説明

衛生マスク

【課題】 抗インフルエンザウイルス活性等の抗ウイルス活性が長時間持続しうると共に、表面に付着したウイルスが内部に取り込まれやすい衛生マスクを提供する。
【解決手段】 この衛生マスクは、マスク本体の呼吸通過箇所に用いられる繊維基材に、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗インフルエンザウイルス剤等の抗ウイルス剤が、ポリビニルアルコール等の接着剤成分によって付着せしめられている。抗ウイルス剤には、炭素数5〜18の脂肪酸と共に界面活性剤が添加されている。脂肪酸としては、粉末状のステアリン酸、液状のカプリル酸、液状の吉草酸又は液状のカプロン酸を用いるのが好ましい。界面活性剤としては、アセチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール又はアルキルスルホコハク酸ナトリウムを用いるのが好ましい。なお、繊維基材としては不織布が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク本体の呼吸通過箇所に抗インフルエンザウイルス剤等の抗ウイルス剤を付着させた衛生マスクに関し、特に、豚インフルエンザウイルスや鳥インフルエンザウイルスの如き新型インフルエンザウイルスを不活化させる機能を持つ抗インフルエンザウイルス剤を付着させた衛生マスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨年より、豚インフルエンザが世界的に流行している。豚インフルエンザは、鳥インフルエンザに比べて致死率は低いものの、妊婦、5歳以下又は60歳以上の人及び基礎疾患を有する人は、感染時に重症化する可能性が高く、現在でも感染予防が必須となっている。
【0003】
感染予防の一つとして、従来より、豚インフルエンザ等の新型インフルエンザに限らず旧型インフルエンザの場合でも、外出時に衛生マスクを着用することが推奨されている。衛生マスクとしては、ガーゼマスク及び不織布マスクがあるが、ガーゼマスクはマスク本体が目の粗いガーゼよりなるため、ここからインフルエンザウイルスが侵入し、感染予防の効果は低いと言われている。不織布マスクはマスク本体が目の細かい不織布よりなるため、ガーゼマスクに比べて感染予防の効果はあると言われているが、それでもなお、感染予防の効果が疑問視されている。
【0004】
そのため、マスク本体にインフルエンザウイルス捕捉剤を添着させた衛生マスクが提案されている(特許文献1)。しかしながら、単にインフルエンザウイルスを捕捉しただけでは、マスク本体中でインフルエンザウイルスが増殖し、咳やくしゃみにより、却ってインフルエンザウイルスを周囲にまき散らすことになる。また、マスク本体を手で触ると、手にインフルエンザウイルスが付着して口から人体に侵入することになる。したがって、インフルエンザウイルス捕捉剤を添着させた衛生マスクの効果も疑問視されている。
【0005】
このため、インフルエンザウイルス捕捉剤ではなく、インフルエンザウイルスを不活化させる抗インフルエンザウイルス剤を用いることも提案されている(特許文献2)。特許文献2は、抗インフルエンザウイルス剤として茶の抽出成分であるポリフェノールを用いたものである。そして、茶の抽出成分の水溶液を調製し、この水溶液に不織布を含浸して、不織布に茶の抽出成分を付着させた後、この不織布をマスク本体として使用したり、マスク本体に添着することが提案されている。
【0006】
近年、抗インフルエンザウイルス剤等の抗ウイルス剤として、金属酸化物の水和物よりなる微粒子が提案されている(特許文献3)。この微粒子はヒドロキシラジカルを発生し、このヒドロキシラジカルによってウイルスを不活化させるものである。しかしながら、このような微粒子は、茶の抽出成分のように水溶性でないため、不織布に付着させるには、接着剤成分を使用する必要がある。
【0007】
しかしながら、接着剤成分を使用して、微粒子状の抗ウイルス剤を付着させると、抗ウイルス活性が長時間持続しにくいという欠点があった。抗ウイルス活性が長時間持続しにくい理由は定かではないが、接着剤成分の皮膜によって微粒子の大部分が覆われてしまうからではないかと推定している。つまり、皮膜によって覆われていない部分(露出している部分)が、当初抗ウイルス活性を示すだけであり、覆われている部分(露出していない部分)の抗ウイルス活性が使用されていないのではないかと推定している。
【0008】
本発明者は、上記欠点を解決するために、マスク本体として使用されたり或いはマスク本体に添着される不織布等の繊維基材に、微粒子状の抗ウイルス剤を付着させても、抗ウイルス活性が長時間持続しうる衛生マスクを提案した(特許文献4)。すなわち、特許文献4に係る発明は、接着剤成分としてポリビニルアルコールを使用することにより、抗ウイルス活性を長時間持続させうるというものである。
