説明

血管合併症におけるIL−6の使用

本発明は、微小血管合併症におけるIL−6またはそのフラグメント、変異体、融合タンパク質、機能性誘導体もしくは塩の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小血管合併症の分野におけるものである。特に、本発明は、微小血管合併症における、IL−6またはそのフラグメント、変異体、融合タンパク質、機能性融合体もしくは塩の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、糖質代謝の疾患すなわちインスリン分泌および/またはインスリン作用における完全機能障害もしくは相対的機能障害から生じる高血糖によって特徴付けられる症候群である。
【0003】
糖尿病の分類は、National Diabetes Data Group およびWHOによって採用されている分類に基づいている。かつて、糖尿病の分類は、糖尿病発症時の年齢、持続期間および合併症に基づいていた。妊娠糖尿病は、通常の妊娠時に発症もしくは初めて認識される様々な重篤度の糖質不耐性である。I型糖尿病(DM)患者はインスリン依存型DM(IDDM)もしくは若年発症糖尿病とも呼ばれ、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)を発症する可能性がある。非インスリン依存性DM(NIDDM)とも呼ばれるII型DM患者は、非ケトン性高血糖性昏睡(NKHHC)を発症する可能性がある。共通に見られる晩期微小血管合併症として、網膜症、腎症および末梢神経障害ならびに自律性神経障害があげられる。感覚喪失のもっとも重要な臨床的帰結は、足の潰瘍であるが、これは糖尿病患者における最も多く見られる入院の原因であり、非外傷性下肢切断の原因の筆頭にあげられている(Boulton 1997, Jude 1999 and Cameron 2001)。大血管合併症には、アテローム性冠状動脈硬化および末梢動脈疾患があげられる。
【0004】
I型糖尿病:I型糖尿病は何歳でも発症する可能性があるが、通常は、小児期もしくは青年期に発症し、30歳より前に優勢型DMとの診断を受ける。この型の糖尿病は全DM症例の10〜15%を占め、臨床的には、高血糖および糖尿病性ケトアシドーシス傾向によって特徴付けられる。膵臓はほとんど、もしくはまったくインスリンを産生しない。
【0005】
I型DM患者の約80%が、検出可能な血清島細胞質抗体および島細胞表面抗体(グルタミン酸デカルボキシラーゼに対する抗体およびインスリンに対する抗体の症例も、類似した割合でみられる)に伴う特異的HLA発現型である。
【0006】
これらの患者では、I型DMは、インスリン分泌細胞の90%を超える遺伝的感受性粘液介在選択性破壊から生じる。このような患者の膵島は、膵島炎を呈するが、これはマクロファージおよびBリンパ球を伴うTリンパ球の浸潤およびグルカゴン分泌アルファ細胞の関与を伴わないベータ細胞の大部分の喪失によって特徴付けられる。診断時に存在したこのような抗体群は、通常、数年後には検出不能となる。これらは、主としてベータ細胞破壊に対する反応であるが、一部は、ベータ細胞に対して細胞毒性を示し、それらの喪失に寄与する可能性がある。I型DMの臨床的発症は、基本的自己免疫プロセスの潜行性の発症から数年後に一部の患者で生じる。このような抗体のスクリーニングが、現在行われている数多くの予防調査研究の対象となっている。
【0007】
II型糖尿病:II型DMは、通常は、30歳より高齢の患者で診断される型の糖尿病であるが、小児や青少年に発症することもある。II型糖尿病は高血糖およびインスリン耐性によって臨床的に特徴付けられる。糖尿病性ケトアシドーシスは稀である。ほとんどの患者が食餌療法、運動および経口薬の服用によって治療されるが、一部の患者は、症候性高血糖をコントロールし、非ケトン性高血糖−高浸透圧性昏睡を予防するため断続的にもしくは持続的にインスリン投与する必要がある。一卵性双生児におけるII型DMの合致率は90%より大である。II型DMは、一般には肥満、特に上半身(内臓/腹部)の肥満に関係があり、さらに多くの場合、一定期間の体重増加後に発症する。加齢に伴う耐糖能低下は、特徴的な体重増加と深い関わりがある。内臓/腹部肥満のII型DM患者は、体重を低下させると正常の血糖値に戻ると考えられる。
【0008】
II型DMは、糖に対するインスリン分泌反応の低下および筋骨格系によって摂取される糖質の刺激および肝臓の糖質産生(インスリン耐性)の維持におけるインスリン効果の低下から高血糖が発症する疾患の混成群である。ただし、インスリン耐性は一般的に認められ、インスリン分泌を十分に増加させることによって体が補償するので、インスリン耐性患者のほとんどは糖尿病を発症することはない。一般的に見られる様々な種類のII型糖尿病におけるインスリン耐性は、インスリン受容体もしくは糖輸送担体における遺伝子変化の結果生じるものではない。ただし、遺伝子的に判断された受容体後細胞内欠陥も一因となると考えられる。その結果発症するインスリン過剰症から、肥満(腹部)、高血圧、高脂血および冠状動脈疾患(インスリン耐性症候群)などの他の一般的に見られる病態を発症する可能性がある。
【0009】
遺伝要因は、II型DMの発症の主要な決定因子であると思われるが、それでもなおII型DMと特異的HLA発現型もしくは島細胞の細胞質抗体間における関連性はいまだ実証されていない。1つの例外として、HLA発現型の1つを媒介する検出可能な島細胞抗体を有し、I型DMを最終的に発症する可能性のある非肥満型成人の1群がある。
【0010】
糖尿病が発症する前に、一般に患者は糖に対する早期インスリン分泌反応を喪失し、比較的大量のプロインスリンを分泌する可能性がある。確定した糖尿病では、空腹時インスリンレベルは通常であるか、もしくはII型糖尿病患者において増加する場合であっても、糖刺激インスリン分泌は明確に減少する。インスリンレベルの低下によって、インスリン介在糖摂取が低下し、肝臓の糖産生を維持することが不可能となる。
【0011】
結果として高血糖が生じるだけでなく、高血糖はインスリン感性を低下させ、肝臓の糖産生を増大させるので、糖尿病患者における糖耐性(糖毒性)がさらに阻害されることも一因となっている。患者の代謝調節が改善すれば、通常、インスリンまたは血糖降下薬の用量は減少する。
【0012】
一部のII型DM症例は、常染色体優性遺伝の若年の非肥満型の青年(成人発症型糖尿病「MODY」)に発症する。MODYを発症している多くの家族がグルコキナーゼ遺伝子に突然変異を有している。インスリン分泌および肝糖調節の障害はこれらの患者で実証されている。
【0013】
異常インスリン症は、欠損遺伝子のヘテロ遺伝の結果生じるII型DMの臨床的特徴を伴うDMの希少な症例であり、インスリン受容体に通常結合しないインスリンを分泌する。これらの患者では、外来インスリンに対する正常な血漿糖反応に伴う血漿免疫反応インスリン値が大幅に上昇する。
【0014】
糖尿病は、膵臓疾患が原因となる場合も多い。すなわち、慢性膵炎特にアルコール依存症における慢性膵炎は高い頻度で糖尿病に関与する。このような患者は、インスリン分泌およびグルカゴン分泌島の両方を喪失する。したがって、このような患者は軽度の高血糖となり、低用量のインスリンに感応すると考えられる。効果的抗調節(グルカゴンによって阻害されない外性インスリン)が欠落した場合、このような患者は、多くの場合急激に高血糖を発症することになる。アジア、アフリカおよびカリブ海地域では、DMは、一般に重篤なタンパク質欠損および膵臓疾患を有する若年の重度の栄養失調患者に共通して認められる。このような患者は、糖尿病性ケトアシドーシスを発症する傾向はないが、インスリンが必要であろう。
【0015】
糖尿病の診断:症状のある患者では、DMは空腹時高血糖の診断基準を満たした時点、すなわち血漿(または血清)血糖値が成人もしくは児童における2回にわたる夜間摂食後に140mg/dl(>=7.77mmol/L)より大となった時点で確定される。
【0016】
経口糖耐性試験は、空腹時血糖値が115〜140mg/dl(6.38および7.77mmol/L)である患者、および診断未確定のDMに関連する可能性のある臨床症状(例えば多発性神経障害、網膜症)の患者でII型DMの診断を下すのに有用であろう。
【0017】
高血糖は、糖尿病の微小血管合併症のほとんどに関連付けられる。高血糖は、Hb A1c(以下を参照)の値と合併症が発症した割合との間に直線的相関関係を示す。他の調査研究の結果は、8%未満のHb A1cが、それより低ければほとんどの合併症を予防し得る閾値であることを示唆している。したがって、I型DMの治療では、高血糖症状を回避しながらHb A1cを降下させるための代謝コントロールに焦点を合わせる試みをすべきである。しかしながら、状況が悪化し高血糖のリスクが許容不能となったとき(例えば期待寿命が短い患者や脳血管疾患や心疾患のある患者)もしくは患者の高血糖のリスクが高まったとき(例えば、不安定な、または自律性神経障害の患者)には、治療を個別化し、変更すべきである。
【0018】
体重減少を実現するための食餌療法が、II型DMの体重過剰な患者でもっとも重要とされる。高血糖の改善が食餌療法でも実現できなかった場合には、経口薬による試験的療法に着手する必要がある。
【0019】
患者の足、および足および脚部における脈動と感覚の点検など、合併症の症状および兆候の有無を定期的に評価し、アルブミンに関する尿検査を定期的に実施しなくてはならない。定期的臨床検査評価項目としては、脂質プロファイル、BUN(血中尿素窒素)および血中クレアチニン値、ECGおよび年次の完全な眼科の評価などがあげられる。
【0020】
高コレステロール症もしくは高血圧症は、特異的な後発性合併症のリスクを高めるので、特別な注意と適切な治療が必要となる。プロプラノロールなどのベータアドレナリン受容体遮断薬ベータブロッカーを、ほとんどの糖尿病患者で安全に使用することができるが、これらは、インスリン誘発性高血糖のベータアドレナリン症状を遮蔽する可能性があり、正常な抗調節反応を損なう可能性がある。したがって、ACE阻害剤およびカルシウム拮抗薬が多くの場合使用されている。
【0021】
血糖値の監視をすべての患者に実施させ、インスリン治療を受けている患者に対しては、それに応じてインスリンの投与量を調節するよう指示する必要がある。血糖値は、1滴の指先の血液を用いて簡便な家庭用分析器で測定することができる。スプリング式ランセットが指先の血液サンプルの取得に推奨される。検査の頻度は個々に決定する。インスリン治療糖尿病患者の場合、理想的には、食事前、食事1〜2時間後、さらには就寝時に、毎日血糖値を計る必要がある。
【0022】
