説明

血管形成の調節

本発明は、血管形成をもたらすことによって改善され得る病態を治療するための方法を提供する。本発明は、一般に、1またはそれより多い血管形成促進因子を発現および/または分泌する細胞を投与することによって血管形成をもたらすことを対象とする。本発明はまた、1またはそれより多い血管形成促進因子を発現および/または分泌する細胞の能力を調節する薬剤を求めてスクリーニングするための創薬方法を対象とする。本発明はまた、被験体に投与するための細胞の提供に用いられ得る細胞バンクであって、1またはそれより多い血管形成促進因子を所望のレベルで発現および/または分泌する細胞を含むバンクを対象とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管形成をもたらすことによって改善され得る病態を治療するための方法を提供する。本発明は、一般に、1またはそれより多い血管形成促進因子(pro−angiogenic factor)を発現および/または分泌する細胞を投与することによって血管形成をもたらすことを対象とする。本発明はまた、1またはそれより多い血管形成促進因子を発現および/または分泌する細胞の能力を調節する薬剤を求めてスクリーニングする創薬方法(drug discovery method)を対象とする。本発明はまた、被験体に投与するための細胞を提供するのに用いられ得る細胞バンクであって、1またはそれより多い血管形成促進因子を所望のレベルで発現および/または分泌する細胞を含む細胞バンクを対象とする。本発明はまた、1またはそれより多い血管形成促進因子を特定の所望のレベルで発現および/または分泌する細胞を含む、医薬組成物等、組成物を対象とする。本発明はまた、投与予定の細胞の所望の効力を評価するためのアッセイを含めた、治療予定の被験体に細胞を投与する前に行われる診断方法を対象とする。本発明は、治療中の被験体における細胞の効果を評価する治療後診断アッセイをさらに対象とする。細胞は、次の特徴のうちの1または複数によって特徴付けることのできる非胚性幹非生殖細胞である:癌化することのない、培養における延長された複製、多能性マーカーであるテロメラーゼ等、複製のマーカーの、延長された発現および広範な分化能。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
本発明は、概して、血管形成をもたらすための方法を対象とする。
【0003】
本発明はまた、血管形成をもたらす1またはそれより多い血管形成促進因子を提供するための方法を対象とする。
【0004】
血管形成促進因子として、FGF、VEGF、VEGFR、NRP−1、Ang1、Ang2、PDGF(BBホモ二量体)、PDGFR、TGF−β、エンドグリン、TGF−β受容体、MCP−1、インテグリンαβ、αβ、αβ、VE−カドヘリン、CD31、エフリン、プラスミノーゲン活性化因子、プラスミノーゲン活性化因子インヒビター−1、eNOS、COX−2、AC133、Id1/Id3、アンジオゲニン、HGF、Vegf、Il−1アルファ、Il−8、Il−6、Cxcl5、Fgfα、Fgfβ、Tgfα、Tgfβ、MMP(mmp9等)、プラスミノーゲン活性化因子インヒビター−1、トロンボスポンジン、アンジオポエチン1、アンジオポエチン2、アンフィレギュリン、レプチン、エンドセリン−1、AAMP、AGGF1、AMOT、ANGLPTL3、ANGPTL4、BTG1、IL−1β、NOS3、TNFSF12およびVASH2が挙げられるがこれらに限定されない。
【0005】
本発明によれば、血管形成をもたらすことは、1またはそれより多い血管形成促進因子を天然に(すなわち、組換えによらず)発現および/または分泌する細胞またはこの細胞で馴化した培地を投与することによって実現することができる。細胞として、胚性幹細胞の一部の特徴を有するが非胚性組織に由来し、1もしくは複数の血管形成促進因子を発現および/または分泌する、胚性幹細胞でも生殖細胞でもない細胞が挙げられるがこれに限定されない。細胞は、1またはそれより多い血管形成促進因子を天然に発現/分泌することができる(すなわち、発現および/または分泌を活性化するよう遺伝学的にまたは薬学的に改変されていない)。しかし、天然の発現細胞は、効力を高めるよう遺伝学的にまたは薬学的改変されていてよい。
【0006】
細胞は、oct4等、多能性マーカーを発現することができる。細胞は、テロメラーゼ等、延長された複製能と関連するマーカーを発現することもできる。多能性の他の特徴として、外胚葉、内胚葉および中胚葉のうちの2または3種等、2種以上の胚葉の細胞型へと分化する能力を挙げることができる。このような細胞は、培養において不死化または癌化していてもしていなくてもよい。細胞は、癌化することなく高度に増殖することができ、また、正常な核型を維持することもできる。例えば、一実施形態において、非胚性幹非生殖細胞は、培養において50または60回以上等、少なくとも10〜40回の細胞倍加を経たものでもよく、ここで、細胞は癌化しておらず、正常な核型を有する。細胞は、内胚葉、外胚葉および中胚葉の胚性系列のうちの2種のそれぞれの少なくとも1種類の細胞型へと分化することができ、これは、全3種への分化を包含することができる。さらに、細胞は、テラトーマを産生しないなど、腫瘍原性でなくてもよい。細胞が癌化している、または腫瘍原性であり、かつ細胞を注入に用いることが望ましい場合、このような細胞は、in vivoで腫瘍形成できないよう、細胞が腫瘍へと増殖するのを抑制する処置によって無能力化することができる。このような処置は、本技術分野で周知のものである。
【0007】
細胞として、次の番号の実施形態が挙げられるがこれらに限定されない。
【0008】
1.oct4を発現し、癌化せず、正常な核型を有し、培養において少なくとも10〜40回の細胞倍加を経た細胞であって、単離され、増殖した非胚性幹非生殖細胞。
【0009】
2.テロメラーゼ、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1またはそれより多くをさらに発現する、上述の番号1に記載の非胚性幹非生殖細胞。
【0010】
3.内胚葉、外胚葉および中胚葉の胚性系列のうちの少なくとも2種類のうちの少なくとも1種類の細胞型へと分化することのできる、上述の番号1に記載の非胚性幹非生殖細胞。
【0011】
4.テロメラーゼ、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1またはそれより多くをさらに発現する、上述の番号3に記載の非胚性幹非生殖細胞。
【0012】
5.内胚葉、外胚葉および中胚葉の胚性系列それぞれのうちの少なくとも1種類の細胞型へと分化することのできる、上述の番号3に記載の非胚性幹非生殖細胞。
【0013】
6.テロメラーゼ、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1またはそれより多くをさらに発現する、上述の番号5に記載の非胚性幹非生殖細胞。
【0014】
7.癌化せず、正常な核型を有し、培養において少なくとも40回の細胞倍加を経た細胞であって、非胚性非生殖組織の培養によって得られる、単離され、増殖した非胚性幹非生殖細胞。
【0015】
8.oct4、テロメラーゼ、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1またはそれより多くを発現する、上述の番号7に記載の非胚性幹非生殖細胞。
【0016】
9.内胚葉、外胚葉および中胚葉の胚性系列のうちの少なくとも2種類のうちの少なくとも1種類の細胞型へと分化することのできる、上述の番号7に記載の非胚性幹非生殖細胞。
【0017】
10.oct4、テロメラーゼ、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1またはそれより多くを発現する、上述の番号9に記載の非胚性幹非生殖細胞。
【0018】
11.内胚葉、外胚葉および中胚葉の胚性系列それぞれのうちの少なくとも1種類の細胞型へと分化することのできる、上述の番号9に記載の非胚性幹非生殖細胞。
【0019】
12.oct4、テロメラーゼ、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1またはそれより多くを発現する、上述の番号11に記載の非胚性幹非生殖細胞。
【0020】
13.テロメラーゼを発現し、癌化せず、正常な核型を有する、培養において少なくとも10〜40回の細胞倍加を経た細胞であって、単離され、増殖した非胚性幹非生殖細胞。
【0021】
14.oct4、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1またはそれより多くをさらに発現する、上述の番号13に記載の非胚性幹非生殖細胞。
【0022】
15.内胚葉、外胚葉および中胚葉の胚性系列のうちの少なくとも2種類のうちの少なくとも1種類の細胞型へと分化することのできる、上述の番号13に記載の非胚性幹非生殖細胞。
【0023】
16.oct4、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1またはそれより多くをさらに発現する、上述の番号15に記載の非胚性幹非生殖細胞。
【0024】
17.内胚葉、外胚葉および中胚葉の胚性系列それぞれのうちの少なくとも1種類の細胞型へと分化することのできる、上述の番号15に記載の非胚性幹非生殖細胞。
【0025】
18.oct4、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1またはそれより多くをさらに発現する、上述の番号17に記載の非胚性幹非生殖細胞。
【0026】
19.培養において少なくとも10〜40回の細胞倍加を経た細胞であって、内胚葉、外胚葉および中胚葉の胚性系列のうちの少なくとも2種類のうちの少なくとも1種類の細胞型へと分化することのできる、単離され、増殖した非胚性幹非生殖細胞。
【0027】
20.oct4、テロメラーゼ、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1またはそれより多くを発現する、上述の番号19に記載の非胚性幹非生殖細胞。
【0028】
21.内胚葉、外胚葉および中胚葉の胚性系列それぞれのうちの少なくとも1種類の細胞型へと分化することのできる、上述の番号19に記載の非胚性幹非生殖細胞。
【0029】
22.oct4、テロメラーゼ、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1またはそれより多くを発現する、上述の番号21に記載の非胚性幹非生殖細胞。
【0030】
一実施形態において、被験体はヒトである。
【0031】
1またはそれより多い血管形成促進因子を発現および/または分泌する細胞は、1またはそれより多い血管形成促進因子を発現および/または分泌して血管形成をもたらすことができる細胞の能力を調節する薬剤を求めてスクリーニングするための創薬方法に用いることができる。このような薬剤として、有機小分子、アンチセンス核酸、siRNA、DNAアプタマー、ペプチド、抗体、非抗体タンパク質、サイトカイン、ケモカインおよび化学誘引物質が挙げられるがこれらに限定されない。
【0032】
特定の例示的な一実施形態において、効力は、細胞をTNF−α、IL−1βおよびIFN−γの組み合わせへと曝露することにより増強される。他の実施形態において、これら成分のいずれかを個々に用いることができる。さらに別の実施形態において、Il1−α、IL−6、TGF−b、GM−CSF、IL11、IL12、IL17、IL18、IL8、LPS等のトール様受容体リガンド、ポリ(1:C)、CPGN−ODNおよびザイモサン等、他のインターロイキンまたはインターフェロン等が挙げられるがこれらに限定されない他の炎症誘発性分子を用いることができる。別の特定の例示的な一実施形態において、効力は、細胞をプロスタグランジンF類似体であるラタノプロストに曝露することにより増強される。別の一実施形態において、細胞は、プロスタグランジンF、その他の任意のプロスタグランジンF2アルファ受容体類似体、E型プロスタグランジンまたは類似体に曝露することができる。
【0033】
本願に記載されている血管形成効果は、分泌された因子によって生じ得るため、細胞だけではなく該細胞を培養することによって得られる馴化培地(またはその抽出物)もこの効果の達成に有用である。このような培地は、分泌された因子を含有し、従って、細胞の代わりに用いる、あるいは細胞に加えることができると思われる。そこで、細胞を用いてよい場合、馴化培地(またはその抽出物)もまた有効となると思われ、馴化培地を細胞と置き換えても、それに加えてもよいことを理解されたい。
【0034】
血管形成効果を達成する細胞の性質を考慮して、1またはそれより多い血管形成促進因子を発現および分泌して血管形成をもたらす所望の効力を持つように選択された細胞を収容する細胞バンクを確立することができる。よって、本発明は、1またはそれより多い血管形成促進因子を発現および/または分泌する能力に関して細胞をアッセイするステップと、所望の効力を有する細胞をバンキング(banking)するステップを網羅する。バンクは、被験体に投与する医薬組成物を作製するためのソースをもたらすことができる。細胞は、バンクから直接的に用いても、使用前に増殖させてもよい。特に、細胞がさらなる増殖に付される場合、増殖後に、細胞が依然として所望の効力を有することを検証することが望ましい。バンクは、被験体に対し同種異系である細胞の「すぐに入手可能な(off the shelf)」使用を可能にする。
【0035】
よって、本発明はまた、細胞を被験体に投与する前に行われる診断手順を対象とする。手順は、1またはそれより多い血管形成促進因子を発現および/または分泌することにより血管形成をもたらすことができる細胞の効力を評価するステップを包含する。細胞は、細胞バンクから取り出して直接的に用いても、投与前に増殖させてもよい。いずれの場合においても、細胞は、所望の効力について評価することができる。特に、細胞がさらなる増殖に付される場合、増殖後に、細胞が依然として所望の効力を有することを検証することが望ましい。あるいは、細胞は被験体から得られ、投与前に増殖することができる。この場合、同様に、細胞は、被験体に戻し投与する前に所望の効力について評価することができる(自家)。
【0036】
1またはそれより多い血管形成促進因子の発現に関して選択された細胞は、選択手順において必ずアッセイされるが、治療のために被験体に投与する前に細胞を再度アッセイして、細胞が依然として所望のレベルの因子を発現することを確認することが好ましく、賢明なことがある。発現細胞が増殖されていた場合、あるいは細胞バンク等に任意の期間保存されて、そこで保存されている間、多くの場合細胞が凍結されている場合、これは特に好ましい。
【0037】
1またはそれより多い血管形成促進因子を発現/分泌する細胞を用いた治療方法に関し、最初の細胞単離と被験体への投与との間に、因子(複数可)の発現に関する複数の(すなわち、逐次的な)アッセイを行ってよい。これは、この時間枠内で行われる操作後に細胞が依然として1またはそれより多い血管形成促進因子を発現/分泌することを確認するためのものである。例えば、アッセイは、毎回細胞が増殖した後に実行することができる。細胞が細胞バンクに保存されている場合、細胞は、保存から取り出した後にアッセイすることができる。細胞が凍結されている場合、細胞は、解凍後にアッセイすることができる。細胞バンクから得られた細胞が増殖する場合、細胞は、増殖後にアッセイすることができる。好ましくは、最終細胞産物(すなわち、被験体に物理的に投与される細胞標本)の一部をアッセイすることができる。
【0038】
本発明は、細胞投与後に有効性を評価するための治療後診断アッセイをさらに包含する。診断アッセイとして、臨床症状、形態学(例えば、血管の存在)または1もしくは複数の血管形成バイオマーカーによる血管形成の解析が挙げられるがこれらに限定されない。
【0039】
本発明はまた、1またはそれより多い血管形成促進因子を発現および/または分泌して血管形成をもたらす細胞の効力を評価することによる、細胞の投薬量を確立するための方法を対象とする。この場合、効力が決定され、それに従って投薬量が調整される。
【0040】