【0009】
また、本発明者は、抗ウイルス剤と脂肪酸とを繊維基材に付着させることにより、抗ウイルス剤からヒドロキシラジカルを長時間に亙って発生せしめ、抗ウイルス活性を長時間持続させうる抗ウイルス剤担持シートも提案した(特許文献5)。
【0010】
【特許文献1】特開平05−115572号公報(要約の項)
【特許文献2】特開平08−333271号公報(特許請求の範囲の項及び段落番号0026)
【特許文献3】特開2008−37814号公報(特許請求の範囲の項)
【特許文献4】特願2009−258446号明細書
【特許文献5】特願2010−173207号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献5に記載された発明は、抗ウイルス活性を長時間持続させうるものであるが、脂肪酸により衛生マスク表面が撥水性になり、ウイルス含有水が衛生マスクに付着した場合、ウイルスを衛生マスク内部に侵入させないという効果やウイルスが衛生マスク本体の呼吸通過箇所を通過しにくくなるという効果を奏する。一方、ウイルス含有水が衛生マスク表面に付着したままの状態となり、この状態で手指で衛生マスクを触ると、ウイルスが手指に付着し、ウイルスによる感染が拡大するおそれがあった。
【0012】
本発明の課題は、ウイルス含有水が衛生マスク表面に付着した場合、ウイルス含有水を衛生マスク内部に取り込むことができる衛生マスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、マスク本体の呼吸通過箇所に用いられる繊維基材に、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤、炭素数5〜18の脂肪酸及び界面活性剤をシート状物に付着させたことを特徴とする衛生マスクに関するものである。
【0014】
本発明に用いる微粒子状の抗ウイルス剤としては、特許文献1及び国際公開2005/013695に記載されているものが挙げられる。すなわち、ドロマイト(苦灰石)を焼成し、それを水和した後、粉砕して微粒子としたものである。微粒子の組成は、CaCO3、Ca(OH)2及びMg(OH)2を主成分とするものである。また、微粒子の平均粒子径は0.1〜60μm程度である。かかる抗ウイルス剤は、ヒドロキシラジカルを発生する。そして、ヒドロキシラジカルは、豚インフルエンザウイルスや鳥インフルエンザウイルスの如き新型インフルエンザウイルスはもとより、旧型インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス及びレトロウイルス等のウイルスを不活化する。
【0015】
また、本発明に用いる微粒子状の抗ウイルス剤と併せて、炭素数5〜18の脂肪酸を用いることによって、本発明ではヒドロキシラジカルの発生を長時間持続しうるようになる。この理由は定かではないが、脂肪酸の皮膜によって、ヒドロキシラジカルの発生を阻害する水分がヒドロキシラジカル発生源に接触し難くなること、及びヒドロキシラジカルの放出が緩慢となり、ヒドロキシラジカルが長時間に亙って徐々に放出されることに起因しているのではないかと推定している。
【0016】
炭素数5〜18の脂肪酸としては、ステアリン酸、カプリル酸、吉草酸、カプロン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸又はリノール酸等が用いられる。炭素数5〜18の脂肪酸は、粉末状又は液状で用いられてもよいし、水又はアルコールに溶解又は懸濁させた溶液状で用いてもよい。本発明においては、特に粉末状のステアリン酸、液状のカプリル酸、液状の吉草酸又は液状のカプロン酸を用いるのが好ましい。
【0017】
界面活性剤としては、親水性の良好なものであれば、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤又は両性界面活性剤を使用しうる。特に、ポリオキシアルキレンアルコール型非イオン界面活性剤を用いるのが好ましい。ポリオキシアルキレンアルコール型非イオン界面活性剤の具体例としては、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、アセチレングリコール又はアセチレンアルコール等が挙げられる。また、アルキルスルホコハク酸ナトリウム塩等の陰イオン界面活性剤も好ましく用いられる。
【0018】
なお、アセチレングリコールは、以下のような構造を持つものである。
【化1】

また、アセチレンアルコールは、以下のような構造を持つものである。
【化2】

