説明

血管形成性医療用シアノアクリレート接着剤

酪酸またはその誘導体もしくは前駆体などの血管形成因子と組み合わせてシアノアクリレートを含む、組織接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤及び血管形成、特に外科における新規な血管形成性接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
組織の接着は、皮膚創傷の閉鎖、神経断裂の再構成、移植した組織の再連結、血管の封鎖、気胸及びフィステルの治療、脈管及び腸管の吻合の支持、軟骨及び骨軟骨の欠損の治療、骨折治癒、半月板断裂及び破裂した靱帯の治療、腱損傷または筋損傷の修復、並びに移植した生体材料及び組織設計装置の結合を含む全外科処置の、必須の部分である。
【0003】
全ての組織接着剤の根本的な目的は、自然な生物学的修復が起こるのに十分な長さに亘り、組織をくっつけておくことである。生物学的修復には、典型的に、組織中の細胞の修復モードへの活性化及び、決定的には細胞の修復を提供するための血管形成の刺激、活性化した細胞のための栄養及び酸素を含む。
【0004】
組織修復を刺激するための生物活性の使用を説明した、多数の文献がある。しかしながら、生物学的活性を使用する組織修復機構、例えば新血管形成の刺激のみでは、組織間の大きな欠損を治癒させるために十分ではない。生物学的機構により微視的レベルで組織を結合させるためには、統合しようとする二つの組織を、巨視的レベルで近接した並置に維持することが必須である。
【0005】
今日まで、接着は、主に縫合またはステープリングなどの機械的な固定技術を用いて行われている。しかしながら、生物学的粘着剤または接着剤の適用が有用な場合がある。例えば縫合は、これを配置した軟骨中に非治癒欠損の形成を引き起こすため、軟骨の修復には不適当である。内部組織及び器官の縫合はまた、接着剤の適用に比べて、時間がかかり、且つ技術的に困難である。骨または所定の移植片などの、接着を必要としうる他の組織が縫合またはステープリングを行うには硬すぎる一方で、別の軟部組織は、縫合またはステープリングを行うには脆すぎで緊張に耐えられない。
【0006】
従って、生物学的応用のために、フィブリン等の生物学的接着剤及びシアノアクリレート等の合成接着剤を含む接着剤が開発されている。
【0007】
血液凝固カスケード等の自然に起こる接着過程を利用する生物学的接着剤(フィブリン)には、多数の利点がある。これらは身体に容易に許容され、且つ完全に分解して十分な生物学的修復を可能にする。しかしながら、こうした接着剤の結合力は、結合した組織が著しい緊張の下に置かれるあらゆる場合を含む、多くの応用に必要とされるレベルをはるかに下回る。
【0008】
多数の合成接着剤が工業用及び消費者向け使用のために製造されている。シアノアクリレートを含むこれらの中には、生物学的組織を接着するために使用されているものがある。
【0009】
シアノアクリレートを使用する利点は、これらがこの上なく強力な結合を組織間に形成することである。しかしながら、シアノアクリレートは生物学的修復に対して障壁として作用するため、他の固定装置の使用に取って代わってはいない。
【0010】
したがって、活発に組織修復を刺激するシアノアクリレート接着剤を製造することが望ましいであろう。
【0011】
ほとんどの組織において、新血管形成の阻害が虚血及び組織死をもたらしうる一方で、新血管形成の刺激が組織修復の促進をもたらすことは確立された事実である。
【0012】
組織修復を刺激するための血管形成因子のデリバリーに関して、出版された文献がある。WO97/16176、WO01/03607、及びUS6152141には、血管修復を促進する血管形成因子の放出が開示され、EP0295721には、血管形成因子を用いる半月板の治癒の促進が開示され、その一方ではEP0530804には軟骨及び骨の治癒を促進するための血管形成物質の使用が開示されている。
【0013】
酪酸は、有効な血管形成剤であり、火傷、創傷、及び骨折の治療のための血管形成因子として使用されている。酪酸は、ブタン酸としても知られる、4炭素の脂肪酸である。前記文献は、10-1000ngの酪酸の局所放出が所望の血管形成効果を達成するために十分であることを示唆している。しかしながら、酪酸は、身体から迅速に除去されることが既知であり、したがって、治療用血管形成の応用のためには、持続的放出性デリバリー媒体中にこれを導入することが示唆されている。脂質血管形成因子は、網から単離されている(Catsimppoolas et al., 1984, JAMA 252:2034-2036)。該血管形成因子は、モノブチリンであることが判明した(Wilkinson et al., 1991, J. Biol. Chem. 266:16886-16891)。
