説明

衛生洗浄装置

【課題】殺菌性金属イオンを微生物に対して効果的に作用させ、悪臭の発生を抑えるとともに便器の衛生を保つことができる、経済的な衛生洗浄装置を提供する。
【解決手段】付着抑制手段により便器内への排泄物の残存を抑制することで、有機物による殺菌性金属イオンの消費を抑えるとともに、排泄物からの微生物の混入を抑制することがで、殺菌性金属イオンを微生物に対して効果的に作用させることができ、悪臭の発生を抑えるとともに便器の衛生を保つ衛生洗浄装置を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便器内に殺菌性金属イオンを供給し便器を衛生的に保つ衛生洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
便器に付着する汚れとしては、排泄物の残存や、細菌に含まれる酵素により尿中の尿素が分解され生成する尿石スケール、細菌やカビなどの微生物の増殖による汚れなどがあり、これらが便器のリム裏、便器トラップの喫水線や便器トラップ内に着色汚れとして付着している。着色した汚れは不衛生であるとともに、微生物の作用により悪臭を発生させていた。便器を衛生的に保つために、悪臭を発生させるもととなる微生物を殺菌する便器洗浄装置として、殺菌性のある金属イオンとして銀イオンや銅イオンを電気的に溶出させ便器内に供給する電解槽を備えた便器洗浄装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。図7は従来の便器洗浄装置の構成図である。
【0003】
図7において、便器100に排泄された排泄物は、フラッシュバルブ等からなる給水弁101の開閉により給水管102を介した洗浄水で水洗される。さらに殺菌性金属イオンのイオン源となる金属を含む少なくとも1対の電極103とフロートセンサー104とを有する貯水式電気分解槽105は流量制御弁106を介して、便器100の便器トラップ107に接続されている。電極103は制御手段108により制御され、電極103間に電圧を印加することで、殺菌性のある金属イオンが電極から溶出し、便器トラップ107に殺菌性金属イオンを含む水が供給されるとともに、フロートセンサー104により貯水式電気分解槽105の水位を検知し、電磁弁109を開閉し、給水管102から貯水式電気分解槽105に水を供給する。殺菌性のある金属イオンとしては、亜鉛イオン、銅イオン、銀イオンなどが用いられているが殺菌効果の高い銀イオンを用いることが一般的に行われている。
【0004】
便器トラップ107に殺菌性のある金属イオンを供給することで、持続的な殺菌効果を得ることができ、便器や便器トラップに発生する微生物の増殖を抑え、悪臭の発生を抑え便器を衛生的に保つことができる。
【0005】
便器の衛生性を高めるために殺菌効果のある金属イオンを用いる方法は他にも用いられており、常に便器トラップ内に所定濃度の殺菌性金属イオンを供給する方法として、使用の都度便器内に殺菌性金属イオンを供給するものや、便器洗浄水タンク内に殺菌性金属イオンを溶出する電極を設けるもの(特許文献2参照)がある。しかしながら、便器トラップ内に常に所定濃度の殺菌性金属イオンを供給する方法では、殺菌性金属イオンの使用量が増加し不経済であるという課題があった。これら課題を一部解決し、高価な殺菌性金属イオンを経済的に使用するために、殺菌性金属イオンを便器に供給するタイミングをコントロールするもの(特許文献3参照)などもある。
【特許文献1】特開平11-106791号公報
【特許文献2】特開2000−64289号公報
【特許文献3】特開2000−204532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高価な殺菌性金属イオンを経済的に使用するために、殺菌性金属イオンを便器に供給するタイミングをコントロールする従来の方法では、使用者が便器を使用するタイミングをコントロールすることができないため、短時間で殺菌効果を得る必要があ
