説明

血液採取方法及び採血管カプラ

【課題】採血管内に残る血液の量を管理する。
【解決手段】採取針に設けられた採取孔の高さが異なる複数の採血管カプラの中から、特定の採血管カプラ52を選択し、特定の採血管カプラ52の採取針26を採血管12の封止栓22に突き通して採血管12を採血管カプラ52に装着した後に、倒立状態にある採血管12の中の血液を採取針26を通じて外部に取り出して採取容器36に採取することによって、採取孔28の高さに応じた量の血液を採血管12の中に残留させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液が入れられた採血管から血液を採取する方法及びその方法で使用される器具の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
血液検査を行なうために血液を採血する場合には採血管が用いられる。採血管に採取された血液は、例えば遠心分離等の処理を経て血餅と血清に分離される。血清を採血管から取り出す場合に、採血管カプラといわれる器具を用いることができる。採血管カプラは、採血管に装着して使用するものであり、それに関して以下のような先行技術がある。
【0003】
引用文献1には、血液の吸引効率を高めるために直線形とL字形の2本の管路を設けた採血管カプラが開示されている。引用文献2及び3には、採取針の一本の単管を通じて血液の吸引と空気の注入を繰り返すことで、吸引する血液の定量精度を向上させる技術が開示されている。引用文献4には、血液を吸引する時に陰圧の目標設定値を定めてから吸引動作を行なう技術が開示されている。これらの先行技術は、いずれも採血管の外に採取される血液の量に関係する技術であって、採血管に残る血液について注目したものではなかった。
【0004】
【特許文献1】特開平8−320318号公報
【特許文献2】特開平9−79953号公報
【特許文献3】特開平7−77527号公報
【特許文献4】特開2001−99848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
血液検査を行うための血液採取工程を終了した採血管は、通常、即座に破棄することなく、再検査の必要に備えて所定の日数だけ保管される。もし、後日に再検査を行う必要が生じた場合には、採血管内に再検査が行えるだけ量の血液が残っていることが求められる。しかし、従来は採血管内に残る血液の量が特に管理されていないので、採血管に残る血液の量は異なり、そのような要望に沿うものではなかった。
【0006】
本発明の目的は、採血管内に残る血液の量を管理する方法及びその方法で使用される器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、採取針が有する採取孔の高さが異なる複数の採血管カプラの中から特定の採血管カプラを選択する選択工程と、前記特定の採血管カプラの採取針を前記採血管の封止栓に突き通して前記採血管カプラを装着する装着工程と、前記装着工程の後、倒立状態にある採血管内の血液を前記採取針を通じて外部に取り出す採取工程と、を有し、前記採取孔の高さに応じた量の血液を前記採血管内に残留させることを特徴とする。上記構成によれば、採血管内で採取孔の高さよりも低い位置に貯留する血液は、外部に取り出されないので、採取孔の高さに応じた量の血液を残留させることができる。すなわち、採血管内に残留させる血液の量を管理するために、複数の採血管カプラの中から特定の採血管カプラを選択すればよい。
【0008】
本発明は、血液が入った採血管の封止栓に突き通され、前記採血管の内部から血液を採取する採取孔を有する採取針と、外部から識別可能な位置に設けられ、前記採取孔の高さを表す標識と、を有することを特徴とする。上記構成によれば、外部から識別される標識によって、採取孔の高さを認識することができる。
【0009】
本発明は、複数の採血管カプラからなる採血管カプラセットにおいて、各採血管カプラは、血液が入った採血管の封止栓に突き通され、前記採血管の内部から血液を吸引する採取孔を有する採取針を有し、前記採取孔の高さが互いに異なる複数の採血管カプラからなることを特徴とする。上記構成によれば、採取孔の高さに応じて、複数の採血管カプラの中から残量に応じた採決管カプラを選択することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、採血管内に残る血液の量を管理できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は、血液採取装置10の主要構成と、その上に設置された採血管12を示す図である。血液採取装置10は、採血管12の中から血清を吸引して、下方に配置された採取容器36に採取するためのものである。なお、血清だけでなく、血清以外の血液あるいはリンパ液など液体を吸引することもできる。
