説明

血液の分離容器および血液の分離方法

【課題】遠心力などの大きな外力を長時間印加する必要がなく、短時間で血液の固形成分と液状成分とを分離すること。
【解決手段】血液の固形成分に特異的に結合する結合部と、前記結合部を担持する担体部とを有し、前記担体部が血液の液状成分よりも小さな比重を有する分離担体を準備する。分離担体を配置された分離容器に血液を導入して、血液と分離担体とを接触させる。分離担体は、血液の固形成分と接触すると固形成分−分離担体凝集物を形成する。固形成分−分離担体凝集物は、血液の液状成分よりも比重が小さいため血液中において浮上する。結果として、液状成分は、固形成分(固形成分−分離担体凝集物)と分離される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液の固形成分と液状成分とを分離する分離容器、および血液の固形成分と液状成分とを分離する分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療現場においてその場で迅速に診断するPOCT(Point of care testing)が盛んになってきている。POCTは、緊急性を有する症例に対して治療方針を迅速に決定できるだけでなく、生活習慣病などに対する未然予防、早期発見および早期対応を可能とする。また、POCTは、検査結果までの待ち時間の短縮や通院回数の減少などの面でも有用である。
【0003】
生化学検査や免疫検査では、通常、検査試料として血液が用いられる。血液は、固形成分(血球や血小板など)と液状成分(血漿、または血漿から凝固因子を除去した血清)とから構成されるが、検査試料としては血漿が用いられることが多い。血漿を検査試料とする場合には、採血した血液を遠心分離して、血漿に比べて大きな比重を有する血球を除去する前処理を行う必要がある。このとき、固形成分と液状成分との比重差がほとんどないため、大きな遠心力を長時間印加しなければならない。具体的には、血球の比重は1.03〜1.09であり、血漿の比重は1.025〜1.029であり、血清の比重は1.024〜1.028である。すなわち、固形成分と液状成分との比重差は0.1以下である。このわずかな比重差で固形成分と液状成分とを分離するには、800〜8000G程度の遠心力を10〜20分間印加し続けなければならない。
【0004】
血球を分離除去するのに要する時間を短縮しうる採血管として、特許文献1で開示されている採血管がある。図20は、特許文献1記載の採血管の構造を示す図である。図20において、採血管10は、有底管12、無機粒子状担体14および密封部材16を有する。無機粒子状担体14は、血液の凝固を促進する繊維素原蛋白除去物質を表面に担持しており、血球よりも大きな比重を有することを特徴とする。これにより、無機粒子状担体14と血清との比重差は、血球と血清との比重差よりも大きくなるため、より小さな遠心力かつより短い時間で血清を血液から分離することが可能となる。
【0005】
特許文献2には、分離すべき血球を選択的に捕捉し、かつ血球よりも大きな比重を有する担体を用いる血球分離方法が開示されている。
【特許文献1】特開2000−83934号公報
【特許文献2】特開平7−27680号公報
【非特許文献1】Titus, J. A., Sharrow, S. O., and Sagal, D. M., "Analysis of Fc (IgG) Receptors on Human Peripheral Blood Leukocytes by Dual Fluorescence Flow Microfluorometry", Journal of Immunology, (1983) Vol. 130, 1152-1158.
【非特許文献2】Lasky, L. A., "Selectins: Interpreters of Cell-Specific Carbohydrate Information During Inflammation", Science, (1992), Vol. 258, 964-969.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術には、血球を分離除去するのに要する時間を実際には短縮できないという問題がある。
【0007】
第一に、上記従来の技術では、血球よりも大きな比重を有する担体を用いることで分離時間を短縮することを意図しているが、これらの担体の比重は実質的に1.1程度である。すなわち、担体と血漿(血清)との比重差は、依然として0.1以下である。したがって、血球を分離する際には大きな遠心力を印加することが依然として必要である。
【0008】
第二に、上記従来の技術では、繊維素原蛋白除去物質の作用により血液を凝固させるため、遠心力を印加する前に担体と血球とを十分に接触させる必要がある。もし担体と血球とを十分に接触させる前に遠心力を印加してしまうと、血球よりも大きな比重を有する担体は血球よりも速く底部に向かって移動するため、担体に捕捉されていない血球が担体に捕捉される可能性がなくなってしまう。この場合、担体に捕捉されていない血球を分離除去するためには、担体を用いない通常の方法と同程度の時間遠心分離をしなければならない。これは、担体を用いる意義が無いことに等しい。このように、血液を凝固させた後でなければ遠心分離をすることができないということは、血球を分離するのに要する時間が血液を凝固させる時間と遠心分離をする時間との合計時間となることを意味する。したがって、血球を分離するのに要する時間は依然として長いままである。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、遠心力などの大きな外力を長時間印加する必要がなく、短時間で血液の固形成分と液状成分とを分離することができる血液の分離容器および分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一は、以下に示す血液の固形成分と液状成分とを分離する分離容器に関する。
[1]血液の固形成分と液状成分とを分離する分離容器であって、導入口を有し、かつ底部に取出部を有する有底管と、前記液状成分よりも小さな比重を有する担体部と、前記担体部の表面に担持された前記固形成分に特異的に結合する結合部とを有し、前記有底管内に配置されている分離担体と、を有する分離容器。
[2]血液を採血し、前記血液の固形成分と液状成分とを分離する分離容器であって、採血針を通液可能に取付け可能な、前記血液を保持しうるシリンジ容器と、前記シリンジ容器の内面に隙間なく当接した状態で、前記シリンジ容器の軸方向に移動可能なプランジャと、前記液状成分よりも小さな比重を有する担体部と、前記担体部の表面に担持された前記固形成分に特異的に結合する結合部とを有し、前記シリンジ容器内に配置されている分離担体と、を有する分離容器。
[3]回転中心を軸として回転される基板の内部に形成され、血液の固形成分と液状成分とを分離する分離容器であって、導入部および取出部を有するチャンバと、前記液状成分よりも小さな比重を有する担体部と、前記担体部の表面に担持された前記固形成分に特異的に結合する結合部とを有し、前記チャンバ内に配置されている分離担体とを有し、前記取出部は、前記チャンバの遠心方向に対して垂直な断面の面積よりもその面積が小さく、かつ、前記導入部よりも前記回転中心から離れて位置している、分離容器。
【0011】
本発明の第二は、以下に示す血液の固形成分と液状成分とを分離する分離方法に関する。
[4]血液の固形成分と液状成分とを分離する分離方法であって、前記液状成分よりも小さな比重を有する担体部と、前記担体部の表面に担持された前記固形成分に特異的に結合する結合部とを有する分離担体に、前記血液を接触させるステップと、前記固形成分と分離された前記液状成分を取り出すステップと、を有する分離方法。
[5]血液の固形成分と液状成分とを[3]に記載の分離容器を用いて分離する分離方法であって、前記血液を前記導入部から前記チャンバに導入するステップと、前記基板を前記回転中心を軸として第一の回転速度で回転させるステップと、前記基板を前記回転中心を軸として第二の回転速度で回転させるステップとを有し、前記第二の回転速度は前記第一の回転速度より速い、分離方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、遠心力などの大きな外力を長時間印加する必要がなく、短時間で血液の固形成分と液状成分とを分離することができる。また、本発明によれば、従来必須であった遠心分離処理を省略することも可能となり、採血した直後に血球の分離除去を行うことも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の分離方法は、血液の固形成分と液状成分とを分離する方法であって、本発明の分離担体に血液を接触させることを特徴とする。また、本発明の分離容器は、血液の固形成分と液状成分とを分離するための容器であって、本発明の分離担体を有することを特徴とする。そこで、初めに本発明の分離担体について説明し、その後に本発明の分離方法および本発明の分離容器について説明する。
【0014】
本明細書において、血液の「固形成分」とは、赤血球、白血球(顆粒球(好酸球、好中球、好塩基球)、リンパ球(B細胞、T細胞)、単球)または血小板などを意味する。血液の「液状成分」とは、血漿、血清(血漿から凝固因子を取り除いたもの)などを意味する。また、「比重」とは、水に対する比重を意味する。
【0015】
1.本発明の分離担体について
本発明の分離担体は、血液の固形成分に特異的に結合する結合部と、前記結合部を担持する担体部とを有し、前記担体部が血液の液状成分よりも小さな比重を有することを特徴とする。
【0016】
担体部は、血液の液状成分よりも小さな比重を有する部材であり、結合部を担持している。担体部の比重は、血漿の比重(1.024)以下であれば特に限定されないが、後述するように0.5〜0.8程度であることが好ましい。担体部の形状は、その表面に結合部を配置できるのであれば特に限定されず、例えば略球状、膜状、繊維状などであってもよい。具体的には、担体部として、直径100nm〜500μmの略球状の高分子樹脂粒子や、高分子樹脂膜などを用いることができる。略球状の担体部は、その比重を約0.76程度まで小さくすることができるので、その内部を中空構造としてもよい。また、球状の担体部は、膜状の担体部に比べて単位体積に対する表面積比が大きいため、血液の固形成分との接触効率がよいという特徴を有する。一方、膜状の担体部は、膜に空隙を設けることでその比重を容易に小さくすることができる。担体部の大きさは、特に限定されず、その形状や目的に応じて適宜設定すればよい。
【0017】
結合部は、血液の固形成分に結合できる物質であり、担体部の表面に担持されている。結合部は、血液の固形成分に結合できる物質であれば特に限定されないが、所望の血球に特異的に結合できることが好ましい。結合部の例には、抗体、抗原、免疫応答を生み出すタンパク質、ヌクレオチド、糖タンパク質、多糖類、リポ多糖類、ホルモンなどが含まれる。例えば、抗体(IgG)には、好中球、単球、B細胞、T細胞などに結合するものがあり、糖結合性のタンパク質であるレクチンには、赤血球凝集活性を有するものがある。また、白血球に特異的に結合させるには、セレクチン類として知られている一連のタンパク質を用いればよく(非特許文献1参照)、単球に特異的に結合させるには、単球上に存在するCD14抗原に結合するエンドトキシン(リポ多糖類)を用いればよい(非特許文献2参照)。結合部は、共有結合または高い親和性結合によって担体部の表面に化学的に結合されていることが好ましい。