った。しかし短時間で殺菌効果をえるために、殺菌性金属イオンの濃度を高める方法では、殺菌性金属イオンの使用量が増加し不経済であるという課題があった。
【0007】
また、殺菌性金属イオンは有機物と反応し消費されるため、便器内に排泄物の残存などがあった場合、排泄物中に含まれる有機物に銀イオンが消費され、微生物を殺菌するための殺菌性金属イオンが不足し、微生物の増殖を抑えることができないという課題もあった。さらに、排泄物中には1グラムに約1011個の微生物が含まれているため、便器に付着残存することで殺菌対象である便器内の微生物の増加がおこってしまう。このように殺菌対象となる微生物が増加することで、殺菌に必要とされる殺菌性金属イオンの量も増加してしまうという課題もあった。さらに排泄物の残存を見込んで殺菌性金属イオンを過剰に供給する方法では、殺菌性金属イオンの使用量が増加し不経済であるとともに、排泄物の残存が無かった場合には高濃度の殺菌性金属イオンは便器内の有機物や無機物と反応して着色してしまうという課題もあった。
【0008】
本発明は上記従来の課題を解決し、便器内への排泄物の付着を抑制することで、殺菌性金属イオンを微生物に対して効果的に作用させ、悪臭の発生を抑えるとともに便器の衛生を保つことができる、経済的な衛生洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る衛生洗浄装置は、便器内に供給する殺菌性金属イオンを溶出する金属イオン溶出手段と、水洗後に便器内に残存する排泄物の付着を抑制する付着抑制手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、付着抑制手段により便器内への排泄物の残存を抑制することで、有機物による殺菌性金属イオンの消費を抑えるとともに、排泄物からの微生物の混入を抑制することがで、殺菌性金属イオンを微生物に対して効果的に作用させることができ、悪臭の発生を抑えるとともに便器の衛生を保つ衛生洗浄装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
第1の発明は、便器内に供給する殺菌性金属イオンを溶出する金属イオン溶出手段と、水洗後に便器内に残存する排泄物の付着を抑制する付着抑制手段とを備えた構成とし、付着抑制手段により排泄物の便器内への残存を抑制することで、殺菌性金属イオンを微生物に対して効果的に作用させることができ、悪臭の発生を抑えるとともに便器の衛生を保つことができる。
【0012】
第2の発明は、金属イオン溶出手段は、すくなくとも一方に殺菌性金属イオンを溶出させる金属からなる電極を設けた一対の電極を備えた構成とし、電極間に通電することで、殺菌性金属イオンを溶出させるため、電極間を流れる電流量で殺菌性金属イオンの溶出量を制御することができるため、安定して殺菌性金属イオンを供給することができる。
【0013】
第3の発明は、付着抑制手段は、便器内に水を噴出する噴出手段を備えた構成とし、便器の使用前に噴出手段により便器内表面を濡らすことで、排泄物の直接的な便器との接触を防止し、排泄物の便器への付着を抑制することができる。
【0014】
第4の発明は、金属イオン溶出手段を付着抑制手段に水を供給する流路に設けた構成とし、付着抑制手段の噴出手段により便器内に殺菌性金属イオンを含んだ水膜を形成することで、便器トラップのみでなくリム下や便器表面の微生物の増殖を抑制することができる。
【0015】
第5の発明は、付着抑制手段として便器内に水を噴出する際には、金属イオン溶出手段の電極への通電を停止する、付着抑制モードと殺菌性金属イオン噴出モードを備えた構成とすることで、不必要な殺菌性金属イオンの溶出を防止でき、殺菌性金属の使用量を抑制することができる。
【0016】
第6の発明は、金属イオン溶出手段を衛生洗浄装置に水を供給する給水源に設けた構成とすることで、人体の局部を洗浄する洗浄水に殺菌性金属イオンを含んだ水を用いることで、局部の殺菌洗浄を行い局部の化膿防止や雑菌による感染症の予防にも利用することができる。
【0017】
