血管内皮増殖因子の検出方法
【課題】本発明の課題は、煩雑な操作を必要とせず、簡便かつ高感度にVEGFの検出方法を提供することである。
【解決手段】VEGFを特異的に認識するペプチドのC末端及び/又はN末端に蛍光標識した蛍光標識VEGF認識ペプチドを試料中に添加することで、該試料中の蛍光強度を指標とすることにより、VEGFを簡便に検出することを見出した。
【解決手段】VEGFを特異的に認識するペプチドのC末端及び/又はN末端に蛍光標識した蛍光標識VEGF認識ペプチドを試料中に添加することで、該試料中の蛍光強度を指標とすることにより、VEGFを簡便に検出することを見出した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor, VEGF)の検出方法に関し、特に、蛍光標識したVEGF認識ペプチドを用いたVEGFの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガンは、全世界中で人類を死に至らしめる重大な疾患であり、日本人の死因の第1位となっている。ガン治療には、外科療法、放射線療法、化学療法、及びそれらを組み合わせた療法等の多くの治療方法が存在している。しかし、末期に達したガンの治療は非常に困難であり、ガンの早期発見はガンの治療において最も重要である。
ガンの検査法には、触診、内視鏡検査、核磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging, MRI)、陽電子放射断層撮影(Positron Emission Tomography, PET)、腫瘍マーカーの測定等がある。
【0003】
現在、ガンの検査において、血液中の腫瘍マーカー{例えば、CA19-9(糖鎖抗原19-9),CEA(ガン胎児性抗原), AFP(α-フェトプロテイン), PIVKA-II, PSA(前立腺特異抗原), CA125(糖鎖抗原125)}などの数値を指標に一次検査が行われている。
次に、一次検査で陽性であった場合、組織生検の顕微鏡検査により、ガンの確定診断と悪性度が調べられる。しかし、ガン特異的な腫瘍マーカーはなく、偽陽性率が高い。
したがって、様々な腫瘍マーカーの数値を測定し、さらに画像診断等を組み合わせて、総合的にガンの検査を行う必要がある。
【0004】
ガン細胞は、正常細胞と比較して、増殖が速く、無制限に細胞分裂を繰り返している。このため、ガン細胞は多くの栄養や酸素を必要としている。ガン細胞の分裂・増殖能は、血管からの栄養・酸素の供給に依存している。このため、ガン細胞は、血管新生因子であるVEGFを血液中に放出して、新しい血管を自身の細胞まで伸張(血管新生)させることが知られている。
すなわち、VEGFは、ガンの進行とともに増加し、主に血液中や尿中に遊離してくる生体因子であるので、腫瘍マーカーとして利用することができる。
【0005】
VEGFは、脈管形成、血管新生及びリンパ管形成に関与する一群の糖タンパク質である。また、VEGFファミリーには、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-E及び胎盤増殖因子(Placenta Growth Factor, PIGF)が存在することが知られている。さらに、VEGF-Aは、選択的スプライシングによって生じる5種類のアイソファームである、VEGF121、VEGF145、VEGF165、VEGF189、VEGF206が存在することが知られている。
VEGFファミリーは、それぞれ決まった受容体と結合し、機能を発現する。VEGFが受容体に結合すると、受容体のチロシンキナーゼが活性化され、さらに細胞内にシグナルが伝達され、細胞の機能や構造に変化を与える。特に、VEGF-Aは、受容体であるVEGFR-2又はVEGFR-1に結合し、血管新生、脈管形成などに関与していることが知られている(特許文献1)。
【0006】
VEGFが様々な腫瘍部位で放出されていることが報告されており、小さな腫瘍の段階で放出される微量のVEGFの検出を行うことで、ガンの早期発見ができると考えられている。すなわち、早期にガンを検出するには、生体から得られた試料、特に血液中の微量のVEGFを測定する必要がある。
【0007】
現在、VEGFを検出するためのキットが販売されている{PerkinElmer 社製品のHuman VEGF Immunoassay kit(製品番号:AL201C)、GE Healthcare 社製品のh-VEGF ELISA System (製品番号:RPN2779)、Bender MedSystems 社製品のhuman sVEGF-R1 ELISA(製品番号:BMS268/2)、Quantine社製品のHuman VEGF Immunoassay}。
しかし、市販されているVEGF検出キットは、VEGFを特異的に認識する抗体を使用しているので、抗体の固定化、洗浄操作等の煩雑な操作が必要である。さらに、抗体を使用しているので、該キットは高価であり、容易に腫瘍マーカーの一つとして利用することができない。
また、様々なVEGF検出方法が報告されているが、いずれも簡便なVEGFの測定方法ではなかった(特許文献2、3)。
【0008】
以上により、煩雑な操作を必要とせず、簡便、さらに高感度にVEGFの検出方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2000−509248号公報
【特許文献2】特開2002−335998号公報
【特許文献3】特開2000−227432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上記問題を解決できるVEGF検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究し、VEGFを特異的に認識するペプチド(VEGF認識ペプチド)のC末端及び/又はN末端に蛍光標識した蛍光標識VEGF認識ペプチドを試料中に添加することで、該試料中のVEGF濃度を簡便かつ高感度に検出できることを見出した。
以上により、本件発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下を含む。
「1.以下の工程を含む、哺乳類から取得した試料中のVEGF(血管内皮細胞増殖因子)を検出する方法;
(1)C末端及び/又はN末端が蛍光標識されたVEGF認識ペプチドを試料に添加する工程、
(2)蛍光強度を指標として、検出する工程。
2.前記C末端及び/又はN末端が蛍光標識されたVEGF認識ペプチドは、C末端及び/又はN末端にGFP標識されているVEGF認識ペプチドである前項1の方法。
3.前記VEGF認識ペプチドは、配列番号3又は19のアミノ酸配列からなるペプチドである前項1又は2の方法。
4.前記VEGF認識ペプチドは、配列番号1又は2のアミノ酸配列からなるペプチドである前項1又は2の方法。
5.前記VEGF認識ペプチドは、前記配列番号1〜3及び19のいずれか1のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ前記配列番号1〜及び193のいずれか1のアミノ酸配列と実質的同質のVEGF認識能を持つペプチドである前項1又は2の方法。
6.前記VEGF認識ペプチドは、前記配列番号1〜3及び19のいずれか1のアミノ酸配列において、1〜5個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ前記配列番号1〜3及び19のいずれか1のアミノ酸配列と実質的同質のVEGF認識能を持つペプチドである前項1又は2の方法。
7.前記試料が、血清である前項1〜6のいずれか1の方法。
8.前記試料が、加熱処理後の血清である前項1〜6のいずれか1の方法。
9.前記試料が、10〜1000倍に水溶液で希釈され、さらに加熱処理された血清である前項1〜6のいずれか1の方法。
10.前項1〜9のいずれか1の方法で得られた試料中のVEGFの検出結果を以下の検査に使用する検査方法。
(1)ガン検査
(2)腎不全検査
(3)糖尿病性網膜症検査
(4)関節リウマチ検査
(5)発毛・育毛検査
(6)クロウ・フカセ症候群検査
(7)病血管透過性亢進検査
(8)黄斑浮腫検査
(9)黄斑変性検査」
【発明の効果】
【0013】
本発明では、分子(抗体等)の固体基質への固定作業、洗浄、精製の操作を必要としない簡便かつ高感度のVEGFの検出方法を提供した。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】SDS-PAGEによるC末端又はN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドの製造及び精製の確認(図中の矢印が合成ペプチドのバンドを示す)
【図2】C末端側GFP蛍光標識VEGFペプチドを使用して、各サンプルでの蛍光偏光度の比較結果
【図3】N末端側GFP蛍光標識VEGFペプチドを使用して、各サンプルでの蛍光偏光度の比較結果
【図4】C末端側GFP蛍光標識VEGFペプチドを使用して、各サンプルでの蛍光偏光度の比較結果
【図5】N末端側GFP蛍光標識VEGFペプチドを使用して、各サンプルでの蛍光偏光度の比較結果
【図6】C末端側GFP蛍光標識VEGFペプチドを使用して、加熱処理後にVEGFを添加した各サンプルでの蛍光偏光度の比較結果
【図7】N末端側GFP蛍光標識VEGFペプチドを使用して、加熱処理後にVEGFを添加した各サンプルでの蛍光偏光度の比較結果
【図8】N末端側GFP蛍光標識VEGFペプチドを使用して、VEGF添加後に加熱処理した各サンプルでの蛍光偏光度の比較結果
【発明を実施するための形態】
【0015】
(VEGF)
近年の研究では、VEGFは腫瘍進行の主な要因の一つであると報告されている。VEGFは、大腸ガン、胃ガン、肺ガン等の腫瘍の血管新生に関与していることが知られている。腫瘍は、VEGFを自ら産出・分泌し、産出したVEGFを血管内皮表面上に結合させ、血管細胞の増殖を誘導することによって、血管を引き込み、酸素や栄養を補給している。このような現象は、腫瘍発生初期から起きており、腫瘍はVEGFの分泌なしでは2mm以上成長することができないことが知られている。そのため、VEGFを検出することは腫瘍の早期発見につながる。
特に、新生血管形成の程度は、原発性(primary)乳癌、膀胱癌、前立腺癌、非小細胞肺癌、皮膚黒色腫、および子宮頚癌における転移と強く相関していることが報告されている(特許文献1)。
また、VEGFは、高血圧症を有する患者における血管系疾患のリスクマーカーになることも報告されている(特許文献3)。
加えて、糖尿病性網膜症、関節リウマチなどでも異常な血管新生が起こっており、その血管新生を阻害することでこれらの疾患を治療できることを示唆するデータが、数多く報告されている(再公表特許WO2005/037864)。すなわち、VEGFを検出することにより、糖尿病性網膜症、関節リウマチの診断を行うことも可能である。
さらに、腎不全とVEGF産出の相関関係についても複数報告されている。
加えて、VEGF産出と、発毛・育毛の相関関係、クロウ・フカセ症候群の相関関係、病血管透過性亢進の相関関係、又は眼の病気である黄斑浮腫若しくは黄斑変性の相関関係についても報告されている。
