説明

血糖値低下剤、糖尿病治療・予防剤及びその製造方法

本発明は、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、エンテロコッカス・エビウム、エンテロコッカス・デュランス、エンテロコッカス・サリバリウス、エンテロコッカス・ミティス及びエンテロコッカス・イクイヌスより成るエンテロコッカス属細菌群から選択される1種又は2種以上の微生物を有効成分として含有する、血糖値低下剤及び糖尿病治療・予防剤、並びにその製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌を有効成分とする血糖値低下剤及び糖尿病治療・予防剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年において、特に先進各国においては、食事によるカロリー摂取の過多等により生活習慣病、成人病の一つである糖尿病が蔓延するに至っている。糖尿病の患者数は、日本国内だけでも650万人を超えると言われている。さらに、耐糖能障害を患う糖尿病患者の予備軍は人口の10人に1人、つまり、1000万人を超えていると言われている。
【0003】
現在においては、多くの種類の血糖値低下剤や糖尿病治療剤が実用に供されている。しかし、これらの多くは、薬理効果及び副作用等の点において必ずしも満足し得るものとは云い難く、より効果的な薬剤の希求が高まるに至っている。
【0004】
安全性の高い血糖値低下剤としては、乳酸桿菌菌体の水抽出物が知られている(特開平06-116156号公報)。しかし安全性が高く効果のより優れた薬剤はなおも求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、安全性が高く効果の優れた血糖値低下剤及び糖尿病治療・予防剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の発明者は、エンテロコッカス属に属する各種微生物(乳酸菌)が血糖値を極めて効果的に低下せしめる作用を有することを見出した。さらに本発明者は、その起源が所謂腸内細菌であるそれら微生物が、経口的には実質的に無毒性であること、且つ薬理活性も極めて高いことを見出した。その結果、本発明者は、エンテロコッカス属に属する微生物を、これまでの種々の血糖値低下剤や糖尿病の各種症状を軽減する糖尿病薬剤が有していたような種々の副作用を生じさせることなく、他の薬剤と重複して服用しても飲み合わせによる問題が生じない、血糖値低下効果と糖尿病の治療及び予防効果を有する薬剤として有効に使用できることを見出し、以下の通り本発明を完成した。
【0007】
本発明は、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、エンテロコッカス・エビウム、エンテロコッカス・デュランス、エンテロコッカス・サリバリウス、エンテロコッカス・ミティス及びエンテロコッカス・イクイヌスより成るエンテロコッカス属細菌群から選択される1種又は2種以上の微生物を有効成分として含有する、血糖値低下剤に関する。
【0008】
本発明はまた、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、エンテロコッカス・エビウム、エンテロコッカス・デュランス、エンテロコッカス・サリバリウス、エンテロコッカス・ミティス及びエンテロコッカス・イクイヌスより成るエンテロコッカス属細菌群から選択される1種又は2種以上の微生物を有効成分として含有する、糖尿病治療・予防剤にも関する。
【0009】
ここで上記の微生物(エンテロコッカス属に属する細菌)は、その微生物の培養物、菌体、又は菌体処理物のいずれの形態であってもよい。また菌体又は菌体処理物は、生菌体でも死菌体でもよく、その混合物であってもよいが、死菌体であることがなお好ましい。
【0010】
また本発明は、エンテロコッカス属に属する微生物をロゴサ液体培地にて培養することにより培養物を調製することを含む、エンテロコッカス属に属する微生物を有効成分として含有する血糖値低下剤又は糖尿病治療・予防剤の製造方法にも関する。
【0011】
この製造方法では、限定するものではないが、上記微生物をロゴサ液体培地にてpH6.5〜8.0、温度36〜38℃の条件下で好気的に培養(例えば静置培養)することが好ましい。
【0012】
本発明ではまた、上記製造方法において、上記のように調製した培養物から菌体を回収し、それを洗浄することをさらに含むことが好ましい。洗浄した菌体は、生理食塩水等の溶媒中に懸濁して菌懸濁液として調製してもよい。