第7の発明は、人体局部を洗浄する洗浄ノズルを洗浄する洗浄手段を設け、洗浄ノズルを洗浄する洗浄水に殺菌性金属イオンを含んだ水を用いることで、汚れやすい洗浄ノズルを殺菌性金属イオンを含んだ水で洗浄することができ、ノズルの衛生を高めることができるとともに、殺菌性金属イオンを含んだ水が、ノズル洗浄水として便器内に供給されることで、便器トラップに長時間、殺菌性金属イオンを含んだ水を貯水することができ、便器内の微生物を殺菌することも可能となる。
【0018】
以下、本実施の形態について、図面を参照しながら説明する。各実施の形態において、同じ形態および同じ動作を行う部分については同一符号を付与し、詳細な説明を省力する。なお、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0019】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における衛生洗浄装置の外観を示すもので、図1において、衛生洗浄装置10は便器11上部に設置され、衛生洗浄装置の本体12、電動により自動開閉する便蓋13、使用者が座るための便座14等から構成されている。
【0020】
また水道から洗浄水の供給を受けるための給水配管(図示せず)および壁面のコンセントから電源供給を受けるための電気ケーブル15が備えてある。
【0021】
衛生洗浄装置10の内部には人体の局部を洗浄する洗浄ノズル16や洗浄ノズル16とは別に便器11の内面に水を噴出する噴出手段17が内蔵されている。さらには殺菌性金属イオンを溶出する金属イオン溶出手段、洗浄後の人体局部を乾燥するための乾燥機能、寒冷時にトイレ空間を暖房する部屋暖房機能、トイレルームに入室、退室したことを検知する人体検知手段18等が備えてあり、各々の操作は壁面に取り付けたリモートコントローラ19(以下、リモコンと略す)および本体12により自動的に操作される。
【0022】
また、便座14には使用者の存在を検知する検知手段としての着座センサ20を備えている。なお、この着座センサ20は、赤外線を用いて使用者の便座14への着座の有無を検知するものであるが、方式としては便座の静電容量を検知する方式や、さらには赤外線や超音波等を用いて使用者の便座への着座を検知する、もしくはトイレルームに入室、退室したことを検知する方式、さらには例えばトイレの照明に連動して使用者の存在を検知する方式等でも検知手段としての応用が可能である。
【0023】
また、便器11の後方上部には、洗浄水タンク21が装着されており、洋式便器10内の排泄物を下水に排水する洗浄用水が貯えられている。
【0024】
図2はリモコン19の外観を示すものであり、おしり洗浄スイッチ22、ビデ洗浄スイッチ23、乾燥スイッチ24、各機能のインジケータ25、調節スイッチ26、停止スイッチ27および金属イオン溶出手段から殺菌性金属イオンを便器11内部に手動供給する便器除菌スイッチ28を有している。そして使用者の操作信号は赤外線等の無線信号によ
って衛生洗浄装置の本体部12へ送信される構成となっている。
【0025】
図3は実施の形態1における衛生洗浄装置の水回路を示す構成図である。図3において、給水源29に接続された分岐水栓30より衛生洗浄装置に水道水を供給する。水道水は、ストレーナ31、逆止弁32、定流量弁33、元電磁弁34、流量センサ35を経て、加熱ユニット36に供給され、流量センサ35は加熱ユニット36への流量を計測し、加熱ユニット36は内部にヒータを備えて洗浄用の洗浄水を加熱する構成であり、洗浄時のみ加熱する瞬間湯沸かし型もしくは所定量のお湯を常時所定温に加熱して貯湯しておく貯湯型が適用できる。本第1の実施の形態では瞬間湯沸かし型の温水ユニットを採用しており、加熱ユニット36は板状のセラミックヒータとその両面に設けた蛇行する内部流路から構成されており、熱交入口に供給された常温の洗浄水は、この蛇行する内部流路を流れながらセラミックヒータから熱を受け取り、加熱ユニット36の出口までの間に適温に加熱される仕組みである。なお本実施の形態においては、ヒータは熱密度に優れた板状のセラミックヒータを用いたが、シーズヒータやマイカヒータ、さらには板材に抵抗体を設けたプリントヒータなど様々なヒータ応用が考えられることは言うまでもない。