よって、患者由来の試料中のVEGF濃度を検出することによって、該患者のガン、糖尿病性網膜症、関節リウマチ、腎不全、発毛・育毛、クロウ・フカセ症候群、病血管透過性亢進、黄斑浮腫又は黄斑変性の検査を行うことができる。
【0016】
(蛍光標識したVEGF認識ペプチド)
本発明の「蛍光標識したVEGF認識ペプチド」とは、VEGFを特異的に認識するペプチド(VEGF認識ペプチド)のC末端及び/又はN末端に、標識として機能する蛍光タンパク質が融合したものである。
【0017】
(蛍光タンパク質)
本発明の「蛍光タンパク質」とは、特に限定されるものではなく、標識能を有している限り適応可能である。
例えば、GFP(Green Fluorescent Protein)、BFP(Blue Fluorescent Protein)、CFP(Cyan Fluorescent Protein)、RFP(Red Fluorescent Protein)、YFP(Yellow Fluorescent Protein)、EGFP(Enhanced Green Fluorescent Protein)、ECFP(Enhanced Cyan Fluorescent Protein)、ERFP(Enhanced Red Fluorescent Protein)、EYFP(Enhanced Yellow Fluorescent Protein)等が好適に例示される。特に、本発明では、GFPが好ましい。
【0018】
{GFP(Green Fluorescent Protein:緑色蛍光タンパク質)}
GFPは、オワンクラゲから単離された緑色の蛍光を発する約27kDaのタンパク質である。下記実施例で使用したGFPは、474nmの光で励起され、509nmの光を蛍光として発する。GFPは、補因子を必要とせず単体で蛍光を発するために、GFP遺伝子を生きた細胞、動物個体の特定の細胞にレポーター遺伝子として導入することができる。
【0019】
(VEGF認識ペプチド)
下記実施例に使用するVEGF認識ペプチドは、以下の方法で作成した。
VEGFの異なる領域に結合することが知られている1VPP(配列番号1)、1KAT(配列番号2)、及び1VPPと1KATの一部のアミノ酸配列を立体障害を回避するために置換及び/又は削除した後、スペーサー(GPGSG、GPGS)を介して連結したペプチド(配列番号3)を創製した。
VEGF認識ペプチドのアミノ酸配列(以後、VEGF認識ペプチドと称する場合もある)を下記に示す。さらに、下記配列番号3のスペーサーを有しないアミノ酸配列(配列番号19)もVEGF認識ペプチドに含まれる。
配列番号1:RGWVEICAADDYGRCL
配列番号2:GNECDIARMWEWECFERL
配列番号3:GPGSGRGWVEICAADDYGRCLGPGSGGPGSGNECDIARMWEWECFERLGPGSGGPGSG
配列番号19:RGWVEICAADDYGRCLGPGSGGPGSGNECDIARMWEWECFERL
なお、本発明者らは、上記配列番号3のVEGF認識ペプチドは、VEGFに特異的に結合することをすでに確認している。
【0020】
また、本発明のVEGF認識ペプチドは、上記配列に限定されない。本発明のVEGF認識ペプチドの配列は、上記記載のアミノ酸配列(配列番号1〜3及び19)と90%以上の相同性を有しかつ該ペプチドと実質的同質のVEGF認識能(結合能)を持つペプチド、又は、上記記載のペプチドに対して、1〜5個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しておりかつ実質的同質のVEGF認識能(結合能)を持つペプチドも含める。
【0021】
「配列相同性」とは、通常、アミノ酸配列の全体で80%以上、好ましくは85%、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、さらにより好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上であることが適当である。
【0022】
上記記載のアミノ酸配列(配列番号1〜3及び19)で表されるペプチドと配列相同性を有するペプチドとして、例えば、配列番号1に記載のアミノ酸配列において、例えば1〜10個、好ましくは1〜8個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1個〜3個、またさらにより好ましくは1個〜2個、最も好ましくは1個のアミノ酸の変異、例えば欠失、置換、付加または挿入といった変異を有するアミノ酸配列で表されるペプチドが例示できる。アミノ酸の変異の程度およびそれらの位置等は、該変異を有するペプチドが、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるペプチドと実質的に同質のVEGF結合能を有するものである限り特に制限されない。
【0023】
(VEGF認識ペプチドの創製方法)
本発明のVEGF認識ペプチドであって、上記記載のペプチド以外のペプチドは以下の方法で創製することができる。
まず、VEGFの立体構造において、表面に出ていると推定されるアミノ酸配列を選択する。該選択したアミノ酸配列は、好ましくは10〜40、15〜35、20〜30アミノ酸数であることが好ましい。次に、該選択したアミノ酸配列を固相合成法等で合成する。合成したペプチドを適当な担体に固定して、ファージディスプレイ法等によって、該選択したアミノ酸配列を特異的に認識するアミノ酸配列を選抜する。次に、選抜したアミノ酸配列を固相合成法等で合成し、VEGF認識ペプチドとする。なお、選抜したアミノ酸配列が2種類以上なら、各選抜したアミノ酸配列をペプチド(好適には、グリシン等のアミノ酸)リンカー等で結合してVEGF認識ペプチドとすることができる。
【0024】
(蛍光標識したVEGF認識ペプチドの製造方法)
蛍光標識したVEGF認識ペプチドの製造は、遺伝子工学的手法、化学合成、および無細胞タンパク質合成により実施できる。ペプチドは、製造された後に、さらに精製して用いることができる。
【0025】
蛍光標識したVEGF認識ペプチドの製造は、該ペプチドをコードする遺伝子の塩基配列情報に基づいて一般的な遺伝子工学的手法{サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社;ウルマー(Ulmer, K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p. 666-671;エールリッヒ(Ehrlich, H.A.)編、「PCRテクノロジー,DNA増幅の原理と応用」、1989年、ストックトンプレス}により実施できる。
【0026】
蛍光標識したVEGF認識ペプチドを無細胞タンパク質合成手段で製造する場合には、例えば、翻訳鋳型となるmRNAは、各種蛍光タンパク質をコードする遺伝子DNAとVEGFを認識するペプチドをコードする遺伝子DNAが挿入されたベクターを基に、転写鋳型を調製し、RNA polymeraseを用いて転写を行う。得られたRNAを精製又は精製せずに無細胞タンパク質合成系で翻訳を行う。翻訳によって調製される融合タンパク質がそのまま蛍光標識したVEGF認識ペプチドとなる。
【0027】
蛍光標識したVEGF認識ペプチドの精製および/または分離は、その物理的性質、化学的性質等を利用した各種分離操作方法により実施できる。分離操作方法として、硫酸アンモニウム沈殿、限外ろ過、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーおよび透析法等の公知の方法を例示できる。これら方法は単独でまたは適宜組合せて使用できる。
【0028】
(VEGF検出方法)
本発明の試料中のVEGF検出方法は、下記方法により、蛍光タンパク質の蛍光強度を指標として、VEGFを検出する。
また、予め、既知量のVEGFの蛍光強度を基にして、検量線を作成しておけば、試料中のVEGFの正確な定量を行うことができる。
【0029】
{蛍光偏光法(FP:Fluorescence Polarization)}
蛍光標識したVEGF認識ペプチドを、試料又は処理済み試料に添加し、そのまま測定装置で検出する。
蛍光偏光法は、偏光励起光を蛍光物質に照射することにより、蛍光物質から発せられる蛍光が分子量に応じて異なった偏光を示すという特性に基づいた測定方法である。蛍光標識物質(例えば、GFP)が、高分子(VEGF)と結合すると、見かけ上の分子量が大きくなるため、分子運動が小さくなり、結果としてその偏光を維持した蛍光(偏光度が高い)を放出する。該偏光を維持した蛍光をマーカーにして、タンパク質と相互作用する物質を検出する。
【0030】
{蛍光相関分析法(FCS:Fluorescence Correlation Spectroscopy)}
蛍光標識したVEGF認識ペプチドを、試料又は処理済み試料に添加し、そのまま測定装置で検出する。
測定は、レーザー光を照射し、液中の蛍光分子(蛍光タンパク質)の揺らぎを測定するので、特にpH、測定時間の条件を設定する必要はなく、温度も室温で可能である。また、FCS測定では、微小領域内の蛍光分子の揺らぎを測定し、得られた情報に基づいて並進拡散時間を求める。この並進拡散時間をマーカーにして、タンパク質と相互作用する物質を検出する。
なお、FSCの改良方法であるFCCS(蛍光相互作用相関分析法)も含まれる。
【0031】
{蛍光強度分析解析法(FIDA:Fluorescence Intensity Distribution Analysis)}
蛍光標識したVEGF認識ペプチドを、試料又は処理済み試料に添加し、そのまま測定装置で検出する。
測定は、レーザー光を照射し、液中の蛍光分子(蛍光タンパク質)の揺らぎを測定するので、特にpH、測定時間の条件を設定する必要はなく、温度も室温で可能である。また、FIDA測定では、微小領域内の蛍光を発している分子の蛍光強度と数を測定する。測定した蛍光強度と数をマーカーにして、タンパク質と相互作用する物質を検出する。
【0032】
また、本発明の検査方法では、健常者から得られた試料中のVEGFのレベルを基にしてcut off値を設定する。そして、被験者(患者)から得られた試料の数値(VEGFのレベル)が、予め決定したcut off値+1.5倍の標準偏差、好ましくはcut off値+2倍の標準偏差、より好ましくはcut off値+3倍の標準偏差以上であれば、該被験者がガンであると判定される。
なお、cut off値の設定方法としては、健常者から得られる試料の数値(VEGFのレベル)の平均値から算出できる。
【0033】
さらに、本発明の検査方法では、被験者から得られた試料中のVEGFレベルと予め設定しておいた基準値とを比較して、ガンの発症予測、予後判定、使用している抗癌剤の有効性の判定方法、抗癌治療剤のスクリーニング等も行うことができる。
なお、基準値とは、ガンにおける進行度を示す標準値を示す。一般的に、試料中のVEGF濃度は、ガンの進行が進むにつれて上昇すると考えられる。基準値の設定は、予めガンの進行度合いを確認している患者の試料から得られるVEGFレベルから算出することにより行うことができる。
【0034】
(試料)
本発明の試料は、哺乳類特にヒト由来の尿、血液、特に血清、血漿である。特に好ましい試料は、血清であり、最も好ましくは下記方法で処理した血清である。
