説明

血糖制御状態の検査方法

[課題] 新規血糖制御状態診断用マーカー並びに新規血糖制御状態の診断方法及び検査方法を提供する。
[解決手段] 患者の血液又は体液中のAGE2濃度を測定する工程と、食後高血糖状態の制御状態を判定する工程を含んでなる、食後高血糖状態の制御状態の検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、血糖制御状態の検査方法、及び血糖制御状態の診断方法に関する。更に詳しくは、食後高血糖を反映するマーカーを用いる血糖制御状態の検査方法、診断方法に関する。
【背景技術】
近年、糖尿病患者では非糖尿病患者に比べて動脈硬化による心血管イベントの発生リスクが有意に高いことが知られるようになってきた。そこで最近の糖尿病治療の最終目的は血糖を低下させることにとどまらず、その先にある動脈硬化による心血管イベントの抑制に主眼がおかれるようになってきた。最近、アメリカ糖尿病学会(ADA)、世界保健機構(WHO)、日本糖尿病学会(JDS)より臨床的、疫学的研究の成果を考慮した新たな糖尿病の診断基準が発表され、血糖値に関しては空腹時血糖≧126mg/dl、随時血糖値≧200mg/dl、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)での2時間血糖値≧200mg/dlのいずれかが確認されれば糖尿病と診断される(Diabetes Care 20:1183(1997),Diabet Med 15:539(1998),糖尿病42:385(1999)、非特許文献1−3)。しかしながら随時血糖値の値が食事のタイミングで大きく変動すること、75g経口ブドウ糖負荷試験の実施には手間がかかることなどの簡便性や経済性の観点から空腹時血糖値の測定が優先されてきた。
しかし、空腹時血糖値は必ずしも心血管イベントの発生とは連動していないことが明らかにされ、食後血糖あるいはOGTT2時間値の重要性が強調されるようになってきた。ヨーロッパにおける約25000症例を対象にしたフォローアップ平均約7年間の前向き研究(DECODE研究)では、食後2時間血糖値の上昇が死亡リスクの増大と強く関連することが示された(Lancet 354:617(1999)、非特許文献4)。また、日本における山形県船形町の疫学調査でも食後の高血糖が心筋梗塞や脳梗塞をおこすリスクが正常な人の2倍に上ることが報告されている(Diabetes Care 22:920(1999)、非特許文献5)。さらに重要なこととしてこの調査では、空腹時血糖が正常レベルで食後血糖が140−200mg/dlの境界型といわれる人でも心血管イベント発生のリスクが上昇することが示され、早い段階からの食後血糖管理の重要性が報告されている。
これまでに血糖管理の指標として臨床的に汎用されてきたものとしてヘモグロビンA1c(以下HbA1cという。)、グリコアルブミン、1,5アンヒドログルシネート(以下1,5AGという)がある。HbA1cおよびグリコアルブミンはそれぞれ検査時の約2ヶ月前および2週間前からの平均血糖値を表すといわれ、空腹時血糖も含めた全体的な血糖管理指標であって食後血糖値を反映するものではない。また、1,5AGについては比較的短期間の血糖変動を反映するといわれているが、尿糖の排泄に応じて変化する指標のため食後の変動を適切に反映しているわけではないと考えられる。したがって、より適切に食後血糖の変動をモニターできる指標の開発が望まれている。これまでに食後高血糖が酸化ストレスを亢進するという観点から、ニトロチロシン(nitrotyrosine)、8−ヒドロキシ−2’デオキシグアノシン(8−hydroxy−2’deoxyguanosine)、イソプロスタン(isoprostanes)、マロンジアルデヒド(malondialdehyde)などが食後血糖のマーカーとなるかどうかについて検討がなされている(Clin Chem Lab Med 41:1144(2003)、Free Radic Res 33:115(2000)、非特許文献6、7)が、未だ証明されるにはいたっていない。