【0018】
本発明の分離担体は、血液と接触すると、表面の結合部で血液の固形成分に特異的に結合し、「固形成分−分離担体結合物」を形成する。このとき、一の分離担体が複数の結合部を有し、かつ一の固形成分に結合部の結合部位が複数存在すれば、複数の分離担体と複数の固形成分が凝集した「固形成分−分離担体凝集物」が形成される。血液の固形成分は血液の液状成分(血漿)よりもわずかに比重が大きいが、形成された固形成分−分離担体凝集物(または固形成分−分離担体結合物)は、全体としては血液の液状成分よりも比重が小さいため、血液中において浮上する(引力や遠心力などの外力の向きと逆の向きに移動する)。以下、本明細書において「固形成分−分離担体凝集物」という用語には、「固形成分−分離担体結合物」が含まれるものとする。
【0019】
2.本発明の分離方法について
本発明の分離方法は、血液の固形成分と液状成分とを分離する方法であって、本発明の分離担体に血液を接触させる第一のステップと、血液中で分離された液状成分を取り出す第二のステップとを有する。
【0020】
第一のステップでは、検査試料の血液を前述の本発明の分離担体に接触させる。血液を分離担体に接触させるには、例えば血液を保持しうる容器に分離担体および血液を入れればよい。分離担体は、血液と接触すると、固形成分−分離担体凝集物を形成する。前述のとおり、形成された固形成分−分離担体凝集物は、血液の液状成分よりも比重が小さいため血液中において浮上する。結果として、液状成分は、固形成分(固形成分−分離担体凝集物)と分離される。
【0021】
第二のステップでは、第一のステップで分離された液状成分を取り出す。液状成分を取り出す方法は、特に限定されず、例えば前述の容器の底部に穴をあけて容器下部に位置する液状成分を取り出せばよい。
【0022】
本発明の分離方法では、血液の液状成分に比べて極めて小さな比重を有する分離担体を用いることができるので、液状成分と固形成分−分離担体凝集物との比重差を従来の方法に比べて極めて大きくすることができる。例えば、本発明の分離方法では、分離担体の担体部に中空粒子を用いることにより、分離担体の比重を約0.76程度まで小さくすることができる。したがって、本発明の分離方法は、遠心力などの外力を印加しなくても、短時間で血液の固形成分と液状成分とを分離することができる。
【0023】
もちろん、本発明の分離方法は、分離担体および血液に遠心力を印加してもよい。この場合、本発明の分離方法は、本発明の分離担体に血液を接触させるステップと、分離担体および血液に遠心力を作用させるステップと、血液中で分離された液状成分を取り出すステップとを有する。これにより、固形成分と液状成分とを分離する際に大きな外力を印加することができるので、血液の液状成分との比重差が小さい担体部を用いても、短時間で血液を分離することができる。
【0024】
ここで、本発明の分離方法において分離に要する時間(以下、「分離時間」という)を決定する要素について説明する。
【0025】
本発明の分離方法では、分離時間は、「固形成分−分離担体凝集物が形成されるのに要する時間(以下、「凝集物形成時間」という)」および「固形成分−分離担体凝集物が浮上するのに要する時間(以下、「凝集物浮上時間」という)」により決定される。このうち凝集物浮上時間は、以下に示す「浮上力f」と「抵抗力f」に依存する。すなわち、凝集物浮上時間は、「浮上力f−抵抗力f」で求められる「駆動力」に依存する。
【0026】
浮上力fは、固形成分−分離担体凝集物に上向き(引力や遠心力などの外力の向きと逆の向き)に働く力であり、以下の式により表わされる。
【数1】

【0027】
一方、抵抗力fは、固形成分−分離担体凝集物が上向きに移動する際に下向きに受ける力であり、以下の式により表わされる。
【数2】

上記二つの式において「粒子」とは、固形成分−分離担体凝集物を意味する。また「溶液」とは、血液の液状成分を意味する。したがって、「d」は固形成分−分離担体凝集物の等価直径であり、「σ」は固形成分−分離担体凝集物の密度(比重)である。「ρ」は血液の液状成分の密度(比重)であり、「η」は血液の液状成分の粘度である。なお、遠心力を印加しない場合は、「遠心加速度(rω)」は「重力加速度(g)」となる。
【0028】
上記式からわかるように、分離担体の比重を小さくすることにより、固形成分−分離担体凝集物の密度(σ)を小さくすることができるので、浮上力fを大きくすることができる。すなわち、分離担体の比重を小さくすることにより、駆動力(f−f)を大きくすることができるので、凝集物浮上時間を短くすることができる。したがって本発明の分離方法では、分離担体の担体部の比重は、血液の液状成分(血漿)の比重(1.024)より小さい必要があり、0.5〜0.8程度であることが好ましい。0.5〜0.8程度の比重を有する担体部を用いた場合は、遠心力などの大きな外力を印加しなくても短時間で血液を分離することができる。もちろん、遠心力などの大きな外力を印加すれば、より短時間で血液を分離することができる。
【0029】
3.本発明の分離容器について
本発明の分離容器は、血液の固形成分と液状成分とを分離する容器であって、血液を保持しうる容器本体と、容器本体内に配置された前述の本発明の分離担体とを有する。
【0030】
容器本体は、血液を保持しうるものであれば特に限定されず、目的に応じて形状、大きさ、材質などを任意に設定すればよい。通常、容器本体は、血液を内部に導入するための導入部(導入口)を有する。
【0031】
また、容器本体は、分離された血液の液状成分を取り出すための取出部(取出口)を有していてもよい。取出部は、血液を分離している間は液体(血液)を通過させないが、血液を分離した後は液体(血液の液状成分)を通過させるような構成であることが好ましい。後述するように、取出部の例には、可逆的または不可逆的に開口可能な部材や、疎水性を有する取出部(取出口)などが含まれる。取出部は、血液の液状成分のみを取り出すために、血液を分離した後に血液の液状成分のみが存在する部位に設けられることが好ましい。
【0032】
本発明の分離容器は、前述の本発明の分離方法により血液を分離する際に使用されうる。本発明の分離容器は、例えば採血管、注射器、分離デバイスなどの態様を採ることができる。以下、採血管、注射器、分離デバイスの各態様について説明する。
【0033】
[採血管の態様について]
本態様の分離容器は、導入口および取出部を有する有底管(容器本体)と、有底管内に配置された本発明の分離担体を有する。
【0034】
有底管は、一端が導入口として開口し、他端が閉塞した管である。本明細書において有底管の「底部」とは、有底管の閉塞端近傍の部位を意味する。有底管の形状は、血液などを導入されうる導入口を備え、かつ導入された血液を保持しうるものであれば特に限定されない。
【0035】
取出部は、有底管に設けられた可逆的または不可逆的に開口しうる部材であり、開口することで有底管内部に保持されている液体を外部に流出させることができる。取出部の位置は、有底管内部の液体を外部に流出させることができれば特に限定されないが、有底管の底部であることが好ましい。分離された血液の液状成分のみを取り出すことが容易になるからである。後述するように、不可逆的な方式の例には、破断可能な材質で形成された取出部を破断させる方式などが含まれる。
【0036】
本発明の分離担体が配置される位置は、有底管の内部であれば特に限定されないが、有底管の底部であることが好ましい。後述するように、分離担体が血液の固形成分に接触する確率が高くなり、分離担体が固形成分を確実に捕捉できるからである。
【0037】
本態様の分離容器を用いて血球を分離するには、検査試料の血液を導入口から有底管内に導入し、次いで分離された血液の液状成分を取出部から取り出せばよい。まず、検査試料の血液を導入口から有底管内に導入すると、有底管内において血液と分離担体とが接触し、固形成分−分離担体凝集物が形成される。前述のとおり、形成された固形成分−分離担体凝集物は、血液の液状成分よりも比重が小さいため血液中において浮上する(導入口側に移動する)。結果として、血液の液状成分は、固形成分(固形成分−分離担体凝集物)と分離され、有底管の底部側に位置することになる。次いで、有底管の底部に設けられた取出部を開口すると、有底管の底部側に位置する血液の液状成分のみが流出し、血液の液状成分を取り出すことができる。
【0038】
[注射器の態様]について
本態様の分離容器は、採血針を通液可能に取り付け可能なシリンジ容器(容器本体)と、シリンジ容器に対応するプランジャと、シリンジ容器内に配置された本発明の分離担体とを有する。通常、本態様の分離容器は、採血針をシリンジ容器に通液可能に取り付けられた状態で使用される。本態様の分離容器は、血液を分離するだけでなく、採血を行う注射器としても使用されうる。
【0039】
シリンジ容器は、一端がプランジャを挿入するために開口し、他端が閉塞している管である。シリンジ容器の形状は、通常は円筒状であるが特に限定されない。採血針を取り付けられたときに採血針の内部空間とシリンジ容器の内部空間とを連通させるため、通常、シリンジ容器の閉塞端には貫通孔が設けられている。この貫通孔は、前述の導入部としても取出部としても機能することができる。
【0040】
プランジャは、シリンジ容器の内面に隙間なく当接した状態で、シリンジ容器の軸方向に移動可能な部材である。プランジャの形状は、シリンジ容器の内部空間の気密性を維持した状態で移動可能であれば特に限定されない。
【0041】
本発明の分離担体が配置される位置は、シリンジ容器の内部であれば特に限定されない。
【0042】
本態様の分離容器を用いて血球を分離するには、検査試料の血液を採血してシリンジ容器内に導入し、次いで分離容器を静置し、次いで分離された血液の液状成分をシリンジ容器から取り出せばよい。まず、採血針を採血部位に刺入し、プランジャをシリンジ容器から引き出して、血液をシリンジ容器内に導入する。次いで、分離容器を所定の時間静置すると、シリンジ容器内において血液と分離担体とが接触し、固形成分−分離担体凝集物が形成される。前述のとおり、形成された固形成分−分離担体凝集物は、血液の液状成分よりも比重が小さいため血液中において浮上する(プランジャ側に移動する)。結果として、血液の液状成分は、固形成分(固形成分−分離担体凝集物)と分離され、シリンジ容器内の採血針側に位置することになる。次いで、プランジャをシリンジ容器内に押し込むと、シリンジ容器内の採血針側に位置する血液の液状成分のみ流出するので、血液の液状成分を取り出すことができる。
【0043】
[分離デバイスの態様について]
本態様の分離容器は、回転中心を軸として回転される基板の内部に形成され、導入部および取出部を有するチャンバ(容器本体)と、チャンバ内に配置された本発明の分離担体とを有する。本態様の分離容器を含む基板は、血液の固形成分と液状成分とを分離する分離デバイスとして用いられうる。