化1及び化2において、Rは各々独立して水素原子又はアルキル基であり、Xはエチレン又はプロピレンであり、yは正の整数である。
【0019】
本発明で用いる微粒子状の抗ウイルス剤は、繊維基材にたとえば接着剤成分によって付着せしめられる。接着剤成分としては、従来公知のものが用いられる。好ましい接着剤成分は、ポリビニルアルコール又はポリオレフィン樹脂である。
【0020】
接着剤成分であるポリビニルアルコールの重合度は250〜1000であるのが好ましい。この理由は、水溶液として取り扱いやすく、かつ接着作用を十分に発揮しうるからである。また、ポリビニルアルコールのケン化度は、35〜99モル%程度であるのが好ましい。特に、66〜99モル%が好ましく、より好ましくは90〜99モル%である。なお、ポリビニルアルコールは、一般的に水に溶解させたポリビニルアルコール水溶液の状態で接着剤として取り扱われる。
【0021】
接着剤成分であるポリオレフィン樹脂は、数平均粒子径が1μm以下の微粒子状のポリオレフィン樹脂の形態で用いるのが好ましい。ここで、ポリオレフィン樹脂微粒子の数平均粒子径は、日機装社製の「マイクロトラック粒度分布計 UPA150(MODEL No.9340)」を用いて求めたものである。数平均粒子径が大きすぎると、水系溶媒中に良好に分散しにくくなる傾向が生じる。
【0022】
本発明では、特に水系溶媒に分散しやすいポリオレフィン樹脂を用いるのが好ましい。かかるポリオレフィン樹脂は本件出願人が開発したものであって、特許第3699935号公報に記載されているものであり、(A1)不飽和カルボン酸又はその無水物と(A2)炭素数2〜6のアルケンを含むモノマーを共重合してなる共重合体からなるものである。(A1)不飽和カルボン酸又はその無水物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等が用いられる。また、(A2)炭素数2〜6のアルケンとしては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等が用いられる。なお、(A1)及び(A2)の他に、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のアクリル酸エステルを第三成分として共重合しても差し支えない。また、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ビニルアルコール、アクリロニトリル等の第三成分を共重合しても差し支えない。
【0023】
(A1)と(A2)の共重合比は、質量比で、(A1):(A2)=0.5〜20:99.5〜80程度である。また、第三成分を共重合するときは、全体の35質量%以下程度の量で共重合される。
【0024】
以上のような組成を持つポリオレフィン樹脂微粒子は、特許第3699935号公報に記載されているように、水系溶媒によく分散するものである。したがって、接着剤成分の一つであるポリオレフィン樹脂微粒子は、一般的に、水及び/又はアルコールに分散させた水系分散液の状態で接着剤として用いられる。
【0025】
本発明に用いる抗インフルエンザウイルス剤等の抗ウイルス剤を繊維基材に付着させるには、たとえば、以下のような方法によるのが好ましい。まず、微粒子状の抗ウイルス剤を水及びアルコールよりなる水系溶媒に分散させて水性分散液を準備する。水系溶媒中にアルコールを併用するのは、繊維基材への浸透性を向上させるためである。アルコールとしては、エタノール等の低級アルコールが水よりも低い沸点を持っており、水と共に蒸発させうるので、好ましい。そして、この水性分散液に炭素数5〜18の脂肪酸を添加混合する。炭素数5〜18の脂肪酸が粉末として取り扱われるときには、この粉末を添加混合すればよい。また、炭素数5〜18の脂肪酸が液状として取り扱われるときには、この液状物を添加混合すればよい。脂肪酸を添加混合する方法としては、この他に、予め、脂肪酸を水及び/又はアルコールに溶解又は懸濁させて脂肪酸溶液の形で添加混合してもよい。なお、アルコールとしては前記と同様の理由でエタノール等の低級アルコールを使用するのが好ましい。脂肪酸を添加混合した後、ポリビニルアルコールが溶解しているポリビニルアルコール水溶液等の接着剤成分を含む水性接着剤液を添加混合する。そして、最後に界面活性剤を粉末、水溶液又は水分散液の形で添加混合する。以上のようにして得られたスラリー液を、浸漬法、塗布法又は噴霧法等の従来公知の手段で、シート状物に付与する。そして、乾燥して、スラリー液中の水及びアルコールを蒸発させると、微粒子状の抗ウイルス剤が、接着剤成分によって繊維基材に付着せしめられるのである。
【0026】
