血液インピーダンス計測装置、人工透析装置及び血液のインピーダンスを計測する方法
【課題】非接触で血液のインピーダンスを測定する。
【解決手段】血液回路に設けられた少なくとも一対の電極と、前記少なくとも一対の電極101A,Bに接続されて、時間的に変動する入力電気信号を前記少なくとも一対の電極101A,Bに入力する信号源と、前記少なくとも一対の電極101A,Bに接続されて、前記時間的に変動する電気入力信号が前記少なくとも一対の電極101A,Bに入力されたときに前記少なくとも一対の電極101A,Bに誘起される出力電気信号を検出する検出回路と103、前記入力電気信号と前記出力電気信号に基づいて、血液のインピーダンスを算出する演算回路104と、前記少なくとも一対の電極101A,Bと、前記血液回路を流れる血液とを電気的に絶縁する絶縁体とを備える血液インピーダンス測定装置100を提供する。
【解決手段】血液回路に設けられた少なくとも一対の電極と、前記少なくとも一対の電極101A,Bに接続されて、時間的に変動する入力電気信号を前記少なくとも一対の電極101A,Bに入力する信号源と、前記少なくとも一対の電極101A,Bに接続されて、前記時間的に変動する電気入力信号が前記少なくとも一対の電極101A,Bに入力されたときに前記少なくとも一対の電極101A,Bに誘起される出力電気信号を検出する検出回路と103、前記入力電気信号と前記出力電気信号に基づいて、血液のインピーダンスを算出する演算回路104と、前記少なくとも一対の電極101A,Bと、前記血液回路を流れる血液とを電気的に絶縁する絶縁体とを備える血液インピーダンス測定装置100を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液の体外循環回路に設けられる血液インピーダンス計測装置、それを備える人工透析装置及び体外循環回路を流れる血液のインピーダンスを計測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液の電気インピーダンスは、血液中の血液細胞(特に赤血球)の種々の特性を反映することが知られている。例えば、細胞内液(赤血球細胞内液の電解質)及び細胞外液(血漿の電解質)の導電率、細胞膜容量、ヘマトクリット(血液中に占める赤血球の容積の割合)、赤血球細胞の形状、大きさ及び配向状態などを反映することが知られている。例えば、特許文献1には、血液の電気インピーダンスを測定することによってヘマトクリットを測定するヘマトクリット測定装置が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載のヘマトクリット測定装置は、血液透析等の体外循環回路においてヘマトクリットを連続測定するための装置であって、血液流路を構成する円筒状の絶縁パイプに配置された抵抗測定セルと、2種類の交流電流源(高周波及び低周波電流源)と、交流電圧計などを備えている。なお、抵抗測定セルは、絶縁パイプの中心軸方向に所定距離離れた位置に設けられた1対の低周波電流供給電極と、これらの低周波電流供給電極に隣接して配置された1対の高周波電流供給電極と、1対の電圧検出電極とを有している。そして、低周波電流源が50kHzの交流電流を低周波電流供給電極に供給したときに、電圧検出電極に発生する50kHzの交流電圧と、高周波電流源が20MHzの交流電流を高周波電流供給電極に供給したときに、電圧検出電極に発生する20MHzの交流電圧とをそれぞれ測定することにより、血液の低周波インピーダンス及び高周波インピーダンスを測定している。ここで、血液のヘマトクリット値は、血液の低周波インピーダンスと高周波インピーダンスとの比の対数に比例することが知られており、この関係を用いて、測定された低周波インピーダンス及び高周波インピーダンスからヘマトクリット値を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−133062号公報
【0005】
【非特許文献1】医用電子と生体工学第37巻特別号(1999)P158
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のヘマトクリット測定装置を含め、従来の、血液のインピーダンスを測定する測定装置(接触型血液インピーダンス測定装置)では、いずれも、交流電流が供給される電流供給電極が血液と直接接触するように配置されている。後述のように、電流供給電極が血液と直接接触するように配置されている場合には、比較的容易に、高いS/N比で血液のインピーダンス測定を行うことができる。しかしながら、電流供給電極が血液に接触しているので、ウィルスや細菌等の感染リスクが高くなる。また、血液は生体内で最も電気抵抗が小さいうえ、血管は動脈又は静脈を通じて心臓につながっている。そのため、血液の体外循環回路において、電流供給電極が直接血液に接触している状態で血液に電流を流すのは、漏れ電流による感電の恐れがあるため望ましくない。また、電流供給電極が直接接触している状態で電流を流し続けると、電極表面に金属が析出したり、血液中に血栓が生じたりする恐れもある。
【0007】
本発明の目的は、感染及び感電の恐れを低減することができ、且つ、電極表面に金属が析出したり、血液中に血栓が生じたりする恐れを低減できる、血液のインピーダンス測定装置、それを備える人工透析装置及び血液のインピーダンス測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に従えば、体外を循環する血液回路を流れる血液のインピーダンスを測定する血液インピーダンス測定装置であって、
前記血液回路に設けられた少なくとも1対の電極と、
前記少なくとも一対の電極に接続されて、時間的に変動する入力電気信号を前記少なくとも一対の電極に入力する信号源と、
前記少なくとも一対の電極に接続されて、前記時間的に変動する電気入力信号が前記少なくとも一対の電極に入力されたときに前記少なくとも一対の電極に誘起される出力電気信号を検出する検出回路と、
前記入力電気信号と前記出力電気信号に基づいて、血液のインピーダンスを算出する演算回路と、
前記少なくとも一対の電極と、前記血液回路を流れる血液とを電気的に絶縁する絶縁体とを備える血液インピーダンス測定装置が提供される。
【0009】
本発明の血液インピーダンス測定装置によれば、電極と血液回路を流れる血液とが絶縁体により電気的に絶縁されているため、感電の恐れがない。また、電極が血液に直接接触しないので、血液中に電極表面に析出した金属が入り込む恐れがない。
【0010】
本発明のインピーダンス測定装置において、前記少なくとも一対の電極は、前記信号源及び前記検出回路の両方に接続される一対の電極を含んでもよい。あるいは、前記少なくとも一対の電極は、前記信号源に接続され前記検出回路に接続されない第1の電極対と、前記検出回路に接続され前記信号源に接続されない第2の電極対とを含んでもよい。前者の場合には、一対の電極が入力電気信号用の電極対と出力電気信号用の電極対とを兼ねることができるため、インピーダンス測定装置の構造を簡略にして装置の製造コストを下げることができる。また、後者の場合には、入力電気信号用の電極対と、出力電気信号用の電極対とを独立に設けている。例えば、入力電気信号として電流信号を用い、出力電気信号として電圧信号を用いる場合には、出力電気信号用の電極対においては、血液のインピーダンスと比較的大きな入力信号電流とによる第1の電圧降下と、出力電気信号用の電極直下の絶縁体のインピーダンスと電圧検出回路に流れる微弱な電流による第2の電圧降下とが同時に計測される。ここで、第1の電圧降下に比べて、第2の電圧降下を小さく抑えることができる。言い換えると、所望の血液のインピーダンスによる電圧を絶縁体のコンデンサのインピーダンスによる電圧に比べて相対的に大きくすることができる。これにより、絶縁体の静電容量Csの影響を低減でき、正確に血液のインピーダンスを測定することができる。
【0011】
本発明の血液インピーダンス測定装置において、前記血液回路は樹脂製のチューブにより構成されていてもよく、前記少なくとも一対の電極は前記チューブの外側に配置されていてもよく、前記絶縁体は、前記血液回路を画成する前記樹脂製のチューブであってもよい。この場合には、血液回路が一般によく用いられる樹脂製のチューブである場合であっても、チューブの外側に電極を設けることにより、非接触での血液のインピーダンス測定を行うことができる。
【0012】
本発明の血液インピーダンス測定装置において、前記絶縁体は、前記少なくとも一対の電極の表面を被覆する絶縁膜として形成されてもよく、前記電極に設けられた前記絶縁膜が前記血液回路の一部を画成して、前記血液に接触していてもよい。この場合には、例えば、内面がフッ素系樹脂などでコーティングされた金属製のチューブ(パイプ)を本発明に係る電極と絶縁体として用いることができる。絶縁膜の厚さ(コーティングの厚さ)は、比較的容易に薄くすることができるため、絶縁膜による静電容量を小さく抑えることができ、精度よく血液のインピーダンスを測定することができる。
【0013】
本発明の血液インピーダンス測定装置において、前記時間的に変動する電気入力信号は、低周波数の交流電流信号と高周波数の交流電流信号を含んでもよく、前記演算回路は、低周波数の交流電流信号を用いて測定された血液のインピーダンスの大きさから前記絶縁体の静電容量を算出し、算出された前記絶縁体の静電容量に基づいて、前記血液のインピーダンスを算出してもよい。この場合には、低周波数の領域で測定されたインピーダンスの値から、絶縁体の静電容量の大きさを容易に決定できる。そのため、絶縁体の静電容量に起因する成分を取り除いて、精度よく血液のインピーダンスの値を算出することができる。
【0014】
本発明の第2の態様に従えば、人工透析装置であって、
血液を循環させる血液回路と、
透析液を循環させる透析液回路と、
透析液回路に接続されて、透析液を供給しつつ透析液を循環させる透析液供給装置と、
血液回路に接続されて、血液を循環させる血液ポンプと、
血液回路及び透析液回路に接続されるダイアライザーと、
血液回路に接続される本発明の第1の態様に従う血液インピーダンス測定装置とを備える人工透析装置が提供される。
【0015】
本発明の第2の態様によれば、人工透析中に容易に血液のインピーダンス測定が可能となり、人工透析中に発生する恐れがある、浸透圧の急激な変化などをモニターすることができる。
【0016】
本発明の第3の態様に従えば、血液回路を流れる血液のインピーダンスを測定する方法であって、
血液回路を流れる血液に、前記血液との間に配置された絶縁体により絶縁された少なくとも一対の電極を通じて低周波数の電気入力信号を含む電気入力信号を入力することと、
前記電気入力信号を前記少なくとも一対の電極に入力したときに、前記少なくとも一対の電極に誘起される出力電気信号を検出することと、
前記低周波数の電気入力信号と、前記低周波数の電気入力信号により誘起された低周波数の出力電気信号に基づいて、前記絶縁体の静電容量を算出することと、
前記絶縁体の静電容量と、前記電気入力信号と、前記出力電気信号とに基づいて血液のインピーダンスを算出することとを備える血液のインピーダンスの測定方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電極が血液などの電解質が直接触れていないため、電極表面に金属が析出する恐れがない。また、電極が血液などの電解質が直接触れていないため、血液中に血栓が生じるおそれを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は人工透析装置の概略図である。