ところで、最終糖化生成物(Advanced Glycation Endproducts、終末糖化産物とも呼ばれる。以下AGEsという。)はグルコースあるいはその代謝産物や自動酸化分解物が生体内で非酵素的にたんぱく質と結合して生成されるもので、糖尿病患者では高血糖状態が維持されることによって血液中に高濃度のAGEsが蓄積されることが知られている。また、AGEsはその受容体を介して細胞機能を障害することも知られている。最近になって、AGEsはタンパク質に結合するグルコース、あるいはグルコースの代謝産物の種類の違いから6種類に分類されることが報告されている(J Neuropathol Exp Neurol 62:486(2003)、非特許文献8)。これらのなかでグルコース由来のAGEsはAGE1、グリセルアルデヒド由来のAGEはAGE2と呼ばれ、AGEsの中でも多く研究がなされている。しかし、これらAGEsが実際にどのような血糖変動を反映するかについてはこれまでのところ報告がない。
【非特許文献1】Diabetes Care 20:1183(1997)
【非特許文献2】Diabet Med 15:539(1998)
【非特許文献3】糖尿病42:385(1999)
【非特許文献4】Lancet 354:617(1999)
【非特許文献5】Diabetes Care 22:920(1999)
【非特許文献6】Clin Chem Lab Med 41:1144(2003)
【非特許文献7】Free Radic Res 33:115(2000)
【非特許文献8】J Neuropathol Exp Neurol 62:486(2003)
【非特許文献9】Diabetes 51:2826(2002)
【発明の開示】
本発明は、新規な食後血糖の変動をモニターできるマーカー、好ましくは食後高血糖の制御状態をモニターできるマーカーを提供し、食後高血糖状態の検査手法の開発を課題とする。
本発明者らは、上記問題点に鑑み、鋭意検討を行った結果、AGE2が食後高血糖状態のマーカーとなりうることを見出した。
すなわち、本発明者らは、AGE2の元となるグリセルアルデヒドは、食後に高まったグルコース代謝の結果、特に食後に多く生成されることに着目した。血液中のAGE2レベルが非常に短期間の血糖変動によって変動する可能性を見出し、鋭意検討を行った結果、AGE2の血中濃度が食後高血糖状態に相関することを見出した。
具体的には、本発明者らは、持続的に血糖値を低下させるインスリン及び食後高血糖のみを抑制するナテグリニドを糖尿病モデル動物に投与し、種々の血中マーカーを比較検討し、既知の平均血糖値を表すHbA1cとは異なり、食後高血糖を抑制しない群と抑制した群との間で差のあるマーカーを探索した。
その結果AGE2が、食後高血糖の抑制に依存した挙動を示すことを見出した。即ち、AGE2を食後高血糖状態のマーカーとして用いることが可能であり、また、AGE2をモニターすることにより食後高血糖状態の制御状態を検査することが可能であることを見出した。
そこで本発明者らは、かかる知見に基づき、新規な血糖の制御状態の検査方法にかかる本発明を完成したものである。
即ち、本発明は以下の内容に関する。
〔1〕 患者の血液又は体液中のAGE2濃度を測定する工程と、食後高血糖状態の制御状態を判定する工程を含んでなる、食後高血糖状態の制御状態の検査方法。
〔2〕 健常者の値または同一患者の他の時点での値と比較する工程を更に含んでなる、上記〔1〕記載の検査方法。
〔3〕 患者の血液又は体液中のAGE2濃度の測定が食後高血糖を低減する薬剤の投与後であり、かつ、同一患者の他の時点での値が、該食後高血糖を低減する薬剤の投与前の値であり、該食後高血糖を低減する薬剤の効果判定に用いられる、上記〔2〕記載の検査方法。
〔4〕 食後高血糖を低減する薬剤が、メグリチニド系の薬剤、αグリコシダーゼ阻害剤及び超速効型のインスリン製剤からなる群より選ばれる、上記〔3〕記載の検査方法。
〔5〕 メグリチニド系の薬剤が、ナテグリニド、レパグリニド及びミチグリニドからなる群より選ばれる、上記〔4〕記載の検査方法。
〔6〕 AGE2がタンパク質、ペプチド又はアミノ酸にグリセルアルデヒドが結合したものである上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の検査方法。