【0026】
加熱ユニット36からの供給される温水は、水ポンプ37で流量が調整され、おしりノズル38、ビデノズル39より成る洗浄ノズル16や噴出手段17より吐出される。
加熱ユニット36の下流側には切換弁40が接続されており、この切換弁40は前述の加熱ユニット36が接続される入口流路41とおしりノズル38と接続する第1出口流路42、ビデノズル39と接続する第2出口流路43、殺菌性金属イオン溶出手段44を介して噴出手段17と接続する第3出口流路45がモータ46によって選択的に連通される構成となっている。
【0027】
金属イオン溶出手段44は、一対の銀電極47を内部に有し、銀電極47間に電圧を印加する電源(図示せず)および銀電極47間に流れる電流量を制御する制御手段48で制御される構成となっている。
【0028】
噴出手段17は、便器11の内面全体に水を噴出するために噴出手段17の内部にオリフィス部を設けたスプレーノズルとし、オリフィス部で加圧された水は開口部から噴出される際に膜状に広がり便器全面に水膜を形成する。なお本実施の形態では、便器全面を濡らし便器表面に水膜を形成するため、噴出手段にスプレーノズルを用いたが、便器全面に水膜を形成できるものであれは噴出手段の構成を限定するものではない。
【0029】
以上のように構成された衛生洗浄装置について、その作用、動作の1例について説明する。
【0030】
人体検知手段18により使用者の入室が検知されず、さらに着座センサ20で使用者の着座が検知されていない状態のとき、すなわち使用者の入室使用待ち状態の時、切替弁40の入口流路41と第3出口流路45連通されるようにモータ46を動かし、噴出手段17に流路を切換えて、使用者の入室と同時に噴出手段17により便器内部に水を噴出し、使用者が排泄を行う前に付着抑制手段が動作・機能できるようにしてある。
【0031】
人体検知手段18により使用者がトイレに入室したことを検知すると、元電磁弁34を開弁し、噴出手段17による便器11内面への水の噴出を開始すると同時に、便蓋13を自動で開く。この時、金属イオン溶出手段44の銀電極47には電圧を印加せず、付着抑制モードとして噴出手段17より水を所定の時間T1噴出し停止する。使用者がトイレルームに入室してから、脱衣し便座に着座するまでの時間は平均で約5〜6秒であるため、本実施の形態では噴出手段17より水を噴出する時間T1を4秒に設定している。T1を4秒に設定しておくことで、使用者が着座する前に噴出手段17の動作は終了しており、
便器内に水膜を形成し排泄物の付着を抑制することができる。万が一、所定時間T1に達する前に使用者の着座を着座センサ20により検知した場合には、元電磁弁34を閉止し、切替弁40の入口流路41を第1出口流路42もしくは第2出口流路43に切換えて、噴出手段17からの水の噴出を強制終了する。
【0032】
衛生洗浄装置10は、使用者が便座14に着座し、着座センサ20で着座を検知した状態でリモコン19の各操作スイッチを操作することで局部洗浄、乾燥機能等が実行される。
【0033】
使用者が便器のトラップ部に水没するように排泄物を排泄したときは便器への排泄物の付着はおこりにくいが、使用者が便座14の前寄りに着座している場合や、体調や食事内容により排泄物の性状が変化し便器面に排泄物が付着しやすくなることが考えられる。一般の家庭で普段通りにトイレを使用した際の排泄物の便器への付着状態を調査したところ、用便後に排泄物が便器に付着していたのは、10回の排便あたり平均で約2回であった。さらに水洗後も排泄物が残存していたのは10回の排便あたり平均で約1回となっており、かなりの割合で便器に排泄物が付着残存していることがわかる。
【0034】
便器に付着するのは脂肪酸などの油性成分であり、便器に接触し付着してしまうと水となじまないため水洗のみでは洗浄が困難になる。本実施の形態では付着抑制手段を設け、便器内表面に水膜を形成することで、水膜により排泄物の直接的な便器との接触が防がれ、排泄物の便器への付着を抑制することができる。排泄物が水膜状に付着した場合においても、便器表面と排泄物の間に水の膜が形成されているため、水洗により水の膜ごと排泄物を洗浄することができる。