【図2a】図2aはダイアライザーの概略図である。
【図2b】図2bはダイアライザーの機能を示す概略図である。
【図3】図3は一対の(2端子の)電極を有する血液インピーダンス測定装置の概略図である。
【図4a】図4aは接触モデルの等価回路図である。
【図4b】図4bは非接触モデルの等価回路図である。
【図5】図5は生体組織のモデル図である。
【図6】図6は、低張液、全血及び高張液についてのコールコールプロットである。
【図7】図7は接触型血液セルの概略図である。
【図8a】図8aは、接触型血液セルについての|Z|の測定結果である。
【図8b】図8bは、非接触型血液セルについての|Z|の測定結果である。
【図9a】図9aは、測定されたインピーダンスの実部をプロットしたグラフである。
【図9b】図9bは、測定されたインピーダンスの虚部をプロットしたグラフである。
【図10】図10は4端子電極を有する血液インピーダンス測定装置の概略図である。
【図11】図11は薄型チャンバの概略図である。
【図12】図12は同心型電極を有する薄型チャンバの概略図である。
【図13】図13は、本発明に係るインピーダンス測定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る血液のインピーダンス測定装置として、図1に示される血液透析用の人工透析装置200に装着される非接触型の血液インピーダンス測定装置100を例に挙げて説明する。ここで、人工透析装置200は、濃厚透析液(透析液原液)を貯留する透析液タンク201と、透析液供給装置202と、監視装置203と、ダイアライザー204と、クリットラインチャンバ205と、血液ポンプ206とを主に備えている。さらに、人工透析装置200は、いずれも樹脂製のチューブにより構成された、透析液回路207及び血液回路208を備えている。
【0020】
透析液タンク201と透析液供給装置202とはチューブにより接続されており、透析液タンク201内の濃厚透析液が透析液供給装置202に供給される。また、透析液供給装置202には、水道水から作られる脱イオン水(例えば、イオン交換樹脂を通し脱イオン化処理した水道水)が供給されている。透析液供給装置202は濃厚透析液を適当な濃度に調整した後、濃度調整された透析液(以下、単に透析液と呼ぶ)をチューブを介して接続された監視装置203に送る。監視装置203に送られた透析液は、ダイアライザー204を通って監視装置203に戻る透析液回路207を流れる。監視装置203は、透析液回路207内を流れる透析液の流量、温度等をモニターするとともに、透析患者の静脈圧等の生体情報をモニターしている。また、後述のように、クリットラインチャンバ205に取り付けられた不図示のセンサにより計測される、血液のヘマトクリット値及び/又は酸素飽和度等をモニターすることもできる。
【0021】
また、透析患者から体外に引き出された血液は、血液ポンプ206及びダイアライザー204を通って再び体内に戻る血液回路208を流れる。なお、体外に引き出された血液が血液回路208内で凝固することを防ぐために、血液回路208の途中においてヘパリン等の抗凝固薬が注入される。
【0022】
ダイアライザー204は、図2aに示されるように、中央部分に設けられた、複数の中空糸状の半透膜により構成された血液流路204aと、血液流路204aの外側に設けられた透析液流路204bとからなる2重構造の流路を有する。血液流路204aと透析液流路204bとは、血液流路204aを画成する半透膜により隔てられている。また、血液流路204aを流れる血液と、透析液流路204bを流れる透析液とは、互いに逆向きに流れている。血液流路204aを画成する半透膜には非常に径の小さな細孔が開いており、尿素、クレアチニン、尿酸等の尿毒素、及び、ナトリウム、カリウム、リンなどの電解質を透過させるが、赤血球、白血球、タンパク質、細菌、ウィルスなどは透過させない。そして、図2bに示されるように、半透膜を通して血液中の尿毒素等の老廃物が透析液へと排出されるとともに、身体に不足している電解質が透析液側から補われる。なお、血液中の赤血球、白血球、タンパク質などは半透膜を透過できないため、血液側から透析液側へ排出されることはない。
【0023】
前述のように、血液回路208のダイアライザー204よりも上流側には、クリットラインチャンバ205が設けられている。クリットラインチャンバ205の中央部分には、内部に血液流路が形成された、薄い板状の透明な透光部205aが形成されている。透光部205aに血液のヘマトクリット値及び/又は血液の酸素飽和度を光学的に計測するセンサを取り付けることができる。
【0024】
さらに、血液回路208の、クリットラインチャンバ205の上流側に隣接する位置には、非接触型の血液インピーダンス測定装置100が配置されている。図3に示すように、血液インピーダンス測定装置100は、血液回路208を構成する樹脂製のチューブの外側に巻き付くように設けられた、円環状の2つの電極101A、101Bと、電極101A、101Bに接続されて、電極101A,101Bの間に交流電流Iを流す電流発生回路102と、交流電流Iにより電極101A、101Bの間に発生する交流電圧Vを検出する電圧検出回路103と、交流電流I、交流電圧V及びこれらの位相差θからインピーダンスZを求める演算回路104等を有している。なお、図3に示す血液インピーダンス装置100では、交流電流Iを入力するための電極と、交流電圧Vを検出するための電極とが独立には設けられておらず、1対の電極101A,101Bが両方の機能を兼ねている。
【0025】
後述のように、血液のインピーダンスの周波数特性を測定することにより、赤血球の細胞内外の水分移動、赤血球の細胞膜の膜透過性(イオン透過性)、赤血球の形状、大きさ及び配向状態等の生理学/物性情報を得ることができる。
【0026】
特に、人工透析を行う際には血液が体外で循環されることになるため、人工透析を受ける患者は、急激な浸透圧変化にさらされる恐れがある。そのような場合には、低血圧その他の失調により施行を中止しなければならないこともある。そして、急激な浸透圧変化は、全身の浸透圧バランスの以上が見られる前にまず全身を循環する血液中の赤血球の形状変化を引き起こし、ひいては血液のインピーダンスの周波数特性にも変動を生じさせる。そのため、血液のインピーダンスの周波数特性をモニタし、急激な浸透圧変化を検知することができれば、患者が全身的なショックを引き起こす前に浸透圧の調整などの対処を行うことが可能となる。
【0027】
また、近年、糖尿病により赤血球の細胞膜の膜透過性が変わることが明らかになってきた。そして、赤血球の細胞膜の膜透過性の変化から血糖値を推定することが可能となりつつある。上述のように、血液のインピーダンスの周波数特性を測定することにより、赤血球の細胞膜の膜透過性についての情報を得ることができる。血液のインピーダンスの周波数特性を測定することにより、赤血球の細胞膜の膜透過性についての情報を抽出し、それに基づいて透析中に血糖値の変化をモニタできれば、透析中の血中ブドウ糖の量を適切にコントロールすることが可能となる。透析患者の3割が糖尿病性腎症であると言われていることから、透析中の血糖値モニタは医師にとって有用な情報を提供できる。
【0028】
次に、血液インピーダンス測定装置100を用いた血液のインピーダンス測定について説明する。前述のように、電極101A,101Bは、血液回路208を構成する樹脂チューブの延在する方向に、所定の距離だけ隔てて配置されている。電極101A,101Bは、電流発生回路102に電気的に接続されるとともに、電圧検出回路103にも電気的に接続されている。また、電極101A,101Bは、血液に直接接触しておらず、樹脂製のチューブにより隔てられている。ここで、血液の等価回路は、細胞間質液に対応する細胞外液抵抗Re、リン脂質膜により構成される細胞膜に対応する細胞膜容量Cm及び細胞内液に対応する細胞内液抵抗Riの3要素を用いて、図4aのように表すことができる。これは、図5に示されるような、生体組織をモデル化したものに相当する。ここで、生体組織において、比較的低周波の交流電流は図5の実線に示されるように、細胞外液を通って流れる。細胞膜は、細胞膜容量Cmを有するコンデンサとしてはたらくため、直流電流及び比較的低周波の交流電流を通しにくいからである。これに対して、比較的高周波の交流電流は、細胞膜を容易に通過できるようになるため、細胞外液を通って流れるだけでなく、さらに、図5の点線に示されるように細胞内部も通って流れようになる。
【0029】
ここで、電極101A,101Bが血液に直接接触している場合には、測定されるインピーダンスは図4aに示される等価回路の両端のインピーダンスZ1に相当する。つまり、測定されるインピーダンスは、血液のインピーダンスそのものである。これに対して、本実施形態のように電極101A,101Bと血液とが樹脂製のチューブにより隔てられていて互いに接触しない場合には、測定されるインピーダンスは、図4bに示される等価回路の両端のインピーダンスZ2に相当する。ここで、図4bに示される等価回路は、図4aに示される血液の等価回路に、血液回路108を構成する樹脂製のチューブに相当する静電容量Csが直列に接続されたものである。なお、以後の説明において、適宜、インピーダンスZ1を接触モデルの等価回路インピーダンスZ1と呼び、インピーダンスZ2を非接触モデルの等価回路インピーダンスZ2と呼ぶ。
【0030】
ここで、接触モデルの等価回路インピーダンスZ1と、非接触モデルの等価回路インピーダンスZ2はそれぞれ、数1、数2のように表すことができる。ここで、数1と数2を比較して分かるように、接触モデルの等価回路インピーダンスZ1と、非接触モデルの等価回路インピーダンスZ2の実部Real{Z1}及びReal{Z2}はいずれも同じ式(数3参照)で表すことができる。
【0031】
【数1】
【0032】
【数2】
【0033】
【数3】
【0034】
上述のように、接触型の血液インピーダンス測定装置を用いる場合には、測定されるインピーダンスは血液のインピーダンスにほぼ等しい。しかしながら、本実施形態のように非接触型の血液インピーダンス測定装置100を用いる場合には、測定されたインピーダンスから血液のインピーダンスを求めるためには、数2の第2項の成分、すなわち、血液回路108を構成する樹脂製のチューブに起因する静電容量Csの成分の影響を取り除かなければならない。ここで、数2によれば、ω→0の極限において、第1項→Reであるのに対して、第2項→∞である。このことから、低周波領域においては、インピーダンスZ2の大きさ(|Z2|)は、第2項による寄与が支配的となることが分かる。すなわち、低周波領域において計測されるインピーダンスZ2の大きさ(|Z2|)は、静電容量Csによる寄与分(1/ωCs)にほぼ等しいと考えられるので、これにより、樹脂製のチューブの静電容量Csを推定することができる。
【0035】