【0035】
(試料の処理方法)
本発明では、血清のような粘性の高い試料の場合には、水溶液である自体公知の緩衝液を試料に添加する。さらに、血清のような試料中に補体が存在する場合には、加熱処理(56℃、1分間)、好ましくは非働化(56℃、30〜60分間)を行う。
なお、本発明の下記実施例により、VEGFを含む血清に加熱処理をしても、該血清中のVEGFを検出することができることを確認している。
【0036】
(VEGFの検出方法)
本発明では、蛍光標識したVEGF認識ペプチドを、上記処理した試料又は未処理の試料に添加して、好ましくはインキュベーションした後に、蛍光タンパク質の蛍光強度を測定する。
すなわち、本発明の検出方法では、蛍光標識したVEGF認識ペプチドを、希釈・加熱処理した血清に添加することのみで、血清中のVEGFを検出することができる。また、本発明の検出方法では、下記実施例により、1pg/mlのVEGFを検出することができる。
なお、本発明者の知る限りでは、市販されているELISAキットでのVEGFの検出限界は、3.13pg/mlであり、血清中のVEGFの検出限界は62pg/mlである。
以上により、本発明の検出方法は、市販されているVEGF検出キットと同等又はそれ以上に高感度でVEGFを検出することができる。
【0037】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、下記の実施例は本発明を具体的に説明したものであり、本発明の技術的範囲を制限するものではない。
【実施例1】
【0038】
(蛍光標識したVEGFの製造)
以下の方法で、C末端又はN末端に、蛍光標識されたVEGF認識ペプチドを作製した。なお、蛍光タンパク質は、GFP(配列番号18)を使用した。
【0039】
(1)VEGFがN末端に蛍光標識されたVEGF認識ペプチドの作製
配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードするDNA断片が挿入されたプラスミドベクターを鋳型として用い、配列番号4及び配列番号5のプライマーを使用して、PCR反応(98℃,30秒間→98℃,3秒間→58℃,5秒間、72℃,20秒間を30サイクル、その後72℃,3分間で加熱した後に4℃で保温した)を行って、PCR産物を得た。
また、GFP遺伝子は、pQBI-T7-GFPベクター(5ng)を鋳型として用い、配列番号6及び配列番号7のプライマーを使用して、PCR(98℃,30秒間→98℃,3秒間→58℃,5秒間、72℃,20秒間を30サイクル、その後72℃,3分間で加熱した後に4℃で保温した)を行って、PCR産物を得た。
上記それぞれのPCR 産物は、Promega社Wizard SV Gel and PCR Clean-up Systemを用いて精製した。
さらに、配列番号8及び配列番号9のプライマーを含む溶液及び上記それぞれのPCR 産物を含む混合溶液で、PCR{98℃,10秒間→(98℃,3秒間→58℃,10秒間、72℃,20秒間を5サイクル)、(98℃,3秒間→68℃,10秒間、72℃,20秒間を25サイクル)、その後72℃,3分間で加熱した後に4℃で保温した}を行って、PCR産物を得た。
上記PCR 産物は、Promega社Wizard SV Gel and PCR Clean-up Systemを用いて精製した。得られたDNA断片は、制限酵素EcoRIおよびBamHIで消化した後、同じ制限酵素EcoRIおよびBamHIで消化したタンパク質大量発現用ベクターであるpGEX-6P-1とライゲーションした後(宝酒造:Takara Ligation Kit Ver.2)、大腸菌(JM109 competent cell)で形質転換を行った。
目的の遺伝子断片が挿入されたクローンを選択した後、プラスミドを大腸菌(BL21株 competent cell)に形質転換をしてタンパク質大量発現を実施した。
【0040】
(2)VEGFがC末端に蛍光標識されたVEGF認識ペプチドの作製
配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードするDNA断片が挿入されたプラスミドベクターを鋳型として用い、配列番号10及び配列番号11のプライマーを使用して、PCR(98℃,30秒間→98℃,3秒間→58℃,5秒間、72℃,20秒間を30サイクル、その後72℃,3分間で加熱した後に4℃で保温した)を行って、PCR産物を得た。
また、GFP遺伝子は、pQBI-T7-GFPベクター(5ng)を鋳型として用い、配列番号12及び配列番号13のプライマーを使用して、PCR(98℃,30秒間→98℃,3秒間→58℃,5秒間、72℃,20秒間を30サイクル、その後72℃,3分間で加熱した後に4℃で保温した)を行って、PCR産物を得た。
上記それぞれのPCR 産物は、Promega社Wizard SV Gel and PCR Clean-up Systemを用いて精製した。
さらに、配列番号14及び配列番号15のプライマーを含む溶液及び上記それぞれのPCR 産物を含む混合溶液を用いて、PCR{98℃,10秒間→(98℃,3秒間→58℃,10秒間、72℃,20秒間を5サイクル)、(98℃,3秒間→68℃,10秒間、72℃,20秒間を25サイクル)、その後72℃,3分間で加熱した後に4℃で保温した}を行って、PCR産物を得た。
さらに、上記(1)と同様な方法により、目的の遺伝子断片が挿入されたクローンを選択した後、プラスミドを大腸菌(BL21株 competent cell)に形質転換をしてタンパク質大量発現を実施した。
【0041】
(3)VEGFがC末端又はN末端に蛍光標識されたVEGF認識ペプチドの精製
上記(1)又は(2)により、大腸菌(BL21株)に導入したインサートDNA断片を含むpGEX-6P-1プラスミドよりGSTに融合したGFP標識VEGF認識ペプチドを得た。目的のDNAが導入されたプラスミドを含む大腸菌は、まず30mLのLB培地[1%(w/v) Bacto Trypton, 0.5% (w/v) Yeast Extract, 1%(w/v) NaCl]に終濃度50μg/mLになるようアンピシリンを加えた培地を用いて前培養を1晩行った。培養した大腸菌は、LB(アンピシリンを含む)培地でさらに37℃で5時間培養した後、1mM(終濃度)になるようIPTG(isopropyl 1-thio-β-D-galactose)を滴下し、さらに3時間37℃で培養した。
その後、培養した大腸菌を遠心分離にて回収し、Complete Mini (Protease inhibitor cocktail tablet:Roche社)含有PBS溶液に溶解した。溶解した大腸菌は超音波破砕機(BIORUPTOR, コスモバイオ社)を用いて細胞を破砕した。破砕した細胞は遠心分離(TOMY社製ARO15-24ローターを用いて、15000rpm、4℃)した後、上澄み溶液はフィルター(ポアサイズ:0.22μm)を用いて濾過した。その後、Glutathione Sepharose 4Bカラム(GEヘルスケア社)に滴下し、4℃で1時間静置し、TE(pH7.6)で洗浄後、PreScission Protease(GEヘルスケア社)を4℃にて一晩反応した。目的のGFP標識VEGF認識ペプチドはカラム上部よりTE(pH7.6)を滴下して回収した。該ペプチドを回収後、SDS-PAGEを行い目的のペプチドが合成及び精製されていることを確認した(図1)。
【実施例2】
【0042】
(製造したGFP標識VEGFの濃度測定)
上記実施例1で製造したGFP標識VEGF認識ペプチドの濃度を測定した。なお、濃度測定には、BCA Protein Assay Kit(Thermo scientific社製)を使用した。詳細は以下の通りである。
【0043】
C末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド及びN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドを、それぞれTE緩衝液で10倍希釈した。希釈したC末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドを含む溶液10μl及びN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドを含む溶液10μlを、それぞれ、Reagent A及びBの混合溶液200μl(BCA Protein Assay Reagent A:BCA Protein Assay Reagent B=200:1)に混合した。さらに、混合溶液を、マイクロプレート(96 Well Flat Bottom IWAKI社製)に滴下した後に、37℃、30分間インキュベートし、さらに室温で10分間放置した後に、測定を行った。なお、測定装置は、Biomek Plate Reader(BECKMAN)を使用した。測定結果を下記表1に示す。
さらに、上記実施例1で製造したC末端が標識されたVEGF認識ペプチド及びN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドを、下記表1の値を基にして、PBSで希釈することにより、下記実施例で使用するC末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド及びN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドを、それぞれ0.5mg/mlに調整した。
【0044】
【表1】
【実施例3】
【0045】
(蛍光偏向法によるVEGFの検出)
上記実施例2で製造した0.5mg/mlのC末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μl及び0.5mg/mlのN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μlを、それぞれ、配列番号16に記載のアミノ酸配列であるVEGF121(1pg/ml)5μl及び配列番号17に記載のアミノ酸配列であるVEGF165(1pg/ml)5μlと混合し、全量10μlのサンプルを作製した。
次に、コントロールとして、上記実施例2で製造した0.5mg/mlのC末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μl及び0.5mg/mlのN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μlを、それぞれ、PBSで希釈したBSA(1pg/ml:BIO-RAD社製)5μlと混合し、全量10μlのサンプルを作製した。
次に、コントロールとして、上記実施例2で製造した0.5mg/mlのC末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド10μl及び0.5mg/mlのN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド10μlを、PBS10μlと混合し、全量20μlとした。さらに、全量20μlの10μlを25℃、10分間でインキュベートした後に、サンプルとした。