【0044】
チャンバは、導入部および取出部を有する基板内に形成された空間である。チャンバの大きさは、検査試料の血液の量により決定すればよい。
【0045】
導入部は、検査試料の血液を導入するための穴である。導入部の形状は、試料の血液を導入できれば特に限定されない。
【0046】
取出部は、チャンバ内で分離された血液の液状成分を取り出すための穴である。取出部は、チャンバ内の液体をチャンバ外に流出させることができればその位置は特に限定されないが、チャンバの外周側の内壁に設けられていることが好ましい。分離された血液の液状成分のみを取り出すことが容易になるからである。取出部は、疎水性を有することが好ましく、その面積が50μm〜0.25mmであることが好ましい。後述するように、チャンバ内に血液を導入された際に、血液を漏らすことなくチャンバ内に留めるためである。
【0047】
本発明の分離担体が配置される位置は、チャンバの内部であれば特に限定されないが、導入部よりも回転中心から離れた位置であることが好ましい。後述するように、分離担体が血液の固形成分に接触する確率が高くなり、分離担体が固形成分を確実に捕捉できるからである。
【0048】
本態様の分離容器が形成される基板は、チャンバ内の分離担体および血液に遠心力を印加することができれば、回転中心を有する構成を採ることもできるし、回転中心を有していない構成を採ることもできる。基板が回転中心を有する場合は、チャンバは、回転中心から遠心方向に所定の間隔をおくように基板内に配置される。この場合は、基板全体をその回転中心を軸として回転させることで、チャンバ内の分離担体および血液に遠心力を印加することができる。一方、基板が回転中心を有していない場合は、チャンバを含む基板は、回転中心を有する回転ベース上に回転中心から遠心方向に所定の間隔をおくように載置される。この場合は、回転ベースをその回転中心を軸として回転させることで、チャンバ内の分離担体および血液に遠心力を印加することができる。
【0049】
本態様の分離容器を用いて血球を分離するには、検査試料の血液を導入部からチャンバ内に導入し、次いで回転中心を軸として基板を回転させ、最後に分離された血液の液状成分を取出部から取り出せばよい。まず、検査試料の血液を導入部からチャンバ内に導入すると、チャンバ内において血液と分離担体とが接触し、固形成分−分離担体凝集物が形成される。次いで、チャンバを含む基板を回転中心を軸として回転させて、チャンバ内の分離担体および血液に遠心力を印加する。前述のとおり、固形成分−分離担体凝集物は、血液の液状成分よりも比重が小さいため、血液中において回転中心に向かって移動する(遠心力の向きと逆の向きに移動する)。結果として、血液の液状成分は、固形成分(固形成分−分離担体凝集物)と分離され、チャンバの外周側に位置することになる。次いで、チャンバの外周側の内壁に設けられた取出部を開口すると、チャンバの外周側に位置する血液の液状成分のみが流出し、血液の液状成分を取り出すことができる。
【0050】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0051】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における分離容器(採血管)の構成を示す断面図である。図1において、分離容器100は、有底管110、有底管110に設けられた取出部120、および有底管110内に配置された分離担体130を有する。
【0052】
有底管110は、一端が開いており(導入口112)、他端が閉じている(底面114)管である。有底管110の形状は、血液などを導入されうる導入口112を備え、かつ導入された血液を保持しうるものであれば特に限定されない。
【0053】
取出部120は、有底管110に設けられた可逆的または不可逆的に開口しうる部材であり、開口することで有底管110内部に保持されている液体を外部に流出させることができる。
【0054】
取出部120の位置は、有底管110内の液体を外部に流出させることができれば特に限定されないが、有底管110の底部(底面114または底面114近傍の側壁)であることが好ましい。このようにすることで、後述するように分離された血液の液状成分のみを取出部120から取り出すことが容易になる。血液の液状成分を最大量取り出すためには、図1に示すように取出部120は有底管110の底面114に設けられていることが特に好ましい。
【0055】
取出部120の開口面積および開口形状は、特に限定されず任意に設定可能であるが、固形成分−分離担体凝集物を外部に流出させないように設定することが好ましい。血液の液状成分のみを取り出すためである。例えば、薄膜状の分離担体130を用いれば、取出部120の開口面積をある程度大きくすることができる。また、球状の分離担体130を用いる場合は、分離担体130の投影面積よりも小さい取出部120を多数設けることで、開口面積を大きくすることができる。
【0056】
前述のとおり、取出部120の開口方式は、可逆的であっても不可逆的であってもよい。可逆的な方式の例には、扉状構造を開閉する方式(図3および図4参照)、バルブを開閉する方式などが含まれる。一方、不可逆的な方式の例には、破断可能な材料で形成された取出部を破断させる方式(図5参照)などが含まれる。
【0057】
分離担体130は、血液の液状成分よりも比重が小さい担体部132と、担体部132の表面に担持された血液の固形成分に特異的に結合する結合部134とを有し、有底管110内部に配置されている。
【0058】
担体部132は、血液の液状成分よりも低い比重を有する部材である。担体部132の比重は、血漿の比重(1.024)以下であれば特に限定されないが、0.5〜0.8程度であることが好ましい。担体部132の形状は、前述のとおり特に限定されず、例えば直径100nm〜500μm程度の略球状または膜状であってもよい。担体部132が球状の場合、有底管110内に配置する分離担体130の数を調整することで、血液の分離効率を容易に制御することができる。一方、担体部132が膜状の場合、担体部132を有底管110内に容易に配置することができる。また、担体部132が膜状の場合、担体部132の大きさを容易に大きくできるため、分離担体130(固形成分−分離担体凝集物を含む)の取出部120からの流出を防ぐために取出部120の大きさを小さくする必要がないことも製造上の利点である。
【0059】
結合部134は、血液中の固形成分に結合できる物質であり、担体部132の表面に担持されている。前述のとおり、結合部134の例には、抗体、抗原、免疫応答を生み出すタンパク質、ヌクレオチド、糖タンパク質、多糖類、リポ多糖類、ホルモンなどが含まれる。結合部134は、共有結合または高い親和性結合によって担体部132の表面に化学的に結合されていることが好ましい。
【0060】
分離担体130は、有底管110の内部であれば配置される位置は特に限定されず、例えば、有底管110内壁の全面または一部の面に配置されていてもよい。この場合、分離担体130は、有底管110の底面114に配置されていることが好ましい(図4(A)参照)。後述するように、分離担体130が血液の固形成分に接触する確率が高くなり、分離担体130が固形成分を確実に捕捉できるからである。分離担体130を有底管110内に配置する方法は、特に限定されず、例えば、分離担体130を有底管110内壁に塗布した後に乾燥させてもよいし、分離担体130を保持させた支持部材を有底管110内に配置するようにしてもよい。
【0061】
次に、本実施の形態の分離容器を用いた血液の分離方法を図2および図3を参照して説明する。図2は、本実施の形態の分離方法を示すフローチャートである。図3は、本実施の形態の分離方法を示す模式図である。
【0062】
図2のフローチャートに示すように、分離容器100を用いて血球を分離するには、検査試料の血液を分離担体130に接触させ(ステップA)、次いで分離された血液の液状成分を分離容器100から取り出せばよい(ステップB)。
【0063】
ステップAでは、導入口112から分離容器100内に検査試料の血液140を導入して、血液140を分離担体130に接触させる(図3(A)参照)。分離担体130は、血液140に接触すると血液140中の固形成分142に特異的に結合し、固形成分−分離担体凝集物150を形成する(図3(B)参照)。形成された固形成分−分離担体凝集物150は、血液の液状成分144よりも比重が小さいため血液140中において浮上する。結果として、固形成分−分離担体凝集物150は分離容器100の上側(導入口112側)に位置し、液状成分144は分離容器100の下側(底面114側)に位置することになる(図3(C)参照)。
【0064】
次いでステップBでは、分離容器100内の下側に位置する血液の液状成分144を取出部120から取り出す。このとき、取出部120は分離容器100の底面114に設けられているため、血液の液状成分144のみを容易に取り出すことができる(図3(D)参照)。
【0065】
このように、本実施の形態の分離容器は、遠心力などの大きな外力を印加しなくても、短時間で血液の固形成分と液状成分とを分離することができる。
【0066】
前述のとおり、本実施の形態の分離容器では、分離担体は分離容器の底面に配置されていることが好ましい。そこで次に、分離担体が底面に配置されている分離容器を用いた血液の分離方法を、図2のフローチャート(前述)および図4の模式図を参照して説明する。
【0067】
ステップAでは、導入口112から分離容器102内に検査試料の血液140を導入する(図4(A)参照)。血液140を分離容器102内に導入すると、分離担体130は血液140の導入に同期して上向き(重力の向きと逆の向き)に移動する。一方、血液の固形成分142は、血液の液状成分144よりもわずかに大きな比重を有するため、下向き(重力の向き)に徐々に移動する。上向きに移動する分離担体130は、下向きに移動する固形成分142に接触すると、固形成分142に特異的に結合し、固形成分−分離担体凝集物150を形成する(図4(B)参照)。形成された固形成分−分離担体凝集物150は、血液の液状成分144よりも比重が小さいため血液140中において浮上する。結果として、固形成分−分離担体凝集物150は分離容器102内の上側に位置し、液状成分144は分離容器102内の下側に位置することになる(図4(C)参照)。
【0068】
次いでステップBでは、分離容器102内の下側に位置する血液の液状成分144を取出部120から取り出す。このとき、取出部120は分離容器102の底面114に設けられているため、血液の液状成分144のみを容易に取り出すことができる(図4(D)参照)。
【0069】
このように、分離担体が底面に配置されている分離容器を用いた場合、分離担体および固形成分は互いに交差するように移動するため、分離担体が固形成分に接触する確率が高くなる。このことは、分離担体が固形成分を確実に捕捉することに寄与する。
【0070】
前述のとおり、本実施の形態の分離容器では、取出部は破断可能な材料で形成されていてもよい。そこで次に、取出部が破断可能な材料で形成されている分離容器を用いた血液の分離方法を、図2のフローチャート(前述)および図5の模式図を参照して説明する。