そして、低周波領域においてインピーダンスZ2の大きさを測定することにより、樹脂製チューブの静電容量Csを推定することができれば、数2の第2項の成分の大きさを求めることができるため、その影響を取り除くことができる。このようにして、本実施形態のような非接触型の血液インピーダンス測定装置100により測定されたインピーダンスZ2から、血液のインピーダンスを求めることができる。
【0036】
以上をまとめると、本実施形態の非接触型の血液インピーダンス測定装置100を用いて血液のインピーダンスを測定する方法は以下のようになる(図13参照)。まず、血液回路108に、絶縁体を介して血液回路108内の流路と対向するように少なくとも1対の電極(電極101A、101B)を配置する(S1)。次に、少なくとも1対の電極に、低周波数の電気入力信号(例えば交流電流信号)を含む電気入力信号を入力する(S2)。ここで、低周波数の電気入力信号とは、好ましくは10kHz〜200kHz程度の周波数領域の信号であり、さらに好ましくは50kHz〜100kHz程度の周波数領域の信号である。ここでは、このような周波数領域の低周波数の電気入力信号と、これよりも高周波数の電気入力信号(例えば数百kHz〜100MHz程度)を含む電気入力信号を電極に入力する。次に、電気入力信号によって少なくとも1対の電極に誘起される電気出力信号を検出する(S3)。ここで検出される電気出力信号は、上述の低周波数の電気入力信号に対応する低周波数の電気出力信号と、高周波数の電気入力信号に対応する高周波数の電気出力信号とを含んでいる。次に、低周波数の電気入力信号と、低周波数の電気入力信号により誘起された低周波数の出力電気信号に基づいて、絶縁体の静電容量を算出する(S4)。上述のように、低周波数の電気入力信号と、それにより誘起された出力電気信号とから算出されるインピーダンスの大きさは、絶縁体の静電容量の寄与が支配的である。このことを利用して、低周波数の電気入力信号と、それにより誘起された出力電気信号から、絶縁体の静電容量を算出する。そして、絶縁体の静電容量と、(高周波数領域における)電気入力信号と、(高周波数領域における)出力電気信号とに基づいて血液のインピーダンスを算出する(S5)。このようにして、絶縁体の静電容量による影響を取り除いて、血液のインピーダンスを算出することができる。
【0037】
次に、測定された血液のインピーダンスから生理学情報を抽出する方法について説明する。ここで、測定された血液のインピーダンスから、その逆数であるアドミッタンスを求め、各周波数におけるアドミッタンスを複素平面にプロットすることにより、いわゆるコールコールプロットを作成することができる。図6に、低張液、全血、高張液について作成されたコールコールプロットの例を示す。コールコールプロットにおいて、アドミッタンスの軌跡は、図6に示すように円弧状になることが知られている。ここで、円弧の左端の横軸の値が1/Reを示し、右端の値が(1/Re)+(1/Ri)を示す。なお、図6において、低張液とは、細胞(例えば赤血球細胞)よりも浸透圧が低くなるように、血液に生理食塩水よりも低濃度の食塩水を混ぜた液体であり、高張液は細胞(例えば赤血球細胞)よりも浸透圧が高くなるように、血液に生理食塩水よりも高濃度の食塩水を混ぜた液体である。低張液、全血、高張液の順に、細胞外液抵抗Reが小さくなるため、その逆数である1/Reの値はこの順に大きくなる。これに対応して、図6に示されるコールコールプロットでは、左側から低張液、全血、高張液の順に並んでいる。
【0038】
高張液においては、赤血球細胞内の水が細胞外液に奪われて赤血球細胞が収縮する。このとき、ヘマトクリットが一定であると仮定すると、赤血球細胞の細胞内液抵抗Riは大きくなる。逆に、低張液においては、赤血球細胞が細胞外液の水を奪って赤血球細胞が膨張する。このとき、赤血球細胞の細胞内液抵抗Riは小さくなる。このように、細胞内液抵抗Riの大きさによって、赤血球細胞が膨張しているか、収縮しているかを推定することができる。このことは、細胞の浮腫の有無を判断する際に有用である。
【0039】
このように、測定された血液のインピーダンスに基づいて、上述のようなコールコールプロットを作成することにより、細胞外液抵抗Re及び細胞内液抵抗Riに関する種々の情報を引き出すことができる。
【0040】
また、測定された血液のインピーダンスの実部及び虚部の、周波数依存性をそれぞれプロットし、数1における細胞外液抵抗Re、細胞内液抵抗Ri及び
細胞膜容量Cmをパラメータとして、数1の虚部、実部の関数を用いて非線形最小二乗法でフィッティングを行い、細胞外液抵抗Re、細胞内液抵抗Ri及び細胞膜容量Cmを求めてもよい。
【0041】
なお、上述の議論においては、血液のインピーダンスを、3つのパラメータ(細胞外液抵抗Re、細胞内液抵抗Ri及び細胞膜容量Cm)を用いてモデル化していたが、別のモデルを用いて、血液のインピーダンスをモデル化してもよい。例えば等価回路に並列に第2の細胞内液抵抗Ri2及び細胞膜容量Cm2を付加したいわゆる2時定数モデルを利用してもよい。たとえば非特許文献1には、浸透圧の増加に伴い、f=1/(2πRiCm)で求まる2つの中心分散周波数が離れて行き、一方が低下することが示されている。これは上述のように、細胞が収縮してRiが増加していることを反映している。また例えば、血液のインピーダンスをヘマトクリット、赤血球の短軸と長軸の長さ、血漿の導電率、細胞内液の導電率、細胞膜の誘電率、及び細胞膜厚等のパラメータで特徴付けるモデルを採用してもよい。この場合にも、測定された血液のインピーダンスの周波数プロットを、非線形最小二乗法によりフィッティングして上述のパラメータを求めてもよい。このとき、例えばクリットラインチャンバに配置されたセンサによって、血液のヘマトクリット値を光学的に測定している場合には、その測定値をヘマトクリット値として用いて、その他のパラメータを非線形最小二乗法により求めてもよい。
【0042】
次に、非接触型の血液インピーダンス測定装置100の有用性を確かめるために、後述の接触型血液セル及び非接触型の血液セルを用意して以下のような比較実験を行った。図7に、本実験に用いた接触型血液セル300を示す。接触型血液セル300は、略直方体形状の樹脂製(ポリカーボネート製)セル301と、セル301の内部に形成された血液流路302と、血液流路302に設けられた一対の電極303とを備える。血液流路302は、その最上流部分及び最下流部分にそれぞれ設けられたインレット302a及びアウトレット302bと、インレット302a及びアウトレット302bにそれぞれ連通する第1血液溜まり302c及び第2血液溜まり302dと、第1、第2血液溜まり302c、302dを連通する連通流路302eとを有する。第1、第2血液溜まり302c、302dは、直径約20mmの円筒形状の空間として形成されている。連通流路302eは内径6mm、長さ20mmのチューブ状の流路として形成されている。また、一対の電極303は、直径約14mmの円形の、プラチナ電極であり、第1、第2血液溜まり302c、302dの底部にそれぞれ1つずつ設けられている。
【0043】
上述の接触型血液セル300の内部の血液流路302を豚の血液(全血)で満たし、電極303にインピーダンスアナライザ(Agilent Technologies社製HP4294A)を接続して、全血のインピーダンス測定を行った。測定した周波数領域は、5kHz〜100MHzである。さらに、血液流路302を、豚の血液に0.6%の食塩水を混ぜた液体(低張液と呼ぶ)で満たした場合と、豚の血液に1.2%の食塩水を混ぜた液体(高張液と呼ぶ)で満たした場合について、同様のインピーダンス測定を行った。なお、前述のように、全血と比較して、低張液においては赤血球細胞は膨張し、高張液においては赤血球細胞は収縮していると考えられる。
【0044】
さらに、比較のために、接触型血液セル300に代えて、非接触型血液セル(図3の電極101A,101B及び樹脂チューブ製の血液回路208に相当)を全血、低張液、高張液で満たした場合についても、同様のインピーダンス測定を行った。
【0045】
図8は、各周波数において測定されたインピーダンスの絶対値(以下、|Z|と呼ぶ)をプロットしたグラフである。図8aは、接触型血液セル300についての測定結果を示し、図8bは非接触型血液セルについての測定結果を示す。ここで、図8bによれば、0.1MHz以下の低周波数領域において、指数的に|Z|が増大しているのがわかる。これは、前述のように、特に低周波数領域において、数2の右辺第2項の成分が飛躍的に大きくなることに対応している。すなわち、電極101A,101Bと全血などの測定対象との間には、血液回路208を構成する樹脂が配置されているため、この樹脂の部分の静電容量に起因して、低周波数領域で測定される|Z|が増大していると考えられる。逆に言えば、低周波数領域で測定される|Z|は、前述の樹脂部分の静電容量に起因する成分(数2の右辺第2項の成分)が支配的であるため、この低周波数領域で測定される|Z|の測定値から樹脂部分の静電容量を求めることができる。そして、樹脂部分の静電容量に起因する成分を取り除くことにより、血液のインピーダンスを抽出できる。なお、樹脂部分の静電容量は電気特性が既知の校正用水溶液で校正し、予め求めることも可能である。
【0046】
このようにして、非接触型血液セルを用いた測定において、血液回路208を構成する樹脂部分の静電容量の寄与を取り除き、測定されたインピーダンスの実部及び虚部をプロットしたものが図9a、bに示されている。なお、それぞれ、比較として接触型血液セル300を用いて測定された結果も示されている。図9aをみると、インピーダンスの実部(抵抗成分)の値の大きさ自体は、セルの形状大きさが異なるため、接触型血液セル300と非接触型血液セルとを用いた場合で少しずれているものの、全血、低張液、高張液における抵抗成分の大小関係、及び、抵抗成分の周波数依存性は、いずれのセルを用いた場合でも概ね一致している。同様に、図9bをみると、インピーダンスの虚部(リアクタンス成分)の値の大きさ自体は、接触型血液セル300と非接触型血液セルとを用いた場合で、セルの形状大きさが異なるため、値はずれているものの、全血、低張液、高張液におけるリアクタンス成分の大小関係、及び、リアクタンス成分の周波数依存性は、いずれのセルを用いた場合でも概ね一致している。なおこの絶対値(値そのもの)の違いは、導電率が既知の溶液例えば塩化カリウム水溶液を、各測定セルで予め測定し、そのデータでそれぞれの測定セルを校正すれば解消すると考えられる。特に、リアクタンス成分の周波数依存性をみると、ある周波数を中心にピークを形成していることが分かる。さらに、このピーク周波数の値は、接触型血液セル300と非接触型血液セルとを用いた場合でほぼ一致していることが分かる。また、このピーク周波数の位置は、全血、低張液、高張液の違いに応じてシフトしている。また前述のように、細胞外液抵抗Re、細胞内液抵抗Ri及び細胞膜容量Cmをパラメータとして非線形最小二乗法でフィッティングを行い、細胞外液抵抗Re、細胞内液抵抗Ri及び細胞膜容量Cmを求めてもよい。
【0047】
このように、接触型血液セル300及び非接触型セルを用いた比較実験から、非接触での血液のインピーダンス測定が有用であることが分かった。
【0048】