上記サンプルを、マイクロプレート{384 Well Small Volume HiBase Polystyrene Microplates Black (Greiner bio-one)}に滴下して、測定した。
測定条件は、以下の通りである。
測定装置であるウルトラエボリューション(TECAN社製)を使用し、PBSをブランクとして、温度37℃、Gainを70、Measurement modeをFluorescence Polarization、Filter swith modeをper Well、Mirror selectionをDichroic 1(e.g. Cy5)(96)とし、あとはマニュアル設定を選択した。
【0046】
(蛍光偏向法によるVEGFの検出結果)
上記測定結果を図2及び図3に示す。図2及び図3の結果より、C末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド及びN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドは、BSAに非特異的に吸着するが、VEGF121及びVEGF165と特異的に結合した。
また、C末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド及びN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドでは、GFPの標識部位の相違による蛍光強度(蛍光偏向度)の差はなかった。また、C末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド及びN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドでは、VEGF121とVEGF165の相違における蛍光強度(蛍光偏向度)の差はなかった。
これらの結果により、C末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド及びN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドは、立体障害に影響なく特異的にVEGF121及びVEGF165を認識することができる。
さらに、GFPをC末端及びN末端の両方に標識したVEGF認識ペプチドは、C末端又はN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドと比較して、より高感度にVEGFを検出することができると考えられる。
【実施例4】
【0047】
(GFP標識 VEGF認識ペプチドによる生体内物質の認識の確認)
GFP標識 VEGF認識ペプチドが、VEGF以外の生体内物質であるINF-γ、インスリンを認識するかどうかの確認を行った。詳細は、以下の通りである。
【0048】
上記実施例2で製造した0.5mg/mlのC末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μl及び0.5mg/mlのN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μlを、それぞれ、1pg/mlのVEGF121 5μl及び1pg/mlのVEGF165 5μlと混合し、全量10μlのサンプルを作製した。
次に、上記実施例2で製造した0.5mg/mlのC末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μl及び0.5mg/mlのN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μlを、それぞれ、PBSで希釈した1pg/mlのBSA 5μlと混合し、全量10μlのサンプルを作製した。
次に、上記実施例2で製造した0.5mg/mlのC末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μlを、1pg/mlのINF-γ 5μlと混合し、全量10μlのサンプルを作製した。
次に、上記実施例2で製造した0.5mg/mlのN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μlを、1pg/mlのインスリン 5μlと混合し、全量10μlのサンプルを作製した。
次に、上記実施例2で製造した0.5mg/mlのC末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド10μl及び0.5mg/mlのN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド10μlを、それぞれ、PBS 10μlと混合し、全量20μlとした。さらに、全量20μlの10μlを25℃、10分間でインキュベートした後に、サンプルとした。
上記サンプルを、マイクロプレート{384 Well Small Volume HiBase Polystyrene Microplates Black (Greiner bio-one)}に滴下して、測定した。
測定条件は、実施例3と同様である。
【0049】
上記測定結果を図4及び図5に示す。図4及び図5の結果より、C末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド及びN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドのVEGF121及びVEGF165を認識した場合の蛍光偏光度は、INF-γ及びインスリンの場合と比較して、有意に上昇していた。すなわち、C末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド及びN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドは、INF-γ及びインスリンを含む生体由来の試料中でもVEGFを特異的に認識することができると考えられる。
【実施例5】
【0050】
(試料中のVEGF検出)
GFPが標識されたVEGF認識ペプチドドが、実際の試料である血清中のVEGFを特異的に認識することができるかを確認した。詳細は、以下の通りである。なお、ウシ血清を試料として使用した。
【0051】
0.5mg/mlのC末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μl及び0.5mg/mlのN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μlを、それぞれ、1pg/ml のVEGF121 (5μl)及び1pg/mlの VEGF165(5μl)と混合した。さらに、それらの混合液を、それぞれ、予めPBSで100倍希釈した後に56℃、1分間で加熱処理した血清に滴下して、実施例3と同様に測定した。
【0052】
上記測定結果を図6及び図7に示す。図6及び図7の結果から明らかなように、GFPが標識されたVEGF認識ペプチドは、加熱処理した血清中に添加したVEGFを特異的に認識することができた。
【実施例6】
【0053】
(VEGF添加後に加熱処理された血清中のVEGF検出)
GFPが標識されたVEGF認識ペプチドが、VEGF添加後に加熱処理された血清中のVEGFを特異的に認識することができるかを確認した。詳細は、以下の通りである。なお、ウシ血清を試料として使用した。
【0054】
1pg/mlの VEGF121(5μl)及び1pg/mlの VEGF165(5μl)を、それぞれ、PBSで100倍希釈した血清に滴下した後に、56℃、1分間で加熱処理した。さらに、0.5mg/mlのN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μlを、それぞれ、加熱処理したVEGF121を含む血清及び加熱処理したVEGF165を含む血清に滴下して、実施例3と同様に測定した。
【0055】
上記測定結果を図8に示す。図8の結果から明らかなように、GFPが標識されたVEGF認識ペプチドは、VEGF添加後に加熱処理した血清中に含まれるVEGFを特異的に認識することができた。
【0056】
以上の実施例の結果より、本発明の検出方法は、以下の工程のみで試料中のVEGFを高感度(1pg/ml以上)に検出することができる。
(1)試料、特に血清を、緩衝液(例えば、PBS)で10〜1000倍で希釈する。
(2)希釈した血清を、加熱処理(56℃、1分間)する。
(3)蛍光標識されたVEGF認識ペプチドを、加熱処理した血清に滴下する。
(4)VEGF認識ペプチドを滴下した血清中の蛍光強度(蛍光偏光)を測定する。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明では、分子(抗体)の固体基質への固定作業、洗浄、精製の操作を必要としない簡便かつ高感度のVEGF検出方法を提供することにより、VEGFの産出をマーカーとするガン診断等に有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor, VEGF)の検出方法に関し、特に、蛍光標識したVEGF認識ペプチドを用いたVEGFの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガンは、全世界中で人類を死に至らしめる重大な疾患であり、日本人の死因の第1位となっている。ガン治療には、外科療法、放射線療法、化学療法、及びそれらを組み合わせた療法等の多くの治療方法が存在している。しかし、末期に達したガンの治療は非常に困難であり、ガンの早期発見はガンの治療において最も重要である。
ガンの検査法には、触診、内視鏡検査、核磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging, MRI)、陽電子放射断層撮影(Positron Emission Tomography, PET)、腫瘍マーカーの測定等がある。
【0003】
現在、ガンの検査において、血液中の腫瘍マーカー{例えば、CA19-9(糖鎖抗原19-9),CEA(ガン胎児性抗原), AFP(α-フェトプロテイン), PIVKA-II, PSA(前立腺特異抗原), CA125(糖鎖抗原125)}などの数値を指標に一次検査が行われている。
次に、一次検査で陽性であった場合、組織生検の顕微鏡検査により、ガンの確定診断と悪性度が調べられる。しかし、ガン特異的な腫瘍マーカーはなく、偽陽性率が高い。
したがって、様々な腫瘍マーカーの数値を測定し、さらに画像診断等を組み合わせて、総合的にガンの検査を行う必要がある。
【0004】
ガン細胞は、正常細胞と比較して、増殖が速く、無制限に細胞分裂を繰り返している。このため、ガン細胞は多くの栄養や酸素を必要としている。ガン細胞の分裂・増殖能は、血管からの栄養・酸素の供給に依存している。このため、ガン細胞は、血管新生因子であるVEGFを血液中に放出して、新しい血管を自身の細胞まで伸張(血管新生)させることが知られている。
すなわち、VEGFは、ガンの進行とともに増加し、主に血液中や尿中に遊離してくる生体因子であるので、腫瘍マーカーとして利用することができる。