多くの医師たちがグリコシル化血色素(Hb A1c)を定期的に判定して、1〜3カ月前の期間における血糖値のコントロール状況を推定している。Hb A1cは、血糖によるHbの非酵素介在性グリコシル化の安定した産物であり、血糖値が上昇するに伴って速い速度で形成される。ほとんどの臨床検査の結果で、正常なHb A1c値は約6%程度である。糖尿病が適正にコントロールされていない場合には、この値は、9〜12%の範囲である。Hb A1cは、糖尿病の診断に特異的な検査であるとはいえないが、Hb A1cが上昇した場合、糖尿病に罹患している場合が多い。
【0023】
フルクトサミン値を判定するという別の検査がある。フルクトサミンは血中タンパク質と糖との化学反応によって形成され、1〜3週間前の期間における糖コントロールの状況を反映している。したがって、この検査はHb A1c値以前のコントロールの変化を表し、多くの場合、集中治療を適用したときおよび短期的臨床試験で役に立つ。
【0024】
インスリン治療に関する限り、ヒトのインスリンは多くの場合動物由来の亜種に比べ抗原性が低いため、インスリン治療を開始するに当たっては好ましい。ただし、通常は非常に低い検出可能インスリン抗体値は、ヒトインスリン製剤を投与されている患者をはじめとするほとんどのインスリン治療患者で発現する。
【0025】
インスリンは、100U/ml(U−100インスリン)を含有する製剤として日常的に供与され、使い捨てインスリン注射器で皮下注射される。一般に1/2−mlの注射器が日常的に=50U未満の用量を注入している患者にとって好ましいが、これは、さらに簡単に読み取ることができ、用量が少ない場合も正確な測定を手助けしてくれるからである。一般にインスリンペンと呼ばれている複数用量のインスリン注入用具(NovolinPen)は、数日分の用量を含有するカートリッジを使用するよう設計されている。
【0026】
糖尿病は、他の内分泌疾患と関連付けられることがある。II型DMは、クッシング症候群、末端肥大症、褐色細胞腫、グルカゴン産生腫瘍、原発性アルドステロン症もしくはソマドスタチン産生腫瘍に対して続発する可能性がある。このような疾患の多くが、末梢もしくは肝臓インスリン抵抗性に関連がある。ひとたびインスリン分泌も併せて低下すると、多くの患者は糖尿病となる。I型DMの有病率は、特定の自己免疫分泌疾患、例えばグラービス病、橋本甲状腺炎、および特発性アジソン病などの患者で増加する。
【0027】
糖尿病は、ベータ細胞毒によっても誘発され得る。例えば、ストレプトゾトシンは、ラットで実験的糖尿病を誘発し得るが、人では糖尿病を発症させることは稀である。
【0028】
糖尿病の成人患者の年間死亡率は約5.4%(糖尿病疾患のない成人の死亡率に比べ2倍)であり、その期待寿命は平均寿命に比べて5〜10年ほど短い。死亡率の増加は、主として心臓血管系疾患によるものであるが、心臓血管系以外の病因による死亡もまた増加する。糖尿病と診断されると即時に、微小血管もしくは大血管疾患によるほぼ回復不能な様々な臨床的合併症を発症するリスクが高まる。糖尿病の持続は合併症の病因における主要な因子であるが、例えば高血圧、喫煙および高コレステロール症などの他のリスク因子もまた糖尿病と相互作用して微小血管および大血管障害の臨床的経過に影響を与える。
【0029】
糖尿病における微小血管合併症の1つが網膜症である。糖尿病性網膜症は、さまざまな臨床的異常の有無にしたがって分類される進行性疾患である。網膜症は、30〜69歳のヒトが失明する最大の要因となっている。網膜に対する損傷は、微小血管からの血液漏れと微小血管の閉塞の組合せから生じる。これらの変化は、蛍光眼底血管造影によって詳細に目視化することができる。新たに発見されたII型糖尿病の患者の1/5が、診断時に網膜症にかかっている。I型糖尿病の場合、視力を脅かす網膜症は診断後最初の5年間もしくは思春期より前には、ほとんど発症しない。ただし15年が経過すると、I型糖尿病患者のほとんどすべてとII型糖尿病患者の2/3がバックグラウンド網膜症に罹患する。
【0030】
糖尿病におけるさらに別の微小血管合併症が腎症である。糖尿病性腎症は、300mg/24hより大のタンパク尿、血圧上昇および進行性の腎機能の低下によって特徴付けられる。最も重篤な場合には、糖尿病性腎症は、透析や移植が必要な末期腎不全に至るが、初期段階においては顕著な疾患の前に初期腎症(もしくは微量尿タンパク)として知られる段階が先行する。この場合、尿中に微量のタンパク質が含まれる(従来の尿検査では検出不可である)。微量アルブミン尿は定期的採取で20〜300mg/24hもしくは20〜200μg/minのアルブミン排泄速度として定義されており、特にI型糖尿病では、高い割合で顕著な糖尿病性腎症の予兆である。
【0031】
糸球体ろ過率における下降速度は、個人によって大きく異なるが、抗高血圧治療では、腎機能の低下を大幅に遅らせ、糖尿病性腎症の患者の生存率を改善する。
【0032】
糖尿病性腎症を合併しているI型糖尿病患者では、アンジオテンシンを変換する酵素阻害剤が、血圧降下に貢献し得る阻害剤に比べて高い腎保護効果を有している。これらは、たとえ正常血圧の患者の場合であっても有益であり、網膜症などの他の関連する微小血管合併症を寛解させる。II型糖尿病患者の場合、良好な血圧コントロール(多くの場合併用治療が必要)を達成することは、抗高血圧薬を選択することよりもむしろ重要であるが、アンジオテンシン変換酵素阻害剤を第1選択治療法として採用する。
【0033】
糖尿病おけるさらに別の微小血管合併症は多発性神経障害で、これは糖尿病患者における死亡率の主要原因である足の潰瘍や関節の諸問題の主因である。糖尿病性多発性神経障害では、感覚脱失により、足に合わない靴を履いたりもしくは小石を踏んだりするといった共通の原因からの外傷の認知が損なわれてしまう。固有受容の変化から、異常なパターンの体重負荷や時としてシャルコー関節の発症に至る。
【0034】
足に潰瘍のある患者は多くの場合神経症を発症しているために痛みを感じず、経過がなおざりにされ後期に至るまで、全身症状を呈することがない。重度の潰瘍、特に検出可能なセルライトに関連する潰瘍では、全身毒性および永久的障害が発生する可能性があるので直ちに入院する必要がある。早期の外科的創面切除は、処置上の重要な部分であるが、足の切除が必要になる場合もある。
【0035】
インターロイキン−6(IL−6)は、数種類の細胞型によって産生され、分泌される多機能サイトカインである。この多面性サイトカインは、免疫反応、急性期反応および造血をはじめとする細胞防御機序で中心的な役割を果たす。IL−6は、すでにクローン化された185アミノ酸を有する20〜26kDa糖タンパク質である(Mayら(1986); Zilbersteinら(1986); Hiranoら(1986))。IL−6は、以前はB細胞刺激因子2(BSF−2)、インターフェロン−ベータ2および肝細胞刺激因子と呼ばれていた。IL−6は、肝臓、脾臓および骨髄などをはじめとする多数の各種組織および単球、線維芽細胞、内皮細胞、B細胞およびT細胞をはじめとする多種多様な細胞型によって分泌される。IL−6は、ウイルス、2本鎖RNA、バクテリアおよびバクテリアリポ多糖類およびIL−1およびTNFなどの炎症性サイトカインをはじめとする多種多様なシグナルによって転写レベルで活性化される。
【0036】
IL−6の生物学的活性は、一方がIL−6受容体もしくはgp80と呼ばれ、もう一方がgp130と呼ばれる2種類のタンパク質を含む膜受容体系が介在する(Hiranoらによる総説(1994))。gp130は、277個のアミノ酸からなる細胞内ドメインを含む918個のアミノ酸長の膜貫通糖タンパク質であり、IL−6、IL−11、LIF、オンコスタチンM、CNTF(毛様体神経栄養因子)、CT−1の受容体を含む、複数のサイトカイン受容体のサブユニット成分である。IL−6はgp130を通じて作用するサイトカインのプロトタイプであり、そのサイトカインファミリーは「IL−6型サイトカイン」とも呼ばれている。
【0037】
gp130は、低親和性受容体鎖に結合することによって、これらのサイトカインの高抗親和性受容体の形成に関与する。したがって、gp130は、「親和性コンバーター」とも呼ばれている。サイトカイン受容体に結合するリガンドは、gp130の二量化(IL−6受容体について示される)またはLIFRベータサブユニットとして知られているgp130関連タンパク質とのヘテロ二量化(LIF、オンコスタチンMおよびCNTF受容体について示される)をもたらす。個々のリガンドの結合は、細胞内シグナル伝導の最初の工程としてヤヌスキナーゼ(JAK)として知られているチロシンキナーゼファミリーの活性化/会合を伴う。細胞内シグナル伝達プロセスには、チロシンリン酸化反応およびSTATs(シグナルトランスデューサーおよび転写アクチベーター)と呼ばれる活性化因子が含まれる。
【0038】
ヒトgp130遺伝子産物は、染色体5および17上の2つの異なる染色体座に相同しているように思われる。2つの異なるgp130遺伝子配列の存在は、霊長類に限定され、他の脊椎動物には認められない。
【0039】
IL−6、IL−11、CNTF、オンコスタチンMおよびLIFのシグナル伝達活性は、特にgp130を指向する各種モノクローナル抗体によって遮断され得る。これに加え、サイトカインもしくはそれらの受容体の存在とは関係なく、gp130を直接活性化するモノクローナル抗体の存在も認められている。
【0040】
gp130を指向する他のモノクローナル抗体は、IL−6介在機能を阻害することが知られている。90および110Kdaの分子量を有する可溶型のgp130(sgp130)が、ヒト血清内に認められている。これらは成分としてのgp130とともに受容体系を利用するこれらのサイトカインの生体機能を阻害し得る。
【0041】
gp80の細胞外ドメインに対応するIL−6R gp80の可溶型(sIL−6R)は、血中および尿中に糖タンパク質として認められる人体の天然の産物である(Novickら、1990, 1992)。sIL−6R分子の例外的特性は、これらがヒト細胞を含む多数の細胞型でIL−6の強力な作用薬として作用するという点である(Tagaら、1989; Novickら、1993)。gp80の細胞質内ドメインがない場合であっても、なおsIL−6RはIL−6に反応してgp130の二量化を誘発することができ、これはさらに後続のIL−6−特異的シグナル伝達および生物学的効果を介在する(Murakamiら、1993)。sIL−6Rには、IL−6特異的生物学的活性に必須であるgp130との2種類の相互作用があり(Halimiら、1995)、活性化IL−6受容体複合体は、2つのgp130鎖、2つのIL−6Rおよび2つのIL−6リガンドによって形成される六量体構造であるということが提唱されている(Wardら、1994; Paonessaら、1995)。
