説明

衝撃検出デバイスおよび衝撃強度判定方法

【課題】衝撃に対する感応の指向性をもつ電源不要の衝撃検出デバイスを提供することを目的とする。
【解決手段】衝撃検出デバイスは、柱状の錘移動空間10を内部に形成するハウジングと、錘移動空間の端面を塞ぐ蓋と、錘移動空間内に収められた錘15と、錘よりも外径が小さい錘支持部と、錘移動空間に充填された流動体19とを備える。錘は錘移動空間内で軸方向に摺動可能な外形をもつ。錘には軸方向の一端から他端まで通じる流通路が形成される。錘支持部の軸方向の両端部はそれぞれ蓋と錘15とに繋がるように設けられる。錘支持部によって錘は錘移動空間の両端と離れた位置に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設定値以上の衝撃の発生の有無を示す衝撃検出デバイスおよびそれを用いた衝撃強度判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノート型コンピュータ、オーディオプレーヤ、デジタルカメラなどの各種の可搬型機器の付加機能として、落下に因る衝撃の発生を加速度センサにより検知してメモリに記録する衝撃記録機能がある。記録された情報は、主として機器が故障したときにユーザから修理を依頼されたサービス担当者によって読み出され、故障診断に利用される。
【0003】
一方、電源の必要な電気回路によらずに衝撃の発生の有無を示す手段として、所定値以上の衝撃を受けたときに破損または変形する部分を有した衝撃検知用の部材が知られている。衝撃を色で示す部材は、所定の衝撃で破れる殻で発色材を内封したインクボールとインクボールを自由移動が可能に囲むケースとを有する(特許文献1)。衝撃の度合いを破損箇所の数で示す部材は、耐衝撃強度の異なる複数の片持ち支持部を有した所定パターンの平板状の部材であって、衝撃が大きいほど抜け落ちる片持ち支持部が多くなるように構成される(特許文献2)。
【特許文献1】特開2001−99854号公報
【特許文献2】特公平7−89124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
故障の原因が衝撃を受けたことにあるのか否かをより正確に判断する上で、機器に加わった衝撃の方向が判ることは望ましい。例えば、小型化が進んだことから可搬型機器に搭載されるようになったハードディスクドライブ(HDD)ではディスク面と直交する方向の耐衝撃強度と比べてディスク面と平行な方向の耐衝撃強度は大きいので、ある強度の衝撃が加わったことが判ってもその方向が判らなければ、その衝撃がHDDの故障の原因か否かを断定することができない。本発明はこのような事情に鑑み、衝撃に対する感応の指向性をもつ電源不要の衝撃検出デバイスを提供することを目的としている。他の目的は設定した方向の衝撃の度合いの判定を容易にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する衝撃検出デバイスは、第1の端面が塞がれた柱状の錘移動空間を形成するハウジングと、前記錘移動空間の第2の端面を塞ぐ蓋と、前記錘移動空間内に収められ、前記錘移動空間内で軸方向に摺動可能な外形をもち、かつ前記軸方向の一端から他端まで通じる流通路が形成された錘と、前記蓋と前記錘との間に位置し、前記錘よりも外径が小さく、両端部がそれぞれ前記蓋と前記錘とに繋がるように設けられ、かつ前記錘を前記錘移動空間の前記第1の端面から離れた位置に支持する錘支持部と、前記錘移動空間に充填された流動体とを備える。
【0006】
錘の移動は錘移動空間の軸方向の移動に制限される。錘支持部を引っ張りまたは圧縮する軸方向の衝撃が加わりその強度が錘支持部の機械的強度と流動体の粘度とが関係する所定値を超えるとき、錘支持部が千切れて錘が移動可能になる。千切れた錘支持部は元戻らないので、任意の時点で錘の状態を調べれば所定値を超える軸方向の衝撃の発生の有無を判別することができる。錘支持部および錘の状態は、例えばハウジングが透明であれば一目瞭然であり、ハウジングに透光性があれば強い光を透かすなどして目視することができる。また、ハウジングをゆるく振って錘が移動するか否かを手の感触や聴覚で判別することができる。その他にも静電容量や透磁率の測定によって錘の位置を調べる方法もある。