また、接着剤成分としてポリオレフィン樹脂を用いるときは、数平均粒子径が1μm以下の微粒子状のポリオレフィン樹脂が水系溶媒に分散している水系分散液を、接着剤成分を含む水性接着剤液として用いればよい。この水系分散液も、水及びアルコールよりなる水系溶媒に、微粒子状のポリオレフィン樹脂を分散させて準備すればよい。アルコールを併用するのは、前記したのと同様の理由であり、かつ微粒子状のポリオレフィン樹脂の分散性を向上させるためである。また、使用するアルコールも、前記したのと同様の理由で、エタノール等の低級アルコールであるのが好ましい。
【0027】
微粒子状の抗ウイルス剤に対する脂肪酸の配合割合は、微粒子状の抗ウイルス剤100質量部に対して、脂肪酸が1〜80質量部が好ましく、特に1〜40質量部が好ましい。また、微粒子状の抗ウイルス剤に対する界面活性剤の配合割合は、微粒子状の抗ウイルス剤100質量部に対して、界面活性剤が1〜20質量部であるのが好ましい。脂肪酸に対する界面活性剤の配合割合は、脂肪酸100質量部に対して、1〜100質量部であるのが好ましい。この程度の配合割合が、抗ウイルス活性の長時間持続性とウイルス含有水の衛生マスク内部への取り込み性とのバランスが良好となる。
【0028】
繊維基材としては、不織布やガーゼ等の編織物が用いられる。不織布は、ガーゼ等の編織物に比べて目が細かいため、衛生マスクの素材として適している。不織布としては、短繊維不織布や長繊維不織布等の従来公知のものが用いられる。本発明では、抗ウイルス剤の接着性(抗ウイルス剤の付着量やその接着力)の向上を目的として、ポリオレフィン樹脂微粒子からなる接着剤を使用することがあるため、不織布としてもポリオレフィン系長繊維よりなる不織布を用いるのが好ましい。ポリオレフィン系長繊維としては、ポリプロピレン長繊維やポリエチレン長繊維を挙げることができる。しかしながら、このような単一成分の長繊維では、長繊維相互間が融着しすぎてフィルム状になり、通気性が悪くなるので、衛生マスクの素材として好適ではない。したがって、本発明では、芯成分が高融点のポリエステルよりなり、鞘成分が低融点のポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィンよりなる芯鞘型複合長繊維を用いるのが好ましい。このような芯鞘型複合長繊維の場合は、鞘成分のみの融着によって長繊維相互間が結合するため、通気性を犠牲にせずに、形態安定性のよい不織布が得られるからである。
【0029】
衛生マスクのマスク本体は、従来より種々の態様のものが用いられている。たとえば、マスク本体の呼吸通過箇所に種々の繊維基材を何層も重ね、種々の機能を具備させたタイプのものがある。このようなタイプのものでは、何層も重ねた繊維基材のうち、少なくとも一層の繊維基材に抗ウイルス剤を付着させておけばよい。また、簡易に使用しうる衛生マスクの場合、マスク本体は不織布等を単層で用いたタイプのものもある。このようなタイプの場合には、単層の繊維基材に、抗ウイルス剤を付着させておけばよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る衛生マスクは、マスク本体の呼吸通過箇所に用いられる繊維基材に、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤が、炭素数5〜18の脂肪酸及び界面活性剤と共に付着せしめられている。炭素数5〜18の脂肪酸は、微粒子状の抗ウイルス剤からのヒドロキシラジカルの発生を長時間持続しうるようになる。また、界面活性剤は衛生マスク表面を親水性にし、そこに付着したウイルス含有水は、衛生マスク内部に取り込まれる。したがって、豚インフルエンザウイルス等のウイルスが衛生マスクに付着しても、長時間に亙ってヒドロキシラジカルによるウイルスの不活化が可能になると共に、このウイルスが衛生マスク内部に取り込まれる。よって、本発明に係る衛生マスクは、抗ウイルス活性が長時間持続すると共に表面にウイルスが残存しにくいので、手指で触っても手指にウイルスが付着しにくく、ウイルス感染の拡大を防止しうるという効果を奏する。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本発明は、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤を炭素数5〜18の脂肪酸及び界面活性剤を併用して衛生マスクを構成する繊維基材に付着しておくと、ヒドロキシラジカルの発生を長時間持続しうると共にウイルスを衛生マスク内部に取り込むことが可能になるとの知見に基づくものとして、理解されるべきである。
【0032】
実施例1