【0042】
正常な被験者におけるsIL−6R(作用薬)の循環濃度は比較的高く、上記10ng/mlの可溶性gp130(天然のIL−6拮抗薬)の循環濃度に匹敵し得る(Corbiら、2000 Eur J Cardiotherac Surg. 18(1):98-103, Disthabanchongら、Clin Nephrol. 2002 Oct;58(4):289-95)。これに対し、IL−6の循環濃度は低く、約10pg/mlかそれ以下である(Kadoら、1999 Acta Diabetol. Jun 36(1-2)67-72, Corbiら、2000)。このように、疾患におけるsIL−6Rを併用投与せずに単独でインビボ投与した場合のIL−6の影響は、有効である場合とそうでない場合とがあり、特定の疾患および体内の特定の部位における可溶性作用薬/拮抗薬の濃度によって異なる。
【0043】
可溶性IL−6受容体とIL−6とを結合させるキメラ分子が開発されている(Chebathら、Eur Cytokine Netw. 1997 Dec;8(4):359-65)。これらは、IL−6R/IL−6と命名されている。キメラIL−6R/IL−6分子は、可溶性IL−6受容体(sIL−6R)とIL−6をコードするcDNAの全コーディング領域を融合させることによって生成される(図4を参照)。組換えIL−6R/IL−6は、CHO細胞内で産生された(Chedathら、Eur Cytokine Netw. 1997, WO99/02552)。IL−6R/IL−6は、sIL−6RとIL−6の混合物に比べ高い効率で、インビボでgp130鎖に結合する(Kolletら、Blood. 1999 Aug 1;94(3):923-31)。
【0044】
IL−6は、ヒト炎症性CNS疾患の病因と密接に関係している。IL−6の血漿および脳脊髄液レベルの増加は、例えば、多発性硬化症の患者で実証されている(Freiら(1991))。
【0045】
中枢および末梢神経系の細胞に対するIL−6の効果に関する最近の実験は、IL−6が神経細胞に対する保護作用を呈するだけでなく、炎症性神経変性プロセスに対してもなんらかの影響を与える可能性があることを示している(GadientおよびOtten, 1997, Mendelら、1998)。IL−6は、海馬(Yamadaら、1994)のみならず線条体(Toulmondら、1992)ニューロンにおいてもグルタミン酸誘導型細胞死を防止することが見出された。ヒトIL−6およびヒト可溶性IL−6R(sIL−6−R)の両方を高レベルで発現しているトランスジェニックマウスでは、脳における舌下神経核の逆行性標識法によって示されるような舌下神経の障害後に神経再生の加速化が認められた(Hirotaら、1996)。さらに、IL−6が神経系疾患、すなわち脱髄性疾患の多発性硬化(MS)で示唆されるいくつかの根拠が存在している(Mendelら、1998)。IL−6遺伝子欠損マウスは、MSの実験的誘導に耐性を示した。その一方で、IL−6は神経障害後の初期外傷後期のあいだの神経生存にマイナスの影響を与えることを示唆する報告がある(Fisherら、2001)。
【0046】
国際公開第03/033015号パンフレットは、特定の種類の神経症すなわち糖尿病性神経症の治療および/または予防のため、IL−6もしくはIL−6R/IL−6キメラなどのgp130を通してシグナル伝達する物質の使用を教示している。国際公開第03/033015では、IL−6による治療が、神経線維をミエリン鞘の欠失および変性から防止したことが示されている。
【0047】
すでに述べたように、糖尿病は神経機能を損傷させるということがよく知られている。神経機能の損傷は、糖尿病患者における神経血流の減退によるという根拠がある。後者は、糖尿病性神経症の疫学の病因として重要である。神経伝達速度の欠損が、alアドレノセプター拮抗薬、アンジオテンシンAT1拮抗薬をはじめとする様々な血管拡張剤の投与および酵素阻害剤、エンドセリンETA拮抗薬、カルシウムチャンネルブロッカーおよびニトロ血管拡張剤の変換によって予防もしくは治療することが可能であることが、いくつかの研究で実証されている[Cameronら、2001に記載]。
【0048】
例えば、IL−6血管拡張剤作用に関する相反する結果が、Baudryら(1996)によってインビボにおける調査研究として報告されている。IL−6に暴露すると、有意な用量依存性血管収縮が誘発されるが、一方でMinghiniら(1998)はIL−6誘発性血管拡張について報告している。
【0049】
すでに述べたように、糖尿病患者は、網膜、腎糸球体および末梢神経における糖尿病特異性微小血管合併症により、期待寿命および生活の質が大幅に低下する。糖尿病は、失明、末期腎臓病および多種多様な衰弱性神経症の主要因となっている。糖尿病は、腎透析および移植レシピエントの最も伸び率の高い1群である。60%を超える糖尿病患者が神経症を発症しており、これは米国におけるすべての非外傷性切断の50%に相当する。
【0050】
徹底的に血糖値をコントロールすると微小血管合併症が劇的に減少するが、それらをすべて予防できるわけではないので、糖尿病の微小血管合併症の発症を高血糖だけで完全に説明できるわけではない(Effect of intensive diabetes treatment on nerve conduction in the Diabetes Control and Complication Trial. Ann Neurol. 1995 Dec;38(6):869-80 and Lancet 352:837-853.1998)。糖尿病における微小血管合併症の現在の最適な管理法は、血糖をコントロールすることによってコントロールし、発生時に合併症を処置することにとどまっている。したがって患者は、失明、腎不全の発症および下肢切断などへと進むので、合理的な治療法の開発を推し進めるため微小血管疾患の病因についてさらに深く理解することが急務となっている(Cameronら、2001)。
【発明の開示】
【0051】
本発明によると、IL−6の投与が、坐骨神経内膜血のIL−6介在治療によって指摘されているように、微小血管合併症の動物モデルで有益な効果があるということが確かめられた。
【0052】
したがって本発明は、糖尿病性神経症を除く微小血管合併症の治療および/または予防のための医薬の製造におけるIL−6またはそのフラグメント、変異体、融合タンパク質、機能性誘導体もしくは塩類(「物質(substance)」)の使用に関する。
【0053】
1つの態様では、本発明は、糖尿病性神経症を除く微小血管合併症の治療および/または予防のための医薬の製造における、IL−6の内因性遺伝子活性化を可能にするために細胞内で機能するDNA調節配列を有するターゲッティングベクターの使用に関する。
【0054】
別の態様では、本発明は、糖尿病性神経症を除く微小血管合併症の治療および/または予防のための医薬の製造における、IL−6またはそのフラグメント、変異体、融合タンパク質を産生するように遺伝子組換えされた細胞の使用に関する。
【0055】
さらに別の態様によれば、本発明は、糖尿病性神経症を除く微小血管合併症の治療および/または予防のための医薬の製造における、IL−6またはそのフラグメント、変異体もしくは融合タンパク質のコーディング配列を含む発現ベクターの使用に関する。
【0056】
本発明は、糖尿病性神経症を除く微小血管合併症の治療および/または予防方法であって、それを必要としている患者に、任意には薬学的に許容可能な担体とともに、有効量のIL−6またはそのフラグメント、変異体、融合タンパク質もしくは塩類を投与することを含む方法を提供する。
【0057】
さらに本発明は、糖尿病性神経症を除く微小血管合併症の治療および/または予防方法であって、それを必要とする患者に、IL−6の内因性遺伝子活性化を可能にするために細胞内で機能するDNA調節配列を有する有効量のターゲッティングベクターを投与することを含む方法を提供する。
【0058】
さらに本発明は、糖尿病性神経症を除く微小血管合併症の治療および/または予防方法であって、それを必要としている患者に、微小血管合併症の治療および/または予防のための医薬の製造において、IL−6またはそのフラグメント、変異体、融合タンパク質もしくは塩類を産生するように遺伝子組換えされた細胞を投与することを含む方法を提供する。
【0059】
本発明はさらに、糖尿病性神経症を除く微小血管合併症の治療および/または予防方法であって、それを必要としている患者に、IL−6またはそのフラグメント、変異体もしくは融合タンパク質のコーディング配列を含む発現ベクターを投与することを含む方法を提供する。
【0060】
1つの好ましい実施態様では、微小血管合併症は、例えば、網膜症、神経症および、例えば慢性低酸素症もしくは構造的血管疾患などによる末梢神経症などの糖尿病非依存性末梢神経症である。
【0061】
本発明の別の好ましい実施態様では、微小血管合併症は高血圧を伴う。
【0062】
本発明のさらに別の好ましい実施態様では、微小血管合併症は潰瘍を伴う。
【0063】
本発明のさらに好ましい実施態様では、IL−6は組換え体である。
【0064】
本発明の1つの実施態様では、物質は1つもしくはそれ以上の部位でグリコシル化される。
【0065】
本発明の別の実施態様では、物質はグリコシル化されない。
【0066】
本発明のさらに別の実施態様では、融合タンパク質には免疫グロブリン(Ig)融合体が含まれている。
【0067】
本発明のさらに別の好ましい実施態様では、融合タンパク質はIL6R−IL6を含んでいる。
【0068】
本発明のさらに別の実施態様では、物質の機能性誘導体は、アミノ酸残基上の1つもしくはそれ以上の側鎖として発現する1つまたはそれ以上の官能基に結合した少なくとも1つの部分を含んでいる。
【0069】
本発明のさらに好ましい実施態様では、機能性誘導体の部分はポリエチレン部分である。
【0070】
本発明のさらなる実施態様では、医薬は、140〜210の範囲、好ましくは70〜210の範囲、さらに好ましくは14〜42mcgの範囲における物質を含んでいる。
【0071】
本発明のさらに好ましい実施態様では、物質は皮下経路によって投与される。
【0072】
本発明のさらに好ましい実施態様では、有効量の物質は、約2〜3mcg/kgの範囲、好ましくは1〜3mcg/kgの範囲、さらに好ましくは0.2〜0.6mcg/kgの範囲にある。
【0073】
本発明のさらなる実施態様では、物質の有効量は、約3mcg/kg、2mcg/kg、1mcg/kg、0.6mcg/kgおよび0.2mcg/kgである。
