説明

血液回路における血液ポートコネクタの保護キャップ、およびその血液回路

【課題】 血液回路の使用時に、血液回路の血液ポートコネクタから保護キャップを外す作業の負担を軽減する。
【解決手段】 血液回路における血液ポートコネクタの保護キャップ12(22)は、(a)天板部12a(22a)と、(b)天板部の外周部から垂下し血液ポートコネクタの先端からネジ終端までの距離より長い高さを有する筒状部12b(22b)と、(c)筒状部の開放端部から内周側へ延びる円周リブ12c(22c)と、(d)円周リブと天板部との間の、筒状部の内周面に形成された突起部12d(22d)とを備える。そして、突起部12d(22d)は、軸方向において、血液ポートコネクタの二条ネジ間の距離より短い幅を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液回路における血液ポートコネクタの保護キャップ、およびその血液回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液透析では、ダイアライザに血液回路を接続して、患者の血液を、血液回路を介してダイアライザに循環させる。
【0003】
このようなダイアライザや血液回路の接続部分には、手指などの接触を避けるために、保護キャップが装着されており(例えば特許文献1参照)、使用直前に保護キャップが取り除かれて、ダイアライザや血液回路が接続される。
【0004】
図9は、血液回路のうち、ダイアライザの血液ポートに接続される血液ポートコネクタの保護キャップの一例を示す図である。
【0005】
図9に示すように、血液回路の血液ポートコネクタ101に保護キャップ102が装着される。血液ポートコネクタ101にはオスネジとして二条ネジ101aが形成されており、保護キャップ102は、保護キャップ102の抜け防止用円周リブ102aでその二条ネジ101aに係止される。上述のような血液回路は、保護キャップ102を装着したままで、例えば118度で高圧蒸気滅菌されるため、保護キャップ102には、血液ポートコネクタ101内部(つまり、血液回路内部)への外気の通気性が確保されていることが要求される。このため、保護キャップ102の天板部から円周リブ102aまでの高さは、血液ポートコネクタ101の先端から二条ネジ101aの終端(下端)までの距離より長くなっており、血液ポートコネクタ101と保護キャップ102との間の間隙が通気可能となっている。また、天板部内側の一部には図示せぬ突起が設けられており、血液ポートコネクタ101の先端が保護キャップ102の天板部で全閉されないようになっている。
【0006】
通常、血液ポートコネクタ101は塩化ビニル製であり、保護キャップ102はポリプロピレン(PP)製であるため、高圧蒸気滅菌時に高温により多少の収縮があり、両者の収縮度の違いから、保護キャップ102が血液ポートコネクタ101から外れやすくなる可能性があるため、保護キャップ102が高圧蒸気滅菌後においても抜けにくくなるように円周リブ102aのサイズが決定される。円周リブ102aの開口径は、高圧蒸気滅菌後において、ネジ102aの最外周の径より小さくなるように設計される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−55030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
血液回路の使用時には、上述の保護キャップ102を血液ポートコネクタ101から引き抜いてから、血液ポートコネクタ101をダイアライザ1に接続する。
【0009】
このとき、上述のように、保護キャップ102には円周リブ102aが形成されているため、保護キャップ102は引き抜きにくく、強く力を込めて保護キャップ102を引っ張らないと、血液ポートコネクタ101から保護キャップ102が外れず、看護師の作業負担が大きい。
【0010】
血液ポートコネクタ101は、患者1人分の血液回路につき動脈側と静脈側の2つ存在するため、患者1人につき2箇所の保護キャップ102を引き抜く必要がある。また、このような血液回路は使い捨てのため、患者の人数分の血液回路が使用される。このため、例えば、1日に20人の人工透析を行う場合、1日で40個の保護キャップ102を引き抜く必要があり、看護師の負担が大きい。