効力は、因子そのものの量を測定することにより評価することができる。効力は、in vivoまたはin vitro血管形成等、因子によってもたらされる効果をアッセイすることによって評価することもできる。
【0041】
本発明はまた、所望の効力、特に、1またはそれより多い血管形成促進因子の所望の量の発現および/または分泌を有する細胞の集団を含む組成物を対象とする。このような集団は、被験体への投与に適した医薬組成物として存在し得る、および/または細胞バンク(ここから直接細胞を被験体への投与に用いることができる、または投与前に増殖させることができる)に存在し得る。一実施形態において、細胞は、以前の(親)細胞集団と比べて増強された(増加した)効力を有する。親細胞は、本明細書に定義されている通りのものである。増強は、天然の発現細胞の選択によって、あるいは細胞に作用する外因子によってなされ得る。
【0042】
本発明の方法および組成物は、血管形成が有益となる任意の疾患の治療に有用である。この疾患として、任意の虚血性状態、例えば、急性心筋梗塞、慢性心不全、末梢血管疾患、脳卒中、慢性完全閉塞(chronic total occlusion)、腎虚血および急性腎傷害が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
これらの治療のため、1またはそれより多い血管形成促進因子を発現する細胞が投与されると思われる。このような細胞は、該細胞が発現および/または分泌する因子(複数可)の量について評価され、因子(複数可)の所望の量の発現および/または分泌に関して選択された可能性がある。
【0044】
上述の疾患のいずれの治療の場合、このような細胞、すなわち、状態の治療のための投与前に因子(複数可)の発現および/または分泌について評価され、所望のレベルの発現および/または分泌に関して選択された細胞の使用が好都合となり得ることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、MultiStemが、血管形成をin vitroで誘導し、複数の血管形成促進因子を分泌することを示す図である。(A)培養HUVECを用いた、MultiStem馴化培地(CM)によって誘導されたin vitro血管形成の写真。(B)各条件における視野毎に形成された管の平均数。(C)MultiStem4日目馴化培地と共にインキュベートした血管形成抗体アレイ。MultiStemによってVEGF、IL−8およびCXLC5が分泌される。4種の別個の培養物から得られ3日間経過した培地におけるCXCL5(D)、VEGF(E)およびIL−8(F)タンパク質濃度は、MultiStemが、標準培養条件下でこれらのタンパク質を一貫して発現することを図示する。
【図2】図2は、VEGFが、MultiStemの誘導する血管形成に必要とされることを示す図である。馴化培地からVEGFを除去すると血管形成が抑制され、(A)完全なVEGF免疫枯渇および抗体特異性が示されるが、一方IL−8(B)およびCXCL5(C)のレベルは影響を受けない。(D、E)VEGFの免疫枯渇は、MultiStem馴化培地によって誘導される血管形成を低下させる。少なくとも250pg/mlのVEGF165または50pg/mlのVEGF121の添加は、ある程度のレベルの血管形成の回復に必要とされるが、どちらも活性を完全には回復させなかった。
【図3】図3は、IL−8が、MultiStemの誘導する血管形成に必要であることを示す図である。馴化培地からIL−8を免疫枯渇すると、血管形成が低下するが、基本培地へのIL−8の添加は、血管形成の誘導には不十分であった。(A)HUVECを、(a)内皮成長因子培地(EGM)、(b)無血清基本MultiStem培地、(c)4日目の無血清MultiStem CM、(d)ウサギIgGアイソタイプ対照および(e)IL−8を免疫枯渇した4日目の無血清MultiStem CMと共に18時間インキュベートした。(B)IL−8は免疫枯渇によって低下する。(C、D)VEGFおよびCXCL5のレベルは変化しなかった。
【図4】図4は、CXCL5が、MultiStemの誘導する血管形成に必要とされることを示す図である。しかし、IL−8およびCXCL5は、血管形成の開始には不十分である。(A)HUVECを、(a)内皮成長因子培地(EGM)、(b)EGM+IgGアイソタイプ対照、(c)EGM+10ug/mlのCXCL5中和抗体、(d)無血清基本MultiStem培地、(e)4日目の無血清MultiStem馴化培地単独(CM)、(f)CM+IgGアイソタイプ対照、(g)CM+CXCL5中和抗体(10ug/ml)と共に18時間インキュベートした。(B、C)MultiStem基本培地へのIL−8(4000pg/ml)またはCXCL5(150pg/ml)の単独または併用した添加は、血管形成の誘導には不十分であった。
【図5】図5は、MultiStemとは異なり、MSCが血管形成をin vitroで誘導しないことを示す図である。(A)内皮細胞管形成におけるMSCおよびMultiStem馴化培地(CM)の効果の差異を図示するin vitro血管形成アッセイ。(B)6時間後および24時間後の内皮細胞管形成におけるMSCおよびMultistem CMの効果を示すin vitro血管形成アッセイの写真。(C〜E)MSCおよびMultiStemによって分泌されたCXCL5、VEGFおよびIL−8の濃度。
【図6】図6は、MultiStemおよびMSCが、異なる分泌プロファイルを有することを示す図である。血管形成特異的抗体アレイによる、同一ドナー(3名のドナーの試料セットを解析)に由来するMSCおよびMultiStemの馴化培地の解析。(A)発達した膜の写真は、MultiStemの分泌プロファイルが、他のドナーのMultiStemと類似しているが、MSCの分泌プロファイルと比較した場合、同一ドナーのものであっても有意差を示すことを図示する。(B)MultiStemによるIL−8の独占的発現等、MSC対MultiStemの異なる分泌プロファイルを示すアレイの半定量的解析。データは、総タンパク質含量に対して正規化した、陽性対照のパーセントとしての平均スポット強度として表示する。
【図7】図7は、MultiStemをCytomixで処理すると、血管形成促進分子の発現をin vitroで増加させることを示す図である。MultiStemを3日間成長させ、次に、Cytomix(10ng/mL TNF−α、IL−1βおよびIFNγ)で24、48、72時間処理した。その後、血管形成促進遺伝子発現のRT−PCR解析のために細胞を収集した。CXCL5、FGF2およびHGF遺伝子発現は全て、cytomix処理によりベースラインを超えて増加した。その上、これらの条件においてIL−8も増加する。
【図8】図8は、Cytomixで処理(48時間)したMultiStemにおける血管形成遺伝子発現の上方制御が、マイクロアレイ解析によっても示されることを示す図である。この図は、制御された血管形成因子のサンプルを示す。マイクロアレイ解析は、Cytomixで6または48時間処理したMultiStemにおける血管形成促進因子の増加を示す。cytomixで処理したMultiStem(各時点でn=6)または未処理MultiStem(各時点でn=6)から得られたRNAをIlluminaマイクロアレイチップ(HumanHT−12_V4)により解析した。2種のMultiStemバンクを検査した。この図は、上方制御された血管形成促進遺伝子サンプルの倍数増加の具体例を示す。qPCRによるさらなる確認が必要とされ、これは現在進行中である。
【図9】図9は、Cytomix処理が、HUVEC管形成アッセイにおいてMultiStemの血管形成潜在力を増加させることを示す図である。この図は、血管形成の点数化を示す。CytomixによるMultiStemの処理は、HUVEC管形成アッセイにおいて血管形成を増加させる。3日後の細胞から収集された無血清馴化培地は、未処理MultiStemから得られた馴化培地も堅調なHUVEC管形成を行うが、Cytomixによる細胞の処理が、血管形成潜在力を増加させたことを示す。Lonza MSCから得られた無血清馴化培地は、有意なHUVEC管形成を誘導しなかった。MSCの処理は、血管形成潜在力を僅かに増加させただけであった。EGM=内皮成長培地(陽性対照)。EBM=無血清基本内皮培地(陰性対照)。
【図10A】図10A〜Cは、プロスタグランジンFまたはラタノプロスト(プロスタグランジンFアゴニスト)によるMultiStemの前処理が、MultiStemによるin vitroでの血管形成因子の発現を増加させることを示す図である。プロスタグランジンF類似体、ラタノプロストによるMultiStemの処理も、血管形成促進因子の発現を増加させた。MultiStemを用量範囲のラタノプロストで24、48または72時間処理した。次に、RT−PCRにより血管形成促進因子の遺伝子発現を解析した。KITLG(A)、HGFおよびVEGF(B)ならびにIl−8(C)の遺伝子発現は全て増加した。生物学的プロスタグランジンFもまた、VEGF Aレベルを増加させた(B)。
【図10B】図10A〜Cは、プロスタグランジンFまたはラタノプロスト(プロスタグランジンFアゴニスト)によるMultiStemの前処理が、MultiStemによるin vitroでの血管形成因子の発現を増加させることを示す図である。プロスタグランジンF類似体、ラタノプロストによるMultiStemの処理も、血管形成促進因子の発現を増加させた。MultiStemを用量範囲のラタノプロストで24、48または72時間処理した。次に、RT−PCRにより血管形成促進因子の遺伝子発現を解析した。KITLG(A)、HGFおよびVEGF(B)ならびにIl−8(C)の遺伝子発現は全て増加した。生物学的プロスタグランジンFもまた、VEGF Aレベルを増加させた(B)。
【図10C】図10A〜Cは、プロスタグランジンFまたはラタノプロスト(プロスタグランジンFアゴニスト)によるMultiStemの前処理が、MultiStemによるin vitroでの血管形成因子の発現を増加させることを示す図である。プロスタグランジンF類似体、ラタノプロストによるMultiStemの処理も、血管形成促進因子の発現を増加させた。MultiStemを用量範囲のラタノプロストで24、48または72時間処理した。次に、RT−PCRにより血管形成促進因子の遺伝子発現を解析した。KITLG(A)、HGFおよびVEGF(B)ならびにIl−8(C)の遺伝子発現は全て増加した。生物学的プロスタグランジンFもまた、VEGF Aレベルを増加させた(B)。
【図11】図11は、ラタノプロスト(1uM)処理したMultiStemの血管形成潜在力を試験するためのHUVEC管形成アッセイを示す図である。HUVEC管形成は、未処理細胞の馴化培地と比較してラタノプロスト処理細胞の馴化培地によりやや増加した。単独で培養またはラタノプロスト(1uM)の存在下で培養したMultiStemから3日目に無血清培地を収集した。基本培地またはラタノプロストを添加した基本培地は、有意な管形成を誘導しなかった。対照的に、未処理細胞の馴化培地単独または収集後の培地にラタノプロスト(1uM)を添加したものは、血管形成を同等のレベルに誘導した。ラタノプロストで3日間処理した細胞から収集した無血清馴化培地は、このin vitroアッセイにより測定したところ、血管形成潜在力をわずかに増加させた。EGMおよび血清含有MultiStem培地を陽性対照とした。EBMおよび基本無血清培地を陰性対照とした。
【図12】図12は、in vitro血管形成解析が、様々な細胞ロットの効力および処理プロトコールの検査に利用できることを示す図である。HUVEC管形成アッセイを用いることによる血管形成潜在力の測定は、様々な細胞ロット(解凍a〜f)の細胞の機能効力または様々な処理条件(解凍−f対24時間A〜F)の評価に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、本明細書に記載されている特定の手法、プロトコールおよび試薬等に限定されない(これらは変動し得るため)ことを理解されたい。本明細書で使用される専門用語は、単に特定の実施形態を説明するためのものであり、特許請求の範囲によってのみ定義される発明の開示の範囲を限定することを意図しない。
【0047】
本明細書における節の見出しは、構成目的のみに用いられ、決して記載されている主題を限定するものと解釈するべきではない。
【0048】
本願の方法および技法は一般に、他に断りがなければ、本技術分野で周知の従来方法に従って、本明細書を通じて引用および記述されている種々の一般およびより特殊な参考文献に記載されている通りに実施される。例えば、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor, N.Y.(2001年)ならびにAusubelら、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing Associates(1992年)ならびにHarlowおよびLane、Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor, N.Y.(1990年)を参照されたい。
【0049】
定義
本明細書において、「1つの(a)」または「1つの(an)」は、「1つまたは2つ以上」、「少なくとも1つ」を意味する。本明細書において複数形が用いられている場合、これは一般に、単数も包含する。
【0050】
「細胞バンク」とは、将来的に用いるために成長・保存された細胞の業界用語である。細胞は、分注して保存することができる。細胞は、保存状態から直接的に用いても、保存後に増殖させてもよい。投与に利用できる「すぐに入手可能な」細胞があるのは便利なことである。細胞は、直接的に投与できるよう予め薬学的に許容される賦形剤中に保存されていても、あるいは保存から取り出したときに適切な賦形剤と混合してもよい。細胞は、凍結しても、あるいは生存能を保つ他の形態で保存してもよい。本発明の一実施形態において、1またはそれより多い血管形成促進因子の発現増強に関して選択された細胞の細胞バンクが作製される。保存状態から取り出した後、被験体に投与する前に、細胞の効力、すなわち、1またはそれより多い血管形成促進因子の発現レベルを再度アッセイすることが好ましいことがある。この操作は、本願に記載されている、あるいは本技術分野で公知の直接的または間接的なアッセイのいずれかを用いて行うことができる。その後、所望の効力を有する細胞は、次に、治療のために被験体へと投与することができる。バンクは、治療予定の個体に由来する(胎盤、臍帯血または臍帯マトリックス等、その出生前組織の、あるいは出生後のいずれかの時点の個体から増殖させた)細胞を用いて作製することができる。あるいは、バンクは、同種異系用途の細胞を含有することができる。
【0051】
「同時投与」は、2種以上の薬剤の同時または逐次投与等、互いに併せて、一緒に、協調的に投与することを意味する。
【0052】
「含む」は、他に限定されず、必ず指示対象を包含し、他に包含され得るものに関して全く留保や除外がないことを意味する。例えば、「xおよびyを含む組成物」は、この組成物中に他の成分が存在しているかに関係なく、xおよびyを含有するあらゆる組成物を網羅する。同様に、「xのステップを含む方法」は、xがこの方法における唯一のステップであれ、単にいくつかのステップのうちの1ステップであれ、他のステップがいくつ存在し得るか関係なく、また、それらと比較してxがどれほど単純か複雑かに関係なく、xが実施されるあらゆる方法を網羅する。「構成される(comprised of)」および「含む(comprise)」がルーツの単語を用いた類似の語句は、本明細書において、「含むこと(comprising)」の同義語として用いられ、同じ意味を持つ。
【0053】
「構成される」は、「含む」の同義語である(上述を参照)。
【0054】
「馴化細胞培養培地」は、本技術分野で周知の用語であり、細胞が成長した培地を指す。本明細書において、この用語は、血管形成または1もしくは複数の血管形成促進因子をもたらす等、本願に記載されているいずれの結果の達成にも有効な因子の分泌に十分な時間細胞が成長することを意味する。
【0055】