〔7〕 AGE2濃度の測定が、ウエスタンブロット法、エンザイムイムノアッセイ法、ラジオイムノアッセイ法、液体クロマトグラフィー法及びドットブロット法からなる群より選択される測定方法により行われることを特徴とする、上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕 抗AGE2抗体を含む食後高血糖状態の制御状態の評価用試薬。
〔9〕 抗AGE2抗体がモノクローナル抗体である、上記〔8〕記載の試薬。
〔10〕 抗AGE2抗体がポリクローナル抗体である、上記〔8〕記載の試薬。
(発明の効果)
本発明の血糖制御状態の検査方法により、糖尿病患者または糖尿病患者予備軍の健常者の食後血糖制御状態をモニターすることが出来る。また、本発明の血糖制御状態の検査方法により、糖尿病患者または糖尿病患者予備軍の健常者の食後血糖制御状態を検査及び診断することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
図1は、ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病ラットの血中のHbA1c濃度とAGE濃度の関係を示すグラフである。図1AはHbA1c濃度とAGE1濃度の関係を示すグラフであり、図1BはHbA1c濃度とAGE2濃度の関係を示すグラフである。
図2は、Goto−Kakizaki(GK)ラットの血糖値を示すグラフである。
図3は、Goto−Kakizaki(GK)ラットの食後血糖(食後1時間経過後の血糖値)に対するナテグリニド及びインスリンの効果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における「食後高血糖状態」とは、糖尿病患者および糖尿病予備軍の健常者において食事の直後より認められる一過性の血糖上昇のことをいう。なお、ADA、WHOの診断基準によれば食後2時間の血糖値が200mg/dlを超えた場合に糖尿病、140−200mg/dlの場合に耐糖能異常(impaired glucose tolerance、以下IGTという)と診断される。JDSの基準もこれにほぼ準拠している。したがって、より具体的には食後2時間の血糖値が140mg/dlを超えた状態をいう。
また、「食後高血糖状態の制御」とは、主として上述の基準に基づいて食後2時間の血糖値を低下させることを目的とした治療のことを示すが、これに限らず食後1時間の血糖値や食事あるいは経口ブドウ糖負荷試験時の血糖曲線下面積の低減も含まれ、これには食後高血糖を低減する薬剤などの薬剤による食後血糖値の低減やカロリー制限などの食事制限や運動療法などが含まれる。
本発明において測定される「AGE2」とは、タンパク質、ペプチド又はアミノ酸にグリセルアルデヒドが結合して形成された最終糖化生成物である。具体的に糖化されるタンパク質の候補としては、アルブミン、グロブリン、リポタンパク質、各種細胞内タンパク質、基底膜タンパク質などが挙げられるが、これに限られるものではなく、生体内で機能しているタンパク質全般がAGE2化されるタンパク質の候補となりうる。
本発明の検査方法の対象となる患者としては、特に制限はないが、糖尿病の罹患が疑われる健常者や糖尿病患者が主な対象である。また、ここでいう患者は、ヒトに限定されるものではなく、ヒト以外の哺乳動物(例えば、サル、ラット、マウス、ハムスター、モルモット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウシ等)も本発明の対象となる。また、患者の性別、齢、体重等も特に制限されるものではない。
ここに、ヒトの場合、ADA、WHO、JDSによる糖尿病の診断基準としては、血糖値に関しては空腹時血糖≧126mg/dl、随時血糖値≧200mg/dl、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)での2時間血糖値≧200mg/dlのいずれかが確認されれば糖尿病と診断されるが、本発明の検査方法の対象となる患者には、これら数値を充たした糖尿病患者やこれらの数値に近いと判断される患者が含まれる。
患者の血液又は体液中のAGE2濃度の測定に当たっては、患者の血液又は体液のサンプル(例えば、血液、血漿、血清、リンパ液、尿など)を取得し、必要な場合には適宜前処理を行った後に測定を行う。AGE2濃度を測定する手段としては、ウエスタンブロット法、エンザイムイムノアッセイ法(EIA法)、ラジオイムノアッセイ法(RIA法)、液体クロマトグラフィー法、ドットブロット法等の公知の方法が例示される。