【0014】
モノブチリンは、酪酸のプロドラッグであると考えることができる。別のプロドラッグには、トリブチリンが含まれる。トリブチリンは、加水分解されて酪酸を放出することができる(Chen et al., 1994, Cancer Research 54, 3494-3499, Bohmig et al., 1999, Transplant Immunology, 7, 221-227)。トリブチリンは、新血管形成を阻害することが望ましい抗癌治療における使用のために推奨されており、血管形成性薬剤とはとらえられていない。
【0015】
組織修復応用における、シアノアクリレート接着剤の使用を開示する先行技術がある(Barley et al., U.S.Pat. No: 6342213, シアノアクリレート接着剤の使用による縫合不能な創傷の治療方法; Hyon et al., U. S. Pat. No: 6316523, 外科使用のための接着組成物; Shalay, U. S. Pat. No: 6299631,ポリエステル/シアノアクリレート組織接着製剤;Kotzev, U. S. Pat. No: 6224622, 生体吸収可能なシアノアクリレート組織接着剤)。しかしながら、これら特許のいずれも、シアノアクリレートへの血管形成成分の添加を開示してはいない。
【0016】
組織シーラントへの活性分子の導入を開示した文献がある(MacPhee et al., U. S. Pat. No 6117425, 補足及び未補足の組織シーラント、その製造及び使用の方法)。しかし、この特許は、他の汎用の組織シーラントの長いリストを提供しているにもかかわらず、シアノアクリレートには全く言及していない。
【0017】
ヨードなどの単純な活性分子がシアノアクリレートに導入されている(Askill et al., U. S. Pat. No.:6214332, 抗菌剤を含むシアノアクリレートエステル組成物の使用による、縫合可能な創傷の閉鎖方法)。しかし、血管形成剤は、通常はタンパク質または化学的に活性な求核剤であり、これはシアノアクリレートを早計に硬化させてしまい、組織接着剤として役に立たなくしてしまう。然るに、当業界には、シアノアクリレートに血管形成剤を導入することはできないとする先入観がある。
【特許文献1】WO97/16176
【特許文献2】WO01/03607
【特許文献3】US6152141
【特許文献4】EP0295721
【特許文献5】EP0530804
【非特許文献1】Catsimppoolas et al., 1984, JAMA 252:2034-2036
【非特許文献2】Wilkinson et al., 1991, J. Biol. Chem. 266:16886-16891
【非特許文献3】Chen et al., 1994, Cancer Research 54, 3494-3499
【非特許文献4】Bohmig et al., 1999, Transplant Immunology, 7, 221-227
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
生物学的に活性な血管形成剤を放出する生物学的応用における使用のためのシアノアクリレート接着剤を提供することが、本発明の目的である。
【0019】
出願人は、トリブチリン及び幾つかの関連分子(酪酸プロドラッグ)を発見したが、これらはまた新血管形成を刺激することができ、驚くべきことにシアノアクリレートを早計に硬化させることがない。
【課題を解決するための手段】
【0020】
したがって、本発明のためには、シアノアクリレートを血管形成因子と組み合わせて含む組織接着剤が提供され、これは薬理効果をもたらす量で放出可能なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
シアノアクリレート接着剤は、典型的には、アルキル2-シアノアクリレート、アルケニル2-シアノアクリレート、アルコキシアルキル2-シアノアクリレート、及びカルボアルコキシアルキル2-シアノアクリレートからなる群より選択され、前記の一つ以上のシアノアルキレートのアルキル基が、1乃至16の炭素原子を有する。
