出血性イベントの治療および/または予防に使用するための、同時の、別々の、または逐次的な使用のためのvWFを含む組成物およびFVIIIを含む組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2011−527301(P2011−527301A)
【公表日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517038(P2011−517038)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【国際出願番号】PCT/EP2009/005027
【国際公開番号】WO2010/003687
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(597070264)ツェー・エス・エル・ベーリング・ゲー・エム・ベー・ハー (32)
【Fターム(参考)】