【0013】
さらに本発明では、上記製造方法において、洗浄した菌体(又は菌懸濁液)を加熱し、洗浄することをさらに含むことが好ましい。洗浄した菌体は、さらに懸濁液として調製してもよい。ここで上記の洗浄した菌体(又は菌懸濁液)の加熱は、110〜120℃で5〜10分間にわたって行うことが好ましい。
【0014】
本発明においては、下記(a)〜(e)のステップを含む、エンテロコッカス属に属する微生物を有効成分として含有する血糖値低下剤又は糖尿病治療・予防剤の製造方法が特に好ましい:
(a)エンテロコッカス属に属する微生物の生菌体をロゴサ液体培地に接種するステップ、
(b)接種した培地を、pH6.5〜8.0、温度36〜38℃の条件下で好気的に静置培養することにより培養物を調製するステップ、
(c)調製した培養物を遠心分離することにより菌体を回収するステップ、
(d)回収した菌体を生理食塩水で洗浄するステップ、及び
(e)洗浄した菌体を生理食塩水に懸濁することにより菌懸濁液を得るステップ。
【0015】
さらにこの製造方法では、下記(f)〜(h)のステップをさらに含んでもよい:
(f)ステップ(e)で得られた菌懸濁液を110〜120℃で5〜10分間加熱するステップ、
(g)加熱した菌液中の菌体を生理食塩水で洗浄するステップ、及び
(h)洗浄された菌体を生理食塩水に懸濁させることにより前記エンテロコッカス属に属する微生物の死菌体を含有する菌懸濁液を調製するステップ。
【0016】
上記製造方法において、前記エンテロコッカス属に属する微生物とは、好ましくは、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、エンテロコッカス・エビウム、エンテロコッカス・デュランス、エンテロコッカス・サリバリウス、エンテロコッカス・ミティス及びエンテロコッカス・イクイヌスより成る細菌群から選択される1種又は2種以上の微生物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る血糖値低下剤、糖尿病治療・予防剤は、その薬効成分が腸内細菌であることから、副作用を生じさせることがなく、他の薬剤と重複して服用しても飲み合わせによる問題が生じさせることがなく、血糖値低下に、そして糖尿病の治療及び予防に極めて有効である。
【0018】
本明細書は、本願の優先権の基礎となる日本国特願2002−190616号の明細書に記載された内容を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に用いる微生物(乳酸菌)、菌体処理方法、薬理効果等についてそれぞれ詳しく説明する。
【0020】
1.微生物
本発明の血糖値低下剤及び糖尿病治療・予防剤の製造には、エンテロコッカス属に属する微生物(乳酸菌)のうち1種又は2種以上の微生物を用いることが好ましい。エンテロコッカス属に属する微生物とは、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、エンテロコッカス・エビウム、エンテロコッカス・デュランス、エンテロコッカス・サリバリウス、エンテロコッカス・ミティス及びエンテロコッカス・イクイヌス等に分類されるエンテロコッカス属細菌群に含まれる微生物を意味する。
【0021】
これらのエンテロコッカス属に属する微生物は、市販品として入手できるだけでなく、様々な生物寄託機関から分与を受けることもできる。そのような生物寄託機関としては、例えば、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本)やATCC(American Type Culture Collection;米国)等が挙げられる。例えば、エンテロコッカス・フェカリス菌としては、後述の表1に挙げたエンテロコッカス・フェカリス菌KRI−68株が、ATCC(American Type Culture Collection;米国)に受託番号「ATCC Number 700802」として寄託されている。本発明においては、この受託番号に基いてエンテロコッカス・フェカリス菌KRI−68株をATCCから入手し、好適に使用することができる。
【0022】
本発明において特に有用である具体的な菌株を表1に例示する。
【0023】
尚、表中において、「KRI」を付した番号は、菌株を特定するための整理番号である。これらの菌株は、株式会社 河合乳酸球菌研究所(日本、東京都)から入手することができる。
【表1】