【0011】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたもので、血液回路の使用時に、血液回路の血液ポートコネクタから保護キャップを外す作業の負担を軽減することができる血液回路における血液ポートコネクタの保護キャップ、およびその血液回路を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明では以下のようにした。
【0013】
本発明に係る、血液回路における血液ポートコネクタの保護キャップは、(a)天板部と、(b)天板部の外周部から垂下し血液ポートコネクタの先端からネジ終端までの距離より長い高さを有する筒状部と、(c)筒状部の開放端部から内周側へ延びる円周リブと、(d)円周リブと天板部との間の、筒状部の内周面に形成された突起部とを備える。そして、突起部は、軸方向において血液ポートコネクタの二条ネジ間の距離より短い幅を有する。
【0014】
これにより、一方の手で保護キャップを持ち、他方の手で血液ポートコネクタの持手部分(羽状部)を持ち、両者をひねって互いに逆方向に回転させると、突起部が二条ネジに当接し二条ネジに沿って押し上げられ円周リブが血液ポートコネクタのネジに乗り上げるため、簡単な操作で保護キャップを血液ポートコネクタから外すことができる。したがって、血液回路の使用時に、血液回路の血液ポートコネクタから保護キャップを外す作業の負担を軽減することができる。また、突起部が二条ネジで挟まれることがないので、滅菌時の通気性が確保されている。
【0015】
また、本発明に係る、血液回路における血液ポートコネクタの保護キャップは、上記の血液回路における血液ポートコネクタの保護キャップに加え、次のようにしてもよい。この場合、突起部は、円周リブからの第1距離より高く、天板部からの第2距離より低い位置に形成されており、第1距離は、血液ポートコネクタのネジ終端の、軸方向におけるネジ幅であり、第2距離は、血液ポートコネクタの先端からネジ始端までの距離である。
【0016】
また、本発明に係る、血液回路における血液ポートコネクタの保護キャップは、上記の血液回路における血液ポートコネクタの保護キャップのいずれかに加え、次のようにしてもよい。この場合、血液ポートコネクタは塩化ビニル製であり、当該保護キャップはポリプロピレン製である。
【0017】
本発明に係る血液回路は、ダイアライザに接続される血液ポートコネクタを有し、その血液ポートコネクタに、上記の保護キャップのいずれかが装着されており、蒸気滅菌またはガス滅菌が施されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、血液回路の使用時に、血液回路の血液ポートコネクタから保護キャップを外す作業の負担を軽減することができる、血液回路における血液ポートコネクタの保護キャップを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、ダイアライザの一例を示す正面図である。
【図2】図2は、図1に示すダイアライザ1の血液ポート2,3の断面図である。
【図3】図3は、図1に示すダイアライザ1の血液ポート2,3に接続される血液回路の一例を示す図である。
【図4】図4は、血液ポートコネクタ11(21)を血液ポート2(3)に接続した状態を示す断面図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態1に係る、血液回路における血液ポートコネクタの保護キャップを示す斜視図である。
【図6】図6は、図5に示す保護キャップ12(22)の断面図(図6(A))、および血液ポートコネクタ11(21)への装着状態を示す図(図6(B))である。
【図7】図7は、図5および図6に示す保護キャップ12(22)の筒状部12b(22b)の内周面の展開図である。
【図8】図8は、実施の形態2に係る保護キャップ12(22)の筒状部12b(22b)の展開図である。
【図9】図9は、血液回路のうち、ダイアライザの血液ポートに接続される血液ポートコネクタの保護キャップの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
実施の形態1.