【0071】
ステップAでは、導入口112から分離容器104内に検査試料の血液140を導入する(図5(A)参照)。分離担体130は、血液140に接触すると血液140中の固形成分142に特異的に結合し、固形成分−分離担体凝集物150を形成する(図5(B)参照)。形成された固形成分−分離担体凝集物150は、血液の液状成分144よりも比重が小さいため血液140中において浮上する。結果として、固形成分−分離担体凝集物150は分離容器100内の上側に位置し、液状成分144は分離容器100内の下側に位置することになる(図5(C)参照)。
【0072】
次いでステップBでは、分離容器104の底面114に設けられた取出部122を穿刺針160などで破断して、分離容器104の下側に位置する液状成分144を取り出す(図5(D)参照)。このとき、穿刺針160の先端径を適切に選択することで、分離容器104内で形成された固形成分−分離担体凝集物150は通過できないが、液状成分は通過しうる穴を取出部122に形成することができる。これにより、血液の液状成分144のみを容易に取り出すことができる。
【0073】
このように、取出部が破断可能な材料で形成されていても、血液の固形成分と液状成分とを分離することができる。
【0074】
なお、上記図3〜図4の説明では、血液を導入口から分離容器内に導入するようにしたが、取出部から導入するようにしてもよい。
【0075】
また、上記図3〜図5の説明では、固形成分−分離担体凝集物を自発的に形成させるようにしたが、凝集開始剤を用いて血液を分離するタイミングを制御するようにしてもよい。この場合、凝集開始剤は、有底管内に予め配置してもよいし、血液を導入した後に投入するようにしてもよい。
【0076】
最後に、本発明の分離容器の効果をより明確にするために、図6を参照して、従来の分離容器(血液の固形成分よりも大きい比重を有する分離担体を備える採血管)を用いて血液を分離する手順を説明する。
【0077】
まず、採血管20内に検査試料の血液24を導入し、固形成分−分離担体凝集物27を形成させる(図6(A)参照)。このとき、分離担体23と血液の固形成分25との間で凝集反応を十分に進行させるために所定の時間静置しなければならない。静置する時間が不十分な場合は、分離担体23に捕捉されていない固形成分25(以下、「遊離固形成分」という)が血液中に残ってしまうことになる。次いで、遠心力28を印加して、固形成分−分離担体凝集物27を下向き(遠心力の向き)に移動させる(図6(B)参照)。このとき、血液中に遊離固形成分25が残っている状態で遠心力28を印加してしまうと、遊離固形成分25よりも大きい比重を有する固形成分−分離担体凝集物27および分離担体23が、遊離固形成分25よりも速く下向きに移動してしまう(図6(C)参照)。結局、この遊離固形成分25を下向きに十分移動させるために、遠心力28を長時間印加しなければならない。最後に、採血管20の上側に位置する液状成分26を、ピペットなどの取出手段30を用いて採血管20から取り出す(図6(D)参照)。
【0078】
このように、従来の分離容器には、分離担体と血液の固形成分との間で凝集反応を十分に進行させるために所定の時間静置しなければならないという問題があった。また、この静置時間が不十分である場合には、遠心力を長時間印加しなければならないという問題があった。結果として、従来の分離容器または分離方法では、分離時間を短縮することができなかった。
【0079】
一方、本実施の形態の分離容器、特に分離担体を底部に配置した分離容器では、分離担体および固形成分が互いに交差するように移動するため、分離担体と血液の固形成分との間の凝集反応が短時間で十分に進行する(図4参照)。また、固形成分−分離担体凝集物と液状成分との比重差が大きいため、固形成分−分離担体凝集物は短時間で浮上する(上側に移動する)。このように、本実施の形態の分離容器は、固形成分−分離担体凝集物を短時間で形成させ、かつ形成された固形成分−分離担体凝集物を短時間で浮上させるので、遠心力などの大きな外力を印加しなくても短時間で血液を分離することができる。
【0080】
(実施の形態2)
実施の形態1では、血液を導入した分離容器(採血管)に遠心力などの外力を印加しない例を示したが、実施の形態2では、血液を導入した分離容器(採血管)に遠心力などの外力を印加する例を示す。本実施の形態で用いる分離容器は、実施の形態1の分離容器と同じものである。
【0081】
本実施の形態の分離方法を図7および図8を参照して説明する。図7は、本実施の形態の分離方法を示すフローチャートである。図7において、図2のフローチャートと同一のステップには同一のステップ名を付与する。図8は、本実施の形態の分離方法を示す模式図である。図8において、実施の形態1の分離容器と同じ構成要素には同一の符号を付し、重複箇所の説明を省略する。
【0082】
図7のフローチャートに示すように、遠心力を印加して血球を分離するには、検査試料の血液を分離担体130に接触させ(ステップA)、血液および分離担体130に遠心力を印加し(ステップC)、分離された血液の液状成分を分離容器102から取り出せばよい(ステップB)。
【0083】
ステップAでは、導入口112から分離容器102内に検査試料の血液140を導入して、血液140を分離担体130に接触させる(図8(A)参照)。一部の分離担体130は、血液の固形成分142に接触して、固形成分−分離担体凝集物150を形成する。
【0084】
次いでステップCでは、血液140を提供した分離容器102を回転させて、血液140および分離担体130に遠心力180を印加する。これにより、分離担体130および固形成分−分離担体凝集物150は、血液の液状成分144よりも比重が小さいため、遠心力180の印加に同期して上向き(遠心力180の向きと逆の向き)に移動する。一方、血液の固形成分142は、血液の液状成分144よりもわずかに大きな比重を有するため、遠心力180の印加に同期して下向き(遠心力180の向き)に移動する。上向きに移動する分離担体130は、下向きに移動する固形成分142に接触すると、固形成分142に特異的に結合し、固形成分−分離担体凝集物150を形成する(図8(B)参照)。形成された固形成分−分離担体凝集物150は、血液140中において浮上する(上向きに移動する)。結果として、固形成分−分離担体凝集物150は分離容器100内の上側に位置し、液状成分144は分離容器100内の下側に位置することになる(図8(C)参照)。なお、回転させることに伴う血液の飛散を防ぐために、ステップCの前に有底管110に蓋170をするステップDをさらに加えてもよい(図7および図8(B)参照)。
【0085】
次いでステップBでは、分離容器102内の下側に位置する血液の液状成分144を取出部120から取り出す。このとき、取出部120は分離容器102の底面114に設けられているため、血液の液状成分144のみを容易に取り出すことができる(図8(D)参照)。
【0086】
以上のように、血液を導入した分離容器に遠心力などの外力を印加することにより、分離担体130および固形成分142の移動速度を速めることができる。また、従来の分離容器では、分離された血液の液状成分を取り出す際に採血管の蓋を開けるため(図5(D)参照)、遠心力に耐えうる粘着性を有し、かつ容易に剥がしうるシールなどを別個に用意する必要があった。一方、本実施の形態の分離容器では、有底管の底部に設けられた取出部から血液の液状成分を取り出すので、蓋を開ける作業が不要である。したがって、本実施の形態の分離方法では、血液の固形成分と液状成分とをより短時間で分離することができる。
【0087】
(実施の形態3)
図9は、本発明の実施の形態3における分離容器(注射器)の構成を示す断面図である。図9において、分離容器(注射器)200は、シリンジ容器210、採血針220、分離担体130およびプランジャ230を有する。
【0088】
シリンジ容器210は、一端が開口し他端が閉塞している円筒状の容器である。シリンジ容器210の材質は、特に限定されず、例えばプラスチックを用いることができる。シリンジ容器210は、血液の感染性を考慮すると使い捨てとすることが好ましい。
【0089】
採血針220は、皮膚に刺して採血するための中空構造の針である。採血針220は、通常シリンジ容器210に着脱可能であり、シリンジ容器210の内部空間に通液しうるようにシリンジ容器210に取り付けられる。採血針220が取り付けられる位置は、通常シリンジ容器210の閉塞端であるが特に限定されない。採血針220の材質および形状は、皮膚に刺して採血可能であれば特に限定されず、任意に設定すればよい。採血針220は、血液の感染性を考慮すると使い捨てとすることが好ましい。また、採血針220は、採血者の誤感染を防ぐための防護策が講じてあることが好ましい。
【0090】
分離担体130は、実施の形態1の分離担体と同じものであり、シリンジ容器210内に配置されている。分離担体130が配置される位置は、特に限定されず任意に設定すればよい。
【0091】
プランジャ230は、シリンジ容器210の内面に隙間なく当接した状態で、シリンジ容器210の軸方向に移動可能な部材である。プランジャ230の材質および形状は、シリンジ容器210の内部空間の気密性を維持した状態で移動可能であれば特に限定されない。プランジャ230は、血液の感染性を考慮すると使い捨てとすることが好ましい。
【0092】
次に、本実施の形態の分離容器を用いた血液の分離方法を図10および図11を参照して説明する。図10は、本実施の形態の分離方法を示すフローチャートである。図10において、図2のフローチャートと同一のステップには同一のステップ名を付与する。図11は、本実施の形態の分離方法を示す模式図である。なお、図11(B)〜(D)では、採血針220の先端部およびプランジャ230の上部を省略している。
【0093】
図11のフローチャートに示すように、分離容器(注射器)200を用いて血球を分離するには、検査試料の血液を採血し(ステップE)、採血した血液を分離担体130に接触させ(ステップA)、分離容器200を静置し(ステップF)、分離された血液の液状成分を分離容器200から取り出せばよい(ステップB)。
【0094】
ステップEでは、採血針220を採血部位240に刺入し、プランジャ230をシリンジ容器210から遠ざかる方向に引いて血液をシリンジ容器210内に導入する(図11(A)参照)。
【0095】
次いでステップAでは、血液を分離担体130に接触させる。分離担体130は、血液140に接触すると血液140中の固形成分142に特異的に結合し、固形成分−分離担体凝集物150を形成する(図11(B)参照)。前述のステップEにおいて、血液は、内部断面積の小さな採血針220から内部断面積の大きいシリンジ容器210に導かれる。このときの断面積の急変化により、シリンジ容器210内に導かれた血液は、シリンジ容器210内に乱流を生じさせる。この乱流は、シリンジ容器210内の分離担体130と血液140とを攪拌するため、分離担体130と血液の固形成分142との接触効率を高める。
【0096】