微粒子状の抗インフルエンザウイルス剤(モチガセ社製、商品名「BR−p3」)4.5gが水25.5gに分散している分散液を攪拌しながら、エタノール13.2gを添加して、水及びエタノールよりなる水系溶媒に抗インフルエンザウイルス剤が分散している水性分散液を準備した。この水性分散液にステアリン酸粉末0.45gを添加し撹拌して混合した。一方、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JF−03」)0.225gを水に溶解させて、固形分濃度10質量%としたポリビニルアルコール水溶液2.25gを前記水性分散液に添加し、十分に攪拌して混合した。その後、攪拌しながら、下記方法によって調製されたポリオレフィン樹脂微粒子が分散した水系分散液(固形分濃度25質量%)2.7gをゆっくり添加混合した。さらにその後、アセチレングリコール含有水溶液(日信化学工業株式会社製、商品名「オルフィンWE−003」、濃度50質量%)0.27gを添加し混合して、スラリー液を得た。このスラリー液中における抗インフルエンザウイルス剤の濃度は約9質量%であり、ポリビニルアルコールの濃度は約0.5質量%であり、ポリオレフィン樹脂微粒子の濃度は約1質量%であり、ステアリン酸の濃度は約1質量%であり、アセチレングリコールの濃度は約0.3質量%である。
【0033】
[ポリオレフィン樹脂微粒子が分散した水系分散液の調製]
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた攪拌機を用いて、100gのポリオレフィン樹脂(アルケマ社製、商品名「ボンダイン HX−8290」)、有機溶媒として120gのエタノール、塩基性化合物として3.36gの85%水酸化カリウム及び170gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、攪拌翼の回転速度を300rpmとして攪拌し、ポリオレフィン樹脂微粒子を水中に浮遊させた。そして、この状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。系内温度を120℃に保って、さらに60分間攪拌した。その後、水浴に漬けて、回転速度300rpmを保ったまま攪拌しつつ、室温(約25℃)まで冷却した。最後に、300メッシュのステンレス製フィルター(平織組織で線径0.035mm)を用いて加圧濾過(空気圧0.25MPa)した。得られたポリオレフィン樹脂微粒子が分散した水系分散液は乳白色であり、微粒子の数平均粒子径は約0.06μmであった。
なお、ここで使用したポリオレフィン樹脂は、エチレン80質量%、アクリル酸エチル18質量%、無水マレイン酸2質量%より構成された共重合体であり、融点は81℃のものである。
【0034】
上記方法で得られたスラリー液を、スパンボンド不織布(ユニチカ社製、商品名「エルベス S0503WDO」、目付50g/m2)上にバーコーターを用いて塗布した後、115℃で90秒間乾燥して、スパンボンド不織布(繊維基材)に抗インフルエンザウイルス剤が付着した試験片1を得た。ここで用いているスパンボンド不織布は、芯成分がポリエステルで鞘成分がポリエチレンよりなる芯鞘型複合長繊維で構成されたものであり、部分的にポリエチレンの融着によって生じた熱融着区域を持っているものである。なお、スパンボンド不織布に対する抗インフルエンザウイルス剤、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン樹脂微粒子、ステアリン酸及びアセチレングリコールの付着量は、合計約20g/m2 であり、各々は以下のとおりであった。すなわち、抗インフルエンザウイルス剤の付着量は約15g/m2 であり、ポリビニルアルコールの付着量は約0.75g/m2であり、ポリオレフィン樹脂微粒子の付着量は約2.25g/m2であり、ステアリン酸の付着量は約1.5g/m2であり、アセチレングリコールの付着量は約0.5g/m2であった。したがって、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対するステアリン酸の付着量は約10質量部であり、アセチレングリコールの付着量は約3質量部である。
【0035】
比較例1
ステアリン酸粉末及びアセチレングリコールを添加しない他は、実施例1と同様の方法で対照試験片1を得た。
【0036】
比較例2
アセチレングリコールを添加しない他は、実施例1と同様の方法で対照試験片2を得た。
【0037】
[濡れ性の評価]
試験片1、対照試験片1及び対照試験片2の表面にスポイドで水滴1滴(50〜70μL程度)を垂らし、その水滴が完全に試験片表面から内部に染み込むまでの時間を計測し、この結果を以下に示す5段階の基準で評価し、表1に示した。
●・・・即座に染み込む。
◎・・・10秒以内に染み込む。
○・・・10秒〜30秒で染み込む。