【0022】
まず、ダイアライザの構造について説明する。
【0023】
図1は、ダイアライザの一例を示す正面図である。ダイアライザ1は、患者の血液を導通させる血液回路を接続するための血液ポート2,3と、透析液を導通させる血液回路を接続するための透析液ポート4,5とを有する。血液ポート2は血液導入側(動脈側)のポートであって、血液ポート3は血液導出側(静脈側)のポートである。透析液ポート4は透析液導入側のポートであって、透析液ポート5は透析液導出側のポートである。
【0024】
図2は、図1に示すダイアライザ1の血液ポート2,3の断面図である。血液ポート2,3の物理形状は、例えばISO594−2といった規格で規定されており、血液ポート2,3の外筒部の内周面には、図2に示すような、リード角15度の二条ネジ2a(3a)(メスネジ)が形成されている。
【0025】
次に、ダイアライザ1の血液ポート2,3に接続される血液回路について説明する。
【0026】
図3は、図1に示すダイアライザ1の血液ポート2,3に接続される血液回路の一例を示す図である。図3(A)は、動脈側の血液ポート2に接続される血液回路の一例を示す図である。図3(B)は、静脈側の血液ポート3に接続される血液回路の一例を示す図である。
【0027】
上述のように、ダイアライザ1の血液ポート2,3には、メスネジの二条ネジ2a,3aが形成されている。このため、血液ポート2,3に接続される血液回路の血液ポートコネクタ11,21の外周には、二条ネジ2a,3aに螺合可能なように、二条ネジ(オスネジ)が形成されている。
【0028】
図4は、血液ポートコネクタ11(21)を血液ポート2(3)に接続した状態を示す断面図である。ダイアライザ1の二条ネジ2a(3a)と血液回路の二条ネジとで、図4に示すようにダイアライザ1と血液回路とがネジ結合で接続される。
【0029】
また、図3に示すように血液回路の血液ポートコネクタ11,21には、保護キャップ12,22が装着されており、血液回路の使用時まで血液ポートコネクタ11,21への手指の接触、ゴミの付着などが防止される。なお、血液ポートコネクタ11,21と保護キャップ12,22は樹脂製であって、ここでは、血液ポートコネクタ11,21は塩化ビニル製であり、保護キャップ12,22はポリプロピレン製である。
【0030】
次に、本発明の実施の形態1に係る、血液回路における血液ポートコネクタ11,21の保護キャップ12,22について説明する。
【0031】
図5は、本発明の実施の形態1に係る、血液回路における血液ポートコネクタの保護キャップ12(22)を示す斜視図である。図6は、図5に示す保護キャップ12(22)の断面図(図6(A))、および血液ポートコネクタ11(21)への装着状態を示す図(図6(B))である。
【0032】
この保護キャップ12,22は、(a)ドーナツ状の円板である天板部12a(22a)と、(b)天板部12a(22a)の外周部から垂下し血液ポートコネクタ11(21)の先端からネジ終端までの距離h1より長い高さh2を有する円筒状の筒状部12b(22b)と、(c)筒状部12b(22b)の開放端部から内周側へ延びる円周リブ12c(22c)と、(d)円周リブ12c(22c)と天板部12a(22a)との間の、筒状部12b(22b)の内周面に形成された突起部12d(22d)とを備える。そして、突起部12d(22d)は、軸方向において、血液ポートコネクタ11(21)の二条ネジ11a(21a)間の距離h3より短い幅h4を有する。これにより、二条ネジ11a(21a)の2つのネジ山の間隙が突起部12d(22d)により閉塞されずに済み、通気性が確保され、この保護キャップ12(22)が装着された状態で問題なく蒸気滅菌、ガス滅菌などを行うことができる。
【0033】
この実施の形態1では、突起部12d(22d)は、リード角15度の二条ネジである。また、天板部12a(22a)内側の面には、放射状に図示せぬ凸条が形成されており、天板部12a(22a)が血液ポートコネクタ11(21)の先端に密着して通気性が阻害されるのが防止されている。
【0034】
また、突起部12d(22d)は、円周リブ12c(22c)からの第1距離h7より高く、天板部12a(22a)からの第2距離h6より低い位置に形成されており、第1距離h7は、血液ポートコネクタ11(21)のネジ終端の、軸方向におけるネジ幅であり、第2距離h5は、血液ポートコネクタ11(21)の先端からネジ始端(上端)までの距離である。つまり、円周リブ12c(22c)から突起部12d(22d)までの距離h8は、第1距離h7より長く、天板部12a(22a)から突起部12d(22d)までの距離h6は、第2距離h5より長くなる。
【0035】
また、天板部12a(22a)から垂下する内筒部12f(22f)の径は、血液ポートコネクタ11(21)の内径より小さい。また、筒状部12b(22b)の外周面には、軸方向に沿って凸条12e(22e)が形成されている。