【0024】
表1に例示された菌株の菌学的性質を表2に示す。
【表2】

【0025】

2.培養方法及び菌体処理方法
本発明において用いるエンテロコッカス属に属する微生物は、限定するものではないが、下記のようなロゴサ(Rogosa)液体培地にて培養することが好ましい。
【表3】

【0026】
本発明においては、上記エンテロコッカス属に属する微生物を用いて、血糖値低下剤及び糖尿病治療・予防剤を製造することができる。本発明では、好ましくはロゴサ(Rogosa)液体培地にて、培養した(増殖させた)エンテロコッカス属に属する微生物を、血糖値低下剤及び糖尿病治療・予防剤の製造に用いることができる。本発明では、そのようにして得たエンテロコッカス属に属する微生物の培養物を、血糖値低下剤及び糖尿病治療・予防剤の製造に直接用いてもよい。本発明では、培養物から分離した培養上清(少量の菌体、菌体の一部、菌体からの分泌物等を含む)も、血糖値低下剤及び糖尿病治療・予防剤の製造に用いることができる。
【0027】
また本発明では、該培養物から単離した菌体を、血糖値低下剤及び糖尿病治療・予防剤の製造に用いることがより好ましい。特に好ましくは、上記エンテロコッカス属に属する微生物を、例えばロゴサ(Rogosa)液体培地にて培養(例えば、pH6.5〜8.0、温度36〜38℃の条件下で好気的に静置培養)し、得られた培養物を遠心分離し、沈殿物を回収することによって得られる菌体を、血糖値低下剤及び糖尿病治療・予防剤の製造に用いる。こうして得られた菌体(主として生菌体)を、直接薬剤の製造に使用してもよいが、生理食塩水等の等張液で洗浄し、次いで生理食塩水等の等張液中に懸濁してから使用してもよい。
【0028】
さらに本発明では、得られた菌体に、例えば加熱処理、超音波処理、凍結解凍処理などの細胞破壊処理を含む任意の処理を施して、菌体処理物を調製し、それを血糖値低下剤又は糖尿病治療・予防剤の製造に用いてもよい。菌体処理物は、生菌体を含んでいてもよいが、実質的に死菌体(例えば、死菌体懸濁液などの、死菌体を含む組成物)であることが好ましい。死菌体としては、例えば、上記で得られた菌体を超音波処理等によって破壊した破壊菌体や、上記で得られた菌体を加熱処理した加熱処理菌体などが挙げられる。血糖値低下剤及び糖尿病治療・予防剤の製造に用いる菌体処理物に含まれる死菌体は、全菌体であっても菌体の一部分であってもよい。
【0029】
本発明の血糖値低下剤及び糖尿病治療・予防剤の製造に用いる上記エンテロコッカス属に属する微生物は、例えば以下のようにしての菌体又は菌体処理物として調製してもよい。
【0030】
1)生菌体(生菌体懸濁液)の調製例
エンテロコッカス属に属する微生物を前述のロゴサ液体培地5リットルに接種し、PH6.5〜8.0の範囲で温度条件を中心値37℃(36〜38℃)として、5時間にわたり好気的に静置培養し、生菌数109/mlの培養物を調製する。得られた培養物を12000rpmの連続遠心分離に付し、生菌を集菌し、それを生理食塩水で二度洗浄した後、生理食塩水に懸濁して菌懸濁液50ml(1011個/ml)を得る。
【0031】
2)死菌体(加熱処理菌体)の調製例
上記1)の調製例に従って得られた菌懸濁液50ml(1011個/ml)を115℃で10分間加熱する。こうして加熱処理した菌体80mgを0.5mlの生理食塩水で洗浄後、生理食塩水に懸濁して死菌体懸濁液を得る。
【0032】