次いでステップFでは、採血針220側を下にして分離容器200を静置する。これにより、固形成分−分離担体凝集物150は、血液の液状成分144よりも比重が小さいため血液中において浮上する。結果として、固形成分−分離担体凝集物150は分離容器200内の上側(プランジャ230側)に位置し、液状成分144は分離容器200内の下側(採血針220側)に位置することになる(図11(C)参照)。
【0097】
次いでステップBでは、プランジャ230をシリンジ容器210に近づく方向に押して、分離容器200内の血液の液状成分144を取り出す。このとき、液状成分144は分離容器200内の採血針220側に位置するため、血液の液状成分144のみを容易に取り出すことができる(図11(D)参照)。
【0098】
以上のように、本実施の形態の分離容器(注射器)は、採血処理に加えて血液の固形成分の分離除去処理も行うことができる。また、本実施の形態の分離容器は、血液の誤感染の防止、血液分離の短縮化に寄与することができる。さらに、本実施の形態の分離容器は、プランジャを往復させるだけで血液の液状成分を容易に取り出すことができるので、操作の簡便性といった観点からも有用である。
【0099】
(実施の形態4)
図12および図13は、本発明の実施の形態4における分離容器を含む分離デバイスの構成を示す図である。図12は、本実施の形態の分離デバイスの水平方向の断面図であり、図13(A)のB−B’断面を示す。図13(A)は、本実施の形態の分離デバイスの垂直方向の断面図であり、図12のA−A’断面を示す。図13(B)は、本実施の形態の分離デバイスの平面図である。
【0100】
図12および図13において、分離デバイス300は、回転中心312を軸に回転しうる回転基板310に形成されており、導入部322および取出部324を有する第一のチャンバ320と、第一のチャンバ320内に配置された分離担体130と、導入口332および空気口334を有する第二のチャンバ330と、第一のチャンバ320と第二のチャンバ330とを接続する流路340を有する。それぞれの内部空間が互いに連通する第一のチャンバ320、第二のチャンバ330および流路340を合わせて流路部位342という。なお、分離担体130をその内部に配置された第一のチャンバ320が、本実施の形態の分離容器に相当する。
【0101】
回転基板310は、回転中心312を軸に回転しうる基板であり、一または二以上の流路部位342が形成されている。回転基板310の形状は、通常は円形であるが特に限定されない。図12および図13では、円形の回転基板310の一部が示されている。後述するように、回転基板310は、一層からなる基板であってもよいが、製造の観点からは多層構造であることが好ましい。なお、図12および図13において「半径方向314」とは、回転中心312を軸に回転基板310が回転する回転方向(図12における矢印316の示す方向)に対して垂直で、かつ遠心方向外側の方向を意味する。
【0102】
第一のチャンバ320は、回転中心312から半径方向314に所定の間隔をおいて配置された空間であり、導入部322および取出部324を設けられている。第一のチャンバ320の形状は、特に限定されないが、半径方向314で外側に位置する内壁が上面から見て回転中心312を中心とする円弧状であることが好ましい(図12参照)。第一のチャンバ320の大きさは、検査試料の血液の量により決定すればよいが、0.1〜10000μL程度の容量であることが好ましい。
【0103】
導入部322は、検査試料の血液を導入するための穴である。導入部322の形状は、試料の血液を導入できれば特に限定されない。導入部322は、取出部324よりも回転中心312に近い位置に設けられることが好ましく、かつその大きさが第一のチャンバ320の底面積(半径方向314で外側に位置する内壁の面積)よりも十分に小さいことが好ましい。これにより、回転基板310を回転させた際に、第一のチャンバ320内の血液に遠心力が印加されても、導入部322から漏らすことなく第一のチャンバ320内に血液を留めることができる。また、回転基板310を回転させる際に、導入部322を閉じなくても血液の飛散を防ぐことができる。なお、図13(A)において、導入部322はB−B’断面上に位置していないが、図12では導入口332を相当する位置に破線で示している。
【0104】
取出部324は、第一のチャンバ320内で分離された血液の液状成分を取り出すための穴であり、流路340に接続されている。取出部324は、導入口322よりも半径方向314で外側に位置することが好ましく、第一のチャンバ320の半径方向314で外側に位置する内壁に設けられていることが特に好ましい。前述のように第一のチャンバ320の半径方向314で外側に位置する内壁が上面から見て回転中心312を中心とする円弧状である場合、第一のチャンバ320内において当該内壁に印加される遠心力の大きさが等しくなり、第一のチャンバ320内で分離された血液の液状成分をすべて取出部324から取り出すことができるためである。取出部324は、疎水性を有することが好ましく、その面積が50μm〜0.25mmであることが好ましい。第一のチャンバ320内に血液を導入された際に、流路340に漏らすことなく第一のチャンバ320内に血液を留めるためである。
【0105】
分離担体130は、実施の形態1の分離担体と同じものであり、第一のチャンバ330内に配置されている。分離担体130が配置される位置は、特に限定されないが、第一のチャンバ330内の半径方向314で外側の部位であることが好ましい(図12および図13(A)参照)。分離担体130が血液の固形成分142に接触する確率が高くなるためである。なお、図13(B)では分離担体130を省略している。
【0106】
第二のチャンバ330は、第一のチャンバ320よりも半径方向314で外側の位置に配置された空間であり、導入口332および空気口334を設けられている。第二のチャンバ330の形状は、特に限定されないが、第一のチャンバ320と同様に半径方向314で外側に位置する内壁が上面から見て回転軸312を中心とする円弧状であることが好ましい。第二のチャンバ330の大きさは、第一のチャンバ320と同様に検査試料の血液の量により決定すればよいが、0.1〜10000μL程度の容量であることが好ましい。
【0107】
導入口332は、第一のチャンバ320から取り出された血液の液状成分を導入するための穴であり、流路340に接続されている。
【0108】
空気口334は、第一のチャンバ320、流路340および第二のチャンバ330内の空気を排出するための穴である。空気口334を第二のチャンバ330に設けることにより、検査試料の血液を第一のチャンバ320に泡をかむことなく導入することができるようになる。空気口334の位置は、導入口332を通る半径方向314の延長線上ではなく、かつ第二のチャンバ330の半径方向314で内側の部位であることが好ましい。これにより、第一のチャンバ320から血液の液状成分が流れてきても、空気口334から漏らすことなく第二のチャンバ330内に液状成分を留めることができる。なお、図13(A)において、空気口334はB−B’断面上に位置していないが、図12では空気口334を相当する位置に破線で示している。
【0109】
流路340は、第一のチャンバ320と第二のチャンバ330とを通液可能に接続する流路であり、第一のチャンバ320の取出部324および第二のチャンバ330の導入口332に開口している。流路340が第一のチャンバ320および第二のチャンバ330に開口する位置(すなわち取出部324および導入口332の位置)は、基板面に垂直な方向に関しては特に限定されないが、第一のチャンバ320および第二のチャンバ330の上部であることが好ましい(図13(A)参照)。後述するように、回転基板310が上面基板362および下面基板364から構成される場合に、回転基板310を容易に製造できるためである。
【0110】
流路340の断面積は、第一のチャンバ320の半径方向314に垂直な方向の断面積より小さいことが好ましい。すなわち、流路340の幅は第一のチャンバ320の幅よりも狭いことが好ましく、流路340の深さは第一のチャンバ320の深さよりも浅いことが好ましい。さらに、流路340の断面積は、後述する固形成分−分離担体凝集物の大きさよりも小さいことが好ましい。固形成分−分離担体凝集物を第二のチャンバ330に流入させないためである。具体的には、流路340の幅は、1〜2000μmであることが好ましく、50〜500μmであることが特に好ましい。流路340の深さは、1〜2000μmであることが好ましく、10〜100μmであることが特に好ましい。また、流路340の内面は疎水性を有することが好ましい。第一のチャンバ320内に血液を導入された際に、流路340に漏らすことなく第一のチャンバ320内に血液を留めるためである。
【0111】
次に、本実施の形態の分離デバイスを用いた血液の分離方法を図14および図15を参照して説明する。図14は、本実施の形態の分離方法を示すフローチャートである。図15は、本実施の形態の分離方法を示す模式図である。
【0112】
図14のフローチャートに示すように、分離デバイス300を用いて血球を分離するには、血液を分離担体130に接触させ(ステップA’)、血液および分離担体130に遠心力を印加し(ステップC’)、分離された血液の液状成分を第二のチャンバ330に取り出せばよい(ステップB’)。
【0113】
ステップA’では、導入部322から第一のチャンバ320内に検査試料の血液140を導入して、血液140を分離担体130に接触させる(図15(A)参照)。取出部324および流路340の内面が疎水性であるため、血液140は流路340に流出することなく第一のチャンバ320内に留まる。一部の分離担体130は、血液の固形成分142に接触して、固形成分−分離担体凝集物150を形成する。
【0114】
次いでステップC’では、分離デバイス300(回転基板310)を回転させて、血液140および分離担体130に遠心力350を印加する。これにより、分離担体130および固形成分−分離担体凝集物150は、血液の液状成分144よりも比重が小さいため、遠心力350の印加に同期して内向き(遠心力350の向きとは逆の向き)に移動する。一方、血液の固形成分142は、血液の液状成分144よりもわずかに大きな比重を有するため、外向き(遠心力350の向き)に移動する。内側に移動する分離担体130は、外側に移動する固形成分142に接触すると、固形成分142に特異的に結合し、固形成分−分離担体凝集物150を形成する(図15(B)参照)。新たに形成された固形成分−分離担体凝集物150も内向きに移動する。結果として、固形成分−分離担体凝集物150は第一のチャンバ320内の内側に位置し、血液の液状成分144は第一のチャンバ320内の外側に位置することになる(図15(C)参照)。
【0115】
次いでステップB’では、第一のチャンバ320内の外側(第二のチャンバ330側)に位置する血液の液状成分144を第二のチャンバ330に取り出す。具体的には、ステップC’に続いて分離デバイス300(回転基板310)を回転させて、血液の液状成分144に遠心力350を印加すればよい。これにより、遠心力350を印加された液状成分144は、流路340内面を濡らして第二のチャンバ330に移動する。このとき、取出部324は第一のチャンバ320の外側(第二のチャンバ330側)の内壁に設けられているため、血液の液状成分144のみを容易に取り出すことができる(図15(D)参照)。