【0074】
本発明のさらなる実施態様では、物質の有効量は、約140〜210の範囲、好ましくは70〜210の範囲、およびさらに好ましくは14〜42mcgの範囲である。
【0075】
本発明のさらなる実施態様では、物質は1週間に3回の頻度で投与される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0076】
本発明は、IL−6の投与が糖尿病の動物モデルにおける微小血管合併症を減少させ得るという発見に基づいている。したがって、本発明は、微小血管合併症の治療および/または予防のための医薬の製造における、IL−6またはそのフラグメント、変異体、融合タンパク質機能性誘導体もしくは塩類(「物質」)の使用に関する。
【0077】
本書で使用している「治療」および「予防」という用語は、微小血管合併症の1つまたは複数の症候または原因を予防、阻止、減弱、緩和または回復させるものとして理解すべきである。微小血管合併症を「治療」する際には、本発明による物質を微小血管合併症が発症した後に投与し、「予防」は、患者における微小血管合併症の兆候が認められる前の前記物質の投与に関する。
【0078】
「血管」という用語は、血管に関する。
【0079】
微小血管系に関する「微小血管」という用語は、細動脈、微小動脈枝、毛細血管、末梢血管、末梢動脈、メタ細動脈および静脈尿細管(venules renal tubules)などといった100ミクロン以下の内径を持つすべての血管を含むものとして記述されている血管である微小血管を有する体の血管系の部分に関係する。微小血管系は、各種組織に血液を供給する、例えば尿細管は腎臓に、動脈は網膜に供給し、筋肉、皮膚、中枢神経系、腸粘膜、腎糸球体、膵臓、分泌腺に毛細管は存在している。
【0080】
「合併症」という用語は、同一患者における別の疾患と併発した疾患(複数もあり)もしくは2つ以上の疾患の同時発症に関する。
【0081】
したがって、本発明は、例えば糖尿病、慢性肺疾患、構造的血管疾患、高血圧および潰瘍などといったいずれかの疾患における微小血管合併症に関する。
【0082】
本発明の糖尿病動物モデルに認められる結果では、血流障害(したがって低酸素症)は、神経機能障害で中心的役割を果たすこと、IL−6が血流を改善することが実証された。したがって、抹消神経症は、例えば慢性閉塞性肺疾患の被験者では、慢性低酸素症を患う非糖尿病の被験者の場合にも発症するので、本発明による物質の投与は非糖尿病性末梢神経症でも有効である。
【0083】
さらに、本発明による物質の投与は、構造的血管疾患によって誘発された神経疾患でも有効である。
【0084】
本発明の好ましい実施態様では、微小血管合併症は網膜症および神経症である。
【0085】
IL−6の投与は、特に、循環系における高レベルのIL−6受容体を示す微小血管合併症の患者では有効である。
【0086】
糖尿病患者における高血圧は微小血管合併症の強固なリスクファクターであることが示唆されているので、本発明による物質の投与は、特に、高血圧を患う糖尿病患者および非糖尿病患者に有効である。
【0087】
本発明にしたがって使用される融合タンパク質は、IL−6R/IL−6であることが好ましい。本発明で使用している(「IL−6R/IL−6」または「IL−6キメラ」とも称する)は、インターロイキン−6のすべてまたは生物学的活性分画に融合したgp80の可溶性部分を有するキメラ分子である。このキメラタンパク質の部分は、相互に直接融合させることもでき、またはジスルフィド架橋もしくはポリペプチドリンカーなどの任意の適切なリンカーによって結合させることもできる。リンカーは、1〜3アミノ酸残基長という短さ、または長くて例えば13または18アミノ酸残基長であり得る短いリンカーペプチドであってもよい。該リンカーは、例えば可溶性IL−6受容体のアミノ酸配列とIL−6配列との間に導入される配列E−F−M(Glu-Phe-Met)のトリペプチドまたはGlu-Phe-Gly-Ala-Gly-Leu-Val-Leu-Gly-Gly-Gln-Phe-Metを含む13アミノ酸リンカー配列などであってもよい。IL−6キメラの例は、当技術分野で周知であり、国際公開第99/02552号パンフレットもしくは国際公開第97/32891号パンフレットなどに詳細に記載されている。本発明にしたがって使用することができるIL−6R/IL−6キメラ分子の例を、図4に模式的に示す。
【0088】
本発明で使用している「変異体」という用語は、元のIL−6もしくはIL−6R/IL−6と比較して生成物の活性をあまり変化させることなく、IL−6R/IL−6の自然発生成分のアミノ酸残基の1つもしくはそれ以上が、異なるアミノ酸残基によって置き換えられているか、もしくは削除されているか、もしくは1つまたはそれ以上のアミノ酸残基がIL−6もしくはIL−6R/IL−6の元の配列に付加されているような、IL−6もしくはIL−6R/IL−6の類似体を表す。これらの変異体は、既知の合成法および/または部位特異的突然変異誘発技術もしくはその他の既知の好適な技術によって製造される。
【0089】
本発明による変異体には、中程度にストリンジェントな条件下もしくはストリンジェントな条件下で、IL−6もしくはIL−6R/IL−6をコードするDNAまたはRNAの補体にハイブリダイズするDNAまたはRNAなどの核酸によってコードされたタンパク質を含む。「ストリンジェントな条件」という用語は、当業者が「ストリンジェント」として従来表現しているハイブリダイゼーションおよびその後の洗浄条件を表している。Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology, supra, Interscience, N.Y., §§6.3 and 6.4(1987,1992)およびSambrook ら(Sambrook, J. C., Fritsch, E. F., and Maniatis, T.(1989)Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY)を参照。
【0090】
制限なく、ストリンジェントな条件の例としては、例えば5分間2×SSCおよび0.5% SDS、15分間2×SSCおよび0.1% SDS、30〜60分間37℃で0.1×SSCおよび0.5% SDS、次いで30〜60分間68℃で0.1×SSCおよび0.5% SDSなどでの試験ハイブリッドの計算Tm値より12〜20℃低い洗浄条件などが含まれる。当業者には、ストリンジェントな条件は、DNA配列、オリゴヌクレオチドプローブ(10〜40塩基など)、あるいは混合ヌクレオチドプローブの長さによって異なるということが理解されるであろう。混合プローブを使用する場合には、SSCの代わりにテトラメチルアンモニウムクロライド(TMAC)を使用することが好ましい。Ausubelも参照されたい。「中程度にストリンジェントな条件」とは、42℃で0.2×SSCおよび0.1%SDSの場合など、さらに低い温度、低い塩類もしくは低い洗剤濃度における洗浄条件を意味する(Ausubelら、1989, supra)。
【0091】
このような変異体は、実質的に類似しているかもしくはIL−6もしくはIL−6R/IL−6に比べて活性が良好であるように、IL−6もしくはIL−6R/IL−6の配列を十分に複製しているアミノ酸配列を有していることが好ましい。
【0092】
IL−6の特徴的活性は、IL−6受容体のgp80要素に結合する能力であり、IL−6R/IL−6の特徴的活性は、gp130に結合する能力にある。IL−6R/IL−6のgp130に対する結合を測定するためのELISA型検定については、本書に引用することによって完全に取り込まれている国際公開第99/02552号パンフレットの39頁記載の例7に詳細な説明がある。当業者には、IL−6をgp80に結合させるために、類似したELISA型検定の開発が可能であることは理解されよう。変異体がgp80もしくはgp130の個々の結合領域に対する実質的結合活性を備えているかぎりは、IL−6もしくはIL−6R/IL−6に対する同様の類似した活性も備えているとみなすことができる。したがって、所与の変異体が、国際公開第99/02552号パンフレットの実施例7に記載されているように、固定化されたgp80もしくはgp130に結合するか否かを判断するための簡単なサンドイッチ結合検定をこのような変異体に適用することからなる日常的実験手段によってIL−6もしくはIL−6R/IL−6と少なくとも実質的に同じ活性を備えているかを判定することができる。
【0093】
例えば、マイクロタイター96ウェルプレート(Nunc)に抗ヒトgp80モノクローナル抗体を塗布し、50ng/mlのgp80(いずれもR&Dシステムズ、ミネアポリス製)を付加する。リン酸バッファー生理食塩水で洗浄した後に、IL−6を0.1〜50ng/mlの範囲の各種濃度でそれぞれのウェルに塗布する。40℃で一昼夜インキュベーションした後に、ウサギポリクロナル抗IL−6を添加し、次に、着色反応(シグマ、セントルイス)によって検出される、ホースラディッシュペルオキシダーゼに抱合されたヤギ抗ラビットIgを添加した。
【0094】
好ましい実施態様では、あらゆるこのような変異体は、国際公開第99/02552号パンフレットに含まれる成熟IL−6またはIL−6R/IL−6キメラ分子の配列と少なくとも40%同一性または相同性を有する。さらに好ましくは、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または最も好ましくは少なくとも90%同一性または相同性を有する。
【0095】
同一性は、2つまたはそれ以上のポリペプチド配列間、または2つまたはそれ以上のポリヌクレオチド配列間の、該配列の比較によって決定された関係を反映する。一般的に、同一性は、比較されている配列の全長に渡って、それぞれ2つのポリヌクレオチドまたは2つのポリペプチド配列の、ヌクレオチド−ヌクレオチド、またはアミノ酸−アミノ酸間の正確な一致をいう。
【0096】
正確な一致がない配列に対しては、「%同一性」が決定され得る。一般的に、比較されるべき2つの配列は、該配列間に最大の相関関係が得られるように整列される。これは、整合の程度を高めるために、片方または両方の配列のいずれかにおける「ギャップ(gap)」の挿入を含む。%同一性は、比較される各配列の全長に渡って決定されても良く(いわゆるグローバルアラインメント)、またはより短く定義された長さに渡って決定されても良い(いわゆるローカルアラインメント)。グローバルアラインメントは、同じかまたは非常に類似した長さの配列に特に適しており、ローカルアラインメントは、不同の長さの配列により適している。