【0013】
検査の対象である血液を収納した採血管12は、血液採取装置10に取り付けられる前に、遠心分離処理が施される。採血管12の中には、検査の対象である血液と分離剤16とが収納されている。採血管12の開口はゴム製の封止栓22によって封じられている。遠心分離処理を行うと、分離剤16を介して血餅14が採血管12の下方に沈殿し、血清20が上澄みとなって上方に位置する。図1には、倒立状態にある遠心分離処理後の採血管12を示している。倒立状態は、必ずしも鉛直方向に一致しなければならないわけでなく若干傾いてもよい。分離剤16は粘性が高いので、分離剤16と血餅14は落下することなく図の上方に位置している。つまり、血清20と分離剤16との間には空間18が生じ、血清20は封止栓22を底にして溜まっている。
【0014】
血液採取装置10は、採血管が装着される採血管カプラ52、採血管カプラを支持するカプラ台32、カプラ台32の下方に配置される採取容器36、カプラ台32に接続されるエア吸引路40など構成部品からなる。採血管カプラ52は、封止栓22を突き通すための採取針26を有する。採血管カプラ52は、パッキン34に接してカプラ台32の上に保持されている。パッキン34は、採血管カプラ52の有する筒状のカバー30を密着させて、固定するためのものである。カプラ台32の下方には、採取容器36が配置される。採取容器36は、採血管12から落下する血清38を溜めるものであり、その上部開口はパッキン34に密着している。採取容器36の内部は、カプラ台32に接続されるエア吸引路40の管路と通じている。エア吸引路40の先には、図示されていない吸引ポンプが設置されており、エア吸引路40の内部を負圧にするために使用される。
【0015】
採血管12を採血管カプラ52に装着すると、採取針26には封止栓22が突き通される。採取針26が穿刺された状態において、吸引ポンプを用いてエア吸引路40の管路を負圧にすると、採取容器36の内部圧力が低下する。すると、中空の採取針26通して採血管12の内部の圧力も低下するので、採血管12の内部の血清20が採取針26を通じて吸引される。吸引された血清20は、採取容器36の下方に溜まる。ちなみに、吸引ポンプを連続で動作させると、採血管12の圧力が下がり過ぎて血清が取り出し難くなるので、吸引ポンプの動作を一旦停止して、圧力を大気圧まで開放するような動作を行ってもよい。血清の吸引は以上のような順番で処理される。
【0016】
上述の方法で血清の採取を行なうにあたって、従来は、検査に必要な血清をできるだけ多く採取し、採血管内には極力残さないように行なわれていた。しかし、後日に、同一の血清による再検査の行なうことになった場合には、採血管内に血清が残っていることが望まれる。もし、採血管内に血清が残っていなければ、被検者から再び血液を提供してもらわなければならないので、二度手間であり被検者の負担も生じてしまう。本発明は、以上に述べたような要請に応じて、あえて採血管内に血清を残し、その残量を管理できるように考案されたものである。
【0017】
図2は、本発明の構成例である採血管カプラ52の詳細図である。カプラとは、本明細書において連結器あるいは結合器の意味であり、一方の部材と他方の部材とを連結あるいは結合させる器具の機能名称である。透明な樹脂で作られた採血管カプラ52は、採取針26を中央部に保持する底壁46と、その底壁46の周縁から上方に伸長する筒状のガイド44と、底壁46の下面側から下方へ伸長する筒状のカバー30とから構成される。中心軸を同一にして、ガイド44と採取針26とカバー30とが形成されている。ガイド44は、その円筒の上部開口端に向けてやや広がったテーパ形状となっており、採血管12が差し込み易い形になっている。ガイド44の高さは採取針26の先端の高さよりも高く設定されており、採取針26の先端に指が直接触れることを防止している。よって、採取針26の先端の高さを設定変更する場合には、それに連動させてガイド44の高さを変更してもよい。
【0018】
樹脂製の採取針26は底壁46の上方に採取孔28を有し、底壁46の下方には吐出孔48を有する。採取孔28は採取針26の中心軸に対して斜めの切断面をもち、その断面形状は楕円形となっている。本実施形態においては、採取孔28は1つの楕円形の孔であるが、2つの採取孔を設けてもよいし、形状は円形でもよい。採取孔28は楕円形なので、採取孔28の開口の下端位置42が、底壁46に最も近い位置になる。図2には、底壁46の上面から採取孔28の下端位置42までの距離をh2として示している。本実施形態においては、便宜上、距離h2を採取孔28の高さと定義する。もちろん、底壁46の一点から採取孔28に関わる任意の位置までの長さあるいは鉛直距離を採取孔28の高さと定めてもよい。採取針26の他端にある吐出孔48は、底壁46の下方にある筒状のカバー30の内部に位置している。なお、針は樹脂製でなく金属製であってもよい。金属製であれば針の強度を低下させることなく、直径を細くして封止栓への挿入を容易にすることができる。