本発明の血液インピーダンス測定装置は、上述の血液インピーダンス測定装置100には限られない。例えば、上述の血液インピーダンス測定装置100は、樹脂製のチューブと、その外側に巻き付くように設けられた一対の円環状の電極101A,101Bを有していたが、本発明は必ずしもこのような構成には限られない。例えば、図10に示される血液インピーダンス測定装置100Aのように、一対の円環状の電極101A,101Bに代えて、二対の円環状の電極101C、101D、101E、101Fを有していてもよい。ここで、電極101C、101Dが対をなし、電極101E、101Fが対をなしている。一方の一対の電極101C、101Dには電流発生回路102が接続されており、他方の一対の電極101E、101Fには電圧検出回路103が接続されている。このように、図10に示される血液インピーダンス測定装置100Aにおいては、交流電流を印加するための入力信号用の電極と、誘起される交流電圧をピックアップするための出力信号用の電極とが独立に設けられている。
【0049】
ここで、対象となる血液セル(図10の電極101C〜101F及び樹脂チューブ製の血液回路208に相当)に交流電流を流したとき電極101C,101Dの直下の樹脂のコンデンサのインピーダンスが原因で電圧が発生する。さらに、このコンデンサを通過した電流は血液に流れ血液のインピーダンスによる電圧を発生させる。ここで、樹脂のコンデンサのインピーダンスによる電圧は、数2にあるようにその静電容量を推定して差し引くことはできるが、血液のインピーダンスによる電圧が樹脂のコンデンサのインピーダンスよりも微弱な場合には測定誤差が大きくでてくる可能性があり、測定の精度とS/Nとを低下させることも考えられる。そこで電極101C、101Dの内側にそれらと分離して出力信号検出用の電極101E、101Fを設けこの電極を介して電圧を検出する。電極101E、101Fは樹脂を介しその直下の血液のインピーダンスによって発生した電圧と、その樹脂のコンデンサのインピーダンスと電圧検出回路に流れる入力電流による電圧降下を同時に計測する。電圧検出回路に流れる電流は一般に微弱にできることが多い。よって、図10の構成では、血液のインピーダンスと比較的大きな入力信号電流とによる電圧降下と、出力信号(検出)用の電極直下の樹脂のインピーダンスと微弱な電流による電圧降下とを計測するため、所望の血液のインピーダンスによる電圧を樹脂のコンデンサのインピーダンスによる電圧に比べて相対的に大きくすることができる。言い換えると図4bのCsの影響を低減でき図4aに近づけることが可能となる。この電圧検出の改善方法は4電極法として知られている。絶縁樹脂の影響は予め既知の校正用電解液(塩化カリウム溶液や塩化ナトリウム溶液)で測定しておいてもよい。なお、電極は必ずしも二対である必要はなく、必要に応じて、複数の入力信号用の電極対及び複数の出力信号用の電極対を用いることができる。
【0050】
図11に示すように、血液インピーダンス測定装置100が、血液回路208に接続する2つの接続部401と、2つの接続部401の間に設けられ、薄い円盤状のチャンバ部402と、チャンバ部402の円形の面(表面及び裏面)に設けられた一対の電極403とを有する薄型チャンバ400を備えていてもよい。この場合には、チャンバ部402が薄い形状を有しているので、電極403と、電流発生回路102及び電圧検出回路103とを接続する際に、クリップなどを用いて容易に接続することができる。
【0051】
なお、薄型チャンバは必ずしも円盤状である必要はなく、任意の形状にしうる。例えば、図12に示される薄型チャンバ400Aのように薄い板状の形状を有していてもよい。また、薄型チャンバに取り付けられる電極は、必ずしも薄型チャンバを挟むように設けられる必要はない。例えば、図12に示される薄型チャンバ400Aのように、一対の円形の電極403に代えて、同心状に配置された一対の電極403A、403Bを有していてもよい。なお、一対の同心円状の電極403A、403Bは、いずれも電流発生回路102及び電圧検出回路103に接続されているが、前述の血液インピーダンス測定装置100Aのように、電流発生回路102に接続される電極対と電圧検出回路103に接続される電極対とを独立に設けてもよい。
【0052】
あるいは、血液インピーダンス測定装置は、必ずしも血液回路208に直列に挿入されなくてもよく、血液回路208に側路を作り、その側路に血液インピーダンス測定装置が設けられてもよい。この場合には、万が一、血液回路208に不具合が生じるなどして、溶血や血栓が生じ血液インピーダンス測定装置が使用できなくなった場合でも、継続して患者への血液浄化の治療が続行できる。
【0053】
上述の説明においては、血液インピーダンス測定装置の電極は、血液回路を構成する樹脂製のチューブの表面に設けられていたが、本発明は必ずしもこのような構成には限られない。例えば、電極を兼ねた金属製のチューブの内面に、薄い絶縁膜がコーティングされていてもよい。薄い絶縁膜として、例えばフッ素系樹脂などを用いることができる。ここで、数2の右辺第2項に含まれる静電容量Csの値は、電極の面積を大きくすればするほど、そして、電極と血液との間の絶縁体(あるいは絶縁膜)の厚さを薄くすればするほど、小さくすることができる。上述のように、血液のインピーダンスを抽出するためには、静電容量Csに起因する成分は取り除かなければならないことを考慮すると、静電容量Csの大きさを予めできるだけ小さくなるように設定することが望ましい。その点では、金属製のチューブの内面に薄い絶縁膜をコーティングする場合には、絶縁膜の厚さを非常に薄く形成することも可能であり、静電容量Csの大きさを小さく抑えることができる。
【0054】
なお、上述の説明において、血液のインピーダンス測定装置は、クリットラインチャンバ205の上流側に配置されていたが、本発明はこのような配置には限られず、血液回路208の任意の位置に配置することができる。例えば、体の状態をモニタするためには採血する部分(人工透析の場合には血液シャントと呼ぶ)の直後が好ましいが、カテーテルの挿入される部分は出血などないように安定に固定するなど注意を払い続ける必要があるため、そのそばにいろいろな装置を付加することは好ましくない。このような観点からは、安定に血液回路中を血液が回っているところであって、且つ、インピーダンス測定装置を配置したとしても他の装置などと干渉しない位置(例えば、上述の実施形態のようなダイアライザーの手前側など)に配置することが望ましい。また、本発明の血液インピーダンス測定装置は、人体(あるいは動物)の体外に引き出された体外循環血液回路に設けられていればよく、必ずしも人工透析装置に設けられる必要はない。例えば、発明の血液インピーダンス測定装置を人工心肺装置に設けることができる。
【0055】
また、上述の説明において、血液のインピーダンス測定装置は電流発生回路を通じて、周波数の異なる交流電流を発生させつつ、交流電流に起因して発生する交流電圧を検出することにより、各周波数における血液のインピーダンスを測定していたが、本発明はこれには限られない。交流電圧を電極間に印加し、そのときに流れる交流電流を電極に直列に配置した電流検出抵抗で測ることにより、インピーダンスを算出してもよい。また、電極に入力する電気信号は必ずしも正弦波でなくてもよく、時間的に変動する電気信号であればよい。例えば、パルス状の電圧を電極間に印加しその時に流れる電流を電極に直列の電流検出抵抗で測り、電流の時間波形をフーリエ変換することにより血液成分の電気的インピーダンスを求めてもよい。この手法はTDR(Time Domain Reflectometry)法と呼ばれる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の血液インピーダンス測定装置を、人工透析装置に取り付けて、人工透析中の血液のインピーダンス測定を行うことにより、血液に浸透圧の変動が生じているかどうかをモニタすることができる。これにより、急激な浸透圧の変動により透析患者が全身的なショックを引き起こす前に浸透圧の調整などの対処を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0057】
100 血液インピーダンス測定装置
200 人工透析装置
204 ダイアライザー
208 血液回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液の体外循環回路に設けられる血液インピーダンス計測装置、それを備える人工透析装置及び体外循環回路を流れる血液のインピーダンスを計測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液の電気インピーダンスは、血液中の血液細胞(特に赤血球)の種々の特性を反映することが知られている。例えば、細胞内液(赤血球細胞内液の電解質)及び細胞外液(血漿の電解質)の導電率、細胞膜容量、ヘマトクリット(血液中に占める赤血球の容積の割合)、赤血球細胞の形状、大きさ及び配向状態などを反映することが知られている。例えば、特許文献1には、血液の電気インピーダンスを測定することによってヘマトクリットを測定するヘマトクリット測定装置が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載のヘマトクリット測定装置は、血液透析等の体外循環回路においてヘマトクリットを連続測定するための装置であって、血液流路を構成する円筒状の絶縁パイプに配置された抵抗測定セルと、2種類の交流電流源(高周波及び低周波電流源)と、交流電圧計などを備えている。なお、抵抗測定セルは、絶縁パイプの中心軸方向に所定距離離れた位置に設けられた1対の低周波電流供給電極と、これらの低周波電流供給電極に隣接して配置された1対の高周波電流供給電極と、1対の電圧検出電極とを有している。そして、低周波電流源が50kHzの交流電流を低周波電流供給電極に供給したときに、電圧検出電極に発生する50kHzの交流電圧と、高周波電流源が20MHzの交流電流を高周波電流供給電極に供給したときに、電圧検出電極に発生する20MHzの交流電圧とをそれぞれ測定することにより、血液の低周波インピーダンス及び高周波インピーダンスを測定している。ここで、血液のヘマトクリット値は、血液の低周波インピーダンスと高周波インピーダンスとの比の対数に比例することが知られており、この関係を用いて、測定された低周波インピーダンス及び高周波インピーダンスからヘマトクリット値を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−133062号公報
【0005】
【非特許文献1】医用電子と生体工学第37巻特別号(1999)P158
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のヘマトクリット測定装置を含め、従来の、血液のインピーダンスを測定する測定装置(接触型血液インピーダンス測定装置)では、いずれも、交流電流が供給される電流供給電極が血液と直接接触するように配置されている。後述のように、電流供給電極が血液と直接接触するように配置されている場合には、比較的容易に、高いS/N比で血液のインピーダンス測定を行うことができる。しかしながら、電流供給電極が血液に接触しているので、ウィルスや細菌等の感染リスクが高くなる。また、血液は生体内で最も電気抵抗が小さいうえ、血管は動脈又は静脈を通じて心臓につながっている。そのため、血液の体外循環回路において、電流供給電極が直接血液に接触している状態で血液に電流を流すのは、漏れ電流による感電の恐れがあるため望ましくない。また、電流供給電極が直接接触している状態で電流を流し続けると、電極表面に金属が析出したり、血液中に血栓が生じたりする恐れもある。