【0097】
2つまたはそれより多くの配列の同一性と相同性を比較する方法は、当該分野においてよく知られている。したがって、たとえば、ウィスコンシン シークエンス アナリシス パッケージ、バージョン9.1(Wisconsin Sequence Analysis Package, version 9.1)(Devereux J et al., 1984)で使用可能なプログラム、たとえばBESTFITおよびGAPなどのプログラムが、2つのポリヌクレオチド間の%同一性ならびに2つのポリペプチド間の%同一性および%相同性を決定するために使用され得る。BESTFITは、スミスとウォーターマン(Smith and Waterman)の「ローカルホモロジー」アルゴリズム(1981)を使用し、2つの配列間の相同性の最適な単一領域を見つける。配列間の同一性および/または相同性を決定するための他のプログラムも、当業者に知られており、たとえば、BLASTファミリーのプログラム(Altschul S F et al, 1990, Altschul S F et al, 1997, www.ncbi.nlm.nih.govでNCBIのホームページから利用可能である。)およびFASTA(Pearson W R, 1990; Pearson 1988)である。
【0098】
本発明によって使用され得るIL−6またはIL−6R/IL−6キメラの変異体、またはそれをコードする核酸としては、本明細書中に表わされる教示および指針に基づいて、過度の実験なしに、通常の当業者により日常的に得られ得る置換ペプチドまたはヌクレオチドとして実質的に対応する有限の配列が包含される。
【0099】
本発明による変異体についての好ましい変化は、「保存的」置換として知られるものである。IL−6またはIL−6R/IL−6キメラの保存的アミノ酸置換は、充分に類似した物理化学的な特性を有する群の範囲内の同義アミノ酸を含み得るものであり、その群のメンバー間における置換は分子の生物学的機能を保存するものであろう(Grantham, 1974)。とくに挿入または欠失が、たとえば30以下、好ましくは10以下のわずかなアミノ酸のみを含むものであり、たとえばシステイン残基など機能的配座に重要なアミノ酸の除去または入れ替えをしない場合、アミノ酸の挿入および欠失もまた、その機能を変化させることなく前記配列内でなされることは明らかである。このような欠失および/または挿入によって産生されるタンパク質およびその変異体は、本発明の範囲内である。
【0100】
好ましくは、同義のアミノ酸群は、表1に規定される群である。より好ましくは、同義のアミノ酸群は、表2に規定される群である。そして、最も好ましくは、同義のアミノ酸群は、表3に規定される群である。
【0101】
【表1】

【0102】
【表2】

【0103】
【表3】

【0104】
本発明に使用するためのIL−6またはIL−6R/IL−6キメラのムテインを得るために使用され得る、タンパク質でのアミノ酸置換の製造例としては、Markらによる米国特許第4,959,314号明細書、同第4,588,585号明細書および同第4,737,462号明細書; Kothsらによる同第5,116,943号明細書、Namenらによる同第4,965,195号明細書、Chongらによる同第4,879,111号明細書、Leeらによる同第5,017,691号明細書などにおいて示された周知の方法手順;および米国特許第4,904,584号明細書(Shawら)に示されたリジン置換タンパク質などがあげられる。
【0105】
本発明に関連して利用されるIL−6の特異的変異体についても記載がある(国際公開第94/03492A1号パンフレット)。さらに、欧州特許第667872B1号明細書には野生型IL−6に比べ生物学的活性が改善された突然変異IL−6についての記述がある。これに加え、欧州特許第656117B1号明細書には、IL−6の超作用薬を孤立させるための方法が記載されている。突然変異体もしくは超作用薬は、本発明にしたがって使用してもよい。
【0106】
「融合タンパク質」という用語は、たとえば体液内において長期の滞留時間を有する他のタンパク質と融合された、IL−6またはIL−6R/IL−6キメラ、またはその変異体または断片からなるポリペプチドのことをいう。したがって、IL−6またはIL−6R/IL−6キメラは、たとえば免疫グロブリンまたはその断片といった他のタンパク質、ポリペプチドなどと融合され得る。
【0107】
本明細書中で使用される場合、「機能的誘導体」は、本技術分野において周知の方法で、残基の側鎖またはN末もしくはC末基として存在する官能基から製造され得るIL−6またはIL−6R/IL−6キメラの誘導体、ならびにそれらの変異体および融合タンパク質を含み、薬学的に許容し得るかぎり、すなわちIL−6またはIL−6R/IL−6の活性と実質的に類似しているタンパク質の活性を破壊せず、それを含む組成物において毒性を与えないかぎり、本発明に含まれる。
【0108】
例えば、これらの誘導体には、抗原部位を遮蔽し、体液中でIL−6R/IL−6の在留時間を延長させ得るポリエチレングリコール側鎖などがある。他の誘導体としては、カルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニアまたは1級アミンもしくは2級アミンと反応することによるアミノキシル基のアミド、アクリル成分とともに形成されたアミノ酸残基の遊離アミノ基のN−アシル誘導体(例えばアルカノイルもしくは炭素環式アロイル基)もしくはアシル成分とともに形成された遊離ヒドロキシル基のO−アシル誘導体(例えばセリルもしくはスレオニル残基の誘導体など)などがあげられる。
【0109】
本発明による「フラグメント」は、例えば、IL−6もしくはIL−6R/IL−6の活性画分であってもよい。フラグメントという用語は、分子のいずれかのサブセット、すなわち、gp130の作用薬としての活性を備えた所望の生物学的活性を保持する短いペプチドを表す。フラグメントは、IL−6もしくはIL−6R/IL−6のどちらかの末端からアミノ酸を除去し、その特性を残りのフラグメントで検査してgp80もしくはgp130のそれぞれに結合させることによってすぐに製造可能である。ポリペプチドのN−末端またはC−末端のどちらかから一度に1個のアミノ酸を除去するためのプロテアーゼが当技術分野で周知であり、したがって、所望の生物学的活性を保持しているフラグメントを判定するためには単に通常の実験を行えばよい。
【0110】
IL−6またはIL−6R/IL−6のフラグメント、その変異体および融合タンパク質として、本発明はさらに、単独のタンパク質または、例えば糖もしくはリン酸残基、タンパク質分子の凝集体、または単独の糖残基など、結合している分子もしくは残基と一体となったタンパク質のポリペプチド鎖の画分もしくは前駆体をも網羅するが、該画分がgp130および特にはgp130上に作用薬活性を有することを前提とする。
【0111】
本書記載の「塩類」という用語は、カルボキシル基の塩類およびIL−6もしくはIL−6R/IL−6分子またはその類似体のアミノ基の酸付加塩類の両方を表す。カルボキシル基の塩類は、当技術分野で周知の手段によって形成することができ、例えばナトリウム塩、カルシウム塩、第二鉄塩および亜鉛塩などの無機塩類、ならびに例えばトリエタノールアミン、アルギニンもしくはリシン、ピペリジン、プロカインなどのアミン類とともに形成された塩基として有機塩基を有する塩類が含まれる。酸付加塩類には、例えば塩酸もしくは硫酸などの無機酸を有する塩類および、例えば酢酸もしくはシュウ酸などの有機酸を有する塩類などがあげられる。当然のことながら、このような塩はいずれもIL−6もしくはIL−6R/IL−6の生物学的活性、すなわちgp130を通じてシグナル伝達する能力を保持していなくてはならない。
【0112】
本発明の好ましい実施態様では、本発明のIL−6またはそのフラグメント、変異体、融合タンパク質もしくは塩は、1つ以上の部位でグリコシル化されている。
【0113】
IL−6R/IL−6のグリコシル化された形態は、本発明によればきわめて好ましいキメラ分子である、国際公開第99/02552号パンフレット(PCT/IL98/00321)に記載されている。本明細書に記載のIL−6R/IL−6は、いずれもヒト由来である、成熟自然発生IL−6の全コーディング配列に自然発生した可溶性IL−6受容体δ―Valの全コーディング配列を融合させることにより取得した組換え糖タンパク質である。当業者であるなら、グリコシル化IL−6を組換え手段によっても、すなわち真核生物発現系内に発現させることによっても産生できることは理解するであろう。
【0114】
本発明によれば、作用薬は、イースト菌細胞、昆虫細胞、バクテリアなどの適切な真核細胞種もしくは原核細胞種で産生可能である。作用薬は、哺乳類の細胞内で産生することが好ましいが、国際公開第99/02552号パンフレットにIL−6R/IL−6に関して記載されているように、遺伝子組換えCHO細胞内で産生することがもっとも好ましい。ヒト由来のタンパク質が好ましい一方で、当業者は、本書記載の生物学的活性を保持している限り、他のいずれかの生物由来の類似した融合タンパク質も本発明によれば使用可能であることを理解するであろう。
【0115】
本発明のさらなる実施例では、本発明のIL−6またはそのフラグメント、変異体、融合タンパク質もしくは塩は、グリコシル化されない。この場合、キメラ分子は、グリコシル残基を合成できないが通常は産生組変えタンパク質の高収率能を備えているバクテリア細胞内で産生できるので、好都合である。非グリコシル化IL−6の産生についは、例えば欧州特許第504751B1号明細書に詳細に記載されている。
【0116】
さらに別の実施態様では、本発明のIL−6またはそのフラグメント、変異体、融合タンパク質もしくは塩は、免疫グロブリン融合体を含んでいる、すなわち本発明による分子は、免疫グロブリンのすべてもしくは一部、特に免疫グロブリンのFcフラグメントに融合される。免疫グロブリンを産生するための方法は、例えば国際公開第01/03737号パンフレットに記載されている方法など、当技術分野では広く周知である。当業者であるなら、本発明における産生された融合タンパク質がIL−6もしくはIL−6R/IL−6の生物学的活性、すなわちgp130シグナル伝達の刺激能を保持していることを理解するであろう。産生された融合タンパク質は、体液中の残留時間(半減期)の延長、比活性度の亢進、発現レベルの向上、もしくは融合タンパク質の精製促進など、特性が改善されていることが理想的である。
【0117】
