説明

血液フィルター

【課題】 総充填量が小さく、気泡捕捉能力に優れた血液フィルターを提供する。
【解決手段】 血液流入口2を血液フィルターハウジングの基底面10近傍に配置し、一端に血液流入口8を有して他端に連結口4を有したサブチャンバー3は、サブチャンバー3からセンターチャンバー5に流れる血液をS字型に流れるように伸びる細長い管空を有し、センターチャンバー5内のフィルター部材8の形状が、水平方向および螺旋状に溝を有する、血液フィルター1。

【発明の詳細な説明】
【発明の所属する技術分野】
【0001】
本発明は、人工心肺システム、人工腎臓システムなどにおいて、血液などの体液を体外循環させるための、体外循環回路を形成する際に用いられる血液フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
血液フィルターは、体外循環回路にて生成・混入した、気泡、血栓および異物を取り除き、体外循環回路に必要な血液流量に対して圧力損失が小さいことと同時に、体外循環回路の総充填量を最小にするために、その容量が可能な限り小さいことが要求される。しかし、血液フィルターの充填量を小さくすると、気泡、血栓および異物除去能力が低下し、そして同時に圧力損失が大きくなるなどの問題を有していた。
【0003】
従来の血液フィルター部材の溝はハウジングの基底部から上部に向かう鉛直の溝の形状を持つ。一方ハウジングに流入してくる血液は、フィルター部材を通過するまでの間、ハウジング内側とフィルター部材の外側の間にあるスペースにて水平に回旋している。この結果、血液流に沿わない鉛直の溝を持ったフィルター部材に血液流は常に乱され、乱流を発生させ、溶血の一因にもなっている。さらには大きな気泡が流入した場合、乱流の発生は血液と気泡が混ざり、浮力の小さい細かな気泡を発生させ、気泡は、ハウジング下部に位置する血液流出口へ、血液流と一緒に患者へ運ばれてしまう。また、フィルター部材の外側とハウジングの内側にスペースがあることで血液は回旋できるが、近年の血液フィルターは充填量が少なくさせているためスペースが狭く、従い圧力損出を増加させるため、スペースには限度があり血液フィルターの容量を小さくさせることに限界があった。
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来の体外循環回路に用いる血液フィルターを改良して、従来技術では解決できなかった問題点を取り除くために、小型でありながら、十分な気泡・血栓・異物の除去能力を発揮でき、かつ圧力損失の十分に低い血液フィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前述した目的を達成するために、本発明の血液フィルターは、ハウジングが、センターチャンバーとサブチャンバーを有し、サブチャンバーには血液流入口を、血液フィルターハウジングの基底面近傍に配置し、サブチャンバーの他端にはセンターチャンバーと連結させる連結口を有し、連絡口は、ハウジングの基底部から上部へ伸びる細長い形状を有し、血液流入口から連絡口およびセンターチャンバーに流れる血液を、S字型に流れるように伸びる細長いサブチャンバーを備える。
【0006】
本願発明の血液フィルターは、上記構造を備えることにより、血液流入口より血液フィルター内に導入された血液は、まず、サブチャンバーへと導かれ、その流速は徐々に遅くなりながらセンターチャンバーと連結させる連結口を通ってセンターチャンバーへと流入する。センターチャンバーに流入した血液は、まず、センターチャンバーのハウジング内側とフィルター部材の外側の間にあるスペースにて水平に回旋し、その後、フィルター部材を通過し、血液流出口から流出し、患者に返還される。
【0007】
上記構造を備える本願発明の血液フィルターにおいては、人工心肺回路内に気泡が血液に混入した場合、気泡は血液と共に血液フィルターの血液流入口より血液フィルター内に導入され、まず、サブチャンバーを通過する。サブチャンバーの形状はカーブを有しており、血液がサブチャンバーを通過する間に、血液より比重が軽い気泡は、求心力の作用により、サブチャンバーのカーブの中心に移動する。サブチャンバーの形状は、血液流入口からセンターチャンバーへと向かうにつれて徐々に高くなり、気泡は浮力の作用により、サブチャンバーの上部に移動する。このことにより、サブチャンバー内で気泡と血液が分離される。