【0007】
本発明の目的は、感染及び感電の恐れを低減することができ、且つ、電極表面に金属が析出したり、血液中に血栓が生じたりする恐れを低減できる、血液のインピーダンス測定装置、それを備える人工透析装置及び血液のインピーダンス測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に従えば、体外を循環する血液回路を流れる血液のインピーダンスを測定する血液インピーダンス測定装置であって、
前記血液回路に設けられた少なくとも1対の電極と、
前記少なくとも一対の電極に接続されて、時間的に変動する入力電気信号を前記少なくとも一対の電極に入力する信号源と、
前記少なくとも一対の電極に接続されて、前記時間的に変動する電気入力信号が前記少なくとも一対の電極に入力されたときに前記少なくとも一対の電極に誘起される出力電気信号を検出する検出回路と、
前記入力電気信号と前記出力電気信号に基づいて、血液のインピーダンスを算出する演算回路と、
前記少なくとも一対の電極と、前記血液回路を流れる血液とを電気的に絶縁する絶縁体とを備える血液インピーダンス測定装置が提供される。
【0009】
本発明の血液インピーダンス測定装置によれば、電極と血液回路を流れる血液とが絶縁体により電気的に絶縁されているため、感電の恐れがない。また、電極が血液に直接接触しないので、血液中に電極表面に析出した金属が入り込む恐れがない。
【0010】
本発明のインピーダンス測定装置において、前記少なくとも一対の電極は、前記信号源及び前記検出回路の両方に接続される一対の電極を含んでもよい。あるいは、前記少なくとも一対の電極は、前記信号源に接続され前記検出回路に接続されない第1の電極対と、前記検出回路に接続され前記信号源に接続されない第2の電極対とを含んでもよい。前者の場合には、一対の電極が入力電気信号用の電極対と出力電気信号用の電極対とを兼ねることができるため、インピーダンス測定装置の構造を簡略にして装置の製造コストを下げることができる。また、後者の場合には、入力電気信号用の電極対と、出力電気信号用の電極対とを独立に設けている。例えば、入力電気信号として電流信号を用い、出力電気信号として電圧信号を用いる場合には、出力電気信号用の電極対においては、血液のインピーダンスと比較的大きな入力信号電流とによる第1の電圧降下と、出力電気信号用の電極直下の絶縁体のインピーダンスと電圧検出回路に流れる微弱な電流による第2の電圧降下とが同時に計測される。ここで、第1の電圧降下に比べて、第2の電圧降下を小さく抑えることができる。言い換えると、所望の血液のインピーダンスによる電圧を絶縁体のコンデンサのインピーダンスによる電圧に比べて相対的に大きくすることができる。これにより、絶縁体の静電容量Csの影響を低減でき、正確に血液のインピーダンスを測定することができる。
【0011】
本発明の血液インピーダンス測定装置において、前記血液回路は樹脂製のチューブにより構成されていてもよく、前記少なくとも一対の電極は前記チューブの外側に配置されていてもよく、前記絶縁体は、前記血液回路を画成する前記樹脂製のチューブであってもよい。この場合には、血液回路が一般によく用いられる樹脂製のチューブである場合であっても、チューブの外側に電極を設けることにより、非接触での血液のインピーダンス測定を行うことができる。
【0012】
本発明の血液インピーダンス測定装置において、前記絶縁体は、前記少なくとも一対の電極の表面を被覆する絶縁膜として形成されてもよく、前記電極に設けられた前記絶縁膜が前記血液回路の一部を画成して、前記血液に接触していてもよい。この場合には、例えば、内面がフッ素系樹脂などでコーティングされた金属製のチューブ(パイプ)を本発明に係る電極と絶縁体として用いることができる。絶縁膜の厚さ(コーティングの厚さ)は、比較的容易に薄くすることができるため、絶縁膜による静電容量を小さく抑えることができ、精度よく血液のインピーダンスを測定することができる。
【0013】
本発明の血液インピーダンス測定装置において、前記時間的に変動する電気入力信号は、低周波数の交流電流信号と高周波数の交流電流信号を含んでもよく、前記演算回路は、低周波数の交流電流信号を用いて測定された血液のインピーダンスの大きさから前記絶縁体の静電容量を算出し、算出された前記絶縁体の静電容量に基づいて、前記血液のインピーダンスを算出してもよい。この場合には、低周波数の領域で測定されたインピーダンスの値から、絶縁体の静電容量の大きさを容易に決定できる。そのため、絶縁体の静電容量に起因する成分を取り除いて、精度よく血液のインピーダンスの値を算出することができる。
【0014】
本発明の第2の態様に従えば、人工透析装置であって、
血液を循環させる血液回路と、
透析液を循環させる透析液回路と、
透析液回路に接続されて、透析液を供給しつつ透析液を循環させる透析液供給装置と、
血液回路に接続されて、血液を循環させる血液ポンプと、
血液回路及び透析液回路に接続されるダイアライザーと、
血液回路に接続される本発明の第1の態様に従う血液インピーダンス測定装置とを備える人工透析装置が提供される。
【0015】
本発明の第2の態様によれば、人工透析中に容易に血液のインピーダンス測定が可能となり、人工透析中に発生する恐れがある、浸透圧の急激な変化などをモニターすることができる。
【0016】
本発明の第3の態様に従えば、血液回路を流れる血液のインピーダンスを測定する方法であって、
血液回路を流れる血液に、前記血液との間に配置された絶縁体により絶縁された少なくとも一対の電極を通じて低周波数の電気入力信号を含む電気入力信号を入力することと、
前記電気入力信号を前記少なくとも一対の電極に入力したときに、前記少なくとも一対の電極に誘起される出力電気信号を検出することと、
前記低周波数の電気入力信号と、前記低周波数の電気入力信号により誘起された低周波数の出力電気信号に基づいて、前記絶縁体の静電容量を算出することと、
前記絶縁体の静電容量と、前記電気入力信号と、前記出力電気信号とに基づいて血液のインピーダンスを算出することとを備える血液のインピーダンスの測定方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電極が血液などの電解質が直接触れていないため、電極表面に金属が析出する恐れがない。また、電極が血液などの電解質が直接触れていないため、血液中に血栓が生じるおそれを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は人工透析装置の概略図である。
【図2a】図2aはダイアライザーの概略図である。
【図2b】図2bはダイアライザーの機能を示す概略図である。
【図3】図3は一対の(2端子の)電極を有する血液インピーダンス測定装置の概略図である。
【図4a】図4aは接触モデルの等価回路図である。
【図4b】図4bは非接触モデルの等価回路図である。
【図5】図5は生体組織のモデル図である。
【図6】図6は、低張液、全血及び高張液についてのコールコールプロットである。
【図7】図7は接触型血液セルの概略図である。
【図8a】図8aは、接触型血液セルについての|Z|の測定結果である。
【図8b】図8bは、非接触型血液セルについての|Z|の測定結果である。
【図9a】図9aは、測定されたインピーダンスの実部をプロットしたグラフである。
【図9b】図9bは、測定されたインピーダンスの虚部をプロットしたグラフである。
【図10】図10は4端子電極を有する血液インピーダンス測定装置の概略図である。
【図11】図11は薄型チャンバの概略図である。
【図12】図12は同心型電極を有する薄型チャンバの概略図である。
【図13】図13は、本発明に係るインピーダンス測定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る血液のインピーダンス測定装置として、図1に示される血液透析用の人工透析装置200に装着される非接触型の血液インピーダンス測定装置100を例に挙げて説明する。ここで、人工透析装置200は、濃厚透析液(透析液原液)を貯留する透析液タンク201と、透析液供給装置202と、監視装置203と、ダイアライザー204と、クリットラインチャンバ205と、血液ポンプ206とを主に備えている。さらに、人工透析装置200は、いずれも樹脂製のチューブにより構成された、透析液回路207及び血液回路208を備えている。
【0020】
透析液タンク201と透析液供給装置202とはチューブにより接続されており、透析液タンク201内の濃厚透析液が透析液供給装置202に供給される。また、透析液供給装置202には、水道水から作られる脱イオン水(例えば、イオン交換樹脂を通し脱イオン化処理した水道水)が供給されている。透析液供給装置202は濃厚透析液を適当な濃度に調整した後、濃度調整された透析液(以下、単に透析液と呼ぶ)をチューブを介して接続された監視装置203に送る。監視装置203に送られた透析液は、ダイアライザー204を通って監視装置203に戻る透析液回路207を流れる。監視装置203は、透析液回路207内を流れる透析液の流量、温度等をモニターするとともに、透析患者の静脈圧等の生体情報をモニターしている。また、後述のように、クリットラインチャンバ205に取り付けられた不図示のセンサにより計測される、血液のヘマトクリット値及び/又は酸素飽和度等をモニターすることもできる。
【0021】
また、透析患者から体外に引き出された血液は、血液ポンプ206及びダイアライザー204を通って再び体内に戻る血液回路208を流れる。なお、体外に引き出された血液が血液回路208内で凝固することを防ぐために、血液回路208の途中においてヘパリン等の抗凝固薬が注入される。
【0022】
ダイアライザー204は、図2aに示されるように、中央部分に設けられた、複数の中空糸状の半透膜により構成された血液流路204aと、血液流路204aの外側に設けられた透析液流路204bとからなる2重構造の流路を有する。血液流路204aと透析液流路204bとは、血液流路204aを画成する半透膜により隔てられている。また、血液流路204aを流れる血液と、透析液流路204bを流れる透析液とは、互いに逆向きに流れている。血液流路204aを画成する半透膜には非常に径の小さな細孔が開いており、尿素、クレアチニン、尿酸等の尿毒素、及び、ナトリウム、カリウム、リンなどの電解質を透過させるが、赤血球、白血球、タンパク質、細菌、ウィルスなどは透過させない。そして、図2bに示されるように、半透膜を通して血液中の尿毒素等の老廃物が透析液へと排出されるとともに、身体に不足している電解質が透析液側から補われる。なお、血液中の赤血球、白血球、タンパク質などは半透膜を透過できないため、血液側から透析液側へ排出されることはない。
【0023】
前述のように、血液回路208のダイアライザー204よりも上流側には、クリットラインチャンバ205が設けられている。クリットラインチャンバ205の中央部分には、内部に血液流路が形成された、薄い板状の透明な透光部205aが形成されている。透光部205aに血液のヘマトクリット値及び/又は血液の酸素飽和度を光学的に計測するセンサを取り付けることができる。
【0024】