本発明のIL−6またはそのフラグメント、変異体、融合タンパク質もしくは塩は、Ig分子の定常領域に融合することが好ましい。これは、例えばヒトIgGlのCH2およびCH3領域など重鎖領域に融合させてもよい。IgG2もしくはIgG4異性体、または例えばIgMもしくはIgAの異性体、他のIg分子の分級など、Ig分子の他の異性体も、本発明による融合タンパク質の産生に好適である。したがって、融合タンパク質は、単量体、多量体、ヘテロ多量体もしくはホモ多量体のいずれであってもよい。
【0118】
本発明のIL−6またはそのフラグメント、変異体、融合タンパク質もしくは塩の機能性誘導体をポリマーに抱合させて、安定性、半減期、生体利用効率、人体による耐性、免疫原性などのタンパク質の特性を改善することができる。
【0119】
したがって、本発明の好ましい実施態様は、アミノ酸残基上の1つもしくはそれ以上の側鎖として存在する1つもしくはそれ以上の官能基に結合した少なくとも1つの部分を有する、本発明のIL−6またはそのフラグメント、変異体、融合タンパク質もしくは塩の機能性誘導体に関する。
【0120】
本発明の非常に好ましい実施態様は、ポリエチレングリコール(PEG)に結合した本発明によるIL−6またはそのフラグメント、変異体、融合タンパク質もしくは塩に関する。ポリエチレングリコール化は、例えば国際公開第92/13095号パンフレットに記載されている方法など、周知の方法で実施してよい。
【0121】
IL−6の発現に関しては通常静止状態にある細胞内でIL−6の内的産生を誘発および/または促進するベクターもしくは、十分とはいえない量のIL−6を発現させるベクターの使用も本発明によって意図されている。ベクターは、IL−6を発現するのに所望の細胞内で機能する調節配列を有していてよい。このような調節配列は、プロモーターもしくはエンハンサーを有している。次に、この調節配列を相同的組換えによってゲノムの適正な遺伝子座に導入するので、調節配列は、発現を誘導もしくは促進せねばならない遺伝子と操作可能なように結合する。この技術は一般に「内因性遺伝子活性化」(EGA)と呼ばれ、例えば国際公開第91/09955号パンフレットなどに記載がある。
【0122】
本発明の物質は、任意の適切な経路で投与してよい。本発明によれば、皮下投与は非常に好ましい。
【0123】
本発明の物質は、任意の適切な処方で作用部位に送達されてよい。IL−6またはそのフラグメント、変異体、融合タンパク質もしくは活性画分を発現および/または分泌する細胞の形態で、この物質を投与することが好ましい。以下の例に示すように、十分な量のIL−6R/IL−6を発現および/または分泌する細胞は、好適な発現ベクターを用いて細胞内にトランスフェクションすることによって産生されている。
【0124】
したがって、本発明はさらに、微小血管合併症の治療および/または予防のための医薬の製造で、本発明による本発明のIL−6またはそのフラグメント、変異体、融合タンパク質もしくは塩を発現する細胞の使用に関する。細胞は好適な形態で投与してよい。ただし、ポリマーカプセル化IL−6もしくはIL−6R/IL−6を発現、好ましくは分泌する細胞は、IL−6R/IL−6の非常に好ましい投与形態である。カプセル化手順については、例えばEmerichら(1994)もしくはUS 5,853,385に詳細に記述されている。好適な細胞株および安定した発現系は、当技術分野では広く周知である。
【0125】
本発明による物質の送達は、IL−6、IL−6R/IL−6キメラ、変異体、融合タンパク質またはそれの断片のコーディング配列を含む発現ベクターのようなベクターを使用して行なっても良い。ベクターは、ヒトの体内における、好ましくは末梢神経性細胞における所望のタンパク質の発現のために必要とされる全ての調節配列を含む。発現ベクター用の調節配列は、当業者により既知である。したがって、本発明は、糖尿病性神経障害の治療および/または予防のための医薬の製造のための本発明による物質のコーディング配列を含むベクターの使用にも関する。
【0126】
当技術分野で周知の任意の発現ベクターを、本発明にしたがって使用してもよい。ただし、ウイルス由来遺伝子治療ベクターを使用することが非常に好ましい。IL−6発現用のウイルスベクターの使用については、Bensadoun(2001)による記載がある。
【0127】
本発明の物質は、医薬組成物として人体に投与することが好ましい。該医薬組成物は、本発明のIL−6、そのフラグメント、変異体、機能性誘導体、融合タンパク質またはその塩をそのまま有するか、もしくはポリペプチドを発現する細胞または発現ベクター、特に、微小血管合併症の治療および/または予防のための1つもしくはそれ以上の薬学的に許容可能な担体、希釈剤もしくは賦形剤を場合により一体化した、IL−6、IL−6R/IL−6、またはその変異体、融合タンパク質もしくは活性フラグメントのコーディング配列を有するレンチウイルス性遺伝子治療ベクターを有していてもよい。
【0128】
「薬学的に許容可能な」という用語の定義は、活性成分の生物学的活性の効果に悪影響を及ぼさず、投与する宿主にとって無毒である任意の担体を網羅することを意図している。例えば、非経口投与の場合には、生理食塩水、デキストロース溶液、血清アルブミンおよびリンガー液などの賦形剤として注入するための、単位投与形態に活性成分を製剤化してもよい。
【0129】
活性成分は、さまざまな方法で患者に投与できる。投与経路としては、皮内投与、経皮投与(例えば、徐放性製剤)、筋内投与、腹腔内投与、静脈内投与、皮下投与、経口投与、硬膜外投与、局所投与および鼻内投与がある。例えば、上皮組織もしくは内皮組織を経由して、あるいは活性ポリペプチドをインビボで発現および分泌させるDNA分子を患者に投与する遺伝子治療によって吸収するなど、他の任意の治療上効果的な投与経路も使用できる。さらに、薬学的に許容可能な界面活性剤、賦形剤、担体、希釈剤および賦形剤など、生物学的活性作用物質の他の成分と一緒に、活性分子を投与することができる。
【0130】
非経口投与(例えば、静脈内投与、皮内投与、筋内投与)の場合には、活性成分は、薬学的に許容可能な非経口投与賦形剤(水、生理食塩水、デキストロース溶液など)および等張性(マニトールなど)や化学的安定性(保存料や緩衝液など)を保持する添加物とを合わせて、溶液、懸濁液、乳液もしくは凍結乾燥粉末として、製剤化することができる。製剤は、一般に使用されている技術で滅菌される。
【0131】
本発明のさらなる目的は、微小血管合併症の治療および/もしくは予防方法であって、それを必要としている患者に、任意には薬学的に許容可能な担体と一体化した、有効量の本発明のIL−6またはそのフラグメント、変異体、融合タンパク質もしくは塩を投与することを含む方法を提供することにある。
【0132】
「有効量」とは、上記疾患の経過および重篤度に十分に影響を与え、このような病気を寛解もしくは緩和させる活性成分の量を表す。有効量は、投与経路および患者の状態によって異なる。
【0133】
個体に単回でもしくは複数回で投与する用量は、薬物速度論的特性、投与経路、患者の状態および特徴(性別、年齢、体重、健康状態、体の大きさなど)、症状の程度、併用治療、治療の頻度および所望の効果をはじめとする、多種多様な因子によって異なる。確定した用量範囲の調節および操作は、十分に当業者の能力の及ぶ範囲内にある。
【0134】
ただし、げっ歯類における血小板新生因子としてのIL−6の有効用量は、500mcg/kgを超えるが、サルの場合には10mcg/kgである(Herodinら、1992 Blood 80(3)688)。したがって、IL−6は、げっ歯類の場合より霊長類の場合のほうが50倍も効果が高いと考えられる。したがって、hrIL−6は、50倍の効果、またはげっ歯類の場合よりヒトの場合のほうが1桁分高い効果、もしくは少なくとも5倍の効果が生じることが期待される。本実施態様では、微小血管合併症における陽性反応の結果が10〜30mcg/kgの範囲の用量でげっ歯類に認められたので、1/50、1/10、もしくは1/5の用量のヒト組換えIL−6が、ヒトにおける微小血管合併症の治療および/または予防に効果があることが期待される。本発明のIL−6またはそのフラグメント、変異体、融合タンパク質もしくは塩を、約2〜3mcg/kg、1〜3mcg/kgおよび0.2〜0.6mcg/kgの用量で使用することが好ましい。
【0135】
あるいは、固定した低用量のIL−6を、患者1人当たり140〜210mcg、70〜210mcgおよび14〜42mcgの範囲で投与することもできる。
【0136】
本発明の好ましい実施態様では、本発明のIL−6またはそのフラグメント、変異体、機能性誘導体、融合タンパク質もしくは塩を1週間に3回の頻度で投与する。
【0137】
IL−6、IL−6R/IL−6、またはその変異体、融合タンパク質もしくは活性フラグメントを発現する細胞の有効量を必要としている患者に投与することを含む微小血管合併症を治療するための方法も、本発明にしたがって考慮されている。IL−6、IL−6R/IL−6、またはその変異体、融合タンパク質もしくは活性フラグメントのコーディング配列を有する発現ベクターを必要としている患者に投与することを含む方法も、さらに本発明の目的の1つである。
【0138】
本発明の好ましい実施態様では、発現ベクターは、遺伝子治療ベクターである。ウイルスベクター、特にレンチウイルスベクターは、非常に好ましい。
【0139】
次に、以下の限定されない実施例と付随する図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。
【0140】
今まで本発明について詳しく説明してきたが、当業者であるなら、不必要な実験を行わなくても、本発明の対象範囲および意図から逸脱することなく、広範囲に渡る同等のパラメータ、濃度および条件の範囲内で、本発明を実施することが可能であることを理解されよう。
【0141】
本発明についてその特定の実施例と関連付けて説明してきたが、さらなる修正を加えることが可能であることが理解されよう。本願は、総体的に本発明の原理にしたがった本発明の一切の変形、使用および改変を包含するものであり、本発明が関係する技術の範囲内で周知の方法もしくは習慣的方法の範囲内に含まれ、添付の請求項の範囲内で以下のような以前に記載した本質的特徴に該当するような本発明の開示からのこのような逸脱をも包含するものである。
【0142】
本明細書において引用される、雑誌の論文もしくは要旨、公開もしくは未公開の米国もしくは外国特許出願、公布された米国もしくは外国特許または任意のほかの参考文献などのすべての参考文献は、引用される参考文献に示されたすべてのデータ、表、図および文章を含めて、本明細書において完全に参考のために組み込まれる。さらに、本明細書において引用される参考文献中で引用される参考文献の全内容も、参考のために完全に組み込まれる。