【0008】
この作用により、血液がセンターチャンバー内に流入する際に、気泡は、センターチャンバーの外側かつ上部に分離され、センターチャンバー上部に位置する気泡排出口に導かれ、効果的に排出される。
【0009】
センターチャンバー内に流入した血液は、まず、センターチャンバーのハウジング内側とフィルター部材の外側の間にあるスペースにて水平に回旋する。フィルター部材の形状は、水平方向および螺旋状に溝を有するため、血液に乱流を発生させることを無くし、またスペースの断面積は広く確保することが容易で、圧力損失や溶血を抑え、総充填量を非常に小さく抑えることが可能となる。センターチャンバーのハウジング内側とフィルター部材の外側の間にあるスペースにて水平に回旋した血液は、フィルター部材を通過し、血液フィルター下部に位置する血液流出口から流出し、患者に返還される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1および図2は本発明の好適な実施態様を例示する。
【0011】
図1は本発明の血液フィルターの平面図である。図2は、図1に示すA−A’線に沿った断面で切り取った血液フィルターを示す一部破線図である。図3は、図2に示すB−B’線に沿った断面で切り取った血液フィルターを示す。
【0012】
血液は、血液流入口2からサブチャンバー3に入る。血液流入口2はハウジングの基底面10の近傍に配置し、サブチャンバー3の上部は、センターチャンバー5へと向かうにつれて高くなるため、血液に気泡が混入した場合、気泡は、浮力により血液から分離され、サブチャンバー3の上部に移動し、血液はサブチャンバー3の下部の位置を維持する。サブチャンバー3の形状はカーブを有しており、血液がサブチャンバー3を通過する間に、血液より比重が軽い気泡11は、求心力の作用により、サブチャンバーのカーブの中心に移動する。矢印12は気泡の動きと速度を模式化したもので、長い矢印12は気泡11や血液の速度が速く、短い矢印12は速度が遅いことを意味する。連絡口4に達した気泡11は、センターチャンバー5のハウジングの最外側かつ上部に位置され、センターチャンバー5のハウジング内側とフィルター部材8の外側の間にあるスペース6にて水平に回旋しながら、徐々にセンターチャンバー5の上部に位置する気泡排出口7に導かれ、効果的に排出される。
このことから、サブチャンバー3の一端に血液流入口2を有し、センターチャンバー5とサブチャンバー3の連結口4は、ハウジングの基底部10から上部へ伸びる細長い形状を有し、サブチャンバー3からセンターチャンバー5に流れる血液をS字型に流れるように伸びる細長い管空を有することで効果的に血液と気泡11を効率的に分離できる。
【0013】
血液は、センターチャンバー5のハウジング内側とフィルター部材8の外側の間にあるスペース6にて水平に回旋しながら、徐々にフィルター部材8を通過し、ハウジングの基底面10に位置する血液流出口9から流出し、患者に返還される。
【0014】
図4は、従来の血液フィルターと比較するために、従来の血液フィルター21を図3と同様に、血液流入口22の中心の位置にて水平に切り取った断面図を示す。従来の血液フィルター21の場合、血液は、血液流入口22から入り、血液流入口ハウジング29を通って、センターチャンバー23へと向かう。センターチャンバー23のハウジング内側とフィルター部材25の外側の間にあるスペース24にて水平に回旋しながら、血液は、フィルター部材25を通過し、ハウジングの基底面に位置する血液流出口26から流出し、患者に返還される。血液流入口ハウジング29を通る血液の速度は、スペース24にて水平に回旋している血液と比較し、非常に速く、ずり応力や乱流を発生させる。またフィルター部材25の形状は、スペース24にて水平に回旋している血液流に対して乱流を発生させる。血液に気泡が混入した場合、気泡27は乱流の発生から気泡と血液の分離は困難で、求心力によるセンターチャンバー23の中心に位置する血液流出口26に導かれ、血液と共に流出し、患者に返還されてしまう。