3.エンテロコッカス属に属する微生物の血糖値低下作用並びに血糖値低下剤及び糖尿病治療・予防剤における使用
以上のようにして調製したエンテロコッカス属に属する微生物(好ましくは該微生物の培養物、菌体又は菌体処理物)は、良好な血糖値低下作用を示す。これらの微生物(好ましくはその培養物、菌体又は菌体処理物)のもつ血糖値低下作用は、例えば後述の実施例に記載されているような、当業者に公知の血糖値測定法を利用して確認することができる。本発明において用いるエンテロコッカス属に属する微生物(好ましくは該微生物の培養物、菌体又は菌体処理物)は、効果的に血糖値を低下させることができ、限定するものではないが、例えば未投与群と比較して血糖値を10%〜40%低下させることができる。
【0033】
また本発明の微生物(好ましくは該微生物の培養物、菌体又は菌体処理物)のもつ急性毒性は非常に低い。例えば後述の実施例に示されているLD50値(50%致死量)は、生菌体懸濁液の場合、9.9×108〜1.3×1010個/マウス(腹腔内投与)、死菌体懸濁液の場合はいずれの菌にあっても5400mg/kg体重(経口投与)、920mg/kg体重(腹腔内)である。特に経口投与の場合、生菌体懸濁液でも死菌体懸濁液でも、実質的に急性毒性が認められない。
【0034】
従って、本願発明に係る微生物(好ましくは該微生物の培養物、菌体又は菌体処理物)を有効成分として含有する薬剤は、血糖値低下剤として非常に有効であり、さらに、血糖値低下効果と密接に関連する糖尿病治療剤及び糖尿病予防剤として有効に用いることができる。
【0035】
本発明の血糖値低下剤及び糖尿病治療・予防剤は、薬学上許容される担体又は添加物を含有していてもよい。このような担体及び添加物の例として、水、薬学上許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ソルビトール、ラクトースなどが挙げられる。使用される添加物は、薬剤の剤形に応じて適宜又は組み合わせて選択される。本発明の血糖値低下剤及び糖尿病治療・予防剤は、その他の薬学上一般に使用される増量剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、安定剤、緩衝剤、矯味剤、保存剤、着色剤などの添加剤をさらに含有してもよい。
【0036】
本発明の血糖値低下剤及び糖尿病治療・予防剤は、限定するものではないが、経口的に、又は静脈注射により、投与することができる。本発明の血糖値低下剤及び糖尿病治療・予防剤は、錠剤、顆粒剤、丸剤、カプセル剤、凍結乾燥粉末などを含む粉剤をはじめとする固形製剤、ジェル剤、あるいは生理食塩水等に溶解した液剤、懸濁剤、シロップ剤をはじめとする液体製剤などの通常の剤形であってよい。
【0037】
本発明の血糖値低下剤及び糖尿病治療・予防剤を投与する対象は、ヒト、家畜、愛玩動物、実験(試験)動物等を含む哺乳動物である。特に、血糖値が高めのヒトなどの哺乳動物、又は糖尿病に罹り易い素因を有するヒトなどの哺乳動物が、投与対象として好ましい。
【0038】
本発明の血糖値低下剤及び糖尿病治療・予防剤の投与量は、投与対象の動物種、年齢及び体重、投与経路、投与回数などにより異なり、当業者の裁量によって広範囲に変更することができる。例えば、有効成分である微生物(好ましくは該微生物の培養物、菌体又は菌体処理物)の経口投与量は、好ましくは1日あたり80〜900mg/kg体重程度とすることができる。本発明の血糖値低下剤及び糖尿病治療・予防剤は、限定するものではないが、1日1回以上、継続的に(例えば1ヶ月以上)投与することが好ましい。
【0039】
本発明は、上記のエンテロコッカス属に属する微生物(好ましくは該微生物の培養物、菌体又は菌体処理物)又はそれを含有する医薬組成物を上記のようにして投与することを含む、血糖値を低下させる方法、並びに糖尿病を治療及び/又は予防する方法にも関する。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
1.実験動物の飼育、並びに血糖値及び尿糖値の測定
後述の全ての実施例において、実験動物を用いた実験は以下のように行った。
【0042】
実験動物は、糖尿病マウスKK−Ay(雄)を日本クレア社より4週令で入手し、2週間の予備飼育の後、実験に使用した。
【0043】
(1)飼育条件
室温22±1℃、湿度55.0±10%、照明周期12時間にして、1ケージに7匹ずつ飼育した。飼料は、固形飼料を通した水道水を給水瓶に入れ、自由摂取させた。
【0044】
(2)採血方法
採血は5日間に1回ずつ行い、マウスの尾動脈より採血した。
【0045】
(3)血糖値の測定
血糖値の測定については、ロシュ・ダイアクッスティック株式会社より市販されているアドバンテージIIにアドバンテージテストストリップSをセットし、採血した血液を流し込んで血糖値を測定した。
【0046】
(4)採尿及び尿糖値の測定
採尿は5日に1回行った。棒瓶と透明カップの間に網をセットし、棒瓶側の方にはマウスを入れ、透明カップの方に尿を回収した。栄研化学株式会社より購入したウロペーパーIIG、pHに、回収した尿をしみ込ませ、−、±、+、++、+++及び++++の6段階で判定した。+以上と判定された尿について糖尿病の発症と判断した。
【0047】
2.生菌体懸濁液の調製及びマウスへの投与結果
上述の生菌体の調製例に従い、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)KRI−622株をロゴサ液体培地に接種し、PH6.5〜8.0、温度36〜38℃にて好気的に静置培養し、次いで生理食塩水中に菌懸濁液(生菌体)を調製した。またこの菌懸濁液から、上述の死菌体の調製例に従って加熱処理死菌体(死菌体懸濁液)を調製した。
【0048】
次に、調製した生菌体懸濁液(菌体:1011個/日)、又は加熱処理死菌体(80mg/0.5ml/日)を、上記の糖尿病マウスKK−Ay(雄性6週令飼育、平均体重31g、各群7匹)に経口的に毎日投与し、85日間飼育を続けた。飼育期間中、5日に1回、マウスの尾動脈より採血した。血液中の血糖値を上記の方法で測定した結果を表4に示す。
【表4】