【0143】
本発明のすべての態様、記述もしくは実施態様を関連技術分野で開示、教示もしくは提言するような、周知の方法の工程、従来の方法の工程、周知の方法もしくは従来の方法に対する参照は、一切認められない。
【0144】
特定の実施態様に関する前述の記載は、(本書に記載の参考資料の目次を含めて)当分野における知識を応用することによって、他者が完全に解明し、不必要な実験を行わずに、本発明の一般概念から逸脱せずに、このような特定の実施態様を各種用途に合わせて変更および適合させることが可能となるように、本発明の一般的内容を完全に明らかにしている。したがって、このような適合および変更は、本書に記載の教示内容および指針に基づいて、開示されている実施態様と同等な一連の内容を目的の範囲内に置くことを目的としている。本書記載の用語および専門語は、記述することのみを目的としており、限定することを目的としていないので、本明細書の用語および専門語は、当技術分野の一般的知識を有している人物がその知識を活用すれば、本書記載の教示内容および指針に照らして、当業者が解釈することが可能であることが理解されるべきである。
【実施例】
【0145】
実施例1:実験的糖尿病における運動機能および感覚機能の欠損に対するIL−6の効果
下記実験の目的は、糖尿病性神経症のストレプトゾトシン糖尿病ラットモデルを対象とした、大有髄神経線維および小神経線維の各母集団における既存の異常をIL−6投与処置によって治療できるか否かを調査することにある。
【0146】
実験材料:糖尿病ラットモデルおよびIL−6投与計画
ストレプトゾトシン(40〜45mg/kg)を1回腹腔内投与することにより、成熟した(週齢19歳)オスのスプレーグ−ドーリーラットに糖尿病を誘発させた。無処置のまま4週間経過し、その間に神経伝達速度(NCV)および血流が欠失し、症状がそのまま定常化した糖尿病ラットに、それぞれ10mcg/kgおよび30mcg/kgを1日に2回、1週間に3回の頻度で、4週間にわたりIL−6を皮下注射した。
【0147】
IL−6投与処置に着手する前と治療期間の終了時に、それぞれ電気Von Frey hair装置とRandall−Sellito試験[Randallら、1957, Chaplanら、1994]により、足の感覚異痛(正常皮膚に対する無害刺激から生じる疼痛)閾値および機械的刺激閾値を測定した。足への無害熱刺激に対して足を引っ込める反射作用が生じるまでの時間を、ハーグリーブス足底検査[Hargreaves 1988]によって推定した。検査はすべて市販の装置(Ugo-Basile, Comerio、イタリア)を用いて実施した。要するに、毎日同じ時間に一定の室温で測定を行い、取り扱い、環境、装置、および実験手順にラットが慣れるように2日間の準備期間を設けた。
【0148】
被験群は、下記のとおりである。
非糖尿病対照群(C;n=10)
4wk糖尿病(1D;n=8〜10)
8wk糖尿病(2D;n=10)
4wk糖尿病+4週間10mcg/kg IL6(D10;n=10)
4wk糖尿病+4週間30mcg/kg IL6(D30;n=8)
【0149】
前脛骨筋までの枝部における坐骨運動機能NCVおよび伏在静脈NCVを前述のように検査した[Cameron 1989]。
【0150】
実験の終了時に、頚動脈カニューレから血糖値を見積もるための血液標本(GOD-Perid 法、べーリンガーマンハイム)を採取した。
【0151】
データは、群平均値±SEMとして表現した。これらのデータについて分散度を計るためBartlett検定を実施し、必要に応じて、一元配置ANOVAを実施する前に、対数変換(血管コンダクタンス)を実施した。全体的な有意水準(p<0.05)を取得した場合には、Newman−Keuls多重比較検定により群間における統計的有意差を判定した。
【0152】
実験結果:
糖尿病ラットは高血糖に罹患し、実験期間中にわたって、主として最初の4週間に体重が減少した(表4)。IL−6投与治療を行ったが、血糖値の状態や体重の減少には変化がなかった。
【0153】
【表4】

【0154】
坐骨運動機能NCVは、糖尿病罹患2週間後と4週間後にはそれぞれ、22.4±1.2%(平均値±SEM)および21.7±1.0%(p<0.001)減少した(図1A、それぞれ棒線1Dと2D)。IL−6を投与したところ、この欠失が90.0±3.6%(図1A、D10、10mcg/kg;p<0.001)および88.4±6.2%(図1A、D30、30mcg/kg;p<0.001)回復した。同様に、それぞれ糖尿病罹患の4週間後(p<0.001)に17.1±1.3%および8週間後(p<0.001)に17.8±1.4%であった伏在静脈感覚機能NCV欠失は、2種類のIL−6用量で完全に回復した(p<0.001)。無害熱刺激に反応して足を引っ込めるまでの時間は、糖尿病罹患の4週間後の時点では37.8±2.1%、8週間後の時点では37.0±5.5%低下し(図2A)、2種類のIL−6用量の両方で痛覚過敏が完全に矯正されたことを示唆していた(p<0.001)。事実、10mcg/kgの用量の場合、反応時間は、平均以上であった。電気von Frey hair装置による触覚刺激に対して足を引っ込めるまでの時間の閾値は、糖尿病罹患の4週間後で49.1±4.8%(p<0.001)、8週間後で58.7±4.9%(p<0.001)それぞれ低下した(図2B)。IL−6の投与治療により、この触覚異痛が83.9±6.7%(10mcg/kg;p<0.001)および79.3±10.3%(30mcg/kg)分矯正された。一定の比率で徐々に強めていった機械的加圧に反応して、糖尿病ラットにおける足を引っ込めるまでの時間の閾値が約35%(p<0.001)低下し、機械的刺激に対する痛覚過敏が示唆された(図2C)。ただし、他の疼痛に関連する指標とは対照的に、この症状はIL−6投与治療の影響をわずかしか受けないか、もしくはまったく受けないように思われる。
【0155】
データは、両用量で使用したIL−6(10および30mcg/kg、週3回)により、実験的糖尿病における坐骨運動機能および伏在静脈感覚機能NCV欠失が完全に回復したことを明らかに示している。
【0156】
IL−6の投与治療により、熱痛覚過敏や触覚異痛などの運動および感覚伝達をはじめとする、糖尿病ラットにおける大線維機能障害と小線維機能障害の病態が回復した。
【0157】
実施例2:微小血管合併症におけるIL−6の薬効
糖尿病性神経症は、低酸素症や血流減弱から発症するという間接証拠が存在している(Cameron 2001)。実施例1で例証した動物モデルでは、糖尿病モデルに神経機能の損傷が認められることが実証された。実施例1では、神経機能がIL−6によって回復することも実証された。
【0158】
実施例1の糖尿病モデルにおける神経症が、神経系血流欠如の点でヒトの糖尿病に類似した症状を呈しているかいなか、さらにこのモデルにおけるIL−6の薬効が、神経系血流の回復によるものなのかいなかを直接評価するために、下記の実験を行った。
【0159】
したがって、無処置のラット群と糖尿病ラット群、およびIL−6を投与処置した糖尿病ラット群で、神経内膜組織における血流および全身血圧における変化を測定した。
【0160】
実施例1のラットにチオブタバルビタール(50〜100mcg/kg、腹腔内投与)で麻酔をかけ、血圧測定と人工呼吸のため頚動脈(大血管系)と気管のそれぞれにカニューレを挿入した。
【0161】
前述したように、微小電極ポーラログラフ分析および水素クリアランス法によって、坐骨神経内膜の栄養(毛細血管)血流を測定した[Cameron 1991]。
【0162】
要するに、微小電極ポーラログラフ分析および水素クリアランス法による伝達速度測定側とは反対側の四肢で坐骨神経内膜血流を見積もった[Cameron 1991, Chaplan 1994およびRandall 1957]。ラットに人工呼吸を施した。血圧をモニターするため、頚動脈にカニューレを挿入し、必要に応じて、d−ツボクラリン(頚動脈カニューレを通じて、2mg kg−1)を使用することにより神経筋遮断薬を与えた。触診に対する血圧の反応を観察することにより麻酔の効果レベルをモニターし、必要に応じてチオブタバルビタール麻酔薬を補充した。坐骨神経を露出させ、切開部周囲の皮膚を金属リングに縫合し、37℃の鉱物油を満たしたプールを形成した。記録中、放射熱によってプールの温度を35〜37℃に維持した。坐骨のくぼみと膝上の神経三叉部との間の坐骨神経内膜に、皮下埋め込み参照電極を基準に250mVで分極したガラス絶縁白金微小電極を挿入した。吸入ガスに10%のH2を付加し、O2とN2の各成分比をそれぞれ20%と70%に調節した。電極によって記録されたH2の流れが安定し、動脈血との平衡状態が示唆された時点で、H2の供給を遮断しN2の供給量を適宜増加させた。「5秒間にわたり電極水素流における系統的減弱が認められない」、として定義されている安定ベースラインに到達するまで、H2のクリアランスを記録した。次に、別の神経部位でこの手順を繰り返した。実験後、クリアランス曲線を数値化し、非線形回帰分析(プリズム、グラフパッド、サンディエゴ、CA、米国)および汎用の二重指数関数式 y=a exp(−bx)+ c exp(−dx)+ e を用いて、単一指数関数曲線もしくは二重指数関数bi−exponential曲線を用いてコンピュータでデータに適合させた。
【0163】
上式で、yは電極水素流(任意の単位)、xは時間(分)、aとcはそれぞれ高速(非栄養)と低速(栄養)クリアランス成分に関する加重定数、bは高速成分、dは低速成分(ml min−1 ml 神経−1)、およびeはベースライン電極水素流(任意の単位)をそれぞれ表している。組織密度を1と想定して、dX100(ml min−1 100g−1)として栄養血流を計算した。特定のクリアランス曲線の記録期間にわたる平均動脈血圧によって血流を除算することにより、血管コンダクタンスを計算した。2回の測定結果の平均値を取って、坐骨神経内膜血流パラメータとした。
【0164】
図3Aにまとめた結果から、坐骨神経内膜の栄養(毛細血管)流が、糖尿病罹患の4週間および8週間後にそれぞれ51.3±4.2%および53.6±2.7%減少した(p<0.001)ことがわかる。IL−6投与治療がこのような血流の欠失を84.3±5.2%(10mcg/kg;p<0.001)および90.8±5.3%(30mcg/kg;p<0.001)回復させ、血管コンダクタンス値は、非糖尿病範囲の上位半分に相当していた(図3C)。群間には平均全身血圧に有意差は認められなかった(図3B)。結果は、表5にまとめたとおりである。
【0165】
このように、IL−6は、坐骨神経内膜栄養流の改善で顕著な血管効果を示した。全体として、IL−6は、微小血管機能欠失の回復にきわめて優れた効能を示した。
