説明

衛生陶器

【課題】 側面に凹段部を設けた衛生陶器において、側面を伝わり落ちてきた液体が凹段部よりも下方に伝わり流れることがなく、しかも凹段部から滴下することもない衛生陶器を提供する。
【解決手段】 施釉された陶器製の洋風便器1の側面の下部に凹段部3設けられている。この凹段部3は、側面2から凹段部の天井面に回り込む凸に湾曲した凸湾曲部3aと、該凸湾曲部3aに引き続いている該傾斜面3bと、該天井面と凹段部の奥壁面との交叉隅部を構成する凹湾曲面3cと、該奥壁面3dとで構成されている。側面2に付着した小水などの液は、該側面2を伝わり流れ、凹段部3に達する。この液は、凸湾曲部3aを回り込んで傾斜面3bに達し、該傾斜面3bを凹湾曲部3cに向って流れ、この間に蒸発して乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋風便器、小便器、洗面器、手洗器などの衛生陶器に係り、特に側面を伝わって流れ落ちる液がトイレルームや洗面室の床にまで伝わり落ちないようにするための凹段部が該側面に設けられた衛生陶器に関する。
【背景技術】
【0002】
洋風便器の側面に尿の飛沫が掛かり、これがトイレルームの床面にまで伝わり落ちると、洋風便器の底面と床面との間に染み込み、拭いても取れない臭気源となる。
【0003】
特開2002−322718号の図5には、洋風便器のスカート部の下部に凹段部を設け、この凹段部の入口部に水切り突部を下方に向って突設した洋風便器が記載されている。凹段部よりも上側の側面を伝わり流れてきた汚水は、この水切り突部から下方に滴下するため、洋風便器の底面とトイレルームの床面との間に染み込まない。
【0004】
実公平7−25105号の図4には、洗面ボウルの前縁部の下縁に同様の水切り用の突部を下方に向って突設することが記載されている。洗面ボウルの外面を伝わり落ちてきた水は、この突部から下方に滴下する。
【特許文献1】特開2002−322718号
【特許文献2】実公平7−25105号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では、上方から洋風便器や洗面ボウルの外面を伝わり流れてきた水が部屋の床面に滴下し、床を汚すことになる。
【0006】
本発明は、側面に凹段部を設けた衛生陶器において、側面を伝わり落ちてきた液体が凹段部よりも下方に伝わり流れることがなく、しかも凹段部から滴下することもない衛生陶器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の衛生陶器は、側面の下部に凹段部を設けた衛生陶器において、該凹段部の天井面は、該凹段部の入口側から凹段部の奥に向って傾斜角7°以下の下り勾配の傾斜面を有しており、該傾斜面の入口側から奥側への幅が25mm以上であることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の衛生陶器は、請求項1において、該凹段部の奥壁面と前記天井面との交叉隅部は、凹曲面となっていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の衛生陶器は、請求項1又は2において、前記凹段部の直上の前記側面と前記天井面との交叉部は凸曲面となっており、該側面は該凸曲面のみを介して該天井面の前記傾斜面に連なっていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4の衛生陶器は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記衛生陶器は便器、洗面器又は手洗器であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5の衛生陶器は、請求項1ないし4のいずれか1項において、施釉された陶器製であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の衛生陶器にあっては、その側面を伝わり落ちてきた液体が該側面から凹段部の天井面に伝わって回り込む。この天井面は、奥に向って7°以下と緩く傾斜した傾斜面となっており、しかもこの傾斜面は25mm以上の十分な幅を有している。このため、側面から凹段部天井面に回り込んできた液は、この傾斜面をゆっくりと伝わりながら奥に向って移動し、この間に液が蒸発して乾燥する。
【0013】
この結果、液が凹段部の奥壁面にまで達することがなく、該奥壁面を伝って液がさらに下方にまで伝わり落ちることが防止される。
【0014】
本発明では、このように凹段部の天井面において液が蒸発乾固するので、この天井面は適宜拭き掃除されることが望ましい。凹段部の天井面と奥壁面との交叉隅部を凹曲面としておくと、この交叉隅部まで十分に拭き掃除することができ、天井面の汚れを隅々まで容易に除去することができる。
【0015】
この交叉隅部の曲率半径は5mm以上であることが好ましい。
【0016】