【0049】
表4に示すように、微生物エンテロコッカス・フェシウムKRI−622は、死菌体では80日目で37.4%、85日目で37.5%の血糖値の著しい低下率を示した。生菌体でも80日目、85日目でそれぞれ16.6%、17.1%の低下が見られた。
【0050】
[実施例2]
エンテロコッカス・フェシウムKRI−622株の代わりにエンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)KRI−68株を用いて、実施例1と同様の手順で実験を行った。調製した生菌体懸濁液(菌体:1011個/日)、又は加熱処理死菌体(80mg/0.5ml/日)を、上記の糖尿病マウスKK−Ay(雄性6週令飼育、平均体重31g、各群7匹)に経口的に毎日投与し、85日間飼育を続けた。飼育期間中、5日に1回、マウスの尾動脈より採血した。血液中の血糖値を上記の方法で測定した結果を表5に示す。
【表5】

【0051】
表5に示すように、微生物エンテロコッカス・フェカリスKRI−68は、死菌体では80日目で39%、85日目で36%の血糖値の著しい低下率を示した。生菌体でも80日目、85日目でそれぞれ16%、17%の低下が見られた。
【0052】
[実施例3]
エンテロコッカス・フェシウムKRI−622株の代わりにエンテロコッカス・エビウム(Enterococcus abium)KRI−1223株を用いて、実施例1と同様の手順で実験を行った。調製した生菌体懸濁液(菌体:1011個/日)、又は加熱処理死菌体(80mg/0.5ml/日)を、上記の糖尿病マウスKK−Ay(雄性6週令飼育、平均体重31g、各群7匹)に経口的に毎日投与し、85日間飼育を続けた。飼育期間中、5日に1回、マウスの尾動脈より採血した。血液中の血糖値を上記の方法で測定した結果を表6に示す。
【表6】