馴化細胞培養培地は、因子を培地に分泌するよう細胞が培養された培地を指す。本発明の目的において、細胞は、十分な回数の細胞分裂により成長して、有効量のこのような因子を産生し、培地は、血管形成をもたらすまたは1もしくは複数の血管形成促進因子の供給等の効果を有することができる。遠心分離、濾過、免疫枯渇(例えば、タグ付き抗体および磁気カラムによる)およびFACS選別等が挙げられるがこれらに限定されない本技術分野で公知の方法のいずれかにより、培地から細胞を除去する。
【0056】
「EC細胞」は、奇形癌腫と呼ばれる癌の1種の解析から発見された。1964年、研究者らは、奇形癌腫における単一細胞の単離に成功し、これが培養において未分化を維持したことに注目した。この種の幹細胞は、胚性癌腫細胞(EC細胞)として知られるようになった。
【0057】
「有効量」は、一般に、血管形成によってもたらされる所望の局所または全身効果を生じる量を意味する。例えば、有効量は、有益または所望の臨床結果の効果を生じるのに十分な量のことである。有効量は、単回投与で一度に与えてもよいし、僅かな量を複数回投与して有効量を与えてもよい。有効量であると考慮され得る量の正確な決定は、そのサイズ、年齢、傷害および/または治療中の疾患もしくは傷害および傷害発生もしくは疾患発症からの時間等、各被験体に対する要因それぞれに基づいてよい。当業者であれば、本技術分野においてルーチンであるこれらの検討に基づき所定の被験体に対する有効量を決定することができるであろう。本明細書において使用される場合、治療に関する「有効用量」という用語は、「有効量」と同じものを意味する。
【0058】
「有効経路」は、一般に、所望の区画、系または位置へと薬剤を送達させる経路を意味する。例えば、有効経路は、そこを通って薬剤を投与して、所望の作用部位において有益または所望の臨床結果の効果を生じるのに十分な薬剤量を与えることのできる経路である。
【0059】
「胚性幹細胞(ESC)」は、本技術分野で周知のものであり、多くの様々な哺乳動物種から調製されている。胚性幹細胞は、胚盤胞として知られる初期胚の内部細胞塊に由来する幹細胞である。この細胞は、3種の一次胚葉である外胚葉、内胚葉および中胚葉のあらゆる派生体へと分化することができる。これは、成体の身体の220種を超える細胞型のそれぞれを包含する。ES細胞は、胎盤を除く身体のいずれの組織となることもできる。桑実胚の細胞のみが全能性であり、あらゆる組織および胎盤となることができる。ESCに類似の数種の細胞は、除核した受精卵へと体細胞核を核移植することによって作製することができる。
【0060】
用語「包含する」の使用は、限定を目的としない。
【0061】
「増加する」または「増加している」は、生物学的事象を完全に誘導することまたは事象の程度が増加することを意味する。
【0062】
「誘導多能性幹細胞(IPSCまたはIPS細胞)」は、例えば、より未分化の表現型を体細胞に付与する外来遺伝子を導入することによりリプログラムされた体細胞である。続いて、この細胞は、より未分化の後代へと分化するよう誘導することができる。IPS細胞は、2006年(Yamanaka、S.ら、Cell Stem Cell、1巻:39〜49頁(2007年))に最初に発見されたアプローチの変法を用いて得られた。例えば、一事例において、IPS細胞を作製するため、科学者らは、皮膚細胞から出発して、次に、レトロウイルスを用いて遺伝子を細胞DNAに挿入する標準実験技法により改変した。一事例において、挿入された遺伝子は、細胞を胚性幹細胞様状態に維持するよう天然の制御因子として共に作用することが知られた、Oct4、Sox2、Lif4およびc−mycであった。これらの細胞は文献に記載されている。例えば、Wernigら、PNAS、105巻:5856〜5861頁(2008年);Jaenischら、Cell、132巻:567〜582頁(2008年);Hannaら、Cell、133巻:250〜264頁(2008年);およびBrambrinkら、Cell Stem Cell、2巻:151〜159頁(2008年)を参照されたい。IPSCおよびそれを作製するための方法を教示するために、参照によりこれらの参考文献を援用する。このような細胞は、特異的培養条件(特異的薬剤への曝露)により作製することも可能である。
【0063】
用語「単離された」は、細胞(単数または複数)とin vivoにおいて関連する1もしくは複数の細胞または1もしくは複数の細胞成分と関連しない細胞(単数または複数)を指す。「濃縮集団」は、in vivoまたは初代培養における1またはそれより多い他の細胞型と比べた所望の細胞の数の相対的な増加を意味する。
【0064】
しかし、本明細書において使用される場合、用語「単離された」は、幹細胞のみの存在を指し示さない。寧ろ、用語「単離された」は、細胞がその天然の組織環境から取り出され、正常な組織環境と比べてより高濃度で存在することを指し示す。よって、「単離された」細胞集団は、幹細胞に加えて細胞型をさらに包含しても、追加的な組織成分を包含してもよい。これは、例えば、細胞倍加の観点から表示することもできる。細胞は、10、20、30、40回以上の倍加をin vitroまたはex vivoで経ることができ、そのin vivoにおける最初の数またはその最初の組織環境(例えば、骨髄、末梢血、胎盤、臍帯、臍帯血、脂肪組織等)と比べて濃縮されている。
【0065】
「MAPC」は、「複能性成体前駆細胞(multipotent adult progenitor cell)」の頭字語である。この用語は、胚性幹細胞でも生殖細胞でもないが、それら細胞の特徴の一部を有する細胞を指す。MAPCは、それぞれ発見された際に細胞に新規性を付与した数多くの別の説明によって特徴付けることができる。従って、これは、これらの説明の1または複数によって特徴付けることができる。第一に、MAPCは、癌化(腫瘍化)することなく、正常な核型を有しつつ、培養において延長された複製能を有する。第二に、MAPCは、分化により2種または全3種の胚葉(すなわち、内胚葉、中胚葉および外胚葉)等、2種以上の胚葉の細胞後代を生じることができる。第三に、MAPCは、胚性幹細胞でも生殖細胞でもないが、これら原始細胞型のマーカーを発現することができ、MAPCは、Oct3/4(すなわち、Oct3A)、rex−1およびrox−1のうちの1またはそれより多くを発現することができる。MAPCは、sox−2およびSSEA−4のうちの1またはそれより多くを発現することもできる。第四に、幹細胞と同じく、MAPCは、自己再生することができる、すなわち、癌化することなく延長された複製能を有する。これは、この細胞が、テロメラーゼを発現する(すなわち、テロメラーゼ活性を有する)ことを意味する。よって、「MAPC」と命名された細胞型は、その新規の性質の一部を介して細胞について説明する別の基本特徴によって特徴付けることができる。
【0066】
MAPCの中の用語「成体(adult)」は制限的ではない。この用語は、非胚性体細胞を指す。MAPCは、核型が正常であり、テラトーマをin vivoで形成しない。この頭字語は、骨髄から単離された多能性細胞を説明するために米国特許第7,015,037号明細書において最初に用いられた。しかし、その後、多能性マーカーおよび/または分化能を有する細胞が発見され、これらは、本発明の目的では、「MAPC」と最初に命名された細胞と均等のものであってもよい。MAPC型の細胞の基本的な説明は、上述の「発明の概要」に提示されている。
【0067】
MAPCは、MSCよりも原始的な前駆細胞集団を表す(Verfaillie, CM.、Trends Cell Biol 12巻:502〜8頁(2002年);Jahagirdar, B.N.ら、Exp Hematol、29巻:543〜56頁(2001年);Reyes, M.およびC.M. Verfaillie、Ann N Y Acad Sci、938巻:231〜233頁(2001年);Jiang, Y.ら、Exp Hematol、30896〜904頁(2002年);ならびに(Jiang, Y.ら、Nature、418巻:41〜9頁(2002年))。
【0068】
用語「MultiStem(登録商標)」は、米国特許第7,015,037号明細書のMAPCに基づいた細胞標本、すなわち、上述の非胚性幹非生殖細胞の商品名である。MultiStem(登録商標)は、本特許出願に開示されている、特に低酸素かつ高血清の細胞培養方法に従って調製される。
【0069】
「薬学的に許容される担体」とは、本発明において用いられる細胞のための任意の薬学的に許容される培地である。このような培地は、等張性、細胞代謝、pHその他を保持することができる。これは、in vivoにおける被験体への投与と適合性であり、従って、細胞送達および治療に用いることができる。
【0070】
用語「効力」は、本願に記載されている種々の効果の達成に対する細胞(または細胞から得られた馴化培地)の有効性の程度を指す。よって、効力は、(1)血管形成の提供、(2)1もしくは複数の血管形成促進因子の発現および/もしくは分泌、または(3)不適切な血管形成を伴う臨床症状の治療による症状の低下(抑制等)が挙げられるがこれらに限定されない種々のレベルの効果を指す。
【0071】
「始原胚性生殖細胞」(PGまたはEG細胞)を培養して、多くのより未分化の細胞型を産生するよう刺激することができる。
【0072】
「前駆細胞」とは、その高分化した後代の特徴の一部(全部ではない)を有する、幹細胞の分化において産生された細胞である。「心筋前駆細胞」等、定義された前駆細胞は、系列にコミットしているが、特異的または高分化細胞型にはコミットしていない。頭字語「MAPC」の中に用いられている用語「前駆(progenitor)」は、これらの細胞を特定の系列へと限定しない。前駆細胞は、前駆細胞よりも高度に分化した後代細胞を形成することができる。
【0073】
本明細書において使用される用語「低下」は、減少および抑制を意味する。治療の文脈において、「低下」させることは、1またはそれより多い臨床症状を抑制あるいは寛解することである。臨床症状は、治療しなければ、被験体のクオリティオブライフ(健康)に悪影響がある、あるいはそうなるであろう1種(または複数種)の症状である。これは、その最終結果が不適切な血管形成による有害効果を寛解すると思われる、根底をなす生物学的効果にも適用される。
【0074】
所望のレベルの効力(例えば、1またはそれより多い血管形成促進因子を発現および/または分泌するための)を有する細胞の「選択」は、細胞の同定(アッセイによる)、単離および増殖を意味し得る。これは、該細胞が単離された親細胞(call)集団よりも高い効力を有する集団を作り出す可能性がある。「親」細胞集団とは、選択された細胞が分けられるもとの親細胞を指す。「親」は、実際のP1→F1関係性(すなわち、後代細胞)を指す。そこで、細胞Xが発現細胞であり細胞Yが発現細胞ではなく、細胞Xおよび細胞Yの混合集団から細胞Xが単離される場合、Xの単なる分離株は発現増強に分類されないであろう。しかし、Xの後代細胞がより高度な発現細胞である場合、後代細胞は発現増強に分類されるであろう。
【0075】
1またはそれより多い血管形成促進因子を発現する細胞の選択は、1またはそれより多い血管形成促進因子の発現/分泌があるか決定するためのアッセイを包含し、また、発現細胞の獲得も包含するであろう。発現細胞は組換え手段によって因子(複数可)を発現しないため、発現細胞は、1またはそれより多い血管形成促進因子を天然に発現することができる。しかし、発現細胞は、因子発現を増加させる薬剤と共にインキュベートまたはそれに曝露することによって改善することができる。発現細胞が選択される細胞集団は、アッセイを行う前に1またはそれより多い血管形成促進因子を発現することが知られていなくてもよい。
【0076】
選択は、組織中の細胞から行うことができる。例えば、この場合、細胞は、所望の組織から単離され、培養において増殖し、1またはそれより多い血管形成促進因子の発現/分泌に関して選択され、選択された細胞がさらに増殖する。
【0077】
選択は、培養における細胞等、ex vivoの細胞から得ることもできる。この場合、培養における1またはそれより多い細胞は、1またはそれより多い血管形成促進因子の発現/分泌についてアッセイされ、得られた1またはそれより多い血管形成促進因子を発現/分泌する細胞をさらに増殖させることができる。
【0078】
細胞は、1またはそれより多い血管形成促進因子の増強された発現/分泌に関して選択することもできる。この場合、増強された発現細胞が得られた細胞集団は、1またはそれより多い血管形成促進因子を既に発現/分泌していてもよい。増強された発現/分泌は、親発現細胞集団よりも高い細胞当りの平均量(発現および/または分泌)の1またはそれより多い血管形成促進因子を意味する。
【0079】
より高度な発現細胞が選択される親集団は、実質的に同種(同じ細胞型)となることができる。この集団からより高度な発現細胞を得る仕方の1つは、単一の細胞または細胞プールを作製し、これらの細胞または細胞プールを1またはそれより多い血管形成促進因子の発現/分泌についてアッセイして、1またはそれより多い血管形成促進因子の増強されたレベルを天然に発現/分泌するクローンを得て(1またはそれより多い血管形成促進因子の誘導因子で細胞を処理するのとは対照的に)、次に天然の高度な発現細胞であるこの細胞を増殖させることである。
【0080】
しかし、細胞は、因子の内因性細胞遺伝子の因子発現を増強させる1またはそれより多い薬剤で処理することができる。このように、実質的な同種集団は、発現を増強するよう処理することができる。
【0081】
集団が、実質的に同種でない場合、処理される親細胞集団は、発現増強に関して探求される少なくとも100個の発現細胞型、より好ましくは少なくとも1,000個の細胞、さらにより好ましくは、少なくとも10,000個の細胞を含有することが好ましい。処理後、この亜集団を、公知の細胞選択技法により異種集団から回収し、適宜さらに増殖させることができる。
【0082】
よって、因子発現の所望のレベルは、所定の先行集団におけるレベルよりも高いレベルとなり得る。例えば、組織由来の初代培養に付され、因子発現を促進するよう特異的に設計されていない培養条件で増殖し、単離された細胞は、親集団を生じることができる。このような親集団は、細胞当りの平均因子発現を増強するよう処理することができる、あるいは計画的な処理なしでより高レベルで発現する集団内の細胞(単数または複数)を求めてスクリーニングすることができる。次に、このような細胞は、より高度な(所望の)発現の集団を生じるよう増殖させることができる。
【0083】
「自己再生」は、その母細胞と同一の分化能を有する複製娘幹細胞を産生する能力を指す。この文脈で用いられる類似の用語に、「増殖」がある。
【0084】
「幹細胞」は、自己再生(すなわち、同じ分化能を有する後代)を経て、より制限された分化能の後代細胞を産生することもできる細胞を意味する。本発明の文脈の範囲内では、幹細胞は、例えば、核移植、より原始的な幹細胞との融合、特異的転写因子の導入または特異的条件下での培養による、より分化した脱分化細胞も網羅すると思われる。例えば、Wilmutら、Nature、385巻:810〜813頁(1997年);Yingら、Nature、416巻:545〜548頁(2002年);Guanら、Nature、440巻:1199〜1203頁(2006年);Takahashiら、Cell、126巻:663〜676頁(2006年);Okitaら、Nature、448巻:313〜317頁(2007年);およびTakahashiら、Cell、131巻:861〜872頁(2007年)を参照されたい。
【0085】
脱分化は、脱分化を生じ得る特定の化合物の投与またはin vitroもしくはin vivoにおける物理的環境への曝露によっても行われ得る。幹細胞は、奇形癌腫および胚様体等の一部の他のソース(直接的に内部細胞塊に由来しないとは言えこれらは胚性組織に由来することから、胚性幹細胞であると考えることができるが)等、異常組織にも由来し得る。幹細胞は、人工多能性幹細胞のように、幹細胞機能に関連する遺伝子を非幹細胞に導入することによって作製することもできる。
【0086】
「被験体」は、ヒト等の哺乳動物等、脊椎動物を意味する。哺乳動物として、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシおよびブタが挙げられるがこれらに限定されない。
【0087】