ここに、ウエスタンブロット法とは、ゲル電気泳動によって分子量にしたがい分離したタンパク質を転写膜に写し取り、さらに特定のタンパク質に対する抗体を用いて転写膜上で抗原抗体反応によって特定のタンパク質を発色させてその存在を肉眼観察する方法をいい、蛍光試薬で発色させる方法や、酵素反応を利用して発色させる方法など、多くの周知の手法が適用可能である。
また、EIA法とは、ELISA法、IEMA法(Immuno−enzymometric assay)、EMIT法(Enzyme multiplied immunoassay technique)等を含み、特定のタンパク質に対する抗体と被検検体、あるいは抗原とを反応させた複合物に酵素標識抗体を加え反応させた後、その酵素に対する基質を添加し発色させその吸光度により比色定量するものであって、種々のプロトコールが周知である。
RIA法とは、EIA法において酵素反応を利用して発色させるステップを、放射性同位体を用いて検出する手法である。安全性、簡便性の観点からは、EIA法がより好ましい。
ドットプロット法とは、被検検体を疎水性膜上に点着し、EIA法と同様にして特定のタンパク質を定量化する方法である。
本発明に好ましい方法としては抗AGE2ポリクローナル抗体または抗AGE2モノクローナル抗体などの抗AGE2抗体を用いるELISA法、RIA法、ドットブロット法が挙げられる。特に好ましくはELISA法が挙げられる。
ここで、抗AGE2ポリクローナル抗体は、ウサギ血清アルブミン(以下RSAという)とグリセルアルデヒドを混合して作成したAGE2をウサギに免疫してまず抗血清を作製し、これをさらに、抗原としたAGE2を担体として固定したアフィニティカラム(AGE2/Sepharose 4Bカラム)を用いたアフィニティー精製するなどの方法によって調製することができる。
また、抗AGE2モノクローナル抗体は、RSAとグリセルアルデヒドを混合して作成したAGE2を用いて常法に従って調製することができる。
上記抗AGE2ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を用いるELISA法による測定は、以下の手順で行われる。まず、あらかじめAGE2を固定した96ウェルプレートに被検検体および抗AGE2抗体溶液を添加し一定時間反応させる。被検検体中のAGE2と固定化したAGE2が抗体に対して競合的に反応し、固定化したAGE2と反応して複合体を形成した抗AGE2抗体をさらに酵素標識抗体と反応させ、その酵素に対する基質を添加し発色させその吸光度により比色定量する。
測定されたAGE2濃度を用いて血糖制御状態を判定ないしは診断するには、例えば、食後高血糖を低減する薬剤の服用開始前にあらかじめ測定しておいた同一患者のAGE2濃度あるいは健常者のAGE2濃度と、服用開始後所定の期間(例えば、1〜4週間、好ましくは1週間程度)経過後の、それぞれのサンプルについてAGE2濃度を比較することにより、食後高血糖状態が制御されたか否かを簡便に判別することが出来る。
また、AGE2濃度は健常者に比べて糖尿病患者においてより高濃度であることが予測されているので、糖尿病患者のAGE2濃度が、食後高血糖を低減する薬剤の服用により、健常者でのAGE2濃度に近づくことにより、食後高血糖状態が制御されたことが判別可能である。
さらに、同一患者における比較のほか、糖尿病患者において、食後高血糖を低減する薬剤(例えば、ナテグリニド)を所定の期間(例えば、1〜4週間、好ましくは1週間程度)投与し、確実にコンプライアンスの得られる服用条件下において、該薬剤投与前後でのAGE2濃度変化を複数患者において測定し、食後高血糖状態が制御される前後におけるAGE2濃度の変化を指標化することが出来るので、そのようにして求められた指標との比較により、食後高血糖状態が制御されたか否かを判別することも出来る。この際、同時に食後血糖値を測定しておくことで、食後血糖値とAGE2濃度との相関を求めることも可能であり、AGE2濃度の程度から食後血糖値の程度を予測することも可能である。