【0116】
このように、本実施の形態の分離デバイスは、回転基板を回転させるだけで、短時間で血液の液状成分のみを第二のチャンバに取り出すことができる。
【0117】
次に、本実施の形態の分離デバイスを用いた別の分離方法を、図16のフローチャートおよび図17の模式図を参照して説明する。
【0118】
図14および図15を参照して説明した血液の分離方法では、一種類の回転速度で遠心力を印加した。本方法では、第一の回転速度で第一の遠心力を印加し、次いで第二の回転速度で第一の遠心力よりも大きな第二の遠心力を印加する。すなわち、本方法では、血液を分離担体130に接触させ(ステップA”)、血液および分離担体130に第一の回転速度で第一の遠心力を印加し(ステップG)、血液および分離担体130に第二の回転速度で第二の遠心力を印加し(ステップH)、分離された血液の液状成分を第二のチャンバ330に取り出す(ステップB”)。
【0119】
ステップA”では、導入部322から第一のチャンバ320内に検査試料の血液140を導入して、血液140を分離担体130に接触させる(図17(A)参照)。取出部324および流路340の内面が疎水性であるため、血液140は流路340に流出することなく第一のチャンバ320内に留まる。一部の分離担体130は、血液の固形成分142に接触して、固形成分−分離担体凝集物150を形成する。
【0120】
次いでステップGでは、分離デバイス300(回転基板310)を第一の回転速度で回転させて、血液140および分離担体130に第一の遠心力370を印加する。第一の回転速度は、血液140が流路340に流出しないように小さな値とする。これにより、分離担体130および固形成分−分離担体凝集物150は、第一の遠心力370の印加に同期して内向き(第一の遠心力370の向きとは逆の向き)に移動する。一方、血液の固形成分142は、外向き(第一の遠心力370の向き)に移動する。内側に移動する分離担体130は、外側に移動する固形成分142に接触すると、固形成分142に特異的に結合し、固形成分−分離担体凝集物150を形成する(図17(B)参照)。新たに形成された固形成分−分離担体凝集物150も内向きに移動する。結果として、固形成分−分離担体凝集物150は第一のチャンバ320内の内側(回転中心312側)に位置し、血液の液状成分144は第一のチャンバ320内の外側(第二のチャンバ330側)に位置することになる(図17(C)参照)。
【0121】
次いでステップHで、第一の回転速度よりも速い第二の回転速度で分離デバイス300(回転基板310)を回転させて、血液140および分離担体130に第二の遠心力380を印加し、ステップB”で、第一のチャンバ320内の外側(第二のチャンバ330側)に位置する血液の液状成分144を第二のチャンバ330に取り出す。第二の回転速度は、血液140が流路340に流出するように大きな値とする。これにより、第二の遠心力380を印加された液状成分144は、流路340内面を濡らして第二のチャンバ330に移動する。このとき、取出部324は第一のチャンバ320の外側(第二のチャンバ330側)の内壁に設けられているため、血液の液状成分144のみを容易に取り出すことができる(図17(D)参照)。
【0122】
このように、回転基板の回転速度を調整することで、血液の液状成分の取り出しを容易に制御することができる。
【0123】
本実施の形態の分離デバイスは、第二のチャンバに血液の液状成分を取り出した後、そのまま第二のチャンバ内で血液の液状成分に対して操作を行うことができる。例えば、図18に示す分離デバイスでは、第二のチャンバ内において、取り出した血液の液状成分を検査試料とする検査を行うことができる。
【0124】
図18は、本実施の形態の別の分離デバイスの構成を示す図である。図18(A)は分離デバイスの垂直方向の断面図であり、図18(B)は分離デバイスの平面図である。図18において、図12および図13の分離デバイスと同じ構成要素には同一の符号を付す。
【0125】
図18において、分離デバイス400は、回転中心312を軸に回転しうる回転ベース410上に載置された基板420内に形成されている。
【0126】
回転ベース410は、回転中心312を軸に回転しうる支持基板であり、一または二以上の基板420を載置することができる。回転ベース410の形状は、通常は円形であるが特に限定されない。図18では、円形の回転ベース410の一部が示されている。
【0127】
基板420は、前述の回転基板310内に形成された流路部位に相当するものであり、導入部322および取出部324を有する第一のチャンバ320と、第一のチャンバ320内に配置された分離担体130と、導入口332および空気口334を有する第二のチャンバ330と、第二のチャンバ330内に配置された検出電極430と、第一のチャンバ320と第二のチャンバ330とを接続する流路340とを有する。
【0128】
導入部322および取出部324を有する第一のチャンバ320は、前述の回転基板310内に形成された第一のチャンバと同様の空間であり、その内部に分離担体130を配置されている。なお、図18(B)では分離担体130を省略している。
【0129】
導入口332および空気口334を有する第二のチャンバ330は、前述の回転基板310内に形成された第二のチャンバと同様の空間であるが、その内部に検出電極430を配置されていることが異なる。
【0130】
流路340は、前述の回転基板310内に形成された流路と同様のものである。
【0131】
検出電極430は、第二のチャンバ330内における電気化学反応を測定する電極であり、基板外に設けられた電極端子440に電気的に接続されている。検出電極430の形状や数量は、特に限定されず、目的に応じて適宜設定すればよい。検出電極430は、対極および電極露出面積が規定された作用極を有する2極式、または対極、作用極に加えて参照電極を有する3極式が好ましい。2極式の検出電極430は、絶対値を測定することはできないが、製造が容易である。一方、3極式の検出電極430は、変化値だけでなく、絶対値も測定することができ、特に作用極の電圧を測定する場合には必須である。作用極は、電極の面積が規定されていた方が好ましいため、絶縁膜によって各電極端子以外のリード線部分を被覆されていることが好ましい。検出電極430の材質は、電気化学的な物性が安定な材料が好ましく、例えば、金、白金、カーボン、タングステン、銀、銅などを用いることができる。電圧の基準となる参照電極は、銀電極または銀/塩化銀電極として機能しうるように作製されることが好ましい。例えば、形成した作用極および対極の上に、銀ペーストを塗布したり、銀で再度被膜したり、電解めっきなどを用いて形成したりすればよい。電極および絶縁体の形成方法は当業者に公知の技術を用いて作製することができる。
【0132】
次に、図18に示す分離デバイスを用いて血液の液状成分(血漿)の成分を分析する方法を、図19のフローチャートを参照して説明する。
【0133】
図19のフローチャートに示すように、分離デバイス400を用いて血液試料の成分を分析するには、血液を分離担体130に接触させて(ステップA”)、血液および分離担体130に第一の回転速度で第一の遠心力を印加し(ステップG)、血液および分離担体130に第二の回転速度で第二の遠心力を印加し(ステップH)、分離された血液の液状成分を第二のチャンバ330に取り出し(ステップB”)、取り出した血液の液状成分を試薬と反応させ(ステップJ)、第二のチャンバ330内の電気化学反応を測定すればよい(ステップK)。血液の液状成分を第二のチャンバ330に取り出すまで(ステップA”〜ステップB”)は、図16のフローチャートのステップA”〜ステップB”と同一の操作である。
【0134】
ステップJでは、第二のチャンバ330に取り出した血液の液状成分を、予め第二のチャンバ330内に配置されている試薬と反応させる。例えば、血液の液状成分内の乳酸脱水素酵素(以下、「LDH」と略記する)活性を測定する場合は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化体(以下、「NAD」と略記する)、ジアホラーゼ、フェリシアン化カリウム、乳酸リチウムおよびTrisバッファー(pH8.0)を第二のチャンバ330内に予め乾燥担持させておけばよい。この場合、各試薬の量は、例えば100mMフェリシアン化カリウムを0.4μL、1000U/mLジホラーゼを0.5μL、1M乳酸リチウムを0.4μL、100mM NADを0.4μL程度とすればよい。乾燥担持の方法は、当業者に公知の方法を用いることが可能であり、例えば、第二のチャンバ330内に試薬を滴下し、真空乾燥を室温で15分間行えばよい。上記各試薬を担持させた第二のチャンバ330内に血液の液状成分が流れ込むと、NAD、フェリシアン化カリウム、乳酸リチウムおよびTrisバッファーは血液に溶解する。液状成分にLDHが含まれていると、血液に溶解した乳酸リチウムおよびNADは、LDHの作用により反応してニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元体(以下、「NADH」と略記する)を生成する。すなわち、この例では、血液の液状成分内のLDHの活性に応じてNADHが生成される。
【0135】
次いで、ステップKでは、第二のチャンバ330内で生じた電気化学反応を検出電極430を用いて測定する。上記LDHの例の場合は、NADHおよびフェリシアン化カリウムがジアホラーゼの作用により反応してフェロシアン化カリウムを生成する酸化還元反応を、検出電極430を用いて測定する。その結果、血液の液状成分内のLDHの活性を測定することができる。
【0136】
以上のように、本実施の形態の分離デバイスは、回転させるだけで血液の液状成分を容易に取り出すことができるので、人間の手を煩わせずに全自動操作で血液の分離および分離された血漿の送液を実現することができる。このことは、検査を行う者の感染の危険性を低減させることに寄与する。また、本発明の分離デバイスの態様の分離容器は、各チャンバに試薬などを配置したり、各チャンバ内で加温などの物理的操作をしたりすることで、各チャンバに反応、精製、検出などの機能を持たせることができる
【0137】
最後に、本実施の形態の分離デバイスの製造方法について説明するが、以下の方法に限定するものではない。
【0138】
本実施の形態の分離デバイス300,400は、前述のとおり、第一のチャンバ320内に血液を留めるために取出部324が疎水性を有することが好ましい。このようにすることで、第一のチャンバ320内に導入された血液は、空気と液体との界面に発生する表面張力(毛管力)を流路340から第一のチャンバ320に向かう方向に受けるため、第一のチャンバ320内に留まる(非湿潤効果)。この非湿潤効果を実現するためには、少なくとも第一のチャンバ320と流路340との境界である取出部324が疎水性を有するようにすればよいが、流路340内面が疎水性を有するようにしてもよい。さらに、流路部位(第一のチャンバ320、第二のチャンバ330および流路340)の内面全面が疎水性を有するようにしても非湿潤効果を実現することができる。
【0139】