衝撃検出デバイスを分解してもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、錘移動空間の軸方向が所望の方向に一致するよう配置するだけで当該方向の所定値以上の衝撃が加わったか否かを判別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1および図2に示される本発明の実施形態に係る衝撃検出デバイス1は、第1の端面が塞がれた円柱状の錘移動空間10を内部に形成する長さが10mm程度で直径が4〜5mm程度の円筒状のハウジング11と、錘移動空間10の第2の端面を塞ぐ円板状の蓋13と、錘移動空間10内に収められた錘15と、錘15よりも外径が小さい錘支持部17と、錘移動空間10に充填された流動体19とを備える。錘15の外形は外径が錘移動空間10の内径より若干小さい円柱状であり、錘移動空間10内で軸方向に摺動可能である。錘15には軸方向の一端から他端まで通じる流通路として2つの貫通孔51,51が形成されている。錘支持部17の軸方向の両端部はそれぞれ蓋13と錘15とに繋がるように一体的に設けられている。錘支持部17によって錘15は錘移動空間10の第1および第2の端面の両方と離れた位置に配置される。
【0009】
例示の衝撃検出デバイス1では、蓋13と錘15と錘支持部17とが一体成型されており、蓋13とハウジング11とが接着材21によって接合されている。蓋13には、ハウジング11と蓋13とを接合した後に錘移動空間10に流動体19を封入するための孔31が設けられている。孔31は流動体19を封入した後に封止材によって塞がれる。
【0010】
衝撃検出デバイス1は、衝撃検出デバイス1に加わる種々の方向の衝撃のうち、錘移動空間10の軸方向の衝撃に対して選択的に感応する。図2(A)の軸方向の衝撃Fが加わると、錘15が軸方向に移動しようとし、それによって錘支持部17が引っ張られまたは押される。衝撃の大きさが所定値以上であるとき、図2(B)のように錘支持部17が破断する。図示では蓋13と錘15とにそれぞれ破断片17a,17bが残っている。錘支持部17が破断した後、錘15はその後の衝撃や重力に従って移動する。移動に際して流動体19は流通路51を通って流動する。
【0011】
破断した錘支持部17は元の状態には戻らないので、錘支持部17の状態を調べれば所定値を超える軸方向の衝撃の発生の有無を判別することができる。錘支持部17の状態が一目瞭然となるよう衝撃検出デバイス1のハウジング11は透明な強化プラスチックで形成されている。錘15の位置は錘支持部17の状態を端的に表わすので、錘15の位置から錘支持部17が破断しているか否かを知ることができる。
【0012】
錘支持部17が破断する衝撃の大きさには、錘支持部17の材質および断面積、流動体19の粘度、および流通路51の断面積が関係する。これらの事項を選定することにより所望の大きさの衝撃に感応するデバイスが得られる。例えば、流動体19の粘度が十分に小さい場合において、錘支持部17の材質を引張強度が60N/mm2のアルミニウムとし、錘支持部17の断面積を0.1mm2とし、錘15の重さを6.4655×10-4kgとすると、錘15に1000Gの加速度が加わったときに錘支持部17は破断する。錘支持部17の断面積を増減すれば、感応する加速度は相応の値となる。
【0013】
使用環境雰囲気(特に湿気)の影響を無くすために密閉される錘移動空間10に流動体19が充填されることにより、衝撃検出デバイスの使用環境の気圧変化の影響が軽減される。仮に錘移動空間10内が気体で満たされていると、例えば標高の高い場所のような低圧環境であるために錘移動空間10が膨らむおそれがある。錘移動空間10が膨らむと、錘15とハウジング11との隙間が拡がって錘15が振動し易くなり、錘支持部17が疲労する。錘移動空間10の膨張を防ぐには、ハウジング11の肉厚を大きくしなければならない。流動体19を充填しておけば、外気圧が変化しても実質的に錘移動空間10は膨らんだり縮んだりしないので、ハウジング11の肉厚を小さくして軽量小型化を図ることができる。
【0014】
このような衝撃検出デバイス1には以下の変形例がある。変形例の図示において衝撃検出デバイス1に対応する要素には図1および図2と同じ符号を付してある。
【0015】
図3(A)に要部の断面構造が示される衝撃検出デバイス2は、錘支持部17に支持された錘15bを有する。錘15bの外形は図3(B)のように円を部分的に径方向に窪ませた断面形状をもつ柱状である。錘15bは錘支持部17が破断したときに錘移動空間10内を摺動する。錘15bの周面(柱の側面)が部分的に窪んでいることによって生じる錘15bとハウジング11との隙間52,52が錘移動空間10に充填される図示しない流動体が通る流通路となっている。
【0016】