【0053】
表6に示すように、微生物エンテロコッカス・エビウムKRI−1223は、死菌体では80日目で11%、85日目で12%の血糖値の低下率を示した。生菌体では80日目で1.8%、85日目で8%の低下率であった。
【0054】
[実施例4]
エンテロコッカス・フェシウムKRI−622株の代わりに、エンテロコッカス・デュランス(Enterococcus durans)KRI−614株を用いて、実施例1と同様の手順で実験を行った。調製した生菌体懸濁液(菌体:1011個/日)、又は加熱処理死菌体(80mg/0.5ml/日)を、上記の糖尿病マウスKK−Ay(雄性6週令飼育、平均体重31g、各群7匹)に経口的に毎日投与し、85日間飼育を続けた。飼育期間中、5日に1回、マウスの尾動脈より採血した。血液中の血糖値を上記の方法で測定した結果を表7に示す。
【表7】

【0055】
表7に示すように、微生物エンテロコッカス・デュランスKRI−614は、死菌体では80日目、85日目でそれぞれ14%の血糖値の低下率を示した。生菌体では80日目、85日目でそれぞれ9%の低下率を示した。
【0056】
[実施例5]
エンテロコッカス・フェシウムKRI−622株の代わりに、エンテロコッカス・ミティス(Enterococcus mitis)KRI−814株、エンテロコッカス・サリバリウス(Enterococcus salivarius)KRI−1216株、及びエンテロコッカス・イクイヌス(Enterococcus equinus)KRI−120株をそれぞれ個別に用いて、実施例1と同様の手順で実験を行った。調製した生菌体懸濁液(菌体:1011個/日)、又は加熱処理死菌体(80mg/0.5ml/日)を、上記の糖尿病マウスKK−Ay(雄性6週令飼育、平均体重31g、各群7匹)に経口的に毎日投与し、85日間飼育を続けた。飼育期間中、5日に1回、マウスの尾動脈より採血した。血液中の血糖値を上記の方法で測定した結果を表8に示す。
【表8】

【0057】
表8に示すように、微生物エンテロコッカス・ミティスKRI−814、及びエンテロコッカス・イクイヌスKRI−120は、死菌体では85日目に8.1%の血糖値の低下率を示した。
【0058】
[実施例6]
ICR系マウス(雄6週令、平均体重30g±0.7g)を使用して、本発明に係る菌体又は菌体処理物の急性毒性を調べた。
【0059】
実施例1と同様に、上記の生菌体の調製例に従って各菌株の生菌体懸濁液を調製した。得られた生菌体懸濁液から、マウス1匹当り9×109個、9×108個、9×107個の3段階の生菌投与量を含むように生理食塩水懸濁液を調製し、その生理食塩水懸濁液0.5mlを、ICR系マウスに腹腔内投与し、14日間マウスの生死を観察した(各群10匹)。BEHRENS−KARBER法に従って測定したLD50値を表9に示す。
【表9】