【0015】
図5は、従来の血液フィルターと比較するために、従来の血液フィルター21と本発明の血液フィルター1を側面から見た図を示す。斜線部分は、上記スペースであり、従来の血液フィルター21でのスペース24と比較し、本発明の血液フィルター1でのスペース6の断面積は非常に広く、このことから圧力損出を最小に抑えながら、血液フィルターの容量を小さくさせることが可能となった。
【0016】
図6はフィルター部材8の形状を水平方向に溝を有する代わりに螺旋状に溝を有するフィルター部材30を示す。これにより、フィルター部材に捕捉された気泡は、血液流に流されながら徐々にセンターチャンバーハウジング5の上部に位置する気泡排出口7に導かれ、効果的に排出される。
【実施例】
【0017】
以下の実施例により本発明をより具体的に説明する。
【0018】
図7は、体外循環回路を模倣した実験回路でウシ血液(ヘマトクリット値35%、37℃)を用いて本発明の血液フィルターの性能を試験した。
【0019】
図7において、温度計56を備えた開放型血液チャンバー41に貯留された血液は、遠心ポンプ42によりポリ塩化ビニル(PVC)製の主チューブ44内を矢印で示された方向へと送られ、血液フィルター40に導入される。図7に示される実験回路中を流れる血液流速は、遠心ポンプ42に接続された遠心ポンプコンソール57の設定により調節される。血液フィルター40に導入された血液は、ポリ塩化ビニル(PVC)製の主チューブ48を通って、開放型血液チャンバー41に戻る。血液フィルター40の入口側および出口側には、圧力を測定するマノメーター58および59を配置し、血液フィルター40の圧力損失の測定、および血液フィルター40の出口側圧力を、圧力調整バルブ47にて200mHgに保つように調整する。
【0020】
ポリ塩化ビニル(PVC)製の主チューブ44をバイパスするポリ塩化ビニル(PVC)製のバイパスチューブ43は、クランプ46にて閉塞され、血液は流れていない。気泡注入用三方活栓45よりシリンジを用いて気泡3mlを、ポリ塩化ビニル(PVC)製のバイパスチューブ43に注入し、その後、クランプ46を開放することにより、気泡は血液と混ざりながら血液フィルター40に導入される。気泡は、血液フィルター40の上部に蓄積する。蓄積した気泡は、血液フィルター40の気泡排出口の三方活栓49を開放することで、ポリ塩化ビニル(PVC)製の細チューブ54を経由し、開放型血液チャンバー41に導かれる。ポリ塩化ビニル(PVC)製の気泡測定細チューブ55は、コネクター50とコネクター52と一緒に、実験回路より取り出すことができる。このとき一方向弁51と一方向弁53により、血液の漏出はない。血液フィルター40の上部に蓄積された気泡全てを、三方活栓49を開放することで、ポリ塩化ビニル(PVC)製の気泡測定チューブ55内に移動させ、三方活栓49を閉鎖し、コネクター50とコネクター52を実験回路より外し、ポリ塩化ビニル(PVC)製の気泡測定細チューブ55の重量を測定することにより、血液フィルター40の上部に蓄積された気泡の量を測定する。
【0021】
上記の実験回路を用いて、本願発明の血液フィルターと、従来の血液フィルターとを、血液流量6L/分にて3mlの気泡を注入し、気泡除去性能を示す捕捉気泡量および圧力損出を比較試験した。全ての試験において、ヘマトクリット値35%に調整した新鮮ウシ血液を使用した。比較試験結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
一般に、血液フィルターの総充填量を増やすと圧力損失の減少、および気泡の除去性能の向上が期待される。従来の血液フィルターの総充填量は265mlと本願発明の血液フィルターの125mlと比較し、2倍以上も大きいが、気泡の除去性能を示す捕捉気泡量は、本願発明の血液フィルターの優位性が確認された。圧力損失は、血液フィルターが臨床使用される上で十分許容し得る範囲内の圧力損失を示すか否かを確認する目的で測定したが、従来の血液フィルターと比較し本願発明の血液フィルターは、やや劣る結果となった。圧力損失は低い程好ましいが、測定される圧力損失が80mmHg以下であれば、通常の臨床使用に特に問題なく使用し得る。