【0035】
さらに、付着抑制手段により、便器への排泄物の付着を抑制することで排泄物由来の微生物の混入を抑制できるとともに、殺菌性金属イオンを消費する有機物の混入を抑制することができる。
【0036】
付着抑制手段を設けることで、微生物の混入そのものを抑制することができ、付着抑制手段を設けずに殺菌性金属イオンを供給する場合と比較して、低濃度の殺菌性金属イオン濃度で微生物を殺菌できるとともに殺菌に必要とされる時間を短縮することも可能となる。これにより、常に殺菌性金属イオンを供給しなくても、トイレ不使用時間帯に1日1回殺菌性金属イオンを供給することで便器の衛生維持が可能となる。
【0037】
つぎに所定の時刻となったとき、金属イオン溶出手段44の銀電極47に電圧を所定の時間T2印加した後、元電磁弁34を開き、殺菌性金属イオン溶出モードとして噴出手段17より水を所定の時間T3噴出し停止する。銀電極47に流れる電流は制御手段48により、常に一定の電流が流れるように制御されており、殺菌性金属イオンの時間当たりの溶出量は電流値と比例するため、電圧を印加する時間T2により殺菌性金属イオンの溶出量を制御することができ、水質や水温に関係なく安定して殺菌性金属イオンを溶出することができる。殺菌性金属イオンを含んだ水が、噴出手段17により便器内に供給されることで、便器トラップに長時間、殺菌性金属イオンを含んだ水を貯水することができ、便器内の微生物を殺菌することが可能となる。
【0038】
本実施の形態では、元電磁弁34を閉じ、金属イオン溶出手段44に水を通水しない状態で通電する貯水式電解溶出の方式を用いているが、元電磁弁34を開き、金属イオン溶出手段に通水した状態で銀電極47間に電圧を印加し、噴出手段17から殺菌性金属イオンを含んだ水を噴出する通水式電解溶出の方式を用いても同様の効果を得ることが出来る。本実施の形態の貯水式電解溶出方式を用いた場合は、時間T2をT3より長くすることが可能となり、電流値および銀電極47間の印加電圧を小さくすることが出来るため、別
途特別な電源回路を設けることなく、衛生洗浄装置本体の持つ電源回路を利用することができる。
【0039】
また本実施の形態では一対の電極を銀電極47で構成しているため、使用の都度、制御手段48により銀電極47間に印加する電圧の極性を反転させ、一対の電極が均等に消耗していくようにしてあるが、陽極を銀電極、陰極をステンレスなどの金属で構成しても陽極から殺菌性金属イオンを溶出させることができる。
【0040】
金属イオン溶出手段44は付着抑制手段に水を供給する流路に設けた構成としているため、付着抑制手段の噴出手段17を用いて便器内に殺菌性金属イオンを含んだ水膜を形成することができ、便器トラップのみでなく便器表面の微生物の増殖を抑制することができる。
【0041】
殺菌性金属イオンを便器に供給する時刻は、便器の使用頻度の低い夜間に決めておく方法や使用者が時刻をリモコン19で任意に設定する方法などがある。
【0042】
つぎに、殺菌性金属イオンとして銀イオンを用い、テストピースによる衛生維持効果を確認した結果を示す。
【0043】
2.5cm×10cm、便器釉に用いられているアルカリ石灰ガラス成分を含むテストピースを用い、テストピースを便器内で検出される黄色ブドウ球菌の調整菌液に18時間浸漬させた後、(a)6時間銀イオン濃度を0ppm、0.1ppm、0.5ppmに調整した水道水への浸漬、(b)6時間銀イオン濃度を0ppm、0.1ppm、0.5ppmに調整し、有機物を添加した水道水への浸漬を繰り返し、テストピースに付着する微生物を評価した。経過日数1日、3日、6日、12日のテストピースに付着した菌数を図4に示す。
【0044】
水道水に浸漬した(a)のテストピースは、銀イオン濃度0.1ppmからテストピースへの微生物の付着抑制効果が得られたのに対し、有機物を添加した水道水に浸漬した(b)のテストピースは、銀イオン濃度0.1ppmでは微生物の抑制効果は確認できず、銀イオン濃度0.5ppmで付着抑制効果が得られた。