取出部324または流路部位(第一のチャンバ320、第二のチャンバ330および流路340)の内面を疎水性にするには、例えば、疎水性を付与しうる物質を塗布すればよい。疎水性を付与しうる物質の例には、フッ素樹脂系の塗布剤、シリコン系の塗布剤などが含まれる。この中では、フッ素樹脂計の塗布剤が好適に用いられる。
【0140】
また、疎水性を有する材料を用いて分離デバイス(回転基板310、基板410)を作製することで、流路部位の内面を疎水性にすることができる。疎水性を有する材料の例には、単結晶シリコン、アモルファスシリコン、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素などの半導体材料、ガラス、石英ガラス、アルミナ、サファイア、フォルステライト、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素などの無機絶縁材料、またはポリエチレン、エチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル・ブタジエンスチレン共重合体、シリコン樹脂、ポリフェニレンオキサイドおよびポリスルホンなどの有機材料が含まれる。この中では、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートが好適に用いられる。
【0141】
本実施の形態の分離デバイスは、製造の観点からは多層構造であることが好ましい。多層構造の分離デバイスの例としては、図13(A)に示す分離デバイス300、図18(A)に示す分離デバイス400などが挙げられる。
【0142】
図13(A)に示す二層構造の例では、分離デバイス300(回転基板310)は、導入口322および空気口334が設けられた上面基板362と、第一のチャンバ320、第二のチャンバ330および流路340が設けられた下面基板364とから形成されている。この場合、上面基板362および下面基板364をそれぞれ別個に作製し、各基板362,364をそれぞれの回転軸が同一となるように貼り合わせて、第一のチャンバ320、第二のチャンバ330および流路340を形成する。
【0143】
図18(A)に示す三層構造の例では、分離デバイス400(基板410)は、導入口322および空気口334が設けられた上面基板452と、第一のチャンバ320、第二のチャンバ330および流路340が設けられたチャンバ・流路形成基板454と、第一のチャンバ320および第二のチャンバ330の底面を構成する底面基板456とから形成されている。この場合、上面基板452、チャンバ・流路形成基板454および底面基板456をそれぞれ別個に作製し、各基板452,454,456をそれぞれの回転軸が同一となるように貼り合わせて、第一のチャンバ320、第二のチャンバ330および流路340を形成する。このように三層構造とすることで、チャンバ・流路形成基板454において第一のチャンバ320および第二のチャンバ330を貫通形状として形成することができるので、第一のチャンバ320および第二のチャンバ330を容易に形成することができる。また、チャンバ・流路形成基板454の厚さを変えることで、容易に第一のチャンバ320および第二のチャンバ330の深さを変えることができる。さらに、各基板452,454,456を組み合わせる前に、底面基板456の所定の位置に反応試薬などを容易に配置することができる。
【0144】
また、図18(A)に示す三層構造の分離デバイス400(基板410)において、チャンバ・流路形成基板454を、第一のチャンバ320、第二のチャンバ330および流路340の外形を形成した流路パターン基板と、第一のチャンバ320および第二のチャンバ330の外形を形成したチャンバ形成基板とにさらに分割して、四層構造の分離デバイス400(基板410)としてもよい。このようにすることで、第一のチャンバ320および第二のチャンバ330の深さと流路340の深さとをそれぞれ独立かつ容易に設定することができる。例えば、流路340の深さを100μm程度にする場合は、流路340の形状にあわせて切り出したシート状の流路パターン基板を用いることで、生産性を向上させることができる。
【0145】
上記各多層構造の分離デバイスの例において、各基板の接着方法は特に限定されず、当業者に公知の方法を用いることができる。例えば、各基板の間に接着性材料もしくは接着性を有するシートを介在させてもよいし、超音波接合、熱圧着接合、ラミネータ加工などの任意の接合方法を用いてもよい。
【0146】
また、上記各多層構造の分離容器の例において、第一のチャンバ、第二のチャンバおよび流路の形成方法は、特に限定されず、当業者に公知の方法を用いることができる。例えば、半導体微細加工技術に代表されるフォトリソグラフィー加工、プラスチック成型に代表されるインジェクションモールド、切削加工、マスター基板から複製をつくる転写加工などを用いることができる。この中では、フォトリソグラフィー加工を用いることが好ましい。以下、フォトリソグラフィー加工を用いた本実施の形態の分離容器の製造方法の一例を示す。
【0147】
まず、清浄なガラス基板(下面基板)にネガ型厚膜フォトレジストを塗布する。フォトレジストは、チャンバや流路のサイズに適したレジストを選択する。例えば、KMPR1030(化薬マイクロケム)は、厚膜形成度合およびアスペクト比の面から優れている。例えば、スピンコーターを用いてKMPR1030を回転塗布する場合には、500rpmで10秒間のプレ回転を行い、次いで1000rpmで30秒間の本回転を行うことで塗布することができる。このとき、本回転の回転速度を変化させることにより、レジスト膜の膜厚を変化させることができる。例えば、本回転を1000rpmとすることでレジスト膜の膜厚を57μmとすることができ、本回転を1070rpmとすることでレジスト膜の膜厚を48μmとすることができる。次いで、95℃で20分間のプレベークを行い、チャンバおよび流路が描かれたマスクを露光する。露光強度および露光時間は、レジスト膜の膜厚に応じて適宜設定すればよい。例えば、露光強度は1700mJ/cm程度が好ましい。次いで、95℃で6分間PEB(Post Exposure Bake)し、現像を行い、チャンバおよび流路のパターンをフォトリソグラフィーにより形成する。
【0148】
次に、パターンを形成した下面基板を切削してチャンバを形成する。また、導入部および空気穴を設けた上部基板を作製する。
【0149】
最後に、上面基板と下面基板とを接合して、分離デバイスを作製する。
【実施例】
【0150】
以下、本発明をより具体的に例示する。これらの実施例は、本発明を限定するものではない。
【0151】
[実施例1]
実施例1では、図4(A)に示す実施の形態1の分離容器を用いて、遠心力を印加せずに血液を分離した例を示す。また、比較例として、血液の固形成分より大きな比重を有する分離担体を用いて血液を分離した例も併せて示す。
【0152】
(本発明の分離担体の作製)
本発明の分離担体の担体部には、血漿より小さな比重を有する中空粒子(SX8782:JSR社)を用いた。この中空粒子の比重を測定したところ、約0.76であった。結合部には、レクチン(L3391:シグマ社)を用いた。レクチンを100mM PBバッファー(pH8.6)に分散させ、10μMレクチン含有溶液を調製した。このレクチン含有溶液1mLに、中空粒子を終濃度が1重量%となるように加えた。中空粒子およびレクチン含有溶液を入れたチューブを回転攪拌装置を用いて2時間転倒混和して、中空粒子表面にレクチンを結合させた。10分間静置した後、チューブ下側に集まった溶液を注意深く取り除き、10重量%アルブミン(A4503:シグマ社)溶液を1mL加えた。再度、回転攪拌装置を用いて2時間転倒混和して、非特異的結合を抑制するブロッキング処理を施した。10分間静置した後、チューブ下側に集まった溶液を注意深く取り除き、PBバッファーを1mL加えた。数回転倒混和して中空粒子表面を洗浄し、再度10分間静置し、チューブ下側に集まった溶液を注意深く取り除いた。この洗浄作業を3回繰り返して中空粒子表面を十分に洗浄し、本発明の分離担体を作製した。
【0153】
(本発明の分離容器の作製)
10mL遠沈管(有底管)の底部に直径2mmの貫通孔(取出部)を形成し、洗浄後に滅菌処理した。次いで、滅菌処理した片面粘着テープ(日東電工社)を遠沈管の底部内径に沿って切り出し、切り出した片面粘着テープを遠沈管内部から貫通孔の上に貼り付けた。本発明の分離担体を終濃度1重量%になるようにバッファーに分散させて分離担体分散液を調製し、調製した分離担体分散液を遠沈管内に提供した。溶媒を凍結乾燥で除去することで本発明の分離担体を遠沈管内部に配置し、本発明の分離容器を作製した。
【0154】
(比較例の分離担体の作製)
比較例の分離担体の担体部には、血球より大きな比重を有するラテックス粒子(Bangs Laboratories, Inc.)を用いた。このラテックス粒子の比重を測定したところ、約1.1であった。結合部には、前述のレクチンを用いた。前述のレクチン含有溶液1mLに、ラテックス粒子を終濃度が1重量%となるように加えた。ラテックス粒子およびレクチン含有溶液を入れたチューブを回転攪拌装置を用いて2時間転倒混和して、ラテックス粒子表面にレクチンを結合させた。10分間静置した後、チューブ上側に集まった溶液を注意深く取り除き、前述のアルブミン溶液を1mL加えた。再度、回転攪拌装置を用いて2時間転倒混和して、非特異的結合を抑制するブロッキング処理を施した。10分間静置した後、チューブ上側に集まった溶液を注意深く取り除き、PBバッファーを1mL加えた。数回転倒混和してラテックス粒子表面を洗浄し、再度10分間静置し、チューブ上側に集まった溶液を注意深く取り除いた。この洗浄作業を3回繰り返してラテックス粒子表面を十分に洗浄し、比較例の分離担体を作製した。
【0155】
(比較例の分離容器の作製)
前述の「本発明の分離容器の作製」と同様の手順により、比較例の分離担体を遠沈管内部に配置し、比較例の分離容器を作製した。
【0156】
(分離実験)
本発明の分離容器および比較例の分離容器に血液10mLを導入した。血液は、当日採血したヒト血液であり、溶血していないことを実験前に確認した。また、血球の割合を示す指標値であるヘマトクリット値もヘマトクリット測定器(KH−1200M:クボタ社)を用いて実験前に測定した。血液を導入した後、それぞれの容器を静置して、血液の固形成分と液状成分とが分離するまでの時間をそれぞれ測定した。ここでは、血液を導入してから、予め測定したヘマトクリット値から求められる位置に血液の固形成分(血球など)と液状成分(血漿)との分離線が形成されるまでの時間を測定した。分離後、本発明の分離容器では、固形成分−分離担体凝集物は分離容器の上側に浮上した。一方、比較例の分離容器では、固形成分−分離担体凝集物は分離容器の下側に沈降した。
【0157】