用語「治療上有効量」とは、哺乳動物において任意の治療応答を生じると決定された薬剤の量を指す。例えば、有効な治療用薬剤は、患者の生存を延ばすおよび/または顕性臨床症状を阻害することができる。本明細書における用語の意義範囲内における治療上有効な治療は、疾患成績それ自体を改善しないとしても、被験体のクオリティオブライフを改善する治療を包含する。このような治療上有効量は、当業者によって容易に確かめられる。よって、「治療」するとは、このような量を送達することを意味する。よって、治療は、不適切な血管形成による病理学的症状を防止または寛解することができる。
【0088】
「治療する(treat)」、「治療している(treating)」または「治療(treatment)」は、本発明との関連において広範に用いられ、このような用語のそれぞれは、とりわけ、治療法に干渉するおよび/またはそれに起因する等の、欠損、機能不全、疾患または他の有害過程の防止、寛解、阻害または治癒を網羅する。
【0089】
「検証」は、確認を意味する。本発明の文脈において、細胞が、所望の効力の発現細胞であることを確認する。この操作により、続いて、有効性が当然予想されるこの細胞を用いる(治療、バンキング、薬物スクリーニング等に)ことが可能になる。よって、検証とは、血管形成促進活性を有すると最初に見出された/有すると最初に樹立された細胞が、実際に該活性を保持していることの確認を意味する。このように、検証は、最初の決定および追跡決定に関与する2イベント過程(two−event process)における立証イベントである。第二のイベントは、本明細書において「検証」と称される。
【0090】
幹細胞
本発明は、好ましくは、ヒト、非ヒト霊長類、飼育動物、家畜その他の非ヒト哺乳動物等、脊椎動物種の幹細胞を用いて実施することができる。このようなものとして、後述の細胞が挙げられるがこれらに限定されない。
【0091】
胚性幹細胞
最もよく研究されている幹細胞は、胚性幹細胞(ESC)であるが、これは無制限の自己再生および複能性分化能を有するためである。この細胞は、胚盤胞の内部細胞塊に由来する、あるいは着床後の胚の始原生殖細胞(胚性生殖細胞すなわちEG細胞)に由来することもできる。ESおよびEG細胞は、先ずマウスから得られ、後に多くの様々な動物から、そしてより近年では非ヒト霊長類やヒトからも得られるようになった。マウス胚盤胞または他の動物の胚盤胞へと導入されると、ESCは、動物のあらゆる組織に寄与することができる。ESおよびEG細胞は、SSEA1(マウス)およびSSEA4(ヒト)に対する抗体を用いた陽染色によって同定することができる。例えば、そのそれぞれが、胚性幹細胞ならびにそれを作製および増殖する方法を教示するために参照により援用されている、米国特許第5,453,357号、第5,656,479号、第5,670,372号、第5,843,780号、第5,874,301号、第5,914,268号、第6,110,739号、第6,190,910号、第6,200,806号、第6,432,711号、第6,436,701号、第6,500,668号、第6,703,279号、第6,875,607号、第7,029,913号、第7,112,437号、第7,145,057号、第7,153,684号および第7,294,508号明細書を参照されたい。よって、ESCならびにそれを単離および増殖させるための方法は、本技術分野で周知のものである。
【0092】
胚性幹細胞の効力状態にin vivoで影響を及ぼす多数の転写因子および外来サイトカインが同定された。第一に言及するべき幹細胞多能性に関与する転写因子は、Oct4である。Oct4は、転写因子のPOU(Pit−Oct−Unc)ファミリーに属し、プロモーターまたはエンハンサー領域内に「オクタマーモチーフ」と呼ばれるオクタマー配列を含有する遺伝子の転写を活性化することのできるDNA結合タンパク質である。Oct4は、受精した接合子の卵割期の卵筒が形成されるまでの時期に発現する。Oct3/4の機能は、分化誘導遺伝子(すなわち、FoxaD3、hCG)を抑え、多能性を促進する遺伝子(FGF4、Utf1、Rex1)を活性化させることである。高移動度群(HMG)box転写因子のメンバーであるSox2は、Oct4と協同して、内部細胞塊において発現される遺伝子の転写を活性化させる。胚性幹細胞におけるOct3/4発現が、あるレベルの間で維持されることが重要である。Oct4発現レベルの>50%の過剰発現または下方制御は、胚性幹細胞運命を変更させ、それぞれ原始内胚葉/中胚葉または栄養外胚葉を形成するであろう。in vivoにおいて、Oct4欠損胚は、胚盤胞期へと発生するが、内部細胞塊の細胞は多能性ではない。その代わりに、これは胚外栄養膜系列に従って分化する。哺乳動物Spalt転写因子であるSall4は、Oct4上流の制御因子であり、従って、発生初期相におけるOct4の適切なレベルの維持に重要である。Sall4レベルが、ある閾値を下回って低減する場合、栄養外胚葉細胞は、内部細胞塊へと異所的に増殖するであろう。多能性に必要とされる別の転写因子は、ケルト族の常若の国を表す「ティルナノーグ(Tir Nan Og)」にちなんで名付けられたNanogである。in vivoでは、Nanogは、コンパクション(compacted)となった桑実胚期から発現し、その後、内部細胞塊限定的となり、着床期までに下方制御される。Nanogの下方制御は、多能性細胞の制御されない増殖の回避および原腸陥入における多系列分化を可能にするために重要となり得る。5.5日目に単離されたNanogヌル型の胚は、主として胚外内胚葉を含有し、識別可能な胚盤葉上層を含有しない組織崩壊した胚盤胞からなる。
【0093】
非胚性幹細胞
幹細胞は、殆どの組織において同定されている。恐らく、最も良く特性評価されているのは、造血幹細胞(HSC)である。HSCは、細胞表面マーカーおよび機能的な特徴を用いて精製できる中胚葉由来の細胞である。HSCは、骨髄、末梢血、臍帯血、胎児肝および卵黄嚢から単離されてきた。HSCは、造血発生を開始し、複数の造血系列を生じる。致死的に放射線照射された動物へと移植されると、HSCは、赤血球、好中球−マクロファージ、巨核球およびリンパ系造血細胞プールを再配置することができる。HSCは、ある程度の自己再生細胞分裂を行うよう誘導することもできる。例えば、米国特許第5,635,387号、第5,460,964号、第5,677,136号、第5,750,397号、第5,681,599号および第5,716,827号明細書を参照されたい。米国特許第5,192,553号明細書は、ヒト新生児または胎児造血幹または前駆細胞を単離するための方法を報告する。米国特許第5,716,827号明細書は、Thy−1前駆体であるヒト造血細胞およびそれをin vitroで再生するための適切な成長培地を報告する。米国特許第5,635,387号明細書は、ヒト造血細胞およびその先駆細胞を培養するための方法および装置を報告する。米国特許第6,015,554号明細書は、ヒトリンパ系および樹状細胞の再構成方法について記載する。よって、HSCならびにそれを単離および増殖するための方法は、本技術分野で周知のものである。
【0094】
本技術分野で周知の別の幹細胞は、神経幹細胞(NSC)である。この細胞は、in vivoで増殖し、少なくとも一部のニューロン細胞を持続的に再生させることができる。ex vivoで培養すると、神経幹細胞は、増殖し、異なる種類のニューロンおよびグリア細胞へと分化するよう誘導することができる。脳に移植すると、神経幹細胞が生着し、神経およびグリア細胞を生じることができる。例えば、Gage F.H.、Science、287巻:1433〜1438頁(2000年)、Svendsen S.N.ら、Brain Pathology、9巻:499〜513頁(1999年)およびOkabe S.ら、Mech Development、59巻:89〜102頁(1996年)を参照されたい。米国特許第5,851,832号明細書は、脳組織から得られた複能性神経幹細胞を報告する。米国特許第5,766,948号明細書は、新生児大脳半球から神経芽細胞の産生を報告する。米国特許第5,564,183号および第5,849,553号明細書は、哺乳動物神経堤幹細胞の使用を報告する。米国特許第6,040,180号明細書は、哺乳動物多分化能CNS幹細胞の培養物から分化したニューロンのin vitro作製を報告する。国際公開第98/50526号パンフレットおよび国際公開第99/01159号パンフレットは、神経上皮幹細胞、オリゴデンドロサイト−アストロサイト先駆細胞および系列制限されたニューロン先駆細胞の作製および単離を報告する。米国特許第5,968,829号明細書は、胚の前脳から得られた神経幹細胞を報告する。よって、神経幹細胞ならびにそれを作製および増殖するための方法は、本技術分野で周知のものである。
【0095】
本技術分野において広範に研究されてきた別の幹細胞は、間葉系幹細胞(MSC)である。MSCは、胚性中胚葉に由来し、とりわけ成体の骨髄、末梢血、脂肪、胎盤および臍帯血等、多くのソースから単離することができる。MSCは、筋肉、骨、軟骨、脂肪および腱等、多くの中胚葉組織へと分化することができる。この細胞に関して相当数の文献が存在する。例えば、米国特許第5,486,389号、第5,827,735号、第5,811,094号、第5,736,396号、第5,837,539号、第5,837,670号および第5,827,740号明細書を参照されたい。同様に、Pittenger, M.ら、Science、284巻:143〜147頁(1999年)も参照されたい。
【0096】
成体幹細胞の別の一例として、脂肪由来成体幹細胞(ADSC)が挙げられるが、これは通常、脂肪吸引と、それに続くコラゲナーゼを用いたADSCの遊離によって脂肪から単離される。ADSCは、脂肪からより多くの細胞が単離できることを除き、骨髄に由来するMSCと多くの点で類似している。この細胞は、骨、脂肪、筋肉、軟骨およびニューロンへと分化することが報告されている。単離方法は、米国特許出願公開2005/0153442号明細書に記載されている。
【0097】
本技術分野で公知の他の幹細胞は、胃腸幹細胞、表皮幹細胞および「卵円形細胞」とも呼ばれる肝幹細胞を包含する(Potten, C.ら、Trans R Soc Lond B Biol Sci、353巻:821〜830頁(1998年)、Watt, F.、Trans R Soc Lond B Biol Sci、353巻:831頁(1997年)、Alisonら、Hepatology、29巻:678〜683頁(1998年)。
【0098】
2種以上の胚葉の細胞型へと分化できると報告されている他の非胚性細胞として、これらの細胞を教示するためにそのそれぞれが参照により援用する、臍帯血(米国特許出願公開第2002/0164794号明細書を参照)、胎盤(米国特許出願公開第2003/0181269号明細書を参照)、臍帯マトリックス(Mitchell, K.E.ら、Stem Cells、21巻:50〜60頁(2003年))、小型の胚様幹細胞(Kucia, M.ら、J Physiol Pharmacol、57別冊5巻:5〜18頁(2006年))、羊水幹細胞(Atala, A.、J Tissue Regen Med、1巻:83〜96頁(2007年))、皮膚由来の先駆細胞(Tomaら、Nat Cell Biol、3巻:778〜784頁(2001年))および骨髄(米国特許出願公開第2003/0059414号および第2006/0147246号明細書を参照)由来の細胞が挙げられるがこれらに限定されない。
【0099】
体細胞リプログラミング戦略
核移植、細胞融合および培養により誘導されたリプログラミング等、数通りの異なる戦略が、分化した細胞の胚性状態への転換の誘導に用いられてきた。核移植は、体細胞核の除核卵母細胞への注射に関与し、この細胞を代理母へと移植すると、クローンを生じることができる(「生殖クローニング」)、あるいは培養において外植すると、遺伝的に一致した胚性幹(ES)細胞を生じることができる(「体細胞核移植」、SCNT)。体細胞とES細胞との細胞融合は、多能性ES細胞のあらゆる特色を示す雑種の生成を可能にする。培養における体細胞の外植は、多能性または複能性となり得る不死化細胞株を選択する。現在、精原幹細胞は、出生後の動物に由来し得る多能性細胞の唯一のソースである。規定の因子による体細胞の形質導入は、多能性状態へのリプログラミングを開始することができる。これらの実験アプローチは、広範に概説されている(Hochedlinger and Jaenisch、Nature、441巻:1061〜1067頁(2006年)およびYamanaka, S.、Cell Stem Cell、1巻:39〜49頁(2007年))。
【0100】
核移植
体細胞核移植(SCNT)とも言われる核移植(NT)は、ドナー体細胞由来の核を除核した卵母細胞(ogocyte)へと導入して、ヒツジのドリー(Dolly)等、クローン動物を作製することを表示する(Wilmutら、Nature、385巻:810〜813頁(1997年))。NTによる生きた動物の作製は、高分化細胞等、体細胞のエピジェネティック状態が、安定的であるが不可逆的に固定されておらず、新たな生物の発生を導くことが可能な胚性状態へとリプログラムすることができることを証明した。胚発生および疾患に関与する基本的なエピジェネティックメカニズムを解明するための刺激的な実験的アプローチの提供に加えて、核クローニング技術は、患者特異的移植医学に関して潜在力に興味深い。
【0101】
体細胞と胚性幹細胞の融合
体細胞核の未分化状態へのエピジェネティックリプログラミングは、胚性細胞と体細胞との融合によって作製されたマウス雑種において証明された。種々の体細胞と胚性癌腫細胞との(Solter, D.、Nat Rev Genet、7巻:319〜327頁(2006年)、胚性生殖(EG)とのまたはES細胞との(Zwaka and Thomson、Development、132巻:227〜233頁(2005年))間の雑種は、親胚性細胞と多くの特色を共有し、この結果は、多能性表現型がこのような融合産物において優性であることを指し示す。マウス(Tadaら、Curr Biol、11巻:1553〜1558頁(2001年))と同様に、ヒトES細胞は、融合後に体細胞核をリプログラムする潜在力を有する(Cowanら、Science、309巻:1369〜1373頁(2005年));Yuら、Science、318巻:1917〜1920頁(2006年))。Oct4等、サイレントな多能性マーカーの活性化または不活性体細胞X染色体の再活性化は、雑種細胞における体細胞ゲノムのリプログラミングの分子的根拠を与える。DNA複製が、多能性マーカーの活性化に必須であること、これは融合2日後に最初に観察され(Do and Scholer、Stem Cells、22巻:941〜949頁(2004年))、ES細胞におけるNanogの強制的な過剰発現が、神経幹細胞と融合された場合に多能性を促進すること(Silvaら、Nature、441巻:997〜1001頁(2006年))が示唆された。
【0102】
培養により誘導されたリプログラミング