本発明では、凹段部の直上の衛生陶器側面と凹段部天井面との交叉部は、凸曲面となっており、該側面は該凸曲面のみを介して該天井面の前記傾斜面に連なっている構成としてもよい。このように構成することにより、凹段部よりも上方の側面から伝わり流れてきた液が天井面に確実に回り込むようになる。この凸曲面の曲率半径が大きくなると、該上方の側面から伝わってきた液が該天井面に伝わり易くなる。具体的には、この凸曲面の曲率半径は3mm以上であることが好ましい。
【0017】
本発明の衛生陶器は、施釉された陶器製であることが好ましい。このように施釉されていると、液が衛生陶器に染み込むことが防止される。なお、上記のように天井面は傾斜面としているので釉薬がかかりやすく、さらに凹段部の天井面と奥壁面との交叉隅部を曲率半径の大きい凹曲面とした場合、この交叉隅部にも十分に釉が掛かるようになり、交叉隅部でも汚水の染み込みが確実に防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。第1図は実施の形態に係る洋風便器を示すものであり、(a)図は斜視図、(b)図は(a)図のB−B線断面図、(c)図は(b)図の拡大図である。
【0019】
施釉された陶器製の洋風便器1は、前方及び左右側方の側面の下部に凹段部3設けられている。この凹段部3は、側面2から凹段部の天井面に回り込む凸に湾曲した凸湾曲部3aと、該凸湾曲部3aに引き続いている該傾斜面3bと、該天井面と凹段部の奥壁面との交叉隅部を構成する凹湾曲面3cと、該奥壁面3dとで構成されている。奥壁面3dの下部は、洋風便器1の下端にまで達している。
【0020】
この実施の形態では、この傾斜面3bによって凹段部3の天井面が構成されている。
【0021】
この傾斜面3bは、凸湾曲部3aから凹湾曲部3cに向って下り勾配であり、且つ水平面に対する傾斜角度θが7°以下、好ましくは1〜7°、特に好ましくは2〜5°である。本発明では、この傾斜角度が7°以下である範囲が傾斜面3bとして定義される。
【0022】
傾斜面3bの幅(凸湾曲部3aから凹湾曲部3cに向う方向の水平方向の長さ)Lは25mm以上、例えば25〜50mm好ましくは30〜40mmである。
【0023】
凸湾曲部3aの曲率半径Rは好ましくは3〜10mmである。凹湾曲部3bの曲率半径Rは好ましくは5〜10mmである。
【0024】
なお、第1図の符号4は便鉢、5は便座取付ボルトの通し孔を示す。
【0025】
このように構成された洋風便器1においては、側面2に付着した小水などの液は、該側面2を伝わり流れ、凹段部3に達する。この液は、凸湾曲部3aを回り込んで傾斜面3bに達し、該傾斜面3bを凹湾曲部3cに向ってゆっくりと流れる。この傾斜面3bが25mm以上の幅Lを有し、しかも傾斜角度が7°以下と緩い傾斜となっているため、水滴となりにくく、傾斜面3bに達した液はゆっくりと凹湾曲部3cに向って伝わり流れ、この間に蒸発して乾燥する。
【0026】
この結果、液が凹段部3の奥壁面3dにまで達することがなく、該奥壁面3dを伝って液がさらに下方にまで伝わり落ちることが防止される。
【0027】
この実施の形態では、このように凹段部の傾斜面3bにおいて液が蒸発乾固するので、この傾斜面3bは適宜拭き掃除されることが望ましい。この実施の形態では、凹段部の傾斜面3bと奥壁面3dとの交叉隅部が凹湾曲面3cとなっているので、この交叉隅部まで十分に拭き掃除することができ、凹段部3の天井面の汚れを隅々まで容易に除去し、臭気源となることを防止することができる。
【0028】
なお、第2図の凹段部3’のように、凹湾曲部3cの曲率半径を大きくするほど、この交叉隅部の清掃が容易となる。ただし、この凹湾曲部3cの曲率半径を大きくすると、奥壁面3dが過度に後退することになる。このため、曲率半径Rは10mm以下にすることが望ましい。
【0029】
また、傾斜面3bのトイレルーム床面からの高さは15mm以上であることが、清掃し易く、好ましい。ただし、傾斜面3bが過度に高位置であると、洋風便器1の美観を損うおそれがあり、また、男子小水が凹段部3内に直に掛かるおそれも出てくるので、傾斜面3bのトイレルーム床面からの高さは100mm以下とするのが好ましい。
【0030】
この実施の形態では、凸湾曲部3aの曲率半径を10mm以上と大きくしているため、凹段部3よりも上方の側面2から伝わり流れてきた液が凸湾曲部3aを確実に回り込んで傾斜面3bに達する。即ち、側面2を伝わってきた液が、凹段部3内に伝わらずにそのままトイレルーム床面に滴下することが防止される。
【0031】
この実施の形態では、洋風便器1は施釉されているため、液が衛生陶器に染み込むことが防止される。なお、上記のように凹湾曲部3cの曲率半径を大きくすることにより、この凹湾曲部3cにも十分に釉が掛かるようになり、該凹湾曲部3cでも汚水の染み込みが確実に防止される。
【0032】
なお、第1図では凹段部3は洋風便器1の後部側面にまで延設されているが、前部側の下部にのみ設けられてもよい。
【0033】
上記実施の形態は洋風便器に係るものであるが、本発明は第3図に示す小便器や、第4図に示す洗面器などにも適用できる。また、図示は省略するが手洗器などにも適用できる。