【0060】
尚、死菌体の場合はいずれの菌にあっても、LD50値は、6×1013個/マウス以上(腹腔内投与)であった。また経口投与ではいずれの菌も実質的に無毒性であった。
【0061】
[製剤例]
実施例1に従って得られたエンテロコッカス・フェシウムKRI−622の凍結乾燥物80mg(死菌体数3×1011個に相当)を精製でんぷん末920mgと均一に混合し、打錠して経口投与用錠剤とした。この錠剤は、体重60kgの成人における死菌体用量6×109個/kg体重に相当する。
【0062】
また、上記凍結乾燥物500mgを精製でんぷん末500mgと混合し、打錠して経口投与用錠剤としたものは、同様に体重60kgの成人における死菌体用量3.3×1010個/kgに相当する。
【0063】
本発明の血糖値低下剤及び糖尿病予防剤は、このようにして、上記標準用量等に基づいて菌体と薬学的に許容され得る担体とを混合して、上記薬効を有する所望の剤形とすることができる。
【0064】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はその全体を参照により本明細書中に組み入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のエンテロコッカス属細菌(好ましくは該細菌の培養物、菌体又は菌体処理物)を有効成分とする血糖値低下剤及び糖尿病治療・予防剤は、高い血糖値低下作用及び高い安全性のために、例えば糖尿病患者に投与する上で好適に使用できる。またそれらの製造方法は、高い血糖値低下作用を有する薬剤を製造するために有利に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、エンテロコッカス・エビウム、エンテロコッカス・デュランス、エンテロコッカス・サリバリウス、エンテロコッカス・ミティス及びエンテロコッカス・イクイヌスより成るエンテロコッカス属細菌群から選択される1種又は2種以上の微生物を有効成分として含有する、血糖値低下剤。
【請求項2】
前記微生物が、前記微生物の培養物、菌体、又は菌体処理物である、請求項1に記載の血糖値低下剤。
【請求項3】
前記菌体又は菌体処理物が、生菌体及び/又は死菌体である、請求項2に記載の血糖値低下剤。
【請求項4】
エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、エンテロコッカス・エビウム、エンテロコッカス・デュランス、エンテロコッカス・サリバリウス、エンテロコッカス・ミティス及びエンテロコッカス・イクイヌスより成るエンテロコッカス属細菌群から選択される1種又は2種以上の微生物を有効成分として含有する、糖尿病治療・予防剤。
【請求項5】
前記微生物が、前記微生物の培養物、菌体、又は菌体処理物である、請求項4に記載の糖尿病治療・予防剤。
【請求項6】
前記菌体又は菌体処理物が、生菌体及び/又は死菌体である、請求項5に記載の糖尿病治療・予防剤。
【請求項7】
エンテロコッカス属に属する微生物をロゴサ液体培地にて培養することにより培養物を調製することを含む、エンテロコッカス属に属する微生物を有効成分として含有する血糖値低下剤又は糖尿病治療・予防剤の製造方法。
【請求項8】
前記培養をpH6.5〜8.0、温度36〜38℃の条件下で好気的に行う、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記培養物から菌体を回収し、洗浄することをさらに含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記の洗浄した菌体を加熱し、洗浄することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
下記ステップ(a)〜(h)を含む、エンテロコッカス属に属する微生物を有効成分として含有する血糖値低下剤又は糖尿病治療・予防剤の製造方法:
(a)エンテロコッカス属に属する微生物の生菌体をロゴサ液体培地に接種するステップ、
(b)接種した培地を、pH6.5〜8.0、温度36〜38℃の条件下で好気的に静置培養することにより培養物を調製するステップ、
(c)調製した培養物を遠心分離することにより菌体を回収するステップ、
(d)回収した菌体を生理食塩水で洗浄するステップ、
(e)洗浄した菌体を生理食塩水に懸濁することにより菌懸濁液を得るステップ。
(f)ステップ(e)で得られた菌懸濁液を110〜120℃で5〜10分間加熱するステップ、
(g)加熱した菌懸濁液中の菌体を生理食塩水で洗浄するステップ、及び
(h)洗浄された菌体を生理食塩水に懸濁させることにより前記微生物の死菌体を含有する菌懸濁液を調製するステップ。
【請求項12】
前記エンテロコッカス属に属する微生物が、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、エンテロコッカス・エビウム、エンテロコッカス・デュランス、エンテロコッカス・サリバリウス、エンテロコッカス・ミティス及びエンテロコッカス・イクイヌスより成る細菌群から選択される1種又は2種以上の微生物である、請求項7〜11のいずれか1項に記載の方法。

【国際公開番号】WO2005/077390
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【発行日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−518026(P2005−518026)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002309
【国際出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(503017530)
【Fターム(参考)】