【0022】
シアノアクリレートは、好ましくは、メチル2-シアノアクリレート、エチル2-シアノアクリレート、n-プロピル2-シアノアクリレート、イソ-プロピル2-シアノアクリレート、n-ブチル2-シアノアクリレート、イソ-ブチル2-シアノアクリレート、ヘキシル2-シアノアクリレート、n-オクチル2-シアノアクリレート、2-オクチル2-シアノアクリレート、2-メトキシエチル2-シアノアクリレート、2-エトキシエチル2-シアノアクリレート、及び2-プロポキシエチル2-シアノアクリレートからなる群より選択される。
【0023】
本発明の第一の実施態様においては、血管形成因子は、酪酸またはその誘導体もしくは前駆体である。
【0024】
前記血管形成因子は、
・酪酸(ブタン酸、C4H8O2)及び酪酸塩、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、及びリチウム塩を含む、
・酪酸誘導体及び酪酸残基を含むポリマー、
・α-モノブチリン(1-グリセロールブチレート;1-(2,3ジヒドロキシプロピルブタノエート;C7H14O4)、
・α-ジブチリン(1,3-グリセロールジブチレート;1,3-(2ジヒドロキシプロピル)ジブタノエート;C11H20O5)、
・β-モノブチリン(1,3-グリセロールジブチレート;1,2-(3ヒドロキシプロピル)ジブタノエート;C11H20O5)、
・トリブチリン(グリセロールトリブチレート;1,2,3-(プロピル)トリブタノエート;C15H26O4)、
・ヒドロキシ酪酸残基を含むヒドロキシブチレートポリマー
を含んで良い。
【0025】
血管形成因子は、適切に0.05MPa以上、好ましくは少なくとも0.2MPa、さらに好ましくは少なくとも0.5MPaの接着強度が得られるような割合でシアノアクリレートに加える。典型的には、得られる接着強度は0.05乃至0.8MPaの範囲となるべきである。
【0026】
いったん硬化すると、前記シアノアクリレートは少なくとも1ng/mlの血管形成因子の接着剤を適切に放出する。前記シアノアクリレートは、好ましくは10μg、さらに好ましくは1μgの血管形成因子を放出するが、適切には100μg未満の血管形成因子を放出する。
【0027】
本発明を、以下の実施例及び添付の図面を参照して詳説する。図1は、5%乃至50%(w/w)のトリブチリンが、接着特性の許容しがたい喪失を伴わずにシアノアクリレートに添加可能であることを示す。図2は、トリブチリンが、5%w/wトリブチリンシアノアクリレート試料から7日間に亘って放出されることを示す。
【0028】
(実施例1)
0.5gの無菌トリブチリンをシアノアクリレート(9.5g)に添加して、無菌のプラスチックの万能管(universal tube)中に5%(w/w)を調製した。これを2分間撹拌し、確実に均一にブレンドした。ブレンドした接着剤の40μlのアリコートを新たに切った肋軟骨の表面に適用した。二つの表面を1分間に亘って合わせておいて固定させ、水性条件中にさらに1時間おいて硬化を起こさせた。結合強度を、Nene MC3000機を用いて試験し、ここで結合した軟骨片を分離するために要した、適用した力を記録した。データによると、5%乃至50%(w/w)のトリブチリンが、接着特性の許容しがたい喪失を伴わずにシアノアクリレートに添加可能であった。
【0029】
(実施例2)
0.5gの無菌トリブチリンをシアノアクリレート(9.5g)に添加して、無菌のプラスチックの万能管(universal tube)中に5%(w/w)を調製した。これを2分間撹拌し、確実に均一にブレンドした。ブレンドした接着剤の小さなディスクを、塩基性溶液(希トリエチルアミン0.1%水溶液)に落とした。前記ディスクを取り除き、簡単に洗浄して乾燥させた。その後、前記ディスクを2mlの水中に配置し、50℃にて1、5、7日間に亘って撹拌を継続しつつ貯蔵した。水を除去した後、ジクロロメタンを2mlずつ加えて放出されたトリブチリンを全て抽出した。ジクロロメタン層をガスクロマトグラフィーを用いて分析し、トリブチリンの量を記録した。前記ディスクを乾燥させた後、真水中、50℃に配置してさらに1日置いた。真水中に放出されたトリブチリンの量を、第一の試料について記載したように測定した。データにより、トリブチリンが5%w/wトリブチリンシアノアクリレート試料から7日間に亘って放出されることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、5%乃至50%(w/w)のトリブチリンが、接着特性の許容しがたい喪失を伴わずにシアノアクリレートに添加可能であることを示す図である。