上記食後高血糖を低減する薬剤としては、ナテグリニド、レパグリニド、ミチグリニド等のメグリチニド系の薬剤、アカルボース、ボグリボース、ミグリトール等のαグルコシダーゼ阻害剤、インスリンアスパルト、インスリンリスプロ等の超速効型のインスリン製剤などが挙げられる。
また、上述した公知の食後高血糖を低減する薬剤の性能評価と同様にして、未知の食後高血糖を低減する薬剤のスクリーニングをすることができる。
従って、本発明の検査方法はこれら食後高血糖を低減する薬剤の性能評価やスクリーニングなどに有用であるのに加え、これら薬剤により治療を受ける患者のコンプライアンス確認などに有効である。
また、本発明は、抗AGE2抗体を含む食後高血糖状態の制御状態の評価用試薬を提供する。該試薬における抗AGE2抗体としては、上述した抗AGE2モノクローナル抗体や抗AGE2ポリクローナル抗体が挙げられる。
本発明の試薬においては、当該試薬を使用する各種分析方法に応じて必要な試薬などを併せて梱包し、キットとすることも好ましい。例えば、EIA法により分析する場合には、支持体(ウェルプレートなど)、二次抗体(酵素標識抗体など)、発色試薬、緩衝液などを併せてキットとすることができる。
以下、実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、実施例は本発明の説明のために記載するものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
実施例1
<ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病ラットの血中AGE濃度測定>
8週齢のSD系雄性ラットに50mg/kgのストレプトゾトシン(以下STZという。)を腹腔内投与し糖尿病を誘発した。STZ投与1週間後に血糖値を測定することによって糖尿病の発症が確認されたラットを以後の実験に用いた。糖尿病ラットを無作為に病態対照群、インスリン治療群、ピリドキサミン治療群の3群に分け、正常ラットの群を入れた4群で8週間飼育した。ピリドキサミンはAGEsのひとつであるカルボキシメチルリジンの生成を抑制することが知られている化合物で、糖尿病モデル動物における網膜症の発症を抑制することが知られている(Diabetes 51:2826(2002)、非特許文献9)。インスリン治療群のラットには試験開始時に埋め込み式インスリン(LINPLANT,LINCHIN CANADA Inc.)を背部皮下に埋め込んだ。ピロドキサミン治療群には0.3%のピリドキサミンを含む餌を試験開始時より供与した。餌および水は自由摂取にて供与し、8週後に採血をおこないHbA1c、グリセルアルデヒド由来AGE(AGE2)、グルコース由来AGE(AGE1)の濃度を測定した。なお、AGE1濃度またはAGE2濃度の測定は、ウサギより調製した抗AGE1または抗AGE2ポリクローナル抗体(抗AGE1抗体はBSAとグルコースを混合して作製したAGE1をウサギに免疫してまず抗血清を作製し、さらにAGE1/Sepharose 4Bカラムを用いたアフィニティー精製して調製した。抗AGE2抗体はBSAとグリセルアルデヒドを混合して作製したAGE2をウサギに免疫してまず抗血清を作製し、さらにAGE2/Sepharose 4Bカラムカラムを用いたアフィニティー精製して調製した)を用い、常法に従ってELISA法により行った。
また、HbA1c濃度の測定は、GLYCOHEMOGLOBIN ANALYZER HLC−723GHb V(トーソーテクノシステム株式会社)を用いて行った。
(結果)
【表1】

病態対照群のHbA1c値は正常ラットに比べて約3倍上昇し、インスリン治療群ではその上昇が有意に抑制された。AGE1濃度は病態対照群で正常群に比べて約5倍程度まで上昇していたがインスリンおよびピリドキサミン群で有意に抑制された。一方、AGE2濃度は病態対照群で正常群に比べて約2倍程度まで上昇していたが、インスリン治療群、ピリドキサミン群ともに有意な低下は認められなかった。また、AGE1はHbA1cと有意な相関を示したのに対し、AGE2にはHbA1cとの間に有意な相関は認められなかった(図1)。以上のことから、血中のAGE2濃度は長期間の血糖管理マーカーの変動とは独立した変動を示す可能性が示唆された。
実施例2
<食後血糖のAGE2濃度に及ぼす影響>