多能性細胞は、卵割球および胚盤胞の内部細胞塊(ICM)(ES細胞)、胚盤葉上層(EpiSC細胞)、始原生殖細胞(EG細胞)等、胚性ソースならびに出生後の精原幹細胞(「maGSCsm」「ES様」細胞)に由来してきた。次に、多能性細胞と共に、そのドナー細胞/組織を示す。病原性ES細胞は、マウス卵母細胞に由来する(Narasimhaら、Curr Biol、7巻:881〜884頁(1997年));胚性幹細胞は、卵割球に由来した(Wakayamaら、Stem Cells、25巻:986〜993頁(2007年));内部細胞塊細胞(適用できないソース)(Egganら、Nature、428巻:44〜49頁(2004年));胚性生殖および胚性癌腫細胞は、始原生殖細胞に由来した(Matsuiら、Cell、70巻:841〜847頁(1992年));GMCS、maSSCおよびMASCは、精原幹細胞に由来した(Guanら、Nature、440巻:1199〜1203頁(2006年);Kanatsu−Shinoharaら、Cell、119巻:1001〜1012頁(2004年);およびSeandelら、Nature、449巻:346〜350頁(2007年));EpiSC細胞は、胚盤葉上層に由来する(Bronsら、Nature、448巻:191〜195頁(2007年);Tesarら、Nature、448巻:196〜199頁(2007年));病原性ES細胞は、ヒト卵母細胞に由来した(Cibelliら、Science、295L819巻(2002年);Revazovaら、Cloning Stem Cells、9巻:432〜449頁(2007年));ヒトES細胞は、ヒト胚盤胞に由来した(Thomsonら、Science、282巻:1145〜1147頁(1998年));MAPCは、骨髄に由来した(Jiangら、Nature、418巻:41〜49頁(2002年);Phinney and Prockop、Stem Cells、25巻:2896〜2902頁(2007年));臍帯血細胞(臍帯血に由来)(van de Venら、Exp Hematol、35巻:1753〜1765頁(2007年))に由来した;ニューロスフェア由来細胞は、神経細胞に由来する(Clarkeら、Science、288巻:1660〜1663頁(2000年))。PGCまたは精原幹細胞等、生殖細胞系列由来のドナー細胞は、in vivoにおいて単能性であることが公知であるが、多能性ES様細胞(Kanatsu−Shinoharaら、Cell、119巻:1001〜1012頁(2004年)またはmaGSC(Guanら、Nature、440巻:1199〜1203頁(2006年)は、延長したin vitro培養の後に単離できることが示された。これら多能性細胞型の多くは、in vitro分化およびテラトーマ形成できるが、ES、EG、ECおよび精原幹細胞由来のmaGCSまたはES様細胞のみが、出生後キメラを形成し、生殖系列に寄与することができるため、より厳密な判断基準によると多能性であった。近年、複能性成体精原幹細胞(MASC)は、成体マウスの精巣の精原幹細胞に由来し、この細胞は、ES細胞とは異なる発現プロファイルを有していた(Seandelら、Nature、449巻:346〜350頁(2007年))が、着床後マウス胚の胚盤葉上層に由来するEpiSC細胞と類似していた(Bronsら、Nature、448巻:191〜195頁(2007年);Tesarら、Nature、448巻:196〜199頁(2007年))。
【0103】
規定の転写因子によるリプログラミング
TakahashiとYamanakaは、体細胞をES様状態へと戻すリプログラミングについて報告した(Takahashi and Yamanaka、Cell、126巻:663〜676頁(2006年))。彼らは、4種の転写因子Oct4、Sox2、c−mycおよびKlf4を、ウイルスを介して形質導入し、Oct4標的遺伝子Fbx15の活性化を選択した後、マウス胚性線維芽細胞(MEF)および成体線維芽細胞の多能性ES様細胞へのリプログラムに成功した(図2A)。Fbx15が活性化した細胞は、iPS(人工多能性幹)細胞との造語をあてられ、生きたキメラは作製できなかったが、テラトーマを形成するその能力によって多能性であることを示した。この多能性状態は、形質導入されたOct4およびSox2遺伝子の継続的なウイルス発現に依存したが、一方、内因性Oct4およびNanog遺伝子は、発現していなかったか、あるいはES細胞よりも低レベルで発現し、これら遺伝子それぞれのプロモーターは、大部分がメチル化していることが判明した。この結果は、Fbx15−iPS細胞は、ES細胞と一致しないが、リプログラミングの不完全状態を表す可能性があるとの結論と一貫した。遺伝学的実験は、Oct4およびSox2が多能性に必須であることを確立したが(Chambers and Smith、Oncogene、23巻:7150〜7160頁(2004年);Ivanonaら、Nature、442巻:533〜538頁(2006年);Masuiら、Nat Cell Biol、9巻:625〜635頁(2007年))、2種の癌遺伝子c−mycおよびKlf4のリプログラミングにおける役割は、よく分かっていない。マウスとヒト両方のiPS細胞は、低効率ではあるがc−myc形質導入なしで得られたため、これら癌遺伝子の一部は、実際にはリプログラミングに不要である可能性がある(Nakagawaら、Nat Biotechnol、26巻:191〜106頁(2008年);Werningら、Nature、448巻:318〜324頁(2008年);Yuら、Science、318巻:1917〜1920頁(2007年))。
【0104】
MAPC
ヒトMAPCは、米国特許第7,015,037号明細書に記載されている。MAPCは、他の哺乳動物で同定されている。例えば、マウスMAPCも、米国特許第7,015,037号明細書に記載されている。ラットMAPCも米国特許第7,838,289号明細書に記載されている。
【0105】
Catherine Verfaillieによって最初に単離されたMAPCを説明するために、参照によりこれらの参考文献を援用する。
【0106】
MAPCの単離および成長
MAPC単離方法は、本技術分野で公知のものである。例えば、ここに参照により本明細書に援用する米国特許第7,015,037号明細書とこれらの方法を、MAPCの特性評価(表現型)と共に参照されたい。MAPCは、骨髄、胎盤、臍帯および臍帯血、筋肉、脳、肝臓、脊髄、血液または皮膚等が挙げられるがこれらに限定されない複数のソースから単離することができる。従って、骨髄吸引液、脳または肝臓生検その他の臓器を得て、これらの細胞において発現している(または発現していない)遺伝子に応じて当業者が利用できる正のまたは負の選択技法を用いて(例えば、ここに参照により本明細書に援用されている上に参照した出願において開示されているアッセイ等、機能的または形態学的アッセイにより)細胞を単離することが可能である。
【0107】
MAPCは、これらの方法のために参照により援用するBreyerら、Experimental Hematology、34巻:1596〜1601頁(2006年)およびSubramanianら、Cellular Programming and Reprogramming:Methods and Protocols;S. Ding(編)、Methods in Molecular Biology、636巻:55〜78頁(2010年)に記載されている修正方法によっても得られてきた。
【0108】
米国特許第7,015,037号明細書に記載されているヒト骨髄由来のMAPC
MAPCは、一般的な白血球抗原CD45または赤芽球特異的グリコホリン−A(Gly−A)を発現しない。細胞の混合集団をフィコールハイパック分離に付した。次に、細胞を抗CD45および抗Gly−A抗体を用いた負の選択に付し、CD45およびGly−A細胞集団を枯渇させ、続いて残りのおよそ0.1%の骨髄単核細胞を回収した。細胞は、フィブロネクチンでコーティングしたウェルに播種して、後述の通りに2〜4週間培養して、CD45およびGly−A細胞を枯渇させてもよい。接着骨髄細胞の培養物において、多くの接着ストローマ細胞は、ほぼ30回の細胞倍加で複製老化を行い、より均一の細胞集団が増殖し続け、長いテロメアを維持する。
【0109】
あるいは、正の選択を用いて細胞特異的マーカーの組み合わせにより細胞を単離してもよい。正のおよび負の選択技法の両方が当業者に利用でき、負の選択目的に適した多数のモノクローナルおよびポリクローナル抗体も本技術分野において利用でき(例えば、Leukocyte Typing、V, Schlossmanら編、(1995年)Oxford University Pressを参照)、これらは多数のソースから市販されている。
【0110】
細胞集団の混合物から哺乳動物細胞分離のための技法は、Schwartzらによる米国特許第5,759,793号明細書(磁気分離)、Baschら、1983年(免疫親和性クロマトグラフィー)およびWysocki and Sato、1978年(蛍光標識細胞分取)に記載されている。
【0111】
細胞は、低血清または無血清培養培地において培養することができる。MAPC培養に用いられる無血清培地は、米国特許第7,015,037号明細書に記載されている。一般に用いられている成長因子として、血小板由来成長因子および表皮成長因子が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、これら全て、無血清培地における細胞成長を教示するために参照により援用する、米国特許第7,169,610号、第7,109,032号、第7,037,721号、第6,617,161号、第6,617,159号、第6,372,210号、第6,224,860号、第6,037,174号、第5,908,782号、第5,766,951号、第5,397,706号および第4,657,866号明細書を参照されたい。
【0112】
追加的な培養方法
追加的な実験において、MAPCを培養する密度は、約200細胞/cmから約1500細胞/cmから約2000細胞/cm等、約100細胞/cmまたは約150細胞/cmから約10,000細胞/cmへと変動し得る。密度は、種間で変動し得る。その上、最適密度は、培養条件および細胞ソースに応じて変動し得る。所定のセットの培養条件および細胞のための最適密度の決定は、当業者の技能範囲内のものである。
【0113】
また、約1〜5%、特に、3〜5%等、約10%未満の有効大気酸素濃度は、培養におけるMAPCの単離、成長および分化における任意の時点で用いることができる。
【0114】
細胞は、種々の血清濃度下、例えば、約2〜20%で培養することができる。ウシ胎児血清を用いてよい。より低い酸素分圧と組み合わせてより高濃度、例えば、約15〜20%の血清を用いてもよい。細胞は、培養皿に接着する前に選択する必要はない。例えば、フィコール勾配後、細胞は、例えば、250,000〜500,000/cmで直接的に播種することができる。接着コロニーを採取し、場合によりプールし、増殖させることができる。
【0115】
一実施形態において、実施例の実験手順において、高血清(ほぼ15〜20%)および低酸素(ほぼ3〜5%)条件を細胞培養に用いた。具体的には、コロニーから得られた接着細胞を約1700〜2300細胞/cmの密度で18%血清および3%酸素において(PDGFおよびEGFと共に)播種、継代した。
【0116】
MAPC特異的な実施形態において、補充物は、MAPCが、全3種の系列等、2種以上の胚性系列の細胞型へと分化する能力を保持させる細胞因子または成分である。これは、Oct3/4(Oct3A)等、未分化状態の特異的マーカーおよび/またはテロメラーゼ等、高い増殖能のマーカーの発現によって指し示すことができる。
【0117】
細胞培養
下に列挙されている全成分に関して、これら成分を教示するために参照により援用する米国特許第7,015,037号明細書を参照されたい。
【0118】
一般に、本発明に有用な細胞は、本技術分野で周知の利用できる培養培地において維持および増殖させることができる。細胞培養培地に哺乳動物血清の補充も企図される。追加的な補充物は、最適な成長および増殖に必要な微量要素を細胞に供給するために有利に用いることもできる。細胞培養においてホルモンを有利に用いることもできる。細胞の種類および分化細胞の運命に応じて、脂質および脂質担体を細胞培養培地への補充に用いることもできる。フィーダー細胞層の使用も企図される。
【0119】
培養における細胞は、懸濁液中または細胞外マトリックス成分等、固体支持体に付着させて維持することができる。幹細胞は、多くの場合、I型およびII型コラーゲン、コンドロイチン硫酸、フィブロネクチン、「スーパーフィブロネクチン」およびフィブロネクチン様ポリマー、ゼラチン、ポリ−Dおよびポリ−L−リシン、トロンボスポンジンならびにビトロネクチン等、その固体支持体への付着を助長する追加的な因子を必要とする。本発明の一実施形態において、フィブロネクチンが利用される。例えば、Ohashiら、Nature Medicine、13巻:880〜885頁(2007年);Matsumotoら、J Bioscience and Bioengineering、105巻:350〜354頁(2008年);Kirouacら、Cell Stem Cell、3巻:369〜381頁(2008年);Chuaら、Biomaterials、26巻:2537〜2547頁(2005年);Drobinskayaら、Stem Cells、26巻:2245〜2256頁(2008年);Dvir−Ginzbergら、FASEB J、22巻:1440〜1449頁(2008年);Turnerら、J Biomed Mater Res Part B: Appl Biomater、82B巻:156〜168頁(2007年);およびMiyazawaら、Journal of Gastroenterology and Hepatology、22巻:1959〜1964頁(2007年))を参照されたい。
【0120】
細胞は、「3D」(凝集)培養において成長させてもよい。一例として、2009年1月21日に出願された国際出願PCT/US2009/31528号明細書が挙げられる。
【0121】
培養において樹立されると、細胞は、新鮮な状態で用いても、例えば、DMEMと40%FCSおよび10%DMSOを用いて凍結ストックとして凍結保存してもよい。当業者であれば、培養細胞の凍結ストックを調製するための他の方法も利用できる。
【0122】
製剤処方
製剤処方を教示するために、参照により米国特許第7,015,037号明細書を援用する。ある特定の実施形態において、細胞集団は、送達に適応または適した、すなわち、生理学的適合性の組成物の内に存在する。
【0123】
一部の実施形態において、被験体に投与するための細胞(または馴化培地)の純度は、約100%(実質的に同種)である。他の実施形態において、純度は、95%〜100%である。一部の実施形態において、純度は85%〜95%である。特に、他の細胞との混合物の場合、パーセンテージは、約10%〜15%、15%〜20%、20%〜25%、25%〜30%、30%〜35%、35%〜40%、40%〜45%、45%〜50%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%または90%〜95%となることができる。あるいは、単離/純度は、細胞が、例えば、10〜20、20〜30、30〜40、40〜50回以上の細胞倍加を行った場合、細胞倍加の観点から表記することができる。
【0124】
所定の適用のために細胞を投与するための製剤の選定は、多様な要因に依存するであろう。要因のうち顕著なものとして、被験体の種、治療されている病状の特性、被験体におけるその状態および分布、投与されている他の治療法および薬剤の特性、投与の最適経路、経路による生存性、投与計画ならびに当業者にとって明らかな他の要因が挙げられる。例えば、適切な担体および他の添加物の選定は、的確な投与経路および特定の投薬形態の特性に依存するであろう。
【0125】
細胞/培地の水性懸濁液の最終製剤は、通常、懸濁液のイオン強度の等張性(すなわち、約0.1〜0.2)および生理的pH(すなわち、約pH6.8〜7.5)への調整に関与するであろう。最終製剤は、通常、液体潤滑剤も含有するであろう。
【0126】
一部の実施形態において、細胞/培地は、溶液、懸濁液またはエマルジョン等、単位投薬量の注射用形態に処方される。細胞/培地の注射に適した製剤処方は、通常、滅菌水溶液および分散液である。注射用製剤の担体は、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝食塩水、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等)およびそれらの適切な混合物を含有する溶媒または分散媒となることができる。
【0127】
当業者であれば、本発明の方法において投与される組成物中の細胞および必要に応じた添加物、媒体および/または担体の量を容易に決定することができる。通常、任意の添加物(細胞に加えた)は、リン酸緩衝食塩水等、溶液中に0.001〜50wt%の量で存在する。有効成分は、約0.0001〜約5wt%、好ましくは約0.0001〜約1wt%、最も好ましくは約0.0001〜約0.05wt%または約0.001〜約20wt%、好ましくは約0.01〜約10wt%、最も好ましくは約0.05〜約5wt%等、マイクログラム〜ミリグラムの規模で存在する。
【0128】
一部の実施形態において、特に、カプセル封入が治療法の有効性を増強する、あるいは取り扱いおよび/または有効期間において有利である場合、細胞は投与のためにカプセル封入される。細胞は、埋め込み前に膜やカプセルによってカプセル封入することができる。利用できる多くの細胞カプセル封入方法のいずれかを用いることが企図される。