【0019】
図3は、採取針の高さが異なる3種類の採血管カプラに対して、各々に採血管に装着した状態を示す断面図である。図3の(A),(B),(C)に示す各採血管カプラ50、52、54には、各々に採血管62、64、66が装着されている。各採血管カプラ50、52、54は互いに種類が異なる。これらの採血管カプラは種類別に用意されており、採血管内に残したい量に応じて、その種類の中からいずれかを選択して使用する。3種類の採血管カプラ50、52、54は、それぞれの採取針の高さh1、h2、h3が異なっており、h1<h2<h3の関係にある。ちなみに、各採血管カプラ50、52、54の採取針を除く構成部分、つまりガイドと底壁とカバーの構成部分に関しては3種類とも共通の形状となっている。
【0020】
3本の採血管は、いずれも同様の方法によって内部に残留する血清の量が定められるものであるので、一例として(B)に示す採血管64を用いて説明する。まず、血清の採取工程の最初の段階においては、採血管64の血清を、中間レベルの分量だけ残すという目的の基に、採血管カプラ52を選択する。選択された採血管カプラ52の底壁46の上面には、採血管64の封止栓22が当接するまで差し込まれる。この状態において、前述の血液採取装置10によって血清の吸引採取を行なうと、採血管64内部の血清は、その血清の液面が採取針26の採取孔28の高さh2と等しくなるまで吸引される。つまり、採血管64の中には、採取孔28から吸引されない血清58が残留する。すなわち、採取針の高さh2に応じた量の血清58が残留することになる。残留する血清58の量は、正確には、採取針の高さh2ではなく、封止栓22から採取孔28の下端位置42までの長さL2に応じて定まる。また、血清58の残量は体積であるので、長さL2の他に、採血管64の内径と封止栓22の内面形状によって決定されるものであるが、本実施例においては全数の採血管及び封止栓は共通仕様部品であるため、残量に誤差を生じさせる要因にはならない。よって、実質的には、残量は長さL2に比例する。ちなみに、長さL2は、採取針の高さh2から封止栓22の厚みに応じた一定の長さdを差し引いた長さである。つまり、L2=h2−dの関係があるので、結局は、採取針の高さh2に応じて残量が定められる。
【0021】
前述したようにh1<h2<h3の関係にあるので、各採血管62、64、66の内部の血清の残量に関しては、採血管62の中の血清56が一番少量であり、採血管66の中の血清60が一番多く、採血管64の中の血清58はその中間の量となる。残量の数値は、例えば(A)の血清56が約500μL、(B)の血清58が約1000μL、(C)の血清60が約1500μLとして挙げられる。
【0022】
このように、複数の採血管カプラの中から特定の採血管カプラを選択するだけで、複雑な処理を行うことなく同一の血清採取の手順に沿って、元検体である血清を一定量だけ残すことができる。また、採取針の高さが異なる採血管カプラを複数種類で用意することによって、採血管カプラの種類に応じて血清の残量を変えることができる。図3に示すような倒立状態での血清の採血工程を終えた採血管は、次に、血清の保存工程に移行する。
【0023】
図4は、血清採血工程を完了した採血管を保存している状態を示したものである。計10本の採血管が採血管ラック68に差し込まれている様子が示されている。各々の採血管は、その頭部に各採血管カプラを装着したままの状態で保存される。図4の右端から3本分の採血管70、72、74には、図3(A)に示した採血管カプラ50が装着されている。更に、となりの3本の採血管76,78,80には図3(B)に示した採血管カプラ52が装着されており、更にそのとなりに配置される4本の採血管82、84、86、88には図3(C)に示した採血管カプラ54が装着されている。図に示すように、採血管カプラの種類が同じであれば、管内に残る血清の量は同一となる。そして、3本の採血管70、72、74には、採取針が一番短い採血管カプラ50が装着されているので、分離剤の上に溜まる血清の量が少ない。また、3本の採血管76,78,80では、前述の3本の採血管70,72,74よりも血清の量が多い。更に、3本の採血管82、84、86、88では、前述の3本の採血管76,78,80よりも血清の量が多い。このように、採血管カプラの種類に応じた量の血清を保存することができる。図4に示すような用途では、採血管カプラの種類に応じて順序よく並べられているので残量を把握しやすいが、不規則な配列の場合や、多数の採血管ラックが隙間無く並べられているような場合には、血清の残量を把握しにくい状況が生じることがある。そのような状況においては次に示す第2の構成例が適している。