【0045】
この結果より、付着抑制手段を設けることで、1日1回殺菌性金属イオンを供給する場合でも、殺菌性金属イオンの使用量を1/5に減少させることができることが確認された。このことは、金属イオン溶出手段の電極の重量を1/5に出来ることを示しており、高価な殺菌性金属の使用を1/5に抑え経済的に便器の衛生維持が可能となるとともに、金属イオン溶出手段を小型化することもでき、衛生洗浄装置本体内にコンパクトに収めることもできる。
【0046】
(実施の形態2)
図5は実施の形態2における衛生洗浄装置の水回路を示す構成図、図6は実施の形態2における洗浄ノズルおよび洗浄手段の断面図である。図5および図6において、給水源29に接続された分岐水栓30より衛生洗浄装置に水道水を供給する。水道水は、ストレーナ31、逆止弁32、定流量弁33、元電磁弁34、流路切換弁35、流量センサ36を経て、加熱ユニット36に供給され、流量センサ36は加熱ユニット36への流量を計測し、加熱ユニット36は内部にヒータを備えて洗浄用の洗浄水を加熱する構成であり、洗浄時のみ加熱する瞬間湯沸かし型もしくは所定量のお湯を常時所定温に加熱して貯湯しておく貯湯型が適用できる。
【0047】
本実施の形態2では瞬間湯沸かし型の温水ユニットを採用しており、加熱ユニット36
は板状のセラミックヒータとその両面に設けた蛇行する内部流路から構成されており、熱交入口に供給された常温の洗浄水は、この蛇行する内部流路を流れながらセラミックヒータから熱を受け取り、加熱ユニット36の出口までの間に適温に加熱される仕組みである。
【0048】
加熱ユニット36からの供給される温水は、水ポンプ37で流量が調整され、おしりノズル38、ビデノズル39より成る洗浄ノズル16、噴出手段17、ノズル洗浄手段55により吐出される。
【0049】
加熱ユニット36の下流側には切換弁40が接続されており、この切換弁40は前述の加熱ユニット36が接続される入口流路41とおしりノズル38と接続する第1出口流路42、ビデノズル39と接続する第2出口流路43、切替弁56を介しておしりノズル38およびビデノズル39の表面を洗浄するノズル洗浄手段55および噴出手段17と接続する第3出口流路51がモータ46によって選択的に連通される構成となっており、金属イオン溶出手段52は加熱ユニット36の下流の入口流路41に設けてある。
【0050】
金属イオン溶出手段52は、丸棒銀電極53および、円筒状ステンレス電極54を内部に有し、銀電極53およびステンレス電極54間に電圧を印加する電源および電極間に流れる電流量を制御する制御手段48で制御される構成となっている。
【0051】
おしりノズル38およびビデノズル39は、下部に開口部を有し樹脂材料で成型されたノズル収納部56に収納され、おしりノズル38およびビデノズル39の上部はノズルカバー57で覆われ、おしりノズル38およびビデノズル39とノズルカバー57およびノズル収納部56の間にノズル洗浄水の流路58が形成されている。
【0052】
ノズルカバー57には、おしりノズル38およびビデノズル39を洗浄するノズル洗浄水を噴出する噴出開口59が設けてあり、ノズルカバー57内部には洗浄水の流路58が設けられ、洗浄水流路58の元部分には洗浄水を供給する洗浄水供給口60が設置してあり、洗浄水供給手段とホース(図示せず)を介して連通してある。噴出開口59から噴出したノズル洗浄水は、おしりノズル38およびビデノズル39とノズルカバー57およびノズル収納部56の間に形成されたノズル洗浄水の流路58を通って、おしりノズル38およびビデノズル39を洗浄し、便器11内に排出される。
【0053】
また、ノズルカバー57の先端開口上部には上下に回動自在なノズルシャッタ61が設けてあり、おしりノズル38およびビデノズル39をノズル収納部56に収納した状態でノズルカバー57の先端開口を閉塞することができる。ノズルシャッタ61はおしりノズル38およびビデノズル39が洗浄位置に進出するときは、おしりノズル38およびビデノズル39の先端で押進することにより上方に開成し、おしりノズル38およびビデノズル39を収納位置に収納したときはノズルシャッタ61の自重で下方に回動し閉塞する構成である。