自然発症の2型糖尿病モデルであるGoto−Kakizaki(GK)ラットを先行文献にしたがって1日2回各1時間の制限給餌に馴化させ実験に用いた(Metabolism 51:1452(2002))。この馴化によって図2に示すような食後の高血糖が1日2回誘発される。8週齢のGKラットを無作為に病態対照群、ナテグリニド治療群、インスリン治療群の3群に分け6週間飼育した。ナテグリニド治療群には50mg/kgのナテグリニドを毎食直前に経口投与した。インスリン治療群には0.5U/kgのレギュラーインスリンを毎食直前に皮下投与した。試験期間中食後血糖(食後1時間経過後の血糖値)をモニターし、6週後に採血して空腹時血糖(FBG)、AGE1、AGE2濃度の測定を行った。なお、AGE1濃度またはAGE2濃度の測定は、ウサギより調製した抗AGE1または抗AGE2ポリクローナル抗体(実施例1参照)を用い、常法に従ってELISA法により行った。
また、FBG濃度の測定は、測定日の1回目の食餌を供与する直前(前日の2回目の給餌終了から17時間経過後)に尾静脈より採血を行い、常法にしたって全血サンプルの血糖値を測定した。
(結果)
【表2】

図3に示すように試験開始4週目以降ナテグリニドおよびインスリンによって食後血糖は有意に低下したが、空腹時血糖は各群間に有意な差は認められなかった(表2)。また、表2に示すように血中AGE2の濃度はナテグリニドおよびインスリン治療群ともに有意な低下を示した。これらの結果から、AGE2は空腹時血糖が変動しない状況でも食後血糖の変動を反映して変動することが明らかとなった。したがって、血中AGE2濃度は食後血糖変動のマーカーとして有用であると考えられた。
【産業上の利用可能性】
本発明は、新規血糖制御状態診断用マーカー、並びに、血糖制御状態の診断及び検査方法を提供することが出来るので、医療、診断薬の分野で利用可能である。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の血液又は体液中のAGE2濃度を測定する工程と、食後高血糖状態の制御状態を判定する工程を含んでなる、食後高血糖状態の制御状態の検査方法。
【請求項2】
健常者の値または同一患者の他の時点での値と比較する工程を更に含んでなる、請求項1記載の検査方法。
【請求項3】
患者の血液又は体液中のAGE2濃度の測定が食後高血糖を低減する薬剤の投与後であり、かつ、同一患者の他の時点での値が、該食後高血糖を低減する薬剤の投与前の値であり、該食後高血糖を低減する薬剤の効果判定に用いられる、請求項2記載の検査方法。
【請求項4】
食後高血糖を低減する薬剤が、メグリチニド系の薬剤、αグリコシダーゼ阻害剤及び超速効型のインスリン製剤からなる群より選ばれる、請求項3記載の検査方法。
【請求項5】
メグリチニド系の薬剤が、ナテグリニド、レパグリニド及びミチグリニドからなる群より選ばれる、請求項4記載の検査方法。
【請求項6】
AGE2がタンパク質、ペプチド又はアミノ酸にグリセルアルデヒドが結合したものである請求項1〜5のいずれかに記載の検査方法。
【請求項7】
AGE2濃度の測定が、ウエスタンブロット法、エンザイムイムノアッセイ法、ラジオイムノアッセイ法、液体クロマトグラフィー法及びドットブロット法からなる群より選択される測定方法により行われることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
抗AGE2抗体を含む食後高血糖状態の制御状態の評価用試薬。
【請求項9】
抗AGE2抗体がモノクローナル抗体である、請求項8記載の試薬。
【請求項10】
抗AGE2抗体がポリクローナル抗体である、請求項8記載の試薬。

【国際公開番号】WO2005/080993
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【発行日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510345(P2006−510345)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003438
【国際出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】