図4(A)に要部の断面構造が示される衝撃検出デバイス3は、複数の回転止め突起32を有した蓋13b、回転止め突起32の先端に係合する窪み53を有した円柱状の錘15c、および材質が錘15cと異なる錘支持部17bを備える。錘15cにおいて、窪み53は蓋と対向する面に図4(B)のように外周に沿って等間隔に配列されている。これら窪み53のそれぞれと回転止め突起32との係合により、錘支持部17bで支持された状態の錘15cの軸周りの回転が防止され、錘支持部17bはねじれない。錘15cの回転防止の上では回転止め突起32および窪み53が1個ずつあればよいが、本例ではスペーサとして利用するために複数の回転止め突起32が設けられている。
【0017】
錘支持部17bの材質および錘15cの材質は別個に選定される。例えば錘支持部17bはアルミニウムで形成され、錘15cはタングステン、オスミウム、イリジウムといった比重の大きい材料で形成される。
【0018】
錘支持部17bの両端の錘15cおよび蓋13bへの固定は、圧入、溶接、接着といった公知の手法によって行うことができる。
【0019】
図5(A)に要部の断面構造が示される衝撃検出デバイス4は、四角柱状の錘移動空間10bを内部に形成するハウジング11bと、錘移動空間10bの一端面を塞ぐと蓋13cと、錘支持部17bに支持された錘15dとを備える。蓋13cは先端面が錘15dと当接または接近する高さのスペーサ33と一体に構成されている。スペーサ33の平面形状は図5(A)のb−b矢視断面図である図5(B)のとおり四角形である。錘15dの外形は図5(A)のc−c矢視断面図である図5(C)のように四角形の断面をもつ柱状である。錘15dは錘支持部17bが破断したときに錘移動空間10b内を摺動する。
【0020】
錘移動空間10bおよび錘15dが四角柱状であので、衝撃検出デバイス4においては錘15dの回転を防止する回転止め部材は不要である。
【0021】
図6に断面構造が示される衝撃検出デバイス5は、それぞれの第1の端面が塞がれかつ軸方向が平行な3個の柱状の錘移動空間10を内部に形成するハウジング12と、3個の錘移動空間10の残りの第2の端面を一括に塞ぐ蓋14と、錘移動空間10内に1個ずつ収められた3個の錘15と、錘15よりも外径が小さい3個の錘支持部17と、錘移動空間10にそれぞれ充填され粘度が互いに異なる3種の流動体19a,19b,19cとを備える。錘15の外形は外径が錘移動空間10の内径より若干小さい柱状であり、錘移動空間10内で軸方向に摺動可能である。錘15には軸方向の一端から他端まで通じる流通路として2つの貫通孔51,51が形成されている。錘支持部17の軸方向の両端部はそれぞれ蓋13と錘15とに繋がるように設けられている。錘支持部17によって錘15は錘移動空間10の第1および第2の端面の両方と離れた位置に配置される。
【0022】
例示では3個の錘移動空間10の構成が同一であるが、流動体19a,19b,19cの粘度が異なるので、3個の錘移動空間10の間で錘支持部17が破断する衝撃の大きさが異なる。3個の錘支持部17のいずれも破断していないか、1個のみが破断しているか、2個のみが破断しているか、3個のいずれもが破断しているかを調べることにより、衝撃検出デバイス5に加わった衝撃の強度範囲を検知することができる。
【0023】
流動体19a,19b,19cの粘度のみが異なる例示の構成に限らず、例えば錘支持部17の材質および断面積を3個の錘移動空間10の間で異ならせて感応する衝撃の大きさを設定することもできる。また、2個または4個以上の錘移動空間10を設けてより細かに衝撃の強度範囲を検知できるようにしてもよい。
【0024】
図7は以上の衝撃検出デバイスの使用形態の一例を示す。図7では支持体としての携帯電話100に3個の衝撃検出デバイス1a,1b,1cが錘移動空間を平行にするように配列して固定されている。携帯電話100からそのバッテリーパック110を取り外すと、衝撃検出デバイス1a,1b,1cを目視することができる。例えば、携帯電話100が故障したときにユーザから修理を依頼されたサービス担当者は、各衝撃検出デバイス1a,1b,1cにおける錘支持部の破断の有無を判別し、その結果に基づいて携帯電話100に加わった衝撃の強度を判定する。
【0025】
以上の実施形態において、ハウジング11,11b、12が透明であるのが好ましいが、必ずしも透明である必要はない。ハウジング11,11b、12に透光性があれば強い光を透かすなどして目視することができる。また、ハウジング11,11b、12をゆるく振って錘が移動するか否かを手の感触や聴覚で判別することができる。衝撃検出デバイス1〜5を分解してもよい。
【0026】
錘移動空間10,10bに充填する流動体19,19a,19b,19cとしては、電気機器への組み込みを考慮すれば、絶縁体であるのが望ましい。各種オイルに代表される絶縁性の液体や高粘度流体を用いることができる。ハウジング11,11b、12および蓋1,13b,13c,14の材質として樹脂および金属が挙げられる。錘15,15b,15c,15dの材質としては、小型化の観点では比重の大きい金属が望ましいが、樹脂であってもよい。錘支持部17,17bの材質としては強度設定の精度の観点で金属が望ましい。