【0166】
【表5】

【0167】
実施例3:CHO細胞内でのIL−6およびIL−6R/IL−6の産生
可溶性IL−6受容体(尿中に特定される天然形態のsIL−6R, Ohら、1997)をコードするcDNA配列と成熟IL−6をコードする配列とを融合させる。3個の架橋アミノ酸(FEM)の配列も存在している。融合遺伝子をCMVプロモーターの制御下で発現ベクターに挿入し、CHO細胞に導入した。産生プロセスを展開し、産生された組換えタンパク質を抗IL−6Rモノクローナル抗体を用いた免疫精製によって精製した。図4は、IL−6R/IL−6の組成を模式的に表したものである。成熟タンパク質には、524個のアミノ酸が含まれている。上に略述したように、産生および精製されたタンパク質は、本発明にしたがって投与するのに好適である。
【0168】
組換えヒトIL−6(r−hIL−6)は、遺伝子組換えが施されたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞で産生した。産生プロセスでは、はじめに運用されている細胞バンク(WCB)から入手した細胞を成長および増大させ、r−hIL−6を培地に分泌させる条件の下に、処理を継続した。遺伝子組換え細胞の培地からr−hIL−6を採取し、精製した。純度は99.6%より高く、薬効は23.3x106IU/mlであった(van Damme, J, Van Snick J. Dev Biol Strand, 1988;69:31-8のIL−6のハイブリドーマ成長因子活性(HGF)に基づく)。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】坐骨運動機能(A)および伏在静脈感覚伝達速度の測定値を示す。統計値:1方向ANOVA+Newman−Keuls多重比較試験、***p<0.001対対照群(C)、†††p<0.001IL−6処置群対糖尿病(D)群の効果。非糖尿病対照群(C;n=10)、4wk糖尿病群(1D;n=8〜10)、8wk糖尿病群(2D;n=10)、4wk糖尿病+4週間10mcg/kg IL6(D10;n=10)、4wk糖尿病+4週間30mcg/kg IL6(D30;n=8)。
【図2】熱(非毒性)刺激(A)、異痛(正常な皮膚に対する無害刺激から生じる疼痛)検査(B)および機械的加圧(C)に対して足を引っ込めるまでの潜時。統計値:1方向ANOVA+Newman−Keuls多重比較試験、**p<0.01、***p<0.001対対照(C)群、†††p<0.001IL−6投与群の対糖尿病(D)群の効果。
【図3】坐骨栄養(毛管)神経内膜血流(A)、平均全身血圧(B)および神経内膜血管伝導性(C)を示している。統計値:1方向ANOVA+Newman−Keuls多重比較試験、***p<0.001対対照(C)群、†††p<0.001IL−6投与群の対糖尿病(D)群の効果。
【図4】IL6R/IL6キメラの模式図を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病性神経症を除く微小血管合併症の治療および/または予防用の医薬の製造における、IL−6またはそのフラグメント、変異体、融合タンパク質、機能性誘導体もしくは塩の使用。
【請求項2】
前記微小血管合併症が網膜症、神経症および糖尿病非依存性末梢神経症から選択される請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記微小血管合併症が網膜症である請求項2記載の使用。
【請求項4】
前記微小血管合併症が腎症である請求項2記載の使用。
【請求項5】
前記糖尿病非依存性末梢神経症が慢性低酸素症を原因とする請求項2記載の使用。
【請求項6】
前記糖尿病非依存性末梢神経症が構造的血管疾患を原因とする請求項2記載の使用。
【請求項7】
前記微小血管合併症が高血圧を伴う請求項1記載の使用。
【請求項8】
前記微小血管合併症が潰瘍を伴う請求項1記載の使用。
【請求項9】
IL−6が組換え体である請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記融合タンパク質がIL−6R/IL−6である請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記IL−6が1つもしくはそれ以上の部位でグリコシル化されている請求項1〜11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記IL−6がグリコシル化されない請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
前記融合タンパク質が免疫グロブリン(Ig)融合体を含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
前記機能性誘導体がアミノ酸残基上の1つもしくはそれ以上の側鎖として存在する1つもしくはそれ以上の官能基に結合した少なくとも1つの部分を含む請求項1〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
前記部分がポリエチレン部分である請求項14記載の使用。
【請求項16】
前記医薬が、140〜210、70〜210および14〜42mcgの範囲内の用量でIL−6を含む請求項1〜15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
糖尿病性神経症を除く微小血管合併症の治療および/または予防用医薬の製造における、IL−6の内因性遺伝子活性化を可能にするために細胞内で機能するDNA調節配列を有するターゲッティングベクターの使用。
【請求項18】
糖尿病性神経症を除く微小血管合併症の治療および/または予防用医薬の製造における、IL−6またはフラグメント、変異体もしくは融合タンパク質を産生するよう遺伝子組換えされた細胞の使用。
【請求項19】
前記融合タンパク質がIL−6R/IL−6である請求項18記載の使用。
【請求項20】
糖尿病性神経症を除く微小血管合併症の治療および/または予防用医薬の製造における、IL−6またはフラグメント、変異体もしくは融合タンパク質のコーディング配列を含む発現ベクターの使用。
【請求項21】
前記融合タンパク質がIL−6R/IL−6である請求項20記載の使用。
【請求項22】
糖尿病性神経症を除く微小血管合併症の治療および/または予防方法であって、それを必要としている患者に、任意には薬学的に許容可能な担体とともに、有効量のIL−6またはそのフラグメント、変異体、融合タンパク質もしくは塩を投与することを含む方法。
【請求項23】
前記IL−6を皮下経路によって投与する請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記微小血管合併症が網膜症、神経症および糖尿病非依存性末梢神経症から選択される請求項22記載の方法。
【請求項25】
前記微小血管合併症が網膜症である請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記微小血管合併症が腎症である請求項24記載の方法。
【請求項27】
糖尿病非依存性末梢神経症が慢性低酸素症を原因とする請求項24記載の方法。
【請求項28】
糖尿病非依存性末梢神経症が構造的血管疾患を原因とする請求項24記載の方法。
【請求項29】
微小血管合併症が高血圧を伴う請求項22記載の方法。
【請求項30】
微小血管合併症が潰瘍を伴う請求項22記載の方法。
【請求項31】
IL−6が組換え体である請求項22記載の方法。
【請求項32】
前記融合タンパク質がIL−6R/IL−6である請求項22記載の方法。
【請求項33】
前記IL−6が1つもしくはそれ以上の部位でグリコシル化されている請求項22記載の方法。
【請求項34】
前記IL−6がグリコシル化されていない請求項22記載の方法。
【請求項35】
前記融合タンパク質が免疫プロブリン(Ig)融合体を含む請求項22記載の方法。
【請求項36】
前記機能性誘導体がアミノ酸残基上の1つもしくはそれ以上の側鎖として存在する1つもしくはそれ以上の官能基に結合した少なくとも1つの部分を含む請求項22記載の方法。
【請求項37】
前記部分がポリエチレン部分である請求項36記載の方法。
【請求項38】
有効量が、約2〜3mcg/kg、1〜3mcg/kgおよび0.2〜0.6mcg/kgの範囲から選択される請求項22記載の方法。
【請求項39】
前記有効量が約3mcg/kg、2mcg/kg、1mcg/kg、0.6mcg/kgおよび0.2mcg/kgから選択される請求項22記載の方法。
【請求項40】
前記有効量が140〜210、70〜210および14〜42mcgの範囲から選択される請求項22記載の方法。
【請求項41】
前記IL−6が1週間に3回投与される請求項22記載の方法。
【請求項42】
IL−6の内因性遺伝子活性化を可能にするために細胞内で機能するDNA調節配列を有する有効量のターゲッティングベクターを投与することを含む、糖尿病性神経症を除く微小血管合併症の治療および/または予防方法。
【請求項43】
糖尿病性神経症を除く微小血管合併症の治療および/または予防方法であって、微小血管合併症の治療および/または予防のための医薬の製造においてIL−6またはそのフラグメント、変異体もしくは融合タンパク質を産生するように遺伝子組換えされている細胞を投与することを含む方法。
【請求項44】
前記融合タンパク質がIL−6R/IL−6である請求項43記載の方法。
【請求項45】
IL−6またはそのフラグメント、変異体もしくは融合タンパク質のコーディング配列を含む発現ベクターを投与することを含む、糖尿病性神経症を除く、微小血管合併症の治療および/または予防方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−511612(P2008−511612A)
【公表日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−529137(P2007−529137)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【国際出願番号】PCT/IL2005/000928
【国際公開番号】WO2006/025057
【国際公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(303066954)アプライド・リサーチ・システムズ・エイアールエス・ホールディング・ナムローゼ・フェンノートシャップ (4)
【Fターム(参考)】