【0005】
VEGFは、脈管形成、血管新生及びリンパ管形成に関与する一群の糖タンパク質である。また、VEGFファミリーには、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-E及び胎盤増殖因子(Placenta Growth Factor, PIGF)が存在することが知られている。さらに、VEGF-Aは、選択的スプライシングによって生じる5種類のアイソファームである、VEGF121、VEGF145、VEGF165、VEGF189、VEGF206が存在することが知られている。
VEGFファミリーは、それぞれ決まった受容体と結合し、機能を発現する。VEGFが受容体に結合すると、受容体のチロシンキナーゼが活性化され、さらに細胞内にシグナルが伝達され、細胞の機能や構造に変化を与える。特に、VEGF-Aは、受容体であるVEGFR-2又はVEGFR-1に結合し、血管新生、脈管形成などに関与していることが知られている(特許文献1)。
【0006】
VEGFが様々な腫瘍部位で放出されていることが報告されており、小さな腫瘍の段階で放出される微量のVEGFの検出を行うことで、ガンの早期発見ができると考えられている。すなわち、早期にガンを検出するには、生体から得られた試料、特に血液中の微量のVEGFを測定する必要がある。
【0007】
現在、VEGFを検出するためのキットが販売されている{PerkinElmer 社製品のHuman VEGF Immunoassay kit(製品番号:AL201C)、GE Healthcare 社製品のh-VEGF ELISA System (製品番号:RPN2779)、Bender MedSystems 社製品のhuman sVEGF-R1 ELISA(製品番号:BMS268/2)、Quantine社製品のHuman VEGF Immunoassay}。
しかし、市販されているVEGF検出キットは、VEGFを特異的に認識する抗体を使用しているので、抗体の固定化、洗浄操作等の煩雑な操作が必要である。さらに、抗体を使用しているので、該キットは高価であり、容易に腫瘍マーカーの一つとして利用することができない。
また、様々なVEGF検出方法が報告されているが、いずれも簡便なVEGFの測定方法ではなかった(特許文献2、3)。
【0008】
以上により、煩雑な操作を必要とせず、簡便、さらに高感度にVEGFの検出方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2000−509248号公報
【特許文献2】特開2002−335998号公報
【特許文献3】特開2000−227432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上記問題を解決できるVEGF検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究し、VEGFを特異的に認識するペプチド(VEGF認識ペプチド)のC末端及び/又はN末端に蛍光標識した蛍光標識VEGF認識ペプチドを試料中に添加することで、該試料中のVEGF濃度を簡便かつ高感度に検出できることを見出した。
以上により、本件発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下を含む。
「1.以下の工程を含む、哺乳類から取得した試料中のVEGF(血管内皮細胞増殖因子)を検出する方法;
(1)C末端及び/又はN末端が蛍光標識されたVEGF認識ペプチドを試料に添加する工程、
(2)蛍光強度を指標として、検出する工程。
2.前記C末端及び/又はN末端が蛍光標識されたVEGF認識ペプチドは、C末端及び/又はN末端にGFP標識されているVEGF認識ペプチドである前項1の方法。
3.前記VEGF認識ペプチドは、配列番号3又は19のアミノ酸配列からなるペプチドである前項1又は2の方法。
4.前記VEGF認識ペプチドは、配列番号1又は2のアミノ酸配列からなるペプチドである前項1又は2の方法。
5.前記VEGF認識ペプチドは、前記配列番号1〜3及び19のいずれか1のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ前記配列番号1〜及び193のいずれか1のアミノ酸配列と実質的同質のVEGF認識能を持つペプチドである前項1又は2の方法。
6.前記VEGF認識ペプチドは、前記配列番号1〜3及び19のいずれか1のアミノ酸配列において、1〜5個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ前記配列番号1〜3及び19のいずれか1のアミノ酸配列と実質的同質のVEGF認識能を持つペプチドである前項1又は2の方法。
7.前記試料が、血清である前項1〜6のいずれか1の方法。
8.前記試料が、加熱処理後の血清である前項1〜6のいずれか1の方法。
9.前記試料が、10〜1000倍に水溶液で希釈され、さらに加熱処理された血清である前項1〜6のいずれか1の方法。
10.前項1〜9のいずれか1の方法で得られた試料中のVEGFの検出結果を以下の検査に使用する検査方法。
(1)ガン検査
(2)腎不全検査
(3)糖尿病性網膜症検査
(4)関節リウマチ検査
(5)発毛・育毛検査
(6)クロウ・フカセ症候群検査
(7)病血管透過性亢進検査
(8)黄斑浮腫検査
(9)黄斑変性検査」
【発明の効果】
【0013】
本発明では、分子(抗体等)の固体基質への固定作業、洗浄、精製の操作を必要としない簡便かつ高感度のVEGFの検出方法を提供した。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】SDS-PAGEによるC末端又はN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドの製造及び精製の確認(図中の矢印が合成ペプチドのバンドを示す)
【図2】C末端側GFP蛍光標識VEGFペプチドを使用して、各サンプルでの蛍光偏光度の比較結果
【図3】N末端側GFP蛍光標識VEGFペプチドを使用して、各サンプルでの蛍光偏光度の比較結果
【図4】C末端側GFP蛍光標識VEGFペプチドを使用して、各サンプルでの蛍光偏光度の比較結果
【図5】N末端側GFP蛍光標識VEGFペプチドを使用して、各サンプルでの蛍光偏光度の比較結果
【図6】C末端側GFP蛍光標識VEGFペプチドを使用して、加熱処理後にVEGFを添加した各サンプルでの蛍光偏光度の比較結果
【図7】N末端側GFP蛍光標識VEGFペプチドを使用して、加熱処理後にVEGFを添加した各サンプルでの蛍光偏光度の比較結果
【図8】N末端側GFP蛍光標識VEGFペプチドを使用して、VEGF添加後に加熱処理した各サンプルでの蛍光偏光度の比較結果
【発明を実施するための形態】
【0015】
(VEGF)
近年の研究では、VEGFは腫瘍進行の主な要因の一つであると報告されている。VEGFは、大腸ガン、胃ガン、肺ガン等の腫瘍の血管新生に関与していることが知られている。腫瘍は、VEGFを自ら産出・分泌し、産出したVEGFを血管内皮表面上に結合させ、血管細胞の増殖を誘導することによって、血管を引き込み、酸素や栄養を補給している。このような現象は、腫瘍発生初期から起きており、腫瘍はVEGFの分泌なしでは2mm以上成長することができないことが知られている。そのため、VEGFを検出することは腫瘍の早期発見につながる。
特に、新生血管形成の程度は、原発性(primary)乳癌、膀胱癌、前立腺癌、非小細胞肺癌、皮膚黒色腫、および子宮頚癌における転移と強く相関していることが報告されている(特許文献1)。
また、VEGFは、高血圧症を有する患者における血管系疾患のリスクマーカーになることも報告されている(特許文献3)。
加えて、糖尿病性網膜症、関節リウマチなどでも異常な血管新生が起こっており、その血管新生を阻害することでこれらの疾患を治療できることを示唆するデータが、数多く報告されている(再公表特許WO2005/037864)。すなわち、VEGFを検出することにより、糖尿病性網膜症、関節リウマチの診断を行うことも可能である。
さらに、腎不全とVEGF産出の相関関係についても複数報告されている。
加えて、VEGF産出と、発毛・育毛の相関関係、クロウ・フカセ症候群の相関関係、病血管透過性亢進の相関関係、又は眼の病気である黄斑浮腫若しくは黄斑変性の相関関係についても報告されている。
よって、患者由来の試料中のVEGF濃度を検出することによって、該患者のガン、糖尿病性網膜症、関節リウマチ、腎不全、発毛・育毛、クロウ・フカセ症候群、病血管透過性亢進、黄斑浮腫又は黄斑変性の検査を行うことができる。
【0016】
(蛍光標識したVEGF認識ペプチド)
本発明の「蛍光標識したVEGF認識ペプチド」とは、VEGFを特異的に認識するペプチド(VEGF認識ペプチド)のC末端及び/又はN末端に、標識として機能する蛍光タンパク質が融合したものである。
【0017】
(蛍光タンパク質)
本発明の「蛍光タンパク質」とは、特に限定されるものではなく、標識能を有している限り適応可能である。
例えば、GFP(Green Fluorescent Protein)、BFP(Blue Fluorescent Protein)、CFP(Cyan Fluorescent Protein)、RFP(Red Fluorescent Protein)、YFP(Yellow Fluorescent Protein)、EGFP(Enhanced Green Fluorescent Protein)、ECFP(Enhanced Cyan Fluorescent Protein)、ERFP(Enhanced Red Fluorescent Protein)、EYFP(Enhanced Yellow Fluorescent Protein)等が好適に例示される。特に、本発明では、GFPが好ましい。
【0018】
{GFP(Green Fluorescent Protein:緑色蛍光タンパク質)}
GFPは、オワンクラゲから単離された緑色の蛍光を発する約27kDaのタンパク質である。下記実施例で使用したGFPは、474nmの光で励起され、509nmの光を蛍光として発する。GFPは、補因子を必要とせず単体で蛍光を発するために、GFP遺伝子を生きた細胞、動物個体の特定の細胞にレポーター遺伝子として導入することができる。
【0019】
(VEGF認識ペプチド)
下記実施例に使用するVEGF認識ペプチドは、以下の方法で作成した。
VEGFの異なる領域に結合することが知られている1VPP(配列番号1)、1KAT(配列番号2)、及び1VPPと1KATの一部のアミノ酸配列を立体障害を回避するために置換及び/又は削除した後、スペーサー(GPGSG、GPGS)を介して連結したペプチド(配列番号3)を創製した。
VEGF認識ペプチドのアミノ酸配列(以後、VEGF認識ペプチドと称する場合もある)を下記に示す。さらに、下記配列番号3のスペーサーを有しないアミノ酸配列(配列番号19)もVEGF認識ペプチドに含まれる。
配列番号1:RGWVEICAADDYGRCL
配列番号2:GNECDIARMWEWECFERL
配列番号3:GPGSGRGWVEICAADDYGRCLGPGSGGPGSGNECDIARMWEWECFERLGPGSGGPGSG