さらに、血液回路208の、クリットラインチャンバ205の上流側に隣接する位置には、非接触型の血液インピーダンス測定装置100が配置されている。図3に示すように、血液インピーダンス測定装置100は、血液回路208を構成する樹脂製のチューブの外側に巻き付くように設けられた、円環状の2つの電極101A、101Bと、電極101A、101Bに接続されて、電極101A,101Bの間に交流電流Iを流す電流発生回路102と、交流電流Iにより電極101A、101Bの間に発生する交流電圧Vを検出する電圧検出回路103と、交流電流I、交流電圧V及びこれらの位相差θからインピーダンスZを求める演算回路104等を有している。なお、図3に示す血液インピーダンス装置100では、交流電流Iを入力するための電極と、交流電圧Vを検出するための電極とが独立には設けられておらず、1対の電極101A,101Bが両方の機能を兼ねている。
【0025】
後述のように、血液のインピーダンスの周波数特性を測定することにより、赤血球の細胞内外の水分移動、赤血球の細胞膜の膜透過性(イオン透過性)、赤血球の形状、大きさ及び配向状態等の生理学/物性情報を得ることができる。
【0026】
特に、人工透析を行う際には血液が体外で循環されることになるため、人工透析を受ける患者は、急激な浸透圧変化にさらされる恐れがある。そのような場合には、低血圧その他の失調により施行を中止しなければならないこともある。そして、急激な浸透圧変化は、全身の浸透圧バランスの以上が見られる前にまず全身を循環する血液中の赤血球の形状変化を引き起こし、ひいては血液のインピーダンスの周波数特性にも変動を生じさせる。そのため、血液のインピーダンスの周波数特性をモニタし、急激な浸透圧変化を検知することができれば、患者が全身的なショックを引き起こす前に浸透圧の調整などの対処を行うことが可能となる。
【0027】
また、近年、糖尿病により赤血球の細胞膜の膜透過性が変わることが明らかになってきた。そして、赤血球の細胞膜の膜透過性の変化から血糖値を推定することが可能となりつつある。上述のように、血液のインピーダンスの周波数特性を測定することにより、赤血球の細胞膜の膜透過性についての情報を得ることができる。血液のインピーダンスの周波数特性を測定することにより、赤血球の細胞膜の膜透過性についての情報を抽出し、それに基づいて透析中に血糖値の変化をモニタできれば、透析中の血中ブドウ糖の量を適切にコントロールすることが可能となる。透析患者の3割が糖尿病性腎症であると言われていることから、透析中の血糖値モニタは医師にとって有用な情報を提供できる。
【0028】
次に、血液インピーダンス測定装置100を用いた血液のインピーダンス測定について説明する。前述のように、電極101A,101Bは、血液回路208を構成する樹脂チューブの延在する方向に、所定の距離だけ隔てて配置されている。電極101A,101Bは、電流発生回路102に電気的に接続されるとともに、電圧検出回路103にも電気的に接続されている。また、電極101A,101Bは、血液に直接接触しておらず、樹脂製のチューブにより隔てられている。ここで、血液の等価回路は、細胞間質液に対応する細胞外液抵抗Re、リン脂質膜により構成される細胞膜に対応する細胞膜容量Cm及び細胞内液に対応する細胞内液抵抗Riの3要素を用いて、図4aのように表すことができる。これは、図5に示されるような、生体組織をモデル化したものに相当する。ここで、生体組織において、比較的低周波の交流電流は図5の実線に示されるように、細胞外液を通って流れる。細胞膜は、細胞膜容量Cmを有するコンデンサとしてはたらくため、直流電流及び比較的低周波の交流電流を通しにくいからである。これに対して、比較的高周波の交流電流は、細胞膜を容易に通過できるようになるため、細胞外液を通って流れるだけでなく、さらに、図5の点線に示されるように細胞内部も通って流れようになる。
【0029】
ここで、電極101A,101Bが血液に直接接触している場合には、測定されるインピーダンスは図4aに示される等価回路の両端のインピーダンスZ1に相当する。つまり、測定されるインピーダンスは、血液のインピーダンスそのものである。これに対して、本実施形態のように電極101A,101Bと血液とが樹脂製のチューブにより隔てられていて互いに接触しない場合には、測定されるインピーダンスは、図4bに示される等価回路の両端のインピーダンスZ2に相当する。ここで、図4bに示される等価回路は、図4aに示される血液の等価回路に、血液回路108を構成する樹脂製のチューブに相当する静電容量Csが直列に接続されたものである。なお、以後の説明において、適宜、インピーダンスZ1を接触モデルの等価回路インピーダンスZ1と呼び、インピーダンスZ2を非接触モデルの等価回路インピーダンスZ2と呼ぶ。
【0030】
ここで、接触モデルの等価回路インピーダンスZ1と、非接触モデルの等価回路インピーダンスZ2はそれぞれ、数1、数2のように表すことができる。ここで、数1と数2を比較して分かるように、接触モデルの等価回路インピーダンスZ1と、非接触モデルの等価回路インピーダンスZ2の実部Real{Z1}及びReal{Z2}はいずれも同じ式(数3参照)で表すことができる。
【0031】
【数1】
【0032】
【数2】
【0033】
【数3】
【0034】
上述のように、接触型の血液インピーダンス測定装置を用いる場合には、測定されるインピーダンスは血液のインピーダンスにほぼ等しい。しかしながら、本実施形態のように非接触型の血液インピーダンス測定装置100を用いる場合には、測定されたインピーダンスから血液のインピーダンスを求めるためには、数2の第2項の成分、すなわち、血液回路108を構成する樹脂製のチューブに起因する静電容量Csの成分の影響を取り除かなければならない。ここで、数2によれば、ω→0の極限において、第1項→Reであるのに対して、第2項→∞である。このことから、低周波領域においては、インピーダンスZ2の大きさ(|Z2|)は、第2項による寄与が支配的となることが分かる。すなわち、低周波領域において計測されるインピーダンスZ2の大きさ(|Z2|)は、静電容量Csによる寄与分(1/ωCs)にほぼ等しいと考えられるので、これにより、樹脂製のチューブの静電容量Csを推定することができる。
【0035】
そして、低周波領域においてインピーダンスZ2の大きさを測定することにより、樹脂製チューブの静電容量Csを推定することができれば、数2の第2項の成分の大きさを求めることができるため、その影響を取り除くことができる。このようにして、本実施形態のような非接触型の血液インピーダンス測定装置100により測定されたインピーダンスZ2から、血液のインピーダンスを求めることができる。
【0036】
以上をまとめると、本実施形態の非接触型の血液インピーダンス測定装置100を用いて血液のインピーダンスを測定する方法は以下のようになる(図13参照)。まず、血液回路108に、絶縁体を介して血液回路108内の流路と対向するように少なくとも1対の電極(電極101A、101B)を配置する(S1)。次に、少なくとも1対の電極に、低周波数の電気入力信号(例えば交流電流信号)を含む電気入力信号を入力する(S2)。ここで、低周波数の電気入力信号とは、好ましくは10kHz〜200kHz程度の周波数領域の信号であり、さらに好ましくは50kHz〜100kHz程度の周波数領域の信号である。ここでは、このような周波数領域の低周波数の電気入力信号と、これよりも高周波数の電気入力信号(例えば数百kHz〜100MHz程度)を含む電気入力信号を電極に入力する。次に、電気入力信号によって少なくとも1対の電極に誘起される電気出力信号を検出する(S3)。ここで検出される電気出力信号は、上述の低周波数の電気入力信号に対応する低周波数の電気出力信号と、高周波数の電気入力信号に対応する高周波数の電気出力信号とを含んでいる。次に、低周波数の電気入力信号と、低周波数の電気入力信号により誘起された低周波数の出力電気信号に基づいて、絶縁体の静電容量を算出する(S4)。上述のように、低周波数の電気入力信号と、それにより誘起された出力電気信号とから算出されるインピーダンスの大きさは、絶縁体の静電容量の寄与が支配的である。このことを利用して、低周波数の電気入力信号と、それにより誘起された出力電気信号から、絶縁体の静電容量を算出する。そして、絶縁体の静電容量と、(高周波数領域における)電気入力信号と、(高周波数領域における)出力電気信号とに基づいて血液のインピーダンスを算出する(S5)。このようにして、絶縁体の静電容量による影響を取り除いて、血液のインピーダンスを算出することができる。
【0037】
次に、測定された血液のインピーダンスから生理学情報を抽出する方法について説明する。ここで、測定された血液のインピーダンスから、その逆数であるアドミッタンスを求め、各周波数におけるアドミッタンスを複素平面にプロットすることにより、いわゆるコールコールプロットを作成することができる。図6に、低張液、全血、高張液について作成されたコールコールプロットの例を示す。コールコールプロットにおいて、アドミッタンスの軌跡は、図6に示すように円弧状になることが知られている。ここで、円弧の左端の横軸の値が1/Reを示し、右端の値が(1/Re)+(1/Ri)を示す。なお、図6において、低張液とは、細胞(例えば赤血球細胞)よりも浸透圧が低くなるように、血液に生理食塩水よりも低濃度の食塩水を混ぜた液体であり、高張液は細胞(例えば赤血球細胞)よりも浸透圧が高くなるように、血液に生理食塩水よりも高濃度の食塩水を混ぜた液体である。低張液、全血、高張液の順に、細胞外液抵抗Reが小さくなるため、その逆数である1/Reの値はこの順に大きくなる。これに対応して、図6に示されるコールコールプロットでは、左側から低張液、全血、高張液の順に並んでいる。
【0038】
高張液においては、赤血球細胞内の水が細胞外液に奪われて赤血球細胞が収縮する。このとき、ヘマトクリットが一定であると仮定すると、赤血球細胞の細胞内液抵抗Riは大きくなる。逆に、低張液においては、赤血球細胞が細胞外液の水を奪って赤血球細胞が膨張する。このとき、赤血球細胞の細胞内液抵抗Riは小さくなる。このように、細胞内液抵抗Riの大きさによって、赤血球細胞が膨張しているか、収縮しているかを推定することができる。このことは、細胞の浮腫の有無を判断する際に有用である。
【0039】
このように、測定された血液のインピーダンスに基づいて、上述のようなコールコールプロットを作成することにより、細胞外液抵抗Re及び細胞内液抵抗Riに関する種々の情報を引き出すことができる。
【0040】
また、測定された血液のインピーダンスの実部及び虚部の、周波数依存性をそれぞれプロットし、数1における細胞外液抵抗Re、細胞内液抵抗Ri及び
細胞膜容量Cmをパラメータとして、数1の虚部、実部の関数を用いて非線形最小二乗法でフィッティングを行い、細胞外液抵抗Re、細胞内液抵抗Ri及び細胞膜容量Cmを求めてもよい。
【0041】