【発明の効果】
【0024】
以上、詳述したように、本発明の血液フィルターは、ハウジングが、センターチャンバーとサブチャンバーを有し、サブチャンバーには血液流入口を、血液フィルターハウジングの基底面近傍に配置し、サブチャンバーの他端にはセンターチャンバーと連結させる連結口を有し、連絡口は、ハウジングの基底部から上部へ伸びる細長い形状を有し、血液流入口から連絡口およびセンターチャンバーに流れる血液を、S字型に流れるように伸びる細長いサブチャンバーを備え、フィルター部材の形状を水平方向および螺旋状に溝を構成することにより、血液フィルター内に血液流入口から気泡が導入された場合でも、サブチャンバー内において効果的に血液から気泡を分離でき、分離された気泡は、センターチャンバー内の最外側かつ上部に導かれ、センターチャンバー上部の気泡排出口へと効果的に排出され、センターチャンバー内の乱流を極力なくしたフィルター部材の形状により、血液と分離できない気泡は粉砕されることなく、浮力をそのまま維持し、徐々にセンターチャンバー上部へ導かれる。サブチャンバーと水平方向および螺旋状に溝を構成するフィルター部材の形状により、総充填量が小さいにもかかわらず、気泡捕捉力に優れ、圧力損失も十分小さな血液フィルターが提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の血液フィルターの平面図である。
【図2】 図1に示すA−A’線に沿った断面で切り取った血液フィルターを示す一部破線図である。
【図3】 図2に示すB−B’線に沿った断面で切り取った血液フィルターを示す。
【図4】 従来の血液フィルター21を血液流入口22の中心の位置にて水平に切り取った断面図を示す。
【図5】 従来の血液フィルター21と本発明の血液フィルター1を側面から見た比較図を示す。
【図6】 フィルター部材8の形状を螺旋状に溝を有するフィルター部材の側面図を示す。
【図7】 本発明の血液フィルターと従来の血液フィルターの性能を比較検討するために用いた実験系の概略図である。
【符号の説明】
1、21、40 血液フィルター
2、22 血液流入口
3 サブチャンバー
4 連絡口
5、23 センターチャンバー
6、24 スペース
7 気泡排出口
8、25、30 フィルター部材
9、26 血液流出口
10 ハウジング基底部
11、27 気泡
12、28 血液流速
29 血液流入口ハウジング
41 開放型血液チャンバー
42 遠心ポンプ
43 バイパスチューブ
44、48 主チューブ
45、49 三方活栓
46 クランプ
47 圧力調整バルブ
50、52 コネクター
51、53 一方向弁
54、55 細チューブ
56 温度計
57 遠心ポンプコンソール
58、59 マノメーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液流入口、血液流出口、および気泡排出口を備えるハウジングと、該ハウジング内に設置されるフィルター部材を備える血液フィルターであって、該ハウジングはセンターチャンバーとサブチャンバーを有し、該センターチャンバーと該サブチャンバーの連結口は該ハウジングの基底部から上部へ伸びる細長い形状を有し、該サブチャンバーの一端に血液流入口を有し、該サブチャンバーから該センターチャンバーに流れる血液をS字型に流れるように伸びる細長い管空を有する、血液フィルター。
【請求項2】
前記フィルター部材の形状が、水平方向および螺旋状に溝を有する、血液フィルター。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−167383(P2006−167383A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−382497(P2004−382497)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(501124566)
【Fターム(参考)】