配列番号19:RGWVEICAADDYGRCLGPGSGGPGSGNECDIARMWEWECFERL
なお、本発明者らは、上記配列番号3のVEGF認識ペプチドは、VEGFに特異的に結合することをすでに確認している。
【0020】
また、本発明のVEGF認識ペプチドは、上記配列に限定されない。本発明のVEGF認識ペプチドの配列は、上記記載のアミノ酸配列(配列番号1〜3及び19)と90%以上の相同性を有しかつ該ペプチドと実質的同質のVEGF認識能(結合能)を持つペプチド、又は、上記記載のペプチドに対して、1〜5個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しておりかつ実質的同質のVEGF認識能(結合能)を持つペプチドも含める。
【0021】
「配列相同性」とは、通常、アミノ酸配列の全体で80%以上、好ましくは85%、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、さらにより好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上であることが適当である。
【0022】
上記記載のアミノ酸配列(配列番号1〜3及び19)で表されるペプチドと配列相同性を有するペプチドとして、例えば、配列番号1に記載のアミノ酸配列において、例えば1〜10個、好ましくは1〜8個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1個〜3個、またさらにより好ましくは1個〜2個、最も好ましくは1個のアミノ酸の変異、例えば欠失、置換、付加または挿入といった変異を有するアミノ酸配列で表されるペプチドが例示できる。アミノ酸の変異の程度およびそれらの位置等は、該変異を有するペプチドが、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるペプチドと実質的に同質のVEGF結合能を有するものである限り特に制限されない。
【0023】
(VEGF認識ペプチドの創製方法)
本発明のVEGF認識ペプチドであって、上記記載のペプチド以外のペプチドは以下の方法で創製することができる。
まず、VEGFの立体構造において、表面に出ていると推定されるアミノ酸配列を選択する。該選択したアミノ酸配列は、好ましくは10〜40、15〜35、20〜30アミノ酸数であることが好ましい。次に、該選択したアミノ酸配列を固相合成法等で合成する。合成したペプチドを適当な担体に固定して、ファージディスプレイ法等によって、該選択したアミノ酸配列を特異的に認識するアミノ酸配列を選抜する。次に、選抜したアミノ酸配列を固相合成法等で合成し、VEGF認識ペプチドとする。なお、選抜したアミノ酸配列が2種類以上なら、各選抜したアミノ酸配列をペプチド(好適には、グリシン等のアミノ酸)リンカー等で結合してVEGF認識ペプチドとすることができる。
【0024】
(蛍光標識したVEGF認識ペプチドの製造方法)
蛍光標識したVEGF認識ペプチドの製造は、遺伝子工学的手法、化学合成、および無細胞タンパク質合成により実施できる。ペプチドは、製造された後に、さらに精製して用いることができる。
【0025】
蛍光標識したVEGF認識ペプチドの製造は、該ペプチドをコードする遺伝子の塩基配列情報に基づいて一般的な遺伝子工学的手法{サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社;ウルマー(Ulmer, K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p. 666-671;エールリッヒ(Ehrlich, H.A.)編、「PCRテクノロジー,DNA増幅の原理と応用」、1989年、ストックトンプレス}により実施できる。
【0026】
蛍光標識したVEGF認識ペプチドを無細胞タンパク質合成手段で製造する場合には、例えば、翻訳鋳型となるmRNAは、各種蛍光タンパク質をコードする遺伝子DNAとVEGFを認識するペプチドをコードする遺伝子DNAが挿入されたベクターを基に、転写鋳型を調製し、RNA polymeraseを用いて転写を行う。得られたRNAを精製又は精製せずに無細胞タンパク質合成系で翻訳を行う。翻訳によって調製される融合タンパク質がそのまま蛍光標識したVEGF認識ペプチドとなる。
【0027】
蛍光標識したVEGF認識ペプチドの精製および/または分離は、その物理的性質、化学的性質等を利用した各種分離操作方法により実施できる。分離操作方法として、硫酸アンモニウム沈殿、限外ろ過、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーおよび透析法等の公知の方法を例示できる。これら方法は単独でまたは適宜組合せて使用できる。
【0028】
(VEGF検出方法)
本発明の試料中のVEGF検出方法は、下記方法により、蛍光タンパク質の蛍光強度を指標として、VEGFを検出する。
また、予め、既知量のVEGFの蛍光強度を基にして、検量線を作成しておけば、試料中のVEGFの正確な定量を行うことができる。
【0029】
{蛍光偏光法(FP:Fluorescence Polarization)}
蛍光標識したVEGF認識ペプチドを、試料又は処理済み試料に添加し、そのまま測定装置で検出する。
蛍光偏光法は、偏光励起光を蛍光物質に照射することにより、蛍光物質から発せられる蛍光が分子量に応じて異なった偏光を示すという特性に基づいた測定方法である。蛍光標識物質(例えば、GFP)が、高分子(VEGF)と結合すると、見かけ上の分子量が大きくなるため、分子運動が小さくなり、結果としてその偏光を維持した蛍光(偏光度が高い)を放出する。該偏光を維持した蛍光をマーカーにして、タンパク質と相互作用する物質を検出する。
【0030】
{蛍光相関分析法(FCS:Fluorescence Correlation Spectroscopy)}
蛍光標識したVEGF認識ペプチドを、試料又は処理済み試料に添加し、そのまま測定装置で検出する。
測定は、レーザー光を照射し、液中の蛍光分子(蛍光タンパク質)の揺らぎを測定するので、特にpH、測定時間の条件を設定する必要はなく、温度も室温で可能である。また、FCS測定では、微小領域内の蛍光分子の揺らぎを測定し、得られた情報に基づいて並進拡散時間を求める。この並進拡散時間をマーカーにして、タンパク質と相互作用する物質を検出する。
なお、FSCの改良方法であるFCCS(蛍光相互作用相関分析法)も含まれる。
【0031】
{蛍光強度分析解析法(FIDA:Fluorescence Intensity Distribution Analysis)}
蛍光標識したVEGF認識ペプチドを、試料又は処理済み試料に添加し、そのまま測定装置で検出する。
測定は、レーザー光を照射し、液中の蛍光分子(蛍光タンパク質)の揺らぎを測定するので、特にpH、測定時間の条件を設定する必要はなく、温度も室温で可能である。また、FIDA測定では、微小領域内の蛍光を発している分子の蛍光強度と数を測定する。測定した蛍光強度と数をマーカーにして、タンパク質と相互作用する物質を検出する。
【0032】
また、本発明の検査方法では、健常者から得られた試料中のVEGFのレベルを基にしてcut off値を設定する。そして、被験者(患者)から得られた試料の数値(VEGFのレベル)が、予め決定したcut off値+1.5倍の標準偏差、好ましくはcut off値+2倍の標準偏差、より好ましくはcut off値+3倍の標準偏差以上であれば、該被験者がガンであると判定される。
なお、cut off値の設定方法としては、健常者から得られる試料の数値(VEGFのレベル)の平均値から算出できる。
【0033】
さらに、本発明の検査方法では、被験者から得られた試料中のVEGFレベルと予め設定しておいた基準値とを比較して、ガンの発症予測、予後判定、使用している抗癌剤の有効性の判定方法、抗癌治療剤のスクリーニング等も行うことができる。
なお、基準値とは、ガンにおける進行度を示す標準値を示す。一般的に、試料中のVEGF濃度は、ガンの進行が進むにつれて上昇すると考えられる。基準値の設定は、予めガンの進行度合いを確認している患者の試料から得られるVEGFレベルから算出することにより行うことができる。
【0034】
(試料)
本発明の試料は、哺乳類特にヒト由来の尿、血液、特に血清、血漿である。特に好ましい試料は、血清であり、最も好ましくは下記方法で処理した血清である。
【0035】
(試料の処理方法)
本発明では、血清のような粘性の高い試料の場合には、水溶液である自体公知の緩衝液を試料に添加する。さらに、血清のような試料中に補体が存在する場合には、加熱処理(56℃、1分間)、好ましくは非働化(56℃、30〜60分間)を行う。
なお、本発明の下記実施例により、VEGFを含む血清に加熱処理をしても、該血清中のVEGFを検出することができることを確認している。
【0036】
(VEGFの検出方法)
本発明では、蛍光標識したVEGF認識ペプチドを、上記処理した試料又は未処理の試料に添加して、好ましくはインキュベーションした後に、蛍光タンパク質の蛍光強度を測定する。
すなわち、本発明の検出方法では、蛍光標識したVEGF認識ペプチドを、希釈・加熱処理した血清に添加することのみで、血清中のVEGFを検出することができる。また、本発明の検出方法では、下記実施例により、1pg/mlのVEGFを検出することができる。
なお、本発明者の知る限りでは、市販されているELISAキットでのVEGFの検出限界は、3.13pg/mlであり、血清中のVEGFの検出限界は62pg/mlである。
以上により、本発明の検出方法は、市販されているVEGF検出キットと同等又はそれ以上に高感度でVEGFを検出することができる。
【0037】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、下記の実施例は本発明を具体的に説明したものであり、本発明の技術的範囲を制限するものではない。
【実施例1】
【0038】
(蛍光標識したVEGFの製造)
以下の方法で、C末端又はN末端に、蛍光標識されたVEGF認識ペプチドを作製した。なお、蛍光タンパク質は、GFP(配列番号18)を使用した。
【0039】
(1)VEGFがN末端に蛍光標識されたVEGF認識ペプチドの作製
配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードするDNA断片が挿入されたプラスミドベクターを鋳型として用い、配列番号4及び配列番号5のプライマーを使用して、PCR反応(98℃,30秒間→98℃,3秒間→58℃,5秒間、72℃,20秒間を30サイクル、その後72℃,3分間で加熱した後に4℃で保温した)を行って、PCR産物を得た。
また、GFP遺伝子は、pQBI-T7-GFPベクター(5ng)を鋳型として用い、配列番号6及び配列番号7のプライマーを使用して、PCR(98℃,30秒間→98℃,3秒間→58℃,5秒間、72℃,20秒間を30サイクル、その後72℃,3分間で加熱した後に4℃で保温した)を行って、PCR産物を得た。
上記それぞれのPCR 産物は、Promega社Wizard SV Gel and PCR Clean-up Systemを用いて精製した。