なお、上述の議論においては、血液のインピーダンスを、3つのパラメータ(細胞外液抵抗Re、細胞内液抵抗Ri及び細胞膜容量Cm)を用いてモデル化していたが、別のモデルを用いて、血液のインピーダンスをモデル化してもよい。例えば等価回路に並列に第2の細胞内液抵抗Ri2及び細胞膜容量Cm2を付加したいわゆる2時定数モデルを利用してもよい。たとえば非特許文献1には、浸透圧の増加に伴い、f=1/(2πRiCm)で求まる2つの中心分散周波数が離れて行き、一方が低下することが示されている。これは上述のように、細胞が収縮してRiが増加していることを反映している。また例えば、血液のインピーダンスをヘマトクリット、赤血球の短軸と長軸の長さ、血漿の導電率、細胞内液の導電率、細胞膜の誘電率、及び細胞膜厚等のパラメータで特徴付けるモデルを採用してもよい。この場合にも、測定された血液のインピーダンスの周波数プロットを、非線形最小二乗法によりフィッティングして上述のパラメータを求めてもよい。このとき、例えばクリットラインチャンバに配置されたセンサによって、血液のヘマトクリット値を光学的に測定している場合には、その測定値をヘマトクリット値として用いて、その他のパラメータを非線形最小二乗法により求めてもよい。
【0042】
次に、非接触型の血液インピーダンス測定装置100の有用性を確かめるために、後述の接触型血液セル及び非接触型の血液セルを用意して以下のような比較実験を行った。図7に、本実験に用いた接触型血液セル300を示す。接触型血液セル300は、略直方体形状の樹脂製(ポリカーボネート製)セル301と、セル301の内部に形成された血液流路302と、血液流路302に設けられた一対の電極303とを備える。血液流路302は、その最上流部分及び最下流部分にそれぞれ設けられたインレット302a及びアウトレット302bと、インレット302a及びアウトレット302bにそれぞれ連通する第1血液溜まり302c及び第2血液溜まり302dと、第1、第2血液溜まり302c、302dを連通する連通流路302eとを有する。第1、第2血液溜まり302c、302dは、直径約20mmの円筒形状の空間として形成されている。連通流路302eは内径6mm、長さ20mmのチューブ状の流路として形成されている。また、一対の電極303は、直径約14mmの円形の、プラチナ電極であり、第1、第2血液溜まり302c、302dの底部にそれぞれ1つずつ設けられている。
【0043】
上述の接触型血液セル300の内部の血液流路302を豚の血液(全血)で満たし、電極303にインピーダンスアナライザ(Agilent Technologies社製HP4294A)を接続して、全血のインピーダンス測定を行った。測定した周波数領域は、5kHz〜100MHzである。さらに、血液流路302を、豚の血液に0.6%の食塩水を混ぜた液体(低張液と呼ぶ)で満たした場合と、豚の血液に1.2%の食塩水を混ぜた液体(高張液と呼ぶ)で満たした場合について、同様のインピーダンス測定を行った。なお、前述のように、全血と比較して、低張液においては赤血球細胞は膨張し、高張液においては赤血球細胞は収縮していると考えられる。
【0044】
さらに、比較のために、接触型血液セル300に代えて、非接触型血液セル(図3の電極101A,101B及び樹脂チューブ製の血液回路208に相当)を全血、低張液、高張液で満たした場合についても、同様のインピーダンス測定を行った。
【0045】
図8は、各周波数において測定されたインピーダンスの絶対値(以下、|Z|と呼ぶ)をプロットしたグラフである。図8aは、接触型血液セル300についての測定結果を示し、図8bは非接触型血液セルについての測定結果を示す。ここで、図8bによれば、0.1MHz以下の低周波数領域において、指数的に|Z|が増大しているのがわかる。これは、前述のように、特に低周波数領域において、数2の右辺第2項の成分が飛躍的に大きくなることに対応している。すなわち、電極101A,101Bと全血などの測定対象との間には、血液回路208を構成する樹脂が配置されているため、この樹脂の部分の静電容量に起因して、低周波数領域で測定される|Z|が増大していると考えられる。逆に言えば、低周波数領域で測定される|Z|は、前述の樹脂部分の静電容量に起因する成分(数2の右辺第2項の成分)が支配的であるため、この低周波数領域で測定される|Z|の測定値から樹脂部分の静電容量を求めることができる。そして、樹脂部分の静電容量に起因する成分を取り除くことにより、血液のインピーダンスを抽出できる。なお、樹脂部分の静電容量は電気特性が既知の校正用水溶液で校正し、予め求めることも可能である。
【0046】
このようにして、非接触型血液セルを用いた測定において、血液回路208を構成する樹脂部分の静電容量の寄与を取り除き、測定されたインピーダンスの実部及び虚部をプロットしたものが図9a、bに示されている。なお、それぞれ、比較として接触型血液セル300を用いて測定された結果も示されている。図9aをみると、インピーダンスの実部(抵抗成分)の値の大きさ自体は、セルの形状大きさが異なるため、接触型血液セル300と非接触型血液セルとを用いた場合で少しずれているものの、全血、低張液、高張液における抵抗成分の大小関係、及び、抵抗成分の周波数依存性は、いずれのセルを用いた場合でも概ね一致している。同様に、図9bをみると、インピーダンスの虚部(リアクタンス成分)の値の大きさ自体は、接触型血液セル300と非接触型血液セルとを用いた場合で、セルの形状大きさが異なるため、値はずれているものの、全血、低張液、高張液におけるリアクタンス成分の大小関係、及び、リアクタンス成分の周波数依存性は、いずれのセルを用いた場合でも概ね一致している。なおこの絶対値(値そのもの)の違いは、導電率が既知の溶液例えば塩化カリウム水溶液を、各測定セルで予め測定し、そのデータでそれぞれの測定セルを校正すれば解消すると考えられる。特に、リアクタンス成分の周波数依存性をみると、ある周波数を中心にピークを形成していることが分かる。さらに、このピーク周波数の値は、接触型血液セル300と非接触型血液セルとを用いた場合でほぼ一致していることが分かる。また、このピーク周波数の位置は、全血、低張液、高張液の違いに応じてシフトしている。また前述のように、細胞外液抵抗Re、細胞内液抵抗Ri及び細胞膜容量Cmをパラメータとして非線形最小二乗法でフィッティングを行い、細胞外液抵抗Re、細胞内液抵抗Ri及び細胞膜容量Cmを求めてもよい。
【0047】
このように、接触型血液セル300及び非接触型セルを用いた比較実験から、非接触での血液のインピーダンス測定が有用であることが分かった。
【0048】
本発明の血液インピーダンス測定装置は、上述の血液インピーダンス測定装置100には限られない。例えば、上述の血液インピーダンス測定装置100は、樹脂製のチューブと、その外側に巻き付くように設けられた一対の円環状の電極101A,101Bを有していたが、本発明は必ずしもこのような構成には限られない。例えば、図10に示される血液インピーダンス測定装置100Aのように、一対の円環状の電極101A,101Bに代えて、二対の円環状の電極101C、101D、101E、101Fを有していてもよい。ここで、電極101C、101Dが対をなし、電極101E、101Fが対をなしている。一方の一対の電極101C、101Dには電流発生回路102が接続されており、他方の一対の電極101E、101Fには電圧検出回路103が接続されている。このように、図10に示される血液インピーダンス測定装置100Aにおいては、交流電流を印加するための入力信号用の電極と、誘起される交流電圧をピックアップするための出力信号用の電極とが独立に設けられている。
【0049】
ここで、対象となる血液セル(図10の電極101C〜101F及び樹脂チューブ製の血液回路208に相当)に交流電流を流したとき電極101C,101Dの直下の樹脂のコンデンサのインピーダンスが原因で電圧が発生する。さらに、このコンデンサを通過した電流は血液に流れ血液のインピーダンスによる電圧を発生させる。ここで、樹脂のコンデンサのインピーダンスによる電圧は、数2にあるようにその静電容量を推定して差し引くことはできるが、血液のインピーダンスによる電圧が樹脂のコンデンサのインピーダンスよりも微弱な場合には測定誤差が大きくでてくる可能性があり、測定の精度とS/Nとを低下させることも考えられる。そこで電極101C、101Dの内側にそれらと分離して出力信号検出用の電極101E、101Fを設けこの電極を介して電圧を検出する。電極101E、101Fは樹脂を介しその直下の血液のインピーダンスによって発生した電圧と、その樹脂のコンデンサのインピーダンスと電圧検出回路に流れる入力電流による電圧降下を同時に計測する。電圧検出回路に流れる電流は一般に微弱にできることが多い。よって、図10の構成では、血液のインピーダンスと比較的大きな入力信号電流とによる電圧降下と、出力信号(検出)用の電極直下の樹脂のインピーダンスと微弱な電流による電圧降下とを計測するため、所望の血液のインピーダンスによる電圧を樹脂のコンデンサのインピーダンスによる電圧に比べて相対的に大きくすることができる。言い換えると図4bのCsの影響を低減でき図4aに近づけることが可能となる。この電圧検出の改善方法は4電極法として知られている。絶縁樹脂の影響は予め既知の校正用電解液(塩化カリウム溶液や塩化ナトリウム溶液)で測定しておいてもよい。なお、電極は必ずしも二対である必要はなく、必要に応じて、複数の入力信号用の電極対及び複数の出力信号用の電極対を用いることができる。
【0050】
図11に示すように、血液インピーダンス測定装置100が、血液回路208に接続する2つの接続部401と、2つの接続部401の間に設けられ、薄い円盤状のチャンバ部402と、チャンバ部402の円形の面(表面及び裏面)に設けられた一対の電極403とを有する薄型チャンバ400を備えていてもよい。この場合には、チャンバ部402が薄い形状を有しているので、電極403と、電流発生回路102及び電圧検出回路103とを接続する際に、クリップなどを用いて容易に接続することができる。
【0051】
なお、薄型チャンバは必ずしも円盤状である必要はなく、任意の形状にしうる。例えば、図12に示される薄型チャンバ400Aのように薄い板状の形状を有していてもよい。また、薄型チャンバに取り付けられる電極は、必ずしも薄型チャンバを挟むように設けられる必要はない。例えば、図12に示される薄型チャンバ400Aのように、一対の円形の電極403に代えて、同心状に配置された一対の電極403A、403Bを有していてもよい。なお、一対の同心円状の電極403A、403Bは、いずれも電流発生回路102及び電圧検出回路103に接続されているが、前述の血液インピーダンス測定装置100Aのように、電流発生回路102に接続される電極対と電圧検出回路103に接続される電極対とを独立に設けてもよい。
【0052】
あるいは、血液インピーダンス測定装置は、必ずしも血液回路208に直列に挿入されなくてもよく、血液回路208に側路を作り、その側路に血液インピーダンス測定装置が設けられてもよい。この場合には、万が一、血液回路208に不具合が生じるなどして、溶血や血栓が生じ血液インピーダンス測定装置が使用できなくなった場合でも、継続して患者への血液浄化の治療が続行できる。
【0053】
上述の説明においては、血液インピーダンス測定装置の電極は、血液回路を構成する樹脂製のチューブの表面に設けられていたが、本発明は必ずしもこのような構成には限られない。例えば、電極を兼ねた金属製のチューブの内面に、薄い絶縁膜がコーティングされていてもよい。薄い絶縁膜として、例えばフッ素系樹脂などを用いることができる。ここで、数2の右辺第2項に含まれる静電容量Csの値は、電極の面積を大きくすればするほど、そして、電極と血液との間の絶縁体(あるいは絶縁膜)の厚さを薄くすればするほど、小さくすることができる。上述のように、血液のインピーダンスを抽出するためには、静電容量Csに起因する成分は取り除かなければならないことを考慮すると、静電容量Csの大きさを予めできるだけ小さくなるように設定することが望ましい。その点では、金属製のチューブの内面に薄い絶縁膜をコーティングする場合には、絶縁膜の厚さを非常に薄く形成することも可能であり、静電容量Csの大きさを小さく抑えることができる。