【0024】
図5は、第2の構成例である採血管カプラの組み合わせを示す図である。図5に示す3つの採血管カプラ90、92、94は、互いに色相の異なる樹脂を材料として形成されている。例えば、薄いオレンジ色の採血管カプラ90、薄い紫色の採血管カプラ92、薄い青色の採血管カプラ94というように素材の色で区別される。もちろん、具体的な色の指定は適宜定めることができる。塗装処理で着色してもよい。このような実施態様によれば、採血管カプラ本体の色によって、採血管カプラの種類(つまり採取針の高さ)を判別できる。しかも、採血管カプラは、採血管の頭部にキャップの機能を備えて装着されるので、良好な識別性を発揮することができる。
【0025】
着色された採血管カプラ90、92、94には、色の違いに加えて、更にもう一つのマークが与えられている。それは、各々の採血管カプラのガイドの外円筒面に印刷された水平マーク96、98、100である。これらの水平マーク96、98、100は、採取針の採取孔の高さとほぼ一致する位置に付されており、採取孔の高さを外観で識別できるようになっている。なお、水平マークは、ガイド44を一周回するように付してもよい。また、水平マークに加えて、残量を示す数値(例えば、500、1000、1500の数値のいずれか1つ)を刻印してもよい。いずれにしても、これらのマークは、採血管カプラを採血管に装着する前の段階でもあるいは後の段階でも、容易に識別できるような位置に明確な態様で設けることが望ましい。
【0026】
このように、色、水平マーク、印字又は刻印に例えられるような標識を設けることによって、複数の採血管の中でどの採血管にどれだけの血清が入っているのか把握が容易になる。また、採血管の頭部に採血管カプラを被せたままの状態で保存するので、採血管を採血管ラックに収納したまま、持ち上げることなく残量を把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】血液採取装置とその上に設置された採血管を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る採血管カプラの斜視図である。
【図3】採取針の高さが異なる3種類の採血管カプラを装着した状態を示す断面図である。
【図4】血清採血工程を完了した複数の採血管の保存状態を示す斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る、互いに色相の異なる採血管カプラを示す図である。
【符号の説明】
【0028】
10 血液採取装置、12 採血管、14 血餅、16 分離剤、18 空間、20 血清、22 封止栓、26 採取針、28 採取孔、30 カバー、32 カプラ台、34 パッキン、36 採取容器、38 血清、40 エア吸引路、42 下端位置、44 ガイド、46 底壁、48 吐出孔、52 採血管カプラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取針が有する採取孔の高さが異なる複数の採血管カプラの中から特定の採血管カプラを選択する選択工程と、
前記特定の採血管カプラの採取針を前記採血管の封止栓に突き通して前記採血管カプラを装着する装着工程と、
前記装着工程の後、倒立状態にある採血管内の血液を前記採取針を通じて外部に取り出す採取工程と、
を有し、
前記採取孔の高さに応じた量の血液を前記採血管内に残留させることを特徴とする血液採取方法。
【請求項2】
血液が入った採血管の封止栓に突き通され、前記採血管の内部から血液を採取する採取孔を有する採取針と、
外部から識別可能な位置に設けられ、前記採取孔の高さを表す標識と、
を有することを特徴とする採血管カプラ。
【請求項3】
複数の採血管カプラからなる採血管カプラセットにおいて、
各採血管カプラは、血液が入った採血管の封止栓に突き通され、前記採血管の内部から血液を吸引する採取孔を有する採取針を有し、
前記採取孔の高さが互いに異なる複数の採血管カプラからなることを特徴とする採血管カプラセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−89759(P2009−89759A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260713(P2007−260713)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】