【0034】
第3図(a)、(b)の施釉された陶器製小便器10では、下部に凹段部11が設けられている。拡大した図示は省略するが、この凹段部11も第1図(c)と同様に、小便器11の側面12に連なる凸湾曲部と、それに引き続く傾斜面と、該傾斜面に引き続く凹湾曲部と、奥壁面とを備えている。
【0035】
この傾斜面の傾斜角度や幅、凸湾曲部及び凹湾曲部の曲率半径の好適な範囲は第1図の場合と同様である。この実施の形態においても、凹段部11を設けたことにより、第1図の場合と同様に、小便器10の側面12に掛った小水などが側面12から凹段部11に回り込んで蒸発するようになる。そして、側面12からトイレルームの床面に直に落下することが防止される。
【0036】
第4図(a)は洗面器22を備えた洗面キャビネット10の斜視図、第4図(b)は第4図(a)のB−B断面図、第4図(c)は凹段部の拡大断面図である。
【0037】
この洗面キャビネット10は、キャビネット本体21と、該キャビネット本体21の上面部に設置された施釉された陶器製の洗面器22とを有する。キャビネット本体21の前面には開閉式の扉24が設けられている。この扉24の上側は幕前板23となっている。洗面器22の前縁側は、上方ほどせり出す膨出部となっている。この膨出部の下部に凹段部25が設けられている。この凹段部25は、洗面器22の下縁部の略鉛直な前側面22aから後方に後退している。
【0038】
この凹段部25は、前側面22aに連なる凸湾曲部25aと、該凸湾曲部25aに連なる傾斜面25bと、該傾斜面25bに連なる凹湾曲部25cと、この凹湾曲部25cに連なる奥壁面25dとからなる。奥壁面25dは幕前板23に接している。
【0039】
傾斜面25bは、奥に向って下り勾配であり、その水平面に対する傾斜角度θは7°以下である。傾斜角度θ、凸湾曲部25a及び凹湾曲部25bの曲率半径、傾斜面25bの幅Lの好ましい範囲はいずれも第1図の場合と同様である。
【0040】
なお、前側面22aの前面は、扉24の前面と面一か、それよりも若干前方に位置している。
【0041】
この実施の形態でも、洗面器22の前面を伝わってきた水は凸湾曲部25aから傾斜面25bに回り込み、奥壁面25dに向ってゆっくりと伝わり流れ、この間に蒸発する。このため、洗面室の床に直に落下したり、扉24の前面に掛ったりすることが防止される。
【0042】
上記実施の形態はいずれも本発明の一例であり、本発明は図示以外の形態をもとりうる。例えば、洋風便器や小便器の外観形状は図示以外とされてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施の形態に係る洋風便器を示すものであり、(a)図は斜視図、(b)図は(a)図のB−B線断面図、(c)図は(b)図の拡大図である。
【図2】別の実施の形態に係る凹段部の断面図である。
【図3】実施の形態に係る小便器の側面図と正面図である。
【図4】実施の形態に係る洗面キャビネットの構成図である。
【符号の説明】
【0044】
1 洋風便器
2 側面
3 凹段部
3a 凸湾曲部
3b 傾斜面
3c 凹湾曲部
3d 奥壁面
10 小便器
11 凹段部
20 洗面キャビネット
22 洗面器
23 幕前板
24 扉
25 凹段部
25a 凸湾曲部
25b 傾斜面
25c 凹湾曲部
25d 奥壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面の下部に凹段部を設けた衛生陶器において、
該凹段部の天井面は、該凹段部の入口側から凹段部の奥に向って傾斜角7°以下の下り勾配の傾斜面を有しており、該傾斜面の入口側から奥側への幅が25mm以上であることを特徴とする衛生陶器。
【請求項2】
請求項1において、該凹段部の奥壁面と前記天井面との交叉隅部は、凹曲面となっていることを特徴とする衛生陶器。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記凹段部の直上の前記側面と前記天井面との交叉部は凸曲面となっており、該側面は該凸曲面のみを介して該天井面の前記傾斜面に連なっていることを特徴とする衛生陶器。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記衛生陶器は便器、洗面器又は手洗器であることを特徴とする衛生陶器。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、施釉された陶器製であることを特徴とする衛生陶器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−277914(P2007−277914A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−105375(P2006−105375)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】