【0054】
また、ノズル収納部56の下部にはおしりノズル駆動手段62が設置してあり、おしりノズル駆動手段62は駆動モータ63と駆動モータ63の回転をラック64に伝えるピニオンギア65を備えている、駆動モータ63の後部には駆動モータ63の回転数を検知する回転検知センサ66が設置してある。また、図には示していないが、ビデノズル39を摺動するため、同様のビデノズル駆動手段が設けられている。
【0055】
以上のように構成された衛生洗浄装置について、その作用、動作の1例について説明する。
【0056】
人体検知手段18により使用者の入室が検知されず、さらに着座センサ20で使用者の着座が検知されていない状態のとき、すなわち使用者の入室使用待ち状態の時、切替弁40の入口流路41と第3出口流路45連通されるようにモータ46を動かし、噴出手段17に流路を切換えて、使用者の入室と同時に噴出手段17により便器内部に水を噴出し、使用者が排泄を行う前に付着抑制手段が動作・機能できるようにしてある。
【0057】
人体検知手段18により使用者がトイレに入室したことを検知すると、元電磁弁34を開弁し、噴出手段17による便器11内面への水の噴出を開始すると同時に、便蓋13を自動で開く。この時、金属イオン溶出手段44の銀電極47には電圧を印加せず、付着抑制モードとして噴出手段17より水を所定の時間T1噴出し停止する。
【0058】
衛生洗浄装置10は、使用者が便座14に着座し、着座センサ20で着座を検知した状態でリモコン19の各操作スイッチを操作することで局部洗浄、乾燥機能等が実行される。
【0059】
たとえば使用者がリモコン19のおしり洗浄スイッチを選択した場合、制御手段が制御を開始し、駆動モータ63の回転がピニオンギア65に伝えられることによりピニオンギア65と噛み合ったラック64を有するおしりノズル38を前方に移動させ、おしりノズル38をおしり洗浄位置まで移動させた後停止する。その際、切替弁40はモータ46を駆動させ、入口流路41と第1出口流路42を接続し、加熱ユニット36で適温に加熱された温水がおしりノズル38に供給され、人体局部に噴出される。停止スイッチ27によりおしり洗浄の停止を操作すると、駆動モータ63は逆回転し、おしりノズル38は後方へ移動し、元の収納状態に戻る。
【0060】
つぎに所定の時刻となったとき、金属イオン溶出手段52の銀電極53およびステンレス電極54間に電圧を所定の時間T2印加し、殺菌性金属イオンを溶出させる。その後、便座14に設けた着座センサ20により着座の有無を確認し、使用者が便座14に着座していないことを確認したうえで、切替弁40はモータ46を駆動させ入口流路41と第3出口流路51を接続し、殺菌性金属イオンを含むノズル洗浄水が流路57に供給され、おしりノズル38およびビデノズル39とノズルカバー57およびノズル収納部56の間に形成されたノズル洗浄水の流路58を通っておしりノズル38およびビデノズル39を洗浄し、殺菌性金属イオンを含む水が便器11内に排出される。
【0061】
洗浄ノズル16は人体局部を洗浄した際の有機物や細菌を含んだ跳ね返り水などが付着しやすいため、有機物や細菌を含んだ跳ね返り水などが付着した状態で収納された場合に細菌類や汚れの付着が起こりやすくなる。本実施の形態では、汚れやすい洗浄ノズルを殺菌性金属イオンを含んだ水で洗浄することができ、ノズルの衛生を高めることができるとともに、殺菌性金属イオンを含んだ水が、ノズル洗浄水として便器内に供給されることで、便器トラップに長時間、殺菌性金属イオンを含んだ水を貯水することができ、便器内の微生物を殺菌することも可能となる。
【0062】
なお、洗浄ノズル16の洗浄時に駆動モータ61の正転逆転を繰り返し、洗浄ノズル16を前後に進退駆動させながら洗浄ノズル16全体を洗浄することで、洗浄ノズル全体を洗浄することが出来る。
【0063】