【0054】
なお、上述の説明において、血液のインピーダンス測定装置は、クリットラインチャンバ205の上流側に配置されていたが、本発明はこのような配置には限られず、血液回路208の任意の位置に配置することができる。例えば、体の状態をモニタするためには採血する部分(人工透析の場合には血液シャントと呼ぶ)の直後が好ましいが、カテーテルの挿入される部分は出血などないように安定に固定するなど注意を払い続ける必要があるため、そのそばにいろいろな装置を付加することは好ましくない。このような観点からは、安定に血液回路中を血液が回っているところであって、且つ、インピーダンス測定装置を配置したとしても他の装置などと干渉しない位置(例えば、上述の実施形態のようなダイアライザーの手前側など)に配置することが望ましい。また、本発明の血液インピーダンス測定装置は、人体(あるいは動物)の体外に引き出された体外循環血液回路に設けられていればよく、必ずしも人工透析装置に設けられる必要はない。例えば、発明の血液インピーダンス測定装置を人工心肺装置に設けることができる。
【0055】
また、上述の説明において、血液のインピーダンス測定装置は電流発生回路を通じて、周波数の異なる交流電流を発生させつつ、交流電流に起因して発生する交流電圧を検出することにより、各周波数における血液のインピーダンスを測定していたが、本発明はこれには限られない。交流電圧を電極間に印加し、そのときに流れる交流電流を電極に直列に配置した電流検出抵抗で測ることにより、インピーダンスを算出してもよい。また、電極に入力する電気信号は必ずしも正弦波でなくてもよく、時間的に変動する電気信号であればよい。例えば、パルス状の電圧を電極間に印加しその時に流れる電流を電極に直列の電流検出抵抗で測り、電流の時間波形をフーリエ変換することにより血液成分の電気的インピーダンスを求めてもよい。この手法はTDR(Time Domain Reflectometry)法と呼ばれる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の血液インピーダンス測定装置を、人工透析装置に取り付けて、人工透析中の血液のインピーダンス測定を行うことにより、血液に浸透圧の変動が生じているかどうかをモニタすることができる。これにより、急激な浸透圧の変動により透析患者が全身的なショックを引き起こす前に浸透圧の調整などの対処を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0057】
100 血液インピーダンス測定装置
200 人工透析装置
204 ダイアライザー
208 血液回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体外を循環する血液回路を流れる血液のインピーダンスを測定する血液インピーダンス測定装置であって、
前記血液回路に設けられた少なくとも一対の電極と、
前記少なくとも一対の電極に接続されて、時間的に変動する入力電気信号を前記少なくとも一対の電極に入力する信号源と、
前記少なくとも一対の電極に接続されて、前記時間的に変動する電気入力信号が前記少なくとも一対の電極に入力されたときに前記少なくとも一対の電極に誘起される出力電気信号を検出する検出回路と、
前記入力電気信号と前記出力電気信号に基づいて、血液のインピーダンスを算出する演算回路と、
前記少なくとも一対の電極と、前記血液回路を流れる血液とを電気的に絶縁する絶縁体とを備える血液インピーダンス測定装置。
【請求項2】
前記少なくとも一対の電極は、前記信号源及び前記検出回路の両方に接続される一対の電極を含む請求項1に記載の血液インピーダンス測定装置。
【請求項3】
前記少なくとも一対の電極は、前記信号源に接続され前記検出回路に接続されない第1の電極対と、前記検出回路に接続され前記信号源に接続されない第2の電極対とを含む請求項1に記載の血液インピーダンス測定装置。
【請求項4】
前記血液回路は樹脂製のチューブにより構成されており、
前記少なくとも一対の電極は前記チューブの外側に配置され、
前記絶縁体は、前記血液回路を画成する前記樹脂製のチューブである請求項1〜3のいずれか一項に記載の血液インピーダンス測定装置。
【請求項5】
前記絶縁体は、前記電極の表面を被覆する絶縁膜として形成され、
前記少なくとも一対の電極に設けられた前記絶縁膜が前記血液回路の一部を画成して、前記血液に接触している請求項1〜3のいずれか一項に記載の血液インピーダンス測定装置。
【請求項6】
前記時間的に変動する電気入力信号は、低周波数の交流電流信号と高周波数の交流電流信号を含み、
前記演算回路は、低周波数の交流電流信号を用いて測定された血液のインピーダンスの大きさから前記絶縁体の静電容量を算出し、算出された前記絶縁体の静電容量に基づいて、前記血液のインピーダンスを算出する請求項1〜5のいずれか一項に記載の血液インピーダンス測定装置。
【請求項7】
人工透析装置であって、
血液を循環させる血液回路と、
透析液を循環させる透析液回路と、
透析液回路に接続されて、透析液を供給しつつ透析液を循環させる透析液供給装置と、
血液回路に接続されて、血液を循環させる血液ポンプと、
血液回路及び透析液回路に接続されるダイアライザーと、
血液回路に接続される請求項1〜6のいずれか一項に記載の血液インピーダンス測定装置とを備える人工透析装置。
【請求項8】
血液回路を流れる血液のインピーダンスを測定する方法であって、
血液回路を流れる血液に、前記血液との間に配置された絶縁体により絶縁された少なくとも一対の電極を通じて低周波数の電気入力信号を含む電気入力信号を入力することと、
前記電気入力信号を前記少なくとも一対の電極に入力したときに、前記少なくとも一対の電極に誘起される出力電気信号を検出することと、
前記低周波数の電気入力信号と、前記低周波数の電気入力信号により誘起された低周波数の出力電気信号に基づいて、前記絶縁体の静電容量を算出することと、
前記絶縁体の静電容量と、前記電気入力信号と、前記出力電気信号とに基づいて血液のインピーダンスを算出することとを備える血液のインピーダンスの測定方法。
【請求項1】
体外を循環する血液回路を流れる血液のインピーダンスを測定する血液インピーダンス測定装置であって、
前記血液回路に設けられた少なくとも一対の電極と、
前記少なくとも一対の電極に接続されて、時間的に変動する入力電気信号を前記少なくとも一対の電極に入力する信号源と、
前記少なくとも一対の電極に接続されて、前記時間的に変動する電気入力信号が前記少なくとも一対の電極に入力されたときに前記少なくとも一対の電極に誘起される出力電気信号を検出する検出回路と、
前記入力電気信号と前記出力電気信号に基づいて、血液のインピーダンスを算出する演算回路と、
前記少なくとも一対の電極と、前記血液回路を流れる血液とを電気的に絶縁する絶縁体とを備える血液インピーダンス測定装置。
【請求項2】
前記少なくとも一対の電極は、前記信号源及び前記検出回路の両方に接続される一対の電極を含む請求項1に記載の血液インピーダンス測定装置。
【請求項3】
前記少なくとも一対の電極は、前記信号源に接続され前記検出回路に接続されない第1の電極対と、前記検出回路に接続され前記信号源に接続されない第2の電極対とを含む請求項1に記載の血液インピーダンス測定装置。
【請求項4】
前記血液回路は樹脂製のチューブにより構成されており、
前記少なくとも一対の電極は前記チューブの外側に配置され、
前記絶縁体は、前記血液回路を画成する前記樹脂製のチューブである請求項1〜3のいずれか一項に記載の血液インピーダンス測定装置。
【請求項5】
前記絶縁体は、前記電極の表面を被覆する絶縁膜として形成され、
前記少なくとも一対の電極に設けられた前記絶縁膜が前記血液回路の一部を画成して、前記血液に接触している請求項1〜3のいずれか一項に記載の血液インピーダンス測定装置。
【請求項6】
前記時間的に変動する電気入力信号は、低周波数の交流電流信号と高周波数の交流電流信号を含み、
前記演算回路は、低周波数の交流電流信号を用いて測定された血液のインピーダンスの大きさから前記絶縁体の静電容量を算出し、算出された前記絶縁体の静電容量に基づいて、前記血液のインピーダンスを算出する請求項1〜5のいずれか一項に記載の血液インピーダンス測定装置。
【請求項7】
人工透析装置であって、
血液を循環させる血液回路と、
透析液を循環させる透析液回路と、
透析液回路に接続されて、透析液を供給しつつ透析液を循環させる透析液供給装置と、
血液回路に接続されて、血液を循環させる血液ポンプと、
血液回路及び透析液回路に接続されるダイアライザーと、
血液回路に接続される請求項1〜6のいずれか一項に記載の血液インピーダンス測定装置とを備える人工透析装置。
【請求項8】
血液回路を流れる血液のインピーダンスを測定する方法であって、
血液回路を流れる血液に、前記血液との間に配置された絶縁体により絶縁された少なくとも一対の電極を通じて低周波数の電気入力信号を含む電気入力信号を入力することと、
前記電気入力信号を前記少なくとも一対の電極に入力したときに、前記少なくとも一対の電極に誘起される出力電気信号を検出することと、
前記低周波数の電気入力信号と、前記低周波数の電気入力信号により誘起された低周波数の出力電気信号に基づいて、前記絶縁体の静電容量を算出することと、
前記絶縁体の静電容量と、前記電気入力信号と、前記出力電気信号とに基づいて血液のインピーダンスを算出することとを備える血液のインピーダンスの測定方法。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図9a】
【図9b】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図9a】
【図9b】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−22310(P2013−22310A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161112(P2011−161112)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「日本生体医工学会誌 生体医工学 第49巻特別号 第50回日本生体医工学会大会 プログラム・抄録集」、日本生体医工学会、平成23年4月発行
【出願人】(502350504)学校法人上智学院 (50)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「日本生体医工学会誌 生体医工学 第49巻特別号 第50回日本生体医工学会大会 プログラム・抄録集」、日本生体医工学会、平成23年4月発行
【出願人】(502350504)学校法人上智学院 (50)
【Fターム(参考)】
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