△・・・30秒〜3分で染み込む。
×・・・3分以上かかる。
【0038】
[表1]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
試験片1 対照試験片1 対照試験片2
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
濡れ性 ◎ ◎ △〜×
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0039】
[抗インフルエンザウイルス活性評価]
抗インフルエンザウイルス活性は炭酸ガスと接触すると低下していくことが知られているため、試験片1、対照試験片1及び対照試験片2を所定時間炭酸ガスに接触させた後の抗インフルエンザウイルス活性を評価した。具体的には、二酸化炭素インキュベーター(31℃、二酸化炭素濃度20%に設定)内に、各試験片を静置し、30分間隔で各試験片を切り出した。そして、抗インフルエンザウイルス活性と試験片のpHとの間に相関関係があること、すなわち、抗インフルエンザウイルス活性があると試験片にチモールフタレイン指示薬を噴霧したとき発色することが知られているため、切り出した試験片にチモールフタレイン指示薬を噴霧し、20分経過後の発色の有無を観察した。この結果を以下の基準で三段階で評価し、表2に示した。
○・・・発色あり
△・・・一部発色あり
×・・・発色なし
【0040】
[表2]
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切出時間 試験片1 対照試験片1 対照試験片2
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0分 ○ ○ ○
60分 ○ △ ○
120分 △ × ○
180分 △ × △
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表1及び表2の結果から、試験片1は脂肪酸を使用していない対照試験片1と同程度の濡れ性であることが分かり、かつ、脂肪酸を使用している対照試験片2と同程度、抗インフルエンザウイルス活性が持続していることが分かる。したがって、試験片1は、抗インフルエンザウイルス活性を長時間持続しうると共に、表面にインフルエンザウイルスを含有した水が付着した場合、インフルエンザウイルスを繊維基材内部に取り込みやすいことが分かる。
【0041】
実施例2
ステアリン酸粉末を4.5gを66gのエタノールに溶解させたステアリン酸溶液を準備した。そして、このステアリン酸溶液7.05gを、実施例1で用いたステアリン酸粉末0.45gに代え、その他は実施例1と同様の方法で試験片2を得た。なお、抗インフルエンザウイルス剤等の付着量は実施例1と同一である。
【0042】
実施例3
アセチレングリコール含有水溶液0.27gに代えて、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール含有界面活性剤(楠本化成株式会社製、商品名「AGITAN350」)0.135gを用いる他は、実施例2と同様の方法で試験片3を得た。なお、抗インフルエンザウイルス剤等の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して、アセチレングリコールの付着量が約3質量部であったのが、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールの付着量が約3質量部に変更された他は、実施例2と同一である。
【0043】
実施例4
アセチレングリコール含有水溶液0.27gに代えて、アルキルスルホコハク酸ナトリウム含有水溶液(サンノプコ株式会社製、商品名「ノプコウェット50」、濃度50質量%)0.45gを用いる他は、実施例2と同様の方法で試験片4を得た。なお、抗インフルエンザウイルス剤等の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して、アセチレングリコールの付着量が約3質量部であったのが、アルキルスルホコハク酸ナトリウムの付着量が約5質量部に変更された他は、実施例2と同一である。
【0044】
実施例5
アセチレングリコール含有水溶液0.27gに代えて、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム含有水溶液(花王株式会社製、商品名「ペレックスOT−P」、濃度70質量%)0.32gを用いる他は、実施例2と同様の方法で試験片5を得た。なお、抗インフルエンザウイルス剤等の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して、アセチレングリコールの付着量が約3質量部であったのが、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウムの付着量が約5質量部に変更された他は、実施例2と同一である。