さらに、配列番号8及び配列番号9のプライマーを含む溶液及び上記それぞれのPCR 産物を含む混合溶液で、PCR{98℃,10秒間→(98℃,3秒間→58℃,10秒間、72℃,20秒間を5サイクル)、(98℃,3秒間→68℃,10秒間、72℃,20秒間を25サイクル)、その後72℃,3分間で加熱した後に4℃で保温した}を行って、PCR産物を得た。
上記PCR 産物は、Promega社Wizard SV Gel and PCR Clean-up Systemを用いて精製した。得られたDNA断片は、制限酵素EcoRIおよびBamHIで消化した後、同じ制限酵素EcoRIおよびBamHIで消化したタンパク質大量発現用ベクターであるpGEX-6P-1とライゲーションした後(宝酒造:Takara Ligation Kit Ver.2)、大腸菌(JM109 competent cell)で形質転換を行った。
目的の遺伝子断片が挿入されたクローンを選択した後、プラスミドを大腸菌(BL21株 competent cell)に形質転換をしてタンパク質大量発現を実施した。
【0040】
(2)VEGFがC末端に蛍光標識されたVEGF認識ペプチドの作製
配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードするDNA断片が挿入されたプラスミドベクターを鋳型として用い、配列番号10及び配列番号11のプライマーを使用して、PCR(98℃,30秒間→98℃,3秒間→58℃,5秒間、72℃,20秒間を30サイクル、その後72℃,3分間で加熱した後に4℃で保温した)を行って、PCR産物を得た。
また、GFP遺伝子は、pQBI-T7-GFPベクター(5ng)を鋳型として用い、配列番号12及び配列番号13のプライマーを使用して、PCR(98℃,30秒間→98℃,3秒間→58℃,5秒間、72℃,20秒間を30サイクル、その後72℃,3分間で加熱した後に4℃で保温した)を行って、PCR産物を得た。
上記それぞれのPCR 産物は、Promega社Wizard SV Gel and PCR Clean-up Systemを用いて精製した。
さらに、配列番号14及び配列番号15のプライマーを含む溶液及び上記それぞれのPCR 産物を含む混合溶液を用いて、PCR{98℃,10秒間→(98℃,3秒間→58℃,10秒間、72℃,20秒間を5サイクル)、(98℃,3秒間→68℃,10秒間、72℃,20秒間を25サイクル)、その後72℃,3分間で加熱した後に4℃で保温した}を行って、PCR産物を得た。
さらに、上記(1)と同様な方法により、目的の遺伝子断片が挿入されたクローンを選択した後、プラスミドを大腸菌(BL21株 competent cell)に形質転換をしてタンパク質大量発現を実施した。
【0041】
(3)VEGFがC末端又はN末端に蛍光標識されたVEGF認識ペプチドの精製
上記(1)又は(2)により、大腸菌(BL21株)に導入したインサートDNA断片を含むpGEX-6P-1プラスミドよりGSTに融合したGFP標識VEGF認識ペプチドを得た。目的のDNAが導入されたプラスミドを含む大腸菌は、まず30mLのLB培地[1%(w/v) Bacto Trypton, 0.5% (w/v) Yeast Extract, 1%(w/v) NaCl]に終濃度50μg/mLになるようアンピシリンを加えた培地を用いて前培養を1晩行った。培養した大腸菌は、LB(アンピシリンを含む)培地でさらに37℃で5時間培養した後、1mM(終濃度)になるようIPTG(isopropyl 1-thio-β-D-galactose)を滴下し、さらに3時間37℃で培養した。
その後、培養した大腸菌を遠心分離にて回収し、Complete Mini (Protease inhibitor cocktail tablet:Roche社)含有PBS溶液に溶解した。溶解した大腸菌は超音波破砕機(BIORUPTOR, コスモバイオ社)を用いて細胞を破砕した。破砕した細胞は遠心分離(TOMY社製ARO15-24ローターを用いて、15000rpm、4℃)した後、上澄み溶液はフィルター(ポアサイズ:0.22μm)を用いて濾過した。その後、Glutathione Sepharose 4Bカラム(GEヘルスケア社)に滴下し、4℃で1時間静置し、TE(pH7.6)で洗浄後、PreScission Protease(GEヘルスケア社)を4℃にて一晩反応した。目的のGFP標識VEGF認識ペプチドはカラム上部よりTE(pH7.6)を滴下して回収した。該ペプチドを回収後、SDS-PAGEを行い目的のペプチドが合成及び精製されていることを確認した(図1)。
【実施例2】
【0042】
(製造したGFP標識VEGFの濃度測定)
上記実施例1で製造したGFP標識VEGF認識ペプチドの濃度を測定した。なお、濃度測定には、BCA Protein Assay Kit(Thermo scientific社製)を使用した。詳細は以下の通りである。
【0043】
C末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド及びN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドを、それぞれTE緩衝液で10倍希釈した。希釈したC末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドを含む溶液10μl及びN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドを含む溶液10μlを、それぞれ、Reagent A及びBの混合溶液200μl(BCA Protein Assay Reagent A:BCA Protein Assay Reagent B=200:1)に混合した。さらに、混合溶液を、マイクロプレート(96 Well Flat Bottom IWAKI社製)に滴下した後に、37℃、30分間インキュベートし、さらに室温で10分間放置した後に、測定を行った。なお、測定装置は、Biomek Plate Reader(BECKMAN)を使用した。測定結果を下記表1に示す。
さらに、上記実施例1で製造したC末端が標識されたVEGF認識ペプチド及びN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドを、下記表1の値を基にして、PBSで希釈することにより、下記実施例で使用するC末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド及びN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドを、それぞれ0.5mg/mlに調整した。
【0044】
【表1】
【実施例3】
【0045】
(蛍光偏向法によるVEGFの検出)
上記実施例2で製造した0.5mg/mlのC末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μl及び0.5mg/mlのN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μlを、それぞれ、配列番号16に記載のアミノ酸配列であるVEGF121(1pg/ml)5μl及び配列番号17に記載のアミノ酸配列であるVEGF165(1pg/ml)5μlと混合し、全量10μlのサンプルを作製した。
次に、コントロールとして、上記実施例2で製造した0.5mg/mlのC末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μl及び0.5mg/mlのN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μlを、それぞれ、PBSで希釈したBSA(1pg/ml:BIO-RAD社製)5μlと混合し、全量10μlのサンプルを作製した。
次に、コントロールとして、上記実施例2で製造した0.5mg/mlのC末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド10μl及び0.5mg/mlのN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド10μlを、PBS10μlと混合し、全量20μlとした。さらに、全量20μlの10μlを25℃、10分間でインキュベートした後に、サンプルとした。
上記サンプルを、マイクロプレート{384 Well Small Volume HiBase Polystyrene Microplates Black (Greiner bio-one)}に滴下して、測定した。
測定条件は、以下の通りである。
測定装置であるウルトラエボリューション(TECAN社製)を使用し、PBSをブランクとして、温度37℃、Gainを70、Measurement modeをFluorescence Polarization、Filter swith modeをper Well、Mirror selectionをDichroic 1(e.g. Cy5)(96)とし、あとはマニュアル設定を選択した。
【0046】
(蛍光偏向法によるVEGFの検出結果)
上記測定結果を図2及び図3に示す。図2及び図3の結果より、C末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド及びN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドは、BSAに非特異的に吸着するが、VEGF121及びVEGF165と特異的に結合した。
また、C末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド及びN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドでは、GFPの標識部位の相違による蛍光強度(蛍光偏向度)の差はなかった。また、C末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド及びN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドでは、VEGF121とVEGF165の相違における蛍光強度(蛍光偏向度)の差はなかった。
これらの結果により、C末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド及びN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドは、立体障害に影響なく特異的にVEGF121及びVEGF165を認識することができる。
さらに、GFPをC末端及びN末端の両方に標識したVEGF認識ペプチドは、C末端又はN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドと比較して、より高感度にVEGFを検出することができると考えられる。
【実施例4】
【0047】
(GFP標識 VEGF認識ペプチドによる生体内物質の認識の確認)
GFP標識 VEGF認識ペプチドが、VEGF以外の生体内物質であるINF-γ、インスリンを認識するかどうかの確認を行った。詳細は、以下の通りである。