【図2】図2は、トリブチリンが、5%w/wトリブチリンシアノアクリレート試料から7日間に亘って放出されることを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管形成因子と組み合わせてシアノアクリレートを含む、組織接着剤。
【請求項2】
前記血管形成因子が、酪酸またはその誘導体または前駆体である、請求項1に記載の組織接着剤。
【請求項3】
前記血管形成因子が、酪酸塩である、請求項2に記載の組織接着剤。
【請求項4】
前記血管形成因子が、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、またはリチウム酪酸塩である、請求項3に記載の組織接着剤。
【請求項5】
前記酪酸、その誘導体または前駆体が、酪酸またはヒドロキシ酪酸の残基を含むポリマーとして存在する、請求項2に記載の組織接着剤。
【請求項6】
前記血管形成因子が、α-モノブチリン、α-ジブチリン、β-ジブチリン、またはトリブチリンである、請求項1または2に記載の組織接着剤。
【請求項7】
前記血管形成因子が、ヒドロキシブチレートである、請求項1または2に記載の組織接着剤。
【請求項8】
前記シアノアクリレートが、アルキル2-シアノアクリレート、アルケニル2-シアノアクリレート、アルコキシアルキル2-シアノアクリレート、またはカルボアルコキシアルキル2-シアノアクリレートからからなる群より選択される、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の組織接着剤。
【請求項9】
前記シアノアクリレートのアルキル基が、1乃至16の炭素原子を有する、請求項8に記載の組織接着剤。
【請求項10】
前記シアノアクリレートが、メチル2-シアノアクリレート、エチル2-シアノアクリレート、n-プロピル2-シアノアクリレート、イソ-プロピル2-シアノアクリレート、n-ブチル2-シアノアクリレート、イソ-ブチル2-シアノアクリレート、ヘキシル2-シアノアクリレート、n-オクチル2-シアノアクリレート、2-オクチル2-シアノアクリレート、2-メトキシエチル2-シアノアクリレート、2-エトキシエチル2-シアノアクリレート、及び2-プロポキシエチル2-シアノアクリレートからなる群より選択される、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の組織接着剤。
【請求項11】
少なくとも0.05MPaの接着強度を有する、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の組織接着剤。
【請求項12】
0.05乃至0.8MPaの接着強度を有する、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の組織接着剤。
【請求項13】
少なくとも1ng/mlの血管形成因子の接着剤を放出する、請求項1乃至12に記載の組織接着剤。
【請求項14】
少なくとも10ngの血管形成因子を放出する、請求項1乃至12に記載の組織接着剤。
【請求項15】
10μg未満の血管形成因子を放出する、請求項1乃至12に記載の組織接着剤。
【請求項16】
1μg未満の血管形成因子を放出する、請求項1乃至12に記載の組織接着剤。
【請求項17】
少なくとも5%w/wの血管形成因子を含む、請求項1乃至16に記載の組織接着剤。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−506149(P2006−506149A)
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−552869(P2004−552869)
【出願日】平成15年11月17日(2003.11.17)
【国際出願番号】PCT/GB2003/004965
【国際公開番号】WO2004/045664
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【出願人】(391018787)スミス アンド ネフュー ピーエルシー (79)
【氏名又は名称原語表記】SMITH & NEPHEW PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】