【0129】
細胞のマイクロカプセル封入のため、多種多様な材料を種々の実施形態で用いることができる。このような材料は、例えば、ポリマーカプセル、アルギン酸−ポリ−L−リシン−アルギン酸マイクロカプセル、バリウムポリ−L−リシンアルギン酸カプセル、アルギン酸バリウムカプセル、ポリアクリロニトリル/ポリ塩化ビニル(PAN/PVC)中空繊維およびポリエーテルスルホン(PES)中空繊維を包含する。
【0130】
細胞の投与に用いることのできる細胞のマイクロカプセル封入のための技法は、当業者にとって公知のものであり、例えば、Chang, P.ら、1999年;Matthew, H.W.ら、1991年;Yanagi, K.ら、1989年;Cai Z.H.ら、1988年;Chang, T.M.、1992年および米国特許第5,639,275号明細書(例えば、生物活性分子を安定的に発現する細胞の長期維持のための生体適合性カプセルについて記載)に記載されている。追加的なカプセル封入方法は、欧州特許出願公開第301,777号明細書ならびに米国特許第4,353,888号、第4,744,933号、第4,749,620号、第4,814,274号、第5,084,350号、第5,089,272号、第5,578,442号、第5,639,275号および第5,676,943号明細書に記載されている。前述の全ては、部分的に細胞のカプセル封入関係し、ここに参照により本明細書に援用する。
【0131】
ある特定の実施形態において、細胞は、バイオポリマーまたは合成ポリマー等、ポリマーに取り込まれる。バイオポリマーの例として、フィブロネクチン、フィブリン、フィブリノーゲン、トロンビン、コラーゲンおよびプロテオグリカンが挙げられるがこれらに限定されない。サイトカイン等、他の因子は上に記述されており、同様にポリマーに取り込むことができる。本発明の他の実施形態において、細胞は、三次元ゲルの間隙に取り込むことができる。大型のポリマーまたはゲルは、通常、外科的に埋め込まれるであろう。十分に小型の粒子または繊維において処方することのできるポリマーまたはゲルは、他の一般的でより簡便な非外科的経路により投与することができる。
【0132】
細胞の投薬量は、幅広い限度内で変動し、特定の事例それぞれにおける個々の要件に合致するであろう。一般に、非経口投与の場合、習慣的に、約0.01〜約2千万細胞/kg(レシピエント体重)が投与される。細胞数は、レシピエントの体重および状態、投与の回数または頻度ならびに当業者にとって公知の他の変数に応じて変動するであろう。細胞は、組織または臓器に適した経路によって投与することができる。例えば、細胞は、全身投与、すなわち、非経口で静脈内投与することができる、あるいは、特定の組織または臓器を標的とすることができ、細胞は、皮下投与または特異的な所望の組織への投与により投与することができる。
【0133】
細胞は、約0.01〜約5×10細胞/mlの濃度で適切な賦形剤に懸濁することができる。注射溶液に適した賦形剤は、緩衝生理食塩溶液または他の適切な賦形剤等、細胞およびレシピエントと生物学的および生理学的に適合性の賦形剤である。投与のための組成物は、妥当な無菌性および安定性を厳守した標準方法に従って処方、作製および保存することができる。
【0134】
リンパ球造血系組織への投与
これらの組織へと投与するための技法は、本技術分野で公知のものである。例えば、骨髄内注射は、通常、細胞の後腸骨稜の骨髄腔への直接的な注射に関与し得るが、腸骨稜、大腿骨、脛骨、上腕骨または尺骨における他の部位も包含し得る。脾臓注射は、脾臓へのX線検査ガイド注射または腹腔鏡下または開腹手術による脾臓の外科的曝露に関与し得る。パイエル板、GALTまたはBALT注射は、開腹手術または腹腔鏡下注射手順を必要とし得る。
【0135】
投薬
ヒトまたは他の哺乳動物のための用量は、当業者であれば、本開示、本明細書に引用されている文書および本技術分野における知見から、過度に実験することなく決定することができる。本発明の種々の実施形態に従った使用に適切な細胞/培地の用量は、多数の要因に依存するであろう。一次および補助的治療法のために投与される最適用量を決定するパラメータは、一般に、次のうち一部または全部を包含するであろう。治療中の疾患およびそのステージ;被験体の種、その健康、性別、年齢、重量および代謝速度;被験体の免疫適格性;投与されている他の治療法;ならびに被験体の病歴または遺伝子型から予想される潜在的な合併症。パラメータは、次の項目も包含し得る。細胞が、同系、自家、同種異系または異種であるか;その効力(特異的活性);有効な細胞/培地の標的となる必要のある部位および/または分布;ならびに細胞/培地に対する接触性および/または細胞の生着等、部位のこのような特徴。追加的なパラメータは、他の因子(成長因子およびサイトカイン等)との同時投与を包含する。所定の状況における最適用量は、細胞/培地が処方される仕方、投与の仕方および投与後に細胞/培地が標的部位に局在する程度も考慮に入れるであろう。
【0136】
細胞の最適用量は、自家単核骨髄移植に用いられる用量範囲に収まってよい。高度に純粋な細胞調製に関し、種々の実施形態における最適用量は、投与当り10〜10細胞/kg(レシピエント質量)の範囲となるであろう。一部の実施形態において、投与当りの最適用量は、10〜10細胞/kgの間となるであろう。多くの実施形態において、投与当りの最適用量は、5×10〜5×10細胞/kgとなるであろう。参照により、前述における高用量は、自家単核骨髄移植に用いられる有核細胞の用量と類似する。低用量の一部は、自家単核骨髄移植に用いられるCD34細胞/kgの数値と類似する。
【0137】
種々の実施形態において、細胞/培地を初回用量で投与し、その後、さらなる投与によって維持することができる。細胞/培地は、当初ある方法によって投与し、その後、同一方法または1もしくは複数の異なる方法によって投与することができる。レベルは、細胞/培地の進行中の投与によって維持することができる。種々の実施形態は、静脈内注射により初期にまたは被験体におけるそのレベルの維持のために細胞/培地を投与する、あるいはその両方を行う。多様な実施形態において、患者の状態および本明細書の他に記述されている他の要因に応じて他の投与形態が用いられる。
【0138】
細胞/培地は、広い範囲の時間にわたり多くの頻度で投与することができる。一般に、治療の長さは、疾患経過の長さ、適用されている治療法の有効性ならびに治療されている被験体の状態および応答に比例するであろう。
【0139】
用途
細胞の投与は、任意の虚血性状態、例えば、急性心筋梗塞、慢性心不全、末梢血管疾患、脳卒中、慢性完全閉塞、腎虚血および急性腎傷害等が挙げられるがこれらに限定されないあらゆる疾病における血管形成の提供に有用である。
【0140】
1またはそれより多い血管形成促進因子の誘導因子は、投与される細胞と投与前に混合しても、あるいは細胞と同時投与(同時的または逐次的に)してもよい。
【0141】
その上、本願に記載されている生物学的メカニズムの知見により、他の用途が提供される。その1つに創薬がある。この態様は、1またはそれより多い血管形成促進因子の発現および/または分泌を調節する能力に関する、および/または細胞によって分泌される1またはそれより多い血管形成促進因子の血管形成効果に関する1またはそれより多い化合物のスクリーニングに関与する。これは、1またはそれより多い血管形成促進因子を発現および/または分泌する細胞の能力および/または1またはそれより多い血管形成促進因子の血管形成効果のアッセイに関与する。よって、アッセイは、in vivoまたはin vitroで行われるよう設計することができる。
【0142】
細胞(または培地)は、因子のタンパク質またはRNAを直接的にアッセイすることによって選択することができる。これは、FACSおよび他の抗体に基づく検出方法ならびにPCRおよび他のハイブリダイゼーションに基づく検出方法等、本技術分野において利用できる周知技法のいずれかによって行うことができる。公知の受容体のいずれかとの結合等、因子発現のために間接的アッセイを用いることもできる。間接的効果は、因子とその受容体のいずれかとの結合によって誘発される、特異的生物学的シグナル伝達ステップ/イベントのいずれかのアッセイも包含する。従って、細胞に基づくアッセイを用いることもできる。1またはそれより多い血管形成促進因子の発現/分泌のアッセイのために下流標的を用いることもできる。検出は、直接的、例えば、RNAまたはタンパク質アッセイにより行っても、間接的、例えば、これら因子の1またはそれより多い生物学的効果の生物学的アッセイにより行ってもよい。
【0143】
よって、代用マーカーが、細胞が1またはそれより多い血管形成促進因子を発現/分泌することの指標として機能する限り、代用マーカーを用いることができる。
【0144】
発現/分泌のアッセイとして、組織試料または細胞におけるELISA、ルミネックス、qRT−PCR、抗因子ウエスタンブロットおよび因子免疫組織化学が挙げられるがこれらに限定されない。
【0145】
細胞および馴化培地における因子(複数可)の定量的決定は、市販のアッセイキット(例えば、二段階サブトラクティブ抗体ベースアッセイによるR&D Systems)を用いて実行することができる。
【0146】
in vitro血管形成アッセイを用いて、因子の発現/分泌を評価することもできる。このようなin vitro血管形成アッセイは、本技術分野で周知のものである。例えば、本願に記載されているHUVEC管形成アッセイ、内皮細胞増殖または遊走アッセイ、冠動脈リングアッセイおよびニワトリ漿尿膜アッセイ(CAM)を参照されたい。マトリゲルプラグアッセイ、ニワトリ大動脈弓アッセイおよびマトリゲルスポンジアッセイ等、in vivoの血管形成を決定するための周知のアッセイのいずれかを用いてin vivoの血管形成アッセイを適用することもできる。
【0147】
本発明のためのさらに別の用途は、臨床投与のための細胞を提供するための細胞バンクの確立である。一般に、この手順の基礎部分は、種々の治療的臨床背景における投与のための所望の効力を有する細胞を提供することである。
【0148】
創薬に有用な該アッセイのいずれかを、バンク用の細胞の選択やバンクの細胞の投与のための選択に適用することもできる。
【0149】
よって、バンキング手順において、細胞(または培地)は、上述の効果のいずれかを達成する能力に関してアッセイすることができる。次に、上述の効果のいずれかに対し所望の効力を有する細胞が選択され、これらの細胞は、細胞バンク作製の基礎をなす。
【0150】
効力が、大規模なコンビナトリアルライブラリーによる細胞のスクリーニングによって発見された化合物等、外来化合物による治療によって増加できることも企図される。これらの化合物ライブラリーは、有機小分子、アンチセンス核酸、siRNA、DNAアプタマー、ペプチド、抗体、非抗体タンパク質、サイトカイン、ケモカインおよび化学誘引物質が挙げられるがこれらに限定されない薬剤のライブラリーとなることができる。例えば、細胞は、成長および製造手順において任意の時間このような薬剤に曝露することができる。唯一の要件は、薬剤が効力を増加させるか否か評価するために行われる所望のアッセイに十分な数が存在することである。上述の一般創薬プロセスにおいて見られるこのような薬剤は、バンキング前の最後の継代においてより有利に適用することができる。
【0151】
MultiStemへの適用が成功した一実施形態は、次の通りである。細胞は、ドナーから得られた細胞産物が、臨床背景における使用に安全であるか決定するための特異的試験要件を行い適格とされたこの骨髄ドナーから単離することができる。手作業または自動化手順のいずれかを用いて単核細胞が単離される。この単核細胞は、培養に付され、細胞を細胞培養容器の処理表面に付着させる。MAPC細胞は、処理表面において増殖され、2日目および4日目に培地を交換する。6日目に、細胞は、機械的または酵素的手段により処理基質から除去され、細胞培養容器の別の処理表面に再播種される。8および10日目に、細胞は、処理表面から除去され、前述同様に再播種される。13日目に、細胞は、処理表面から除去され、洗浄され、凍結保護材料と組み合わされ、最終的に液体窒素中で凍結される。細胞を少なくとも1週間凍結した後、細胞のアリコートが取り出され、効力、同一性、無菌性に関して試験され、細胞バンクの有用性を決定するための他の試験がなされる。次に、このバンクにおける細胞は、解凍して、培養に付す、あるいは凍結状態から出して潜在的な徴候の治療に用いることにより用いることができる。
【0152】
別の用途は、細胞投与後の有効性および有益な臨床効果の診断アッセイである。徴候に応じて、評価に利用できるバイオマーカーが存在し得る。細胞の投薬量は、効果に応じて治療中に調整することができる。
【0153】
さらに別の用途は、被験体への細胞の投与に先行する治療前診断として、上述の結果のいずれかを達成するための細胞の有効性を評価することである。さらに、投薬量は、投与されている細胞の効力に依存し得る。よって、効力の治療前診断アッセイは、患者に初期に投与され、場合により、臨床効果のリアルタイム評価に基づき治療中にさらに投与される細胞の用量の決定に有用となり得る。
【0154】
本発明の細胞が、治療目的のみならず、正常な血管形成および疾患モデルにおける血管形成に関与するメカニズムを理解するための研究目的で、in vivoとin vitroの両方で、血管形成の提供に用いることができることも理解するべきである。一実施形態において、in vivoまたはin vitroの血管形成アッセイは、血管形成に関与することが公知の薬剤の存在下で行うことができる。続いて、これら薬剤の効果を評価することができる。この種のアッセイは、本発明の細胞によって促進される血管形成に効果を有する薬剤を求めるスクリーニングに用いることもできる。よって、一実施形態において、疾患モデルにおいてマイナス効果を逆行させるおよび/またはプラス効果を促進する薬剤を求めてスクリーニングすることができる。逆に、正常血管形成モデルにおいてマイナス効果を有する薬剤を求めてスクリーニングすることができる。
【0155】
組成物
本発明は、本明細書に記載されているすべての効果を達成するための特異的潜在力を有する細胞集団も対象とする。上述通り、この集団は、所望の効力を有する細胞の選択によって樹立される。この集団は、他の組成物、例えば、特異的な所望の潜在力を有する集団を含む細胞バンクおよび特異的な所望の効力を有する細胞集団を含有する医薬組成物の作製に用いられる。
【0156】
一実施形態において、細胞の血管形成潜在力は、TNF−α、IL−1βおよびIFN−γの組み合わせによって増加させることができる。細胞のこの因子組み合わせへの曝露は、CXCL5、FGF2およびHGF等、血管形成促進遺伝子の発現を増加させる。これらの条件において、IL−8も増加され得る。
【0157】
細胞をプロスタグランジン−F類似体ラタノプロストで処理することによって、血管形成促進分子の分泌を増加させることもできる。RT−PCRによって解析された血管形成促進因子の遺伝子発現は、HGF、VEGF、KITLGおよびIL−8の増加を示す。生物学的プロスタグランジン−FもVEGF Aレベルを増加させた。
【実施例】
【0158】
(実施例1)
目的
虚血性傷害後の外来幹細胞の送達は、免疫および炎症細胞を制御し、アポトーシスを制限し、新血管新生を刺激し、修復のために宿主組織を補充することによる、傷害組織への栄養支援による治療利益の提供を示した。以前の結果は、虚血性傷害におけるMultiStemの利益メカニズムが、一部には、血管形成を促進することにより新血管新生を誘導するMultiStemの能力の結果となり得ることを示唆する。従って、本研究は、MultiStemが血管形成を誘導できるか試験し、この活性の原因となる因子を同定すると共に、MultiStemの血管形成活性をMSCと比較することを目的とする。
【0159】
方法と結果