【0048】
上記実施例2で製造した0.5mg/mlのC末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μl及び0.5mg/mlのN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μlを、それぞれ、1pg/mlのVEGF121 5μl及び1pg/mlのVEGF165 5μlと混合し、全量10μlのサンプルを作製した。
次に、上記実施例2で製造した0.5mg/mlのC末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μl及び0.5mg/mlのN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μlを、それぞれ、PBSで希釈した1pg/mlのBSA 5μlと混合し、全量10μlのサンプルを作製した。
次に、上記実施例2で製造した0.5mg/mlのC末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μlを、1pg/mlのINF-γ 5μlと混合し、全量10μlのサンプルを作製した。
次に、上記実施例2で製造した0.5mg/mlのN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μlを、1pg/mlのインスリン 5μlと混合し、全量10μlのサンプルを作製した。
次に、上記実施例2で製造した0.5mg/mlのC末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド10μl及び0.5mg/mlのN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド10μlを、それぞれ、PBS 10μlと混合し、全量20μlとした。さらに、全量20μlの10μlを25℃、10分間でインキュベートした後に、サンプルとした。
上記サンプルを、マイクロプレート{384 Well Small Volume HiBase Polystyrene Microplates Black (Greiner bio-one)}に滴下して、測定した。
測定条件は、実施例3と同様である。
【0049】
上記測定結果を図4及び図5に示す。図4及び図5の結果より、C末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド及びN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドのVEGF121及びVEGF165を認識した場合の蛍光偏光度は、INF-γ及びインスリンの場合と比較して、有意に上昇していた。すなわち、C末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド及びN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチドは、INF-γ及びインスリンを含む生体由来の試料中でもVEGFを特異的に認識することができると考えられる。
【実施例5】
【0050】
(試料中のVEGF検出)
GFPが標識されたVEGF認識ペプチドドが、実際の試料である血清中のVEGFを特異的に認識することができるかを確認した。詳細は、以下の通りである。なお、ウシ血清を試料として使用した。
【0051】
0.5mg/mlのC末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μl及び0.5mg/mlのN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μlを、それぞれ、1pg/ml のVEGF121 (5μl)及び1pg/mlの VEGF165(5μl)と混合した。さらに、それらの混合液を、それぞれ、予めPBSで100倍希釈した後に56℃、1分間で加熱処理した血清に滴下して、実施例3と同様に測定した。
【0052】
上記測定結果を図6及び図7に示す。図6及び図7の結果から明らかなように、GFPが標識されたVEGF認識ペプチドは、加熱処理した血清中に添加したVEGFを特異的に認識することができた。
【実施例6】
【0053】
(VEGF添加後に加熱処理された血清中のVEGF検出)
GFPが標識されたVEGF認識ペプチドが、VEGF添加後に加熱処理された血清中のVEGFを特異的に認識することができるかを確認した。詳細は、以下の通りである。なお、ウシ血清を試料として使用した。
【0054】
1pg/mlの VEGF121(5μl)及び1pg/mlの VEGF165(5μl)を、それぞれ、PBSで100倍希釈した血清に滴下した後に、56℃、1分間で加熱処理した。さらに、0.5mg/mlのN末端にGFPが標識されたVEGF認識ペプチド5μlを、それぞれ、加熱処理したVEGF121を含む血清及び加熱処理したVEGF165を含む血清に滴下して、実施例3と同様に測定した。
【0055】
上記測定結果を図8に示す。図8の結果から明らかなように、GFPが標識されたVEGF認識ペプチドは、VEGF添加後に加熱処理した血清中に含まれるVEGFを特異的に認識することができた。
【0056】
以上の実施例の結果より、本発明の検出方法は、以下の工程のみで試料中のVEGFを高感度(1pg/ml以上)に検出することができる。
(1)試料、特に血清を、緩衝液(例えば、PBS)で10〜1000倍で希釈する。
(2)希釈した血清を、加熱処理(56℃、1分間)する。
(3)蛍光標識されたVEGF認識ペプチドを、加熱処理した血清に滴下する。
(4)VEGF認識ペプチドを滴下した血清中の蛍光強度(蛍光偏光)を測定する。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明では、分子(抗体)の固体基質への固定作業、洗浄、精製の操作を必要としない簡便かつ高感度のVEGF検出方法を提供することにより、VEGFの産出をマーカーとするガン診断等に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、哺乳類から取得した試料中のVEGF(血管内皮細胞増殖因子)を検出する方法;
(1)C末端及び/又はN末端が蛍光標識されたVEGF認識ペプチドを試料に添加する工程、
(2)蛍光強度を指標として、検出する工程。
【請求項2】
前記C末端及び/又はN末端が蛍光標識されたVEGF認識ペプチドは、C末端及び/又はN末端にGFP標識されているVEGF認識ペプチドである請求項1の方法。
【請求項3】
前記VEGF認識ペプチドは、配列番号3又は19のアミノ酸配列からなるペプチドである請求項1又は2の方法。
【請求項4】
前記VEGF認識ペプチドは、配列番号1又は2のアミノ酸配列からなるペプチドである請求項1又は2の方法。
【請求項5】
前記VEGF認識ペプチドは、前記配列番号1〜3及び19のいずれか1のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ前記配列番号1〜3及び19のいずれか1のアミノ酸配列と実質的同質のVEGF認識能を持つペプチドである請求項1又は2の方法。
【請求項6】
前記VEGF認識ペプチドは、前記配列番号1〜3及び19のいずれか1のアミノ酸配列において、1〜5個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ前記配列番号1〜3及び19のいずれか1のアミノ酸配列と実質的同質のVEGF認識能を持つペプチドである請求項1又は2の方法。
【請求項7】
前記試料が、血清である請求項1〜6のいずれか1の方法。
【請求項8】
前記試料が、加熱処理後の血清である請求項1〜6のいずれか1の方法。
【請求項9】
前記試料が、10〜1000倍に水溶液で希釈され、さらに加熱処理された血清である請求項1〜6のいずれか1の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1の方法で得られた試料中のVEGFの検出結果を以下の検査に使用する検査方法。
(1)ガン検査
(2)腎不全検査
(3)糖尿病性網膜症検査
(4)関節リウマチ検査
(5)発毛・育毛検査
(6)クロウ・フカセ症候群検査
(7)病血管透過性亢進検査
(8)黄斑浮腫検査
(9)黄斑変性検査
【請求項1】
以下の工程を含む、哺乳類から取得した試料中のVEGF(血管内皮細胞増殖因子)を検出する方法;
(1)C末端及び/又はN末端が蛍光標識されたVEGF認識ペプチドを試料に添加する工程、
(2)蛍光強度を指標として、検出する工程。
【請求項2】
前記C末端及び/又はN末端が蛍光標識されたVEGF認識ペプチドは、C末端及び/又はN末端にGFP標識されているVEGF認識ペプチドである請求項1の方法。
【請求項3】
前記VEGF認識ペプチドは、配列番号3又は19のアミノ酸配列からなるペプチドである請求項1又は2の方法。
【請求項4】
前記VEGF認識ペプチドは、配列番号1又は2のアミノ酸配列からなるペプチドである請求項1又は2の方法。
【請求項5】
前記VEGF認識ペプチドは、前記配列番号1〜3及び19のいずれか1のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ前記配列番号1〜3及び19のいずれか1のアミノ酸配列と実質的同質のVEGF認識能を持つペプチドである請求項1又は2の方法。
【請求項6】
前記VEGF認識ペプチドは、前記配列番号1〜3及び19のいずれか1のアミノ酸配列において、1〜5個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ前記配列番号1〜3及び19のいずれか1のアミノ酸配列と実質的同質のVEGF認識能を持つペプチドである請求項1又は2の方法。
【請求項7】
前記試料が、血清である請求項1〜6のいずれか1の方法。
【請求項8】
前記試料が、加熱処理後の血清である請求項1〜6のいずれか1の方法。
【請求項9】
前記試料が、10〜1000倍に水溶液で希釈され、さらに加熱処理された血清である請求項1〜6のいずれか1の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1の方法で得られた試料中のVEGFの検出結果を以下の検査に使用する検査方法。
(1)ガン検査
(2)腎不全検査
(3)糖尿病性網膜症検査
(4)関節リウマチ検査
(5)発毛・育毛検査
(6)クロウ・フカセ症候群検査
(7)病血管透過性亢進検査
(8)黄斑浮腫検査
(9)黄斑変性検査
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2011−64656(P2011−64656A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218118(P2009−218118)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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