その後、本発明の分離容器および比較例の分離容器から、それぞれ血漿を取り出した。比較例の分離容器では、遠沈管のキャップを外し、上側からピペットを用いて血漿を取り出した。このとき、開栓する際に遠沈管にわずかな振動を与えてしまったところ、血液の固形成分および分離担体が舞い上がってしまい、血漿と固形成分との分離線が不鮮明になってしまった。これにより、再度分離させるためにさらに10分間待機しなければならなかった。また、ピペットを用いて分離線の近くまで血漿を最大量取り出す手技が難しく、一部血球が混入してしまった。一方、本発明の分離容器では、先端の鋭利な21Gの注射針で遠沈管底部に貼られたテープを遠沈管の外側から穿刺することで、血漿成分を容易に取り出すことができた。このとき、振動を故意に与えても分離線は明瞭で、固形成分−分離担体凝集物が再分散することはなかった。また、血漿の流出に伴って分離面の水位は下がっても、固形成分−分離担体凝集物が再分散することはなかった。最終的には、固形成分−分離担体凝集物が穿刺により生じた開口を塞ぐことにより、液体の流出が止まった。
【0158】
(結果)
表1は、血液の分離時間および取り出すことのできた血漿の量を示す表である。この表からわかるように、比較例の分離容器では、血液の固形成分と液状成分とが分離するまでに180分を要し、4mLの血漿を取り出すことができた(表中の「比較例1」参照)。一方、本発明の分離容器では、わずか1分で血液の固形成分と液状成分とを分離することができ、5.2mLもの血漿を取り出すことができた(表中の「実施例1」参照)。この結果から、本発明の分離容器は、従来の容器に比べて血液を迅速に分離できることおよび取り出せる血漿の量が多いことがわかる。
【表1】

【0159】
[実施例2]
実施例2では、実施例1で作製した分離容器を用いて、遠心力を印加して血液を分離した例を示す。実施例1と同様に、比較例として、血液の固形成分より大きな比重を有する分離担体を用いて血液を分離した例も併せて示す。
【0160】
(本発明の分離容器および比較例の分離容器の作製)
前述の実施例1と同様の手順により、本発明の分離容器および比較例の分離容器を作製した。
【0161】
(分離実験)
本発明の分離容器および比較例の分離容器に血液10mLを導入し、それぞれの容器に蓋をした。遠心分離機を用いてそれぞれの容器に室温で遠心力(250G)を30秒間印加し、それぞれの容器について血液の分離の様子を観察した。
【0162】
(結果)
比較例の分離容器では、分離容器の底部に分離担体がわずかに沈降していたものの、血液の分離は観察できなかった。そこで、遠心力を印加する時間を120秒まで延長したが、血液の固形成分(血球など)と液状成分(血漿)との分離線は不明瞭であった。この結果から、比較例の分離容器では、血液と分離担体とを接触させるためにある程度の時間静置することが必要であること、および大きな遠心力を長時間印加することが必要であることが推定される。
【0163】
一方、本発明の分離容器では、固形成分−分離担体凝集物が分離容器の上側に浮上しており、血液が固形成分(血球など)と液状成分(血漿)に分離しているのが観察された。また、遠心力をわずか10秒間印加しただけでも、血液が固形成分と液状成分に分離しているのが観察された。この結果から、本発明の分離容器は、従来の容器に比べて短時間で大きな遠心力を印加することなく分離できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明の分離方法および分離容器は、血液の固形成分と液状成分との比重差を実質的に0.3程度にできるので、遠心力などの外力を必要とせずに短時間で血液を分離することができる。本発明の分離容器は、分離された液状成分を容易に取り出すことができるので、そのまま生化学検査や免疫検査などの別の操作を行うことができる。また、本発明の分離容器は、人間の手を煩わせずに全自動操作で血液の分離および分離された血漿の送液を実現することができるので、感染の危険性を低減することができる。特に本発明の分離デバイスの態様の分離容器は、回転速度を増大させるだけで血液の液状成分を容易に取り出すことができ、血液に含有される成分の量を迅速に把握することができる。また、本発明の分離デバイスの態様の分離容器は、各槽に試薬などを配置することまたは各槽上で加温などの物理的操作をすることで、反応、精製、検出などの機能を持たせることができる。
【0165】
以上のように、本発明の分離方法および分離容器は、血液試料中に含まれるタンパク質や健康指標物質などを検出するPOCT診断バイオセンサなどに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1】本発明の実施の形態1の分離容器の構成を示す断面図
【図2】本発明の実施の形態1の分離方法の手順を示すフローチャート
【図3】本発明の実施の形態1の分離方法の手順を示す模式図
【図4】本発明の実施の形態1の分離方法の別の手順を示す模式図
【図5】本発明の実施の形態1の分離方法のさらに別の手順を示す模式図
【図6】従来の採血管を用いた分離方法の手順を示す模式図
【図7】本発明の実施の形態2の分離方法の手順を示すフローチャート
【図8】本発明の実施の形態2の分離方法の手順を示す模式図
【図9】本発明の実施の形態3の分離容器の構成を示す断面図
【図10】本発明の実施の形態3の分離方法の手順を示すフローチャート
【図11】本発明の実施の形態3の分離方法の手順を示す模式図
【図12】本発明の実施の形態4の分離容器の構成を示す水平断面図
【図13】(A)本発明の実施の形態4の分離容器の構成を示す縦断面図、(B)本発明の実施の形態4の分離容器の構成を示す平面図
【図14】本発明の実施の形態4の分離方法の手順を示すフローチャート
【図15】本発明の実施の形態4の分離方法の手順を示す模式図
【図16】本発明の実施の形態4の分離方法の別の手順を示すフローチャート
【図17】本発明の実施の形態4の分離方法の別の手順を示す模式図
【図18】(A)本発明の実施の形態4の分離容器の別の構成を示す縦断面図、(B)本発明の実施の形態4の分離容器の別の構成を示す平面図
【図19】本発明の実施の形態4の分離方法のさらに別の手順を示すフローチャート
【図20】従来の採血管の構造を示す断面図
【符号の説明】
【0167】
10,20 採血管
12 有底管
14 無機粒子状担体
16 密封部材
23 従来の分離担体
24,140 血液
25,142 血液の固形成分
26,144 血液の液状成分
27 固形成分−分離担体凝集物
28,180,350 遠心力
30 取出手段
100〜104,200 分離容器
110 有底管
112 導入口
114 底面
120,122 取出部
130 本発明の分離担体
132 担体部
134 結合部
150 固形成分−分離担体凝集物
160 穿刺針
170 蓋
210 シリンジ容器
220 採血針
230 プランジャ
240 採血部位
300,400 分離デバイス
310 回転基板
312 回転中心
314 半径方向
316 回転基板の回転方向を示す矢印
320 第一のチャンバ
322 導入部
324 取出部
330 第二のチャンバ
332 導入口
334 空気口
340 流路
342 流路部位
362,452 上面基板
364 下面基板
370 第一の遠心力
380 第二の遠心力
410 回転ベース
420 基板
430 検出電極
440 電極端子
454 チャンバ・流路形成基板
456 底面基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液の固形成分と液状成分とを分離する分離容器であって、
導入口を有し、かつ底部に取出部を有する有底管と、
前記液状成分よりも小さな比重を有する担体部と、前記担体部の表面に担持された前記固形成分に特異的に結合する結合部とを有し、前記有底管内に配置されている分離担体と、
を有する分離容器。
【請求項2】
前記分離担体は前記有底管の底部に配置されている、請求項1に記載の分離容器。
【請求項3】
前記取出部は破断されることにより開口する、請求項1または請求項2に記載の分離容器。
【請求項4】
血液を採血し、前記血液の固形成分と液状成分とを分離する分離容器であって、
採血針を通液可能に取付け可能な、前記血液を保持しうるシリンジ容器と、
前記シリンジ容器の内面に隙間なく当接した状態で、前記シリンジ容器の軸方向に移動可能なプランジャと、
前記液状成分よりも小さな比重を有する担体部と、前記担体部の表面に担持された前記固形成分に特異的に結合する結合部とを有し、前記シリンジ容器内に配置されている分離担体と、
を有する分離容器。
【請求項5】
回転中心を軸として回転される基板の内部に形成され、血液の固形成分と液状成分とを分離する分離容器であって、
導入部および取出部を有するチャンバと、
前記液状成分よりも小さな比重を有する担体部と、前記担体部の表面に担持された前記固形成分に特異的に結合する結合部とを有し、前記チャンバ内に配置されている分離担体とを有し、
前記取出部は、前記チャンバの遠心方向に対して垂直な断面の面積よりもその面積が小さく、かつ、前記導入部よりも前記回転中心から離れて位置している、分離容器。
【請求項6】
前記分離担体は、前記導入部よりも前記回転中心から離れた位置に配置されている、請求項5に記載の分離容器。
【請求項7】
前記取出部は疎水性である、請求項5または請求項6に記載の分離容器。
【請求項8】
前記取出部の断面積は、50μm〜0.25mmである、請求項7に記載の分離容器。
【請求項9】
前記担体部の水に対する比重は、0.5〜0.8の範囲内である、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の分離容器。
【請求項10】
前記担体部は、直径100nm〜500μmの略球状の高分子樹脂粒子である、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の分離容器。
【請求項11】
前記担体部は中空粒子である、請求項10に記載の分離容器。
【請求項12】
前記担体部は高分子樹脂膜である、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の分離容器。
【請求項13】
前記結合部は血球に特異的に結合する抗体である、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の分離容器。
【請求項14】
血液の固形成分と液状成分とを分離する分離方法であって、
前記液状成分よりも小さな比重を有する担体部と、前記担体部の表面に担持された前記固形成分に特異的に結合する結合部とを有する分離担体に、前記血液を接触させるステップと、
前記固形成分と分離された前記液状成分を取り出すステップと、
を有する分離方法。
【請求項15】
前記分離担体に前記血液を接触させるステップの後に、前記分離担体および前記血液に遠心力を印加するステップをさらに有する、請求項14に記載の分離方法。
【請求項16】
血液の固形成分と液状成分とを請求項5に記載の分離容器を用いて分離する分離方法であって、
前記血液を前記導入部から前記チャンバに導入するステップと、
前記基板を前記回転中心を軸として第一の回転速度で回転させるステップと、
前記基板を前記回転中心を軸として第二の回転速度で回転させるステップとを有し、
前記第二の回転速度は前記第一の回転速度より速い、分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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