十分に確立されたin vitroヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)血管形成アッセイを用いて、本発明者らは、4日後のMultiStemから収集された馴化培地が、in vitroの血管形成を誘導することを見出した。本発明者らは、VEGF、CXCL5およびIL−8等、MultiStemによって分泌された複数の血管形成促進因子を同定し、3種の因子全てが、MultiStemの誘導する血管形成に必要であることを見出した。興味深いことに、培養された骨髄由来の間葉系ストローマ細胞(MSC)によるCXCL5およびIL−8の発現は見られなかった。MultiStemとは対照的に、MSC由来の馴化培地単独は、このin vitro系において血管形成を誘導できなかった。
【0160】
結論
MultiStemは、IL−8、VEGFおよびCXCL5の発現によって部分的に血管形成を誘導できる。この分泌プロファイルはMSCと相違し、この差異はその機能活性において反映される。
【0161】
簡約
十分に確立された血管形成アッセイを用いて、本発明者らは、MultiStemから収集された馴化培地が、in vitroで血管形成を誘導することを見出した。本発明者らは、VEGF、CXCL5およびIL−8等、MultiStemによって分泌された複数の血管形成促進因子を同定し、3種の因子全てが、MultiStemの誘導する血管形成に必要であることを見出した。興味深いことに、CXCL5およびIL−8は、培養された骨髄由来の間葉系ストローマ細胞(MSC)によって発現されなかった。MultiStemとは対照的に、MSC由来の馴化培地は、このin vitro系において血管形成を誘導できなかった。
【0162】
組織または臓器への血流の欠乏によって特徴付けられる虚血性傷害は、虚血領域への栄養分および酸素の欠乏によって誘導された組織損傷および細胞死の結果、壊滅的な帰結をもたらし得る。急性心筋梗塞(AMI)、末梢血管疾患(PVD)および脳卒中は、それぞれ心臓、肢および脳への血流の欠乏によって生じる虚血性傷害の3種の一般例である。これらの状態は、重篤な長期臓器損傷、肢切断、さらには酸素および栄養分の欠乏症からの死をももたらし得る。これらの状態の治療は、多くの場合、さらなる組織損傷、細胞死を防止して炎症を低下させるための傷害領域への迅速な血流回復に重点的に取り組む
【0163】
骨髄由来の大量増殖させた接着性複能性前駆細胞集団であるMultiStem(登録商標)は、AMIやPVD等、虚血性傷害後に送達したところ、動物モデルにおいて有益であることを示した3〜6。例えば、媒体対照と比較して、直接的な左前下行枝結紮による心筋梗塞の誘導後に、MultiStemを梗塞巣周囲部位へと送達すると、左心室収縮能力の改善、瘢痕領域の低下、血管密度の増加および心筋エネルギー特徴の改善がもたらされた。マウスおよびヒトMultiStemは、四肢運動を改善し、血流および毛細血管密度を増加し、決定的な四肢虚血モデルにおける壊死を減少させることも示した。MultiStem生着が低レベルであり、MultiStemの心筋または内皮細胞への分化が最小であるため、AMIおよびPVDに対するMultiStemの利益は、パラクリン効果に由来すると考えられる。
【0164】
媒体処理対照と比べてMultiStem治療したAMIおよびPVDの動物において観察される血管密度の増加は、MultiStemが、血管形成を促進することにより新血管新生を誘導できることを示唆する。この活性は、AMIおよびPVD治療利益の重要なメカニズムとなり得る。血管密度の増加は、最終的に、血流増加と、それによる傷害部位への酸素および栄養分の送達をもたらす8〜9
【0165】
多数の研究は、幹細胞が、VEGF等、血管形成促進因子を分泌することにより、血管形成および新血管新生を促進または増強できることを示した10〜11。これらの研究に基づき、本発明者らは、MultiStemが、血管形成を誘導する能力も有するであろうと仮定した。従って、血管形成を促進できる因子を分泌するか決定するためにMultiStemを検査した。血管形成因子イムノブロットアレイを用いて、共通ドナーから確立されたMultiStemおよびMSC培養物由来の馴化培地を試験し、2種の培養条件間で合致した血管形成因子発現パターンを証明した。
【0166】
MultiStemから収集された馴化無血清培地は、in vitroの血管形成を誘導する。VEGF、CXCL5およびIL−8等、MultiStemによって分泌される複数の血管形成促進因子を同定し、免疫枯渇実験により、3種の因子全てが、MultiStemの誘導する血管形成に必要であることを証明した。しかし、これら因子のいずれも、単独では血管形成誘導に十分ではない。
【0167】
CXCL5およびIL−8は、培養された骨髄由来の間葉系ストローマ細胞(MSC)によって発現しなかった。MultiStemとは対照的に、MSC由来の馴化培地は、このin vitro系では血管形成を誘導できなかった。以前の研究は、MSCが、虚血性動物モデルにおいてin vitroで血管形成を安定化し、血管密度を増加できることを証明したが、一方、近年の研究は、MSCが、血管形成を阻害し、特定の条件下で内皮細胞死をもたらすことを示唆した11〜13。この結果は、MSCが、内皮細胞との共培養なしでは血管形成の維持に十分な可溶性因子を分泌しないことを示唆する。総合すると、これらの結果は、MultiStemおよびMSCが、相違する分泌プロファイルを有し、この差異が、種々の条件下および背景におけるそれらのパラクリン活性において反映されることを示唆する。
【0168】
材料と方法
細胞培養
以前に記載された通り、ヒトMultiStemを培養において維持した。Lonza(メリーランド州ウォーカーズビル)からMSCを購入し、サプライヤーのプロトコールに記載されている通りに培養において増殖させた。同一ドナーMultiStemおよびMSCの調製のため、各細胞株に関して以前に記載された条件を用いて、新鮮骨髄から接着細胞を単離、培養した14。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)(Lonza)をメーカーの説明書に従って2500細胞/cmの濃度で培養において増殖させた。継代3〜5の間HUVECを用い、3000細胞/cm2で接種し、3日間培養し、この期間でコンフルエンスは、血管形成アッセイに用いる前におよそ70〜80%となる。
【0169】
無血清馴化培地(CM)の調製
MultiStem培養培地を含有する組織培養フラスコにMultiStemを播種した。24時間後、血清含有培地を除去し、1×PBSで細胞を洗浄し、成長因子を含有するが血清を欠くヒトMultiStem培養培地を添加した。細胞を培地交換せず4日間培養し、4日目に無血清馴化培地を収集し、1900rpmにて5分間4℃でスピンダウンし、アリコートに分注し、−80℃で保存した。
【0170】
Panomicsアレイ
メーカーの説明書に従って、2mlの2倍希釈した4日目の無血清MultiStem馴化培地試料を用いてPanomics(カリフォルニア州フリーモント)ヒト血管形成抗体アレイを実行した。
【0171】
血管形成アレイ
メーカーの説明書に従って、同一ドナーに由来するMultiStemおよびMSCから得られた、2mlの2倍希釈した3日目の馴化培地試料を用いて血管形成抗体アレイ(R&D systems、ミネソタ州ミネアポリス)を実行した。
【0172】
ELISA
ELISA(R&D Systems)によりIL−8、VEGFおよびCXCL5のタンパク質レベルを決定した。VEGFの全アイソフォームを検出する。エラーバーは、+/−標準偏差を表示する。
【0173】
VEGFおよびCXCL8/IL−8免疫枯渇
プロテインA−アガロースビーズ(Santa Cruz、カリフォルニア州サンタクルーズ)は、CM1ml当り75lの50%スラリー濃度で用いた。マウス抗ヒトVEGFモノクローナル抗体(Santa Cruz)は、4ug/ml(CM)濃度で用い、ウサギ抗ヒトIL−8ポリクローナル抗体(Millipore、マサチューセッツ州ビレリカ)は、2ug/ml(CM)で用いた。正常マウスIgG(Santa Cruz)およびChromPureウサギIgG(Jackson ImmunoResearch、ペンシルベニア州ウェストグローブ)をアイソタイプ対照として用いた。
【0174】
抗VEGF、抗IL−8抗体またはアイソタイプ対照と共に一晩4℃で回転しつつプロテインA−アガロースビーズをプレインキュベートし、続いて2500rpm、2分間、4℃でスピンしつつ氷冷1×PBSで4回洗浄した。6mlアリコートにおいて2時間4℃で回転しつつCMを免疫枯渇し、続いて0.45Mフィルターを通して濾過してあらゆる残渣ビーズを取り除いた。マウスIgG−ACで処理したCMをアイソタイプ対照として用いた。組換えヒトVEGF121(eBioscience、カリフォルニア州サンディエゴ)および/またはVEGF165(R&D Systems)アイソフォームを、50〜1000pg/ml範囲の濃度で免疫枯渇CMに加え戻した。
【0175】
CXCL5/ENA−78中和
10μg/ml(CM)濃度のヒトCXCL5/ENA−78抗体(R&D Systems)を用いて2時間4℃で回転しつつCXCL5を中和した。10μgg/ml(CM)濃度の正常全ヤギIgG(Jackson ImmunoResearch)をアイソタイプ対照として用いた。用いた追加的な対照は、10μg/ml濃度のヒトENA−78中和抗体または正常全ヤギIgGのいずれかの入った内皮成長培地(EGM、Lonza)である。
【0176】
血管形成アッセイ
成長因子を低下させたマトリゲル(BD Bioscience、カリフォルニア州サンノゼ)を氷上4℃で一晩解凍し、6.0〜6.5mg/ml濃度で用い、氷上で氷冷1×PBSを用いて希釈した。400マイクロリットルのマトリゲルを24ウェル組織培養プレートの内部ウェルに分配し、1時間37℃で凝固させた。マトリゲルの添加は氷上で行い、プレートの外部ウェルに1mlの1×PBSを充填した。
【0177】
次のプロトコールに従ってHUVECを採集した。細胞を1×PBSで洗浄し、続いて0.25×トリプシン−EDTAで短時間リンスし、次に1×PBS(残渣血清による)洗浄によりクエンチした。細胞を内皮細胞基本培地(EBM)中に再懸濁し、計数した。HUVECをCM、他の実験条件および55,000細胞/ml/ウェル濃度の対照に添加した。各試料および対照を3回複製してアッセイした。プレートを6時間または18時間、5%CO2および37℃でインキュベートし、管形成を行わせた。1ウェル当り4視野、合計12視野を解析した。10×対物レンズを用いて写真を撮った。細胞間に形成された管の数を計数することにより血管形成を点数化した。結果は、視野当りの平均管形成+/−SEMとして表示する。
【0178】
結果
MultiStemは、in vitroで血管形成を促進する因子を分泌する
以前の研究は、MultiStemによる虚血性傷害の治療は、媒体処理対照と比べて、傷害領域と境を接する血管密度の増加をもたらし、この結果は、MultiStemが、新血管新生および血管形成を誘導することを示唆することを示した。MultiStemが、血管形成を促進する因子を分泌するか試験するため、MultiStemの馴化培地を用いたin vitro血管形成アッセイを利用した。MultiStemを正常条件下で24時間播種した。次に、細胞を無血清条件に移して、4日間で馴化培地を作製した。次に、in vitro管形成アッセイにおいてこの培地を血管形成活性に関して試験した。自発的血管形成を生じない濃度へと、無血清基本MultiStem培地または無血清内皮細胞培地でさらに希釈した成長因子低下マトリゲルに、HUVECを播種した。HUVECを馴化培地、基本培地または内皮成長培地に18時間播種した。各条件の1視野当りの管形成の平均数として血管形成を測定した。基本培地における血清単独の存在は、追加的な因子なしで血管形成を誘導することができる。従って、無血清培地を全実験に用いた。血清含有内皮細胞培地において堅調で複雑な管形成が観察されたが、無血清内皮細胞培地または無血清基本MultiStem培地は、事実上管形成誘導を示さなかった。本発明者らは、MultiStemの4日間培養した無血清馴化培地が、基本培地と比べて血管形成を誘導したことを見出した(図1A、B)。
【0179】
血管形成および新血管新生を促進するMultiStemによって分泌される因子を同定するため、血管形成抗体アレイによりMultiStem無血清馴化培地を解析した(図1C)。多くの血管形成促進因子と数種の血管形成抑制因子が、MultiStemによって培地に分泌される。最も注目すべきことに、インターロイキン8(IL−8)と同様に、VEGFはMultiStemによって分泌され、その両者共に強力な血管形成分子である15〜17。別の強力な血管形成サイトカインであるCXCL5もMultiStemによって分泌される(図1D)18。VEGF、CXCL5およびIL−8は、4日目のMultiStem馴化培地において生理学的活性レベルで発現する(図D〜F)。
【0180】
血管形成誘導に関与する重大な因子としてのVEGFの役割から、本出願人らは、VEGFがMultiStemの血管形成促進活性に必要であるか検査した19〜20。VEGF抗体を用いて、MultiStem馴化培地からVEGFを免疫枯渇させた。VEGFが培地から完全に枯渇されたことを確実にするため、免疫枯渇した培地のVEGFレベルをVEGF ELISAを用いて決定した。VEGFのレベルは、馴化培地およびIgG単独枯渇した培地と比較して、免疫枯渇した培地において95%を超えて低下した(図2A)。CXCL5レベルおよびIL−8レベルは、VEGF免疫枯渇による影響を受けなかった(図2B、C)。VEGFなしでは、MultiStem馴化培地による血管形成の誘導が低下した(図2、補足図1)。これらの結果は、VEGFが、MultiStem馴化培地における血管形成誘導に必要であることを証明する。
【0181】
MultiStem馴化培地における血管形成活性維持に必要とされる最小レベルのVEGFを確立するため、免疫枯渇した培地に増加量のVEGFを加え戻した。最も研究された型のVEGFであるVEGF−Aは、一般にVEGFと言われるが、VEGF121やVEGF165等、複数のアイソフォームを有する。これら2種のアイソフォームを別々に免疫枯渇したMultiStem馴化培地へと加え戻して、血管形成の誘導に必要とされる最小量のVEGFを決定したところ(図2A、C)、本発明者らは、どちらのアイソフォームも単独では、MultiStem馴化培地によって以前に観察された血管形成レベルの完全な回復に十分ではなかったが、250pg/mlのVEGF121は、ある程度の血管形成の回復に十分であった(図2C)ことを見出した。VEGF165に関し、50pg/mlは、ある程度の血管形成レベルの回復に十分であり、VEGF165をさらに添加しても、はっきりと認識できる量で血管形成レベルを増加させなかった(図2D)。
【0182】
CXCL5およびIL−8は、両者共に正常レベルのMultiStemの誘導する血管形成に必要であるが、血管形成の誘導に十分ではない
VEGFは、血管形成に必要とされるが、VEGF単独は、馴化培地に存在する濃度では堅調な血管形成の誘導に十分ではない22〜24。MultiStemによって分泌される追加的な血管形成因子の同定から、本出願人らは、CXCL5およびIL−8が、MultiStemの血管形成活性に必要であるか検査した。この仮説を試験するため、MultiStem馴化培地からIL−8を免疫枯渇させたところ、95%低下することを見出した(図3)。ELISAによって測定されたVEGFおよびCXCL5レベルは、IL−8免疫枯渇した培地において依然として影響されなかった。IL−8なしでは、MultiStem馴化培地を用いたHUVECのin vitro管形成は、約60%低下した(図3、補足図II)。これらの結果は、IL−8が、MultiStem馴化培地による血管形成の誘導に必要とされるが、MultiStem馴化培地は、Il−8が存在しなくてもある程度のレベルの血管形成活性を依然として維持することを示唆する。同様に、培地へのCXCL5遮断抗体の添加によるCXCL5活性の遮断は、HUVEC血管形成アッセイにおける管形成の有意な減少をもたらした(図4A)。遮断抗体を含むがVEGFおよびIL−8レベルが依然として変化していない培地において、CXCL5レベルは低下した(補足図III)。興味深いことに、CXCL5単独、IL−8単独またはその両方の添加は、基本培地における血管形成の誘導に十分ではなく、この結果は、これら因子が、MultiStemの誘導する血管形成に必要であるが、血管形成の誘導に十分ではないことを示唆する(図4B、C)。