【0036】
ここで、血液ポートコネクタ11(21)からの、保護キャップ12(22)の取り外しについて説明する。
【0037】
図7は、図5および図6に示す保護キャップ12(22)の筒状部12b(22b)の内周面の展開図である。図7(A)に示すように、リード角θ15度の二条ネジとして突起部12d(22d)が筒状部12b(22b)の内周面に形成されている。なお、図6に示す断面図は、図7におけるA−A断面図である。
【0038】
そして、看護師等が一方の手で保護キャップ12(22)を持ち、他方の手で血液ポートコネクタ11(21)の持手部分(羽状部)を持ち、両者をひねって互いに逆方向に回転させる。この操作により、図7(B)に示す矢印の方向へ突起部12d(22d)が進行していき、突起部12d(22d)が二条ネジ11a(21a)に当接し、二条ネジ11a(21a)に沿って進行していく。このとき、突起部12d(22d)(ひいては保護キャップ12(22)全体)が押し上げられ、円周リブ12c(22c)が血液ポートコネクタ11(21)のネジ11a(21a)に乗り上げる。
【0039】
したがって、簡単な操作で保護キャップ12(22)を血液ポートコネクタ11(21)から外すことができる。
【0040】
実施の形態2.
【0041】
本発明の実施の形態2では、突起部12d(22d)の形状が、実施の形態1のものから変更されている。
【0042】
図8は、実施の形態2に係る保護キャップ12(22)の筒状部の展開図である。図8(A)は、実施の形態2における突起部12d(22d)の第1例を示し、図8(B)は、実施の形態2における突起部12d(22d)の第2例を示している。
【0043】
図8(A)に示す突起部12d(22d)は、点状の突起部であって、図8(B)に示す突起部12d(22d)は、点状の突起部をリード角θに沿って複数個(ここでは3つ)配列させたものである。
【0044】
なお、上述の各実施の形態は、本発明の好適な例であるが、本発明は、これらに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変形、変更が可能である。
【0045】
なお、上記保護キャップ12,22単体ではなく、上記保護キャップ12,22を血液ポートコネクタ11,21に装着した状態で蒸気滅菌またはガス滅菌を施した血液回路として流通可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、例えば、ダイアライザに接続される血液回路における血液ポートコネクタを清潔に保つための保護キャップに適用可能である。
【符号の説明】
【0047】
12,22 保護キャップ
12a,22a 天板部
12b,22b 筒状部
12c,22c 円周リブ
12d,22d 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイアライザの血液ポートに接続される血液回路における、二条ネジを有する略円筒形の血液ポートコネクタの保護キャップにおいて、
天板部と、
前記天板部の外周部から垂下し前記血液ポートコネクタの先端からネジ終端までの距離より長い高さを有する筒状部と、
前記筒状部の開放端部から内周側へ延びる円周リブと、
前記円周リブと前記天板部との間の、前記筒状部の内周面に形成された突起部と、
を備え、
前記突起部は、軸方向において、前記血液ポートコネクタの前記二条ネジ間の距離より短い幅を有すること、
を特徴とする血液回路における血液ポートコネクタの保護キャップ。
【請求項2】
前記突起部は、前記円周リブからの第1距離より高く、前記天板部からの第2距離より低い位置に形成されており、
前記第1距離は、前記血液ポートコネクタのネジ終端の、軸方向におけるネジ幅であり、
前記第2距離は、前記血液ポートコネクタの先端からネジ始端までの距離であること、
を特徴とする請求項1記載の血液回路における血液ポートコネクタの保護キャップ。
【請求項3】
前記血液ポートコネクタは塩化ビニル製であり、当該保護キャップはポリプロピレン製であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の血液回路における血液ポートコネクタの保護キャップ。
【請求項4】
ダイアライザに接続される血液ポートコネクタを有し、
前記血液ポートコネクタに、請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載の保護キャップが装着されており、蒸気滅菌またはガス滅菌が施されていること、
を特徴とする血液回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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