なお本実施の形態では、殺菌性金属イオンを含む水で、洗浄ノズル16の洗浄を行う方法を示したが、加熱ユニット36を用い、加熱した温水で人体洗浄ノズルを洗浄することで洗浄効果をさらに高めることが出来る。
【0064】
また、金属イオン溶出手段52を加熱ユニット36の下流側の入口流路41に設けるこ
とで、金属イオン溶出手段52への電圧印加を制御することで、殺菌性金属イオンを含む水を、おしりノズル38、ビデノズル39、噴出手段17、ノズル洗浄水など任意のノズルから供給することが可能となり。おしり洗浄やビデ洗浄に用いた場合、局部の殺菌洗浄を行い局部の化膿防止や雑菌による感染症の予防にも利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上のように、本発明にかかる衛生洗浄装置は、金属イオン溶出手段と付着抑制手段とを備え、付着抑制手段により有機物の残存を抑制することで、殺菌性金属イオンを微生物に対して効果的に作用させるもので、洋式便器や洗面台やみずまわりの洗浄機能としても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施の形態1における衛生洗浄装置の外観図
【図2】本発明の実施の形態1におけるリモコンの斜視図
【図3】本発明の実施の形態1における衛生洗浄装置の水回路構成図
【図4】(a)本発明の実施の形態1におけるテストピースを水道水へ浸漬して付着した菌数を示す図(b)同テストピースを有機物を添加した水道水へ浸漬して付着した菌数を示す図
【図5】本発明の実施の形態2における水回路構成図
【図6】本発明の実施の形態2における洗浄ノズルおよび洗浄手段の断面図
【図7】従来の便器洗浄装置構成図
【符号の説明】
【0067】
10 衛生洗浄装置
11 便器
14 便座
16 洗浄ノズル
17 噴出手段
20 着座センサ
44 金属イオン溶出手段
47 銀電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器内に供給する殺菌性金属イオンを溶出する金属イオン溶出手段と、水洗後に便器内に残存する排泄物の付着を抑制する付着抑制手段とを備え、前記付着抑制手段により排泄物の便器内への残存を抑制することで、前記殺菌性金属イオンを微生物に対して効果的に作用させることを特徴とした衛生洗浄装置。
【請求項2】
金属イオン溶出手段は、すくなくとも一方に殺菌性金属イオンを溶出させる金属からなる電極を設けた一対の電極を備え、前記電極間に通電することで、殺菌性金属イオンを溶出させる請求項1記載の衛生洗浄装置。
【請求項3】
付着抑制手段は、便器内に水を噴出する噴出手段を備え、便器の使用前に前記噴出手段により便器内表面を濡らす請求項1ないし2のいずれか1項記載の衛生洗浄装置。
【請求項4】
金属イオン溶出手段を付着抑制手段に水を供給する流路に設け、前記付着抑制手段の噴出手段により便器内に殺菌性金属イオンを含んだ水膜を形成する請求項1から4のいずれか1項記載の衛生洗浄装置。
【請求項5】
付着抑制手段として便器内に水を噴出する際には、金属イオン溶出手段の電極への通電を停止し、付着抑制モードと殺菌性金属イオン噴出モードを備えたことを特徴とした請求項5記載の衛生洗浄装置。
【請求項6】
金属イオン溶出手段を衛生洗浄装置に水を供給する給水源に設け、人体の局部を洗浄する洗浄水に殺菌性金属イオンを含んだ水を用いることを特徴とした請求項1から5のいずれか1項記載の衛生洗浄装置。
【請求項7】
人体局部を洗浄する洗浄ノズルを洗浄する洗浄手段を設け、前記洗浄ノズルを洗浄する洗浄水に殺菌性金属イオンを含んだ水を用いることを特徴とした請求項1から6のいずれか1項記載の衛生洗浄装置。

【図1】
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【図4】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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