【0027】
錘移動空間10,10bの形状は、比較的に精度良く作り易い円柱状に限らず、図5のような四角柱、三角柱、多角柱など任意の形状とすることができる。流動体を充填するための孔31をハウジングに11,11b、12も受けても良いし、回転止め突起32やスペーサ33を錘15,15b,15c,15dに形成してもよい。ハウジングに11,12に回転止め突起を形成することもできる。その他、衝撃検出デバイス1〜5の構成および寸法は本発明の主旨に範囲内で用途に応じて適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】を本発明の実施形態に係る衝撃検出デバイスの構成示す図である。
【図2】衝撃検出デバイスの内部構造とその変化を示す図である。
【図3】衝撃検出デバイスの構成の他の例を示す図である。
【図4】衝撃検出デバイスの構成の他の例を示す図である。
【図5】衝撃検出デバイスの構成の他の例を示す図である。
【図6】衝撃検出デバイスの構成の他の例を示す図である。
【図7】衝撃検出デバイスの使用例を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1,2,3,4,5 衝撃検出デバイス
10,10b 錘移動空間
11,11b、12 ハウジング
13,13b、14 蓋
15,15b,15c,15d 錘
17,17b 錘支持部
19,19a,19b,19c 流動体
32 回転止め突起
33 スペーサ
51,52 流通路
53 窪み
100 携帯電話(支持体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定値以上の衝撃の発生の有無を示す衝撃検出デバイスであって、
第1の端面が塞がれた柱状の錘移動空間を形成するハウジングと、
前記錘移動空間の第2の端面を塞ぐ蓋と、
前記錘移動空間内に収められ、前記錘移動空間内で軸方向に摺動可能な外形をもち、かつ前記軸方向の一端から他端まで通じる流通路が形成された錘と、
前記蓋と前記錘との間に位置し、前記錘よりも外径が小さく、両端部がそれぞれ前記蓋と前記錘とに繋がるように設けられ、かつ前記錘を前記錘移動空間の前記第1の端面から離れた位置に支持する錘支持部と、
前記錘移動空間に充填された流動体とを備える
ことを特徴とする衝撃検出デバイス。
【請求項2】
前記錘と前記蓋との間にスペーサが配置された
請求項1に記載の衝撃検出デバイス。
【請求項3】
前記錘移動空間は円柱状であり、
前記錘の前記蓋と対向する面に窪みが形成されており、
前記蓋は、前記窪みに先端が係合する回転止め突起を有する
請求項1に記載の衝撃検出デバイス。
【請求項4】
前記ハウジングは透光性を有する
請求項1に記載の衝撃検出デバイス。
【請求項5】
設定値以上の衝撃の発生の有無を示す衝撃検出デバイスであって、
それぞれの第1の端面が塞がれかつ軸方向が平行な複数の柱状の錘移動空間を形成するハウジングと、
前記複数の錘移動空間の残りの第2の端を塞ぐ蓋と、
前記複数の錘移動空間内に1個ずつ収められ、各錘移動空間内で軸方向に摺動可能な外形をもち、かつ前記軸方向の両端に開口する貫通孔を有した複数の錘と、
前記蓋と前記複数の錘のそれぞれとの間に位置し、各錘よりも外径が小さく、両端部がそれぞれ前記蓋と該当する錘とに繋がるように設けられ、かつ該当する前記錘を前記錘移動空間の前記第1の端面から離れた位置に支持する複数の錘支持部と、
前記複数の錘移動空間にそれぞれ充填され粘度が互いに異なる複数の流動体とを備える
ことを特徴とする衝撃検出デバイス。
【請求項6】
流動体の粘性が異なることを除いて請求項1に記載の衝撃検出デバイスと同じ構成をもつ複数の衝撃検出デバイスを用意し、
前記複数の衝撃検出デバイスを錘移動空間が平行になるように配列して共通の支持体に固定しておき、その後に各衝撃検出デバイスにおける錘支持部の破断の有無を判別し、その結果に基づいて前記支持体に加わった衝撃の強度を判定する
ことを特徴とする衝撃強度判定方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−244132(P2009−244132A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91796(P2008−91796)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)