【0045】
比較例3
ステアリン酸溶液7.05gをエタノール6.6gに変更し、かつ、アセチレングリコール含有水溶液を用いない他は、実施例2と同一の方法で対照試験片3を得た。
【0046】
比較例4
アセチレングリコール含有水溶液を用いない他は、実施例2と同一の方法で対照試験片4を得た。
【0047】
試験片2〜5、対照試験片3及び対照試験片4について、試験片1の場合と同様にして濡れ性を評価した。この結果を表3に示した。
[表3]
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試 験 片 対照試験片
━━━━━━━━━━━━━━━ ━━━━━━━
2 3 4 5 3 4
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
濡れ性 ●〜◎ ◎ ○〜△ ◎〜○ ◎〜○ ×
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【0048】
試験片2〜5、対照試験片3及び対照試験片4について、試験片1の場合と同様にして抗インフルエンザウイルス活性を評価した。この結果を表4に示した。
[表4]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
試 験 片 対照試験片
切出時間 ━━━━━━━━━━━━━━━ ━━━━━━━
2 3 4 5 3 4
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
0分 ○ ○ ○ ○ ○ ○
30分 ○ ○ ○ ○ △ ○
60分 ○ × ○ ○ × ○
90分 ○ ○ ○ ○
120分 △ △ ○ ○
150分 × × ○ ○
180分 △ △
210分 △ △
240分 △ △
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【0049】
表3及び表4の結果から、試験片2〜5は脂肪酸を使用していない対照試験片3と比べて、濡れ性は同程度であるが、抗インフルエンザ活性は長時間持続している。また、試験片2〜5は、脂肪酸を使用している対照試験片4と比べて、濡れ性が大幅に向上し、抗インフルエンザ活性は同程度であるか又は短時間しか持続していない結果となっている。つまり、試験片2〜5は、抗インフルエンザ活性の持続性を若干犠牲にしながら、表面にインフルエンザウイルスを含有した水が付着した場合、インフルエンザウイルスを繊維基材内部に取り込みやすくしたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスク本体の呼吸通過箇所に用いられる繊維基材に、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤、炭素数5〜18の脂肪酸及び界面活性剤をシート状物に付着させたことを特徴とする衛生マスク。
【請求項2】
抗ウイルス剤が抗インフルエンザウイルス剤である請求項1記載の衛生マスク。
【請求項3】
脂肪酸が、ステアリン酸又はカプリル酸である請求項1記載の衛生マスク。
【請求項4】
界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルコール型非イオン界面活性剤である請求項1記載の衛生マスク。
【請求項5】
抗ウイルス剤が接着剤成分によってシート状物に付着せしめられている請求項1記載の衛生マスク。
【請求項6】
接着剤成分がポリビニルアルコール及び/又はポリオレフィン樹脂である請求項5記載の衛生マスク。
【請求項7】
ポリオレフィン樹脂が、以下に示す(A1)及び(A2)を含むモノマーを共重合してなる共重合体である請求項6記載の衛生マスク。
(A1):不飽和カルボン酸又はその無水物
(A2):炭素数2〜6のアルケン
【請求項8】
繊維基材が不織布である請求項1乃至7のいずれか一項に記載の衛生マスク。
【請求項9】
不織布の構成繊維が芯鞘型複合長繊維であって、芯成分がポリエステルであり、鞘成分がポリオレフィンである請求項8記載の衛生マスク。

【公開番号】特開2012−71040(P2012−71040A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219703(P2010−219703)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】