【0183】
MSCはVEGFを発現するが、in vitroアッセイにおいてHUVECにおける血管形成を開始できない
MultiStemによって誘導された血管形成レベルが、他の幹細胞株によって誘導されたレベルと類似しているか評価するため、MSCの無血清馴化培地を収集し、培養物における血管形成を誘導するその能力をMultiStemと比べて試験した。MSC馴化培地は、複数のドナー由来のMSCを用いて反復しても、このアッセイにおける血管形成を誘導しなかった(図6A、補足図III)。他の報告は、MSCが、in vitro HUVECアッセイにおいて血管形成を誘導できることを示したが、このアッセイは、播種4〜6時間後に解析されて不完全な血管形成を示した、あるいは異なる条件が用いられていた25〜27。6時間目に血管形成的な管形成を検査した場合、MSCおよびMultiStemの馴化培地両方が、ある程度の管形成を誘導した。しかし、血管形成は、24時間目までにMSC馴化培地では崩壊したが、MultiStem馴化培地では維持された(図5)。
【0184】
MSC馴化培地におけるVEGF、CXCL5およびIL−8の発現を検査したところ、VEGFがMultiStem馴化培地よりも高レベルで発現することが判明したが、一方、CXCL5およびIL−8はMSC馴化培地において検出可能レベルで発現しなかった。これらの結果が、無血清培養によって誘導されたアーチファクトではなくMSCの分泌プロファイルを指し示すことを確認するため、MSCによって発現されたVEGF、IL−8およびCXCL5のレベルをそれらの正常培養条件下で検査し、MultiStemの培養条件下のMultiStem馴化培地において見られたこれら因子のタンパク質レベルと比べた。これら細胞株のため、本発明者らは、同一ドナーからMSCおよびMultiStemを得て、2系統間のあらゆる遺伝的変異を排除した。これらの細胞型が同一ドナーに由来する場合であっても、CXCL5およびIL−8レベルは、MSC馴化培地において検出不能であったが、MultiStem培地においては生理学的活性レベルを発現した(図5B)。これら細胞系統の分泌プロファイルをさらに検査するため、本発明者らは、同一ドナーに由来する細胞の血管形成抗体アレイによるMultiStem馴化培地の分泌プロファイルと(図6、補足データI)、MSC馴化培地の分泌プロファイルとを比較した(図6A)。データは、アンジオゲニン、HGF、IL−8、レプチン、TIMP−4およびIGFBP−1等、MultiStemによって分泌される複数の血管形成および血管形成抑制因子が存在するが、これらがMSCによって分泌されなかったことを明らかにした。対照的に、TIMP−1(25倍高い)およびIGFBP−2(16倍高い)は、両者共に、MultiStemと比べてMSCにおいてより高レベルで発現された。VEGFおよびIGFBP−3の両方も、MultiStemよりもMSCにおいて一貫して高レベルで発現されたが、これはほんの3〜4×高レベルであった。総合すると、これらの結果は、MultiStemおよびMSCが、同一ドナーに由来する場合であっても異なる分泌プロファイルを有し、これらの差異が、細胞株間の機能的差異に反映されることを指し示す。
【0185】
考察
骨髄、臍帯血および脂肪組織等、種々の組織から単離された成体幹細胞は現在、急性心筋梗塞、脳卒中および末梢血管疾患等、虚血性傷害を治療するよう開発されている28〜30。これらの傷害は、罹患組織における酸素および栄養分の初期欠乏のみならず、該領域におけるその後の炎症からも細胞および組織損傷を誘導する。迅速かつ持続した血流回復は、虚血性領域内の損傷および炎症を低下させることができる。細胞に基づく治療法の本来の意図は、外来幹細胞の送達とその後の分化による、傷害後に喪失および損傷した組織の再生および修復であった。しかし、幹細胞治療法の利益メカニズムを検査するその後の研究は、細胞型の多くが送達後数日で検出できなくなるため、多くの幹細胞が、主として再生ではなくパラクリン効果によって作用することを示した31〜33。治療仮説は、これら細胞集団が、免疫および炎症細胞を制御し、アポトーシスを制限し、新血管新生を刺激し、修復のために宿主組織を補充することによって、傷害組織へと栄養支援をもたらし得ることである。利益は、これら経路の動的カスケードに由来する可能性があり、様々な細胞集団が、特定の経路においてより強力に影響を及ぼし得る。治療のために最も適切な接着性幹細胞集団の選択は、重要経路に対する所定の集団の効力と、応答を有効に媒介するための送達時間の両方を反映し得る。従って、比較データを提供するためのこれら経路の標準化アッセイを確立し、続いてこれら活性のin vitro代用を傷害および回復に相関させることが重要である。
【0186】
複能性成体前駆細胞は、骨髄培養物に由来する接着性成体幹細胞集団である。以前のin vivo研究は、虚血性傷害後にMultiStemで治療した動物における血管密度の増加を示した4、7。この研究において、本出願人らは、in vitro管形成アッセイにおいてMultiStemが、血管形成を誘導できる因子を分泌することを示した。さらなる解析は、MultiStemが、VEGF、IL−8およびCXCL5等、多様な血管形成促進因子を分泌することを明らかにした。これら因子のうちの2種、CXCL5およびIL−8は、MSCと比べてMultiStemにおいて非常に差次的に分泌され、MSCは、分泌するとしてもCXCL5およびIL−8をほとんど分泌しない。VEGF、CXCL5およびIL−8は全て、MultiStemの誘導する血管形成に必要とされる。これら因子のいずれかの除去または阻害は、血管形成を促進するMultiStem馴化培地の能力を大幅に低下させる。VEGF165は、血管形成に関与する主要なアイソフォームである。しかし、VEGF免疫枯渇したMultiStem馴化培地においてVEGF121またはVEGF165アイソフォームのいずれかを独立的に用いても、管形成を100%に回復できなかったため、複数のVEGFアイソフォームが、MultiStemの誘導する血管形成の原因となり得る。
【0187】
他の群では、VEGF等、単一の血管形成促進因子を虚血性傷害モデルへと送達することにより、動物においてある程度の有益効果を得たが、この結果は、AMIおよびPVD等、臨床徴候のために混合された34、35。血管形成因子の制御されない発現は、ラットAMIモデルにおいて血管腫形成、関節炎および網膜症ならびに重篤な胸水貯留および心膜液貯留等、重大な副作用をもたらし得る34、36、37。遺伝子またはタンパク質送達による単一の血管形成因子の臨床治験の結果は、PVDに関しては期待外れであったが、これは恐らく、長期利益に必要とされる現在試験されている因子の不安定性、送達の困難さ、虚血性組織の不十分な取り込みおよび応答ならびに機能的血行再建を達成するための数種類の同時発生分子の必要等、複数の要因のためであろう。対照的に、幹細胞による虚血性傷害の治療は、単一タンパク質または遺伝子治療に代わる魅力的な治療法を提供する。虚血性傷害を治療するための幹細胞の使用は、低酸素性および炎症性微小環境に応答およびホーミングする細胞により、動的均衡を達成して適切な血管形成応答を刺激し、傷害部位への複数の血管形成因子の直接的な送達をもたらし得る。その上、MultiStem等、幹細胞は、免疫調節および抗アポトーシスメカニズムにより、組織損傷を同時的に防止することもできる。本研究において、本発明者らは、MultiStemが実際に、少なくとも3種の血管形成促進因子の発現により血管形成を直接的に誘導できることを証明する。
【0188】
MSCは、高レベルのVEGFを発現および分泌するが、MSCの馴化培地は、このin vitroアッセイ系における血管形成の誘導には不十分であった。MSCは、以前の研究においてin vitroにおける血管形成を安定化することを示した。しかし、これら研究の多くは、4〜6時間等、初期時点において、あるいは異なる条件下で血管形成を検査する25〜27、38。本発明者らは、このような初期時点では、陰性対照においてより高レベルの血管形成バックグラウンドが存在し、これは24時間目に安定的でなくなることを見出した。同様に、本出願人らは、MSCが、6時間目にある程度のレベルの血管形成を誘導でき、これはその後24時間の時点までに失われることを見出した。対照的に、MultiStemは、24時間目に安定的であり続ける管形成を誘導する。これらの結果は、MSCが短期の血管形成を支持できるが、他の因子が存在しなければ、この血管形成は安定的ではないことを示唆する。これらの結果は、VEGF単独は、これら細胞によって発現されるレベルでは安定的な血管形成の開始に十分でないとの初期研究のデータを反映する24。MSCにより治療される虚血性傷害における血管密度の増加を示す以前のin vivo実験の文脈において、MSCは、内因性炎症細胞または組織前駆体が血管形成を促進するよう誘導することにより、血管密度を増加させることができる。
【0189】
参考文献
【0190】
【化1】

【0191】
【化2】

【0192】
【化3】

【0193】
【化4】

【0194】
【表1】

【0195】
(実施例2)
MultiStemにおける血管形成因子発現の増強
図7〜12は、血管形成因子の発現が、MultiStem(MAPC)標本において増加され得ることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体において血管形成をもたらすための方法であって、前記方法は:
1またはそれより多い血管形成促進因子の発現および/または分泌に関し所望の効力を有する細胞を選択するステップと;
1またはそれより多い血管形成促進因子の発現および/または分泌に関する所望の効力に関して前記細胞をアッセイするステップと;
1またはそれより多い血管形成促進因子の発現および/または分泌に関し前記所望の効力を有する前記細胞を治療上有効量で、かつ治療結果の達成に十分な時間にわたり前記被験体に投与するステップとを含み、
前記細胞は、oct4、テロメラーゼ、rex−1またはrox−1のうちの1またはそれより多くを発現し、かつ/または内胚葉、外胚葉および中胚葉のうちの少なくとも2種の細胞型へと分化することができる非胚性幹非生殖細胞である、方法。
【請求項2】
被験体において血管形成をもたらすための方法であって、前記方法は:
1またはそれより多い血管形成促進因子の発現および/または分泌に関し所望の効力を有する細胞を治療上有効量で、かつ治療結果の達成にわたり十分な時間で前記被験体に投与するステップを含み、
前記細胞は、oct4、テロメラーゼ、rex−1またはrox−1のうちの1またはそれより多くを発現し、かつ/または内胚葉、外胚葉および中胚葉のうちの少なくとも2種の細胞型へと分化することができる非胚性幹非生殖細胞であり、投与前に、前記細胞がこの効力を有することに関して確認されている、方法。
【請求項3】
前記細胞が同種異系である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記被験体が、急性心筋梗塞、慢性心不全、末梢血管疾患、脳卒中、慢性完全閉塞、腎虚血および急性腎傷害からなる群から選択される状態を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記被験体がヒトである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
細胞バンクを構築するための方法であって、前記方法は:
1またはそれより多い血管形成促進因子の発現および/または分泌に関し所望の効力を有する細胞を選択するステップと、
被験体への将来的な投与のために前記細胞を増殖させ、保存するステップとを含み、
前記細胞は、oct4、テロメラーゼ、rex−1もしくはrox−1のうちの1もしくは複数を発現し、かつ/または内胚葉、外胚葉および中胚葉のうちの少なくとも2種の細胞型へと分化することができる非胚性幹非生殖細胞である、方法。
【請求項7】
細胞バンクを構築するための方法であって、前記方法は:
被験体への将来的な投与のために、1またはそれより多い血管形成促進因子の発現および/または分泌に関し所望の効力を有する細胞を増殖させ、保存するステップを含み、
前記細胞は、oct4、テロメラーゼ、rex−1もしくはrox−1のうちの1もしくは複数を発現し、かつ/または内胚葉、外胚葉および中胚葉のうちの少なくとも2種の細胞型へと分化することができる非胚性幹非生殖細胞であり、バンキングの前に、前記細胞がこの効力を有することに関して確認されている、方法。
【請求項8】
創薬のための方法であって、前記方法は:
1またはそれより多い血管形成促進因子の発現および/または分泌に関し所望の効力を有する細胞を選択するステップと、
前記細胞を薬剤に曝露して、1またはそれより多い血管形成促進因子を発現および/または分泌する前記細胞の能力への前記薬剤の効果を評価するステップとを含み、
前記細胞は、oct4、テロメラーゼ、rex−1もしくはrox−1のうちの1もしくは複数を発現し、かつ/または内胚葉、外胚葉および中胚葉のうちの少なくとも2種の細胞型へと分化することができる非胚性幹非生殖細胞である、方法。
【請求項9】
創薬のための方法であって、前記方法は:
1またはそれより多い血管形成促進因子の発現および/または分泌に関し所望の効力を有する細胞を薬剤に曝露して、1またはそれより多い血管形成促進因子を発現および/または分泌する前記細胞の能力における前記薬剤の効果を評価するステップを含み、
前記細胞は、oct4、テロメラーゼ、rex−1もしくはrox−1のうちの1もしくは複数を発現し、かつ/または内胚葉、外胚葉および中胚葉のうちの少なくとも2種の細胞型へと分化することができる非胚性幹非生殖細胞であり、前記細胞が、前記所望の効力を有することに関し選択され、この効力を有することに関して確認されている、方法。
【請求項10】
非胚性幹非生殖細胞を含む組成物であって、
前記非胚性幹非生殖細胞は、oct4、テロメラーゼ、rex−1もしくはrox−1のうちの1もしくは複数を発現し、かつ/または内胚葉、外胚葉および中胚葉のうちの少なくとも2種の細胞型へと分化することができ、
前記非胚性幹非生殖細胞は、親細胞集団の細胞よりも高レベルで1またはそれより多い血管形成促進因子を分泌する、組成物。
【請求項11】
細胞における1またはそれより多い血管形成促進因子の発現を増加させるための方法であって、前記方法は:
前記細胞を、TNF−α、IL−1βおよびIFNγの組み合わせへと曝露するステップを含み、
前記細胞は、oct4、テロメラーゼ、rex−1もしくはrox−1のうちの1もしくは複数を発現し、かつ/または内胚葉、外胚葉および中胚葉のうちの少なくとも2種の細胞型へと分化することができる非胚性幹非生殖細胞である、方法。
【請求項12】
細胞における1またはそれより多い血管形成促進因子の発現を増加させるための方法であって、前記方法は:
前記細胞をプロスタグランジンF類似体の組み合わせへと曝露するステップを含み、
前記細胞は、oct4、テロメラーゼ、rex−1もしくはrox−1のうちの1もしくは複数を発現し、かつ/または内胚葉、外胚葉および中胚葉のうちの少なくとも2種の細胞型へと分化することができる非胚性幹非生殖細胞である、方法。
【請求項13】
前記プロスタグランジンF類似体がラタノプロストである、請求項12に記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11】
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【図12】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−520509(P2013−520509A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555095(P2012−555095)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【国際出願番号】PCT/US2011/025846
【国際公開番号】WO2011/106365
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(510012658)エイビーティー ホールディング カンパニー (5)
【Fターム(参考)】